光の量子論11
※「光の量子論10」からの続きです。
(※ 余談):最近IEでは,コピペが,うまくできなく
なったので,Firefoxで開いて試してみると,できた
ので,以後,また,図なども挿入できそうです。
しかし,Win7のサポートが来年早々終わるそうです。
昔,Win10に無料のときにノートをバージョンアップ?した
けど,嫌いになってWin7に戻したのにね。
そのうち新しいソフトなどに対応できなくなったりして
くるのも困るので,イヤイヤ,安価のWin10をバンドルした
NECか富士通当たりの中古デスクトップを購入予定。。
OSやソフトのバージョンアップで利益を得ようとする
MSと縁切りたいけど,無理です。まあ,棺桶両足も近いし。
デスクトップは,確か,2016年だったか?に同じ理由で,
まだ使えるXPマシンから中古のWin7マシンに変えたけど,
3年持ったから,ま,いっか?今の時代,PCを持ち運ばずとも
サーバーを使えばいいし,私ほぼ寝たきりなのでので,画質
が悪く古い液晶ノートも持ってはいるけど.入院用です。
(余談終わり※)
さて本題です。
前回は第2章 原子・放射相互作用の量子力学の§2.8
の周波数ωの自発放出に伴なう不可避の放射広がりの項
の説明で終わりました。
今回は,それ以外の周波数の広がりからです。
- 2.9飽和広がり
前項で得た感受率の表式:
χ(ω)={Ne2|D12|2/(3ε0hcV)}
×{1/(ω0-ω-iγ)+1/(ω0+ω+iγ)}.(2.108)は,
入射光ビームの電場に線形応答する原子気体に対して,
双極子モーメント:X12,または,D12について2次まで
正しい結果です。
より高次の項を含む結果については,光学Bloch方程式
を解けば得られます。この高次解を得るためには,最初
から,密度行列に対して,ω~ω0と考えて,
exp{±i(ω0-ω)t}の項だけを残してexp{±i(ω0+ω)t}
の項を無視する回転波近似の方程式,つまり「光の量子論9」
で論じた,dρ22/dt=-dρ11/dt
=(-i/2)Ω*exp{i(ω0-ω)t}ρ12
+(i/2)Ωexp{-i(ω0-ω)t}ρ21.(2.78)
および,dρ12/dt=dρ21*/dt
=(i/2)Ωexp{-i(ω0-ω)t}(ρ11-ρ22)(2.79)
についての解を求めればいい,ことになります。
しかし,この段階では自発放出の効果が入ってないので,
これを考慮に入れて,この方程式を修正・一般化する必要が
あります。
前に戻り,密度行列の定義:ρij=CiCj*;i,j=1,2)から,
dρij/dt=Ci(dCj*/dt)+Cj*(dCi/dt)ですが,
これに,C1については(2.31)の方程式:
Ωcos(ωt)exp(-iω0t)C2=i(dC1/dt)を採用し,
C2については前回,(2.32)に自然放出の項を付加
して修正した(2.99)の方程式:
Ω*cos(ωt)exp(iω0t)C1-iγC2=i(dC2/dt)
を代入して,近似抜きの方程式系を得た後に,
cos(ωt)=(1/2){exp(-iωt)+exp(iωt)}として,
ω~ω0と仮定し,exp{±i(ω0-ω)t}の項だけ残し,
exp{±i(ω0+ω)t}の項を無視する近似を適用すれば,
dρ22/dt=(-iΩ*/2)exp{i(ω0-ω)t}ρ12
+(iΩ/2)exp{-i(ω0-ω)t}ρ21-2γρ22.(2.114),
および,dρ12/dt
=(iΩ/2)exp{-i(ω0-ω)t}(ρ11-ρ22)-γρ12(2.115)
を得ます。
本当は(2.31)のC1の時間発展方程式の方にも,自然放出
による修正を加えるべきですから,単にγを導入したこれら
の手法が完全に厳密でないのは明らかです。
しかし,修正光学Bloch方程式:(2.114),(2.115)は,実は,
より厳密な計算から得られるものと同一です。
さて,減衰項が存在するので解は完全な振動型ではなく,
十分長い時間が経過すれば定常状態になります。
定常状態の解を求めるには,まず,ρ12,ρ21を
ρ~12=exp{i(ω0-ω)t}ρ12.(2.116a),
ρ~21=exp{-i(ω0-ω)t}ρ21(2.116b)
と置き換えて,(2.114),(2.115)から振動型因子を消去
します。すると,dρ22/dt=(-iΩ*/2)ρ~12
+(iΩ/2)ρ~21-2γρ22.(2.117),および,dρ~12/dt
=(iΩ/2)(ρ11-ρ22)-γρ~12-i(ω0-ω)ρ~12.(2.118),
となります。
dρ~21/dtは(2.118)の複素共役で与えられて,
dρ~21/dt=(-iΩ*/2)(ρ11-ρ22)-γρ~21
+i(ω0-ω)ρ~21.となります。
これら.3つの方程式の左辺の変化速度を全てゼロと置き,
ρ11+ρ22=1を用いると,定常状態の解が求まります。
ρ22=(|Ω|2/4)/{(ω0-ω)2+γ2+|Ω|2/2}(2.119)
ρ12=-exp{-i(ω0-ω)t}
×[(Ω/2)ω0-ω-iγ)/{(ω0-ω)2+γ2+|Ω|2/2}
(2.120)となります、
※(注11-1):上式を証明します。
[証明](2.117)でdρ22/dt=0より,
ρ22={-i/(4γ)}{Ω*ρ~12-Ωρ~21}(実数)を得ます。
一方,(2.118)でdρ12/dt=0,ρ11=1-ρ22より,
(-Ω*/2)(11-2ρ22)=(ω0-ω-iγ)ρ~21なので
(Ω/2)(1-2ρ22)=-(ω0-ω+iγ)ρ~12,または,
(|Ω|2/2)(11-2ρ22)=-(ω0-ω+iγ)Ω*ρ~12
を得ます。ここで,Ω*ρ~12=a+ib(a,bは実数)
と置くと,(|Ω|2/2)(11-2ρ22)=-a(ω0-ω)+bγ,
かつ,0=-b(ω0-ω)―aγです。
b=-aγ/(ω0-ω)でbを消去して
(|Ω|2/2)(11-2ρ22)=-a(ω0-ω)-aγ2/(ω0-ω)
=-a{(ω0-ω)2+γ2}/(ω0-ω)より,
a=(-|Ω|2/2)(11-2ρ22)[(ω0-ω)/{(ω0-ω)2+γ2}],
b=(-|Ω|2/2)(11-2ρ22)[-γ/{(ω0-ω)2+γ2}],
それ故,Ω*ρ~12=(-|Ω|2/2)(11-2ρ22)
[(ω0-ω-iγ)/{(ω0-ω)2+γ2}]となります。
故に, Ω*ρ~12-Ωρ~12*=2ib
=i|Ω|2(1-2ρ22)[γ/{(ω0-ω)2+γ2}],
ですが,これを先のρ22={-i/(4γ)}{Ω*ρ~12-Ωρ~12*}
に代入すれば,4iγρ22=iγ|Ω|2/{(ω0-ω)2+γ2}
-2iγρ22|Ω|2/{(ω0-ω)2+γ2},なので,
4iγρ22{(ω0-ω)2+γ2+|Ω|2/2}/{(ω0-ω)2+γ2}
=iγ|Ω|2/{(ω0-ω)2+γ2}となります。
したがって,ρ22=(|Ω|2/4)/{(ω0-ω)2+γ2+|Ω|2/2}
が得られました。
これから,1-2ρ22
={(ω0-ω)2+γ2}/{(ω0-ω)2+γ2+|Ω|2/2}
ですから,Ω*ρ~12=(-|Ω|2/2)(1-2ρ22)
×[(ω0-ω-iγ)/{(ω0-ω)2+γ2}]
=(-|Ω|2/2)(ω0-ω-iγ)/{(ω0-ω)2+γ2+|Ω|2/2}
です。
故に,ρ~12=(-Ω/2)(ω0-ω-iγ)
/{(ω0-ω)2+γ2+|Ω|2/2}です。それ故.
ρ12=-exp{-i(ω0-ω)t}
×[(Ω/2)ω0-ω-iγ)/{(ω0-ω)2+γ2+|Ω|2/2}
も得られました。[証明終わり](注11-1終わり※)
次に,これら定常状態のときの式が感受率に及ぼす
効果を考えます。
前記事の放射広がりの項で与えた,1原子の双極子
モーメントdの表式(2.96)
d(t)=-e{C1*C2X12exp(-iω0t)+C2*C1X21exp(iω0t)}
より,d(t)=-e{ρ12*X12exp(-iω0t)+ρ12X21exp(iω0t)}
で,X12=∫ψi*Xψ2dV,eo(2.121)と書けます。
これに対し,気体の分極はP(t)=Nd(t)/V
=(1/2)ε0E0{χ(ω)exp(-iωt)+χ*(ω)exp(iωt)}ですから,
(1/2)ε0E0χ(ω)=-eρ12*X12exp{-i(ω0-ω)t}(N/V)です。
故に,χ(ω)={-2eρ12*NX12/(ε0E0V)}exp{-i(ω0-ω)t}
を得ます。ただし,Ω=eE0X12/hcであり,|X12{2を配向角平均の
<|X12{2>=(1/3) |D12{2で置き換えます。
すると,Ω*=eE0X12*/hcより,Ω*X12=eE0|X12|2/hc
~eE0|D12|2/(3hc)となります。
そして,ρ12*=-exp{i(ω0-ω)t}
×[(Ω*/2)ω0-ω+iγ)/{(ω0-ω)2+γ2+|Ω|2/2}より,
χ(ω)={Ne2|D12|2/(3ε0hcV)}
×[(ω0-ω+iγ)/{(ω0-ω)2+γ2+|Ω|2/2}](2.122)
を得ます。
|Ω|2=e2E02|X12|2で,これが分母に含まれていますから
この表式は,もはや電場の1次の感受率ではありません。
そして,この(2.122)の感受率χ(ω)は,先に放射広がの項
で得た(2.108)の感受率;χ(ω)={Ne2|D12|2/(3ε0hcV)}
×{1/(ω0-ω-iγ)+1/(ω0+ω+iγ)}の回転波近似:
χ(ω)={Ne2|D12|2/(3ε0hcV)}
×[(ω0-ω+iγ)/{(ω0-ω)2+γ2}と,分母の/|Ω|22
を除けば同じです。したがって,その虚部もχ”(ω)
={Ne2|D12|2γ/(ε0hcV)}/{(ω0-ω)2+γ2+|Ω|2/2}
であり,先のχ”(ω)={Ne2|D12|2γ/(ε0hcV)}
/{(ω0-ω)2+γ2}と分母の/|Ω|22を除いて同じです。
(2.122)の中には|Ω|22の項が入っており|D12|2∝|Ω|
なので,第1章で考察したのと同様,飽和効果が生じます。
(※入射光ビームが大きくなると,|Ω|2→大ですが,励起原子
の数はN2→(N/2)と,飽和状態に近づき,遷移が減衰します。)
これが入射光の吸収速度,つまり減衰速度を減少させる
のは明らかです。
吸収係数はK(ω)={ω/(cη)}χ” (ω)です。
これは電場の1次の感受率では,ω~ω0,η~1で
K(ω)~{πNe2|D12|2ω0/(3ε0hccV)}
×[(γ/π)/{(ω0-ω)2+γ2}](2.111)で与えられましたが,
これも,K(ω)~{πNe2|D12|2ω0/(3ε0hccV)}
×[(γ/π)/{(ω0-ω)2+γ+|Ω|2/2}]になります。
そこでK(ω)が最大のω=ω0のときの半分の値:
K(ω0)/2をとるωは,前はω=ω0±γでしたが,これも,,
ω=ω0±(γ2++|Ω|2/2)1/2に変わります。
すなわち,線幅は,2γから2(γ2++|Ω|2/2)1/2.(2.123)に
増加します。この付加的寄与は「飽和による広がり」と
呼ばれます。
- 2.10 放射減衰を伴なうRabi振動
前節で導いた感受率は定常状態の非対角密度行列要素に
支配されることがわかりました。他方,対角密度行列要素は
2つのエネルギー準位の原子占有数を与えます。
単色光の照射によって生じた定常状態の励起状態占有数
に対する減衰を伴なう光学Bloch方程式(2.119)の解:
|C2|2=ρ22=(|Ω|2/4)/{(ω0-ω)2+γ2+|Ω|2/2}の結果
は,前の記事「光の量子論3」で,広帯域の光を照射したとき
の,(A+2BW)t>>1の長時間が過ぎると励起状態占有数
が定常状態の値:N2=NBW/(A+2BW)=|C2|2Nに近づく,
という(1.74)の結果と比較することができます。
(※ただし,A=A21,B=B21=B12です。)
これら,2つの表式(2.119),(1.74)は細かい点では違いが
ありますが,共通のより重要な特徴を備えています。
(2.119)は,|Ω|が,自発減衰γ,or離調:ω0-ωより,ずっと
大きくなると,|C2|2=ρ22=(|Ω|2/4)/{(ω0-ω)2+γ2+|Ω|2/2}
が極限値:1/2に近づくことを示していますが,これは,BW<<1
なら,(1.74)の|C2|2=BW/(A+2BW)が極限値:1/2に飽和して
ゆく様子と,一致しています。
そして,(2.119)をωで積分すると,|Ω|<<γのときには,
∫ρ22dω=π|Ω|2/(4γ).(2.124)を得ます。
※(注11-2):何故なら,∫-∞∞(x2+a2)-1dx
=[aTan-1(x/a)] -∞∞=πa/2-(-πa/2)=πaですから
|Ω|<<γなら,∫-∞∞({(ω0-ω)2++γ2+|Ω|2/2}-1dω
=π(γ2+|Ω|2/2)1/2~πγ です。(注11-2終わり※)
これは,つまり,入射光ビームが弱い極限では,広帯域の励起
原子の数は,光のエネルギー密度に比例することを意味します。
Ωの定義は,Ω=eE0X12/hcであり,原子内の電子の配向平均
では,<|X12|2>=(1/3)|D12|2です。
また,ビームの平均エネルギー密度は,サイクル平均で,
(1/2)ε0E2=∫W(ω)dωです。そこで,2.55)の,B12
=πe2|D12|2/(3ε0hc2)=π|Ω|2/(ε0E02)の表式からわかる
ように,∫BWdω=π|Ω|2/2.(2.125)が成立します。
したがって,2γ=A21=1/τR(2.102)を援用すれば,
BW<<Aの弱ビーム極限で∫(BW/A+2BW)dω
~π|Ω|2/(4γ)であり,(1.74)の(A+2BW)=|C2|2の積分
結果が,広帯域の(2.119)の吸収線のωにわたる積分で得る
(2.124)の∫ρ22dω=π|Ω|2/(4γ)のの結果と,正確に一致
します。
定常状態における(2.119)の原子の励起状態占有数は,その
初期値に依存しません。
しかし,長時間極限の定常状態ではなく,照射時間が短かいとき
の原子占位数は,本記事最初の光学Bloch方程式(2.114),(2.115)
dρ22/dt=(-iΩ*/2)exp{i(ω0-ω)t}ρ12
+(iΩ/2)exp{-i(ω0-ω)t}ρ21-2γρ22,および,
dρ12/dt
=(iΩ/2)exp{-i(ω0-ω)t}(ρ11-ρ22)-γρ12
を初期条件を入れて,もっと一般的に解く必要があります。
ですが,残念なことに,この一般解はあまり明快な形に書けない
ことがわかっています。
そこで解の例として2つの特別な場合を考えます。
まず,(ⅰ)離調:(ω0-ω)がゼロ.を仮定した場合,
次に,(ⅱ)光ビームが弱く,|Ω|<<γの場合の2つ
を考察します。
(ⅰ)光学Bloch方程式(2.114),(2.115)の解はω=ω0でt=0
の初期条件がρ22=0,ρ12=0のときには,ρ22について,
ρ22 (t)={(|Ω|2/2)/(2γ2+|Ω|2)}
×[1-{cos(λt)+(3/2)(γ/λ)sin(λt)}exp(-3γt/2)]
(2.126)となります。
ただし,λ=(|Ω|2-γ2/4)1/2.(2.127)です。
※(注11-3):上記を証明します。
[証明] ω=ω0では,(2.114)は,
dρ22/dt=(-iΩ*/2)ρ12+(iΩ/2)ρ21-2γρ22,
(2.115)は,dρ12/dt=(iΩ/2)(1-2ρ22)-γρ12となり,
書けます。そして,ρ21=ρ12*,ρ22*=ρ22です。
この方程式系は,線形変換で,
dρ22/dt=(-i/2)(Ω*ρ12-Ωρ21*)-2γρ22,
および,Ω*(dρ12/dt)-Ω(dρ12*/dt)
=(i|Ω|2)(1-2ρ22)-γ(Ω*ρ12-Ωρ12*)に変換されます。
そこで,f=ρ22,g=(-i/2)(Ω*ρ12-Ωρ21*)と置くと,
f,gは共に実数値関数で,df/dt=-2γf+g,かつ,
dg/dt=-|Ω|2f-γg+|Ω|2/2となります。
これは,y=[f,g]T,b=[0,|Ω|2/2]Tなる縦ベクトルに
対して2×2係数行列をP^としてdy/dt=P^y+bです。
ところが,前回の(注10-1)では,線形非同次方程式:
df/dt=af+g(t)の解は,
f(t)=exp(at)[∫0t{exp(-at)g(t)}dt]
+f(0)で与えられる,ことを示しました。
そこで,同様に,dy/dt=P^y+bの解も,記号的に,
y(t)=exp(P^t)[∫0t{exp(-P^t)b}dt]+y(0)
=exp(P^t)[-exp(-P^t)P^-1b]0t+y(0)
で与えられるはずです。
ただし,初期条件がρ22(0)=ρ12(0)=0の場合は,y(0)=0
です。exp(P^t),exp(-P^t)は,それぞれ次式で定義されます。
すなわち,exp(P^t)=Σn=0∞{(P^t)n/n!}であり,かつ,
exp(-P^t)=Σn=0∞{(-P^t)n/n!} です。
故に,y(t)=exp(P^t){P^-1b-exp(-P^t)P^-1b}
が,初期条件を満たす解です。
必要かどうか?は不明ですが,P^の逆行列:P^-1の要素
も求めておきます。det(P^)=|Ω|2+2γ2であって,
det(P^)(P^-1)11=P^22=-γ,det(P^)(P^-1)12=-P^12
=-1,det(P^)(P^-1)21=-P^21=|Ω|2, det(P^)(P^-1)22
=P^11=-2γです。
さて,唐突ですが,P^x=αx(x≠0)という,行列P^
の固有値αと,その固有ベクトルxを求める固有値問題
を考えます。
線形代数学から固有値αはI^を単位行列として,
det(P^-αI^)=0という方程式の解で得られます。
この方程式は,(-2γ-α)(-γ-α)+|Ω|2=0,
つまり,αの2次代数方程式:α2+3γα+2γ2+|Ω|2
=0 を意味します。そこで,解の公式から,解αは
α=-3γ/2±i(|Ω|2-γ2/4)1/2です。ここで,
ビームの電場E0が十分大きくて,|Ω|2≧(γ2/4)であると
仮定しました。それ故,実数λをλ=(|Ω|2-γ2/4)1/2と
置くと,2つの固有値は,α=α±=-3γ/2±iλ(複号同順)
と書けます。故に.γ+α±=-γ/2±iλです。
そして,α±に属する固有ベクトルを,x±(複号同順)とします。
つまり,P^x+=α+x+,P^x-=α-x- (x±≠0)です。
これら固有ベクトルの成分:x1,x2は,係数が逆行列を持たぬ
連立方程式:-2γx1+x2=α±x1,-|Ω|2x1-γx2=α±x2
から,(γ/2±iλ)x1=x2, or (-γ/2±iλ)x2=-|Ω|2x1
となるので,例えば.x2=1と置くと,x1=-(-γ/2±iλ)/|Ω|2
を得ます。したがって,定数倍の不定性を除いて,
x+=[(γ/2-iλ)/|Ω|2,1]T,=x-=[(γ/2+iλ)/|Ω|2,1]Tと
書けます。
ここで,行列:Q^をQ^=(x+,x-)と,定義すると,
P^Q^=P^(x+x-)=(α+x+,α-x-)が成立しますが,
右辺は,Q^=(x+,x-)に,対角要素がα+,α-で非対角要素
がゼロの対角行列を掛けたものに等しいです。
そこで,この対角行列を,Λ^とすれば,これてP^Q^=Q^Λ^
を意味します。そして.Q^=(x+,x-)には逆行列:Q^-1が存在
するため, P^Q^=Q^Λ^から,Λ^=Q^-1P^Q^を得ます。
これから,Λ^n=Q^-1P^nQ^となりますから,結局,
exp(Λ^t)=Q^-1exp(P^t)Q^を得ます。
逆に,exp(P^t)=Q^exp(Λ^t)Q^-1です。
同様に,exp(-Λ^t)=Q^-1exp(-P^t)Q^,かつ,
exp(-P^t) =Q^exp(-Λ^t)Q^-1です。
先に,y=[f,g]T,b=[0,|Ω|2/2]Tに対する
dy/dt=P^y+bの,記号的なものとして得た解:
y(t)=exp(P^t){P^-1b-exp(-P^t)P^-1b}は,
Q^-1y(t)=exp(Λ^t)
×{Λ^-1Q^-1b-exp(-Λ^t)Λ^-1Q^-1b}となります。
exp(±Λ^t)は対角成分が,exp(±α+t),exp(±α-t)
の対角行列となりますから,具体的解を得るには,後はQ^-1を
求めればいい,だけです。
Q^=(x+,x-)の行列要素は列ベクトルの成分で,
x+=[(γ/2-iλ)/|Ω|2,1]T=[-(γ+α+)/|Ω|2,1]T,
x-=[(γ/2+iλ)/|Ω|2,1]T=[-(γ+α-)/|Ω|2,1]T
と表わされます。
Q^の逆行列Q^-1の行列要素は,detQ^(Q^-1)11=Q^22=1,
detQ^(Q^-1)12=-Q^12=-(γ/2+iλ)/|Ω|2
=(γ+α-)/|Ω|2,detQ^(Q^-1)21=-Q^21=-1,
detQ^(Q^-1)22=Q^11=(γ/2-iλ)/|Ω|2=-(γ+α+)/|Ω|2,
および,det(Q^)=-2iλ/|Ω|2,or{det(Q^)}-1=i|Ω|2/(2λ)
で表現されます。
すなわち,逆行列Q^-1も列ベクトルw1,w2によって,
Q^-1=(w1.w2),ただし,w1={i|Ω|2/(2λ)}[1,-1]T,
w2={i/(2λ)}[-(γ/2+iλ),(γ/2-iλ)]T
={i/(2λ)}[(γ+α-),-(γ+α+)]T と表わせます。
よって,b=[0,|Ω|2/2]Tに対して,Q^-1b
=[(-i(γ/2+iλ)|Ω|2/(4λ),i(γ/2-iλ)|Ω|2/(4λ)]T
={i|Ω|2/(4λ)}[(γ+α-),-(γ+α+)]T
それ故,Λ^-1Q^-1b
={i|Ω|2/(4λ)}[(γ+α-)/α+.-(γ+α+)/α-]です。
そこで,先に書いた対角化された方程式の解::
Q^-1y(t)=exp(Λ^t)
×{Λ^-1Q^-1b-exp(-Λ^t)Λ^-1Q^-1b}の左辺の
列ベクトルを,Q^-1y(t)=[f~,g~]Tと成分表示すれば,,
f~={i|Ω|2/(4λ)}{(γ+α-)/α+}{exp(α+t)―1}
および,
g~=-{i|Ω|2/(4λ )}{(γ+α+)/α-}{exp(α-t)-1}
となります。
それ故,-(γ+α+)f~/|Ω|2-(γ+α-)g~/|Ω|2
=-i|Ω|2/(4λα+)}{exp(α+t)―1},
+i|Ω|2/(4λα-)}{exp(α-t)-1},
=|Ω|2/|2(2γ2+|Ω|2)}-{i|Ω|2/(4λα+α-)}
×{α-exp(α+t)-α+exp(α-t)}
を得ます。
(※ (γ+α-)(γ+α+)=γ2/4+λ2=|Ω|2, α-α+
=(9/4)γ2+λ2=2γ2+|Ω|2です。)
ところが,y(t)=[f,g]T=Q^[f~,g~]T
ですが,Q^=(x+,x-)で,
x+=[-(γ+α+)/|Ω|2,1]T,
x-=[-(γ+α-)/|Ω|2,1]T ですから,
f=―(γ+α+)f~/|Ω|2-(γ+α-)g~/|Ω|2
=(|Ω|2/2)/(2γ2+|Ω|2)-i{|Ω|2/(4λ)}/(2γ2+|Ω|2)}
×{α-exp(α+t)-α+exp(α-t)}をえます。
α±=-3γ/2±iλより,
exp(α+t)=exp(-3γt/2)exp(iλt)
exp(α-t)=exp(-3γt/2)exp(-iλt)なので
(-i){α-exp(α+t)-α+exp(α-t)}
=[(3iγ/2){exp(iλt)-exp(-iλt)}
-λ{exp(iλt)+exp(-iλt)}]
×exp(-3γt/2)
={-2λcos(λt)-3γsin(λt)}exp(-3γt/2)
したがって,f=ρ22=(|Ω|2/2)/(2γ2+|Ω|2)
[1-{cos(λt)+(3/2)(γ/λ)sin(λt)}exp(-3γt/2)]
が証明されました。[証明終わり] (注11-3終わり※)
今回は,最後で過去ノートの13年前の計算にケアレスミス
があるのを発見しました。証明なので,何とか結論までたどり
ついてはいましたが,チェックの再計算に老齢のせいか3昼夜
もかかりました。例によって夢中になると寝食を忘れる偏執質
なので何度か低血糖でフラフラになりました。
インスリンを打たなくても長い考え事で,よく低血糖になり,糖分
がある場所まで這っていくほど動けなくなります。眠くなるけど
寝てしまうとアウトですね。 高血糖は長期的,慢性型なので
急性で脳死植物状態になる危険性はないのですがね。
でも,結局,正解を得たので,ここまでにします。(つづく)
(参考文献):Rodney Loudon 著
(小島忠宣・小島和子 共訳)
「光の量子論第2版」(内田老鶴舗)
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