摂動論のアノマリー(21)(第Ⅱ部:4)
摂動論のアノマリーの続きです。
コーヒー・ブレイクなどもあり,少し間が空いて,私自身も
今までの 経過を少し忘れかけているので,前回の
「摂動論のアノマリー(20)」の最後の部分を再掲載する
ことから.始めます。
前回最後の方では,
π0 → 2γ の崩壊行列要素は,
Sfi=(□x+μ2)<γ(k1,ε1)γ(k2,ε2);in|π0r(x)|0>
=i∫d4x(2π)-4exp{i(k1+k2)x}
(2π)-3/2(2q0)-1/2exp(-iqx)
<γ(k1,ε1)γ(k2,ε2)|(□+μ2)qπ0r|0>
で与えられます。
そして.<γ(k1,ε1)γ(k2,ε2)|(□+μ2)π0r|0>
=(4k10k20)-1/2k1ξk2τε1σ*ε2ρ*εξτσρFπ(k1k2)
であったので,式(154b):Fπ(0)
=(-α/π)(2S)(√2μ2/fπ)は,低エネルギーでは
π0 → 2γの振幅が,直接:(150):
∂μJ 53μ=(fπ/√2)π0r+S{α0/(4π)}FξσFτρεξστρ
のアノマリー項に比例することを示しています。
したがって,もしもアノマリー項をゼロとしてomitしたら,
(154b)の代わりに,Fπ(0)=0
(155)が得られると予測されます。
しかし,これは,実験事実に反して,π0 → 2γの崩壊が禁止される
ことを意味します。
ここで.手短かに,(154b)が示唆することのいくつかを論じます。
(ⅰ)(154b)によって予測されるπ0の崩壊実験の崩壊率は,
パラメータSに依存します。
そして,このSは,素Fermi粒子の電荷Qと軸性結合定数gに
よって決まります。(※ S=ΣjgjQj2 です。)
SU(3)のクォークモデルでは,それは中間子の交換によって
相互作用するFermi粒子:(ψ1,ψ2,ψ3)=(p,n,λ)なる基本
3粒子の組から成り,その結合定数は,(g1,g2,g3)
=(1/2,-1/2,0) です。
電磁カレントのU-スピン不変性から,基本粒子:(ψ1,ψ2,ψ3)
の電荷は,(Q,Q-1,Q-1)というパターンを持ちます。
この(Q,Q-1,Q-1)において,主流モデルの分数電荷の
クォークでは,Q=2/3より,
(Q,Q-1,Q-1)=(2/3,-1/3.-1/3) なので
S=ΣjgjQj2=1/6です。
一方, Q=1やQ=0の整数荷電を仮定すると,S=±1/2です。
ここで,π0の崩壊率(=1/崩壊寿命)について次の公式が
あります。すなわち,τ-1=(μ3/64π)|Fπ[μ2/2]|2..(157)
です。
これにおいて,Fπ[μ2/2]をFπ[0]で近似するとπ0崩壊の
崩壊率の近似計算値として,次の値が得られます。
S=1/6なら τ-1=0.8 eV..(158a)
S=±1/2なら τ-1=7.4 eV..(158b) です。
一方,Rosenfeldによって引用されたπ0崩壊の崩壊率の
実験値は,
τexp -1=(1.12±0.22)×1016 sec-1=(7.37±1.5) eV.(159)
です。
(※
現在の最新実験値では,τexp -1=(7.48±0.32)
eV)
また,もしも,最近のPrimakoff効果の実験が,上記のRosenfeld
平均を含む初期の実験よりも信頼できるなら,τexp -1が11eV
になるという結果もあります。
とにかく,この結果からは,S=1/6の分数電荷クォークは強く
排斥され,他方,Q=1やQ=0の整数電荷クォークは実験と
満足のいく一致を見るという結果を得ました。
※(注):現在の実情では,クォークにはフレーバー自由度とは
独立にカラー自由度3があってSU(3)cの対称性を持つこと
がわかっており,これにより,S=(1/6)×3=1/2となるため,
整数電荷の方が過剰で分数電荷の方が有力です。(注終わり※)
予測計算値(158b)と実験値(159)の明白で劇的な一致は,幾分
偶発的なことです。この一致を偶発的と見るのは,逆に,実験
での崩壊率の不確かさと,PCACの論旨に含まれると予想
される10~20%の外挿誤差の存在のためです。
例えば,もしも,(154b):
Fπ(0)=(-α/π)(2S)(√2μ2/fπ)
のfπに実験値を当てる代わりに,
Goldberger-Treimanの関係:
√2μ2/fπ ~ gV/(MNgA)..(160)
(MN:核子Nの質量,gV:πN結合定数 ~ 13.6,
gA:核子軸性ベクトルカレントの結合定数 ~ 1.22)
を代入するならS=±1/2の理論的予測は20%増加して
τ-1 = 9.1 eVとなるからです。
しかし,いずれにしろ,実験結果との比較は,|S|=1/2を示唆
しています。
というところで終わっています。(再掲載終了※)
今回はその続きです。
(ⅱ)π0崩壊の実験値と比較した結果によれば,|S|~1/2ですが
Sの符号は決まっていません。
しかしながら,Sの符号を定めるいくつかの異なる方法が
あります。その全てによる結果は一致しています。
第1の方法は,π+ → e++ν崩壊を調べることです。
この崩壊のベクトル部分はπ0崩壊のFπのアイソスピン
回転と関連付けられ,軸性ベクトル部分は硬いπ中間子
テクニックを用いて評価できます。このプロセスに対する
実験的に測定可能な軸性ベクトルに対するべクトルの比が,
Sに,これが正の値であるという評価を与えました。
第2の方法は前方光創成を用いることで,に比例するPrimakoff
振幅と前方の強い相互作用振幅の干渉を観測できます。
この後者のSの符号は,(3,3)共鳴:(Δ粒子)の領域のπの
光創成振幅の既知の符号から,有限エネルギー総和則によって
決定できます。
そして,その解析結果は再びSが正であることを示唆します。
第3の方法は,陽子のCompton散乱の分散関係に,極を支配する
という論旨を適用することによって導出されるπ0 → 2γ振幅
の近似表現:Fπ=-4πα(κp/gr)(1/MN)..(161)
を(154b):Fπ(0)=(-α/π)(2S)(√2μ2/fπ)と比較する
ことから成る方法です。
(※ κpは陽子の異常磁気モーメントです。)
(161)はπ0 → 2γの近似値として崩壊率:
τ-1 ~ 2.0.1 eVを与え,近似方法としては,かなり
の精度です。
いずれにしろ,またもSが正という評価です。
第4の提唱される方法は陽子のCompton散乱のデータ
を用いて,π交換ピ-スの干渉を測定することを試る方法であり,
この干渉がFπに比例して,核子と核子の同種核(アイソトープ)
の交換ピースを伴なっています。
この提案の問題は,π中間子の交換ピースがBorn近似の形式:
tFπ/(t2-μ2)と,ポテンシャル形式:μ2Fπ/(t2-μ2)
のどちらをとるか?がわからないことです。
物理的領域ではt<0 より,この不確かさは符号の曖昧さ
へと誘導し,この方法を,あやふやなものとします。
とにかく,前の3つの方法からはSが正であることを
学びました。このことは三元クォークについて,Q=1で
電荷:(Q,Q-1,Q-1)が(1,0,0)であることに賛同的で
あることを意味します。
(※しかし,カラー三元クオークを考えるなら,Q=2/3で
(2/3.1/3.-1/3)の方が有力です。)
(ⅲ) (154b):Fπ(0)=(-α/π)(2S)(√2μ2/fπ) は,
興味深いモデルのクラスにおける摂動論のあらゆるオーダー
で正しいことを示しましたが,
(150):∂μJ 53μ=(fπ/√2)π0r
+S{α0/(4π)}FσFτρεξστρ.と,上記の(154b)
が非摂動的効果によって修正される可能性を扱って
はいません。
例えば,係数Sは基本場自身を含む三角グラフ同様,
基本場の束縛状態を含む三角グラフによる寄与を受けるべき
ではないのか?それとも,これはダブルカウントになるのか?
という問題です。
この疑問に対する答は不明です。我々の解析における可能
な非摂動的修正の無視は,純粋な仮説です。
(ⅳ) 今度は,三角アノマリーがomitされるとき,PCACに
よって示唆されるように,如何にしてπ0 → 2γ 崩壊が禁止
ではないのか?がわかるのか?という,より一般的な疑問に
対する定量的予測により,今の進路から退却してみます。
しかし,実験上はπ0 → 2γ 崩壊が禁止されないという
ことを強く示す1つの興味深い実験的テストが存在します。
このことを見るために,終光子の1つがoff-shell(質量殻の外)
にある,例えば,k1,k2のうちk12≠0 のケースに禁止の論旨
に戻ってみます。
「摂動論のアノマリ^(13)」で示したように,軸性ベクトル
j5μの(真空 → 2光子)の行列要素:Mμを,
Mμ=(4k10k20)-1/2<γ(k1,ε1)γ(k2,ε2)|j5μ|0>
で定義すると,終状態の2光子が共に,on-Shell(質量殻上)
なら,
式(106):(k1+k2)μMμ
=(A3-A6)(k1k2)k1ξk2τε1*σε2*ρεξτσρ
が成立します。
しかし,off-shell(質量殻外:k12≠0,またはk22≠0)
の場合,上式の右辺に次の項(107):
(k22A4-k12A5)k1ξk2τε1*σε2*ρεξτσρ
が付け加わります。
k12≠0のとき<γ(k1,ε1)γ(k2,ε2)|∂μj5μ|0>は,
k1ξk2τε1*σε2*ρεξτσρ(μ2+βk12)
します。βは1のオーダー「です。
※(注21-1):π0の2γへの崩壊では,μ2=(k1+k2)2ですが,
(106),(107)から,k12≠0,k22=0
なら,
(k1+k2)μMμ
=(A3-A6)(k1k2)k1ξk2τε1*σε2*ρεξτσρ
-k12A5)k1ξk2τε1*σε2*ρεξτσρ
=k1ξk2τε1*σε2*ρεξτσρ{(A3-A6)(k1k2)-A5k12}
=(A3-A6)k1ξk2τε1*σε2*ρεξτσρ
×[(k1k2)+{A5/(A6-A3)}k12] です。
ところが,
<γ(k1,ε1)γ(k2,ε2)|∂μj5μ|0> ∝ (k1+k2)μMμ
であり, (k1k2)+{A5/(A6-A3)}k12
=(1/2){k12+2(k1k2)+k22}+[{A5/(A6-A3)}―1/2]k12
=(1/2)(k1+k2)2+βk12]=(1/2)(μ2+βk12)
と書けます。 ここで,β={A5/(A6-A3)}―1/2と
しました。
いじょうから,<γ(k1,ε1)γ(k2,ε2)|∂μj5μ|0>
∝ (μ2+βk12) です。
(注21-1終わり※)
したがって,アノマリーなしのとき,崩壊振幅の光子on-shell
部分は因子μ2によって抑止されますが,光子off-shell部分は
抑止されないことがわかります。
※(注21-2):崩壊のS行列要素は
Sfi∝<γ(k1,ε1)γ(k2,ε2)|(□+μ2)π0r|0>
=(4k10k20)-1/2k1ξk2τε1*σε2*ρεξτσρ
Fπ[(k1+k2)2/2]
=(fπ/√2)<γ(k1,ε1)γ(k2,ε2)|(□+μ2)∂μj5μ|0>
=(4k10k20)-1/2k1ξk2τε1*σε2*ρεξτσρ(fπ/√2)
{-(k1+k2)2+μ2}(1/2)(A3-A6)(μ2+βk12)です。
もしも,k12=0 のon-shellにあれば,,
Fπ[μ2/2]
={μ2/(√2fπ)}lim(k1+k2)2→μ2 {μ2-(k1+k2)2}
×{A3(k1k2)-A6(k1k2)} です。
ただし,{A3(k1k2)-A6(k1k2)}は(k1+k2)2=μ2
に極を持ちます。
Fπ[0]=0でFπ[μ2/2]=O[μ2]ですから,k12≠0
で
O[βk12]>>O[μ2]なら,この崩壊は禁止されないと
いえます。
(注21-2終わり※)
光子off-shell部分の振幅は,π0 → e+e-γ で測定できる
ので,崩壊禁止という論旨は,次のことを予測します。
すなわち,このk12≠0 のプロセスのk12依存性は
{1+(β/μ2)k12}の形になるだろうということです。
これは,このπの崩壊が禁止されるなら,ρ中間子崩壊なら
|1+(β2/mρ2)k12}となり,πの場合はこれよりはるかに
大きい傾きを持つだろうと予測されるわけです。
この傾きの最近の測定結果は,1+ak12
(a~(0.01±0.11/μ2)なる行列要素で,β~aμ2 ~ O(1)
に反し,明らかにπ0 → 2γ禁止に反する強い証拠を示す結果
となっています。
したがって.これまで非常に詳細に論じてきた三角アノマリー
のようなメカニズムが,(155):Fπ(0)=0によりπ0の崩壊を
禁止するという予測を回避するために,明確に必要であると
いうことが確認されたと考えられます。
短かいですが,これで§5.2が終わりなので,今日はここで
終わります。
次回は.§5.3 のVVAアノマリー以外のアノマリーの可能性
を探す,Other Ward-Identity Anomalirs(他のWard恒等式の
アノマリー)の項目に入ります。
(参考文献):Lectures on Elementary Particles and Quantum
Field Theory(1970 Brandeis University SummerInstitute
in Theoretical Physics) VolumeⅠ
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