物理学の哲学(13)(アノマリー)
「物理学の哲学」の続きです。
余談は抜きで即本文です。
前回の記事の最後では,
※この後,残っている問題は,カイラル対称性の自発的
破れによって,出現する擬スカラ-の零質量NGボソン
と同定される粒子場:πが現実の135~140 MeV程度の
ゼロでない観測質量を持つπ中間子であるため,には,
質量を獲得する必要があり,この質量を得るに至る
メカニズムを解明することだけです。
という内容のことを書きました。
この最後の課題自体が,大きなテーマの一つなので
質量獲得に関連する「Higgs現象」について
詳述した本ブログの過去記事「対称性の自発的破れと南部
-Goldstone粒子(12)」の全文を,不要部分を削除し修正
して再掲載します。
※以下は再掲の過去記事です。
素粒子論は,少なくともPoincare’不変性,(つまり,
並進,および,Lorentz不変性)を満たす理論ですから,
対称性の自発的破れが起これば,「南部-Goldstone
の定理」が常に適用できるはずです。
しかし,現実において厳密にゼロ質量の粒子として
観測されている素粒子は,光子とニュートリノ?くらい
しか存在しません。(※今までは発見されていません。)
光子や(未発見の)重力子(graviton)などは力を媒介
するゲージ粒子場として記述される。とされています。
確かに,光子,重力子は,それぞれ,ベクトル粒子,テンソル
粒子であり,対称性の自発的破れに伴なうNGボソンと
して理解されています。
しかし,ニュートリノについては。スピノル対称性
(超対称性)に対応するNGフェルミオンと考えると.
低エネルギー定理の予言と矛盾する,ことが確かめられ,
NGフェルミオンなどというモノではなさそうです。
(※事実,厳密にはゼロ質量ではないことの証拠とされる
「ニュートリノ振動」という現象が確認されています。)
また,「近似的に」ゼロ質量の粒子としてはπ中間子が
存在します。実際,南部-JonaLasinoが素粒子論において
初めて対称性の自発的破れの概念を提唱し,NGボソンで
あると指摘したのは,π中間子でした。
実際,π中間子が近似的カイラル対称性の自発的破れに
対応するNGボソンであることは,その後の1960年代の10
年間に、カレント代数,低エネルギー定理などの多くの成功
により確かめられ,強い相互作用の解明に多くの寄与を
しました。
では,この零質量NGボソンの希少性は,対称性の自発的
破れが,現実には比較的稀な現象であることを意味している
のでしょうか?
答は否です。実は,「ゲージ理論の場合には対称性の自発的
破れと,観測される零質量NGボソンの間に1対1対応が成立
しない。」というのが,真なのです。
ゲージ理論において,共変ゲージの場合には,もちろん,
対称性が自発的に破れれば,零質量NG粒子が出現します
が,「南部-Goldstoneの定理」は,その出現するNG粒子
が,「正定値計量を持った物理的粒子」であることを主張
していません。
そして,もしも,それが「不定計量」を持ち,BRS不変
でないモードであれば,物理的状態空間;Vphysでは.観測に
かからないことになります。
他方,Coulombゲージ;∇A=0 や,時間的軸性ゲージ
A0=0などの「非共変ゲージ」の場合は,正定値計量です
から粒子は観測にかかる粒子のはずですが,今度は
「南部-Goldstoneの定理」に要求される明白なLorentz
共変性の仮定が,元から破れているため,,必ずしも対称性
の自発的破れに伴なってNG粒子が出現するとは限らない
からです。こうした可能性は,Higgs-Kibbleらにより初めて
指摘されました。
このことを,具体的に示す最も簡単な模型は,
「Goldstone模型」のU(1)対称性をゲージ化して,電磁場
を導入する「Higgs模型」です。
これより前に,対称性の自発的破れを起こす最も単純な例
として「南部-Goldstone模型」を紹介しましたが,これは
系のLagrangian密度:Lが次式:,
L=∂μφ*∂μφ+μ2φ*φ-(λ/2)(φ*φ)2
で与えられる模型でした。
この系での荷電スカラー粒子の複素場,φ,φ*の組を,
2成分のφ=[φ1,φ2]とφ+で記述し,さらに電磁場Aμ
も共存する,ここでの出発点となる系のLagrangian密度
を,L=(-1/4)FμνFμν+(Dμφ)+Dμφ+μ2φ+φ
-(λ/2)(φ+φ)2 としたモノを考察します。
ただし,Fμν=(∂μAν-∂νAμ)とします。またDμ
は共変微分で,Dμφ=(∂μ-ieAμ)φと定義されます。
このとき,単純な「南部-Goldstone模型」の場合と同様
ここでも,treeグラフのレベルで,場:φについて,
<0|φ(x)|0>=v/√2=(μ2/λ)1/2となって,ゼロでない
真空期待値を生じます。
ここで,便宜上,複素場:φ(x)のシフトをφ(x)
={v+ψ(x)+iχ(x)}/√2,(ただしψ(x),χ(x)
は真空期待値がゼロの実スカラー場)としたものから,
変更して,極分解と呼ばれる次の形に取ります。
すなわち,φ(x)
={v+ρ(x)}exp{iπ(x)/v}/√2,です。
ここで,ρ(x)は真空期待値がゼロの実スカラー場,
であり,位相部分:exp{iπ(x)/v}は,G/Hの
非線型表現のNGボソン場パラメータ化として,
ξ(π)=exp{iπ(x)/f};π(x)
=Σa∈(G-H)πa(x)Xa とした,ξ(π)の
今のG/H=U(1)/{1}に対応するものです。
このとき,φの運動項は,
Dμφ=(∂μ-ieAμ)[(v+ρ)exp(iπ/v)/√2
=exp(iπ/v)[∂μ-ie{Aμ-∂μπ/(ev)(v+ρ)
/√2なので,(Dμφ)+=exp(-iπ/v)
{∂μ+ie{Aμ-∂μπ/(ev)}(v+ρ)]/√2
です。それ故,(Dμφ)+Dμφ=(1/2)∂μρ∂μρ
+(1/2)e2(ρ+v)2{Aμ-∂μπ/(ev)}
{Aμ-∂μπ/(ev)} です。
そこで,φ+φ=(1/2)(ρ+v)2より,
μ2φ+φ-(λ/2)(φ+φ)2
=(μ2/2)(ρ+v)2-(λ/8)(ρ+v)4
=(μ2/2)ρ2+(μ2/2)v2+μ2vρ
-(λ/8)(ρ4+4vρ3+6v2ρ2+4v3ρ+v4)
=(μ2/2-3λv2/4)ρ2-(λ/8)ρ4
-(λv/2)ρ3+(μ2v-λv3/2)ρ-V0[v/√2]
です。ただし,-V0[v/√2]
=(1/2)μ2v2-(λ/8)v4です。
v=(2μ2/λ)1/2=|μ|(2/λ)1/2なら
μ2v-λv3/2=0で,μ2/2-3λv2/4=-μ2より,
m2=2μ2=λv2とし,M=ev=|μ|(2e2/λ)1/2
とおけば,L=(-1/4)Fμν2
+(1/2)M2{(1+eρ/M)2{Aμ-M-1(∂μπ)}2
+(1/2)|(∂μρ)2-m2ρ2}
-m√λρ3-(λ/8)ρ4-V0[v/√2]です。
さらに,Uμ=Aμ-M-1(∂μπ)と定義します。
すると,Fμν=∂μUν-∂νUμなので,
L=(-1/4)(∂μUν-∂νUμ)2
+(1/2)M2Uμ2(1+eρ/M)2+(ρ場の項)
となり,π(x)は完全に姿を消します。
しかも,ベクトル場:Uμは質量:Mを獲得
しています。
これを,Higgs現象(Higgs-Mechanism)と呼びます。
が,この現象を,もう少し詳しく見てみます。
まず,φ=(v+ρ)exp(iπ/v)/√2
→(v+ρ)/√2,および,Aμ → Aμ-M-1∂μπ=Uμ
の変数変換は,ゲージパラメータ:θ(x)を,q数の場;
M-1π(x)と置いた.「q数ゲージ変換」になっている
ことに注意します。
すなわち,零質量のベクトル場:Aμが,NGボソン場:
πを吸収して質量Mを持つベクトル場(Proca場):Uμ
になったのです。
(※L=(-1/4)(∂μUν-∂νUμ)2+(1/2)M2Uμ2
で記述される有質量ベクトル場をProca場と呼びます。)
ここで,電磁相互作用を切ったとき,つまり,e=0と
したとき:e≠0の物理的粒子の自由度の収支を勘定
すれば,次のようになっています。
M=evですが,e=0では,零質量のAμ(2自由度),
零質量のπ(1自由度),零質量のρ(1自由度)であった
のが,e≠0では,質量MのUμ(3自由度),質量mのρ
(1自由度)となっています。
スピンが1の物理的モードは零質量のときはHelicity
が±1の2自由度しかないですが,質量を得ると静止系も
存在して,モードが1,0,-1の3自由度になることで,
不足している1自由度は,NGボソン場:πにより供給
されます。
e≠0では,Lは既にゲージ不変ではなくρ(x)や
Uμ(x)は,いわゆるゲージが固定された場です。
それ故,ρやUμのみで表わされたLagrangian密度は,
ある種のゲージ固定化がなされたものであり,通常,それ
をユニタリゲージと呼びます。
ユニタリゲージは理論の物理的内容が明白でよいの
ですが,Proca場の伝播関数
(gνν-kμkν/M2)/(k2-M2)の紫外部:
k→∞での挙動が悪いため,理論が,くりこみ不可能です。
そこで,くりこみ可能な共変げ-ジの同じ理論に考え
直します、
「くり込み可能共変ゲージ」の項に入ります。
複素場;φのパラメータ化として,上の極分解の代わりに,
先に「Goldstone模型」で取った分解を用います。
すなわち,φ(x)={v+ψ(x)+iχ(x)}/√2とします。
このとき,Dμφ=(∂μ-ieAμ)(v+ψ+iχ)/√2
=[∂μψ-i{eAμ(v+ψ)+∂μχ}+eAμχ]/√2
(Dμφ)+=[∂μψ+i{eAμ(v+ψ)+∂μχ}
+eAμχ]/√2より,
(Dμφ)+Dμφ2=(1/2)[(∂μψ+eAμχ)(∂μψ+eAμχ)
+{eAμ(v+ψ)+∂μχ}{eAμ(v+ψ)+∂μχ}]
=(1/2)(∂μψ2)2+eAμ(χ∂μψ-ψ∂μχ)
+(1/2)e2Aμ2χ2+(1/2)e2Aμ2ψ2+(1/2)M2(Aμ
+M-1∂μχ)2+eMAμψ(Aμ-M-1∂μχ) です。
一方,φ+φ=(1/2)(v+ψ)2+(1/2)χ2
=(1/2)(ψ2+χ2)+vψ+(1/2)v2より,
(φ+φ)2=(1/4)(ψ2+χ2)2+v2ψ2+(1/4)v4
+(1/2)v2(ψ2+χ2)+vψ(ψ2+χ2)+v3ψ
です。
μ2=λv2/2,m2=2μ2ですから,v=m/√λ
で,λv=m√λであり,μ2-(λ/2)v3=0,
-(λ/2)v2ψ2=-(1/2)m2ψ2 です。
それ故,μ2φ+φ-(λ/2)(φ+φ)2
=-(1/2)m2ψ2-(1/2)m√λψ(ψ2+χ2)
―(λ/8)(ψ2+χ2)2―V0[v/√2] を得ます。
ただし-V0[v/√2]=(1/2)μ2v2-(λ/8)v4)
です。
そこで,Lagrangian密度は,
L=(-1/4)Fμν2+(1/2)M2{Aμ-M-1(∂μχ)}2
+(1/2)|(∂μψ)2-m2ψ2}+eAμ(χ∂μψ-ψ∂μχ)
+eMAμ2ψ+(1/2)e2Aμ2(ψ2+χ2)
-(1/2)m√λψ(ψ2+χ2)―(λ/8)(ψ2+χ2)2
-V0[v/√2] と書けます。
この時点では,ゲージ固定がなされていないので,
ゲージ固定処方に従って,このL=L0に,
LGF+FP=-iδB[c~(∂μAμ+(1/2)αB)]
=B∂μAμ+(α/2)B2+ic~∂μ∂μc
を付加したものを改めてLとします。
これは普通の共変ゲージ条件です。
この可換群:U(1)に基づくHiggs模型では,この
共変ゲージの場合,FPゴースト:c,c~は全くの
自由場となりますから,必ずしも導入の必要はあり
ません。
上の,LGF+FP=-iδB[c~(∂μAμ+(1/2)αB)]
=B∂μAμ+(α/2)αB2+ic~∂μ∂μc
とは別の,Rξゲージと呼ばれる便利な共変ゲージ
があります。
まず,Lagrangian密度:L0の第2項にゲージ場
AμとNGボソン場;χの遷移項:MAμ∂μχがある
ことに注意します。
遷移項があると場の混合が起こり面倒ですから,
ゲージ固定項をうまくとって,これを相殺すること
を考えます。
複素場:φ(x)のゲージ変換:
δφ=-eθ(x)φ(x)は,φ(x)
={v+ψ(x)+iχ(x)}/√2 により,
2成分の場(ψ(x),χ(x))に対して,
δψ=-eθ(x)χ(x),
δχ=-eθ(x){v+ψ(x)}
と分解されます。
ところが,BRS変換:δBはこの式で
θ(x)→ c(x)(FPゴースト場)とするものです。
ゲ-ジ固定項を次のようにとります。
LRξGF+FP=-iδB[c~(∂μAμ+αMχ
+(1/2)αB)]=B(∂μAμ+αMχ)
+(α/2)B2+ic~(□+αM2+eαMψ)c
とします。
最後の変形では,ev=Mを用いました。
NL場:BをGauss経路積分,または運動方程式
を用いて消去します。L=L 0 +LRξGF+FPに,
対する運動方程式:∂L/∂B=∂μAμ+αMχ+αB
=0 から,B=-(1/α)(∂μAμ+αMχ)より,
LRξGF+FP=-{1/(2α)}(∂μAμ+αMχ)2
+ic~(□+αM2)c+ieαMc~cψ と
なります。
そこで,Aμとχの交差項:Mχ(∂μAμ)が現われる
ため,これとL 0の遷移項:MAμ∂μχと合わせて,
全微分項=4次元発散項: M∂μ(χAμ)
=MAμ∂μχ+M∂μ(χAμ)となって作用積分では,
これらは落ちることになります。
このRξゲージでは,たとえ,可換群U(1)の場合でも
FPゴーストがc~cψの相互作用項を持つので,
もはや落とすことはできない,というデメリットは
あります。 (再掲記事終了※)
以上,過去記事のコピーで,お茶を濁してサボりました。
これには,続きの記事(13)gって,まだ共変ゲージで
BRS不変な系の対称性の的破れとNGボソンの考察
なこもありますが,今のゼロ質量粒子の希少性と質量獲得
の機構を理解するには,ここまでで十分です。
単純な「Doldsyone模型」で,<0|φ(x)|0>=v/√2
≠0の真空期待値が現われて,結果,U(1)対称性の自発的
破れが生じて,Φ=v/√2+(ψ+iχ)}/√2 により,
<0|ψ|0>=0,<0|χ|0>=0を満たす無矛盾な実スカラー
場のψとχへのシフトが必要が生じ,ψの方に-/1/2)m2ψ2
の,質量mの質量項が現われます。
そして電磁場と共存したU(1)局所ゲージ不変性が,
自発的に破れると,ゼロ質量ゲージ粒子の光子Aμも,
質量を獲得してProva場:Uμのベクトル中間子に
なることが,上述のHiggs機構の説明で解明された
と言えます。
今回はここまでです。このシリーズも終わりに
近づきした。(つづく)
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