電気伝導まとめ(1)
前回記事では素朴な疑問としてエアコン,冷蔵庫など
の仕組みに関わる話をしました。
今回,最初は,世間ではエジソンが創ったと思われて
いるかもしれないが,実際には最初に発明したのはスワン
という人物でエジソンはフィラメントとして適切な物質
の竹などを用いて実用化しただけ,という電灯・白熱電球
から始めて蛍光管からLED(発光ダイオード)まで,電流
によって発生する光(可視周波数帯の電磁波)の原理など
を考察して記事にする予定でした。
(※上記文章は後の記事で再び前書きに使用する予定)
しかし,そのために引用できる本ブログの過去記事を
検索してチェックしているうち,電気伝導に関する記事だけ
でも,自分でも,読み返すに堪えるものがかなりあると感じ
たので,まず,2006年6月中旬に連続してアップした記事を
まとめて,ほぼ丸写し,少し修正で再掲載します。
,
まずは.2006年6/15の「電気伝導(オームの法則)」,
6/17の記事:「電気伝導(つづき1)(ジュール熱)」,
そして6/19の記事:「電気伝導(つづき2)衝突の正体)」
(内容はバンド理論とフォノン)を再掲載します。
※2006年6/15「電気伝導(オームの法則)」
@niftyの物理フォーラム,と化学の広場の専用会議室:
「中高生の理科質問箱」で電気伝導について泥試合的
な論争が続いているのを傍観していますが,そもそも
初学的知識の子供に解説するだけなら,以下の程度の
説明で十分かな。。と思います。
まず,電流の定義ですが,
「電流とは電荷を運ぶキャリア(Career)という実体
(電子とか正孔とかイオンとか)によらず,単位時間
に断面積を通過する電荷量のこと」です。,
そして,通常,その単位はA(アンペア)=C/sec
(クーロン/秒)で与えられます。
普通の家庭で流れている電流は数アンペア程度で,
このとき,電荷たちの平均の移動速さは数mm/s
程度に過ぎません。
それなのに,遠くでスイッチを入れても,すぐ近くで
電灯が点くのは要するにトコロテン式で,遠くの端で
電荷が押されると次から次へと”押しくらまんじゅう”
のように押されて,近くでもすぐに遠くの端と同じ速さ
で電荷が移動するようになるからですね。
電池などの起電力を持ったポンプを閉じた回路につなぐ
と,金属でできた導線の中にも電場Eが生じます。電場E
があると,大きさeの電荷があると.力:F=eEを受ける
ことになります。
それ故,質量がmの電荷が速度vで運動するとき,その
運動はそれが電場Eの他に何の力も受けていなければ,
Newtonの運動方程式:d(mv)/dt=eEを満足する
ことになるはずです。
ところが,普通,金属の内部を移動する電荷というのは,
金属原子からの束縛をはずれたと見なしてよい自由電子
と想定されます。
電子の電荷eは負の数で,金属の中では自由電子と
いう名前は付いていますが,実はそれほど自由というわけ
ではなく.(後で詳述する予定ですが)金属原子の格子振動
(量子論的にはフォノンと呼ばれるもの)や,不純物により
散乱を受けます。
素朴な古典論のドゥルーデ(Drude)のモデルでは。この
散乱はイオン芯(原子から自由電子を差し引いた残り)との
衝突を意味します。もちろん,電子同士の衝突などは無視
できます。
,
これら散乱を受ける電子の平均の衝突までの時間
=(緩和時間)をτ(sec)と書くと,これは1個の電子が
単位時間(1秒間)に衝突する確率が1/τであることを
意味します。
1個の電子が散乱を受けると,それはどの方向に散乱を
受ける確率もほぼ同じなので,ある向きに進んでいた1個
の電子に着目すると,その向きに走る電子に関しては急に
消えたのと同じになります。
故に,現在の時刻をtとして時刻(t+Δt)に消えずに
残っている確率は(1-Δt/τ)です。そこで電子の速度を
v(t)とすると先のNewtonの運動法則は次のように変更
されなければなりません。
つまり, mv(t+Δt)=(1-Δt/τ)×
{mv(t)+eEΔt+O(Δt2)} です。
そして,この両辺をΔtで割ってΔt→0の極限を取る
と.上式右辺のΔtの2次以上の項は消えるために.
d(mv)/dt=eE-mv/τと書いてよい,ことに
なりますね。
そして,十分長い時間の後には(といってもすぐですが)
平衡に達すると,左辺の加速度項はゼロとなって,速度は
一定になる。としてよいはずです。
このときの多くの電子の平均の速度も,やはりvと書く
ことにします。そうすると,0=eE-mv/τ
⇒eE=mv/τよりv=eEτ/mです。
単位体積当りの自由電子の個数をnとすると,電流密度
(単位時間当りに単位面積を通過する電荷量):Jは,
J=nevですから,結局,J=(ne2τ/m)Eとなり,
電流密度は電場Eに比例し,その向きも電場Eと同じ,
ということになります。
この関係式:J=σE;ただしσ=ne2τ/mは電気伝導度
という形でも既にオームの法則(Ohm‘s law)と呼びますが,
より身近な形に直しておきましょう。
電荷が流れている場所の金属線(抵抗)の断面積をS,長さを
Lとします。そして,正電荷qが一様電場Eに抵抗して距離L
だけ,反対向きに移動するのに要する仕事=位置エネルギー
はqELとなりますが,これをeV=qELと書いてV=EL
のことは電圧,または電位差と呼びます、
※この電圧の単位は,V(ボルト)=J/C(ジュール/クーロン)
です。
電流Iは電流密度×断面積;I=JSですから,
先のJ=σEという形の式はI=σES=(σS/L)V,
あるいは逆に,V=I{L/(σS)}という形になります。
そこで,抵抗RをR=L/(σS)で定義すればよく知られた
形のオームの法則:V=IRが得られます。
(※過去記事(1)終わり)
※再掲過去記事第2弾です。
※2006年6/17「電気伝導(つづき1)(ジュール熱)」
「オーム@の法則」を述べたついでに,
「電気が熱に変わるのは何故か?」というジュール熱
の問題も微視的に考察してみましょう。
1つの電荷eに対する運動方程式を与えるために,
位置xにおける電位をV(x)とすると,これは単位電荷
当りのポテンシャルです。一様電場Eの向きをx軸に
取って,問題を1次元化,つまり,x座標だけで考えると
E=-dV/dxと書けます。
したがって,電場Eがあって何の抵抗もないとき
運動方程式は,電荷の質量をmv速度をvとすると
d(mv)/dt=―e(dV/dx)となります。
つまり,抵抗がないと電流を与える電荷の速度は
一定ではなくて加速されるのですね。
そして,この運動方程式の両辺にv=dx/dtを
掛けて,v(dv/dt)=d(v2/2)/dt,および,
v(dV/dx)=(dx/dt)(dV/dx)=dV/dt
なる式を用いると,d(mv2/2)/dt=-edV/dt,
つまり,(d/dt){(mv2/2)+eV}=0となり,,
保存力場に対する通常の力学的エネルギー保存則が
得られます。
左辺の(d/dt){(mv2/2)+eV}は,もちろん,
力学的エネルギーの単位時間当りの増加分ですが,これ
がゼロということは,抵抗がないときには,熱などの形
でのエネルギーの散逸(ロス)がないことを意味している
と考えられます。
しかし,実際は前記事で書いたように金属線にはゼロで
ない抵抗があり,自由電子の衝突の緩和時間をτ(sec)と
して,運動方程式は,d(mv)/dt=eE-mv/τ,
つまり,d(mv)/dt=―e(dV/dx)-mv/τです。
受ける力を表わす右辺は,位置xで決まるだけでなく
速度vに比例するマイナスの項,いわゆる抵抗力の項
を含んでいます。
力学的エネルギーの変化率の方は,やはり両辺に
v=dx/dtを掛けて求めるわけですが,今度は
(d/dt){(mv2/2)+eV}=-mv2/τと
なりますから,平衡状態,つまり加速度がゼロで
dv/dt=0の電荷速度vが一定,または電流が
一定の状態になると,d(eV)/dt=-mv2/τ
となります。,
すなわち,回路に電流スイッチが入ってから十分
な時間が経過した後にvが一定で,v{d(mv)/dt
=d(mv2/2)/dt=0 より,運動エネルギーが一定
に保たれる平衡状態になっても,位置エネルギーは,
右辺の(-mv2/τ)のような形で,いわゆる熱として
散逸して(逃げて)いくわけです。
つまり,緩和時間τで特徴付けられる材質の抵抗が
あれば,それを流れる電流を構成する電子が受ける外力
は保存力どころか位置だけの関数でさえなくて,何ら
かの原因で自由電子はデタラメな方向へ散乱され,散乱
された電子の運動エネルギーの総和という形で,力学的
エネルギーが損失をこうむることになります。
このエネルギー損失は,速度に比例する抵抗という形
で表現され,これが巨視的には「ジュール熱」と呼ばれる
ものとして現われるというわけです。
そこで,力学的エネルギーの他に,「熱エネルギー」
という形のエネルギーの存在をも考慮するなら,先の
方程式:すなわち,抵抗がないときには,
(d/dt){(mv2/2)+eV}=0によって,
エネルギーの保存を示し,抵抗があるときには,
(d/dt){(mv2/2)+eV}=-mv2/τの
形となる発展方程式は,結局,
「単位時間当りの力学的エネルギーの減少分(増加分
が熱エネルギーの増加分(減少分)に等しい.]
という「全エネルギーの保存法則(熱力学第一法則)」
を表現しているといえます。
具体的には,Eが一定のときの電位は
V(x)=-Ex+(定数)と書くことができて
d(eV)/dt=-eEvと書けます。
したがって,大きさがeの1つの電荷の単位時間
のエネルギー損失の式:d(eV)/dt=-mv2/τ
は-eEv=-mv2/τとなります。
一方,抵抗物体の単位体積当りの電荷eの個数を
nとすると,電流密度はJ=nevです。
それ故,単位時間,単位体積当りの損失は,nmv2/τ
=neEv=JEとなり,断面積がS,長さがLの抵抗
なら,その体積SLを掛けてJSLE=nSLmv2/τ
です。,
さらに,電流の定義:I=JSと電圧の定義:V=ELを
用いると,これは,IV=Nmv2/τという表式です。
ただし,NはN=nSLで抵抗中の電荷eの総数です。
そこで,抵抗内の全電荷:Q=Neを用いるなら,
「(全体積中のN個の電荷による単位時間当り全エネルギー
損失)=(ジュール熱)がIV=Nmv2/τとして与えられる。」
という表現は「(ジュール熱,または消費電力)が
IV=Qmv2/(eτ)で与えられる。」という形にも
表わされます。両辺の単位は,ワット(W)=J/secです。
(※過去記事829終了)
※なお,参考文献は,いずれもアシュクロフト・マーミン著
「固体物理学の基礎」(吉岡書店)です。
長くなったので一旦ここで終わります。
※PS:昨今というか,2012年以降は,超弦理論,ゲージ場.
量子アノマリ-,くりこみ理論とか科学記事は素粒子論
関係の記事ばかりに集中してましたが,それは,その頃
から自分で図を書いたり画像をコピーして貼り付けたり
するスキルを手に入れたからでした。
これらのトピックは,例えばFeynman図など描く必要が
あり,図抜きで済ますのは困難でしたからね。。
その点,ブログを開始した2006年ころはテキストベース,
,文字だけで表わせるようなものだけの記述に集中した
結果,素粒子理論関連は避けて,より広汎なトピックを
論じる傾向がありました。もちろん,それでも簡単な図
があった方が理解しやすいのは当然ですから,これら
にも後付けでは図を追加したりしてましたが大量に
あるので追いつかないうち,ネットの著作権意識向上
やリニューアルなどもあって,自分で撮影した写真や
自分で作成した図でさえ,挿入するのが昔より急に
むずかしくなってモチベーションも低下してます。
もっとも,当初から,数式の入った科学トピックを
書きたいならブログじゃ無理で,PDFなどにしたら。
などの多くの忠告を無視してたものでしたから,
今更文句を言っても仕方ないですが。
しかし,幸いここのココログだとかなり数式に融通
が効きました。しかも無料のココログフリーなので
急に認知症になったり,この世から消えて記事が途絶
えても当分は残っているでしょう。
それに科学記事は当初からオンライン直接書きでは
なく,ほとんどワードで原稿を作り保存してあるので
ホームぺージからコピーし直さなくても過去記事を
修正して再アップなどはできます。
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