物理学の哲学(8)(アノマリー)
「物理学の哲学」の続きです。
余談は省略で,さっそく本題の続きに入ります。
前回は,QED以外に,部分的保存(PCAC)を満たす
場理論のσ模型を導入して,π中間子の崩壊振幅
fπを,次式で定義しました。
すなわち,<π(q)|j5μ|0>
=(2q0)-1/2(-iqμ/μ2)(fπ/√2.)です。
ここで,μはπ中間子の質量です。
アイソベクトル場:πを含むσ模型では,πもj5μ
も中性成分だけでなく荷電成分を持つため,fπは
丁度,荷電π中間子の弱い崩壊振幅に等しいもので
あることがわかります。
特に,中性のπ0に対する先の「不完全版」の
σ模型の中性軸性べクトルカレントj5μ(x)は,アイソ
軸性ベクトルカレントj5μ(x)の,アイソ第3成分です
から,それをj5μ(3)(x)と記し.中性カレントでの表現:
<π(q)|j5μ|0>=(2q0)-1/2(-iqμ/μ2)fπ/√2.
を,<π0(q)|j5μ(3)|0>=(2q0)-1/2(-iqμ/μ2)fπ/√2.
と書き直します。
荷電π中間子の場の演算子は,π+=(π1-iπ2)√2,
および,π-=(π1+iπ2)/√2,ですが,,一方,粒子の
状態ベクトルとしては,|π+>=|π1+iπ2>/√2,
および,{π->=|π1-iπ2>/√2でしたから,
π-の崩壊:π-→ μ-+νμ~, π-→ e-+νe~
における行列要素:<α|π->の向きを逆転させた
要素:<π-{α>は,<π-{α>=<α|π->*と
なるはずです。これは,つまり,Bra:,|π->
=|π1-iπ2>/√2に対し,Ket<π-|=<π1+iπ2|/√2
が対応することを示している,と考えられます。
そこで,軸性ベクトルカレントの第3成分は,
j5μ(3)=Ψ~γμγ5τ3Ψ+σ(∂μπ3)-π3(∂μσ)
+g0-1(∂μπ3)なる演算子で与えられますが,これを
アイソ回転して得られるアイソカレントの+成分は
第3成分:j5μ(3)のτ3に,τ+ではなく,τ-を対応
させたj5μ(+)=(1/2)Ψ~γμγ5τ-Ψ+σ(∂μπ+)
-π+(∂μσ)+g0-1(∂μπ+),(τ-=(τ1-iτ2)/√2,
π+=(π1―iπ2)/√2.)となるはずです。
それ故,<π-(q)|j5μ(+)|0>
=<π1+iπ2)(q)|(j5μ(1)-ij5μ(2))|0>/2
=(2q0)-1/2(-iqμ/μ2)(fπ/√2) となります。
ここで,k=1,2,3の各々のπkはkが同じカレント
j5μ(k)のみ相互作用することができて,kに関わらず,
<πk|j5μ(k)|0>=(2q0)-1/2(-iqμ/μ2)(fπ/√2.)
になるという対称性を仮定しました。
そして,<π(q)|j5μ|0>
=(2q0)-1/2(-iqμ/μ2)fπ/√2の4次元発散を
取り,∂μj5μ=(μ12/g0)(Z3π)1/2πrを代入して,
<π-(q)|(π-(q)>=(2q0)-1/2を用いると次式
を得ます。すなわち,(μ12/g0)(Z3π)1/2=fπ/√2
です。
そこで,∂μj5μ=(μ12/g0)(Z3π)1/2πrのくり込み
定数は除去されて,このPGAG方程式を完全に物理量
だけで書き表わせます。
結局,重要なPCAC関係式として,
∂μj5μ=(fπ/√2)πrなる結果が得られました。
と書いたところで前回記事は終わりました。
※さて,ここからが,今回追加の記事内容です。
先に与えたfπが,丁度,荷電π中間子の弱い相互作用
による崩壊振幅に等しいことを,検証します。
そのため,本ブログでPCACの意味とfπの意味に
ついて,「(岩波講座)現代物理学の基礎(11)素粒子論」
という古い本を参照して書いた過去記事を再掲載します。
40年以上前に買ったこの本を,昔,読んだときの覚え
書きで,今では解釈が間違っているかもも知れません。
※以下は再掲記事です。
さて,π-中間子の運動量がqの1粒子状態は,
|π-(q)>=|π->|π->|π-(q)>
+ΣNN~|NN~><NN~|π-(q)>と,完全系に展開
できる,とします。
崩壊:π-→μ-+νμ~は,第1項の振幅と見ても,
第2項以下の振幅で見ても同じであると仮定します。
つまり,|π-(q)>=|π->|π->|π-(q)>,
であり,かつ, |π-(q)>
=ΣNN~|NN~><NN~|π-(q)>でもある
というわけですから,|π->の{μν~>への崩壊は
|NN~>の中間状態を通してのみ可能な反応である
と考えるわけです。
ということは,実は,展開の第1項と第2項以下は,
同じモノで,どちらかの項はゼロロとして消していい
ということになります。
そこで,展開の右辺第1項,または第2項以下を評価
すればいいのですが,これは現象論的弱い相互作用:
aπ(∂μπ){μ~γμ(1-γ5)ν}による,
摂動Hamiltonian:Hπ→μνの1次の崩壊振幅で
あり,
<Hπ→μν>=(G/√2)∫d4x<0|∂μπー|π-(x)>
×{μ~(x)γμ(1-γ5)ν(x)}なる計算式で
与えられます。ここで,<0|∂μπー|π-(x)>
=(2π)-3/2(2q0)-1(iqμ)aπ で,現象論的な
Fermiのカレント-カレント相互作用の弱い結合係数:
Gに対する中間子πのカレントに相当する(∂μπ)の寄与
の比率係数aπを定義しておきます。
この現象論的弱い相互作用での最低次近似による
π-→μ-+νe~の崩壊率,1/τπ→μνの計算」結果と
その実験値を比較すると,
(1/τの計算値)={G2aπ2/(8πμ)}(mμ/μ)2であり
(1/τの実験地)~3.84×107sec-1です。
(※μは,πの質量,mμは,μ粒子の質量です。)
この比較によれば,aπの大きさは|aπ|~0.97μ
と評価されます。(※本ブログの2016年3/21の過去
記事:「弱い相互作用の旧理論(Fermi理論)(12)」で,
荷電π中間子の崩壊について記述しましたが,そこ
では,今のaπを単にaと記し,|a|~ 0.87μ,または,
|a|~ 0.93μと評価されましたが,これらは上記の
|aπ|~0.97μと,誤差の範囲内で一致していると
見えます。そして,この|a|は,核子1個当たりのπ中間子
の雲の存在確率振幅を意味すると解釈されていました。※)
レプトンの軸性カレントの因子:{μ~γμ(1-γ5)ν}を
L^μと表わせば,π-→μ-+νμ~の崩壊振幅は,
<μν~|L^μ{0><0|(Gaπ/√2)(∂μπー)|π->
×<π-|π-(q)> と表わされます。
他方,これが,|π-(q)>=|π->|π->|π-(q)>
+ΣNN~|NN~><NN~|π-(q)>における右辺の
第1項のみ,または,第2項以下の強い相互作用を仮定
したNの中間状態の寄与の総和:ΣNN~<μν~|L^μ{0>
<0|(Gaπ/√2)(∂μπー)|NN~><NN~|π-(q)>
=<μν~|L^μ{0>
<0|(gA/gV)(Gaπ/√2)j5μ(x)|π-(q)>
の両者が一致して,いずれかが象論的Fermiも弱い
相互作用に寄与なるというのが,過去記事の
内容でした。
πの方のカレント相互作用の因子:(G/√2)(aπ∂μπー)
が,レプトンのV-Aカレント因子のA(軸性ベクトルカレント)
の部分:(G/√2)aπ(gA/gV)j5μ(x)のみと作用すると
見るのは.π-が擬スカラー粒子なので相互作用因子aπ∂μπー
は,Fermi粒子のNやレプトンのV-Aの弱カレントのうちの,
Aのみと相互作用する,軸性ベクトルカレントに相当する
と考えられるからです。
それ故,第1項=第2項Vいう同一視の仮定が満足
されるためには,V-AカレントのVに対するAの比率を
rA=gA/gVとして,aπ<0|∂μπー|π-(q)>
=rA<0|j5μ(x)|π-(q)> が成立することが必要
かつ,十分です。
そして,この式の両辺の4次元発散を取れば,
rA<0|∂μj5μ(x){π-(q)>
=aπ<0|□πー|π-(q)>=-aπμ2<0|πー|π-(q)>
を得ます。ここで,1粒子の実π中間子は,自由なπ中間子
の運動方程式であるKlein-Gordon方程式::(□+μ2)π-=0
を満たすはずなので,□π-=-μ2π-と書けることを
用いました。それ故,fπ/√2=aπμ2/rA,
(rA=gA/gV)と置けば,状態ベクトルを外した演算子
方程式として,∂μj5μ=(fπ√2)π-なる式を得ます。
アイソスピン対称性から,これが荷電π中間子に対する
だけでなく,中性のπ0中間子に対しても成立するなら,
∂μj5μ=(fπ/√2)π0ですから,先のPCAC関係式と一致
するため,fπは確かに荷電π中間子の崩壊率に比例する
量であること,がわかります。
ただし,ここでのπについての場の演算子:π^および
π0は,既に,輻射補正されて,くりこまれた場:π―r,
および,π0rであると解釈しています。再掲載終了※)
今回は,キリもいいのでここまでにします。(つづく)
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