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2017年8月29日 (火)

対称性の自発的破れと南部-Goldostone粒子(1)

唐突ですが,ゲージ粒子の交換によって相互作用が実現される,

または,粒子間に力が働くという理論の歴史的経緯をたどって

要約してみようという思い付きが湧いたので書いてみます。
 

このテーマについては,九後汰一郎著(培風館)

「ゲージ場の量子論()()について,私が読解した履歴

を綴った1冊平均1206冊のノートがありますが,これを,全て

ブログ記事にするにはもう命の残り時間がないだろうと

思うので,
 

6章「対称性の自発的破れ(Spontaneously broken symmmetry) 

について書いた19992月(49歳)開始の4冊目もノートから, 

「対称性の自発的破れと南部-Goldstoneボソン」という 

テーマで記述した内容を抜粋したいと思います。
 

しかし,その前に前置きとして,本ブログで過去にゲージ場

関連について書いたいくつかの記事を振り返ってまとめて

みます。
 

まず,原子核の間に働く核力がπ中間子の交換相互作用に

よるという湯川秀樹によって提案されたモデルである,湯川

相互作用の理論の話から始めます。

(20126/17から始まる過去のシリーズ記事: 

「強い相互作用(湯川相互作用)」を参照)
 

1935,湯川によって,原子核の間に働く強い力・強い

相互作用を担う未発見の新粒子の存在が予言され.その後,

実際に1950前後に,現在π中間子と呼ばれている粒子達

が発見されて,湯川理論の正当性が裏付けられました。
 

現在的に見れば,質量:μ= 135140 MeVのπ中間子の

交換相互作用の寄与は.規格化等の因子を除けば,gを

πN頂点の結合定数とする.スカラー粒子型の伝播関数

×両頂点の因子:2/(2-μ2) で与えられます
 

仮想π中間子内線の4元運動量をqμ(,)と表わす

とき,πのエネルギー;が非相対論的レベル;<<μ

の場合には,上記因子は,2/(2-μ2) ~ -g2/(2+μ2)

と近似され,これは座標空間での表現に変換すると,核力の

湯川ポテンシャル:()=-g2exp(-μr)/(4πr)に一致

します。(r=||です。)
 

古典力学でのポテンシャルの定義から,核子間に働く力をFと 

すると=-∇Vです。こうして核力は湯川ポテンシャルV

によって与えられる力であるというのが,湯川理論でした。
 

湯川ポテンシャルは,r=1/μ=h/(μc)(Compton波長) 

6×10-27(J・sec)/[{140×106×1.6×10-19()}

{3×108(/sec)}]10-14m より,

中心からr~10-14(Fermi半径)くらいの距離で,その

大きさが最大のときのexp(-μr)1/e~1/3程度に急減衰

することがわかります。
 

一般に,指数関数因子が1/eになる距離を力のレンジ

(到達範囲;range)と呼びます。
 

そこで,核力は,半径が約10-8mくらいとされている原子の中

,中心の極く近くの10-14mくらいまでは,有意な引力として

作用して電磁力を上回り,一方,そこから距離が大きくなるに

つれて,Coulomb電磁力の斥力には対抗できなくなる,という

性質を持つ近接力です。
 

ヘリウム原子核(α粒子):4e2のように,pが2個とnが2

で構成され,これらが中心付近に凝集してできている場合,

pとpの強い電磁斥力に抗して,破裂せず安定に存在して

いられるのは,Fermi半径程度の距離内に隣接している限り

核力という強大な引力があって,これが電磁斥力を上回って

いるためであると考えられます。
 

一方,光子のように質量μがゼロの粒子の交換なら,レンジ 

Compton波長は1/μ=h/(μc)=無限大であり,これの

交換によるポテンシャルVはexp(-μr)1より,

静電Coulomb型の()=g2/(4πr) です。
 

質量ゼロの光子(光;電磁波)の交換による相互作用は

静電近似Coulomb相互作用のポテンシャル:

()=κ/(4πr) を与えます。
 

Coulomb力は,=-∇V={κ/(4πr2)}で与えられ,

これは中心からの距離rの逆2乗に比例する中心力です。

( /rは原点(中心)から半径方向への動径単位

ベクトルを意味し,κ>0なら斥力,κ<0なら引力です。)
 

実際には,逆に,この光子交換の電磁相互作用のアナロジー

で中間子の交換による核力という発想が得られたはずです。
 

ところで,重力,万有引力のポテンシャルもまた,静近似で

電磁力と同じCoulomb型のV()=-G/rであって,距離

逆2乗に比例する引力を示し,力のレンジは無限大です。
 

太陽からの引力が,光でも820秒もかかる14千万km以上 

離れた地球にまで十分作用して,365日周期の公転軌道

を支配しています。

これほどの距離まで力が及ぶのは,量子論的には仲介して

交換される粒子(重力子?)の質量がゼロであるため

考えられます。
 

ゲージ理論は,元々Dirac電子と電磁場の共存する

Lagrangian密度:

=ψ~γμ(iμ-eAμ-m0)ψ-(i/4)μνμν 

,ψ → exp{iθ()}ψ,μ → Aμ+∂μθなる局所

位相変換に対して不変である,という対称性(ゲージ不変性)

を持つことから,
 

Dirac電子の自由Lagrangian密度:

0=ψ~γμ(iμ-m0)ψが,xに依存する局所位相変換:

ψ → exp{iθ()ψに対して不変であるためには,連動

してAμ → Aμ+e-1μθなる変換を受ける質量ゼロの

ベクトル場:μ()が存在して

ψ~γμ(iμ-eAμ-m0)ψという形でcoupleすること

が十分条件になることがわかります。
 

このことから,こうした光子場(電磁場)をゲージ場

(gauge field),質量ゼロの光子をゲージ粒子と呼んだ

のでした。
 

そして,Yang-Mills(ヤンとミルズ),これを1個の

Dirac Fermionから多重スピノル場(multiplet):

Ψ=[ψ1,ψ2,..,ψN]に対する位相変換に対する対称性

へと拡張しました。
 

すなわち,θ()をN×N行列として,Ψの局所位相変換

を,Ψ → exp{iθ()}Ψとすると,

θ()Hermite行列なら,これは,U=exp{iθ()}

置くと,Ψ →UΨ,=U-1ユニタリ変換です。
 

この変換では,双1次形式は,

Ψ~γμiμΨ→ Ψ~γμiμΨ 

+Ψ~γμexp{iθ()}(μθ)exp{iθ()}Ψ  

と変換されます。
 

先の,1次元のDirac電子と電磁場の謂わゆるU((1)変換の

対称性なら,積は全て可換なので,

exp{iθ()}(μθ)exp{iθ()}=∂μθであり,

μ → Aμ+e-1μθを満たす11つのゲージ場: 

μ()の存在だけで不変性を保つには十分でしたが,
 

一般に,位相因子が非可換なN次元のΨの場合,変換で

不変となるためには,

μ μ+e-1exp{iθ()}(μθ)exp{iθ() 

のような.より複雑なゲージ変換を受けるN個の質量ゼロ

ベクトルBosenのゲージ場:

μ[(1)μ,(2)μ..,()μ]を必要とするという理論

,Yang-Millsが初めて提案したのです。
 

特にゲージ対称性変換:Uが,SU()群に属する場合,

対称性を定義するゲージ変換:Ψ →UΨ=exp{iθ()}Ψ

,N×N行列:θ()なる表現を,SU()(21)個の

独立な生成子のN×N行列表現:λ(a=1.2,..,のN21)

,改めて同じ記号で表わしたN-パラメ-タ: 

θ=[θ1,θ2,..,θN]の線型結合:Σλθで置き換えた

形式でΨ → exp{iΣλθ()}Ψ と書けます。
 

引数θを陽に書いて,UをU(θ)exp{iΣλθ()}

と表わせば,上記の位相変換はΨ → U(θ)Ψと書けます。
 

特に,θa()がxの関数でない定数の大局的変換で,

しかも無限小の場合:θ=ε(a=1.2,..,のN21)

書くと,(ε)exp(iΣλε)1iΣλε

あり,その共役(),(ε)exp(iΣλε)

1+Σλεa です。

 
そこで,もしも,i[^,ψα()]=-(λ)αβψsβ)

成立させるHermite演算子:^が存在すれば, 

(1iε^)ψα() (1iε^) 

=ψα()(ελ)sαβψβ()

(1(ελ) αβψβ() となります。
 

これは,exp(iΣε^)Ψ()exp(iΣε^)

=U(ε)Ψ() を意味し,無限小のεを有限な定数

パラメータθに戻しても, 

exp(iΣθ^)Ψ()exp(iΣε^)=U(ε)Ψ() 

が成立します。
 

よって,^(θ)exp(iΣθ^)とおくとき,Ψ()

単なる波動関数でなく,状態ベクトル:|Φ>に作用する量子化

された粒子の場の演算子を意味する場合,
 

exp(iΣθ^)Ψ()exp(iΣε^)=U(ε)Ψ()

,任意の量子状態:|Φ>が,|Φ> →|Φ'>=U^(θ)|Φ>

なる変換を受けるとき,場の行列要素(期待値):

<Φ1|Ψ()|Φ2>は,

<Φ1'|Ψ()|Φ2'>=<Φ1|^(θ)Ψ()^(θ)|Φ2 

=U(θ)<Φ1|Ψ()|Φ2>に変換されるという対応原理を

意味すると解釈されます。
 

これは,場の演算子の変換としては,

^(θ)Ψ()^(θ)=U(θ)Ψ(),または,

^(θ)Ψ()^(θ)=U(θ)-1Ψ() 

を意味するわけです。(:行列:(θ)exp(iΣλθ)

演算子U^(θ)exp{iΣθ^}の混同に注意)
 

20082/29の過去記事「ネーターの定理と場理論」によれば 

N個の古典場の系:φ{Φ1,φ2,..,φ}Lagranjian 密度 

(φ,φd,)とするとき,(φd=∂0φ=φ /dt)  

φj()→φj()+δφjなる微小変換

(※δφjはxによらない大局的変化)に対してが不変なら

カレントをjμ()jδL/δ(μΦ)定義するとき,

カレントの保存;μμ0 が成立します。 

(Noether(ネーター)の定理)
 

そこで,Q=∫d30()と置けば,dQ/dt=0 です。 

このとき,Qは運動の恒量といわれます。
 

系のLagrangian ,L=∫d3(φ,φd,)です。 

φi()の共役運動量をπi()=∂/∂φjd,で定義し,系の 

Hamiltonian,H=∫d3(Σjπφjd )で定義します。
 

すると,amiltonの正準方程式 {,φj}P.B=dφj/dt. 

{,πj}P.B=dπj/dtが成立します、 

ただし { , }P.Bはポアソン括弧式(Poisson Bracket)です。
 

これを用いると,{,φj}P.B.=-δφjが得られます。
 

そして,古典論と量子論の間には{,}P.B=-i[.]

という対応原理が成立します。(Diracによる対応原理)
 

これを適用すると量子論的には,{,φj}P.B.=-δφj 

l[^,φj].=δφjとなりますが,これはHamiltonの正準方程式

量子化した条件として同時刻正準交換関係の条件:

[φi(,).πj(,)]ijδ3()に読み換えること

 得られる関係式です、
 

そこで,SU()群について独立に(2-1)個の運動の恒量演算子 

^(a=1,2,..,21)が存在して,l[^,ψα].=δψα 

(λ)αβψβを満たす。という一般論が成り立ち, 

^(a=1,2,..,21)は量子論における演算子の変換の意味 

でのSU()の生成子です。
 

Ψ → exp{iθ}Ψという位相変換に対する不変性を考えたので 

カレント:μ()jδ/δ(μψ),ベクトルカレント

であり, ^はスカラーでしたが,Ψ → exp{iγ5θ}Ψの

ようにをγ5含むカイラル位相変換に対する不変性であれば 

μ()jδ/δ(μψ)は軸性ベクトルカレントで,

^擬スカラー演算子です。
 

さて,ここからは,話が重複する部分があるかもしれませんが, 

最初に書いたように,九後さんの著書「ゲージ場の量子論」

について私的に読書し解釈したノートからの抜粋です。
 

N個の場:φ{Φ1,φ2,..,φ}からなる系がにおいて

系が対称性を持つ条件としてのLagrangian密度:

(φ,φ)不変性の要求は,元々は作用積分;

S=∫d4(φ,φ) で記述される系が,

連続パラメータの大局的変換群:Gの下で不変であるという

対称性のために要求される条件です。
 

このとき,Noetherの定理」から,群Gの独立な生成子:

の各々に対して保存するカレントjμ (μμ0)

が存在して,そのチャージをQ=∫d30(,)

定義すれば,これは場:φに対して

i[,φi]=δφi=-i()ijφj (A=1.2...,dim)

を満たします。
 

作用積分の対称性は,基底状態=真空の対称性である場合も 

あれば,そうでない場合もあります。これは標記的に 

) 0>=0 ⅱ) 0>≠0 の2通りの場合 

として表現されます。
 

=∫d30(,),空間にわたる積分であり 

時間tについてもdQ/dt=0 を満たします。 

そこで,これは時空における平行移動で不変:[μ,]0  

です。
 

場理論における真空は,μ0>=0 を満たすものと定義 

されているため,[μ,]0から,μ0>=0

が従います。
 

故に.0>は,0>と同じく運動量:μのPμ0

の固有状態です。スペクトル:μ0を持つ基底状態は,真空

のみで縮退はないのでcを定数として,0>=c|0> 

と書けます。
 

それ故,c=<0|0>=∫d3x<0|0()0

ですが,真空の並進不変性:μ0>=0 , 

0|0()0>=<0|0(0)0>を意味します。
 

そこで,c=∫d3x<0|0()0>の右辺の被積分関数

は4元ベクトルであって,かつ座標系の平行移動に対して

不変な定数ベクトル量です。
 

定数で,かつ,Lorentz変換のベクトル量というのは

ゼロベクトル以外には有り得ないので,c=0と結論されます。
 

したがって,先にⅱ) 0>≠0 の場合もあると

書きましたが,これは,既に無矛盾な理論の物理量Qとしては

,有り得ないことです。
 

変換群Gの全ての生成子T(A=1.2...,dim)について

,対応するチャージ:,)0>=0 を満たして明白

,無矛盾な対称性が存在している場合,系は「Wigner相にある」

といいます。
 

一方,いくつかのQについては,)0>≠0を満たす

ものも混在している場合,この系は

「南部-Goldstone相にある」といいますが,このとき,もはや

Gの対称性は部分的に破れているはずです。
 

系が「南部-Goldstone相」にあって,

)0>=0 を満たすに対応する生成子:

"破れていない生成子" )0>≠0 を満たすQに対応

する生成子:を"破れた生成子"と呼ぶことにします。
 

破れていない生成子"同士のつくる交換子は,また 

破れていない生成子"を与えるため,"破れていない生成子" 

の線形結合の全体は群GのLie代数:の部分代数を構成 

します。
 

この部分代数:に対応するGの部分群をHと書き,

HをGの破れていない部分群と呼びます。
 

ここで無矛盾でない量,いわば,明白に存在するとはいえない

量Qによる条件Q0>≠0 を対称性の自発的破れが起こって

いる条件として採用するのは,論理矛盾で不適切と思われるので

より適切な表現を探します。
 

そのため,時空点xの近傍の有限領域のHeisenberg場で

書かれた.ある局所化演算子;Φ()を与え,これのQ

による変換が, 

[,Φ()]i∫d3[0(),Φ()]

=δΦ() となるものを考えます。
 

これならQ自身が存在しないときでも,この変換性を最左辺 

を無視した,i∫d3[0(),Φ()]=δΦ() 

置き換えれば,Φ()の定義域が点xの近傍の有限領域のみ 

なので,交換関係:[0(),Φ()].yがxのこの近傍 

領域にあるときにのみゼロでないため,その∫d3積分は 

無矛盾と考えられます。
 

そこで, の存在そのものが曖昧な場合でも

i[,Φ()],∫d3[0(),Φ()]の意味に解釈

して,に関わる自発的破れを,

0|i[,Φ()]|0>=<0|δΦ()|0>≠0 

を満たす局所化演算子,Φ()が少なくとも1つは存在する

という条件で定義します。
 

演算子Φ(),系のLagrangian密度:

(φ,φ)(φ{Φ1,φ2,..,φ})を構成する"

素"Heisenberg:φj()そのものである必要はなく, 

一般にxの近傍の有限領域:における{φj()}y∈

の並進不変な多項式であればいいです。
 

並進不変な演算子とは,

Φ()exp(iPx)Φ(0)exp(iPx)が満たされるという

意味です。
 

そして,がスカラーの場合は,Φ()をスカラー場の

演算子に限っても十分です。
 

長くなりそうなので,今日は一旦ここで終わります。
 

参考文献: 

.J,D,Bjorken and S.D.Drell

"Relativistic Quantum Mechanics"(McGrawHill) 

1. 九後汰一郎 著「ゲージ場の量子論()(培風館)

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