くりこみ理論(次元正則化)16)
「くりこみ理論(次元正則化)」の続きです。
§7-5:(質量に依らない対称なくりこみ)
の続きからです。以下,本論です。
※(有効作用のくりこみ)の項です。
前記事の「質量に依らないくりこみ」
により得られる有効作用Γ[φ~,m2,λ;μ2]
を考えます。(※φi~はスカラー場:φiの
期待値を表わしています。)
今は,φの脚のない真空泡グラフは,考慮
していないので,Γ(0)については,省くと
,Γ[φ~,m2,λ;μ2]
=Σn=2∞(1/n!)∫(2π)-4d4p1.∫(2π)-4d4pn
[Γ(n)i1i2..in(P,m2,λ;μ2)(2π)4δ(Σjpj)
×φi1~(-p1)φi2~(-p2)..φin~(-pn)].(18)
と展開され,係数としてのn点頂点関数:Γ(n)
が,Pとm2の有限な関数として計算されます。
展開:(18)は,φi~=0の対称な真空のまわり
の展開ですから,各頂点関数Γ(n)は,対称な
真空の上の頂点関数に対応しています。
しかしながら,上記くりこみ操作を各Γ(n)の
個々の頂点関数のくりこみと,摂動論的に考える
ことなく,むしろ有効作用Γ[φ~,m2,λ;μ2]
という1つの量に対するくりこみと見なすこと
もできます。
この観点を取れば,Γ自体は,Γ(0)=Sがλφ4
の項を含むため,4次発散の量ですが,それを次元
1を持つ引数φi~(p)で展開すれば,発散が1次
ずつ下がるので,展開で考えるとΓ(0),Γ(2),Γ(4)
までが発散し,これらはそれぞれ,4次,2次,対数
の発散量となりますが,真空泡グラフの寄与Γ(0)
は考慮する必要がないので,無視します。
さらに,Γ(2),Γ(4)を引数p2とm2で展開し,
その初めの展開でΓ(2)の定数項:Γ(2)|p2=m2=0,
p2の係数:(∂Γ(2)/∂p2)|p2=0.2m2=μ2,
(m2-μ2)の係数:(∂Γ(2)/∂m2)|p2=0,m2=μ2.
Γ(4)の定数項Γ(4)|p2=0,m2=μ2.(19)の4つの
量だけが発散するので,これらに対して.先の
(2)~(5)のくりこみ条件下で指定される引き算
操作をしたものが,有効作用Γのくりこみ操作
であると,考えることができます。
こうした立場では,有効作用Γを,φi~の汎関数,
かつ,m2の関数として丸ごと有限化したのであり.
展開:(18)のように,対称な真空:φi~=0 の上の
n点頂点関数:Γ(n)のそれぞれを有限にしたもの
ではない,という点が重要です。
つまり,Γを有限にするのに,そのφi~による,
φi~=0のまわりのTaylor展開で,初めの発散する
係数を持つ4項だけを(19)の指定により,引き算操作
しただけであり,決して,それ以降の収束する項まで,
φi~=0のまわりのTaylor展開と見る必要はない,
ということです。
このことは,通常のBPHZくりこみにおいて
発散するFeynman積分の被積分関数に対して,その
外線運動量pに関してTaylor展開した初めの数項
を引き算した手続きと丁度,同じで,その場合も.
決して,被積分関数をp=0のまわりに無限次まで
展開したわけではなく,初めの数項を引き算した
残りの積分は,展開などせず,単に有限な関数である
としたのと同様な見方ができます。
それ故,(19)の4項を引き算することで,有効作用
Γは,φ~の有限な汎関数,かつm2の有限な関数と
なるわけです。
このような単に見かけの違いに過ぎないような
「有効作用のくりこみ]という立場を強調する
のは。次の理由からです。
実際のところ,対称性が自発的に破れる場合,
特に,質量パラメータm2がある負の値(-M2)を
取る場合に興味があります。
この場合にはφ~i=0の対称な真空は不安定で
あり,Feynman伝播関数にタキオン(tachyon)の極
(p2<0の領域の極)が出てくるので,φ~=0のまわり
の展開(18)の係数で与えられる真空上のn点頂点関数
Γ(n)は無矛盾(well-defined)な量でなくなります。
(※つまり,この不合理なタキオンの極をどのように
避けるのか?がまだ指定されていません。)
しかし,Γ[φ~,m2,λ;μ2]自体は,m2<0の
領域でも無矛盾です。
m2=-M2<0の場合には,まず,有効作用Γの
引数:φi~(x)を定数φi~(※これは運動量表示の
φi~(p)では,φi~(p)=∫d4xexp(ipx)φi~(x)
なので,φi~の(2π)4δ4(p)倍に相当)に置いて
得た有効ポテンシャル:V[φi~,-M2,λ;μ2]
=Γ[φi~(x)=φi~,-M2,λ:μ2]/∫d4x.
(20)の停留条件:∂V/∂φi~=0を満たす安定な
真空解:Φi~=viを求めます。
次に,有効作用Γをφi~(p)=vi(2π)4δ4(p)
のまわりで,汎関数Taylor展開を実施すれば.
Γ[φi~,-M2,λ:μ2]
=Σn(1/n!)∫(2π)-4d4p1.∫(2π)-4d4pn
[Γv(n)i1i2..in(P,m2,λ;μ2)(2π)4δ(Σjpj)
×φi1^(-p1)φi2^(-p2)..φin^(-pn)].
ただし,φi^(p)=φi~(p)-vi(2π)4δ4(p)
(21)と書けます。
このとき,係数Γv(n)が,その安定な真空上の
期待値:vi=<φi~(ⅹ)>上でのn点頂点関数
を与えます。この場合,もちろん,φi~=viには
タキオンはなくΓv(n)はWell-definedです。
この手続きでは,(20)の有効ポテンシャルVも
(21)の有効作用Γも同じく,既に有限になっている
量と見ることができて,m2を負の値に取ったから
といって,新たにくりこみをやり直す必要など
ないとわかります。
結局,m2=-M2<0の対称性の自発的破れのある
理論も「対称な理論の相殺項」でもって,くりこむ
ことができるわけです。
何故なら,ここで用いた有効作用に対する引き算
項は(19)に与えた4項で,それらは質量パラメータ
m2がゼロ,または.μ2>0の対称な理論の相殺項
であったからです(※もう少し正確には対称な理論
のくりこみ因子Zと言うべきです。実際の相殺項は
Zmm2φ2のようにm2に陽に依存しています。)
※(注16-1):私的解釈では,有効作用Γを複素数m2
の複素関数と見て,m2=0,m2=μ2の物理的領域から
m2が負の領域まで特異点を避けて解析接続できる
とすれば,実際には発散する関数という解析関数
としては有り得ない量を考察しているという点で,
数学的には問題あり,ですが,これを除けば物理的
には理解できます。(Diracの超関数の例なと同様)
発散する裸の量でなく相殺項を引いて,くりこんだ
Γを質量m2について解析接続するなら数学的にも
問題ないことに後で気づきました。
(注16-1終わり※),
このような「有効作用のくりこみ」という観点
に立ち,質量に依らないくりこみ処法を用いて,対称性
が破れている理論,を対称な理論の相殺項でくりこむ
方法を「質量に依らない対称なくりこみ」
(Symmetric mass-independent renormalization)
略して,「SMIくりこみ」と呼びます。
以上のことから前節のゲージ理論のスカラー場の
部分に,このSMIくりこみを適用すれば,対称性が
自発的に破れてHiggs現象が起こっているような
場合でも,くりこみ可能であることが,対称な場合
のくりこみ可能性から従うことが理解されます。
さて,次は,※(ゲージ場の質量項による赤外正則化)
の項です。
ここで,少し話題が変わりますが,質量に依らない
くりこみの1つの応用として,ゲージ場の質量項
(1/2)m2Aμ2を付加することにより,対称性の自発的
破れのないゲージ理論における赤外発散を正則化する
方法について考察してみます。
赤外発散は,例えばQCD(quantum chrono-dynamics
量子色力学)において,零質量のグルオンというゲージ
粒子のみが回るloop積分:∫(2π)-4d4lで,被積分
関数が,運動量lに関して4次以下であれば外線運動量
を全てゼロにしたとき,l~0の赤外側で,積分が発散
するという問題のことです。
したがって,これは外線運動量:p=0のまわりでの
Taylor展開で紫外発散を引くという元々のBPHZ
くりこみをゲージ理論に適用しようとするときにも,
起こる問題であり,零質量粒子のみから成るloopの
グラフの対数発散項は赤外でも発散し元のBPHZ
の手続きが使えなくなります。
もちろん,外線運動量pをゼロ以外の点におけば
積分は問題ないのですが,pはLorentzスカラーでは
ないので,p=0以外の点を選ぶと,かなり面倒なこと
になります。
そこで,ゲージ場に.仮にゼロでないし質量mを与え,
p=0でも赤外発散が生じないようにするのが,この
赤外正則化の方法です。,
実際に求めたいものは,m=0の理論ですが,まず,
ゲージ場が一般の質量mを持つ場合に枠を広げた後
に「質量に依らないくりこみ法」を適用してm2が
あるくりこみ点:μ2(>0)の(p=0でも赤外発散の
ない)ところでの相殺項によって任意のmを持つ理論
を全て有限にするわけです。
ゲージ理論のBRS不変なLagrangianにゲージ場
の質量項:(1/2)m2Aμ2を付け加えても(他の次元2
のスカラー場の質量項が少し変化を受ける点以外
には)そのまま,くりこみ可能であることは以前の
命題1とSymmanzikの定理から,ほぼ明らかです。
しかし,今の場合,線形でもなくBRS対称性を
破る項を付加する点や,対数発散の相殺項は全て
BRS不変でないm2=μ2の理論のものを用いる
点から,若干,不安をおぼえるかもしれないので,
念のため,以前のWT恒等式を用いた議論を質量項:
m2Aaμ2/2がある場合に拡張して,これらのこと
を,以下で直接証明することにします。
まず,ゲージ場の質量項:m2Aaμ2/2がある場合の
WT恒等式を導きます。
前節で与えたBRS不変な作用積分Sに.この質量項
と,BRS変換の外場項を加えた作用積分をIとします。
すなわち,I=S+∫d4x{m2Aμ2/2+MδB(Aaμ2/2)}
(22)です。
(※S=∫d4x{L(ΦI)+KI(δBΦI})
+Kc(δBc)}です。)
ここで,δB(Aaμ2/2)=Aaμ(Dμca)
=Aaμ∂μca (23)です。
また,外場:Mは次元が1,FPゴースト数が
NFP=-1の量です。
系の作用積分Iに対応する有効作用Γに
対するWT恒等式は,前の§5-6と同様にして,
(δΓ/δΦI)(δΓ/δKI)
+(δΓ/δca)(δΓ/δKca)
+i(δΓ/δc~a)Ba=m2(δΓ/δM).(24)
となります。
※(注16-2):上記(24)を第5章のBRS対称性
を持つ系のWT恒等式の基本に戻って証明します。
[証明]:作用積分を,引数を陽に書いてI[Φ,K,M]
とすれば,連結Green関数の生成汎関数:
W(J,K,M)=I(Φ,K,M)+J・Φは.
exp{iW(J,K,M)}
=∫DΦ[expi{I(Φ,K,M)+J・Φ},
なる等式を満たします。ただし,J・Φ
=∫d4x{JIΦI+J~cc+Jcc~+JBB})
です。
この式で,汎関数積分(配位空間経路積分)
の内部にBRS変換を行なえば,BRS不変で
ないのはIの中の(m2Aaμ2/2)項とJ・Φのみ
であり,一方,真空はBRS不変:QB|0>=0
なので,左辺=exp(iW)=exp{i(I+J・Φ)}
のBRS変換
=<0|[iQB,Texpi(I+J・Φ)}|0>=0
という恒等式が成立します。
そこで∫DΦ [m2{(δB(Aaμ2/2)+JI(δBΦI)
-J ~ c~a(δBca)-iJcaBa}exp(iW(J,K,M)]
=0, つまり,[m2(δ/δM)+JI(δ/δKI)
-J~c~a(δ/δKca)-iJca(δ/δJBa)]
×W(J,K.M)=0 なる恒等式を得ます。
そこで,Legendre変換:Γ[Φ,K,M]
=W[J,K,M]-J・φによって,有効作用:Γ
を定義すれば,-(-)|I|JI=(δΓ/δΦI),であり
,WのK,Mによる左微分は,Γのそれに等しいので.
左微分:(δ/δKI)W=(δ/δKI)Γ,および,
(δ/δM)W=(δ/δ)Γを,それぞれ,単に
δΓ/δKI,および,δΓ/δMと書けば,
WT恒等式として,
m2(δΓ/δM)-((δΓ/δΦI))(δΓ/δKI)
-(δΓ/δca)(δΓ/δKca)
-i(δΓ/δc~a)Ba=0(24)が得られます。
[証明終わり] (注16-2終わり※)
他のNL場,反ゴースト場の運動方程式
から従う§7-4で論じた後2つのWT恒等式:
δΓ/δBa=faIΦI+wa+αBa.および,
faI(δΓ/δKI)+i(δΓ/δc~a)=0は,
ゲージ場の質量項の付加で変更を受けません。
そこで,以前の§7-4でやったように作用I
と有効作用ΓからBa依存部分を除いた,I~,
Γ~を定義し,また,外場KIの代わりに,変数
K~I=KI+ic~afaIを用いれば,c~aへの
依存性も消えます。
こうすれば,後の2つのWT恒等式は不要
となり,残るWT恒等式:(24)は*演算を用いて
Γ~*Γ~=m2(δΓ~/δM).(25)と,書き直す
ことができます。
この恒等式(24),方程式(25)は,実は元々,
ΦI0,K~I0,M0等の裸の量を引数とする,裸の
有効作用Γ~0に対して成立している裸の式
ですが,これをくりこんでも同じ形になる
ように§7-4の(15):A0aμ=Z31/2Aaμ,
φ0i=Zi1/2(φi,+vi)=Zi1/2φ~i,
(c0a,c0~a)=Z~31/2(ca,c~a),(18):
K0aμ=Z3-1/2Kaμ,および,
K0i=(Z~31/2Z31/2/Zi1/2)Ki,
さらに,(19):K0ca=Z31/2Kca,
そして,(20):g0=ZiZ3-3/2g.を
考慮します。
そして,ゲージ場Aaμの2乗質量m02と
外場:M0についても,m02=ZAmm2,
M0=ZAmZ31/2Z~31/2M.(26)として,
くりこみを行ないます。
すると,(24)は元々,Γ~0を含め全ての量
に添字0を付けた裸の量で成立する恒等式
ですが,これが,くりこんだ量:Γ~と,ΦI,K~I,
ca,Kca.m2,Mで書かれた恒等式となり,
共通因数の(Z31/2Z~31/2)をはずすと,裸の式と
同じ形になります。
ゲージ場の2乗質量m2に関しては,
「質量に依らないくりこみ」をしていますが,
(26)のm02=ZAmm2で,ゲージ場の裸の質量
はm2に比例する部分しかない,と暗に述べて
います。これはゲージ対称性(BRS対称性)に
より,m2=0なら,裸の2乗質量は,(m02-δm02)
ではなくて,m02であり,これもゼロであることが
保証されているからです。
前と同様,数学的帰納法により,hcnのオーダー
まで有限にくりこめた,と仮定すると,hc(n+1)の
オーダーで現われる発散Γdiv(n+1)は,WT恒等式
(24)を書き直した(25)Γ~*Γ~=m2(δΓ~/δM)
より,Γ~(0)=I~であり,
I~*Γdiv(n+1)=m2(δΓdiv(n+1)/δM)なる
方程式を満たすことが従います。
それ故,今度の場合は前のS~*X=0と
違って,I~*X=m2(δX/δM.(27)という
くりこみ方程式の解:Xの一般形を求めればよい,
ということになります。
まず,Xは次元が4以下であるとして,次元2
を担うm2の高々1次関数として,X=X0+m2X1
(28)(X0,X1はm2に独立な量)と書いてよい
ことになります。
(※次元4のm4の項は場によらないので,今の
真空泡グラフを考えない場合,落とします。)
また,作用積分:I~でも,m2部分を分離して
I~=I~0+m2I~1.(29)とします。
このとき,I~0=S~+∫d4x{M(Aaμ∂μca)},
I1=∫d4x(m2Aaμ2/2)+MAaμ (30)です。
すると,(27)のI~*X=m2(δX/δM)は,
(I~0+m2I~1)*(X0+m2X1)=m2(∂X0/δM)
+m4(δX1/δM)となり,これはm2の多項式と
して恒等式なので,両辺の同じm2べきの係数
を等置して,方程式:I~0*X0=0.(31),
I~1*X0-(δX0/δM)=-I~0*X1.(32)
I~1*X1-(δX1/δM)=0.(33)を得ます。
これを,(33),(32),(31)の順に解きます
そこで,まず,I~1-(δX1/δM)=0ですが,
X=X0+m2X1より,X1は次元2以下の量です。
これが,大局的ゲージ不変性とFPゴースト数
NFP=0を満たす,という要求を考慮すると,
その一般形は次式で与えられることが
わかります。
すなわち,X1=∫d4x{aAaμ2/2+b|φi|2}
(34)(a,bは定数)です。
ゲージ群がU(1),またはU(1)因子群を含む
場合は,Mcaの項も要求を満たすように見えます
が,ca(―x)→ ―c(x),M(―x)→ M(x)
なので.CPT不変性からこの項は(34)から排除
されます。とにかく,cの奇数次の項などは存在
し得ません。
一方,I~1=∫d4x{Aaμ2/2}(30)なる陽な
表式と.§7-4の演算*の定義から,任意のXに
対して.I~1*X=Aaμ(δX/δK~aμ).(35)
です。そこで,(34)のX1は,任意のa,bについて,
I1*X1-(δX1/δM)=0.(33)の方程式を満たす
ことがわかります。
(※何故なら,δX1/δK~aμ=0,かつ,δX1/δM=0
であるからです。)
この(33)の解である(34)のX1を,(32)の方程式
I~1*X0-(δX0/δM)=-I~0*X1の右辺に
代入すると.{Aaμ(δ/δK~aμ)-(δ/δM)}X0
=-aAaμ(∂μca).(36) を得ます。
(※何故なら.I~0*X1においては,φiに関わる
項:(δI~0/δKi)(δX1/δφi)
と(δI~0/δKi+)(δX1/δφi+)が,相殺して
消えて,Aaμに関する項だけが寄与するからです。)
ここで.X0=aMAaμ∂(∂μca)が(36)の特解
になるのは,明らかです。
斉次(同次)方程式:{Aaμ(δ/δK~aμ)
-(δ/δM)}X0=0の一般解を求めるため,
K^aμ=K~aμ+MAaμ.(37)と置けば,
δX0/δK~aμ=δX0/δK^aμ,および,
δX0/δM=Aaμ(δX0/δK^aμ)
(※X0はK^aμを通してのみMに依存)
となります。
故に,同次方程式は左辺=δX0/δK^aμ
=0,つまり,これの一般解はK^aμに独立な
任意の汎関数です。
よって,このX0の同次解をX~0と書けば,
(36)の一般解は,X0=X~0
+∫d4x{aMAaμ(∂μca)}(38)と書けます。
以後,変数として,ΦI,ca,K~i,Kcaの他に
(37)のK^aμを採ることにすれば,X~0はK^aμに
独立なので,Mに依存しない汎関数です。
最後に,方程式:(31)I~0*X0=0に.
上の(38)のX0を代入します。
すると,I~0=S~+∫d4x{M(Aaμ∂μca)}
ですから,S~*X~0
+M∫d4x[∂μca(δ/δK^aμ)
-Aaμ∂μ(δ/δKca)]X~0=0.(39)
が得られます。
※(注16-3):何故なら,まず,S~*{MAaμ(∂μca)}
=(δS~/δK^aμ)(δ/δAaμ){MAaμ(∂μca)}
=(δBAaμ)(δ/δAaμ){(δB(-MAaμ2/2)}
=δB[δB(-MAaμ2/2)]=0を用いると,
S~*X0=S~*X~0が導かれます。
Mの項は,[∫d4x{M(Aaμ∂μca)}*X~0
=M∫d4x(∂μca)(δX~0/δK^aμ),
-MAaμ∂μ(δX~0/δKca)です。
そして,M2の項は同じものの*積なのでゼロ
です。つまり,[∫d4x{M(Aaμ∂μca)}*
[∫d4y{M(Aaμ∂μca)}]=0 です。
(注16-3終わり※)
そして,(39)の第1項はMに依存しないので,
第1項と第2項は,それぞれ独立にゼロです。
すなわち,S~*X~0=0,かつ,
M∫d4x[∂μca(δ/δK^aμ)
-Aaμ∂μ(δ/δKca)]X~0=0. です。
ところが,S~*X~0=0の解は,前節で,
方程式:S~*X=0を解いた一般解Xと
同じ形で与えられます。
つまり,S~*X=0の一般解:Xは,
X=∫d4x[fゲージ不変(ΦI)
+βA{K~I(δBΦI)+Kca(δBca)}
+(βA-γA){Aaμ(∂LGI/∂Aaμ)
-K~aμ(∂μca)}
+γφ(da)ijfaj
{∂(LGI+K~iδBφi)/∂φj}].(63)
でしたが,この右辺の表式で,K~aμを,
K^aμ=K~aμ+MAaμに,置き換えたもの
が.今のS~*X~0=0の一般解:X~0を
与えます。
特に,X~0の,K^aμ,Kca依存部分を
X~0Kと書ヶば,X~0K=K^aμ{γA(∂μca)
-βAg(Aμ×c)a}
+Kca{βA(g/2)(c×c)a}(40)である
ことがわかります。
ところが,このX~0Kは,(39)の第2項の
M∫d4x[(∂μca)(δ/δK^aμ)
-Aaμ∂μ(δ/δKca)]X~0K=0を自動的
に満たします。(※証明は省略)
それ故,これ以外のK^aμもKcaも含まない
部分を加えた全体のX~0をX0Kに置換しても,
これが満足され,結局,このX~0が(31):I~0*X~0=0
の一般解を与えることがわかります。
以上から,解:X=X0+m2X1は(34),(38)により,
X={X~0-γAMAaμ(∂μca)}
+∫d4x[(a0+γA)MAaμ(∂μca)
+am2Aaμ2/2+bm2|φi|2](41)
で与えられることになります。
このうち,|X~0-γAMAaμ(∂μca)}は,
前節の(63)の一般式に一致し.既にBRS不変な
作用S~のZ因子やviをずらして得られる相殺項
で相殺できる,ことを示しました。
今度の作用積分Iで新たに加えられた部分:
(I~-S~)=∫d4x{m2Aaμ2/2+M(Aaμ∂μca)}
において,くりこみ操作を実施すれば,
裸の,(I~-S~)0
=∫d4x{ZAmZ3m2Aaμ2/2
+ZAmZ3mZ~3M(Aaμ∂μca)}(42)
となるため,Z因子をずらすと,Δ(I-S)
=∫d4x{(δZAm+δZ3)m2Aaμ2/2
+(δZAm+δZ3m+δZ~3)M(Aaμ∂μca)}
(43)を得ます。
それ故,前節のδZ3=-(αA+2βA-2γA),
δZ~3=-γAに加えて,a+δZAm+δZ3=0,
(a0+γA)+δZAm+δZ3+δZ~3=0δを
要請して.δZAm=-a+(αA+2βA-2γA)(44)
とすると,(43)の2つの項が,丁度,(41)の第1項
と第2項を相殺します。
残る(41)の最後の項:(-bm2|φi|2)については,
(63)のμ2に比例する発散項(-αmμ2|φi|2)と一緒
にして,スカラー場の裸の質量項を,
-(Zm1μ2+Zm2bm2)Zi|φi|2.(45)と分離して
おけば,2つの相殺項を用意することができます。
以上で,ゲージ場の質量項を加えても,スカラー場
の質量項が少しの変更を受けるだけで,ゲージ理論は,
くりこみ可能に留まるという予想を証明すること
ができました。
しかし,これは,あくまで,赤外正則化の暫定的
方法であることに注意すべきです。
何故なら,そもそもゲージ場の質量がゼロでない
理論は,有限にはできても,BRS不変性を持たず,
故にBRS電荷:QBは保存されないし,ベキ零性
δB2=0も成立しないから,物理的解釈のできる
理論とはならないからです。
例えば,Paulli-Villers正則化では,ゲージ粒子
の作るloop積分の対数発散部分はln(Λ2/m2)の
形となり,Λ2→∞で紫外発散,m2→0で赤外発散
しますが,とりあえず両者とも相殺項で有限に
できることは示しました。
そこで赤外発散については正則化の後にm2→0
の極限を取ったとき,無矛盾に留まればいいです。
(※QEDでは、エネルギーがゼロの無数の実光子の
寄与が,無数の仮想光子の寄与で相殺される,という
方法で赤外破局(Infrared catastrophe)は解決され
ました。)
これで,第7章が終わったので,ここで,この記事
シリーズを一旦,終わります。
(「くりこみ理論(第2部)」につづく)
(参考文献):九後汰一郎著「ゲージ場の量子論Ⅱ」
(培風館)
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