対称性の自発的破れと南部-Goldostone粒子(18)
「対称性の自発的破れと南部-Goldostone粒子(17)」
から§6.7
Weinberg-Salam模型の続きです。
※レプトンとの結合
弱い相互作用の電荷の変化する部分に関しては(V-A)型
の相互作用であることから,レプトン場は左手型成分:
ψL=((1-γ5)/2}ψのみがSU(2)W-2重項で,右手型成分:
ψR=((1+γ5)/2}ψはSU(2)W-1重項を取らねばなりません。
現在ではe.μ以外に,より重いレプトン:τ粒子の存在が
知られているので,
Le=[νe,e]LT, Lμ=[νμ,μ]LT,Lτ=[ντ,τ]LT
(Y=-1/2),Re=eR. Rμ=μR. Rτ=τR (Y=-1)
と定義します。ここで超弱電荷:Yの値は,Q=T3+Yによって
決まるものです。
こうすれば,e. μ.τに対応するニュートリノ:νe.νμ.ντ
の右手型成分が現われない,ことは注目に値します。
零質量?のニュートリノは謂わゆるWeyl場であり 右手型成分
は元々無いからです。
τ粒子の存在が未知であった昔から,質量の違いを除けば全く
同一の性質を持つ,電子eとμ粒子が何故,存在するのか?という
ことが謎であり,これは「e-μパズル」と呼ばれていました。
現在では,τ粒子まで加わっているため,「e-μパズル」は
「自然は,何故3度も同じことを繰り返すのか?」という問い
に直されます。
今では,Le=[νe,e]LT, Lμ=[νμ,μ]LT,Lτ=[ντ,τ]LT
(Y=-1/2),Re=eR. Rμ=μR. Rτ=τR (Y=-1)
に現われる,e,μ,τの多重項の繰り返しを.3世代構造
(3-generation structure)と呼んでいます。
これらを用いてレプトン部分のLagrangian:Lでは,
L-2重項がY=-1/2に,R-1重項がY=-1に対応して,演算子
Yを,それぞれの固有値に置き換えます。また,Rj(j=e,μ,τ)
については,1重項なのでT=0です。
そこで,Dirac運動項は
Lkinlepton=Σj=e,μ,τ[L~jiγμ{∂μ-(i/2)g'Bμ+
(i/2)g(τAμ)}Lj+R~jiγμ(∂μ-ig'Bμ)Rj],
Lnmasslepton=Σj=e,μ,τ(-fj){(L~jΦ)Rj+R~j(Φ+Lj)}
と書けるはずです。
※(注18-1):何故なら、仮にRjもニュートリノを上成分に持つ
2重項と仮定すれば,
Dirac質量項=-Σj=e,μ,τ{(L~i+R~)Mij(Lj+Rj)}
ですが,L~iLj,R~iRjに比例する項は恒等的にゼロなので,
Dirac質量項=-Σj=e,μ,τ{(L~iMijRj)+R~iMijLj}と
なります。
そして,質量行列:MijはMij=-fiδijと書くことができ,しかも
この質量も2重項場(Higgs場)Φに起因するとして,Rjを1重項
に戻し,Hermite性を保持しながら,湯川型を仮定すると,
質量項=Σj=e,μ,τ(-fj){(L~jΦ)Rj+R~j(Φ+Lj)}
と書けます。 (注18-1終わり※)
レプトンのDirac質量項は,Higgs-2重項Φとの湯川相互作用
から,真空期待値:<0|Φ(x)|0>=[0,v/√2]Tを得た後に
初めて現われます。
例えば,電子項;j=eの部分は,
-fe{[νe~,e~][0,v/√2]TeR+h,c}
=-(fev/√2)e~e=-mee~e と解釈されます。
(※meは電子質量,h.cはHermite共役項の意です。)
したがって,レプトンの,Higgs-2重項の湯川結合定数:fj
は,treeレベルで,それぞれの質量に比例し,v=2MW/gと
いう以前の評価から,fj=√2mj/v=gmj/(√2MW)と
書けることになります。
そこで,湯川結合定数fjは,通常,(fj/g)~ mj/(√2MW)
<<1なので,SU(2)Wの結合定数gに比べてかなり小さい
ことがわかります。
次に,Lkinlepton=Σj=e,μ,τ[L~jiγμ{∂μ-(i/2)g'Bμ+
(i/2)g(τAμ)}Lj+R~jiγμ(∂μ-ig'Bμ)Rj]のAμ,
Bμを,Wμ,W+μ,Zμ,Aμに書き換えます。
結果,Lint=-{g/(2√2)}(Wμ+Jμ+WμJμ+)
-eAμJemμ-(g/cosθW)ZμJZμ が得られます。
ただし,Jμは4-Fermi相互作用の荷電カレントのレプトン
部分:Jleptonμ=2j(1-i2)leptonμであり
Jleptonμ=e~γμ(1-γ5)νe+μ~γμ(1-γ5)νμ
+τ~γμ(1-γ5)ντ で与えられます。
Jemμは電磁相互作用カレントで,これは
Jleptonemμ=-(e~γμe+μ~γμμ+τ~γμτ)の意味です。
また,JZμはZボソンの結合する中性カレントで
JZμ=j(3)leptonμ-sin2θWJleptonemμであり
j(3)leptonμ=Σj=e,μ,τ{L~jγμ(τ3/2)Lj}です。
※(注18-2):Dirac相互作用における電子項;j=eの部分のみ
に着目し,A1μ=(1/√2)(Wμ+Wμ+),
A2μ=(i/√2)(Wμ-Wμ+),
A3μ=cosθWZμ+sinθWAμ,
Bμ=-sinθWZμ+cosθWAμ を代入します。
特に,τAμ=τ1A1μ+τ2A2μ+τ3A3μ
=(1/√2){(τ1+iτ2)Wμ+(τ1-iτ2)W+μ}
+τ3(cosθWZμ+sinθWAμ) です。
L~eiγμ{∂μ-(i/2)g'Bμ+(i/2)g(τAμ)}Le
+R~eiγμ(∂μ-ig'Bμ)Re
=e~iγμ∂μe+νeL~iγμ∂μνeL
+(g'/2)(eL~γμeL+eR~γμeR+νeL~γμνeL)
(-sinθWZμ+cpsθWAμ)
-(g/2)}[νeL~,eL~]γμ
×[(1/√2){(τ1+iτ2)Wμ+(τ1-iτ2)W+μ}
+τ3(cosθWZμ+sinθWAμ)][νeL,eL]T
=e~iγμ∂μe+νeL~iγμ∂μνeL-(e~γμe)(eAμ)
-(e~γμe)(g’sinθWZμ)
+(1/2)(eL~γμeL-νeL~γμνeL)gZμ/cosθW
-(g/√2)}(νeL~γμeL )Wμ+(νeL~γμνeL )W+μ}
(※※ここで,紛らわしいのですが,(eAμ)の係数eは電子
の電荷でe=-gsinθW=-g’cosθW <0であり,
cosθW=g/(g2+g'2)1/2,sinθW=g'/(g2+g'2)1/2
より,g'sinθW +gcosθW =(g2+g'2)/(g2+g'2)1/2
=(g2+g'2)1/2=g/cosθW,っです。それ故
g'sinθWZμ=g'2Zμ/(g2+g'2)1/2
=gsin2θWZμ/cosθWを用いました。)
μ粒子部分,τ粒子部分についても同様です。
(注18-2終わり※)
電磁相互作用項:-eAμJemμは,丁度,荷電レプトンの
運動項:Σj=e,μ,τψj~iγμ∂μψjの∂μを共変微分の形の
極小相互作:iDμ=(i∂μ-eAμ),or Dμ=(∂μ+ieAμ)
にすることに相当しています。
Wボソンの荷電カレントのレプトン項:
-{g/(2√2)}(Wμ+Jμ+WμJμ+)を用いて前掲の図6.12
の型no]Feynmanグラフの寄与を計算すれば,Wボソンの質量
MWに比して低エネルギーの領域(p2<<MW2)では実質上
4-Fermi相互作用:LFermi=-(G/√2)Jμ+Jμ を再現します。
つまり,p2<<MW2)では,(p2-MW2)~ -MW2より,
{ig/(2√2)}2Jμ+(igμν)(p2-MW2)-1Jμ
~-i(G/√2)Jμ+Jμ なる対応です。
よって.G/√2=g2/(8MW2)より,Wの質量は,
MW~{√2g2/(8G)}1/2={√2e2/(8Gsin2θW)}1/2
~(37.3/|sinθW|)GeVと評価されます。
MZ2=(g2+g'2)v2/4=MW2/cos2θWを用いると
MZ=MW/|cosθW|~(74.6/|sinθW|)GeV,
v/√2=√2MW/g={√2/(4G)}1/2 ~ 174 GeV,
こうして, v/√2がパラメータ無しで決まったことに
着目します。これはSU(2)W×U(1)Y → U(1)E.Mの
自発的破れの特徴的スケ-ルが100 GeV程度であること
を示しています。
さらに電荷を持たないZボソンと中性カレントJZμの
相互作用項があり,Zボソンを媒介とする図6.12は,旧来
の4-Fermi相互作用では知られてなかった,中性カレント
相互作用:(1/2!)(g/cosθW)2JZμ+(gμν)(p2-MZ2)-1JZμ
~ -(4G/√2) JZμ+JZμ が存在することを予言します。
これの存在は,実際,(反)ニュートリノと電子(陽子)の弾性散乱
νe~e→νe~e, νμ~e→νμ~e, νμe→νμe,
νe~p→νe~p, νep→νep..などで観測され,それらの
データからWeinberg角因子:sin2θWが決定されました。
最近の値は,sin2θW=0.2325±0.0008です。
これを用いれば,W,Zボソンの質量は,
MW ~77.4GeV,MZ ~ 88.3GeVと予言されます。
果たして1968年,CERNでRubbiaらによって,遂に発見
されたW,Zボソンはその質量の観測値が
MW=(80.26±0.026)GeV,MZ=(91.17±0.02)GeVでした。
上述の予言値は,これとよく一致していますが,ループグラフ
の補正計算では,予言値が2~3%大きい方に修正されて
MW ~80GeV,MZ ~ 91GeVとなり,理論と実験の一致は驚く
ほど良いです。
※ここまで得た結果と,まだ詳しく考察してない部分を
要約します。
前回記事では,ゲージ場とHiggs場のLagrangianを
L=Lゲージ場+LHiggsと書くと,
Lゲージ場=-(1/4){∂μAν-∂νAμ-g(Aμ×Aν)}2
-(1/4)(∂μBν-∂νBμ)2
=-(1/4)FAμνFAμν-(1/4)FZμνFZμν
-(1/2)(DμWν-DνWμ)+(DμWν-DνWμ)
+i(|e|FAμν+gcosθWFZμν)Wμ+Wν
+(g2/2){|WμWμ|2-(Wμ+Wμ)2}であり,
LHiggs=|DμΦ|2+μ2Φ*Φ-(λ/2)(Φ*Φ)2,
Dμ=∂μ+(i/2)g’Bμ+(i/2)g(τAμ)
であることを見ました。
今回,レプトンのDirac運動項:
Lkinlepton=Σj=e,μ,τ[L~jiγμ{∂μ-(i/2)g'Bμ+
(i/2)g(τAμ)Lj+R~jiγμ(∂μ-ig'Bμ)Rj],
の計算から,
Lkinlepton=Σj=e,μ,τ[L~jiγμ∂μLj+R~jiγμ∂μRj]
+Lintであってレプトンとゲージ場の相互作用項:Lint
が,Lint=-{g/(2√2)}(Wμ+Jμ+WμJμ+)
-eAμJemμ-(g/cosθW)ZμJZμ で与えられる
ことを見ました。
また,レプトンのDirac質量項は,
Lnmasslepton==-Σj=e,μ,τ{(L~iMijRj)+R~iMijLj}
=Σj=e,μ,τ(-fj){(L~jΦ)Rj+R~j(Φ+Lj)}
で与えられることも見ました。
残るHiggs2重項場:ΦのセクターのLagrangianは,
LHiggs=|DμΦ|2+μ2Φ*Φ-(λ/2)(Φ*Φ)2 ですが,
LHiggs=|{∂μ+(i/2)g'Bμ+(i/2)g(τAμ)}Φ|2
+μ2Φ*Φ-(λ/2)(Φ*Φ)2 は,g'→ 0 の極限で
Higgs-Kibble模型と同じものに帰着する,と書きました。
SU(2)Higgs-Kibble模型での考察と同じく,
Higgs2重項Φは,Φ(x)=[φ1,φ2]T
=(1/√2){v+ψ(x)-iχa(x)τa}[0,1]T
=(1/√2)[-χ2(x)-iχ1(x),v+ψ(x)+iχ3(x)]T
(ψ,χ=[χ1,χ2,χ3]は実スカラー場)
で与えられる,とします。
SU(2)対称性が破れる原因となる真空期待値は,
<0|Φ(x)|0>=[0,v/√2]Tであり,
<0|ψ(x)|0>=<0|χa(x)|0>=0 です。
明らかに,対称性の破れにより生じた零質量のNG
ボソンがχ=[χ1,χ2 ,χ3]Tですが,粒子の電荷Qは,
Q=T3+Yを満たします。
Φの弱超電荷をY=1/2として,Φ(x)=[φ1,φ2]T
=(1/√2)[-χ2(x)-iχ1(x),v+ψ(x)+iχ3(x)]T
Φの下成分(T3=-1/2)の電荷がQ=0となるように
このYを設定したのでした。
したがって,上成分(T3=1/2)は,電荷Q=+1を持つはず
です。
まず,χ=[χ1,χ2 ,χ3]Tは,SU(2)のベクトルなので
T=1であり,ψはスカラーなのでT=0です。
これらは,T3|χ3>=|χ3>,|χ3>=χ3+|0>,T3|ψ>=0,
|ψ>=ψ+|0>より,[T3,χ3+]=χ3+,[T3,ψ+]=0を
意味します。
故に,[T3,φ2+]=[T3,ψ++iχ3+]=iχ3+です。
そこで, [Q,φ2+]=[Q,ψ++iχ3+}=[T3+Y,ψ++iχ3+]
=0 であれば,[Y,ψ++iχ3+]=-iχ3+
でなければなりません。
そこで,ψについての弱超電荷はY=0 で[Y,ψ+]=0
と仮定すれば,[Y, χ3+]=-χ3+となることが必要です。
それ故,NGボソン:χ=[χ1,χ2 ,χ3]Tの弱超電荷は
Y=-1で,[Y,χa+]=-χa+(a=1,2,3)であると
します。
こうすれば,Φ(x)=[φ1,φ2]Tにおいて,
[Q,φ2+}=0,[Q,φ1+}=φ1+となり,上述したように
Φの下成分がQ=0,上成分がQ=+1を持ち,質量mの
Higgs粒子ψは如何なる量子数も持たない,ということで
全て辻褄が合います。
Higgs-Kibble模型の共変微分は,Weinberg-Salam模型の
DμΦ={∂μ+(i/2)g'Bμ+(i/2)g(τAμ)}Φ
において,g'=0としたDμΦ={∂μ+(i/2)g(τAμ)}Φ
です。
Higgs-Kibble模型においては,
|DμΦ|2=(DμΦ)+DμΦ=(1/2)(∂μψ)2
+(g/2)Aμ{χ(∂μψ)-ψ(∂μχ)-χ×(∂μχ)}
+(1/2)(∂μχ-MAμ)2+(g/2)MAμ2ψ
+(g2/8)Aμ2ψ2+(g2/8)Aμ2χ2でした。
Aμの獲得する質量はM=gv/2=|μ|(g2/2λ)1/2
でした。
これはWeinberg-Salam模型では,
|DμΦ|2=|{∂μ+(i/2)g'Bμ+(i/2)g(τAμ)}Φ|2
であり,このうちゲージ場の質量項は(ゲージ場質量項)
=|(i/2){g'Bμ+g(τAμ)}[0,v/√2]T|2
=(g2v2/8){(A1μ)2+(A2μ)2}
+(v2/8)(g’Bμ-gA3μ)2
=MW2Wμ+Wμ+(1/2) MZ2Zμ+Zμ
で与えられることを見ました。
Higgs機構により,元々零質量のゲージ場:Wμ,Zμが獲得
する質量MW,MZは,MW2=g2v2/4,MZ2=(g2+g'2)v2/4
=MW2/cos2θW です。
g'に無関係な項は,Higgs-Kibble模型と同じで,
μ2Φ+Φ-(λ/2)(Φ+Φ)2
=-(1/2)m2ψ2+V0[v/√2)] -(λ/8)(ψ+χ2)2
-(1/2)m√λ)ψ(ψ+χ2) です。
ただし,ψの獲得する質量mは,m2=2μ2,v/√2=(μ2/λ)1/2
で与えられ,-V0[v/√2]=(1/2)μ2v2-(λ/8)v4です。
今回はここまでにし次回からはハドロン(クォーク)との
結合等について考察します。
(参考文献):九後汰一郎 著「ゲージ場の量子論(Ⅱ)」
(培風館)
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