対称性の自発的破れと南部-Goldostone粒子(10)
「ゲージ場の量子論」(対称性の自発的破れ)の続きです。
§6.4 非線形表現の続きです。
前回は,非線型表現のLagrangianにおいて基本的役割を
果たす量は,ξ(π)∈G/Hから作られる次の1形式
(1次微分形式)です。
すなわち,α(π)=(-i)ξ(π)-1dξ(π),または,もっと
陽に成分で,α=αμdxμ,dξ=∂μξdxμ として,
αμ(π)=(-i)ξ(π)-1∂μξ(π)です。
(※これは,数学ではマウレ-・カルタン形式
(Maurer-Cartan
form)と呼ばれます。)
と書いて終わりました。
ここからは今回の記事です。
まず,α(π)は,群:GのLie代数:Gに属するので,その基底:
{TA}={Sα∈H,Xa∈(G-H)}で展開できます。
※(注10-1):α(π)=(-i)ξ(π)-1dξ(π),ξ(π)=exp(iπ),
故に,詳細は後述しますが,α(π)=exp(-iπ)dπexp(iπ)
=dπ+(-i)(1/2!)[π,dπ]
+(-i)2(1/3!)[π,[π,dπ]]+..であり,
右辺∈G=H∪(G-H)です。
(注10-1終わり※)
そこで,α(π)をHに属する成分:α//と(G-H)に属する
成分:α⊥に分けて,それぞれを,Hに平行な成分, Hに直交
する成分と呼びます。
αμ(π)=α//μ(π)+α⊥μ(π)
α//μ(π)=α//αμSα=2Tr[Sααμ(π)]Sα ∈H
α⊥μ(π)=α⊥aμXa= 2Tr[Xaαμ(π)]Xa ∈(G-H)
Maurer-Cartan形式:αμ(π)のg∈Gによる変換は,
ξ(π)の変換則から,αμ(π) → αμ(π')
=h(π,g)αμ(π)h-1(π,g)
+(-i)h(π,g)∂μh-1(π,g) となります。
(※gは時空座標xには依らない大局的変換です、
よって∂μg=0 です。※)
※(注10-2):何故なら
ξ(π) → ξ(π')=gξ(π)h-1(π,g) なので,
(-i)ξ(π)-1∂μξ(π) → ξ(π')∂μξ(π)
=(-i)h(π,g)ξ(π)-1g-1∂μ{gξ(π)h-1(π,g) (π)}
=(-i)h-1(π,g)ξ(π)-1∂μξ(π)∂μξ(π)h(π,g)
+(-i)h(π,g)∂μh-1(π,g)
(注10-2終わり※)
そして,非斉次項: h∂μh-1はHに属するので,
α//μ(π) → α//μ(π')
=h(π,g)α//μ(π)h-1(π,g)
+(-i)h(π,g)∂μh-1(π,g)
α⊥μ(π) → α/⊥μ(π')
=h(π,g)α/⊥μ(π)h-1(π,g) です。
すなわち,直交成分:α⊥μ(π)だけが斉次変換します。
(G-H)の基底である破れた生成子:{Xa}は先述したように,
一般にHの可約な表現により,表現空間:(G-H)の基底は
{Xa}={Xa1}+|Xa2}+..+|Xan}と既約分解されます。
そのため,(G-H)に属するαμ(π)の直交成分:α⊥μ(π)は
n個の既約成分に分割されます。
α⊥μ(i)(π)=α⊥μai)(π)Xai=2Tr[Xaiαμ(π)]Xai
(i=1,2,..,n) です。ここで,慣例通り,簡単のため省略した
Σaiの添字aiは,既約セクター:{Xai}の上のみを走る和を
意味します。
分解された既約成分:α⊥μ(i)(π)は,各々独立に変換されて,
α⊥μ(i)(π)→ α/⊥μ(i)(π')=h(π,g)α/⊥μ(i(π)h-1(π,g)
または, α/⊥μai(π')=ρ(i)aibi(h(π,g))α⊥μbiπ)
と変換します。
したがって,NGボソン場のみから作られる,微分次数が
最低次(2次)のG-不変な最も一般的なLagrangian密度は,
L=Σi=1nfi2Tr[{α⊥μ(i(π))2]
で与えられることがわかります。
よって,(G-H)のH-既約成分の数:nだけの任意定数
fi2を含みます。
この任意定数:fiは次元が+1の量であることがわかります。
この定数:fiは先に定義したNGボソンの崩壊定数(結合定数):
fπのことで,i番目のH-既約セクターのNGボソン:πai(x)に
対応するものなのでfπ(i)とでも書くべき量です。
このことを見るために,まず,Maurer-Cartan形式:αμ(π)を
π(x)=πa(x)Xaで陽に表わすべく,次の式に注意します。
αμ(π)=(-i)exp(iπ)∂μ{exp(iπ)}
=∂μπ+(-i/2!)[π,∂μπ]
+{(-i)2/3!}[π,[π, ∂μπ]]+..
※(注10-3): exp(-iπ)[exp{i(π+Δπ)-exp(iπ)]/Δxμ
=[exp(-iπ)exp{i(π+Δπ)}-1]/Δxμです。
ここで,F(x)=exp(xA)exp(xB)とおくと,
dF/dx=Aexp(xA)exp(xB)+exp(xA)Bexp(xB)
={A+exp(xA)Bexp(-xA)}F(x)
={A+B+(1/2!)[A,B]x+(1/3!)[A,[A,B]]x2..}F(x)
です。F(0)=1より積分してx=1と置くと,
F(1)=exp(A)exp(B)
=exp|A+B+(1/2!)[A,B]+(1/3!)[A,[A,B]]+..}
です。
故にexp(-iπ)exp{i(π+Δπ)}
=exp|iΔπ+(1/2!)[π,Δπ]+(-i)(1/3!)[π,[π,Δπ]]+..}
limΔx→0([exp(-iπ)exp{i(π+Δπ)}-1]/Δxμ)
=i∂μπ+(1/2!)[π,∂μπ]+(-i)(1/3!)[π,[π,∂μπ]]+.
が得られます。
ここで,2006年10/23の本ブログの過去記事:
「量子力学の交換関係の問題(その2)」を参照しました。
これは短いので全文を再掲載・引用します。
(※以下は再掲載記事です。)
今回も量子力学の交換関係の問題を解きます。
「線形演算子:A,Bが,[A,[A,B]]=0 ,または,
[B,[A,B]]=0 を満足するとき,
expAexpB=exp(A+B+[A,B]/2)
が成立することを証明せよ。」という問題です。
続いて解答です。 [A,[A,B]]=0 と仮定し,関数f(x)を
f(x)=exp(xA)exp(xB)で定義します。
このとき,もちろんf(0)=1です。
f(x)をxで微分すると,
df/dx=Aexp(xA)exp(xB)+exp(xA)Bexp(xB)
={A+exp(xA)Bexp(-xA)}f(x)
と書くことができます。
そこで,今度はg(x)=exp(xA)Bexp(-xA)という
関数:g(x)を考えます。
すると,まずg(0)=B です。次にxで微分すると
dg/dx=exp(xA)[A,B]exp(-xA)ですから,
x=0 とおいて,g'(0)=[A,B]です。
さらに微分すると,
d2g/dx2=exp(xA)[A,[A,B]] exp(-xA)
より,g"(0)=[A,[A,B]] を得ます。
結局,帰納的に考えると,
g(x)=exp(xA)Bexp(-xA)は,
g(x)=B+[A,B]x+[A,[A,B]]x2/2!
+[A,[A,[A,B]]]x3/3!+..とMaclaurin展開される
ことになります。
そして,特にx=1とおくと,
g(1)=expA・Bexp(-A) =B+[A,B]+[A,[A,B]]/2!
+[A,[A,[A,B]]]/3!+.. が成立します。
しかし,問題の解答としては,これは余談です。
ところで,仮定より[A,[A,B]]=0ですから,
この場合にはg(x)=exp(xA)Bexp(-xA)
=B+[A,B]xとなります。
したがって,df/dx={A+B+[A,B]x}f(x) です。
f(0)=1という条件下でこの線形微分方程式を解くと,
解は一意的でf(x)=exp{(A+B)x+[A,B]x2/2)
となります。
これにx=1を代入すると,
f(1)=expAexpB=exp(A+B+[A,B]/2)
が得られます。
一方,[B,[A,B]]=0 のときは,
df/dx=exp(xA)Aexp(xB)+exp(xA)exp(xB)B
=f(x){exp(-xB)Aexp(xB)+B}
と書けます。
そして,[B,[A,B]]=0 なら{exp(-xB)Aexp(xB)
=A+[A,B]xなので,
df/dx=f(x){A+B+[A,B]x}となり,
同様にして同じ結果が得られます。(再掲載終了※)
ここで問題としているF(x)=exp(xA)exp(xB)と
2006年の過去記事の問題におけるf(x)=exp(xA)exp(xB)
の違いは,前者では[A,[A,B]]=0,または,[B,[A,B]]=0
を仮定していないので,より一般的問題への拡張
となっていることです。 (注10-3終わり※)
αμ(π)=(-i)exp(iπ)∂μ{exp(iπ)}
=∂μπ+(-i/2!)[π,∂μπ]
+{(-i)2/3!}[π,[π, ∂μπ]]+.. の右辺第1項が
∂μπなので,
α⊥μ(π)=Xai∂μπai(x)+(πについて2次以上の項)
となることがわかります。
それ故,NGボソン場:πai(x)がLagrangian密度:
L=Σi=1nfi2Tr[{α⊥μ(i(π))2]において規格化された
運動項(1/2)(∂μπai∂μπai)を持ち,かつ正しい場の
次元:dimπai=+1を持つように,変数πai(x)の再定義
をします。すなわち,πai(x)→ πai(x)/fiとします。
※(注10-4):次元=単位の話を復習します。
自然単位c=h=1を採用しているので,1=[c]=LT-1
よりL=Tですから,エネルギー:の単位は[E]=ML2T-2
=Mであり,単位は質量と同じです。
そこで,Planck定数:hの単位が,エネルギー×時刻=MT
と読めますから,結局:T=L=M-1で全ての単位はMだけ
で表わすことができて,これを質量次元といいます。
例えば,LをLagrangian,HをHamiltonianとすると.
[H]=[L]=Mであり,その密度の単位は,ML-3=M4
です。それ故,[L]=M4です。
そしてφがスカラー場なら自由粒子の系では,
L=(1/2)∂μφ∂μφ―μ2φ2なので[φ]=Mです。
これをdimφ=+1とも書きます。
他方,g=exp(iπ)∈Gは,ψ(x)を
ψ→ ψ'=gΨ=exp(iπ)ψに変換させる位相変換なの
で[π]=1でありNGボソン場の質量次元はゼロです。
α⊥μ(π)=Xai∂μπai(x)+(πについて2次以上の項)
より[α⊥μ(π)]=Mですから,[L]=M4と
L=Σi=1nfi2Tr[{α⊥μ(i(π))2]から[fi]=Mを得ます。
そこで,πai(x)→ πai(x)/fiなるスケール変換で
[πai(x)]=M,or dimπai(x)=+1を得ます。
(注10-4終わり※)
そうすれば,ξ(π) → ξ(π')=gξ(π)h-1(π,g)
というπのg∈Gによる変換則から,gが破れた生成子:Xai方向
の無限小変換:g=rxp(iθaiXai)~1+iθaiXaiのときには,
ξ(π)=exp(iπ/fi) → ξ(π')=exp{i(π+δπ)/fi}
=(1+iθaiXai) exp(iπ/fi)h-1(π,g) です。
この変換ではπai(x)の変換:π'ai- πai=δπaiのみが,
πについて0次の項を持ち.
δπai=fiθai+(πについて1次以上の項) です。
よってXai方向の変換に対するNoetherカレントは,
jaiμ(x)=(-i){∂L/∂(∂μπai)}{(ifi)+O(π)}
=fi(∂μπai)+(πについて2次以上の項)の形になるため,
fiは確かにπaiの崩壊係数を意味することがわかります。
G/Hの既約な対称空間の場合,つまり,[G-H,G-H]⊂H
で既約な場合,展開:αμ(π)=∂μπ+(-i/2!)[π,∂μπ]
+{(-i)2/3!}[π,[π, ∂μπ]]+..において,
πの偶数次の部分がα//μ(π)∈Hで奇数次の部分が,
α//μ(π)∈(G-H)となって分離されます。
さらに,(G-H)が既約空間:つまり,
{Xa}={Xa1}+|Xa2}+..+|Xan}の直和分割がn=1ですから
Lagrangian密度:L=Σi=1nfi2Tr[{α⊥μ(i(π))2]は,
π→π/fiでfi=fπとして,
L=Tr{(∂μπ+{(ifπ)-2/3!}[π,[π, ∂μπ]]+..)2}
=Tr{(∂μπ)2}-(3fπ2)-1Tr{(∂μπ[π,[π, ∂μπ]])}
+.. となります。
ここまで,Gは単純群であるとして,非自明な部分群の直和では
表わせない直既約群である,と仮定しましたが,単純群でない
場合ても本質的には同様です。
例として,前述したカイラル群;G=U(n)L×U(n)Rの対称性
が,H=U(n)Vにまで破れる場合を考えます。
このとき,Gは半単純群です。
つまり,Gの部分群は,自明な正規部分群:G,{1}を除き,
全て非可換群です。
g∈Gは,gL∈U(n)LとgR∈U(n)Rの組:(gL,gR)であり,
チャージ:Qa=QaL+QaRに対応する破れていない生成子は,
(Ta,Ta)で,チャージ:Q5a=-QaL+QaRに対応する破れた
生成子は,(-Ta,Ta)で与えられ,それ故,部分群:H=U(n)V
は,(g,g)の形の元から成っています。
そこで,ξ(π),αμ(π),α//μ(π),α⊥μ(π)に対応する量は,
まず,ξ(π):π∈(G-H)については,
(exp(-iπaTa/fπ),exp(iπaTa/fπ))
=(ξ-1(π), ξ(π))です。
αμ(π),α//μ(π),α⊥μ(π)については,
(-i)(ξ-1(π),ξ(π))-1∂μ(ξ-1(π),ξ (π))
=(-i)(ξ(π)∂μξ-1(π),ξ-1(π)∂μξ(π))
=(α//μ(π)-α⊥μ(π),α//μ(π)+α⊥μ(π)),
最後の式は,α//μ(π),α⊥μ(π)の定義でもあります。
α//μ(π)=(2i)-1[ξ-1(π)∂μξ(π)+ξ(π)∂μξ-1(π)]
α⊥μ(π)=(2i)-1[ξ(π)∂μξ-1(π)-ξ-1(π)∂μξ(π)]
=(2i)-1ξ(π)(U-1∂μU)ξ-1(π) です。
ただし,U=ξ2(π)=exp(2iπ/fπ)なる変数を導入
しました。また,この場合,G/Hは既約で,1つしかない崩壊定数
fπで予めNGボソン場を規格化しておきました。
ξ(π) → ξ(π')=gξ(π)h-1(π,g)に相当する
(gL,gR)∈Gによるの変換則は,(ξ-1(π),ξ(π))
→ (ξ-1(π'),ξ(π'))=(gL,gR)(ξ-1(π),ξ(π))
(h(π,gL,gR),h(π,gL,gR)-1
=(gLξ-1(π)h-1(π,gL,gR,ξ(π),
gRξ(π)h-1(π,gL,gR))
です。
この場合,両辺で右元を左元で割ったものを計算すれば,
U=ξ2(π)→ U'=ξ2(π')=gRξ2(π)gL-1,
つまり,U→
U’=gRUgL-1 です。
G-不変,カイラル不変なLagrangian密度は,一意的に,
Lカイラル=fπ2Tr{α⊥μ(π)2}=(fπ2/4)Tr{(U∂μU)2}
となります。
α⊥μ(π)=(2i)-1[ξ(π)∂μξ-1(π)-ξ-1(π)∂μξ(π)]
は,αμ(π)=(-i)ξ(π)∂μξ-1(π)の展開におけるπの
奇数次項を表わしていることは明らかですから,Lカイラルは
既約対称な(G/H)の場合のLagrangian密度:
L=Tr{(∂μπ)2}-(3fπ2)-1Tr{(∂μπ[π,[π,∂μπ]])}
と同じ式になることがわかります。
今日はここまでにします。
(参考文献):九後汰一郎 著「ゲージ場の量子論(Ⅱ)」
(培風館)
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