数学

2009年9月11日 (金)

積分方程式(2)

 積分方程式の続きです。 

前記事のアーベル(Abel)φの積分方程式に続く話題として,リーマン・リウヴィル(Riemann-Liouville)作用素の話をします。

先に与えたアーベルの積分方程式∫axdy{u(y)/(x-y)1-α}=f(x)(a<x<b)の左辺のuに対する積分を定数Γ(α)で除したものを,(a,b)の上の関数に作用する作用素(operator)と考えこれをaαなる記号で表わすことにします。

つまりaα(x)≡{1/Γ(α)}∫axdy{u(y)/(x-y)1-α}(a<x<b)とします。そして作用素:aαをリーマン・リウヴィルの積分作用素と呼びます。

これが作用する関数空間としては,取り合えず,区間Iの上で可測でIにおける任意の有界閉部分集合の上で可積分な関数全体である1loc(I)を採用することにします。

1loc[a,b)は任意のc∈[a,b)に対して∫ac|u(x)|dx<∞なる関数u(x)全体のことです。

例えば,u(x)≡(x-a)λ-1(λ>0) とするとu(x)∈1loc[a,b)であってΓ(α)aαu(x)=∫axdy/{(x-y)1-α(y-a)1-λ}=Β(α,λ)(x-a)λ+α-1となります。

Β(x,y)はΒ(x,y)≡∫01{tx-1(1-t)y-1}=Β(y,x)=Γ(x)Γ(y)/Γ(x+y)で定義されるオイラー(Euler)のベータ関数です。

なぜなら,積分変数をyからζ=(y-a)/(x-a)に置換すると,dζ=dy/(x-a)でありyがa→xと動くときζは0→1と動くので,∫zxdy/{(x-y)α(y-z)1-α}=(x-a)λ+α-101dζ/{(1-ζ)αζ1-α}となるからです。

そして,再びΓ(α)aαu(x)=Β(α,λ)(x-a)λ+α-11loc[a,b)です。

一般に,リーマン・リウヴィル積分作用素aαは次の命題で与えられる基本性質を持つことがわかります。

[命題1]:α>0のとき,u∈1loc[a,b]ならaαu∈1loc[a,b)であり,∀α,β>0に対して,aα(aβu)=aα+βuが成立する。

 以下,これの証明です。

(証明) まず,u∈1loc[a,b)なら∀c∈[a,b)について∫ac|aαu(x)|dx≦Γ(α)-1acdx∫axdy{|u(y)|/(x-y)1-α}=Γ(α)-1{∫axdy|u(y)|dy}{∫ac(x-y)α-1dx≦{αΓ(α)}-1(c-a)αaxdy|u(y)|dy<∞より,確かにaα^u∈1loc[a,b)です。

 そして,aα(aβu)=Γ(α)-1Γ(β)-1[∫axdy(x-y)α-1axdz{u(z)/(y-z)1-β}]=Γ(α)-1Γ(β)-1[{∫axu(z)dz}{∫axdy(x-y)α-1(y-z)β-1}]です。

ところが,前にも見たように積分変数をyからζ=(y-z)/(x-z)に置換すれば,∫zxdy(x-y)α-1(y-z)β-1}=(x-z)(α+β)-101dζ(1-ζ)α-1ζβ-1=Β(α,β)(x-z)(α+β)-1となることがわかります。

ただし,Β(α,β)=∫01{tα-1(1-t)β-1}=Β(β,α)=Γ(α)Γ(β)/Γ(α+β)です。

故にΓ(α)-1Γ(β)-1[{∫axdzu(z)∫axdy(x-y)α-1(y-z)β-1}]=Γ(α)-1Γ(β)-1Β(α,β)∫axdz{u(z)(x-z)(α+β)-1}=Γ(α+β)-1axdz{u(z)/(x-z)1-(α+β)}=aα+βuとなることがわかります。

以上でaα(aβu)=aα+βuなる等式の成立が証明されました。(証明終わり)

 上記の[命題1]の結論であるaα(aβu)=aα+βuなる性質によって,以下aα(aβu)を(aαaβ)uと書き,これを記号的に作用素の積としてaαaβaα+βと表現することにします。  

 α=1のときのリーマン・リウヴィル作用素αa1は,a1u=∫axu(y)dyとなります。右辺は単にaを基点とする関数uの1回の積分を意味します。

それ故,上の[命題1]の結論aαaβaα+βから,任意の自然数nに対して,(a1)nanなる式が成立することがわかります。

Γ(n)=(n-1)!ですから,これはuのn回積分:(a1)nuについて,(a1)nu(x)={1/(n-1)!}∫axdy{(x-y)n-1u(y)}の成立を意味します。

しかし,実はuのn回積分が{1/(n-1)!}∫axdy{(x-y)n-1u(y)}と書けることは,∫ax{a1u(y)}dy=∫axdy∫ayu(z)dz=∫axdzu(z)∫zxdy=∫axdz{u(z)(x-z)}etc.など具体的計算から明らかです。

したがって,リーマン・リウヴィル積分作用素aαは,αが自然数nのときにはn回積分を示していることがわかります。

 

そこで,逆に定義aαu(x)≡{1/Γ(α)}∫axdy{u(y)/(x-y)1-α}は,αが自然数nではなく一般の正の数のときのα回の積分への拡張になっていて,積分aα(x)はαが一般の正の数である場合のα回積分と呼ぶにふさわしいものであると考えられます。

そして,もちろん(a1/n)na1なる等式も成立しますから,リーマン・リウヴィル積分作用素aαは分数回積分を表現すると言われることもあるようです。

先のアーベルの積分方程式∫axdy{φ(y)/(x-y)1-α}=f(x)(a<x<b)はf(x)/Γ(α)を改めてf(x)と書けば{1/Γ(α)}∫axdy{φ(y)/(x-y)1-α}=f(x) (a<x<b)ですが,これをリーマン・リウヴィル積分作用素aαを用いて表わせばaαφ=f(a<x<b)と書けます。

そして,前述したアーベルの積分方程式解法は,この方程式:aαφ=fの両辺にa1-αを作用させた後に,それの両辺を微分する方法と解釈されます。  

実際,作用素の積の性質からa1-αaαa1(1回の不定積分)が成立します。

一方,微分するという演算を微分作用素≡d/dxで表現すると,"微分と積分は互いに逆演算である=関数の不定積分の微分は元の関数になる。"という微積分学の基本法則から記号的にDIa1=1 です。

それ故,形式的にaαφ=f⇒a1φ=a1-αf⇒ φ=DIa1-α で表わされるアーベルの積分方程式の解法手順が可能になるわけです。

そこで,リーマン・リウヴィル微分作用素aαというものをaαu≡DIa1-αu={1/Γ(1-α)}∫axdy{u(y)/(x-y)α}によって定義すれば,アーベルの積分方程式aαφ=fの解がφ=aαfになるという意味で,aαaαの逆作用素(aα)-1を与えると解釈されます。

しかし,上記のアーベルの積分方程式を解く手続き,あるいは作用素aαを作用させるという操作aαuが正当化されるためには,aαが如何なる関数u(x)に対して意味を持つかが問題になります。

そのため,まず∀c∈[a,b)に対し[a,c)で絶対連続な関数全体から成る関数空間をAloc[a,b)と書くことにします。

このときラドン・ニコディム(Radon-Nycodim)の定理からu∈Aloc[a,b)なることは,"v∈1loc[a,b)が存在してu(x)=u(a)+∫axv(y)dy(a≦x<b)と書けること"に同値です。

 

(註):本ブログ「TOSHIの宇宙」の2007年7/7の過去記事「条件付確率と条件付期待値」 http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2007/07/post_049c.html を参照します。

「ラドン・ニコディムの定理」というのは,"もしもΦ(A)が絶対連続:つまり,μ(E)=0 E∈なら常にΦ(A)=0 が成立するなら適当な密度関数f(x)が存在してΦ(A)=∫(x)μ(dx)と表現できる。"というものです。(参照終わり)

ただし,σ-有限な測度空間(X,,μ)ではXの部分集合から成る可測集合族であり,μはその上の測度を意味しています。(註終わり)※

 

さらに,部分集合Aloc[a,b)*をAloc[a,b)*≡{u∈Aloc[a,b)|u(a)=0} で定義します

このとき,次の定理が成立します。

[定理2]:0<α<1のとき,アーベル積分方程式aαφ=fが1loc[a,b)で可解であるためには,a1-αf∈Aloc[a,b)*なることが必要十分である。

そして,条件a1-αf∈Aloc[a,b)*の下でアーベル方程式aαφ=fの解は一意的にφ=DIa1-αfと解かれる。

 以下,これの証明です。

(証明)aαφ=fが解φ∈1loc[a,b)を持てば∫axφ(y)dy=a1-αf(x)となり,左辺はx∈[a,b)で絶対連続でa1-αf(a)=0です。それ故,a1-αf∈Aloc[a,b)*です。

 逆にa1-αf∈Aloc[a,b)*を仮定すると,φ≡Da1-αfが存在してa1-αf(x)=∫axφ(y)dyとなります。

 ここで,g≡aαφと置けば[命題1]によってg∈1loc[a,b)でありa1-αg=a1φ(x)=∫axφ(y)dyです。

 そこで,a1-αg=a1-αfが得られました。

 

 これの両辺にaαを作用させると,∫axg(y)dy=∫axf(y)dyですから,両辺を微分して1loc[a,b)においてg≡fを得ます。(証明終わり)

 途中ですが急用を思い出したので今日はここまでにします。

参考文献:上村豊著「積分方程式(逆問題の視点から)」(共立出版)

 

PS:脳血管の「もやもや病」というのはアーティストの「徳永英明」さんが罹ったことで有名になったみたいですね。

 

 そういえば,かなり昔に確か高島兄弟の1人が主演?の弁護士もののドラマのテーマ曲として聴いていたと記憶している「壊れかけのradio」という唄が彼の持ち唄でしたね。http://www.youtube.com/watch?v=J_Lq5R8rG4s&feature=fvw

 

 それをカラオケでよく唄っていた頃は,高音部を唄うと首から上の血管が切れそうにな程に辛いことがよくあったのですが,「もやもや病」と何か関係あるのでしょうか?

 

 私の方は歌手ではなくカス?ですが。。。

(今なら昔ほど目一杯大声を張り上げずに唄うので,もっとおだやかな喉への力で唄うことができるかもしれませんね。。)

 

PS2:「9.11記念日」も風化しつつあるようです。。。

 

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2009年8月30日 (日)

積分方程式(1)(導入)

 まず,本記事を書くに至った動機として,これまで書いてきた「束縛状態とベーテ・サルピーター方程式」(1)~(9)のシリーズ記事,特に「束縛状態とベーテ・サルピーター方程式(1)」http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2009/01/1-64b9.html の内容を抜粋して要約します。

 ※(要約):

 ベーテ・サルピーター方程式(Bethe-Salpeter equation),略してB-S.eq.はa,b2粒子の散乱の4点グリーン関数G(xa,xb;ya,yb)=<0|T(φa(xab(xba(yab(yb))|0>に対し,G(xa,xb;ya,yb)=⊿Fa'(xa-ya)⊿Fb'(xb-yb)+∫d4a∫d4b∫d4a'∫d4b'Fa'(xa-za)⊿Fb'(xb-zb)I(za,zb;za',zb')G(za',zb';ya,yb)で与えられる積分方程式です。

 ただし,⊿F'(x-y)は修正された(真の)伝播関数(2点グリーン関数)で,一般にスカラー場φ(x)に対しては⊿F'(x-y)≡<0|T(φ(x)φ(y))|0>で定義されます。TはT積(時間順序積)です。

また,I(xa,xb;ya,yb)は,4点グリーン関数Gから4つの"粒子外線=外部伝播関数"を切り離した"相互作用のblob=(a+b)中間状態"の中から2つの"内線=伝播関数"を除くだけでは互いに素な2つの部分に分割不可能な固有グラフ,つまり"2粒子既約部分=(a+b)-既約な積分核"の部分です。

理論は平行移動不変なので,"平行移動の生成子(generators)=2粒子a,bの総4元運動量P^μ"が存在してα(x)=exp(iP^x)φα(0)exp(-iP^x),φα(x)=exp(iP^x)φα(0)exp(-iP^x)(α=a,b),P^μ|0>=0です。

T積の性質から,G(xa,xb;ya,yb)はxa-xb,-ya+yb,xa-ya,xb-yb,xa-yb,xb-yaなる全ての座標の差の関数であることがわかります。これらのうち,独立なものを1次結合で作ります。

結局,xa-xb,-ya+yba(xa-ya)+ηb(xb-yb)(ηabはηa+ηb1の任意に固定した実定数)で与えられる3つの変数が独立であることがわかります。

そして,I(xa,xb;ya,yb)もGと同様xa-xb,-ya+yba(xa-ya)+ηb(xb-yb)の関数です。

結局,B-S.eq.は運動量表示では(p,q,P)=δ4(p-q)Fa'(ηaP+p)Fb'(ηbP-p)+Fa'(ηaP+p)Fb'(ηbP-p)(2π)-4∫d4'(p,p';P)(p',q;P),または[Fa'(ηaP+p)Fb'(ηbP-p)]-1(p,q,P)=δ4(p-q)+(2π)-4∫d4'(p,p';P)(p',q;P)となります。

これは,記号的にはKG1IGと書けます。

 

しかし,この簡単な等式が実は"時空座標表示=x-表示"での積分方程式G(xa,xb;ya,yb)=⊿Fa'(xa-ya)⊿Fb'(xb-yb)+∫d4a∫d4b∫d4a'∫d4b'⊿Fa'(xa-za)⊿Fb'(xb-zb)I(za,zb;za',zb')G(za',zb';ya,yb)を意味しています。(要約終わり)※

量子論の基本方程式は,定常状態ならハミルトニアンをとしてエネルギーの固有値方程式:|ψ>=E|ψ>で与えられますが,これはx表示ではは線形微分作用素(演算子),ψはxの関数(波動関数)ψ(x)となり,ψ=Eψなる形の微分方程式となります。

つまり,x表示の量子論の方程式は,一般にを線形微分作用素,λを固有値とするxの関数φ=φ(x)に対する線形微分方程式φ=λφの形をしています。

そして,通常のの逆作用素-1が存在する場合には,微分方程式:φ=λφは形式的に解くことができて,φ=f+λ-1φなる形の解を得ることができます。

が微分作用素なので-1は微分の逆演算である積分作用素です。したがって,φ=f+λ-1φは積分方程式(integral equation)です。

結局,線形微分方程式:φ=λφの初期値-境界値問題を解くと,常に積分方程式φ=f+λ-1φが得られます。逆に,これを微分すると元の微分方程式を得ます。

すなわち,元々は抽象ヒルベルト空間のべクトルに作用する作用素としての形で表現された|φ>=λ|φ>なる固有値方程式を,位置座標表示や運動量表示など種々の表示で表現したとき,これは微分方程式にも積分方程式にも表現できて,両者は等価です。

 

(微分方程式と積分方程式の表現は互いに逆問題ともいわれます。)

は系のある対称性変換に対する不変性に関わるネーター(Noether)保存量であって,この変換の生成子に相当します。

 

これらは一般に現実の時空の対称性である時間,空間の一様性に関わる平行移動変換群の生成子としてのハミルトニアン(エネルギー)と運動量,また,空間の等方性(回転群)に関わる生成子としての角運動量,

 

そして,内部空間である荷電空間(アイソスピン空間)の回転群の生成子である電荷(アイソスピン)などのように常に観測可能な物理量(obserbavle)に対応しています。

数学という側面で見ると,結局,"量子論というのは表示と表示の間の変換性がその本質であって表示と変換の理論である。"というように結論して,大風呂敷を広げることもできます。

実際,量子論の基礎を学んでいくと,我々は知らず知らずのうちにヒルベルト空間やバナッハ空間など状態空間を与える線形空間のベクトルとそれに作用する線形作用素に関し,固有ベクトルによるスペクトル展開などの拡張されたフーリエ理論や超関数と関わる関数解析という数学の1分野に慣れ親しむようになっています。

そして,状態空間のベクトルのx表示では固有値方程式はシュレーディンガー,ディラック,クライン・ゴルドンなどを含む線形偏微分方程式になり,それらの境界値問題を解くのが量子論の主要問題になります。

 

そして,線形微分方程式を定める線形微分作用素(線形演算子)の超関数的な逆作用素(逆演算子:inverse)をグリーン関数を積分核(kernel)として積分表現をする手法などに慣らされているので,偏微分方程式と等価に見える積分方程式についても,その基礎理論や解法についてわかっているつもりになっていました。

しかし,最近,B-S.eq.やその関連の論文を読む中で,単なる計算式のチェックに何日もかかり遅々として進まないのは,実はVorterra型やFredholm型など積分方程式関連の基本的事項について,私自身が本格的に勉強したことがなく理解できてないことがその原因ではないか?と思い当たる節があったので,少しの間,数学に寄り道をして積分方程式を真剣に学ぼうと思ったわけです。

そこで,積ん読で読んだことがないと記憶していますが比較的物理数学に近くて古い記述の,吉田耕作著の岩波全書「積分方程式の解法」を所持していたことを思い出して自分の本棚を探して見ました。

 

しかし,どうもこれも古本屋に売ってしまったらしく,取り合えず手元にあった上村豊著「積分方程式(逆問題の視点から)」(共立出版)というやや現代数学的色彩の本を参照することにしました。

まず,積分方程式の起源としてアーベル(Abel)が1823~1826年頃に扱ったという積分方程式から見てみます。

これは,∫axdy{φ(y)/(x-y)1-α}=f(x) (a<x<b)という方程式です。これをアーベルの積分方程式,またはアーベル型の積分方程式といいます。

 

ただし,方程式の対象である未知関数はφ(x)であり,f(x)は予め与えられた既知の関数です。

また,パラメータαは 0<α<1を満たすある定数で,一方a,bは-∞<a<b≦∞を満たします。

これは,アーベルに従えば次のようにして解けることがわかります。

まず,∫axdy/(x-y)αaydz{φ(z)/(y-z)1-α}=∫axdy{f(y)/(x-y)α}と変形します。

 

左辺でyとzの積分順序を交換すれば,∫axdzφ(z)∫zxdy/{(x-y)α(y-z)1-α}=∫axdy{f(y)/(x-y)α}となります。

さらに,∫zxdy/{(x-y)α(y-z)1-α}において積分変数をyからζ=(y-z)/(x-z)に置換すると,dζ=dy/(x-z)であり,yのz→xの変動に対してζは0→1と変動します。

 

結局,具体的計算結果として∫zxdy/{(x-y)α(y-z)1-α}=∫01dζ/{(1-ζ)αζ1-α}=Β(α,1-α)を得ます。

ここで,Β(x,y)はオイラー(Euler)のベータ関数でΒ(x,y)≡∫01{tx-1(1-t)y-1}=Β(y,x)=Γ(x)Γ(y)/Γ(x+y)で定義されます。Γ(x)はオイラーのガンマ関数です。

したがって,元の積分方程式はΒ(α,1-α)∫axdzφ(z)=∫axdy{f(y)/(x-y)α}となります。

 

すなわち,φ(x)={Β(α,1-α)}-1(d/dx)[∫axdy{f(y)/(x-y)α}]となって,解φの表式を得ることができます。

ただし,右辺の積分式とその微分が有限に確定するためにはf(x)に何らかの条件が必要です。

fが十分滑らかな関数なら,部分積分により(d/dx)[∫axdy{f(y)/(x-y)α}]=f(a)/(x-a)α+∫axdy{f'(y)/(x-y)α}となることが期待されます。f'はfの導関数(微分係数)です。

以上がアーベルの積分方程式の解法です。

アーベルにとって,これは次の問題が動機であったらしいです。

 

すなわち,"ある質点が曲線Cに沿って,そのC上のある点Aから定点Oまで初速ゼロで重力のみの作用を受けて摩擦なしで滑り降りるときの所要時間Tが与えられたとき,この曲線Cを決定するにはどうしたらよいか?"という物理学の問題です。

  

(例えば,曲線Cがある角度で傾いた斜面を表わす直線なら,Tは高校物理でも習うような斜面を滑り降りる物体が頂上から下に到達する時間だし,また錘を糸の先につけた振り子ならCは糸の長さLを半径とする円であって,Tは振り子の周期に関係する時間ですね。)

 

yz平面(zが水平方向,yが鉛直高さ方向)の上の曲線Cがz=ψ(y)で表わされるとし,点Aの高さをxとします。時刻tにおいて質量がmの質点(y(t),z(t))の速度は(t)=(dy/dt,dz/dt)なので速さはv(t)={(dy/dt)2+(dz/dt)2}1/2です。

重力加速度をgとすると,最初の時刻t=0 ではy(t)=xで初速がv(t)=0 なので,この重力による運動でのエネルギーの保存則は(1/2)mv(t)2=mg{x-y(t)}となります。

 

一方,速度ベクトルは曲線C:z=ψ(y)の上では(t)=(dy/dt,dz/dt)=(dy/dt,ψ'(y)(dy/dt))です。

 

そこで,v(t)2=(dy/dt)2+(dz/dt)2={1+ψ'(y)2}(dy/dt)2によって{1+ψ'(y)2}(dy/dt)2=2g(x-y)です。

それ故,dy/dt=-{2g(x-y)}1/2/{1+ψ'(y)2}1/2,またはdt=-[{1+ψ'(y)2}1/2/{2g(x-y)}]1/2dyです。

 

そこで,到達すべき終点Oの高さをaとすると,T=∫axdy[{1+ψ'(y)2}1/2/{2g(x-y)}]1/2と書けます。

この式は,始点Aを曲線C上の任意の点と考えて所要時間TをAの高さxの関数f(x)に書き直し,関数φをφ(y)≡{1+ψ'(y)2}1/2/(2g)1/2と定義すれば∫axdy{φ(y)/(x-y)1/2=f(x)になります。

 

こうして結局,アーベルの積分方程式∫axdy{φ(y)/(x-y)1-α}=f(x)のα=1/2とした特別な場合に当たることがわかります。

故に,これの解はφ(x)={Β(1/2,1/2)}-1(d/dx)[∫axdy{f(y)/(x-y)1/2}=π(d/dx)[∫axdy{f(y)/(x-y)1/2}]=πf(a)/(x-a)1/2+π∫axdy{f'(y)/(x-y)1/2}ですね。

ただし,yz平面上の曲線z=ψ(y)の表現という形式にこだわるなら,z=φ(y)={Β(1/2,1/2)}-1(d/dy)[∫aydw{f(w)/(y-w)1/2}=π(d/dy)[∫aydw{f(w)/(y-w)1/2}=πf(a)/(y-a)1/2+π∫aydw{f'(w)/(y-w)1/2}と書くべきかも知れません。

物理学では,"時間T=f(x)が最小になる曲線Cを決定する。"という有名な"最速降下線の問題"があって,設定はアーベルのそれとよく似ていますが,こちらの方は"最小作用の定理"などと同じく変分の問題でラグランジュ方程式を作って解くのと同じような方法で解くことができて,解はサイクロイド(cycloid)曲線になることがわかっています。

ちなみに,極座標での角度がθ=0 のときの初期高さがAのサイクロイド曲線はyz平面ではz=A(θ-sinθ),y=A(1-cosθ)です。

 

サイクロイド曲線Cは,z=ψ(y)なる表現ではC上の各点における勾配がψ'(y)=dz/dy=(1-cosθ)/sinθを満たしています。

積分方程式の導入(introduction),または考察の動機を述べることが中心の記事ということで今日はここまでにします。

 

現在Pendingになっているベーテ・サルピーターの方程式(B-S.eq.)関連の話題の続きは積分方程式の話が終わってからにします。

参考文献:上村豊著「積分方程式(逆問題の視点から)」(共立出版),Noboru Nakanishi "A General survey of the Theory of the Bethe-Salpeter Equation",Progress of Theoretical Physics, supplement,No.43(1969)

 

PS:選挙が終わって民主党大勝の8/31(月)朝の感想です。

 

 今の,衆議院選挙でのある意味で政権交代が起こりやすく大政党候補者のみに有利な小選挙区に,真逆の,ある意味で投票者の死に票がほとんど生じなくて票が公平に反映されますが小党が乱立当選して議事表決がままならず法案が決まりにくい"大選挙区=比例代表区"を少し加えたような選挙制で勝ち負けがはっきり決まって,一方的になるというケースを2度続けて見ました。

 

 しかし,過ぎたるは及ばざるがごとし,いっそのこと元の両方折衷のなつかしい中選挙区だけに戻した方がベターなのじゃないでしょうか?

 

 もっとも,私の本音は選挙制度を知ったばかりの昔から,その欠点を承知の上で選挙するなら完全な意味での"大選挙区=比例代表区"だけでいいという思想ですが。。。

 

 いずれにしろ,水を差すようですが"権力を握ればそれは必ず腐敗する。"(←トロツキーの永久革命論?)ので,長期にならないように交代する,あるいは有権者が交代させることが必要でしょう。

 

 自民党だって,これほど長期でなければ腐敗とか癒着とかはなかっただろうと思います。

 

 知事など自治体首長には多選を避けて2期も勤めれば自ら勇退して,次は後進に道を譲るという思想もあるようですが。。。。

  

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2009年7月 4日 (土)

コーシーの主値(主値積分)

  コーヒー・ブレイクとして,数学のショートトピックを考察してみます。

 ちょっと思い付きで,コーシー(Cauchy)の主値,あるいは主値積分と呼ばれているものを考えます。

 コーシーの主値というのは,実数の区間[a,b]で定義された関数f(x)がa<c<bなるある点cで不連続なとき,P∫af(x)dx≡limε→+0[∫ac-εf(x)dx+∫c+εbf(x)dx]と定義して,これを主値(積分)(principal value)と呼ぶことを指します。

 

 これは,区間[a,b]が無限区間(-∞,∞)で被積分関数がf(x)/x (f(x):連続関数)の場合には,P∫-∞{f(x)/x}dx=limε→+0[∫|x|≧ε{f(x)/x}dx]です。

 

 複素平面上の実軸を含む領域でf(z)が正則なとき,主値P∫-∞{f(x)/x}dxを,複素z平面上のある経路Cにおける線積分∫C{f(z)/z}dzで近似することを考えます。

 

Cとしては,実軸上の-∞から-εまで真っ直ぐ進み,原点Oを回避するために,Oを中心として半径εの小円で点-εから点εまで時計回り(負の向き)にπだけ回る半円経路を加え,さらにεから∞までの直線経路を考えたものとします。

つまり,小半円の経路をγ-とすると,全経路はC=(-∞,-ε)∪γ-∪(ε,∞)です。

すると,∫C{f(z)/z}dz=P∫-∞{f(x)/x}dx+∫γ-{f(z)/z}dzと書けます。

ところが,明らかに∫γ-{f(z)/z}dz=i∫π0f(εexp(iθ))dθ=-iπf(0)です。

 それ故,∫C{f(z)/z}dz=P∫-∞{f(x)/x}dx-iπf(0) なることがわかります。

 被積分関数f(z)/zに対し,その特異点であるz=0 付近で上半平面方向に歪めた経路C=(-∞,-ε)∪γ-∪(ε,∞)を取る代わりに,通常の(-∞,∞)の経路のまま,被積分関数の方をf(z)/zからf(z)/(z+iε)に微修正して,特異点をz=0 から下半平面のz=-iεに移すのは,事実上,同等な操作であり,同じ積分値を与えるはずです。

 すなわち,∫-∞{f(x)/(x+iε)}dx=∫C{f(z)/z}dz=P∫-∞{f(x)/x}dx-iπf(0)です。

 同様な考察から∫-∞{f(x)/(x-iε)}dx=∫C{f(z)/z}dz=P∫-∞{f(x)/x}dx+iπf(0)も得られます。

 これらの公式を,形式的に1/(x+iε)=P(1/x)-iπδ(x), 1/(x-iε)=P(1/x)+iπδ(x)と書きます。

 主値積分については,コーシーの積分定理を意識して,上半平面や下半平面で,半径が∞の半円周を加えた閉じた経路を積分経路Cとする説明をよく見かけますが,それは半径が∞の半円周上で積分がゼロになるような特別な被積分関数形を要求します。

 

 留数などを考慮する必要がある場合なら,その方がいいでしょうが,上の考察では,関数f(z)がz→ ∞でゼロに急減衰すべきであるとかの条件は全く必要ないのがミソです。

 

 今日は記憶に頼った短かい覚え書きなので参考文献はありません。

 

PS:2ヶ月ぶりに帝京大病院に診察を受けに行きました。

 

 これまでは内科診療は心臓や血管が専門の主治医I先生だけでしたが持病の糖尿病がかなり悪化しているというので今回からMという糖尿病が専門の女の先生の診療も受けることになりました。

 

 ところが,先に診察を受けた糖尿病の方で,12時直前に受けた診察で,朝9時半に検査した結果の糖尿病の指標であるヘモグロビン(HbA1C;正常値4.3~5.8)が,前回(5月8日)まで,11くらいもあったのに,8.6と劇的に軽減されていたので,当然インシュリン注射の指導をする予定だったらしい女医が,これまで通りの投薬で様子を見るということになりました。

 

 空腹時血糖値は200丁度でしたが,これも前回は確か250くらいだったので減っていたし,今日は朝8時頃おにぎりを食べてきたので完全に空腹というわけではありませんでしたた。

 

 別に何をしたというわけもなく,このところ金がなくて空腹続きだったのが良かったのでしょうか?

  

 最近,何かしましたか?生活が変わりましたか?等聞かれましたが,相変わらず薬はよく忘れて半分くらいは残っているし,別に,貧乏で肉類が少なく空腹だったくらいです。

  

 そういえば,先月初め,知り合いに紹介されて面接した秋葉原の「コタラヒムジャパン」http://kothalahim.blog110.fc2.com/blog-entry-9.html という会社が,偶然にも和名「コタラヒム」という名前の糖尿病に効くらしいスリランカの薬草を販売している会社でした。

   

 そのとき,対面したS会長に自分も長年糖尿病である旨を伝えたら,サンプル試供品の「コタラヒム」を20粒程度頂きました。これを思いついたときには食前2錠ずつ飲んでいたのを思い出しました。

 

 まだ,数粒残っているので,毎日飲んだわけではないようです。

 

 このことを言ったら,後で診察を受けた糖尿が専門ではない心臓病の主治医は少し興味を持ったようでしたが,糖尿病が専門の医者には「毒かもしれないから,変なものは飲まないように」と言われました。

 

 私のデータが改善された理由は,十分な比較サンプルもないので,もちろん何の効果かははっきりしないのでしょうが,そもそもインシュリン投与の対症療法しかない糖尿病だし,専門の立場からはイカガわしいもが多いという気持ちはわかりますが,別に私はその会社の回し者ではないので調べるくらいしてもいいのにと思いました。

 

 (理由は,何でも薬は効きさえすればいいのだと思う。。大きな副作用があれば別ですが。。)

 

 心臓,血管関係では,2年前のバイパス手術退院当時,上が85~90だった血圧が120と正常になってました。また,退院時52キロだった体重も61キロと戻ってきました。

 

 しかし,身長が176センチなので,まだまだやせていて太りたいのですが,ここ数年来摂取カロリーが成人標準の半分程度なので,やせるのも仕方ないでしょう。

 

 だからこそ,食事療法などは無駄だから,インシュリンを投与しろということらしかったのですが。。。

 

 また,これまで,フラフラして転びやすいのは,主に低血圧のせいと思っていたら,赤血球も正常下限値の8割しかなくて貧血もあるようでした。その他は腎臓が蛋白+2で少し悪い以外は全て正常値でした。

 

 念のため,次回はほぼ全部の内臓の超音波(エコー)検査をすることになりました。

 

 また,4月末にやった両足首の動脈の検査結果から,足の動脈硬化らしいので薬ももらいましたが,来週下半身のMRI検査をして,場合によっては足の動脈のカテーテルか,バイパス手術もあるらしいです。

 

 そうだとしても,今度は心臓ではなく足なので危険度ははるかに少ないでしょう。

 

 糖尿病状態の急激な変化は,たとえ軽癒の場合でも眼底によくないとのことで,同じ日に久しぶりに眼科の診察も受けることになりました。

 

 こうした検査は人間ドック以上にお金がかかるだろうとはいえ,これまで定期的に受けてきた診察では何もなかったのに5月に病院の建物や施設が新しくなったとたんに,こう色々と出てくるのでは今までは一体何だったんだろう?と思ってしまいます。

 

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2009年4月16日 (木)

多項式の判別式と終結式について

2009年3/11の数論関係の記事「フェルマーの定理と類体論(1)」

http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2009/03/fermat1-2daf.html の続きとして楕円曲線の群構造について書こうとしていましたが,参考書を読んでいると証明抜きで代数幾何学の定理を応用したものなどが出てきました。

こういうものは見過ごせば,付け焼刃的に理解することはできますが,私の悪い癖で数論よりも代数幾何学の中の射影幾何学などにも興味が湧きました。

 

そこで自分の本棚を探してみると,唯一持ってはいても読んだことのない「代数幾何入門」(上野健璽著(岩波書店))という本を見つけたので,それを最初から勉強することにしてそれが終わってから数論に戻ろうかとか思いをめぐらしました。

代数幾何学というのは,歴史的には式で定義された図形の幾何学などを意味し,デカルト・フェルマー(Descartes-Fermat)に始まる座標幾何学,または解析幾何学の導入と共に誕生したものらしいです。

しかし,いきなり一般論に入るのはやめて,ペル方程式のようなディオファントスの方程式の例題でも考えようとして「数論入門講義(数と楕円曲線)」(J.S.Chahel著;織田進訳(共立出版))を見つけて読んでいると,次のような終結式や判別式に関する項目が出てきました。

2つの多項式をf(x)=a0+a1x+a22+...+ann (degf=n),g(x)=b0+b1x+b22+...+bmm (degg=m)とするとき,係数(a0,a1,a2,..an)を1列ずつずらしてm行並べ,その下に(b0,b1,b2,..bm)を1列ずつずらしてn行並べた(m+n)×(m+n)の行列式をf(x),g(x)の終結式と呼び,R(f,g)と書く。

ただし,ここではf(x),g(x)はある体kの上の多項式環k[x]の元とし,degf,deggはそれぞれf,gの次数を表わすとする

また,f(x),g(x)の最大公約数(g.c.d)をd(x)≡(f(x),g(x))と書くことにする。このとき,次の定理が成り立つ。

[定理1]:d(x)=(f(x),g(x))とする。このとき,degd≧1であるための必要十分条件はR(f,g)=0 である。

(証明)d=(f,g)なので,f=df1,g=dg1と書けばfg1=f1g=df11が成立します。そこで,degd≧1であるための必要十分条件はdegf1<degf,degg1<degg,かつfg1=f1gを満たすf1(x),g1(x)が存在することです。

(x)=a0+a1x+a22+...+ann (degf=n),g(x)=b0+b1x+b22+...+bmm (degg=m)と書きます。

 

degf1<degf,degg1<deggを満たすf1,g1が存在してfg1=f1gなる恒等式(identity)が成立するならdegf1≦n-1,degg1≦m-1ですから,f1(x)=α1+α2x+...+αnn-1,g1(x)=β1+β2x+...+βmm-1とすると,fg1=f1gは両辺の係数を等置する(m+n)個の等式:a0β1=b0α1,a1β1+a0β2=b1β1+b0β2,...,αnm=βmnが成立することを意味します。

 この(m+n)個の等式はα12,...,αnのn個のf1(x)の係数の組をn成分の列ベクトルαt12,...,αn)で,β12,..,βmのm個のg1(x)の係数の組をn成分の列ベクトルβt12,...,βm)で表現すると,(a0,0)β=(b0,0)α,(a1,a0,0)β=(b1,b0,0)α,(a2,a1,a0,0)β=(b2,b1,b0,0)α,...,となります。

 

 ここで,(a0,0),(a1,a0,0),(a2,a1,a0,0),...はm成分の行ベクトル(row vector),(b0,0),(b1,b0,0),(b2,b1,b0,0),...はn成分の行ベクトルで,これら(m+n)個の式の両辺はそれぞれベクトルの内積の形になっています。

そこで,さらにβと-αを並べた(m+n)成分の列ベクトル:γt12,...,βm,-α1,-α2,...,-αn)を作れば,上の(m+n)個の等式は(a0,0,b0,0)γ=0,(a1,a0,0,b1,b0,0)γ=0,(a2,a1,a0,0,b2,b1,b0,0)γ=0 ...となります。

 

 この表現では,係数(a0,0,b0,0),(a1,a0,0,b1,b0,0),(a2,a1,a0,0,b2,b1,b0,0)も(m+n)成分の行ベクトルです。

 

結局,(m+n)個の等式は係数の行ベクトルを(m+n)行並べたものを(m+n)×(m+n)の正方行列Aと考えれば,等式系はAγ0 なる行列形式の斉次連立方程式になることがわかります。

このとき,行列Aの転置tAは,明らかにそれの行列式として終結式R(f,g)を与える行列に一致しています。

 

したがって,R(f,g)=detA=0 なる等式の成立がAγ0 γt12,...,βm,-α1,-α2,...,-αn)の自明でない解を持つための必要十分条件になります。つまり,R(f,g)=0 がdegd≧1 であるための必要十分条件です。(証明終わり)

[定義]:f(x)=a0+a1x+a22+...+ann (an≠0)をk[x]における多項式とするとき,Δ(f)≡(-1)n(n+1)/2R(f,f')/anをf(x)の判別式という。

 

 ただし,f'(x)はf(x)の導多項式と呼ばれる多項式でf'(x)≡a1+2a2x+...+nann-1で定義される。

 特にf(x)=ax2+bx+cならf'(x)=2ax+bより,R(f,f')=ab2-4a2cですから,Δ(f)=b2-4acです。また,f(x)=x3+Ax+Bならf'(x)=3x2+Aより,R(f,f')=4A3-27B2ですから,Δ(f)=-4A3+27B2です。

(x)が重根を持つのはf(x)とf'(x)が1次以上の共通因数を持つときですから,[定理1]によりこれはR(f,f')=0,すなわちΔ(f)=0 と同値です。

[定理2]:f(x),g(x)をk[x]における多項式とする。このときk[x]の中に多項式F(x),G(x)が存在してR(f,g)=F(x)f(x)+G(x)g(x)が成り立つ。

(証明)f(x)=a0+a1x+a22+...+ann (an≠0),g(x)=b0+b1x+b22+...+bmm (bm≠0)とします。

 

 R(f,g)=0 ならfg1=f1gなる1次以上の多項式f1,g1が存在するので,F(x)≡g1(x),G(x)≡-f1(x)とおけば, 0=R(f,g)=F(x)f(x)+G(x)g(x)となります。

そこで,R(f,g)≠0 と仮定してr(x)≡R(f,g)と置きます。

 

そうして,連立方程式系xif(x)=a0i+a1i+1+a2i+2+...+ani+n (i=0,1,...,m-1),xjg(x)=b0j+b1j+1+b2j+2+...+bmj+m (j=0,1,...,n-1)を考えます。

 

t(1,x,x2,...,xm+n-1),t(f(x),xf(x),...,g(x),xg(x),...)なるベクトル表現を採用すれば,これは(m+n)次の正方行列Aを係数とする行列形式の(m+n)元連立1次方程式:Aとなります。                        

このとき,明らかにR(f,g)=det(A)=r≠0 です。

 

det(A)≠0 ですから,Aの逆行列:A-1が存在します。これは,Aの余因子Aijを成分とする行列を(adjA)として,A-1=(adjA)/rと書けますから,これをAの左から掛けて解として=(adjA)/rが得られます。

 

そして,=(adjA)/rの第1行目の式は1=[(Σj=1m1jj-1)f(x)+(Σj=m+1m+n1jj-m-1)g(x)]/r(x)となります。

 

そこでF(x)≡Σj=1m1jj-1,G(x)≡Σj=m+1m+n1jj-m-1と置けばr(x)=F(x)f(x)+G(x)g(x)が得られます。(証明終わり)

などなどと続いていきますが,ここで私がかつて学生時代に読んだ「代数学講義」(高木貞治 著(岩波書店))とは判別式,終結式の定義が全然違っているので,果たして同じものだろうか?という疑問が湧きました。

しかし,上で見たように上述の定義での判別式Δ(f)は,fがf(x)=ax2+bx+cの2次式ならΔ(f)=b2-4ac,f(x)=x3+Ax+Bの3次式ならΔ(f)=-4A3+27B2で,これは両者の定義で全く同じですから,恐らく同じものなのでしょうが,本当に同じであることかどうかを証明しようという気になりました。

従来から知っていた多項式の判別式,終結式の定義は次のようなものでした。 

まず,n個の変数x1,x2,...,xnがあるとき,差積PをP≡(x1-x2)(x1-x3)...(x1-xn)(x2-x3)...(x2-xn)...(xn-1-xn)で定義します。このPは対称式ではなくて交代式ですが,P2は対称式です。

 

そして判別式の定義は「f(x)=a0+a1x+a22+...+annのn個の根をx1,x2,...,xnとしてこれらの差積をPで表わすとき,D≡an2(n-1)2を方程式f(x)=0,または多項式f(x)の判別式という。」というものです。

 

上記の別の定義ではfの判別式はΔ(f)と表記されていましたが,ここではDです。

また,終結式の定義は「f(x)=a0+a1x+a22+...+ann (an≠0),およびg(x)=b0+b1x+b22+...+bmm (bm≠0)の根をそれぞれα12,...,αn,およびβ12,...,βmとするとf(x)=anΠμ=1n(x-αμ),g(x)=bmΠν=1m(x-βν)ですが,R≡anmmnΠμ,νμ-βν)をf(x),g(x)の終結式と呼ぶ。」という形で与えられています。

 

別の定義ではf,gの終結式はR(f,g)と表記されています。

そして,f(x)=a0+a1x+a22+...+ann (an≠0)に対して導多項式はf'(x)≡a1+2a2x+...+nann-1で与えられますから,f'(x)=anΠν=1n-1(x-βν)と書けばf'(αμ)=anΠν=1n-1μ-βν)となります。

 

それ故,この場合従来から知っていた定義でのfとf'の終結式はR=R(f,f')=an2n-1Πμ,νμ-βν)=ann-1Πμf'(αμ)となることがわかります。

ところが,f(x)=anΠμ=1n(x-αμ)のときf'(x)/f(x)=Σμ=1n{1/(x-αμ)}ですから,f'(x)=Σμ=1n{f(x)/(x-αμ)}と表現できます。

 

それ故,f'(αμ)=Πμν≠μnν-αμ)}と表現できます。

 

したがって,従来の終結式はR=R(f,f')=ann-1Πμf'(αμ)=an2n-1Πν{μ≠νμ-αν)}となります。

一方,従来の定義でのf(x)の判別式DはP=(α1-α2)(α1-α3)..(α1-αn)(α2-α3)...(α2-αn)...(αn-1-αn)としてD=an2(n-1)2で与えられますから,D=an2(n-1)μ<νμ-αν)}2=(-1)n(n+1)/2n2(n-1)Πμ≠νμ-αν)です。

ここで,最右辺に符号の係数(-1)n(n+1)/2があるのは,次のようにして示されます。

 

もしもα12,...,αnの中に1組でも重根があればP=0 によりD=0 なので符号係数などは関係ないです。

 

そうでない場合には全ての根が異なるため,αμ<αν,つまり(αμ-αν)の符号がマイナスになる(αμν)の対の数はn個の中から2個を取り出す組み合わせの数n(n+1)/2に等しいからです。

したがって,R=R(f,f')=an2n-1Πμ≠νμ-αν),D=(-1) n(n+1)/2n2(n-1)Πμ≠νμ-αν)によって,D=(-1) n(n+1)/2R(f,f')/anとなることがわかりました。

これは,先に与えた別の定義での終結式R(f,g)による判別式Δ(f)の定義:Δ(f)≡(-1)n(n+1)/2R(f,f')/anと全く同じ形です。

したがって,終結式R(f,g)の2つの定義が同じものであることを証明しさえすれば,判別式については自動的にD=Δ(f)であることになります。

(証明)f(x)=a0+a1x+a22+...+ann (an≠0),およびg(x)=b0+b1x+b22+...+bmm (bm≠0)の根をそれぞれα12,...,αn,およびβ12,...,βmとすると,f(x)=anΠμ=1n(x-αμ),g(x)=bmΠν=1m(x-βν)です。

 そして根と係数の関係としてa0/an,a1/an,...,an-1/anは全てf(x)=0 の根α12,...,αnの基本対称式,b0/bm,b1/bm,...,bm-1/bmは全てg(x)=0 の根β12,...,βmの基本対称式で表わされますから,行列式で定義された方のR(f,g)はan,bmおよびα12,...,αn12,...,βmの関数です。

 

 つまり,R(f,g)はR(an,bm12,...,αn12,...βm)なる形の関数です。

一方,[定理2]の証明では(m+n)元の連立方程式系xif(x)=a0i+a1i+1+a2i+2+...+ani+n (i=0,1,...,m-1),xjg(x)=b0j+b1j+1+b2j+2+...+bmj+m(j=0,1,...,n-1)を想定しました。

 

そして,この方程式の解の組:1,x,x2,...,xm+n-1を列ベクトルt(1,x,x2,...,xm+n-1)で,右辺の関数の組:f(x),xf(x),...,g(x),xg(x),...を列ベクトルt(f(x),xf(x),...,g(x),xg(x),...)で表わせば,係数を(m+n)次の正方行列Aとして元の方程式を行列形式の1次方程式:Aの形に書くことができて,係数Aの行列式が終結式R(f,g)に等しいことを見ました。

この連立一次方程式Aにおいて,仮に代数方程式f(x)=0 とg(x)=0 に共通根x=γが存在すれば,γt(1,γ,γ2,...,γm+n-1)と書くとγではAγ0 となるので斉次方程式A0 に自明でない解γが存在することになり,そのときにはR(f,g)=det(A)=0 です。

そこで,先に書いたan,bm,およびαμν(μ=0,1,2,...,n,ν=0,1,2,...,m)の関数としてのR(f,g)の表現式:R(f,g)=R(an,bm12,...,αn12,...,βm)にαμ=βν=γを代入するとR(f,g)=0 となることがわかります。

 

すなわち,同じことですがαμにβνを代入するとR(f,g)=0 となります。

これは,R(f,g)=R(an,bm12,...,αn12,..,βm)が全ての対(μ,ν)に関して因数(αμ-βν)を持つことを意味します。

 

それ故,R(f,g)はΠμ,νμ-βν)pなる因子を持つはずです。

 

因子(αμ-βν)pのベキpが共通の値であるとしたのはR(f,g)が根の対称式だからです。

また,R(f,g)は係数(a0,a1,a2,...an)を1列ずつずらしてm行並べ,その下に(b0,b1,b2,...,bm)を1列ずつずらしてn行並べた(m+n)×(m+n)の行列式ですが,a0,a1,a2,...,anの各々はα12,...,αnの対称式のan倍,b0,b1,b2,...bmの各々はβ12,..,βmの対称式のbm倍ですから,R(f,g)はα12,...,αnの対称式,β12,...,βmの対称式に係数anmmnを掛けたもので与えられることがわかります。

一方,f(x)=a0+a1x+a22+...+ann=anΠμ=1n(x-αμ)により,両辺の1,x2,x,...,xnの係数を比較すればa0=anΠμ=1nαμ,a1=-anΣν=1nΠμ=1nαμ)/αν...etc.が得られますから,ak/anのαμによる次数は(n-k)です。

 

同様に,bl/bmのβνによる次数は(m-l)です。

 

これから,m行の(a0,a1,a2,...,an)とn行の(b0,b1,b2,...,bm)からなる成るR(f,g)の行列式のゼロでない全ての展開項の根αμνによる次数はmnであることがわかります。

したがって,行列式R(f,g)の根の対称式因子Πμ,νμ-βν)pは高々mn次の式である必要があるため,(αμ-βν)pのベキ指数pは1であると結論されます。

 

すなわち,R(f,g)=Πμ,νμ-βν)×(根αμνを全く含まない因子)です。

以上から,行列式で定義されたR(f,g)はanmmnΠμ,νμ-βν)の定数倍であることまでわかりました。

 

後は定係数を決めるだけですが,既に2次式と3次式の判別式について2つの定義が一致することがわかっているので後は手抜きで定係数=1だということで証明を終わりにします。(証明終わり)

なお,上述の証明に際しては, 勝手に以下のホームページ(HP)を参照させて頂きました。感謝!です。http://aozoragakuen.sakura.ne.jp/taiwa/taiwaNch02/huhensiki/node9.html 

イヤ,単なるパクリかな?ちょっと手抜き記事でした。。。

 

(別に,演習問題を解くことで勉強しなければいけないような学生ではないので,今のように読んでも理解がかなり困難であるわけでもなく簡単明瞭な証明が既にあるならワザワザ最初から証明する必要も無いという安易なジジィです。。)

 

参考文献:J.S.Chahel著;織田進 訳「数論入門講義(数と楕円曲線)」(共立出版),高木貞治 著「代数学講義」(岩波書店)

 

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2009年3月11日 (水)

フェルマー(Fermat)の定理と類体論(1)

深いところでは関係するかもしれないけれど,通常は物理とは関係ないような数学の話も偶にはしようかなと思います。

 

代数学,数論関連については,恐らく,2007年1/14~1/29のシリーズ記事「ガロア理論(1)」 http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2007/01/post_abe5.html

~「ガロア理論(6)」 http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2007/01/post_f6db. や,

それに続く2007年8/11の記事「リーマン予想と素数定理」http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_0dd9.html 以来のことでしょうか。偶に考えないとカビが生えてしまいそうです。

 

数論について読んだ本というと,入門程度なら20年以上前にアーベルやガロアの代数方程式のベキ根による解法に対する興味と関連して通読した松坂和夫著の「代数系入門」や,最近では量子暗号に対する興味と関連して,かつてニフティのサイエンスフォーラムの数学会議室議長だったプークさん(鈴木治郎氏)が訳された「はじめての数論」を通読した程度です。

 

(2006年5/4の記事「公開キー暗号(神はサイコロ遊びをなさる。)」参照 http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2006/05/post_955b.html )

今回は,ある程度は予備知識があることを前提に,まずは加藤和也,黒川信重,斉藤毅著「数論I」(Fermatの夢と類体論)(岩波書店)を参考に,10年くらい前に証明されたばかりのFermatの定理や高木貞治氏の研究で有名な類体論などを含む代数的数論関連の領域について言及してみたいと思います。

まず,楕円曲線と有理点について記述します。

 

ただし有理数体の上の楕円曲線とはy2=ax3+bx2+cx+d(a,b,c,d∈,a≠0),かつ右辺は重根を持たないというの形の3次方程式で定義される曲線です。

 

今日は,まず楕円曲線による方法の導入のため,"3以上の整数nについて,xn+yn=znを満たす自然数x,y,zは存在しない。"というフェルマーの定理のうちのn=4の場合の次の命題を証明することから始めます。

[命題1.1]:x4+y4=z4を満たす自然数x,y,zは存在しない。

この命題の証明の1つはフェルマー(Fermat)が書き残しています。

 

彼の証明を現代風に解釈するなら,それは[命題1.1]の証明を次の楕円曲線y2=x3-xに関する[命題1.2]の証明に帰着させるものと考えられます。

[命題1.2]:y2=x3-xの有理数解は(x,y)=(0,0),および(±1,0)のみである。

実際,もしも[命題1.1]が成立せずx4+y4=z4を満たす自然数x,y,zが存在するなら,x4=z4-y4の両辺にz2/y6を掛けると(x2z/y3)2=(z3/y3)2-z2/y2となります。

 

これはy2=x3-xにy≠0 の有理数解(x,y)が存在することを意味し,これは[命題1.2]に反しますから,[命題1.2]が成立するなら[命題1.1]が成立しなければなりません。

[命題1.2]は次の[補題1.3]のd=1の特別な場合になっています。

[補題1.3]:dを正の有理数とすると,次の条件(ⅰ)~(ⅲ)は全て同値である。

ⅰ)3辺の長さが有理数で面積がdの直角三角形が存在する。

(ⅱ)有理数の平方となる3つの数で,公差がdの等差数列をなすものが存在する。

(ⅲ)y2=x3-d2xの有理数解が(x,y)=(0,0),(±d,0)以外にも存在する。

[補題1.3]の条件(ⅰ)~(ⅲ)は,それぞれ次の[補題1.4]でK=としたときに与えられる集合Ad,Bd,Cdが空集合でないことを意味するので,[補題1.4]が成立することを示せば[補題1.3]も従います。

[補題1.4]:Kを標数が2でない体とするとき,d∈Kに対して集合Ad,Bd,CdをAd≡{(x,y,z)∈K×K×K;x2+y2=z2,xy/2=d},Bd≡{(u,v,w)∈K×K×K;u2+d=v2,v2+d=w2},Cd≡{(x,y)∈K×K;y2=x3-d2x,y≠0}と定義する。

 

 このとき,Ad,Bd,Cdの間に全単射が存在する。

(ただし標数というのはを環とするとき,その乗法の単位元をいくつ加えたらゼロになるかという最小の数のことを意味します。通常の有理数体などを環と考えたときの標数はゼロです。)

(証明)まず,(x,y,z)∈Ad,すなわちx2+y2=z2,xy/2=dのとき,(u,v,w)=((y-x)/2,z/2, (x+y)/2)とすれば,u2+d=v2,v2+d=w2,より(u,v,w)∈Bdです。

 

 逆に,(u,v,w)∈Bdなら,(x,y,z)=(w-u,w+u,2v)とすれば(x,y,z)∈Adです。これは互いに逆写像となる全単射です。

 次に(u,v,w)∈K×K×K;u2+a=v2+b=w2+cのとき,(x,y)=f(u,v,w)≡(u2+a+uv+vw+wu,(u+v)(v+w)(w+u))とすれば,y2=(x-a)(x-b)(x-c)となります。

 

 これには逆写像が存在し,それはg(x,y)=({(x-a) 2+(b-a)(c-a)}/(2y),{(x-b) 2+(c-b)(a-b)}/(2y),{(x-c) 2+(b-c)(a-c)}/(2y))で与えられます。

 

 特にa=d,b=0,c=-dとおけば,これはBd ⇔ Cd の全単射を表わします。(証明終わり)

※[補題1.4]の証明からのおまけ:

 [補題1.4]の結論のような全単射ではないですが,(u,v,w)∈K×K×K;u2+a=v2+b=w2+cに対する写像を,(x,y)=h(u,v,w)≡(u2+a,uvw)で定義すれば,明らかにy2=u222=(x-a)(x-b)(x-c)となります。 ※

さて,以下ではK=として[命題1.2]を証明します。

まず,有理数a∈の高さ(a)を,aをa=m/nと既約分数に表わしたとき(a)≡max(m,n)によって定義します。

 

そして,y2=x3-xに(0,0),(±1,0)以外にも有理数解が存在すると仮定しx座標の高さが最小のものを(x0,y0)とします。

 

もしもx座標の高さが最小の有理数解が複数個あればその中の1つを(x0,y0)とします。

一般に,y2=x3-d2xに(0,0),(±d,0)以外の有理数解(x,y)が存在すれば,もちろんx≠0,y≠0 ですが,この等式の両辺にd4/x4を掛けると(d2y/x2)2=d4/x-(d2/x)3となります。

 

そこで,y2=x3-d2xに(0,0)と異なる有理数解(x,y)∈×が存在すれば,(-d2/x,d2y/x2)も(0,0)と異なる有理数解です。

ここで,特にd=1とすると,もしもy2=x3-xに(0,0)とは異なる有理数解(x,y)∈×が存在すれば,(-1/x,y/x2)も同じ楕円曲線上にある有理数解であるということになります。

そして(x)=(-1/x)ですから,x0<0 の場合には-1/x0 を新しくx0に取っても,高さは同じなので問題ないことがわかります。そこで,x0>0 を満たすy2=x3-xの解を(x0,y0)として採用します。

こう選ぶと,y02=x03-x0により,x0(x0-1)(x0+1)=y02>0 であって,かつx0>0 ですからx0>1です。

このとき,x0'≡(x0+1)/(x0-1)と置くと0'-1=2/(x0-1),0'+1=2x0/(x0-1)により,0'(0'-1)(0'+1)=4x0(x0+1)/(x0-1)3=4y02/(x0-1)4={2y0/(x0-1)2}2となります。

 

そこで,0'≡(x0+1)/(x0-1),0'≡2y0/(x0-1)2と置けば,(0',y0')∈×であり,かつ0'(0'-1)(0'+1)=y0'2,またはy0'20'30'が成立します。

01,x0なのでx0≡m/n(m>n>0:既約分数)と置くと,0'=(x0+1)/(x0-1)=(m+n)/(m-n)=(m+n)/(m-n)となります。

 

m/nは既約分数なのでm,nが共に偶数であることはあり得ませんが,もしも共に奇数ならp=(m+n)/2,q=(m-n)/2は共に整数で0'=p/qであり,max(p,q)<max(m,n),つまり(0')<(x0)ですから,x0の高さが最小であるという仮定に矛盾します。

それ故,m,nのどちらか一方は偶数です。そして,x0(x0-1)(x0+1)=mn(m-n)(m+n)/n4ですが,これが有理数y0の平方に等しいので,明らかにmn(m-n)(m+n)はある整数の平方です。

 

なぜなら,mn(m-n)(m+n)はn402ですから,これは整数であってかつ有理数n20の平方だからです。

/nが既約分数なので,mとnは互いに素です。そこで,結局m,n,(m-n),(m+n)は全て互いに素です。

 

したがって,mn(m-n)(m+n)が平方数になるためにはm,n,(m-n),(m+n)が各々平方数である必要があります。(これは素因数分解可能性からの帰結です。)

それ故,x0=m/n,x0-1=(m-n)/n,x0+1=(m+n)/nは全て有理数の平方数です。

さて,[補題1.4]の証明とそのおまけから,(u,v,w)=g(x,y)とh(u,v,w)=(u2+a,uvw)を合成した写像h・gを作ります。ただし,今の場合a=1,b=0,c=-1とします。

任意の(x1,y1)∈×のgによる像を(u1,v1,w1)=g(x1,y1)とし,さらに(u1,v1,w1)∈××のhによる像を(x2,y2)=h(u1,v1,w1)とします。(x2,y2)=h・g(x1,y1)ですね。

 

このとき,y22=u121212=(x2-1)x2(x2+1)ですから,x2-1,x2,x2+1は全て有理数の平方数です。

逆に言えば,y22=(x2-1)x2(x2+1)を満たす(x2,y2)∈×で,x2-1,x2,x2+1が全て有理数の平方である場合なら,h・g(x1,y1)=(x2,y2)を満たす(x1,y1)∈×が常に1組だけ存在することがわかりました。

ところで,すぐ前で見たようにx0=m/n,x0-1=(m-n)/n,x0+1=(m+n)/nは全て有理数の平方数です。

 

そこで,h・g(xp,yp)=(x0,y0)を満たす(xp,yp)∈×が,存在します。

(up,vp,wp)=g(xp,yp)よりup={(xp-1)2-2}/(2yp)でx0=up2+1,yp2=xp3-xpです。

 

故に,x0=up2+1={(xp-1)2-2}2/{4(xp3-xp)}+1=(xp2+1)2/{4(xp3-xp)}です。有理数xpを互いに素な整数r,sによる既約分数としてxp=r/sと表わします。

 

このとき,x0=(r2+s2)2/{4rs(r2-s2)}です。

 

まず,x01ですから,分母より分子の方が大きいので(r2+s2)2>4rs(r2-s2)です。

 

そして,xp=r/sは既約分数ですからrとsは互いに素なので,分子の(r2+s2)2と分母のrsは明らかに共通因数を持ちませんから,分母と分子が共通因数を持つとすれば,r2+s2と4,またはr2-s2が共通因数を持つ場合に限られます。

 

このとき,もしもr,sが共に奇数ならr2+s2は4で割ると余りが2の偶数,r2-s2は4の倍数です。

 

(r2+s2)2は丁度4の倍数ですから,今のx0の分数表現で分子,分母は共通因数4を持ちます。

 

したがって,この場合には(x0)≧(r2+s2)2/4≧{max(r,s)}4/4>max(r,s)=(xp)です。

 

ただし,右辺の最後の不等式:{max(r,s)}4/4>max(r,s)では,xp=r/s>1により(xp)=max(r,s))≧2なることを考慮しました。

 

他方,r,sの一方が奇数,もう一方が偶数ならr-s,r+sは共に奇数で,共通因数を持ちません。そしてp≡r-s,q≡r+sと置けばr2-s2=pq,r2+s2=(p2+q2)/2,rs=(p2-q2)/4です。

 

結局,x0=(p2+q2)2/{4pq(p2-q2)}と書けますから,片方だけが奇数の(r,s)の組が共に奇数の(p,q)に置き換えられただけで,x0の分数表現は前と全く同じ形をしています。

 

それ故,前と同じく分子,分母は共通因数4のみを持ちます。

 

そこで,この場合にも(x0)≧(p2+q2)2/4≧{max(p,q)}4/4>max(p,q)>max(r,s)=(xp)となります。

 

以上から,既約分数xp=r/s>1のr,sが共に奇数の場合,一方が奇数,もう一方が偶数の場合のいずれであっても,(x0)>(xp)になるという結果が得られました。これはx0の高さ(x0)が最小であるという仮定に矛盾します。

 

それ故,(x,y)=(0,0),(±1,0)以外のy2=x3-xを満たす高さ(x)が最小の(x,y)=(x0,y0)は存在しないと結論されます。

 

これは,[命題1.2]の結論が成立することを意味しますから,結局,[命題1.2]が成立することが示されたわけです。

  

そして最初に述べたように,[命題1.2]が成立することは[命題1.1]が成立することを意味するので,結局,"x4+y4=z4を満たす自然数x,y,zは存在しない。"ことが証明されました。

 

この証明方法はフェルマー自身が無限降下法と呼んだ方法です。

 

今日はここまでにします。 

参考文献:加藤和也,黒川信重,斉藤 毅著「数論I」(Fermatの夢と類体論)(岩波書店)

 

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2009年3月 1日 (日)

分子と点群(3)

 続きです。前回中途半端で終わったので,例題の2次元の特殊ユニタリ群SU(2)について補足しておきます。

 まず,前回の最後の部分をほぼそのまま書きます。

(再掲開始)

 例としてが2次元の特殊ユニタリ群:SU(2)である場合を考えてみます。=SU(2)≡{g∈GL(2)|g=g-1,detg=1}です。ただしGL(2)は2次の正則な正方行列から成る群です。

対角成分がa,a-1(a∈,a≠0)の2次の対角行列をhaとし,{ha∈GL(2)|a∈,|a|=1}とします。

 

は明らかに=SU(2)の部分群です。しかも,これは可換群(アーベル群)であり,1-パラメータ群(a=exp(iα))なので,U(1)(絶対値が1の複素数の乗法群)と同型です。

=SU(2)の任意の元gの2つの固有値をa,a-1(a∈,|a|=1)とすると,gはあるk∈SU(2)によってha=k-1gk,haと対角化できます。またはg=kha-1,haとすることができます。

一般にU(1)の幾つかの直積と同型な群をトーラス群といいます。

がトーラス群,かつの部分群,すなわちトーラス部分群であって,これを真に含むGのトーラス部分群が存在しないなら,の極大トーラス部分群と呼びます。

 

今の=SU(2)の場合には,上で定義した2次の対角行列から成る部分群はSU(2)の極大トーラス部分群となっています。

[定理5]:=SU(2)とする。

 

(1)の任意の元gは極大トーラス群の元と共役である。

 

(2)g,h∈,に対してf(hgh-1)=f(g)を満たす関数(類関数という)fは極大トーラス部分群の上の値だけで決まる。

  

 すなわち,f1,f2を2つの類関数とするとき,∀h∈に対してf1(h)=f2(h)ならf1=f2である。

=SU(2)の表現(D,U)の指標χDは明らかに類関数なので,これは極大トーラス部分群の上の値だけで決まります。

 

(再掲終了)※

 さて,SU(2)の(m+1)次元表現(Dm,Um)の表現空間Umを2つの文字z1,z2の複素係数のm次の同次多項式全体から成る空間とします。

 

 Umの任意の元は(m+1)個の単項式z1m,z1m-12,..,z12m-1,z2mの1次結合として一意的に表現されるのでUmは確かに(m+1)次元線型空間です。

 そして,表現(Dm,Um)を∀φ∈Umに対しDm(g)φ()≡φ(g)(∀g∈SU(2)) で定義します。ここでt(z1,z2)としました。

このとき,∀g,h∈SU(2)に対してDm(gh)φ()=φ(gh)=Dm(g)φ(h)=Dm(g)Dm(h)φ()なので,この写像は定義域=SU(2)の上で確かに準同型になっていますが,Dm(g)は本当にUmの上の線型変換なのでしょうか?

 まず,φ()がz1,z2のm次の同次多項式,つまりφ()=c11m+c21m-12+..+cm-112m-1+cm2mであることは,φ(t)=tmφ()であることを意味します。

 

 gz=t(az1+bz2,cz1+dz2)(ad-bc=1,d=a*,c=-b*)なるgに対しg(t)=t(g)なので,φ(g(t))=φ(t(g))=tmφ(g)です。

 

 故に,Dm(g)φ()=φ(g)も成立します。つまりm(g)φはz1,z2のm次の同次多項式です。

 

そこで,演算Dm(g)に対し表現空間Umは不変で閉じていること:Dm(g)は確かにUmからUmへの写像であることがわかります。

そして,∀φ,ψ∈Umと∀α,β∈に対してDm(g)[(αφ+βψ)()]=(αφ+βψ)(g)=αDm(g)φ()+βDm(g)ψ()なので線型性も自明です。

 

結局,Dm(g)はUmの上の線型変換であり,(Dm,Um)が確かにSU(2)の1つの表現であることがわかりました。

ここで,z≡z1/z2と置けばUmの任意の元であるz1,z2のm次の同次多項式は,zのm次多項式φ^(z)を用いてφ()=c11m+c21m-12+..+cm-112m-1+cm2m=z2m(c1m+c2m-1+..+cm-1z+cm)≡z2mφ^(z)と表現されます。

 

ただし,zのm次多項式φ^(z)をφ^(z)≡φ()/z2m,またはφ()≡z2mφ^(z)によって定義しました。

  

このzの多項式:φ^はz1,z2の同次多項式φ∈Umと完全に1対1に対応します。

そして,gがgz=t(az1+bz2,cz1+dz2)(ad-bc=1,d=a*,c=-b*)を与えるSU(2)の元である場合,

 

m(g)φ()=φ(g)なる変換式は,Dm(g)[z2mφ^(z)]=(cz1+dz2)mφ^((az1+bz2)/(cz1+dz2))=z2m(cz+d)mφ^((az+b)/(cz+d))を意味します。

結局,Umの任意の元であるz1,z2のm次同次多項式φ()はzのm次多項式φ^(z)と完全に1対1に対応することがわかりました。

 

つまり,z1,z2のm次同次多項式φ()は(m+1)個の基底z1m,z1m-12,..,z12m-1,z2mの1次結合として一意的に表現されますが,これはφ()と全く同じ係数の(m+1)個の基底zm,zm-1,..,z,1の1次結合であるzのm次多項式φ^(z)に同型対応します。

 

そこで,Umはzのm次多項式全体の作る線型空間Vmと同型です。

したがって,表現(Dm,Um)における表現空間UmをVmに変更した(m+1)次元表現を(Dm,Vm)と書けば,これはgz=t(az1+bz2,cz1+dz2)を与えるg∈SU(2)に対してDm(g)φ^(z)=(cz+d)mφ^((az+b)/(cz+d))を与える表現です。

 

結局,Um→Vmは表現Dmの表現空間における単なる基底変換と見なせるので,(Dm,Vm)は(Dm,Um)に同値です。

(なお,z→az+b/(cz+d)を1次分数変換,またはメビウス変換と呼びます。この変換はSU(2)と全く同型です。

 

普通,これもSU(2)と同一視されますが,群の表現と解釈するなら忠実な表現です。)

SU(2)の(m+1)次元表現(Dm,Vm)は,haに対してはDm(ha)φ^(z)=a-mφ^(az/a-1)=a-mφ^(a2z)ですから,Vmの全ての基底:fk(z)≡zk(k=0,1,2,..,m)に対してはDm(ha)fk(z)=a2k-mk(z)となります。

 

したがって,基底fk=fk(z)=zの1次結合で表わした任意のφ=Σk=0mkk∈Vmに対して,Dm(ha)はDm(ha)φ=Σk=0m2k-mkkと書けます。

つまり,線型変換Dm(ha)は行列表現ではその成分がDm(ha)kj=a2k-mδkjの対角行列です。

 

そこで,表現(Dm,Vm)の指標χDmをχmと書けば,χm(ha)=Tr{Dm(ha)}=Σk=0m2k-m=a-m(1-a2(m+1))/(1-a2)=(a-(m+1)-am+1)/(a-1-a)=sin{(m+1)α}/sinα,(a≡exp(iα),α∈)となります。

ところで,gz=t(az1+bz2,cz1+dz2)(ad-bc=1,d=a*,b=-c*)を与えるSU(2)の元gの成分を4つの実数x1,x2,x3,x4を用いてa=x1+ix2,c=x3+ix4と表現すれば,ad-bc=1なる条件はx12+x22+x32+x42=1となります。

そこで,3つの独立なパラメータθ123によってx1=cosθ1,x2=cosθ2sinθ1,x3=cosθ3sinθ2sinθ1,x4=sinθ3sinθ2sinθ1と表わすことができます。

 

ただし,0≦θ1≦π,0≦θ2≦π,0≦θ3≦2πです。

微小長さdsはds2=dx12+dx22+dx32+dx42=dθ12+sin2θ1dθ22+sin2θ1sin2θ2dθ32で与えられるので,対応する体積要素はsin2θ1sinθ2dθ1dθ2dθ3になります。

そこで,∫SU(2)ψ(g)dg=∫00π0πψ(θ123)sin2θ1sinθ2dθ1dθ2dθ3がSU(2)上の不変積分となります。

 

これにψ≡1を代入したSU(2)の全体積が2π2となるので,規格化された不変測度は上記dgを2π2で割り,改めてdg={1/(2π2)}sin2θ1sinθ2dθ1dθ2dθ3で与えられます。

ところで,g=haの対角行列ではc=x3+ix4=0 ですから,これはθ2=0 を意味します。

 

そして,このときa=x1+ix2=cosθ1+isinθ1=exp(iθ1)ですから上で求めた指標χm(ha)=Σk=0m2k-m=sin{(m+1)α}/sinα(a≡exp(iα),α∈)は,これにα=θ1を代入することで明確なθ1の関数の形でχm(ha)=sin{(m+1)θ1}/sinθ1となります。

そして,先にコンパクト群上の関数φ,ψについての内積を<φ|ψ>≡∫φ(g)*ψ(g)dgによって定義しました。

 

これにより=SU(2)においては<χm+1n+1>=∫SU(2)χm+1(g)*χn+1(g)dg=∫SU(2)χm+1(ha)*χn+1(ha)dg={1/(2π2)}∫00π0πsin{(m+1)θ1}sin{(n+1)θ1}sinθ2dθ1dθ2dθ3=(2/π)∫0πsin{(m+1)θ1}sin{(n+1)θ1}dθ1=δmnが得られます。

このことから,表現(Dm,Vm),または(Dm,Um)(m=0,1,2,..)は全てSU(2)の(m+1)次元の既約表現であることがわかりました。

最後に,SU(2)の既約表現が上記の(Dm,Vm),または(Dm,Um)(m=0,1,2,..)で尽くされることを見ます。

まず,任意の表現(D,U)の指標χDは極大トーラス部分群の上のha,つまりパラメータθ1のみの関数として,χD(ha)=χD1)で与えられ,これは<χDD>=(2/π)∫0πχD1)*χ D1)sin2θ1dθ1を満たします。

 

しかも,haとha-1=h1/aは互いに共役(相似)なのでχD(ha)=χD(h1/a )ですが,a=exp(iθ1),a-1=1/a=exp(-iθ1)なのでχD1)=χD(-θ1)よりχD1)は偶関数です。

したがって,ξ(θ1)≡sinθ1χD1)とおくと,これはθ1の奇関数で周期が2πの連続関数です。

 

そこで,こξ(θ1)はξ(θ1)=Σn=1nsin(nθ1),cn=(2/π)∫0πξ(θ1)sin(nθ1)dθ1とフーリエ正弦展開できます。

よって,<χDm>=(2/π)∫0πξ(θ1)sin{(m+1)θ1}dθ1=cm+1となります。

 

そこで,もしも表現(D,U)があらゆる(Dm,Um)と異値:<χDm>=0 (m=0,1,2,..)なら,cm+1=0 (m=0,1,2,..)によって恒等的にχD≡0 となります。

 

厳密には,フーリエ級数ξ(θ1)=Σn=1nsin(nθ1)についてパーシバル(Parseval)の等式∫π|ξ(θ1)|2dθ1=2∫0π|ξ(θ1)|2dθ1=πΣn=1|cn|2でΣn=1|cn|2=0 が成立します。

 

それ故,∫0π|ξ(θ1)|2dθ1=0 から,ξ(θ1)は,ほとんどいたるところでゼロであることがわかりますが,ξ(θ1)はθ1の連続関数なので恒等的にゼロです。

 

つまり,ξ(θ1)=sinθ1χD1)=0 により,χD(ha)=χD1)=0 なので∀g∈SU(2)について,χD(g)=χD(ha)=0 です。

これは,既約性の条件<χDD>=1に矛盾します。

 

したがって,(D,U)が既約表現なら,これはあるmに対する(Dm,Um)と同値でなければなりません。

これらを,定理の形にまとめます。

[定理6]:(1)SU(2)の任意の既約表現は,あるmに対するDmと同値である。

 

(2)既約表現Dmの指標χmは,SU(2)の極大トーラス部分群の上ではha;a=exp(iθ)に対してχm(ha)=sin{(m+1)θ}/sinθで与えられる。

 一般にgの固有値がa=exp(iθ),a-1=exp(-iθ)のときχm(g)=χm(ha)=sin{(m+1)θ}/sinθとなる。

 

(3) SU(2)の任意の表現Dは完全可約であって,いくつかのDmの直和と同値である。

 SU(2)は単に群の1つの例として出したつもりだったのですが,ここまで書いてしまったので,SU(2)の随伴表現が回転群SO(3)≡{R∈GL(3,)|tR=R-1,detR=1}の忠実な表現になることを利用してSO(3)の既約表現を調べます。

 まず,体( or )の元を成分とするn次の正方行列の集合をM(n,)と書くと,これはの上の線型空間を作ります。

 

 今,U≡{∈M(n,)|=0,Tr=0}とすると,これは∀∈Uは∀t∈に対してt∈Uの(n2-1)次元の実線型空間です。

 

 一般のn次の特殊ユニタリ群=SU(n,)の元gに対して,その∈Uに対する線型変換Adgを,(Adg)≡g-1で定義します。

 固定したg∈SU(n,)に対してAdgがUの上の線型写像であることは明らかです。

 

 そして∀∈Uについて,=0 とAdgの線型性より(Adg)+(Adg)=0 ですが,(Adg)=g-1=g=(g)t={(Adg)}です。

 

 また,Tr((Adg))=0 なので,AdによってUは不変です。

一方,∀g1,g2∈SU(n,)に対して,{Ad(g21)}=g211-12-1=g2{(Adg1)}g2-1=(Adg2)(Adg1)ですから,写像g→Adgは連続かつ準同型な写像です。

以上から,AdはSU(n,)の(n2-1)次元実表現空間U上での表現であることがわかりました。これをSU(n)の随伴表現といいます。

ここで,1,2∈Uに対する内積を<1|2>≡Tr(12)=Σi,j=1n[u1*ij2ij]で定義します。特に,<|>=Tr()=Σi,j=1n|uij|2≧0 (∈U)です。

 

そして,<(Adg)1|(Adg)2>=Tr(g1-12-1)=Tr(12)=<1|2>なので,この内積の定義ではAdはユニタリ表現です。

 

しかも,Uは実線型空間なのでユニタリ表現であることは,Adgが直交行列であることを意味します。

そこで,特にn=2,n2-1=3の場合,SU(2)=SU(2,)の場合にはAd[SU(2)]は"3次元直交行列の群=回転群":SO(3)と準同型になります。

 

なぜなら,写像g→Adgは連続であり,Ad[SU(2)]は連結なのでdet(Adg)=1となるからです。

 

ただし,Ad(-1)=Ad(1)=I(回転群の単位元)なので,Ker(Ad)={±1}より,SU(2)~ O(3)/{±1}=SO(3)です。

 

つまり,R∈SO(3)に対して,g∈SU(2)が存在してAdg=Rならば,Ad(-g)=Rであり,このh=±g以外にはAdh=Rを満たすh∈SU(2)は存在しません。

 

パウリのスピン行列として知られているσ=(σ123)を用いて,k≡iσk/√2 (k=1,2,3)とすれば,k∈Uであって<i|j>=δijですから,これはUの1つの正規直交基底になります。

 

任意のUの元=Σk=13kkと展開すれば,k(k=1,2,3)は3次元空間のあるxyz座標系のx,y,z軸方向の単位ベクトルで,(u1,u2,u3)は空間ベクトルのこの座標系での成分と同定され,ます。

  

そして,特にhθ≡ha⊂SU(2);a=exp(iθ)なら線型変換Adhθによって基底k(k=1,2,3)は(Adhθ)11cos(2θ)+2sin(2θ),(Adhθ)2=-1sin(2θ)+2cos(2θ),(Adhθ)33cos(2θ)と変換されるので,この基底ではAdhθ3軸のまわりの角:2θの回転を表わしています。

 

また,Adkθ,Adlθがそれぞれ2軸,1軸のまわりの角:2θの回転を表わすようなkθ,θ∈SU(2)を取ることもできるので,結局全ての回転を随伴表現で与えることが可能です。

 

まあ,回転群SO(3)を生成するには実際には,hθ,kθ,θのうちの2つがあれば十分なのですが。。。

 

さてSO(3)の1つの表現(T,U)があるとき,g∈SU(2)に対してD(g)≡T(Adg)とすれば,(D,U)はgの1つの表現です。そしてSO(3)の表現(T,U)が既約であることとSU(2)の表現(D,U)が既約であることは同値です。

 

D(g)≡T(Adg)によってSO(3)の任意の既約表現からSU(2)の既約表現が得られますが,SU(2)の表現(D,U)からD(g)≡T(Adg)によって必ずしもSO(3)の表現(T,U)は決まりません。

 

すなわち,R∈SO(3)に対してAdg=Rとなるg∈SU(2)は2つ存在してそれは±gです。

 

そこで,D(g)≡T(Adg)であるならば,D(g)=T(R),かつD(-g)=T(R)ですからD(g)=D(-g),つまりD(-1)=D(1)=Iである必要があります。

 

逆にD(-1)=IならD(g)≡T(Adg),Adg=Rから表現T(R)は一意的に決まります。

 

そこでSO(3)の既約表現(T,U)を求めるにはSU(2)の既約表現(D,U)を全て求め,それらのうちでD(-1)=Iを満たすものを取ればいいことになります。

 

ところが,上に述べたようにSU(2)の既約表現の全ては既に(m+1)次元表現(Dm,Um)(m=0,1,2,..)で尽くされることがわかっています。そして,Dm(-1)(-1)mIです。

 

したがって,mが偶数:m=2lのときにはSU(2)の既約表現(Dm,Um)(m=0,1,2,..)からTl(R)≡Dm(Ad-1R)によって回転群SO(3)の既約表現(=1価表現)(Tl,U2l)(l=0,1,2,..)が得られます。

 

(Tl,U2l)は(2l+1)次元表現です。(これは量子論では角運動量がJ=lのJz=-l,..,-1,0,1,..,lに対応します。)

 

そして,Adhθ3軸のまわりの角:2θの回転Rを表わしていて(Dm,Um)の指標がχm(g)=χm(hθ)=sin{(m+1)θ}/sinθなので,3軸のまわりの角:θの回転Rθに対する(Tl,U2l)の指標はχl(Rθ)=sin{(2l+1)θ/2}/{sin(θ/2)}で与えられます。

 

さらに,SO(3)の任意の表現Tは完全可約であって,いくつかのTlの直和と同値になります。

 

なお,mが奇数m=2k+1のときの,Tk+1/2(Adg)=Dm(g))(k=0,1,2,..)はSO(3)の表現としては2価表現((2k+2)次元表現)を与えます。

 

(これは量子論で角運動量がJ=k+1/2のときのJz=-k-1/2,..,-1/2,,1/2,..,k+1/2に対応します。)

 

今日はここまでにします。

参考文献:山内恭彦,杉浦光夫著「連続群論入門」(培風館),犬井鉄郎,田辺行人,小野寺嘉孝 著「応用群論」(裳華房),島 和久 著「連続群とその表現」(岩波書店)

 

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2009年2月21日 (土)

分子と点群(1)

連続群とその表現というのは,素粒子物理学をはじめ,物理学では多くの分野において重要な論題です。

 

今回は通常の素朴な非相対論的量子力学をベースにして巨視的物性を左右する微視的単位である分子構造を規定する対称性群としての点群の表現に関連したものを考えます。

 

1粒子の定常状態の波動関数ψは空間位置の3次元空間におけるスカラー関数ψ()で与えられます。

 

そして,座標系の空間回転の操作R:→Rの下で,この波動関数ψはψ()→R^ψ()と変換されるとします。

 

つまり,座標系の回転R:→Rに対応する関数空間での回転を示すある演算子R^が存在して,その作用をψ→R^ψとするわけです。

このとき,ψが3次元空間におけるスカラーであるということは,空間回転の下で同じ空間位置での波動関数の値は不変であること,つまりR^ψ(R)=ψ()なることを意味します。これは,R^ψ()=ψ(R-1)と同等ですね。

しかし,量子論ではR^ψ(R)=ψ()でなくても,一般にγを実数としてR^ψ(R)=exp(iγ)ψ()でありさえすれば十分です。

 

状態を示す状態関数としてのψは,実は位相を無視した射線(ray)という同値類の代表元でしかないというのが波動関数ψの本質的意味です。

  

(厳密な意味では,必ずしもR^ψ(R)=exp(iγ)ψ()ではなくて,R^ψ(R)=exp(iγ)ψ*()のような反ユニタリ(anti-unitary)な変換でもかまいませんが。。。)

 しかし,波動関数がスカラーであるという意味を位相因子を無視してR^ψ(R)=ψ()であると定義しても,一般性を失なうことはないので以下ではそのように解釈することにします。

 以下では,波動関数ψ()が確率振幅を表わす複素数量であるという意味で<ψ|ψ>≡∫d3ψ*()ψ()=1と規格化されている場合に,ψ()→R^ψ()がこの規格化条件を破らない物理的に意味がある変換R^のみを考察の対象とします。

 

 つまり,<ψ|ψ>=∫d3ψ*()ψ()=1においてψ()の代わりにR^ψ()=ψ(R-1)を代入しても,依然としてこの式が成立すると仮定します。すなわち,<R^ψ|R^ψ>=∫d3ψ*(R-1)ψ(R-1)=1とします。

 

 この条件式は,<R^^ψ|ψ>=det(R)∫d3ψ*()ψ()=1を意味します。

 

 R:→RのRが空間回転を表わす場合,Rは実行列なのでtRであり,また直交行列tRR=tR=1ですから,RR=1を満たします。よって,det(RR)=1なので,<R^^ψ|ψ>=)∫d3ψ*()ψ()=<ψ|ψ>です。

 

 これは,R^^=1,or R^=R^-1,つまりR^がユニタリ(unitary)であることを意味します。 

ψ→R^ψなる操作によって変換されたR^ψが依然として同じ系の波動関数であるという意味は,任意の観測可能な物理量T^(エルミート演算子:T^=T^)の期待値<T>=<ψ|T^|ψ>が,この操作の下で保存されることを意味します。

 

特にT^=1のときには,ψ→R^ψなる変換で確率<ψ|ψ>が保存されるべきであるという要求となります。これはR^^=1,つまりR^がユニタリであれば確かに満たされます。

T^が1ではなくて一般の任意の演算子の場合には,波動関数ψ→R^ψの変換に伴なって,T^→R^T^R^=R^T^R^-1なるユニタリ変換がなされるなら期待値<T>=<ψ|T^|ψ>は不変に保たれます。

 

そこで,以下ではψ→R^ψと同時に物理量を表わす全ての演算子T^がT^→R^T^R^-1なる変換を受けるとします。

このことから→Rなる変換は,を量子力学の位置演算子と見たときにはR^R^-1=R意味します。

 

そして,R^が座標系の回転を表わす場合は空間のベクトル量は全て同じ回転変換を受けるため,運動量を示す^=-ic∇なる演算子^R^-1=Rを満たすはずです。

 

ただし,hc≡h/(2π);hはプランク定数です。

さて,定常状態のシュレーディンガー(Schrödinger)の波動方程式:^ψ()=[-{hc2/(2m)}∇2+V()]ψ()=Eψ()におけるハミルトニアン^≡^2/(2m)+V()=-{hc2/(2m)}∇2+V()も量子力学の1つの演算子ですから,ψ→R^ψなる変換に伴なって^→R^^R^=R^^R^-1なる変換を受けます。

特に,R^R^-1=Rであり,これのエルミート共役を取ると,R^^-1-1ですが,なので,これは^R^-1-1を意味します。

 

この最後の等式の両辺に^R^-1=Rを右から掛けると,R^2^-12が得られます。あるいは^∇2^-1=∇2です。

また,R^V()R^-1=V(R^R^-1)=V(R)ですが,もしもポテンシャルV()がクーロンポテンシャルのようにr=||のみに依存するような球対称な中心力場V()=V(r)であれば,Rr=rですからR^V()R^-1=V()となります。

そこで,球対称な中心力場の場合には,結局R^^R^-1^,またはR^^=^R^が成立します。

 今までは系の対称性変換という概念の導入のため,R:→R,ψ()→R^ψ()なる操作R,R^を座標系の空間回転に特殊化して考えましたが,以下では演算操作R,R^は必ずしも座標系の空間回転である必要はなくて,R^ψ(R)=ψ(),またはR^ψ()=ψ(R-1)を満たす任意の変換であるとします。

しかし,特にR^が座標系の空間回転操作を表わす場合,こうした回転操作全体の集合をとすると,これは回転群という変換群をなすことが知られています。

 

逆に,を必ずしも回転群とは限らない一般の変換群とした場合,系のハミルトニアン^が∀R^∈に対してR^^R^-1^,またはR^^=^R^を満たすとき,系は変換群の下で不変である,または系は変換群で規定される対称性を持つといいます。

ψがシュレーディンガー方程式^ψ=Eψの1つの解ならψはエネルギー固有値Eに属する^の固有関数ですが,^∈に対しR^^=^Rなら,^R^ψ=ER^ψも成り立つので,R^ψもまたψと同じエネルギー固有値Eに属する^の固有関数です。

そこで,Eに属する全ての独立な固有関数をφnとし,これらは正規直交化されているとします

 

すなわち,n=Eφn,<φmn>=δm n(m,n=1,2,..,d)とします。φnはd重に縮退していると仮定しています(d=1なら縮退していませんが,1重に縮退していると広義に解釈します。)

R^^R^-1^のとき,∀R^∈に対してR^φnは全て^のEに属する固有関数なので,φ12,..,φdの1次結合で表現されます。

 

つまり,R^φn=Σm=1dφmmn(R)ですね。そして展開係数Dmn(R)はφn正規直交性<φmn>=δmnにより,Dmn(R)=<φm|R^|φn>と表わされることがわかります。

さて,が位相群であるとします。

 

つまり,は群でありかつ位相空間であって,対応(g,h)→gh(g,h∈)で与えられる群演算,およびg→g-1なる写像が共に連続であるとします。

 

Uを体K(または)の上のある線型空間(ベクトル空間)とするとき,∀g∈にUの上の線型変換D^(g)を対応させる準同型写像D^:g→D^(g)を群のU上の表現といいます。

 

Uはこの表現D^の表現空間と呼ばれます。表現D^において,その表現空間Uを明示したいときには,表現D^を(D^,U)と書きます。

 

表現空間Uの次元を群の表現の次元ということもあります。Uの次元が有限値nのときには,この表現をn次元表現といいます。

ここで,写像D^:g→D^(g)が準同型写像であるとは,∀g,h∈に対してD^(gh)=D^(g)D^(h)が成立することを意味します。

 

特にeをの単位元,IUをU上の恒等変換とすると,D^(e)=IUが常に成立します。

群の元R^とD(R)の対応関係は,一般には1対1とは限らず,通常はn対1のような対応(準同型対応)ですが,特に1対1となる場合(同型対応)には,その表現を忠実な表現といいます。

の表現(D^,U)において,その表現空間Uの次元が有限である有限次元表現のとき,Uの任意の元にその適当な基底による1次結合の係数のベクトルを対応させると,U上の任意の線型変換T^はそれと完全に1対1に対応する行列Tと同一視できることがわかっています。

 

以下では,線型空間Uそのものではなく,それの基底による成分を並べた数ベクトルをUの元と同一視した数ベクトル空間もまた同じ記号Uで記述します。

 

この数ベクトル空間としてのUを表現空間とし,元の表現D^(g)を行列D(g)と同一視した(D^,U)に同型な表現(D,U)を行列表現といい,個々の表現を表わす行列D(g)を表現行列といいます。

今の場合,n=Eφn (n=1,2,..,d)を満たすφnを基底とするd次元ベクトル空間をUとすれば,∀R^∈に対してR^φn=Σm=1dφmmn(R)です。

 

そこで,^ψ=Eψを満たす任意のψ∈Uがψ=Σn=1dnφnと表わされるときには,^ψ=Σn=1dnnΣm=1dφmn=1dmn(R)cn}となります。

それ故,状態ψ=Σn=1dnφn∈Uの各々を基底12,..,φdによる展開係数のベクトル:{cm}=(c1,c2,..,cd)と同一視すれば,R^ψ=Σm=1dφmn=1dmn(R)cn}により,R^ψ∈Uはベクトル:{Σn=1dmn(R)cn}=(Σn=1d1n(R)cnn=1d2n(R)cn,..,Σn=1ddn(R)cn)と同一視されます。

そこで,(m,n)成分がDmn(R)の行列をD(R)とし,ψ=Σn=1dnφnの展開係数{cm}=(c1,c2,..,cd)をt(c1,c2,..,cd)なるd次元の列ベクトルと考えれば,ψ→R^ψと→D(R)が等価であることがわかります。

ここで,(φ12,..,φd)を行ベクトルと考えてφ≡(φ12,..,φd)とすれば,ψ=Σn=1dnφnをψ=φcと表現できます。

 

R^ψ=Σm=1dφmn=1dmn(R)cn}もまた,R^ψ=φD(R)と書けます。

ところで,群が量子力学系のユニタリ変換から成る変換群を表わす場合,例えばR1^,R2^∈が座標系の回転を表わすような場合には,群の積の演算は波動関数ψにR1^,R2^をこの順に続けて作用させること,つまりψ→R1^ψ→R2^(R1^)ψを意味します。

 

そこで,この場合の群演算は(R1^,R2^)→R2^R1^となり,上の位相群の表現の定義の中で仮定した演算:(g,h)→gh(g,h∈)とは演算の順序が逆になっています。

しかし,こうした演算の順序の違いは定義を少し読み変えれば済む問題です。積の順序の違いなどは本質的なことではありません。

実際,R1n=Σm=1dφmmn(R1),R2n=Σm=1dφmmn(R2)より,R2^R1n=R2^[Σm=1dφmmn(R1)]=Σl=1dφkm=1dkm(R2)Dmn(R1)]ですから,これは行列としてはD(R21)=D(R2)D(R1)なることを意味します。

 

そこで,これまで通りD:R→D(R)が群の1つの行列表現を与えるとしても問題ないことがわかります。

 

次にの2つの表現(D^,U),(D'^,V)があるとします。

 

もしも,1対1の線型写像T^:V→Uが存在して∀R^∈に対しT^D'^(R)=D^(R)T^が成立するときには,D^とD'^は同値な表現である,といいます。一方,同値でない表現は異値であるといいます。

上の2つの表現が(D,U),(D',V)で表わされる行列表現の場合なら,ある正則な行列T(detT≠0)が存在して,∀R^∈に対しTD'(R)=D(R)T,またはD'(R)=T-1(R)Tが成立するときDとD'は同値な表現となります。

 

そして,(D,U)と(D',V)が同値な表現の場合,明らかに空間UとVの次元は同じです。

φ12,..,φdを基底とするベクトル空間をUとするとき,表現空間Uにおける変換群表現がR^φn=Σm=1dφmmn(R)で与えられる場合,φ'n≡Σm=1dφmmnとすると^φ'n=Σm,k=1dφkkm(R)Tmn=Σm,k,j=1dφ'j-1jkkm(R)Tmn,すなわち,R^φ'n=Σm=1dφ'm{T-1(R)T}mnと書けます。

 

D'(R)≡T-1(R)Tと定義して,上のR^φ'n=Σm=1dφ'm{T-1(R)T}mnR^φ'n=Σm=1dφ'mD'(R)mnに置き換えれば,表現を同値な表現に読み変えるのは,単に同じ表現空間Uにおける基底の変換φ12,..,φd → φ'1,φ'2,..,φ'd過ぎないことがわかります。

これをベクトル表示で考えます。

 

表現(D,U)はψ=φcのときR^ψがR^ψ=φD(R)になることを意味しますが,φ'=φTとすればφφ'T-1ですから,これを代入するとψ=φcφ'T-1,かつR^ψ=φD(R)φ'T-1(R)φ'T-1(R)T(T-1)となります。

したがって,'≡ T-1とおけば,これはψ=φcφ''のときにR^ψがR^ψ=φ'T-1(R)T'=φ'D'(R)'と表現されることと同等です。

 

この新しい表現:(D',U)を,ψ=φcのときR^ψ=φD(R)になるという表現(D,U)と比較すると,変換(D,U)→(D',U)は単にφφ'なる基底の変換を意味することがわかります。

 

結局,同値な表現と定義される2つの表現は,表現空間の上の写像として同型であるという意味ですね。

さて,の2つの表現(D1,V)と(D2,W)があるとき,VとWの直和空間:U=V+Wの上の表現:D≡D1+D2を,;∀∈V,∀∈Vと∀R^∈に対し,D(R)={D1(R)+D2(R)}()≡D1(R)+D2(R)なる線型写像で定義して,この(D,U)を表現(D1,V)と(D2,W)の直和表現と呼ぶことにします。

そして,(D1,V)と(D2,W)が行列表現のとき,∀R^∈に対し2つの行列D1(R)とD2(R)を対角線に並べて,それ以外の部分行列を全てゼロと置いた行列を作ります。

 

これを,D1(R)とD2(R)の直和行列と呼ぶことにすれば,これは直和表現D≡D1+D2の行列D(R)になることがわかります。

 

そこで,この直和行列をD1(R)+D2(R)と書きます。

(D,U)を群の1つの表現とするとき,Uの部分空間Vが存在して∀R^∈についてD(R)V⊂Vが成立するとき,VをUのD-不変な部分空間,または単にUの不変部分空間と言います。

の表現(D,U)がU自身と{0}以外にUのD-不変な部分空間を持たないとき,この表現(D,U)を既約表現といいます。既約でない表現を可約表現といいます。

また,群の表現(D,U)が可約のとき,特に完全可約であるとは,表現空間Uが不変部分空間U1,U2,..,Um (D(R)Ui⊂Ui for ∀R^∈(i=1,2,..,m))の直和U=U1+U2+..+Um分解できて,i(R)Ui≡D(R)Ui(∀R^∈)によって引き起こされるD(R)のUiへの縮小写像Di(R)による表現(Di,Ui)(i=1,2,..,m)が全て群の既約表現になることをいいます。

特に,行列表現(D,U)の表現行列が全てユニタリ行列のとき,つまりD(R)=D(R)-1のときには,この表現をユニタリ表現といいます。

 

波動関数ψ=Σn=1dnφnφcの作るベクトル空間Uの上の対称性変換を考察するとき,この変換の変換群をとすると,量子力学においては元々の任意の元R^そのものがユニタリ:R^R^=R^^=1であることが要求されます。

したがって,表現の準同型の性質からD(R)D(R)=D(R)D(R)=1よりD(R)=D(R)-1ですが,陽な行列成分がDmn(R)=<φm|R^n>=<φn|R^|φm*=Dnm(R)*を満たすので,D(R)=D(R),故にD(R)=D(R)-1です。

 

そこで対象とする物理的な変換群の表現は,全てユニタリ表現です。

(D,U)が群のユニタリ表現の場合,これが既約も含めて常に完全可約な表現であることを示すことができます。

  

以下では,これを証明しますが,そのために1,2∈Uを列ベクトルとして,Uの任意の2つの元のユニタリ内積を<1|2>≡12で定義しておきます。

 

(Uが先述のEの固有状態波動関数全体から成る空間の場合,ψ1φu12φu2∈Uなら,波動関数の内積は<ψ12>=Σm,n=1d1m*2nφm|φn12で与えられます。

 

したがって,線型空間Uを波動関数ψ=φuの係数ベクトル全体から成る数ベクトル空間と同一視すると,波動関数ψ12の内積が<ψ12>であることと1,2の内積が1|2>≡12であることは全く同じ意味を持ちます。)

(証明)(D,U)をユニタリ表現とします。これが既約ならもちろん完全可約です。しかし,既約でない(=可約)ならUでも{0}でもない自明でないD-不変な部分空間V⊂Uが存在します。

 

 このとき,Vの直交補空間をV{∈U|<|V>=0}で定義すると,このVもD-不変です。

 何故なら,∀∈V,∈Vと∀R^∈に対してD(R-1)∈Vですから,表現のユニタリ性D(R)=D(R)-1=D(R-1)によって,<D(R)|>=<|D(R)*=<|D(R)>=<|D(R-1)>=0 から,D(R)∈Vなることもわかるからです。

UがVとVの直和:U=V+Vであることは直交補空間の定義によって明白ですから,結局UはD-不変な部分空間の直和に書けることがわかりました。そこで,V,Vが共に既約なら完全可約性の証明はここで終わりです。

 

しかし,V,Vの一方,または両方が既約でないなら,これらをさらにD-不変な部分空間の直和に分解する操作を繰り返せば(D,U)は有限次元なので,結局既約な不変部分空間の直和に分解されるはずです。(証明終わり)

さらに,(D,U)が群の表現の場合に,その既約性を判定する基本定理であるシューアの補題(Schur's lemma)を述べて証明しておきます。

(シューアの補題):(D,V),(D',W)を群の2つの既約表現とするとき,線型写像T:V→Wが∀R∈に対しD'(R)T=TD(R)を満たすならTは同型写像か,またはT=0である。

(証明)L≡KerT={∈V|T0}とすると,∈LならTD(R)v=D'(R)T0 なので,D(R)∈LですからLはD-不変です。

 

 ところが(D,V)は既約表現なので,これはL=VかL={0}のいずれかであることを意味します。

 

 L=Vなら,これはT=0 を意味します。

 

 したがってT≠0 なら,L={0}ですが,これはTが1対1写像であることを意味します。

 

 なぜなら,1,2∈Vに対してT1=T2ならT(12)=0 なので12∈L={0},より12となるからです。

 

 一方,D'(R)Tv=TD(R)ですから,TVはD'-不変ですが,(D',W)が既約表現なので,TV=WかTV={0}のいずれかです。

 

 しかし,T≠0 ならTV={0}では有り得ないのでTV=Wです。すなわち,上への写像です。

 

 以上からTはVからWへの同型写像か,またはT=0 のいずれかであることが示されました。(証明終わり)

 

 行列表現では,1つの線型写像Tは1つの行列を意味しますが有限次元空間ではTが同型写像であることとKerT={0},またはdetT≠0 なることは全て同値です。

 

 そして,detT≠0 なる線型写像T:V→Wが存在して∀R∈についてD'(R)T=TD(R)となることは,表現(D,V)と(D',W)が同値な表現であることを意味しますから,上記シューアの補題は次のようにも表現できます。

 

 "(D,V),(D',W)を群の2つの既約表現とするとき,VからWへの線型写像Tがあって∀R∈についてD'(R)T=TD(R)を満たす場合,(1)DとD'が同値なら,このようなTは同型写像か,またはT=0である。(2)DとD'が異値ならこのようなTはゼロしか有り得ない。"

 

ですね。

 

 さらに,(D,U)が群の複素既約表現の場合,シューアの補題は次のようになります。

 

(シューアの補題2):(D,U)が群の複素既約表現のとき,∀R∈に対するD(R)と可換な線型変換Tはスカラー変換のみである。

 

 すなわち,∀R∈に対してD(R)T=TD(R)なら,ある複素数λ∈が存在して,T=λIである。(Iは単位行列,または恒等写像)

 

(証明)λ∈をTの1つの固有値とします。すなわち,固有値方程式det(T-λI)=0 の1つの根であるとします。S≡T-λIと置けばD(R)T=TD(R)はD(R)S=SD(R)を意味します。

 

 そこで先のシューアの補題から行列Sはゼロであるか,またはdetS≠0なる正則な行列であるかのいずれかですが,固有値方程式det(T-λI)=0 はdetS=0 そのものですからS=T-λIはゼロです。つまりT=λIです。(証明終わり)

 

 この定理から,"可換群(アーベル群)の複素既約表現は全て1次元表現である。"という系が得られます。

 

 なぜなら,(D,U)が可換群の複素既約表現のときは,∀R1,R2に対してD(R1)D(R2)=D(R2)D(R1)ですから,シューアの補題によりD(R)=λ(R)I;λ(R)∈と書けます。

 

 それ故,既約な表現空間Uは1次元でなければならないからです。

 

(D(R)=λ(R)IのIが2次元以上の単位行列なら,それは可約なことは明らかです。つまり,λ(R)Iは1次元の対角行列(単なる数)の直和行列です。)

 

 さて,シューアの補題2によりD(R)と可換な線型変換Tはスカラー変換のみであることは(D,U)が群の既約表現であるための必要条件であることがわかりましたが,特に(D,U)がユニタリ表現のような完全可約な表現の場合には,これは十分条件でもあります。

 

 すなわち,(D,U)が完全可約の場合には,Uはその既約なD-不変部分空間によって,U=U1+U2+..+Umなる形に表わすことができます。

 

 つまり,Uの任意の元12+..+m,(ii,(i=1,2,..,m))と直和表現できます。

 

 そこで,この場合には∈Uが=λ11+λ22+..+λmmに写される線型変換Tを作ることが可能ですが,これは明らかに∀R∈に対するD(R)と可換です。

 

 しかし,完全可約ならλ12,...λmは任意に選ぶことができるので,m≧2,λ1≠λ2と選択すればTはスカラー変換ではありません。

 

 以上から,結局∀R∈に対するD(R)と可換な線型変換Tがスカラー変換に限られるなら,(D,U)は既約表現でなければならないことが示されました。

 

 つまり,(D,U)が完全可約表現,例えばユニタリ表現のときには,D(R)(∀R∈)と可換な線型変換Tがスカラー変換に限られることが表現が既約表現であるための必要十分条件であることがわかります。

 

 今日はここまでにします。

 

参考文献:山内恭彦,杉浦光夫 著「連続群論入門」(培風館),犬井鉄郎,田辺行人,小野寺嘉孝 著「応用群論」(裳華房),島 和久 著「連続群とその表現」(岩波書店)

 

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2009年2月17日 (火)

相対論の幾何学(第Ⅲ部-4:coffee-break)

相対論の幾何学シリーズの第Ⅲ部リーマン幾何学の続きです。ちょっとここで一休みしてコーヒー・ブレイクです。

リーマン幾何学というよりも,本来の主題である全体としての物理学としての見通しとして相対論のイメージを取り戻したいと思います。

 

相対論の幾何学シリーズの第Ⅰ部で曲面上の曲線の曲率から直観幾何学的な考察で得られたガウス曲率や平均曲率という比較的素朴な曲面の曲率概念と,第Ⅲ部で得られた計量のある可微分多様体の上のアファイン接続に基づく曲率テンソルの定義を比較してみます。

そのため,第Ⅰ部の復習を兼ねて2008年7月から11月までの「相対論の幾何学(第Ⅰ部)」のシリーズ記事のうちの空間曲面の幾何学関連の記事から適宜抜粋参照して要約します。

まず,3次元空間内の曲面を,平面内の領域Dを定義域とする実数パラメータu,vのベクトル値関数(u,v)=(x(u,v),y(u,v),z(u,v)),(u,v)∈Dとして定義します。

 

ただし,x,y,zはu,vで3回連続偏微分可能(C3-級)であり,2行3列のヤコービ行列:t(∂/∂u,∂/∂v)の階数は2とします。

(u,v)で,v=bを固定してuだけを変化させる1パラメータのベクトル値関数(u,b)は,u=aで点(a,b)を通る曲面上の1つの曲線を表わします。そして,この曲線上の点(a,b)における接ベクトルはu(a,b)≡(∂/∂u)(a,b)で与えられます。

 

同様にu=aを固定した場合の曲線(a,v)上の点(a,b)における接ベクトルはv(a,b)≡(∂/∂v)(a,b)で与えられます。 

仮定により,行列:t(∂/∂u,∂/∂v)(a,b)の階数は2なので,u(a,b) ≡(∂/∂u)(a,b)v(a,b)≡(∂/∂v)(a,b)1次独立なベクトルです。

 曲面(u,v)の各点でuvの線形結合ξu+ηvの形で表わされるベクトルを総称して,その点における曲面の接ベクトルといい,接ベクトル全体で張られる平面を接平面といいます。

そして,uvの外積:u×vによって,(u×v)/|u×v|を定義すると,これは曲面(u,v)の法単位ベクトルになります。

法ベクトルの直交性を内積で表現する式:(u,)=0, (v,)=0 をさらにu,vで偏微分すると,(uu,)+(u,u)=0, (uv,)+(u,v)=0 ,(vu,)+(v,u)=0 ,(vv,)+(v,v)=0 が得られます。

 

そして,3つのu,vの関数L,M,NをL≡(uu,)=-(u,u),M≡(uv,)=(vu,)=-(u,v)=(v,u),N≡(vv,)=-(v,v)で定義します。

こうして曲面上の各点で定義した各々の3つのベクトルの組:u,v,は明らかに1次独立ですから,3次元空間の任意のベクトルは全てこれらを基底とする線形結合で表わすことができます。

例えば,パラメータu,vによる2階偏導関数ベクトル:uu,uv,vu,vvは,uu=Γuuud+Γvuuv+L,uv=Γuuvu

Γvuvv+M,vu=Γuvuu+Γvvuv+M,vv=Γuvvu+Γvvvv+Nと表わすことができます。

 

これをガウスの公式といいます。係数のうちのΓをクリストッフェルの記号(Christoffel's symbol)といいます。

この各点で,基底u,v,の代わりに,例えば1u/|u|,2{v(v,1)1}/|v(v,1)1|,31×2で定義される1,2,3を基底にとれば,1,2が接平面の基底をなし互いに直交する3つの単位ベクトルの系,つまり(i,j)≡tij=δijを満たす正規直交系1,2,3が得られます。

 

こうした正規直交系の基底1,2,3を正規直交標構と呼びます。

接平面の異なる2組の基底{u,v},{1,2}は,ある線型結合u=a111+a122,v=a211+a222によって関連付けられます。これは(i,j)成分がajiの2×2行列A(detA≠0)を用いた,(u,v)=(1,2)Aなる表現とも解釈できます。

ただし,最後の表現式(u,v)=(1,2)Aにおいては,(u,v),(1,2)という記号は,これが他のほとんどの場所で表現する内積記号(i,j)≡tijetc.ではなく,単に空間ベクトルを並べて書いただけの行列の意味です。右辺の(1,2)Aも単に行列としての積です。

ここで,uv平面上の曲線(u,v)=(u(s),v(s))に対応する曲面(u,v)上の曲線(s)=(u(s),v(s))を考えると,dsに対するこの曲線上の点の微小変位dは,du=(du/ds)ds,dv=(dv/ds)dsを用いた表現ではudu+vdvとなります。

 

これはまた,u=a111+a122,v=a211+a222によって,=(111+a122)du+(211+a222)dv=(11du+a21dv)1(12du+a22dv)2と書けます。

 

そこで1≡a11du+a21dv2≡a12du+a22dvと定義すれば,θ11+θ22となって1,2の線型結合の形で表わせます。 

そして,曲面(u,v)上で多様体の計量ds2に相当する量は,曲面(u,v)の第1基本形式I≡(d,d)=tで定義されます。θ11+θ22を代入すると I=θ1θ1+θ2θ2とも書けます。

 

また,udu+vdvなる表現からは,I≡E(dudu)+2F(dudv)+G(dvdv)となります。ここに,E≡(u,u)=tuu,F≡(u,v)=tuv,G≡(v,v)=tvvです。 

つぎに,曲面の曲率概念を定義します。 

曲面(u,v)上の曲線(s)=(u(s),v(s))に対して,'(s)=d/dsは(s)の接ベクトルなので,点(s)において曲面(u,v)に接しています。

 

しかし,ベクトル"(s)=d2/ds2は一般に曲面(u,v)の"接平面上のベクトル=接ベクトル"ではありません。"(s)の絶対値κ(s)≡|"(s)|は曲線の曲率と定義されます。

"(s)を点(s)での曲面の接ベクトル成分:gと法ベクトル成分:nの和に分解します。すなわち,"(s)=gnと書きます。

 

そして,gを曲線(s)の測地的曲率ベクトル,nを法曲率ベクトルと呼びます。

これらの曲率の成分ベクトルのうちで,曲面(u,v)の接平面に垂直な曲率成分であるnについて考察します。

 

nは法ベクトルなので,単位法ベクトル:(u×v)/|u×v|によって,n=κnと表現されます。値κnを法曲率と呼びます。

法曲率は,さらにκn(n,)=("-g,)=(",)=-(',')=-(d/ds,d/ds)=-(u(du/ds)+v(dv/ds),u(du/ds)+v(dv/ds))≡L(du/ds)(du/ds)+2M(du/ds)(dv/ds)+N(dv/ds)(dv/ds)と変形できます。

曲面(u,v)上の1点0(u0,v0)における任意の単位接ベクトルをとすれば,=ξu(u0,v0)+ηv(u0,v0),かつ||=1と書けます。

 

記号Πを,Π()≡Lξ2+2Mξη+Nη2によって定義すると,上に定義した法曲率:κn(s)はκn(s)=Π('(s))と表現されます。

||2=Eξ2+2Fξη+Gη2=1であって,が点0を中心とする接平面上の単位円の周上にあるという条件の下で,接ベクトルの法線成分Π()=Lξ2+2Mξη+Nη2が如何なるときに最大値,最小値を取るか?という問題を考えます。

この問題は,結局λ()≡(Lξ2+2Mξη+Nη2)/(Eξ2+2Fξη+Gη2)なる量λが無条件((ξ,η)≠(0,0))で,最大値,最小値を取る問題と同等なことがわかります。

そして,λ()≡(Lξ2+2Mξη+Nη2)/(Eξ2+2Fξη+Gη2)なる式は,Lξ2+2Mξη+Nη2-λ()(Eξ2+2Fξη+Gη2)=0,つまりΠ()-λ()||2=0 なる等式と同値です。

 

一方,λ()が無条件で最大値,最小値を取るための必要条件は∂λ/∂ξ=0,∂λ/∂η=0 で与えられます。

そこで,Π()-λ()||2=0 の両辺をξ,ηで微分し,それぞれ∂λ/∂ξ,∂λ/∂ηをゼロとおけば,(L-λE)ξ+(M-λF)η=0,(M-λF)ξ+(N-λG)η=0 なる式を得ます。これは,Lξ+Mη=λ(Eξ+Fη),Mξ+Nη=λ(Fξ+Gη)とも書けます。

これをξ,ηを未知数とする連立1次方程式と考えると,方程式が(ξ,η)≠(0,0)の自明でない解を持つためには,係数の作る行列の行列式がゼロになることが必要十分です。すなわち,(EG-F22(EN+GL-2FM)λ+LN-M20 が成立する必要があります。

このλの2次方程式の2つの根をλ=κ12とすると,根と係数の関係からκ1κ2(LN-M2)/(EG-F2),(κ1+κ2)/2=(EN+GL-2FM)/{2(EG-F2)}となります。

 

そして,K≡κ1κ2,H≡(κ1+κ2)/2 と定義してKをガウスの曲率,Hを平均曲率と呼びます。

さて,正規直交標構iの微分iも3次元空間のベクトルなので,これらはdi=Σj=13ωijj,または(i,j)成分がωjiの3×3行列Ωによってd(1,2,3)=(d1,d2,d3)=(1,2,3)Ωと表わせます。

 

ただし,di(∂i/∂u)du+(∂i/∂v)dv=Σj=13ωijjで,dはu,vの1次の無限小ですからi=Σj=13ωijj係数ωijは全てdu,dvの線型結合で与えられるはずです。

そして,(i,j)=δijより,(di,j)+(i,dj)=0 です。これとi=Σj=1ωijjによってωij+ωji0 (i,j=1,2,3)が得られます。つまり,Ωは交代行列であり対角成分は全てゼロです。

ところで1=a11du+a21dv2=a12du+a22dv,すなわち,t12)=At(du,dv)ですが,detA≠0 よりAの逆行列A-1が存在しますから,この式の両辺に右からA-1を掛ければ,t(du,dv)=A-1t12)を得ます。

そして,上で述べたようにωijは全てdu,dvの線型結合で与えられるはずですから,ωijはθ12の線型結合で書けます。

 

例えばd3の係数ω13とω23であれば,ω13=b11θ1+b12θ223=b21θ1+b22θ2,または(i,j)成分がbijの2×2行列Bで t1323)=Bt12)と書けます。

3udu+vdvの両辺とuの内積を取れば(d3,u)=(u,u)du+(v,u)dv=(ω311+ω322,a111+a122)=ω1311+ω2312が成立します。

 

同様に,(d3,) =(u,v)du+(v,v)dv=ω1321+ω2322も成り立ちます。

 

そこで,行列S≡t(u,v)(u,v)を作ると,これらの関係式はSt(du,dv)=tt1323)と書けます。

これに,t1323)=Bt12)を代入すると,t(du,dv)=tt1323)=tABt12)=ttBAt(du,dv)ですから,変数du,dvの独立性によって,S=tABAであることがわかります。 

それ故,S=tABA,つまりtS=ttBAですからSの対称性:tS=SとdetA≠0 から,Bの対称性tB=Bが得られます。

  

対称行列の性質から実行列Bの2つの固有値は共に実数であることがわかります。

これらのBの固有値が先に定義した曲線(u,v)の主曲率κ12に一致します。これは次のようにしてわかります。 

まず,S=tABAによりB=t(-1)SA-1=AA-1t(-1)SA-1=A(tAA)-1SA-1なので,Iを単位行列とする固有値方程式det(B-λI)=0 において,B-λI=A{(tAA)-1-λI}-1と書けます。そこで,方程式:det(B-λI)=0 はdet{(tAA)-1-λI}=0 等価な方程式です。

ところが,行列で表わした等式:(u,v)=(1,2)Aからt(u,v)(u,v)=tt(1,2)(1,2)Aであり,しかも正規直交性:tij=δijによりt(1,2)(1,2)=Iですから,tAA=t(u,v)(u,v)が成立します。

また,E=tuu,F=tuv,G=tvvですからtAA=t(u,v)(u,v)は1行目が(E,F)=(tuu,tuv),2行目が(F,G)=(tuv,tvv)の対称行列です。

 

それ故,tAAの逆行列(tAA)-1は1行目が(EG-F2)-1(G,-F),2行目が(EG-F2)-1(-F,E)の行列になります。

したがって,行列(EG-F2){(tAA)-1S-λI}は1行目が((GL-FM)(EG-F2)λ,GM-FN),2行目が(-FL+EM,(-FM+EN)-(EG-F2)λ)の行列です。

以上から,行列Bの固有値λを求める方程式:det(B-λI)=0 に同等な方程式:det[(tAA)-1S-λ]=0 が,(EG-F2)2λ2(EG-F2)(EN+GL-2FM)λ+(GL-FM)(-FM+EN)-(GM-FN)(-FL+EM)=0 なる形であることがわかります。

 

左辺の最後の2項から成る定数項は(EG-F2)(LN-M2)と因数分解されますから,結局,EG-F20 の場合には,(EG-F22(EN+GL-2FM)λ+LN-M20 なる方程式と同値になります。

 

これは正に,先に記述した主曲率κ12を2つの解とするλの2次方程式に一致しています。

 

以上で,行列Bの2つの実数固有値が主曲率κ12になることが示されました。 

そこで,ガウスの曲率はK=κ1κ2(LN-M2)/(EG-F2)=detB=b1122-b1221,平均曲率はH=(κ1κ2)/2=(EN+GL-2FM)/{2(EG-F2)}=(1/2)traceB=(1/2)(b11+b22)となることがわかります。

さらに,dθ11+θ22(1,2)t12),3(1,2)t3132)=-(1,2)t1223)=-(1,2)Bt12)より,κがBの固有値でB=κを満たすならd3=-κ(1,2),つまり3=-κとなります。

 

そこで,正規直交標構を用いた表現では行列Bの2つの固有値が主曲率κになるということの意味も明白ですね。 

さて,これらのことを2変数の場合の外微分形式,または単に微分形式による表現によって記述すると大体次のように要約されます。

曲面(u,v)上でd=(dx,dy,dz)を微分1形式としてd=θ11+θ22と書けば,ポアンカレ(Poincare)の補題によって,これの外微分はゼロです。

 

つまり,d(d)=((dx),(dy),(dz) )0 ですから,0=dθ11-θ1∧d1θ22-θ2∧d2=dθ11-θ1j=13ω1jj)+θ22-θ2j=13ω2jj),すなわち(dθ1-Σi=12θi∧ωi1)1(dθ2-Σi=12θi∧ωi2)2i=12θi∧ωi3)30 となります。

 

ここで1,2,3は1次独立なので,dθj=Σi=12θi∧ωij(j=1.2),Σi=12θi∧ωi30 なる表式が得られます。

 

このうち,dθj=Σi=12θi∧ωij(j=1.2)は第1構造式と呼ばれます。そしてω1jの作る行列Ωは交代行列なので,これはdθ1=θ2∧ω21,dθ2=θ1∧ω12を意味します。

 

一方,ω13=b11θ1+b12θ223=b21θ1+b22θ2,すなわちωi3=Σi=12ijθjなる展開式を仮定してΣi=12θi∧ωi30 に代入すればΣi,j=12ijθi∧θj0 を得ます。

 

これは,(b12-b21)θ1∧θ20 ,つまりb12=b21を意味しますから,行列B={bij}が対称行列なることが再確認されました。

次にd(di)=0 なる等式にdi=Σj=13ωijjを代入します。

iは 0次微分形式,ωijは1次微分形式なので,これからΣj=13(dωijj-ωij∧dj)=Σk=13(dωik-Σj=13ωijωjk)k=0 が得られます。それ故,dωik=Σj=13ωijωjkなる式成立します。

 

特に,k=1,2,つまり接平面成分を考え,i=1,2の場合にはωi3=Σj=12ijθj (i=1,2)を考慮することでdωik=Σj=13ωijωjk=Σj=12ωijωjk+ωi3ω3k=Σj=12ωijωjk+ωk3ωi3=Σj=12ωijωjk+Σh,j=12khijθj∧θjを得ます。 

すなわち,dωik=Σj=12ωijωjk(1/2){Σh,j=12(khijkjihj∧θj} (i,k=1,2)なる表現式が得られます。

 

ところが前述したように,ωik(i,k=1,2)で作られる行列Ωは交代行列なので唯一の独立成分として例えばω21だけ考えれば十分です。

 

この,ω21については,dω21=Σj=12ω2jωj1(1/2){Σh,j=12(1h2j1j2hj∧θj}=(112212211∧θ2(detB)θ1∧θ2となります。 

既に,ガウスの曲率K≡κ1κ2が,K=detB=11221221で与えられることがわかっているので,dω21=Kθ1∧θ2と書けることがわかります。これは第2構造式と呼ばれるものです。

 

いずれにしろ,ガウスの曲率がK=κ1κ2(LN-M2)/(EG-F2)=detB=b1122-b1221で与えられることは,定式化によらず同じですが,Kが一般の多様体上の曲率テンソルRと如何なる関係にあるのだろうか?という本記事の主題である疑問について論じるためには,もっと別の切り口の考察にも頼る必要があります

そのために,直接一般相対論での曲がった4次元時空の上の粒子の運動を,2次元の曲面上に束縛された粒子の運動と同一視して比較することを考え,平面座標を示すパラメータ(u,v)を(u1,u2)と表記して曲面(u,v)を(u1,u2)と書き直すことから議論を始めます。

まず,接平面の基底をなす接ベクトルu(∂/∂u),v(∂/∂v)を,i(∂/∂ui)(i=1,2)と書きます。

 

一般の接平面上のベクトルを示す線型結合:ξu+ηvも,パラメータξ,ηをξi(i=1,2)と添字表現にすることで,ξi,i≡ξ1,1+ξ2,2,またはξi(∂/∂ui)≡ξ1(∂/∂u1)+ξ2(∂/∂u2)と書き直します。 

E≡(u,u)=u2,F≡(u,v)=(v,u),G≡(v,v)=v2なるいわゆる計量の表記も,通常の表記gij(,i,,j)=(∂/∂ui,∂/∂uj)(i,j=1,2)に変更します。

 

すると,接ベクトルξi,i=ξi(∂/∂ui)の長さの平方(Eξ2+2Fξη+Gη2)は,gijξiξjと書けます。

 

相対論の記法に慣れているなら,空間計量の表現としてds2=gijdξidξjと表わす方が馴染み深いですね。 

さらに,ガウスの公式uu=Γuuu+Γvuuv+L,uv=Γuuvu+Γvuvv+M,vu=Γuvuu+Γvvuv+M,vv=Γuvvu+Γvvvv+Nは,,ij=∂2/∂ui∂uj=Γkij(∂/∂uk)+hIjなる表現に変わります。

ここでuu(uu,u)/(u,u),Γvuv(uv,v)/(v,v),..etc.を,Γkij(∂2/∂ui∂uj,∂/∂ul)/(∂/∂uk,∂/∂ul )=gkl-1(∂gli/∂uj)=(gkl-1/2)(∂gli/∂uj+∂glj/∂ui)なる表現に変えています。

一般相対論でのレビ・チビタ接続(Levi-Civita接続)の係数としてのクリストッフェル記号は,Γσμν={σ,μν}=(gσρ/2)(gρν,μ+gρμ,ν-gμν,ρ);(gμν)≡(gμν)-1で与えられます。

 

これは,一般座標{xμ}と局所ローレンツ系の座標{Xμ}による表現ではΓσμν=(∂xσ/∂Xρ)(∂2σ/∂xμ∂xν)です。 

 

そこで,座標系の次元としてが3次元,{ui}が2次元で,第3の次元による拘束力によって"曲面=2次元多様体"の上に束縛されていて3次元目を無視するという見方をします。

 

これは,相対論そのものとは少し異なりますが,空間曲面の位置ベクトルを一般座標{xμ},パラメータ{ui}を局所ローレンツ系{Xμ}と同一視すると,{Γkij}(i,j,k=1,2)が4次元時空でのクリストッフェル接続の係数{Γσμν}と全く同じ意味を持つとしてよいとわかります。 

さて,こうした認識の下で,行列:P≡(u,v)を定義しこれをu,vで1,2回微分する演算を考えてみます。

 

まず,∂uP=(uu,uv)=(Γuuu+Γvuuv+Luuvu+Γvuvv+M),∂vP=(vu,vv)=(Γvuu+Γvvuv+Muvvu+Γvvvv+N)です。

 

これに,左からtP=t(u,v)を掛けると,法ベクトルとの直交性から,t(∂u)は1行目が(EΓuu+FΓvuu, EΓuuv+FΓvuv),2行目が(FΓuu+GΓvuu,FΓuuv+GΓvuv)の行列,また,t(∂v)は1行目が(EΓvu+FΓvvu,EΓuvv+Γvvv),2行目が(FΓvu+GΓvvu,FΓuvv+GΓvvv)の行列になります。

これも添字表記で,P≡(∂/∂u1,∂/∂u2)とすると,gij(∂/∂ui)(∂/∂uj),∂2/∂ui∂uj=Γkij(∂/∂uk)+hijなので,∂iP=(∂2/∂ui∂u1,∂2/∂ui∂u2)=(Γki1(∂/∂uk)+hi1ki2(∂/∂uk)+hi2)という表式になります。

 

そして,これに左からtP=t(∂/∂u1,∂/∂u2)を掛けると,t(∂i)は1行目が(g1kΓki1,g1kΓki2),2行目が(g2kΓki1,g2kΓki2)の行列になります。

そこで,(k,l)成分がΓkilの行列をΓiと書くことにすれば,iP=PΓi(hi1,hi2)となります。そこで,t(∂i)=gΓiです。 

したがって,i(gΓj)-∂j(gΓi)=∂i{t(∂j)}-∂j{t(∂i)}=t(∂i)(∂j)-t(∂j)(∂i)を得ます。

 

ここで,∂iP=PΓi(hi1,hi2),g=tPPであり,gは対称行列:tg=gですから,t(∂i)(∂j)-t(∂j)(∂i)=(tΓigΓjtΓjgΓi)(i1j2-hi2j1)2となります。

 

2は1行目が(0,1),2行目が(-1,0)の2×2交代行列です。

 

したがって,結局∂i(gΓj)-∂j(gΓi)=(tΓigΓjtΓjgΓi)(i1j2-hi2j1)2なる表現の等式が得られます。

一方,同じくg=tPP,tg=gより,これを微分すると∂ig=t(i)P+t(∂i)=tΓig+gΓiですから,これによってさらにi(gΓj)-∂j(gΓi)(tΓig+gΓij+g∂iΓj(tΓjg+gΓji-g∂jΓi=g(iΓj-∂jΓi+ΓiΓj-ΓjΓi)+(tΓigΓjtΓjgΓi)なる等式を得ます。

そこで,4つの2次行列ij(i,j=1,2)を,ij≡∂iΓj-∂jΓi+ΓiΓj-ΓjΓiと定義すれば,上の式はi(gΓj)-∂j(gΓi)=gij(tΓigΓjtΓjgΓi)と簡単になります。

 

この等式の右辺を,すぐ前に求めた等式∂i(gΓj)-∂j(gΓi)=(tΓigΓjtΓjgΓi)(i1j2-hi2j1)2の右辺に等置すれば,ij(i1j2-hi2j1)2なる式が得られます。

 

すなわち,g11=g22=0,g12=-g21=(h1122-h1221)2=(deth)2なる具体的表式が得られます。

 

一方,ガウスの曲率KはK=κ1κ2=detB=b1122-b1221(LN-M2)/(EG-F2)と表現されますから,E=g11,=g12=g21,G=g22によってEG-F2=detgです。

 

L=h11,=h12=h21,N=h22によって,LN-M2=dethなる置換を行えば.これら相対論的表記ではK=deth/detgに帰着することがわかります。

 

こうして,結局,g12=-g21=(detg)K2,1122=0 なる最終的な関係式を得ることができました。

 

そして行列gijの(m,k)成分は(gij)ml=gmkkijlです。

 

これの右辺のテンソル成分を示すRkijlは,ij≡∂iΓj-∂jΓi+ΓiΓj-ΓjΓiによって,3次元空間への埋め込みと考えられる曲面を2次元多様体と同一視したときのリーマン・クリストッフェルの曲率テンソル成分に一致します。

 

以上から,多様体のリーマンの曲率テンソル{Rσλμν}は,確かに2次元曲面の素朴な曲がり具合を示すガウスの曲率Kの自然で直線的な拡張であることが示されました。

これで今日のコーヒー・ブレイクは終わりにします。 

参考文献:小林昭七 著「曲線と曲面の微分幾何」(裳華房),中原幹夫 著「理論物理学のための幾何学とトポロジー」(ピアソン・エデュケーション),杉田勝美,岡本良夫,関根松夫 共著「理論物理のための微分幾何学」(森北出版),大森英樹 著「力学的な微分幾何」(数学セミナー増刊[8](1980))(日本評論社)

 

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2009年2月13日 (金)

相対論の幾何学(第Ⅲ部-3)(リーマン幾何学(3))

相対論の幾何学シリーズ第Ⅲ部リーマン幾何学の続きです。

まず,前回の記事の最後の部分で与えたアファイン接続(affine connection;アフィン接続)の定義を再掲するところから始めます。

※(再掲開始)

[定義Ⅲ.3]アファイン接続∇とは,(^,^)に∇X^を対応させる1つの写像∇:(M)×(M)→(M)であって次の条件を満たすものをいう。ここで(M)は多様体M上のベクトル場の全体を指す。

 

 満たすべき条件とは,∀^,^,^∈(M),およびM上の任意関数fに対して,∇X(^+^)=∇X^+∇X^,∇(X+Y)^=∇X^+∇Y^,∇fX^=f∇X^,∇X(f^)=^[f]^+f∇X^が成立することである。

 M上で座標x=φ(p)を持つチャート(U,φ)を選びm3個の接続係数と呼ばれる変数Γ≡{Γλνμ}を∇νμ≡∇μλΓλνμで定義します。ただし,{μ}={∂/∂xμ}はTp(M)の座標基底です。

 こうしてアファイン接続∇の基底ベクトル{μ}への作用∇νμ≡∇μが定義されれば,∇の任意のベクトルへの作用が計算可能です。

 

 例えば^=Vμμ,^=Wμμ∈Tp(M)に対して,∇^=Vμ(Wνν)=Vμ{μ[Wν]+Wνν}=Vμ(∂Wλ/∂xμ+WνΓλμν)λとなります。

 

 右辺における因子は先に直感的に得られた共変微分に形が一致していますね。

 そこで,∇μλ≡∂Wλ/∂xμ+WνΓλμνとおけば,アファイン接続∇は2つのベクトル^=Vμμ,^=Wμμ∈Tp(M)を新しいベクトル∇^=Vμ(∂Wν/∂xμ+WνΓλμν)λに移し,これのλ番目の成分がVμμλで与えられることになります。

 

 ∇^はV^=[^,^]とは異なって^の微分を含みませんから,この意味で共変微分は関数の方向微分のテンソルへの一般化になっています。(再掲終わり)※

さて,上のアファイン接続∇の定義は,ベクトル場に対するもので,これは直感的ではないベクトル場への方向微分の拡張という形での共変微分を与えるものです。

 

しかし,まだスカラー,つまり多様体M上の任意関数fを含めた一般のテンソルに対する接続∇,または共変微分の明確な定義を与えるという課題が残されています。

まず,M上の任意関数fに対しては,∇f≡^[f]として方向微分∇^をfの共変微分と定義します。

こうすると,先の定義にある∀^,^∈(M)に対する規則:∇X(f^)=^[f]^+f∇X^は∇X(f^)=(∇f)^+f∇X^となって通常の微分が満たすのと同じライプニッツ則に一致します。

そこで,任意のテンソル場T1,T2の積に対しても,ライプニッツ則が成立することを要求します。すなわち,∇X(T12)=(∇1)2+T1(∇2)の成立を要求します。

 

テンソル場の共変微分(接続)がこの条件を満たすという取り決めによって共変微分は一意的に決まります。

特に,この等式は両辺のテンソルの成分表示において,幾つかの上下の添字を縮約しても成立するはずです。

 

そこで,1-形式ω∈Ω1(M);ω≡ωμdxμとベクトル場^∈(M);^≡Yμμの内積:<ω,^>=スカラーについても,∇X(<ω,^>)=<∇ω,^>+<ω,∇^>となります。

定義によって∇X(<ω,^>)=^[<ω,^>]=Xμμ<ω,^>=Xμμλλ)です。

 

また,∇^=Xμ(∂μλ+Γλμνν)λ=Xμ(∂μλ+Γλμνν)∂λよって,<ω,∇^>=ωλμ(∂μλ+Γλμνν)ですから,<∇ω,^>=∇X(<ω,^>)-<ω,∇^>=Xμ(Yλμωλ-Γλμννωλ)=Yνμ(∂μων-Γλμνωλ)が得られます。

したがって,∇ω≡Xμ(∂μων-Γλμνωλ)={Xμ(∂μων-Γλμνωλ)}dxνとなります。これが1-形式ωの共変微分です。

 

特に,^=α=δμαμとおけば,∇μω=(∂μων-γλμνωλ)dxν,すなわち(∇μω)ν=∂μων-Γλμνωλを得ます。

 

さらに,ω=dxα=δμαdxμとおけば∇μdxν=-Γνμλdxλが得られます。

これらは容易に一般化されて,∇μλ1..λpν1..νq=∂μλ1..λpν1..νq+Γλ1μσσλ2..λpν1..νq+..+Γλpμσλ1..λp-1σν1..νq-Γσμν1λ2..λpσν2..νq-..-Γσμνqλ1..λp-1σν1..νq-1σとなります。

 

そして,この表現がtλ1..λpν1..νqなる成分を持つ(p,q)型テンソルの共変微分をユニークに定めることがわかります。

次に,アファイン接続の接続係数Γλμνが,多様体上の座標,つまりチャートの選択によって,どのように変換されるかを考えます。

接続係数Γλμνを与えるチャート(U,φ);x=φ(p)に対してU∩V≠φを満たす別のチャート(V,ψ);y=ψ(p)があるとき,それぞれの座標に対するベクトル場の座標基底を,{μ}≡{∂/∂xμ},{α}≡{∂/∂yα}と書くことにします。

 

そして,y座標に対応する接続係数をΓ~γαβとします。

 

x座標に対応する接続係数Γλμνが∇μν=∇νλΓλμνで定義される量ですから,接続係数Γ~γαβは∇βγΓ~γαβで定義されます。

そして,共変微分の演算子∇そのものが共変ベクトルなので,∇(∂xμ/∂yα)∇です。

 

そこで,これにα=∂/∂yα=(∂xμ/∂yα)(∂/∂xμ)=(∂xμ/∂yα)μを代入すると,∇β=∇{(∂xμ/∂yβ)μ}=(∂2μ/∂yα∂yβ)μ+(∂xμ/∂yβ)(∂xλ/∂yα)∇μ=[(∂2ρ/∂yα∂yβ)+(∂xλ/∂yα)(∂xμ/∂yβρλμ]ρとなります。

一方,γΓ~γαβ=(∂xρ/∂yγ)Γ~γαβρですから,結局(∂xρ/∂yγ)Γ~γαβ=(∂2ρ/∂yα∂yβ)+(∂xλ/∂yα)(∂xμ/∂yβρλμなる式を得ます。

 

故に,接続係数はΓ~γαβ=(∂xλ/∂yα)(∂xμ/∂yβ)(∂yγ/∂xρρλμ+(∂2μ/∂yα∂yβ)(∂yγ/∂xμ)と変換される必要があります。

これまでは,接続Γを任意の量としてきましたが多様体に計量(metric)が与えられると,可能な接続の形として適当な制限を与えることができます。

 

そこで,計量gμνが共変的に一定,すなわち,2つのベクトル^,^∈(M)が任意の曲線に沿って平行移動されたとき,それらの内積が平行移動の下で一定であることを要求します。

微分多様体M上の各点p∈Mで定義された(0,2)型テンソルgp:Tp(M)→;∀^,^∈Tp(M)⊂(M)に対してgp(^,^)=gμνμνを与えるgp,またはgμνを計量と呼んで,<^,^>≡gp(^,^)=gμνμν^,^の内積と解釈します。

 

そして,平行移動の下で<^,^>が一定なことをgμνが共変的に一定と呼び,逆に平行移動の条件として要求するわけです。

 

μνが共変的に一定であるという要求から,^,^∈Tp(M)が任意の曲線に沿って平行移動されるとき,^を点p∈Mでのその曲線の接ベクトルとすると,0=∇{gp(^,^)}=Vμ[(∇μp)(^,^)+gp(∇μ^,^)+gp(^,∇μ^)]となります。

 

そして平行移動の定義によって,∇^=Vμμ^=0,かつ ∇^=Vμμ^=0 なので,Vμ(∇μp)(^,^)=Vσμν(∇σg)μν=0 が成立します。

^,^が任意ベクトルなので,(∇σg)μν=0 ,つまり∂λμν-Γσλνσν-Γσλμμσ=0 です。

 

これを満たすアファイン接続∇は,計量と両立するといいます。あるいは,これを満たすアファイン接続∇を単に計量接続と呼びます。

λμν-Γσλνμσ-Γσλμσν0 の(λ,μ,ν)の巡回置換は,∂μνλ-Γσμλνσ-Γσμνσλ=0,∂νλμ-Γσνμλσ-Γσνλσμ=0 です。

 

これらから,-∂μνλ+∂μνλ+∂νλμ+Tσλμσν+Tσλνσμ-2Γσ(μν)σλ=0 を得ます。ここにTσλμ≡2Γσ{λμ}≡Γσλμ-Γσμλσ(μν)≡(Γσμν+Γσνμ)/2です。

σλμを成分とするテンソルを捩率テンソルと呼びます。σλμは下添字について反対称,つまりσλμ=-Tσμλです。

最後の等式:-∂μνλ+∂μνλ+∂νλμ+Tσλμσν+Tσλνσμ-2Γσ(μν)σλ=0 をΓσ(μν)について解けば,Γσ(μν){σ,μν}+(Tνσμσ+Tμσν)/2 を得ます。

 

ここに,{σ,μν}は{σ,μν}≡(1/2)gσλ(∂μνλ+∂νλμ-∂μνλ)で定義される量で,これをクリストッフェルの記号(Christoffel's symbol)と呼びれます。

そこで,結局Γσμν=Γσ(μν)+Γσ{μν}={σ,μν}+(Tνσμσ+Tμσν+Tσμν)/2が得られます。

  

最右辺の第2項:Kσμν≡(Tνσμσ+Tμσν+Tσμν)/2 を歪率と呼びます。

特に多様体Mの上で捩率テンソル{Tσλμ}がゼロ:Γσλμ=Γσμλが成立する場合には,Kσμν≡0 でΓσμν={σ,μν}となります。このときの計量接続∇をレビ・チビタ接続(Levi-Civita接続)といいます。

接続Γ={Γσμν}はテンソルではないので,多様体の曲がり具合を測る物指しとしての本質的な幾何学的意味を持ち得ません。

  

そこで本質的意味を持つものとして,捩率テンソルT:(M)(M)→(M)とリーマン曲率テンソル(Riemannian curvature)R:(M)(M)(M)→(M)というものを定義します。

TはT(^,^)≡∇^-∇^-[^,^],RはR(^,^,^)≡∇^-∇^-∇[X,Y]^で定義されます。

 

Rは^に対する作用と見て,R(^,^,^)の代わりにR(^,^)^と書くことがあります。

  

これらは,明らかに^,^)について反対称でT(^,^)=-T(^,^),R(^,^)^=-R(^,^)^を満たします。

^=Xμμ,^=Yμμと成分で書けばT(^,^)=XμνT(μ,ν)∈(M)ですから,Tは(1,2)型テンソルでT(^,^)=Tσμνμνσ,またはTσμν=(dxσ,T(μ,ν))によって成分Tσμνが与えられます。

[μ,ν]=[∂μ,∂ν]=0 なので,Tσμν=(dxσ,T(μ,ν))=(dxσ,∇μν-∇νμ)=(dxσλμνλ-Γλνμλ)=Γσλμ-Γσμλです。

 

そこで,これは確かに先に成分で定義した捩率テンソルTσλμ≡2Γσ{λμ}≡Γσλμ-Γσμλの表現と一致します。

一方,R(f^,g^,h^)=f∇{g∇(h^)}-g∇{f∇(h^)}-f^[g]∇(h^)+g^[f]∇(h^)-fg∇[X,Y](h^)=fg[∇(h^)-∇(h^)-∇[X,Y](h^)]=fghR(^,^,^)なので,Rは多重線形です。

 

それ故,R(^,^,^)=XλμνR(λ,μ,ν)と書けることから,Rもテンソルであることがわかります。

Rは(1,3)型テンソルで,(dxσ,R(λ,μ,ν))=(dxσ,∇λμν-∇μλν)=(dxσ,∇λρμνρ)-∇μρλνρ))=(dxσ,(∂λΓρμνρ+ΓρμνΓηλρη)-(∂μΓρλνρ+ΓρλνΓημρη))です。

曲率Rの成分の添字を,何故この順序に取るのが慣例なのかはわかりませんが,Rσνλμ=(dxσ,R(λ,μ,ν))とおいて,Rσνλμ=∂λΓσμν-∂μΓσλν+ΓρμνΓσλρ-ΓρλνΓσμρ,またはRσλμν=(dxσ,R(μ,ν)λ)=∂μΓσνλ-∂νΓσμλ+ΓρνλΓσμρ-ΓρμλΓσνρを得ます。

テンソルの反対称性T(^,^)=-T(^,^),R(^,^)^=-R(^,^)^から,成分の添字についての反対称性Tσλμ≡=-Tσμλ,Rσλμν=-Rσλνμも明らかです。

ここで,R,Tをそれぞれ曲率テンソル,捩率テンソルと呼ぶことの物理的意味を考えてみます。

  

p∈Mを始点とする無限小の平行四辺形pqrsを取ります。そしてεμμ}を無限小として,p,q,r,sの座標をそれぞれ{xμ},{xμ+εμ},{xμ+εμ+δμ},{xμ+δμ}とします。

p∈Mにおけるあるベクトル^∈Tp(M)を経路C≡pqrに沿って平行移動します。

 

まず,VCμ(q)=Vμ-VλΓμνλ(p)ενです。

 

さらにVCμ(r)=VCμ(q)-VCλ(q)Γμνλ(q)δν=Vμ-VλΓμνλ(p)εν-{Vλ-VρΓλσρ(p)εσμνλ(q)δν=Vμ-VλΓμνλ(p)εν-VλΓμνλ(p)δν-Vρ{∂λΓμνρ(p)-Γσλρ(p)Γμνσ(p)}ελδνとなります。

一方,同じベクトル^∈Tp(M)を経路C'≡psrに沿って平行移動すると,VC'μ(r)=Vμ-VλΓμνλ(p)εν-VλΓμνλ(p)δν-Vρ{∂νΓμλρ(p)-Γσνρ(p)Γμλσ(p)}ελδνです。

 

したがって,VC'μ(r)-VCμ(r)=Vρ{∂λΓμνρ(p)-∂νΓμλρ(p)+Γσνρ(p)Γμλσ(p)-Γσλρ(p)Γμνσ(p)}ελδν=Vρμρλνελδνで書けます。

 

要約すれば,VC'σ-VCσ=Vρσρλνελδνです。そしてελδνは微小平行四辺形の面積を表わす無限小テンソルです。

ところで,電磁場μに対してFμνを電場,磁場を与える場の強さとして,Aμの線積分にストークスの定理を適用すればC-C'μ=∫(∇×Aμ)d=∫FμνdSμνと書けます。ここでdSλνは経路C-C'が囲む無限小面積です。

 

そこで,この等式においてdSλνは先の無限小平行四辺形pqrsの面積ελδνとdSλν~ελδνなる対応があると考えられます。

 

また,場の強さFμνは,電磁場