物理学の哲学(止まると死ぬ)(6)
「物理学の哲学の続きです。
コロナじゃなく慢性心不全(肺水腫)です
が,血中酸素濃度が低くなり,8/6から,
また酸素吸入をしています。
治療は利尿剤を増やすだけで,いつ命が
終わるかも,わからないので,この回顧
ブログも急いでいます。(余談終わり※)
さて,ここでQED(量子電磁力学)における
基本的なW-T恒等式(Ward-Takahashi恒等式:
(p-p~)μΓμ(p,p~)
=S~F-1(p)-S~F-1(p~) を,伝統的な
正準定式化の摂動論でのT積(T-product;
時間順序積)の真空期待値で定義される
Green関数から,グラフ的考察に頼らず,
電磁ベクトルカレント密度の保存式:
∂μjμ=0を用いて,導いてみます・
※(証明):
<0|T{ψ(x)ψ~(y)jμ(z)|0>を考えます。
これは,場の演算子のT積の部分を陽に書き下す
と,T{ψ(x)ψ~(y)jμ(z)}
=θ(x0-y0)θ(y0-z0)ψ(x)ψ~(y)jμ(z)
+θ(x0-z0)θ(z0-y0)ψ(x)jμ(z)ψ~(y)
-θ(y0-x0)θ(x0-z0)ψ~(y)ψ(x)jμ(z)
-θ(y0-z0)θ(z0-x0)ψ~(y)jμ(z)ψ(x)
+θ(z0-x0)θ(x0-y0)jμ(z)ψ(x)ψ~(y)
-θ(z0-y0)θ(y0-x0)jμ(z)ψ~(y)ψ(x)
となります。
この両辺の左から∂zμ=(∂/∂zμ)を作用させる
と,∂zμ[T{ψ(x)ψ~(y)jμ(z)}
=T{ψ(x)ψ~(y)∂μjμ(z)}
-θ(x0-y0)δ(y0-z0)ψ(x)ψ~(y)j0(z)
-δ(x0-z0)θ(z0-y0)ψ(x)j0(z)ψ~(y)
+θ(x0-z0)δ(z0-y0)ψ(x)j0(z)ψ~(y)
+θ(y0-x0)δ(x0-z0)ψ~(y)ψ(x)j0(z)
+δ(y0-z0)θ(z0-x0)ψ~(y)j0(z)ψ(x)
-θ(y0-z0)δ(z0-x0)ψ~(y)j0(z)ψ(x)
+δ(z0-x0)θ(x0-y0)j0(z)ψ(x)ψ~(y)
-δ(z0-y0)θ(y0-x0)j0(z)ψ~(y)ψ(x)
です。これを見ると,右辺第1講は∂μjμ=0に
よって消えます。次に,まず,
-θ(x0-y0)δ(y0-z0)ψ(x)ψ~(y)j0(z)
+θ(x0-z0)δ(z0-y0)ψ(x)j0(z)ψ~(y)
=-θ(x0-y0)δ(y0-z0)ψ(x)
×[ψ~(y),j0(z)]y0=z0 です。
ここで,[A,BC]={A,B}C-B{A,C}
より,y0=z0では,[ψ~(y),j0(z)]
=[ψ~(y),ψ+(z)ψ(z)]
=-ψ+(z){ψ~(y)ψ(z)}
=-δ3(y-z)ψ~(z)ですから,
与式=θ(x0-y0)δ4(y-z)ψ(x)ψ~(z)
を得ます。そして,次に,
θ(y0-x0)δ(x0-z0)ψ~(y)ψ(x)j0(z)
-θ(y0-z0)δ(z0-x0)ψ~(y)j0(z)ψ(x)
=θ(y0-x0)δ(x0-z0)ψ~(y)
×[ψ(x),j0(z)]x0=z0
=-θ(y0-x0)δ4(x―z)ψ~(y)ψ(z)
です。これらの和を取ると,
-δ4(x-z)T{ψ(z)ψ~(y)}となること
がわかります。さらに,
-δ(x0-z0)θ(z0-y0)ψ(x)j0(z)ψ~(y)
+δ(z0-x0)θ(x0-y0)j0(z)ψ(x)ψ~(y)
=-δ(x0-z0)θ(z0-y0)
×[ψ(x),j0(z)]x0=z0ψ~(y)
=θ(z0-y0)δ4(x-z)ψ(z)ψ~(y),および,
θ(y0-z0)δ(z0-x0)ψ~(y)j0(z)ψ(x)
-δ(z0-y0)θ(y0-x0)j0(z)ψ~(y)ψ(x)
=-δ(z0-y0)θ(z0-x0)
×[ψ~(y),j0(z)]ψ(x)
=-θ(z0-x0)δ4(y-z)ψ~(z)ψ(x)
ですから,これらの和を取ると,
δ4(y-z)T{ψ(x)ψ~(x)}です。
したがって,結局
∂zμ<0{T{ψ(x)ψ~(y)jμ(z)}|0>
=δ4(y-z)<0|T{ψ(z)ψ~(x)}|0>
-δ4(x-z)<0|T{ψ(z)ψ~(y)}|0>
が得られます。
ただしカレントが保存されない場合:
∂μjμ≠0なら,右辺第1項が消えない
ので,zμ<0{T{ψ(x)ψ~(y)jμ(z)}|0>
=<0{T{ψ(x)ψ~(y)∂μjμ(z)}|0>
=δ4(y-z)<0|T{ψ(z)ψ~(x)}|0>
-δ4(x-z)<0|T{ψ(z)ψ~(y)}|0>
となります。
ところで,QEDの3点Green関数:
G(3)μ(x,y,z)
=<0|T{ψ(x)ψ~(y)Aμ(z)}|0>
に,□z=(∂zμ∂zμ)を作用させると,
まず,∂z<0|T{ψ(x)ψ~(y)Aμ(z)}|0>
=<0|T{ψ(x)ψ~(y)∂μAμ(z)}|0>
+(ψとA0の交換子に比例する項)
=<0|T{ψ(x)ψ~(y)∂μAμ(z)}|0>
よなるので,□Aμ=jμにより,
□z<0|T{ψ(x)ψ~(y)Aμ(z)}|0>
=<0|T{ψ(x)ψ~(y)□Aμ(z)}|0>
=<0|T{ψ(x)ψ~(y)jμ(z)}|0>
を得ます。
3点Green関数に□zを掛けて光子の
質量核上:k2=0とおくことは,光子外線を
除くという意味があります。
運動量表示で考察するために
G(3)μ(x,y,z)
=<0|T{ψ(x)ψ~(y)Aμ(z)}|0>
を,Fourier変換してGreen関数の運動量
表示を(2π)12δ4(p-p~-k)
×G(3)μ(p,p~,k)
=∫d4xd4yd4z
[exp{i(px-p~y-kz)}
×<0|T{ψ(x)ψ~(y)Aμ(z)}|0>]
とします。すると,□zG(3)μ(x,y,z)
=<0|T{ψ(x)ψ~(y)jμ(z)}|0>を,
さらにzで微分したモノ,
∂zμ□zG(3)μ(x,y,z)が,先の
∂zμ<0|T{ψ(x)ψ~(y)jμ(z)}|0>
に一致しますが,これの運動量表示は,
(2π)12δ4(p-p~-k)
×(ikμ)(―k2)G(3)μ(p,p~,k)
=(2π)12δ4(p-p~-k)i(p-p~)μ
×(―k2)G(3)μ(p,p~,k)|k=p-p~
となります。
一方,このT積の真空期待値の微分を
書き下して得た等式の右辺の運動量表示は,
∫d4xd4yd4z
[exp{i(px-p~y-kz)}
[δ4(y-z)<0|T{ψ(z)ψ~(x)}|0>
-δ4(x-z)<0|T{ψ(z)ψ~(y)}|0>]
=∫d4xexp{i(p-p~-k)x}
×[∫d4y[expi(k-p~)(y―x)]
<0|T{ψ(y)ψ~(x)}|0>
-∫d4y[expi(k-p)(y―x)]
<0|T{ψ(y)ψ~(x)}|0>]
=(2π)12δ4(p-p~-k)
[iS~F(k-p)-iS~F(k-p~)
=(2π)8δ4(p-p~-k)
×{iS~F(p~)-iS~F(p)}となります。
以上から,
(p-p~)μ(-k2)G(3)μ(p,p~,k)k=p-p~
=S~F(p~)-S~F(p)を得ます。
ところが,3点Green関数の運動量表示
は,頂点関数Γμにより,G(3)μ(p,p~,k)
=S~F(p~)Γμ(p,p~)S~F(p~)D~F(k)
と書けます。そして,iD~F(k)=(-i)/k2
です。それ故,
(p-p~)μS~F(p)Γμ(p,p~)S~F(p~)
=S~F(p~)-S~F(p)を得ます。
そこで左からS~F-1(p),右からS~F-1(p~)
を掛けると,確かに,WT恒等式
(p-p~)μΓμ(p,p~)
=S~F-1(p~)-S~F-1(p)が得られます。
(証明終わり※)
私にとっては自明と思っていたことを,いざ,
改めてウン十年ぶりに証明してみると,老いた
頭には意外と面倒で煩雑になりました。
さて,ベクトルカレント(極性ベクトルカレント)
の密度:jμでなく,裸の質量m0を持つ粒子ψの軸性
ベクトルカレント(Axial-vector current):の密度
j5μ(x)=ψ~(x)γμγ5ψ(x)を考えると,
まず,これは部分的保存則(PCAC)と言われる
∂μj5μ=2im0j5を満たします。ただし,
j5(x)=ψ~(x)γ5ψ(x)です。
そこで質量m0がゼロでない限り,軸性カレント
j5μは保存されません。
それ故,これに対するWT恒等式は:
(p-p~)μΓ5μ(p,p~)=2m0Γ5(p,p~)
+S~F-1(p)γ5+γ5S~F-1(p~)
となることがわかります。
軸性の頂点を,Γ5μ=γ5γμ+Λ5μ,および,
Γ5=γ5+Λ5と,対数発散部分を切り離して
表わせば,WT恒等式として,別の表現:
(p-p~)μΛ5μ(p,p~)
=2m0Λ5(p,p~)-Σ(p)γ5-γ5Σ(p~)
を得ます。
しかし,頂点への寄与をグラフ的に考察すると;
通常の純粋にQEDのWT恒等式では頂点関数の
loop積分が,高々対数発散なので積分内で変数
をシフトしても不変という性質を用いること
ができて,WT恒等式に破れは,生じなかったの
ですが,VVA三角グラフの寄与では1次発散
するloop積分なので,変数のシフトが許されず,
その差が余分な項となって,WT恒等式に破れ
が生じることになります。
これが,前から述べていたVVA三角ブラフ
の量子子アノマリーです。
本ブログの過去記事「摂動論のアノマリー)」
の(5)(6)(7)を参照すると,アノマリーを与える
三角グラフの寄与はRosenbergによって得られた
表現と呼ばれる,次式で評価されます。
すなわち,(-ie02)(2π)-4Rσρμ
=2∫d4r(2π)-4(-1)Tr[{i/(r+k1-m0)}
(-ie0γσ){i/(r-m0)}(-ie0γρ)]
×{i/(r-k2-m0)}(γμγ5)].です。
これは見かけ上1次発散しますが,ベクトル
カレントの保存の要請から,光子場の強さの電場,
または,磁場のテンソル:(k2ξε2ρ-k2ρε2ξ),
(k1ηε2σ-k2σε1η)を通してcoupleすること
を考慮すると,運動量の2つのベキが,その因子
に費やされるため,有効発散次数はDeff=-1と
なって収束する積分となります。,
ここで,Rosenbergの表現:
(-ie02)(2π)-4Rμσρの右辺の被積分関数の
最後の因子:(γμγ5)を,(2m0γ5)に置き換えた
モノを,(-ie02)(2π)-42m0Rσρと定義します。
もしも上で,場理論から理論的に得た軸性
カレントのWT恒等式:(p-p~)μΛ5μ(p,p~)
=2m0Λ5(p,p~)-Σ(p)γ5-γ5Σ(p~)
が三角グラフの摂動計算においても正しいなら,
(p-p~)μ=-(k1+k2)μとなるはずで,そこで
―(k1+k2)μRσρμ=2m0Rσρとなるべきなの
ですが,実際に計算を実行すると,
-(k1+k2)μRσρμ=2m0Rσρ
+8π2k1ξk2τεξτσρとなり,三角グラフの場合
には,軸性カレントのWT恒等式は成立せず,,
破れ(アノマリー)が存在する,ことがわかります。
過去記事「摂動論のアノマリー(8)」によれば,
一般の場合の軸性ベクトルカレントのWT恒等式
は,軸性ベクトルカレントに対するPCAC
(部分的保存)の式:∂μj5μ(x)=2im0j5(x)
を, ∂μj5μ(x)=2im0j5(x)
+{α0/(4π)}Fξσ(x)Fτρ(x)εξστρ
に置き換えることによって,得られ,これは
j5μ,j5,および,{α0/(4π)}FξσFτρεξστρ
に対するグラフのFeynman規則を用いれば,
容易に証明できます。
そして,このアノマリーは単純な切断や引き算等
では除去できない本質的な項であることがわかります。
ここで,また,中断して次回にまわします。(つづく)
最近のコメント