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2020年8月10日 (月)

物理学の哲学(止まると死ぬ)(5)

「物理学の哲学」の続きです。

  さて,1点における場φの真空期待値はゼロ,

つまり,<0|φ(x)|0>=0ですが,同じ場:φの

局所演算子積(ゆらぎ)の真空期待値は,そのまま

では通常,無限大になります。

例えば,実際に自由場:φ(x)の積分表示で,積の

真空期待値を,展開係数演算子:a^やa^の積の

真空期待値を用いて評価計算すると,自由場では

<0|φ(x)φ(x)|0>=∞となることが導かれ,

陽に確かめられます。

これは,このスカラー場の正準交換関係が,

[φ(x),φ(y)]=Δ(x-y)(不変デルタ関数)

で与えられるため,特に同時刻:x0=y0では,

[φ(x),φ(y)]x0=y0=δ3(x-)となって

limx→y[φ(x),φ(y)]=∞となることも関係

しています。

ここで,局所演算子積(複合演算子)が特異性を

持つのには本質的理由があることを述べておきます。

古典論での静電場や重力(万有引力)のポテンシャル

は.力の中心からの距離をrとして,A/rのような形

で与えられます。(Aは力の発生源の強さ)

これは,V=A/rの形の位置エネルギーがあるの

を意味するので,古典論では,よくやるように基準を

明確にせず,V=A/r+(定数)としてもいいのです

が,特にr=∞でV=0となるようV-=A/rとする

のが慣例となっています。

この場合,問題となるのは,r →0で,V→±∞に

なることです。これは,1点の問題のように見えても

実は無限に近接した2粒子間の問題です。

こうして古典論でも,1次発散する,いわゆる電場の

自己エネルギーというのは,解釈が難しい問題の1つ

でしたが,これは量子論でも対数発散に緩和される

とはいえ,依然付きまとう問題で,「くりこみ理論」

という処方で困難を回避する方法が作られました。

このポテンシャルは2体問題としては,2粒子の

位置座標を1,2として,V=A/|1-x2|という

形ですが,同じ1粒子内で空間的(space-like)に

離れた2点がある,という非局所構造を許すと.

相対論的微視的因果律を破ることになるので,

大きさ(構造)のない点粒子しか想定することが

できないという事情の宿命で,発散が生じたと

考えられるのです。

私が現役の院生の頃,素粒子論ではカレント代数

という研究分野がありました。これ,今もあるのか

は,よく知りません。

電子のようなFermionの局所カレント密度は,その

スピノル場ψ(x)によりjμ(x)=ψ~(x)γμψ(x)

のように双1次形式で与えられますが,単純にその

真空期待値を取ると,すぐ前にスカラー場φで述べた

ように,これは無限大になってしまいます。

結局.同一時空点の2つ以上の演算子の積が無限大

になる特異性の原因は,古典論の点粒子の問題と同様

のことであって,容易には回避できない宿命的な問題

であり,物理学理論の本質にかかわっています。

そこで,1つには,正規順序積(normal ordering)

という量を,ψ~(x)γμψ(x)=ψ~(x)γμψ(x)

-(γμ)αβ[ψ~α(x),ψβ(x)]なる操作で作り,これ

をカレント密度jμ(x)と再定義すれば,取りあえず

真空期待値は強制的にゼロとできます。

 あるいは,微小なε>0を取ってb-ilocal場を

考えます。すなわち,カレントを同一点でなく微小

な距離:εμだけ離れた2点:x-ε/2とx+ε/2の

場の積:jμ(x,ε)=ψ~(ⅹ+ε/2)γμψ(x-ε/2)

×exp{i∫x-ε/2x+ε/2eAμ(y)dyμ}}と定義した

量であると想定するのです。ただし,最後の指数関数

因子は,Diracのモノポール模型のようにスピノル場

は時空点:xごとに異なる位相を持ち,それば電磁場:

μがあるときは,極小変換:pμ→pμ-eAμ,or

μ→∂μ+ieAμに対応している,という考えに基づく

ものです。(ベリーの位相?)

このカレント密度では,ε=0でない限り真空期待値

の無限大発散は回避されます。

そして.この電磁ベクトルカレントjμは,保存則,

μμ=0を満足することに留意しておきます。

物理屋の多くは同一点の積の特異性を深く考えずに

考察していて,位相も重視してない時代もありました

が,実は,特異性も位相も重要なファクターです。

ところで,カイラル軸性カレントを考えると,これは

(x)=ψ~(ⅹ)γ5γμψ(x)であり,これも1つの

局所演算[子積(複合演算子)です。

これの特異性を意識してbilocalカレント

(x,ε)を作れば,これにも特異性はありません。

すなわち,軸性ベクトルカレントの密度を

(x,ε)=ψ~(ⅹ-ε/2)γ5γμψ(x+ε/2)

×{∫x-ε/2x+ε/2μ(y)dyμ}で定義するわけです。

1976年(26歳)当時,私が表向きのクォーク模型では

なく,密かに勝手に専門として研究していたのはQED

における三角アノマリー(Adler-Jackew anomaly)と

いうテーマでした。,

この不思議な現象を解析すれば,紫外発散を除去

する「くりこみ」という操作の理論的メカニズムが

明快に理解できるのでは?と期待したからです。

しかし,このテーマは当時,素粒子論の端緒を

齧った程度の身で,一人でやるには壮大過ぎて,結局,

卒業(修了)までには間に合わず,仕方なく1974年

(24歳)のときに発見された(J/ψ)の新粒子

(後に,Charmクォークを含む重中間子と同定された。)

に関連してカラー1重項の中間子とその反粒子,

または3体の重粒子と,その反粒子のみが観測され

例えば2体,3体のカラー多重項や,4体以上から

成るexoticな粒子が観測されない理由について

考察した「三重三元クォーク模型の束縛ポテンシャル」

という,自分の本意でない修士論文しか書けなかった

のでした。

一方,量子アノマリーは,私のその後の普通

の社会人に就職した後も,アマチュアとして細々

と考察していたのですが,この地道な努力を嘲笑

うかのように,まもなくt’Hooftらの研究者に

より解明されたらしい,ことを知りました。

例えば,1990年代に私がテキスト(として,よく

読んでいた(九後汰一郎著)「ゲージ場の量子論」

(培風館)の第9章「アノマリー」にあるように,

ゲージ不変な.くりこみを,次元正則化を使って

行なおうとするとき,γ5を含む軸性カレントの

存在がネックとなって出現する余分な項である,

とか,経路積分で変数置換を行なう際,やはりγ5

存在のため,変換のヤコービ行列式に現われる異常項

であるとかの意味で,解決されていました。

まあ,自分がオリジナルで解決できなくても理解

さえできればいい,というスタンスなので,それでも

満足だったのですが,実験観測データを説明できる

偉大な「対症療法」である「くりこみ理論」を、

「原因療法」に変えたい,という,私的な構想と量子,

アノマリーの間に大した関係がなかったという意味

で予想がはずれ,40歳の頃,一旦は,がっかりしたの

でした。(※ その後,次の目標を見つけました。)

VVA三角アノマーに興味持ったのは,電荷を

持たない中性中間子であるπ0中観子の崩壊現象:

主要過程が,π0→γ+γにの電磁崩壊現象に興味

を持ったからでした。

π0は,電荷を持たないので摂動の1次では光子

と電磁相互作用することはができないので,例えば,

π0→e+e→2γのような,弱い相互作用の電子

のV-Aカレントを中間状態とする,2次の過程で

説明できるはずです。

これは必ずしも電.子eのようなレプトンカレント

を介する必要はなく,p-p~(陽子反陽子対)が中間

過程のπ0→p+p~→2γでもいいはずです。

学生当時の自分は,QEDや弱い相互作用にクォーク

を想定する想像力がなく,実在する荷電ハドロンの

1つの陽子pを挟む過程で考察しましたが,クォーク

であればnクォークでも,1/3の電荷をもつので電磁

相互作用が可能です。

そして,例えば電子のe~γμ(1-γ5)のような,

V-Aの弱カレント(Fieltz変換したモノ)の相互

作用頂点:γμ(1-γ5)が,eとeの内線に分岐

して,その各々のγσΡの電磁頂点から,光子を

放出する,というFeynmanグラフの三角形のグラフ

を考えられ想定します。

そもそも,純粋なQEDだけを考えると,こういう

グラフの寄与は存在しません。

しかも「Furryの定理」により,γμ(1-γ5)の

うちのγμによるVVV三角グラフの寄与はゼロで,

γμγ5頂点を含むVVA三角の寄与のみ残ります。

通常のγ→e+e→γの真空偏極仮想過程での

光子の自己エネルギーの既約グラフの寄与:Πμν(q)

はloop積分で2次発散しますが,ゲージ条件,または

カレント保存を用いてΠμν(q)=(qμν-gμν2)×Π(q2)

という形に書けることがわかり,次数が2だけ下がって,Π(q2)

の対数発散に帰着させられ,くりこみが可能となるという手続き

が思い出されます。

そこで,三角グラフのloopp積分では2次発散では

なく,,1次発散になります

QEDで,1次発散するのは,電子の自己エネルギーの

既約グラフΣ(p)でした。

しかし,これはWard-高橋恒等式(WT恒等式);

(p-p~)μΓμ(p,p~)=SF~-1(p)-SF~-1(p~)

or (p-p~)μΛμ(p~,p~)=Σ(p)-Σ(p~)に

より,Σ(p)が頂点関数::Γμ=γμ+Λμの対数発散

部分:Λμで表わせるため,実質的には対数発散となり。

これも,くりこみ可能となるのでした。

 

以下,またまた長くなるので,一旦終わって次回に

まわします。(つづく)

 

 

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