エレクトロニクス覚書き(2の2)(電気伝導2)
※2022年8月11日(木)
TOSHIです。余談は抜きで続きをアップします。
,以下,本題です。再掲記事の続きです。
(※再掲記事3)
電気伝導(つづき2)(衝突の正体)(2006年6/19アップ修正)
@nify物理フォーラムで私と一緒にサブシスをやっている
高校の先生で友人と思っている,かんねんさんから,次のような質問
を受けました。
「電子が金属の原子から抵抗を受ける(=衝突する)ことが抵抗
の正体である。と本には書いてありますが.この陽イオンと電子
の衝突って,どんな感じなのでしょうか?というのは,衝突による
斥力的イメージではなく,異符号ゆ故の引力的な力を想像して
しまいます。これをどう理解したらいいのでしょうか?」という
質問ですが,それに対する私の回答があまりにも不親切だたので,
そのフォーラムでの回答の内容を大幅に修正したものを以下に記述
します。
まず,量子論で電場などの外力がない場合に,固体の中の電子は
自由電子近似をするとしても.実は弱いイオンの引力によって,体積
Vの中に閉じ込められており,Vが有限であるために1つの電子の
運動量(故に速度)は,どんな値でも取れるわけではなく,ある離散的
な値しか取れません。
そして,これら1つ1つの準位にPauliの原理とスピン自由度
によって下から2つずつ電子を詰めてゆき,丁度,その固体中の電子
が全て収まったときの,最大のエネルギーをFermiエネルギーと呼び
この最高準位をFermi準位と呼びます。
そうして,この電子準位の全体を運動量ベクトル,または,それを
Plank定数hで割った波数ベクトルの集まった3次元空間で考えると
1つの球になりますが,これをFermi球と呼びます。
そして,球ですから球対称であるが故に,電場のない状態では平均
の運動量はゼロです。つまり,電場がなければ自由電子の平均速度v
もゼロなので電流もゼロだということができます。
しかしながら,固体の中の電子を自由電子で近似するのには無理
があり,格子構造を持った束縛電子で遮蔽された周期的な陽イオン
の引力ポテンシャルを受ける電子波であるのを考慮する必要が
あります。
周期的引力ポテンシャルの摂動を受けるため,電子が取る
エネルギー準位は,その値を取ることができる許容帯と呼ばれる
ネルギ-バンド領域と,その値を取ることは不可能な禁止帯と
呼ばれる小さなギャップ領域の繰り返し,という形態を取ること
になります。
そうした自由電子に代わる固体の結晶格子中の電子を,それ
を発見した人の名を取ってBloch(ブロッホ)電子と呼び,上述
の理論を「バンド理論」といいます。
固体中のBloch電子を下の準位から順にFermi準位に達する
まで許容帯の中に詰めてゆきます。
そうすると1つのケースとしては,幾つかのエネルギーバンドは
完全に占有され,他の全ては空になるような形になることがあります。
このとき,許容帯のうち全てが占有されたバンドを充満帯,または
価電子帯と呼びます。そして,この全充満帯の頂点と,電子が全く空
の非占有許容バンドまでの禁止帯領域の幅をエネルギーのバンド
ギャップと呼びます。
このギャップが絶対温度TにBoltzmann係数kBを掛けた値(kBT)
に比べて大きい場合には,Fermi準位付近の電子のエネルギー値が
(kBT)程度なので,すぐ上の空の許容帯である占有可能な空きの
ある許容帯(伝導帯)までジャンプすることはできませんから,
この固体は「絶縁体」となります。
一方,バンドギャップが小さい場合,ある温度では充満帯から空
の許容帯へとジャンプして,その電子は伝導可能となり,他方,
充満帯の方ではジャンプして欠けた電子の穴が「正孔」という
正電荷のキャリアとなる,などのために,この固体は(真性)半導体
となります。
もう1つのケースは,Fermi準位が許容帯の途中になる場合
で,このときは,その許容帯の中の全部の準位が占有されて
いるわけではなく,部分的に占有されていることになります。
そこで,その中では,その準位付近の電子は自由に動けるので
「電気伝導」というモノが可能になります。
このとき,部分的に占有されている許容帯を伝導体と呼びます。
そして,こうしたケースの固体を「導体」と呼びます。金属は
これに属しています。
バンド理論によると,電子の占有を許された準位の数は,どの
許容帯でも同一で,(固体中の格子の総数)=(構成原子の全個数)
をNとすると,スピンの2つの自由度のため,結局,1許容帯当り
で占有可能な準位数は2Nという偶数になります。
一方,1個の原子当りの価電子の個数が偶数の元素では,それ
を2nとすると,価電子の数は全体で2nNとなり,この総電子数
を許容帯の占有可能な準位数2Nで割り算すると商がnとなって
余りがゼロですから,許容帯には電子が充満し充満帯となり,空き
準位がないため身動きできません。
しかも,その上には禁止帯というエネルギーギャップがある
ので,絶縁体になるか,半導体になるかのいずれかで,これらの
固体は非金属です。
しかし,奇数の価電子を持つ元素の場合,これは一般に金属です
が,この場合は総電子数を2Nで割ったとき余りがあり一番上の
エネルギーではバンドが充満しないで,ほぼ半数の空き準位がある
という部分的占有状態の伝導帯となり,自由に動けるBloch伝導
電子となって金属導体になるわけです。
このとき,エネルギー領域のバンド化による自由電子
からBloch電子への変化は,一見したところ,電子の質量がmから
有効質量と呼ばれるm*に変わる効果だけで表現可能で,実は周期的
Cohlombポテンシャルが全く規則的に並んでいて,しかも止まって
いるだけという状況ですが,,これでは散乱や衝突などは全く起き
ないと考えられます。
つまり,それだけでは依然として緩和時間が∞のままなので,素朴な
古典論で考えたような電子がイオン芯と衝突して散乱されるという
描像は量子論的には誤りなのです。
すなわち,あるエネルギーを持ったBloch電子というのは,自由電子
とは異なり運動量固有状態ではありませんから空間的には一定速度
で運動しているわけではありませんが,とにかく定常状態であると
いうことが重要です。
それ故,古典的に意味のある運動量や速度の期待値は時間的には
一定である,というわけです。つまり,自由電子と同じように,古典
的描像ではBloch電子も一定速度で運動しているわけですから,
古典的Drudeの理論のように,イオンまたは,その引力ポテンシャル
で散乱されるわけではない,ということになるのです。
そして電子質量をmとするとき,自由電子ではエネルギーが
E=p2/(2m)なので,これを運動量pで2回偏微分すると(1/m)
になりますが,Bloch電子でも(本当は自由粒子でないのですが),
そのエネルギーを運動量pで2回偏微分したものを(1/m*)
として m*を有効質量と定義します。
すると,電場Eがあるときの運動方程式は散乱がないなら
d(m*v)/dt=eEとなり,有効質量は”電子の慣性質量”
と同じ役割を果たすという意味があります。
したがって,例えば電気伝導度=抵抗率の逆数が自由電子
近似の古典的理論値:σ=ne2τ/mからσ=ne2τ/m*に
変更を受けるという意味があります。
電場Eがかかると,Fermi球の原点がずれて,波数kについて
球対称でなくなるので,電流がゼロでなくなりますが,それは
電子の電荷をeとするとΔtの後に運動量としてeEΔtだけ
ずれる,という意味です。eは負ですからEと反対向きにずれる
のですが,それだけでは時間tと共に電子の速度は増加sますから
一様速度にはならず,次第に加速されます。
やはり,一様速度になるためには何らかの衝突,散乱が必要です。
衝突が起こるというのは,量子論では電子は波であり電子波束
が一方向に進行している状態ではなくなって,の方向に影響を
こうむることを意味します。
これは,「並んでいる陽イオンが熱などにより振動する。
つまり,格子振動する。(逆に振動こそが熱かも)」,あるいは
「格子欠陥がある=不純物効果がある。」というような不規則な
変化がある場合で,これがないとBloch電子が散乱されて一様速度
の方向が変わるようなことはありません。
量子論的には,電子波が主に「陽イオンの格子振動=フォノン
(phonon;音子)と衝突するのが散乱の原因でとされます。結局,
結晶格子にある陽イオンが単に並んで止まってるだけでなく時間的
に変動することによりイオンの位置が規則的配列からずれて,その
振動により電子がその進路を曲げられると見るわけです。
だし,その効果が質問にあった,引力のためであるか?それとも
斥力のためであるか?については私にも確かなところは不明です。
ただ,電気的に中性のフォトン(光子;photon)と電子が衝突する
Compton効果のアナロジーで,電磁場を調和振動子の集まりとして
量子化したフォトン(光子)と同様に, 固体内の格子振動と呼ばれる
陽イオンの振動(波動)を量子化したフォノン(音子)が,電子と衝突
する散乱というくらいの参考書で見たのか,誰かに教わったかの
漠然としたイメージしかありません。
(※もっともフォノンとの衝突はCompton散乱のような弾性散乱
ではなくエネルギー・運動量が保存されない非弾性散乱のはず
ですが。。)
例えば極低温で電子と電子が引付けあってCooper対という
対を作り,結果,電子対共鳴としてスピンが整数のBose粒子と
なり「Bose-Einstein凝縮」を起こして超伝導体を構成する
というBCS理論というのがありますが,元々,電子間には
Coulomb斥力が働くはずですから引力で対を作るというのは
不思議です:
一方,現在では電気力:Coulomb相互作用は量子論的には
荷電粒子間で仮想フォトン(スカラー光子)を交換する結果
で生じる.というのが量子電磁力学の理論からの帰結ですが,
これのアナロジーで.固体の結晶格子内の電子間の引力,斥力
はフォノンの交換により生じるとされています。
特に,固体内で低温ではフォトン交換による電気的なCoulomb
斥力を,フォノン交換による引力が上回るようになり,Cooper対
という電子対ができると考えられています。
いいかえるとCoulombポテンシャルが格子フォノンによって
遮蔽されて斥力から引力に変わるという帰結です。
このようにフォノン(格子振動波)をフォトン(電磁波)のように
粒子性を持った量子として吸収,,放出したり散乱するもとして
扱うのです。
こうし,とにかく電子の衝突,散乱があれば,古典論のDrude
理論のイオン芯との衝突でなくても有限な緩和時間τを与える
ことができますね。
実際にはこの緩和時間は運動量や温度の関数であり,詳しくは
「Boltzmannの輸送方程式」という偏微分方程式の1つの項で,
緩和時間という量を挿入定義することに従って決まります。
私も,まだアシュクロフト・マーミン著(吉岡書店)
「固体物理学の基礎」の全4巻のうちの2巻目の途中
まで読んだところで中断していて,把握できてない知見
が多々あり今はこの程度の説明が限界です。
ここで終わり,次回は固体結晶のフォノンについての過去記事
に続きます。
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