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2019年8月 3日 (土)

ボルツマン方程式と緩和時間

表題のテーマについて詳細に説明すると約束して

いましたが,これについても本ブログの2008年に

関連の過去記事があったので,今回はこれらの記事

を再掲載することから始めます。

 

※以下,まず,再掲記事第1弾:2008年11/2にアップ

した古典統計力学においての考察記事です。

 

表題「ボルツマン方程式とH定理」

 

今日は,不可逆過程の要因解明の関連で.

「ボルツマン(Boltzmann)方程式」と

「ボルツマンのH定理」について述べたい

と思います。

 

 まず,質量がmで全分子数がNの気体が速度

v+dvの間にある粒子数の分布をf()d

します。

 

簡単な考察によって,絶対温度Tで熱平衡状態に

ある場合,f()はMaxwell-Boltzmann分布,つまり,,

f()=N[m/(2πkBT)]3/2exp[-m2/(2kBT)]

に従うことがわかります。

 

これは,∫f()d=Nと規格化しています。

 

次に,同じ気体分子が非平衡状態にあるとして,

その分布関数を位置と速度,および,時刻tの

関数としてf(r,,t)と表記します。

 

つまり,時刻tに+d,+d

ある分子数をf(,,t)dとします。

これも,∫f(,,t)d=Nと規格化して

おきます。

 

 このとき粒子の衝突を無視した自由運動による

各位置の近傍での粒子数の保存を示す連続の方程式

は,∂f/∂t+∇f=0 となります。

 

これはリウビル(Liouville)の方程式を分布関数で

与えたものとなっています。

 

 しかし一般に非平衡状態では衝突による粒子数変化

による「湧き出し項」として.衝突項が存在して連続

の方程式は∂f/∂t+∇f=(∂f/∂t)coll

なるはずです。

これを「ボルツマン(Boltzmann)(輸送)方程式」

と呼びます。

 

そして,ある時刻tに速度’と1’をもつ粒子対が

衝突して単位時間に速度1との粒子対となって,

+d,11+d1領域に

入ってくるプロセスの頻度を,

σ(,1|’,1’) とします。

 

これと全く逆に,+d,11+d1領域

から出て行くプロセスの頻度を

σ(’,1’|,1) とします。

 

すると,衝突(湧き出し)項は,

(∂f/∂t)coll

=∫σ(,1|’,1’)f(r,’,t)

×f(,1’,t)d1’d1

-∫σ(’,1’|,1)f(,,t)

×f(,1,t)d1’d1

になると考えられます。

 

 ところで力学の時間反転に対する対称性

から,1から’と1’に変わる頻度は,

’と-1’から-と-1に変化する頻度

に等しい。ということがいえます。

 

つまり,σ(’,1’|,1)

=σ(-,-1|-’,-1’)

と考えられます。

この等式を「衝突数算定の仮定」といいます。

 

 さらに座標軸の向きを逆転させても,こうした

プロセスの頻度は同じと考えられるので,

σ(-,-1|-’,-1’)

=σ(,1|’,1’) 

も成立するはずです。

 

そこで,結局

σ(,1|’,1’)=σ(’,1’|,1)

としてよいと考えられます。

 

 ここで略記法として,

f=f(r,,t), f’= f(,’,t),

1=f(,1,t),f1’≡ f(,1’,t)

と置くことにすれば,

衝突項は,(∂f/∂t)coll

=∫σ(,1|’,1)( f’f1’- f f1)

1’d1’と簡単になります。

 

気体分子の衝突は,弾性衝突と考えてよいので,

衝突1の前後でエネルギーも運動量も保存されると

考えられるため,1’+1’かつ,

2+v12=v’2+v12 以外の場合には.

σ(,1|’,1)=0 です。

 

 Boltzmann方程式が「不可逆過程」を記述している

ことを示すために,ここで「ボルツマンのH関数」

という関数:Hを.

H(,t)=∫f(r,,t)logf(r,,t) d

で定義します。

ここでlog=ln (自然対数)lnを意味します。

 

 このとき,∂H/∂t=∫(∂f/∂t)(logf+1)d

と書けますが,これにボルツマン方程式:

∂f/∂t+∇f=(∂f/∂t)coll を代入すると,

∂H/∂t=∫(logf+1)[-∇f+(∂f/∂t)coll ]

=-∇[∫∇(flogf)d]

+∫(logf+1)(∂f/∂t)coll

となります。

 

この右辺で,1×(衝突項)の部分の積分は,

∫(∂f/∂t)coll

=∫σ(,1|’,1)( f’f1’- f f1)

1’d1’です。

 

これは,σ(,1|’,1)の,

,1,’,1’の粒子交換に対する対称性

と.( f’f1’- f f’)の交換反対称性から,

ゼロとなります。

 

したがって,Hの流れとして

H∇(flogf)dを定義すると,

∂H/∂t+∇H

=∫[(logf)(∂f/∂t)coll]d

となります。

 

これは,ボルツマンのH関数の.流出入以外の

正味の生成である,dH/dt=∂H/∂t+∇H

が,∫[(logf)(∂f/∂t)coll]dで与えられる

ことを示しています。

 

そして,∫[(logf)(∂f/∂t)coll]d

=∫[(logf)σ(,1|’,1)( f’f1’- ff1)]

1’d1’です。

 

この式の右辺は,

∫[(logf1)σ(1,|1’,’)

×( f1’f’- f1 f)]d1’d1’,

∫[(logf’) σ(’,1’|,1)

×( f f1-f’f1’)]d1’d1’,

∫[(logf1’)σ(1’,’|1,)

×( f1 f-f1’f’)]]d1’d1

の全てと等しいことになります。

 

しかも対称性からこれらのσは全て等しいので

簡略してσ(,1|’,1’)を単にσと

略記することにします。

 

すると,∫[(logf)(∂f/∂t)coll]d

=(1/4)∫[σ( f’f1’- ff1)

×(logf+logf1-logf’-logf1’)]

1’d1

=(1/4)∫[σ( f’f1’- ff1)log(ff1/f’f1’)

1’d1

と書けることになります。

 

ところが,σは衝突頻度ですから,当然σ≧0 であり

しかも,(x-y)log(y/x)≦0 ですから,結局,

dH/dt=∫[(logf)(∂f/∂t)coll]d≦0

が示されたことになります。

 

つまりボルツマンのH関数は時間と共に,常に一定.

または,減少する,ということが示されたわけです。

 

こうして,時間反転不変=可逆な力学法則から,

どういうわけか不可逆変化が導かれました。

これを,「ボルツマンのH定理」といいます。

 

しかし,これに対しては,

「ロシュミット(Loschmidt=の逆行性批判」という

有名な反論があります。

 

すなわち,「ある瞬間に時間的変化を反転する,

つまり全粒子の向きを逆転させると逆にHは過去

に向かって減少する,または未来に向かっては増加

することになる。」という反論です。

これは,まことにもっともな話です。

 

こうしたさまざまな反論に悩んだ末に,とうとう

ボルツマンは自殺に追い込まれてしまったのです。

 

今考えると,実はH定理は確率法則による定理で

あり,例えば衝突頻度σに対して「衝突数算定の仮定」

が導入されています。

 

既に,「速度空間の大きい体積の方には,小さい体積

よりも粒子数が多いはずである。」などの等重率の原理

のような確率的構想が入っていて,単純な可逆的力学

法則からの確率概念的な飛躍があることに気づきます。

 

というわけで,確率法則としてボルツマンのH定理

の主張は正当である,と認めて問題ないと思います。

 

ところで,H関数は非平衡状態に対して与えられたもの

ですが,熱平衡状態は∫[(logf)(∂f/∂t)coll]d=0 ,

つまり,ff1=f’f1’であること,に対応します。

 

そして,このときはfをで積分したものが,速度vに

対するMaxwell-Boltzmann 分布を与えます。

 

平衡統計力学においてのみ定義され,数式的に

与えられるエントロピーSを計算すると,

これは,ボルツマンのH関数と.

S=-kB∫H(,t)d+(定数) という関係

にあることがわかります。

 

そこで、エントロピーの概念を拡張して,非平衡状態

でもエントロピーSをS=-kB∫H(,t)dで定義

すればよいのでは? と考えることができます。

 

「孤立系=(構成粒子の流出入のない系)では.

エントロピーは常に増加する。」という熱力学第2法則

は,平衡状態に対するボルツマンのH定理の言い換えに

過ぎない,ということにもなります。

 

(参考文献):

北原和夫 著「非平衡系の統計力学」

(岩波基礎物理学シリーズ)

エリデ・ランダウ 著「統計物理学」(岩波書店)

テル・ハール「熱統計学Ⅰ」(みすず書房)

 

(以上,再掲記事(1)終わり※)

 

(※次に,再掲記事第2弾 2008年11/8アップ)

表題「量子的ボルツマン方程式」

 

「古典的気体分子」ではなくて「金属内の自由電子」

という量子的”フェルミ気体“にボルツマン方程式;

∂f/∂t+∇f=(∂f/∂t)coll を適用すること

を考えてみます。

 

c=h/(2π)とすると,波数の電子波束の速度

=(群速度)は,k=(1/hc)∂εk/∂であり.の時間変化

は,外力として電場があるときには電子の電荷をe(<0)

として,d/dt=ehhcとなります。

 

そして,波数がの電子波束をフェルミ粒子として,

その分布関数をfkとすると,

「量子的ボルツマン方程式」は,

∂fk/∂t+k∇fk(∂fk/∂)=(∂fk/∂t)coll

となります。この左辺の第3項は,電場による波束の変化、

つまり,運動量;=hcの時間的変化による分布の変化

を示しています。

 

波数:’+d’と1’+d1’の間の電子波束対

が衝突して,単位時間に波数:1の波束対となり,

+d,11+d1領域に入ってくる散乱

の確率を,σ(,1|’,1’)d1’d1

とし,これと全く逆に+d, 11+d1

領域から出て行く散乱の確率を

σ(’,1’|,1)d1’d1

とします。

 

気体分子運動論のときと同様に,f=fk ,f1=fk1,

f’=fk’,f1’=fk1’と置くと,衝突前の波数:,

1の波束の減少は(ff1)にも比例しますが,衝突後

の状態:’と1’が占有されていないことが必要

なので,(1-f’)(1-f1’)にも比例します。

 

したがって,”衝突項”は,

(∂f/∂t)coll=∫σ(,1|’,1’)f’f1

×(1-f)(1-f1) d1’d1

-∫σ(’,1’|,1)ff1(1-f’)(1-f1’)

1’d1’ 

となる,と考えられます。

 

量子力学でも時間に関する可逆性,空間反転対称性

は成り立ち「衝突数算定の仮定」の統計的意味は,

量子力学自体が確率現象なので,さらなる重みを

持ちます。

 

それ故,(∂f/∂t)coll=-∫σ(,1|’,1’)

[ff1(1-f’)(1-f1’)

-f’f1’(1-f)(1-f1)]d1’d1’ 

となるはずです。

 

量子論でのフェルミ粒子系のエントロピーは.

S=-kB∫[flogf+(1-f)log(1-f)]d

ですから,このときのH関数は.

H=∫[flogf+(1-f)log(1-f)]d

と定義すればよい,と思われます。

 

古典論と同じように考察して,

dH/dt=∫[log{f/(1-f)}(∂f/∂t)coll]dk

=(1/4)∫σ[f’f1‘(1-f)(1-f1)

-ff1(1-f’)(1-f1’)]log[ff1 (1-f’)(1-f1’)

/{f’f1’(1-f)(1-f1)}]d1’d1

と書けます。

 

そこで古典的気体分子運動論と同じく,金属内の

「フェルミ気体」である自由電子の運動論でも,H定理:.

dH/dt=∫[log{f/(1-f)}(∂f/∂t)coll]dk≦0

が成立して,ぉれがエントロピーの増大則:dS/dt≧0

を保証します。

 

今度の場合では,熱平衡状態というのは,

∫[(logf)(∂f/∂t)coll]d=0 ,すなわち,

ff1/[(1-f)(1-f1)]

=f'f1'/[(1-f’)(1-f1’)]に対応しており,

fがフェルミ・ディラック分布:

f=1/[exp{(εk-μ)/(kBT)}+1]

に従うならば,この条件は確かに満足されて

います。

 

(参考文献):

北原和夫 著「非平衡系の統計力学」

(岩波基礎物理学シリーズ)

 

(以上,再掲記事(2)終わり※)

 

さて,「ボルツマン方程式」を古典論と量子論の両方

で定義し,考察した過去記事を上に紹介しましたが,

これらの主眼は,「ボルツマンのH定理」の数学的証明

を与えて解釈することにあり,「時間反転不変で可逆的

な1粒子の基本運動方程式から,多体系に移って統計的

に扱うときには,如何にして時間を逆行することができ

ないという巨視的意味での「不可逆性」が導入され,

正当化されるか?を述べた記事たちです。

 

では,最初,固体系内の電子が陽イオン芯であれ,フォノン

であれ,衝突して散乱される際,その衝突間に自由な運動を

する平均時間として導入され,定義された「緩和時間」と

いうのは,ボルツマン方程式の中ではどこに現われている

のでしょうか?

 

fを位置と速度,時間tの関数としての分布関数

とすると,素朴なボルツマン方程式は,

∂f/∂t+∇f=(∂f/∂t)coll ,

あるいは,∂f/∂t+∇f-(∂f/∂t)coll =0

で与えられるものでした。。

 

これに緩和時間の概念が入るとしたら当然,

衝突項:(∂f/∂t)coll の中でしょう。

 

緩和時間τは,たまたま,手にとった参考書によれば.

(∂f/∂t)coll­[f(,v)-f0]/τ

なる式で定義されるとあります。

ただしf0は電場などの外力が無いときの熱平衡状態

の分布関数(古典論ではMaxwell-Boltzmann分布,

量子論ではFermi-Dirac分布)であり,

右辺のf(,v)は電場Eなど外力があるときの,

左辺の分布関数f(r,v,)が,t→大で平衡に

達したときの分布てす。

 

(参考文献):

「量子物理学入門」(東京電機大学出版会),

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