くりこみ理論(次元正則化)(11)
「くりこみ理論(次元正則化)」の続きです。
前回は,第7章の「BPHZくりこみ」
の(対称性とくりこみ)の項目に入り,まず,
BPHZくりこみと,その収束定理から
従ういくつかの重要な命題を与え説明しました。
系のLagrangianは,種々の内部対称性を持って
いますが,通常の線形で「明白な」対称性は全て
BPHZ手続きの各段階で保持されます。
それらは対称性を満たす制限された相殺項を
追加することでくりこみ可能です。
対称性が自発的に破れた真空の上で摂動計算
を行なう場合は,場の変換が非線形になり
「明白な」対称性ではなくなりますが,非線形
の「明白でない」対称性であっても,多くの場合,
Lagrangianを対称性を満たすものに限っても,
くりこみ可能です。
ただし,それら非自明な個々の場合に,それぞれ
くりこみ可能なことを証明する必要があります。
ゲージ理論のくりこみの問題も,基本的なBRS
対称性が非線形であり,この範疇の問題の1つです。
一般的なゲージ理論の系で,ゲージ不変性を保持
したままでの,くりこみ可能性を示すことが当面の
目的です。
そのため,まず,ゲージ理論の系で,ゲージを固定
したLagrangianに外場Kを付加した作用Sと
有効作用Γについて,裸の場に対する議論を考察
しました。
裸の量は一般に発散量なので,これらが意味を
持つためには,何らかの正則化が必要です。
ゲージ不変な正則化が存在し,これが次元正則化
で満たされることを主張します。裸の量で書かれた
有効作用:Γ0を,くりこまれた量で書き直せば,有限
な汎関数:Γになる,という主張です。
裸の場や外場をくり込み因子Z=(Z1,Z3,Z~3,Zi),
および,場φのシフトvlを与えて,くりこまれた場に
より定義して,Zやviの値の選び方如何に依らず,
常に基本的なWard-高橋恒等式(WT恒等式)が,裸
の量だけでなく,くりこまれた量でも同じ形で成立
することを要求します。
結局,くりこみ可能性の主張である,
Γ0[Φ~0,K0;g0,f0,α0]=Γ[Φ~,K;g,f,α].
は,パラメータ:Zやviを「正しく選んだとき」,
くりこまれた有効作用:ΓがΦ~,K;g,f,αの
有限な汎関数になることを意味します。
それ故.これを示すのが目的です。などと書いた
ところて終わりました。
今回はその続きから始めます。
さて,実際に有効作用:Γを計算するには,loop
展開.つまり,自然単位なので1として意識して
いないですが,実はPlanck定数:hcのベキ展開に
よる摂動で行なうので,Zやviもhc摂動でベキ
展開します。
すなわち,Z=1+hcZ(1)+hc2Z(2)+,,,(21),
および,vi=0+hcvi(1)+hc2vi(2)+,,,.(22)
です。これらを,(9)の裸の作用積分:
S0=S[Φ0~,K0]=∫d4x
[L0GI+L0(GF+FP)+KI0DaIc0a
+(g0/2)K0ac(c0×c0)a]に代入して,摂動ベキ
に展開します。
つまり,S0=S[Φ0~,K0;g0,f0,α0]
=S[Z31/2Aaμ,..,Z~31/2Kaμ;Z1Z3-3/2g,..]
=S(0)+hcS(1)+hc2S(2)+… (23)です。
ただし,初項のS(0)は.くりこまれた有限な作用
Sです。つまり,S(0)=S[Φ~,K;g,f,α]=S
(24)です。初項:S(0)=Sを摂動の第0次の作用,
第2項以降のS(n)を(n≧1)相殺項として用いて
全ての1PIグラフを計算します。
そうすれば,有効作用Γも,hcの各次数で逐次
得られます。Γ=Γ(0)+hcΓ(1)+hc2Γ(2)+…
(25)です。
本節では,大局的ゲージ対称性が自発的に破れない
場合を考察することにしているので,(22)のviの
展開では,初項vi(0)は0であるとして,おきました。
(4)の一般的線形ゲージの場合,faiφiの項の
存在が大局的ゲージ不変性を破ることは,既に
述べました。しかし,係数faiを添字に応じて共変的
に変換する量と見なせば形式的に,この不変性は保持
される,と考えることができます。
以下,大局的ゲージ不変量というときには上記の
ことを了解済みのことしておきます。
※「くりこみ可能性の証明」
以下では,Zやviを摂動のhcのベキの各次数で
次々に適切に選んでゆけば,くりこまれたΓも展開
の任意の次数まで有限にできることを示します。
まず,NL場:Baへの依存性は自明であることに
注意します。
すなわち,恒等式(12)の裸の式である(16)式の
δΓ0/δB0a=∂μA0aμf0aiφ0i+wa+α0B0a.
または,くりこんだ量での(12)の表式,そのものの
δΓ/δBa,=faIΦI+wa+αBa)においてwa
をゼロとしたものから,ΓのBaへの依存性が陽に
決まります。すなわち,(16)から,Γ=Γ~
+∫d4x[B0a(f0aiφi0+wa)+(α0/2)B0aB0a]
(26)(裸の式でΓ=Γ0としたもの),および
Γ=Γ~+∫d4x[BafaIΦI+(α/2)BaBa](27)
です。ここで,残りの項として定義したΓ~はBaには
全く依存しない量です。しかも,上記のくりこみ方法
から,裸の(26)と,くりこまれた(27)は全く等しいので,
Zやviを,以下でどのように決めようと,Ba依存部分
は,くりこんだ量で書いて有限な式になっています。
※(注11-1):何故なら,前記事で書いた通り,,
ΦIはΦI=(Aaμ,φi)のセットを意味します。
そして,A0aμ=Z31/2Aaμ,φ0i=Zi1/2(φi+vi),
かつ,B0a=Z3-1/2Ba,f0ai=Z31/2Zi-1/2fai
とし,さらにα0=Z3α,wa=-Z31/2faivi
として裸の量を全てくりこんだ量で表わして
代入するのが我々のくりこみ手法です。
そこで,(26)の裸の被積分関数に,これらの
関係式を代入すると,B0a(f0aiφi0+wa)
+(α0/2)B0aB0a=Z3-1/2Ba[(Z31/2Zi-1/2fai)
×{Zi1/2(φi+vi)-Z31/2faivi,}
+(Z3α/2)Z3-1BaBa
=BafaIΦI+(α/2)BaBa]となって,
これは,(27)のくりこまれた式の被積分関数
に一致します。
くりこまれた場は有限と,仮定されているため
(26)のB0a依存部分も,(27)のBa依存部分と一致
して有限である,と結論されます。(注10-1終わり※)
したがって,以下ではBaを忘れて,Γ~部分のみ
を考えればよい,ということになります。
さらに,反ゴースト場c~aへの依存性も,同様に,
ほとんど自明です。
すなわち,くりこまれたΓは,WT恒等式(13)
faI(δΓ/δKI)+i(δΓ/δc~a)=0を
満たします。
故に,Γ,または,Γ~のc~aへの依存は,
K~I=KI+ic~afaI,つまり,K~aμ=Kaμ
+c~a∂μ,および,K~i=Ki+c~afai(28)
と置くと,この変数K~Iを通じてのみ現われる
ことがわかります。
それ故,汎関数:Γ~[ΦI,ca,c~a;KI]に
おいて,引数をΓ~[ΦI,ca,c~a;K~I]の
ように,取り直せば,(13)のfaI(δΓ/δKI)
+i(δΓ/δc~a)=0は,
faI(∂K~J/∂KI)(δΓ~/δK~J)c~
+i(δK~J/δc~a)δΓ~/δK~J)c~
+i(∂Γ/∂c~a)K~=faI(δΓ~/δK~I)c~
-faIδ(δΓ~/δK~I)c~+i(∂Γ~/∂c~a)K~
=i(∂Γ~/∂c~a)K~=0 となります。
そこで.Γ~[ΦI,ca,c~a;K~I]は,c~a
には依存しない,ことがわかります。
この点も,Zやviの値の具体的選び方には
依らないので,以下,KIの代わりに変数:K~I
を常に採用すれば,c~aもBa同様,忘れてよい,
ことになります。
以上から,結局,Γの代わりにΦI,ca,;K~I,
Kac(および,g,α)のみの汎関数,Γ~を,考えれば
いいです。
そして,残るWT恒等式(11)は,ΓをΓ~に
置き換えると,(δΓ~/δΦI)(δΓ~/δKI)
+(δΓ~/δca)(δΓ~/δKac)
+(δΓ~/δc~a)Ba=0 ですが,これは.
(δΓ~/δΦI)(δΓ~/δK~I)c~
+(δΓ~/δca)(δΓ~/δKac)=0.(30)
という式になります。
さて,ここでPoisson括弧に似た.次の演算を
定義します。
すなわち,F,Gを,任意のΦI,ca,;K~I,Kac
の,Grassman偶,または,奇の汎関数とするとき,,
演算*を,F*G=(δF/δΦI)(δG/δK~I)
+(δF/δca)(δG/δKac)
+(-)|F|{(δF/δK~I)(δG/δΦI)
+(δF/δKac)(δG/δca)}
=(δF/δQA)(δG/δPA)
+(-)|F|(δF/δPA)(δG/δQA).(31)
で定義します。
ここで.QAは座標類似変数,PAは運動量
類似変数と呼ばれるものです。
ここでは,QA=(ΦI,Kac)(32-1)としました
が,これはGrassman偶変数,また,PA=(K~I,ca)
(32-2)とし,こちらはGrassman奇変数です。
実際,(31)のF*Gは,Poisson括弧に似た性質
を持っています。
例えば,次の対称性や,Jacobi恒等式などが,成立
します。
すなわち,まず,F*G=-(-)F1G1G*F.(33-1)
です。ただし,∀Fに対し,F1=|F|+1)です。
そして,F*(G*H)+(-)F1(G1+H1)G*(H*F)
+(-)H1(F1+G1)H*(F*H)=0.(33-2)です。
(※以下,参照中の私の読書覚書きノートでは,
これらの性質の地道な証明が,延々と書いて
ありましたが,これらの性質が成立するという
証明は間違いなく完了した,という報告のみで,
内容は煩雑なので省略します。※)
さて、このPoisson括弧に似た演算記号*を
用いると,(30)のWT恒等式:
(δΓ~/δΦI)(δΓ~/δK~I)c~+(δΓ~/δca)
(δΓ/δKac)=0.は,とても,簡明な表式になり,
Γ~*Γ~=0.(34)と書けます。
途中ですが長くなったので,今回はここで終わります。
(参考文献):九後汰一郎著「ゲージ場の量子論Ⅱ」
(培風館)
| 固定リンク
「114 . 場理論・QED」カテゴリの記事
- くりこみ理論第2部(1)(2020.11.11)
- くりこみ理論(次元正則化)16)(2020.06.13)
- くりこみ理論(次元正則化)(15)(2020.06.07)
- くりこみ理論(次元正則化)(14)(2020.05.31)
- くり込み理論(次元正則化)(13)(2020.05.31)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント