対称性の自発的破れと南部-Goldostone粒子(4)
「ゲージ場の量子論」(対称性の自発的破れ)の続きです。
今回,最初は「南部-Goldstoneの定理」の別証明、および,
対称性の自発的破れの興味深いもう1つの例である
「南部-Jonalashino模型」の紹介と説明を行う予定でした
が,「南部-Jonalashino模型」を詳しく説明しようとすると
とても長くなることがわかったので2つに分けて今回は,
「南部-Goldstoneの定理」の別証明の話だけにします。
(前置き):さて,前回,Goldstone模型で書き直したLagrangian
密度:L=(1/2){(∂μψ)2-m2ψ2}+(1/2)(∂μχ)2
-(m√λ/2)ψ(ψ2+χ2)-(λ/8)(ψ2+χ2)2-V0[v/√2]
において,χの質量項がゼロで.ψの質量項が正しい符号の
-(1/2)m2ψ2で出現した理由を考え直してみます。
これら場の2次の項は,Lの中のポテンシャル項:-V0[φ]
だけに由来しており,その停留点:φ=φ~=v/√2の周り
での 曲率=2×2行列:{∂2/∂φi∂φj}φ~=v/√2 の固有値
が2乗質量のゼロとm2に対応している,ことに気付きます。
ポテンシャル:V0[φ]は,前回の図6.1で回転したワイン瓶
の底の形であることを示しましたが,この瓶底の1点:
φ~=v/√2の周りで見ると動径方向(Reφ方向)の曲率が
最大で,それがψの2乗質量:m2を与え,一方,円周方向
(Imφ方向)は,そもそもU(1)対称性によりポテンシャル
の値が変化しない方向ですから,曲率はゼロで,これが
N.G.ボソン:χの零質量を与えるとわかります。
この見方は,N.G.ボソンが,何故,零質量になるのかに
ついて,ポテンシャル項:V0の持つ対称性から.直接視覚的
に明快な説明を与えるもので「南部-Goldstoneの定理」の
別証明の発想の基礎となります。
(定理の別証明):局所的Heisenberg場の一組:{Φ(x)}が
理論の対称性の群Gのある既約表現の基底になっていると
します。(※線型表現の不変部分空間の基底であれば既約
でなくてもいいと主鱒が。。)
すなわち,次式が満たされているとします。
[iQA,Φi(x)]=∫d3yi[jA0(y),Φi(x)]
=-iTAijΦj(x) (i=1,2..,n)
TAijは,この既約表現でのGの生成子TAの
表現行列(要素)です。
Φi(x)は,一般に"素"Heisenberg場の多項式で与えられる
複合場であり,[iQA,Φi(x)]=∫d3yi[jA0(y),Φi(x)]
=-iTAijΦj(x)は,[iQA,Φi(x)]=δAΦiが線型変換
であると主張するものではありません。
(※表現が線型表現であるだけです。)
この複合場:Φi(x)に対する外場:Ji(x)を導入し,
exp(iW[J])=<0|Texp[∫d4xJ i(x)Φi(x)]|0>
によってW[J]を定義し,これのLegendre変換:
Γ[Φ]=W[J]-J Φから有効作用:Γ[Φ],そして,Φ
が定数の場合として有効ポテンシャル:V[Φ]が得られた
とします。
Γ[Φ],V[Φ]は対称性群GのΦを基底とする線型表現
の無限小変換である線形変換:Φi → Φi-iεATAijΦj
の下で明らかに不変ですから,(∂V/∂Φj)TAjkΦk=0
が成立します。
これは,Φについての恒等式ですからさらに両辺をΦiで
微分して,同じく,恒等式:
(∂2V/∂Φj∂Φi)TAjkΦk+(∂V/∂Φj)TAji=0
を得ます。
ここで,ある真空|0>における複合場演算子:Φi(x)の
期待値を,vi=<0|Φi(x)|0>とすると,
[iQA,Φi(x)]=∫d3yi[jA0(y),Φi(x)]
=-iTAijΦj(x)から,
<0|[iQA,Φi(x)]{0>=<0|δAΦi|0>
=-<0|iTAijΦk(x){0>=-iTAijvj
と書けます。
それ故, 次のような対応があることになります。
TAijvj= 0 ⇔ TA∈ H (破れていない生成子)
TAijvj≠ 0 ⇔ TA∈(G-H ) (破れた生成子)
一方,
(∂2V/∂Φj∂Φi)TAjkΦk+(∂V/∂Φj)TAji=0
を,∂V/∂Φj=0の停留条件を満たすΦj=viで評価
すると,[∂2V/∂Φj∂Φi]φ=vTAjkvk=0 です。
ところが一般に,<0|Φi(x)|0>=vi≠0 となる真空上
のGreen関数は,場:Φi(x)を,vi+Φ^i(x)のように真空
期待値分viだけシフトして,<0|Φ^i(x)|0>=0 となる
ような新しい無矛盾な場をΦ^i(x)として再定義する
必要があります。
そして,有効作用;Γ[Φ]=Γ[Φ^+v]を,Φ=vの周り
にTaylor展開した級数:
Γ[Φ]=Γ[Φ^+v]=Σn=0∞(1/n!)∫d4x1..d4xn
Φ^i1(x1)..Φ^in(xn)Γv(n)(x1,..xn)
の係数:Γv(n)(x1,..xn)は,この真空上の新しい無矛盾な
場:Φ^(x)の1粒子既約な頂点関数を与えます。
このことから有効ポテンシャル:V[Φ]は,Φ=vの周りの
Φ^によるTaylor展開の係数:Vv(n)が,運動量表示の
有効作用:-Γ~v(n)(p1,..pn)のpj=0 での値:
-Γ~v(n)(0,..,0)に一致することがわかります。
特にn=2では,
[∂2V/∂Φj∂Φi]φ=v=-Γ~vi,vj(2)(p=0)
=-ΔF -1ij{p=0 です。
ここで,ΔF -1は2点Green関数=Feynman伝播関数:
ΔF(p) ijの逆行列要素です。
(※ iΔF(p)ij
=∫d4x{exp(ipx)<0|TΦi(x)Φj(0)|0>})です。)
それ故,[∂2V/∂Φj∂Φi]φ=vTAjkvk=0 は,
(TAjkvk)が零ベクトルを意味しない限り,(TAjkvk)
が行列:-{(iΔF) -1}ij{p=0の固有値ゼロに属する固有
ベクトルであることを示しています。
1スカラー1粒子だけの系では,その質量がmなら,伝播関数
の運動量表示は,ΔF(p)=1/(p2-m2+iε)ですから,
p=0 のとき,-ΔF
-1=m2です。
故に:行列(-ΔF -1ij|p=0)は質量を意味する行列であり,
対角化したときの対角成分=固有値は質量を意味します。
-ΔF -1ij|p=0の零固有値は固有ベクトル方向の場が零質量
を持つことを意味するため,破れた生成子:TAに対応する数
の独立な固有ベクトルTAv≠0 が零質量のN.G.粒子
として出現することを示しています。
(証明終わり)
※(注4-1):前回記事での有効作用・有効ポテンシャルの説明で
必要なのに,落としてしまったと思われる部分を追加します。
有効作用:Γ[φ]が1粒子既約な頂点関数:Γ(n)の生成汎関数
であったことから従う有効ポテンシャル:V[φ]のもう1つの
側面に注意します。
頂点関数:Γ(n)の運動量表示Γ~(n)を運動量保存のδ関数
を外して定義します。すなわち,
∫d4x1..d4xn exp{ip1x1+..+ipnxn}
Γ(n)i1/..in(x1,..,xn)
=Γ~(n) i1..in( (p1,..,pn)(2π)4δ4(p1+..+pn)
です。
有効作用の展開:Γ[φ]=Σn=0∞(1/n!)∫d4x1..d4xn
φi1(x1)..φin(xn)Γ(n)i1..in(x1,..xn) において,
φi(x)をφ~i(定数)とし,V[Φ]の定義式,および,
(2π)4δ4(p=0)=∫d4x exp(ipx)|p=0を考慮すると,
V[φ~]=-Σn=0∞(1/n!)φ~i1..φ~inΓ~(n)i1..in(0...,0)
を得ます。
すなわち,有効ポテンシャル:V[φ~]は,運動量piが全て
ゼロのときのn点頂点関数の生成関数という意味を持つ
ことがわかりました。
さらに,W[J]の経路積分表式:
Z[J]=exp(iW[J])=N∫Dφexp[i{S[φ]+Jφ}]
を,Γ[φ~]=W[J]-Jφ=に代入し,自然単位に
Planck定数:hcを復活させると,Γ[φ~]
=(-ihc)ln[∫Dφexp{(i/hc){S[φ]+J(φ-φ~)}]
となります。
経路積分Dφの積分変数を,φ → φ+φ~と変数置換して,
-Ji(x)=δΓ/δφiを代入すれば,
Γ[φ~]=(-ihc)ln[∫Dφexp{(i/hc){∫d4x
(L[φ+φ~]-(δΓ/δφ)φ)}] です。
L[φ+φ~]をc-数: φ~の周りで量子場:φ(x)につて
展開すると,L[φ+φ~]=L[φ~]+(∂L/∂φi)φi
+(1/2)φi|(iDF)-1φ~}ijφj+Lint[φ;φ~]
と書けます。
ここで,|(iDF)-1φ~}ijは,|(iDF)-1φ~}ij
=(∂2L[φ+φ~]/∂φi∂φj)|φ=0
=(∂2L[φ~]/∂φ~i∂φ~j) で与えられますが,これは
場:φの期待値がφ~であるような真空の上でのFeynman
伝播関数の逆数となってるのでこう表記しました。
Lint[φ;φ~]は,φについては3次以上のφ~における
相互作用項です。
このL[φ+φ~]の展開をΓ[φ~]の表式に代入すると,
Γ[φ~]=∫d4xL[φ~]+Γ~[φ~]
Γ~[φ~]=(-ihc)ln∫Dφexp[(i/hc){∫d4x
[(1/2)φi|(iDF)-1φ~}ijφj+Lint[φ;φ~]
-(δΓ/δφ)φ}] を得ます。
これで,うまい具合に有効作用:Γ[φ~]から,古典的作用積分:
S[φ~]=∫d4xL[φ~]が分離されました。
(注4-1終わり※)
今回は短かいながらここまでにして,次回は本当に
「南部-Jonalashino模型」の説明に進みます。
(参考文献):九後汰一郎 著「ゲージ場の量子論(Ⅱ)」(培風館)
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