対称性の自発的破れと南部-Goldostone粒子(1)
唐突ですが,ゲージ粒子の交換によって相互作用が実現される,
または,粒子間に力が働くという理論の歴史的経緯をたどって
要約してみようという思い付きが湧いたので書いてみます。
このテーマについては,九後汰一郎著(培風館)
「ゲージ場の量子論(Ⅰ)(Ⅱ)」について,私が読解した履歴
を綴った1冊平均120頁6冊のノートがありますが,これを,全て
ブログ記事にするにはもう命の残り時間がないだろうと
思うので,
第6章「対称性の自発的破れ(Spontaneously broken symmmetry)」
について書いた1999年2月(49歳)開始の4冊目もノートから,
「対称性の自発的破れと南部-Goldstoneボソン」という
テーマで記述した内容を抜粋したいと思います。
しかし,その前に前置きとして,本ブログで過去にゲージ場
関連について書いたいくつかの記事を振り返ってまとめて
みます。
まず,原子核の間に働く核力がπ中間子の交換相互作用に
よるという湯川秀樹によって提案されたモデルである,湯川
相互作用の理論の話から始めます。
(※2012年6/17から始まる過去のシリーズ記事:
「強い相互作用(湯川相互作用)」を参照)
1935年,湯川によって,原子核の間に働く強い力・強い
相互作用を担う未発見の新粒子の存在が予言され.その後,
実際に1950年前後に,現在π中間子と呼ばれている粒子達
が発見されて,湯川理論の正当性が裏付けられました。
現在的に見れば,質量:μ= 135~140 MeVのπ中間子の
交換相互作用の寄与は.規格化等の因子を除けば,gを
πN頂点の結合定数とする.スカラー粒子型の伝播関数
×両頂点の因子:g2/(q2-μ2) で与えられます。
仮想π中間子内線の4元運動量をqμ=(Eq,q)と表わす
とき,πのエネルギー;Eqが非相対論的レベル;Eq<<μ
の場合には,上記因子は,g2/(q2-μ2) ~ -g2/(q2+μ2)
と近似され,これは座標空間での表現に変換すると,核力の
湯川ポテンシャル:V(r)=-g2exp(-μr)/(4πr)に一致
します。(r=|x|です。)
古典力学でのポテンシャルの定義から,核子間に働く力をFと
するとF=-∇Vです。こうして核力は湯川ポテンシャルV
によって与えられる力Fであるというのが,湯川理論でした。
湯川ポテンシャルは,r=1/μ=hc/(μc)(Compton波長)
=6×10-27(J・sec)/[{140×106×1.6×10-19(J)}
{3×108(m/sec)}]~10-14m より,
中心からr~10-14m(=Fermi半径)くらいの距離で,その
大きさが最大のときのexp(-μr)~1/e~1/3程度に急減衰
することがわかります。
一般に,指数関数因子が1/eになる距離を力のレンジ
(到達範囲;range)と呼びます。
そこで,核力は,半径が約10-8mくらいとされている原子の中
で,中心の極く近くの10-14mくらいまでは,有意な引力として
作用して電磁力を上回り,一方,そこから距離が大きくなるに
つれて,Coulomb電磁力の斥力には対抗できなくなる,という
性質を持つ近接力です。
ヘリウム原子核(α粒子):4He2のように,pが2個とnが2個
で構成され,これらが中心付近に凝集してできている場合,
pとpの強い電磁斥力に抗して,破裂せず安定に存在して
いられるのは,Fermi半径程度の距離内に隣接している限り
核力という強大な引力があって,これが電磁斥力を上回って
いるためであると考えられます。
一方,光子のように質量μがゼロの粒子の交換なら,レンジ
=Compton波長は1/μ=hc/(μc)=無限大であり,これの
交換によるポテンシャルVはexp(-μr)=1より,
静電Coulomb型のV(r)=g2/(4πr) です。
質量ゼロの光子(光;電磁波)の交換による相互作用は
静電近似のCoulomb相互作用のポテンシャル:
V(r)=κ/(4πr) を与えます。
Coulomb力は,F=-∇V={κ/(4πr2)}erで与えられ,
これは中心からの距離rの逆2乗に比例する中心力です。
( er=r/rは原点(中心)から半径方向への動径単位
ベクトルを意味し,κ>0なら斥力,κ<0なら引力です。)
実際には,逆に,この光子交換の電磁相互作用のアナロジー
で中間子の交換による核力という発想が得られたはずです。
ところで,重力,万有引力のポテンシャルもまた,静近似で
電磁力と同じCoulomb型のV(r)=-G/rであって,距離
の逆2乗に比例する引力を示し,力のレンジは無限大です。
太陽からの引力が,光でも8分20秒もかかる1億4千万km以上
離れた地球にまで十分作用して,約365日周期の公転軌道
を支配しています。
これほどの距離まで力が及ぶのは,量子論的には仲介して
交換される粒子(重力子?)の質量がゼロであるためと
考えられます。
ゲージ理論は,元々Dirac電子と電磁場の共存する
Lagrangian密度:
L=ψ~γμ(i∂μ-eAμ-m0)ψ-(i/4)FμνFμν
が,ψ → exp{-iθ(x)}ψ,Aμ → Aμ+∂μθなる局所
位相変換に対して不変である,という対称性(ゲージ不変性)
を持つことから,
Dirac電子の自由Lagrangian密度:
L0=ψ~γμ(i∂μ-m0)ψが,xに依存する局所位相変換:
ψ → exp{-iθ(x)ψに対して不変であるためには,連動
してAμ → Aμ+e-1∂μθなる変換を受ける質量ゼロの
ベクトル場:Aμ(x)が存在して
ψ~γμ(i∂μ-eAμ-m0)ψという形でcoupleすること
が十分条件になることがわかります。
このことから,こうした光子場(電磁場)をゲージ場
(gauge field),質量ゼロの光子をゲージ粒子と呼んだ
のでした。
そして,Yang-Mills(ヤンとミルズ)は,これを1個の
Dirac Fermionから多重スピノル場(multiplet):
Ψ=[ψ1,ψ2,..,ψN]T に対する位相変換に対する対称性
へと拡張しました。
すなわち,θ(x)をN×N行列として,Ψの局所位相変換
を,Ψ → exp{-iθ(x)}Ψとすると,
θ(x)がHermite行列なら,これは,U=exp{-iθ(x)}と
置くと,Ψ →UΨ,U+=U-1のユニタリ変換です。
この変換では,双1次形式は,
Ψ~γμi∂μΨ→ Ψ~γμi∂μΨ
+Ψ~γμexp{iθ(x)}(∂μθ)exp{-iθ(x)}Ψ
と変換されます。
先の,1次元のDirac電子と電磁場の謂わゆるU((1)変換の
対称性なら,積は全て可換なので,
exp{iθ(x)}(∂μθ)exp{-iθ(x)}=∂μθであり,
Aμ → Aμ+e-1∂μθを満たす11つのゲージ場:
Aμ(x)の存在だけで不変性を保つには十分でしたが,
一般に,位相因子が非可換なN次元のΨの場合,変換で
不変となるためには,
Aμ - Aμ+e-1exp{iθ(x)}(∂μθ)exp{-iθ(x)
のような.より複雑なゲージ変換を受けるN個の質量ゼロ
のベクトルBosenのゲージ場:
Aμ=[A(1)μ,A(2)μ..,A(N)μ]を必要とするという理論
を,Yang-Millsが初めて提案したのです。
特にゲージ対称性変換:Uが,SU(N)群に属する場合,
対称性を定義するゲージ変換:Ψ →UΨ=exp{-iθ(x)}Ψ
は,N×N行列:θ(x)なる表現を,SU(N)の(N2-1)個の
独立な生成子のN×N行列表現:λa(a=1.2,..,のN2-1)
と,改めて同じ記号で表わしたN-パラメ-タ:
θ=[θ1,θ2,..,θN]の線型結合:Σaλaθaで置き換えた
形式でΨ → exp{-iΣaλaθa(x)}Ψ と書けます。
引数θを陽に書いて,UをU(θ)=exp{-iΣaλaθa(x)}
と表わせば,上記の位相変換はΨ → U(θ)Ψと書けます。
特に,θa(x)がxの関数でない定数の大局的変換で,
しかも無限小の場合:θa=εa(a=1.2,..,のN2-1)と
書くと,U(ε)=exp(-iΣaλaεa)=1-iΣaλaεaで
あり,その共役(逆)は,U+(ε)=exp(iΣaλaεa)
=1+Σaλaεa です。
そこで,もしも,i[Qa^,ψα(x)]=-(λa)αβψsβx)を
成立させるHermite演算子:Qa^が存在すれば,
(1+iεaQa^)ψα(x) (1-iεaQa^)
=ψα(x)-(εaλa)sαβψβ(x)
=(1-(εaλa) αβψβ(x) となります。
これは,exp(iΣεaQa^)Ψ(x)exp(-iΣεaQa^)
=U(ε)Ψ(x) を意味し,無限小のεを有限な定数
パラメータθに戻しても,
exp(iΣθaQa^)Ψ(x)exp(-iΣεaQa^)=U(ε)Ψ(x)
が成立します。
よって,U^(θ)=exp(-iΣθaQa^)とおくとき,Ψ(x)が
単なる波動関数でなく,状態ベクトル:|Φ>に作用する量子化
された粒子の場の演算子を意味する場合,
exp(iΣθaQa^)Ψ(x)exp(-iΣεaQa^)=U(ε)Ψ(x)
は,任意の量子状態:|Φ>が,|Φ> →|Φ'>=U^(θ)|Φ>
なる変換を受けるとき,場の行列要素(期待値):
<Φ1|Ψ(x)|Φ2>は,
<Φ1'|Ψ(x)|Φ2'>=<Φ1|U^+(θ)Ψ(x)U^(θ)|Φ2>
=U(θ)<Φ1|Ψ(x)|Φ2>に変換されるという対応原理を
意味すると解釈されます。
これは,場の演算子の変換としては,
U^+(θ)Ψ(x)U^(θ)=U(θ)Ψ(x),または,
U^(θ)Ψ(x)U^+(θ)=U(θ)-1Ψ(x)
を意味するわけです。(※:行列:U(θ)=exp(-iΣaλaθa)
と演算子U^(θ)=exp{-iΣaθaQa^}の混同に注意)
2008年2/29の過去記事「ネーターの定理と場理論」によれば
N個の古典場の系:φ={Φ1,φ2,..,φN}のLagranjian 密度
をL(φ,φd,t)とするとき,(φd=∂0φ=dφ /dt)
φj(x)→φj(x)+δφjなる微小変換
(※δφjはxによらない大局的変化)に対してLが不変なら
カレントをjμ(x)=jδL/δ(∂μΦ)で定義するとき,
カレントの保存;∂μjμ=0 が成立します。
(Noether(ネーター)の定理)
そこで,Q=∫d3xj0(x)と置けば,dQ/dt=0 です。
このとき,Qは運動の恒量といわれます。
系のLagrangian は,L=∫d3xL(φ,φd,t)です。
φi(x)の共役運動量をπi(x)=∂L/∂φjd,で定義し,系の
Hamiltonianを,H=∫d3x(Σjπjφjd ―L)で定義します。
すると,Hamiltonの正準方程式 {H,φj}P.B=dφj/dt.
{H,πj}P.B=dπj/dtが成立します、
ただし {
, }P.Bはポアソン括弧式(Poisson Bracket)です。
これを用いると,{Q,φj}P.B.=-δφjが得られます。
そして,古典論と量子論の間には{u,v}P.B=-i[u.v]
という対応原理が成立します。(※Diracによる対応原理)
これを適用すると量子論的には,{Q,φj}P.B.=-δφjは
l[Q^,φj].=δφjとなりますが,これはHamiltonの正準方程式
を量子化した条件として同時刻正準交換関係の条件:
[φi(x,t).πj(y,r)]=iδijδ3(x-y)に読み換えること
で 得られる関係式です、
そこで,SU(N)群について独立に(N2-1)個の運動の恒量演算子
Qa^(a=1,2,..,N2-1)が存在して,l[Qa^,ψα].=δaψα
=(λa)αβψβを満たす。という一般論が成り立ち,
Qa^(a=1,2,..,N2-1)は量子論における演算子の変換の意味
でのSU(N)の生成子です。
Ψ → exp{-iθ}Ψという位相変換に対する不変性を考えたので
カレント:jaμ(x)=jδL/δ(∂μψ)は,ベクトルカレント
であり, Qa^はスカラーでしたが,Ψ → exp{-iγ5θ}Ψの
ようにをγ5を含むカイラル位相変換に対する不変性であれば
jaμ(x)=jδL/δ(∂μψ)は軸性ベクトルカレントで,
Qa^は擬スカラー演算子です。
さて,ここからは,話が重複する部分があるかもしれませんが,
最初に書いたように,九後さんの著書「ゲージ場の量子論」
について私的に読書し解釈したノートからの抜粋です。
N個の場:φ={Φ1,φ2,..,φN}からなる系がにおいて
系が対称性を持つ条件としてのLagrangian密度:
L(φ,∂φ)の不変性の要求は,元々は作用積分;
S=∫d4xL(φ,∂φ) で記述される系が,
連続パラメータの大局的変換群:Gの下で不変であるという
対称性のために要求される条件です。
このとき,「Noetherの定理」から,群Gの独立な生成子:
TAの各々に対して保存するカレントjAμ (∂μjAμ=0)
が存在して,そのチャージをQA=∫d3xjA0(x,t)で
定義すれば,これは場:φに対して
i[QA,φi]=δAφi=-i(TA)ijφj (A=1.2...,dimG)
を満たします。
作用積分の対称性は,基底状態=真空の対称性である場合も
あれば,そうでない場合もあります。これは標記的に
ⅰ) QA|0>=0 ⅱ) QA|0>≠0 の2通りの場合
として表現されます。
QA=∫d3xjA0(x,t)は,全x空間にわたる積分であり
時間tについてもdQA/dt=0 を満たします。
そこで,これは時空における平行移動で不変:[Pμ,QA]=0
です。
場理論における真空は,Pμ|0>=0 を満たすものと定義
されているため,[Pμ,QA]=0から,PμQA|0>=0
が従います。
故に.QA|0>は,|0>と同じく運動量:PμのPμ=0
の固有状態です。スペクトル:Pμ=0を持つ基底状態は,真空
のみで縮退はないのでcを定数として,QA|0>=c|0>
と書けます。
それ故,c=<0|QA|0>=∫d3x<0|jA0(x)|0>
ですが,真空の並進不変性:Pμ|0>=0 は,
<0|jA0(x)|0>=<0|jA0(0)|0>を意味します。
そこで,c=∫d3x<0|jA0(x)|0>の右辺の被積分関数
は4元ベクトルであって,かつ座標系の平行移動に対して
不変な定数ベクトル量です。
定数で,かつ,Lorentz変換のベクトル量というのは
ゼロベクトル以外には有り得ないので,c=0と結論されます。
したがって,先にⅱ) QA|0>≠0 の場合もあると
書きましたが,これは,既に無矛盾な理論の物理量QAとしては
,有り得ないことです。
変換群Gの全ての生成子TA(A=1.2...,dimG)について
,対応するチャージ:QAが,ⅰ)QA|0>=0 を満たして明白
に,無矛盾な対称性が存在している場合,系は「Wigner相にある」
といいます。
一方,いくつかのQAについては,ⅱ)QA|0>≠0を満たす
ものも混在している場合,この系は
「南部-Goldstone相にある」といいますが,このとき,もはや
Gの対称性は部分的に破れているはずです。
系が「南部-Goldstone相」にあって,
ⅰ)QA|0>=0 を満たすQAに対応する生成子:TAを
"破れていない生成子" ⅱ)QA|0>≠0 を満たすQAに対応
する生成子:TAを"破れた生成子"と呼ぶことにします。
“破れていない生成子"同士のつくる交換子は,また
“破れていない生成子"を与えるため,"破れていない生成子"
の線形結合の全体は群GのLie代数:G の部分代数H を構成
します。
この部分代数:H に対応するGの部分群をHと書き,
HをGの“破れていない部分群”と呼びます。
ここで無矛盾でない量,いわば,明白に存在するとはいえない
量QAによる条件QA|0>≠0 を対称性の自発的破れが起こって
いる条件として採用するのは,論理矛盾で不適切と思われるので
より適切な表現を探します。
そのため,時空点xの近傍の有限領域のHeisenberg場で
書かれた.ある局所化演算子;Φ(x)を与え,これのQA
による変換が,
i[QA,Φ(x)]=i∫d3y[jA0(y),Φ(x)]
=δAΦ(x) となるものを考えます。
これならQA自身が存在しないときでも,この変換性を最左辺
を無視した,i∫d3y[jA0(y),Φ(x)]=δAΦ(x)で
置き換えれば,Φ(x)の定義域が点xの近傍の有限領域のみ
なので,交換関係:[jA0(y),Φ(x)]は.yがxのこの近傍
領域にあるときにのみゼロでないため,その∫d3y積分は
無矛盾と考えられます。
そこで, QAの存在そのものが曖昧な場合でも
i[QA,Φ(x)]を,∫d3y[jA0(y),Φ(x)]の意味に解釈
して,QAに関わる自発的破れを,
<0|i[QA,Φ(x)]|0>=<0|δAΦ(x)|0>≠0
を満たす局所化演算子,Φ(x)が少なくとも1つは存在する
という条件で定義します。
演算子Φ(x)は,系のLagrangian密度:
L(φ,∂φ)(φ={Φ1,φ2,..,φN})を構成する"
素"Heisenberg場:φj(x)そのものである必要はなく,
一般にxの近傍の有限領域:Dxにおける{φj(x)}y∈Dx
の並進不変な多項式であればいいです。
並進不変な演算子とは,
Φ(x)=exp(iPx)Φ(0)exp(-iPx)が満たされるという
意味です。
そして,QAがスカラーの場合は,Φ(x)をスカラー場の
演算子に限っても十分です。
長くなりそうなので,今日は一旦ここで終わります。
参考文献:
1.J,D,Bjorken and S.D.Drell
"Relativistic Quantum Mechanics"(McGrawHill)
1. 九後汰一郎 著「ゲージ場の量子論(Ⅱ)」(培風館)
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