記事リバイバル⑦(WKB近似・Hamilton-Jacobi・経路積分)
※このブログの過去記事の中から私自身がこれは興味深い
と思ったモノを再掲載しているシリーズの第7弾です。
今回は2006年10/8の記事:
「WKB近似・ハミルトン-ヤコービ方程式・経路積分」
から全文丸々コピーです。
10年以上も前の記事だからといっても,別にモウロクしたわけでもなく,
むしろ老人性のサバン症候群ではないか?と思うくらい頭だけは若い
ようです。ただし気持ちと裏腹に視力や体が思うように働いてくれない
のがナサケナイですね。調子イイ日と悪い日があります。
昨年5月から8月そして11月14日から1ヶ月の入院中は,思い付きで
アマゾンで購入したハーモニカを吹いてヒマツブシしてました。
幼稚園か小学校のころに吹いてたダケですが。。なぜかメロディー
を吹くのは音符など参照しなくても自由にできるようで童謡はモチロン
「涙そうそう」や「合衆国国歌」など。。私,音感あるのかな?
楽器演奏は認知症の予防にもイイらしいです。
クラシックも「小夜曲」や「主よj人の望みの喜びよ」くらいは楽に吹け
ましたが,速い曲は練習しても少しムズカシイですね。
昨日アップした過去記事を読みやすいように再編集しているうち
文字化けがひどくなったので削除して結局編集なしで丸写し。。
以下が過去記事再掲載です。
今日は量子論におけるWKB近似が,なぜ準古典近似と呼ばれるのか,を解析力学のハミルトン・ヤコービ(Hamilton-Jacobi)の方程式と関連付けて説明し,さらに経路積分との関連についても手短かに述べてみたいと思います。
まず,古典力学の力学系での一般化座標をqr(r=1,2...n)とし,系を記述するLagrangian(ラグランジアン)をL(q,qd,t)とします。
ここで,qはqr全体を総称しqd≡qdotはqの時間による微分:
qrd≡(dqr/dt)の全体を意味します。
さらに,pr≡(∂L/∂qrd)を一般化運動量と定義します。
このpr=(∂L/∂qrd)を解いてqrdをqrとprの関数で表わしたものを,式:H≡∑prqrd-Lの右辺のqrd に代入したものを系のHamiltonian:H(q,p,t)と定義します。
このとき,元々のNewtonの運動方程式は,これをD'Alembertの原理(D'Alembert)で加工して一般化し,一般化座標の方程式に変換したn個のEuler-Lasgrange方程式:[d(∂L/∂qrd)/dt]-∂L/∂qr=0 に取って代わられます。
さらに,qrd≡(dqr/dt)=(∂H/∂pr),prd≡(dpr/dt)=-(∂H/∂qr)なる形の2n個の1階微分方程式=Hamiltonの正準方程式に変換されます。
ほとんどのH(q,p,t)では,一般化座標の変数pr,qrを計算に都合がいいような新変数Pr,Qrに変換して,新しいハミルトニアンとしてK(Q,P,t)を作り,Hamiltonの正準方程式が形としてそのまま保存されるようにできます。
つまり,qrd=(∂H/∂pr),prd≡-(∂H/∂qr)がQrd≡(dQr/dt)=(∂K/∂Pr),Prd≡(dPr/dt)=-(∂K/∂Qr)と同値になるようにできます。こうした変換を正準変換と呼びます。
このとき,新変数による新しいLagrangianをL'=∑PrQrd-Kと書けば,元のLagrangian:L=∑prqrd-Hとの間に,ある関数Wが存在して
L=L'+(dW/dt)なる等式が成り立つはずです。
これは,変換の下で理論が不変に保たれるための必要十分条件です。
この結果,∑prqrd-H=∑PrQrd-K+(dW/dt)と書けます。
関数W は,tの他にはp,q,P,Qの4n個の変数の関数ですが,このうちで独立な変数は2n個だけですから,例えばW=W(q,P,t)と独立変数を選んでみます。
このときは,dW=∑prdqr+∑QrdPr+(K-H)dtなる式によってpr=∂W/∂qr,Qr=∂W/∂Pr,K=H+∂W/∂tとなります。
次に,特に変換によって特異になる危険性を犠牲にしてもHamiltonian:Kが恒等的にゼロになる,つまりK≡0 となる特別な正準変換があったら,と想定してみます。
このときには,Hamiltonの正準方程式は,Prd≡(dPr/dt)=0 ,Qrd≡(dQr/dt)=0 となり,座標点は全て時間的に静止していてPr=αr(定数),Qr=βr(定数)とすることができて最高に好都合です。
そして,このとき元の正準変換に戻ってみると,
q=q(Q,P,t)=q(β,α,t),p=p(Q,P,t)=p(β,α,t)
となり,n個の積分定数または初期条件を含む解が求まるわけです。
つまり"一般化座標の時間的変化=軌道"は全て決まる,あるいは問題は完全に解ける,ことになります。
そして,W=W(q,P,t)=W(q,α,t),pr=∂W/∂qr,βr=∂W/∂αrと書くこともできます。
そこで,逆にこうした都合のいい関数Wを求めるための方程式は,
H+∂W/∂t=K=0 ,つまり,H[q,∂W(q,t)/∂q,t]+∂W(q,t)/∂t=0 で与えられると考えます。
そして,微分方程式:H+∂W/∂t=0 を解くことによって,積分定数αを含むW(q,α,t)が得られると考えることもできるわけです。
この方程式:H+∂W/∂t=0 をHamilton-Jacobiの偏微分方程式と呼びます。
特にHamiltonian:Hが時間tを陽には含まないときは,Hは固定したq,pに対しては時間的に一定となるので,H(q,p)=E (定数)と書くことができます。
Hがtを陽に含まない場合には,Noether(ネーター)の定理により,右辺の定数Eがいわゆるエネルギーであり,時間的に変化しない保存量であることはよく知られた事実です。
このとき,H(q,p)=Eにより,Hamilton-Jacobiの偏微分方程式:H+∂W/∂t= 0 はW(q,α,t)/∂t=-E (一定)となりますから,
W(q,α,t)=S(q,α)-Etと書いてよいことになります。
pr=∂W/∂qr=∂S/∂qrなので,結局H(q,∂S/∂q)=E (ただしp=∂S/∂q)と表現できて,方程式は少し簡単になります。
こうしてHがtを陽に含まない場合,波動光学からのアナロジーでWが一定の面を,ある力学的波動の位相(phase)が一定の面を表わすものであると考えてみます。
W=(S-Et)という量から,"Sと同じ単位=(エネルギー×時間)"を持つある比例定数:hcを用いて,単位のない変数(W/hc)={(S/hc)-(E/hc)}を作ります。
これを位相として,ω=E/hcを角振動数(ω=2πν)とするような波動を考えることにし,その波動を表わす量をψと定義します。
すなわち,ψ=Aexp(iW/hc)=Aexp[i{(S/hc)-ω}t]とします。
ただし,ω≡E/hcです。つまり,E=hcω=hνです。
特に1変数のみの系では,p=∂S/∂q=∇Sから,
pψ=(∇S)ψ=(-ihc∇ψ)となるので,記号的には
p~(-ihc∇)と見なすことができます。
hcをPlanck定数=(h/2π)と同一視すれば,ψは量子力学の波動関数に対応し,Hamilton-Jacobiの偏微分方程式は正にSchödinger(シュレーディンガー)方程式になります。
古典力学と量子力学との間には大きな谷間(gap)があり,それぞれが独立な"法則=公理"を持つ独立な理論なので,古典力学から何の飛躍もなく量子力学を導くことは不可能です。
しかし,20世紀初頭の前期量子論の段階では上記のような推論がなされていたと思われます。
WKB近似という量子力学の問題を解く1つの近似法:つまり,"時間を含まない定常波動関数u(x)をexp[iS(x)]なる形式で表現して近似するという方法"が準古典近似(semi-classicl approximation)という名称で呼ばれているのはこうした理由からでしょう。
ところで,上述のS(q,α)をLagrangian:Lで表わすと,
S=∫L(q,qd,t)dtと書けます。
これは,謂ゆる作用(action:作用積分)と呼ばれる量です。
つまり,Sは"系の運動はqの変分δqに対する作用Sの変分がゼロ:
δS=0 となる,またはSが停留値を取る,という条件で与えられる"という1つの基本的な"変分原理=最小作用の原理"の源となる作用関数になっています。
そこで,量子力学でFeynmanの経路積分を用いた理論展開で,時間発展の確率振幅が作用:Sによって,<qf|exp{-(i/hc)H(tf-ti)}|qi>=A∫Dqexp[(i/hc)S(q(t))]と表現されることが思い出されます。
私見では,これはDqがあらゆる分岐した経路にわたる積分であるという意味で,多世界解釈にもつながると考えているのですが,それはさておき,経路積分の意味を説明します。
この経路積分の公式は,作用SをS(q(t)) ~ Δt∑jNL[q(tj),{q(tj+1)-q(tj)}/Δt]と分割し,中間状態の射影演算子|q(tj)><q(tj)|を考えたとき,中間状態の完全性を利用すれば得られます。
中間状態の完全性とは,あらゆる座標qの全空間での"総和=積分"が1になること,∫dq|q><q|=1であることです。
よって,遷移確率振幅<qf|exp{-(i/hc)H(tf-ti)}|qi>を時間分割して<qj+1|exp{-(i/hc)HΔt}|qj>と細分化した際,各細分時刻tjにおいて,∫dq(tj)|q(tj)><q(tj)|(=1)を挿入しても結果は変わりません。
そして,各々の細分では<qj+1|exp{-(i/hc)HΔt}|qj>=<qj+1|exp{-(i/hc)p(tj){q(tj+1)-q(tj)}+(i/hc)ΔtL[q(tj),{q(tj+1)-q(tj)}/Δt]|qj>と表現できます。
ここで,qj≡q(tj),Δt≡(tf-ti)/Nであり,ti≡t0<t1<t2<...<tj<tj+1<...<tN≡tf です。
結局,遷移確率振幅は<qf|exp{-(i/hc)H(tf-ti)}|qi>=ΠjN<qj+1|exp{(i/hc)ΔtL[q(tj),{q(tj+1)-q(tj)}/Δt]|qj>となります。
この式の右辺でN → ∞とした極限が経路積分です。
そして,この経路積分の計算結果においては,被積分関数の指数関数の中で最小作用の原理を満たすδS=0 の部分の寄与が最大になります。
つまり,古典的な軌道に相当する経路が"遷移確率振幅=伝播関数(propagator)"に大部分の寄与をすることがわかっています。
これは,古典論と量子論の隙間(gap)を埋める話として一つの注目に値する論点であると考えられます。
参考文献:大貫義郎著「解析力学」(岩波書店) 並木美喜雄著「解析力学」(丸善) 深谷賢治著「解析力学と微分形式」(岩波書店)
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