光の量子論1
※今回は,長年の糖尿病の末に心臓病となり,
2007年4月に心臓手術を受けて,私が心不全
の障害者になった頃より,約1年前のまだ普通
に仕事をしていて,ブログを始めた2ヶ月後の
2006年5/28頃の読書ノートからです。
2019年の今は新しく継続的に本を読んでノート
にまとめる,という作業は,視力の関係で困難と
なってきていますが,本を読める程度の視力が
あった2016年頃までは新しいノートも続々と
できていました。(※ 私の本格的に読んで理解
しようとする行為は,まさに写経ですから。※)
ブログを始めた56歳の2006年3月以前に作成
したノートたちの回顧録だけじゃなく,それ以後に
好奇心で,さらに読み学んだことも書いてきました。
まだ,命があって,機会があればこれはと思うモノ
については,またブログで回顧したいと思います。
第1章Planckの放射法則とEinstein係数
- 1.1 空洞内の場のモードの密度
電磁放射は,空洞内に閉じ込められているものと
考えると好都合です。
すなわち,理論的な扱いでは,対象空間を有限範囲
に制限することが役に立ちます。
ただし,これは方便です。一般に,計算結果が空洞
の大きさ,形,性質に依存することはないからです。
そこで,対象を一辺がLの立方体空洞に選んでいい
です。そして,空洞の壁は完全な導体であるとすると,
電場Eの接線成分はゼロというk境界条件を満たす
べきです。(さもないと壁に電流が流れてしまう
からです。)
Planckの法則は,温度Tで熱平衡になっている
空洞内部の電磁放射のスペクトル分布を表わした
ものです。
この放射は黒体放射(黒対輻射)と呼ばれています。
さて,真空中の電場Eは,光速をcとすると,
それは,
波動方程式:∇2E=(1/c2)(∂2E/∂t2)(1.1)
とMaxwell方程式,および,横波条件:
∇E==0.(1.2)を満たします。
境界条件を満たす上記方程式の解を,
E(r,t)
=(Ex(r,t),Ey(r,t),Ez(r,t))
と書くと,成分は次のように表わされます。
Ex(r,t)
=Ex(t)cos(kxx)sin(kyy)sin(kzz)
Ey(r,t)
=Ey(t)sin(kxx)cos(kyy)sin(kzz)
Ez(r,t)
=Ez(t)sin(kxx)sin(kyy)cos(kzz)
(1.3) です。
ただし,
E(t)=(Ex(t),Ey(t),Ez(t))
は,位置rには無関係な時間依存ベクトルです。
そして,波動ベクトル:k=(kx,ky,kz)
は,境界条件故に次の成分を持ちます。
kx=πνx/L,ky=πνy/L,
kz=πνz/L.(1.4)
;νx,νx,νz=0,1,2,..(1.5) です。
そして,整数:ν=(νx,νy,νz)の成分は
3つのうちの2つがゼロだと無意味なゼロ解
となるので,1つの成分しかゼロになることが
できない,という制限を持ちます。
さらに,∇E==0.(1.2)という条件は,
解に,kE(t)=0.(1.6)という束縛条件
を与えます。これはE(t)がkに垂直である
という条件であり,それ故,kが決まると,
これに対してE(t)には特別な方向が存在する
ということになります。
(kに垂直な2つの偏り方向です。)
整数の組:(νx,νy,νz)の各々は,空洞内
の放射場の1つのモードと定義されるモノを
定めますが,2つの偏りを考慮すると,この1つ
のモードには2つの自由度が対応します。
電磁場の励起は全て,これらのモードの場の
線型和で表わすことができます。
ここで,求めたいのは,波動ベクトルkの大きさ
がkとk+dkの間にある場のモード数を
与える式です。
これは丁度半径kとk+dkで囲まれた
8分球殻内の格子点の数に等しいはずです。
そこで,求める個数は,
(1/8)(4πk2dk)×(π/L)-3×2 .(1.7)
と書けます。
場のモードの密度:ρkdkは,上述の範囲内
に,その波動ベクトルを持つ空洞の単位体積当り
のモード数として定義されます。
よって,(1.7)から,ρkdk=(k2/π2)dk.(1.8)
となります。これは一般に成立する式であり,これ
を導く際に用いた特殊な空洞の実体とは無関係です。
一方,角周波数ω=2πνは,波数k=2π/λ,
および,光速c=νλと合わせてω=ck.(1.9)
なる関係があります。
それ故,ωとω+dωの間にあるモードの密度
ρωdωを,(1.8)のρkdk=(k2/π2)dkから
求めると,ρωdω={ω2/(π2c2)}dω.(1.10)
と変換されます。
こうして,体積Vの中のモードの総和,Σk
を積分:∫(Vk2/π2)dk,あるいは,
∫{Vω2/(π2c2)}dω.(1.11)に置換して
いいことになります。
- 1.2 場のエネルギーの量子化
次に,第2段階として,温度Tの各々の場の
モードに蓄えられたエネルギー量を決定します。
電場の時間依存性は,(1.1)の波動方程式:
∇2E=(1/c2)(∂2E/∂t2)に,(1.3)の
モード解を代入し.ω=ckを用いることで得られ,
d2E(t)/dt2=-ω2E(t).(1.12)となります。
これの各周波数ωが正と限定した解は次の形です。
E(t)=E0exp(-iωt) .(1.13)
※(注:1.1):(1.13)は数学的で形式的な複素表現の
解です。これとは独立にE0exp(iωt)なる解も
あります。
しかし,もちろん,現実の電場は実数であるべき
ですから.E0exp(-iωt),E0exp(iωt)という
独立解の代わりに,それらの線型和で実数となる
独立解:E0cos(ωt),E0sin(ωt)を採用すべき
とも考えられますが,必要なら適宜実部を取ると
して,この形のまま,複素電場ということで議論
を先に進めます。(注:1.1終わり※)
ところで,古典電磁気学によれば,
時刻tに空洞内の電磁場が持つエネルギー
は,(1/2)∫(空洞)(ε0E2+B2/μ0)dV (1.14)
で与えられることがわかっています。
ただし,E,Bはそれぞれ実電場,実磁場であり,
ε0,μ0は,それぞれ,真空の誘電率,透磁率です。
そして,これら真空の誘電率,透磁率は,光速cと,
c=1/(ε0μ0)1/2>(1.15)なる関係にあります。
今,考えている場のモードについての複素電場
はモード解(1.3)において,その時間依存の係数
が,(1.13)の]複素解E(t)=E0exp(-iωt)と
いう形で与えられる,とします。
振動の1サイクル:T=2π/ωの間のエネルギー
の変化は,一般に測定には影響されないので,便宜上,
振動の1サイクルについて場のエネルギーを平均
したものを,場のエネルギーrとして採用すること
にします。
ここで,必要な次の定理を与え,証明しておきます。
※[サイクル平均定理]:
exp(-iωt)の形で時間変動する2つの複素数
をA,Bとすると,A,Bの実部の積を振動の
1サイクルについて平均したものは.この平均
を記号:< >で表わすと,
<(ReA)(ReB)>=(1/2)Re(AB*)(1.16)
である。
(証明):A0,B0を実数として,
A=A0exp(-iωt),B=B0exp(-iωt)と
おくと,ReA=A0cos(ωt),ReB=B0cos(ωt)
なので,(ReA)(ReB)=A0B0cos2(ωt)です。
故に,1周期:T=ω/(2π)についての平均は,
<(ReA)(ReB)>
=(1/T)∫0T[(ReA)(ReB)]dt
=(A0B0/T)∫0T[{1+cos(2ωt)}/2]dt
=(A0B0/T) [t/2+sin(2ωt)/(4ω)]0T
=A0B0/2 となります。
一方,AB*=A0B0ですから,結局,
<(ReA)(ReB)>=AB*/2 を得ます。
(証明終わり)
さて,真空中の磁場Bは,電場Eと次の
関係式:∇×E=-∂B/∂t.(1.17)を
満たします。
そして,モード解(1.3)を再掲すると,
電場:E=(Ex,Ey,Ez)の陽な形は,
Ex=Ex(t)cos(kxx)sin(kyy)sin(kzz)
Ey=Ey(t)sin(kxx)cos(kyy)sin(kzz)
Ez=Ez(t)sin(kxx)sin(kyy)cos(kzz)
です。
また,Bの時間依存部分:B(t)は,Eと同じ
モードでは,B(t)=B0exp(-iωt)の形である
はずなので,∂B/∂t=-iωB を満たします。
それ故,このEの具体的な形から,∇E=0は,
kxEx(t)+kyEy(t)+kxEz(t)=0
を意味します。
一方,∇×E=-∂B/∂tのx成分は,
∂Ez/∂y-∂Ey/∂z=-∂Bx/∂t
ですが,これは,
(kyEz(t)-kzEy(t))
×{sin(kxx)cos(kyy)cos(kzz)}
=-∂Bx/∂t を意味します。
そこで,電場,磁場の時間係数部分:E(t),
B(t)のみに着目すれば,∇E=0,
および,∇×E=-∂B/∂tは,
それぞれ,kE(t)=0,および,
k×E(t)=-∂B(t)/∂t と読み換
えられます。これらについては前にも指摘
していますが,具体的に検証しました。
ここで,kE0=0より,kとE0は直交して
いるため,|k×E0|=kE0です。
また電場と磁場の時間依存性の具体形:
E(t)=E0exp(-iωt),および,
B(t)=B0exp(-iωt)を考慮します。
すると,k×E(t)=kE0exp(-iωt),
=-∂B(t)/∂t=iωB0exp(-iωt)
となりますが,この等式の実電場,実磁場
の意味での対応を書き下すと,,
kE0cos(ωt)=ωB0cos(ωt),および,
-ikE0sin(ωt)=iωB0sin(ωt)
です。
したがって,振幅の比較では,
kE0=ωB0なる関係式を得ます。
それ故,B0=(k/ω)E0
=E0/c=(ε0μ0)1/2E0.(1.18)です。
すなわち,振幅についてB02/μ0=ε0E02
なので,B2/μ0=ε0E2と結論されます。
つまり,場のエネルギーへの電場と磁場の
寄与は全く同じです。
以上から,場のサイクル平均エネルギーは,
<(1/2)∫(空洞)(ε0E2+B2/μ0)dV>
=(1/2)∫(空洞)ε0|E(r,t)2|dV.(1.19)
となることがわかります。
ただし,ここでのE(r,t)は実電場ではなく
複素電場を意味します。
※ここでPlanckの量子仮説を導入します。
(1.13)のE(t)=E0exp(iωt)のE0は,どの
ような大きさでもいいので,古典論では(1.19)
で与えられる場のエネルギーは,正でありさえ
すれば,どんな値でも取ることができます。
しかし,電場E(t)は調和振動子の方程式:
d2E(t)/dt2=-ω2E(t)を満たしていて,
これは,量子論では調和振動子のエネルギーは,
En=(n+1/2)hcω(n=0,1,2.).(1.20)
という離散的値しか取ることができません。
そこで,電磁場を各モードが調和振動子であり
電磁場全体は振動子の集合体であると見なして
量子化すると,(1/2)∫(空洞)ε0|E(r,t)2|dV
=(n+1/2)hcω.(1.21)と書けます。
この条件は,Eの振幅E0が取り得る大きさを
制限します。しかし,当分は電磁場は量子化せず,
半古典的に扱い,後の第4章から全体を量子力学
の系として扱いに戻ることにします。
ここでは,Planckの法則の説明に必要なので,
量子論的議論を続けます。
n=0のときの基底状態でのエネルギー:hcω/2
は,零点エネルギーといわれます。
また,モードの電磁エネルギーが.n番目の
En=(n+1/2)hcωにあるときには,第n励起
状態にあるといいます。
量子化された場理論では,量子数nが1だけ
増加(減少)したときには光子が1個生成(消滅)
したといわれます。
- 1.3 Planckの法則
温度がTで熱平衡にあるときに.モードの振動子が
第n励起状態に熱的に励起されている確率をPnと
すると,これは,通常のBoltzmann(ボルツマン)因子
を用いて,Pn=exp{-En/(kBT)}
/[Σnexp{-En/(kBT)}].(1.22)で与えられる
と考えられます。
これにEn=(n+1/2)hcωを代入して.
U=exp{-hcω/(kBT)}.(1.23)とおけば,
分子,分母でhcω/2に関わる項は相殺されて
Pn=Un/(Σn=0∞Un) (1.24)と書けます。
ω>0で,U=exp{-hcω/(kBT)}<1なので、
Σn=0∞Un=1/(1-U).(1.25)となりますから,
Pn=(1-U)Un.(1.26)を得ます。
そこで,温度Tにおける平均光子数(励起準位数)
<n>は,<n>=Σn(nPn)=(1-U)Σn(nUn)
=(1-U)U・(∂/∂U)[ΣnUn]
=U/(1-U).(1.27)です。
これに,U=exp{-hcω/(kBT)}.を代入して,
<n>=1/[ exp{hcω/(kBT)}-1](1.28)
を得ます。この注目すべき結果が,
「Planckの熱励起関数」と呼ばれるものです。
ここで,(1.18)式のωに対するモードの密度:
ρωdω=ω2dω/(π2c3)と,上記の(1.28)から
零点エネルギーを無視して,温度Tでの平均の
電磁エネルギーは<n>hcωであるとすると,
温度Tでの平均の電磁エネルギー密度を,
WT(ω)dωと定書くとき,これは,
WT(ω)dω=<n>hcωρωdω
=<n>hcω3dω/(π2c3)であり,
結局,,
WT(ω)dω={hcω3/(π2c3)}dω
/[exp{hcω/(kBT)}-1].(1.29).
となります。
これが放射エネルギー密度: WT(ω)に
対する有名な「Planckの法則」です。
Planckの法則は高温と低温では少し簡単な
形になります。
まず,(kBT)>>hcωのときは,
WT(ω)~ ω2kBT/(π2c3).(1.30)です。
これは,1900年にRaylei(レーリー)によって
導かれた放送であり,h→ 0 の極限です。
一方,(kBT)≦hcωのような低温では,
WT(ω)
~{hcω3/(π2c3)}exp{-hcω/(kBT)}
(1.31)となります。これはWienの公式です。
(1.29)をωで微分してゼロと置きます。
0={hc/(π2c3)}
(-{hcω3/(kBT)}exp{hcω/(kBT)}
+3ω2[exp{hcω/(kBT)}-1])
/[exp{hcω/(kBT)}-1]2.です。
故に,{3-hcω/(kBT)}exp{hcω/(kBT)}
=3で,これが成立します。
よって,これはhcω/(kBT)~2.8で成立します。
それ故,hcωmax~2.8kBT.(1.32)を満たすωmax
で,エネルギー密度分布が最大になります。
これをWienの変位則といいます。
空洞内の光子(放射電磁波)の全エネルギー密度
(単位時間,単位面積当りの放射エネルギー)は,
∫0∞WT(ω)dω=∫0∞dω({hcω3/(π2c3)}
/[exp{hcω/(kBT)}-1])
={kB4T4/(π2c3hc3)}
×∫0∞[x3/{exp(x)-1}]dx
=π2kB4T4/(15c3hc3).(1.33)となります。
※ここで,ゼータ関数の考察から,
∫0∞[x3/{exp(x)-1}]dx=π4/15となる
ことを用いました。
放射の全エネルギー密度がT4に比例する
というのは1879年に定式化された,
Stephan^Boltzmann(ステファン・ボルツマン)
の放射法則です。
ET(r,t)を空洞内の放射場の全てのモード
から成る温度Tの全電場とすると,
∫0∞WT(ω)dω
={1/(2V)}∫(空洞)ε0|ET(r,t)|2dV
(1.34)が成立しています。
(参考文献):Rodney.Loudon著
(小島忠宣・小島和子共訳)「光の量子論第2版」
(内田老鶴舗)
※例によって参考文献とか言いながら,元の著書
そのままの丸写しじゃないか。との批判がある
かも知れませんが,まあ,私自身の自己満足の
ウェブ日記でもあり,それでも,この種の専門書,
はそのまま読んでも浅学者には意味不明の不親切
な箇所がありがちで,私としては,そこを自分なりに,
わかりやすく書き下したつもりです。
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