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2020年10月28日 (水)

物理学の哲学(14)(アノマリー)

「物理学の哲学」の続きです。

前回記事までで,スピノル場の軸性ベクトル

カレントの4次元発散の部分的保存(PCAC)関係

に2光子頂点と軸性頂点の三角グラフの寄与の

評価から出現する量子アノマリーの存在が確認

され,その値を「低エネルギー定理」で評価した後

場の理論のσ模型へと一般化することから,π0→2γ

崩壊の崩壊率(1/τ)が,そのσ模型の三角アノマリー

の寄与として予測計算が可能であるということを

見出しました。

この天下り的に与えられたように見えるσ模型が

実は,最初は対称性を持っていて,やがてそれが自発的

に破れる「南部Jonalashino模型」の(アイソスピン)

カイラル対称性の破れによって,得られる系であり,

さらに,π0中間子は,その対称性の破れに伴って出現

したゼロ質量の擬スカラー・NGボソンと同定される

π中間子の1つ,中性のそれであって,局所ゲージ対称性

の破れに伴う「Higgs機構」で現実の質量を獲得した

粒子である,というストーリーが,一応,完結しました。

ただ,心残りは,参考に用いた弱い相互作用の扱いが,

古いFermiの現象論であることで,弱ゲージ粒子の媒介

する電弱理論ではないことですが,これについては,深入

りせず,またの機会に譲ることにしました。

しかし,最初,私が25~26歳(1975~1976年)の学生時代

に興味を持ち,それから15年間の普通のサラリーマン生活

を経て,42歳でクビとなり,フリーターになったのを機会に

40歳代での暇な時間に,主に物理学や数学の勉強を再開して

ここまで到達した結果の1つが,これまでのシリーズ記事

の内容ですが,学生時代に特に着目していたのは.このブロ

グ記事シリーズの最初の副題(止まると死ぬ)というテ-マ

の端緒となった問題でした。

これについては,詳しい記述を追加したいと考えますが

実は,この課題も既に,本ブログの2017年にアップした過去

記事:「摂動論のアノマリー(9)」で詳述しています。

そこで,これを再掲記事としてアップし,現在,気になる部分

を修正し追加することで,お茶を濁して今回の記事とします。

この注目の問題とは,「アノマリーの座標空間での計算」

に関わる記述です。

※ 以下,再掲記事です。

さて,これまでは,運動量空間での扱いが主でしたが,

ここまでの考察から.ア,ノマリーを含む,座標空間での

PCAC式:∂μ(x)=2im05(x)

+{α0/(4π)}Fξσ(x)Fτρ(x)εξστρが成立して,

最後のアノマリー項も単純な形で表わされることが,

わかりました。

この事実は,座標空間でのアノマリーの導出と,

その解釈が可能であることを示唆しています。

座標空間での論議を進めるに当たり,光子について

は量子化されてないc数の電磁場の半古典論に話を

限り,軸性ベクトルカレント:jが場:ψ~とψが

離れた2時空点にある場の積という非局所カレント

((bilocal current)の形の局所極限である。と見なす

ことにします。つまり,軸性カレントは.j(x)

=limε→0(x,ε)で与えられるとするわけです。

ただし,j(x,ε)

=ψ~(x+ε/2)γμγ5ψ(x-ε/2)

×exp{-ie0x-ε/2x++/2dξ(ξ)} です。

ここで,右辺の最後の指数関数因子内の

積分:∫x-ε/2x++/2dξ(ξ)は,線積分:

x-ε/2x++/2dξλλ(ξ)を意味します。

そして因子:exp{-ie0x-ε/2x++/2dξ(ξ)}は

局所ゲージ変換:ψ(x)→ exp{-ie0Λ(x)}ψ(x),

かつ.Aμ(x)→Aμ(x)+∂μΛ(x)の下でのj

不変性を保証するために,必要な因子です。

この指数関数因子を,微小な正の数εの1次の

オーダーまで展開し,さらに,運動方程式を用いて

の4次元発散を計算します。

まず,j(x,ε)のεによる展開は,

5μ(x,ε)=ψ~(x+ε/2)γμγ5ψ(x-ε/2)

×{1-ie0ελλ(x)}+(εの2次以上の微小項)

となります、

そこで,∂μ(x,ε)

=ψ~(x+ε/2)γμγ5ψ(x-ε/2)

×[-ie0ελμλ(x)

-ie0{Aμ(x+ε/2)-Aμ(x-ε/2)}]

+2im05(x,ε)+(εの2次以上の微小項)

となります。

結局,∂μ(x,ε)

=j(x,ε)e0ελμλ(x)+2im05(x,ε)

+(εの2次以上の微小項)という式が得られます。

※(注1):この結果は,電磁場:Aμ(x)が線積分に

おいて,経路依存であるために得られるもので,

しかも積分路が直線分であることが,本質的な意味

を持っています。

以下に,これの厳密で詳細な計算を書き下します。

すなわち,∂μ(x,ε)

={∂μψ~(x+ε/2)γμγ5ψ(x-ε/2)

+ψ~(x+ε/2)γμγ5μψ(x-ε/2)}

×exp{-ie0x-ε/2x++/2dξ(ξ)}

+ψ~(x+ε/2)γ5γμψ(x-ε/2)

μexp{-ie0x-ε/2x++/2dξ(ξ)}

です。

ここでDiracの運動方程式:

(iγμμ-e0γμμ-m0)ψ(x)=0

を用いると,γμμψ(x)=-im0ψ(x)

-ie0γμμ(x)ψ(x),かつ,

μψ~(x)γμ=im0ψ~(x)

+ie0ψ~(x)γμμ(x) です。

故に,∂μψ~(x+ε/2)γμγ5ψ(x-ε/2)

=im0ψ~(x+ε/2)γ5ψ(x-ε/2)

+ie0ψ~(x+ε/2)γμγ5ψ(x-ε/2)

×Aμ(x+ε/2),かつ,

ψ~(x+ε/2)γμγ5μψ(x-ε/2)

=im0ψ~(x+ε/2)γ5ψ(x-ε/2)

-ie0ψ~(x+ε/2)γμγ5ψ(x-ε/2)

×Aμ(x-ε/2) です。

そこで,[ψ~(x+ε/2)γ5ψ(x-ε/2)

×exp{-ie0x-ε/2x++/2ξ(ξ)}}

をj5(x,ε)と定義すれば,

μ(x,ε)=2im05(x,ε)

+ie0ψ~(x+ε/2)γμγ5ψ(x-ε/2)

×{Aμ(x+ε/2)-Aμ(x-ε/2)

-∂μx-ε/2x++/2dξ(ξ)} となります。

それ故,もしも,∫x-ε/2x++/2dξ(ξ)が積分

経路に独立な関数なら,最後の{ }の因子はゼロ

となることを示します。

すなわち,まず,∂μx-ε/2x++/2dξA(ξ)

=limh→0

{∫x+gλμh-ελ/2-ε/2x+gλμh+ελ/2-∫x-ε/2x++/2}

dξ(ξ)]/h

=Aμ(x+ε/2)-Aμ(x-ε/2)が成立します。,

最右辺は.電磁場:Aμが連続関数なのでε→0の

極限では,ゼロとなります。

そこで,もしも,∫x-ε/2x++/2dξμ(ξ)が積分経路

に独立なら,∂μ(x)=2im05(x)が成立づるわけ

です、これは,ベクトル解析のStokesの定理によれば,

μの4次元回転::rotν(Aμ)=∂νμ-∂μν

が,全てゼロの渦なしのポテンシャル場(保存力場)で

あるなら,スカラー場:φが存在してAμ=-∂μφと

表現できる場合に相当します。

しかし,電磁場が静電場でないなら,ゼロでない

rotν(Aμ)=Fνμが存在して,それらが電磁場の強さ

である電場:と,磁場:を表わすことは,電磁気学で

よく知られた事実です。

そこで積分は経路に依存するので,線積分の積分路

を特に直線分:lα={lα(τ):lα(τ)

=lα(0)+εατ,lα(0)=xα-εα/2,(0≦τ≦1)}と

選択すると,∫x-ε/2 x+ε/2dξA(ξ)

=εν01dτAν(l(τ)) となります。

また,積分路を直線分:Lα={Lα(τ):Lα(τ)

=Lα(0)+εατ,Lα(0)=xα-δαμΔx-εα/2,

(0≦τ≦1)} と選択すると.

x+Δx-ε/2x+Δx+ε/2dξ(ξ)

=εν01dτAν(L(τ))

μx-ε/2x++/2dξA(ξ)

=limΔx→0ν/Δx)[∫01dτAν(L(τ))

-∫01dτAν(l(τ))]

=limΔx→0ν[∫01dτ[{Aν(L(τ))-Aν(l(τ))

/{L(τ)-l(τ)}]=ενμν+ενO(ε),です。

一方,Aμ(x+ε/2)-Aμ(x-ε/2)

=εννμ+O(ε),

μ(x+ε/2)-Aμ(x-ε/2)

-∂μ-ε/2x++/2dξ(ξ)

=εν{∂νμ(x)-∂μν(x)}+ενO(ε)

を得ます。

以上から,式:∂μ(x,ε)

=j(x,ε)ie0ελμλ(x)+2im05(x,ε)

+O(ε2)が確かに得られました。(注1終わり※)

この式の真空期待値を取ると,単一の閉ループ

を通して,軸性ベクトルカレントがc数の任意個

の光子外場とcoupleする相互作用を記述する

生成汎関数の発散方程式を得ます。

すなわち,∂μ<0|j(x,ε)|0

=ie0<0|j(x,ε)ελ|0>Fμλ(x)

+2im0<0|j5(x,ε)|0>+O(ε2) です。

この右辺の第1項は,形式的にはεのオーダー

であり,「摂動論のアノマリー(4)」において,

μ(x)

=ψ~(x){im0+ie0γμμ(x)}γ5ψ(x)

+ψ~(x)γ5{im0+ie0γμμ(x)}ψ(x)

=2im05(x),j5(x)≡ψ~(x)γ5ψ(x)

として.素朴にWT恒等式を導出したときには

無視されるべきものでした。

しかし,摂動グラフとしての注意深い計算に

よれば,<0|j(x,ε)|0>は,ε→+0 のとき

ε-1のオーダーで発散し,それ故,実際には右辺の

第1項の<0|j5μ(x,ε)ελ|0>の因子は,有限な

寄与をします。

詳細計算を実行すると,

ie0<0|j(x,ε)ελ|0>Fμλ(x)

={α0/(4π)}εμλξημλ(x)Fξτ(x)+O(ε)

となって,先の(アノマリーを含むPCAC式の真空

期待値に一致します。

長くなったので,以下は次の記事にします。

(つづく)

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