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2017年9月 8日 (金)

摂動論のアノマリー(21)(第Ⅱ部:4)

  摂動論のアノマリーの続きです。
 

コーヒー・ブレイクなどもあり,少し間が空いて,私自身も

今までの 経過を少し忘れかけているので,前回の

「摂動論のアノマリー(20)」の最後の部分を再掲載する

ことから.始めます。
 

前回最後の方では,
 

π0  2γ の崩壊行列要素は, 

fi(x+μ2)<γ(1,ε1)γ(2,ε2);in|π0()|0 

i∫d4(2π)-4exp{i(1+k2)}

(2π)-3/2(20)-1/2exp(iqx) 

<γ(1,ε1)γ(2,ε2)|(□+μ2)qπ0|0

で与えられます。
 

そして.<γ(1,ε1)γ(2,ε2)|(□+μ2)π0|0 

(41020)-1/21ξ2τε1σ*ε2ρ*εξτσρπ(12) 

であったので,(154):π(0)

(-α/π)(2)(2μ2/π),低エネルギーでは

π0  2γの振幅が,直接:(150):

μ53μ(π/2)π0+S{α0/(4π)}ξστρεξστρ 

のアノマリー項に比例することを示しています。
 

したがって,もしもアノマリー項をゼロとしてomitしたら, 

(154)の代わりに,π(0)0 (155)が得られると予測されます。
 

しかし,これは,実験事実に反して,π0  2γの崩壊が禁止される 

ことを意味します。
 

ここで.手短かに,(154)が示唆することのいくつかを論じます。
 

()(154)によって予測されるπ0の崩壊実験の崩壊率は, 

パラメータSに依存します。
 

そして,このSは,Fermi粒子の電荷Qと軸性結合定数gに 

よって決まります。(※ S=Σjj2 です。)
 

SU(3)のクォークモデルでは,それは中間子の交換によって

相互作用するFermi粒子:(ψ1,ψ2,ψ3)(,,λ)なる基本

3粒子の組から成り,その結合定数は,(1,2,3)

(1/2,1/2,0) です。
 

電磁カレントのU-スピン不変性から,基本粒子:(ψ1,ψ2,ψ3)

電荷は,(,Q-1,Q-1)というパターンを持ちます。
 

この(,Q-1,Q-1)において,主流モデルの分数電荷の

クォークでは,Q=2/3より,

(,Q-1,Q-1)(2/3,1/3.1/3) なので 

S=Σjj21/6です。
 

一方, Q=1やQ=0の整数荷電を仮定すると,S=±1/2です。
 

ここで,π0の崩壊率(1/崩壊寿命)について次の公式が

あります。すなわち,τ-1(μ3/64π)|π[μ2/2]|2..(157)

です。
 

これにおいて,π[μ2/2]をFπ[0]で近似するとπ0崩壊の

崩壊率の近似計算値として,次の値が得られます。 

S=1/6なら τ-10.8 e..(158) 

S=±1/2なら  τ-17.4 e..(158) です。
 

一方,Rosenfeldによって引用されたπ0崩壊の崩壊率の

実験値,

τexp -1(1.12±0.22)×1016 sec-1(7.37±1.5) e.(159) 

です。

(※ 現在の最新実験値では,τexp -1(7.48±0.32) e)
 

また,もしも,最近のPrimakoff効果の実験が,上記のRosenfeld 

平均を含む初期の実験よりも信頼できるなら,τexp -111eV 

になるという結果もあります。
 

とにかく,この結果からは,S=1/6の分数電荷クォークは強く

排斥され,他方,Q=1やQ=0の整数電荷クォークは実験と

満足のいく一致を見るという結果を得ました。
 

():現在の実情では,クォークにはフレーバー自由度とは

独立にカラー自由度3があってSU(3)の対称性を持つこと

がわかっており,これにより,S=(16)×3=1/2となるため,

整数電荷の方が過剰で分数電荷の方が有力です。(注終わり※)
 

予測計算値(158)と実験値(159)の明白で劇的な一致は,幾分

偶発的なことです。この一致を偶発的と見るのは,逆に,実験

での崩壊率の不確かさと,PCACの論旨に含まれると予想

される1020%の外挿誤差の存在のためです。
 

例えば,もしも,(154):

π(0)(-α/π)(2)(2μ2/π) 

のfπに実験値を当てる代わりに,

Goldberger-Treimanの関係: 

2μ2/π ~ gV/(N)..(160)

(N:核子Nの質量,:πN結合定数 ~ 13.6,

:核子軸性ベクトルカレントの結合定数 ~ 1.22)

を代入するならS=±1/2の理論的予測は20%増加して

τ-1  9.1 eVとなるからです。
 

しかし,いずれにしろ,実験結果との比較は,||1/2を示唆 

しています。

というところで終わっています。(再掲載終了※)
 

今回はその続きです。
 

()π0崩壊の実験値と比較した結果によれば,||1/2ですが 

Sの符号は決まっていません。
 

しかしながら,Sの符号を定めるいくつかの異なる方法が

あります。その全てによる結果は一致しています。
 

1の方法は,π→ e+ν崩壊を調べることです。 

この崩壊のベクトル部分はπ0崩壊のFπのアイソスピン

回転と関連付けられ,軸性ベクトル部分は硬いπ中間子

テクニックを用いて評価できます。このプロセスに対する

実験的に測定可能な軸性ベクトルに対するべクトルの比が,

Sに,これが正の値であるという評価を与えました。
 

2の方法は前方光創成を用いることで,に比例するPrimakoff

振幅と前方の強い相互作用振幅の干渉を観測できます。
 

この後者のSの符号は,(,)共鳴:(Δ粒子)の領域のπの

光創成振幅の既知の符号から,有限エネルギー総和則によって

決定できます。
 

そして,その解析結果は再びSが正であることを示唆します。
 

第3の方法は,陽子のCompton散乱の分散関係に,極を支配する 

という論旨を適用することによって導出されるπ0  2γ振幅 

の近似表現:π=-4πα(κp/)(1/N)..(161) 

(154):π(0)(-α/π)(2)(2μ2/π)と比較する

ことから成る方法です。

(※ κpは陽子の異常磁気モーメントです。)
 

(161)はπ0  2γの近似値として崩壊率:

τ-1  2.0.1 eVを与え,近似方法としては,かなり

の精度です。

  
いずれにしろ,またもSが正という評価です。

第4の提唱される方法は陽子のCompton散乱のデータ

を用いて,π交換ピ-スの干渉を測定することを試る方法であり,

この干渉がπに比例して,核子と核子の同種核(アイソトープ)

の交換ピースを伴なっています。
 

この提案の問題は,π中間子の交換ピースがBorn近似の形式: 

tFπ/(2-μ2),ポテンシャル形式:μ2π/(2-μ2)

どちらをとるか?がわからないことです。
 

物理的領域ではt<0 より,この不確かさは符号の曖昧さ

へと誘導し,この方法を,あやふやなものとします。
 

とにかく,前の3つの方法からはSが正であることを

学びました。このことは三元クォークについて,Q=1

電荷:(,Q-1,Q-1)(1,0,0)であることに賛同的で

あることを意味します。
 

(※しかし,カラー三元クオークを考えるなら,Q=2/3

(2/3.1/3.1/3)の方が有力です。)
 

() (154):π(0)(-α/π)(2)(2μ2/π) ,

興味深いモデルのクラスにおける摂動論のあらゆるオーダー

で正しいことを示しましたが,

(150):μ53μ(π/2)π0

+S{α0/(4π)}στρεξστρ.,上記の(154)

が非摂動的効果によって修正される可能性を扱って

はいません。

  
例えば,係数Sは基本場自身を含む三角グラフ同様,

基本場の束縛状態を含む三角グラフによる寄与を受けるべき

ではないのか?それとも,これはダブルカウントになるのか?

という問題です。

  
この疑問に対する答は不明です。我々の解析における可能

な非摂動的修正の無視は,純粋な仮説です。
 

() 今度は,三角アノマリーがomitされるとき,PCACに

よって示唆されるように,如何にしてπ0  2γ 崩壊が禁止

ではないのか?がわかるのか?という,より一般的な疑問に

対する定量的予測により,今の進路から退却してみます。
 

しかし,実験上はπ0  2γ 崩壊が禁止されないという

ことを強く示す1つの興味深い実験的テストが存在します。
 

このことを見るために,終光子の1つがoff-shell(質量殻の外) 

にある,例えば,1,2のうちk120 のケースに禁止の論旨

戻ってみます。
 

「摂動論のアノマリ^(13)」で示したように,軸性ベクトル

5μ(真空 → 2光子)の行列要素:μ, 

μ(41020)-1/2<γ(1,ε1)γ(2,ε2)|5μ|0 

で定義すると,終状態の2光子が共に,on-Shell(質量殻上) 

なら,

  
(106):(1+k2)μμ
 

(3-A6)(12)1ξ2τε1*σε2*ρεξτσρ 

が成立します。

 
しかし,off-shell(質量殻外:120,またはk220)

場合,上式の右辺に次の項(107): 

(224-k125)1ξ2τε1*σε2*ρεξτσρ 

が付け加わります。
 

120のとき<γ(1,ε1)γ(2,ε2)|μj5μ|0>は,

1ξ2τε1*σε2*ρεξτσρ2+βk12)に比例

します。βは1のオーダー「です。
 

(21-1):π02γへの崩壊では,μ2(1+k2)2ですが, 

(106),(107)から,120,220 なら,

(1+k2)μμ 

(3-A6)(12)1ξ2τε1*σε2*ρεξτσρ 

-k125)1ξ2τε1*σε2*ρεξτσρ

=k1ξ2τε1*σε2*ρεξτσρ{(3-A6)(12)-A512} 

(3-A6)1ξ2τε1*σε2*ρεξτσρ 

×[(12){5/(6-A3)}12] です。
 

ところが, 

<γ(1,ε1)γ(2,ε2)|μj5μ|0> ∝ (1+k2)μμ 

であり, (12){5/(6-A3)}12 

(1/2){122(12)+k22}[{5/(6-A3)}1/2]12 

(1/2)(1+k2)2+βk12](1/2)(μ2+βk12) 

と書けます。 ここで,β={5/(6-A3)}1/2

しました。
 

いじょうから,<γ(1,ε1)γ(2,ε2)|μj5μ|0

(μ2+βk12) です。
 

(21-1終わり※)
 

したがって,アノマリーなしのとき,崩壊振幅の光子on-shell

部分は因子μ2によって抑止されますが,光子off-shell部分は

抑止されないことがわかります。
 

※(21-2):崩壊のS行列要素は  

fi∝<γ(1,ε1)γ(2,ε2)|(□+μ2)π0|0 

(41020)-1/21ξ2τε1*σε2*ρεξτσρ

π[(1+k2)2/2] 

(π/2)<γ(1,ε1)γ(2,ε2)|(□+μ2)μj5μ|0 

(41020)-1/21ξ2τε1*σε2*ρεξτσρ(π/2) 

{(1+k2)2+μ2}(1/2)(3-A6)(μ2+βk12)です。
 

もしも,120 on-shellにあれば,, 

π[μ2/2]

{μ2/(2π)}lim(1+k2)2→μ2 {μ2(1+k2)2} 

×{3(12)-A6(12)}  です。 

ただし,{3(12)-A6(12)}(1+k2)2=μ2

に極を持ちます。

  
π[0]0でFπ[μ2/2]=O[μ2]ですから,120  

[βk12]>>O[μ2]なら,この崩壊は禁止されないと

いえます。 

(21-2終わり※)
 

光子off-shell部分の振幅は,π0 → eγ で測定できる

ので,崩壊禁止という論旨は,次のことを予測します。
 

すなわち,このk120 のプロセスのk12依存性は 

{1(β/μ2)12}の形になるだろうということです。

これは,このπの崩壊が禁止されるなら,ρ中間子崩壊なら 

|1(β2/ρ2)12}となり,πの場合はこれよりはるかに

大きい傾きを持つだろうと予測されるわけです。
 

この傾きの最近の測定結果は,1+ak12

(a~(0.01±0.11/μ2)なる行列要素で,β~aμ2  ~ O(1)

に反し,明らかにπ0 2γ禁止に反する強い証拠を示す結果

となっています。
 

したがって.これまで非常に詳細に論じてきた三角アノマリー

ようなメカニズムが,(155):π(0)0によりπ0の崩壊を

禁止するという予測を回避するために,明確に必要であると

いうことが確認されたと考えられます。
 

短かいですが,これで§5.2が終わりなので,今日はここで

終わります。

次回は.§5.3 VVAアノマリー以外のアノマリーの可能性

を探す,Other Ward-Identity Anomalirs(他のWard恒等式の

アノマリー)の項目に入ります。
 

 (参考文献):Lectures on Elementary Particles and Quantum  

Field Theory(1970 Brandeis University SummerInstitute  

in Theoretical Physics) Volume

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