場の量子論第Ⅱ部(14)(荷電共役2)
場の量子論第Ⅱ部:不連続変換,荷電共役の続きです。
予定通りDiracスピノル場の考察に入ります。
Dirac粒子に対する荷電共役の1つの議論は,既にB-Jの
Mechanicsのテキスト第5章で与えました。
※(注14-1):B-JのMechanicsのテキスト第5章はHple-theory
(空孔英論)ですが,本ブログでは2011年12/20の過去記事:
「Diracの空孔理論(2)(荷電共役)」の内容がそれに相当します。
ここから必要部分を抜粋して再掲します。
※再掲開始:
Dirac方程式 (i∂-eA-m)ψ=0 の負エネルギー解と
正エネルギー陽電子の固有状態関数は1対1に対応するはずです。
(※ i∂=iγμ∂μ=iγμ(∂/∂xμ),A=γμAμ です。)
電子の非存在=空孔が陽電子の存在である,という解釈によって,
観測される陽電子の波動関数:ψcは正の電荷:-eを持つだけが
異なる電子と同じ波動方程式.を満たすはずなので,
(i∂+eA-m)ψc=0 の正エネルギー解:ψcで与えられます。
そして,一方が粒子で他方が反粒子と決めつける必要性はなく,
互いに粒子-反粒子の対称的関係にあると考えます。
そこで,2つの方程式や,その解を互いに変換させる演算子を作る
ことができるのでは?という発想が導かれます。
そのためには,2つの演算子;i∂とAの間の相対符号を変化させる
ことが必要ですが,これは複素共役を取ることで可能です。
すなわち,{i(∂/∂xμ)}*=-(∂/∂xμ),Aμ*=Aμ より,
(i∂-eA-m)ψ=0 or {γμ(i∂μ-eAμ)ーm}ψ=0 です
から,{(i∂μ+eAμ)γμ*+m}ψ*=0 が得られます。
それ故,もしも(Cγ0)γμ*(Cγ0)-1=-γμという代数関係
を満たす4×4の正則行列:Cγ0を見出すことができれば,
{(i∂μ+eAμ)(Cγ0)γμ*(Cγ0)-1+m}(Cγ0ψ*)=0 ,
つまり,{(i∂μ+eAμ)γμ-m}(Cγ0ψ*)=0
が得られます。
そこで,ψc=Cγ0ψ*=Cψ~Tとおけば,上の方程式は
{(i∂μ+eAμ)γμ-m}ψc=0 と書けます。
これは陽電子の波動関数が満たす方程式に他なりません。
そして,こうした行列:Cが確かに存在することは,これを
陽に作ることで証明されます。
テキストで使っているガンマ行列の表示では,γ0γμ*γ0=(γμ)T
なので,(Cγ0)γμ*(Cγ0)-1=-γμは,C tγμC-1=-γμ,
または.C-1γμC=-(γμ)Tとなります。
この表示ではCγ1C-1=γ1,Cγ2C-1=-γ2,Cγ3C-1=γ3,
Cγ0C-1=-γ0,つまり.Cγ1=γ1C,Cγ3=γ3C,Cγ2=-γ2C,
Cγ0=-γ0Cですから,例えば係数を虚数iとして,C=iγ2γ0と
とれば,条件は満たされ,C=-C-1=-C+=-CTです。
これは,このガンマ行列の表示をも含む任意の表示で,常に
(Cγ0)γμ*(Cγ0)-1=-γμを満たすCを構成できることを示す
には十分です。
※以上,参考の再掲終了 (注14-1終わり※)
Dirac方程式は,スピノル:ψ(x)の次のような置き換え,の下
で不変です。すなわち,ψ(x)→ Cψ~(x)Tで=Cγ0ψ*(x)
です。ただし,Cは4×4行列で.CγμC-1=-(γμ)T or
Cαβ(γμ)βλ(C-1)λρ=-(γμ)ρα を満たす性質を
持っています。
(γ0)T=γ0.(γ2)T=γ2を満たす参考テキストの表示では,
C=iγ2γ0と選択すればCγμC-1=-(γμ)Tが満たされ,
このとき,C=iγ2γ0=-C-1=-C+=-CT です。
場理論では.量子力学での波動関数の荷電共役:
ψ(x)→ Cψ~(x)Tに相当する場のユニタリ変換をさせる
演算子:Cを求めます。
すなわち,
Cψα(x)C-1=Cαβψ~β(x)=(Cγ0) αβψ+β(x)なる
ユニタリ変換です。
このとき,Cψ~α(x)C-1=-ψβ(x)(C-1)βα となります。
(※つまり,Cψ(x)C-1=Cψ~T(x)),Cψ~(x)C-1
=-{ψ(x)C-1}Tです。)
※(注14-2):Cψ~α(x)C-1=-ψβ(x)(C-1)βα から
ψ~α(x)=
-{C+ψβ(x)C }(C-1)βα を得ます。
故に,ψ~α(x)Cαλ=-{C+ψβ(x)C }δβλ
=-C+ψλ(x)C です。
そこで, C=iγ2γ0=-CT によって,
Cβαψ~α(x)=C+ψβ(x)C or Cψ~T=C+ψC
同様に,
-ψβ(x)(C-1)βα=C+ψ~α(x)C or ψTC-1=-C+ψ~C
したがって,Cψα(x)C-1=Cαβψ~β(x)は,行列要素
として,<α|C+ψC|β>=C<α|ψ~T|β>を意味する
ため,Mechanicsのψ(x)→ Cψ~(x)Tに同等なので,Cは
荷電共役変換のユニタリ演算子として無矛盾です。
(注14-2終わり※)
Cの変換の下でDirac方程式だけでなく同時刻の正準反交換関係
も不変なることは容易に示され,L(x)=:ψ~(x)(i∂-m)ψ(x)
は,作用積分では消える非本質的な発散項だけ変化するのみです。
※(注14-3);反交換関係については.Cがユニタリなので変換で不変な
ことは自明です。また,CL(x)C-1-L(x)
=:C{ψ~(x)(i∂-m)|ψ(x)}C-1:-:ψ~(x)(i∂-m)ψ(x)
=-:ψβ(x)(C-1)βα(iγμαβ∂μ-m)Cαλψ~λ(x):
-:ψ~(x)(iγμ∂μ-m)ψ(x):です。
これから,結局,
CL(x)C-1-L(x)=iγμαβ∂μ:ψ~α(x)ψβ(x):
が得られ,∫d4x{CL(x)C-1-L(x)}=0 です。
(注14-3終わり※)
次に,ψ~(x)γμψ(x)にCを作用させます。
Cψ~(x)γμψ(x)C-1=-ψβ(x)(C-1)βαγμαβCαλψ~λ(x)
=―ψ~α(x)γμαβψβ(x)=-ψ~(x)γμψ(x) です。
ここで,単純にψ~(x)γμψ(x)をカレント:jμ(x)であるとすると
真空期待値が無限大になる零点振動の困難が生じるため正規順序を
取るのと同等な意味で.jμ(x)=(1/2)[ψ~(x),γμψ(x)]
=(1/2)[ψ~(x)γμψ(x)-{γμψ(x)}αβψ~β(x)]
と定義します。
これについても明らかに,Cjμ(x)C-1=-jμ(x)が得られ,
荷電共役に対して電磁カレントが奇(-)であることがわかります。
さらに真空:|0>が縮退していないなら,それはCの偶(+)な固有状態
であり<0|jμ(x)|0>=-<0|jμ(x)|0>より<0|jμ(x)|0>=0
を得ます。
Dirac場についてCを具体的に作るため,運動量空間に移行して
「空孔理論」で論じた電子-陽電子スピノルの性質を用います。
(Cγ0)αβu+β(p,s)=vα(p,s)exp{iφ(p,s)},
(Cγ0)αβv+β(p,s)=uα(p,s)exp{iφ(p,s)} です。
一方,場の運動量空間での展開は,
ψα(x)=Σ±s∫d3p(m/Ep)1/2{b^(p,s)uα(p,s)exp(-ipx)
+d^+(p,s)vα(p,s)exp(ipx)},
ψ~α(x)=Σ±s∫d3p(m/Ep)1/2{b^+(p,s)u~α(p,s)exp(ipx)
+d^(p,s)v~α(p,s)exp(-ipx)} です。
これらとCψα(x)C-1=Cαβψ~β(x),
Cψ~α(x)C-1=-ψβ(x)(C-1)βα から,
Cb^(p,s)C-1=d^(p,s)exp{iφ(p,s)}
Cd^+(p,s)C-1=b^+(p,s)exp{iφ(p,s)}を得ます。
このことは荷電共役変換が定義に一致して粒子と反粒子の相互交換
を引き起こすことを示しています。
ここで,Cを陽に表わすために前と同様な道筋に従います。
まず,Cを2つのユニタリ変換の積に分解します。
すなわち,C=C2C1です。
そして,C1は位相因子:φを除くように選びます。
つまり,
C1b^(p,s)C1-1=exp{iφ(p,s)}b^(p,s),
C1d^+(p,s)C1-1=exp{iφ(p,s)}d^+(p,s), および,
C2b^(p,s)C2-1=d^(p,s),
C2d^+(p,s)C2-1=b^+(p,s) です。
C1=exp(iC1^)とし,C1^|0>=0となる正規順序で,
[C1^,b^(p,s)]=φ(p,s)}b^(p,s)
[C1^,d^+(p,s)]=φ(p,s)}d^+(p,s)を満たすものを
つくると,C1^=-∫d3pΣ±sφ(p,s)
×{b^+(p,s)b^(p,s)-d^+(p,s)d~(p,s)} です。
結局,C1=exp[-i∫d3p(Σ±sφ(p,s)
×{b^+(p,s)b^(p,s)-d^+(p,s)d~(p,s)})です。
一方,C2=exp(iC2^)とおけば,
[C2^,b^(p,s)]=(π/2){b^(p,s)-d^(p,s)},
[C2^,d^+(p,s)]=(π/2){d^+(p,s)-b^+(p,s)}から,
C2^=exp[iπ/2∫d3pΣ±s{d^+(p,s)-b^+(p,s)}
{b^(p,s)-d^(p,s)}]を得ます。
こうして,C=C2C1の陽な形が得られました。
Cが運動の恒量でないケースには,これまでと同じく.t=0で
同じ形の自由場のC=C0をつくり,一般のtの荷電共役演算子
としては,C(t)=exp(iH^t)C0exp(-iH^t)によって.
C=C(t)を作ります。
さて,C変換がLagrangian密度:Lの中に現われる全ての粒子場
に対して同時的に適用されるとき強い相互作用のLagrangian模型
に従うπ中間子-核子相互作用をLの中に導入しても荷電共役不変性
を壊すことはありません。
また,電磁相互作用に対してもこの不変性は保持されます。
選択則の予言に荷電共役を適用するという興味深い例といて
ポジトロニウムの崩壊を考えます。中性K中間子:K0に対して
用いたのと同じ方法で偶または奇のCのポジトロニウム固有状態
をつくることができます。
ポジトロニウム状態をつくるために,まず,真空から自由な電子-陽電子
対をつくり,それから異なるスピン-運動量を持つ状態を重ね合わせて,
与えられた角運動量を持つ初期ポジトロニウム状態を表現します。
すなわち,Ψe+e-=∫d3pd3p'Σs,s'F(p,s;p',s')
b^+(p,s)d^+(p',s')|0> とします。
これは電磁相互作用が存在するときには正しい状態ではないですが,
電磁相互作用のCの下での不変性から,真の状態と同じ対称性の性質
を持つはずです。
そこでCの下で偶の状態に相応するようにするには,どのような
振幅:F(p,s;p',s')をとればよいか?ということを考える必要
があるだけです。
そうした偶のポジトロニウム状態は2つの光子に崩壊することが
観測されています。
そして,奇の状態に対応するものは3つの光子に崩壊しますが,
こうした状態をつくるために,上記のΨe+e-にCを適用すると,
b^+とd^+の反交換代数により,
CΨe+e-=∫d3pd3p'Σs,s'F(p,s;p',s')
d^+(p,s)b^+(p',s')|0>
=-∫d3pd3p'Σs,s'F(p',s';p,s)
b^+(p,s)d^+(p',s')|0> です。
ここで,本質的でない位相:φ(p,s)はomitしました。
明らかに,電子と陽電子の交換に対して偶な状態.
つまり.F(p,s;p',s’)=F(p',s';p,s)に対しては,
Ψe+e-はCの下で奇であり,他方,
F(p,s;p',s')=-F(p',s';p,s)に対しては,
Ψe+e-はCの下で偶です。
このことから,ポジトロニウムの3S1の3重項状態は3つの光子を
放出して,崩壊し,31S0の1重項状態は2つの光子に崩壊することが
わかります。
Fermionの対に反して,Bose粒子と反Bose粒子の交換対称状態は,
Cの下でも偶ですが,これは反交換関係に由来する(-)符号が
ないからです。
一般的規則として粒子-反粒子対の荷電共役の下での固有値は,
そうした粒子対が2つの同等な粒子に対して許されている状態
にあるなら+1です。,さもなければ逆です。
さて,短いですがここで荷電共役については終わりなので
今回はここで終わります。
次回は,Time-riversal(時間反転)に移る予定です。
(参考文献:J.D.Bjorken S.D.Drell
“Relativistic Quantum Fields”(McGrawHill)
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