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2020年8月

2020年8月13日 (木)

物理学の哲学(止まると死ぬ)(6)

「物理学の哲学の続きです。

コロナじゃなく慢性心不全(肺水腫)です

が,血中酸素濃度が低くなり,8/6から,

また酸素吸入をしています。

治療は利尿剤を増やすだけで,いつ命が

終わるかも,わからないので,この回顧

ブログも急いでいます。(余談終わり※)

さて,ここでQED(量子電磁力学)における

基本的なW-T恒等式(Ward-Takahashi恒等式:

(p-p~)μΓμ(p,p~)

=S~-1(p)-S~-1(p~) を,伝統的な

正準定式化の摂動論でのT積(T-product;

時間順序積)の真空期待値で定義される

Green関数から,グラフ的考察に頼らず,

電磁ベクトルカレント密度の保存式:

μμ=0を用いて,導いてみます・

※(証明):

<0|T{ψ(x)ψ~(y)jμ(z)|0>を考えます。

これは,場の演算子のT積の部分を陽に書き下す

と,T{ψ(x)ψ~(y)jμ(z)}

=θ(x0-y0)θ(y0-z0)ψ(x)ψ~(y)jμ(z)

+θ(x0-z0)θ(z0-y0)ψ(x)jμ(z)ψ~(y)

-θ(y0-x0)θ(x0-z0)ψ~(y)ψ(x)jμ(z)

-θ(y0-z0)θ(z0-x0)ψ~(y)jμ(z)ψ(x)

+θ(z0-x0)θ(x0-y0)jμ(z)ψ(x)ψ~(y)

-θ(z0-y0)θ(y0-x0)jμ(z)ψ~(y)ψ(x)

となります。

この両辺の左から∂μ=(∂/∂zμ)を作用させる

と,∂zμ[T{ψ(x)ψ~(y)jμ(z)}

=T{ψ(x)ψ~(y)∂μμ(z)}

-θ(x0-y0)δ(y0-z0)ψ(x)ψ~(y)j0(z)

-δ(x0-z0)θ(z0-y0)ψ(x)j0(z)ψ~(y)

+θ(x0-z0)δ(z0-y0)ψ(x)j0(z)ψ~(y)

+θ(y0-x0)δ(x0-z0)ψ~(y)ψ(x)j0(z)

+δ(y0-z0)θ(z0-x0)ψ~(y)j0(z)ψ(x)

-θ(y0-z0)δ(z0-x0)ψ~(y)j0(z)ψ(x)

+δ(z0-x0)θ(x0-y0)j0(z)ψ(x)ψ~(y)

-δ(z0-y0)θ(y0-x0)j0(z)ψ~(y)ψ(x)

です。これを見ると,右辺第1講は∂μμ=0に

よって消えます。次に,まず,

-θ(x0-y0)δ(y0-z0)ψ(x)ψ~(y)j0(z)

+θ(x0-z0)δ(z0-y0)ψ(x)j0(z)ψ~(y)

=-θ(x0-y0)δ(y0-z0)ψ(x)

×[ψ~(y),j0(z)]y0=z0 です。

ここで,[A,BC]={A,B}C-B{A,C}

より,y0=z0では,[ψ~(y),j0(z)]

=[ψ~(y),ψ(z)ψ(z)]

=-ψ(z){ψ~(y)ψ(z)}

=-δ3(y-z)ψ~(z)ですから,

与式=θ(x0-y04(y-z)ψ(x)ψ~(z)

を得ます。そして,次に,

θ(y0-x0)δ(x0-z0)ψ~(y)ψ(x)j0(z)

-θ(y0-z0)δ(z0-x0)ψ~(y)j0(z)ψ(x)

=θ(y0-x0)δ(x0-z0)ψ~(y)

×[ψ(x),j0(z)]x0=z0

=-θ(y0-x04(x―z)ψ~(y)ψ(z)

です。これらの和を取ると,

-δ4(x-z)T{ψ(z)ψ~(y)}となること

がわかります。さらに,

-δ(x0-z0)θ(z0-y0)ψ(x)j0(z)ψ~(y)

+δ(z0-x0)θ(x0-y0)j0(z)ψ(x)ψ~(y)

=-δ(x0-z0)θ(z0-y0)

×[ψ(x),j0(z)]x0=z0ψ~(y)

=θ(z0-y04(x-z)ψ(z)ψ~(y),および,

θ(y0-z0)δ(z0-x0)ψ~(y)j0(z)ψ(x)

-δ(z0-y0)θ(y0-x0)j0(z)ψ~(y)ψ(x)

=-δ(z0-y0)θ(z0-x0)

×[ψ~(y),j0(z)]ψ(x)

=-θ(z0-x04(y-z)ψ~(z)ψ(x)

ですから,これらの和を取ると,

δ4(y-z)T{ψ(x)ψ~(x)}です。

したがって,結局

zμ<0{T{ψ(x)ψ~(y)jμ(z)}|0>

=δ4(y-z)<0|T{ψ(z)ψ~(x)}|0>

-δ4(x-z)<0|T{ψ(z)ψ~(y)}|0>

が得られます。

ただしカレントが保存されない場合:

μμ≠0なら,右辺第1項が消えない

ので,zμ<0{T{ψ(x)ψ~(y)jμ(z)}|0>

=<0{T{ψ(x)ψ~(y)∂μμ(z)}|0>

=δ4(y-z)<0|T{ψ(z)ψ~(x)}|0>

-δ4(x-z)<0|T{ψ(z)ψ~(y)}|0>

となります。 

ところで,QEDの3点Green関数:

(3)μ(x,y,z)

=<0|T{ψ(x)ψ~(y)Aμ(z)}|0>

に,□z=(∂zμ)を作用させると,

まず,∂z<0|T{ψ(x)ψ~(y)Aμ(z)}|0>

=<0|T{ψ(x)ψ~(y)∂μμ(z)}|0>

+(ψとA0の交換子に比例する項)

=<0|T{ψ(x)ψ~(y)∂μμ(z)}|0>

よなるので,□Aμ=jμにより,

z<0|T{ψ(x)ψ~(y)Aμ(z)}|0>

=<0|T{ψ(x)ψ~(y)□Aμ(z)}|0>

=<0|T{ψ(x)ψ~(y)jμ(z)}|0>

を得ます。

3点Green関数に□を掛けて光子の

質量核上:k2=0とおくことは,光子外線を

除くという意味があります。

運動量表示で考察するために

(3)μ(x,y,z)

=<0|T{ψ(x)ψ~(y)Aμ(z)}|0>

を,Fourier変換してGreen関数の運動量

表示を(2π)12δ4(p-p~-k)

×G(3)μ(p,p~,k)

=∫d4xd4yd4

[exp{i(px-p~y-kz)}

×<0|T{ψ(x)ψ~(y)Aμ(z)}|0>]

とします。すると,□(3)μ(x,y,z)

=<0|T{ψ(x)ψ~(y)jμ(z)}|0>を,

さらにzで微分したモノ,

μ(3)μ(x,y,z)が,先の

μ<0|T{ψ(x)ψ~(y)jμ(z)}|0>

に一致しますが,これの運動量表示は,

(2π)12δ4(p-p~-k)

×(ikμ)(―k2)G(3)μ(p,p~,k)

=(2π)12δ4(p-p~-k)i(p-p~)μ

×(―k2)G(3)μ(p,p~,k)|k=p-p~

となります。

一方,このT積の真空期待値の微分を

書き下して得た等式の右辺の運動量表示は,

∫d4xd4yd4

[exp{i(px-p~y-kz)}

4(y-z)<0|T{ψ(z)ψ~(x)}|0>

-δ4(x-z)<0|T{ψ(z)ψ~(y)}|0>]

=∫dxexp{i(p-p~-k)x}

×[∫d4y[expi(k-p~)(y―x)]

<0|T{ψ(y)ψ~(x)}|0>

-∫d4y[expi(k-p)(y―x)]

<0|T{ψ(y)ψ~(x)}|0>]

=(2π)12δ4(p-p~-k)

[iS~(k-p)-iS~(k-p~)

=(2π)8δ4(p-p~-k)

×{iS~(p~)-iS~(p)}となります。

以上から,

 (p-p~)μ(-k2)G(3)μ(p,p~,k)k=p-p~

=S~(p~)-S~(p)を得ます。

ところが,3点Green関数の運動量表示

は,頂点関数Γμにより,G(3)μ(p,p~,k)

=S~(p~)Γμ(p,p~)S~(p~)D~(k)

と書けます。そして,iD~(k)=(-i)/k2

です。それ故,

(p-p~)μS~(p)Γμ(p,p~)S~(p~)

=S~(p~)-S~(p)を得ます。

そこで左からS~-1(p),右からS~-1(p~)

を掛けると,確かに,WT恒等式

(p-p~)μΓμ(p,p~)

=S~-1(p~)-S~-1(p)が得られます。 

(証明終わり※)

私にとっては自明と思っていたことを,いざ,

改めてウン十年ぶりに証明してみると,老いた

頭には意外と面倒で煩雑になりました。

さて,ベクトルカレント(極性ベクトルカレント)

の密度:jμでなく,裸の質量m0を持つ粒子ψの軸性

ベクトルカレント(Axial-vector current):の密度

(x)=ψ~(x)γμγ5ψ(x)を考えると,

まず,これは部分的保存則(PCAC)と言われる

μ=2im05を満たします。ただし,

5(x)=ψ~(x)γ5ψ(x)です。

そこで質量m0がゼロでない限り,軸性カレント

は保存されません。

それ故,これに対するWT恒等式は:

(p-p~)μΓ(p,p~)=2m0Γ5(p,p~)

+S~-1(p)γ5+γ5S~-1(p~)

となることがわかります。

軸性の頂点を,Γ=γ5γμ+Λ,および,

Γ5=γ5+Λ5と,対数発散部分を切り離して

表わせば,WT恒等式として,別の表現:

(p-p~)μΛ(p,p~)

=2m0Λ5(p,p~)-Σ(p)γ5-γ5Σ(p~)

を得ます。

しかし,頂点への寄与をグラフ的に考察すると;

通常の純粋にQEDのWT恒等式では頂点関数の

loop積分が,高々対数発散なので積分内で変数

をシフトしても不変という性質を用いること

ができて,WT恒等式に破れは,生じなかったの

ですが,VVA三角グラフの寄与では1次発散

するloop積分なので,変数のシフトが許されず,

その差が余分な項となって,WT恒等式に破れ

が生じることになります。 

これが,前から述べていたVVA三角ブラフ

の量子子アノマリーです。

本ブログの過去記事「摂動論のアノマリー)」

の(5)(6)(7)を参照すると,アノマリーを与える

三角グラフの寄与はRosenbergによって得られた

表現と呼ばれる,次式で評価されます。

すなわち,(-ie02)(2π)-4σρμ

=2∫d4r(2π)-4(-1)Tr[{i/(1-m0)}

(-ie0γσ){i/(-m0)}(-ie0γρ)]

×{i/(2-m0)}(γμγ5)].です。

これは見かけ上1次発散しますが,ベクトル

カレントの保存の要請から,光子場の強さの電場,

または,磁場のテンソル:(k2ξε2ρ-k2ρε2ξ),

(k1ηε2σ-k2σε1η)を通してcoupleすること

を考慮すると,運動量の2つのベキが,その因子

に費やされるため,有効発散次数はDeff=-1と

なって収束する積分となります。,

ここで,Rosenbergの表現:

(-ie02)(2π)-4μσρの右辺の被積分関数の

最後の因子:(γμγ5)を,(2m0γ5)に置き換えた

モノを,(-ie02)(2π)-42m0σρと定義します。

もしも上で,場理論から理論的に得た軸性

カレントのWT恒等式:(p-p~)μΛ(p,p~)

=2m0Λ5(p,p~)-Σ(p)γ5-γ5Σ(p~)

が三角グラフの摂動計算においても正しいなら,

(p-p~)μ=-(k1+k2)μとなるはずで,そこで

―(k1+k2)μσρμ=2m0σρとなるべきなの

ですが,実際に計算を実行すると,

-(k1+k2)μσρμ=2m0σρ

+8π21ξ2τεξτσρとなり,三角グラフの場合

には,軸性カレントのWT恒等式は成立せず,,

破れ(アノマリー)が存在する,ことがわかります。

過去記事「摂動論のアノマリー(8)」によれば,

一般の場合の軸性ベクトルカレントのWT恒等式

は,軸性ベクトルカレントに対するPCAC

(部分的保存)の式:μ(x)=2im05(x)

を, ∂μ5μ(x)=2im05(x)

+{α0/(4π)}Fξσ(x)Fτρ(x)εξστρ

に置き換えることによって,得られ,これは

,5,および,{α0/(4π)}Fξστρεξστρ

対するグラフのFeynman規則を用いれば,

容易に証明できます。

そして,このアノマリーは単純な切断や引き算等

では除去できない本質的な項であることがわかります。

 

ここで,また,中断して次回にまわします。(つづく)

 

 

 

 

 

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2020年8月10日 (月)

物理学の哲学(止まると死ぬ)(5)

「物理学の哲学」の続きです。

  さて,1点における場φの真空期待値はゼロ,

つまり,<0|φ(x)|0>=0ですが,同じ場:φの

局所演算子積(ゆらぎ)の真空期待値は,そのまま

では通常,無限大になります。

例えば,実際に自由場:φ(x)の積分表示で,積の

真空期待値を,展開係数演算子:a^やa^の積の

真空期待値を用いて評価計算すると,自由場では

<0|φ(x)φ(x)|0>=∞となることが導かれ,

陽に確かめられます。

これは,このスカラー場の正準交換関係が,

[φ(x),φ(y)]=Δ(x-y)(不変デルタ関数)

で与えられるため,特に同時刻:x0=y0では,

[φ(x),φ(y)]x0=y0=δ3(x-)となって

limx→y[φ(x),φ(y)]=∞となることも関係

しています。

ここで,局所演算子積(複合演算子)が特異性を

持つのには本質的理由があることを述べておきます。

古典論での静電場や重力(万有引力)のポテンシャル

は.力の中心からの距離をrとして,A/rのような形

で与えられます。(Aは力の発生源の強さ)

これは,V=A/rの形の位置エネルギーがあるの

を意味するので,古典論では,よくやるように基準を

明確にせず,V=A/r+(定数)としてもいいのです

が,特にr=∞でV=0となるようV-=A/rとする

のが慣例となっています。

この場合,問題となるのは,r →0で,V→±∞に

なることです。これは,1点の問題のように見えても

実は無限に近接した2粒子間の問題です。

こうして古典論でも,1次発散する,いわゆる電場の

自己エネルギーというのは,解釈が難しい問題の1つ

でしたが,これは量子論でも対数発散に緩和される

とはいえ,依然付きまとう問題で,「くりこみ理論」

という処方で困難を回避する方法が作られました。

このポテンシャルは2体問題としては,2粒子の

位置座標を1,2として,V=A/|1-x2|という

形ですが,同じ1粒子内で空間的(space-like)に

離れた2点がある,という非局所構造を許すと.

相対論的微視的因果律を破ることになるので,

大きさ(構造)のない点粒子しか想定することが

できないという事情の宿命で,発散が生じたと

考えられるのです。

私が現役の院生の頃,素粒子論ではカレント代数

という研究分野がありました。これ,今もあるのか

は,よく知りません。

電子のようなFermionの局所カレント密度は,その

スピノル場ψ(x)によりjμ(x)=ψ~(x)γμψ(x)

のように双1次形式で与えられますが,単純にその

真空期待値を取ると,すぐ前にスカラー場φで述べた

ように,これは無限大になってしまいます。

結局.同一時空点の2つ以上の演算子の積が無限大

になる特異性の原因は,古典論の点粒子の問題と同様

のことであって,容易には回避できない宿命的な問題

であり,物理学理論の本質にかかわっています。

そこで,1つには,正規順序積(normal ordering)

という量を,ψ~(x)γμψ(x)=ψ~(x)γμψ(x)

-(γμ)αβ[ψ~α(x),ψβ(x)]なる操作で作り,これ

をカレント密度jμ(x)と再定義すれば,取りあえず

真空期待値は強制的にゼロとできます。

 あるいは,微小なε>0を取ってb-ilocal場を

考えます。すなわち,カレントを同一点でなく微小

な距離:εμだけ離れた2点:x-ε/2とx+ε/2の

場の積:jμ(x,ε)=ψ~(ⅹ+ε/2)γμψ(x-ε/2)

×exp{i∫x-ε/2x+ε/2eAμ(y)dyμ}}と定義した

量であると想定するのです。ただし,最後の指数関数

因子は,Diracのモノポール模型のようにスピノル場

は時空点:xごとに異なる位相を持ち,それば電磁場:

μがあるときは,極小変換:pμ→pμ-eAμ,or

μ→∂μ+ieAμに対応している,という考えに基づく

ものです。(ベリーの位相?)

このカレント密度では,ε=0でない限り真空期待値

の無限大発散は回避されます。

そして.この電磁ベクトルカレントjμは,保存則,

μμ=0を満足することに留意しておきます。

物理屋の多くは同一点の積の特異性を深く考えずに

考察していて,位相も重視してない時代もありました

が,実は,特異性も位相も重要なファクターです。

ところで,カイラル軸性カレントを考えると,これは

(x)=ψ~(ⅹ)γ5γμψ(x)であり,これも1つの

局所演算[子積(複合演算子)です。

これの特異性を意識してbilocalカレント

(x,ε)を作れば,これにも特異性はありません。

すなわち,軸性ベクトルカレントの密度を

(x,ε)=ψ~(ⅹ-ε/2)γ5γμψ(x+ε/2)

×{∫x-ε/2x+ε/2μ(y)dyμ}で定義するわけです。

1976年(26歳)当時,私が表向きのクォーク模型では

なく,密かに勝手に専門として研究していたのはQED

における三角アノマリー(Adler-Jackew anomaly)と

いうテーマでした。,

この不思議な現象を解析すれば,紫外発散を除去

する「くりこみ」という操作の理論的メカニズムが

明快に理解できるのでは?と期待したからです。

しかし,このテーマは当時,素粒子論の端緒を

齧った程度の身で,一人でやるには壮大過ぎて,結局,

卒業(修了)までには間に合わず,仕方なく1974年

(24歳)のときに発見された(J/ψ)の新粒子

(後に,Charmクォークを含む重中間子と同定された。)

に関連してカラー1重項の中間子とその反粒子,

または3体の重粒子と,その反粒子のみが観測され

例えば2体,3体のカラー多重項や,4体以上から

成るexoticな粒子が観測されない理由について

考察した「三重三元クォーク模型の束縛ポテンシャル」

という,自分の本意でない修士論文しか書けなかった

のでした。

一方,量子アノマリーは,私のその後の普通

の社会人に就職した後も,アマチュアとして細々

と考察していたのですが,この地道な努力を嘲笑

うかのように,まもなくt’Hooftらの研究者に

より解明されたらしい,ことを知りました。

例えば,1990年代に私がテキスト(として,よく

読んでいた(九後汰一郎著)「ゲージ場の量子論」

(培風館)の第9章「アノマリー」にあるように,

ゲージ不変な.くりこみを,次元正則化を使って

行なおうとするとき,γ5を含む軸性カレントの

存在がネックとなって出現する余分な項である,

とか,経路積分で変数置換を行なう際,やはりγ5

存在のため,変換のヤコービ行列式に現われる異常項

であるとかの意味で,解決されていました。

まあ,自分がオリジナルで解決できなくても理解

さえできればいい,というスタンスなので,それでも

満足だったのですが,実験観測データを説明できる

偉大な「対症療法」である「くりこみ理論」を、

「原因療法」に変えたい,という,私的な構想と量子,

アノマリーの間に大した関係がなかったという意味

で予想がはずれ,40歳の頃,一旦は,がっかりしたの

でした。(※ その後,次の目標を見つけました。)

VVA三角アノマーに興味持ったのは,電荷を

持たない中性中間子であるπ0中観子の崩壊現象:

主要過程が,π0→γ+γにの電磁崩壊現象に興味

を持ったからでした。

π0は,電荷を持たないので摂動の1次では光子

と電磁相互作用することはができないので,例えば,

π0→e+e→2γのような,弱い相互作用の電子

のV-Aカレントを中間状態とする,2次の過程で

説明できるはずです。

これは必ずしも電.子eのようなレプトンカレント

を介する必要はなく,p-p~(陽子反陽子対)が中間

過程のπ0→p+p~→2γでもいいはずです。

学生当時の自分は,QEDや弱い相互作用にクォーク

を想定する想像力がなく,実在する荷電ハドロンの

1つの陽子pを挟む過程で考察しましたが,クォーク

であればnクォークでも,1/3の電荷をもつので電磁

相互作用が可能です。

そして,例えば電子のe~γμ(1-γ5)のような,

V-Aの弱カレント(Fieltz変換したモノ)の相互

作用頂点:γμ(1-γ5)が,eとeの内線に分岐

して,その各々のγσΡの電磁頂点から,光子を

放出する,というFeynmanグラフの三角形のグラフ

を考えられ想定します。

そもそも,純粋なQEDだけを考えると,こういう

グラフの寄与は存在しません。

しかも「Furryの定理」により,γμ(1-γ5)の

うちのγμによるVVV三角グラフの寄与はゼロで,

γμγ5頂点を含むVVA三角の寄与のみ残ります。

通常のγ→e+e→γの真空偏極仮想過程での

光子の自己エネルギーの既約グラフの寄与:Πμν(q)

はloop積分で2次発散しますが,ゲージ条件,または

カレント保存を用いてΠμν(q)=(qμν-gμν2)×Π(q2)

という形に書けることがわかり,次数が2だけ下がって,Π(q2)

の対数発散に帰着させられ,くりこみが可能となるという手続き

が思い出されます。

そこで,三角グラフのloopp積分では2次発散では

なく,,1次発散になります

QEDで,1次発散するのは,電子の自己エネルギーの

既約グラフΣ(p)でした。

しかし,これはWard-高橋恒等式(WT恒等式);

(p-p~)μΓμ(p,p~)=SF~-1(p)-SF~-1(p~)

or (p-p~)μΛμ(p~,p~)=Σ(p)-Σ(p~)に

より,Σ(p)が頂点関数::Γμ=γμ+Λμの対数発散

部分:Λμで表わせるため,実質的には対数発散となり。

これも,くりこみ可能となるのでした。

 

以下,またまた長くなるので,一旦終わって次回に

まわします。(つづく)

 

 

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2020年8月 6日 (木)

物理学の哲学(止まると死ぬ)(4)

「物理学の哲学」の続きです。

特殊相対性理論の話もしたし脱線ついでに

重力(万有引力)に関わる一般相対論にも.一応

言及しておきます。

特殊相対論のように,慣性座標系の相対性

(同等性)だけでなく,一般座標変換の座標系

も相対的な意味しかもたない,というのが,

アインシュタインの一般相対性理論です

しかし,一般相対論に基づく重力場の理論

は妥当でも,太陽系が太陽を中心として地球

を含む惑星が回転する回転系と見るか,地球

を中心して太陽や他の惑星が複雑な運動をする

非回転系と見るかの立場が同等であり,地動説

天動説もない,という大袈裟な話になる厳密な

相対性の成立については疑問です。

我々の実感する重力が「永久重力」なのか?

それとも,座標系の取り方のため発生した遠心力

のように,適切な座標の逆変換により消えてしまう

「見かけの重力」に過ぎないのか?,という論題

がありますが,一応,座標に伴なう計量テンソル

μνから計算で得られるRiemannn-Christoffel

の曲率テンソル:Rかゼロなら,見かけの重力で,

それがゼロでないなら真の重力=永久重力であり

曲率Rはテンソル量なので如何なる一般座標変換

でも,ゼロはゼロで不変となる普遍的性質である

という話になります。

これに関する議論が1992~1995年ごろ,パソコン

通信Nifty-Serveのサイエンス・フォーラム(FSCI)

の物理会議室で侃々諤々と幾度となく蒸し返されて

議論したのは,今では懐かしい思い出です。

例えば,重力がなくて特殊相対論が成り立つ計量

がMinkowski計量:gμν=(1、-1,-1,-1)の空間

を平坦な空間と呼びますが,この系が一定加速度α

で運動すると見える座標変換をすると,質量がmの

物体には(-mα)という重力(慣性力)が発生します。

 この時空をMinkowski時空と呼ぶなら,如何なる

変換をして,計量がMinkowskiから変わったと

してもMinkowski時空はMinkowski時空かどうか?

という言葉の定義の問題のような議論もありました。

例えば地球上には重力gがあり,実は日本とは地球

の反対側にあるブラジルやアルゼンチンでは重力の

向きは正反対で,落下の向きで上下を決めるなら,上下

の向きも正反対です。

しかし,地球上のどこかの場所に高層ビルのような

建物があって,そのエレベーターのワイヤが切れて落下

している,わずかな時間に,エレベーターの箱の中にいる

観測者を想定すれば,内部は見かけ上無重力な空間と

なり,小さいけれど,いわゆる平坦な空間と見なせます。

しかし,全体として地球上のどこでも同時に無重力と

する座標系を取るのは不可能であろうことは,直感的に

認識できます。

どのような時空間でも,局所的には曲率Rがゼロの

フラットな座標系を常に取ることができても,大域的

には,曲率R≠0の空間から曲率R=0の空間には変換

は不可能である,というのは議論の両者で共通の認識

であったのに,色々とこの論題で揉めました。

曲率Rとは別に,計量テンソルgμνからテンソルで

ないChristoffelの記号:Γという量が構成され,これ

が実質的に重力と観測される量ですが,曲率とは違って

テンソル量ではないので,ゼロからノンゼロにも,その

逆にも変換されるということです。

こうした量:Γが存在して,それが永久であろうが,

見掛けであろうが,これを実感する観測者にとっては

区別ができず,重力として体感する,というので,「重力

と加速度は等価である」という等価原理が一般相対論

に基づく重力理論のミソであると思っています。

ですから,むしろ,曲率Rにより永久重力か見掛け

の重力かを区別ができるのは承知していますが,理論

のミソはそこではなく,計量も曲率もわからない空間の

内部にいる人間には,見掛けか真かが区別できない,

という方が本質的であると主張していたと記憶して

いますが,今思うとやはり不毛であったかもしれない

と思います。

この理論では,如何に複雑な曲がった時空を示す

座標系の空間においても,その各時空点近傍の局所

慣性系では光は光速cで直進します。そこで,例えば

先の落下するエレベーターの箱の中の側壁から反対

の壁へ直進する光を,外部から見ると重力に引かれて

落下すると観測される,ことになります。

20世紀当時は,浅学菲才なことを隠し,議論に勝つ

だけが目的のディベートのようなことをしていた

ようです,本当のところ,この分野は今も私の中で

はっきり断定できるような自信がある知見がある

わけではありません。

宇宙の星,天体については,地球が太陽のまわり

を回っているとしても,太陽系も銀河系の一部で

あり,その銀河系も,また,回転している,というような

宇宙を想定すると,地球の自転1つに着目しても,実は

地球は自転してなくて地球以外の全ての宇宙が回転して

いるという座標系を取っても,それらが対等であるとは,

とても主張できません。

実は宇宙全体(星)の回転が重力を生むというThiring等

の試算(サニャック効果?)などもありますが,地球が中心

の角速度ωの回転では,回転半径がr=c/ωのところで,

回転速度が光速cを超えてしまい,そこが事象の地平線

となって内部と外部が隔離されるという問題もあります。

我々の宇宙を時空多様体という実体と考え,座標系という

のは多様体に付与したラベルに過ぎず,これを色々と変える

ことはできても,多様体という幾何学的実体には変化は

ない,というトポロジカルな話もあります。

多様体にとって座標変換を受けても不変なのは曲率がゼロか否か?

もそうですが,計量が正定置か不定計量なのか?というのも

「シルヴェスターの慣性律」により決まっていて我々の時空は

不定計量の擬リーマン多様体,特にローレンツ(Lorentz)多様体

であるとされます。

あらゆる座標系は相対的で,同等であるというような一般相対性

原理の意図とは,離れてしまいました。

さて,エネルギーとは何なのか?ということに着目

すると,平坦なMinkowski計量の空間=特殊相対論の

空間では運動量は空間の一様性,エネルギーは時間の

一様性,つまり,空間座標や時間を平行移動しても理論

は不変であり,故に空間や時間の原点(基準)をどこに

取ってもよい,というのが,それら4元運動量が保存量

としての意味を持つ根拠でした、

これらは,連続体中のエネルギー・運動量テンソル

密度のある時刻tでの空間積分の切片という意味も

あります。

しかし,時空を連続体と見た一般相対論での運動量

やエネルギーの意味については,私自身,まだ,ほとんど

考えたこともありませんから,この分野での蘊蓄は,この

くらいで尽きました。

また,私の学生時代にもアインシュタインの重力場

の方程式,それを修正した?ブランズ-ディッケ理論

などがあり,Robertson-Waker計量に基づく球対称な

時空のSchwartzachildの解,カー時空の解などがあり、

重力崩壊理論から星の進化が論じられ,Chandrasekhar

質量とか,重力崩壊の結末ではブラックホールができる

という仮説などの話題がもありました。

宇宙論では,宇宙項のない重力場方程式にも宇宙の

始まりの初期条件次第で膨張,定常,収縮の解があり

ますが,絶対温度が3K程度の宇宙背景輻射が観測

され,それがGamowの予想と合致したことで,我々の

宇宙は膨張宇宙であると認識され,この膨張現象が

ビッグバンと名付けたのでした。

ブラックホールも白鳥座付近のX線観測で存在

が確認されたとか,どうとか言われています。

ブラックホールは膨張宇宙を時間反転した収縮解

に相当しますが,宇宙初期には宇宙は灼熱火の玉状態

で,あらゆる素粒子の質量はゼロであり,それ故,完全

にゲージ対称でしたが,膨張と共に冷えてゆき対称性

の破れが生じて,Higgsメカニズムにより質量を獲得

したとかの素粒子論と関連したq話もありま。

その他,私は少し齧っただけですが,宇宙は,ごく

初期に急速に膨張して,その後は緩やかな膨張に移行

して現在に至る,というインフレーション宇宙論も

あります。

それに伴なう現象として,宇宙初期には大量の

モノポール(磁気単極子)が存在して,今はその名残り

が観測されるはずたとか,絶対安定なはずの陽子も

崩壊するとかが予測されていますが,実際には未だ

観測されていないようです。

また,観測される星(恒星)の密度と膨張宇宙の成立

条件の不一致から予想されるダークマター(暗黒物質)

の存在と,ニュートリノ振動から予測されたゼロでない

ニュートリノ質量の関係など,枚挙にいとまのない未知

のこと(私が知らないだけかも?)があります。

 所詮,考古学や宇宙の歴史は実験で検証できないのでね。

重力場はアインシュタインの古典論の重力場方程式が厳密に

正しいとしても,非線形な方程式であることもあって,未だ,

その量子化に成功したという話は聞いていません。

1950年代後期にYan-Millsや内山龍雄先生が提唱

した重力場のゲージ理論に基づき,質量がゼロのゲージ粒子

でスピンが2の2階テンソルの重力子:グラビトンや,

グラビティーノが,力を媒介する,という仮説,発想は

ありますが,線形な量子場と違って,数学的に定式化

するのは難しいようです。

かつての,まだ電磁場の存在だけを仮定した5次元の

カルツァ・クライン理論,最近?の超弦理論,超重力

理論等,本で読んで少しは知ってますが,物理理論は

実験で検証されない限り,数学じゃないので机上の

空論かも知れません。

今回,脱線,蘊蓄話だけに終始しているうち長く

なってしまいました。次回は本題の続きに戻る予定

で,今回はここまでにします。(つづく)    

 

 

 

 

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2020年8月 1日 (土)

物理学の哲学(止まると死ぬ)(3)

「物理学の哲学」の続きです。

(※余談):コロナ感染が拡大中ですが

相変わらず,口は出してもお金(自分の

金じゃなく税金ですが)は出さないし,

何があろうと誰かに丸投げで,責任だけ

は取らない,という政権が続いてますが,

それを選挙で選んだのも国民で,韓国

みたいにデモで大統領をクビにするとか

のリコール活動もできず選挙まで待つ

しかないよけど,そのときはまた愚かな

政治家を選ぶ繰り返しのようです。老兵には

関係ないけど。。。(余談終わり※)

さて,特殊相対論を考慮すると,質量がμの

スカラー粒子の運動エネルギーはT=μv2/2

=p2/(2μ)ではなくT=μc2/(1-v2/c2)1/2

-μc2となります。これは,自然単位c=1では

T=μ/(1-v2)1/2-μです。

そして,特殊相対論では最小作用の原理を満たし,

作用が停留値となるためのEuler-Lagrange方程式:

(d/dt)(∂L/∂v)-∂L/∂x=0が運動方程式

dp/dt=Fに一致する関数をLとすると,それが

系のLagrangianです。

特に,外力Fのない自由粒子のLagrangian:Lは,

共役運動量pがp=∂L/∂v=μv/(1-v2)1/2

与えられるように,LをL=-μ(1-v2)1/2で与えます。

また,外力FがあってポテンシャルV(x)により,

F=-∇Vと表わせるときは,非相対論的力学と同様,

L=-μ(1-v2)1/2-V(x)とすればいいです。

すると,Hamiltonian:Hは,H=pv-L

=μv2/(1-v2)1/2-μ(1-v2)1/2+V(x)

=μ/(1-v2)1/2+V(z)となりますが,xとpの

関数で書くと,H=(p2+μ2)1/2+V(x)となり,

Hは運動エネルギーTと位置エネルギーVの和に

さらに静止エネルギー:μを加えた,総エネルギー

のEに一致します。

この場合,外力Vのない自由粒子の総エネルギー

Eは静止エネルギーμを加えたE=μ/(1-v2)1/2

=(p2+μ2)1/2であり,運動エネルギーTは,Eから

静止エネルギーμを引いた,T=E-μになります。

特に,vが光速c=1より,はるかに小さい非相対論

極限のv<<1の場合,T=E-μ ~μv2/2であり

運動量も,p ~μvと近似されるため,確かに,以前

の非相対論力学のHamiltonianの表式:H=T+V

=μv2/2+V(x)=p2/(2μ)+V(x)に帰着します。

相対論でも非相対論でも1次元調和振動子の場合,

運動方程式はdp/dt=F=-kxで与えられます。

しかしながら.質量をμでなくmとするとき,相対論

では,運動方程式がd{mv/(1-v2)1/2}/dt

=-kxとなり,H=EもH=(p2+m2)1/2+V(x)

と複雑になって単純な式ではなくなりますから,量子化

の量子の模型としては,相対論も考慮した現実の厳密な

古典振動子を想定すると,却ってモデルとして不適切

になるようです。相対論を考慮した振動子は,量子論

の昇降演算子:a^,a^を導入する模型には邪魔に

なるので考慮する必要はなかったですね。

いずれにしろ,自由粒子では,力学的エネルギーは,

運動エネルギーTのみから成る,と考えられますが,

先の非相対論的1次元調和振動子のエネルギーには

静止エネルギーmは,考慮されていませんでした。

古典力学では,ポテンシャルV(x)は;F=-∇Vを

与えさえすればいいので,V(x)がV(x)+(定数)

定数シフトされても,運動方程式に無関係なので

保存される力学的エネルギー:E=T+Vの基準を

どこに取ってもいい,という,エネルギーの定義でした。

という意味では,運動エネルギーTの方に静止質量

エネルギー:mを含ませても.E →(E+mと定数

シフトされるだけで.理論的には新たな問題は生じ

ません。

もともと,古典論では,場の量子論のように

「真空という特別な基準の状態があって,その

エネルギーがゼロでなければならない。」

というような法則はなかったのです。

また,常識的な古典論でいう真空とは,空気の

抜けた,物質が全くない状態のことで,可視光や

紫外線,赤外線を含む放射線=電磁波が飛び交って

いても真空は真空でした。

一方,量子論の真空は,電磁波=光子もニュートリノ

(中性微子)も存在しない別の状態を意味します。

 

実はもっと基本的に,量子論でなく古典論でも,

絶対空間というものは存在しないので,静止という

概念も絶対速度という概念も存在せず,速度概念は

相対的にしか存在しません。

そもそもNewton力学の時代でも相対性原理,つまり

「ガリレイの相対性原理」がありました。これは,

力学的方法では,物体が静止しているか?それとも,

運動しているのか?を判断することができない。

ということを述べた原理でした。

その後,アインシュタインの時代までに,力学的な

世界観の世界以外にも電磁気などの世界が存在

することが明らかになり.電磁波=光(放射線)の信号

を使えば物体や座標系の静止か,運動か?の判別を

するのが実験的に可能ではないか?との期待が

生まれたのですが,「アインシュタインの相対性原理」

の出現によって,その期待も失われたのです。

電磁波=光のセンサー自体の速さcが,どの座標系

でも同一で,むしろ,時間の絶対性の意味が失われる

のが真実とされたからでした。

ですから,Newton力学の時代でも,標系の取り方

によって物体の速度は異なり,例えば自分は列車の

シートに座って静止していても列車が速度vで運動

していれば,車外の観測者は体重に相当する質量m

の自分の体の運動エネルギーTをゼロでなく

=mv2/2と,観測するわけです。もちろん,車内

観測者の測定では,v=0でT=0です。

つまり,運動エネルギー,故に力学的エネルギーは,

どの座標系で測るかによって異なるのです。

こうして,エネルギーが相対的意味しか持たない

のであれば,量子論のエネルギー準位(レベル)という

概念にも,どれほどの意味があるのか?と,当然の疑問

が生じると思います:

しかし,自由空間でなく束縛系の話ですが,例えば

水素原子のように,1つの陽子を中心とした1つの電子

の挙動を実験室で観測したとき,エネルギー準位の値

は,陽子と電子の両者が無限に離れている状態を基準値

のゼロとして,準位のエネルギーがマイナスの値で記述

されるのが原子物理学での慣例でした。

そして,特に,主量子数がn=1で,軌道角運動量がl=0

のとき,電子のスピンが1/2のupまたはdownという

状態がエネルギーレベルが最低の基底状態を与える

ことが知られています。

しかし,このケースでもエネルギーレベルの基準値

は必ずしもゼロである必要はなく.その値が定数だけ

シフトされるだけで,本質的意味の準位のエネルギー

基準値との差は,基準値が何であろうと同じです。

ところが,最低レベル=基底状態というものがある

というのは重要なことです。

より高い励起準位にある電子は,放置すると,やがて

光子を放出して,結局,基底準位まで遷移して落ちて

くるからです。

ですから,基底状態か,または,束縛されてないと

見えるほど陽子と電子が離れた状態をエネルギー

基準とするとき,その基準値がゼロでなくても

いいのですが,基底準位よりも下の準位が存在すれば

状態は,安定でなく,際限なく底なし沼のように落ちて

いくというジレンマに陥るはずですが,実際には

そうはならず,水素原子は安定に存在しています。

つまり,エネルギー基準値が固定されているという

必要はないのですが,最低レベル=基底状態が存在

することは不可欠である,と考えられるわけです。

束縛系でなく自由粒子の空間でも「Diracの相対論的

電子論」では,真空という安定な状態があり,それは

実は,負エネルギーの電子が満杯に詰まったマイナス

無限大のエネルギー状態であると仮定されます。

それでも不安定でないのは,スピンが半奇数のFermi

粒子では「Pauliの排他原理(禁制原理)」という法則

があって,それはスピンUp,doen状態を含め,同一の

量子状態を占有できるのは1個の電子だけという原理

で,故に満杯である限りは,落下も上昇もできず安定

ある,という「,Diracの海(Dirac-sea)」という発想

がありました。そして,この海から,光照射で1電子が

正エネルギー状態に遷移して空いた負の準位の穴

=正孔が,電子の反粒子の陽電子に対応するとして

電子-陽電子の対創生や対消滅等をモデル化した

のでした。

ところが.Pauliの排他原理はFermi粒子にのみに

当てはまる原理なので,電子の正孔が陽電子になると

いうことには適用できましたが,π中間子のような

Bose粒子の反粒子描像には適合しません。

では,エネルギー基準値より重要な基底状態=真空

状態は,座標変換によって,どのように変換されて,それ

は変換後も維持される絶対的な存在なのでしょうか?

そして,座標系によって状態の物理量の観測値は,

どのように変わるののでしようか?

場の理論では座標系のPoincare’変換(Lorentz変換

+平行移動):x~μ=aμμν+bμ,あるいは,略して

x~=ax+bに対して,真空状態に限らず,物理系

の任意の状態:|ψ>は,|ψ~>=U^(a,b)|ψ>なる

ユニタリ変換を受けるとされます。

そして,特に,真空|0>は,U^(a,b)|0>=|0>と

なり,変換に対して不変な状態と規定されます。

しかも,真空は如何なる量子数も持たない特別な状態

と定義されています。したがって真空は4元運動量

μ^固有値が全てゼロの状態で,P^μ|0>=0と

規約され,変換を受けてもこの性質は不変なのです

この意味で,光速c=1と同じく,真空は如何なる

座標系でも不変な存在です。

そこで,エネルギー:H^=P0^を含む4元運動量の

基準が真空にあります。この基準の状態の固有値を

ゼロ以外の値に選ぶと,色々と不都合が生じます。

それ故,古典論では明確でなかったエネルギーの

基準を量子論ではゼロに固定したいのですが,それ

には,またしても零点エネルギーが邪魔なのです。

Fermi粒子のDiracの海のマイナス無限大と

Bose粒子の零点エネルギーのプラス無限大が相殺

して,真空状態のエネルギー=ゼロが維持される,

というようなFermi粒子とBose粒子が1対1に

対応する,という超対称性の理論もあります。

またまた,途中ですが長くなったので,中断して

次にまわします。(つづく)

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