光の量子論9
※[光の量子論8」の第2章 原子・放射相互作用の量子力学
の続きです。
※(余談)今回の記事では,最後に(注)として長い計算
をしました。
私は上京してきた1977年以来,コンピュータ歴ウン
十年といっても,数式などは紙に書かないと,ちゃんと
は計算できない,という性分でしたが,近年,いつの頃
からか?ワードの上でタイプして計算し,紙(ノート)
やペンが無くても長い計算が可能な頭になりました。
これだと,紙は節約になるし,眼が悪くても字が拡大
できるのは,いいのですが,やはり紙とペンでやるより.
間違う件数が多くなったかもしれません。
さて,日本代表のラグビーは終わりました。
去年夏サッカーのW杯のときも思いましたが,次頑張る
とかいわれても,私には4年後の次なんかは無いのでね。
(余談終わり※)
さて,本題です。
まず,§2.5のDiracのデルタ関数の項の続きです。
δ関数は次の基本的性質を持っています。
(ⅰ)δ(ω-ω0)=δ(ω0-ω).(2.67)(δは偶関数)
(ⅱ)δ(ω0-bω)=(1/|b|)δ(ω0/b-ω)(2.68)
(ⅲ)δ[(ω1-ω)(ω2-ω)]
={δ(ω1-ω)+δ(ω2-ω)}/|ω1-ω2|.(2.69)
の3つです。
※(注9-1):上記のδ関数の性質を証明します。
[証明]:(ⅰ)∫ω1ω2f(ω)δ(ω0-ω)dω=f(ω0)
ですが,ω’=-ωと置けばf(ω)=f(-ω’),
dω’=-dωで.ωのω1→ω2の移動に対して.
ω’は(-ω1)→(-ω2)と移動します。
故に,∫ω1ω2f(ω)δ(ω0-ω)dω
=∫-ω2-ω1f(-ω’)δ(ω0+ω’)dω’
f(ω0)=f(-(-ω0))=[f(-ω’)]ω’=-ω0
です。そこで,δ(ω0+ω’)=δ(-ω0―ω’)
よって,ω’=-ωに戻すと,δ(ω0-ω0)
=δ(-ω0+ω)=δ(ω-ω0)を得ます。
(ⅱ) ∫ω1ω2f(ω)δ(ω0-bω)dωを考えます。
これにおいて,x=bωと置くと,dω=dx/bであり,
ωのω1→ω2の移動に対してxの移動は,bω1→bω2
です。
故に,与式=(1/b)∫bω1bω2f(x/b)δ(ω0-x)dx
ω2>ω1ですからb>0ならbω2>bω1より,右辺
=(1/b)f(ω0/b)ですが,b<0ならbω2<bω1
なので,与式=-(1/b)∫bω2bω1f(x/b)δ(ω0-x)dx
=-(1/b)f(ω0/b)です。
したがって,δ(ω0-bω)=(1/|b|)δ(ω0/b-ω)
を得ました。
(ⅲ)∫ω1ω2f(ω)δ[(ω1-ω)(ω2-ω)]d ω
=∫ω1ω2f(ω)δ[ω2-(ω1+ω2)ω+ω1ω2]d ω
=∫ω1ω2f(ω)δ[{ω-(ω1+ω2)/2}2-{(ω1-ω2)/2}2]
d ωですが,ここでx={ω-(ω1+ω2)/2}2と置きます。
dx=2{ω-(ω1+ω2)/2}dω=±2x1/2dωであり,
ω<(ω1+ω2)/2なら,x1/2=-ω+(ω1+ω2)/2
(x1/2:(ω2-ω1)/2→0)で,ω=-x1/2+(ω1+ω2)/2,
dω=-(1/2)x-1/2dxです。
一方,ω>(ω1+ω2)/2なら,x1/2=ω-(ω1+ω2)/2
で(x1/2:0 →(ω2-ω1)/2),ω=x1/2+(ω1+ω2)/2,
dω=(1/2)x-1/2dxです。
そうして,ωのω1→(ω1+ω2)/2 →ω2の移動に対し,
xは,{(ω1-ω2)/2}2 → 0 → {(ω1-ω2)/2}2tと,ωの
2次曲線上を最小値0を通って往復します。
∫ω1ω2dω=∫ω1(ω1+ω2)/2dω+∫ω1(ω1+ω2)/2dω
=-(1/2)∫{(ω1-ω2)/2}2 0x-1/2dx+(1/2)∫0 {(ω1-ω2)/2}
x-1/2dx となります。
それ故,∫ω1ω2f(ω)δ[(ω1-ω)(ω2-ω)]d ω
=∫ω1ω2f(ω)δ[{ω-(ω1+ω2)/2}2-{(ω1-ω2)/2}2]
dω=(1/2)∫0 {(ω1-ω2)/2}[δ[x-{(ω1-ω2)/2}2]x-1/2
×{f(-x1/2+(ω1+ω2)/2)+f(x1/2+(ω1+ω2)/2)}]
dx なる等式を得ます。
ω2>ω1で,x={(ω1-ω2)/2}2のときは,常に
x1/2=≧0より,x1/2=(ω2-ω1)/2 なので.上式
の右辺={f(ω1)+f(ω2)}/(ω2-ω1)が得られます。
したがって,ω2>ω1または,ω1>ω1の一般の場合,
δ[(ω1-ω)(ω2-ω)]
={δ(ω1-ω)+δ(ω2-ω)}/|ω1-ω2|を得ます。
(証明終わり) (注9-1終わり※)
さて,B係数を導く際に,遷移の時間tが(1/ω0)や
(1/Δω)に比べて長い場合に成立する式:(2.48)から
得られる解を採用しました。
すなわち,前々回の記事「光の量子論7」では,光の
ビーム:W(ω)の存在下で時間tの間の1→2の遷移確率
が.|C2(t)|2={2e2|X12|2/(ε0hc2)}W(ω)(Int)(2.45)
で与えられるという一般解を得ました。ただし,(Int)は
積分因子で,Int=∫ω0-Δω/2ω0+Δω/2[sin2{(ω-ω0)t/2}
/(ω-ω0)2]dω(2.46)で与えられます。
この式で,tΔω>>1(t>>1/Δω)の場合には,
Int~∫-∞∞dω1[sin2(ω1t/2)/ω12]=πt/2.(2.48)
なる近似が成立する,と書きましたが,その際,
この解をB係数の評価式として採用しました。
ところで,|C2(t)|2={2e2|X12|2/(ε0hc2)}W(ω)
×(Int)(2.45)なる表式は,元々確定値ω0における表式
(2.42)|C2(t)|2~|Ω|2sin2{(ω-ω0)t/2}/(ω-ω0)2
に,原子は広帯域照射を受けているというアインシュタイン
理論の基礎仮定を採用しω0の不確定さΔωを考慮して,
この表式をω0を遷移周波数の中心とするωのある範囲
にわたって積分したものです。
つまり,|C2(t)|2=|Ω|2sin2{(ω-ω0)t/2}/(ω-ω0)2
において,Ω=eE0X12/hcと,(1/2)ε0E02=∫W(ω)dω
を利用して,|C2(t)|2={2e2{X12|2/(ε0hc2)}
×∫ω0-Δω/2ω0+Δω/2[W(ω)sin2{(ω-ω0)t/2}
/(ω-ω0)2]dω としたものです。
(1/ω0),(1/Δω)は,光の吸収を実験的に観測するとき,
それを制御する特有の時間です。
これがゼロに近づくtの長時間極限では,(2.59)のδ関数
という記号:δ(ω0-ω)
=(2/π)limt→∞sin2{(ω0-ω)t/2}/{(ω0-ω)2t}
を用いると,t→∞の長時間極限で.元の(2.42)式の
|C2(t)|2=|Ω|2sin2{(ω-ω0)t/2}/(ω-ω0)2
を,|C2(t)|2=(π/2)|Ω|2tδ(ω0-ω)
(2.70)という形に書くのが適切ということになります。
※(注9-2);上でDiracのδ関数を記号と呼んだのは,
その性質の証明などでは,これを普通の積分可能な関数の
ように,置換積分法などが適用可能として扱いましたが,,
これは,数学的には関数の範疇には入らず,積分記号無し
では意味のない記号のようなものという意味です。
現代的には,Schwartzのdistributionと呼ばれるもの,
または,佐藤の超関数(hyperfunction)と呼ばれるものに
代表される汎関数として定義される超関数の一種です。
(注9-2終わり※)
さて,(2.70):|C2(t)|2=(π/2)|Ω|2tδ(ω0-ω)の
結果は,Hamiltonianの時間に依存する部分がcos(ωt)
に比例し,周波数ωがω0のまわりに連続的分布する如何
なる遷移過程にも適用できて,行列要素Ωだけが過程に
よって異なります。そして,δ関数は積分の中にある
ときに限って意味を持ちます。
- 2.6 光学Bloch方程式
(2.31),(2.32)の方程式:
Ωcos(ωt)exp(-iω0t)C2=i(dC1/dt),
Ω*cos(ωt)exp(iω0t)C1=i(dC2/dt)
は,(2.8)の波動関数の表現:Ψ(r,t)
=C1(t)Ψ1(r,t)+C2(t)Ψ2(r,t)における
両係数C1,C2の定義と合わせて,振動電場と相互
作用する2準位原子の状態の厳密な記述を与えます。
しかし,すぐ前の§2.3では周波数ωの分布がω0
の付近で滑らかな解を場合の(2.31),(2.32)の解を
問題としていました。
そして,解はΩ or E0についての低次項だけを
拾ったという意味で近似解であり,(2.42)の表式:
|C2(t)|2=|Ω|2sin2{(ω-ω0)t/2}/(ω-ω0)2は,
回転近似と呼ばれる近似式です。
そこで,以下では(2.31),(2.32)のより一般的な解
を探すことにします。
しかし,やはり回転波近似を行ないますが.Ω or E0
の全ての次数の項を拾います。さらに,入射光は,単一
周波数ωの振動電場を持った単色光であると仮定します。
ビーム周波数ωに分布があれば,その効果は,単色光
に対する結果を平均すれば得られます。
ここで,原子密度行列:(ρij)の4つの要素を,
ρ11=|C1|2=N1/N,ρ22=|C2|2=N2/N.(2.71)
ρ12=C1C2*,ρ21=C2C1*.(2.72)で定義します。
対角要素:ρ11,ρ22は明らかに実数であり,規格化
の条件:|C1|2+|C2|2=1の要求は,ρ11+ρ22=1
(2.73)となります。(※ ρij=CiCj*;i,j=1,2)
原子集団ではN1=N|C1|2,N2=N|C2|2によって,
これらは,2準位内の平均数と結び付いています。
非対角要素は複素数であり,ρ21=ρ12*(2.74)
を満たします。
そして,密度行列が従う方程式は,
dρij/dt=Ci(dCj*/dt)+Cj*(dCi/dt)
(2.75)です。
故に,dρ22/dt=-dρ11/dt
=-C1(dC1*/dt)-C1*(dC1/dt)
=-iΩ*cos(ωt)exp(iω0t)ρ12
+iΩcos(ωt)exp(-iω0t)ρ21
=-icos(ωt){Ω*exp(iω0t)ρ12
+iΩexp(-iω0t)ρ21}.(2.76) と書けます。
同様にして,dρ12/dt=-dρ21*/dt
=iΩcos(ωt)exp(-iω0t)(ρ11-ρ22).(2.77)
を得ます。
これらは,密度行列に対する厳密な方程式ですが,
ここで回転波近似を施します。すなわち,cos(ωt)
=(1/2){exp(iωt)+exp(-iωt)}を代入し,
結果.ω~ω0より,exp{±i(ω0-ω)t}の項だけを
残しexp{±i(ω0+ω)t}の項を無視する近似をして,
dρ22/dt=-dρ11/dt
=(-i/2)Ω*exp{i(ω0-ω)t}ρ12
+(i/2)Ωexp{-i(ω0-ω)t}ρ21.(2.78)
dρ12/dt=dρ21*/dt
=(i/2)Ωexp{-i(ω0-ω)t}(ρ11-ρ22)(2.79)
が得られるわけです。
これは,「光学Bloch方程式」と呼ばれるもの
として知られており,振動磁場内のスピンの運動を
記述するためにBlochが導出したものと同類のもの
です。それは,ここで考察した2準位原子の量子力学
が,形式の上では同じ2自由度のスピン:1/2の系の
ものに全く等しい,からです。
- 2.7 Rabi振動
上記最後の方程式(2.78),(2.79)は,これ以上の近似
無しで解くことができます。これらは,原子密度行列の
4つの要素に対する4つの連立方程式系を成しています。
試行解として,ρ11(t)=ρ11(0)exp(λt)(2.80a),
ρ22(t)=ρ22(0)exp(λt)(2.80b),
ρ12(t)=ρ12(0)exp{-i(ω0-ω)t}exp(λt)(2.80c),
ρ21(t)=ρ21(0)exp{i(ω0-ω)t}exp(λt)(2.80d)
を代入すると,4成分の縦ベクトル:
ρ^(0)=[ρ11(0),ρ22(0),ρ12(0), ρ21(0)]Tに対し,
[-λ,0,(i/2)Ω*,(-i/2)Ω]ρ^(0)=0.(2.81a),
[0,-λ,(-i/2)Ω*,(i/2)Ω]ρ^(0)=0.(2.81b),
[(i/2)Ω,(-i/2)Ω,i(ω0-ω)-λ,0]ρ^(0)
=0 .(2.81c),
[(-i/2)Ω*,(i/2)Ω*,0,-i(ω0-ω)-λ]ρ^(0)
=0 .(2.81d)
なる(4×4行列)×ρ^(0=0の方程式を得ます。
このとき,λの取り得る値は,これがρ^(0=0という
自明な解以外の解を持つという条件から決まります。
そこで,方程式の係数行列の行列式=0から,
λ2{λ2+(ω0-ω)2+|Ω|2}=0.(2.82)なる
特性方程式を得ます。(※ 上式の導出=行列式の計算
の過程は省略そます。)
この方程式の相異なる3根は,
λ1=0,λ2=iΩ1,λ3=-iΩ1.(2.83)で与えられます。
ただし,Ω1={(ω0-ω)2+|Ω|2}1/2.(2.84)です。
(※Ωは複素数ですがΩ1は実数であることに注意)
したがって,密度行列要素に対する最も一般的な解は,
ρij(t)=ρij(1)+ρij(2)exp(iΩ1t)+ρij(3)exp(-iΩ1t)
(2.85)で与えられるはずです。
ところが,この一般形は(2.80)で仮定した形の
ρ11(t)=ρ11(0)exp(λt),ρ22(t)=ρ22(0)exp(λt),
ρ12(t)=ρ12(0)exp{-i(ω0-ω)t}exp(λt),
ρ21(t)=ρ21(0)exp{i(ω0-ω)t}exp(λt)
についてのλが満たすべき方程式が上記特性方程式
なので,実は非対角要素には,さらに振動的な指数関数
因子が加わります。
つまり,対角要素は,(2.85)そのままの形で,
ρ11(t)=ρ11(1)+ρ11(2)exp(iΩ1t)+ρ11(3)exp(-iΩ1t),
ρ22(t)=ρ22(1)+ρ22(2)exp(iΩ1t)+ρ22(3)exp(-iΩ1t)
ですが,非対角要素は,上記の仮定:(2.80)により
ρ12(t)=exp{-i(ω0-ω)t}
×[ρ12(1)+ρ12(2)exp(iΩ1t)+ρ12(3)exp(-iΩ1t)]
ρ21(t)=exp{i(ω0-ω)t}
×[ρ21(1)+ρ21(2)exp(iΩ1t)+ρ21(3)exp(-iΩ1t)]
となります。
※(注9-3):特性方程式の解が重根の場合,
それがλ=α≠0なら,それに属する独立な2つの解
としては,exp(αt)の他に,texp(αt)をとることが
できます。この重根がα=0なら,独立解は1とtです。
しかし,今の場合,ρ21(t)=ρ12*(t)を考慮すると,
4つの成分のうち独立なのは,ρ11(t),ρ22(t),ρ12(t)
の3つだけと考えられますから,係数行列は3×3で十分
と考えて,λ=λ1=0は真の重根ではなく単根であり1
(定数)のみが,それに属する独立解です。
さらにρ11(t)+ρ22(t),=1の条件をも考慮すれば,
実は独立成分は2つだけです。
しかし,取り合えず,4つの成分全てについて対角要素は
ρ11(t)=ρ11(1)+ρ11(2)exp(iΩ1t)+ρ11(3)exp(-iΩ1t),
ρ22(t)=ρ22(1)+ρ22(2)exp(iΩ1t)+ρ22(3)exp(-iΩ1t)
となり,非対角要素は,
ρ12(t)=exp{-i(ω0-ω)t}
×[ρ12(1)+ρ12(2)exp(iΩ1t)+ρ12(3)exp(-iΩ1t)]
ρ21(t)=exp{i(ω0-ω)t}
×[ρ21(1)+ρ21(2)exp(iΩ1t)+ρ21(3)exp(-iΩ1t)]
となるとしておきます。(注9-3終わり※)
さて,λ=λ1=0に対応する定数項は解を光学Bloch
方程式に代入し返せば決まるはずです。
また,λ2=iΩ1,λ3=-iΩ1で,Ω1={(ω0-ω)2+|Ω|2}1/2.
ですから,|Ω|2の存在のため原子と光ビーム結合系での
周波数Ω1は,結合がないときの,それぞれの値:ω0やωとは
異なります。
そして,|Ω|2はビームの振動電場の振幅:|E0|の2乗に
比例するので,この結合系の周波数のシフトと分裂は,静電場
を印加したときの原子のエネルギー準位のシフトと分裂から
の類推により,動的シュタルク(Stark)効果と呼ばれています。
これは後の第8章で述べる予定の「共鳴蛍光スペクトル」
の観測にかかる重要な効果をもたらすものです。
光学Bloch方程式の解は,任意の初期条件の場合は,
甚だしく長くなるので,以下の議論は特別な場合に限る
ことにします。
※(注9-4);密度行列に対する厳密な方程式:(2.78),(2.79)
の解は.初期条件がρ22=0,ρ12=0(※C2=0)(2.86)の場合,
ρ22=(|Ω|2/Ω12)sin2(Ω1t/2).(2.87)
ρ12=exp{-i(ω0-ω)t}(Ω/Ω12)sin(Ω1t/2)
×{-(ω0-ω)sin(Ω1t/2)+iΩ1cos(Ω1t/2)}.(2.88)
となることを証明します。
[証明]:まず,ρ22の一般解:
ρ22(t)=ρ22(1)+ρ22(2)exp(iΩ1t)
+ρ22(3)exp(-iΩ1t)において,初期条件;
ρ22(0)=0より,ρ22(1)+ρ22(2)+ρ22(3)=0です。
また,ρ12の一般解:ρ12(t)=exp{-i(ω0-ω)t}
×[ρ12(1)+ρ12(2)exp(iΩ1t)+ρ12(3)exp(-iΩ1t)]
において,初期条件;ρ12(0)=0より
ρ12(1)+ρ12(2)+ρ12(3)=0です。
ここで,Bloch方程式に,これらの一般解を代入して,
それに,条件:ρ11=1-ρ22より,ρ11-ρ22=1-2ρ22,
および,ρ21=ρ12*を適用します。
まず,(2.78)のdρ22/dt=-dρ11/dt
=(-i/2)Ω*exp{i(ω0-ω)t}ρ12
+(i/2)Ωexp{-i(ω0-ω)t}ρ21は.
iΩ1ρ22(2)exp(iΩ1t)-iΩ1ρ22(3)exp(-iΩ1t)
=(-i/2)Ω*
×{ρ12(1)+ρ12(2)exp(iΩ1t)+ρ12(3)exp(-iΩ1t)]
+(i/2)Ω
×{ρ12(1)*+ρ12(2)*exp(-iΩ1t)+ρ12(3)*exp(iΩ1t)]
(A1)と書けます。
次に,(2.79)の,dρ12/dt=dρ21*/dt
=(i/2)Ωexp{-i(ω0-ω)t}(ρ11-ρ22)は.
-i(ω0-ω)exp{-i(ω0-ω)t}ρ12(1)
+i{Ω1-(ω0-ω)}exp[i{Ω1-(ω0-ω)}t].
-i{Ω1+(ω0-ω)}exp[-i{Ω1+(ω0-ω)}t]ρ12(3)
=(i/2)Ωexp{-i(ω0-ω)t}
×[1-2{ρ22(1)+ρ22(2)exp(iΩ1t)+ρ22(3)exp(-iΩ1t)}],
すなわち,-i(ω0-ω)ρ12(1)
+i{Ω1-(ω0-ω)}exp(iΩ1t)ρ12(2)
-i{Ω1+(ω0-ω)}exp(-iΩ1t)ρ12(3)
=(i/2)Ω
[1-2{ρ22(1)+ρ22(2)exp(iΩ1t)+ρ22(3)exp(-iΩ1t)}]
(A2)と書けます。
そして,(A1)からは,まず,Ω*ρ12(1)-Ωρ12(1)*=0.(A3),
つまり,Ω*ρ12(1)は実数である,という結果を得ます。
また,Ω1ρ22(2)=-(1/2)(Ω*ρ12(2)-Ωρ12(3)*)(A4),
かつ,Ω1ρ22(3)=(1/2)(Ω*ρ12(3)-Ωρ12(2)*).(A5)を
得ます。
一方,(A2)からは,まず,
-(ω0-ω)ρ12(1)=(1/2)Ω(1-2ρ22(1))より,
ρ22(1)=1/2+{(ω0-ω)/Ω}ρ12(1)(A6)を得ます。
次に,{Ω1-(ω0-ω)}ρ12(2)=-Ωρ22(2)(A7),
かつ,{Ω1+(ω0-ω)}ρ12(3)=Ωρ22(3)(A8)
も得られます。
さて,Ωρ22(2)=-{Ω1-(ω0-ω)}ρ12(2)(A5),
および.Ωρ22(3)={Ω1+(ω0-ω)}ρ12(3)(A6)
を得ます。と書きました。
ところが,ρ22(2)+ρ22(3)=-ρ22(1)
かつ,ρ12(2)+ρ12(3)=-ρ12(1)なので,これは,
Ωρ22(1)=(ω0-ω)ρ12(1)+Ω1(ρ12(2)-ρ12(3))
を意味します。
一方,Ωρ22(1)=Ω/2+(ω0-ω)ρ12(1)
ですから,(ω0-ω)ρ12(1)+Ω1(ρ12(2)-ρ12(3))
=Ω/2+(ω0-ω)ρ12(1),つまり,ρ12(2)-ρ12(3)
=(1/2)(Ω/Ω1)が得られます。
以上から,Ωρ22(1)=(ω0-ω)ρ12(1)
+Ω1(ρ12(2)-ρ12(3))=(ω0-ω)ρ12(1)+Ω/2です。
これと,ρ12(2)+ρ12(3)=-ρ12(1)から,辺々加えて
2ρ12(2)=(1/2)(Ω/Ω1)-ρ12(1)(A7),また後の式から
前の式を引いて,2ρ12(3)=-(1/2)(Ω/Ω1)-ρ12(1)(A8)
です。しかし,これらは,これ以上,何も新しい式を生まない
ことがわかりました。これ以上の変形をしてもトートロジー
なので,この手順は,ここで停止です。
そこで,次策として,取り合えず,
ρ22=ρ22(1)+ρ22(2)exp(iΩ1t)+ρ22(3)exp(-iΩ1t)
に戻って,このρ22=|C2|2が実数であることに着目します。
つまり,ρ22=ρ22*なので,
ρ22(1)+ρ22(2)exp(iΩ1t)+ρ22(3)exp(-iΩ1t)
=ρ22(1)*+ρ22(2)*exp(-iΩ1t)+ρ22(3)*exp(iΩ1t)
です。
それ故,ρ22(1) =ρ22(1) *は実数であること,および,,
ρ22(2)=ρ22(3)*,かつ,ρ22(3)=ρ22(2)*であることが
わかります。故に,ρ22(2)=a+ib(a,bは実数)と置けば,
ρ22(3)=a-ibです。そして,さらに.Ω*ρ12(1)=c(実数)
と置きます。
すると,まず, ρ22(1)=-(ρ22(2)+ρ22(3))=-2a
(実数)と書けます。
また,前に得た式:Ωρ22(1)=(ω0-ω)ρ12(1)+Ω/2
により,|Ω|2ρ22(1)=c(ω0-ω)+|Ω|2/2なので,
-2a=c(ω0-ω)/|Ω|2+1/2,
あるいは,a=-1/4-(c/2)(ω0-ω)/|Ω|2という
aとcの関係式が得られます。
他方.Ω*(ρ12(2)+ρ12(3))=-Ω*ρ12(1)=-c
Ω*(ρ12(2)-ρ12(3))=(1/2)(|Ω|2/Ω1)ですから,
Ω*ρ122) =(1/4)(|Ω|2/Ω1)-c/2(実数)(A7)
Ω*ρ12(3) =-{(1/4)(|Ω|2/Ω1)+c/2}(実数)
(A8)です。
また,先の(A5),(A6)は,,
|Ω|2ρ22(2)=-{Ω1-(ω0-ω)}Ω*ρ12(2).
|Ω|2ρ22(3)={Ω1+(ω0-ω)}Ω*ρ12(3)です。
そこで,結局,cかaの一方の具体的な値がわかれば,
ρ12(1)=c/Ω*とρ22(1)=-2aだけでなく,(A7)(A8)
から,Ω*ρ122),Ω*ρ122)がわかり,それから芋づる式に,
(A5),(A6)から|Ω|2ρ22(2),|Ω|2ρ22(3)もわかるので,
ρ12とρ22の全ての定係数が決まるので,解が定まって
問題は完全に解決します。
それ故,以下,これら以外の式からaまたはcを導出
することを試みます。
まず,2ib=ρ22(2)-ρ22(3)ですから,
2ib|Ω|2=|Ω|2(ρ22(2)-ρ22(3))
=-{Ω1-(ω0-ω)}Ω*ρ12(2)-{Ω1+(ω0-ω)}Ω*ρ12(3)
=-Ω1Ω*(ρ12(2)+ρ12(3))+(ω0-ω)Ω*(ρ12(2)-ρ12(3))
です。つまり,cΩ1+(ω0-ω)Ω*(ρ12(2)-ρ12(3))
=2ib|Ω|2ですが,Ω*(ρ12(2)-ρ12(3))=(1/2)(|Ω|2/Ω1)
であり,これは実数なのでcΩ1+(1/2)(ω0-ω)(|Ω|2/Ω1)
=2ib|Ω|2(となり(実数)=(純虚数)と書けることになります。
これが成立するには両辺ともゼロであることが必要十分であり,
特にb=0です。
左辺=0からは,c=-(1/2)(ω0-ω)(|Ω|2/Ω12)を得ます。
かくして,cの値が決定されました。
したがって,まず,aをcで表わす関係式;
a=-1/4-(c/2)(ω0-ω)/|Ω|2により,
a=-1/4+(1/4)(ω0-ω)2/Ω12
={1/(4Ω12)}{(ω0-ω)2-Ω12}を得ます。
ところが,(2.84)のΩ1の定義:Ω1={(ω0-ω)2+|Ω|2}1/2
によれば.(ω0-ω)2-Ω12=-|Ω|2です。
そこで,結局,b=0より,ρ22(2)=ρ22(3)=a=-|Ω|2/(4Ω12)
を得ます。さらに,ρ22(1)=-2a=|Ω|2/(2Ω12)も得られます。
一方,Ω*ρ12(2)=(1/4)(|Ω|2/Ω1)-c/2
=(1/4)(|Ω|2/Ω12){(ω0-ω)+Ω1}によって,
ρ12(2)=(1/4)(Ω/Ω12){(ω0-ω)+Ω1}であり,,
Ω*ρ12(3)=-{(1/4)(|Ω|2/Ω1)+c/2}
=(1/4)(|Ω|2/Ω12){(ω0-ω)-Ω1}によって,
ρ12(3)=(1/4)(Ω/Ω12){(ω0-ω)-Ω1}を得ます。
最後に,ρ12(1)=c/Ω*=-(1/2)(Ω/Ω12)(ω0-ω)
です。
以上から,
ρ22=ρ22(1)+ρ22(2)exp(iΩ1t)+ρ22(3)exp(-iΩ1t)
=|Ω|2/(2Ω12)[1-(1/2)|exp(iΩ1t)+exp(-iΩ1t){}
=||Ω|2/(2Ω12)}{1-cos(Ω1t)}です。
すなわち,ρ22(t)=(|Ω|2/Ω12)sin2(Ω1t/2)
を得ました。
また, ρ12exp{i(ω0-ω)t}
=ρ12(1)+ρ12(2)exp(iΩ1t)+ρ12(3)exp(-iΩ1t)
=-(1/2)(Ω/Ω12)(ω0-ω)
+(1/4)(Ω/Ω12){(ω0-ω)+Ω1}exp(iΩ1t)
+(1/4)(Ω/Ω12){(ω0-ω)-Ω1}exp(-iΩ1t)
=-{Ω/(2Ω12)}(ω0-ω){1-cos(Ω1t)}
+{Ω/(4Ω1)}{2isin(Ω1t)}
=-(Ω/Ω12)}(ω0-ω)sin2(Ω1t/2)
+{Ω/Ω1)isin(Ω1t)cos(Ω1t/2)
故に,ρ12(t)=(Ω/Ω12)exp{-i(ω0-ω)t}
sin(Ω1t/2)[-(ω0-ω)sin(Ω1t/2)+iΩ1cos(Ω1t/2)]
が得られます。(証明終わり) (注9-4終わり※)
今回は計算が長くなったので,ここまでにします。(つづく)
(参考文献):Rodney Loudon 著
(小島忠宣・小島和子 共訳)
「光の量子論第2版」(内田老鶴舗)
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