場の量子論第Ⅱ部(12)(空間反転;パリティ2)
パリティの続きです。
ここまでは,(擬)スカラー場の自由粒子(自由場)限定の論議でした
が,相互作用がある一般の系についても,
PL(x,t)P-1=L(-x,t),および,
Pjμ(x,t)P-1=jμ(-x,t)を見たし,生準交換関係を不変
に保つパリティ演算子Pを同様にして作ることができます。
そのときには,上記関係が依然として正しく,そこで,P が理論
の対称性演算子として系のHamiltonian :H^と交換する。,
つまり,[P,H^]=0 であって,運動の恒量となるかどうか?を
チェックする必要があります。
すなわち,一般に,PL(x,t)P-1=L(-x,t),および,
Pjμ(x,t)P-1=jμ(-x,t)を満たすPをつくるために,
最初,t=0 で,これを満たす,P=P0 をつくります。
t=0 での相互作用する場を自由場(自由波)の完全系によって
展開すると,その展開係数は自由場と同じ交換代数を満たすので
Pは先の自由場の解と同じ形で得られます。
時刻tでのPを得るためには,時間的に平行移動するため,系の
Hamiltonian:H^を用いればいいです。
すなわち,まず,P0は,P0L(x,0)P0-1=L(-x,0),
P0jμ(x,0)P0-1=jμ(-x,0)を満たし,交換関係を不変に
保ちます。
このとき,P(t)=exp(iH^t)P0 exp(-iH^t)は,一般の
時刻tで,条件:PL(x,t)P-1=L(-x,t),および,
Pjμ(x,t)P-1=jμ(-x,t)を満たし交換関係を不変に
保ちます。
※(注12-1):何故なら,
φ(x,t)=exp(iH^t)φ(x,0) exp(-iH^t) より,
Pφ(x,t)P-1=exp(iH^t)P0φ(x,0)P0-1 exp(-iH^t)
=±exp(iH^t)φ(-x,0) exp(-iH^t)=±φ(-x,t)
つまり,Pφ(x,t)P-1=±φ(-x,t)となるからです。
(注12-1終わり※)
もしも,Pが,対称性演算子で,条件:[P,H^]=0 を満たすなら
P(t)=P(0)=P0 です。
※(注12-2);[P,H^]=exp(iH^t)[P0,H^]exp(-iH^t)=0
なら.[P0,H^]=0 であり,P(t)=P0です。
(注12-2終わり※)
次はDiracスピノル場に移ります。
Diracスピノル場については,条件:
PL(x,t)P-1=L(-x,t),および,
Pjμ(x,t)P-1=jμ(-x,t)を満たし,交換関係を不変
に保つPとしてはPψ(x,t)P-1=γ0ψ(ーx,t)を満たす
ものを選択できれば満足されます。,
まず,Dirac方程式:(iγμ∂μ-m)ψ(x)=0 が,
ψ'(x,t)=γ0ψ(-x,t)に対して不変であることは
既に,Bjorken-DrellのMechanicsのテキスト第2章で詳しく
述べられていることからの帰結です。
※(注12-3):本ブログでは,上記のMehanicsのg第2章の対応
部分は,2010年5/30の過去記事:「散乱の伝播関数の理論(8)」
です。ここから必要部分を再掲載します。
変換が,proper(連続変換)であれimproper(不連続変換)であれ,
Lorentz変換:x'μ=aμνxν,または,略記法でx'=axに
伴なう波動関数のLorentz変換:
ψ'α(x’)=ψ'α(ax)=Sαβ(a)ψβ(x),または.略記法で,
ψ'(x')=ψ'(ax)=S(a)ψ(x)を考えます。
(※ det(a)=+1のときが,proper変換で,det(a)=-1のときが
improper変換です。※)
すると,x'=axから逆変換a-1対して,x=a-1x'ですから,
ψ'(x')=S(a)ψ(a-1x'),つまりψ'(x)=S(a)ψ(a-1x)
です。
一方,ψ(x)=S(a-1)ψ'(ax),ψ(x)=S-1(a)ψ'(ax)より,
S(a-1) =S-1(a)なる関係が成立します。
また, ,∂/∂xμ=(∂x'ν/∂xμ)(∂/∂x'ν) です。
よってx'ν=aνμxμより,∂μ=aνμ∂'νです。
そこで,Dirac方程式(iγμ∂μ-m)ψ(x)=0 にx=a-1x',
およびψ(x)=S-1(a)ψ'(x')を代入して左からS(a)を
掛けると,[iS(a)γμS-1(a)aνμ∂'ν-m]ψ'(x')=0
を得ます。
それ故,aνμS(a)γμS-1(a)=γν,または,
aνμγμ=S-1(a)γνS(a)が成立すれば,
(iγν∂' ν-m)ψ(x')=0 となって方程式が相対論的に共変
になります。 (再掲載終了)
さて,aが空間反転を意味するなら,
x'μ=aμνxν=(x0,-x)=xμ=gμνxνより,
aμν=gμνです。そこで,条件;aνμS(a)γμS-1(a)=γν
においてaνμ=gνμより,S(a)=γ0はとすれば,確かに,
aνμS(a)γμS-1(a)=gνμ=gνμγ0γμγ0=γνが成立
します。
それ故,ψ'(-x,t)=γ0ψ(x,t) ,または,
ψ'(x,t)=γ0ψ(-x,t)とすれば,
(iγμ∂ μ-m)ψ'(x)=0 が満たされます。
(注12-3終わり※)
※(注12-4):自由Dirac粒子のLagrangian密度は,
L(x,t)=ψ~(x,t)(iγμ∂ μ-m)ψ(x,t)です。
そこで,Pψ(x,t)P-1=γ0ψ(-x,t)なら.
PL(x,t)P-1=ψ+(-x,t)(iγμ∂ μ-m)γ0ψ(-x,t)
=ψ~(-x,t)(iγ0γμγ0∂ μ-m)ψ(-x,t)
=ψ~(-x,t)(iγμ∂ μ-m)ψ(-x,t)=L(-x,t)です。
また,jμ(x,t)=ψ~(x,t)γμψ(x,t)より,
Pjμ(x,t)P-1=ψ+(-x,t)γμγ0ψ(-x,t)
=ψ~(-x,t)γ0γμγ0ψ(-x,t)
=ψ~(-x,t)γμψ(-x,t)=jμ(-x,t)
です。
さらに,共役運動量が,πα(x)=∂L/∂(∂0ψα)=iψ+α(x)となる
ことから,同時刻反交換関係:
{ψα(x,t),πβ(y,t)}=iδαβδ3(x-y)
は{ψα(x,t),ψ+β(y,t)}=δαβδ3(x-y)ですが,
Pを作用させると,{Pψα(x,t)P-1,Pψ+β(y,t)P-1 }
={(γ0)αμψμ(-x,t),ψ+ν(-y,t)(γ0)νβ}
=(γ0)2αβδ3(y-x)=δαβδ3(x-y) となって,交換関係
も保存されます。 (注12-4終わり※)
Dirac場に対してPを陽に作るには,再び,直接,運動量展開の
展開係数に対する作用を考えるのが便利です。
ψ(x,t)=∫d3p(2π)-3/2(m/Ep)1/2
Σ±s[b^(p,s)u(p,s)exp{-i(Ept-px)}
+d^+(p,s)v(p,s)exp{i(Ept-px)}]なる展開
にPを作用させると,
Pψ(x,t)P-1=∫d3p(2π)-3/2(m/Ep)1/2
Σ±s[Pb^(p,s)P-1u(p,s)exp{-i(Ept-px)}
+Pd^+(p,s)P-1v(p,s)exp{i(Ept-px)}]
です。
他方,γ0ψ(-x,t)=∫d3p(2π)-3/2(m/Ep)1/2
Σ±s[b^(p,s)γ0u(p,s)exp{-i(Ept+px)}
+d^+(p,s)γ0v(p,s)exp{i(Ept+px)}]
=∫d3p(2π)-3/2(m/Ep)1/2
Σ±s[b^(-p,s)γ0u(-p,s)exp{-i(Ept-px)}
+d^+(-p,s)γ0v(-p,s)exp{i(Ept-px)}]
ですが, γ0u(-p,s)=u(p,s),
γ0v(-p,s)=―v(p,s) です。
それ故,Pψ(x,t)P-1=γ0ψ(-xt)となることは,
Pb^(p,s)P-1=b^(-p,s),Pd^+(p,s)P-1
=-d^+(-p,s)を意味します。
Pのユニタリ性から.Pb^+(p,s)P-1=b^+(-p,s)
Pd^(p,s)P-1=-d^(-p,s)も得られます。
b^+は真空に作用して,1つの電子,または重粒子(baryon)を
生成し,d^+は,陽電子,または,反重粒子を生成するので,
例えば,1つの電子は同じ軌道状態にある1つの陽電子と反対
のパリティを持つことがわかります。
実は.Pの変換則として仮定したPψ(x,t)P-1=γ0ψ(-x,t)
は,φ0を任意の実数として,Pψ(x,t)P-1=exo(iφ0)γ0ψ(-x,t)
なる位相因子:exo(iφ0)を付加しても.ここまでの論議は成立します。
この位相の任意選択の下で,電子状態:b^+(p,s)|0>は,空間反転
の下でスカラーとして変換し,陽電子状態:d^+(p,s)|0>は
擬スカラーとして変換します。
相対的にs状態(l=0)にある電子-陽電子対(Positronium)は,
位相に無関係に奇(-)のパリティを持ちます。
同様に相対的にs状態にある重粒子-反重粒子対のパリティは
Pが[P,H^]=0 を満たす,対称操作となるような理論を扱う
ときには,やはり,奇(-)です。
すなわち,P∫d3p{f(p2)b^+(p,s)d^+(p,s)|0>}
=-∫d3p{f(p2)b^+(p,s)d^+(p,s)|0>}です。
Dirac場に対してPの陽な形を得るためには,スカラー場に対して
やったのと同じ手順を実行すればいいです。
Dirac場のPをPDiracとするとき,PDirac=exp(iP^Dirac)
と置いて,P^Dirac=(-π/2)∫d3p
{b^+(p,s)b^(p,s)-b^+(p,s)b^(-p,s)
+d^+(p,s)d^(p,s)-d^+(p,s)d^(-p,s)}
が得られます。
※(注12-5):つまり,P=PDiracは,PDirac=exp(iP^Dirac)と置いて,
[P^Dirac,b^(p,s)]=(λ/2){b^(p,s)±b^(-p,s)}を仮定,
PDirac,b^(p,s)P-1Dirac=b^(p,s)
-(1/2)[b^(p,s)±b^(-p,s)}
+(1/2)exp(iλ){ b^(p,s)±b^(-p,s)}=b^(-p,s)
なのでλ=-πとして,PDirac=exp(iP^Dirac)=-1で
[P^Dirac,b^(p,s)]=(-π/2){b^(p,s)-b^(-p,s)}
なら,恒等式になります。
同様に,[P^Dirac,d^+(p,s)]
=(π/2){d^+(p,s)+d^+(-p,s)}なら,
PDirac,d^+(p,s)P-1Dirac=d^+(p,s)
-(1/2)[d^+(p,s)+d^+(-p,s)}
-(1/2){d^+(p,s)+d^+(-p,s)}
=-d^+(-p,s)が恒等式になります。
これらは,P^Dirac=(-π/2)∫d3p
{b^+(p,s)b^(p,s)-b^+(p,s)b^(-p,s)
+d^+(p,s)d^(p,s)-d^+(p,s)d^(-p,s)}
であれば満たされます。
(注12-5終わり※)
パリテイ操作の中にγ0が出現するための1つの影響はψ~γ5ψ
が擬スカラーになることです。
すなわち,Pψ~(x,t)γ5ψ(x,t)P-1
=ψ+(-x,t)γ5γ0ψ(-x,t)=-ψ~(-x,t)γ5ψ(-x,t)
あるいは,
Pψ~(-x,t)γ5ψ(-x,t)P-1=-ψ~(x,t)γ5ψ(x,t)です。
これは中間子-核子相互作用では重要です。
例えば,モデルLagurangian:
L=Ψ~(iγμ∂μ-Mp)Ψ+(1/2)(∂μφ∂μφ)-μ2φ・φ)
-ig0Ψτγ5Ψ・φ (ただし,Ψ=[ψp,ψn]T,φ=[φ1,φ2,φ3])
は,実験で要求されるように中間子に対して擬スカラー操作を
選択すると,そのときに限り,結合されたパリティ演算子:
P=PpPnPπ+Pπ0Pπ-の下で,PL(x,t)P-1=L(-x,t)
が満足されます。
最後に電磁場の内部パリティは対応論から決定されます。
なぜならそれは古典論を連想させるからです。
それ故,光子について,PA(x,t)P-1=-A(-x,t)です。
これはMaxwell Lagrangianを不変に保ちます。
これはKlein-Gordon場に対して取られた方法をまねれば
得られます。
結局,光子はベクトル粒子なのでパリティは奇(-)です。
これでパリティの項目は終了です。
次は荷電共役(粒子-反粒子対称性)の項目に移る予定です。
(参考文献:J.D.Bjorken & S.D.Drell 著
"Relativistic Quantum Fields" (McGrawHill)
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