2022年ノーベル物理学賞 アスぺの実験
※2022年10月6日(木)→10月7日(金)
※余談:お久しぶり,TOSHIです。最近2016年以来5回目の
余命宣告を受けましたが,私はまだ,しぶとく生きています。
※さて,1昨日の10月5日に,本年の「ノーベル物理学賞」
の受賞者が発表され,量子論の解釈について貢献した
フランスのアスペ(aspect)以下3名に決まったらしい
です。
古い業績でもあり,余り注目されてないようですが
「アスペの実験」については内容は結果が,むしろ
哲学的問題で最近のノーベル賞の主流の最先端の
テクノロジーとしては,それを応用した実用化が
困難な.量子コンピュータや量子通信など,いわゆる
「量子のもつれ(=エンタングルメンentanglement)」
に関わる話題であって素人には議論しにくいモノ
であるからかもしれません。
そこで,2006年3月に開始のこの私のブログで:その
5月頃に書いた量子暗号と量子コンピューターや量子通信
の記事に続いて,2007年の2月にアップした「ベル(Bell)
の不等式」と粒子(量子)の実在についての過去記事を
再掲載して再検討してみることにします。
1900年代の初めにPlanckの黒体輻射の研究に端を
発して従来の古典物理学と呼ばれるニュートン以来の
物理学が,新しい解釈の革命を起こしたとされる量子力学
(quantum Mechanics)の確率解釈に対し,当時から
相対性理論で有名だったA.アインシュタイン{Einstein)
らが「神はサイコロ遊びをなさらない」と称して.決して
新しい物理学ではない。という内容の主張をして有名な
「アインシュタインとボーア(Bohr)の論争」というもの
がありました。
例えば,空気などの気体や水などの液体は,有限体積に
アボガドロ数と呼ばれる莫大な個数の分子集団があり,
そうした莫大な個数の微小粒子については個々の粒子
の正確な軌道を観測して追跡するのが不可能で.統計的
で確率的な平均量が観測されるにすぎないが故に,正確
な情報量の欠如が.革命的で確率的な存在に見える根拠
であるとされて成功している統計力学があります。
そして,後には量子(Quanta)と呼ばれた微小粒子の観測
もまた完全で不正確にならざるを得ないが故に,統計物理
と同じく,軌道を持たない,確率的で特異な存在と見える
けれども,それはやがり情報の欠如や観測精度の問題に
過ぎないというのが,当時の守旧派のアインシュタインら
の主張であったと思います。
しかし,N.ボーアは光や電子というのは,観測精度の
ためではなく,粒子であると同時に重ね合わされると干渉
効果で増幅も減衰もする波の性質をも持ち.その絶対値の
二乗がその存在確率に比例した量を与えるという新しい
存在の「量子(Quantum)」であるのが本質的である。
と主張して対立したのです。
そして,この議論の正否を検証する仮想実験として,
ももアインシュタインらの主張が正しいなら,記号論理学
において当然成立すべき「ベルの不等式」というものが成立
するはずである。と提案されました。
ところが,当時の実験技術や精度などの困難から現実に異論
のない実験が実施されるまでに約半世紀を要して1960年代
に初めてアスペを中心としたグループによって結局は
「ベルの不等式」が成立しない新しい量子論るに従うことが
立証されてボーアの勝利と決まったわけです。
これは天才アインシュタインの生涯最大代の過ちと言われて
います。
これ.私が学生時代にも既に有名だった実験で今さらの感
がありますね。
※以下は2007年の本ブログ記事の再掲載記事です。
さて,今日は「量子論と実在」の問題で「EPRのパラドクス」
と関わってアスペらの実験によって量子論ではそれが成立しない
ことが実証された「ベル(Bell)の不等式」とはどういう内容なのか?
ということについてデスパニヤの「量子論と実在」というレポート
に基づいて説明したいと思います。
仮想的な思考実験として、いくつかの陽子対についてその
スピンを測定する装置があるとします。初めに2つの陽子はごく
接近した位置にあるとし,その後は2つの陽子が運動して互いに
ある巨視的な距離程度に離れたときテストを行なうものとします。
量子力学によれば,陽子のようなスピン1/2の1つの粒子のある
任意の軸方向の成分は、アップとダウンの2つの値しかとらない
ことがわかっているので、この2つの値を以下では+(プラス)と
-(マイナス)で表わすことにします。
そして,それぞれの対の2個の陽子は一緒になってシングレット
(一重項)状態と呼ばれる量子力学的配置をとっているとすると。
それらは確実に負の相関を持ち両方の粒子について同じスピン
成分を同時に測定すると,1つの陽子が+なら必ず他方の,陽子
はマイナスであり.逆の場合はその逆として観測さ,れるとします。
そして運動の初期の状態で,多くの陽子対についてこの相関は
十分に確立されているとします。
立えば,どんな装置があろうと,1度に2つ以上のスピン成分
は測れませんが,1つの装置で任意に選ばれた3つの軸のどの
1つの向きのスピン成分でも測れるように調節可能なものを
作ることはできます。
以下では,これらの軸をA,B,Cで示し,実験結果を次のよう
に書くことにします。
すなわち,A軸方向のスピン成分が+であればA+と表示し、
B軸方向のスピン成分が-であれば結果はB-で与えられる。
等々です。
多くのシングレット状態にある陽子対を用意し,これらの対
の両方の陽子について,そのスピンのA成分を測る場合,
ある対のうちの1つの陽子ではA+であり,他の対の1つは
A-であるということが認められるけれども,1つの対の
1つのメンバーがA+であるときには、いつでももう一方
のメンバーはA-であるということになります。
もしも,それとは別にB成分を測れば.1つの陽子がB+なら
それとシングレットを組んでいる相手はB-であり,同様に
1つのC+陽子は必ず1つのC-陽子を伴なっています。
そして以上の結果は軸A,B,Cの空間内での向きに無関係
に成立します。
「局所的実在論的理論」では量子論では否定され現実には
あり得ないとされる.単一の粒子のスピンの2つの成分を
同時に測定する手段が何か存在すると仮定してもよいこと
になります。
そうした装置で1つの陽子がA+とB-を持つと認められた
陽子の個数をN(A+B-)とすると、通常の論理では仮に、
A,B,Cについてのスピン成分が確定している陽子がある
として.その個数をN(A-B+C-)etc.と表記すれば.
N(A+B-)=N(A+B-C+)+N(A+B-C-)とならねば
ならないのは明らかです。
同様にN(A+C-)=N(A+B+C-)+N(A+B-C-),かつ,
N(B-C+)=N(A+B-C+)+N(A-B-C+)も成立する
はずです。
それ故.N(A+C-)≧N(A+B-C-),N(B-C+)
≧N(A+B-C+).かつ,N(A+B-)=N(A+B-C+)
+N(A+B-C-)ですから辺々加えて
N(A+B-)≦{N(A+C-)+N(B-C+)}という不等式
が得られます。
この不等式は以上のように全く形式的に導き出されては
いますが,ある単独の陽子の2つの成分を独立に測定できる
装置が存在しない以上,そのままでは実験によってそれを
テストすることは不可能です。
しかし、個々の陽子ではなく相関を持つたくさんの陽子対
に対して測定を行なう実験では,そうした不可能な測定を
する必要はありません。
すなわち.AかBかCかのたった1つのスピン成分について
それぞれの陽子をテストするという実験を行なうと,偶然の
一致によって1つの対の中の両方の陽子に対して同一の成分
を測ることがときどき起こることになるだろうと考えられます
が,この種の結果は新しい知識を提供しないので無視しておく
と,残った対はAB,AC,BCで表示される軸のスピンを測った
陽子対となると考えられます。
こうした対の個数をn(A+B+)と表わすことにします。
N(A+B+)とn(A+B+)との違いは,N(A+B+)が単独の
陽子の2つのスピン成分を持つ陽子の個数を示すのに対し.
n(A+B+)は2つの陽子の一方がA+,他方がB+の陽子対
の個数を示すことです。
N(A+B-)というのは,ある1つの陽子が確実にA+かつB-
を持つとされる陽子の個数なので,それと対をなす相手の
メンバーの陽子は確実にA-かつB+を持つと考えられます
から,それの個数は.N(A-B+)=N(A+B-)でもあり.
n(A+B+)はN(A+B-)に比例すると考えてよいこと
になります。
同様にしてn(A+C+)はN(A+C-)に,n(B+C+)は
N(B-C+)に比例していて,これらの比例係数は一致して
いると予想されます。
したがって,不等式N(A+B-)≦{N(A+C-)+N(B-C+)}
は不等式:n(A+B+)≦{n(A+C+)+n(B+C+)}と
変換されることになります。
これが「ベル(Bell)の不等式」の1つの形式であり,これ
なら現実の実施可能な実験によってテストすることが可能
なわけです。
そうして,この不等式の成立が「アスペの実験」などで
否定的な結果を得たため、アインシュタインらの「実在論者」
は敗北し,「量子論の非局所性」が示されるきっかけとなった
のでした。
※(参考文献):B・デスパーニヤ(Bernard D’espagnat)
量子論と実在」(The Quantum Theory and Reality)
※以上,再掲記事終了です。
※PS:これにより宇宙の始まりからあらゆる構成粒子の運命
は宿命として初期状態からほぼ一意的な軌道が発展方程式で
決まってしなっており人間の左右選択の意志も変えること
はできないというj人の運命は自由意志では避けられない
という運命論,宿命論のいわゆる「ラプラスの悪魔」は
否定され,宿命に逆らう人の意志も可能な要素となり
偶然の確率的な意味を持つという.哲学が勝利したの
でした。(終わり)
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