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2020年9月 7日 (月)

物理学の哲学(7)(アノマリー)

物理学の哲学」の続きです。

副題の(止まると死ぬ)は,だんだん記事の意図

から外れてきたので,副題を(アノマリー)に変更

しました。

(※余談):9/7(月)夜です。九州には大型台風

がきてるらしいけど,私は,餅じゃなく,カリン糖

が喉に詰まる誤嚥で呼吸困難になってしばらく

一人で七転八倒したりして,相変わらず死と隣り合

わせの状態が日常的に起こるので,先は長くない

ですね。体はボロボロで頭ばかり冴えてます。

(余談終わり※)

  さて,少し飛躍して量子アノマリーを研究

する目的の1つであった,π0 →2γ崩壊の

S行列要素 →崩壊率の評価を考えます。

まず,過去記事「摂動論のアノマリー」

の(13)を参照します。

(※以下,再掲載記事)

粒子の散乱などの量子遷移現象において,

初期状態,or始状態(initial stare)を|i>,

終状態(final stateを|f>で記述すると,

今のπ0→2γの崩壊過程では,|i>=|π0

であり,|f>=|γ(k11)γ(k2,ε2)>です。

ただし,k1,k2は,終状態の2個の光子(2γ)

の運動量,または波数であり,ε12は偏極

(偏光)を示しています。

一般の散乱行列(S行列)要素Sfi,および,S^

演算子は,ユニタリ変換だけ異なる2つの完全系:

incomibgの漸近場の状態とoutgoingの漸近場

の状態(散乱状態)によって,

fi=<f;out|i;in>=<f;in|S^|i:in>

で定義されます。

そこで,S^演算子は,<f:in|=<f;out|S^

で定義されます。

今のπ0崩壊の場合は,

fi =<γ(k11)γ(k22);out|π0in>

=<γ(k11)γ(k22);in|S^|π0in>

であり,|i>から|f>への遷移確率を示す

fiは,散乱行列要素というより,π0 → 2γ

の崩壊行列要素を意味します。

このS行列要素と,ここまで論じてきた電磁場

が存在する場合の裸の質量m0の軸性ベクトル

カレント:j(x)=ψ~(x)γμγ5ψ(x)の

部分的保存(PCAC)を意味する4次元発散の式:

μ(x)=2im05x)

+{α0/(4π)}Fξστρεξστρ.

 ただし,j5(x)=ψ~(x)γ5ψ(x)とが,

どのように関連付けられるかを見るため,過去

記事「摂動論のアノマリー」(16)」において,

これを次式に置き換えることによって,三角

グラフの輻射補正に由来するアノマリーの

可能性を考慮に入れると,

μ5μ(x)=2im05

0/(4π)}(1+C)Fξσ(x)Fτρ(x)εξστρ

と書けます。(※Cは輻射補正の寄与率)

以下,上記の式を「低エネルギー定理」

基礎式として用います。

そして,4元運動量:k1,k2と偏極(偏光):

ε12を持つ2光子の状態のKetベクトル:

<γ(k11)γ(k22)|と,真空:|0>による

これら各項の行列要素を取ってみます。

 4元運動量:k1,k2と偏光:ε12から構成

することができる唯一の擬スカラー量は定係数

因子を除けば,k1ξ2τε1σ*ε2ρ*εξτσρ

のみです。

それ故,軸性ベクトルの4次元発散の両辺の

項の行列要素は,因子として,この表現を含む

はずです。そこで,

<γ(k11)γ(k22)|∂μ|0>

=(4k1020)-1/21ξ2τε1σ*ε2ρ*

×εξτσρF(k1,k2) ....(1)

<γ(k11)γ(k22)|2im05|0>

=(4k1020)-1/21ξ2τε1σ*ε2ρ*

×εξτσρG(k1,k2) .....(2)

<γ(k11)γ(k22)|

0/(4π)}Fξστρεξστρ|0>

=(4k1020)-1/21ξ2τε1σ*ε2ρ*

×εξτσρH(k1,k2) ....(3)と書きます。

F(k1,2),G(k1,k2),H(k1,k2)は,

スカラー量:(k1)2,(k2)2,(k1+k2)2

関数ですが,2光子状態の光子は,共に質量が

ゼロの実光子であるとしているので,

(k1)2=0,かつ,(k2)2=0であり,結局,

F,G,Hは(k12)のみの関数であると

見ることができます。

そこで,軸性ベクトルカレントの4次元発散式

の行列要素での表現は,F,G,Hによって,

F(k12)=G(k12)+(1+C)H(k12)

と書き直せます。

これから「低エネルギー定理」というものを

導出するために,行列要素:μ=(4k1020)-1/2

<γ(k11)γ(k22)|j|0>の注目すべき

運動学的性質を用います。それは,Lorentz不変性,

ゲージ不変性,Bose統計の要請ですが,これらから

次の一般形式をとることが要求されます。

以下,これらの性質から軸性カレントの

4次元発散の行列要素,

<γ(k11)γ(k22)|∂μ|0>

=(4k1020)-1/21ξ2τε1σ*ε2ρ*

×εξτσρF(k12)が,(k1+k2)μμに比例し,

(k1+k2)μ<γ(k11)γ(k22)|j|0>

の定数倍であることがわかります。

これからF(k12)∝(k12)と結論されます。

故に,F(0)=0が成立します。

このことが,素朴な発散の(真空 →2光子の

行列要素:<γ(k11)γ(k22)|2im05|0>

=(4k1020)-1/21ξ2τε1σ*ε2ρ*

εξτσρG(k12)のG(k12)を,演算子:

0/(4π)}Fξστρεξστρの行列要素,

<γ(k11)γ(k22)|{α0/(4π)}

ξστρεξστρ|0>

=(4k1020)-1/21ξ2τε1σ*ε2ρ*

εξτσρH(k12)のH(k12)に関係付ける

「低エネルギー定理」を与えます。

すなわち,F(k12)=G(k12)

+(1+C)H(k12)が成立することから,

0=F(0)=G(0)+(1+C)H(0) を得ます。

したがって,G(0)=-(1+C)H(0)です。

ただし,摂動論の最低次(treeレベル)では輻射補正

Cは無視します。

ところが,H(0)については,j,j5,および,

アノマリー項:{α0/(4π)}Fξστρεξστρのグラフ

に対するFeynman規則を用いて,評価することができて

H(0)=2α0/πであること,がわかります。

そしてG(0)=-(1+C)H(0)ですが,k1→0.2→ 0

の低エネルギー極限では,C=0となることから,

G(0)=-H(0)=-2α0/πなる評価を得ます。

この,G(0)に対する結果は,大した面倒もなく,

直接,具体的な最低次のグラフのGの表現式:,

σρ=k1ξ2τεξτσρ1,B1=8π2000(k1,2)

からも導出できるものです。

すなわち,具体的計算でも,確かに

G(0)­=[iε1σ*ε2ρ*(-ie02)(2π)-4

(2m0σρ)/k1ξ2τε1σ*ε2ρ*ε

×εξτσρ]k1,k2→ 0=e02(2π)-4(2m01) k1,k2→ 0

-e02/(2π2)=-2α0/π を得ます。

そこで,実際には発散する係数Gに切断Λを入れて

有限化した,GΛの Λを無原大とした極限の

くり込まれた量をG~,つまり,

G~(k12)=limkΛ→∞Λ(k1k2)と書くと,

1~0.k2 ~0の低エネルギー極限では,裸の

微細構造定数:α0を,観測量αに置き換えた関係:

G~(0)=-2α/πになる,という定理:を得ます。

これが,求めたかった「低エネルギ定理」です。

※ここで,これまでのQEDでのVVA三角アノマリーと

今の「低エネルギー定理」の結果を一般化した場の

理論の,いわゆる σ模型を導入してこれを考察します。

σ模型もQEDのそれと同じく,正確な演算子恒等式と

して,部分的保存条件(PCAC)を満足します。

上に導出した「低エネルギー定理」の,この種の模型

への拡張は,π0 → 2γの崩壊率の予測に導き,結果,

その予測計算値と実験値との比較を可能にします。

σ模型は,PCACが演算子関係式として成立する場理論

模型の特殊なケースです。

基本的に興味あるのは,三角グラフを通して2光子と

相互作用ができる電気的に中性の軸性ベクトルカレント

です。そこで,過去記事では,まず,電気的に中性の軸性

ベクトルカレントのみを含むσ模型の「不完全版」を

考察しました。この模型では,系のLagrangian密度

は次式で与えられます。すなわち,

=ψ~{iγμμ-G0(g0-1+σ+iπγ5)}ψ

+λ0{4σ2+4g0σ(σ2+π2)+g022+π2)2}

+(μ02/2)(2g0-1σ+σ2+π2)

+(1/2){(∂π)2+(∂σ)2}

-(μ12/2)(π2+σ2) です。

これは,陽子pのスピノル場:ψ(x),中性π中間子π0

の場:π(x),および,スカラー中間子の場σ(x)のみ

含みます。

 過去記事では,この「不完全版」からスタートして

議論を展開しましたが,ここでは,最初から,中性の

軸性ベクトルカレントだけでなく,荷電軸性ベクトル

カレントも含み,π中間子も荷電π中間子も含む

「完全版」のσ模型を想定します。

 すなわち,強い相互作用の荷電独立性

(アイソスピン対称性)が,このσ模型でも成立する

と仮定して.不完全版」の陽子pのスピノル場:

Ψ(x)を,核子:(p,n)のアイソスピノル場:

Ψ=(ψ)で置き換え,単一のπ0中間子の場

であったπ(x)を,アイソベクトル場:π=(π123)

で置き換えます。σ(x)については電気的に中性のみの

アイソスカラーでアイソスピンはゼロの場とします。

よって,「完全版」のσ模型でのLagrangian密度は,

=Ψ~「[iγμμ-G0({g0-1+σ+i(τπ5}]Ψ

+λ0{4σ2+4g0σ(σ2π2)+g022π2)2}

+(μ02/2)(2g0-1σ+σ2π2)

+(1/2){(∂π)2+(∂σ)2}-(μ12/2)(π2+σ2)

となります。

このとき,実際に観測されているπ中間子の

0)の粒子状態は,アイソベクトル場;

π=(π123)の状態;|π>(k=1,2,3)

により,|π>=(|π1+i|π2>)/√2,

=(|π1>-i|π2>)/√2,および,|π0

=|π3>なる線形結合で与えられます。

ここで,係数(1/√2)は状態を規格化する

ための因子です。

ただし,πの1粒子状態は,|π>=(π)|0>

(k=1.2、3)のように,真空:|0>に場の生成演算子

)を作用させて得られるので,上記の粒子状態

の表現は,粒子の消滅演算子を意味す粒子場:πでは

π=(π1―iπ2)/√2,,π=(π12)/√2,

π0πです。

この模型のの場合,カイラルゲージ変換は無限小の

局所ゲージパラメータ:(x)をアイソ空間のベクトル

として,アイソスピノル Ψ=(ψ)に対しては,

Ψ → {1+{(i/2)γ5(τv)}Ψなる変換となり,対応

して,アイソベクトル場:π=(π123)

,π → π(g0-1+σ) なる変換です。

そこで,特に中性のπ0中間子の場:π0=π3は,

π→ π3+v3(g0-1+σ)と変換します。ここで,

Pauliのスピン行列を導入しこれをτ=(τ12,τ3)

表記して用いました。また,σについての変換

は,σ → σ+(vπ)です。

そして「Noether(ネーター)の定理」の応用でこの変換

に対応するカレントは軸性なのでこれを,

=-δ/δ(∂μ)で定義すると,今の場合,この

軸性ベクトルカレントもアイソベクトルで,

=(1/2)Ψ~γμγ5τΨ+σ(∂μπ)

π(∂μσ)+g0-1(∂μπ).で与えられます。

この変換で,Lが不変なら,これは∂μ5μ=0を満たす

保存カレントであるはずですが,残念ながらは不変

ではなく,余分な項:(-μ12/g0)πがあるため,これまで

論じてきたQEDでの質量m0≠0の場合の軸性ベクトル

カレントの4次元発散のケースと同じく,部分的保存

(PCAC)のみが成立します。

つまり,この場合は∂μ=-δ/δv=(μ12/g0)π≠0

となります。

こうして,σ模型は演算子恒等式としてPCACの条件を満足

する,との先の言明通り軸性ベクトルカレント

4次元発散:∂μが,πの場に比例する,という重要な

式を得ました。

σ模型について,その他色々と詳細な話ありますが,

重要なのは,このPCACの関係が成立することです。

また,摂動論のあらゆる次数までで,<0|σ|0>=0.

となるように,σ模型が全体に平行移動された形式

を選択しました。もしも,最初に選択した場:σでは.

<0|σ|0>=σ0≠0の場合,σ → σ~=σ-σと平行

移動して,このσ~を改めてσに採用することで,常に

<0|σ|0>=0 としておきます

パラメータ:μ12はσの裸の伝播関数(q2-μ12+iε)-1

に現われる裸のσ中間子質量の平方です。

σについての Euler-Lagrange方程式:

λ{∂/δ(∂λσ)}-(∂L/∂σ)=0 を書き下すと,

□σ+(μ12-μ02)σ=-G0ψ~ψ+g0-1μ02

+λ0{8σ+4g0(3σ2+π2)+4g02σ(σ2+π2)2}です。

そこで,<0|δ/δ(∂λσ)|0>=0は,□<0|σ|0>=0

を意味し.大域的にこれが成立することは,0|σ|0>が

時空点に依存しない定数であることを意味します。

それ故,恒等的に<0|σ(x)|0>=0 と表わすことが

できます。σの生成,消滅の両Fourier成分を持つ

σのincoming漸近場:σinによって,|σ>=σin|0>

書けば,<0|int(x)|σ>=<0|int(x)σin(x)|0>

=0であることを意味します。これから,

<0|T[Hin(t1in(t2)..Hin(tin(x)|0>=0,

つまり,<|S^σin|0>=0となり,摂動の全ての次数で

<0|σ|0>=0が保証されるわけです。

さらなる作業のため,σ模型のPCAC方程式:

μ=-δ=(μ12/g0)πを,次のように

書き換えます。

すなわち∂μ=(μ12/g0)(Z3π)1/2πr 

とします。つまり,π=(Z3π)1/2πrで,くりこみ係数:

3πと,くりこまれたπの場:πrを定義するわけです。

次に,π中間子の崩壊振幅fπを次式で定義します。

すなわち,<π(q)|j|0>=(2q0)-1/2(-iqμ2)

×(fπ/√2.)です。ここで,μはπ中間子の質量です。

アイソベクトル場:πを含む完全版σ模型では,π

も中性成分だけでなく荷電成分を持つため,fπ

は丁度,荷電π中間子の弱い崩壊振幅に等しいもの

であることがわかります。

特に,中性のπ0に対する,先の「不完全版」の中性

軸性べクトルカレント:j(x)は,アイソ軸性ベクトル

カレント:(x)の,アイソ第3成分ですから,それを

5μ(3)(x)と表わし.中性カレントの<π(q)|j|0>

=(2q0)-1/2(-iqμ2)fπ/√2 なる表現を,

<π0(q)|j5μ(3)|0>=(2q0)-1/2(-iqμ2)

×fπ/√2. と書き直します。

荷電π中間子の場の演算子は,π=(π1-iπ2)/√2,

および,π=(π1+iπ2)/√2,ですが,

その粒子の状態ベクトルは,|π>=|π1+iπ2>/√2,

および,π>=|π1-iπ2>/√2でしたから,π

崩壊における行列要素:<α|π>の向きを逆転させた

π|α>は,その複素共役で与えられます。

つまり,Bra:|π>=|π1-iπ2>/√2に対して,

Ket:<π|=<π1+iπ2|/√2が対応すると

考えられます。

そして,軸性ベクトルカレントのアイソ第3成分は

5μ(3) =(1/2)Ψ~γμγ5τ3Ψ+σ(∂μπ3)-π3(∂μσ)

+g0-1(∂μπ3)で与えられますが,これをアイソ回転する

ことで得られる+成分は,そのτ3をτ+ではなく,τ-とする

ことにより,5μ(+)(1/2)Ψ~γμγ5τΨ+σ(∂μπ)

-π(∂μσ)+g0-1(∂μπ) になるはずです。

ただし,τ=(τ1-iτ2)/√2,かつ

π=(π1―iπ2)/√2です。

そこで,<π(q)|j5μ(+)|0>

=<(π1+iπ2)(q)|(j5μ(1)-ij5μ(2))|0>/2

=(2q0)-1/2(-iqμ2)(fπ/√2)となります。

ここで,k=1,2,3の各々のπはkが同じカレント

5μ(k)のみとcoupleすることができてkに関わらず,

<π|j5μ(k)|0>=(2q0)-1/2(-iqμ2)(fπ/√2)

になる,という対称性を仮定しました。

因子:(-iqμ)は,πの崩壊相互作用部分の行列要素

が,<πi(q)|g0-1μπ|0>=(2q0)-1(-iqμ)F(q2)

なる形で与えられるという現象論的推論から出てきます。

σを含む項の寄与は先に述べた通り項が,演算子πと

交換するのでゼロです。

<π(q)|j|0>=(2q0)-1/2(-iqμ2)fπ/√2

の4次元発散を取り,∂μ=(μ12/g0)(Z3π)1/2πr

を代入して,<π(q)|π|0>=(2q0)-1/2を用いると

次式を得ます。

すなわち,(μ12/g0)(Z3π)1/2=fπ/√2です。

そこで,∂μ=(μ12/g0)(Z3π)1/2πrのくり込み定数

は,除去されて,このPCAC方程式を完全に物理量だけで書き

表わせます。結局,∂μ=(fπ/√2)πとなる,という

重要な結果得られました。

まだまだ先が長いので今回はここまでにします。

 

 

 

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