摂動論のアノマリー(19)(第Ⅱ部:2)
摂動論のアノマリーの項目:
§5.1 The σ–models(σ-モデル or σ模型)の続きです。
さらなる作業を進めるのために,PCAC方程式
(141b):∂μj5μ=-δL/δv=-(μ12/g0)π を
次のように書き換えるのが便利とわかります。.
すなわち,∂μj5μ=-(μ12/g0)(Z3π)1/2πr ..(144)
tと書きます。(※つまり,π=(Z3π)1/2πrでZ3πとπr
を定義します。)
次に,π中間子の崩壊振幅:fπを次式で定義します。
<π(q)|j5λ|0>=(2q0)-1/2(-iqλ/μ2)fπ/√2.(145)
ここで,μはπ中間子の質量です。
(※σモデルの完全版では,πの中で,中性軸性ベクトル
カレントが荷電アイソスピンパートナーを持つため, fπ
は,荷電π中間子の弱い崩壊振幅に比例する量であること
がわかります。)
※(注19-1);前節で扱った,電気的に中性の軸性ベクトル
カレントだけでなく,荷電軸性ベクトルカレントと荷電中間子
を含む完全な(full)バージョンのσモデルは,荷電独立性
(強い相互作用のアイソスピン対称性)がこのモデルでも維持
されると仮定し,核子のアイソスピノル場:Ψ=(ψp,ψn)T,
および,π中間子のアイソベクトル場;π=(π1,π2,π3)T
を含む系を考えます。σについては電気的に中性の
アイソスカラーとします。
π中間子の粒子状態は,
|π+>=(|π1>+i|π2>)/√2,
|π->=(|π1>-i|π2>)/√2,|π0>=|π3>
で定義されます。
1粒子状態は,|πk>=(πk)+|0>(k=1.2、3)のように,
真空:|0>に場の生成演算子(πk)+を作用させて得られる
ので,
上の粒子状態の表現は,粒子の消滅演算子から成る場:
πkの表現としては,
π+=(π1―iπ2)/√2, π-=(π1+iπ2)/√2,
π0=π3 と書けることを意味します。
今対象としているカイラルゲージ変換を,無限小の局所
ゲージパラメータv(x)を,アイソ空間のベクトルv(x)
として拡張し,一般化します。
この意味で前節では,π=(π1,π2,π3)Tの中性成分:
π3=π0のみが,π3 →π3+v(g0-1+σ)と変換を受けた
のに」対して,これを.π → π+v(g0-1+σ) へと拡張
します。
これと連動して,アイソスピノル;Ψについては,Pauliの
スピン回転σ行列をアイソ空間ではτ=(τ1,τ2,τ3)と
表記して導入し,アイソ空間の3次元ベクトルの増分
パラメータvを2成分スピノルの増分パラメータ(τv)
へと変換して,前節でスピノルのカイラルゲージ変換が,
ψ → {1+(i/2)γ5v}ψであったのを,
Ψ→
{1+{(i/2)γ5(τv)}Ψ へと拡張します。
σについては,σ → σ+vπが,σ → σ+(vπ)に
変わるだけとします。
Lagrangian密度:Lは,基本的に(138)で,ψをΨに,
πをπに書き換えるだけですが,ψとπが同時に変換を
受ける唯一の項:(-ψ~G0iπγ5ψ)については,これを
{-Ψ~G0i(τπ)γ5Ψ}に書き換えます。
よって,完全版σモデルでは,
L=Ψ~[iγμ∂μ-G0({g0-1+σ+i(τπ)γ5}]Ψ
+λ0{4σ2+4g0σ(σ2+π2)+g02(σ2+π2)2}
+(μ02/2)(2g0-1σ+σ2+π2)
+(1/2){(∂π)2+(∂σ)2}-(μ12/2)(π2+σ2)
です。
この場合,軸性ベクトルカレントもアイソベクトルで,
それを太字でj5μと表わせば,j5μ=-δL/(∂μv)
=(1/2)Ψ~γμγ5τΨ+σ(∂μπ)-π(∂μσ)
+g0-1(∂μπ).で与えられます。
そして,その4次元発散は,
∂μj5μ=-δL/δv=-(μ12/g0)π です。
中性のπ0に対する先の軸性カベクトルカレントj5μ(x)
は,今のj5μ(x)のアイソ第3成分です。
それを,j5μ(3)(x)と表わし,式(145)の
<π(q)|j5μ|0>=(2q0)-1/2(-iqμ/μ2)fπ/√2を
<π0(q)|j5λ(3)|0>=(2q0)-1/2(-iqμ/μ2)fπ/√2
と書き直します。
前述したように,荷電π中間子場は,
π+=(π1-iπ2)/√2,π-=(π1+iπ2)/√2,であり,
粒子状態は,|π+>=|π1+iπ2>/√2,
|π->=|π1-iπ2>/√2 です。
π-の崩壊におけるレプトン関連以外の因子:π-→ 真空
という行列要素の向きを逆転させると,真空 → π+が対応
するはずです。つまり,|π->=|π1-iπ2>/√2に対し,
<π-|=<π1+iπ2|/√2 と考えられます。
そして,j5μ(3) =(1/2)Ψ~γμγ5τ3Ψ+σ(∂μπ3)
-π3(∂μσ)+g0-1(∂μπ3)ですが,これをアイソ回転する
ことにより,j5μ(+) =(1/2)Ψ~γμγ5τ-Ψ+σ(∂μπ+)
-π+(∂μσ)+g0-1(∂μπ+)となるはずです。
ただし,τ-=(τ1-iτ2)/√2,π+=(π1―iπ2)/√2
そこで,<π-(q)|j5μ(+)|0>
=<{(π1 +iπ2)/√2}(q)|(j5μ(1) -ij5μ(2))/√2|0>
=(2q0)-1/2(-iqμ/μ2)fπ/√2 となります。
ここで,k=1,2,3の各々のπkは同じkのカレントj5μ(k)
とのみcoupleできて,kに関わらず,
<πk|j5μ(k)|0>=(2q0)-1/2(-iqμ/μ2)fπ/√2
となる。という対称性を仮定しました。
因子:(-iqμ)は,πの崩壊相互作用部分の行列要素が,
<πi(q)|g0-1∂μπ|0>=(2q0)-1(-iqμ)F(q2)
なる形で与えられるという現象論的推論から出ます。
そして,σを含む項の寄与は,先に述べた通り,項がπと
交換するので,<0|σ|0>からゼロです。
(注19-1終わり※)
式(145):
<π(q)|j5μ|0>=(2q0)-1/2(-iqμ/μ2)fπ/√2.
の発散を取り,(144):∂μj5μ=-(μ12/g0)(Z3π)1/2πr
を代入して,<π-(q)|πr |0>=(2q0)-1/2を用いる
と次式を得ます。
すなわち,-(μ12/g0)(Z3π)1/2=fπ/√2..(146)です。
※(注19-2):(146)の証明です。
(145)から,4次元発散を取ると,
<π(q)| ∂μj5μ|0>=(2q0)-1/2(q2/μ2)fπ/√2
です。何故なら.<0|a^(q)a^+(q)∂μexp(iqx)|0>
から(iqμ)因子が出てくるからです。
そして,πが実粒子(外線)で,q2=μ2なら
<π(q)|∂μj5μ|0>q2=μ2=(2q0)-1/2fπ/√2
です。
この右辺は,丁度,∂μj5μ=-(μ12/g0)(Z3π)1/2πr
を,<π(q)|と真空:|0>で挟んだものに等しく,
<π-(q)|πr |0>=(2q0)-1/2より,これは,
-(μ12/g0)(Z3π)1/2<π-(q)|πr|0>
=-(μ12/g0)(Z3π)1/2 (2q0)-1/2 に等しいことが
わかります。
つまり,-(μ12/g0)(Z3π)1/2 (2q0)-1/2
=(2q0)-1/2fπ/√2 を得ます。
(注19-2終わり※)
そこで,式(144):∂μj5μ=-(μ12/g0)(Z3π)1/2πr
のくり込み定数は除去されて,このPCAC方程式を
完全に物理量だけで書き表わせます。
すなわち,∂μj5μ=(fπ/√2)πr..(147) です。
※(注19-3)PCACの意味とfπの意味
(岩波講座)現代物理学の基礎(11)「素粒子論」より
|π-(q)>=|π->|π->|π-(q)>
+ΣNN~|NN~><NN~|π-(q)> と展開します。
崩壊:π-→μ-+νe~は,第1項の振幅と見ても,第2項
の振幅で見ても同じであると仮定します。
(つまり,|π->の{μν~>への崩壊は,|NN~>の中間状態
を通しての反応以外にはないと考えるわけです。)
|π-(q)>=|π->|π->|π-(q)>,
かつ, |π-(q)>=ΣNN~|NN~><NN~|π-(q)>
であって右辺第1項も第2項も同一とします。
右辺の第1項は,現象論的相互作用:
aπ(∂μπ){μ~γμ(1-γ5)ν}による摂動
Hamiltonian:Hπ→μνの1次近似の崩壊振幅であり,
これは <Hπ→μν>
=(G/√2)∫d4x<0|∂μπー|π-(x)>
×{μ~(x)γμ(1-γ5)ν(x)}なる計算式で評価
されます。
ここで,<0|∂μπー|π-(x)>
=(2π)-3/2(2q0)-1(iqμ)aπで係数:aπを定義して
おきます。
この現象論的弱い相互作用での最低次近似
によるπ-→μ-+νe~の崩壊率の計算結果と実験値
の比較,1/τπ→μν={G2aπ2/(8πμ)}(mμ/μ)2
~ 3.84×107sec-1 によって,aπの大きさが,
|aπ|~ 0.97μと評価されます。
(ここで,μはπの質量,mμはμの質量です。)
(※※ 本ブログの2016年3/21の過去記事;
「弱い相互作用の旧理論(Fermi理論)(12)」では,
荷電π中間子の崩壊について記述しました。
そこでは,今のaπは,単にaと表記され|a|~ 0.87μ
または,|a|~ 0.93μと評価されました。
|a|は,1つの核子あたりのπ中間子の雲の 存在
確率振幅を意味する量と考えられています。※※)
レプトンカレントの因子:{μ~γμ(1-γ5)ν}を,L^μ
で表わせば,π-→μ-+νe~の崩壊振幅は,
<μν~|L^μ{0><0|(Gaπ/√2)(∂μπー)|π->
<π-|π-(q)>と表わされます。
これが,|π-(q)>=|π->|π->|π-(q)>
+ΣNN~|NN~><NN~|π-(q)>における右辺
第1項の寄与です。
一方,第2項の寄与は,ΣNN~<μν~|L^μ{0>
<0|(Gaπ/√2)(∂μπー)|NN~><NN~|π-(q)>
=<μν~|L^μ{0>
<0|(gA/gV)(Gaπ/√2)j5μ(x)|π-(q)>
です。
πの方のカレント相互作用の寄与:(Gaπ/√2)(∂μπー)
が.軸性ベクトルカレント部分 ;
(Gaπ/√2)(gA/gV)j5μ(x)のみに対応すると見るのは
π-が擬スカラーなので,相互作用:∂μπーは軸性ベクトル
であり,そこでNのV-A弱カレントのAのみの寄与に相当
すると考えられるからです。
それ故,第1項=第2項という仮定が満たされるためには,
rA=gA/gVとして,aπ<0|∂μπー|π-(q)>
=rA<0|j5μ(x) |π-(q)> が必要十分です。
この式の左辺の4次元発散を取れば,
rA<0|∂μj5μ(x) |π-(q)>
=aπ<0|□πー|π-(q)>=-aπμ2<0|πー|π-(q)>
となります。
ここで,自由π中間子の運動方程式:(□+μ2)π-=0
を用いました。
それ故,fπ/√2=-aπμ2/rA(rA=gA/gV)
と置けば,∂μj5μ=(fπ√2)π-なる式を得ます。
これが,荷電π中間子でなく中性のπ0中間子の場合は
∂μj5μ=(fπ/√2)π0 ですから,これで定義された
fπが上のそれと同じなら,これは荷電πの崩壊率に
比例します。 <注19-3終わり※)
ここまでは電磁場の存在しないσモデルを論じてきました。
電磁場を含めるためには.Lagrangianに次の2項を加える
だけでいいです。
すなわち,Lに-(1/4)FμνFμν -e0ψ~pγμψpAμ..
(148)の2項を加えます。
すると,三角グラフの存在のために,式(147)のPCACの
方程式:∂μj5μ=(fπ/√2)πrは次のように修正されます。
∂μj5μ
=(fπ/√2)πr+(1/2){α0/(4π)}FξσFτρεξστρ(149)
です。
この右辺のアノマリー項の因子(1/2)は,単に,式(141a):
j5μ=(1/2)ψ~γμγ5ψ+σ(∂μπ)-π(∂μσ)
+g0-1(∂μπ) の最初の核子項に現われる因子(1/2)を
反映したものです。
適切に正規化された(くり込まれた)Feynmanルールを
導入し,前章までの論旨を同様に実行することにより,(149)
が電磁相互作用と強い相互作用の両方の摂動論のあらゆる
オーダーまで正しいことを示すことができます。
言いかえると,三角グラフへの如何なる仮想光子,
仮想中間子の輻射補正も,アノマリー項の係数を変える
ことはありません。
上述の考察の全ては,直接,σモデルのたった今考察した
アイソスピンのSU(2)(p,n)系や,ハドロンの全対称性;
SU(3)(p,n、λ)への一般化へと拡張することが
できます。
SU(3)のケースには,Ψは3成分(ψ1,ψ2,ψ3)Tに
置き換えられ,スカラーー中間子σと擬スカラー中間子は
,9重項粒子(nonet:1重項+8重項)で置き換えられ,軸性
ベクトルカレントj5μは8成分の軸性ベクトルカレント
J5μとなり,π0に対応するのは,その第3成分;J 53μ
となります。
π0に対してのアノマリーを持つPCAC方程式は,
このとき,次式になります。
∂μJ 53μ
=(fπ/√2)π0r+S{α0/(4π)}FξσFτρεξστρ.(150)
です。 ただし,S=ΣjgjQj2 です。
π0rはくり込まれた中性π中間子の場,QjはJ 53μの
中に素粒子場として現われるj番目のFermion の電荷,
gjは,その結合定数です。
つまり,J 53μ=Σjgjψ~jγμγ5ψj+(中間子項)..(151)
です。
(150)は,再び,摂動論のあらゆる有限オーダーまでで正しい
式です。
Sに対する表現:S=ΣjgjQj2の解釈は,アノマリーの
総係数が個々の素Fermi粒子を全て巻き込む各々の三角グラフ
の寄与の総和によることを意味します。
式(150):∂μJ 53μ
=(fπ/√2)π0r+S{α0/(4π)}FξσFτρεξστρ
は,素朴な発散:D53(=電磁場のないときの∂μJ 53μ)
が正準なπ中間子の場によるものでないようなモデル
にも拡張されます。
第4章(§4)の論旨は,基本的に,素朴な発散の乗法的
くり込み可能性に依存していたので,式;
∂μJ 53μ=D53+S{α0/(4π)}FξσFτρεξστρ
(152)は,素朴な発散:D53が乗法的くり込み可能な任意の
くり込まれた場の理論にいて,正しいと予測されます。
(76)~(79)の論旨によって,素朴な発散の乗法的くり込み
可能性は電磁場がないときは(ZA/Z2)が有限であること
を示しているので,
電磁場がないときに有限な(gA/gV)を持つ任意くり込み
可能な場理論において,電磁効果が付加されても.式(152)が
正確であると述べることにより,上述の言明を再び表明する
ことができます。
π中間子として滑らかに挿入された場があって,π中間子
が,その質量殻の近傍にある限り,式(152)でD53を
(fπ/√2)π0rに置き換えるのが有効と思われます。
こうして,(152):
∂μJ 53μ=D53+S{α0/(4π)}FξσFτρεξστρ.
は,特殊な場理論モデルでなく,より一般的なクラスの
モデルでも正確なPCAC方程式と考えられます。
さて,これで§5.1が終わり,次に
§5.2:π0崩壊の低エネルギー定理の項目に入るところまで
きたので,今日はここで終わります。
(参考文献):Lectures on Elementary Particles and
Quantum
Field Theory(1970 Brandeis University SummerInstitute
in Theoretical Physics) VolumeⅠ
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