対称性の自発的破れと南部-Goldostone粒子(2)
2017年も9月に入りました。
サッカー男子日本代表ワールドカップ出場決定おめでとう!
さて,「ゲージ場の理論」の続きです。
ここまでの準備の下で,自発的対称性の破れについての有名な
「南部-Goldsttoneの定理」を述べて,これを証明します。
※「南部-Goldsttoneの定理」
(ⅰ)理論が並進不変性と明白なLorentz不変性を持ち,
(ⅱ)保存するベクトルカレントjμ(x)(∂μjμ=0)が存在して,
(ⅲ)そのチャージ:Q=∫d3xj0(x)の対称性が自発的に敗れて
いる。すなわち,<0|i[Q,Φ(x)]|0>=<0|δΦ(x)|0>≠0
を満たすスカラー場演算子Φ(x)が存在する。
と仮定する。
このとき理論には零質量の粒子(NG粒子:南部^Gpldsyone粒子)
が存在して,カレントjμ(x)に結合している。
(証明) まず,<0|[jμ(x),Φ(y)]|0>に対するスペクトル表示
として,<0|[jμ(x),Φ(y)]|0>
=∫0∞dσ2ρ(σ2)i∂μΔ(x-y,σ2)が導かれます。
ただし,Δ(x-y,σ2)は質量がσの自由スカラー粒子Φ:
(□+σ2) φ(x)=0 の交換関係を示す不変デルタ関数:
Δ(x-y,σ2)=[φ(x),φ(y)]であり,
スペクトル関数:ρ(σ2)は,
-ikμρ(σ2-k2)
=(2π)3Σn,n’δ4(pn-k)<0|jμ(0)|n>
ηnn'-1<n'|Φ(0)|0> で与えられます。
系は(正定置とは限らない)完全性条件:
Σn,n'|n>ηnn’-1<n'|=1 を満たすとします。
スペクトル表示の導出には,
演算子(observable)O=jμ,Φが 並進共変性:
O(x)=exp(iPx)O(0)exp(-iPx)を満たすこと,
jμがベクトル.Φがスカラーであること,
さらに,CPTの変換性:Θ=CPTとして,
ΘΦ(0)Θ-1=Φ(0),Θjμ(0)Θ-1=-jμ(0)が
満たされること,を用います。
以下,この式を実際に導出します。
※(注1):<0|[jμ(x),Φ(y)]|0>に,
Σn,n'|n>ηnn'-1<n'|=1 を挿入すると,
<0|[jμ(x),Φ(y)]|0>
=Σn,n'[<0|exp(iPx)jμ(0) exp(-iPx)|n>ηnn'-1
<n'|exp(iPy)Φ(0) exp(-iPy)|0>
-<0|exp(iPy)Φ(0) exp(-iPy)|n>ηnn'-1
<n'|exp(iPx)jμ(0)exp(-iPx)|0>]
です。
故に,与式=Σn,n'[<0|jμ(0)|n>ηnn'-1<n'|Φ(0)|0>
exp{-i(pnx-pn'y)}-<0|Φ(0)|n>ηnn(-1<n'|j (0)|0>
exp{-i(pny-pn'x)}]となります。
ここで,CPTの反ユニタリ変換性から,
<0|Φ(0)|n>=<0|ΘΦ(0)Θ-1|n>*=<n|Φ(0)|0>
<0|jμ(0)|n>=<0|Θjμ(0)Θ-1|n>*
=-<n|jμ(0)|0>です。
さらに,ηnn'のHermite対称性から,ηn(n*=より.
ηnn' -1=(ηn'n-1)* です、
それ故,
Σn,n'<0|Φ(0)|n>ηnn'-1<n'|jμ(0)|0>
exp{-i(pny-pn'x)
=-Σn,n'<0|jμ(0)|n'>(ηn'n-1)*<n|Φ(0)|0>
exp{i(pnx-pn'y}] ですが,
不定計量であっても,ηnn'は実数にとることができて,4元運動量
は保存されるべきなので,pn'=pnのときにのみηnn’≠0と
対角化されていると仮定すると,
結局, <0|[jμ(x),Φ(y)]|0>
=Σn,n'<0|Φ(0)|n>ηnn'-1<n'|Φ(0)|0>
[exp{-ipn(x-y)}+exp{ipn(x-y)}) です。
ここで,ρμ(k)
=(2π)3Σn,n'δ4(pn-k)<0|jμ(0)|n>ηnn'-1<n'|Φ(0)|0>
と置くと.ρμ(k)は,k0≧0 のkμのみに依存するベクトル関数
なので,ρμ(k)=-ikμθ(k0)ρ(k2)と書くことができます。
そして,真空|0>は運動量演算子:Pμの固有値Pμ=0 に
属する縮退していない最低エネルギーの基底状態であり,
|n>は,Pμ|n>=pnμ|n>を満たす固有状態ですが,これら
は全て真空:{0>にいくつかの粒子の生成演算子を作用させて
得られるものとしているので,k2=(pn)2<0 なら,ρμ(k)
はゼロです。
すなわち,ρμ(k)=-ikμθ(k0)ρ(k2)は,k2≧0 でのみ
ゼロでないというスペクトル条件を持ちます。
したがって.<0|[jμ(x),Φ(y)]|0>の展開表現の最初に,
1=∫d4kδ4(pn-k)を挿入すると,因子( -ikμ)は,
∂μ[exp{-ik(x-y)},or -∂μ[exp{ik(x-y)}
で表わせるため,
<0|[jμ(x),Φ(y)]|0>
=∫d4k(2π)-3θ(k0)ρ(k2)
∂μ[exp{-ik(x-y)}-exp{ik(x-y)}]
=∫0∞dσ2ρ(σ2)∫d4k(2π)-3δ(k2-σ2)
∂μ[ε(k0)exp{-ik(x-y)})
=∫0∞dσ2ρ(σ2)∂μΔ(x―y, σ2)
が得られます。 (注1終わり※)
交換関係のスペクトル表示:
<0|[jμ(x),Φ(y)]|0>=∫0∞dσ2ρ(σ2)∂μΔ(x―y, σ2)
から直ちに,T積のスペクトル表示:
<0|T[jμ(x)Φ(0)]|0>=∫0∞dσ2ρ(σ2)∂μΔF(x, σ2)
が従います。
この,両辺に左から,∫d4xi∂μを掛けると,左辺は
∂μjμ=0より,∫d4xi∂μ<0|T[jμ(x)Φ(0)]|0>
=∫d4xiδ(x0)<0|[jμ(x),Φ(0)]|0>
=<0|i[Q,Φ(0)]|0>=<0|δΦ(0)|0>≠0 です。
一方,右辺は,∫d4xi∂μ∫0∞dσ2ρ(σ2)
∂μΔF(x, σ2)
=i∫d4x∫0∞dσ2ρ(σ2)□ΔF(x, σ2) です。
ΔF(x, σ2)=∫d4p(2π)-4exp(-ipx)/(p2-σ2+iε)
より,□ΔF(x, σ2)
=∫d4p(2π)-4exp(-ipx)(-p2)/(p2-σ2+ε) です。
故に,i∫d4x∫0∞dσ2ρ(σ2)□ΔF(x, σ2)
=∫0∞dσ2ρ(σ2)∫d4pδ(p)(-ip2)/(p2-σ2+ε)
=-i∫0∞dσ2{p2ρ(σ2)/(p2-σ2+ε)}p=0 です。
それ故,
-i∫0∞dσ2{p2ρ(σ2)/(p2-σ2+ε)}p=0
=<0|δΦ(0)|0>≠0 ですが,これが成立するためには,
左辺の∫0∞dσ2の被積分関数:p2ρ(σ2)/(p2-σ2+ε)が
p=0の極限でもゼロでないことが必要です。
p2ρ(σ2)/(p2-σ2+ε)
=ρ(σ2)+σ2ρ(σ2)/(p2-σ2+ε) より,
p=0では,limp→0∫0∞dσ2{p2ρ(σ2)/(p2-σ2+ε)}
=∫0∞dσ2ρ(σ2)
+limp→0∫0∞dσ2[σ2ρ(σ2)/(p2-σ2+ε)] です。
これがゼロでない寄与をするのは,σ2=0に零質量1粒子離散
スペクトル:∝δ(σ2)の寄与があるときのみであることが
わかります。
ρ(σ2)からσ2=0で有限な部分:ρ~(σ2)を分離して,
ρ(σ2)=wδ(σ2)+ρ~(σ2) と書けば,
w=<0|δΦ(0)|0>≠0 なる式を得ます。
すなわち,対称性の自発的破れがある:つまり,
<0|δΦ(0)|0>≠0 である限り,スペクトル関数:ρ(σ2)の
中にゼロでないwδ(σ2)の項が存在する必要があります。
これはペクトル関数の定義:-ikμρ(σ2-k2)
=(2π)3Σn,n'δ4(pn-k)<0|jμ(0)|n>ηnn'-1
<n'|Φ(0)|0> から,理論の完全系:{|n>}の中に,零質量
1粒子状態:|p(m=0)>とそれと対をなす<p(m=0)| が
存在して,この零質量1粒子状態が,<0|jμ(0)|p(m=0)>≠0,
<p(m=0)|Φ(0)|0>という形でカレントjμや場Φに結合して
いることを意味しています。 (証明終わり)
この定理に関して,いくつかのコメントを与えておきます。
1) 真空期待値:<0|δΦ(0)|0> は,オーダー・パラメータ
(order parameter)と呼ばれ,これがゼロでないかどうかが,
自発的対称性の破れの有無を決定します。
オーダー・パラメータの演算子;δΦがLorentz不変性を
破らずゼロでない値を取るには,これはスカラーでなければ
なりません。
(※あるいは,不変テンソルgμνやεμνλσを含む
2階対称テンソル,および,4階反対称テンソルでもいいです。
例えば,(δΦ)μνが2階対称テンソルなら,<0|(δΦ)μν|0>
=gμν×(定数) の真空期待値をとります。)
したがって,電荷Qがスカラーの場合,δΦに対応する場Φも
スカラーであり,定理の要求する
F.T.<0|T[jμ(x)Φ(y)]|0>|零質量極部分
=<0|δΦ|0>(pμ/p2) のように,p2=0 に極をつくる
N.G.粒子もスカラーです。(※ F.T.はFourier変換)
すなわち,この極の存在は,
jμ(x) xo→±∞ → fπ∂μφas(x)+..,
ただし,[φas(x),φas(y)]=iD(x-y)
Φ(x) xo→±∞ → Z1/2φas(x)+..,
fπZ1/2φ=<0|δΦ|0> を満たす零質量スカラーN.G.
粒子の漸近場(asymptotic
field):φasの存在を意味します。
fπはN.G.粒子:φasがカレントjμと結合する強さを示す
結合定数で,崩壊定数と呼ばれます。
2) 不定計量を含むゲージ理論ではN.G.粒子が正の計量を
持つ物理的粒子であるかどうかについて,定理は何も主張して
いません。
もしもカレントjμがゲージ不変(BRSう不変)な演算子
でないなら,N.G.粒子は不定計量粒子で有り得ます。
その場合,一般に,前の漸近条件は
jμ(x) xo→±∞ → fπ∂μφ~as(x)+..,
[φ~as(x),φas(y)]=iD(x-y)
Φ(x) xo→±∞ → Z1/2φas(x)+..,
に置き換えられ,φ~asとφasが同一の漸近場である
必然性がなくなります。
(※ 何故なら|n>ηnn'<n'|mにおいて,|n(m=0)>
と<n'(m=0)|が同じ粒子である必要がありません。)
しかも,Φがスカラーですから,φasもスカラーですがjμ
の漸近場∂μφ~asのφ~asはスカラーという保証はなく,
jμ自身の漸近場が∂μφ~asでなくベクトル場:Vμasの
縦波モードでもいいことになります。
実際,QCDのU(1)問題では,このようなことが起きている
ことが知られていて,Vμasは2階反対称テンソル場:
Aμνasを用いて,Vμas=εμνρσ∂νAρσasで
与えられます。
3) 先に,対称性が自発的に敗れたときにはチャージ演算子Q
が無矛盾でなくなることを述べましたが,その直接的原因は,
カレント:jμ(x)にN.G.粒子状態が効いてくるため,遠方
で十分速く減衰しないので,jμ(x)の空間積分が発散して
しまう,ところにあります。
この事情を,jμ(x) xo→±∞ → fπ∂μφas(x)+..,
[φas(x),φas(y)]=iD(x-y)
を用いて,(N.G.粒子:φasが正計量のときに)もう少し
詳しく評価してみます。
φas(x)の生成演算子をa+(k)と書き,次のN.G.ボソン
1粒子状態を考えます。
すなわち,|NG>=∫d3kg(k)a+(k)|0>です。
この波束状態のノルムは,交換関係:
[a(k),a+(q)]=δ3(k-q)より,
<NG|NG>=∫d3k|g(k)|2 で与えられるので,
例えば,g(k)を,あるKについて,|k|≦Kなら
g(k)=1/|k|α,|k|>Kならg(k)=0 と取ると,
k2|g(k)|2の|k|のベキが(-1)より大きければ,この
ノルムはゼロです。
そこで,α<3/2であればノルムが収束し,状態:
|NG>=∫d3kg(k)a+(k)|0>は無矛盾です。
ところが,この状態と真空でjμを挟んだ行列要素は,
<0|jμ(x)|NG>=fπ<0{∂μΦas(x)|NG>
=fπ∫d3k(2π)-3/2(2k0)-1/2 (-ikμ)g(k)evp(-ikx)
となり.これのμ=0 の時間成分をd3xで積分するとき,
α>1/2なら発散します。
そこで,例えば,α=1と選択すると<0|Q|NG>は発散して
いて,Qは無矛盾な演算子として存在できません。
これが,カレント:jμ(x)にN.G.粒子状態が効いてきて,
遠方で十分速く減衰しないたの,j0の空間積分が発散して
しまうのがチャージが無矛盾でなくなる原因となる1例です。
ここまでの計算で,φasが零質量であることを本質的には
使っていませんが,(k0=|k|で使ってはいる?),jμに
現われ得るスカラー粒子状態(漸近場)φasは∂μjμ=0
の条件から,□φas=0 がsy従うので零質量以外は
有り得ません。
4) 次に重要な注意は,群Gの対称性が,部分群Hにまで自発的に
破れた場合に,N.G.粒子がいくつ出現するか?についてです。
群:GのLie代数:Gを形成する生成子:TA(A=1.2..dimG)の
うち,破れた生成子:Xa∈(G-H)に対応するチャージ:Qa,
またはカレント:jaμの各々に対して,先述の
「南部-Goldstoneの定理」が当てはまるので,Xa∈(G-H)
の各々に対して,
jaμ(x) xo→±∞ → fπ∂μφa,as(x)+.//を満たす
N.G.粒子漸近場:φa,asが存在します。
しかし,問題はこうしたφa,asが全て独立な場であるか
どうか?ということです。
もしも独立でないとすると,これらの適当な線形結合:
Σacaφa,asはゼロとなってΣacajaμには,N.G。の
1粒子がなくなりΣacaQaは無矛盾なチャージとなって
しまいます。
これは対応する生成子ΣacaXaが”破れていない生成子”
になることを意味するため,元の生成子{Xa}が,閉じた
破れていない生成子の線型空間:(G-H)を張る独立な元で
あった,という仮定に矛盾します。
以上から,「独立な破れていない生成子:Xa∈(G-H)の各々
に対して,各々1個ずつ独立な零質量のNG粒子が対応する。」
という命題が成立します。
それ故,対称性が自発的にGからHまで破れるときに現われる
N.G.粒子の個数は,dim(G/H)=dimG-dimHで与えられます。
5) 先の定理では,チャージQがスカラーの場合に限りましたが,
この仮定はスペクトル表示の表現を簡単にするためにおいた
もので,本質的ではないです。
実際,チャージQを(Poicaew’群の生成子である並進のPμや
Lorentz群の生成子Mμν以外の)ベクトル,テンソル,スピノル
に選べば,i<0|[Q,Φ]|0>=<0|δΦ|0>≠0 である限り,
カレント; jμ,および,Φに零質量のN.G.粒子が結合して
いることが示せます。
例えば,FermionとBosonを結び付ける超対称性のチャージ
Qは,MajonaraスピノルのFermiチャージで,これが自発的に
破れると,MajonaraスピノルのN.G.Fermionが出現します。
ただ,注意すべきは,例えばベクトルチャージ:Qμの場合
にベクトル場:Φνに対して
i<0|[Qμ,Φν]|0>=<0|δμΦν(x)|0>=gμν×(定数)
≠0 ですが,だからといって,すぐにベクトルN.G.ボソン
が存在するといえない点です。
それは,スカラーN.G.ボソンでも,この関係を満たすことが
できるからです。しかし,論理的にはテンソルN.G.ボソンの
可能性も除外はできません。
これに関連して知っていて損にはならない事実として.
「Coleman-Mandula-Haag-Lopuszanski-Sohniusの定理」
があります。すなわち,
「一般に,Poincare’不変な理論において,物理的S行列の
(連続的)対称性として存在し得る保存チャージは Poicaew'
群生成子:Pμ,Mμν以外にはスカラー(Boseチャージ),
または(1階の)スピノル(Fermiチャージ)のみである。」
という定理です。
これは,かなり一般的に妥当な仮定の下に証明される大変強力
な定理です。
したがって,例えば,あるLagrangianに4次元運動量:Pμ
とは別のベクトルチャージ;Qμの対称性があったとすると,Poicaew’不変性を破らない限り.Qμの対称性は自発的
に破れる,もしくは非物理的粒子のみと関わる対称性になるか.
のどちらかです。
BRS電荷はスカラーですがFermiチャージなので,上述の定理
によって許されない対称性であり,ⅱ)Q|0>≠0 の実現例に
なっています。
6)「南部-Goldstoneの定理」の適用範囲は,かなり広範で,
実はPoincare'不変性がないときでも,これに代わる適切な
仮定(これにもバラエティがある)があれば,成立します。
例えば物性論では強磁性におけるスピン波や固体における
フォノンなど多くのN.G.モードがあります。ここで,N.G.
モードと述べたのは,そこでは相対論的粒子描像は存在しない
ので,運動量kがゼロになるときエネルギーEもゼロになる
ような励起モードという意味です。
※(余談):
世にはあまり知られていない専門書や論文の英語の文章を翻訳
して読んだ履歴を解説するならまだしも,「ゲージ場の量子論」
のようにその筋では有名な日本語の専門テキストを,自己満足の
ためとはいえ,ただ丸写しのごとくブログ記事としてパクる,
というだけでは申し訳ないので,
少し,拙い私的雑文を加筆します。
「自発的対称性の破れとは如何なるときに生じるのか?」
というテーマです。
物性論によると,常温では電子スピンの向きが全く無秩序で
どの方向が特別ということはなく,全く対称なので磁気が存在
しない金属でも,,極低温まで冷却すると,急に相転移が起きて
ある特別な方向にスピンの向きがそろって強い磁気が生じる
という現象があります。
これは高温ではスピンの向きには全く秩序性がなく,それ故
等方的であるという対称性があったのが,低温で破れたこと
を意味します。
一般に物質内では,高温では無秩序という意味のエントロピー
が最大の対称性が保持されているのが普通だったのに,低温に
なって急に対称性が破れるという現象があり,これが,素粒子
論での”自発的対称性の破れ”という発想の源であったと
聞いています。
(※かつてのDiracやFeynman(デルタ関数,経路積分など)の
ように常識や専門分野などに,とらわれない自由で新鮮な理論
には,必ずといっていいほど,南部先生が関わっておられたと
記憶しています。)
さて,宇宙論では,現在の主流理論では,宇宙はある時点から
1点からビッグ・バンと呼ばれる膨張を開始し,それは現在
も進行中であることになっています。ビッグ・バンは,Bang
(爆発)とはいっても,過去の一瞬の大爆発ではなく,今も
その途上にあると理解しています。
アインシュタインの一般相対論で得られた宇宙空間を記述
する重力場の方程式は,その発見以後,若干の修正が加えられ
ているようですが,基本的には規模は違いますが,初期条件が
膨張の向きなら膨張宇宙のビッグ・バンを示す解を,初期条件
が収縮の向きなら重力崩壊してブラックホールになるような
解を与えます。
これらは,同じ方程式の互いに時間反転の関係にある解です。
偶然,膨張でも収縮でもない条件から出発すれば,静止宇宙
の解もあるでしょう。
しかし,我々のこの宇宙は,膨張宇宙の解に属していて,過去
の宇宙初期には非常に熱い火の玉宇宙であったものが,膨張
と共に次第に冷えてゆくというモデルで説明されます。
(※ ごく初期には,現在の膨張速度よりも,はるかに爆発的
に急膨張したというインフレーション宇宙の話もあります。)
現在の宇宙背景輻射の温度が絶対温度で約2.7度であると
いう観測結果がGamow(ガモフ)の火の玉宇宙のほぼ予言通り
であったのが,ビッグバン宇宙の証拠とされています。
いずれにしろ,宇宙初期の高温時代にはあらゆるゲージ
対称性が正確に成立していて,ゲージ粒子だけでなく全て
の粒子の質量はゼロであったはずでしたが,冷えていくに
つれて完全であった対称性破れて,質量ゼロであった粒子
達も,Higgsメカニズムなどにより,質量を獲得して現在に
至っているというのが,最近は新しい話に触れていない
ので私の認識はやや古いかもしれませんが,現代的な理論
であろうと思っています。
つまり,膨張によって低温になっていくときに,孤立した
全体系の,エントロピーの増大とは,逆の現象ですが,,局所的には
対称性が破れて,ある意味で,,ツルンとした対称な宇宙に秩序の
ある凸凹部分ができてきた,ともいえるでしょう。
その意味では生命が誕生して複雑に進化していくのも,
エントロピー増大とは逆の流れで,自発的な対称性の破壊
の1つでしょう。
。
今回はここまでにして,次回は対称性の自発的破れの実例
を見ます。
(参考文献):九後汰一郎 著「ゲージ場の量子論(Ⅱ)」
(培風館)
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この記事へのコメントは終了しました。
コメント
どうもバクさん。コメントありがとうございます、TOSHIです。
詳細なところまで読んで「いただきありとうございます。
ご指摘はその通りです。
本文では量子論の式は,i[Q,Φ]=+δΦと書いていて.私も間違っていないはずです。
[Q,Φ]=-δΦというのは,対応原理の古典論の解析力学での接触変換の式であり,交換関係ではありません。
この左辺は虚数iなど無関係な古典論の式でポアソンカッコ式です。
ではでは,..これからもよろしく
TOSHI
投稿: TOSHI | 2017年9月 4日 (月) 02時14分
お世話になります。
大変興味のあるところなので、読ませていただいています。
さて、質問なのですが、ネータの定理のところで
{Q,φ_j}=-δφ_j
となっていますが、ここのところがよく分かりません。
{Q,φ_j}=-iδφ_j
ではないでしょうか?
toshi様の「ネータの定理場理論」も読みましたが、途中でフォローできず、読了をあきらめました。
その後、
http://www.phys.u-ryukyu.ac.jp/~maeno/field.pdf
のP104「量子論における対称性」の(6.34)式を参考にしました。
お手数ですが、よろしくお願いいたしますm(_ _)m
投稿: バク | 2017年9月 3日 (日) 13時36分