「くりこみ理論(5)(次元正則化)」シリーズは2019年2月の(1)
から2019年7月の(5)をで,アップしたのち後,長い期間が経過
しました。
今回,久しぶりに,続きの(6)をアッたいと思いましたが
中断期間が半年以上と長いので,以前の履歴も薄れており,
その前に過去記事を整理するため,このシリーズ記事の
(1)~(5)を要約しておきます。
PS:Windows10にOS変更を余儀なくされ図など
のコピペアップも今のところうまくできません。
※今回は,まず,(1)の要約です。,
※(前書き)これまで「ゲージ場の量子論」の第6章
までを記事としてアップしました。
しかし,ここからは,第7章「くりこみ」の項目に
ついて,勉強した履歴の過去ノートから,回顧として
の記事を開始します。
このノートでの第7章の開始日は1997年3月20日
(47歳当時)となっています。
本文です。これまでは量子補正,すなわち,loopグラフ
の計算には踏み込まず,形式的に理論が整合的に存在する
ものとして,量子場の理論を相互作用項を摂動としてtree
グラフだけの計算で.議論を進めてきました。
しかし,具体的にloopグラフを計算すると,とたんに
紫外発散(ultraviolet-divergence)という問題が
生じます。つまり,loop運動量の大きいところでの積分
が発散するという困難に遭遇します。
この問題を処理するには,まず”無限大”というモノ
は直接扱うことができないので,正則化(regularization)
という手続きで,とにかくFeynmanグラフの積分が収束
して,理論がwell-defined(無矛盾)になるように工夫
します。その次には,諸量を物理的粒子の質量や結合定数
で書き直すという操作=くりこみ(renormarization)を
行ない,くりこんだ後の量が,初めの正則化という手段を
はずした極限でも,有限かつ無矛盾な量に留まることを
証明します。
まず,正則化の手続きとしては,歴史的にはQEDに
おいて「Paulli-Vllrasの正則化」と呼ばれる,大きい
運動量の切断(cut-off)の手法が導入されました。
これは被積分関数中の伝播関数を次のように置換する
ものです。
すなわち,質量がmのBose場(運動量はk)については,
伝播関数は,運動量表示では,i/(k2-m2+iε)で与えら
れますが,これを,i/(k2-m2+iε)-i/(k2-Λ2+iε)
=i(m2-Λ2)/{(k2-m2+iε)(k2-Λ2+iε)}に
置き換えます。ただし,Λ2は十分大きい実数です。
これを行なうと伝播関数は,k2>>Λ2では,1/k4
のように挙動し,元の 挙動:~1/k2よりも急激に
落ちるので,d4kのloop積分を実行した結果の収束性
が良くなります。
この,質量がΛで,負計量の寄与をする仮想的粒子の
伝播関数の意味を持つモノのをregulatorと呼びます。
この引き算操作でも,収束性が足りないときは,さらに
regulatorを入れて,k2→∞でもっと急激に落ちるように
します。BosonでなくFermionの粒子場の伝播関数に
ついても,切断質量Λの負軽量の関数を引いて,同様に
します。最後にΛ→∞の極限をとって正則化の痕跡
を消しても,理論が生き残ればこの手法は成功です。
これがPaulli-Vollers正則化ですがGuptaは,
これを改良して可換ゲージ理論の場合にも適用可能
にしました。
「Pauli-Viller-Gupta正則化」は,直観的で計算も
簡単でいいのですが,最大の難点は,一般の非可換ゲージ
理論でベクトル場に適用したとき,それがゲージ不変性
を壊すことにあります。
それでも最終的計算結果にゲージ不変の整合性が
有りさえすれば,計算途中で対称性が壊れていても
いいのですが,ここでは途中段階でもゲージ不変性の
保持が明確な,’tHooftとVolteraによって提案された
「次元正則化」という正則化を採用し説明することに
します。
次元正則化は,実際には4次元のこの時空の次元を
nと仮定し,解析接続によってnを複素数に拡張して
計算します。この正則化の最大の利点はゲージ不変性
が次元に依らず成立するため,ゲージ不変性を壊さない
ことです。しかも,被積分関数における伝播関数の数
を増やさず,一般的な積分公式が得られるので,具体的
計算法としても有用なものです。
さて,一般にFeynmanグラフの任意のloop積分は,
通常の相互作用の場合,loopで頂点(vertex)と伝播関数
の数は同じで,それぞれ,-(±i)とiが因子なので
(±1)が掛かりさらにFermionループなら全体と
して(-1)が掛かり,結局Feynmanパラメータ公式
を適用すれば,全て,∫dnk(2π)-n
[(kμ,kμkν,..)/(k2-2kp-m2+iε)α]
(α>0)という形のモノに帰着させることができます。
そこで,まず,最も簡単な式である
I=∫dnk(2π)-n[1/k2-m2+iε)α]を評価する
ことから始めます。
まず,ガンマ関数の定義.
Γ(α)=∫0∞exp(-t)tα-1dt(Reα>0)から,1つ
の積分表示:Γ(α)s-α
=∫0∞exp(-st)tα-1dt(0<Reα<1)が得られ,
これは,さらに変形して,s-α
={iα/Γ(α)}∫0∞exp(-ist)tα-1dtと
書き直せます。この表式はIms<0,Reα>0の領域で
妥当な式となります。
そこでs=m2-k2-iεとおけば,Ims=-ε<0 の
条件が満たされるので,
I=∫dnk(2π)-n[1/(k2-m2+iε)α]
=∫dnk(2π)-n(-s)-α
={(-i)α/Γ(α)}∫0∞dt
[tα-1∫dnk(2π)-nexp{-i(m2-k2-iε)t}]
なる表式を得ます。
経路積分の項で用いたGaiss-Fresnelの積分公式:
∫-∞∞dxexp(-iax2/2)={2π/(ia)}1/2から,
∫dk0exp(itk02)={π/(it)}1/2 *={π/(-it)}1/2
なので,∫dnk(2π)-nexp(itk2)
=(-1)1/2t-n/2(4πi)-n/2です。
故に,I={(-i)α(-1)1/2(4πi)-n/2/Γ(α)}
×∫dt[t(α-n/2-1)exp{-i(m2-iε)}より,
結局,I={(-i)α+1/2(4π)-n/2Γ(α-n/2)/Γ(α)}
×(m2-iε)-(α-n/2)なる式を得ます。
ただし,収束にはRe(α-n/2)>0が必要です。
しかし,一旦この表式が得られれば,これはnについて
の解析関数なので,任意の複素数次元nに拡張できる形
です。このとき元の運動量積分が発散していたという
事情が.この解析接続においては,次元nに関する極と
して表現されます。これが次元正則化の特徴です。
つまり,ガンマ関数:Γ(z)はz=0,-1,-2,..
に極を持ち,Γ(z)=Γ(z+1)/zを満たしますから,
γをEuler定数:γ~Γ0.5772..としてΓ(ε)
=1/ε-γ+O(ε)なる評価式が得られます。
例えば,I=∫dnk(2π)-n[1/k2-m2+iε)α]
が,α=2のときn=4の次元では対数発散するという
事情に対しては,
α=2なのですが時空の次元は,n=4-2δ,
δ=α-n/2>0である,と仮定すれば,
I={(-i)α+1/2(4π)-n/2Γ(α-n/2)/Γ(α)}
×(m2-iε)-(α-n/2) において,
Γ(α)=Γ(2)=1であり,Γ(α-n/2)=Γ(δ)
=1/δ-γ+O(δ)=2/(4-n) -γ+O(4-n)
ですから,Γ(α-n/2)/Γ(α)=2/(4-n)-γ
+O(4-n)です。さらに,xε=exp(εlnx)
=1+εlnx+O(ε2)より,(m2-iε)-(α-n/2)
=(m2-iε)-δ=1+{(4-n)/2}ln(m2-iε)+O(δ2)
(4π)-n/2=(4π)-2(4π)-δ
=(4π)-2[1-{(4-n)/2}ln(4π)+O(δ2)}
と書けます。
それ故,これは
I=(-i)α+1/2(4π)-2{1/δ-γ+O(δ)}
{1-δln(4π)+O(δ2)}{1-δln(m2-iε)+O(δ2)
=(-i)α+1/2(4π)-2
×{1/δ-γ+ln(4π)-ln(m2-iε)+O(δ)}
を意味します。
結局,時空の次元がnで,α=2の場合には,
I=(-i)α+1/2(4π)-2
{2/(4-n)-γ+ln(4π)-ln(m2-ε)+O(n-4)}
なる評価式が得られました。
これは,I(n,α)が,n=4=2αに1/(4-n)の型の
極を持つことを示していますが,γやln(4π)の定数は
常に.この極の部分に付随して現われるため,
ε~-1=2/(4-n)-γ+ln(4π)と定義として,右辺
全体を「無限大部分」とみなすのが便利です。
以上はα=2を例として計算しただけの結果ですが,
くりこみ可能な積分式はゲージ対称性などを考慮する
と,結局,発散が高々対数発散である場合であることが
わかっているため,次元正則化で現われるおける無限大
は,全てこの形で出現します。
さて,I=∫dnk(2π)-n[1/(k2-m2+iε)α]
={(-i)α+1/2(4π)-n/2Γ(α-n/2)/Γ(α)}
×(m2-iε)-(α-n/2) なる表式において,
積分変数kを(k-p)に置換し,かつ,m2を
(p2+m2)に変更すると,(k2-m2+iε)が,
{(k-p)2-(p2+m2)+iε}
=(k2-2kp+m2+iε)になります。
したがって,伝播関数分母の無限小虚部
iεを略して
∫dnk(2π)-n[1/(k2-2kp-m2+iε)α]
={(-i)α+1/2(4π)-n/2Γ(α-n/2)/Γ(α)}
(p2+m2)-(α-n/2)という,より一般的式が
得られます。
さらに,この両辺を,(∂/∂pμ)微分すること
により,∫dnk(2π)-n[(kμ,kμkν,..)
/(k2-2kp-m2+iε)α]なる形の積分の公式
を全て得ることができます。
ここまでが(1)の内容の要約です。
※参考文献:
九後汰一郎著「ゲージ場の量子論Ⅱ」(培風館)
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