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2019年9月21日 (土)

光の量子論3

※光の量子論の第1章の続きの第2弾

です。

 

  • 1.8 微視的過程の性質

本章の残りでは,光ビームが原子(分子)気体

を詰めた空洞内を通過する際に起こり得る光学

過程を取り上げます。アインシュタイン理論に

現われる3つの基本過程の性質と,特に2種類の

放出過程の間の差異について,より詳しい議論が

必要です。

 

輪郭の明確な単一の空洞モードに励起された

光の入射ビームを考えます。

光の周波数は,アインシュタイン係数A,Bで

表わされる原子遷移と共鳴している,とします。

 

起こるべき3種類の励起の最も重要な特徴

は,励起原子から誘導放射で発生する光は,それ

を引き起こした入射光と同一の空洞モードで

現われる,という事実です。

また,放出光は入射ビームと位相も同じです。

そこで,誘導放出は入射ビーム強度を増幅

する傾向があります。

一方,自然放出によって生じた光は,入射

ビームとは完全に独立で,この光はエネルギー

保存則を満たしさえすれば,どのような空洞

モードでもいいです。

よって,自然放出光の伝播方向は入射光の

ビームに対して勝手な向きを持ち,位相も

決まりません。

 

さて,光と原子が安定な平衡状態に落ち着く

と,下の状態も上の状態も,その原子数N1,N2

は一定になります。

 

光ビ-ムが気体中を通過するとき,吸収過程

により,hcωが次から次へと消えてゆきます。

こうして励起された原子は,結局は基底状態

に戻り,誘導放出によって光子hcωを再生します。

もしも,この過程が1種類の誘導放出のみで,

2種類目がないなら定常状態の後,ビームは強度

を変えずに,ただ通過するだけと考えられます。

 

しかし,かなりの原子は自発放出によって,

基底状態に戻るため,吸収されたエネリギーの

うちで,次の割合:A/(A+BW)

=1/{1+π23W/(hcω3)}.(1.64)で,勝手な

向きに再放出され,残りの僅かな部分だけが,

偶々,入射ビームと同じ方向に自然放出されます。

こうして,自然放出は,光の散乱と,これに伴なう

入射光の減衰をもたらします。

 

こうした散乱が外部ビ-ムの気体通過の際に

生じる「見掛け上の」吸収の微視的原因です。

吸収という言葉を使ってはいますが,入射ビーム

が減光されるのは,原子による吸収ではなく散乱

のためです。

 

上記の基礎的現象は,吸収係数の測定,または

散乱光の強度の観測のいずれか,によって,実験

的に検証ができます。

 

誘導放出と自然放出の相対的重要度は(BW/A)

という比の大きさに左右されます。BW/A=1の

ときは,2種類の放出速度は等しい,ということに

なります。

 

例えば,5×1014Hzの領域の周波数を持つ可視光

では,ω~3×1015Hz.(1.65)なので,1つの光子は,

cω~3×10-19J.(1.66)程度のエネルギーを

持ちます。

一方,先に与えたモード密度は,この周波数の

領域で,(1.10)によればρωdω=ω2dω/(π23)

~ 3.4×10-dω/m3.(1.67)となります。

そこで,(1.66)×(1.67)を実行すると,

(hcω)ρωdω=hcω3dω/(π23)

~ 10 -14dωJ/m3 となりますが,

(1.51)のA21={hcω3/(π23)}B21より

A/B={hcω3/(π23)} です。

故に,BW/A=1のときには,Wdω

=(A/B)dω={hcω3/(π23)}dω

=(hcω)ρωdω~ 10–-14dωJ/m3.(1.68)

を得ます。

(※ W=W(ω)は元々,光のエネルギー密度

と定義されていたのですから当然です。)

 

後述の,誘電率がε=(1+χ)ε0の誘電体中の

光のビーム強度(Poyntingベクトル)×

×0の大きさとエネルぎー密度Wの

関係:cW=ηI(1.97)(※(η+iκ)2=1+χ)

によって密度Wから強度Iが決まります。

(※誘電体のない自由空間ではκ=0,η=1)

 

そこで,(1.68)のWdωに,c~3×108m/s

を掛けて,Idω~3×10–-6dωW/m2.(1.69)

です。

 

普通のスペクトル光源の狭い発光源が持つ

周波数のひろがりの標準的な値は1010Hzで,

これは(2π)×1010Hzのdωに相当します。

この幅のdωを使って,BW=Aを達成する

ために必要なIdωは,上記(1.69)の

Idω~3×10–-6dωW/m2より,

Idω ~ 2×10 5 W/m2程度であること

がわかります。

 

ところが,通常の光源のうち,最も強いもの,

例えば水銀灯でさえ,Idω~10 4W/m2程度

なので,誘導放出を自発放出に等しくするには

不充分です。これらの場合,自発放出により,

原子吸収分のほとんどが散乱され入射ビーム

から消えて無くなります。

 

しかし,レーザー光線,特にパルスレーザー

ではIdω~1013W/m2より,Aかそれ以上の

BWが得られます。この場合は誘導放出が重要

になり,後述するBW<<Aの条件と,

BW>>Aの条件では,ビームの吸収や増幅の型

は異なったものとなります。

 

  • 1.9 原子の光励起

※吸収係数に対する微視的表式を導き出すため

の準備として,光ビームの照射によって原子の

占位数がどのようになるか,について考えます。

 

N個の原子を含む空洞は,原子を通過するとき

のビーム強度の変化が無視できる程度に十分薄い

と仮定します。そして,全ての原子が基底状態に

ある時刻:t=0で,一定のエネルギー密度Wの

ビームが流れ始めたとします。

このとき,時刻tに励起状態にある原子の数

2はN2=N-N1と(1.63)のN1の解:

1={N10-N(A+BW)/(A+2BW)}

×exp{-(A+2BW)t}+N(A+BW)

/(A+2BW)でN10=Nとしたものから,

2={NBW/(A+2BW)}

×[1-exp{-(A+2BW)t}].(1.70)になります。

よって,短かい時間:(A+2BW)t<<1(1.71)

では,N2=NBWt.(1.72)となり,励起はtと

共に直線的に増加します。

一方,(A+2BW)t>>1.(1.73)の長時間が

過ぎると,定常状態の値:N2=NBW/(A+2BW)

(1.74)に近づきます。

 

光ビームを照射し始めると,原子は励起状態

に上がり,エネルギーが光から原子に移ります。

定常状態に達すると原子は,エネルギー;

2cω=NBWhcω/(A+2BW)

=NWhcω/[hcω2/(πc3)+2W] (1.75)

を蓄えることになり,その後は放射から原子に

エネルギーが移されることは無くなります。

 

そして,光と原子の相互作用は,光子の空間的

方向の分布を変える効果を与えます。

定常状態におけるN2の値は普通の光源,つまり,

BW<<Aの場合,N2はNよりずっと小さいので,

大部分の原子は基底状態に留まっています。

このときには,N2は入射ビームのエネルギー

密度:W=Wに比例します。

一方.レーザー光源が強力でBW≧Aのとき,

2のビーム強度への依存は非線形になり,

BW>>1の場合には,N2/Nは1/2に近づく

ような曲がり方をします。

この線形でない挙動を「原子遷移の飽和」と

いいます。しかし,上に述べた型のような実験では,

2>N1,つまり,(N2/N>1/2,という条件を達成

することは不可能です。

 

ここで,再び,入射ビームが切られたとすると

励起原子は基底状態に戻り,先に,

NWhcω/[hcω2/(πc3)+2W]で表わされた

蓄積エネルギーは,光子として再放出されます。

 

20を(1.74)で得た定常状態の励起原子数の

値:N2=NBW/(A+2BW)とし,t=0を定常

状態から入射ビームが打ち切られた瞬間と定義

し直します。そして,レート方程式:dN1/dt

=-dN2/dt=N2A+(N2-N1)BW.(1.62)

はビーム打ち切りで,W~W=0となるため,

dN2/dt=-N2A.(1.76)となり,その解は,

2=N20exp(-At).(1.77)で与えられます。

 

エネルギーを失なう原子は,いずれも光量子

cωを放出するので,放出光の強度も,

exp(-At)に比例して減衰します。

 

この謂わゆる「蛍光放出」の時刻変化を観測

するのがアインシュタインのA係数を測る1つ

の実験となります。(※ 蛍光とは,自発放出光の

一種であって,誘導放出光ではありません。)

Aの逆数:I,つまり,A=1/I(1.78)で

与えられるIは,対象とする遷移の「蛍光寿命」

または,「放射寿命」として知られています。

 

本節の結論としてN2={NBW/(A+2BW)}

×[1-exp{-(A+2BW)t}],

2=NBWt ((A+2BW)t<<1),および,

2=NBW/(A+2BW)((A+2BW)t>>1),

で表わされるN2は,エネルギー密度Wのビーム

照射の下で,励起状態にある平均原子数を示して

いる,あるいは,選択した原子が励起状態にある

確率がN2/Nである,といえます。

 

  • 1.10 吸収の巨視的理論

※まず,誘電体に関連した古典的電磁理論を

復習,要約します。

 

空洞中に誘電体が存在すれば,印加電場

より,それには分極が生じます。

印加電場があまり強くない場合,に比例

し,χを電気感受率とすると,=ε0χ(1.79)

と書けます。

そして,このχは一般に周波数ωの関数であり,

その関数形は誘電体を構成する原子のエネルギー

準位と波動関数に依存します。

この場合もMaxwell方程式は波動型の解を

持ちますが,周波数ωと波動ベクトル:との

関係は,真空中のω=ck(1.9)を一般化した

もの:(ck/ω)2=1+χ.(1.80)となります。

自由空間(真空)ではχ=0であり,ω=ck

に一致します。

 

※(注3-1):分極は電場より,工学で使用

されることが多い電束密度に関連する量と

して定義されます。

誘電率をε=(1+χ)ε0とすると,D=ε

=ε0=(1+χ)ε0Eなる関係があります。

こうして,誘電体や磁性体の中でも,便宜的に

誘電率ε,透磁率μなるパラメータを導入すれば

一応,真空中と同じ形のMaxwell方程式が成立

する,という形式にできるため,こういう形式の

理論を「Maxwellの」現象論と呼びますが,以下,

これを想定します。

 

そこで,電場(電界),磁束密度(磁場)の他

に電束密度:D=ε,および,磁場の強さ(磁界);

/μという,Bに比例する,非独立な量:

,を追加して,Maxwellの方程式を,

∇×H=∂D/∂t,∇×E=-∂B/∂t

を満たす形に書き変えます。

そして,εやμは座標や時間tには独立で

あると仮定すると,

∂(∇×H)=∂2D/∂t2,および,∇E=0から

(1/μ)∇×(∂B/∂t)=ε(∂2E/∂t2)

∇×(∇×E)=-(με)(∂2E/∂t2)となり,

2E=(με)(∂2E/∂t2),

つまり,{(με)∂2/∂t2-∇2}E=0なる

波動方程式を得ます。

 

誘電体では,誘電率はε=(1+χ)ε0≠ε0

ですが,透磁率の方は真空と同じμ=μ0

あるとすれば,波動方程式型の方程式:

{(μ0ε)∂2/∂t2-∇2}E=0が得られ,

結局,{(1+χ)/c2)∂2E/∂t2=∇2

に帰着します。

 

これは,exp{i(kx-ωt)}という形の

平面波の解を持ち,これから位相速度をv

とすると.これは明らかに,

v=fλ=(ω/k)(ω=2πf,k=2π/λ)

ですが,これは,

1/v2=(1+χ)/c2=(ε/ε0)/c2 or

2=c2/(1+χ)=(ε0/ε)c2を満たすため.

(ck/ω)2=1+χ=ε/ε0 を得るわけです。

(注3-1終わり※)

 

ここで,感受率χを,複素数に拡張して,これ

を,χ=χ’+iχ”(1.81)(χ’,χ”は実数)

と表わすことにします。

このとき,(ck/ω)2=1+χの平方根も

複素数ですから,これを,ck/ω=η+iκ

(η,κは実数)(1.82)と書くことにします。

(※こう定義すると,光学においては,ηが

屈折率,κが吸収係数に相当することが

わかります。)

 

この(1.82)を(ck/ω)2=(1+χ’)+iχ”

に代入すれば,η2-κ2=1+χ’.(1.83),

および,2ηκ=χ“.(1.84)を得ます。

 

そこで,感受率χの周波数ωへの依存性が

わかれば,ηやκの周波数依存性もわかります。

 

ここでは,Maxwellの波動方程式の進行波解を

考えた方が真空の方程式の解(1.3)のような境界

条件を満たす定常波を考えるより都合がいいです。

z方向に伝播する波を考えると,これに対する

の空間,時間依存性は,

exp{i(kz-ωt)}

=exp{iω(ηz/c-t)-ωκz/c}.(1.85)

で与えられます。

 

ところで,E,B場と,その振幅E0,B0

間の関係は,∇×E=-∂B/∂tより,

kE0=ωB0です。

故に,(ck/ω)E0=(μ0ε0)-1/20,

つまり.(η+iκ)E0=(μ0ε0)-1/20です。

 

したがって,B0=(μ0ε0)1/2(η+iκ)E0.

(1.86)となります。

 

自由空間では, 空洞内の全エネルギーを,

(1/2)∫(空洞)ε0|(r,t)|2dV(1.19)という

式で積分を実行して,サイクル平均という形で

求めたのでしたが,その際の被積分関数の複素

エネルギー密度は,(1/2)ε0|(r,t)|2でした。

 

しかし,誘電率がεの誘電体が存在するときには.

電場のエネルギー密度(1/2)ε0||2を(1/2)ε||2

に変えるべきとであろう,と考えられます。

しかし,実際の,場のエネルギーのサイクル平均

をとる前の電場の部分は,(1/2)ε||2のうちの

実部:(1/2)Re{ε||2}ですから,ε=ε0(1+χ)

の実部であるε0(1+χ’)によって,

(1/2)ε0(1+χ’)Re||2に変わるであろう,

と予想されます。それ故,(1.83)で(η+iκ)2

=1+χから,(1.84)の1+χ’=η2-κ2

得ていましたから,この議論からは,実電場の

寄与は,(1/2)ε02-κ2)Re||2となる

はずです。

 

しかしながら,磁場部分の寄与を考えると,

振幅が(1.86)のB0=(μ0ε0)1/2(η+iκ)E0

を満たすため.それは(1/2)Re||20

=(1/2)ε0η2Re||2となります。

 

ところで,実電磁場のみのMaxwellの現象論

の考察では誘電体の中の場のエネルギーにも,

自由空間と同様,電場の寄与と磁場の寄与は

同じになるため,実は,電場の寄与も

(1/2)ε02-κ2)Re||2ではなく,

(1/2)ε0η2Re||2となり,場の全エネルギー

も自由空間の(1.19)式から,

(1/2)∫(空洞)ε0η2|(r,t)|2dV

(1.87)へと一般化される,と考えるのが

妥当と思われます。

 

また,単位時間に単位面積を通過する場の

エネルギーとして定義される電磁波の強度I

は,通常の電磁場のPoyntingベクトル:

××0.(1.88)で与えられる

と考えられます。

 

上記と同様.E,の振幅については,

0=(μ0ε0)1/2(η+iκ)E0ですから,

自由空間であれば,B=(μ0ε0)1/2Eより

0=ε0cEであり,EとBは直交する

という事実から,Iの大きさは,

I=ε0cRe|(r,t)|2となります。

 

そこで,誘電体があれば,その中では,

Re0=ε0cηReEとなるため,

I=ε0cηRe|(r,t)|2と書けます。

 

よって,Wと同じく,Iのサイクル平均を

取れば,<I>=(1/2)ε0cη|(r,t)|2

(1.89)を得ます。

 

ただし,E(r,t)は空間的,時間的に

変動しますが,先に与えたz軸向きの進行

の形の(r,t)=0exp{i(kz-ωt)}

0exp{iω(ηz/c-t)-ωκz/c}を

想定すれば,サイクル平均として,|(r,t)|2

はzだけに依存すると考えられます。

 

それ故,サイクル平均強度:<I>を,改めて単に

I=I(z)と書き,I0をz=0におけるサイクル

平均強度とすれば,I(z)=I0exp(-Kz)(1.90)

と書けます。

ただし,K=2ωκ/c.(1.91)です。

 

このように定義されたKという量を吸収係数

と呼び,これは電磁波の強度が(1/K)の距離で

z=0の値の1/eに減少することを意味します。

今回はここまでです。(つづく)

 

(参考文献):Rodney.Loudon著(小島忠宣・小島和子共訳)

「光の量子論第2版」(内田老鶴舗)

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