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2019年9月22日 (日)

光の量子論4

※光の量子論の第1章の続きの

第3弾です。

 

  • 1.11 吸収の微視的理論

※厚い空洞に詰まった原子気体を光ビーム

が通過する際の前記の減衰過程を微視的観点

から考察します。

その目的は減衰速度,したがって,吸収係数

を,以前のアインシュタイン理論の2つの係数

A,Bに結びつけることです。

 

空洞内が定常状態に達していれば,

レート方程式:dN1/dt=-dN2/dt

=N2A+(N2-N1)BWの両辺はゼロに

等しいです。しかし.このレート方程式は,

誘電体が存在する場合には,どうしても

避けられない小さな変化が生じます。

 

アインシュタイン係数は自由空間(真空)

内の単一原子に入射する電磁波について

定義されており,その場合には,場の

エネルギー密度は全エネルギーがサイクル

平均で,(1/2)∫(空洞)ε0|(,t)|2dVで

与えられる.または,単位体積当りでは,

0W(ω)dω

={1/(2V)}∫(空洞)ε0|(,t)|2dV

で与えられる,という式を満たすW(ω)

のことでした。

 

この(1/2)∫(空洞)ε0|(,t)|2dV

を,(1.87)の(1/2)∫(空洞)ε0η2|(r,t)|2

のように,η2因子を付けて,

誘電体内のエネルギー密度にとった

ときには,アインシュタインの自由空間の

理論における吸収と誘導放出の速さでは,

この因子を除いておく必要があります。

 

そこで,定常状態となる条件

は,誘電体内では,

0=dN1/dt=-dN2/dt

=N2A+(N2-N1)BW/η2

となるべきです。

故に,

2A=(N1-N2)BW/η2.(1.92)

が成立する必要があります。

 

自発放出により放射されるエネルギー

の放出速度はN2A(hcω)で,これは

エネルギー減衰速度であり,自由空間では,

吸収によるN1BW(hcω)から誘導放出に

よるN2BW(hcω)を引いたものに等しい,

という式の構造でしたが,

誘電体が存在すれば,Wの代わりに,これ

を(W/η2)で置き換える必要があるため,

(1.92)を得るわけです。

 

次に,N2A=(N1-N2)BW/η2の右辺

によってビーム減衰速度を計算します。

 

その前に原子遷移速度について,さらに

詳述する必要があります。

これまでは,どの原子も確定した1つの

遷移周波数ωを持つと見なしてきました。

しかし,次の第2章で述べることですが,

各原子に対して同じ1対の状態を考える

ときでさえ,原子が吸収or放出できる光子

の周波数ωには,ある統計的広がり

があります。

 

そこで,ωの付近のdω中に光子の周波数

が入っている遷移比率をF(ω)dωとします。

(∫F(ω)dω=1と規格化しておきます。)

差し当たり,ωが特定範囲にある遷移だけ

を考えます。

 

1個の原子が下の準位にありN2個の原子

が上の準位にあるような定常状態では,dω

に含まれるビームのエネルギーの変化速度は,

-(N1-N2)F(ω)dωBW(hcω)/η2

に等しくなります。

光のビームの進行方向はz軸に平行とします。

すると,Wはその向きに減衰するため,zの関数

です。

 

ここで,厚みdzと断面積aのzに垂直な

薄い空洞の切片を考えます。

Wはこの微小厚さの切片内では位置座標:

には無関係とすると.切片内のビームの

エネルギーでdωに含まれるものは.

Wdωadzです。

そして,空洞の全体積はVですから,

(adz/V)は,切片内にある原子数の比率

を示しています。

 

故に,エネルギー保存条件は,

(∂/∂t)(Wdωadz)

=-(N1-N2)F(ω)dωBW(hcω)/η2

×(adz/V).(1.93)

で与えられることになりますが,

これはつまり,∂W/∂t

=-(N1-N2)F(ω)BW(hcω)/(Vη2)

(1.94) を意味します。

 

かくして,アインシュタインの理論が,

ビ-ムのエネルギー密度Wの時間依存性

を表わす方程式を導く,ことが

わかりました。

これに対して,先の巨視的理論で得られた,

(1.90)のI(z)=I0exp(-Kz)で導入された

吸収係数Kを含む議論は,ビーム強度の空間的

変化を与えます。

 

ところで,∂W/∂tに対する式(1.94)は

(1.93)の左辺の-(∂/∂t)(Wdωadz)

が体積(adz)の切片でビームエネルギー

が失われる速さ­=空洞切片が同じエネルギー

を受け取る速さ,を示しており,これが断面積

aの切片境界を横切って流入するエネルギー

に等しい,という形に表わすことができます。

 

すなわち,Idωをωとω+dωの間に存在

する電磁エネルギーの強度とすると,

-(∂/∂t)(Wdωadz)

=-a(∂I/∂z)dzdω.(1.95)によって,,

∂W/∂t=(∂I/∂z).(1.96)なる関係式

を得たわけです。

 

※(注4-1):上の(1.96)式は,

Δtの間のビームのエネルギー密度Wの増分:

ΔW={W(t+Δt)-W(t)}に逆符号を

付けたものが

断面積を横切って通過する,厚さΔzの間の

エネルギー強度の増分:ΔIに逆符号を

付けたもの=流入速度:-ΔI

=-{I(z+Δz)-I(z)}で表わせる,

という形のエネルギー保存則の形式です。

 

つまり,空洞切片において,

「Δtの間の空洞エネルギーの増分:

-ΔWdω(aΔz)

=-{W(t+Δt)-W(t)}dω(aΔz)

=-(∂W/∂t)Δtdω(aΔz)

が空洞切片へのΔtの間のエネルギー流入量:

-aΔIdω(Δt)

=-a{I(z+Δz)-I(z)}dωΔt

=-a(∂I/∂z)ΔzdωΔtに等しい。」

という形のエネルギー保存則の表現です。

 

故に,確かに∂W/∂t=∂I/∂z

を得ますが,これは流体の質量や電荷の保存

を示す連続の方程式∂ρ/∂t+∇=0

(j=ρ)のアナロジーである.

と考えられます。(注4-1終わり※)

 

さて,(1.87)から,∫0W(ω)dω

={1/(2V)}∫(空洞)ε0η2|(r,t)|2dV

であり,他方,(1.89)から∫0I(ω)dω

={1/(2V)}∫(空洞)ε0cη|(r,t)|2dV

となるはずです。これらを比較すれば,

cW=ηI(1.97)なる関係があることが

わかります。

 

∂W/∂t=∂I/∂zを,(1.93)の∂W/∂t

=-(N1-N2)F(ω)BW(hcω)/(Vη2)と

組み合わせた式において,右辺にW=ηI/c

を代入すると,∂I/∂z

=-(N1-N2)F(ω)BI(hcω)/(Vcη)

(1.98)を得ます。

これは,エネルギー準位が縮退している場合

この式の右辺ののN1に(g2/g1)という因子を

掛けることで一般化されます。

しかし,以下ではg1=g2,つまり,g2/g1=1

の場合だけを扱うことにします。

 

右辺のN1,N2そのものがWに,それ故Iに

依存するため,方程式(1.98):∂I/∂z

=-(N1-N2)F(ω)BI(hcω)/(Vcη)

は思ったよりも複雑です。

 

しかし,定常状態では.

2A=(N1-N2)BW/η2(1.92)が成立する

ので,N1+N2=Nにより,N1を消去して,

2=(NBW/η2)/(A+2BW/η2)を得ます

から,さらにW=ηI/cを用いて,(N1-N2)

は,N1-N2=N-2N2=NA/(A+2BW/η2)

=NA/{A+2BI/(cη)}(1.99)と表わせる

ことがわかります。

 

これを,(1.98)の∂I/∂z

=-(N1-N2)F(ω)BI(hcω)/(Vcη)

に代入し,分母を払えば,

{A+2BI/(cη)}(∂I/∂z)

=-NABF(ω)(hcω)I/(Vcη)

となります。

そこで,最終的に,(1.98)は

(1/I){1+2BI/(Acη)}(∂I/∂z)

=-NBhcωF(ω)/(Vcη).(1.100)

と書き直せます。

 

さて,2つの極端な場合を考えます。

(ケースⅠ):普通のビームでは,(1.100)の

左辺の括弧の中の第2項:2BI/(Acη)

=2BW/(Aη2)は常に第1項の1より

ずっと小さいです。

そこで,これを無視しますが,この項を

無視するのは.全体の原子数Nに比して

励起原子の数:

2=N(BW/η2)/{1+2BW/(Aη2)}

を無視することに相当します。

このケースでは,(1.100)は,

(1/I)(∂I/∂z)

=-NBhcωF(ω)/(Vcη)となるため,

間単に積分できて,

I(z)=I0exp(-Kz)(1.101)を得ます。

ただし,K=NBhcωF(ω)/(Vcη)

(1.102)です。

 

この式は巨視的理論の(1.90)と全く同じ

ですから,このKは(1.91)の吸収係数:

K=2ωκ/cと全く同じものです。

Kが周波数と共に変わる様子は原子遷移

周波数の分布F(ω)に似ていますが,さらに

周波数に依存する因子が掛かっています。

ここで,(1.92)の,

K=NBhcωF(ω)/(Vcη)の右辺の因子

cω/(cη)を左辺に移して,両辺をωで

積分すると,∫F(ω)dω=1より,

∫[Kcη/(hcω)]dω=NB/V.(1.103)

を得ます。それ故,Kとηが測定できれば,

実験からBの値を決定できます。

 

希薄な原子気体ではηは自由空間の値1

に近いです。そして,大抵の吸収線はKが

著しく大きくなる場所の周波数に比べて,

小さい幅を持っているため,ωは吸収線全域

で近似的に一定です。

(1.103)より,BはK-ωグラフのKの

描く曲線の下の面積に比例しますが,

このケースには面積はKωで近似されます。

(※Kの具体的関数形は第2章で論じます。)

 

∫[Kcη/(hcω)]dω=NB/Vは,

(1.91)のK=2ωκ/cと(1.94)2ηκ=χ”

により,Kcη/(hcω)=χ”/hcとなる

ため,∫χ”dω=hcNB/V.(1.104)

と書き直せます。

 

(ケースⅡ):光ビームが非常に強い,

というのが,もう1つの極端な場合です。

これは,2BI/(Acη)

=2BW/(Aη2)>>1の場合で,

このときは,(1.100)の方程式:

(1/I){1+2BI/(Acη)}(∂I/∂z)

=-NBhcωF(ω)/(Vcη).の左辺の

括弧の中の1の方が無視できて,方程式は,

2B/(Acη)}(∂I/∂z)

~ -NBhcωF(ω)/(Vcη),つまり,

(∂I/∂z) ~ -NAhcωF(ω)/(2V)

となり,これを積分することで.

I-I0=-NAhcωF(ω)z/(2V)

(1.105)を得ます。

 

したがって,この場合,ビーム強度は,

(ケースⅠ)の(1.90)や(1.101)のような指数関数

的減衰ではなく,自発放出の係数:Aから決まる

速さで,空洞を通過する距離zに比例して

減衰します。

 

(1.98)のIの減衰方程式:∂I/∂z

=-(N1-N2)F(ω)BI(hcω)/(Vcη)

の右辺は,N1-N2=N-2N2が正,つまり,

2>(N/2)になれば,Iは減少から増加に

転じます。

それ故,∂I/∂z=0はIの極大値を

与えます。

ビームの光子が散乱されてビ-ムから出て

いくエネルギーの速さは,(1.94)の空洞内原子

気体への流入率の式:∂W/∂t

=-(N1-N2)F(ω)BW(hcω)/(Vη2)の

右辺に逆符号を付けたもの:

(N1-N2)F(ω)BI(hcω)/(Vcη)

ですが(1.92)より,N2A=(N1-N2)BW/η2

ですから,これはN2Ahcωに比例します。

 

そこで,N2Ahcωがその極大値:

(NAhcω/2)に近づくと,強度Iの減衰が鈍化

して,飽和していくことになります。

すなわち,原子遷移は飽和に近づき,吸収が

減少していくわけですが,これは,ビームの

エネルギーが散乱されて出て行く速さ:N2Ahcω

が,その極大値:(NAhcω/2)に近づくからです。

ビーム強度Iが,これ以上増加しても散乱の

起こる速さには,それに見合った増加が有り得ない

のでIが増加すると,気体を通過するときのIの

変化率は減少するわけです。

そこで,Maxwell方程式を基にした巨視的な

吸収理論は飽和の状況では適切でないです。

故に,極端な(ケースⅠ)の(1.103)で実験結果

を説明するには,その実験ではKを測る際には,

当然,飽和が起こらないようにする必要が

あります。

今回はここまでです。

次が第1章最後です。(つづく)

(参考文献):Rodney.Loudon著

(小島忠宣・小島和子共訳)

「光の量子論第2版」(内田老鶴舗)

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