物理学の哲学(14)(アノマリー)
「物理学の哲学」の続きです。
前回記事までで,スピノル場の軸性ベクトル
カレントの4次元発散の部分的保存(PCAC)関係
に2光子頂点と軸性頂点の三角グラフの寄与の
評価から出現する量子アノマリーの存在が確認
され,その値を「低エネルギー定理」で評価した後
場の理論のσ模型へと一般化することから,π0→2γ
崩壊の崩壊率(1/τ)が,そのσ模型の三角アノマリー
の寄与として予測計算が可能であるということを
見出しました。
この天下り的に与えられたように見えるσ模型が
実は,最初は対称性を持っていて,やがてそれが自発的
に破れる「南部Jonalashino模型」の(アイソスピン)
カイラル対称性の破れによって,得られる系であり,
さらに,π0中間子は,その対称性の破れに伴って出現
したゼロ質量の擬スカラー・NGボソンと同定される
π中間子の1つ,中性のそれであって,局所ゲージ対称性
の破れに伴う「Higgs機構」で現実の質量を獲得した
粒子である,というストーリーが,一応,完結しました。
ただ,心残りは,参考に用いた弱い相互作用の扱いが,
古いFermiの現象論であることで,弱ゲージ粒子の媒介
する電弱理論ではないことですが,これについては,深入
りせず,またの機会に譲ることにしました。
しかし,最初,私が25~26歳(1975~1976年)の学生時代
に興味を持ち,それから15年間の普通のサラリーマン生活
を経て,42歳でクビとなり,フリーターになったのを機会に
40歳代での暇な時間に,主に物理学や数学の勉強を再開して
ここまで到達した結果の1つが,これまでのシリーズ記事
の内容ですが,学生時代に特に着目していたのは.このブロ
グ記事シリーズの最初の副題(止まると死ぬ)というテ-マ
の端緒となった問題でした。
これについては,詳しい記述を追加したいと考えますが
実は,この課題も既に,本ブログの2017年にアップした過去
記事:「摂動論のアノマリー(9)」で詳述しています。
そこで,これを再掲記事としてアップし,現在,気になる部分
を修正し追加することで,お茶を濁して今回の記事とします。
この注目の問題とは,「アノマリーの座標空間での計算」
に関わる記述です。
※ 以下,再掲記事です。
さて,これまでは,運動量空間での扱いが主でしたが,
ここまでの考察から.ア,ノマリーを含む,座標空間での
PCAC式:∂μj5μ(x)=2im0j5(x)
+{α0/(4π)}Fξσ(x)Fτρ(x)εξστρが成立して,
最後のアノマリー項も単純な形で表わされることが,
わかりました。
この事実は,座標空間でのアノマリーの導出と,
その解釈が可能であることを示唆しています。
座標空間での論議を進めるに当たり,光子について
は量子化されてないc数の電磁場の半古典論に話を
限り,軸性ベクトルカレント:j8μが場:ψ~とψが
離れた2時空点にある場の積という非局所カレント
((bilocal current)の形の局所極限である。と見なす
ことにします。つまり,軸性カレントは.j8μ(x)
=limε→0j5μ(x,ε)で与えられるとするわけです。
ただし,j5μ(x,ε)
=ψ~(x+ε/2)γμγ5ψ(x-ε/2)
×exp{-ie0∫x-ε/2x++/2dξA(ξ)} です。
ここで,右辺の最後の指数関数因子内の
積分:∫x-ε/2x++/2dξA(ξ)は,線積分:
∫x-ε/2x++/2dξλAλ(ξ)を意味します。
そして因子:exp{-ie0∫x-ε/2x++/2dξA(ξ)}は
局所ゲージ変換:ψ(x)→ exp{-ie0Λ(x)}ψ(x),
かつ.Aμ(x)→Aμ(x)+∂μΛ(x)の下でのj5μの
不変性を保証するために,必要な因子です。
この指数関数因子を,微小な正の数εの1次の
オーダーまで展開し,さらに,運動方程式を用いて
j5μの4次元発散を計算します。
まず,j5μ(x,ε)のεによる展開は,
j5μ(x,ε)=ψ~(x+ε/2)γμγ5ψ(x-ε/2)
×{1-ie0ελAλ(x)}+(εの2次以上の微小項)
となります、
そこで,∂μj5μ(x,ε)
=ψ~(x+ε/2)γμγ5ψ(x-ε/2)
×[-ie0ελ∂μAλ(x)
-ie0{Aμ(x+ε/2)-Aμ(x-ε/2)}]
+2im0j5(x,ε)+(εの2次以上の微小項)
となります。
結局,∂μj5μ(x,ε)
=j5μ(x,ε)e0ελFμλ(x)+2im0j5(x,ε)
+(εの2次以上の微小項)という式が得られます。
※(注1):この結果は,電磁場:Aμ(x)が線積分に
おいて,経路依存であるために得られるもので,
しかも積分路が直線分であることが,本質的な意味
を持っています。
以下に,これの厳密で詳細な計算を書き下します。
すなわち,∂μj5μ(x,ε)
={∂μψ~(x+ε/2)γμγ5ψ(x-ε/2)
+ψ~(x+ε/2)γμγ5∂μψ(x-ε/2)}
×exp{-ie0∫x-ε/2x++/2dξA(ξ)}
+ψ~(x+ε/2)γ5γμψ(x-ε/2)
∂μexp{-ie0∫x-ε/2x++/2dξA(ξ)}
です。
ここでDiracの運動方程式:
(iγμ∂μ-e0γμAμ-m0)ψ(x)=0
を用いると,γμ∂μψ(x)=-im0ψ(x)
-ie0γμAμ(x)ψ(x),かつ,
∂μψ~(x)γμ=im0ψ~(x)
+ie0ψ~(x)γμAμ(x) です。
故に,∂μψ~(x+ε/2)γμγ5ψ(x-ε/2)
=im0ψ~(x+ε/2)γ5ψ(x-ε/2)
+ie0ψ~(x+ε/2)γμγ5ψ(x-ε/2)
×Aμ(x+ε/2),かつ,
ψ~(x+ε/2)γμγ5∂μψ(x-ε/2)
=im0ψ~(x+ε/2)γ5ψ(x-ε/2)
-ie0ψ~(x+ε/2)γμγ5ψ(x-ε/2)
×Aμ(x-ε/2) です。
そこで,[ψ~(x+ε/2)γ5ψ(x-ε/2)
×exp{-ie0∫x-ε/2x++/2dξA(ξ)}}
をj5(x,ε)と定義すれば,
∂μj5μ(x,ε)=2im0j5(x,ε)
+ie0ψ~(x+ε/2)γμγ5ψ(x-ε/2)
×{Aμ(x+ε/2)-Aμ(x-ε/2)
-∂μ∫x-ε/2x++/2dξA(ξ)} となります。
それ故,もしも,∫x-ε/2x++/2dξA(ξ)が積分
経路に独立な関数なら,最後の{ }の因子はゼロ
となることを示します。
すなわち,まず,∂μ∫x-ε/2x++/2dξA(ξ)
=limh→0
{∫x+gλμh-ελ/2-ε/2x+gλμh+ελ/2-∫x-ε/2x++/2}
dξA(ξ)]/h
=Aμ(x+ε/2)-Aμ(x-ε/2)が成立します。,
最右辺は.電磁場:Aμが連続関数なのでε→0の
極限では,ゼロとなります。
そこで,もしも,∫x-ε/2x++/2dξAμ(ξ)が積分経路
に独立なら,∂μj5μ(x)=2im0j5(x)が成立づるわけ
です、これは,ベクトル解析のStokesの定理によれば,
Aμの4次元回転::rotν(Aμ)=∂νAμ-∂μAν
が,全てゼロの渦なしのポテンシャル場(保存力場)で
あるなら,スカラー場:φが存在してAμ=-∂μφと
表現できる場合に相当します。
しかし,電磁場が静電場でないなら,ゼロでない
rotν(Aμ)=Fνμが存在して,それらが電磁場の強さ
である電場:Eと,磁場:Bを表わすことは,電磁気学で
よく知られた事実です。
そこで積分は経路に依存するので,線積分の積分路
を特に直線分:lα={lα(τ):lα(τ)
=lα(0)+εατ,lα(0)=xα-εα/2,(0≦τ≦1)}と
選択すると,∫x-ε/2 x+ε/2dξA(ξ)
=εν∫01dτAν(l(τ)) となります。
また,積分路を直線分:Lα={Lα(τ):Lα(τ)
=Lα(0)+εατ,Lα(0)=xα-δαμΔx-εα/2,
(0≦τ≦1)} と選択すると.
∫x+Δx-ε/2x+Δx+ε/2dξA(ξ)
=εν∫01dτAν(L(τ))
∂μ∫x-ε/2x++/2dξA(ξ)
=limΔx→0(εν/Δx)[∫01dτAν(L(τ))
-∫01dτAν(l(τ))]
=limΔx→0(εν[∫01dτ[{Aν(L(τ))-Aν(l(τ))
/{L(τ)-l(τ)}]=εν∂μAν+ενO(ε),です。
一方,Aμ(x+ε/2)-Aμ(x-ε/2)
=εν∂νAμ+O(ε),
Aμ(x+ε/2)-Aμ(x-ε/2)
-∂μ∫x-ε/2x++/2dξA(ξ)
=εν{∂νAμ(x)-∂μAν(x)}+ενO(ε)
を得ます。
以上から,式:∂μj5μ(x,ε)
=j5μ(x,ε)ie0ελFμλ(x)+2im0j5(x,ε)
+O(ε2)が確かに得られました。(注1終わり※)
この式の真空期待値を取ると,単一の閉ループ
を通して,軸性ベクトルカレントがc数の任意個
の光子外場とcoupleする相互作用を記述する
生成汎関数の発散方程式を得ます。
すなわち,∂μ<0|j5μ(x,ε)|0>
=ie0<0|j5μ(x,ε)ελ|0>Fμλ(x)
+2im0<0|j5(x,ε)|0>+O(ε2) です。
この右辺の第1項は,形式的にはεのオーダー
であり,「摂動論のアノマリー(4)」において,
∂μj5μ(x)
=ψ~(x){im0+ie0γμAμ(x)}γ5ψ(x)
+ψ~(x)γ5{im0+ie0γμAμ(x)}ψ(x)
=2im0j5(x),j5(x)≡ψ~(x)γ5ψ(x)
として.素朴にWT恒等式を導出したときには
無視されるべきものでした。
しかし,摂動グラフとしての注意深い計算に
よれば,<0|j5μ(x,ε)|0>は,ε→+0 のとき
ε-1のオーダーで発散し,それ故,実際には右辺の
第1項の<0|j5μ(x,ε)ελ|0>の因子は,有限な
寄与をします。
詳細計算を実行すると,
ie0<0|j5μ(x,ε)ελ|0>Fμλ(x)
={α0/(4π)}εμλξηFμλ(x)Fξτ(x)+O(ε)
となって,先の(アノマリーを含むPCAC式の真空
期待値に一致します。
長くなったので,以下は次の記事にします。
(つづく)
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