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2018年2月18日 (日)

ゲージ場の量子論(29)

「ゲージ場の量子論(29)」からの続きです。

新しい節に入ります。

§5.8 物理的S行列のユニタリ性

本節,および,次節で物理的S行列:Sphysがユニタリ 

(unitary)であることを証明します。

以下は,そのために必要な定理です。

[定理]:理論が次の3つの条件を満たすとする。

)全状態空間:で定義されたS行列演算子: 

はユニタリ(unitary)である。 

すなわち,S=SS=1 である。
 

)の中の物理的部分空間:phys={|Phys} 

,時間発展の下で不変である。 

それ故,特にS行列演算子の下で不変である。 

phys=Sphysphysである。
 

) physは半正定値計量 

(positive semi-definite metric)  

である。 

すなわち, |Phys>∈phys に対して, 

Phys|Phys>≧0 である。
 

このとき,物理的S行列:physは正定値計量を 

持つ商空間;physphys/0 (0phys 

零ノルム部分空間)の上で矛盾なく定義され, 

ユニタリ性を満たす。 

すなわち,physphys=Sphysphys=1 である。
 

(※この定理の中で商空間(quotient space)の意味 

,零ノルム部分空間:0については証明の中で 

詳しく説明します。)
 

[証明]physの中でノルムがゼロである状態の全体 

0と定義します。 

0{|χ>∈phys |<χ|χ>=0 } です。
 

このとき,0の元|χ>はどれも,phys 

任意の元|f>と直交します。<χ|f>=0です。 

何故なら,任意のz∈に対して 

|χ>+|f>∈physであるからです。

つまり,(<χ|+<f|)(|χ>+|f>) 

=<f|f>+2Re(<χ|f>)0 

が任意のzについて満たされる必要がある 

というこよは,zが実数でz→-∞でも 

そうでなければならず,結局,<χ|f>=0 

でなければならないからです。
 

零ノツム空間:0のこの性質は物理的部分空間 

physの中の1つの状態:|f>と零ノルム状態: 

|χ>∈0だけ異なる別の状態:|f>+|χ> 

とはphysの中で物理的に決して見分けることが 

できないことを意味しています。
 

それ故,ある状態:|f>∈physと零ノルム状態; 

|χ>∈0だけの差しかない状態全体の集合を,

|^>={|f'>∈phys |(|f'>-|f>)0 } 

と定義して,これを|f>を代表元とする同値類(class) 

と呼ぶことにします。
 

そして,この類の1つ1つを元とする集合を商空間と呼び, 

phys/0で表わします。これをHphysと書きます。

|χ>∈0 なら<χ|f>=0 という性質から,|^ 

に属する状態:|f>と,|^>に属する状態:|g>との 

内積:<f|g>は代表元:|f>,|g>の選び方に依らず 

同一です。
 

そこで,physとの元としての|^>と,|^>の内積を, 

<f^|^>=<f|g>;|f>∈|^,|g>∈|^ 

によって矛盾なく定義できます。
 

この内積を付与されたHphysでは<f^|^>=0なら, 

|^>=|0^>={|χ>∈phys |(|χ>-0 )0 } 

0が成立します。
 

したがって,physは正定値計量空間となるため,これを 

(0を零元とする)物理的Hilbert空間と呼びます。
 

)の仮定からphyはS行列演算子:,および,の下 

で不変ですから,その零ノルム部分空間0もS, 

下で不変です。
 

実際,任意の|f>∈phyに対して,|f'>=S|f>と 

すれば,|f'>∈phyなので,|χ>∈0なら 

<f||χ>=<f'|χ>=0 ですからS|χ>∈0 

です。同様に,|χ>∈0もいえます。
 

したがって,physにおけるて物理的S行列演算子:phys 

,元のにおけるS行列演算子:Sから,|^>∈Hphys 

に対して,phys|^>=|(Sf)^>で定義すれば, 

この定義は無矛盾(well-defined)です。
 

このとき,()のSのユニタリ性の仮定から, 

任意の|^,|^>∈Hphysに対して 

<f^|physphys|^>=<(Sf)^|(Sg)^ 

=<Sf|Sg>=<f||g>=<f|g> 

=<f^|^> が成立します。
 

それ故,physphys1です。同様に,physphys1 

も明らかなのでSphysはユニタリと結論されます。 

[証明終わり] 
 

さて,ここまで展開してきた非可換ゲージ理論の場合 

を考えます。
 

FPゴースト場;,~を正しくHermite演算子の場 

に取っておけば,Lagrangian密度:~,故にHamiltonian: 

HがHermiteとなるので,時間発展演算子:exp(iHt) 

がユニタリとなり,(,0)exp(iHt)exp(iHt0) 

もユニタリなのでS=U(,-∞)はユニタリです。
 

そこで,まず,上の定理の()仮定であるSのユニタリ性:: 

S=SS1は満たされています。
 

そして,物理的部分空間:physはBRS電荷:を用いて, 

|Phys>0 |Phys>physで定義されていますが, 

が保存量で,かつ,Lorentzスカラーなので,phys 

明らかに時間発展で不変(かつ,Lorentz不変)です。
 

したがって,定理の()の仮定も満足されています。
 

自明でないのは,()の仮定です。 

つまり,phyが半正定値計量を持つかどうか?です。
 

前節の具体的摂動計算では負ノルム状態を作る危険性 

のある非物理的モード:すなわち,ゲージ場の縦波・, 

スカラー波モードとFPゴースト・反ゴーストモード 

が摂動のg2のオーダーまでは,うまい具合に零ノルム 

状態でしか現われないことを示したわけで,phyの一部 

(Dirac粒子^反粒子ペア初期状態から散乱後に作られる 

ゲージ場,またはFPゴースト2粒子セクター)について 

半正定値性を示したことになります。
 

以下では,phyの半正定値性を,もっと系統的,かつ一般的な方法 

で示します。そのためにはWT恒等式のより本質的表現である 

BRS電荷:について考察する必要があります。
 

※保存電荷の漸近場による表現 

まず, BRS電荷:に限らず,一般に保存する電荷演算子 

Qがあれば漸近的完全性の仮定の下で,それを漸近場:Φas 

(asout,in)で表わすと,必ず双1次形(bi-linear form) 

なることを示します。
 

いいかえると,QがΦasiの上に起こす変換は必ず線形です。 

つまり,[iεQ,Φasi()]=-εajjΦasj()という主張です。 

(※ただし,εは無限小パラメータです。QがQのように 

Fermi的電荷の場合には,それはGrassmann数なので,Φasi 

によっては交換子は反交換子に置き換えられます。)
 

この主張に対する素朴な証明は,次のようなものです。 

すなわち,Qが漸近場;Φasiに起こす変換を一般に, 

[iεQ,Φasi()]=εδΦasi()と表わし,両辺に 

Klein-Gordon演算子:+μ2(または,Dirac演算子: 

(iγμxμ-mi))を掛けると,左辺は漸近場;Φasi 

自由場の方程式:(+μi2)Φasi()0を満たす 

ので消えるため,右辺=(+μi2)δΦasi0  

なければなりません。
 

これは,δΦasi,Φasiの質量μiと縮退した質量を持つ 

全ての漸近場:Φasi(μj=μii)の線形結合で書けること 

を意味し,[iεQ,Φasi()]=-εajjΦasj()が結論 

されます。
 

この証明は簡明でいいのですが,けちをつけるなら難点があります。 

例えば,Φinj()の変換:δΦini(+μi2)δΦini0を満たす 

からといって,果たしてδΦini,incoming:Φnsiのみの線形結合 

で表わせるのか?なぜ.同じ方程式を満たすΦnoutiが混じっては 

いけないのか?という問題があります。
 

そこで,もう少ししっかりした証明を与えることにします。 

完全系をなす漸近場:ΦasiDirac場でも本質的に同様 

なので,簡単のため,スカラー場,またはベクトル場のモード 

成分として扱うことにします。
 

ただし,ベクトル場の場合の縦波とスカラー波の間や 

Pゴースト,反ゴーストの間に見られる反対角計量 

(不定計量)の場合も扱えるよう,Φasiの4次元 

()交換関係を一般の計量:ηijを持つ, 

[Φasi(),Φasj()]=ηijΔ(x-y,μi)の形に  

しておきます。
 

もちろん,計量は同じ質量の漸近展開でのみゼロ  

でないのでμiηij=ηijμです。
 

完全系をなす漸近場:Φasiに対応する.くり込まれた 

Heisenberg場をΦiとします。すると,0→±∞のとき, 

Φi() → Φasi(),(asIn,またはout)です。
 

これらのHeisenberg:Φi()のQによる変換, 

[iεQ,Φi()]=εδΦi(),BRS変換: 

Q=Q.δ=δでもそうですが,δΦiは一般に場: 

Φiに関して非線形な多項式です。
 

0→±∞のとき,Φi() → Φasi() という仮定は, 

.T <0|(Φi() Φi())|0|離散的極部分 

iηij/(2-μi2) 

=F.T <0|(Φasi() Φasi())|0>  

を意味します。
 

,多項式場;δΦi()とΦi()の2点関数を計算し, 

その離散的極部分を取り出して, 

.T <0|(δΦi()Φi())|0|離散的極部分 

=-iik()ηkj/(2-μj2) 

=F. {-aik(i)}0|(Φasi()Φasi())|0 

となった,とします。(T積はT積を意味します。)
 

もちろん,極の留数部;ik()の中のpは全てLorentz 

の足:μがついたもので縮約されたp2を含みません。
 

.T <0|(Φi()Φi())|0|離散的極部分は図5.15 

に示したFeynman図で計算されます。
 

図の右側のΦjには必ず,相互作用を全て含めたfull 

伝播関数<0|(ΦiΦi)|0>が含まれており,それを除く 

因子部分のFeynman:5.16の寄与をAik()で記せば 

留数aik(),k()=Aik()|2=μj2で与えられます。
 

これは留数:ik()の具体的計算法を与えています。
 

ところが,先の2点関数の仮定から, 

k()=Aik()|2=μj2,0→±∞ のとき, 

δΦi() → -aijΦasj() を意味します。 

ただし,ij(i)をaikjと書きました。
 

そこで,[iεQ,Φi()]=εδΦi()においてx0→±∞ 

の極限を取れば,[iεQ,Φasi()]=-εajjΦasj() 

が結論されます。
 

念のため,このような漸近場の線形変換が,果たして実際に 

元のHeisenberg;Φiの非線型な変換: 

[iεQ,Φi()]=εδΦi()を実現するのだろうか? 

という問いに答えておきます。
 

そのために,Heisenbwrg場の演算子を漸近場で展開した表現 

を与えるHaag-LSZ公式を思い起こします。
 

S=;:<0|exp{i(j・Φj){|0|J=0 , 

SΦ()=;:<0|[Φ()exp{i(j・Φj){|0|J=0  

です。(※ドット・は∫d4xの省略記号です。)
 

ここで演算子::は,漸近場:Φasi()が計量: 

[Φasi(),Φasj()]=ηijΔ(x-y,μi)を持つため, 

:=:exp{Φasiη-1ijjδ/δJj} 

(j=□+μj2)で与えられます。
 

ただし,SとSΦ()の右辺の表式で演算子 

であるのは,:=の中に現われる漸近場:  

Φasiのみなので,[iεQ,Φasi()]=-εajjΦasj() 

により, 

[iεQ,]=;[iεQ,Φasi()]η-1ijjδ/δJj} 

0|[exp{i(j・Φj){|0|J=0  

=:-εajmΦasm():η-1ijj 

0|[iΦj exp{i(j・Φj){|0|J=0 および,

[iεQ,SΦ()] 

=;[iεQ,Φasi()]η-1ijjδ/δJj} 

0|[iΦexp{i(j・Φj){|0|J=0  

:εajmΦasm();η-1ijj 

0|[iΦjΦ()exp{i(j・Φj){|0|J=0  

です。
 

これらの表式から求める結果を得るには,Green関数 

の生成汎関数に対するWT恒等式が必要です。
 

Qは「自発的に破れていない」対称性の電荷演算子 

ですから,真空はQで不変です。つまり,|0>=0です。 

[iεQ,Φi()]=εδΦi()により, 

0=<0|[iεQ,exp(ii・Φi)]|0 

=<0|[(iiεδΦi)exp(ii・Φi)]|0 

なるWT恒等式を得ます。
 

さらに,これをJk()で微分すれば 

0=<0|[{εδΦk()iΦk()iεδΦi}exp(ii・Φi)]|0 

なる恒等式を得ます。
 

この恒等式に::を施せば,外場;i()は全て 

,Φasjη-1ijjで置き換えられます。 

このとき,Φasj()は質量殻:2=μi2上の関数で 

Klein-Gordon演算子:jは伝播関数の逆;(-p2+μj2) 

(-p2+μi2)ですから,この演算子の下ではJj 

掛かっている複合Heisebnberg演算子:δΦjには, 

そのチャネルでΦiの質量:μiと同じ質量の1粒子 

の極部分しか効きません。
 

それ故,.T <0|(Φi() Φi())|0|離散的極部分 

iηij/(2-μi2),および, 

.T <0|(δΦi()Φi())|0|離散的極部分 

=-iik()ηkj/(2-μj2) 

を考慮すると,
 

質量殻上(2=μj2),δΦj() → -aijΦj() 

の置き換えができます。
 

よって,Green関数のWT恒等式:  

0|[(iiεδΦi)exp(ii・Φi)]|0>=0. 

0|[{εδΦk()iΦk()iεδΦi}exp(ii・Φi)]|0 

0 ,次の質量殻上のS行列WT恒等式に帰着します。
 

0|[(iiεaijΦj)exp(ii・Φi)]|0|J=00

:<0|[{εδΦk()

iiεaijΦjΦk()}exp(ii・Φi)]|0|J=0 0 です。
 

ここで係数行列:ijはμi=μjのときのみゼロでないことは 

明らかなので,iij=aijjが成立します。
 

そこで,jΦasmη-1mijに置換して 

Φasm:η-1miεaijj 

0|[iΦjexp(ii・Φi)]|0|J=00 , および, 

:<0|[εδΦk()exp(ii・Φi)]|0|J=0 

Φasm;η-1miεaijj 

0|[{iΦjΦk()}exp(ii・Φi)]|0|J=0 

0 です。
 

ここで.Jacobi多項式;[iεQ,[Φasi(),Φasj()]] 

[[iεQ,Φasi()],Φasj()][Φasi(),[iεQ,Φasj()]] 

が成立しますが,[Φasi(),Φasj()]c-数ですから, 

左辺はゼロなので,[iεQ,Φasi]=-εaijΦajより 

εajk[Φask(),Φasj()]

()1|i||ε|εajk[Φasi(),Φask()]  

を得ます。
 

そこで.[Φasi(),Φasj()]iηijΔ(x-y)から,  

εajkηkjΔ(x-y)()1|i||ε|εajkηilΔ(x-y)  

η-1miεajk()1|i||ε|εajmη-1jk, 

故に,Φasmη-1miεajk()1|i||ε|Φasmεajmη-1jk, 

=-εajmΦasmη-1jjが成立するので
 

0Φasm:η-1miεaijj 

0|[iΦjexp(ii・Φi)]|0|J=0 

=-[iεQ,],および, 

0=::<0|[εδΦk()exp(ii・Φi)]|0|J=0 

[iεQ,Φk()] を得ます。
 

したがって, [iεQ,]0 ,および, 

[iεQ,Φi()] 

=::<0|[εδΦk()exp(ii・Φi)]|0|J=0 

=SεδΦi() が結論されます。
 

[iεQ,]0 はS演算子が保存量:Qの下で不変であること, 

を一般的に証明したこと,を意味します。 

つまり,保存電荷:Qを生み出す(ゲージ)対称性変換の下では, 

S行列は常に不変であること,を示しました。
 

一方,[iεQ,SΦi()]=SεδΦi(),求める漸近場に 

対するQの線形変換が,Heisenberg場に対する元の一般には 

非線形な変換を再現することを示しています。
 

今回はここで終わります。

(参考文献):九後汰一郎 著「ゲージ場の量子論Ⅰ」(培風館)

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