105. 相対性理論

2019年1月16日 (水)

記事リバイバル⑪(ロ-レンツ変換の導出)

※かつて何日も根をつめて計算し,出来たときは早朝で達成感

を感じた記憶のある課題

「線形を仮定することなく特殊相対論のLorentz変換を求める」

ことを意図した2007年10月の過去記事の再掲です。

もちろん参照した書物はありますが具体的導出の詳細は書かれて

いなかったのでやや苦労しました。※

 有名なEMANの物理学の「掲示板(談話室)」において,最近,あまり注目されていませんでしたが,相対論における慣性座標系間の変換について言及する投稿をされておられる方がいました。

 

これは,電磁気学の方程式の共変性によるのではなく,光速度不変の原理,および最低限の運動学的な条件だけから,慣性座標系間の変換を空間座標や時間の線形変換(1次変換)に限定することなく,一般的に考えてもローレンツ変換に一致するようになるのかどうか?を問題にしておられた投稿です。

これは,かつてのパソコン通信時代のニフティのフォーラムでも,たびたび出ていた話題です。

 

これが可能なことは,既にいろいろな方により何度も示されていたので,私もよく知ってはいましたが,試しに私的に具体的に示してみよう,という気になりました。

 

一応,必ずしも光速度が不変である必要はないけれど,有限な限界速度が存在してそれが不変であり,それが今のところは,たまたま光速と一致している,ということを想定した形にしました。

元々,歴史的には時空間の一様性などから,"特殊相対性原理を満たす座標変換は線形変換(1次変換)である"と直感的に設定され,最初からそれを仮定すれば,簡単にローレンツ変換(Lorents transformation)を導くことができます。

 

そして,実際にそうして得られるローレンツ変換が現実の物理現象と合致することもわかっているので,いまさらという感もありますが,そうした物理的な発想を意識することなく,数学であると考え,変換の不変式などの条件から数式的な考察で導出してみます。

まず,ある慣性座標系S:O-xyz-t系と,これに対してS系から見て相対的に等速度で運動している別の慣性座標系S':O'-x'y'z'-t'系を考えます。

 

そして,(x,y,z,t)を(,t),(x',y',z',t')を(',t')と書くことにします。

これらの座標系で,全く同一の"事象(event)=時空点"がS系では座標(,t)で,S'系では座標(',t')で与えられるとき,両者の関係式を一般的に導出することが本記事の目的です。

用いるべき条件は,まず第1には,"S系での時刻t=0 の瞬間にはS系から見てS'系の空間部分は完全にS系のそれと重なっている。

 

特にt=0 の瞬間での原点'=0 では,S'系での時刻もt'=0 でS系での時刻t=0 と一致している"という条件です。

 

そして第2には,"物理的な速度の大きさには有限な限界が存在して,それは光速,あるいは限界速度cで与えられ,この値は如何なる慣性座標系でも同じ値をとる"という,いわゆる"光速度不変の原理,あるいは限界速度不変の原理,が成立する"ことを仮定します。

さらに,第3の条件は,

 

"S'系で常に空間座標系に張り付いて共に運動している,S'系に静止して固定されている全ての点:('(t'),t')=(',t')は,

'/dt'0,あるいはd'=0 を満たしていますが,

 

これに対応する点のS系での時系列としての軌跡:((t),t)は,

/dt=v,あるいはdx=vdtで与えられる",

 

というものです。

 

ここで,後の便宜上,v≡||,β≡v/cと置きます。

そして,簡単のために,T≡ct;'≡',T'≡ct'と表記します。

 

また,未知の座標変換の変換式を'=(,T),T'=g(,T)という関数形で書いておきます。

 

光速(限界速)をcとすると,時刻T=T0X=X0を通る光の軌跡は|X―X0|=T-T0を満たしますが,限界速度cが不変である,という条件から,S'系でも|'―X0'|=T'-T0',または|(,T)-(0,T0)|=g(,T)-g(0,T0)が成立します。

さらに単純化して,S系のx軸をS'系のS系に対する相対速度の向きに選び,t=0 のときにS系とS'系の空間直交座標の軸は全て一致しているとします。

 

そして,d'=0 を満たす運動をする点はdx=vdtを満たすという条件から,S'系で座標系に張り付いて固定されたあらゆる点はdy'0 を満たしますから,これはdy0 に対応します。

 

そこで,t=0 でx=x'=0 のyz面=y'z'面上に固定された点に対して常にy'y,z'zとなりますから,この座標系のx軸に沿う相対運動では運動方向に垂直な向きには影響しないと考えます。

そこで座標の変換性としてはx座標と時間の2つのパラメータだけを考えれば十分ですから,改めて2次元の座標(x,t)と(x',t')の関係,すなわち(X,T)と(X',T')の関係だけを考察することに集中します。

 

そして,(X',T')を一般的に(X,T)と速度βの関数として,座標変換の変換性を,改めてX'=f(X,T;β),T'=g(X,T;β)なる関数で表現します。

限界速度(光速)が不変であるという条件は,|X'0'|=T'-T0',または|f(X,T;β)-f(X0,0;β)|=g(X,T;β)-g(X0,0;β)と書けます。

 

これは,f(X,T;β)±g(X,T;β)=f(X0,0;β)±g(X0,0;β)を意味します。

 

つまり,|X0|=T-T0,またはX2-T2=X02-T02を満たす光の軌跡:(X,T)=(X(T),T)に対しては,f2(X(T),T;β)-g2(X(T),T;β)=f2(X0,0;β)-g2(X0,0;β)が成立します。

2(X0,0;β)≡f2(X0,0;β)-g2(X0,0;β)と置くと,2(X0,0;β)は,定数0,0;βだけの関数ですから,,Tにはよらない単なる任意定数です。

 

そこで,これを単にC2と書けば,光の軌跡群はX'2-T'2=f2(X(T),T;β)-g2(X(T),T;β)=C2なる双曲線族で与えられることがわかります。

,F(X,T;β)≡f2(X,T;β)-g2(X,T;β) によって新しくXとTの関数:Fを定義します。

 

このとき,dF=(∂F/∂X)dX+(∂F/∂T)dTですが,上に示したように,光の軌跡上ではF(X,T)=C2ですからdF=0 です,

 

そこで,X=X0±(T-T0):dX=±dTに対しては常に±(∂F/∂X)+(∂F/∂T)=0 が成立します。このことから,F(X,T;β)はdX=dTに対しては(X-T)だけの関数,dX=-dTに対しては(X+T)だけの関数となることがわかります。

すなわち,ある1変数関数φ±が存在して,光線の上ではF(X0(T-T0),T;β)=φ(X-T;β)=φ(X0-T0;β)=C2(X0,0;β),かつF(X0(T-T0),T;β)=φ(X+T;β)=φ(X0+T0;β)=C2(X0,0;β)と表現することが可能です。

ところが,(X,T)を任意の時空点とすると,その点を通過する光線は必ず存在します。つまりX±T=X0±T0となるように(X0,T0)を選べば,いいわけです。このときには(X,T)と(X0,T0)を結ぶ光線が存在可能なのは明らかですね。

したがって,任意の時空点(X,T)に対し,X±T=X0±T0なる(X0,T0)を取れば,これに関してF(X,T;β)=φ±(X±T;β)=C2(X0,0;β)が成立します。

 

X±T=(一定),またはX2-T2(一定)の(X,T)に対しては共通の(X0,0)を与えることができますから,それらの点に共通な値C2(X0,0;β)はX2-T2のみの関数になります。

 

結局,ある1変数関数Φによって,F(X,T;β)=C2(X0,0;β)=Φ(X2-T2;β)と書くことができるわけです。

言い換えると,X'2-T'2=f2(X,T;β)-g2(X,T;β)=Φ(X2-T2;β) と書けることになります。

 

X=T=0 のときにはX'=T'=0 ですから,特にΦ(0;β)=0 です。また,恒等変換β=0 の場合には,もちろんX2-T2=f2(X,T;0)-g2(X,T;0)=Φ(X2-T2;0)です。または,簡単にいうと,Φ(X2-T2;0)=X2-T2です。 

一方,dX'/dT'0:dX'0 に対応する点の軌跡:(X(T),T)はdX/dTβ:dXβdTを満たすという条件により,X'=X1'=(一定)の軌跡はS系ではX(T)=X1+βTと書けます。

 

そこで,この軌跡:X'=f(X,T,β)=(一定)の上では,f2(X1+βT,;β)=f2(X1,0;β)です。そして,任意の(X,T)に対しても,X1≡X-βTと置けば,X'2=f2(X,T;β)=f2(X-βT,0;β)が得られます。

この等式は,任意の(X,T)に対して成立しますから,結局,X'2=f2(X,T;β)はX-βTだけの関数で表現できることがわかりました。

 

そして,X'2-T'2=f2(X,T;β)-g2(X,T;β)=Φ(X2-T2;β)から, 0=f2(X,T;β)-f2(X-βT,0;β)=Φ(X2-T2;β)-Φ((X-βT)2;β)+g2(X,T;β)-g2(X-βT,0;β) です。

 

そこで,T'2=g2(X,T;β)=g2(X-βT,0;β)+Φ((X-βT)2;β)-Φ(X2-T2;β)も成立します。

ところで,X'2-T'2=Φ(X2-T2;β)でしたから,X2-T2=Φ-1(X'2-T'2;β)ですが,変換の対称性を考慮すると,明らかにΦ-1(ξ;β)=Φ(ξ;-β)なので,X2-T2=Φ(X'2-T'2;-β)=Φ(Φ(X2-T2;β);-β)となるはずです。

 

ところが,S'系の運動の向きが正反対:β→-β(v→-v)の場合でも,S系の同一の点(X,T)に対応する点(X',T')についてX'2-T'2の値は同一であろう,という物理的な考察によれば,Φ(ξ;-β)=Φ(ξ;β)であると考えられます。

 

この考察から,Φ(Φ(ξ;β);-β)=Φ(Φ(ξ;β);β)=Φ(ξ;η(β)),つまり,X2-T2=Φ(X2-T2;η(β))が得られます。

 

ここでη(β)は速度合成に関わるあるβの関数ですが,とにかく一般にゼロではないので,Φ(X2-T2;β)はβには無関係ですから,Φ(X2-T2;β)=X2-T2と結論されます。

 

これで,やっと重要な関係式:X'2-T'2=f2(X,T;β)-g2(X,T;β)=X2-T2を得ることができました。最初から座標や時間の1次式を仮定していれば,これは苦も無く得られる関係なのですが。。。

これを用いると,T'2=g2(X,T;β)=g2(X-βT,0;β)+Φ((X-βT)2;β)-Φ(X2-T2;β)なる関係式は,g2(X,T;β)-g2(X-βT,0;β)=(X-βT)2-X2+T2に帰着します。

 

この式に,X=βTを代入するとg2(βT,T;β)=(1-β2)T2が得られます 

ところで,X'=X1'=(一定)のTに沿っての軌跡は,X(T)=X1+βTでしたが,T'=T1'=(一定)のXに沿っての軌跡T=T(X)はどのように表現されるのでしょうか? 

X'2-T'22-T2において,T'=T1'=(一定)の軌跡を仮定すると,この上ではT'2=g2(X,T;β)=T1'2(一定)ですから,f2(X,T;β)=X'2=X2-T2+T1'2,またはf2(X-βT,0;β)=X2-T2+T1'2です。

 

βを固定すると,左辺はX-βTだけに依存する関数ですが,一見したところ,右辺はX-βTだけの関数には見えません。 

そこで,Y≡X-βTとして,これをYで表わすとf2(Y,0;β)=(Y+βT)2-T2+T12となります。βを固定した今の場合,左辺はYだけの関数です。

 

Yを固定して,Tで偏微分すると∂f2(Y,0;β)/∂T=2β(Y+βT)-2T+dT1'2/dT=0 となります。つまり,dT12/dT=2T-2β(Y+βT)=2T-2βX=2(T-βX)です。これをTで積分するとT1'2(T-βX)2const.が得られます。

 

以上から,T'=T1'=(一定)のXに沿っての軌跡は,T1を定数としてT=βX+T1なる表式で与えられることがわかりました。

 

よって,2(X,βX+T1;β)=T1'2=g2(0,1;β)により,任意の点(X,T)に対してg2(X,T;β)=g2(0,T-βX;β)が成立します。すなわち,T'2=g2(X,T;β)はT-βXだけの関数になります。

 

したがって,f2(X,T;β)-g2(X,T;β)=X2-T2なる関係は2(X-βT,0;β)-g2(0,T-βX;β)=X2-T2と書き直されます。

 

これにT=βXを代入すれば,2((1-β2)X,0;β)=(1-β2)X2です。また,X=βTを代入すれば,2(0,(1-β2)T;β)=(1-β2)T2を得ます。 

それ故,(X,0;β)=X/(1-β2)1/2,g(0,T;β)=T/(1-β2)1/2,すなわち,(X-βT,0;β)=(X-βT)/(1-β2)1/2,g(0,T-βX;β)=(T-βX)/(1-β2)1/2です。

 

結局,最終的には,X'=(X,T,0;β)=(X-βT)/(1-β2)1/2,'=(X,T;β)=(T-βX)/(1-β2)1/2となります。

 

すなわち,x'=(x-vt)/(1-v2/c2)1/2,'=(t-vt/c2)/(1-v2/c2)1/2なる最終的な変換式を得ることができました。

 

これは確かに通常のローレンツ変換です。

 

こんなのは,すぐできるだろうと簡単に考えていたら,ほぼ1日かかりました。恐らくはもっと簡単にできるトリックなどがあるのでしょうが,関数方程式を立てて地道に解くと大変なことがわかりました。

 

最近は計算などはほとんどパクリなので,自力で計算する力は歳のせいもあるのか,かなり落ちているようです。

 

もっとも,物理学とか数学とか,理論が主体の学問は,自分で発見しない限りは所詮,全てパクリの連続で単に誰かが考えて述べたことを追体験するだけですが。。。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年1月 2日 (水)

タキオンと因果律(再掲)

 

新年になりましたが.作年12月後半からっずとと科学記事がないのも

私のブログらしくなくてサビしいと感じたので,私得意の手抜きとして

昔の記事を再掲載してツナギにしたいと思います。

 

 ブログを始めてまだ3ヶ月くらいの2006年6/29の過去記事

タキオンと因果律」を再掲します。

  

この記事は.このところずっと古典電磁気学を復習していて,過去の

シリーズ「電磁気学と相対論」や「電場と電束密度,磁場と磁束密度」

をチェックしているうちに遭遇し,

 

参考文献が記述してなかったので.我ながら元ネタは何だろうか?

と数日間探しているうち,やっとメラーの「相対性理論」の中に

あることを発見できたモノです。

 

元ネタを探していたのは図を挿入するためで,元本には恐らく図がある

と思い.それを参考にするかスキャナーで取り込めると期待していたか

らです。

 

結局.年末に元ネタはわかりましたが,図はなかったので自分で描こう

としました。

 

しかし,作成中にワードがオカシクなって全部消えたので頭来てPending

にしていて気分落ち着いたので.さっき文章だけアップした後でボチボチ

描いて挿入しました。

 

再掲記事でなく元記事に挿入するためなので,後で入れときます。

  

ある意味.今年の初仕事ですね。

 

※以下,再掲載記事です。

  

相対論ではタキオン(超光速粒子)の存在は否定されません。

 

これは虚数の質量を持ち光速より遅い速度では走ることができず,

エネルギーを貰えば貰うほど速度が遅くなるという不思議な粒子

です。

 

これが存在すると,因果律(原因の方が結果より前:という基本法則)

が破られます。

 

因果律が破られる事実は具体的には次のように示されます。

 

まず,ある座標系,これを仮に静止系Sとします。

 

この系に対して,x軸の正の向きに相対的に等速度運動している系S'

考えます。

 

それは宇宙船に固定された系であるとしてもかまいません。

 

ただし,これはタキオンではないのでその速度の大きさvは

光速cより小さいとします。

 

静止系Sと運動系S'の双方の時刻ゼロ(t=t'=0 )に,双方

の座標系の原点が一致する(x=x'=0 となる)ように座標系

を取ります。

 

そして,x 軸の正の向き(=右向き)に運動する系S'の原点に

固定されている宇宙船から,時刻ゼロ(t=t'=0 )に光速より

速いタキオン信号をこの運動系でのx軸であるx'軸の負の向き

に発信します。

 

この信号を原点よりも左遠方のある位置で受け取った静止S系

にいる人が,受け取ったと同時に別のタキオン信号をx軸の正の

向きに返して,最初から静止S系の原点にじっとしていた別の人

が受け取るとします。

 

 

 

相対論のLorentz変換を使って,これを計算すると,最後に戻した

信号が静止していた原点にいる人に到達する時刻が静止系で負

になります。

 

そこで,じっと原点に静止していた観測者が時刻ゼロにすれ違った

宇宙船が信号を発するよりも前に,戻ってきたタキオン信号を受け

取ることになります。
 
 つまり,信号を発する前に信号が返ってくるという不思議なことに

なりますから,これは未来の情報が過去に伝わるという現象の例に

なっています。

 

これで因果律は破れます。

 

では具体的な計算を見てみましょう。

 

宇宙船の速さをv<c,タキオンの速さをw>cとして2次元

のLorentz変換で計算します。

  

一般的に扱うために宇宙船から発射するタキオン信号の速さを

1,受け取ってから返すタキオン信号の速さをw2とします。

 

ただし,w1,w2>cです。

 

最初にタキオンを発信するときの位置は,原点x=x'=0 で,

そのときの時刻はt=t'=0 です。

 

ただし,前の説明段階でも述べたように,信号を受けて返す人

慣性系(静止系)をS,それに対して速度vで運動し宇宙船が静止

して見える慣性系をS'として,S系の2次元座標を(x,t),

S'系での同じ点の座標を(x',t')としています。

 

そして,宇宙船から発信された最初の信号が左遠方の別の人に届

くまでの時間(届く時刻)を宇宙船S'系の時刻でt1'とします。

 

すると,届いたときの点のx'座標は,明らかにx1'=-w11'

です。

 

このとき,静止している観測者の系からみた位置での時刻は,

1=γ(t1'-vw11'/c2)=γt1'(1-vw1/c2) です。

 

ただし,γ={1-(v/c)2}-1/2です。

 

そして,観測者の系からみた位置座標は,

1=γ(x1'+vt1')=γt1'(v-w1)

です。

 

この時刻1に,位置x1から速度w2で信号を返します。

 

この信号が原点に静止している別のS系の観測者に届く時刻を,

その原点に静止している人の時刻でt2とし,これを求めます。

 

1+w2(t2-t1)=0 (原点)ですから,これに,

1=γt1'(v-w1),t1γt1'(1-vw1/c2)を代入

すると,γt1'(v-w1)+w22-γw21'(1-vw1/c2)=0

となります。

 

これを解けば,t2γt1'{1-vw1/c2+(w1-v)/w2}

を得ます。

 

したがって,例えばw1>c2/vかつw2>(w1-v)であれば,

2<0 ですから,信号を発信した時刻t=0 より前に,まだ発信

してもいない信号が返って来ることになり,これは因果律を破

ってしまいます。

 

もしも,w1=w2=wならt2=γt1'{2-v(w/c2+1/w)}

です。

 

そこで,w>c2(1+1/γ)/vの条件でt2<0 になりますから,

発信信号と返信信号のタキオンの速さが全く同じであるとし

ても因果律を破ることが可能です。

 

w=cの臨界値,つまり信号がタキオンではなくて真空中の光

=電磁波"なら,受けて返した信号が原点に届く時刻は,

2=2γt1'(1-v/c)であり,このt2はv<cなら正,

v=cならゼロです。

 

この例では,光速を超えるだけでは因果律が破られるとは限らず,

もうちょっと大きい速度のタキオンが必要なようです。

(※これはチョッと計算を間違えたかな?)

 

しかし,宇宙船の速度vも光速に近くなれば信号速度が光速を超

えただけで因果律が成立しないことにはなりますね。

 

もしも,どこかに計算間違いありましたら,ご指摘ください。

  

PS:ここで用いたLorentz変換は光速度不変に基づくもので,

相対論的運動学(幾何学)の式です。

 

力学(mechanics or dynamics)を導入せず,運動学(kinematics)

だけの話なら,議論に質量は入ってこないので虚数質量という

問題も生じません。

 

また,S'系のSに対する相対速度の大きさvがv<cを満たす

なら.γ={1-(v/c)2}-1/2も普通の実数です。

 

この例では,信号速度の大きさwについてw>cであっても,

宇宙船の速度の大きさvが超光速,つまり,v>cでない限り

はγが虚数になることはないので普通に計算できて因果律の

議論ができるのですね。

  

(再掲記事終わり※)

  

PS:バカヤロー。。

  

ほんのちょっとだからよかったものの。アップした記事の

修正・編集をしている最中にwindowsのシャットダウンなんか

するなよな。。

 

偶然どっかのキイに触ったかも知れないけれど,オレにホットキイ

なんか余計なお世話で必要ないからネ。。

  

こいつは,初春(はる)から極めてエンギが悪い。。

  

さて,今から日本テレビで箱根駅伝でも見ます。

 

日テレでは高校サッカー中継もあるみたいです。

 

私の故郷の岡山県代表はどこだろう。。普通は作陽高校ですが。。。

  

年末の高校駅伝も例年通り,男子は倉敷.女子は興譲館で優勝では

ないけどそぞれ.4位.2位とそこそこ活躍したようです。

  

高校野球の秋の神宮大会でも関西高校が準優勝と,これまでのお隣

の広島県ほどではないですが.いくつかのスポーツで全国区になりつ

つあるようです。

  

自分の馴染み」深い愛着のある地域や人々を愛すること,故郷を愛することは

必ずしもナショナリズムじゃなくて,,たとえいつか世界連邦のように国家が発展

的に消滅して地球が1つになったとしても残る感情でしょうね。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年12月20日 (火)

Diracの空孔理論(2)(荷電共役)

Diracの空孔理論の続きです。

 

次は荷電共役変換(charge conjugation:C)の説明です。

 粒子-反粒子の交換対称性ですね。

§5.2 荷電共役変換(Charge conjugation)

空孔理論から,自然界における根本的で新しい対称性が出現します。

各粒子に対して1つの反粒子が存在するという対称性です。

 

特に電子の存在は,陽電子の存在を意味します。

 

 そこで,今度は対応する負エネルギー波動関数から,直接,電子の

 非存在(absense of electron:欠損)を意味する陽電子波動関数

 を形成するための対称性の形式的表現を求めます。

 

 これまでの物理的描像から,エネルギー(-E)(E>0)の欠損,

 および電荷e(自由電子ならはe<0)の欠損,を示す

 「負エネルギーの海」における空孔(hole)は,正エネルギーE

 の陽電子の存在と同等です。

 

 そこで,Dirac方程式:(i-e-m)Ψ=0 の負エネルギー解

 と正エネルギー陽電子の固有状態関数は1対1に対応するはず

 です。

 

ただし,≡γμμ,i≡iγμμ=iγμ(∂/∂xμ),

≡γμμです。

 

μ^=i(∂/∂xμ)ですから,^=iです。

 

こうした解釈によって,陽電子の波動関数Ψcは正の電荷-eを持つ

だけ異なる電子と同じ波動方程式を満たすはずなので,

 

(i+e-m)Ψc0 の正エネルギー解です。

 

 歴史的な後の考察によって,逆に陽電子についても上のDirac方程式

 から電子と等価に全ての性質を読むことができることがわかります。

 

一方が粒子で他方が反粒子と決めつける必要性はなく,お互いに

粒子-反粒子の関係にあります。

 

これまでの考察のどこにも電荷の符号が本質的役割を果たす部分はありません。

 

 こうして,2つの方程式をお互いに変換させる演算子を作る

 という発想に導かれます。

 

 そのためいは,2つの演算子:^=iの間の相対的符号を変化

 させることが必要であるとわかります。

 

 これを複素共役を取ることで実行します。

 

 すなわち,{i(∂/∂xμ)}=-(∂/∂xμ),Aμ=Aμ

 用いると,(i-e-m)Ψ=0:

 または,μ(i∂μ-eAμ)ーm}Ψ=0 は,

 {(i∂μ+eAμμ*+m}Ψ=0 となります。

 

そこで,もしも,(Cγ0μ*(Cγ0)-1=-γμなる代数関係を

満たす正則行列Cγ0を見出すことができれば,

 

{(i∂μ+eAμ)(Cγ0μ*(Cγ0)-1+m}(Cγ0Ψ)=0

より,{(i∂μ+eAμμ-m}(Cγ0Ψ)=0 を得ます。

 

 故にc≡Cγ0Ψ=CtΨ~とおけば,

 {(i∂μ+eAμμ-m}Ψc=0 となります。

 

 これは陽電子の波動関数Ψcが満たす方程式です。

 

 そして,こうしたCが確かに存在することはこれを行列として陽

 に構成することで証明されます。

 

 今使っているガンマ行列の表示では,γ0γμ*γ0tγμですから,

 (Cγ0μ*(Cγ0)-1=-γμは,C tγμ-1=-γμ

 またはC-1γμC=-tγμ を意味します。

 

 この表示ではCγ1-1=γ1,Cγ2-1=-γ2,Cγ3-1=γ3,

Cγ0-1=-γ0,つまり.Cγ1=γ1C,Cγ3=γ3C,

Cγ2=-γ2C,Cγ0=-γ0Cですから,

 

 例えば,係数を虚数iとして,C≡2γ0と採れば,

 条件は満たされます。特に,C=-C-1=-C=-tCです。

 

 これは,このガンマ行列の表示も含む任意の表示で常に,

 (Cγ0μ*(Cγ0)-1=-γμを満たすCを構成できること

 を示すには十分です。

 

 すなわち,ガンマ行列の任意の表示はユニタリ変換で互いに結び付

 いているため,別の任意の表示でも今の荷電共役Cの表現:2γ0

 からユニタリ変換により移行可能な適切なCの行列表現が存在する

 はずです。

 

 よって,一般性を失うことなく今の表示を採用します。

 

 このC≡2γ0の定義においては,係数iを付与しましたが,定義

 にはこうした位相の任意性があることに気が付きます。

 

 今の荷電共役のCの考察では,波動関数の位相には何の物理敵意味

 もないですが,パリティ変換(Parity):Pにおいては位相が意味を

 持つと考える場合もあります。

 

※(注):既に,通常のLorentz変換:x→x'=axに伴なう波動関数Ψ

 の変換:Ψ→Ψ'は,Dirac方程式が形を変えないための条件:

 μνγν=S(a)-1γμS(a)を満たす4×4行列S(a)により,

 

 Ψ'(x')=Ψ'(ax)=S(a)Ψ(x),または,

 Ψ'(x)=S(a)Ψ(a-1x) と書けることを見ました。

 

 特殊なLorentz変換の1つである空間反転;'=ー,t'=tに

 対してもS(a)=Pとして,Ψ'(x')=Ψ'(-,t)=PΨ(,t)

 でパリティ変換:Pを定義すると,

 

 条件:aμνγν=S(a)-1γμS(a)は,gμνγν=P-1γμP,

 または,-γk=P-1γkP,γ0=P-1γ0Pとなります。

 

 この条件は,δをある実数としてP≡exp(iδ)γ0とすれば満足

 されます。

 

 位相因子は物理的意味がないと考えても不都合はないですが,

 波動関数(spinor)自身も何らかの実在と考える立場なら,2回

 の空間反転で波動関数が元に戻ること:P2=1を要求すること

 で,P=±γ0 が得られます。。

 

 さらに,回転群ならspinorは2価表現であることを知っています

 から,実は4回の空間反転で波動関数が元に戻ること:P4=1を

 要求すれば,P=±γ0,またはP=±iγ0です。

 

 (一般には,P≡exp(iδ)γ0で十分ですが。。)

 

 (注終わり※)

 

 さて,表示依存ではありますがCの陽な表現:≡2γ0を変換:

 Ψc≡Cγ0Ψ=CtΨ~に代入すると,Ψc=iγ2Ψと書けます。

 

 そこで,例えば静止したspin-downの負エネルギー電子:

 Ψ=(2π)3/2 t[0,0,0,1]exp(imt) であれば,

 

 荷電共役の結果は,Ψc=iγ2Ψ

 =(2π)3/2 t[1.0,0,0,1]exp(-imt) となります。

 

 これは,静止したspin-downの負エネルギー電子の欠損が,

 静止したspin-upの正エネルギー電子の存在に等価ということ

 を示すものです。

 

 先に与えた射影演算子:Pr(p,s)=Λr(p)∑r(s);

 Λr(p)≡(εr+m)/(2m),∑r(s)≡(1+γ5)を用いれば,

 

 Ψc=Cγ0Ψ=Cγ0+m)(1+γ5)Ψ/(2m)

 =C(εt+m)(1-γ5 t0Ψ

 =(-ε+m)(1+γ5)Cγ0Ψ

 =(-ε+m)(1+γ5c  ですから,

 

 Cγ0=iγ2なる行列を掛けるという演算によって,4元運動量:p

 とspin:sで記述される負エネルギー解から,同一のpとsで記述

 される正エネルギー解が生じると考えられます。

 

 結局,自由粒子spinorにおいては次のように読めます。

 

 exp{iδ(p,s)}v(p,s)=Ctu~(p,s),

 exp{iδ(p,s)}u(p,s)=Ctv~(p,s) です。 

 

 これは,v(p,s)とu(p,s)が,位相因子を伴なって互いに

 荷電共役spinorになることを示しています。

 

 解がp0=(2+m2)1/2=E>0 であるように構成されていた

 ことを思い出すと,これはまた,

 

 Ψ=(2π)3/2 [0,0,0,1]exp(imt)

 → Ψc=iγ2Ψ=(2π)3/2 [1.0,0,0,1]exp(-imt)

 では,spin:sが荷電共役の下で符号を変えないのに,

 今の場合には,spin:sの符号が逆転することに気付きます。

 

 この違いは,sμ(0,)であるような静止系では spinの射影演算子:

Σ(s)=(1+γ5)が,(1+γ0σs/2)なる形を持つという事実にあります。

 

 それ故,この定義での spinの符号の差異はγ0に由来するわけです。

 

 荷電共役演算子;Cは,Ψc=Cγ0Ψ=CtΨ~によって陽に陽電子の

 波動関数を作ります。

 

 それから,電磁場の符号を変化させる追加演算を与えるとDirac方程式

 に対する1つの不変演算子を作ることができます。

 

 そこで,次のような指令の連続は,Dirac理論の正式な対称性操作です。

 

 (1)複素共役を取る。(2)Cγ0を掛ける。(3)全てのAμを-Aμに変更する。

 

 この一連の操作を荷電共役と予呼び,で記述します。

 

 荷電共役:という変換の物理的内容は,電磁ポテンシャルAμの中

 にある電子の実現可能な量子状態は,電磁ポテンシャル-Aμの中

 にある陽電子の実現可能な量子状態が対応することです。

 

 そこで,Dirac方程式:(i-e-m)Ψ=0  の正エネルギー解を,同じ

 方程式の負エネルギー解::空孔理論により1つの陽電子に変換する

  ことによって,荷電共役:は正エネルギーの spin-up 電子を正エネ

 ギ-の spin-up 陽電子に変えます。

 

(※:何故なら,:(i-e-m)Ψ=0 は電子に対しては電磁ポテンシャル:

 μの中にある場合の方程式であり,陽電子に対しては電磁ポテンシャル:

 -Aμの中にある場合の方程式です。※)

 

 場:-μの中にある陽電子の動力学が場:μの中にある電子のそれ

 と同じであるというというのは古典的常識で考えても当然のことです。

 

 空孔理論によって導かれろ驚くべき結論は,もしも1つの質量mと電荷e

 を持つ粒子(特にFermion)が存在すれば,質量mと反対電荷-eを持つ

 その反粒子も存在すべきである,ということです。

 

 実際に,質量が同じで大きさ同じ両方の符号の電荷を持つ電子が自然界

 で観測されるという事実は相対論的量子論の少なくとも部分的妥当性を

 確信させる最強の論拠の1つです。

 

 ちょっとつなぎで,かなり短かいですがここまでにします。

 

参考文献:J.D.Bjorken S.D.Drell 「Relativistic Quantum Mechanics」(McGrawHill)

 

PS:首,肩,腕,痛くて痛くて痛くて。。手首から肘しびれて寒さ痛さ

 ジンジン何もできなくて。。。痛い。。。寝転んでも痛ーい。。。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年11月29日 (火)

Diracの空孔理論(1)

「水素様原子の微細構造」(補遺)」から続く話題として,反粒子の存在を予言した「Diracの空孔理論(Hole theory)」の概説に入ります。

 

§1.負エネルギー解の問題 (序文)

 

Dirac方程式の負エネルギー解については,初期の議論のいくつか

で触れてきました。

 

例えば,1つの局在化された波束の構成においても,その中には

必然的に負エネルギー解成分が存在することを計算で確かめ

ました。

 

しかし,これまではそれらを解釈したり,その含蓄する意味を理解

するという問題については何とか避けて通ってきました。

 

しかし,今から後はこうした疑問に直面していきます。

 

負エネルギー解の存在は,原子内の電子が輻射を伴なって

負エネルギー状態へと遷移し,これまで想像もしてなかった

"無間地獄"状態へとなだれ的に落ちてゆくことを可能にし

ます。

 

こうした現象を避けるためには,Dirac理論の再解釈が必要

されます。

 

もしも電子と光子(輻射場)の相互作用を完全に無視するなら,

こうしたことは何の問題もなく,以前の記事で書いたような定常解

が計算できて,実験と非常によく合致するエネルギー固有値や遷移

振幅をも見出すことができます。

 

しかし,もしも輻射相互作用(光子との相互作用)をも含むことが

要求される正確さまで原子内電子の微妙な性質による結果をも

計算したいなら,

 

実際的のみならず原理的に,"電子が負エネルギー状態に転げ落ちる

のを防ぐ"という問題が存在し,これを避けては通れません。

 

水素原子の基底状態にある電子が負エネルギー状態まで落ちる

遷移率は,半古典的輻射理論を適用すれば先に見出した波動関数

を用いて容易に計算することができます。

 

すなわち,電子が負エネルギーの準位:-mc2から-2mc2の間

に遷移する率(単位時間当りの遷移確率)は,

約(2α6/π)(mc2/hc) ~ 108sec-1です。

 

もしも,この準位区間だけでなく全ての負エネルギー状態への

遷移を含めれれば,こうした全遷移は大爆発を起こします。

 

しかしながら,これは,明らかにナンセンスです。

 

 こうした状況下でもなお,Dirac理論,Dirac方程式が生き残れる

 としたら,

 それは1粒子Schroedinger理論の単なる相対論的拡張として示唆

 されるのとは別の負エネルギー状態の取扱いを見つける必要に迫

 られます。

 

ところが,Diracはこうした見解を見出すことを既に1930年には

成し遂げました。彼は「空孔理論(Hole theory)」という新理論

を定式化してこれに臨んだのです。

 

その理論は,負エネルギー解によって提示されたジレンマを単に

「Pauliの排他原理」に従って負エネルギー状態を満たし尽くす

ということによって解決するものです。

 

この解釈によれば,真空状態(vacuum;基底状態)は

全ての負エネルギー電子状態は電子で満たされていて

正エネルギー電子は全く空の状態です。

 

Pauliの原理」によれば,もはやこれ以上の電子はこうした

"負エネルギー電子の海"に収容することが不可能です。

 

それ故,水素原子の基底状態の安定性は保証されることになります。

 

この"負エネルギー電子の海'(Dirac sea)"という新しい仮説から,

多くの帰結が従います。

 

まず,負エネルギー電子が輻射(光子)を吸収して正エネルギー状態

に励起されることが可能となります。

 

これは下の図5.1に図式的に示されています。

 

  

        図5-1  

 

この現象が生じると,新たに電荷がe<0 でエネルギーが+E>0

の1電子の存在が観測され,かつ負エネルギー電子の海に1つの

負エネルギー電子の抜けた抜け殻の空孔(hole)が観測されること

になります。

 

この空孔は,電荷がe<0 でエネルギーが-E<0 の

"1電子の非存在=負エネルギー状態の占拠電子の欠如(absence)"

を示しています。

 

これは観測者にとっては,真空状態に相対的に電荷が-e>0 で

エネルギーが+E>0 の1つの粒子状態が存在すると見えるはず

です。

 

そこで,この電荷が-e>0 でエネルギーが+E>0 の粒子を

電子の反粒子(anti-particle)である陽電子(positron)と解釈

するわけです。

 

 これが,電子-陽電子の対創生(生成)(pair-production)に対する

 空孔理論的解釈の基礎です。

 

これと対照的に,負エネルギーの海における空孔,or 陽電子は

正エネルギー電子が落ちる落とし穴(trap:罠)となり,輻射(光子)

の放出を伴なって電子-陽電子の対消滅(pair-annihilation)

へと導くことがいえます。

 

これは下図5.2に図示されています。

 

 

        図5-2

 

空孔理論によって,Dirac理論は正負両符号の電荷を持つ粒子たち

を記述する多粒子理論へと移行することが認識されます。

 

そして,解の波動関数(spinor)は単に1粒子理論の確率解釈を

有するという性格のモノだけではなくなります。

 

何故なら,それらはまた電子-陽電子対の生成や消滅をも記述する

役割を有するからです。

 

 歴史的には,Klein-Gordon方程式が廃棄されてDirac方程式が

 発見され,その理論の発展が1粒子理論を確立するということが

 望まれるように動機付けられたという経緯が思い起こされます。

 

 それ故,何故,Klein-Gordon方程式のケースと同様,解釈の困難

 が生じたDirac方程式もまた捨てるという選択が取られないのか?

 という疑問が生じるのも当然なことです。

 

 しかしながら,Dirac方程式については,次の簡明な理由からその

 廃棄を渋ってきたという経緯があります。

 

 つまり,これまでのところDirac方程式における"真理"の印象的な

 実体物がどんどん明らかになってきており,

 

 それは水素原子の超微細構造と呼ばれる正確なエネルギースペクトル

 を予言したり,電子の"g因子=磁気回転比"も非常に正確に予測して

 きているからです。

 

 そして,この空孔理論において予言される陽電子についても実際に

 観測にかかっています。

 

 元は,Diracによって合理的に写し出された推論の歴史的経緯に

 従って,電子に対する望ましい方程式へと導かれてきたわけです。

 

 もっとも,今となっては理論を再解釈することにより元々の発展

 への出発点となった動機は捨てられる結果になっていますが。。

 

 物理学の歴史では,こうした理論の進歩の試行錯誤的プロセス

 パターンは他にも山ほどの例があります。

 

 したがって,Dirac方程式の空孔理論解釈を支持して,最初遂行して

 完成しかかっていた"素朴な"1粒子の確率解釈は排斥することに

 します。

 

 ここで,また2階線形のKlein-Gordon方程式に帰ることも可能です。

 

 そこでもまた波動関数の適切な再解釈によってこの方程式を救済

 することも可能であることに着目しておきます。

 

 Klein-Gordon方程式を超えたDirac方程式の利点は,それがspinが

 1/2で,g=2 の電子を正確に記述できることにあります。

 

 後述する予定ですが,一方のKlein-Gordon方程式はπ中間子(pion)

 のようなspinがゼロの粒子を記述できます。

 

 これら両方の相対論的波動方程式について共通なことは,不変な

 2次のエネルギー・運動量の関係:pμμ=m2を記述している

 ことです。

 

 両方のケースで安定な基底状態を保証するためには,

 負エネルギー解の再解釈をする必要があります。

 

 そして,これはFermi粒子とBose粒子の双方について粒子(particle)

 だけでなく反粒子(antiparticle)が存在することを不可避にします。

 

 (※↑もっとも,Bose粒子では「Pauliの排他原理」は成立しない

 ので,Bosonにより占拠された負エネルギーの海という同じ解釈

 では破綻します。

 

 Dirac spinorやKlein-Gordon scalarが単純な確率振幅を意味

 する波動関数でなくFock空間の状態ベクトルに作用する第二量子化

 された場であると再々解釈すれば,Dirac seaのようなものを仮想

 する必要性からも解放されて新たな地平を築くこともできます。

 

 例えば,正エネルギー解の部分は正エネルギー粒子の生成,

 負エネルギ-解の部分は正エネルギー粒子(実は反粒子)の消滅

 に関わる振幅の部分と考えれば,負エネルギー粒子の存在を仮想

 する必要はなくなります。

 

 しかし,今は歴史的経緯に従って空孔理論を概説しています。

 個人的には,これを理解することも必要なプロセスであると思って

 います。※)

 

 結局,粒子は正エネルギー解によって記述されますが,反粒子は

 負エネルギー解の非存在(空孔)によって記述されます。

 

 今の例では,Dirac方程式に従う粒子は質量がmで電荷がe<0 の

 電子であり,他方,反粒子は質量は同じmなのですが電荷が反対符号

 :-e>0 の陽電子です。

 

 今日は.序文(introduction)として短いですがここまでにします。

 

 (※関連過去記事として,2006年12/21の

 「電子の自己エネルギーとDiracの海」があります。※)

 

参考文献:J.D.Bjorken S.D.Drell "Relativistic Quantum Mechanics" (McGrawHill)

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2011年11月23日 (水)

水素様原子の微細構造(補遺5-2)

 ※いやあ。驚きました。

 

 下の科学記事を書いた後の真夜中,なにげにこのブログのアクセス履歴を見てみたら,何と11月21日のアクセス数が1日だけで6672です。

 

 訪問人数も半分の3120です。(大体1人平均2回アクセスですね。)

  

 イツモは平日なら大体300アクセスで訪問者200人くらいですから,アクセス数で約20倍の大爆発。。何が起きたのでしょうか??

 

 23日休日だからいいのですが,目が覚めてしまいました。

 

 カウンターも数日前に56万を超えたばかりだったのに,たちまち57万

を超えています。 

(※300/日×365日で約10万アクセス/年で5年半経ってます。)

 

 前も1000アクセス/日を超えたことはありました。

 

 そのときは,X-JAPANのTOSHI関連の比較的大きいニュースがあったときでしたから,TOSHI違いの勘違いでした。またそうなのかな?

  

 22日も前日の余韻なのか?1537アクセスの736人。

 

 普通,休日祝日は半減しますから,

 今日23日はもっと減るでしょうが。。。。

 

(※記事別アクセスだと11/21は不明ですが,11/22なら2006年3~4月の過去記事「サルにもわかる相対性理論①~⑥」が56%と半分以上で,

 

 特に2006年3/24の本論に入る「サルにもわかる相対性理論②」が最大で40%ですね。ふーむ?)

   

 アクセス増えるのはうれしいけれど???

  

(PS:11月21日は私の母の91回目の誕生日。何事も無ければいいが。)※※ 

   

 さて,水素様原子の微細構造)(補遺5-1)の続き,後半です。

  

 波束を正エネルギー,負エネルギーの両方の重ね合わせに一般化

 します。

 

 Ψ(,t)=∫d3p(2π)-3/2(m/E)1/2±s{b(p,s)u(p,s)

 exp(-ipμμ)+d*(p,s)v(p,s)exp(ipμμ)} です。

 

 これによる全確率を計算すれば,

 ∫Ψ(x)Ψ(x)d3x=∫d3p∑±s{|b(p,s)|2+|d(p,s)|2}

 ですから,

 

 係数,dは,∫d3p∑±s{|b(p,s)|2+|d(p,s)|2}=1

 と規格化されます。

 

(注3):∫Ψ(+)+(x)Ψ(+)(x)d3

=∫d3pd3p'{m2/EE')}1/2±s,±s'[b*(p',s')b(p,s)

(p',s')u(p,s)δ3('-)exp{i(E'-E)t}

 

+b*(p',s')d*(p,s)u(p',s')v(p,s)δ3('+)

exp{i(E'+E)t}+d(p',s')b(p,s)v(p',s')u(p,s)

δ3(p')exp{-i(E'+E)t}

 

+d(p',s')d*(p,s)(p',s')v(p,s)δ3(')exp{i(E-E')t}] です。

 

 右辺のd3p'積分の被積分関数の各項には因子δ3()がある

 ため,'=±よりE'=Eなので,{m2/(EE')}1/2=m/Eで,

  

 exp{i(E'-E)t}=exp{i(E-E')t}=1,かつ

 exp{i(E'+E)t}=exp(2iEt),exp{-i(E+E')t}

 =exp(-2iEt)です。

 

 さらに,u(p,s')u(p,s)=v(p,s')v(p,s)

 =(E/m)δss',

 u(-p,s')v(p,s)=v(p,s')u(-p,s)=0

 ですから,

 

 結局,∫Ψ(x)Ψ(x)d3

 =∫d3p(m/E)∑±s,±s'[b*(p,s')b(p,s)

 u(p,s')u(p,s)+d(p,s')d*(p,s)v(p,s')v(p,s)]

 =∫d3p∑±s{|b(p,s)|2+|d(p,s)|2}

 を得ます。

 

(注3終わり)※

 

 一方,そうした波束Ψのcurrentについては,同様な計算から

 

 k=∫Ψ~(x)γkΨ(x)d3

 =∫d3p(pk/E)∑±s{|b(p,s)|2+|d(p,s)|2}

 +i∑±s,±s'{b*(-p,s')d*(p,s)u~(-p,s')

 σk0v(p,s)exp(2iEt)

 +d(-p,s')b(p,s)v~(p,s')

 σk0u(-p,s)exp(2iEt)}

 

 を得ます。

 

 ただし,E=(2+m)1/2であり,u(-p,s)=u(E,-,s),

 v(-p,s)=v(E,-,s)です。

 

 やや矛盾したnotationですが。。

 

 この表現では,時間に依存する群速度に加えて,振動数:2Eで急速に

 振動する正エネルギーと負エネルギーの交叉する項が出現してい

 ます。

 

振動数は非常に高く2E=2cE/hc>2cm/hc~2×1021sec-1です。

 

こうした形で現われる急速振動は,ドイツ語でZitterbewegung

(ツィッターベベーグング)と呼ばれています。

 

この振動の大きさは,波束中の負エネルギー解の振幅に比例して

います。

 

解のこの現象については,これまでの議論からすぐに何らかの解釈

をすることはできませんが,次のような考察は可能です。

 

自由粒子解の一般形:Ψ(,t)=∫d3p(2π)-3/2(m/E)1/2

 ±s{b(p,s)u(p,s)exp(-ipx)+d*(p,s)v(p,s)

exp(ipx)}は,

 

係数b(p,s),d*(p,s)の時間独立性によって,波束が初期に特に

正エネルギー解のみから形成されていれば,外力のないところでは

負エネルギー成分を持つような発展をしないことは明らかです。

 

しかし,初期において有限な大きさの領域に局在化され,1つの電子

表わすように形成される波束は,必ず負エネルギー解の成分を含み

ます。

 

(※↑ 実は,既に2006年8/8の記事

負エネルギー解と相対論的因果律」で,こうした事情を詳述

しています。)

  

 例えば,Ψ(,0,)=(πd2)-3/4exp{-r2/(2d2)}w(1)(0),

 (r≡||)とします。

 

 これは初期時刻t=0 において,原点r=0の周りの半値幅~dの

 Gauss分布に相当する局在化された波束です。

 

 そこで,t=0 では(πd2)-3/4exp{-r2/(2d2)}w(1)(0)

 =∫d3p(2π)-3/2(m/E)1/2±s{b(p,s)u(p,s)exp(ipx)

 +d*(p,s)v(p,s)exp(-ipx)}です。

 

 そこで,Fourier変換を実行し,

 ∫-∞3xexp{-r2/(2d2)}exp(ilx)

 =(2πd2)3/2exp(-22/2)を用いると,

 

b(p,s)=(m/E)1/2(π/d2)3/4exp(-22/2)u(p,s)w(1)(0),

*(p,s)=(m/E)1/2(π/d2)3/4exp(-22/2)v(p,s)w(1)(0)

 

 です。

 

 故に,Gaussの波束:

Ψ(,0,)=(πd2)-3/4exp{-r2/(2d2)}w(1)(0)の中の

負エネルギー成分の係数d*はゼロではありません。

 

 *はbに相対的に,uの大成分(上成分)に対するvの小成分(上成分)

の比率:~p/(E+m)だけ小さい値になっています。

 

 このことは,運動量がm程度の粒子に対しては負エネルギーの振幅

を評価できることを示しています。

 

 しかし,さらに,今求めた表現から波束は主として||≦1/dを満たす

運動量から形成されると見られます。

 

こうした困難のうちで,有名なパラドックスの1つは,Kleinのparadox

と呼ばれるものです。

 

電子を局所化するためには,望ましい領域に閉じ込める強い外力を

導入する必要があります。

 

例えばエネルギーがEの自由電子をz=0 の左側の領域Iに閉じ込め

たい場合を考えます。

 

電子がz=0 の右側の領域Ⅱの距離dより先には見出されない

ようにしたいなら,領域Ⅱにおける特性幅:πdで振幅が急減少

するように,0≦z≦dの微小区間の中でVが高さV0(>E)まで

非常に鋭く上昇するような形になるはずです。

 

これは,幽閉長さdが~1/mまで縮み,(V0-E)がmより大きくなる

までは,普通の非相対論的Schroedinger理論におけるのと同様です。

 

 相対論で何が生じるかを見るため,下図に見られるような絶壁境界

を持つ静電ポテンシャルを想定して,z方向に沿って左から入射する

運動量(波数),spin-upの1電子の反射currentと透過currentを

計算してみます。

   

 

 領域Ⅰにおける入射波:Ψincと反射波:Ψrefに対する正エネルギー解

は次のように書けます。

 

 Ψinc=aexp(ipzz)t[1,0,pz/(E+m),0],

 Ψref=bexp(-ipzz)t[1,0,-pz/(E+m),0]

 +b'exp(-ikzz)t[0,1,0,pz/(E+m)]です。

 

 何故なら,入射波:Ψincは,w(1)()

t[1,0,pz/(E+m),p/(E+m)]に対応しており,

z方向に沿った解なのでp±=0 ですから,exp(ipx)

=exp(ipzz)です。

 

 また,反射波も自由Dirac方程式の正エネルギー解です。 

 反射波なので,が(0,0,pz)→-=(0,0,-pz)と変わります。

 

 そして,w(2)(-)=t[0,1,-p/(E+m),pz/(E+m)]です。

 

 透過波については,Dirac方程式の一定の外場ポテンシャル

eΦ=V0の存在の下での解ですが,これは単に自由Dirac方程式の解

でのEを(E-V0)におき換えたものです。

 

そこで,領域Ⅱでは'2=(E-V0)2-m2

=(E-m-V0)(E+m-V0)であり,

Ψtrans=dexp(ip'zz)t[1,0,p'z/(E-V0+m),0]

+d'exp(ip'zz)t[0,1,0,-p'z/(E-V0+m)]です。

 

そして,振幅dとd'はcurrent保存によって要求されるポテンシャル

障壁境界における解の連続性条件により,

 

a+b=d,および(a-b)pz/(E+m)=p'z/(E-V0+m)

or,(a-b)=(p'z/pz)(E+m)/(E-V0+m)≡rd,

そして,b'=d',b'pz/(E+m)=-d'p'/(E-V0+m)]より,

b'=d'=0 を満足します。

 

00 で|E-V0|<mなら,波数(運動量)は虚数でp=i||です。

 

これは,領域Ⅱにおける解が距離d>1/mにおいて急減衰する描像

に対応しています。

 

 しかし,電子を閉じ込めるために障壁の高さV0をE+mを超えて

増大させると透過波の方が振動的になります。

 

 透過カレントと反射カレントの比率,透過率と反射率を計算すると,

 

 jtrans/jinc=4r/(1+r)2,

 jref/jinc=(1-r)2/(1+r)2=1-jtrans/jinc

 

 となります。ただし,r=(a-b)/dです。

  

こうした形の結果は,Schroedinger理論での類似した予測

(トンネル効果)を想起させます。

  

 しかし,今は連続性条件が成立し,かつV0>E+m,r<0 のケース

が存在することを観る必要があります。

 

 何故なら,rd=a-b=(p'z/pz)(E+m)/(E-V0+m)

なので,0>E+mならr<0 となるのです。

  

 この場合には,透過率:jtrans/jinc=4r/(1+r)2,反射率:

ref/jinc=(1-r)2/(1+r)2=1-jtrans/jincの式から,

負の透過current,

 

 および,入射currentを超過する反射currentが示され通常の理論の

常識に反する結果が見出されます。

   

では,V0>E+mのケースに領域Ⅰへ,つまり左の方へと動く

領域Ⅱでのcurrentの源(source)は一体何なのでしょうか?

   

また,Compton波長~1/mの中に解を局在化させようとして

障壁ポテンシャルの高さV0を(E+m)より大きく増加させ

ましたが,

 

結局は,目的に反して減衰しない振動解を伴なう結果に終わり

ました。

 

このことも,どのように解釈され得るのでしょうか?

  

これらの疑問への回答は,ただ新たに加わった負エネルギー解を

理解し解釈することのみにより得られると考えられます。

 

それは,1/mに局在化させた波束(例えばGauss分布解)の中には

必然的に負エネルギー解成分を含む必要があるという議論からも

明らかです。

   

前記のcurrentの計算から,こうした短距離では進むという描像は

うまくいかないこともまた等しく明らかです。(Zitterbewegung)

   

こうした疑問は,前期量子電磁気学ともいうべきDiracの空孔理論

(Hole theory)に頼れば,一応は出発点に戻って解決されます。 

   

しかし,その前にエネルギーの単位がmのオーダーで距離の単位が

1/m規模であるような,ポテンシャルがV=V0<E+mで弱い滑らかに

変動する領域での正エネルギー電子に対しても,相対論方程式の意味

を問う必要があります。

  

Dirac方程式,そしてDirac理論の適用により,非相対論的エネルギーの

領域にも新たな展開が期待できる豊富な分野があることにも着目します。

 

そして,ここで初めてFoldy-Wouthuysen変換や水素様原子の束縛状態

におけるエネルギー準位の相対論効果による超微細構造,Lamb-shift

などを論じた,

  

2011年7/17の記事「水素様原子の微細構造(1)」に始まるシリーズへと

回帰することになるわけです。

 

忘却のかなたですが,そもそも補遺を書くようになった動機は,2011年8/11

の「水素様原子の微細構造(4)」の(注13)で書いたZitterbewegungと

Darwin項:-{-e/(8m2)}divの関連を明らかにすることでした。

 

(※(再掲:注13):相対論的Dirac方程式のFoldy-Wouthuysen変換におけるDarwin項は,-{e/(8m2)}divですが,これはZitterbewegung(負エネルギー部分との相互作用運動)の効果です。※)

  

 Darwin項は,-{e/(8m2)}div={1/(8m2)}∇2Vです。

  

 これは,∇~1/(1/m)のCompton波長付近で∇2~m2,V>E+m

 によって強く効く項という意味で,Zitterbewegung効果ということ

 でしょうね,

  

これで「水素様原子の微細構造(補遺)」シリーズは完全に

終了です。

   

残されているのは後はDiracの空孔理論(Hole theory)だけです。

 

一応,乗りかかった船なので,この過渡期的理論についても続く記事

で題名を改め詳しく述べる予定です。 

  

参考文献: J.D.Bjorken & S.D.Drell“Relativistic Quantum Mechanics”(McGraw-Hill)

| | コメント (3) | トラックバック (0)

2011年11月22日 (火)

水素様原子の微細構造(補遺5-1)

 またまた,かなり間が空きましたが.「水素様原子の微細構造」(補遺4)」の続きです。

 

 別に考え込んでいたわけではなく,最近は頚椎捻挫もあって単に自分のノートからの転記でPCに向かってキーボードを叩くだけでも,ひどく疲れしょっちゅう中断していたせいです。

 

 今回も,記事全体では長すぎるので2つに分けました。

 

 まずは,前半です。

 

 前回までの自由粒子Dirac方程式の平面波の基本解に関する知見と道具を前提として,さらに先へと進みます。

 

 さて,自由粒子の平面波解の重ね合わせによって局所化された波束(wave-packet)を作ることができます。

 

 重ね合わせの原理(方程式の線形性)により,これらの波束もなお自由粒子Dirac方程式の解です。

 

 まず,正エネルギー解のみを重ね合わせたものは,Ψ(+)(,t)

=∫d3p(2π)-3/2(m/E)1/2±s{b(p,s)u(p,s)exp(-ipμμ)

と表現できます。

 

 展開係数:b(p,s)を単位確率に規格化するため,先述したスピノールの直交関係:w(r)+r)w(r')r')=(E/m)δrr’に訴えます。

 

 これから,u(p,s')u(p,s)=(E/m)δss'ですから,

  

∫Ψ(+)+(,t)Ψ(+)(,t)d3=∫d3pd3p'

{m2/(EE')1/2}∑±s,±s'*(p',s')b(p,s)u(p',s')u(p,s)

∫d3x(2π)-3 exp{i(p'μ-pμ)xμ}

=∫d3(m/E)∑±s,±s'*(p,s')b(p,s)u(p,s')u(p,s)

  

です。

 

 すなわち,規格化は.∫Ψ(+)+(,t)Ψ(+)(,t)d3

 =∫d3p)∑±s,|b(p,s)|2=1 です。

 

 

 次に波束に対する平均currentは速度演算子の期待値で与えられ,

 J(+)=∫(+)+αΨ(+)3xです。

 

 これを評価するに当たって,自由粒子解から形成される4元ベクトルの重要な次の関係式を用います。 

 

 Dirac方程式:(^-m)Ψ=0 の任意の解:Ψ1(x),Ψ2(x)に対し,次の 恒等式が成立します。

 

Ψ2μΨ1={1/(2m)}{Ψ2~p^μΨ1 -(p^μΨ2~)Ψ1}-{i/(2m)}p^ν2μνΨ1) です。

 

※(注1):ab=aμγμνγν=aμν[(γμγν+γνγμ)/2+[γμν]/2]=aμμ-iaμνσμνですから,

 

 (^-m)Ψ1=0,Ψ2~(-^-m)=0 より,

  

 0=Ψ2~(-^-m)Ψ1+Ψ2~(^-m)Ψ1

    =-2mΨ2~Ψ1+Ψ2~ap1-Ψ2~^Ψ

 が成立します。

 

 -2mΨ2~Ψ1

 Ψ2~(aμp^μ-iaμp^νσμν-p^μμ+ip^μνσμ1=0

 です。

 

 故に,aμ(2mΨ2μΨ1)=aμ2~p^μΨ1 -(p^μΨ2~)Ψ1}

 -iaμ2~p^νσμνμΨ1+(p^νΨ2~)σμνΨ1} となります。

 

 これが,任意のaμに対して成立するので,

 2mΨ2μΨ1=Ψ2~p^μΨ1 -(p^μΨ2~)Ψ1}-ip^ν2μνΨ1)

 が成立するわけです。(注1終わり)※

 

 この恒等式は,Gordon-decompositionとして知られています。

  

 これは,Dirac currentを非相対論currentとspin-currentに似た相応currentとの和として表現しています。

 

 特に,Ψ1=Ψ2=Ψの場合には,ΨμΨ={1/(2m)}{Ψ~p^μΨ-

 (p^μΨ~)Ψ}-{i/(2m)}p^ν(Ψ~σμνΨ)が成立するため,

 

 k(+)=∫Ψ(+)~(x)γkΨ(+)(x)d3=∫d3x∫d3pd3p'(2π)-3

 {m2/(EE')1/2}∑±s,±s'[b*(p',s')b(p,s) exp{i(p'-p)x}

 {1/(2m)}u~(p',s'){(p'k+pk)-(p'ν+pν}u(p,s)]

 =∫d3p(pk/E)∑±s,±s’{b(p,s)|2

 

 と書けます。

 

 つまり,(+)=∫Ψ(+)~(x)γΨ(+)(x)d3

 =∫Ψ(+)+(x)αΨ(+)(x)d3x=<α

 =∫d3/E)∑±s,±s’{b(p,s){2=</E>です。

 

 前に与えた規格化によれば,currentは,(+)=<α=</E>

 =<gpと書けるわけです。

 

 gpは波束の群速度(group velocity)です。

 

 ただし,記号:< >は正エネルギー波束のみに関する期待値です。

 

 そこで,正エネルギー解から形成される任意の波束に対するcurrentは,丁度古典論の群速度に一致します。

 

 相応する説明は,非相対論的Schroedinger理論ではよく知られています。

 

 (※:αgp,=m/(1-β2)1/2,E=m/(1-β2)1/2 であり,

 α/Eです。)

 

 こうして,Diracの相対論的理論における重要な違いに到達しました。

 

 非相対論的Schroedinger理論においてcurrentの中に常に出現する速度演算子は/mです。これは定数ベクトルです。

 

 一方,Diracの相対論的理論ではcurrentは運動量に比例しません。

 

 =ΨαΨであり,この場合,速度演算子はopα=γ0γです。

 

(注2):Dirac方程式:(^-m)Ψ=(iγμμ-m)Ψ=0 の行列α,βによる表現は,i(∂Ψ/∂t)=H^Ψ=(-iα∇+βm)Ψ

or i(∂Ψ/∂t)=(αp^+βm)Ψです。

 

 そこで,∂(ΨΨ)/∂t+∇(ΨαΨ)=0 が成立するので,

 確率密度をρ≡ΨΨとし,≡ΨαΨとおけば,

 ∂ρ/∂t+∇=0 という連続の方程式の形になります。

 

 これは,確率P=∫ρd3x∫ΨΨd3xの保存を保証するcurrent密度が

 J=ΨαΨで与えられることを示しています。

 

 連続方程式∂ρ/∂t+∇=0 は,相対論的4次元形式では∂μμ=0 と書けます。Jμは4元電流密度で,Jμ=Ψ~γμΨ=(ρ,)です。

 

 また,自由粒子ではなくて,電磁場Aμ(Φ,)があれば,波動方程式は,

 i(∂Ψ/∂t)=H^Ψ={α(^-e)+βm+eΦ}Ψです。

 

 ^=α(^-e)+βm+eΦなので,

 d/dt=i[H^,]=i[αp^,]=α です。

 

  さらに,π^≡^-eとおけば,H^=απ^+βm+eΦで,

 dπ^/dt=i[H^,π^]+∂π^/∂t=i[H^,π^]-e∂/∂tより,

 

 dπ^/dt=e[α×]を得ます。ただし=-∇Φ-∂/∂t,

 =∇×です。

 

 何故なら,^=-I∇より簡単な計算によって,

 

 [H^,π^]=[H^,^-e]=[α(^-e)+βm+eΦ,^-e]

 =e[Φ,]-e[αp^,]-e[,αp^]

 =-ie[∇Φ+α×(∇×)

 

 となるからです。

 

 そこで,d/dt=α,およびdπ^/dt=e[α×]であり,

 π^=-eは∂L/∂で定義される正準運動量ですから,

 

 αが古典論での粒子速度,または波束の群速度を示す量子演算子opに対応することがわかります。opα=γ0γです。(注2終わり)※

 

 dπ^/dt=e[op×](π^≡^-e)のEhrenfest関係から,自由粒子の運動ではd/dt=0 ですが,速度演算子αは[H^,α]≠0 なので定数ベクトルではありません。

  

(※何故なら,^=α(^-e)+βm+eΦなので

^/dt=i[H^,]=i[αp^,^]=0 ですが,

 

 [α,H^]=i{pjij]+m[αi,β]=2i{pjαiαj-mβαi}

=2i{pi-iσijj-mγi}≠0 です。※)

 

 実際,<α=∫d3p(/E)∑±s,±s’{b(p,s){2=</E>ですから,opα=γ0γの固有関数を作る際,行列αkの固有値は1,つまり光速cに等しいにも関わらず,

  

 </E><1より,その正エネルギー期待値は|<αk|<1を満たしています。

  

 そこで,波束は正エネルギーだけではなくて,一般に負エネルギー解をも含む解である必要があると考えられます。(つづく)

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2011年11月11日 (金)

水素様原子の微細構造(補遺4)

 「水素様原子の微細構造(補遺3-1,3-2)」の続きです。

 今のところ,水素様原子とは直接関わりのない自由粒子のDirac方程式の解の話を続けています。

 これらの自由粒子解 をできるだけ詳細に観察して,Diracの空孔理論(hole theory)(反粒子の存在理論)へと至る過程での負エネルギー粒子解の解釈等のさらなる深化を目指します。

 さて,座標系のLorents変換に呼応してスピノール(spinor)を変換させる線形演算子は,S=exp{-(i/4)ω(σμνμν)}= exp{(1/8)ω[γμν]Iμν}で与えられることを見ました。

 変換が慣性系間にゼロでない相対速度があるブースト(boost)を伴わない単なる3次元空間の角度φの回転という特別な場合なら,

 S=SR=exp{-(i/4)φ(σijij)}=exp{(1/8)φ[γij]Iij}です。

(※ここでは,ギリシャ文字の添字μ,νについては0から3まで,ラテン文字i,jについては1から3の和を取る規約を採用しています。)

 それ故k=-γkが2行2列のPauli行列σ(2)kと-σ(2)kを反対角要素とする反対称行列で与えられる表示では,σij=i/2[γij]=σijはσ(2)kを対角成分とする4行4列細胞対角行列です。

 何故なら,Pauli行列の交換関係は,[σ(2)i(2)j]=[σ(2)i(2)j]=2iεijkσ(2)kだからです。

 そこで,改めてσ(2)kを対角成分とする4行4列細胞対角行列をσkと定義します。

 そうして,4行4列に拡張されたPauli行列のベクトルをσ=(σ123)とします。

 また,この表示ではChiral行列とも呼ばれる行列:γ50γ1γ2γ3≡γ5は,次の表現を有することになります。

   

 特に,z軸(x3軸)の周りの角度φの回転では,I12=-I21=-1以外はゼロなので,SR==exp{-(i/4)φ(σ1212+σ2121)=exp{(-i/2)φσ21}=exp{(i/2)φσ3}です。

 静止系でのスピン方向単位ベクトル(s1,s2,s3)に対して,の向きをz軸に取れば,スピノールに対する変換をS=SR=exp{(i/2)φ(σs)}と書くことができます。

(注):t(x,y,z)→’=t(x',y',z')がz軸の回りのxy平面上の角度φの回転なら,x'=xcosφ-ysinφ,y'=xsinφ+ycosφ,z'=zです。(座標系の方が回転します。)

 これはφが無限小回転角のΔφなら,x'=x-yΔφ,y'=xΔφ+y,z'=zと書けます。

 これを行列形で,t(x',y',z')=t(x,y,z)+Δφt(-y,x,0)={1+Δφ(Tz)}t(x,y,z)と書きます。

 これが3×3(直交)行列Tzの定義であるとします。

 すると,これは行列要素が12=-T21=-1以外はゼロの行列です。

 これに,それぞれ成分がゼロの行,および列を上,および左に付け加えて4行4列にすると,上記の4行4列の回転行列Iが得られます。

 (注終わり)※

そこで,静止してz方向に分極した電子に対する基本解:(r)(0);

(1)(0)=t(1,0,0,0),w(2)(0)=t(0,1,0,0),

(3)(0)=t(0,0,1,0),(4)(0)=t(0,0,1,0) に対して,

回転演算子:SR=exp{(i/2)φ(σs)}を適用することにより,任意方向分極した1粒子状態の解を作ることができます。

 

特に,スピノールwが単位ベクトル:方向に分極した粒子に対応するとき,wがそうした状態にあることを関係:(σs)w≡wで定義します。

 

つまり,これはwの分極(polarization)がであることの定義です。

 

この記述により,これまでとは異なる基本解のnotationを導入します。

 

まず,4元運動量pμとスピン(spin)sμを持つ自由Dirac方程式の正エネルギー解を示す運動量表示スピノールをu(p,s)で記述します。

 

こう定義すれば,これは(-m)u(p,s)=0を満足します。

ただし,≡γp=γμμです。

 

スピンベクトル:sμ=(s0,)は,sμ=aμνs^ν;s^μ=(0,^)によって静止系での分極ベクトル^から定義されます。

 

ただし,aμνは静止系に対するLorentz変換の係数です。

 

これに対応して4元運動量はpμ=aμν^ν;p^μ=(m,0)です。

 

そこで,sμμ=s^μs^μ=-^^=-1,かつpμμ=p^μs^μ=0 なる性質が常に成立します。

 

定義により,u(p,s)は

  

静止系で(σs^)u(p^,s^)=u(p^,s^)を満たします。

 

(注):静止系では,Dirac方程式は,i(∂ψ/∂t)=βmψです。

 

[βm,σs^]=ms^k0k]=0 より,[H,σs^]=0 ですから,

 

静止系では,σs^は保存量です。

 

よってHとの同時固有状態を取ることができます。

 

これがu(p^,s^)が存在すること,故にu(p,s)が常に存在して,これが定義できることの根拠です。(注終わり)※

 

同様に,4元運動量pμとスピン:-sμを持つ自由Dirac方程式の負エネルギー解を示す運動量表示のスピノールをv(p,s)で記述します。

 

つまり,v(p,s)は(+m)v(p,s)=0を満足し,静止系で分極:-^を持つとします。

 

すなわち,σs^v(p^,s^)=-v(p^,s^)とします。

 

このように定義すると,u(p,s)とv(p,s)はw(r)()と次式で関係付けられます。

 

(1)()=u(p,uz),w(2)()=u(p,-uz),

(3)()=v(p,-uz),w(4)()=v(p,uz) 

 

です。

 

ここで,uzμは静止系ではuz^μ(0,z^)=(0,0,0,1)なる形を取る4元ベクトルです。

 

かくして,任意のスピノールは運動量pμとエネルギーの符号,および静止系の分極s^μによって完全に指定されます。

 

さて,実際計算においては.エネルギーの符号と分極を持つスピノールの射影演算子(projection operator)が便利です。

 

非相対論の2成分の射影演算子:P±=(1±σ3)/2の4成分のアナロジーを考えます。

 

上記のP±は非相対論で任意の状態(2成分spinor)から,spin-up,またはspin-down部分を取り出して投影します。

 

同様に,Dirac方程式の解に対しては,与えられた運動量がの平面波解(4成分spinor)から,正,負エネルギー,および与えられた方向に対しspin-^up,spin-downに対応する4つの独立な解へと射影する4つの演算子を捜します。

 

こうした演算子を,実際計算に有用な異なるLorentz系の間で容易に変換できるような共変形で求めたいと考えます。

 

この4つの射影演算子:Pr()≡P(p,uzr)(r=1,2,3,4)は,

 

r()w(r')()=δr'(r)(),または,同じことですが,

r()Pr'()=δrr'r()を満たす演算子と定義されます。

 

(注):Pr()w(r')()=δrr'(r)()が成立すれば,運動量を持つ任意のスピノ―ル:Σrc(r)w(r)()に対して,Pr(){Σqc(q)w(q)()}=c(r)w(r)()が成立します。

 

そして,Pr()Pr'(){Σqc(q)w(q)()}

=Pr()c(r')w(r')()=δrr'c(r)w(r)()

=δrr'r(){Σqc(q)w(q)()}ですから,

 

r()Pr'()=δrr'r()を得ます。

 

逆に,Pr()Pr'()=δrr'r()なら,

式の等号は全て同値変形なので上記等式を逆にたどることで,

r()w(r')()=δrr'(r)()を得ます。

 

r()が射影演算子であるという意味は,上記のように,運動量

持つ任意のスピノ―ル:Σrc(r)w(r)()が,唯一のエネルギー

の符号とスピンを持つc(r)w(r)()に射影されることです。

 

(注終わり)※

 

与えられたに対して正,負エネルギーとspin-up,spin-downの状態に

投影するこうした演算子:Pr()は,

(-εrm)w(r)()=0,および,(r)~()(-εrm)=0 から

見出すことができます。

 

これらの関係式は既に共変形です。

 

そして,まずΛr()≡(εr+m)/(2m)と定義します。

 

特に,これらを選択的にΛ±(p)≡(±+m)/(2m)とも

記述します。

 

Λ(p)≡Λ1()=Λ2(),Λ(p)≡Λ3()=Λ4()です。

 

このときr()w(r)()=(εr+m)w(r)()/(2m)

={εr(-εrm)/(2m)+1}w(r)()=w(r)()です。

 

また,r=1,2,r'=3,4;またはr=3,4,r'=1,2なら,

Λr()w(r')()=(εr+m)w(r')()/(2m)

=εr(-εr'm)w(r')()/(2m)=0 です。

 

pp=p2=m2を用いると,

Λr(r'()=(εr+m)(εr'+m)/(4m2)

={(1+εrεr')m2+(εr+εr')m}/(4m2)

={(1+εrεr')/2}(εr+m)/(2m) です。

 

つまりr(r'()={(1+εrεr')/2}Λr()を得ます。

 

したがって()2=Λ(),Λ()2=Λ(),

かつΛ(()=0 です。

 

次に,スピンsに対する同様な演算子を表現するため,スピンが最も

容易に記述できる粒子の静止系において,共変形にすることが可能な

射影演算子を見つけます。

  

Spin-up粒子に対するこれの自然な候補は,(1+σ3)/2です。

 

非相対論でのスピン射影演算子:(1+σ(2)3)/2 が,3次元空間の

スカラーとして(1+σ(2)z^)/2と書き直されることによって,

陽なz軸(3-軸)への依存性から解放されるのと同様な方法で,

 

Diracスピン射影演算子を4元ベクトルuz^μを用いてLorents

スカラー形に書くことを試みます。

 

これは,(1+σ3)/2=(1+iγ1γ2)/2=(1+iγ0γ1γ2γ0)/2

=(1-iγ0γ1γ2γ3γ3γ0)/2=(1+γ5γ3z^3γ0)/2

=(1+γ5z0)/2 なる変形によって実行されます。

 

ただし,γ50γ1γ2γ3≡γ5を用いました。

 

演算子:(1+σ3)/2=(1+γ5z0)/2 から最後の行列因子γ0

削除すれば共変な形になります。

 

何故なら,静止系においてγ0をDirac基本スピノールに作用させると

±1の固有値を与えるからです。

 

それ故,σs^u(p^,s^)=u(p^,s^),および,

σs^v(p^,s^)=-v(p^,s^)なる規約に従って,

 

求める共変なDiracスピン射影演算子は,

∑(uz^)≡(1+γ5z^)/2,または,一般のsμμ=0を満たす

スピンベクトルsμについて(s)≡(1+γ5)/2 であると

考えます。

 

 すると,静止系では,(uz^)(1)(0)

 =(1+γ5z^)w(1)(0)/2=(1+σ3)w(1)(0)/2=w(1)(0)

 となります。

 

同様に,(-uz^)(2)(0)=(1-γ5z^)w(2)(0)/2

=(1-σ3)w(2)(0)/2=w(2)(0)です。

 

 他方,(-uz^)(3)(0)=(1-γ5z^)w(3)(0)/2

 =(1+σ3)w(3)(0)/2=w(3)(0),かつ

 (uz^)(4)(0)=(1+γ5z^)w(4)(0)/2

 =(1-σ3)w(4)(0)/2=w(4)(0)です。

 

 そこで,先の基本スピノールの別のnotation:u,vとの関連付け

 w(1)()=u(p,uz),w(2)()=u(p,-uz),

(3)()=v(p,-uz),w(4)()=v(p,uz)から,

 

 ∑(uz^)u(p^,uz^)=u(p^,uz^),

 (uz^)v(p^,uz^)=v(p^,uz^)

  

 を得ます。

  

 一方,(-uz^)u(p^,uz^)=(-uz^)v(p^,uz^)=0

 です。

  

 これは,(-uz^)(1)(0)=(1-σ3)w(1)(0)/2=0

 (-uz^)(4)(0)=(1-σ3)w(4)(0)/2=0 etc.から

 得られます。

 

 ところが,(-uz^)は共変形の演算子:(s)=(1+γ5)/2

 の静止系での特別な場合の表現です。

 

 よって,sμμ=0を満たす任意の分極ベクトルsμに対して,

 (s)u(p,s)=u(p,s),(s)v(p,s)=v(p,s),

 および, (-s)u(p,s)=(-s)v(p,s)=0 を得ます。

 

 以上から,4元スピノールに対する求める射影演算子が,

 

 P1()≡Λ()∑(s),P2()≡Λ()∑(-s),

 P3()≡=Λ()∑(-s),P4()=Λ()∑(s)

 

 で定義される4行4列の行列表示の演算子:r()(r=1,2,3,4)

 で与えられるという結論となります。

  

 何故なら, 

 [∑(s),Λ±()]=[(1+γ5)/2,(±+m)/(2m)]

={±1/(4m)}[γ5,]={±1/(4m)}sμν5γμν]

=-{±1/(4m)}sμνμν}=-{±1/(2m)}sμμ

 より,

  

 sμμ=0を満たす任意のsμ,pμに対して,

 [∑(s),Λ±()]=0 が満たされるため,

  

 これらの表現が射影演算子の条件:r()w(r')()

=δr'(r)() or r()Pr'()=δrr'r()を

確かに満足するからです。

  

 さて,共変的な定式化を遂行するため,運動量演算子:^の固有値が

での固有状態であるような負エネルギー解を導入してきました。

 

 同様に,(s)=(1+γ5)/2,および,

  

 ∑(uz^)(1)(0)=(1)(0),(-uz^)(2)(0)=(2)(0),

 ∑(-uz^)(3)(0)=(3)(0),(uz^)(4)(0)=(4)(0)

  によって,

 

 負エネルギーのspin-up,およびspin-down状態は,静止系において,

 それぞれ固有値-1,および+1のσ3の固有関数になります。

  

 負エネルギー解に対する固有関数の見かけ上の関連付けについての

 物理的に合理的な動機付けは空孔理論で明らかになります。

  

 今日はここで終わりますが,まだ続きます。

 

参考文献:J.D.Bjorken S.D.Drell「Relativistic Quantum Mechanics」(McGrawHill)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年11月 1日 (火)

水素様原子の微細構造(補遺3-2)

「水素様原子の微細構造(補遺3)」は10/4にアップして以来,Pendingのまま少しずつ追加しながらほぼ1ヶ月が経ちます。

  

どうもサイズが大きくなり過ぎたのが原因らしく,書き加えるたびにフリーズするようになったので二つに分割しました。

 

以下↓は,「補遺3」を分割した前半の「補遺3-1」の続きです。

 

さて,ここまでは粒子の速度v=βがx軸(x1軸)に平行で,μ=(E,)=(E,p,0,0)の特別な場合でした。

   

これを,速度の方向が任意で,μ=(E,)=(E,p1,p2,p3)の場合に一般化することを考えます。

 

時空座標:xμ(x0,)に対するLorentz変換x'μ=aμννは,

粒子の速度v=βがx1軸に平行な場合には,

x'0=γ(x0-βx1),x'1=γ(x1-βx0),

x'2=x2,x'3=x3 ですが,

 

粒子の速度v=βの方向が任意の場合には,

x'0=γ{x0-(βx)},'-γβ0(γ-1)(βx)β2

と書けます。

 

ただし,γ≡1/(1-β2)1/2です。

 

それ故,速度が無限小速度Δβで与えられる無限小Lorentz変換:

μνμν+Δωμν;Δωνμ=-Δωμνでは,

 

Δβがx1軸に平行な場合には,

x'0=x0-Δβx1,x'1=x1-Δβx0,x'2=x2,x'3=x3

より,Δω01=Δω10=-Δβで,それ以外のΔωμνはゼロですが,

  

Δβの方向が任意の場合は,速度Δβの方向余弦を

/v=Δβ/Δβ(cosA,cosB,cosC)とすると,

 

x'0=x0-ΔβcosAx1-ΔβcosBx2-ΔβcosCx3,

x'1=x1-ΔβcosAx0,x'2=x2-ΔβcosBx0,

x'3=x3-ΔβcosCx0

 

です。

 

したがって,   

そこで,変換行列:S=exp{-(i/4)ω(σμνμν)}

= exp{-(1/8)ω[γμν]Iμν}において,σμνμνは,

 

σμνμν=-σ0101-σ0202-σ0303+σ1010+σ2020+σ3030

     =2(σ01cosA+σ02cosB+σ03cosC) と書けます。

 

ここで,σ0k=-σk0=iγ0γk=-iγ0γk=-iαkですから,

σμνμν=-2i(αv)/||=-2i(αβ)/|β|であることがわかります。

 

ω=tanh(-β)=-tanhβ,つまり速度として-=-βをとることにすると,

 

S=exp{-(i/4)ω(σμνμν)}=exp{-(ω/2)(αβ)/|β|} 

=Σn=0{-{(ω/2)(α1β1+α2β2+α3β3)/|β|}nです。

 

ところが,(α1β1+α2β2+α3β3)2=|α|2|β|2+{α121β2+{α232β3+{α313β1=|β|2です。

 

故に,{-{(α1β1+α2β2+α3β3)/|β|}2k=1,かつ

{-{(α1β1+α2β2+α3β3)/|β|}2k+1=-(αβ)/|β|です。

 

そこで,S=cosh(ω/2)-{(αβ)/|β|}sinh(ω/2)

     =cosh(ω/2)[1-{(αβ)/|β|}tanh(ω/2)]

を得ます。

 

 

なので,特にβ±≡β1±iβ2とおけば,

です。

 

このとき,cosh(ω/2)={(E+m)/(2m)}1/2,-tanh(ω/2)=p/(E+m)であり,

-sinh(ω/2)={(E+m)/(2m)}1/2{p/(E+m)}です。

 

粒子の運動量は,=(p1,p2,p3)=mγ=mβγ;γ≡1/(1-β2)1/2ですが,

 

特に,p±≡p1±ip2とおけば,

 

一般のLorentz変換の行列:S=S(a)の陽な表現として,

を得ます。

 

したがって,これに伴う4つの独立な規格化された変数分離解:

Ψ(r)(x)=exp(-iεrpx)w(r)()

    =exp(-iεrpx)Sw(r)(0) (r=1,2,3,4)  

ただし,εr=+1(r=1,2),εr-=-1(r=3.4)

 

を陽に書けば,

 

Ψ(1)(x)={(E+m)/(2m)}1/2exp(-ipx)

     t(1,0,p3/(E+m),p-/(E+m)),

Ψ(2)(x)={(E+m)/(2m)}1/2exp(-ipx)

     t(0,1,p+/(E+m),-p3/(E+m)),

 

Ψ(3)(x)={(E+m)/(2m)}1/2exp(+ipx)

      t(p3/(E+m),p/(E+m),1,0),

Ψ(4)(x)={(E+m)/(2m)}1/2exp(+ipx)

     t(/(E+m),-p3/(E+m),0,1)

  

となります。

  

これらの解:Ψ(r)(x)=exp(-iεrpx)w(r)()の因子w(r)()は,

μμ-εrm)w(r)()=0 を満たします。

 

そこで,w(r)~()≡w(r)+(0とおけば,

(r)~()μμ-εrm)=0 が成立します。

 

さらに,これらは,性質:(r)~()(r')()=δrr'εr,

および,Σr=14εrα(r)()β(r)~()=δαβを持ちます。

 

さて,r=1,2についてはεr=1で,これらは正エネルギーの方程式:

μμ-m)w(r)()=0 の解です。

 

そして,今の表示では,

(1)()={(E+m)/(2m)}1/2 t(1,0,p3/(E+m),p-/(E+m)),

(2)()={(E+m)/(2m)}1/2 t(0,1,p+/(E+m),-p3/(E+m)),

です。

 

これらの第3,4成分は非相対論近似での小成分です。

 

E~mのとき,これら(1),(2)は,w=t[ψ,χ]なる2成分×2の表現に対して,外場のない自由場の非相対論的方程式:χ=(σp)ψ/(2m)

;ψ=t(1,0) or t(0,1)に帰着します。

 

※(注):以前書いたように,

 

電磁場のある場合のDirac方程式:{γμ(i∂μ-eAμ)-m}Ψ=0 or

i(∂Ψ/∂t)={α(-e)+βm-eΦ}Ψにおいて,

4成分スピノールΨをΨ≡t[ψ~,χ~]と書いて,

2つの2成分スピノール:ψ,χに分解すると,

 

i(∂/∂t)t[ψ~,χ~]=(σΠ)t[χ~,ψ~]+eΦt[ψ~,χ~]+mt[ψ~,χ~]となります。ただし,Π-eです。

 

それ故,正エネルギーの静止状態に近いE~mの場合には,

さらに,t[ψ~,χ~]≡exp(-imt)t[ψ,χ]と書けば,

i(∂/∂t)t[ψ,χ]=(σΠ)t[χ,ψ]+eΦt[ψ,χ]-2mt[0,χ]

となります。

 

このとき,小成分χは,i(∂χ/∂t)=(σΠ)ψ+eΦχ-2mχより,

2mχ=(σΠ)ψ+eΦχ-i(∂χ/∂t)を満たします。

ただし,eΦχ-i(∂χ/∂t)<<(σΠ)ψと考えられるので,

χ≡(σΠ)ψ/(2m)とおき,これを大成分の満たす方程式:

i(∂ψ/∂t)=(σΠ)χ+eΦψに代入します。

 

すると,i(∂ψ/∂t)={(σΠ)(σΠ)/(2m)+eΦ}ψとなります。

 

これは,結局,i(∂ψ/∂t)=[(-e)2-e(σB)/(2m)+eΦ]ψ

となって非相対論的な方程式に帰着するわけです。(注終わり※)

 

他方,r=3,4ではεr=^1で,これは負エネルギーの方程式:

μμ+m)w(r)()=0 の解です。

 

そして今の表示では,

(3)()={(E+m)/(2m)}1/2 t(p3/(E+m),p/(E+m),1,0),

(4)()={(E+m)/(2m)}1/2 t(/(E+m),-p3/(E+m),0,1)

です。

 

これは,r=1,2の正エネルギー解とは,大成分と小成分が交替しています。

   

さらに,性質:(r)~()(r')()=δrr'εr,および,Σr=14εrα(r)()β(r)~()=δαβから以下の考察が可能です。

  

すなわち,(r)~()(r')()は1つのLorentzスカラーですが,運動量空間での確率密度:(r)+()(r)()はLorentz不変ではなく,運動量空間でのLorentz収縮を補充する4元ベクトルの第0成分として変換します。

  

つまり,w(r)+r)(r')r')=(E/m)δrr'です。

 

(m/E)=(1-β2)1/2ですが,これはLorentz収縮の因子ですから,