100. 物理学一般

2011年9月28日 (水)

数式より文章が多い科学記事(2006年7月)

 このところ,手抜きばかりですが「,数式より文章が多いブログ記事」(バックナンバー)の2006年7月からの続きです。

 まず,2006年7/3の記事「電気の伝わる速さ(分布定数回路)」です。

 この頃のこの記事から,そろそろ後半が数式ばかりになってるようです。

 次は7/5の記事「可逆と不可逆のはざ間(エントロピー増大則)」,そして7/6の記事「音(弾性波)の伝播」です。

 特殊相対性理論での有名な問題に関する7/7の記事「2台のロケットのパラドックス」も書きました。

 その後,数式ばかりで対象外の「フィボナッチ数列を解く」に続き,7/12の「オゾンホール」ですが,これは後に気象専門家の木下氏に誤りを指摘されて7/27には追加の訂正記事「オゾンホール(訂正)」を書きました。

 次は数学で7/15の「一筆書き(トポロジー入門)」です。そして7/16の記事「二酸化炭素の比熱比(物性)」です。次は数学のCantorの集合論から7/17の記事「集合の濃度(可算,非可算)」です。

 また,科学記事というよりも自身の回顧録の1つですが2006年7/18の「数学遍歴について」,それに,ネズミ算的な増加の次に単純な人口増加モデルを紹介した7/20の記事「人口増加とロジスティック曲線」があります。

(※これには続編として,最近の大地震の直後に書いた2011年3/17の記事「生態系とロトカ・ヴォルテラ方程式」があります。※)

 物理に戻って,@nifty「物理フォーラム」全廃に伴って,過去ログの整理で量子論の入口の黒体輻射はそれを実験観測する空洞の形に依らず同じ波数分布の公式に従うことの証明を試みた7/22の記事「黒体輻射(空洞輻射)と空洞の形状」,

 さらに,7/24の「ポジトロニウムの安定性」と,同じく7/24の反重力に言及した「負の質量」があります。

 次が記述の7/27の「オゾンホール(訂正)」で,それに続いて7/30の記事「気液平衡の統計力学」,7/31の記事「水中の物体(重心と浮心)」があります。

 次は,2006年8月のリストもアップする予定です。

PS:今年は,南極だけでなく北極でもオゾンホールが観測されたらしいですね。

 フロンガスetc.が増えたためか?通常は南極と違って北極周辺には大陸があって強い気流,海流などの影響で形成されても保持されにくいとされていたPSC(極地成層圏雲)が形成されて消えなかったのでしょうね。

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2009年10月23日 (金)

過去のやさしい科学記事

 このブログの最近の科学記事は結構細かい計算が多く,話題もややマニアックてすがかつては比較的やさしくて取っ付きやすいと思われる入門的な話題も取り上げていました。

 今日は,私自身の休憩(息抜き)とバックナンバーの宣伝を兼ねて過去の記事を2つ再掲します。

 まず,2006年8/16の「台風の進路(コリオリの力) 」です。

※(再掲開始)

 そろそろ台風が頻発する季節になりました。

 今日は,北半球では赤道付近で発生し,海域から多量の水分やエネルギーを吸収しながら発達して北上する台風が,なぜ右(東)の方に進路を変えていくのか?そして,なぜ上空から見て左巻き(反時計回り)の風が吹くのかという,ごくありふれた疑問について解説してみます。

 例として,ちょっと古いけど左回転しているLPレコードがあり,その上に"一寸法師"よりも小さい小人が乗っているという仮想的な状況を考えてみます。(左回転は仮定であって実際のLPレコードは裏から見ない限り右回転(時計回り)です。)

 レコードの中心は地球の北極に相当し,レコードの最大半径の部分は地球の赤道に相当します。 

 まず,レコードの回転している"最大半径=赤道"の上にいる小人が"レコードの中心=北極"めがけて真っ直ぐに小石を投げたとします。

 本人は真っ直ぐ中心に向かって投げたつもりでも,小石が手を離れた瞬間には慣性によって小石はレコードの回転スピードと同じ速度で右に向かう接線速度を持ちますから,実はそれは中心の方向に向かって真っ直ぐに飛ぶのではなくて,次第に右の方に逸れていくということになりますね。

 ↑ここで右というのは,小石を投げた小人にとっての右です。(わかっているとは思いますが念のため))

 次に逆に"中心=北極"の上に小人がいて今度は"最大半径=赤道"めがけてやはり小石を投げたとします。

 今度は北極で小人は自転しているかもしれませんが,スピンの回転半径はゼロなので,その慣性による小石の左右方向への速度はゼロですから確かに"真っ直ぐ"進むはずです。

 ところが,レコードの上,つまり北半球の地球上にいる人は"左から右=西から東"に回転しています。その人から見ると"上=北"から真っ直ぐ飛んでくる小石は"下=南"から見て"左に左に(西に西に)"逸れていくように見えます。

 逆に"小石を投げた方=北"から見ると,見かけ上はやはり右の方に逸れていくわけですね。

 小石を台風だとみなし地球の自転の角速度をΩとすると Ωは"360度=2πラジアン(rad)"を24時間で回転する角速度です。

 地球の半径をRとし,緯度をθとすると,そこでの回転半径はRcosθですから,回転の接線速度はΩRcosθです。

 したがって"赤道"での接線速度は最大速度"ΩR=時速1667km=秒速463m"ですが,日本付近の緯度:θ=35度での接線速度は"ΩRcosθ=秒速379m"で,日本付近では回転速度は赤道より"約2割=秒速80m"くらい減少しています。

 したがって,赤道付近で発生した台風は地球のまさつにより"ΩR=時速1667km=秒速463m"の地球にひきずられて慣性による右向きの速度を持っていて,その右向き速度は北上しても全く変わらないものです。

 しかし,地球自身の回転速度は緯度が上がるにつれて次第に小さくなるものですから,日本付近では1秒間に80mくらいの割合で,右(東)へ右へと逸れていくことになります。

 先にLPレコードの例で述べたように仮に北極で台風が発生して南下したとしてもそれは右に逸れていきます。

 実は北半球ではどこから投げた石も見かけ上,右に逸れていくわけです。

 例えばスナイパー:ゴルゴ13が1km遠方の標的を狙って狙撃しても,弾丸は僅かに右に逸れていくのでそれを勘定に入れて狙う必要があるわけです。

 もしも南半球なら逆に左に逸れるわけですね。

 こうした北半球で右にそれる現象は結局,遠心力などと同じく"見かけの力=慣性力"が働いていると考えることができて,それを発見者の名前にちなんでコリオリ(Coriolis)の力と言います。

 そして北半球での台風を考えると,台風ですから"中心=目の部分"の気圧が最低でまわりの気圧は目の部分のそれより高いわけです。

 風はどのように吹くか,というと水が高いところから低いところへと流れるように,風も気圧の高いところから低いところ目指してその気圧のスロープに沿って吹いていくわけです。

 もしもコリオリの力がなければ,風は"外周部から中心に向かって一直線に進む=落下していく"はずなのですが,コリオリの力によって気圧のスロープも右にねじれてしまっています。

 それ故,風は外周部から中心に向かっていくときに,右にフックして逸れていきながら,最後は中心の気圧最低の目に向かっていくことになり,そのために左巻き(反時計回り)になるのです。

 南半球での台風は逆に右巻き(時計回り)ですね。

 どこかの"バカな大学教授"は,風呂の水が排水口へと流れていき排水されるときに,北半球では左巻き(反時計回り)ですが,赤道を越えて南半球に入ったとたんに右巻き(時計回り)に変わる,などと主張したと聞きましたが,それは誤りですね。

 風呂の水程度の規模では地球自転の影響などは出てきません。

 たまたま排水口付近で左巻きの角運動量を持っていたら左巻きになり,逆なら右巻きになるというだけで,それはカオス現象,つまり偶然の産物でしかありません。

 しかし台風くらいの規模になると地球の自転がもろに効いてきます。

 遠心力の加速度は緯度θでΩ2Rcosθですから,最大でも重力の加速度の0.3%程度です。

 北極で体重100kg重の人が赤道で体重を測っても300g重くらいしか軽くはなりません。一方,コリオリの力の加速度は台風の北上の速度をvとして2Ωsinθ×vです。

 Ω=7,2×10-5/sですから,緯度θが35度で台風の北上速度が100mを10秒で走る程度の時速36km程度なら,加速度a=8.3×10-4m/s2であり,重力g=9.8m/s2の約0.01%程度です。

 そこで,コリオリの力の加速度は最大で重力加速度の0.3%程度しかない遠心力のさらに1/30程度にすぎませんが,台風程度の規模だとそれがかなり効いてきます。

 地球自転の証拠であるとされるフーコー(Foucault)の振り子をこのコリオリ力で説明することもできます。

 ニュートン(Isac Newton)は"慣性系の同等性=ガリレイの相対性原理"は認めても"回転系を含む非慣性系の同等性=マッハ(Mach)原理 → 一般相対性原理"を認めることをあきらめました。

 そして,彼が"絶対座標系=絶対空間"に固執せざるを得なかったのも,こうした"遠心力やコリオリ力の絶対性"を解消する道はない,という考えからだったという話もあります。

 こうした"見かけの力=慣性力"の扱いはとても悩ましいところがあります。

 (再掲終了)※

 そして,前後しますが2006年7/15の「一筆書き(トポロジー入門) 」があります。

※(再び,再掲開始)

 昔,ケーニヒベルクの橋(Königsberg bridge=seven bridge)という数学の問題がありました。

 「大きな河が流れていて,その中に中州のような島が一つあり,そこから少し下流で2本の河に枝分かれして,その間は陸地になっている。

 その島には両岸から2つずつと,枝分かれした2本の河の間の陸地から1つの合計5つの橋がかかっており,分かれた2本の河にもそれぞれ陸地と岸との間に1つずつ橋があって,合計7つの橋がかかっている。

 この7つの橋をちょうど一回ずつわたる道筋があるのかどうだろうか?」という問題でした。(下図)

           

 これはスイスのオイラー(Euler)によってはじめて解かれた問題で,これがトポロジー(位相幾何学)という幾何学の始まりであるとされています。

 まあ,「平たく言えばある図形について一筆書きができるかどうか?」という問題です。

 一般に連結した図形,つまりどこかで必ず線でつながっていてところどころ交差した頂点になっているような図形についてのこうした問題はオイラーによって既に結論が出されています。

 こうした図形のどの頂点にも必ず,それにつながった線が何本かあるわけですが,対象としている図形が一筆書きできるのなら,着目した頂点が出発点でも終点でもない場合は,それに"つながっている線=連結線"の数は必ず偶数になるはずです。こうした頂点を偶頂点と呼びます。

 というのは,一筆書きの途中の頂点では必ず,入ってくる線と出て行く線とがあって,それぞれ1回ずつしか通れないわけですから,それらは同じ本数だけ無ければならないので,その頂点につながっている連結線の合計本数は偶数になるしかないからです。

 しかし,出発点と終点では,それらがもし同じ頂点でないなら,必ず入ってくる線か出て行く線かのどちらかが他方より1本多いわけですから,その頂点につながっている連結線の合計本数は奇数になります。これは奇頂点といいます。

 ところで,出発点,または終点であるような頂点は2つあるか,またはそれらが一致する場合,つまり1つだけあるかのどちらかです。

 もしも,1つだけしかない("出発点=終点"の)場合には,その頂点でも入ってくる線と出て行く線の数は同じですから,つながっている連結線の本数は偶数となり,このときは連結線の本数が奇数の頂点は全く無いことになります。

 というわけで,一筆書きができるかどうかは,「連結線の本数が奇数である頂点=奇頂点」の個数がゼロであるか,2であるかのいずれかである。ということになります。

 今得られたことは,上の条件が一筆書きができるための必要条件であること(つまり"一筆書きができるなら必ずこの条件が満足されなければならないこと”)の証明ですが,これが十分条件であること(=”図形がこの条件を満足するならそれは常に一筆書き可能であること")もほぼ自明です。

 これで,ケーニヒスベルクの橋の場合は奇頂点が4つ,偶頂点がゼロなので一筆書きできないということがわかりました。

 これはオイラーがはじめて証明したことです。(下右図はケーニヒスベルクの橋を模式図にしたものです。)

                         

 これから,オイラー数の公式などに始まるトポロジーという幾何学が生まれ,これはフランスのポアンカレ(Poincare')などによって発展させられていきました。

 最近のトポロジー関連の話題としては,解決した?というニュースもあったと思うのですが,そうなのかどうかはっきりしない有名な「ポアンカレ予想(Poincare' conjecture)」という問題が未解決な問題として残っています。

 ポアンカレ予想とは「単連結な3次元閉多様体は3次元球面に同相である。」というものです。

 多様体というのは通常の我々のユークリッド世界の点,曲線,曲面,立体とかいうものを一般次元でかつ非ユークリッドなものにも拡張したものの総称です。もちろん,我々の目に見える形有る物も全て多様体の一種です。

 同相あるいは同位相というのは,"一方から他方へとある連続写像でお互いに完全に1対1に重なって移すことが可能である",という意味で,合同という概念とは異なって形や大きさにはこだわらないという特殊な幾何学的概念です。

 単連結とは言ってみれば穴が開いてないという意味です。また閉多様体であるとは,いわゆる閉曲面のように閉じているという意味です。

 我々の世界の球面は3次元空間の中に埋め込まれた2次元球面であり,3次元球面というのは4次元以上の「空間=多様体」の中に抽象概念として仮想したものです。

 我々の単連結な2次元閉曲面が普通の2次元球面と同相なのは一見して明らかなことなので,3次元だと何故むずかしいのかについては数学の専門家ではないのでよくわかりません。

参考文献:瀬山士郎 著「トポロジー(柔らかい幾何学)」(日本評論社)

PS:上では未解決と書いた「ポアンカレ予想」はロシアの数学者グレゴリー・ペレルマン(Grigory.Y.Perelman)氏によって2003年に提出されていた証明論文が2006年7月に査読を通過した,ということで解決されました。    

                                     (再掲終了)※

PS:昨日も学校で実習がありました。

 実習では,私は高齢者で要介護などの障がい者のモデルになることが多いのですが,そもそも介護というのは"その方たち=利用者"の気持ちを斟酌することが大切だと思いました。

 例えば右片マヒというのはどういう身体の状態なのか?ということなどを考え過ぎ,役に入り過ぎて本当に右足が動かないつもりになったりして介護役に迷惑をかけたかもしれません。

 おかげで,そうした役で右足と左足を間違えるなどということはありませんでしたが。。。。

 また,外での車椅子での逆に介護役の場合でも,介護相手役( C.I さんでした)の身体が心配で水道栓などデコボコを避けたり,車道側をどうしても保護したいというような気持ちが自然に起きました。。。

PS:先週末の土曜日には,インターネット以前の時代のパソコン通信ニフティサーブのフォーラム時代からの旧知で mixi でもマイミクである「みゅーみゅーさん」が,昨年末に移った関西(大阪)から新宿方面に来られたという情報が入りました。

 ついなつかしくて連絡してしまいましたが,強行日程らしいとのことでした。また後日での出会いを楽しみにしています。

  ← みゅーみゅーさんのホームページです。また,近いうちにOFFをやりたいですね。

 また,翌日曜日にはfolomyの物理フォーラムで私の顔がディラック(Dirac)に似ている?とか何故か褒めて頂いている「like-mjさん」と私の地元の巣鴨で待ち合わせて初めてお会いしました。

 folomyは旧ニフティから有志が一部引き継いでいるコミュニテイです。

 ハンドル「like-mj」の「mj」というのは「マイケル・ジャクソン(Michael  Jackson)」と「ミラ・ジョボビッチ」のイニシャルから取ったのだそうです。

 「ミラ・ジョボビッチ」の方は,所持しているDVDの「ジャンヌ・ダルク」の主役と「フィフス・エレメント」の第5番目のelementとして私も印象に残っています。

 そういえば,「like-mjさんの」プロフィールにそのように書いてあったのを失念していました。

 彼はfolomyでの書き込みから予想したよりもお若い方でしたが,当日は楽しい時間を過ごさせていただきました。1週間遅れですが,色々とありがとうございました。

 ちなみに,私のこのブログのURLの「maldoror-ducasee」は,シュールレアリズムの祖とも言われているロートレアモン伯爵の詩集「マルドロールの歌」と本名の「イジドール・デュカス」から取ったのは皆さんご存知ですよね。

(2006年9/2の「 ロートレアモンとサド 」 ,2007年12/12の「 ロートレアモンとサド(その2) 」参照)

(本当に大切なものは物理とか数学とかじゃなくて,もっと血の通った暖かいものだということが,もうほとんど先に望みのない今になってやっとわかったのかも知れない。) 

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2006年9月29日 (金)

物理的仕事と生理的仕事

 歳のせいなのか?最近左の肩が凝り左腕が痛いという症状に悩まされています。

 

 50肩再発の予兆かもしれません。左手に物をぶら下げて持つだけで痛みが走ります。

  

 人間の身体というのは神が機能的に創られたのでしょうが,こうした物理的仕事をしなくても生理的仕事をすることにより身体のエネルギーを消費して疲れや空腹を感じるようにできているのは困ったものです。

 

 物理学,特に力学においては仕事というのは,"力×移動距離"で定義され,この移動距離というのは力の働く向きの成分だけを指します。

 

 そしてこの力学的仕事をする能力のことが,いわゆる"エネルギー"として定義されるわけです。

 

 したがって物を手にぶら下げているだけで全く動かないなら,腕は"重力に抗する力=重さを支える力を働かせていても移動距離がゼロですから,腕が行なう"力学的仕事=物理的仕事"というのはゼロです。

 

 したがって,力学的にはエネルギーを全く必要としないのですから,物理学,特に力学だけを考えるなら身体が疲れたり痛みを感じたりすることもないはずなのです。

 

 では,何故我々は重い物を持って立ち止まっているだけで身体はエネルギーを消費し疲れたり汗をかいたりするのでしょうか?

 金属なら,金属疲労などという言葉はありますが,それは例えば機械の接合部などで繰り返し運動などによる物理的仕事を何回も受ける結果で,そのためにわずかでも振動などをするので移動距離があるからです。

  

 例えば,金属で出来ているとは限りませんが机の上に重い物を置いても机はもちろん剛体ではありませんから,その物体の重力を受けて最初はわずかに凹んだ後,弾性力によって反動を受けます。

  

 このために振動しても,その振動はすぐに減衰して静止した後には全く動かず,結局エネルギーを消費することはありません。

   

 こうした机や椅子とか建物の柱などの非生物が物を支えているだけで地震もないのに,ちょくちょく疲労を感じて倒れたり壊れたりしたらたまったものではありません。 

 それに対して,人間は鉄棒にぶら下がっただけでもやがて落ちてしまうというふうに,弾性体の一つであるとも言えない弱いものです。

  

 腕などの外部筋が内臓の腸などのように平滑筋でできていれば,その刺激に対する反応は比較的遅いので張力などに対して,まだしも長持ちするはずなのですが,

  

 如何せん,腕などというのは単に物を持つためだけにあるわけではないので,それは刺激に対して比較的反応が速い横紋筋でできています。

  

 それゆえ,引っ張られたりする刺激に対して急速に収縮と弛緩を繰り返すようにできているわけです。 

 物を下げていても外部的には動かないわけですから,何も物理的仕事をしていないように見えますが,実は"腕の筋肉=横紋筋"の組織は収縮と弛緩という振動運動のようなものを継続的に行なっているわけです。

  

 したがって,それは体の内部の筋肉自身にとっては,物理的仕事をしていることに他なりません。

  

 そこで,身体から発生する熱エネルギー(heat)などを用いてその物理的仕事をこなす必要があり,結果として疲れるわけですね。 

 これに対し,上にも述べたように鉄骨などで支えられている建物などが疲労を感じてバタバタ倒れたりしたのではたまったものではありませんが,

  

 それらが疲労したり倒れたりするのは現実に風や波や地震などの物理的作用によって,わずかでも運動をするからです。

  

 つまり,鉄骨などなら"力×動き"の物理的仕事を受けたときだけ"疲労する"のであり,静止しているだけでは人間のように疲労はしません。 

 まあ,人間も死体になってしまえば何か物をひもでぶら下げられたりしても疲労することはありませんがね。。。。

  

 張力でも圧力でも受けた刺激に対し化学反応などが起こって筋肉の収縮や弛緩の反応が起こるのも実は生きている証拠なのかもしれません。 

 参考文献:ファインマン物理学Ⅰ(坪井忠二訳)「力学」(岩波書店)

 

http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー)                                       TOSHI 

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2006年4月28日 (金)

トンデモ理論について思うこと

 常日頃から不思議に思っていることの一つに,「相対性理論は間違っている」という趣旨の,世にいうトンデモ理論はたくさんあるのに,「量子力学は間違っている」という趣旨のそれはほとんどないということがあります。

 常識から大きくはずれているということからすると,量子力学も相対性理論に負けず,劣らずと思われるのにも関わらず,相対性理論ばかりが一方的に攻撃されることが多いようです。

 その理由というのは恐らく次のようなことでしょう。

 すなわち,相対性理論は量子力学に比べてより人口に膾炙していることです。平たくいえば,世間一般の人(特に日本人)に名前だけでもよく知られているということですね。

 そして,相対性理論は微分や積分などを必要としない中学生の数学レベルで説明が可能であるということ,つまり敷居が低いことも大きな要因だと思われます。

 ヒョッとしたら,これらを利用してトンデモ理論の出版でベストセラーを狙っている某徳間書店などの陰謀?がからんでいるのかなとか考えたりします。

  それにしても,そうしたトンデモ学者の攻撃というのが,相対性理論を理解せずに,というか相対性理論を誤解し,その誤解した結果を攻撃して「間違っている」などというものが多いのに驚きます。

 また,本人のほんの思い付きで単に自分の常識と相容れないという理由から,歴史的経緯を経て淘汰された確固たる理論を攻撃しているものが多いと感じます。

 「自分がそれを理解することができないから,それは間違っているはずだ。」という自信に基づいて攻撃するのだとしたら,私にはそうした自信があることこそもっと理解できない話です。

  物理学を含む自然科学は人類100万年の歴史と比較すると,ヨーロッパルネッサンス期にその科学精神の萌芽が形成されてから,ほんの400~500年くらいで歴史があるとはいえない短いものですが,その間に爆発的に発展してきています。

 その現在までの400~500年を自然科学の有史時代と呼び,それ以前を有史以前と呼ぶことにしましょう。(もちろん,ヨーロッパにそうした萌芽をもたらしたのは東洋も含め,全世界の歴史による帰結でもありますが。。。。)

 有史以前は,「中世暗黒時代=キリスト教専制時代」や,もっと前は比較的自由だったと思われていますが実は奴隷などがいて本当に自由なわけではなかったらしいギリシャ古典自然哲学の時代などがありました。

 そうした時代には自然のしくみでさえ,「純粋思惟=座して単に沈思黙考」をすることのみで理解できる,あるいは神の御技であるとされていて,その結果,せいぜい地球上の自分の身近な経験から物事を神秘的に解釈して満足するような時代でした。

 そこでは自然哲学をも形而上学と考え,実験してデータを検証したりすることも無く,もちろん過去の歴史を受け継ぐことも無くて,検証されないので諸説が単に現われては消えていくということを繰り返していたわけです。

 それ故,天動説から地動説への変遷に典型的に見られるように,ガリレイが断罪されたり,また以前の理論が完全に間違っているということもしばしば起こったわけです。

 これに対して,有史時代以後は実験とは直接は関わらない数学という論理構造もはるかに整備されました。特に近代的な数式の記法が発明されたために以前の時代よりはるかに豊かな表現が可能になりました。

 さらに,前の時代の知見が様々な経験と実験とに裏打ちされながら,近代的で合理的な理論を付与されて淘汰されて行き,それらは懐疑され批判されるだけでなく,正しく選別され謙虚に次の時代へと継承されていったのです。

 有史時代の全ての実験や理論を,現代の人それぞれが全くの赤ん坊の状態から全部,追体験かつ追実験しなければならないとしたらいくら寿命があっても足りません。

 現代の技術環境は過去を懐疑して最初から全部確認し直すことでは得られず,過去を検証し確認しながら受け継ぐことによって得られたのです。

 もしも,過去と同じことを繰り返すだけであれば,親から子へ世代が変わるたびに後戻りすることの繰り返しで先に進むのは困難だったでしょう。

 こうした歴史の継承による進展は,現在ほどではないにろ,丁度当時印刷という技術が発明されて本という形で過去の発明発見を知ることが比較的容易になったということとも無縁ではないと思います。

 一人の400歳か500歳の天才がいたとしても,過去の全部のことを成し遂げることができないのは明白です。

 有史時代の歴史はたとえ短い400年か500年の間といえども,一人ではなく末端まで含め莫大な人々が関わり,淘汰されてきた結果なのです。

 それを単に身近な常識と矛盾するというような理由だけで理解もしないで,完全に間違っているなどと軽々しく述べることはできないのでは?と思うのは私だけでしょうか。。。。

 別に私は「定説科学教」というような宗教に染まっているわけではなく,柔軟な考え方もできるつもりの人間なのですが,それでもそうした批判を実行するほど自分の常識に自信はありません。

 政治や経済,思想や哲学なら,人間の関わっていることでもあり,議論で決着がついたり,ときには水掛け論になることもあるでしょう。

 しかし,数学や自然科学は単なる議論で決着することも,水掛け論になることもなく黒白がはっきりと決まるものだと思っています。

 そうしたものの真偽は多数決で決まるのではなくて,見る人が見ればトンデモかそうでないかをはっきりと判別できると思っています。

http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー)                                                  TOSHI

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2006年4月18日 (火)

基礎物理学講義⑤(力と運動3)

⑦いろいろな位置エネルギー

 

(ⅰ)重力の位置エネルギー

 

 鉛直上向きをz軸の正の向きとすると,質量mの物体に働く重力はz軸成分のみを持ち,それをFと書くとF=-mgである。ただしgは重力の加速度である。

 そこで,z=0 を地上として,それを重力の位置エネルギーの原点に取ると,重力の位置エネルギーはzの関数として(z)=-F(z-0)=mgzとなる。

 

 つまり,高さがhの位置での質量mの物体の有する重力の位置エネルギーはmghである。

(ⅱ)弾性力(ばね)の位置エネルギー

 ばねの伸びの向きをx軸の正の向きに取り,xだけ伸びたときに受ける力をFとすると,フックの法則(Hooke's law)によりF=-kxなる式が成立する。比例定数kは,ばね定数(弾性定数)と呼ばれる。

 

 そこで,ばねがxだけ伸びたときの位置エネルギーをU(x)とすると,-F=kxをx=0 を基準としてxまで積分した結果として(x)=(1/2)kx2なる。

 

 負の伸び(x<0),つまり縮みの場合でもxの長さが同じなら位置エネルギーは同じである。

(ⅲ)万有引力の位置エネルギー

 r=∞を基準として,万有引力:F=-GMm/r2に抵抗する斥力Fを位置rまで積分すると万有引力の位置エネルギーとして,(r)=-GMm/rが得られる。

 一般に宇宙の何もない空間の位置エネルギーはどこもゼロで,とこどころに星があると,そこだけ穴が開いたように引力のせいで位置ネルギーが負の値に落ち込んで谷のようになっている。

⑧いろいろな運動

 

(ⅰ)水平投射と斜方投射

 

  質量mの物体に外力として重力のみが働くとき,その物体が従う運動方程式は=mである。これはxを水平方向,yを鉛直方向で上向きを正とすると,成分表示でmax=0,may=-mgとなる。

 

 そこで,加速度は,水平方向がax=0,鉛直方向がay=-gであるから,物体の運動は水平方向には等速度運動,鉛直方向には等加速度運動である。

 

 水平方向から仰角θの方向に大きさv0の初速度0で物体が斜方に投射されたとすると,0=(v0cosθ,v0sinθ)である。

 投射された初期時刻をt=0 とすると,速度に対する時刻tにおける運動方程式の解は,速度の水平成分,鉛直成分についてそれぞれvx=v0cosθ,vy=v0sinθ-gtとなる。

 

 さら,投射された初期時刻t=0 における位置を(x,y)=(x0,y0)とすると,軌道に対する解,つまり時刻tにおける運動物体の位置座標はx=x0+vcosθt,y=y0+v0sinθt-(1/2)t2となる。

 

 ただし,θ=0 の斜方投射は特に水平投射である。これは,水平な地上付近ではy0>0 の高さのある場所から投げなければ不可能である。

 

 一方,時刻t=0 に地上y0=0 からものを投げ上げて,再びy=y0=0 の地上に落下する時刻はt=2v0sinθであり,物体の到達距離はx-x0=2v02sinθcosθ=2v02sin(2θ)となる。

 

 それ故,遠投では仰角θ=45度で投げたときに最も遠くへ届く。

(ⅱ)斜面上にある物体の運動

 

  質量mの物体が水平と角度θをなす斜面に置かれている場合には,重力mgと垂直効力Nの合力が,物体を斜面に平行にすべり落とす力に等しい。

 

 その力Fの大きさはmgsinθであり,また抗力Nの値はN=mgcosθである。もしも,摩擦があればその大きさはμNに等しい。

(ⅲ)等速円運動

 

 質量mの物体に長さrの糸をつけ,糸の他端0を中心として円運動させる。1秒間にωラジアンだけ回転するとき角速度がωであるという。

 

 このときの速さはv=rωである。等速円運動ではvは一定であるがその向きは1秒間にωだけ変わる。

 

 したがって,加速度の大きさはゼロではなくa=vωである。

 

 つまりa=rωであるから,等速円運動中の物体が受ける力は物体から中心0の向きを持ち,大きさはF=ma=maω2である。

 

 この力を,回転運動における向心力という。

(ⅳ)惑星の運動

 

 1610年ごろケプラーはティコ・ブラーエ(Tycho Brahe)の長年にわる観測結果から,ケプラーの法則(Kepler's law)を発見した。

 Ⅰ.惑星の軌道は太陽を1つの頂点とする楕円である。

 Ⅱ.惑星と太陽を結ぶ線分が一定時間に通過する面積(面積速度)

 は一定である。

 Ⅲ.惑星の公転周期の2乗は、楕円軌道の長半径の3乗に比例する。

これは,ニュートンの万有引力と上で示した等速円運動の向心力が等しいと置けば導かれる法則である。(ただし,簡単のため,法則Ⅰにおいて一般の楕円軌道ではなくて特に円軌道を仮定した。)

(ⅴ)単振動

 

 半径Aの等速円運動をしている点QにX方向から平行光線を送り,Y軸上に射影してできる点Pの軌跡はY軸上の往復運動になる。

 Qの角速度をωとし,投射点Pは時刻t=0に原点からスタートしたとすればPの軌跡はy=Asin(ωt)となる。

 

 このように,変位yと時間tの関係がsin関数,またはcos関数になる運動を振動という。

 

 この運動でのPの速度はv=Aωcos(ωt)である。

 

 円運動の加速度は-Aω2であるが,単振動は円運動の射影なのでその加速度は-ω2y=-Aω2sin(ωt)である。

 

 よって,質量mの点Pの受ける力はF=-mω2yとなる。

 

 これは,ばねに結ばれた質量mの質点の受ける力Fに対して成立するフックの法則F=-kyに従う,質点の振動が速度ωの単振動に一致することを示している。

 

 ma=F=-ky=-mω2yより,k=mω2であり振動の周期Tは円運動の周期(2π/ω)に等しいので,T=2π√(m/k)である。

(ⅵ)みかけの力=慣性力,特に遠心力

 

 これについては省略する。あとで機会があればくわしく説明したい。

⑨剛体や流体に働く力

 

(ⅰ)剛体に働く力

 

 N個の質点からなる質点系の運動は,1つの質点の座標(位置ベクル)が3個の数で表されるので,3N個の質量×加速度を3N個の力と結びつける3N個の運動方程式で表わされる。

しかし,大体1gの固体物質は約1023個の莫大な個数の分子で構成されており,またそれらの間に働く力(基本的には電気的力)の性質もはっきりしてはいない。

 

1gでさえN~ 1023なので,一般に3Nというのは巨大な数となってまって,これらの運動方程式系を解くことはきわめてむずかしい。

 一方,剛体とは押しても引いても決して形が変形しない物体のことであり,それらを構成している質点系の2点間の距離はどんなに運動しても変化しないものである。

この性質のため,剛体の中の異なる2点の運動さえわかれば,残りのすべての点の運動は完全に決まってしまう。

 

つまり,運動を完全に記述するのに3N個の運動方程式は必要ではなく,6個の運動方程式がありさえすれば十分となる。

 

このように,多粒子から構成される力学系の運動を完全に記述するのに必要な運動方程式の数:3Nとか6をその系の自由度という。

 そこで,特に剛体の重心というものを定義してその運動のみを考えるとそれは3個の運動方程式となる。

 

 剛体ではあと3個の運動方程式は回転運動に関するものである。

 

 x,y,z軸のそれぞれのまわりの回転の角速度を自由度に選ぶことにより3の運動方程式が得られる。

 I=Σmi(xi2+yi2)をz軸のまわりの慣性モーメントという。(iは剛体を質点系と考えたときの各質点の番号である。)

 

 たとえば,z軸のまわりの回転の角速度をωとすると,(dω/dt)=(z軸のまわりの力のモーメント)という運動方程式が成り立つ。

よって,重心に働く力=(外力の合力)がゼロで,力のモーメントもゼロなら剛体系はつりあいの状態にあるといえる。

 

つりあいとは静止していることではなく,重心が一定速度で等速運動し,また地球のように剛体が一定角速度で回転するである。

ア)重心とは?

 

 N個の質点がそれぞれ質量mと位置ベクトルiを持つとき,質量をM=Σmiとして,重心の位置ベクトル:=(∑mii)/Mで定義する。

 

 特に重力mgのみがかかる状態では,重力による力のモーメントを求めることによって重心の位置を求めることができる。

(問)半径aの均質な円板がある。これから,円板の半径の中点を中心とする半径a/2の円板を切り取った残りの板の重心の位置を求めよ。

イ)力のモーメントとは?

 

   剛体のある支点からrの距離にある点に力が働くとき,その力のベクトルの腕となす向きの角度がθであるなら,l=rsinθとしてFl=Frsinθをその支点のまわりの力のモーメントという。

(ⅱ)圧力と浮力,および流体

 

 全ての物体は弾性(押したり引いたりする力に反発する性質)を持っている。その力:2つの物体の一方が他方に与える単位面積あたりの力を応力という。

応力には,"面に垂直にかかる力=法線応力(圧力,張力)"と"面に平行にかかる力=接線応力(せん断応力 or ずり(ずれ)応力)とにベクトル的には2種類に分けられる。

特に,ここでは圧力だけを考える。

 

面を垂直に押す力をF,その面の面積をSとすると,圧力PはP=F/Sで定義される。

 

圧力の単位は,Pa(パスカル)である。ただしPa=N/m2である。100Paのことを1hPa(ヘクトパスカル)ともいう。

流体とは,静止状態では圧力以外に応力を持たない連続体のことである。流体内では,接線応力を持つ性質のことを粘性というが,これは摩擦のことである。

 

つまり,この応力を粘性力というが,これは摩擦力のことである。

静止状態で,もし摩擦があると必ず流れ出してしまうので流体は静止状態では"摩擦=粘性"はない。しかし,運動中では一般に流体は"粘性=摩擦"を持っている。

 

運動中でも粘性がない理想的流体を完全流体(理想流体)いう。

ふつうの粘性のある流体のことは粘性流体という。

 

また圧力を受けても縮まない理想的な流体のことを非圧縮性流体という。地球上では水がその代表的な例である。

 

一方,圧力を受けて縮むふつうの流体のことを圧縮性流体という。

a)重力による大気の圧力,水の圧力

 

 地球上の空気は"地球の引力=重力"によって地球上に押さえつけられている。空気の地球表面付近の重さが大気圧,または単気圧である。

1気圧とは,たまたまトリチェリーが水銀柱の高さで気圧を測定したときにその高さが76cm=760mmであったので,そのときの気圧の大きさを1気圧と定めたものである。

 

1気圧は760mmHgであるともいわれるが,その大きさはHgの度が13.6g/cm3,あるいは13.6×103kg/m3なので,重力加速度g=9.8m/s2を考慮して13.6×103×0.76×9.8=約1013hPaとなる。

一方,1気圧は一般には1033.6g重/cm2であって1cm2の面積に約1kg重の力がかかると考えてよい。

水や油は,その密度ρが一定の近似的に非圧縮性流体である。

 

特に水は密度がρ=1g/cm3,海水は密度がρ=1.03g/cm3である。

 

面積S深さhの直方体の体積はV­=Shであり,その非圧縮性流体の重さはF=ρVg=ρShgであるから,深さhでのそれによる圧力はP=F/S=ρghである。これが水や油の重力による圧力である。

  水の場合,深さ10mの位置の水圧は1×103×10×9.8=980hPaである,つまり約1気圧に相当する。

 

 海水でもだいたい同じである。

 

 そこで深さ10mの海中にいる場合,受ける圧力は"気圧+水圧=約2気圧"で空気中にいるよりも2倍の圧力を受けることになる。

b)パスカルの原理

 

 これは水や油の深さが同じ位置では同じ圧力であるという性質を述べた原理であり,単にF=PSであるというのがその内容である。

 

 つまり,圧力Pが一定なら受ける力Fは面積の大きさに比例するということである。

c)浮力

 

 浮力は,物体が流体中にある場合,その上面に受ける圧力より深い位置にある下面に受ける圧力の方が大きいため,総体として上向きに力を受けるその力のことをいう。

別の言葉でいうなら,流体中で物体の部分をくり抜いて,そこに同じ形の流体を流し込んだ場合でも,残りの流体はそれを支えて静止したまま動かないはずなので,元の物体があっても残りの流体は丁度そこに流し込んだ仮想流体を支えるのと同じ上向きの力を及ぼしていると考えられることで説明できる。

 結論として,物体はそれと同じ体積の流体の重さと同じだけの浮力を受けるということになる。これをアルキメデスの原理(Archimedes principle)という。

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2006年4月17日 (月)

基礎物理学講義④(力と運動2)

②重力と万有引力

(ⅰ)運動方程式 

 加速度を質量と力で表わした式を運動方程式という。つまり,mである。

(ⅱ)万有引力の法則 

 あらゆる物体間には,その互いの質量の積に比例し,その間の距離の2乗に反比例する引力が働く。

 これをニュートンの発見した万有引力の法則という。

 接触していない2つの物体の間に力が働くというのは驚くべきことである。

 電気力や磁気力なども万有引力よりはるかに大きい力としてこうした遠隔作用をおよぼす。

 これらの力の原因は,現時点では,もう少し常識的に理解しやすい近接作用と解釈されている。

 万有引力の法則を式であらわすと,F=GMm/r2である。

 ただし,m,Mは2つの物体の質量(kg),rはその距離(m),Gはその比例定数で万有引力定数と呼ばれる。

 Gは,およそ6.673×10-11Nm2/kg2である。

(ⅲ)重力とは?

 地球の半径をR(m)とする。

 地上付近の物体は,まるで地球の全質量がその中心の一点に集まったかのような引力を中心に向かって受ける。

 この地上付近の物体が受ける万有引力を重力という。地上の場合,この力は地球の中心に向かっている。

 力の大きさは,F=GMm/R2だから運動方程式は,ma=GMm/R2でありGM/R2をgとおくと,落下の加速度aが,a=gとなるので,この加速度 g(m/s2)を重力の加速度という。

 地球が平らに思えるほど地球半径Rに比べて低い高さの地上付近では,重力落下の加速度gはほとんど一定と近似してよく,だいたい9,8m/s2である。

③ばねの力

 ばねを引っ張って伸ばすと,その力に比例してばねが伸びる。

 一方が固定されたばねを押すと,その力に比例してばねがちぢむ。

 このとき,ばねが手を引いたり押したりする力をとすると,それは手がばねに加える力と向きが反対である。つまり手の作用に対する反作用である。

 そこで,ばねの伸びる向きを伸びxの正の向きにとると,ばねが手におよぼす力の向きはxとは逆向きである。

 それ故,比例定数をkとして F=-kxと書ける。これをフック(Hook)の法則という。

 kをばね定数,または,ばねの力が弾性力であることから弾性定数という。

④運動方程式の解としての直線運動

(ⅰ)運動方程式とは?

 既に述べたように質量がmの質点の運動方程式は/m または,mである。

 あるいは微小時間Δtの間の速度の微小変化をΔとするとΔ/Δt=/m,これが運動方程式である。

(ⅱ)地球重力と落体の運動

 ア)自由落下運動

 ma=mgより,a=gである。

 t=0で,初速度vが v=v0=0で,初期の鉛直下向きの位置座標がz=0 であったとすると,時刻 t では,v=gt ,z=(1/2)gt2 ,v2=2gz となる。イ)真上への投げ上げ運動 ma=-mg t=0 ,で地面z=0から初速v=v0で真上に投げ上げたときの運動 v=v0-gt,z=v0t-(1/2)gt2である。

(ⅲ)摩擦(まさつ)と運動

 ア)静止摩擦力 

 物体が水平な机上に静かにおかれているとき,物体は静止しつづける。

 物体には重力と"机からの反作用=垂直抗力"Nが働いてつりあっている。

 これに水平な(横向きの)力 f を加えてみる。

 それでも物体が動かない場合これには机から物体に逆向きの水平な打ち消す力:F=- f が働いているにちがいない。この力Fを静止摩擦力という。

  f を次第に大きくしていっても摩擦力Fの大きさは決して f より大きくなることはなくいつも f と同じ大きさである。これが摩擦力の特徴である。

 しかし f がある値を越えると急に物体は動き出す。このときの f の大きさをF0と書く。この摩擦力を最大静止摩擦力という。

 F0は机に押しつける力の大きさ,つまり,"机から受ける力=垂直抗力"Nに比例する。これの比例定数をμと書き静止摩擦係数という。

 これには単位はない。比の値だからである。そして,F0=μNである。

イ) 動摩擦力(運動摩擦力)

 運動しているときにも,物体にはほぼ一定の摩擦力F’が働く。これを動摩擦力という。

 F’も垂直抗力Nに比例し,その比例定数μ’は動摩擦係数とよばれる。F’=μ’Nである。

 常にμ’<μである。逆ならおかしな矛盾がおきます。考えてみてください。

⑤運動量

(ⅰ)力積と運動量

 ニュートン(Newton)の運動の第2法則:ma=Fを書き下すと,Δt のあいだに力Fが働いて速度が v1からv2になった場合は,m(v2-v1)/Δt=F と近似的に書き表わせる。つまり,mv2-mv1=FΔt である。

 質量と速度ベクトルの積 mv をその物質の持つ運動量という。

 運動量は観測者によって,いろいろと異なる量である。

 たとえば旅客機の中で歩いている人の運動量は旅客機の中の人が観測すると小さいが,地上の人が観測すると非常に大きい。これは後に説明するエネルギーについても同じである。

 ある時刻からある時刻までの間の力Fは,その間に時刻ごとに変わる。

 時刻を t として力はF( t )という関数として書いてよい。

 このとき,力積とはその時間の力と時刻の積和である。すなわち,力積=ΣF( t )Δt,つまり,厳密には積分∫F( t )d t のことを力積というのである。

 先の運動の第2法則を書きなおすと,m22-m11=ΣFΔtとなる。ここでは,質量も時刻と共にm1からm2に変化すると想定している。(これが正しい第2法則である。)

 そして,(運動量の増加分)=(その間に受けた力積)である。特に力Fが時刻 t1から t2の間一定ならば,(受けた力積)=F(t2-t1)となる。

(ⅱ)運動量保存の法則

 ニュートンの運動の第3法則(作用・反作用の法則)によると,衝突した2つの物体は衝突しているごく短い時間ではあるが,互いに働く力は大きさ等しく向きが反対である。

 2つの物体1と2が衝突するとする。その質量を,それぞれm1,m2とし,衝突前の速度を v1,v2, 衝突後の速度をv1’,v2’とする。

 衝突時間をΔt とし,その間に1が2におよぼす力をF12,2が1におよぼす力をF21とする。作用反作用の法則によって,F21=-F12である。

 一方,1,2のそれぞれについてm11’-m11=F21Δt , m22’-m22=F12Δt である。21Δt+F12Δt=0 なので両方の式を加えるとm11’-m11+m22’-m22=0 となる。

 移項すると,結局,m11+m22=m11’+m22’が得られる。

 これが運動量保存の法則である。

⑥力学的エネルギーとその保存法則

(ⅰ)仕事 

 物体に一定の力を加えて,そののかかる向きに距離xだけ移動させたとき,この力は物体にW=Fx だけの仕事(力学的仕事)をしたという。

 1Nの力で1m移動したとき1J(1ジュール)の仕事をしたという。つまりJ=Nmである。

 の力を加えても移動方向xがの向きとθだけの角度をなすときは,仕事はW=Fxcosθとなる。摩擦力は必ず負の仕事をする。それはなぜか?

(ⅱ)仕事率 単位時間(1秒間)にする仕事の割合を仕事率という。

(ⅲ)運動エネルギー 

 止まっていた物体が速度になったとき,摩擦などの抵抗がないなら,それまでにされた総仕事量を物体が今持っている運動エネルギーであるという。

 つまり,加速度が になるように =mの力を受けながら距離 x を運動しその間に速度が 0 から まで変化したとすると,v2-0=2ax であるから,(1/2)mv2=max=Fx である。

 よって速度 ,質量mの物体の持つ運動エネルギーは(1/2)mv2 である。

 定義から, (運動エネルギーの増加分)=(加えられた仕事量)が成り立つ。

つまり,座標x1からx2まで移動する間に力 =m を受けて速度が 1から 2 に変化したとすると v22-v12=2a (x2-x1)であるから (1/2) mv22-(1/2) mv12=F(x2-x1)が成立する。

(ⅳ)位置エネルギーと力学的エネルギーの保存法則

 ある物体を,ある特定の固定した位置 xからある位置 x まで(速度ゼロのままでゆっくりと)持ってこようとしたとき,そのために必要な仕事をその物体の x における位置エネルギーという。

 この物体を速度ゼロで x0から x までもってくるとき加えるべき力を(-)とすると,その位置エネルギーはが一定なら,(-F) (x-x0) である。

 なぜ,でなく(-)かというと,はほっておいても自然に物体にかかる力で,(-)は,それの速度ゼロにしておこうとする力だからである。

 位置エネルギーは,U(x)=(-F)(x-x0)と表されるから,(1/2)mv22-(1/2)mv12=U(x1)-U(x2),つまり,(1/2)mv12+U(x1)=(1/2)mv22+U(x2)である。

 言い換えると,(運動エネルギー)+(位置エネルギー)=(常に一定)となる。

(ⅴ)力学的エネルギーが保存しない場合

 基準点,OからPまで物体を自然に働く力に抵抗してゆっくりと運んだときに,OQPという道筋とOQ’Pという異なる道筋で必要な仕事が異なる場合には点Pの位置エネルギーがPの位置だけで決まらず道筋で変わることになるので,位置エネルギーというものが存在できない。

 このような場合には,もちろん力学的エネルギーは保存しない。

 つまり,OQPQOと1回転して元のOに戻ったときに要した仕事量がゼロでない場合は位置エネルギーは定義できないし,力学的エネルギーは保存しない。

 たとえば道筋のどこかで摩擦力が働く場所が少しでもあれば摩擦力は必ず運動の向きと逆向きに働くから,負の仕事しかしないのでどちら向きに回転しても仕事はゼロにはならず,この場合力学的エネルギーは保存しない。

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2006年4月15日 (土)

基礎物理学講義③(力と運動1)

1.運動学と力学

 運動学とは物体の変位と速度と加速度,運動方向などを調べるものである。つまり,物体の運動する道筋を時間の関数として幾何学的に表わす方法で,言わば数学的なものである。

 一方,力学とは,物体の運動と"外部環境=力"との関係を調べるものである。つまり"数学的軌道=幾何学的な運動学"を現実の物理的作用と関連付けるものである。

(1)運動学

①変位-物体がある位置からある位置への運動をするときの移動経路を変位という。

ⅰ)位置(空間の点)は,われわれの3次元空間では3つの数字で決めることができる。それを座標という。

 たとえば(1,-2,7)とかが位置を示す点の座標である。この場合,1,-2,7を,それぞれx座標,y座標,z座標という。

 特に,座標(0,0,0)で与えられる点を原点という。ただし原点は宇宙空間のどこにとってもよい。(空間の一様性)

 また,xyz座標軸は右手系の3つの直交軸であれば,これらをどの向きに回転された方向にとろうと自由である。(空間の等方性)

ⅱ)変位は,実際にはある時間のあいだに起こる。

 時間を小さくきざんでいくと経路は非常に短い直線分を結んだ折れ線とみなすことができる。 そして,ある1つの小さい直線分をABと書いたとする。

 Aの座標が(xA,yA,zA)でありBの座標が(xB,yB,zB)のとき,この変位を(xB-xA,yB-yA,zB-zA)で表わしてこれをABとベクトル記号で表わす。

②速度-速さとその向きを総称して速度という。

ⅰ)平均速度とはある地点Aからある地点Bまでの直線変位をその移動にかかった時間で割ったものである。

 (平均速度)=AB/(移動時間)である。ただし,ベクトルABを時間Δtで割るとは,新しいベクトル=(vx,vy,vz)=((xB-xA)/Δt,(yB-yA)/Δt,(zB-zA)/Δt)をつくることを意味する。

ⅱ)Δtを無限に小さくしてゼロに近づけて極限を取ることを"微分する"というが,このときの速度のことをその瞬間の速度または単に速度という。

③加速度-速度の変化率のこと

 変位がベクトルなので,それを時間で微分した速度もベクトルである。その速度ベクトルも一般には一定ではなくある時間のうちには変化する。

 ある時間Δtの間の速度の変化分ΔをΔtで割ったもの=Δ/Δtを平均加速度という。

 Δt を ゼロ にしたときの=Δ/Δtを速度の微分係数といい(瞬間)加速度と呼ぶ。加速度もベクトルである。

(2)力学

①運動の法則(ニュートンの運動の3法則)

ⅰ)第1法則(慣性の法則)

 "物体Aがあらゆる他の物体から無限に離れていて全く影響を受けない場合,その物体Aは等速度運動(等速直線運動)をする。"

 これは実は奥が深い

ⅱ)第2法則(運動の法則)

 "物体の加速度 は受ける力 に比例し質量mに反比例する。"

 すなわち,=k/m,あるいは =k'm, ただしk,k'は比例定数である。

 ただし,の単位をN(ニュートン;Newton)=kgm/s2に取ればkもk’も1になるので記号k,k'は不要である。

 この法則(ⅱ)によれば,=0 は =0 を意味するため,自動的に法則(ⅰ)が得られるので,(ⅰ)は不要であるように見えるが果たしてそうだろうか?

 ⅲ)第3法則(作用・反作用の法則)

 "2つの物体A,Bがあるとき,AがBから力を受けたとき,逆にBはAによって大きさが等しく向きが正反対の力を受ける。"

 実は,法則(ⅱ)と(ⅲ)を一緒にして初めて質量mの定義が可能となる。

 力とは何か? ←  これが不明なまま法則が先にできてしまった。

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2006年4月10日 (月)

基礎物理学講義②(波と音と光)

 「波,特に音と光」

 (1)波(wave)とは? 

 流れのない池に小石を投げ込むと,小石が落ちた点を中心として波紋が周囲に広がってゆく。

 しかし,このとき水面に浮かんでいた木の葉があったとしてもそれはその場所で上下に振動するだけで波紋とともに移動することはない。

 つまり,この波紋は水そのものが広がっているのではなく単に水の振動が伝わって広がっていることがわかる。

 このように振動などが周囲に伝わっていく現象を波または波動という。

 波の数学的定義は次のとおりである。

 ある時刻 t=0 に y= f (x)という形の曲線で表わされるパルスがあったとして,このパルスが時刻 t には元の位置よりも右にvtだけ平行移動されたとすると,その関数形は y=f (x-vt)となる。

 このように,速度vで形が伝わってゆく現象を波というのである。

 特に,(x-vt) を波の位相と呼び,v を位相速度という。

 また,この曲線形を波形と呼ぶ。

 波には力学的な波(たとえば音)と力学的でない波(たとえば光=電磁波)がある。

 その大きな違いは,力学的な波というのは必ず媒質が必要であるが,"電磁波=光波"は真空中でも存在し,媒質は必要ないことである。

 かつては「電磁波=光波」も力学で説明しようとしたため,媒質としてエーテルという架空の物質を想定していた。

 力学的な波は"媒質の圧力によって伝わる波=縦波"と媒質のずれ応力=まさつで伝わる波=横波"とこれらの組み合わせによる波があり,圧力やまさつ応力などの弾性により媒質が振動することによって伝わってゆくので弾性波とも呼ばれる。

 したがって,「力学的な波=弾性波」の一定の位相速度 v とは媒質に対する相対速度であり,観測者に対して媒質の風が吹いていれば,観測者にとっての位相速度は媒質に対する位相速度に風速を代数的に加えたものとなる。

 これに対して媒質のない光の位相速度は媒質とは無関係な各観測者に対する速度である。

(2)正弦波と波長,振動数、波数

 特に波の形が,正弦関数 y=f (x)=Asinkxの形をしている場合:y=f (x-vt)=Asin{k(x-vt)} を正弦波という。

 このとき波の隣り合う山と山の距離を波長(wave length)といいλで表わす。これはkλ=2πであることを示しているのでk=2π/λである。kあるいは1/λを波数(wave number)という。

 また,ある座標がxの固定位置で,1秒間に(山+谷)が現われる回数を振動数(frequency)といい f で表わす。

 たとえば,x=0 では y=-Asinkvt となり,周期をTとすると kvT=2πで, f =1/Tなので, f =kv/(2π)=v/λと書ける。

 そこでy = sin {2π( x /λ-f t)} と書ける。

(3)波の干渉とうなり,重ね合わせの原理

 通常のバラバラに移動している波でも,それらがある点をある時刻に通過するとき,全体として合成された波は結局それらを単にベクトル的に加えたものとなる。これを「重ね合わせの原理」という。

 一般に,バラバラに移動している波を合成してもそれらは振動する向きも進行方向もバラバラであるから目立った現象は見られない。

 これに対して,進行方向も振動する方向も同じであるが位相だけが違うような波達を合成すると,例えば振幅が同一である2つの波が半波長だけ位相がずれていれば完全に波は打ち消しあってしまう。

 つまり,光なら真っ暗になり音なら無音になる。

 逆に位相がまったくずれていないなら,振幅が2倍に強調される。光なら明るくなり,音なら2倍の音量になる。

 こうした現象を波の干渉という。

 干渉する波同士を"コヒーレント=可干渉"な波といい,そうでない波をインコヒーレントな波という。

 通常の飛んでいる光達はほとんどインコヒーレントで,だからこそ,影がない限り明るさはどこでも同じであって,まばらにはならないのである。

 もしも,部屋の中の光達の位相が,完全に統計的に逆相関,すなわち,相関係数が-1 なら,元々バラバラの光達なので部屋は真っ暗になるが,そうはならないのは統計的に無相関(相関係数がゼロ)がほぼ成り立っているためである。

 一方,1つの光源から出た2つ以上の光線などは,コヒーレントであって干渉しやすい。

 干渉を数式で表わすと次のようになる。

 y1=Asin(kx-ωt+α)で表わされる波と,y2=Asin(kx-ωt+β)で表わされる波とを重ね合わせると,y1 + y2=2Acos{(α-β)/2}sin{kx-ωt+(α+β)/2}となるので,たとえばα=βなら振幅は2Aになり,α-β=±πなら振幅はゼロになる。

 一方,振動数 f1 と f2 がわずかに異なる2つの波,つまり角振動数ω1とω2がわずかに異なる場合には,y1=Asin(kx-ω1t+α)で表わされる波とy2=Asin(kx-ω2t+β)で表わされる波とを重ね合わせることになり,これは干渉ではなく,うなりという現象になる。

 y1 + y2=2Acos{(ω1-ω2) t/2+(α-β)/2}sin{kx-(ω1+ω2)t/2+(α+β)/2}となって,Δf≡f1-f2 とおけば振幅項が 2Acos{πΔf t +(α-β)/2}となるので,振幅の絶対値が周期 (1/Δf ) で振動することになる。

 これをうなりという。

 つまり,うなりの振動数は元の2つの波の振動数の差に等しい。

 電波で信号を送るときには信号が低周波のうなりに相当し,高周波の方は搬送波と呼ばれる。

 合成波の中から"うなり成分=信号"を取り出して,不要な搬送波を取り除くことを検波という。

(4)ホイヘンスの原理

 波の山同士など、位相が同じ点をすべてつないでできる面を波面という。波面が平面である波を平面波といい球面である波を球面波という。

 点から発生した波は,その位相速度があらゆる方向について同一であるから球面波となるはずである。これに対して大きさのある物体から出た波は,いろいろな波面を持つことになる。

 理想的に無限大の面から出た波が平面波になる考えられる。

 ホイヘンス(Huygence)は空間を伝わる波を次のように説明した。

 波が波面を形成したのち次の波面を形成するには,"今の波面の各点から無数の微小球面波が出てそれを素元波と呼び,それらの重なったものつまり包絡面が新しい波面となってゆく"というシステムになっている,としたのである。これを「ホイヘンスの原理」という。

(5)波の反射と屈折

 「ホイヘンスの原理」から,波が媒質Ⅰから媒質Ⅱに入射するとき,その境界面で発生した素元波がⅠの側に進むものを反射波,Ⅱの側に進むものを屈折波といいこれらの現象を反射,屈折という。

 一般に,媒質Ⅰと媒質Ⅱでは波の位相速度は異なると考えられるが,ⅠとⅡで異なるのは空間の性質であって時間が異なるわけではない。

 そこで速度の異なる原因は振動数ではなく波長である。異なるのは波長であって振動数は屈折によっては変化しない。

 反射では速度,波長も変化しないので「入射角=反射角」である。これを反射の法則という。 

 一方,屈折では入射角をi,屈折角をrとしⅠ,Ⅱでの波の位相速度を,それぞれv1,v2とすると,n=sini/sinr=v1/v2=λ12=n12と書ける。

    

 このn≡n12を媒質Ⅰに対する媒質Ⅱの(相対)屈折率という。そしてn=sini/sinrという性質を「スネル(Snell)の屈折の法則」という。

(6)音のドプラー効果(Doppler effect)

 静止している観測者に近づいてくる電車の警笛は電車自身の警笛よりも高い音(振動数の大きい音)に聞こえ通過して遠ざかる電車の警笛は逆に低い音(振動数の小さい音)に聞こえる。

 これを音のドプラー効果という。これは次のように説明できる。

 音の周期を T=1/f, 音速をcとする。さらにある時刻に音源と静止観測者の距離をLとし,近づく音源の速さをvとすると,その時刻に発せられた音の山はL/cの後に観測者に届き,次の山は T+(L-vT)/cの後に観測者に届く。

 よって観測者の感じる周期はT'=T-(vT/c)=[(c-v)/c]Tとなり,その振動数は, f'=(1/T')=f[c/(c-v)] となる。さらに観測者も速度uで音源に近づくならば,分子の音速の方が(c+u)となるので,振動数は f"=f[(c+u)/(c-v)] となるのである。

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2006年4月 8日 (土)

基礎物理学講義①(温度と熱)

 私の池袋での専門学校での講義録です。


 (※平成8年度から6年間,約50名のクラス3つで,毎週各1コマ

 90分の専門学校レベルの教養の物理を講義していました。)

 
  「温度と熱」


 (1)はじめに。。。 

 
 本講のテーマとしては、熱とは何か?,そして温度とは何か?ということ

 を中心に考えていく。


 (2)熱平衡と経験温度

 
 物体Aと物体Bを長時間接触しておくと,これらはやがて熱的に同じ一定

 の状態に落ち着く。この状態に落ち着くことを熱平衡という。

 
 AとBが熱平衡にあり,BとCが熱平衡にあるならば,AとCも熱平衡にある。

 これを熱力学第0法則という。

 

 熱平衡にあるかどうかを決める指標が温度,すなわち経験温度である。

 
 温度計は温度と物体の膨張が比例するという性質と熱力学第0法則

 を利用している。


 つまり,Bという温度計をAとCにそれぞれ長時間接触することにより,

 AとCを直接接触することなく,AとCが熱平衡にあることを知るのである。


 経験温度を決めるには,まず,1気圧中での"水の融点(氷点,または凝固点

 ともいう)=氷と水の境目の温度"を0 ℃とする。


 次に,1気圧中での水の沸点,つまり,水が気化して水と水蒸気が共存

 するとき,"飽和水蒸気圧がちょうど周囲の1気圧と一致するようになる

 境目=沸騰する状態"を水の沸点と呼び,このときの温度を100℃とする。


 そして,アルコールや水銀などの温度計の内部物体の,水の氷点と沸点

 の間の膨張長さを100等分して目盛で表わしたものを摂氏(Celsius)温度

 という。


 (3)熱膨張と絶対温度


 ①固体と液体の熱膨張


 これは熱のせいで,固体や液体を構成している"分子の運動=特に振動

 などの往復運動"が激しくなり,構成分子間の平均距離が増大する結果

 として体積が増加する現象のことをいう。


 一般に近似的に体積Vの固体,液体の体積増加分ΔVはその温度上昇分

 Δt に比例する。その比例定数βを体膨脹率という。


 つまりΔV=βVΔtであってV+ΔV=V(1+βΔt)である。


  固体や線状の容器に入った液体の体積膨脹による長さの変化を

  特に線膨脹という。

 
 長さLの物体の膨脹した長さをΔL,線膨脹率をαとすると

  ΔL=αLΔtでありL+ΔL=L(1+αΔt)である。


  このときβ=3αが成り立つ。
その証明は次のとおりである。


  (証明) 縦,横,高さが全てLである物体の体積はV=L3で,

  V+ΔV=(L+ΔL)3であるから,1+βΔt=(1+αΔt)3

  =1+3αΔt+3α2(Δt)2+α3Δ(Δt)3である。


  ところがαは非常に小さいので,Δtが小さいとき3α2(Δt)2

  α3(Δt)33αΔtに比べてはるかに小さくて無視できる。

  そこで近似的に1+βΔt=1+3αΔt,,またはβ=3αである

  としてよい。  (証明終わり)


 ②気体の熱膨張 


 これは気体を構成する気体分子が熱によって激しく運動し,その平均

 分子行路が長くなることで体積が増加する現象を意味する。


 一般に,一定の体積の容器に入れておくと温度上昇と共に体積変化

 はしない。その代わりに圧力が増加するので圧力を熱膨張前と同じ

 にするには体積を増加させた容器に入れ換えなければならない。


 しかし,一定の気圧のもとで自由に容器の大きさが変動するようにして

 おけば体積は自由に膨脹することができる。


 一般に希薄気体の熱膨張率は 0 ℃では気圧によらず,また気体の

 種類にもよらず,常にβ=1/273.15であることがわかっている。

 つまり,V+ΔV=V(1+βΔt)=V(1+Δt/273.15)

 =V(273.15+Δt)/273.15である。


  0 ℃での気体の体積VをV0としt℃での体積V+ΔVを単にVと書くと,

  V0/273.15=V/(273.15+t)となる。


  そこで,摂氏温度が t℃のとき,T≡273.15+t を絶対温度と呼べば,

   0 ℃では絶対温度をT0≡273.15として,V0/T0=V/Tが成り立つ。
  気体の体積は一定気圧のもとでは絶対温度に比例するといえる。


  このことは,T=0 絶対零度ではV=0 となって気体の体積は理論

  上ゼロになることになる。


 もちろん実在気体ではそのような温度ではもはや気体ではなく固体

 や液体になっているので,そうした体積と温度の比例関係はもはや

 成り立たない。


 しかし,そうした相の転移を無視した理想的な気体を想定すると,

 温度は"絶対零度=-273.15℃"が最低温度で,通常の現象では理論

 的にそれより下の温度は存在しないことになる。


  一方,温度は上の方には限界はない。なお,絶対温度の単位は

 K(ケルヴィン;Kelvin)とする。


 (4)熱,熱量,比熱 


 ①熱の本質,熱量と熱の仕事当量


 熱とは何か?。。。
大昔は火を起こすには木を木でこする摩擦に

 頼っていた。

 
  火がつくには,現在ではその木がある発火温度に達すればよいことが

 わかっている。そして温度が上がるということは,その物体が熱を持つ

 ということで達せられる。

 
 しかし,19世紀には熱がある物体からある物体に移るのは熱素という

 物質が移動するとか,物が燃えるのは"フロギストン(phlogiston)=燃素"

 によるという思想があり,また熱が伝わるのは,その熱素が流れるから

 だと考えられた時期もあった。

 
 しかし,そうした熱素なるものが存在するとしても,それは保存しないで

 摩擦などによって発生したり,自然に冷えて消滅したりすることになる。

 
 そうしたことから,むしろ熱というのは何らかの力学的仕事によって生起

 する実体ではないか?と考えられるようになり,そうした得体の知れない

 熱素などというものの存在を仮定する必要はないと考えられるようにな

 った。


 そうした時期にジュール(Joule)は水の入った容器と攪拌する装置を

 使って水をかき混ぜる仕事量に等しいだけ水が熱をもらって温度が

 上がるのだと仮定して熱の仕事当量というものを測定した。これを

 ジュールの実験という。


 すなわち,1気圧の下で水1gが14.5℃から15.5℃まで1度上がるとき

 に受け熱,これを熱量という言葉で表わし,その熱量を1cal(カロリー)

 というが,これが仕事でいえば4.19J(ジュール)に相当することを測定し

 たのである。

 
 この4.19J/calのことを熱の仕事当量という。

 
 以後,この仮定に基づいて,力学的仕事,つまり摩擦などによって失

 われる力学的エネルギー損失が全て熱に変わるとすれば,依然と

 して(総エネルギー)=(熱エネルギー+力学的エネルギー)が保存

 するという法則,"総エネルギーは保存する"という法則の成立が

 確認された。


 そのため,熱の本質はエネルギーそのものであると考えられるよう

 になり,それから後に,何の矛盾も見つかっていない。

 
 しかし,仕事は全部100%が熱に変わることが可能なことはジュールの

 実験以来の事実であるが,熱の方は100%が仕事に変わるわけではなく

 その一部は捨てられなければならない。

 
  これは,もちろん1サイクル(cycle)での話であり,サイクルでないなら

 100%仕事に変わることはある。 (※サイクルとは系がある熱と仕事

 を受ける過程を経た後,結局,自身と周囲に何の変化も起こさない元

 の状態に戻るような熱力学過程でのことである。)


このことから考えて,熱には熱としての特有の意味があり,単純に画一化して

エネルギーというだけでは割り切れないところがある。


②熱量の保存,比熱,熱容量

 
 ある物理的過程で力学的仕事が関係することなく,「全体として

 熱エネルギーが逃げることがない=断熱されている」なら,熱量

 はその過程で保存される。

 
 そして,たとえば高温の物体Aと低温の物体Bを断熱された環境の

 中で接触させておくと,やがてAとBは熱平衡に達してある一定の温度

 に落ち着く。

 
  このとき,全体の「熱量=熱エネルギー」は保存されるので,

 「Aの失った熱量=Bのもらった熱量」という法則が成り立つ。

 
 これを熱量の保存の法則という。
また熱エネルギーの保存の法則

 ともいう。

 
 具体的には熱量1calは「水の1gの温度1度の上昇」で定義されて

 いるので,水以外の物質については1gを1度上げるのに必要な熱量

 が水に比較してどのくらいかを調べる必要がある。

 
 その意味で物質1gについて温度を1度上げるのに必要な熱量

 のことを比熱というが,比とはいうものの単なる数値ではなくcal/(g℃)

 という単位を持っている。そして,比熱は普通cという文字で記述される。

 
 一般に金属の比熱は水に比べてかなり小さく,金属は小さい熱を

 与えてもすぐに温度が上がるのが特徴である。

 
 また,「質量m(g)の物体を1度上げるのに必要な熱量

 =w(cal/℃)その物体の持つ熱容量という。w=mcであること

 は明らかである。

このwは,その物体が熱的には水のw(g)に相当することを

表わしている。

 
たとえば,炭素なら12g,水素なら2gの物質量は共に

アボガドロ数(Avogadro-number)と呼ばれる 6.02×1023個の

分子(炭素ならC,水素ならH2)から成り立っている。

 
このアボガドロ数個の分子からできている物体量を1グラム

分子,または1モル(mol)と呼ぶ。そして特に1モルの物質の

熱容量をモル比熱と呼ぶ。

 
通常の金属固体のモル比熱は金属の種類によらず,3R

=約25(J/mol・K)=約6(cal/mol・K)である。

 

これは実験でも確かめられているが理論的に求めることもできる。

 すなわち,Dulog-Petit(デュロン・プティ)の法則として知られている。

 R~8.31(J/mol・K)は気体定数である。


 (5)理想気体のボイル・シャルルの法則と気体の分子運動論

 
 ①ボイルの法則(Boyle)


 希薄気体では一定温度で気体の体積は圧力の大きさに反比例する。

 つまり,温度一定のもとでは圧力Pが2倍になると体積Vは半分=1/2

 になる。。PV=一定である。これをボイルの法則という。

 ②シャルル(ゲイリュサック)の法則(Charles(Gay-Lussac)


 希薄気体では,一定圧力の場合気体の体積は絶対温度に比例する。

 つまり圧力一定のもとでは温度(絶対温度)Tが2倍になると体積Vも

 2倍になる。

 すなわち, V/T=一定である。

 これをシャルル(ゲイリュサック)の法則という。


③ボイル・シャルル(ボイル・ゲイリュサック)の法則と理想気体


 ボイルの法則とシャルルの法則を合わせてボイル・シャルルの法則

 という。 これは,PV/T=一定という形に書くことができる。

 
 現実の気体は,この法則とは微妙にずれているが,特にこの法則に従う

 気体を理想気体という。

 このときのPV/Tの一定値は気体定数と呼ばれ,Rであらわされる。

 この気体定数の値はR=8.3145(J/mol・K)である。

 
 つまり1モルの気体に対してはPV/T=RあるいはPV=RTと書ける。

 
 しかし,一般に容器に入っている気体は1モルとは限らないので,

 その気体がnモルであるとすると,その体積Vのnモルの気体の

 1モル当たりの体積はV/nとなる。

 よって,PV/n=RTであるから,PV=nRTと書くことができる。

 
 このように圧力と体積とを温度と結びつける式のことを

 状態方程式といい,特に,PV=nRTを理想気体の状態方程式

 という。

 
④気体分子運動論による理想気体の状態方程式の解釈 

 
 理想気体はたくさんの分子が摩擦熱を失うことなく反発係数1

 で分子同士や容器の壁と完全弾性衝突をしながら,ばらばらに

 運動している状態と考えることができる。

 
 そこで,壁に及ぼす圧力は気体分子が壁に衝突することによる壁に

 与える力積の総和であると考えることができる。 

 
 模型として1辺の長さLの立方体容器:体積V=L3の中にN個の

 気体分子がある場合を考える。

 気体分子1個の質量をmとし,その速度を=(v,vy,vz)とすると,

 x方向に垂直な片方の壁に分子1個が1回の完全弾性衝突で与える

 力積は2mvxである。

 1個の分子は1秒間に, v/(2L)回衝突するから,"全N分子の1秒

 当たりの壁に与える力積=壁に与える力"は,Nmvx2/Lとなる。

 圧力Pは,単位面積当たりの"壁に与える力"であるから,壁の面積

 S=L2で割ってP=Nmvx2/L3=Nmvx2/Vと表わせる。

 つまり,PV=Nmvx2である。

 
 ところで分子1個の速さは, 2=vx2+vy2+vz2と三平方の定理で

 表わされ,3つの方向は対等であるから、速さの2乗の全分子の

 平均を<v2>で表わすと,x方向の平均は<vx2>=(1/3)<v2

 と考えてよい。

 したがって,PV=Nmvx2とは,実はPV=Nm<vx2=(1/3)Nm<v2>,

 結局,PV=(2/3)N<(1/2)mv2> と書き直すことができる。

<(1/2)mv2>は分子1個のエネルギー,つまり,この場合は位置

 エネルギーはゼロなので運動エネルギーである。

 PV=(2/3)N<(1/2)mv2>=nRTであるから,

 <(1/2)mv2>=(3/2)nRT/Nである。

 

特に,アボガドロ数をN0とするとN=nN0より,<(1/2)mv2

=(3/2)(R/N0)Tとなる。

そこで,分子1個当たりの気体定数をR/N0=kBと書くことにして,これを

ボルツマン定数(Boltzmann constant)と呼べば,<(1/2)mv2>=(3/2)kB

と表わすことができる。


こうして,気体分子運動論によれば,理想気体は気体の種類によらず

分子1個の運動エネルギーが(3/2)kBTであると解釈される。


(※しかし,正しくは後述するように圧力Pに寄与するのは,分子の全運動

エネルギーではなくて,内部の回転や振動のエネルギーを除く並進運動

(重心運動)のエネルギーだけである。)


(※なお,理想気体は力を受けず自由に運動するという近似なので粒子間

の位置エネルギーはゼロである。

後述する内部エネルギーは分子の(運動エネルギー+位置エネルギー)

であるが,この位置エネルギーは分子間の外力のそれではなく,分子内

原子などの内部構成粒子の内力の位置エネルギーなので原子間の振動

のように,理想気体でも存在する。)


(6)熱力学第1法則=エネルギー保存の法則

①内部エネルギー 


物体を構成する全分子の持つ
"力学的エネルギー

=(運動エネルギー+位置エネルギー)"の総和をその物体の持つ

内部エネルギーという。

内部エネルギーの大きさは,一般に物体の絶対温度Tに比例する。


単原子分子理想気体では並進運動の自由度3しかないため,nモル

持つ内部エネルギーUは気体定数をRとしてU=(3/2)nRTである。

また,2原子分子理想気体では,軸を持つ回転運動の自由度2が

加わるため,U=(5/2)nRTである。


理想気体というのは,ボイル・シャルルの法則と同時に等温で体積

変化による内部エネルギーの変化がないという法則,


すなわち,内部エネルギーがTだけの関数であるという法則を満足

する。 


また,固体では位置エネルギーもあるため,U=3nRTである。

位置エネルギーがある場合には,内部エネルギーはTだけでなく

体積Vにもよる場合がある。

②熱力学第1法則


特別なことがない限り,物体を加熱したり,圧縮したりすれば,その

内部エネルギーは増加する。


熱力学第1法則とは,物体の内部エネルギーUの増加分ΔUが,
外部

から与えられた熱量Qと外部から加えられた仕事Wの和に等しいと

いう法則である。すなわち,ΔU=Q+Wである。


気体の場合,体積がΔVだけ増加するような仕事は,気体自身の

圧力Pが外部に対してなす仕事なので,気体の方が外部によって

なされる仕事は,W=-PΔVとなる。故にΔU=Q-PΔVである。


③気体の熱力学変化と比熱


a)等温変化

 
温度が変化しない理想気体の熱力学過程を等温変化という。


 等温変化では,PV=一定の変化であり,Tが変化しないので

 ΔU=0 である。

 つまり,Q+W=0 であるから,Q=-Wである。等温,つまりΔT=0 な

 ので比熱Q/ΔTは無限大である。


b)定積変化 


体積が変化しない,ΔV=0 の理想気体の過程を定積変化という。

W=-PΔV=0  なので,ΔU=Qである。


単原子分子理想気体では,ΔTの変化に対してQ=ΔU=(3/2)nRΔT

なので,定積比熱は(3/2)nRであり定積モル比熱はCv=(3/2)Rである。

2原子分子理想気体では,定積モル比熱はCv=(5/2)Rである。


c)定圧変化


 圧力一定のもとでの理想気体の過程を定圧変化という。

ΔU=Q+W=Q-PΔVであり,PV=nRTであってPが一定だから,

PΔV=nRΔTである。


故に定圧変化では,TのΔTの上昇に対して,Q=ΔU+PΔV

=ΔU+nRΔTである。ΔU=nCvΔTなので,Q=n(Cv+R)ΔT

となる。 


定圧モル比熱をCpとすればQ=nCpΔTであるから
p=Cv+R

(マイヤー(Mayer)の法則)が成立する。γ≡Cp/Cvを比熱比という。


d) 断熱変化

外界と熱の出入りがまったくない過程を断熱変化という。


Q= 0 なのでΔU=W=-PΔVである。


もちろん,この場合もPV=nRTの法則は成立しているが,これ以外に

PVγ=一定,あるいはTVγ-1=一定というポアソン(Poisson)の法則

も成り立つ。


(証明) ΔU=-PΔVは,nCvΔT=-PΔVを意味する。


 PV=nRTなのでP=nRT/Vより,CvΔT/T+RΔV/V= 0 となる。

 これを積分すると,CvlogT+RlogV=一定: TVR/Cv=一定となる。

そして,R/Cv=(Cp-Cv)/Cv=γ-1により,これはTVγ-1=一定である。

さらに,T=PV/(nR)であるから,PVγ=一定とも書ける。(証明終わり)


①サイクル(cycle)


 サイクルとは最初と最後で自分自身に何の物理的変化も残さない過程,

 またはその過程を行なわせる機関をいう。


②トムソン(Thomson)の原理


一様温度の1つの熱源から熱を奪って,それに等しい仕事をするサイクル

は存在しない。


③クラウジウス(Clausius)の原理


低温の物体から,高温の物体に熱を移動するだけのサイクルは存在しない。


④トムソンの原理とクラウジウスの原理は全く等価である。 


すなわち,もし②が誤りなら高熱源1からQ1なる熱量を奪って,それに

等しいWの仕事をするサイクルC1がある。


一方,その仕事W=Q1によって低熱源2からQ2の熱を奪って

高熱源1にQ2+W=Q2+Q1の熱を与えるサイクルC2が存在する

から,サイクルC1+C2は結局低熱源2から高熱源1にQ2なる熱を与

える以外何の変化もない1つのサイクルである。


これは③が誤りであるという結論に導く。


同様に③が誤りなら②が誤りということも示すことができる。


⑤ 熱力学第2法則


②と③の原理を熱力学第2法則,または第2種永久機関を作ることが

不可能である法則という。 


⑥カルノーサイクル(Carnot-cycle)とエントロピー


nモルの理想気体を温度T1の高熱源に接触させながら体積V1

からV2に等温膨脹させ,次にV2からV3に断熱膨張させる。

低温T2になったところで,熱源に接触させてV3からV4まで等温圧縮

最後にV4からV1まで断熱圧縮させる。

このサイクルをカルノーサイクルという。


このとき外界は最初,熱Q1=-W1=nRT1log (V2/V1)を獲得し,

次にはQ2=0 で,かつ -W2=nR(T1-T2)の仕事をされる。


次に,-Q3=W3=nRT2log (V4/V3)の熱を獲得し,最後にQ4=0

でW4=nR(T1-T2)の仕事を受ける。

12γ-1=T23γ-1,かつT11γ-1=T24γ-1に注意すれば,

このサイクルで系が外界にした仕事の合計は,W=-W1-W3

=nR(T1-T2)log (V2/V1)であることがわかる。


他方,"はじめに外界が系からもらった熱量=高温熱源が失った

熱量"はQ1=nRT1log (V2/V1)である。


そこで,効率はη=W/Q1=(T1-T2)/T1であることになる。

このように,熱Q1をもらっても,そのうちQ3の分は捨てられなければ

ならない。これが第2法則の本質である。

η=(Q1-Q3)/Q1=(T1-T2)/T1であるから,結局,カルノーサイクル

では1/T1=Q3/T2であることがわかる。


もし,カルノーでないサイクルで高温からQ1を取って低温にQ3を移し

仕事Wをしても,W=Q1-Q3である。


しかし,このときカルノー逆サイクルで低温からQ3を取ってこれを

高温移すとしたときに必要な仕事をW'とすれば,高温はQ'=Q3+W'

の熱をもらう。


すると,結局,高温が失った熱はQ1-Q'=W-W'である。

このW-W'はサイクルで熱が全て仕事に変わった場合だから,

トムソンの原理によればこれは決して正ではない。


つまりW-W'≦0 である。

故に,Q1≦Q'( W≦W' )であり,効率η'=W'/Q'については

η=W/Q1より,必ずη≦η'であることになる。

これは,η=1-Q3/Q1でη'=1-Q3/Q'で,Q1≦Q'であるからである。


つまり,カルノーサイクルのような可逆サイクルでは効率が最大になる。


こうして,カルノーサイクルにより,温度の定義が,1つには最大効率の

熱量比という形で明らかとなったわけである。

そして,一般に可逆サイクルではQ1/T1-Q3/T3=0 であるから,常に

もらう熱量Qを正とし,失う熱量を負とすればサイクル全体では

ΣQ/T=0 となることがわかる。


これを,細分化すれば,可逆過程ではΔS=ΔQ/Tなる式で定義

されるSはサイクルで保存する量で,これはエントロピーと名付けて

定義できる。


もしも,不可逆サイクルなら,サイクル合計ではΣΔQ/T<0 となる

からサイクルでない微小過程で考えると,ΔQ/T<ΔSとなる。


また,もし考えている系が孤立系:つまり断熱で外界と熱も仕事も

やりとりしないならばΔQ=0 であるから,0=ΔQ/T≦ΔSより

一般にΔS≧0 となる。


すなわち「孤立系ではエントロピーは減少することはない。」という法則

が成り立つ。これをエントロピー増大の法則という。

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2006年3月30日 (木)

物理学史覚え書き

 これは私が池袋の電子専門学校で物理学の講師をしていたときの講義録

 の一つです。

  表題「物理学とその歴史」

学問には科学的なものと非科学的なものがある。

 非科学的なものの例 → 文学,音楽,美術など

 

 科学とは?=いくつかの仮説,あるいは公理にしたがって論理的

 な方法論で実証的体系的に論じた知識。

 自然科学と社会科学がある。

1.科学の歴史

ギリシャ時代=自由な発想の時代 → 中世暗黒時代

(キリスト教会専制)=アリストテレスの世界観が支配(形而上学

=不可知論)

 形而上学とは?=現象を超越しその背後にあるものの真の本質,

存在の根本原理,存在そのものを純粋思惟あるいは直感によって研究

しようとする学問。神,世界,霊魂などがその主要問題。

(広辞苑による) → 必然的に不可知論におちいる。

 

 不可知論とは?=意識に与えられる感覚的経験の背後にある実在

は論理的には認識できないという説。

 → これらは信仰には向いている。

中世暗黒時代の終わり(← ペストの大流行)→ 宗教改革,

ルネッサンス→ 懐疑論の流行→ 科学のギリシャ時代以来の復権

→ 産業革命(1760年代)

2.物理学の歴史

 物理学と数学はなぜ密接な関係にあるのだろうか?

 ギリシャの自然哲学=ゼノンの背理,デモクリトスの原子論,

  ピタゴラス,アルキメデス 

 ソクラテスとプラトン→ アリストテレスの世界観

  =物体は押したり引いたり力を加えていなければ止まってしまう。

 → これを否定したのが,ガリレイ,ニュートンの力学的世界観

 =因果律の悪魔­=ラプラスの悪魔 ――→ 量子力学によって完全に

  否定される。
 

 力学的世界観 → 熱も電気も力学で説明しようとしたが失敗した。

 力学的世界観によると"波動­=振動"は媒質がないと伝わらない

  → "媒質のない波=電()波=()"の存在

  → マッハ原理アインシュタインの相対性原理,

  ここまでが古典物理学

 現代物理学の夜明け=量子論の始まりと古典論からそれへの移行

3.問題

(1)1/30.333333…….である。では 1=0.9999999….は正しいか?

(2)死刑囚A,B,Cがいて3人のうち2人は明日処刑され残り

1人は死刑を免除されることが決まっているがそれが誰かは看守

しか知らない。

 この時点でAは自分が処刑される確率は2/3 であると思った。

 そこでAは看守に自分のことは教えてもらえないだろうが他の

人のことならかまわないだろうと言って看守にB,Cのどちらが

処刑されるのかとたずねたところBだと答えられた。

 この時点で明日処刑される残りはA,Cのどちらかであり,確率

  は 1/2 に減ったとAは思って喜んだ。さてこのAの思惑は正しい

  のだろうか?

(3)ジェット機で世界一周しても中は無重力でないのに,なぜ

  地球周回のシャトルでは中は無重力なのだろうか?

http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー)                                                  TOSHI

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