摂動論のアノマリー(18)(第Ⅱ部:1)
摂動論のアノマリーの続きです。
私的には2冊目のノートに移り,第Ⅱ部として第5章(§5)
以下の一般化や,関連実験との比較検証の項目に入ります。
この2冊目ノートの開始年月日は1995年3月24日(月)となって
います。
§5. Generalization of our
results:π0-decay
other Ward identity Anomalirs
(我々の結果の一般化:π0崩壊, および,他のWard恒等式
アノマリー)
これまでの我々の議論は,もっぱらQEDのVVA三角アノマリー
を取り扱ってきました。
(※ VVAとはvector-vector-axialvectorの略です。)
今からは,それらの結果を2つの方向に一般化します。
まず第1には,VVAアノマリーの結果を他の場の理論の
モデル (模型)に適用し,特に謂わゆる σ-モデルにおける
それを研究します。
このσ-モデルは正確な演算子恒等式として部分的保存
(Partialy conserved axialvector–current:PCAC)の条件
を満足します。
そして,先に導出された「低エネルギー定理」のこの種の
モデルへの拡張は,(π0 → 2γ decay)の崩壊率(decay rate)
の予測に導くことがわかります。
実験との比較結果は.分数電荷を持つクォークモデルに反する
証拠を生み出します。(※これは,今解読中のこのレポートが
書かれたのが1970年で,当時はカラー自由度の存在が重要視
されていなかったためでしょう。)
第2に,手短かに別の三角,四角,五角..diagramsを調べて,
アノマリー(異常項),または正常なWard恒等式を持つか否か?
を調べます。
§5.1 The σ–models(σ-モデル or σ模型)
たった今,紹介したように, σ-モデルというのはPCAC
が演算子関係式 として成立する場の理論のモデルの特殊な
ケースです。
我々は基本的に,三角diagramを通して2光子とcoupleできる
電気的に中性の軸性ベクトルカレントに興味があります。
そこで荷電軸性ベクトルカレントが現われないσ-モデルの
不完全バージョンを考察します。
単純化されたモデルは,次のLagrangian密度:Lで,粒子場と
しては,陽子場:ψ(x),中性π中間子場:π(x),および,
スカラー中間子の場:σ(x)のみを含みます。
すなわち,L=ψ~{iγμ∂μ-G0(g0-1+σ+iπγ5)}ψ
+λ0{4σ2+4g0σ(σ2+π2)+g02(σ2+π2)2}
+(μ02/2)(2g0-1σ+σ2+π2)
+(1/2){(∂π)2+(∂σ)2}-(μ12/2)(π2+σ2),,(138)
(138)を書くに当たって,摂動論のあらゆるオーダーまでで,
<0|σ|0>=0..(139)となるように,σ-モデルが全体に
平行移動された形式を選択しました。
※(注18-1):もしも,最初に選択した場σで
<0|σ|0>=σ0≠0 であった場合:σ → σ'=σ-σ0とずらし,
このσ'を改めてσとして選び直せば,<0|σ|0>=0 とできます。
(注18-1終わり※)
中性軸性ベクトルカレントは,位置に依存するゲージパラメータ
v(x)を持つカイラルゲージ変換(第2種の変換;
局所ゲージ変換)によって生成されます。
この変換は,
ψ → {1+(i/2)γ5v}ψ,π → π-v(g0-1+σ).
g0-1+σ → g0-1+σ+vπ ..(140)
で与えられます。
(※注18-2);まず,ψ → {1+(i/2)γ5v}ψ より,
ψ~ → ψ+{1-(i/2)γ5v}γ0=ψ~{1+(i/2)γ5v}
です。
vは微小(無限小)パラメータなので,vの2次以上を無視
すると,ψ~iγμ∂μψ
→ ψ~{1+(i/2)γ5v}(iγμ∂μ){1+(i/2)γ5v}ψ
=ψ~iγμ∂μψ-(1/2)ψ~γμ(∂μv)ψ です。
また,-G0ψ~(g0-1+σ+iπγ5)ψ
→ -G0ψ~{1+(i/2)γ5v}[g0-1+σ+vπ
+i{π-v(g0-1+σ)}γ5]×{1+(i/2)γ5v}ψ
=-G0ψ~[g0-1+σ+vπ+i{π-v(g0-1+σ)}γ5]ψ
-vG0ψ~iγ5(g0-1+σ+iπγ5}ψ
=-G0ψ~(g0-1+σ+iπγ5)ψ
-vG0ψ~{π-i(g0-1+σ)γ5}ψ
-vG0ψ~γ5{i(g0-1+σ)-πγ5}ψ
=-G0ψ~(g0-1+σ+iπγ5)ψ です。
したがって,ψ~{iγμ∂μ-G0(g0-1+σ+iπγ5)}ψ
→ ψ~{iγμ∂μ-G0(g0-1+σ+iπγ5)}ψ
-(∂μv)(1/2)ψ~γμψ です。
また,σ → σ+vπより.σ2 → σ2+2vσπ
π → π-v(g0-1+σ)より,π2 →
π2-2vπ(g0-1+σ)
故に,(σ2+π2) → (σ2+π2)-2vg0-1πであり,
(σ2+π2)2 → (σ2+π2)2-4vg0-1π(σ2+π2) です。
そこで.λ0{4σ2+4g0σ(σ2+π2)+g02(σ2+π2)2}
→ λ0{4σ2+4g0σ(σ2+π2)+g02(σ2+π2)2}
よって,この項は不変です。
一方,(μ02/2)(2g0-1σ+σ2+π2)
も,この変換では不変です。
さらに,-(μ12/2)(π2+σ2)
→ -(μ12/2)(π2+σ2)+vμ12g0-1π です。
∂μπ - ∂μπ-v∂μσ-(∂μv)(g0-1+σ)
∂μσ → ∂μσ+(∂μv)π+v∂μπ より,
(1/2){(∂π)2+(∂σ)2}
→ (1/2){(∂π)2+(∂σ)2}
-(∂v)(∂π)(g0-1+σ)+(∂v)(∂σ)π
したがって,Lのトータルの増分は,
-vμ12g0-1π-(∂μv)
×[(1/2)ψ~γμψ+g0-1(∂μπ)+σ(∂μπ)-(∂σ)π」
です。
したがって.もしも,vμ12g0-1πというvの
1次項がないなら,∂μv=0 (vが定数)の大域的な
カイラルゲージ変換(第1種の変換)に対し,Lが不変
という対称性を持つことになります。
そこで,vの1事項がないケースなら「Noether定理」の応用
で対応カレントを.j5μ=-δL/δ(∂μv)で定義すると.
これは,∂μj5μ=0 を満たす保存カレントです。
しかし,残念ながらLは不変ではなく余分な項
(-vμ12g0-1π)があるため,ここまで論じてきた質量:m≠0
の場合の軸性ベクトルカレントの発散のケースと同じく.
部分的保存(PCAC)のみです。
つまり,今の場合,∂μj5μ-δL/δv=-μ1g0-1π
であるからです。 (注18-2終わり※)
さて,「摂動論のアノマリー(12)」においては,次のように
書きました。
※ 場:{Φ1(,Φ2..ΦN}に対してパラメータ:v(x)が無限小
の,次のような.無限小局所ゲージ変換を施します。
Φj(x) → Φj(x)+v(x)Gj({Φ(x)})..(89)
これに対応するカレント:jμを
jμ=-δL/δ(∂μv)(90) で定義します。
すると,jμ=-δL/δ(∂μv)=-{∂L/∂(∂μΦ)}Gj
ですから,∂μjμ=-∂μ {∂L/∂(∂μΦ)}Gj
-{∂L/∂(∂μΦ)}∂μGj=-δL/δv を得ます。※
という内容を記述しました。
この手法(Noetherの定理)を適用して得られるカレント:
jμを,今の変換に対しては,j5μと表わすと,
次式を見出します。
すなわち,j5μ=-δL/δ(∂μv)
=(1/2)ψ~γμγ5ψ+σ(∂μπ)-π(∂μσ)
+g0-1(∂μπ). (141a),
∂μj5μ=-δL/δv=-(μ12/g0)..(141b)
です。
※(注18-3):何故なら
まず,,j5μ=-δL/δ(∂μv)=-{∂L/∂(∂μΦ)}Gj
=-[∂L/{∂(∂μψα)}](iγ5/2)ψα
+[∂L/{∂(∂μπ)}](g0-1+σ)-∂L/{∂(∂μσ)}]π
=-ψ~(iγ5/2)ψ+(g0-1+σ)(∂μπ)-π(∂μσ)
です。
そして,∂μjμ=-∂μ
{∂L/∂(∂μΦ)}Gj
-{∂L/∂(∂μΦ)}∂μGj=-δL/δv
=-μ12g0-1π です。
(注18-3終わり※)
こうして,σ-モデルは演算子恒等式としてPCACの条件を満足
する との先の言明通り,軸性ベクトルカレントの発散が正準
π場に比例 するという式を得ました。
再掲(138);L=ψ~{iγμ∂μ-G0(g0-1+σ+iπγ5)}ψ
+λ0{4σ2+4g0σ(σ2+π2)+g02(σ2+π2)2}
+(μ02/2)(2g0-1σ+σ2+π2)
+(1/2){(∂π)2+(∂σ)2}-(μ12/2)(π2+σ2)
に現われる種々のパラメータは次のような意味を持って
います。
(ⅰ)G0は,くり込まれる前の中間子-核子の結合定数。
(ⅱ)g0は(G0/g0)がm0によって核子の裸の質量:m0と
関連付けられる。
(ⅲ)μ12はσとπの裸の伝播関数;(q2-μ12+iε)-1に
現われる裸の中間子質量の平方である。
(ⅳ) 項:λ0{4σ2+4g0σ(σ2+π2)+g02(σ2+π2)2}は
カイラル不変な中間子-中間子散乱相互作用である。
(ⅴ) 項:(μ02/2)(2g0-1σ+σ2+π2)は.カイラル不変な
相殺項(counterterm)であり,運動のEuler-Lagrange方程式
とσの(σ空間における)平行移動不変性から要求される
次式:
<0|δL/δσ|0>=∂λ<0|δL/δ(∂λσ)|0>=0
…(142)の成立を保証するために必要である。
この(142)と(139):<0|σ|0>=0.からμ02は次の値を取る
ことがわかります。
すなわち,μ02=<0|G0g0ψ~ψ+λ0 {4g02(3σ2+π2)
+4g03σ(σ2+π2)}|0>..(143) です。
※(注18-4):まず,式(142)の証明です。
σ場に関するEuler-Lagrange方程式は
∂λ{∂L/δ(∂λσ)}-(∂L/∂σ)=0 です。
故に,<0|δL/δσ|0>=∂λ<0|δL/δ(∂λσ)|0>
です。
一方,平行移動不変性は.σの微小移動:σ→σ+Δσに
対して,L→L+ΔLのとき,この性質を<0|ΔL|0>=0
と表現すれば,<0|δL/δσ|0>=0を意味します。
結局,
<0|δL/δσ|0>=∂λ<0|δL/δ(∂λσ)|0>=0
を得ます。
ところで,∂L/∂σ
=-G0ψ~ψ+λ0{8σ+4g0(3σ2+π2)+4g02σ(σ2+π2)2 }
+(g0-1+σ)μ02-μ12σ です。
一方,∂L/δ(∂λσ)=∂λσより,
∂λ{∂L/δ(∂λσ)}=∂λ∂λσ=□σ です。
(※;□は,D’Alembertuan(ダランベルシャン)=と呼ばれる
微分演算子で,□=∂λ∂λ∂=∂2/∂t2-∇2 です。)
故に,σについての Euler-Lagrange方程式:
∂λ{∂L/δ(∂λσ)}-(∂L/∂σ)=0 を書き下すと,
□σ
=-G0ψ~ψ+λ0{8σ+4g0(3σ2+π2)+4g02σ(σ2+π2)2 }
+(g0-1+σ)μ02-μ12σ です。
あるいは, □σ+(μ12-μ02)σ
=-G0ψ~ψ+g0-1μ02+λ0{8σ+4g0(3σ2+π2)
+4g02σ(σ2+π2)2} です。
そこで,<0|δL/δ(∂λσ)|0>=0は,□<0|σ|0>=0
となり,大域的にこれが成立することは,<0|σ|0>が時空点
に依存しない定数であることを意味します。
そこで,これがゼロであるスキームを取れば,このことは,
<0|σ(x)|0>=0 と表わせます。
他方,<0|δL/δσ|0>= 0 は
<0|-G0ψ~ψ+λ0{8σ+4g0(3σ2+π2)
+4g02σ(σ2+π2)2}+(g0-1+σ)μ02-μ12σ|0>= 0
つまり,-G0<0|ψ~ψ|0>+4λ0g0<0|3σ2+π2|0>
+4g0<0|σ(σ2+π2)|0>+g0-1μ02= 0 です。
これから.式;(143):μ02=<0|G0g0ψ~ψ
+λ0 {4g02(3σ2+π2)+4g03σ(σ2+π2)}|0>
が得られます。
こうして,μ02を含む項は,ψやσ,πの場の2次以上の
真空期待値を吸収して,
<0|δL/δσ|0>=∂λ<0|δL/δ(∂λσ)|0>= 0,
および,<0|σ|0>という条件を維持し,保証するために
必要であることがわかりました。
(注18-4終わり※)
μ02の効果は,(これ自身,形式的には2次発散しますが)摂動論
の各オーダーでっ条件:<0|σ|0>=0 を維持できるように
下図のような型のtadpole
diagramsを除去することです。
※(注18-5):相互作用Hamiltonian密度:Hintは,
Hint=-Lintであたえられます。
これは,-4λ0g0σ(σ2+π2)と-μ02g0-1σという
σの3次,と1次の項を持つため,一般には,
<0|Hint|σ>≠ 0 が成立すると思われ,σの1本の
外線から真空が生み出されるという.謂わゆるtadpole
になります。
そこで,-<0|4λ0g0σ(σ2+π2)|σ>が,λ0を適切に選択
することにより,―<0|μ02g0-1σ|σ>を相殺してtadpoleを
除去すると期待できます。
これによって,<0|Hint|σ>=0 とするとき,これは
σの生成,消滅の両Fourier成分を持つ,σのincoming漸近場:
σinによって,1粒子っ状態を|σ>=σin|0>と書けば,
<0|Hint(x)|σ>=<0|Hint(x)σin(x)|0>=0 を
意味します。
これから,
<0|T[Hin(t1)Hin(t2).. Hin(tn)σin(x)|0>=0
つまり,<|Sσin |0>となり,摂動のあらゆるオーダーで
<0|σ|0>=0 が保証されます。
同じ意味ですが,0=<0|δL/δσ|0>
=<0|-G0ψ~ψ+λ0{8σ+4g0(3σ2+π2)
+4g02σ(σ2+π2)2}+(g0-1μ02-σ(μ12-μ02)σ|0>
と,EulerpLagrange方程式:□σ+(μ12-μ02)σ
=-G0ψ~ψ+g0-1μ02+λ0{8σ+4g0(3σ2+π2)
+4g02σ(σ2+π2)2}により, □<0|σ|0>=0 と(139)
の規約:<0|σ|0>=0 が同時に満たされるよう,(143)の
ようにμ02が選択されたのでした。
(注18-5終わり※)
μ02の相殺項は同時に中間子:π,σの自己エネルギーの
2次の発散部分を除去することも容易にわかります。
(※π,σの自己エネルギーは,発散するのは陽子の真空偏極
ですが,その寄与:Π(p2)はπ,σの質量がゼロでないので光子
のようなゲージ不変性が存在せず,確かに2次発散量が生じます。
そこでμ12からμ02を引いて物理的質量にします。)
その結果,Lagrangianに現われる残りの裸の量(G0,g0,μ1)
は波動関数のくり込み同様,せいぜい対数的に発散します。
そのため,この理論は.QED以上に特異にはなりません。
さて,今日は途中ですが,1記事として,これ以上続けると,
長過ぎると思われるので.ここで終わります。
(参考文献):Lectures on Elementary Particles and Quantum
Field Theory(1970 Brandeis University SummerInstitute
in
Theoretical Physics) VolumeⅠ
PS:世界水泳も終わり,今度は世界陸上を見て,この
ところ毎日,夜も寝ないで昼寝してます。
いやー,ヒマ人ですね。
でも,次は見られるかどうか?これが見納めカモ。。
ということで。。
8/5(土)の夜は,雨天じゃなかったので,おそらく
ナイアガラの仕掛け花火が有名な「いたばし花火大会」
があったと思います。(埼玉側だと「戸田花火」かな?)
歩けた頃には都営三田線西台駅から歩いて20分,荒川河原
まで行って楽しみました。2006と2007年に行って以来10年,
なつかしいですネ。
| 固定リンク
「114 . 場理論・QED」カテゴリの記事
- くりこみ理論第2部(1)(2020.11.11)
- くりこみ理論(次元正則化)16)(2020.06.13)
- くりこみ理論(次元正則化)(15)(2020.06.07)
- くりこみ理論(次元正則化)(14)(2020.05.31)
- くり込み理論(次元正則化)(13)(2020.05.31)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント