物理学の哲学(12)(アノマリー)
「物理学の哲学」の続きです。
チョッと間があきましたが,前回の記事までで,
場の理論のσ模型を用いて軸性ベクトルカレント
の一般的な4次元発散に対するPCAC(部分的保存
の)式:∂μj5μ=(fπ/√2)πr+(アノマリー項)
を見出し,これを利用して中性のπ0中間子
の崩壊:π0→2γの崩壊率:1/τの予測計算
をすることが,可能となりました。
しかし,唐突にσ模型という場理論の模型
を提示されて,この系のカイラル対称性を仮定
した軸性ベクトルカレントが,現実のπ中間子
の場に関連すると書かれていた,ここまで参照
してきた1975年の学生時代から読んでいた論文
「Lectures on Elementary Particles and
Quantum Field Theory;(1970 Brandeis
University Summer Institute in Theoretical
Physics)Volume!.」」に基づいて,ほぼそれに
忠実に過去記事も現在の記事も議論をたどって
記述してきましたが,実のところ,私には以前
から,急にこのσ模型なるモノが出てくる根拠
がよく理解できていませんでした。
そこで,ここからは,恐らくσ模型の原型である
だろうと思われた「南部-Jonalashino模型」に
ついて,考察してみます。
そのため,まず,本ブログの2017年8月末頃
にアップした過去記事「対称性の自発的破れと
南部-Goldostone粒子」のシリーズから必要部分
を再掲引用しながら,記述します。
さて,対称性の自発的破れを起こす例としては
まず,「南部-Goldstone模型」があります
これは系のLagrangian密度が,
L=∂μφ*∂μφ+μ2φ*φ-(λ/2)(φ*φ)2
で与えられる模型で,単一の複素スカラー場:φ
のφ4-相互作用系であり,ただし,質量項:(μ2φ*Φ)
の符号が通常粒子のそれと逆であるのが,通常の系
との本質的な違いになっています。
それ故,通常の<0|φ(x)|0>=0を満たす真空:
|0>の上では,φの場の励起モードは,負の2乗質量:
-μ2(<0(虚数質量:±iμ)を持つ,いわゆるタキオン
(Takiyon)となります。
ここでは,これよりは自明でない例として,
「南部-Jonalashino模型」(略してNJ模型)を
考察します。
「南部-Jonalashino模型」のLagrangian密度
Lは,L=Ψ~iγμ∂μΨ+(G/N)[(Ψ~Ψ)2
+(Ψ~iγ5Ψ)2]で与えられます。
ここでは,以下の近似の意味を明確にするため,
Fermion場:ΨはN個のDirac場:ψi(i=1…N)
のSU(N)変換群の基本表現を示す列ベクトルで
あるとします。すなわち,Ψ=[ψ1,..ψN]Tとします。
そして,Ψ~ΓΨ=Σj=1Nψj~Γψjと規約します。
元々のNJ模型は.N=1の単純な模型でした。
※「南部-Goldsyone粒子」関係のブログ過去記事の
シリーズをアップしたたのは,2017年頃(67歳の頃)
ですが,この「対称性の自発的破れ」について勉強
していたのは参考ノートによると1990年代(40歳代)
の頃で,確かそのときに1975年前後の学生時代に量子
アノマリーについて記述していた論文中で,出会った
σ模型というのは,これが元になっているのでは?
と思ったのでした。
この関連の過去記事では,N-Fermion系なのに,
N=1の1-パラメータθの位相変換群:U(1)の変換::
Ψ→ exp(-iθ)Ψ,および,カイラルU(1)変換:
Ψ→ exp(-iγ5θ)Ψの下での不変性を論じていた
のですが,ここでは,θをN-パラメータのベクトル
θ=(θ1,.,.θN)に,一般化したSU(N)のゲージ
変換:Ψ→ exp(-iθ)Ψ,および,カイラルSU(N)
ゲージ変換:Ψ→ exp(-iγ5θ)Ψを考えることに
します。こうすれば,N=2のアイソスピンSU(2)
不変性や,(p,n,λ)の3クォークを仮定したN=3
のフレイバーSU(3)不変な,N-Fermion系のσ模型
に対応することになる。と思います。
そして,SU(N)×SU(N)対称性群のうち,
カイラル対称性のSU(N)不変性が成立するには
Lに,(-mΨ~Ψ)(mはゼロでない固有値を持つ
質量行列)のようなFermionの質量項が存在しない,
という必要があります。
そこで,系の動力学により.Fermopnの質量項が
出現して,その結果,カイラルSU(N)対称性のみ
が,自発的に破れる可能性を調べます。
これは,系における4次のFermion相互作用項
(G/N)(Ψ~Ψ)2の形を考慮すると,複合場(Ψ~Ψ)
がゼロでない真空期待値:すなわち,<0|Ψ~Ψ|0>
=-{N/(2G)}m ≠0 を実現するなら,(-mΨ~Ψ)
の質量項を獲得した,という解釈で,可能になると期待
されます。つまり,Ψ~Ψ=Ψ^~Ψ^-{N/(2G)}mと
置くことができれば,この,新たなΨ^については,真空
期待値が,<0|Ψ^~Ψ^|0>=0 と無矛盾となり,この
Ψ~Ψ=Ψ^~Ψ^-{N/(2G)}mを満たすΨ^を,改めて
Ψと定義し直せば,質量項(-m(Ψ~Ψ)が出現した。と
解釈できるわけです。
このとき,Ψ→ exp(-iγ5θ)Ψ に対する(Ψ~Ψ),
および,(Ψ~iiγ5Ψ)の変換則は,それぞれ,(Ψ~Ψ)
→(Ψ~Ψ)cos(2θ)-(Ψ~iγ5Ψ)sin(2θ),および,
(Ψ~iγ5Ψ)→ (Ψ~Ψ)sin(2θ)+(Ψ~iγ5Ψ)cos(2θ)
です。そして,カイラルカレント:j5μ=Ψ~γμγ5Ψ
によるカイラルチャージ:Q5=∫d3xj50(x) により,
[iQ5,Ψ~(x)iγ5Ψ(x)]
=∫d3y[j50(y),Ψ~(x)iγ5Ψ(x)]
=2Ψ~(x)Ψ(x)なる交換関係が得られます。
何故なら,θ=ε>0が無限小カイラル変換:U(ε)
=exp(-iγ5ε)=1-iγ5εの場合を想定すると,,
Ψ→Ψ+δΨ=U(ε)Ψ, δΨ=-iγ5εΨなので,
(Ψ~Ψ)→ (Ψ~Ψ)-2ε(Ψ~iγ5Ψ),かつ,
(Ψ~iγ5Ψ)→(Ψ~iγ5Ψ)+ 2ε(Ψ~Ψ)であり,
[iεQ5,Ψ~(x)iγ5Ψ(x)]=2εΨ~(x)Ψ(x)
となるからです。
それ故,<0|Ψ~Ψ|0>がゼロでないのは,カイラル
チャージ:Q5が矛盾なく定義できる対称性が,自発的
に破れていることを意味します。
そして,これは「南部-Goldstoneの定理」から,
カイラルSU(N)の破れに対応する擬スカラーの
複合場:(Ψ~iγ5Ψ)のチャネルに,(N2-1)個の
擬スカラーの南部-Goldstoneボソン,略して
NGボソンが現われることを意味します。
この,元のLagrangian密度の中には「素Heisenberg場」
のみでNGボソンは粒子場としてて用意されていないので
動力学的にLに結合状態として供給される必要があります。
そこで,この問題を扱うには,補助場の方法と呼ばれる
技法を用います。
まず,Grassman数の外場:η,η~を導入して系の
FermionのGreen関数の生成汎関数を,経路積分の
形で,Z[η,η~]
=∫DΨDΨ~[expi∫d4x{L+η~Ψ+ηΨ~}]
によって与えます。
これの意味は,Zは係数がGreen関数:G(m,n)の
η,η~のベキ級数の和である。ということです。
つまり,仮にZが1外場変数:ηのみの関数なら,
それをηでn回微分してη=0と置いたものが
n点Greenn関数:G(n)を与えるえるあるような
汎関数であり,Z[η,η~]は,さらに2変数に拡張
したものです。これにGauss積分の1を表わす因子:
1=∫Dσ~Dπ~[expi∫d4x
[-{N/(2λ){σ~2+π~2}]を挿入して、さらに
積分変数:σ~(x),π~(x)を次のようにσ(x),
π(x)に変数置換します。
すなわち,σ~=σ+(λ/N)(Ψ~Ψ),および,
π~=π+(λ/N)(Ψ~iγ5Ψ)とします。
すると,この変換で積分測度は不変:つまり
Dσ~Dπ~=DσDπです。
故に,Z[η,η~]=∫DΨDΨ~DσDπ
[expi∫d4x{LY(Ψ,Ψ~,σ,π)+η~Ψ+ηΨ~}
なる表現相木が得られます。
ただし,LY(Ψ,Ψ~,σ,π)
=Ψ~iγμ∂μΨ+(G/N)(Ψ~Ψ)2
+(G/N)(Ψ~iγ5Ψ)2-{N/(2λ)}(σ2+π2)
-{λ/(2N)}(Ψ~Ψを)2-{λ/(2N)}(Ψ~iγ5Ψ)
です。このLYを湯川Lagrangianと呼べば,これに
対するσ,πについてのEuler-Lagrange方程式は,
σ=-(λ/N)(Ψ~Ψ),および
π=-(λ/N)(Ψ~iγ5Ψ)という式mになり,
これらをLYに代入し返すと,元のLに帰着するため
LとLYが等価なことが確かめられます。
LYにおいて,特に,N=1としてΨをψと記すと,
このとき,LY=ψ~iγμ∂μψ+G(ψ~ψ)
+G(ψ~iγ5ψ)2-{1/(2λ)}(σ2+π2)
-{λ/(2)}(ψ~ψ)2-{λ/(2)}(ψ~iγ5ψ)2
-Gψ~(σ+iγ5π)ψとなります、
さらに,補助場:σ=-(ψ~ψ,).π=-λ(ψ~iγ5ψ)
を導入して,代入すると,
LY=ψ~iγμ∂μψ-Gψ~(σ+iγ5π)ψ
+(G/λ2)(σ2+π2)-{1/(2λ3)}(σ2+π2)
-({1//(2λ)}(σ2+π2) と書けます。
ところが一方,素朴なN=1のσ模型は,次のLagrangian
密度Lを持ちます。これは,陽子pのスピノル場:ψ(x)
中性π0中間子の場:π(x),および,スカラー中間子の場
σ(x)のみを含む単純な系のそれです。すなわち,
L=ψ~{iγμ∂μψ-G0ψ~(g0-1+σ+iπγ5)}ψ
+λ0{4σ2+4g0σ(σ2+π2)+g02(σ2+π2)2}
+(μ02/2)(2g0-1σ+σ2+π2)
+(1/2){(∂π)2+(∂σ)2}-(μ12/2)(π2+σ2)
です。
このσ模型のLの表式と,先のN=1の
「南部-jonalashino模型」でのLYを比較して
類似点,相違点を見てみます。
まず,「南部-Jonalashino模型」は自発的破れが
生じる前には正確にカイラル対称性を持っている系
なので,元々,Fermion場:ψの質量項がない系である
としていますが,σ模型の実際の核子(p,n)のような
Fermionには裸の質量:m0≠0があり,m0=G0/g0と
置けば,質量項:-m0ψ~ψ=-G0g0-1ψ~ψが存在する
はずです。
「南部-Jonalashino模型」のLYの第1行は,
[ψ~iγμ∂μψ-Gψ~(σ+iγ5π)ψ]ですが,
これに,この質量項を加えると,
[ψ~iγμ∂μψ-ψ~G(g0-1+σ+iγ5π)ψ]
となって,σ模型のLの第1行と一致します。
第2行以下の,σ,πの相互作用項は,σ模型の
項の方が複雑で,明らかに両者一致はしませんが
重要な共通点があります。
先のGreen関数の生成汎関数を再掲すると,
Z[η,η~]=∫DΨDΨ~DσDπ
[expi∫d4x{LY(Ψ,Ψ~,σ,π)+η~Ψ+ηΨ~}
ですが,これで先にDηDη~積分を実行したものを
単にZと書き,これをσ,πの1粒子既約グラフの総和
として,Legendre変換で変数を外場からσ,πに変換
したもの,または,摂動展開した項の(hc)nのオーダー
のn次の展開係数の運動量表示がn点頂点関数:Γ(n)
となる有効作用:Γ[σ,π]から,時間tへの依存性を
はずした有効ポテンシャル:V[σ,π]を比較します。
これは,もはや演算子の関数ではなく期待値の関数
を意味します。
有効ポテンシャルについて上に,複雑な定義を
書きましたが,要するに力学の系のLagrangian
が,L=T-Vと表現されるときの運動項を除く
相互作用ポテンシャル:Vを,量子論的に述べただけ
です。そこで,σ模型のLと,南部-Jonalashino模型
のLYでは,V[σ,π]は(σ,π)平面上の回転体で
あり,ワイン瓶底状の形で,結合係数λが大きくなる
と,(σ,π)=(0,0)以外に,V[σ,π]が停留置を取る
(σ,π)値が存在します。特に,LYでは,π=0のとき.
σ=σ0≠0に最小値があります。
そして,V[σ0,0]<V[0,0]が成立するため,対称で
あったσ=0の真空(基底準位)が新たな真空に相転移
する,「対称性の自発的破れ」が生じるわけです。
これが,σ模型と南部-Jonalaxhino模型の両者の
有効ポテンシャルVが持つ,共通の性質です。
ただし,実際は「南部pJpnalashino模型」は,
場の演算子σが当然,満たすべき,<0|σ|0>=0
という真空の対称性条件が破れ,<0|σ|0>=σ0<0
となることから<0|ψ~ψ|0>=-σ0/λ>0の質量項
が出現してカイラル不変性が破れるのでしたが.σ模型
では,元々,∂μj5μ=-μ12g0-1πのPCAC式しか成立
せず,カイラル対称性を持たない系です。
σ模型は,あらゆる次数までで,<0|σ|0>=0となる
ように,模型が全体に平行移動された形式を選択している
からです。つまり,σ模型は「南部-Jonalashino模型」
の系のカイラル対称性が破れた結果として得られる系
であると解釈されます。
※これで,後,残る問題は対称性が破れた時点では,
πがゼロ質量のNG・擬スカラーボソンに対応して
おたはずなのに,実際は135~140MeVのゼロでない
観測質量μを持つ粒子となるに至った,メカニズム
を解明するだけです。しかし,キリもいいし,この
問題は,次回に譲って,今回はここまでにします。(つ
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