再掲記事'5):ボーズ・アインシュタイン凝縮 関連
「電気伝導まとめ」では,本文内で出現した説明抜き
の専門用語で,後で詳述すると約束していたモノの
1つの「ボーズ・アインシュタイン凝縮」についても
本ブログの2006年の過去記事にあったので、それを
再掲載し,さらに追加の注釈を加えて説明とします。
残るは,「ボルツマンの(輸送)方程式」と緩和時間の
関係だけですね。
※以下は2006年10/11にアップした過去記事です。
表題 「ボーズ・アインシュタイン凝縮とゼータ関数」
今日はボーズ・アインシュタイン凝縮
(Bose-Einstein condensation)と
その評価式で現われるゼータ関数:ζとの少しの関係などに
ついて述べてみます。
非常に多数個=N個のスピンが整数のボーズ (Bose)粒子
(Boson)のみから成る系が絶対温度Tの状態rに存在する粒子
の個数:nrは,量子統計力学によれば,ボーズ・アインシュタイン統計
にしたがって,nr=1/[exp(εr-μ)/(kBT)-1] という分布式で
与えられます。
系の最低のエネルギー状態(基底状態)は,εr=0 準位ですから,
nrが負になるという有り得ない状況にならないためには,分母の
exp{-μ/(kBT)}は.常に1より小さくはならない。という必要性
から,ボーズ粒子の場合には化学ポテンシャル:μは,正(非負)で
ある必要があります
※(追注1):ちなみにスピンが半奇数のフェルミ(Fermi)粒子
(Fermion),例えば,スピンが1/2の電子のようなDirac粒子
では,「同じ1つの状態には1個のFermi粒子だけしか入ることが
許されない。」という「パウリ(Pauli)の排他原理」(禁制原理)が
あり,状態:r にあるFermi粒子の個数は nr=0,または,nr=1の
いずれかです。
統計分布もスピンが整数:0,1,2..のボーズ・アインシュタイン統計
とは異なり,フェルミ・ディラック(Fermi-Dirac)統計:
nr=1/[exp(εr-μ)/(kBT)+1] に従います。
ただし,実際にはスピン1/2の電子には,1つのエネルギー・運動量
固有状態には,スピン成分がアップ(+1/2)とダウン(1/2)の2つの
異なる状態(2自由度)があるため,電子2個まで入れます。
(注1終わり※)
さて,多数のボーズ粒子の系に戻りますが,形の状態の
エネルギー準位密度をg(ε).つまり,εとε+dεの間の
エネルギー準位区間にある状態数がg(ε)dεであるとすれば,
これの化学ポテンシャルμは,総個数がNの条件:
∫0∞[{exp(ε-μ)/(kBT)-1}-1g(ε)dε=Nから
決まることになります。
そして系の全体積をV,プランク(Planck定数) をhとすると,座標で
積分した後の半径がpの運動量空間のp~p+Δpの球殻の
位相体積要素は4πVp2dpです。
量子統計力学の意味では,位置座標qも含めた位相体積:
ΔqxΔqyΔqzΔpxΔpyΔpz=h3 当りに1つの割合で状態
が存在するため,状態密度は4π(V/h3)p2dpで
与えられますすが,自由粒子で考えるとき,
ε=p2/(2m),or p2=2mε なので.
p2dp=(2mε)1/2mdε ですから,結局,
g(ε)=2πV(2m/h2)3/2ε1/2 を得ます。
それ故,(2πV/h3)(2mkBT)3/2によって,定数:αが決定される
ことになります。
ただし,α=-μ/(kBT)と置きました。
これは,μ≦0なのでα≧ 0 です。
ここで,1/{exp(x+α)-1}
=exp{-(x+α)}/[1-exp{-(x+α)}]
=∑n=1∞exp{-n(x+α)} なる展開公式を
利用して積分を実行すると,
∫0∞dx[x1/2/{exp(x+α)-1}]=(π1/2/2)F[exp(-α)]
=(π1/2/2)∑(e-nα/n3/2)となります。
ただし,Fは,F(x)=∑(x-n/n3/2)で定義される関数です。
何故なら,∫x1/2exp(-nx)dx=-(d/dn)(π/n) 1/2
=(π1/2/2)(1/n3/2) となるからです。
そして,F(e-α)が最大になるのは,明らかにα=0のときです。
すなわちF[1]=∑(1/n3/2)=∑(1/n3/2)です。
ここで,定義によって∑(1/n3/2)がゼータ関数のお値:ζ(3/2)
に一致することを用いました。
そこで,先のαを決めるための条件式は
(2πmkBT/h2)3/2F[exp(-α)]=(N/V) となります。
そこで温度Tを下げていくとF[exp(-α)]が増加するしかない
ので,αは正の値からゼロに近づていくわけです。
しかし,これがゼロを超えて負になることはできないので,
その極限でのα=0のときの温度Tを臨界温度と呼んでTcと
書くと.(N/V)=(2πmkBTc/h2)3/2ζ(3/2)
≒2.612(2πmkBTc/h2)3/2 なる関係式が得られます。
それ故,このTcよりも温度Tが低くなれば,もはや,
(2πmkBT/h2)3/2F(e-α)=(N/V)からは物理的に意味の
ある化学ポテンシャルは見つからないことになりますね。
しかし,実は化学ポテンシャルμが負の値からゼロにをn0と
すると,n0=1/[exp{-μ/(kBT)}-1]であり.これは無限大
になるといえます。
これは,実は粒子の総数がΣn=Nであるという式の総和∑を,
積分∫dεに置換したため,準位密度を与える
g(ε)=2πV(2m/h2)3/2ε1/2がε=0 ではゼロとなり,正味では
発散項であるはずの,ε~0の
g(ε)[exp{ε/(kBT)}-1] ~ (const)ε-1/2が,積分の結果
として消えてしまうので,現実には限りなく大きくなるゼロ状態の
粒子数の項が切り捨てられたためであろう,と考えられます。
そこで,ゼロ状態の項だけを∑nrから抜き出し,残りを積分で
置き換えるという操作をやれば,結局,
n0+(2πmkBT/h2)3/2F[exp(-α)]=(N/V)=Nとなり,
これが,αを決める真の式であると考えます。
ところで,n0 が大きくなって無祖できず,Nと比較できるオーダーに
なるのは,n0=1/(expα-1) ~ Nのときですから,これは
α ~ |/Nのときです。
このときF[exp(-α)]~F[1]=ζ(3/2)≒2.612という
関係式から,n0 +V(2πmkBT/h2)3/2F[exp(-α)]
=Nは,n0=N[1-(T/Tc)3/2] となります。
例えば「ボーズ気体」などでは,臨界温度Tc から
下では多くの粒子が,なだれ的にゼロ状態へと落ち込んで
ゆくことになりますが」、これを
「理想ボーズ・アインシュタイン凝縮」と呼びます。
例えば,液体ヘリウム4Heでは,この理論での計算値
のTcは2.13Kですが,これは実際の「超流動」や
「超伝導」が起きる転移温度:2.19Kと,とても近い値です。
実際,超流動や超伝導の主因は
ボーズ・アインシュタイン凝縮である,
とされています。
先にも追記したように電子のようなスピン半奇数の
フェルミ粒子では粒子数分布はフェルミ・ディラック分布
に従うため,こうした凝縮は起きないはずですが,実際の物質
中では,陽イオンの格子振動などによるフォノンの交換に
よって電子同士に引力が働くため,くーぱー対という電子の
対が構成され.これが対粒子としてボーズ粒子となるので
低温でボーズ・アインシュタイン凝縮を起こして,そのため
電気的には超伝導が起こる主因になるとされています。
これは有名な「BCS理論」の核心ですね。
(参考文献):中村伝 著「統計力学」(岩波全書)
(以上,再掲記事終わり※)
※(追注2):極低温では液体ヘリウム4Heが,まるで生きて
てるかのように,容器の壁を上るなどの不思議な
超流動現象がありますが,ゼロ状態の凝縮による大量粒子
は巨視的には,粘性がゼロの流体となり,Landauにより提議
された2流体モデルでは十普通の粘性がある常流体部分と
粘性ゼロの超流体部分が独立に流体運動方程式に従って
運動する結果,そうした奇妙なことが起こることも
説明可能らしいです。
また,極低温でフォノン引力によって電子のクーパー
対が形勢され.この粒子対はボーズ粒子なので,結果,
低温凝縮を起こし巨視的には非回転的流体,つまり,粘性
ゼロの超流動状態の流体=超流体になって,電気的には
抵抗がゼロの超伝導体になるということが主のBCS理論
があると,先に述べましたが、南部陽一論先生はこの理論
だけでは満足せず,BCS理論はゲージ(位相)変換不変で
なくて変換で電流が生じることに着目しました。
元々はゲージ対称性の存在していた系が自発的に破れ、
その結果,出現するエネルギーゼロの
「南部-Goldstoneモード」が電子のクーパー対の状態
である,というような南部理論を提議されたということ
です。
南部さんは最近,亡くなられましたが,この物性理論での
対称性の自発的破れの概念を,素粒子論にも適用して
大きな業績を挙げられ。後にノーベル賞を受けたこと
は記憶に新しいですね。
対称性の自発的破れ自体は.物性では,よくある現象で,
例えば,低温では強い磁性を示す物体の,磁気モーメントの
主因となる電子のスピンが,常温では全く勝手な方向の
(無秩序な)状態=(エントロピー最大の平衡状態)にある
結果,空間的に等方的という対称性を持つ故に,磁性は
ゼロ(または反磁性)ですが,その系を次第に低温に冷やして
いくと,ある温度=臨界温度で急にスピンが,ある特殊な
方向に揃う(対称でなくなる),という「対称性の自発的破れ」
が生じて強い磁性を示すようになるという,相転移の
メカニズムとして物性理論では,比較的よく知られて
いた性質らしいですね。
なお,これらの話の参考文献はネットも含めいろいろ,
寄せ集めです。(注2終わり※)
※PS2:2006年の昔,office2000かXPで作った
古いバージョンのワード文章を少し修正したモノを
上げたとはいえ,あまりにも改行化け,順序デタラメ
がひどく読めるようにするのに苦労しました。
イヤ,まだダメかな?
| 固定リンク
「109. 物性物理」カテゴリの記事
- 再掲記事'5):ボーズ・アインシュタイン凝縮 関連(2019.08.01)
- 電気伝導まとめ(2)(2019.07.26)
- 電気伝導まとめ(2)(2019.07.26)
- 電気伝導まとめ(1)(2019.07.25)
- 水蒸気の比熱(2009.02.09)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント