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2019年7月26日 (金)

電気伝導まとめ(2)

電気伝導関係の再掲載過去記事の続きです。

 

すぐ前の「電気伝導まとめ(1)」では,2006年6月

中旬の電気伝導の記事を再掲載すると書きました。

しかし.最初の2つの記事で長くなり,もう1つは

単独でもかなり長いので分割しました。

 

今回は第3弾で,衝突の正体という名目でバンド理論

とフォノンを紹介する記事です。

 

※以下,再掲記事本文です。

※(2006年6/19アップ,ただし後半少し修正)

「電気伝導(つづき2)(衝突の正体)」

@nify物理フォーラムで私と一緒にサブシスを

やっている高校の先生で友人と思っている,かんねん

さんから,次のような質問を受けました。

 

「電子が金属の原子から抵抗を受ける(=衝突する)

ことが抵抗の正体である。と本には書いてありますが

この陽イオンと電子の衝突って,どんな感じなので

しょうか?というのは,衝突による斥力的イメージ

ではなく,異符号ゆえの引力的な力を想像してしまい

ます。これをどう理解したらいいのでしょうか?」

という質問でしたが,

それに対する私の回答があまりにも不親切だったので

そのフォーラムでの回答の内容を大幅に修正したもの

を以下に記述します。

 

まず,量子論で電場などの外力がない場合に,固体の

中の電子は,自由電子近似をするとしても.実は弱い

イオンの引力によって,体積Vの中に閉じ込められて

おり,Vが有限であるために1つの電子の運動量

(速度)は,どんな値でも取れるわけではなく,ある

離散的な値しか取れません。

 

そして,これら1つ1つの準位に「パウリ(Pauli)

の(排他)原理」と,スピン自由度によって下から順に

2つずつ電子を詰めてゆき,丁度,その固体中の電子

が全て収まったときの,最大のエネルギーをフェルミ

(Ferm)エネルギーと呼び,この最高準位をFermi準位

と呼びます。

 

そうして,この電子準位の全体を運動量ベクトル,

または,それをPlank定数:hで割った波数ベクトル

の集まった3次元空間で考えると1つの球になります

が,これをFermi球と呼びます。

 

そして,球ですから球対称であるが故に電場のない

状態では平均の運動量はゼロです。

つまり,電場がなければ自由電子の平均速度もゼロ

なので電流もゼロである。ということができます。

 

しかしながら,固体の中の電子を自由電子で近似する

のには無理があり,格子構造を持った束縛電子で遮蔽

された周期的な陽イオンの引力ポテンシャルを受ける

電子波であることを考慮する必要があります。

 

周期的引力ポテンシャルの摂動を受けるため,電子

が取るエネルギー準位は,その値を取ることができる

「許容帯」と呼ばれるエネルギ-のバンド領域と,

その値を取ることは不可能な「禁止帯」と呼ばれる

小さなギャップ領域の繰り返し,という形態を取る

ことになります。

 

そうした自由電子に代わる固体の結晶格子中の電子

を,それを発見した人の名を取って「ブロッホ(Bloch)

電子」と呼び.その理論を「バンド理論」といいます

 

バンド理論では,固体中のBloch電子を下の準位から

順にFermi準位に達するまで,幾つかの許容帯の中に

詰めてゆきます。

 

そうすると1つのケースとしては,幾つかのエネルギー

バンドは完全に占有され,他の全ては空になるような形

になることがあります。

 

このとき,許容帯のうち全てが電子で占有されたバンド

を「充満帯」または「価電子帯」と呼びます。そして,

この全充満帯の頂点と,電子が全く空の非占有許容バンド

までの禁止帯領域の幅をエネルギーの「バンドギャップ」

と呼びます。

 

Fermi準位付近の電子のエネルギー値は絶対温度Tに

ボルツマン(Boltzmann)係数kBを掛けた値:(kT)程度

なので,このギャップが(kT)に比べて大きい場合には,

すぐ上の空の許容帯である,占有可能な空きのある許容帯

(=伝導帯)までジャンプすることはできませんから,この

固体は「絶縁体」となります。

 

一方,バンドギャップが小さい場合,ある温度では充満帯

から空の許容帯へとジャンプして,その電子は伝導可能と

なり,他方,充満帯の方ではジャンプして欠けた電子の穴が

「正孔」という正電荷のキャリアになる,などのために,

この固体は「(真性)半導体」となります。

 

もう1つのケースは,Fermi準位が許容帯の途中になる場合

で,このときは,その許容帯の中の全部の準位が占有されて

いるわけではなく,部分的に占有されていることになります。

そこで,その中では,その準位付近の電子は自由に動けるので

いわゆる「電気伝導」が可能になります。

 

このとき,部分的に占有されている許容帯を伝導体と呼びます。

そして,こうしたケースの固体を「導体」と呼びます。

金属はこれに属しています。

 

バンド理論によると,電子の占有を許された準位の数は,どの

許容帯でも同一で,(固体中の格子の総数)=(構成原子の全個数)

をNとすると,スピンの2つの自由度のため,結局,1許容帯当り

で占有可能な準位数は2Nという偶数になります。

 

一方,1個の原子当りの価電子の個数が偶数の元素では,それ

を2nとすると,価電子の数は全体で2nNとなり,この総電子数

を許容帯の占有可能な準位数2Nで割り算すると商がnとなって

余りがゼロですから,許容帯には電子が充満し充満帯となり,空き

準位がないため身動きできません。

 

しかも,その上には禁止帯というエネルギーギャップがあるので,

絶縁体になるか,半導体になるかのいずれかで,これらの固体は

非金属です。

 

しかし,奇数の価電子を持つ元素の場合,これは一般に金属です

が.この場合は総電子数を2Nで割ったとき余りがあり一番上

のエネルギーではバンドが充満しないで,ほぼ半数の空き準位

がある,という部分的占有状態の伝導帯となり,自由に動ける

Bloch伝導電子となって金属導体になるというわけです。

 

このとき,エネルギー領域のバンド化による自由電子

からBloch電子への変化は,一見したところ,電子の質量

がmから有効質量と呼ばれるmに変わる効果だけで表現

可能で,実は周期的クーロン(Coulomb)ポテンシャルが全く

規則的に並んでいて,しかも止まっているだけという状況

ですが,これでは散乱や衝突などは全く起きない。

と考えられます。

 

つまり,それだけでは依然として緩和時間が∞のまま

なので,素朴な古典論で考えたような電子がイオン芯と

衝突して散乱されるという描像は量子論的には誤り

ということです。

 

すなわち,あるエネルギーを持ったBloch電子というのは

自由電子とは異なり運動量固有状態ではありませんから

空間的には一定速度で運動しているわけではありません

が,とにかく定常状態であるということが重要です。

 

それ故,古典的に意味のある運動量や速度の「期待値」

は時間的に一定である,というわけです。つまり,自由電子

と同じように,古典的描像ではBloch電子も一定速度で運動

しているわけですから,古典的Drudeの理論のように,イオン

または,その引力ポテンシャルで散乱されるわけではない,

ということになるのです。

 

そして電子質量をmとするとき,自由電子ではエネルギー

がE=p2/(2m)なので,これを運動量pで2回偏微分すると

(1/m)になりますが,Bloch電子でも(本当は自由粒子では

ないですが),そのエネルギーを運動量pで2回偏微分した

ものを(1/m)として mを有効質量と定義します。

 

すると,電場Eがあるときの運動方程式は散乱がない

なら,d(m)/dt=eとなり,有効質量m

「電子の慣性質量」と同じ役割を果たすという意味が

あります。

 

したがって,例えば電気伝導度(抵抗率の逆数)が

自由電子近似の古典的理論値:σ=ne2τ/mから

σ=ne2τ/mに変更を受ける意味があります。

 

そして電場Eがかかると,Fermi球の原点がずれて

波数について球対称でなくなるので,電流がゼロで

なくなりますが,それは電子の電荷をeとするとΔt

の後に運動量としてeΔtだけずれる,ということ

です。

 

eは負ですからと反対向きにずれるのですが,それ

だけでは時間tと共に電子の速度は増加しますから

一様速度にはならず,次第に加速されてゆきます。

やはり,平衡に達して一様速度になるためには何らか

の衝突,散乱が必要です。

 

衝突が起こるというのは,量子論では電子は波であり

電子波束が一方向に進行している状態ではなくなって

その方向に影響をこうむることを意味します。

 

これは

「並んでいる陽イオンが熱などにより振動する。

つまり,格子振動する。(逆に振動こそが熱かも。。)」,

あるいは「格子欠陥がある=不純物効果がある。」

というような不規則な変化がある場合です。

これがないとBloch電子が散乱されて一様速度の

方向が変わるようなことはないはずです。

 

量子論的には,電子波が主に「陽イオンの

格子振動=フォノン(phonon;音子)と衝突する

のが散乱の原因でとされます。

結局,結晶格子にある陽イオンが単に並んで止まって

いるだけでなく時間的に変動することによりイオン

の位置が規則的配列からずれ,その振動により電子

がその進路を曲げられると見るわけです。

 

ただし,その効果が質問にあった,引力のためで

あるか?それとも斥力のためであるか?

については私にも確かなことは言えません。

 

ただ,電気的に中性のフォトン(光子;photon)

と電子が衝突するCompton効果のアナロジーで

 

電磁場を調和振動子の集まりとして量子化した

フォトン(光子)と同じように,固体内の格子振動

と呼ばれる陽イオンの振動(波動)を量子化した

フォノン(音子)が,電子と衝突する散乱という

くらいの参考書で見たか,誰かに教わったかの

漠然と認識があるだけです。

(※もっとも電子とフォノンの衝突はCompton

散乱のような弾性散乱ではなくエネルギー・

運動量が保存されない非弾性散乱のはずですが。。)

 

例えば極低温で電子と電子が引き付けあって

クーパー(Cooper)対という対を作り,結果,

電子対共鳴としてスピンが整数のBose粒子となり

「Bose-Einstein凝縮」を起こして超伝導体を構成

するという「BCS理論」という理論がありますが,

元々,電子間には本来,電気的なCoulomb斥力が働く

はずですから引力で対を作るというのは不思議です:

 

一方,現在では電気力:静電Coulomb相互作用は

量子論的には荷電粒子間で仮想フォトン(スカラー

光子)を交換する結果で生じる.というのが

量子電磁力学の理論からの帰結ですが,

これのアナロジーで固体の結晶格子内の電子間の

引力,斥力はフォノンの交換により生じるとされて

います。

 

特に,固体内で低温ではフォトン交換による電気的

なCoulomb斥力を,フォノン交換による引力が上回る

ようになる結果,Cooper対という電子対ができると

考えられています。

 

言いかえると,Coulombポテンシャルが格子の

フォノンによって遮蔽されて斥力から引力へと

変わったという描像です。

 

このようにフォノン(格子振動波)をフォトン(電磁波)

のように粒子性を持った量子として吸収,放出したり

散乱されたりするもとして扱うのです。

 

 こうして,とにかく電子の衝突,散乱があれば古典論

のDrude理論のイオン芯との衝突でなくても有限な

緩和時間τを定義することができますね。

 

実際には,この緩和時間は,運動量や温度の関数であり,

詳しくは「Boltzmannの輸送方程式」という偏微分

方程式の1つの項で,緩和時間という量を挿入,定義

することに従って決まります。

 

私も,まだアシュクロフト・マーミン著(吉岡書店)

「固体物理学の基礎」の全4巻のうちの2巻目の途中

まで読んだところで中断していて,把握できてない知見

が多々あり,今はこの程度の説明が限界です。

(※過去記事(3)再掲載終わり)

 

なお,本文に,出てきた「ボルツマン(輸送)方程式」

と緩和時間の関係や「ボーズ・アインシュタイン凝縮」

については,さらに過去記事のチェックも含め詳細説明

を追加する予定です。

 

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