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2019年10月28日 (月)

光の量子論9

※[光の量子論8」の第2章 原子・放射相互作用の量子力学

の続きです。

※(余談)今回の記事では,最後に(注)として長い計算

をしました。

私は上京してきた1977年以来,コンピュータ歴ウン

十年といっても,数式などは紙に書かないと,ちゃんと

は計算できない,という性分でしたが,近年,いつの頃

からか?ワードの上でタイプして計算し,紙(ノート)

やペンが無くても長い計算が可能な頭になりました。

これだと,紙は節約になるし,眼が悪くても字が拡大

できるのは,いいのですが,やはり紙とペンでやるより.

間違う件数が多くなったかもしれません。

さて,日本代表のラグビーは終わりました。

去年夏サッカーのW杯のときも思いましたが,次頑張る

とかいわれても,私には4年後の次なんかは無いのでね。

(余談終わり※)

さて,本題です。

まず,§2.5のDiracのデルタ関数の項の続きです。

δ関数は次の基本的性質を持っています。

(ⅰ)δ(ω-ω0)=δ(ω0-ω).(2.67)(δは偶関数)

(ⅱ)δ(ω0-bω)=(1/|b|)δ(ω0/b-ω)(2.68)

(ⅲ)δ[(ω1-ω)(ω2-ω)]

={δ(ω1-ω)+δ(ω2-ω)}/|ω1-ω2|.(2.69)

の3つです。

※(注9-1):上記のδ関数の性質を証明します。

[証明]:(ⅰ)∫ω1ω2f(ω)δ(ω0-ω)dω=f(ω0)

ですが,ω’=-ωと置けばf(ω)=f(-ω’),

dω’=-dωで.ωのω1→ω2の移動に対して.

ω’は(-ω1)→(-ω2)と移動します。

故に,∫ω1ω2f(ω)δ(ω0-ω)dω

=∫-ω2-ω1f(-ω’)δ(ω0+ω’)dω’

f(ω0)=f(-(-ω0))=[f(-ω’)]ω’=-ω0

です。そこで,δ(ω0+ω’)=δ(-ω0―ω’)

よって,ω’=-ωに戻すと,δ(ω0-ω0)

=δ(-ω0+ω)=δ(ω-ω0)を得ます。

(ⅱ) ∫ω1ω2f(ω)δ(ω0-bω)dωを考えます。

これにおいて,x=bωと置くと,dω=dx/bであり,

ωのω1→ω2の移動に対してxの移動は,bω1→bω2

です。

故に,与式=(1/b)∫bω1bω2f(x/b)δ(ω0-x)dx

ω2>ω1ですからb>0ならbω2>bω1より,右辺

=(1/b)f(ω0/b)ですが,b<0ならbω2<bω1

なので,与式=-(1/b)∫bω2bω1f(x/b)δ(ω0-x)dx

=-(1/b)f(ω0/b)です。

したがって,δ(ω0-bω)=(1/|b|)δ(ω0/b-ω)

を得ました。

(ⅲ)∫ω1ω2f(ω)δ[(ω1-ω)(ω2-ω)]d ω

=∫ω1ω2f(ω)δ[ω2-(ω1+ω2)ω+ω1ω2]d ω

=∫ω1ω2f(ω)δ[{ω-(ω1+ω2)/2}2-{(ω1-ω2)/2}2]

d ωですが,ここでx={ω-(ω1+ω2)/2}2と置きます。

dx=2{ω-(ω1+ω2)/2}dω=±2x1/2dωであり,

ω<(ω1+ω2)/2なら,x1/2=-ω+(ω1+ω2)/2

(x1/2:(ω2-ω1)/2→0)で,ω=-x1/2+(ω1+ω2)/2,

dω=-(1/2)x-1/2dxです。

一方,ω>(ω1+ω2)/2なら,x1/2=ω-(ω1+ω2)/2

で(x1/2:0 →(ω2-ω1)/2),ω=x1/2+(ω1+ω2)/2,

dω=(1/2)x-1/2dxです。

そうして,ωのω1→(ω1+ω2)/2 →ω2の移動に対し,

xは,{(ω1-ω2)/2}2 → 0 → {(ω1-ω2)/2}2tと,ωの

2次曲線上を最小値0を通って往復します。

ω1ω2dω=∫ω1(ω1+ω2)/2dω+∫ω1(ω1+ω2)/2dω

=-(1/2)∫{(ω1-ω2)/2}2 0-1/2dx+(1/2)∫0 {(ω1-ω2)/2}

-1/2dx となります。

それ故,∫ω1ω2f(ω)δ[(ω1-ω)(ω2-ω)]d ω

=∫ω1ω2f(ω)δ[{ω-(ω1+ω2)/2}2-{(ω1-ω2)/2}2]

dω=(1/2)∫0 {(ω1-ω2)/2}[δ[x-{(ω1-ω2)/2}2]x-1/2

×{f(-x1/2+(ω1+ω2)/2)+f(x1/2+(ω1+ω2)/2)}]

dx なる等式を得ます。

 

ω2>ω1で,x={(ω1-ω2)/2}2のときは,常に

1/2=≧0より,x1/2=(ω2-ω1)/2 なので.上式

の右辺={f(ω1)+f(ω2)}/(ω2-ω1)が得られます。

したがって,ω2>ω1または,ω1>ω1の一般の場合,

δ[(ω1-ω)(ω2-ω)]

={δ(ω1-ω)+δ(ω2-ω)}/|ω1-ω2|を得ます。

(証明終わり)   (注9-1終わり※)

 

さて,B係数を導く際に,遷移の時間tが(1/ω0)や

(1/Δω)に比べて長い場合に成立する式:(2.48)から

得られる解を採用しました。

すなわち,前々回の記事「光の量子論7」では,光の

ビーム:W(ω)の存在下で時間tの間の1→2の遷移確率

が.|C2(t)|2={2e2|X12|2/(ε0c2)}W(ω)(Int)(2.45)

で与えられるという一般解を得ました。ただし,(Int)は

積分因子で,Int=∫ω0-Δω/2ω0+Δω/2[sin2{(ω-ω0)t/2}

/(ω-ω0)2]dω(2.46)で与えられます。

この式で,tΔω>>1(t>>1/Δω)の場合には,

Int~∫-∞dω1[sin21t/2)/ω12]=πt/2.(2.48)

なる近似が成立する,と書きましたが,その際,

この解をB係数の評価式として採用しました。

ところで,|C2(t)|2={2e2|X12|2/(ε0c2)}W(ω)

×(Int)(2.45)なる表式は,元々確定値ω0における表式

(2.42)|C2(t)|2~|Ω|2sin2{(ω-ω0)t/2}/(ω-ω0)2

に,原子は広帯域照射を受けているというアインシュタイン

理論の基礎仮定を採用しω0の不確定さΔωを考慮して,

この表式をω0を遷移周波数の中心とするωのある範囲

にわたって積分したものです。

つまり,|C2(t)|2=|Ω|2sin2{(ω-ω0)t/2}/(ω-ω0)2

において,Ω­=eE012/hcと,(1/2)ε002=∫W(ω)dω

を利用して,|C2(t)|2={2e2{X12|2/(ε0c2)}

×∫ω0-Δω/2ω0+Δω/2[W(ω)sin2{(ω-ω0)t/2}

/(ω-ω0)2]dω としたものです。

 

 

(1/ω0),(1/Δω)は,光の吸収を実験的に観測するとき,

それを制御する特有の時間です。

これがゼロに近づくtの長時間極限では,(2.59)のδ関数

という記号:δ(ω0-ω)

=(2/π)limt→∞sin2{(ω0-ω)t/2}/{(ω0-ω)2t}

を用いると,t→∞の長時間極限で.元の(2.42)式の

|C2(t)|2=|Ω|2sin2{(ω-ω0)t/2}/(ω-ω0)2

を,|C2(t)|2=(π/2)|Ω|2tδ(ω0-ω)

(2.70)という形に書くのが適切ということになります。

 

※(注9-2);上でDiracのδ関数を記号と呼んだのは,

その性質の証明などでは,これを普通の積分可能な関数の

ように,置換積分法などが適用可能として扱いましたが,,

これは,数学的には関数の範疇には入らず,積分記号無し

では意味のない記号のようなものという意味です。

現代的には,Schwartzのdistributionと呼ばれるもの,

または,佐藤の超関数(hyperfunction)と呼ばれるものに

代表される汎関数として定義される超関数の一種です。

(注9-2終わり※)

 

さて,(2.70):|C2(t)|2=(π/2)|Ω|2tδ(ω0-ω)の

結果は,Hamiltonianの時間に依存する部分がcos(ωt)

に比例し,周波数ωがω0のまわりに連続的分布する如何

なる遷移過程にも適用できて,行列要素Ωだけが過程に

よって異なります。そして,δ関数は積分の中にある

ときに限って意味を持ちます。

 

  • 2.6 光学Bloch方程式

(2.31),(2.32)の方程式:

Ωcos(ωt)exp(-iω0t)C2=i(dC1/dt),

Ωcos(ωt)exp(iω0t)C1=i(dC2/dt)

は,(2.8)の波動関数の表現:Ψ(,t)

=C1(t)Ψ1(,t)+C2(t)Ψ2(,t)における

両係数C1,C2の定義と合わせて,振動電場と相互

作用する2準位原子の状態の厳密な記述を与えます。

しかし,すぐ前の§2.3では周波数ωの分布がω0

の付近で滑らかな解を場合の(2.31),(2.32)の解を

問題としていました。

そして,解はΩ or E0についての低次項だけを

拾ったという意味で近似解であり,(2.42)の表式:

|C2(t)|2=|Ω|2sin2{(ω-ω0)t/2}/(ω-ω0)2は,

回転近似と呼ばれる近似式です。

 

そこで,以下では(2.31),(2.32)のより一般的な解

を探すことにします。

しかし,やはり回転波近似を行ないますが.Ω or E0

の全ての次数の項を拾います。さらに,入射光は,単一

周波数ωの振動電場を持った単色光であると仮定します。

ビーム周波数ωに分布があれば,その効果は,単色光

に対する結果を平均すれば得られます。

ここで,原子密度行列:(ρij)の4つの要素を,

ρ11=|C1|2=N1/N,ρ22=|C2|2=N2/N.(2.71)

ρ12=C1221=C21.(2.72)で定義します。

対角要素:ρ1122は明らかに実数であり,規格化

の条件:|C1|2+|C2|2=1の要求は,ρ11+ρ22=1

(2.73)となります。(※ ρij=Cij;i,j=1,2)

原子集団ではN1=N|C1|2,N2=N|C2|2によって,

これらは,2準位内の平均数と結び付いています。

 非対角要素は複素数であり,ρ21=ρ12(2.74)

を満たします。

そして,密度行列が従う方程式は,

dρij/dt=Ci(dCj/dt)+Cj(dCi/dt)

(2.75)です。

故に,dρ22/dt=-dρ11/dt

=-C1(dC1/dt)-C1(dC1/dt)

=-iΩcos(ωt)exp(iω0t)ρ12

+iΩcos(ωt)exp(-iω0t)ρ21

=-icos(ωt){Ωexp(iω0t)ρ12

+iΩexp(-iω0t)ρ21}.(2.76) と書けます。

同様にして,dρ12/dt=-dρ21/dt

=iΩcos(ωt)exp(-iω0t)(ρ11-ρ22).(2.77)

を得ます。

これらは,密度行列に対する厳密な方程式ですが,

ここで回転波近似を施します。すなわち,cos(ωt)

=(1/2){exp(iωt)+exp(-iωt)}を代入し,

結果.ω~ω0より,exp{±i(ω0-ω)t}の項だけを

残しexp{±i(ω0+ω)t}の項を無視する近似をして,

dρ22/dt=-dρ11/dt

=(-i/2)Ωexp{i(ω0-ω)t}ρ12

+(i/2)Ωexp{-i(ω0-ω)t}ρ21.(2.78)

dρ12/dt=dρ21/dt

=(i/2)Ωexp{-i(ω0-ω)t}(ρ11-ρ22)(2.79)

が得られるわけです。

これは,「光学Bloch方程式」と呼ばれるもの

として知られており,振動磁場内のスピンの運動を

記述するためにBlochが導出したものと同類のもの

です。それは,ここで考察した2準位原子の量子力学

が,形式の上では同じ2自由度のスピン:1/2の系の

ものに全く等しい,からです。

 

  • 2.7 Rabi振動

上記最後の方程式(2.78),(2.79)は,これ以上の近似

無しで解くことができます。これらは,原子密度行列の

4つの要素に対する4つの連立方程式系を成しています。

試行解として,ρ11(t)=ρ11(0)exp(λt)(2.80a),

ρ22(t)=ρ22(0)exp(λt)(2.80b),

ρ12(t)=ρ12(0)exp{-i(ω0-ω)t}exp(λt)(2.80c),

ρ21(t)=ρ21(0)exp{i(ω0-ω)t}exp(λt)(2.80d)

を代入すると,4成分の縦ベクトル:

ρ^(0)=[ρ11(0)22(0)12(0), ρ21(0)]に対し,

[-λ,0,(i/2)Ω,(-i/2)Ω]ρ^(0)=0.(2.81a),

[0,-λ,(-i/2)Ω,(i/2)Ω]ρ^(0)=0.(2.81b),

[(i/2)Ω,(-i/2)Ω,i(ω0-ω)-λ,0]ρ^(0)

=0 .(2.81c),

[(-i/2)Ω,(i/2)Ω,0,-i(ω0-ω)-λ]ρ^(0)

=0 .(2.81d)

なる(4×4行列)×ρ^(00の方程式を得ます。

このとき,λの取り得る値は,これがρ^(00という

自明な解以外の解を持つという条件から決まります。

そこで,方程式の係数行列の行列式=0から,

λ22+(ω0-ω)2+|Ω|2}=0.(2.82)なる

特性方程式を得ます。(※ 上式の導出=行列式の計算

の過程は省略そます。)

 この方程式の相異なる3根は,

λ1=0,λ2=iΩ13=-iΩ1.(2.83)で与えられます。

ただし,Ω1={(ω0-ω)2+|Ω|2}1/2.(2.84)です。

(※Ωは複素数ですがΩ1は実数であることに注意)

したがって,密度行列要素に対する最も一般的な解は,

ρij(t)=ρij(1)+ρij(2)exp(iΩ1t)+ρij(3)exp(-iΩ1t)

(2.85)で与えられるはずです。

ところが,この一般形は(2.80)で仮定した形の

ρ11(t)=ρ11(0)exp(λt),ρ22(t)=ρ22(0)exp(λt),

ρ12(t)=ρ12(0)exp{-i(ω0-ω)t}exp(λt),

ρ21(t)=ρ21(0)exp{i(ω0-ω)t}exp(λt)

についてのλが満たすべき方程式が上記特性方程式

なので,実は非対角要素には,さらに振動的な指数関数

因子が加わります。

つまり,対角要素は,(2.85)そのままの形で,

ρ11(t)=ρ11(1)+ρ11(2)exp(iΩ1t)+ρ11(3)exp(-iΩ1t),

ρ22(t)=ρ22(1)+ρ22(2)exp(iΩ1t)+ρ22(3)exp(-iΩ1t)

ですが,非対角要素は,上記の仮定:(2.80)により

ρ12(t)=exp{-i(ω0-ω)t}

×[ρ12(1)+ρ12(2)exp(iΩ1t)+ρ12(3)exp(-iΩ1t)]

ρ21(t)=exp{i(ω0-ω)t}

×[ρ21(1)+ρ21(2)exp(iΩ1t)+ρ21(3)exp(-iΩ1t)]

となります。

 

※(注9-3):特性方程式の解が重根の場合,

それがλ=α≠0なら,それに属する独立な2つの解

としては,exp(αt)の他に,texp(αt)をとることが

できます。この重根がα=0なら,独立解は1とtです。

しかし,今の場合,ρ21(t)=ρ12(t)を考慮すると,

4つの成分のうち独立なのは,ρ11(t),ρ22(t),ρ12(t)

の3つだけと考えられますから,係数行列は3×3で十分

と考えて,λ=λ1=0は真の重根ではなく単根であり1

(定数)のみが,それに属する独立解です。

さらにρ11(t)+ρ22(t),=1の条件をも考慮すれば,

実は独立成分は2つだけです。

しかし,取り合えず,4つの成分全てについて対角要素は

ρ11(t)=ρ11(1)+ρ11(2)exp(iΩ1t)+ρ11(3)exp(-iΩ1t),

ρ22(t)=ρ22(1)+ρ22(2)exp(iΩ1t)+ρ22(3)exp(-iΩ1t)

となり,非対角要素は,

ρ12(t)=exp{-i(ω0-ω)t}

×[ρ12(1)+ρ12(2)exp(iΩ1t)+ρ12(3)exp(-iΩ1t)]

ρ21(t)=exp{i(ω0-ω)t}

×[ρ21(1)+ρ21(2)exp(iΩ1t)+ρ21(3)exp(-iΩ1t)]

となるとしておきます。(注9-3終わり※)

 

さて,λ=λ1=0に対応する定数項は解を光学Bloch

方程式に代入し返せば決まるはずです。

また,λ2=iΩ13=-iΩ1で,Ω1={(ω0-ω)2+|Ω|2}1/2.

ですから,|Ω|2の存在のため原子と光ビーム結合系での

周波数Ω1は,結合がないときの,それぞれの値:ω0やωとは

異なります。

そして,|Ω|2はビームの振動電場の振幅:|E0|の2乗に

比例するので,この結合系の周波数のシフトと分裂は,静電場

を印加したときの原子のエネルギー準位のシフトと分裂から

の類推により,動的シュタルク(Stark)効果と呼ばれています。

これは後の第8章で述べる予定の「共鳴蛍光スペクトル」

の観測にかかる重要な効果をもたらすものです。

 

光学Bloch方程式の解は,任意の初期条件の場合は,

甚だしく長くなるので,以下の議論は特別な場合に限る

ことにします。

※(注9-4);密度行列に対する厳密な方程式:(2.78),(2.79)

の解は.初期条件がρ22=0,ρ12=0(※C2=0)(2.86)の場合,

ρ22=(|Ω|212)sin21t/2).(2.87)

ρ12=exp{-i(ω0-ω)t}(Ω/Ω12)sin(Ω1t/2)

×{-(ω0-ω)sin(Ω1t/2)+iΩ1cos(Ω1t/2)}.(2.88)

となることを証明します。

[証明]:まず,ρ22の一般解:

ρ22(t)=ρ22(1)+ρ22(2)exp(iΩ1t)

+ρ22(3)exp(-iΩ1t)において,初期条件;

ρ22(0)=0より,ρ22(1)+ρ22(2)+ρ22(3)=0です。

また,ρ12の一般解:ρ12(t)=exp{-i(ω0-ω)t}

×[ρ12(1)+ρ12(2)exp(iΩ1t)+ρ12(3)exp(-iΩ1t)]

において,初期条件;ρ12(0)=0より

ρ12(1)+ρ12(2)+ρ12(3)=0です。

ここで,Bloch方程式に,これらの一般解を代入して,

それに,条件:ρ11=1-ρ22より,ρ11-ρ22=1-2ρ22,

および,ρ21=ρ12を適用します。

 

まず,(2.78)のdρ22/dt=-dρ11/dt

=(-i/2)Ωexp{i(ω0-ω)t}ρ12

+(i/2)Ωexp{-i(ω0-ω)t}ρ21は.

1ρ22(2)exp(iΩ1t)-iΩ1ρ22(3)exp(-iΩ1t)

=(-i/2)Ω

×{ρ12(1)+ρ12(2)exp(iΩ1t)+ρ12(3)exp(-iΩ1t)]

+(i/2)Ω

×{ρ12(1)*+ρ12(2)*exp(-iΩ1t)+ρ12(3)*exp(iΩ1t)]

(A1)と書けます。

次に,(2.79)の,dρ12/dt=dρ21/dt

=(i/2)Ωexp{-i(ω0-ω)t}(ρ11-ρ22)は.

-i(ω0-ω)exp{-i(ω0-ω)t}ρ12(1)

+i{Ω1-(ω0-ω)}exp[i{Ω1-(ω0-ω)}t].

-i{Ω1+(ω0-ω)}exp[-i{Ω1+(ω0-ω)}t]ρ12(3)

=(i/2)Ωexp{-i(ω0-ω)t}

×[1-2{ρ22(1)+ρ22(2)exp(iΩ1t)+ρ22(3)exp(-iΩ1t)}],

すなわち,-i(ω0-ω)ρ12(1)

+i{Ω1-(ω0-ω)}exp(iΩ1t)ρ12(2)

-i{Ω1+(ω0-ω)}exp(-iΩ1t)ρ12(3)

=(i/2)Ω

[1-2{ρ22(1)+ρ22(2)exp(iΩ1t)+ρ22(3)exp(-iΩ1t)}]

(A2)と書けます。

そして,(A1)からは,まず,Ωρ12(1)-Ωρ12(1)*=0.(A3),

つまり,Ωρ12(1)は実数である,という結果を得ます。

また,Ω1ρ22(2)=-(1/2)(Ωρ12(2)-Ωρ12(3)*)(A4),

かつ,Ω1ρ22(3)=(1/2)(Ωρ12(3)-Ωρ12(2)*).(A5)を

得ます。

一方,(A2)からは,まず,

-(ω0-ω)ρ12(1)=(1/2)Ω(1-2ρ22(1))より,

ρ22(1)=1/2+{(ω0-ω)/Ω}ρ12(1)(A6)を得ます。

次に,{Ω1-(ω0-ω)}ρ12(2)=-Ωρ22(2)(A7),

かつ,{Ω1+(ω0-ω)}ρ12(3)=Ωρ22(3)(A8)

も得られます。

さて,Ωρ22(2)=-{Ω1-(ω0-ω)}ρ12(2)(A5),

および.Ωρ22(3)={Ω1+(ω0-ω)}ρ12(3)(A6)

を得ます。と書きました。

ところが,ρ22(2)+ρ22(3)=-ρ22(1)

かつ,ρ12(2)+ρ12(3)=-ρ12(1)なので,これは,

Ωρ22(1)=(ω0-ω)ρ12(1)+Ω112(2)-ρ12(3))

を意味します。

一方,Ωρ22(1)=Ω/2+(ω0-ω)ρ12(1)

ですから,(ω0-ω)ρ12(1)+Ω112(2)-ρ12(3))

=Ω/2+(ω0-ω)ρ12(1),つまり,ρ12(2)-ρ12(3)

=(1/2)(Ω/Ω1)が得られます。

以上から,Ωρ22(1)=(ω0-ω)ρ12(1)

+Ω112(2)-ρ12(3))=(ω0-ω)ρ12(1)+Ω/2です。

これと,ρ12(2)+ρ12(3)=-ρ12(1)から,辺々加えて

12(2)=(1/2)(Ω/Ω1)-ρ12(1)(A7),また後の式から

前の式を引いて,2ρ12(3)=-(1/2)(Ω/Ω1)-ρ12(1)(A8)

です。しかし,これらは,これ以上,何も新しい式を生まない

ことがわかりました。これ以上の変形をしてもトートロジー

なので,この手順は,ここで停止です。

そこで,次策として,取り合えず,

ρ22=ρ22(1)+ρ22(2)exp(iΩ1t)+ρ22(3)exp(-iΩ1t)

に戻って,このρ22=|C2|2が実数であることに着目します。

つまり,ρ22=ρ22なので,

ρ22(1)+ρ22(2)exp(iΩ1t)+ρ22(3)exp(-iΩ1t)

=ρ22(1)*+ρ22(2)*exp(-iΩ1t)+ρ22(3)*exp(iΩ1t)

です。

それ故,ρ22(1) =ρ22(1) *は実数であること,および,,

ρ22(2)=ρ22(3),かつ,ρ22(3)=ρ22(2)*であることが

わかります。故に,ρ22(2)=a+ib(a,bは実数)と置けば,

ρ22(3)=a-ibです。そして,さらに.Ωρ12(1)=c(実数)

と置きます。

すると,まず, ρ22(1)=-(ρ22(2)+ρ22(3))=-2a

(実数)と書けます。

また,前に得た式:Ωρ22(1)=(ω0-ω)ρ12(1)+Ω/2

により,|Ω|2ρ22(1)=c(ω0-ω)+|Ω|2/2なので,

-2a=c(ω0-ω)/|Ω|2+1/2,

あるいは,a=-1/4-(c/2)(ω0-ω)/|Ω|2という

aとcの関係式が得られます。

他方.Ω12(2)+ρ12(3))=-Ωρ12(1)=-c

Ω12(2)-ρ12(3))=(1/2)(|Ω|21)ですから,

Ωρ122) =(1/4)(|Ω|21)-c/2(実数)(A7)

Ωρ12(3) =-{(1/4)(|Ω|21)+c/2}(実数)

(A8)です。

また,先の(A5),(A6)は,,

|Ω|2ρ22(2)=-{Ω1-(ω0-ω)}Ωρ12(2).

|Ω|2ρ22(3)={Ω1+(ω0-ω)}Ωρ12(3)です。

 

そこで,結局,cかaの一方の具体的な値がわかれば,

ρ12(1)=c/Ωとρ22(1)=-2aだけでなく,(A7)(A8)

から,Ωρ122)ρ122)がわかり,それから芋づる式に,

(A5),(A6)から|Ω|2ρ22(2),|Ω|2ρ22(3)もわかるので,

ρ12とρ22の全ての定係数が決まるので,解が定まって

問題は完全に解決します。

 

それ故,以下,これら以外の式からaまたはcを導出

することを試みます。

まず,2ib=ρ22(2)-ρ22(3)ですから,

2ib|Ω|2=|Ω|222(2)-ρ22(3))

=-{Ω1-(ω0-ω)}Ωρ12(2)-{Ω1+(ω0-ω)}Ωρ12(3)

=-Ω1Ω12(2)+ρ12(3))+(ω0-ω)Ω12(2)-ρ12(3))

です。つまり,cΩ1+(ω0-ω)Ω12(2)-ρ12(3))

=2ib|Ω|2ですが,Ω12(2)-ρ12(3))=(1/2)(|Ω|21)

であり,これは実数なのでcΩ1+(1/2)(ω0-ω)(|Ω|21)

=2ib|Ω|2(となり(実数)=(純虚数)と書けることになります。

これが成立するには両辺ともゼロであることが必要十分であり,

特にb=0です。

左辺=0からは,c=-(1/2)(ω0-ω)(|Ω|212)を得ます。

かくして,cの値が決定されました。

 

したがって,まず,aをcで表わす関係式;

a=-1/4-(c/2)(ω0-ω)/|Ω|2により,

a=-1/4+(1/4)(ω0-ω)212

={1/(4Ω12)}{(ω0-ω)2-Ω12}を得ます。

ところが,(2.84)のΩ1の定義:Ω1={(ω0-ω)2+|Ω|2}1/2

によれば.(ω0-ω)2-Ω12=-|Ω|2です。

そこで,結局,b=0より,ρ22(2)=ρ22(3)=a=-|Ω|2/(4Ω12)

を得ます。さらに,ρ22(1)=-2a=|Ω|2/(2Ω12)も得られます。

 

一方,Ωρ12(2)=(1/4)(|Ω|21)-c/2

=(1/4)(|Ω|212){(ω0-ω)+Ω1}によって,

ρ12(2)=(1/4)(Ω/Ω12){(ω0-ω)+Ω1}であり,,

Ωρ12(3)=-{(1/4)(|Ω|21)+c/2}

=(1/4)(|Ω|212){(ω0-ω)-Ω1}によって,

ρ12(3)=(1/4)(Ω/Ω12){(ω0-ω)-Ω1}を得ます。

最後に,ρ12(1)=c/Ω=-(1/2)(Ω/Ω12)(ω0-ω)

です。

以上から,

ρ22=ρ22(1)+ρ22(2)exp(iΩ1t)+ρ22(3)exp(-iΩ1t)

=|Ω|2/(2Ω12)[1-(1/2)|exp(iΩ1t)+exp(-iΩ1t){}

=||Ω|2/(2Ω12)}{1-cos(Ω1t)}です。

すなわち,ρ22(t)=(|Ω|212)sin21t/2)

を得ました。

また, ρ12exp{i(ω0-ω)t}

=ρ12(1)+ρ12(2)exp(iΩ1t)+ρ12(3)exp(-iΩ1t)

=-(1/2)(Ω/Ω12)(ω0-ω)

+(1/4)(Ω/Ω12){(ω0-ω)+Ω1}exp(iΩ1t)

+(1/4)(Ω/Ω12){(ω0-ω)-Ω1}exp(-iΩ1t)

=-{Ω/(2Ω12)}(ω0-ω){1-cos(Ω1t)}

+{Ω/(4Ω1)}{2isin(Ω1t)}

=-(Ω/Ω12)}(ω0-ω)sin21t/2)

+{Ω/Ω1)isin(Ω1t)cos(Ω1t/2)

故に,ρ12(t)=(Ω/Ω12)exp{-i(ω0-ω)t}

sin(Ω1t/2)[-(ω0-ω)sin(Ω1t/2)+iΩ1cos(Ω1t/2)]

が得られます。(証明終わり)  (注9-4終わり※)

 今回は計算が長くなったので,ここまでにします。(つづく)

(参考文献):Rodney Loudon 著

(小島忠宣・小島和子 共訳)

「光の量子論第2版」(内田老鶴舗)

 

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