光の量子論6
※(余談):眼が良くて本が読めていた頃は,これは,
と思った専門書をノートに写経しながら読むとき
は1冊入魂で,日本語なら,大体300ページくらい
の本を3ヶ月くらいで読了するというペースでした。
大体3~4ページ/日ですね。文庫本の小説程度
ならせいぜい2~3日で読了ですがね。
まあ,研究者じゃないし,普通は日々の生活の
糧を得るための無関係な労働があるので,
入魂とはいっても,それだけに時間を集中する
ことはできませんでしたが。入院中は1ヶ月以上
もヒマなので,読書三昧,昔購入していていつかは
読もうろおもいながら積ん読状態の本を持ち込んで
読みました。
ちなみに2007年3/24に帝京病院循環内科に
入院時は「常微分方程式論」でフロベニウスの方法や
確定・不確定特異点などの勉強を10日程度で読了,
4/3に心臓手術のため順天堂心臓血管外科のCCU
に転院後は詠む本がないので見舞いの友人に自宅
のカギを貸して「ポアンカレを読む」という副題のフックス
型微分方程式論の第1巻をもってきてもらい,4/10の10
時間程度の手術当日と次の日は休みましたが,ICUから
戻って4/22の退院の前日まで読書にふけりました。教授
回診の主治医天野先生も私の枕元の専門書をひっくり返
して首をかしげていたような記憶が。。。
ときどき,お金にもならないのに,40~50面下げて,
いつまでも何やってんだろう?と思うことも多々あり,
生きてた頃のオフクロにも,帰省して夜コツコツ
やってると,「まだやってんの?」と言われました
しかし,受験勉強でもなく,それだけに完全に没頭する
わけでもなく,適当に飲み屋でダベったりウタったり,
PCでネットの買い物やゲーム,そして,AV
(オーディオ・ヴィジュアルだよ,アレもあるけど),将棋
を指したりで,インドアな受け身の趣味ばかりですが,
それほど金かからない遊びも適当にやっていました。
それでメシを食おうと思わなければ, 理論物理では
文献や書物さえ読めばいいし,それが好きなら野球ならプロ
になれなきゃ草野球でもいい,という感じで,細々とでも
やり続ける。やめるという選択肢は元々頭になく,
しつこい(偏執狂の)性格ですからね。
発明,発見をしなくても,誰かが見つけてくれて,それ
を納得できれば十分,あるのは毒にも薬にもならない好奇心
だけです。なので,元々研究者向きではない。もちろん,誰も
見つけてないモノゴトにも好奇心があるので,万が一という
ことも有り得るけど,宝くじ1等当選なみですから無理
でしょう。
何せ,この世界,頭がいいのに実験物理で折角.大学の助手
になっても,教授に院生時代から実験でこき使われ疲れて
ウツ病になったり,あるいは挫折してユメ半ばで事故か自殺
かわからないような死に方をした奴も知っているし,
博士を取ったけど,ずっと希望のポストにありつけず,
貧乏なフリーター続けて優秀でも普通の人間の生活
もできない奴もいるし,逆に完全に興味が移って,別の
ことで金銭的に大成功した人たちもいるらしいです。
私は来年70歳の未だにブログ原稿で過去の読書を
反芻してるけど.これも入魂状態で,寝食を忘れて何時間
もやってると,よく低血糖でフラフラになります。
糖尿病だけど主食のチョコなどを食べないとね。
もっとも,昔の3ヶ月で読了というのは,途中で
わからない箇所に遭遇してつまづくことがなければ,
の話です。ほとんどの場合は,ただ1行の式がどうしても
わからず,本屋や図書館めぐりで10冊以上も参照した挙句
1年,2年も経つうちにその読書を止めてしまう。半永久的
Pendingというのも多々ありました。
大学や研究所勤めでもなく,近くに気軽に相談できる相手
はいないし,そもそもこの分野,相談しても自分が理解でき
なきゃ無意味ですしね。
昔の人がちゃんと証明したことだから,その式を認めて.
とりあえず先に進むという器用なことができないんですね。
それができていたらヒョットして別の道に進めたかも。。
所詮,専門を学ぶ学生時代は大学と大学院を足しても10年
も無いですから。今も原稿を書いてて,自分が理解できない
なら書くの中止です。先はもう無い。棺おけ片足半なのに
(余談おわり※)
第2章 原子・放射相互作用の量子力学
前章の,Planckの放射法則とEinstein係数
では,現象論的なアインシュタイン理論の不備
な点を幾つか露呈しています。
まず,この理論からは,A,B係数の値を計算
する処方箋が得られません。
そこで,これは遷移確率の量子力学的理論
に期待する他ないです。
より深刻なことはアインシュタイン理論
は入射光の周波数分布が,原子遷移の線幅に
わたって滑らかな,広帯域照射の場合にしか
当てはまらない,という点です。
しかし,レーザー光源による実験などでは,
周波数分布が原子遷移の線幅より狭いビーム
を使用することが珍しくないです。
そこで,本章は,B係数の量子力学的計算から
始めます。
原子状態は量子論で,電磁場は古典論で,と
いう半古典論を用いる,(光+量子論)としても,
得られる結果は全く同一ですが,原子・放射
相互作用の効果に関する,より一般的な理論と
して,本章の後部では「光学Bloch方程式」を
与えます。
- 2.1 時間に依存する量子力学
※アインシュタインのB係数の計算
(誘導放出プロセスの時間的速さ)
出発点として,時間に依存する波動方程式
HΨ=ihc(∂Ψ/∂t)(2.1)を用います。
まず,放射がない場合の孤立した原子の問題
を考えます。
原子のHamiltonian:HEはT+Vという形で
あり,時間tを陽に含まないものです。
このとき,H=HEとした波動方程式
HEΨ=ihc(∂Ψ/∂t)は,
Ψn(r,t)=exp(-iEnt/hc)ψn(r)(2.2)
という,時間に依存する位相因子と,
時間に依らない,HEψn(r)=Enψn(r)(2.3)
なる,エネルギー固有値方程式を満たす波動関数
ψn(r)との積に分離できる解を持ちます。
(2.2),(2.3)を満たす,こうした形の解で
表わされる原子状態は,定常状態として知られて
います。
B係数の計算では,エネルギー固有値がE1とE2
(E2>E1)である,という,次の2つの固有値方程式
を満たす,2つのエネルギー固有状態:
ψ1(r)とψ2(r)のみを考えます。
HEψ1(r)=E1ψ1(r).(2.4a)
HEψ2(r)=E2ψ2(r).(2.4b)
だけを問題とするわけです。
対応する時間に依存する波動関数は.
Ψ1(r,t)=exp(-iE1t)ψ1(r)(2.5a)
Ψ2(r,t)=exp(-iE2t)ψ2(r)(2.5b)
です。
そして,hcω0=E2-E1(2.6)を満たす角周波数
ω0を「遷移周波数」と呼びます。
Enは原子のみのエネルギーですが,原子と放射
電磁波の系については,Hamiltonian:HEに電磁波
のエネルギー:HIを付け加えることで記述できます。
ただし,HIは位置rだけでなく時間tにも依存
する量(演算子)です。
それ故,系のトータルのHamiltonianは,
H=HE+HI.(2.7)で与えられます。
さて,ある瞬間tに,原子は状態ψ1にあるとします。
しかし,HIがあるため,ψ1は定常状態ではなくなり
その後のある時刻にψ2に見出される確率が,ゼロでは
なく有限になります。
この確率を1から2への遷移速度として表わす
ことができます。
光の周波数がω0に近いときは,放射過程に関与
するのは,この選ばれた2つの原子状態だけです。
したがって,如何なる時刻tでも,原子波動関数Ψ
は,Ψ(r,t)
=C1(t)Ψ1(r,t)+C2(t)Ψ2(r,t)(2.8)と
表わすことができます。
そして,ψ1,ψ2が,
∫ψm*(r)ψn(r)dV=δmn(m,n=1.2)と直交
規格化されているとすれば,Ψが確率振幅という意味
を持つための条件は,
∫|Ψ(r,t)|2dV=|C1(t)|2+|C2(t)|2=1(2.9)
で与えられます。
こうした条件下で,(2.8)のΨ(r,t)
=C1(t)Ψ1(r,t)+C2(t)Ψ2(r,t)を,
HΨ=ihc(∂Ψ/∂t)(H=HE+HI)に代入すると,
(C1E1Ψ1+C2E2Ψ2)+HI(C1Ψ1+C2Ψ2)
=(C1E1Ψ1+C2E2Ψ2)
+ihc{Ψ1(∂C1/∂t)+Ψ2(dC2/dt)},
すなわち,HI(C1Ψ1+C2Ψ2)
=ihc{Ψ1(∂C1/∂t)+Ψ2(dC2/dt)}(2.10)
を得ます。
これに,左からΨ1*を掛けて全空間で積分
すれば,C1∫ψ1*HIψ1dV+C2exp(-iω0t)
×∫ψ1*HIψ2dV=ihc(dC1/dt)(2.11)
となります。
ここで,HIのψk(r)による行列要素;Iij
をhcIij=∫ψi*HIψjdV(i,j=1,2)(2.12)
なる記号で定義すれば,(2.11)は.
C1I11+C2 exp(-iω0t)I12=i(dC1/dt)
(2.13)と簡単になります。
一方,同じ(2.10)に,左からΨ2*を掛けて
全空間で積分すれば,
C1 exp(iω0t)I21+C2I22=i(dC2/dt)(2.14)
が得られます。
そこで,原理的に(2.13)と(2.14)の連立方程式を
解けば,C1(t),C2(t)を陽に得ることができる
ため,(2.8)式のΨ(r,t)
=C1(t)Ψ1(r,t)+C2(t)Ψ2(r,t)
によって.Ψ(r,t)が決定されること
になります。
- 2.2 相互作用Hamiltonianの形
電磁場と原子の相互作用hamiltonianの完全な形
はやや複雑で,詳しい議論は第5章まで保留します。
しかし,Bを計算するには,相互作用の完全な形で
はなく,主な特徴を知るだけで十分です。
さて,電荷が(-e)(e>0)のZ個の電子で囲まれた
電荷Zeの原子核から成る原子を考えます。
この系の原点Oは,この核の位置とします。
そして,これが直線偏光の電磁波と相互作用
するとします。
本章では,電磁波の場の形として時間に依存
する部分が実数のものを用います。すなわち,
電場は,E=E0cos(kz-ωt)であり,磁場
はB=B0cos(kz-ωt)であって,
E0はx方向に,B0はy方向に偏光していると
します。
原子内電子の典型的軌道半径は,mを電子質量
として,a0=4πε0hc2/(me2)~ 5×10-11m
(2.16)というBohr(ボーア)半径で与えられます。
周波数が約1018Hzより小さいとすると,この半径
は電磁波の波長:λよりも,ずっと小さいです。
k=2π/λですから,こうした周波数では
ka0<<1であり,原子内部での電磁場の空間的
変化は非常に小さいと考えられます。
したがって,E=E0cos(kz-ωt)の中のkz
を無視するのが良い近似となります。
そうして,原子の全双極子モーメントはD=Σjrj
(2.17)と置けば,P=-eDで与えられます。
ただし,rjは核を原点Oとした各電子:jの位置
ベクトルです。
このとき,相互作用Hamiltonian:HIは.
HI=-PE=eDE0cosωt(2.18)と書けます。
(※HIへの他の寄与は,第5章の§5.3で詳述する
予定ですが,それらは上記の(2.18)よりはるかに
小さいものです。上記は,HIの主要項だけを
取った,いわゆる「双極子近似」です。)
(2.18)は実数で,奇のパリティを持っています。
つまり,rj→ --rjの置換でHIは符号を変えます。
そこで,(2.12)で定義した行列要素Iijのうち,
体積積分の被積分関数が奇関数となるものは,消えて
ゼロになるため,I11=I22=0.(2.19)です。
一方,2つの原子状態;ψ1とψ2が逆のパリティを
持つときには,I12とI21はゼロになるとは限らず,
これらはI21=I12*(2.20)の関係があります。
以上を考慮すると,(2.13),(2.14)の方程式;
C1I11+C2 exp(-iω0t)I12=i(dC1/dt)
C1 exp(iω0t)I21+C2I22=i(dC2/dt)は,
C2 exp(-iω0t)I12=i(dC1/dt),
C1 exp(iω0t)I12*=i(dC2/dt)
と簡単になります。
ところで,E0はx方向を向いている,としている
ので,I12の陽な形はI12=(eE0X12/hc)cosωt
(2.21)と書けます。
ただし,X12=∫ψ1*Xψ2dV.(2.22)です。
ここで,XはDのx成分です。
つまり,D=(X,Y,Z)であり,電子の位置を
rj=(xj,yj,zj)とすれば,X=Σjxjです。
さらに,Ω=eE0X12/hc.(2.23)と置けば,
I12=Ωcosωt(2.24)と,より簡単になります。
1例として水素原子の1sから2pへの遷移を
考えてみます。
電子のスピン自由度を考慮すると,1s状態は2重に
,2p状態は6重に縮退しています。しかし,相互作用
Hamiltonianは,電子のスピンには無関係なので,遷移
でスピン量子数に変化はありません。
それ故,与えられたスピン量子数を持つ1s基底状態
の電子に対して遷移が許される2p状態は3つです。
その上,x方向に偏った電磁波のΩの中の積分X12は,
2px状態への遷移に対するもの除いてゼロになります。
※(注6-1):上述の水素原子の2つの状態:
ψ1(r)=π-1/2a0-3/2exp(-r/a0) (2.25)
ψ12(r)=π-1/2(2a0)-5/2xexp{-r/(2a0)}
(2.26)に対して,Ω=215/2eE0a0/(35hc)(2.27)
であることを証明します。
そして,hcω0=E2-E1を満たす遷移周波数:
ω0は,ω0=(3/4)ωR,(2.28),
ただし,hcωR=me4/(32π2ε02hc2)(2.29)
で与えられることを,以下に示します。
さらに,Ω=eE0X12/hc ~ ω0,
つまり,hω0~eE0X12であるためには,
3×1011(V/m)程度の強さの電場E0が必要である
ことを示します。(V=ボルト;volt)
(証明):まず,X12=∫ψ1*xψ2dV
=2-5/2π-1a0-4(2π)∫-11d(cosθ)cos2θ
×∫0∞drr4exp{-3r/(2a0)}
=(4/3)2-5/2a0-4(2a0/3)5
∫0∞duu4exp(-u)=215/2a0/35です。
何故なら,∫0∞duu4exp(-u)
=4!∫0∞duexp(-u)=24
=3×23 であるからです。
それ故,Ω=eE0X12/hc=215/2eE0a0/(35hc)
が得られます。
また,量子力学参考書によれば,水素様原子の
束縛状態の電子のエネルギー固有値は,主量子数:n
(n=1,2..)に対して,En=-{hc2/(2m)}(Z/a0)2
×(1/n2)で与えられます。
故に,Z=1の水素原子で,2pと1sの間の遷移
周波数:ω0は,hcω0=E2-E1=(3/4){hc2/(2ma02)}
を満たします。
これに,a0=4πε0hc2/(me2)を代入すると,
結局,hω0=(3/4){me4/(32π2ε02hc2)}となります。
そして,hcV=eE0X12=215/2eE0a0/35,かつ,
hcω0=(3/4){hc2/(2ma02)}より,hcV~hcω0と
すれば,E0~ |36/(210√2)}{hc2/(me)}(1/a03)
が必要です。
この右辺に具体的数値を代入します。
すなわち,a0=4πε0hc2/(me2)~ 5×10-11m,
e~1.6×10-19C,hc ~ 1.054×10-34Js,また,
mc2~ 0.51 MeV=5.1×106eVより,
m ~ 0.51×106(eV/c2)です。
そして,c2~9×1016m2/s2です。
したがって,E0~ |36/(210√2)}{hc2/(me)}
×(1/a03)={(729/1024√2)×1.0542×10-68(J2s2)
×(1/125)×1033m-3)}
/{0.51×106(eV/c2)(1.6×10-19C)}です。
ここで,V=J/Cを用いると,
eV~1.6×10-19((CV)=1.6×10-19J
なので,左辺 ~ 3.1×1011
(J2s2m-3J-1m2s-2C-1)となります。
結局,E0~3.1×1011V/m を得ました。
(証明終わり) (注6-1終わり※)
大抵の光ビームでは,それに対してΩ<<<ω0
(2.30)が成立しています。
光ビームが強い場合は第9章で記述する予定です。
今回はここまでです。
(参考文献):Rodney Loudon 著
(小島忠宣・小島和子 共訳)
「光の量子論第2版」(内田老鶴舗)
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