記事リバイバル⑪(ロ-レンツ変換の導出)
※かつて何日も根をつめて計算し,出来たときは早朝で達成感
を感じた記憶のある課題
「線形を仮定することなく特殊相対論のLorentz変換を求める」
ことを意図した2007年10月の過去記事の再掲です。
もちろん参照した書物はありますが具体的導出の詳細は書かれて
いなかったのでやや苦労しました。※
有名なEMANの物理学の「掲示板(談話室)」において,最近,あまり注目されていませんでしたが,相対論における慣性座標系間の変換について言及する投稿をされておられる方がいました。
これは,電磁気学の方程式の共変性によるのではなく,光速度不変の原理,および最低限の運動学的な条件だけから,慣性座標系間の変換を空間座標や時間の線形変換(1次変換)に限定することなく,一般的に考えてもローレンツ変換に一致するようになるのかどうか?を問題にしておられた投稿です。
これは,かつてのパソコン通信時代のニフティのフォーラムでも,たびたび出ていた話題です。
これが可能なことは,既にいろいろな方により何度も示されていたので,私もよく知ってはいましたが,試しに私的に具体的に示してみよう,という気になりました。
一応,必ずしも光速度が不変である必要はないけれど,有限な限界速度が存在してそれが不変であり,それが今のところは,たまたま光速と一致している,ということを想定した形にしました。
元々,歴史的には時空間の一様性などから,"特殊相対性原理を満たす座標変換は線形変換(1次変換)である"と直感的に設定され,最初からそれを仮定すれば,簡単にローレンツ変換(Lorents transformation)を導くことができます。
そして,実際にそうして得られるローレンツ変換が現実の物理現象と合致することもわかっているので,いまさらという感もありますが,そうした物理的な発想を意識することなく,数学であると考え,変換の不変式などの条件から数式的な考察で導出してみます。
まず,ある慣性座標系S:O-xyz-t系と,これに対してS系から見て相対的に等速度vで運動している別の慣性座標系S':O'-x'y'z'-t'系を考えます。
そして,(x,y,z,t)を(x,t),(x',y',z',t')を(x',t')と書くことにします。
これらの座標系で,全く同一の"事象(event)=時空点"がS系では座標(x,t)で,S'系では座標(x',t')で与えられるとき,両者の関係式を一般的に導出することが本記事の目的です。
用いるべき条件は,まず第1には,"S系での時刻t=0 の瞬間にはS系から見てS'系の空間部分は完全にS系のそれと重なっている。
特にt=0 の瞬間での原点x=x'=0 では,S'系での時刻もt'=0 でS系での時刻t=0 と一致している"という条件です。
そして第2には,"物理的な速度の大きさには有限な限界が存在して,それは光速,あるいは限界速度cで与えられ,この値は如何なる慣性座標系でも同じ値をとる"という,いわゆる"光速度不変の原理,あるいは限界速度不変の原理,が成立する"ことを仮定します。
さらに,第3の条件は,
"S'系で常に空間座標系に張り付いて共に運動している,S'系に静止して固定されている全ての点:(x'(t'),t')=(x',t')は,
dx'/dt'=0,あるいはdx'=0 を満たしていますが,
これに対応する点のS系での時系列としての軌跡:(x(t),t)は,
dx/dt=v,あるいはdx=vdtで与えられる",
というものです。
ここで,後の便宜上,v≡|v|,β≡v/cと置きます。
そして,簡単のためにX≡x,T≡ct;X'≡x',T'≡ct'と表記します。
また,未知の座標変換の変換式をX'=f(X,T),T'=g(X,T)という関数形で書いておきます。
光速(限界速)をcとすると,時刻T=T0にX=X0を通る光の軌跡は|X―X0|=T-T0を満たしますが,限界速度cが不変である,という条件から,S'系でも|X'―X0'|=T'-T0',または|f(X,T)-f(X0,T0)|=g(X,T)-g(X0,T0)が成立します。
さらに単純化して,S系のx軸をS'系のS系に対する相対速度vの向きに選び,t=0 のときにS系とS'系の空間直交座標の軸は全て一致しているとします。
そして,dx'=0 を満たす運動をする点はdx=vdtを満たすという条件から,S'系で座標系に張り付いて固定されたあらゆる点はdy'=0 を満たしますから,これはdy=0 に対応します。
そこで,t=0 でx=x'=0 のyz面=y'z'面上に固定された点に対して常にy'=y,z'=zとなりますから,この座標系のx軸に沿う相対運動では運動方向に垂直な向きには影響しないと考えます。
そこで座標の変換性としてはx座標と時間の2つのパラメータだけを考えれば十分ですから,改めて2次元の座標(x,t)と(x',t')の関係,すなわち(X,T)と(X',T')の関係だけを考察することに集中します。
そして,(X',T')を一般的に(X,T)と速度βの関数として,座標変換の変換性を,改めてX'=f(X,T;β),T'=g(X,T;β)なる関数で表現します。
限界速度(光速)が不変であるという条件は,|X'―X0'|=T'-T0',または|f(X,T;β)-f(X0,T0;β)|=g(X,T;β)-g(X0,T0;β)と書けます。
これは,f(X,T;β)±g(X,T;β)=f(X0,T0;β)±g(X0,T0;β)を意味します。
つまり,|X―X0|=T-T0,またはX2-T2=X02-T02を満たす光の軌跡:(X,T)=(X(T),T)に対しては,f2(X(T),T;β)-g2(X(T),T;β)=f2(X0,T0;β)-g2(X0,T0;β)が成立します。
C2(X0,T0;β)≡f2(X0,T0;β)-g2(X0,T0;β)と置くと,C2(X0,T0;β)は,定数X0,T0;βだけの関数ですから,X,Tにはよらない単なる任意定数です。
そこで,これを単にC2と書けば,光の軌跡群はX'2-T'2=f2(X(T),T;β)-g2(X(T),T;β)=C2なる双曲線族で与えられることがわかります。
今,F(X,T;β)≡f2(X,T;β)-g2(X,T;β) によって新しくXとTの関数:Fを定義します。
このとき,dF=(∂F/∂X)dX+(∂F/∂T)dTですが,上に示したように,光の軌跡上ではF(X,T)=C2ですからdF=0 です,
そこで,X=X0±(T-T0):dX=±dTに対しては常に±(∂F/∂X)+(∂F/∂T)=0 が成立します。このことから,F(X,T;β)はdX=dTに対しては(X-T)だけの関数,dX=-dTに対しては(X+T)だけの関数となることがわかります。
すなわち,ある1変数関数φ±が存在して,光線の上ではF(X0+(T-T0),T;β)=φ-(X-T;β)=φ-(X0-T0;β)=C2(X0,T0;β),かつF(X0-(T-T0),T;β)=φ+(X+T;β)=φ+(X0+T0;β)=C2(X0,T0;β)と表現することが可能です。
ところが,(X,T)を任意の時空点とすると,その点を通過する光線は必ず存在します。つまりX±T=X0±T0となるように(X0,T0)を選べば,いいわけです。このときには(X,T)と(X0,T0)を結ぶ光線が存在可能なのは明らかですね。
したがって,任意の時空点(X,T)に対し,X±T=X0±T0なる(X0,T0)を取れば,これに関してF(X,T;β)=φ±(X±T;β)=C2(X0,T0;β)が成立します。
X±T=(一定),またはX2-T2=(一定)の(X,T)に対しては共通の(X0,T0)を与えることができますから,それらの点に共通な値C2(X0,T0;β)はX2-T2のみの関数になります。
結局,ある1変数関数Φによって,F(X,T;β)=C2(X0,T0;β)=Φ(X2-T2;β)と書くことができるわけです。
言い換えると,X'2-T'2=f2(X,T;β)-g2(X,T;β)=Φ(X2-T2;β) と書けることになります。
X=T=0 のときにはX'=T'=0 ですから,特にΦ(0;β)=0 です。また,恒等変換β=0 の場合には,もちろんX2-T2=f2(X,T;0)-g2(X,T;0)=Φ(X2-T2;0)です。または,簡単にいうと,Φ(X2-T2;0)=X2-T2です。
一方,dX'/dT'=0:dX'=0 に対応する点の軌跡:(X(T),T)はdX/dT=β:dX=βdTを満たすという条件により,X'=X1'=(一定)の軌跡はS系ではX(T)=X1+βTと書けます。
そこで,この軌跡:X'=f(X,T,β)=(一定)の上では,f2(X1+βT,T;β)=f2(X1,0;β)です。そして,任意の(X,T)に対しても,X1≡X-βTと置けば,X'2=f2(X,T;β)=f2(X-βT,0;β)が得られます。
この等式は,任意の(X,T)に対して成立しますから,結局,X'2=f2(X,T;β)はX-βTだけの関数で表現できることがわかりました。
そして,X'2-T'2=f2(X,T;β)-g2(X,T;β)=Φ(X2-T2;β)から, 0=f2(X,T;β)-f2(X-βT,0;β)=Φ(X2-T2;β)-Φ((X-βT)2;β)+g2(X,T;β)-g2(X-βT,0;β) です。
そこで,T'2=g2(X,T;β)=g2(X-βT,0;β)+Φ((X-βT)2;β)-Φ(X2-T2;β)も成立します。
ところで,X'2-T'2=Φ(X2-T2;β)でしたから,X2-T2=Φ-1(X'2-T'2;β)ですが,変換の対称性を考慮すると,明らかにΦ-1(ξ;β)=Φ(ξ;-β)なので,X2-T2=Φ(X'2-T'2;-β)=Φ(Φ(X2-T2;β);-β)となるはずです。
ところが,S'系の運動の向きが正反対:β→-β(v→-v)の場合でも,S系の同一の点(X,T)に対応する点(X',T')についてX'2-T'2の値は同一であろう,という物理的な考察によれば,Φ(ξ;-β)=Φ(ξ;β)であると考えられます。
この考察から,Φ(Φ(ξ;β);-β)=Φ(Φ(ξ;β);β)=Φ(ξ;η(β)),つまり,X2-T2=Φ(X2-T2;η(β))が得られます。
ここでη(β)は速度合成に関わるあるβの関数ですが,とにかく一般にゼロではないので,Φ(X2-T2;β)はβには無関係ですから,Φ(X2-T2;β)=X2-T2と結論されます。
これで,やっと重要な関係式:X'2-T'2=f2(X,T;β)-g2(X,T;β)=X2-T2を得ることができました。最初から座標や時間の1次式を仮定していれば,これは苦も無く得られる関係なのですが。。。
これを用いると,T'2=g2(X,T;β)=g2(X-βT,0;β)+Φ((X-βT)2;β)-Φ(X2-T2;β)なる関係式は,g2(X,T;β)-g2(X-βT,0;β)=(X-βT)2-X2+T2に帰着します。
この式に,X=βTを代入するとg2(βT,T;β)=(1-β2)T2が得られます。
ところで,X'=X1'=(一定)のTに沿っての軌跡は,X(T)=X1+βTでしたが,T'=T1'=(一定)のXに沿っての軌跡T=T(X)はどのように表現されるのでしょうか?
X'2-T'2=X2-T2において,T'=T1'=(一定)の軌跡を仮定すると,この上ではT'2=g2(X,T;β)=T1'2=(一定)ですから,f2(X,T;β)=X'2=X2-T2+T1'2,またはf2(X-βT,0;β)=X2-T2+T1'2です。
βを固定すると,左辺はX-βTだけに依存する関数ですが,一見したところ,右辺はX-βTだけの関数には見えません。
そこで,Y≡X-βTとして,これをYで表わすとf2(Y,0;β)=(Y+βT)2-T2+T1’2となります。βを固定した今の場合,左辺はYだけの関数です。
Yを固定して,Tで偏微分すると∂f2(Y,0;β)/∂T=2β(Y+βT)-2T+dT1'2/dT=0 となります。つまり,dT1’2/dT=2T-2β(Y+βT)=2T-2βX=2(T-βX)です。これをTで積分するとT1'2= (T-βX)2+const.が得られます。
以上から,T'=T1'=(一定)のXに沿っての軌跡は,T1を定数としてT=βX+T1なる表式で与えられることがわかりました。
よって,g2(X,βX+T1;β)=T1'2=g2(0,T1;β)により,任意の点(X,T)に対してg2(X,T;β)=g2(0,T-βX;β)が成立します。すなわち,T'2=g2(X,T;β)はT-βXだけの関数になります。
したがって,f2(X,T;β)-g2(X,T;β)=X2-T2なる関係はf2(X-βT,0;β)-g2(0,T-βX;β)=X2-T2と書き直されます。
これにT=βXを代入すれば,f2((1-β2)X,0;β)=(1-β2)X2です。また,X=βTを代入すれば,g2(0,(1-β2)T;β)=(1-β2)T2を得ます。
それ故,f(X,0;β)=X/(1-β2)1/2,g(0,T;β)=T/(1-β2)1/2,すなわち,f(X-βT,0;β)=(X-βT)/(1-β2)1/2,g(0,T-βX;β)=(T-βX)/(1-β2)1/2です。
結局,最終的には,X'=f(X,T,0;β)=(X-βT)/(1-β2)1/2,T'=g(X,T;β)=(T-βX)/(1-β2)1/2となります。
すなわち,x'=(x-vt)/(1-v2/c2)1/2,t'=(t-vt/c2)/(1-v2/c2)1/2なる最終的な変換式を得ることができました。
これは確かに通常のローレンツ変換です。
こんなのは,すぐできるだろうと簡単に考えていたら,ほぼ1日かかりました。恐らくはもっと簡単にできるトリックなどがあるのでしょうが,関数方程式を立てて地道に解くと大変なことがわかりました。
最近は計算などはほとんどパクリなので,自力で計算する力は歳のせいもあるのか,かなり落ちているようです。
もっとも,物理学とか数学とか,理論が主体の学問は,自分で発見しない限りは所詮,全てパクリの連続で単に誰かが考えて述べたことを追体験するだけですが。。。
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