光学

2009年11月 7日 (土)

光(電磁波)の散乱(4)

 さて,途中になっている電磁波の散乱振幅の計算の続きです。

前回はr=aで磁場の垂直成分Brがゼロであるという境界条件:k2ΠE(1/r){∂2(rΠE)/∂2r}=0 から磁気的波TE波の散乱波のポテンシャルΠscEが,入射平面波のそれ:ΠinEと同じPl1(cosθ)sinφの形の項しか持たないという結論を得ました。

今日は他のr=aでの境界条件(1/r){∂2(rΠM)/∂r∂θ}+(iω/sinθ)(∂ΠE/∂φ)=0,および{1/(rsinθ)}{∂2(rΠM)/∂r∂φ}(1/r)-iω∂ΠE/∂θ=0 に着目します。

これらの条件とΠEsinφに比例するということから,電気的波TM波の方のポテンシャルΠMはcosφに比例することがわかります。

 

そこで,ΠM=ΠinM+ΠscMなる分解をすれば,散乱TE波のΠscEがPl1(cosθ)sinφの項しか持たないのと同様に,散乱TM波のポテンシャルΠscMはPl1(cosθ)cosφの形の項しか持たないことがわかります。

そこでscM,およびΠscEの展開式はそれぞれΠscM(r,θ,φ)≡(1/k)Σl=1{AMljl(kr)+BMll(kr)}Pl1(cosθ)cosφ,およびΠscE(r,θ,φ)≡{1/(ck)}Σl=1{AEljl(kr)+BEll(kr)}Pl1(cosθ)sinφと書くことができます。

ここで,後の便宜上,ΠscMの展開係数AM,BMに対応するΠscEの展開係数はAE/c,BE/cであるとしています。

また,r→ ∞における散乱境界条件は,ΠM(r,θ,φ)→ΠinM(r,θ,φ)+f1(θ)exp(ikr)cosφ/r,およびΠE(r,θ,φ)→ ΠinE(r,θ,φ)+f2(θ)exp(ikr)sinφ/rと書けます。

ところで,球面ベッセル(Bessel)関数の漸近近似:jl(x)→ sin(x-lπ/2)/x(x→∞)です。

 

そこで,r→∞ではΠinM(r,θ,φ)=(1/k)Σl=1[il-1(2l+1)/{l(l+1)}jl(kr)Pl1(cosθ)cosφ]→ (1/k)Σl=1[il-1(2l+1)/{l(l+1)}{1/(kr)}sin(kr-lπ/2)Pl1(cosθ)cosφ]です。

つまりinM(r,θ,φ)→-{1/(2k2)}Σl=1[(2l+1)/{l(l+1)}{exp(ikr)-(-1)lexp(-ikr)}Pl1(cosθ)cosφ/r]です。

そこで,f1(θ)=-{1/(2k2)}Σl=1[(2l+1)/{l(l+1)}all1(cosθ)]と置けば,ΠM(r,θ,φ)→-{1/(2k2)}Σl=1[(2l+1)/{l(l+1)}{(1+al)exp(ikr)-(-1)lexp(-ikr)}Pl1(cosθ)cosφ/r]と書けます。

一方,x→∞での球面ノイマン(Neumann)関数の漸近近似はnl(x)→-cos(x-lπ/2)/xです。

そこでscM(r,θ,φ)=(1/k)Σl=1{AMljl(kr)+BMll(kr)}Pl1(cosθ)cosφ→f1(θ)exp(ikr)cosφ/rにおける因子:{AMljl(kr)+BMll(kr)}は,r→∞ではAMljl(kr)+BMll(kr)→{AMlsin(kr-lπ/2)-BMlcos(kr-lπ/2)}/(kr)={1/(2ikr)}(-i)l{(AMl-iBMl)exp(ikr)-(-1)l{(AMl+iBMl)exp(-ikr)}なる形で漸近的に挙動します。

しかし,r→ ∞では内向き球面波exp(-ikr)/rは存在せず,その係数はゼロであるはずですからAMl+iBMl=0,つまりBMl=iAMlです。

 

それ故,AMljl(kr)+BMll(kr)=AMl{ jl(kr)+inl(kr)}=AMll(1)(kr)と書けます。ただしhl(1)は球面ハンケル(Hankel)関数の1方です。

以上からscM(r,θ,φ)=(1/k)Σl=1{AMll(1)(kr)Pl1(cosθ)cosφ}と書くことができます。

同様にして,ΠscE(r,θ,φ)={1/(ck)Σl=1{AEll(1)(kr)Pl1(cosθ)sinφ}と書けることもわかります。

ところで,入射平面波については,既に見たように電場はErin=exp(ikrcosθ)sinθcosφ=k2ΠinM(1/r){∂2(rΠinM)/∂2r}={1/(kr)}Σl=1(2l+1)il-1jl(kr)Pl1(cosθ)cosφです。

そしてinM(r,θ,φ)=(1/k)Σl=1(2l+1)il-1/{l(l+1)}jl(kr)Pl1(cosθ)cosφ,ΠinE(r,θ,φ)={1/(ck)}Σl=1(2l+1)il-1/{l(l+1)}jl(kr)Pl1(cosθ)sinφです。

そこで,θin=(1/r)∂ΠinM/∂θ+∂2ΠinM/∂r∂θ+(iω/sinθ)(∂ΠinE/∂φ)=exp(ikrcosθ)sinθsinφ=(cosφ/k)Σl=1(2l+1)il-1/{l(l+1)}[{jl(kr)/r+kjl'(kr)}τl(cosθ)+ikjl(kr)πl(cosθ)]です。

ただしl(cosθ)≡dPl1(cosθ)/dθ=-sinθdPl1(cosθ)/d(cosθ),πl(cosθ)≡Pl1(cosθ)/sinθと置きました。

また,Eφin={1/(rsinθ)}(∂ΠinM/∂φ)+(1/sinθ)(∂2ΠinM/∂r∂φ)-iω∂ΠinE/∂θ=-1exp(ikrcosθ)sinφ=-(sinφ/k)Σl=1(2l+1)il-1/{l(l+1)}[{jl(kr)/r+kjl'(kr)}πl(cosθ)+ikjl(kr)τl(cosθ)]です。

さらに,磁場はrin=c-1exp(ikrcosθ)sinθsinφ=k2ΠinE(1/r){∂2(rΠinE)/∂2r}={1/(ckr)}Σl=1(2l+1)il-1jl(kr)Pl1(cosθ)sinφです。

また,Bθin={-iω/(c2sinθ)}(∂ΠinM/∂φ)+(1/r)(∂ΠinM/∂θ)+∂2ΠinM/∂r∂θ={sinφ/(ck)}Σl=1(2l+1)il-1/{l(l+1)}[ikjl(kr)πl(cosθ)]+{jl(kr)/r+kjl'(kr)}τl(cosθ)]です。

そして,Bφin=(iω/c2)(∂ΠinM/∂θ)+{1/(rsinθ)}(∂ΠinE/∂φ)+(1/sinθ)(∂2ΠinE/∂r∂φ)={cosφ/(ck)}Σl=1(2l+1)il-1/{l(l+1)}[ikjl(kr)τl(cosθ)+{jl(kr)/r+kjl'(kr)}πl(cosθ)]となります。

そして,散乱波も同じ方法で計算できてrsc=k2ΠscM(1/r){∂2(rΠscM)/∂2r}={1/(kr)}Σl=1[l(l+1)AMll(1)(kr)Pl1(cosθ)cosφ]です。

また,Eθsc(1/r)∂ΠscM/∂θ+∂2ΠscM/∂r∂θ+(iω/sinθ)(∂ΠicE/∂φ)=(cosφ/k)Σl=1[AMl{hl(1)(kr)/r+khl(1)'(kr)}τl(cosθ)+ikAEll(1)(kr)πl(cosθ)]です。

同じく,Eφsc{1/(rsinθ)}(∂ΠscM/∂φ)+(1/sinθ)(∂2ΠscM/∂r∂φ)-iω∂ΠscE/∂θ==-(sinφ/k)Σl=1[AMl{hl(1)(kr)/r+khl(1)'(kr)}πl(cosθ)+ikAEll(1)(kr)τl(cosθ)]です。

同様にして,Brsc{1/(ckr)}Σl=1[l(l+1)AEll(1)(kr)Pl1(cosθ)sinφ],Bθsc={sinφ/(ck)}Σl=1[ikAMll(1)(kr)πl(cosθ)+AEl{hl(1)(kr)/r+khl(1)'(kr)}τl(cosθ)+],Bφsc={cosφ/(ck)}Σl=1[ikAMll(1)(kr)τl(cosθ)+AEl{hl(1)(kr)/r+khl(1)'(kr)}πl(cosθ)]です。

ここで,ηl(kr)≡(kr)jl(kr),ξl(kr)≡(kr)hl(1)(kr)と置いて得られた全ての式を整理します。

まず,電場の動径成分については,Erin{1/(k22)}Σl=1(2l+1)il-1ηl(kr)Pl1(cosθ)cosφです。

また,Eθin{cosφ/(kr)}Σl=1(2l+1)il-1/{l(l+1)}[ηl'(kr)τl(cosθ)+iηl(kr)πl(cosθ)],Eφin=-{sinφ/(kr)}Σl=1(2l+1)il-1/{l(l+1)}[ηl'(kr)πl(cosθ)+iηl(kr)τl(cosθ)]とやや簡単な表現になります。

さらに磁場については,まずBrin={1/(ck22)}Σl=1(2l+1)il-1ηl(kr)Pl1(cosθ)sinφです。

次に,Bθin{sinφ/(ckr)}Σl=1(2l+1)il-1/{l(l+1)}[ iηl(kr)πl(cosθ)]+ηl'(kr)τl(cosθ)],およびBφin={cosφ/(ckr)}Σl=1(2l+1)il-1/{l(l+1)}[iηl(kr)τl(cosθ)+ηl'(kr)]πl(cosθ)]となります。

散乱波についても全く同様ですが煩雑なので結果だけ列挙します。

 

まず,電場はErsc{1/(k22)}Σl=1[l(l+1)AMlξl(kr)Pl1(cosθ)cosφ],Eθsc={cosφ/(kr)Σl=1[AMlξl'(kr)]τl(cosθ)+iAElξl(kr)πl(cosθ)},Eφsc=-{sinφ/(kr)}Σl=1[AMlξl'(kr)πl(cosθ)+iAElξl(kr)τl(cosθ)]です。

同様に,磁場はBrsc{1/(ck22)}Σl=1[l(l+1)AElξl(kr)Pl1(cosθ)cosφ],Bθsc={sinφ/(ckr)}Σl=1[iAMlξl(kr)πl(cosθ)+AElξl'(kr)τl(cosθ)],Bφsc={cosφ/(ckr)}Σl=1[iAMlξl(kr)τl(cosθ)+AElξl'(kr)]πl(cosθ)]と書けます。

これに,境界条件:[Eθin+Eθsc]r=a=0,[Eφin+Eφsc]r=a=0,[Brin+Brsc]r=a=0 を当てはめると,(2l+1)il-1ηl'(ka)+l(l+1)AMlξl'(ka)=0,(2l+1)il-1ηl(ka)+l(l+1)AElξl(ka)=0 を得ます。

故に,未知係数は全て陽に決まりAMl=il-1(2l+1)ηl'(ka)/{l(l+1)ξl'(ka)},AEl=il-1(2l+1)ηl(ka)/{l(l+1)ξl(ka)}となって解が完全に得られます。

ところで,r→ ∞ のときにはErsc,Brsc ∝ξl/r2 →O(1/r2),Eθsc,Eφsc,Bθsc,Bφsc ∝ξl/r →O(1/r)です。

 

それ故,r→ ∞では散乱波の散乱体球の動径成分(球面波の縦波成分)Ersc,Brscは,球の接線成分(球面波の横波成分)Eθsc,Eφsc,Bθsc,Bφscに比べて無視してよいと考えられます。

つまり,r→ ∞での散乱波も入射波と同じく,その球面波の進行方向に垂直な偏光成分だけを持つ横波となることがわかります。

また,r→∞ではξl(kr)=(kr)hl(1)(kr)→(-i)l+1exp(ikr),ξl'(kr)→ik(-i)l+1exp(ikr)です。

 

そこでξl(kr)ξm'(kr)=ξm'(kr)ξl(kr) →-ik(-i)l+mexp(2ikr)よりr→∞でEθscθsc+Eφscφsc=0 であり,scsc=0 です。

 

つまり散乱電磁波も電場と磁場が直交して進む横波です。

そして,散乱振幅とそれに基づいた散乱の断面積を計算するためにr→∞での平均エネルギー密度に関係する量を計算することを考えます。

 

まず,r→∞では|Eθsc|2+|Eφsc|2=c2(|Bθsc|2+|Bφsc|2)={1/(k22)}(cos2φ|Sθ|2+sin2φ|Sφ|2)と書けます。ただしSθとSφは次式で定義される量です。

 

すなわち,Sθ≡Σl=1(-i)l+1i[AMlτl+AElπl],Sφ≡Σl=1(-i)l+1i[AMlπl+AElτl]とします。

さて,既に以前計算しましたが入射電磁波の平均エネルギー密度は,複素電磁場の表現では真空中のポインテイングベクトルの時間平均値として<|in|>=|in×in*|/(2μ0)=1/(2cμ0)で与えられます。

一方,散乱波のそれは,<|sc|>2=|sc×sc*|2/(4μ02)=(εijkjk*εilml*m)/(4μ02)={|sc|2|sc|2-|(scsc)|2}/(4μ02)→(|sc|2|sc|2)/(4μ02)です。

 

それ故,r→ ∞では<|sc|>=|sc|2|sc|/(2μ0)=(|Eθsc|2+|Eφsc|2)/(2cμ0)={1/(2cμ022)}(cos2φ|Sθ|2+sin2φ|Sφ|2)と書けます。

したがって,微小立体角dΩ=d(cosθ)dφへの散乱の微分断面積dσは,dσ=(<|sc|>/<|in|>)r2dΩなる定義によってdσ/dΩ=(1/k2)(cos2φ|Sθ|2+sin2φ|Sφ|2)となります。

ここで,Sθ≡Σl=1(-i)l+1i[AMlτl+AElπl],Sφ≡Σl=1(-i)l+1i[AMlπl+AElτl]は,今の場合の係数Aの陽な表現では-iSθ=Σl=1=(2l+1)/{l(l+1)}[{ηl'(ka)/ξl'(ka)}τl(cosθ)+{ηl(ka)/ξl(ka)}πl(cosθ)],-iSφ=Σl=1=(2l+1)/{l(l+1)}[{ηl'(ka)/ξl'(ka)}πl(cosθ)+{ηl(ka)/ξl(ka)}τl(cosθ)]です。

そして,時間平均として,<cos2φ>=<sin2φ>=[∫0cos2φdφ]/(2π)=[∫0sin2φdφ]/(2π)=1/2であることを用いると,実際の観測にかかる微分断面積はdσ/dΩ={1/(2k2)}(|Sθ|2+|Sφ|2)で与えられると結論されます。

 

さて,x→0 ではηl(x)=xjl(x)~xl+1/(2l+1)!!,ηl'(x)~(l+1)xl/(2l+1)!!です。また,ξl(x)=xhl(1)(x)~-i(2l-1)!!/xll'(x)~il(2l-1)!!/xl+1です。

 

それ故,ηl'(ka)/ξl'(ka)~-i(l+1)(ka)2l+1/[l(2l+1){(2l-1)!!}2],ηl(ka)/ξl(ka)~-i(ka)2l+1/[(2l+1){(2l-1)!!}2]です。

 

そこで,以前にも概算したka→0,あるいはka<<1,つまりa<<λのレイリー(Raileigh)散乱では,上記-iSθと-iSφの右辺の展開においてl=1の項だけが効いてきます。

 

そしてl=1ではτl(cosθ)=dP11(cosθ)/dθ=cosθ,π1(cosθ)=P11(cosθ)=1でありη1'(ka)/ξ1'(ka)~-2i(ka)3/3,ηl(ka)/ξl(ka)~-i(ka)3/3です。

 

θ~(ka)3(2cosθ-1)/2,Sφ~(ka)3(2-cosθ)/2)より,|Sθ|2+|Sφ|2~(ka)6(5cos2θ-8cosθ+5)/4です。

 

そこで,dσ/dΩ={1/(2k2)}(|Sθ|2+|Sφ|2)~k46(5-8cosθ+5cos2θ)/8∝k46~a64,σ=2π∫(dσ/dΩ)d(cosθ)=10πk46/3=160π56/(3λ4)です。

 

したがって,ka<<1,つまりa<<λのレイリー散乱では微分断面積dσ/dΩ,全断面積σは共に4に比例しています。あるいは波長λの4乗に反比例しています。

 

一方,ka~1,つまりa~λでは,Sθ,Sφにおける各項のηl'(ka),ξl'(ka),ηl(ka),ξl(ka)等のl=1の先頭項だけではなく,全てのlの項が効いてきます。そして,a~λの太陽からの可視光線の空気中の水滴やエアロゾルなどによる散乱に相当していて,これをミイ(Mie)散乱と呼びます。

 

しかし,これまでの議論では散乱体は電気伝導率σ=∞の完全導体球であると仮定して球体の半径r=aの表面上でEθ=Eφ=0,Br=0 である,という境界条件を用いました。

 

ここで,より現実的に考えて,散乱体が球であるという仮定はそのままでもいいですが,散乱体は完全導体から成るのではなく,任意の有限な電気伝導率σから成る物体であるとします。

  

また,その散乱体球の内部の透磁率は真空と同じくほぼμ0ですが,誘電率の方は一般の値εであるとします。空気分子,水滴などによる光の散乱ではこちらの誘電体というモデルの方がふさわしいと思います。

 

すると,この誘電体球の内部での電磁場の運動方程式は,∇×=-∂/∂tは真空中と同じですが,∇×=∂/∂t(i.e.∇×=(1/c2)∂/∂t)の方は,∇×=∂/∂t+=∂/∂t+σ,すなわち∇×=μ0ε∂/∂t+μ0σとすべきです。

  

そこで,誘電体内部でも外部と同じく,がexp(-iωt)という定在波としての時間依存因子を持つ波とすれば,これは∇×=-iμ0(εω+iσ)となります。

 

前の,散乱体が完全導体のときには内部には如何なる電流も存在できず,元々電流のない球体外部と同様に内部でも∇×=(1/c2)∂/∂tで∇×=-i(ω/c2)でした。

 

そして,TM波,TE波に対するポテンシャルは散乱体の外部ではもちろん,ΠMEですが,内部ではχMEであるとします。

 

すると,誘電体外部ではEMφ={1/(rsinθ)}{∂2(rΠM)/∂r∂φ},EMθ=(1/r){∂2(rΠM)/∂r∂θ}でしたが,内部でも単にEMφ={1/(rsinθ)}{∂2(rχM)/∂r∂φ},EMθ=(1/r){∂2(rχM)/∂r∂θ}となります。

 

しかし,磁場の方は外部での表現:BMφ=(iω/c2)(∂ΠM/∂θ),BMθ=-{iω/(c2sinθ)}{∂(∂ΠM/∂φ)における係数ω/c2=μ0ε0ωがμ0(εω+iσ)=(εω/ε0+iσ/ε0)/c2に変わるので,誘電体内部ではBMφ=(iωa/c2)(∂χM/∂θ),BMθ=-{iωa/(c2sinθ)}{∂(∂χM/∂φ)と書けます。

 

ここで,広義の複素振動数ωaを導入してωa≡εω/ε0+iσ/ε0と定義しました。

 

さて,球体の外部の真空中ではポテンシャルΠが従う方程式は,波動方程式(△-c-22/∂t2M=[△-μ0ε02/∂t2M=0 において波数k=2π/λが2≡ω2/c2=μ0ε0ω2と表現されるヘルムホルツ方程式:(△+k2M=0 でした。

 

しかし,誘電体中では波動方程式は[△-μ0(ε+iσ/ω)∂2/∂t2M=0 となるので,これはa2≡μ0(ε+iσ/ω)ω2として(△+ka2M=0 となります。複素係数:ε+iσ/ω=(ωa/ω)ε0はωに依存する複素誘電率と解釈されます。

 

そこで,ka2=μ0(εω+iσ)ω=ωωa/c2であってEMr=ka2χM(1/r){∂2(rχM)/∂2r},BMr=0 です。ka=2π/λaです。

 

同様に,EEr=0,EEθ=(iωa/sinθ)(∂χE/∂φ),EEφ=-iωa∂χE/∂θ,BEr=ka2χE(1/r){∂2(rχE)/∂2r},BEθ=(1/r){∂2(rχE)/∂r∂θ},BEφ={1/(rsinθ)}{∂2(rχE)/∂r∂φ}です。そして,(△+ka2E=0 ですね。

 

これらヘルムホルツの方程式の解としての誘電体内部のTM波,TE波を与えるポテンシャルχMEは,r=0 の中心で有限であって,やはりs波(l=0 の波)はないと考えられます。

 

それ故,χM(r,θ,φ)≡(1/kal=1Mljl(kar)Pl1(cosθ)cosφ,χE(r,θ,φ)≡{1/(cka)}Σl=1Eljl(kar)Pl1(cosθ)sinφと表現することができます。

 

この場合の境界条件は,全く普通でr=aの球表面において接線成分Eθ,Eφ,Hθ,Hφが連続,そこでμ=μ0=(一定)よりBθ,Bφが連続であり,法線成分BrとDr=εEも連続という条件となります。

 

ただ,今のケースでは電束密度と電場の現象論的関係は単純な実定数誘電率による=εではなく,(ω)=(ε+iσ/ω)(ω)=(ωa/ω)ε0(ω)=(ka2/k20(ω)なる関係と考えられます。

 

そこで,Drの連続性については球の外部のと内部の(ka2/k2)の連続性を問題にする必要があります。

 

故に,この条件からは(1/k2)[(2l+1)il-1ηl(ka)+l(l+1)AMlξl(ka)]=(ka2/k2)(1/ka2)l(l+1)CMlηl(kaa)です。

 

同様にBrの連続性からは{1/(ck2)}[(2l+1)il-1ηl(ka)+l(l+1)AElξl(ka)]={1/(cka2)}l(l+1)CElηl(kaa)です。

 

また,Eθ,Eφ,Bθ,Bφの連続性からは(1/k)[(2l+1)/{l(l+1)}il-1ηl'(ka)+AMlξl'(ka)]=(1/ka)CMlηl'(kaa),および(1/k)[(2l+1)/{l(l+1)}il-1ηl'(ka)+AElξl'(ka)]=(1/ka)CElηl'(kaa)です。

 

これらの式からCMl,CElを消去すると,AMl=il+1(2l+1)/{l(l+1)}{kaηl'(ka)ηl(kaa)-kηl'(kaa)ηl(ka)}/{kaξl'(ka)ηl(kaa)-kηl'(kaa)ξl(ka)},

 

および,AEl=il+1(2l+1)/{l(l+1)}{kaηl(ka)ηl'(kaa)-kηl'(ka)ηl(kaa)}/{kaξl(ka)ηl'(kaa)-kξl'(ka)ηl(kaa)}が得られます。

 

ここで,後の便宜のために散乱体を構成する誘電体の複素屈折率をn^≡λ/λa=ka/k=(ε+iσ/ω)/ε0)1/2で定義しておきます。

  

例えば,ka<<1, or a<<λの場合なら,Ml~il+1(2l+1)/{l(l+1)}(l+1)kal+2l-kall+2)a2l+1/{(2l+1)!!}2,÷[i(lkal+2-(l+1)+(l+1)kal-(l-1))/(2l+1)]~[il/{l(2l+1)!!}2][(n^2-1)/{n^2+(l+1)/l}](ka)2l+1です。

 

同様に,AEl~[il/{l(l+1)(2l+1)(2l+3)]/{(2l+1)!!}2(n^2-1)(ka)2l+3です。

 

それ故,ka~ 0 での通常の弾性散乱では,TM波のl+1の項の寄与とTE波のl波の寄与が同じオーダーになります。

 

そこでka<<1のレイリー散乱の場合に実際に効くl=1の最初の項だけに着目すると,TM波では(ka)3,TE波ではka)5に比例するため,TM波のみが効くと見ていいでしょう。

 

そして,l=1では,AM1~i(ka)3(n^2-1)/(n^2+2)です。

 

これから,特に前のように完全導体の場合ならn^→ ∞のため,AM1~i(ka)3となることも確認されます。

 

τ1(cosθ)=cosθ,π1(cosθ)=1により,Sθ~(ka)3(n^2-1)/(n^2+2)cosθ,Sφ~(ka)3(n^2-1)/(n^2+2)です。

 

そこで,ka<<1のレーリー散乱の場合の微分断面積はdσ/dΩ={1/(2k2)}(|Sθ|2+|Sφ|2)~(k46/4)(1+cos2θ)(n^2-1)2/(n^2+2)2 ∝ k46 ~a64です。

  

そこで,全断面積はσ=2π∫(dσ/dΩ)d(cosθ)=(8π/3)k46(n^2-1)2/(n^2+2)2=(128π5/3)(a64)(n^2-1)2/(n^2+2)2となります。

  

これらは,完全導体n^→ ∞の極限ではdσ/dΩ=k46(1+cos2θ),σ=(8π/3)k46=(128π5/3)a64です。

 

これは,先に初めから完全導体球を仮定してその境界条件から計算したレーリー散乱の結果,dσ/dΩ={1/(2k2)}(|Sθ|2+|Sφ|2)~k46(5-8cosθ+5cos2θ)/8∝k46~a64,σ=2π∫(dσ/dΩ)d(cosθ)=(10π/3)k46=(160π5/3)a64と微妙に係数だけが違っています。

 

これは,Sθ≡Σl=1(-i)l+1i[AMlτl+AElπl],Sφ≡Σl=1(-i)l+1i[AMlπl+AElτl]のl=1の項で,τ1=cosθ,π1=1,Ml~i(ka)3は同じですが,完全導体境界条件ではAEl~(-i/2)(ka)3であるのに対して誘電体境界条件ではAEl~ 0 であるからです。

  

大気中の空気分子による散乱では,後者の誘電体境界条件を採用するべきと思われます。

  

とにかく,空気分子ではn^は有限ですからAM1~i(ka)3(n^2-1)/(n^2+2)において完全導体球を仮定して複素屈折率をn^=∞としたものでなく,係数(n^2-1)/(n^2+2)を含む方の式を用いるべきです。

 

今日はここまでにします。

 

参考文献:砂川重信著「理論電磁気学」第2版(紀伊国屋書店),M.Born,E.Wolf著(草川徹 訳)「光学の原理(3)」(東海大学出版会)

 

PS:ノリピーの裁判。。判決には依存ないけど。。。例によって不可解なことばかり。。

 

罪というのは薬物に関する法律の違反でしょう?誰と結婚しようが離婚しようが個人的な問題とは刑法は関係ないじゃん。。。

 

マスコミが騒いだせいで世間への影響が大きい割りに刑が軽い?。。

 

表向きは職業に貴賎なし。。全ての人間は性別,その生業に関わらず法の下には平等だろう。利権にからんだ周囲の大騒ぎ,ほとんどは本人の責任じゃない部分を責めてどうするんだ?。。

 

問題にすべきは,犯罪当時の被告の責任能力の有無(たとえば幼児であるとか認知症であるとかなら刑は軽くすべきとか。)のような問題だろうにね。。。。

 

まあ,普通の日本の刑事裁判(検事と弁護士の両方がいても公平であるべき判事が最初から検事9割,弁護士1割程度の予断と偏見を持っていて,本来5分5分の情況証拠なら"疑わしきは被告の利益に(=推定無罪)"の原則のはずなのに実際には真反対で,しかも世論になびく傾向大)だから,しょうがないか。。

 

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2009年11月 4日 (水)

光(電磁波)の散乱(3)

主としてミイ(Mie)散乱を対象と考えて計算した過去のノ-トを見つけたので,改めてその計算をチェックしながら一般的なレイリー(Rayleigh)散乱とミイ散乱の古典電磁波の散乱としての扱いを詳細に記述してみます。

散乱体を完全導体球としたときの正しい境界条件は入射平面波と散乱波を重ね合わせた全電磁波の電場,磁場が球の表面上r=aでnB=0,tE=0 を満たすことです。

これは極座標では,r=aでBr=Bxsinθcosφ+Bysinθ+Bzcosθ=0,かつEθ=Excosθcosφ+Eycosθsinφ+Ezsinθ=0,Eφ=-Exsinφ+Eycosφ=0 なることを意味します。

今のケースでは入射波はz方向に進む角振動数がωの単色平面波ではx方向,はy方向に線偏光していると仮定しています。

これまで説明してきたように,散乱を1枚の全体写真として記述するため,電磁場の1成分をΦ(,t)=exp(-iωt)ψ()として時間部分を分離した定在波表現を用います。

 

この表現では,入射波Φin(,t)=exp(-iωt)ψin()の空間成分はψin()=exp(ikz)=exp(ikrcosθ)ですが,これはin=(ψin,0,0),cin=(0,ψin,0,0),あるいはEinx=cBiny=exp(ikz),Einy=Einz=Binx=Binz=0 を意味します。

そして,真空中でのヘルムホルツ(Helmholtz)方程式よりも基本的なマクスウェル(Maxwell)の方程式:=ε0,=μ0,c2=ε0μ0∇,および∇×=-∂/∂t,∇×=∂/∂tから出発してを消去すると,∇×=iω,∇×=-(iω/c2)を得ます。

これを,極座標で書くと-(iω/c2)Er={1/(r2sinθ)}{∂(rsinθBφ)/∂θ-∂(rBθ)/∂φ},-(iω/c2)Eθ={1/(rsinθ)}{∂Br/∂φ-∂(rsinθBφ)/∂r},-(iω/c2)Eφ=(1/r){∂(rBθ)/∂r-∂Br/∂θ},

および,iωBr={1/(r2sinθ)}{∂(rsinθEφ)/∂θ-∂(rEθ)/∂φ},iωBθ={1/(rsinθ)}{∂Er/∂φ-∂(rsinθEφ)/∂r},iωBφ=(1/r){∂(rEθ)/∂r-∂Er/∂θ}です。

方程式は線型なので,任意の解,は電気的波(TM波;transverse magnetic wave)と磁気的波(TE波;transverse electric wave)に分解できます。

 

すなわち,ME,ME,(ⅰ)EMr=Er,BMr=0 (TM波),(ⅱ)EEr=0,BEr=Br (TE波)と分解されます。

これら電気的波:M,M,および磁気的波:E,Eは,それぞれ同じ波動方程式を満足するスカラーポテンシャルΠM,およびΠEから導出できることがわかります。以下,これを示します。

(ⅰ)EMr=Er,BMr=0 (TM波=電気的波)の場合:

 iωr2sinθBMr=∂(rsinθEMφ)/∂θ-∂(rEMθ)/∂φ=0ですから,rsinθEMφ≡∂U/∂φ,rEMθ≡∂U/∂θ,U≡∂(rΠM)/∂rと置くことができます。

すなわち,EMφ≡{1/(rsinθ)}{∂2(rΠM)/∂r∂φ},EMθ≡(1/r){∂2(rΠM)/∂r∂θ}と書けます。

そこで,-(iω/c2)Eθ={1/(rsinθ)}{∂Br/∂φ-∂(rsinθBφ)/∂r}で,M,Mに置き換えてBMr=0 とした式:-(iω/c2)EMθ={1/(rsinθ)}{-∂(rsinθBMφ)/∂r}は,(iω/c2)(1/r){∂2(rΠM)/∂r∂θ}=(1/r){∂(rBMφ)/∂r}を意味します。

また,-(iω/c2)EMφ=(1/r){∂(rBMθ)/∂r-∂BMr/∂θ}=(1/r){∂(rBMθ)/∂r}は-(iω/c2){1/(rsinθ)}{∂2(rΠM)/∂r∂φ}=(1/r){∂(rBMθ)/∂r}です。

よって,無関係の定数を除いて,BMφ={iω/(c2r)}{∂(rΠM)/∂θ}=(iω/c2)(∂ΠM/∂θ),BMθ=-{iω/(c2rsinθ)}{∂(rΠM)/∂φ}と書けます。

さらに,これらを-(iω/c2)EMr={1/(r2sinθ)}{∂(rsinθ∂BMφ)/∂θ-∂(rBMθ)/∂φ}に代入するとEMr=-{1/(rsinθ)}[∂{sinθ(∂ΠM/∂θ)/∂θ}+(1/sinθ)(∂2ΠM/∂φ2)]を得ます。

そして,得られた結果をiωBMθ={1/(rsinθ)}{∂EMr/∂φ-∂(rsinθEMφ)/∂r}に代入すると(ω2/c2sinθ)(∂ΠM/∂φ)={1/(rsinθ)}(∂/∂φ){-1/(rsinθ)}(∂/∂θ){sinθ(∂ΠM/∂θ)}+(1/sinθ)(∂2ΠM/∂φ2)}-{∂2(rΠM)/∂2r}]です。

k=ω/cより,これは(∂/∂φ)[k2ΠM+(1/r){∂2(rΠM)/∂2r}+{1/(r2sinθ)}(∂/∂θ){sinθ(∂ΠM/∂θ)}+(1/sinθ)(∂2ΠM/∂φ2)]=0です。

また,-iωBMφ=(1/r){∂(rEMθ)/∂r-∂EMr/∂θ}に代入すると-(ω2r/c2) (∂ΠM/∂θ)=∂3(rΠM)/∂r2∂θ}+(1/r2)(∂/∂θ)[(1/sinθ)(∂/∂θ){sinθ(∂ΠM/∂θ)/∂θ}+(1/sinθ)(∂2ΠM/∂φ2)]です。

これから(∂/∂θ)[k2ΠM+(1/r){∂2(rΠM)/∂2r}+{1/(r2sinθ)}(∂/∂θ){sinθ(∂ΠM/∂θ)}+(1/sinθ)(∂2ΠM/∂φ2)]=0を得ます。

以上のことからスカラーポテンシャルΠMをヘルムホルツ方程式:(△+k2M=0 を満たすように選んでよいことがわかります。

そこで,EMr=-{1/(rsinθ)}[∂{sinθ(∂ΠM/∂θ)/∂θ}+(1/sinθ)(∂2ΠM/∂φ2)]=-△ΠM+(1/r){∂2(rΠM)/∂2r}によってEMr=k2ΠM(1/r){∂2(rΠM)/∂2r}が得られます。

要約すると,EMr=k2ΠM(1/r){∂2(rΠM)/∂2r},EMθ=(1/r){∂2(rΠM)/∂r∂θ},EMφ={1/(rsinθ)}{∂2(rΠM)/∂r∂φ},BMr=0,BMθ=-{iω/(c2rsinθ)}{∂(rΠM)/∂φ},BMφ={iω/(c2r)}{∂(rΠM)/∂θ}=(iω/c2)(∂ΠM/∂θ)です。

そして,(△+k2M=0 です。

(ⅱ)EEr=0,BEr=Br(TE波=磁気的波)の場合:

 (iωr2sinθ/c2)EEr=∂(rsinθBEφ)/∂θ-∂(rBEθ)/∂φ=0ですから,rsinθBEφ≡∂V/∂φ,rBEθ≡∂V/∂θ,V≡∂(rΠE)/∂rと置きます。

すなわち,BEφ={1/(rsinθ)}{∂2(rΠE)/∂r∂φ},BEθ=(1/r){∂2(rΠE)/∂r∂θ}です。

Er0 よりiωBEφ=(1/r){∂(rEEθ)/∂r}ですから,∂(rEEθ)/∂r=(iω/sinθ){∂2(rΠE)/∂r∂φ}です。

 

そこで,定数項を無視してEEθ={iω/(rsinθ)}{∂(rΠE)/∂φ}=(iω/sinθ)(∂ΠE/∂φ)と置くことができます。

同様に,iωBEθ={-1/(rsinθ)}{∂(rsinθEEφ)/∂r}より{∂(rEEφ)/∂r}=-iω∂2(rΠE)/∂r∂θ}なので,EEφ=-iω∂ΠE/∂θと書けます。

これらのポテンシャルによる表現をiωBEr={1/(r2sinθ)}{∂(rsinθEEφ)/∂θ-∂(rEEθ)/∂φ}に代入すると,BEr={-1/(rsinθ)}{∂(sinθ∂ΠE/∂θ)/∂θ}を得ます。

得られた全てのポテンシャルによる表現を-(iω/c2)EEθ={1/(rsinθ)}{∂BEr/∂φ-∂(rsinθBEφ)/∂r},および-(iω/c2)EEφ=(1/r){∂(rBEθ)/∂r-∂BEr/∂θ}に代入すれば,(∂/∂φ){(△+k2E}=0,かつ(∂/∂θ){(△+k2E}=0 が得られます。

そこで,(△+k2E=0となるようにΠEを選びます。このときBEr=k2ΠE(1/r){∂2(rΠE)/∂2r}と表わせます。

以上を要約すると,EEr=0,EEθ=(iω/sinθ)(∂ΠE/∂φ),EEφ=-iω∂ΠE/∂θ,BEr=k2ΠE(1/r){∂2(rΠE)/∂2r},BEθ=(1/r){∂2(rΠE)/∂r∂θ},BEφ={1/(rsinθ)}{∂2(rΠE)/∂r∂φ}です。そして(△+k2E=0 です。

(ⅰ),(ⅱ)をまとめると,電場についてはEr=EMr+EEr=k2ΠM(1/r){∂2(rΠM)/∂2r},Eθ=EMθ+EEθ=(1/r){∂2(rΠM)/∂r∂θ}+(iω/sinθ)(∂ΠE/∂φ),Eφ=EMφ+EEφ={1/(rsinθ)}{∂2(rΠM)/∂r∂φ}(1/r)-iω∂ΠE/∂θとなり,

磁場についてはr=BMr+BEr=k2ΠE(1/r){∂2(rΠE)/∂2r},Bθ=BMθ+BEθ={-iω/(c2rsinθ)}{∂(rΠM)/∂φ}+(1/r){∂2(rΠM)/∂r∂θ},Bφ=BMφ+BEφ=(iω/c2)(∂ΠM/∂θ){1/(rsinθ)}+{1/(rsinθ)}{∂2(rΠE)/∂r∂φ}となります。

ここでΠMEは(△+k2)Π=0 の未知関数Πに対する解です。

解ΠをΠ(r,θ,φ)≡R(r)Θ(θ)Φ(φ)と変数分離形に書くと,R(r)に対する独立解の組は方程式{d2/dr2+(2/r)d/dr+k2-l(l+1)/r2}Rl(r)=0 を満たすRl(r)={π/(2kr)}1/2l+1/2(kr)=jl(kr),{π/(2kr)}1/2l+1/2(kr)=nl(kr)(l=0,1,2,..)で与えられます。(J,Nはベッセル(Bessel)関数)

このとき,同じlに対応するΘ(θ)Φ(φ)の独立解はPlm(cosθ){amcos(mφ)+bmsin(mφ)}(-l≦m≦l)です。(Plmはルジャンドル(Legendre)の陪多項式)

それ故,Πの一般解はΠ(r,θ,φ)=Σl=0Σm=-ll{cll(kr)+dll(kr)}Plm(cosθ){amcos(mφ)+bmsin(mφ)}です。

ところで,電場,磁場のデカルト座標の成分と極座標の成分の関係はEr=Exsinθcosφ+Eysinθ+Ezcosθ,Eθ=Excosθcosφ+Eycosθsinφ+Ezsinθ,Eφ=-Exsinφ+Eycosφ,およびBr=Bxsinθcosφ+Bysinθ+Bzcosθ,Bθ=Bxcosθcosφ+Bycosθsinφ+Bzsinθ,Bφ=-Bxsinφ+Bycosφで与えられます。

ここで,入射波の電場inと磁場inは,Einx=cBiny=exp(ikz),Einy=Einz=Binx=Binz=0 であると仮定されていたことを思い出します。

したがって,入射波の極座標成分はEinr=exp(ikrcosθ)sinθcosφ,Einθ=exp(ikrcosθ)cosθcosφ,Einφ=-exp(ikrcosθ)sinφ,Binr=c-1exp(ikrcosθ)sinθsinφ,Binθ=exp(ikrcosθ)cosθsinφ,Bφ=exp(ikrcosθ)cosφです。

これを用いて入射波に対するポテンシャルΠM=ΠinME=ΠinEを求めます。そのために先のEr,Eθ,Eφ,Br,Bθ,Bφに対するポテンシャルΠMEによる表現を利用します。

式はたくさんありますが,その中の1つの式:Er=EMr+EEr=k2ΠM(1/r){∂2(rΠM)/∂2r}だけを考えれば十分です。このポテンシャルは合理的に定められているため後の式は自然に満たされます。

採用した式は,exp(ikrcosθ)sinθcosφ=k2ΠinM(1/r){∂2(rΠinM)/∂2r}です。

一方,exp(ikrcosθ)の展開はレーリー(Rayleigh)の公式:exp(ikrcosθ)=Σl=0(2l+1)iljl(kr)Pl(cosθ)で与えられることを知っています。

この両辺をθで微分します。左辺では∂{exp(ikrcosθ)}/∂θ=-ikrexp(ikrcosθ)sinθです。右辺では∂Pl(cosθ)/∂θ=-Pl1(cosθ)(l=1),∂Pl(cosθ)/∂θ=0 (l≠1)です。

これから直ちに入射波にはl=0 のs波が無いことがわかります。これの理由は明らかに電磁波の表わす場がベクトルであってスカラーではないことです。

レーリーの公式の両辺のθ微分にcosφを掛けて-ikrで割るとexp(ikrcosθ)sinθcosφ=(1/kr)Σl=1(2l+1)il-1jl(kr)Pl1(cosθ)cosφ=k2ΠinM(1/r){∂2(rΠinM)/∂2r}を得ます。

ここでΠinMの展開式をΠinM(r,θ,φ)≡(1/k)Σl=1αljl(kr)Pl1(cosθ)cosφと定義すれば,∂2(rΠinM)/∂2r+k2rΠinM=r[∂2ΠinM/∂2r+(2/r)∂ΠinM/∂r+k2ΠinM]から,αl{d2jl(kr)/dr2+(2/r)d1jl(kr)/dr+k2jl(kr)}=il-1(2l+1)jl(kr)/r2なる等式を得ます。

そこでl=il-1(2l+1)/{l(l+1)}となることがわかります。

よって,陽な展開表現:ΠinM(r,θ,φ)=(1/k)Σl=1[il-1(2l+1)/{l(l+1)}jl(kr)Pl1(cosθ)cosφ]が得られました。

同様にしてinE(r,θ,φ)=(1/k)Σl=1[il-1(2l+1)/{l(l+1)}jl(kr)Pl1(cosθ)sinφ]も得られます。

ここでr=aにおける正しい境界条件:Br=0,かつEθ=Eφ=0 を考慮します。

これはr=aでk2ΠE(1/r){∂2(rΠE)/∂2r}=0,かつ(1/r){∂2(rΠM)/∂r∂θ}+(iω/sinθ)(∂ΠE/∂φ)={1/(rsinθ)}{∂2(rΠM)/∂r∂φ}(1/r)-iω∂ΠE/∂θ=0 を意味します。

1番目の条件:k2ΠE(1/r){∂2(rΠE)/∂2r}=0 (r=a)は,r=aで∂2(rΠE)/∂2r+k2rΠE=r[∂2ΠE/∂2r+(2/r)∂ΠE/∂r+k2ΠE]=0 です。

 

ΠEの展開式をΠE(r,θ,φ)≡Σl=0Σm=-ll{cll(kr)+dll(kr)}Plm(cosθ){amcos(mφ)+bmsin(mφ)}と定義すると,これはΣl=0Σm=-lll(l+1)a-2{cll(ka)+dll(ka)}Plm(cosθ){amcos(mφ)+bmsin(mφ)}=0 を意味します。

そこで,TE波のポテンシャルΠEは恒等的にゼロである,あるいは全ての展開係数はゼロであることがわかります。

 

ΠE=ΠinE+ΠscEと書けば,左辺の展開係数が全てゼロなので,ΠinEがm=1のPl1(cosθ)sinφの項しか持たないことから,ΠscEもm=1のPl1(cosθ)sinφの形の項しか持たないことがわかります。

途中ですが,計算に疲れたので今日はここまでにします。

参考文献:砂川重信 著「理論電磁気学(第2版)」(紀伊国屋書店),M.Born,E.Wolf 著(草川徹 翻訳)「光学の原理(3)」(東海大学出版会)

 

PS:先日,池袋に大きいヤマダ電機がオープンしたのでこれを見に行った機会に秋葉原まで足をのばして,中古専門のソフマップに行きPCを中心に色々と見てきました。

 

 そして有名メーカーではなく自作に近くて昔ツクモや石丸で安売りしていた中古のデスクトップマシン:2004年製のemachinesのJ4320(CPUがPentium4:3GHz,HDD:200GB,WindowsXP(Home)入り,ただしメモリーが512MBから1024MBに増設されているもの)が11300円と意外に安く売られていたのでつい衝動買いしてしまいました。

 

 ここ数日間は今まで使っていたデスクトップと入れ替えるためのセッティングに夢中になっていました。

 

 今年6月に2004年製のHPパソコンのマザーボードが壊れたため,これまでは所蔵休眠していた2002年製で富士通のときどき動かなくなる中古パソコンをだましだましして使っていました。http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2009/06/pc-179a.html

 

 新PCは,今のところ重いソフトを使用中に若干音がうるさいのが気になる程度で他に不満はなく,前の富士通の中古よりも快適,快調です。

 

 見かけはほぼ新品で(アウトレット?),モニター無し,マウス,キーボードが無く,付属ソフトもOS(Windows)とウィルスソフト以外には無かったのですが,DVD±R(さらにRAM?)ドライブと全カードリ-ダー付き(FDDは無し)で,HDDも200GB実装ですから,コアがDuoではないけれどスペックとしては十分です。

  

 付属品が何も付いてなくても,これらは全て前のマシンから引き継げたので私的には全く問題無しです。

 

 日本製の有名メーカー品とはいっても他のはるかにスペックが低く,どこかに「難あり品」なのにこの品よりもかなり高価な中古品に比べ私自身は今のところ掘り出し物だと思っています。

  

 結局,後で失敗だとわかったにしても11300円なら1~2回の飲み代程度ですから気になりませんね。(さらに送料も値切りました。)

 

 ところで今年は何故か将棋の谷川浩司九段(17世名人)の調子がいいみたいで嬉しいです。

  

 谷川さんには久しぶりにタイトルを取ってもらいたいですね。特に順位戦では今のところ全勝でトップです。名人復位を期待しています。

  

 北島忠雄六段(現在順位戦はC1で3勝2敗)もカゲながら応援しています。頑張ってください。下は7月の将棋オフ http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2009/07/post-29b5.html で私が取った写真です。(肖像権無視して載せていいのかな?クレイムあれば即削除します。)

 

  

  

 

 PS2:西田房生(フサフサ生える?)さん。。連絡を待つ。この記事にメアド入りでコメントを入れてください。すぐに返信後,コメントおよびこのPS2は削除します。

 

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2009年10月20日 (火)

光(電磁波)の散乱(2)

 最終的には温室効果の定量的評価を与えることを目的とした光(電磁波)の散乱の評価の続きです。

 前回,定義を与えた散乱断面積を散乱による波の位相のずれ(phase-shift)によって表現するため,波の r→ ∞ での境界条件を考えます。 

まず,平面波:ψin()=exp(ikz)=exp(ikrcosθ)のレーリー(Raileigh)の公式による表現を再掲します。exp(ikz)=Σl=0(2l+1)iljl(kr)Pl(cosθ)です。

r→ ∞の場合を考えてjl(kr)の漸近形:jl(kr)→sin(kr-lπ/2)/(kr)を代入すると,exp(ikrcosθ)→Σl=0{il(2l+1)/(kr)}sin(kr-lπ/2)Pl(cosθ)=Σl=0{(2l+1)/(2ikr)}{exp(kr)-(-1)lexp(-ikr)}Pl(cosθ)と書けます。

また,散乱振幅f(θ)をルジャンドル(Legendre)多項式の完全系{Pl(cosθ)}で展開したものを,f(θ)=Σl=0{(2l+1)al/(2ik)}Pl(cosθ)と書いておきます。ここで,f(θ)が未知量なので全ての係数alも未知量です。

これらをψ()→ψin()+ψsc()=exp(ikz)+f(θ)exp(ikr)/rに代入すると,ψ()→Σl=0{(2l+1)/(2ikr)}{(1+al)exp(ikr)-(-1)lexp(-ikr)}Pl(cosθ)となります。

一方,σ(θ)=|f(θ)|2=k-2l=0{(2l+1)al/2}Pl(cosθ)|2です。そこで,σ≡∫σ(θ)dΩ=2π∫-11σ(θ)d(cosθ)=(2π/k2)[Σl,l'=0{(2l+1)(2l'+1)all'*/4}∫-11l(cosθ)Pl'(cosθ)d(cosθ)]=(π/k2l=0(2l+1)|al|2となります。

ここで,積分公式:∫-11l(x)Pl'(x)dx={2/(2l+1)}δll'を用いました。

f(θ)=Σl=0{(2l+1)al/(2ik)}Pl(cosθ)なる表現式により,前方散乱(散乱角θ=0)の振幅f(0)はf(0)=Σl=0{(2l+1)al/(2ik)}と書けますから, 2iImf(0)=f(0)-f*(0)=Σl=0{(2l+1)(al+al*)/(2ik)}です。

一方,r→ ∞での漸近形:ψ()→Σl=0{(2l+1)/(2ikr)}{(1+al)exp(ikr)-(-1)lexp(-ikr)}Pl(cosθ)に戻ると,exp(ikr)/rの係数(1+al)は外向き球面波exp(-ikr)/rの振幅を(-1)l+1は内向き球面波の振幅を示していると見えます。

この定常状態の描像で,光=電磁波が散乱体に全く吸収されずに保存される弾性散乱(elastic scattering)なら,各lについて外向き波と内向き波の振幅の絶対値は等しくなければなりません。

 

すなわち,|1+al|=1なることが要求されますから,1+al+al*+all*=1,あるいはal+al*+|al|2=0 です。

そこで,これと表現:Imf(0)=-Σl=0{(2l+1)(al+al*)/(4k)},σ≡∫σ(θ)dΩ=(π/k2l=0(2l+1)|al|2より,σ≡∫σ(θ)dΩ=(4π/k)Imf(0)なる等式が得られます。

 

これを光学定理(optical theorem)といいます。

このように,弾性散乱では|1+al|=1なので,1+al≡exp(2iδl)としてlごとに実数δlを定義すれば,1+al*=exp(-2iδl),|al|2=all*=2{1-cos(2δl)}=4sin2δlです。

 

故に,全断面積σはσ=(4π/k2)Σ(2l+1)sin2δlと書けます。

δl0 ならal=0 の散乱されない平面波だけしか存在しないので,このδlを散乱による位相のずれと呼びます。

このように定式化すれば,散乱の問題は全ての部分波lに対して位相のずれδlを求める問題に帰着するわけです。

δlを位相のずれと呼ぶのには別の理由もあります。

 

すなわち,1+al=exp(2iδl),(-1)l=exp(ilπ)をψ()→Σl=0{(2l+1)/(2ikr)}{(1+al)exp(ikr)-(-1)lexp(-ikr)}Pl(cosθ)に代入したときには,ψ()→Σl=0{(2l+1)/(kr)}exp(iδl)exp(ilπ/2)sin(kr-lπ/2+δl)Pl(cosθ)となります。

 

これを,入射平面波のr→ ∞での漸近形の表式:exp(ikrcosθ)→Σl=0{il(2l+1)/(kr)}sin(kr-lπ/2)Pl(cosθ)と比較すると,散乱波ψ()=ψ(r,θ)の漸近形では正弦関数の位相がδlだけずれているからです。

では,位相のずれδlを個々の散乱に対して具体的に決めるにはどうすればいいのでしょうか?

まず,r→∞での漸近形:jl(kr)→sin(kr-lπ/2)/(kr),nl(x)→-cos(kr-lπ/2)/(kr)によって,正確な波ψ(r,θ)=Σl=0[Aljl(kr)+Bll(kr)]Pl(cosθ)の漸近形はΣl=0[Alsin(kr-lπ/2)-Blcos(kr-lπ/2)]Pl(cosθ)/(kr)と書けます。

これとψ(r,θ)→Σl=0{(2l+1)/(2ikr)}exp(iδl)sin(kr-lπ/2+δl)Pl(cosθ)=Σl=0{(2l+1)/(kr)}exp(iδl)il[cosδlsin(kr-lπ/2)+sinδlcos(kr-lπ/2)を比較すると,Al=(2l+1)ilexp(iδl)cosδl,Bl=-(2l+1)ilexp(iδl)sinδlなることがわかります。

そこで,一般解はψ(r,θ)=Σl=0[(2l+1)ilexp(iδl)cosδl{jl(kr)-tanδll(kr)}Pl(cosθ)]と書けることがわかりました。

δlは散乱体の表面で波動を示すψ(r,θ)が満たすべき境界条件によって決まるはずです。

具体的な例として,半径がaの完全導体(電気抵抗がゼロ)の球による電磁波の散乱問題を取り上げます。完全導体球の表面上で入射平面波と散乱波を重ね合わせた全電磁波はnB=0,tE=0なる条件を満たす必要があります。

ただしは表面の法線単位ベクトル,は接線単位ベクトルです。

これは,次のような理由から得られる条件です。

つまり,境界面の内側の導体部分を領域1,外側の真空中を領域2として,境界面を含む微小な薄い直方体の中で,方程式∇=0を体積分することから(21)=0 を得ます。

一方,方程式∇×=-∂/∂tを境界面上の長さΔrの辺から成る小平面ΔS=ΔrΔhにおいて表面積分して得られる(21)Δr=-(∂/∂t)ΔrΔhで,Δh→0の極限を取ることから(21)=0を得ます。

そして,導体内部の電場1はゼロですから(21)=0 によりtE2=0 を得ます。導体内部では電場1がゼロになるのとほぼ同じ理由で磁場の強さ1もゼロですから磁束密度1もゼロです。

 

これと(21)=0 によってnB2=0を得ます。そこで得られた2つの条件式nB2=0,tE2=0 から添字2を除くとnB=0,tE=0 になるわけです。

しかし,ここではこうした条件の変わりに単に球面境界r=aの上でψ(a,θ)=0 なる条件を採用することにします。これは電磁波の成分という意味では不正確ですが,位相のずれを説明するための例として代用します。

それ故,境界条件はψ(a,θ)=Σl=0[(2l+1)ilexp(iδl)cosδl{jl(ka)-tanδll(ka)}Pl(cosθ)]=0です。これからtanδl=jl(ka)/nl(ka)が要求されます。

これを代入し返して,全波動を示す関数としてψ(r,θ)=Σl=0[(2l+1)ilexp(iδl)cosδl{jl(kr)-jl(ka)/nl(kr)/nl(ka)}Pl(cosθ)]が決まりました。

そして,tanδl=jl(ka)/nl(ka)から決まるδlをσ=(4π/k2)Σ(2l+1)sin2δlに代入すれば散乱の全断面積σ≡∫σ(θ)dΩが得られるわけです。

電磁波の波長をλとするとk=2π/λなので,波長λが半径aよりも十分に大きいとき,すなわちλ>>aならka<<1です。

そこで,例えば10/11の記事「空気分子の大きさ」で書いた半径a=d/2が 0.2~0.4μm程度の空気分子によって散乱される波長がλ=100~1000μmの可視光を想定するなら,tanδl=jl(ka)/nl(ka)~-(ka)2l+1/[(2l+1){(2l-1)!!}2]です。

実際の正しい境界条件からは,l=0 のS波は完全に消えます。

  

そこで最も大きい寄与はl=1のP波の項からきます。したがって,こうした波ではδl∝(ka)3です。

 

(正しい境界条件はr=aでBr=Bxsinθcosφ+Bysinθsinφ+Bzcosθ=0,かつEθ=Excosθcosφ+Eycosθsinφ-Ezsinθ=0,Eφ=-Exsinφ+Eycosφ=0 です。

 

また,散乱体の球はもちろん軸対称ですが,正しい散乱波の関数形は必ずしもφに依存しないψ(r,θ)ではなく,より一般の形:ψ(r,θ,φ)になります。詳細については次の記事で書きます。)

 

そこで,σ=(4π/k2)Σ(2l+1)sin2δl∝k46∝a64と評価されます。このような散乱をレイリー散乱と呼びます。これは晴れた空が青く見える主要な理由を与えます。

また,ka~1,つまりλ~aのような散乱をミイ(Mie)散乱,またはエアロゾル散乱と呼びます。これは雲の水滴による光の散乱に対応しています。これは雲や曇りの空の色を説明します。

一方,ka>>1,つまりλ<<aのような散乱はaを原子半径とする結晶内の束縛電子によるX線散乱があります。これはトムソン(Thomson)散乱ですが正しい考察は古典論でなく量子論でなされるべきです。束縛電子でなく自由電子による散乱ならコンプトン(Compton)散乱ですね。

今日はここまでにします。 

参考文献:砂川重信著「理論電磁気学」第2版(紀伊国屋書店

 

PS:さて,通学中のヘルパースクールでは10/21の授業から実習に入ります。 

 

 私自身は高齢者の介護の経験はありません。私はずっと縁がなくて,おカマではないけど故郷を出てから40年余り一人暮らしです。私の母は故郷の岡山県倉敷市にいて11月には89歳になる予定ですが,介護の必要はないようです。

 

 しかし,"知り合い=将棋友達や飲み友達"には生来の小児麻痺などの障がい者も数人いて,中には下肢が不自由な人もいて車椅子からトイレへの移乗,そして用を足した後には逆の移乗に手を貸す程度なら私も既に数え切れないくらいやったことがあります。

 

 むしろ,旅行などでは彼らの足を使わない運転で移動したことも多々あります。

 

 2年前の心筋梗塞が2回あった頃の心臓手術前後のわずかな入院期間だけですが,私自身が車椅子で移動したり,上半身がままならなくて電動ベッドに頼って起きたり寝たりしたこともあって,立ち上がるだけとか,ほんの1mくらいの移動でさえ辛いということも少しは理解できるつもりです。

 

 しかし,無関係の他人の介護は初めてなので,虚心坦懐に実習を受けたいと思います。ある意味,座学の講義よりも実習を受けることが主目的ですから。。

 

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2009年10月16日 (金)

光(電磁波)の散乱(1)

 太陽から地球に降り注ぐ"光=電磁波"が大気中の空気分子や雲の水滴などによって散乱され,その光の一部が反射されて宇宙へ引き返す現象を評価することを目的として電磁波の散乱を古典的に解析してみます。

電磁波が平面波として進行しているとき,その進行方向に障害物を置いたとします。このとき,平面波はこの障害物によって散乱されるはずです。こうした散乱に定量的な評価を与えることを考えます。

この種の問題は,近代物理学において重要な意味を持っています。

まず,真空中の電磁波の示す電場ベクトルと磁場ベクトルの6つの成分のうちの1つを取って,それをΦ(,t)と書くことにします。

これは,"障害物=散乱体"の外部では"波動方程式=ダランベール(d'Alembert)方程式":(△-∂2/∂t2)Φ(,t)=0 を満たします。ただしcは真空中の光速を表わしています。

特に,Φ(,t)が定在波の場合,つまり時間変動部分が角振動数ωが一定の波に変数分離されるΦ(,t)=exp(-iωt)ψ()なる形の波の場合には,方程式(△-∂2/∂t2)Φ(,t)=0 は方程式(△+ω2/c2)ψ()=0 に帰着します。

 

これは,ヘルムホルツ(Helmholtz)の方程式と呼ばれるの未知関数ψ()に対する偏微分方程式です。

当面の課題は,結局のところはヘルムホルツの方程式を電磁波の散乱問題に適した境界条件の下で解くことに帰着するので,その準備として(△+ω2/c2)ψ()=0 の一般解を求めておきます。

そのため,ヘルムホルツ方程式(△+ω2/c2)ψ()=0 の解ψ()をψ(r,θ,φ)として方程式を極座標表示で書くと,[(1/r)(∂2/∂r2)r+{1/(r2sin2θ)}{∂/∂θ(sinθ∂/∂θ)}+{1/(r2sin2θ)}∂2/∂φ2+k2]ψ(r,θ,φ)=0 となります。ただしk≡ω/cとしました。

散乱体を原点(r=0)のまわりに置き,z軸方向を極軸としてその方向に平面波が入射する問題を考えます。

さらに散乱体はz軸のまわりに対称な形をしているとすれば,ψは角度φには依存しませんから,ψ(r,θ,φ)をψ(r,θ)と書くと,元のヘルムホルツ方程式は,[(1/r)(∂2/∂r2)r+{1/(r2sin2θ)}{∂/∂θ(sinθ∂/∂θ)}+k2]ψ(r,θ)=0 となります。

これの一般解はPl(x)をl次のルジャンドル(Legendre)多項式としてψ(r,θ)=Σl=0l(r)Pl(cosθ)と級数で表わされます。ただし,動径rの関数Rl(r)は常微分方程式{d2/dr2+(2/r)d/dr+k2-l(l+1)/r2}Rl(r)=0 の解です。

さらに,Rl(r)≡r-1/2l(r)と置いてこれを上式に代入すると,dRl/dr=r-1/2dul/dr-(1/2)r-3/2l,d2l/dr2=r-1/22l/dr2-r-3/2dul/dr+(3/4)r-5/2lです。

 

それ故,動径の表わす方程式は{d2/dr2+(1/r)d/dr+k2-(l+1/2)2/r2}ul(r)=0 となります。

得られた方程式は,(kr)を変数としパラメータνが(l+1/2)のベッセル(Bessel)の微分方程式です。そこで,その2つの独立な解の1組としてJl+1/2(kr)(ベッセル関数),およびNl+1/2(kr)(ノイマン関数(Neumann))を取ることができます。

ただし,ノイマン関数はベッセル関数を用いてNn(x)≡{Jn(x)cos(nπ)-J-n(x)}/sin(nπ)と表現される関数です。

さらにRl(r)≡r-1/2l(r)においてul(r)=Jl+1/2(kr),およびul(r)=Nl+1/2(kr)の場合を考え,改めて2種類の球面ベッセル関数:jl(x)≡{π/(2x)}1/2l+1/2(x),およびnl(x)≡{π/(2x)}1/2l+1/2(x)を定義します。

また,球面ハンケル(Hankel)関数は,hl(1)(x)≡{π/(2x)}1/2[Jl+1/2(x)+iNl+1/2(x)],hl(2)(x)≡{π/(2x)}1/2[Jl+1/2(x)-iNl+1/2(x)]で定義されます。

そして,これらはjl(x)=(-x)l{(1/x)d/dx}l(sinx/x),nl(x)=-(-x)l{(1/x)d/dx}l(cosx/x),hl(1)(x)=(-x)l{(1/x)d/dx}l{exp(ix)/x}と表わされることもわかります。

すなわち,j0(x)=sinx/x,j1(x)=sinx/x2-cosx/x,j2(x)=(3/x3-1/x)sinx/x2-3cosx/x2,..,n0(x)=-cosx/x,n1(x)=-cosx/x2-sinx/x,n2(x)=-(3/x3-1/x)cosx/x2-3sinx/x2,..です。

よってx→ 0 のときには,jl(x)→{xl/(2l+1)!!}[1-x2/{2(2l+1)}+..],nl(x)→(2l-1)!!/xl+1で,hl(1)(x)→-i(2l-1)!!/xl+1,hl(2)(x)=→i(2l-1)!!/xl+1となります。

 

ここに(2l+1)!!≡(2l+1)(2l-1)(2l-3)..5・3・1,(2l-1)!!≡(2l-1)(2l-31)(2l-5)..5・3・1です。

このことから,nl(x)はx→ 0 に対して発散する関数であることがわかります。

一方,xが大きいところ,つまりx→ ∞での漸近形は,jl(x)→sin(x-lπ/2)/x,nl(x)→-cos(x-lπ/2)/x,hl(1)(x)→(-i)l+1exp(ix)/x,hl(2)(x)→il+1exp(-ix)/xとなります。

そして,z軸のまわりで対称なヘルムホルツ方程式の一般解はψ(r,θ)=Σl=0[Aljl(kr)+Bll(kr)]Pl(cosθ)で与えられることがわかります。

ラプラスの方程式Δχ(r,θ)=0 はヘルムホルツ方程式(Δ+k2)ψ(r,θ)=0でk2をゼロとしたものですから,解はχ(r,θ)=Σl=0[All+Bl-(l+1)]Pl(cosθ)です。

逆に言えば,ラプラスの方程式の解χ(r,θ)でrlをjl(kr)に,r-(l+1)をnl(kr)に置き換えさえすればヘルムホルツ方程式の解ψ(r,θ)が得られます。

特に,z方向へ進む平面波exp(ikz)=exp(ikrcosθ)については,レーリー(Rayleigh)の公式と呼ばれる展開式:exp(ikrcosθ)=Σl=0(2l+1)iljl(kr)Pl(cosθ)が成立することが知られています。

念のため,これを証明しておきます。

(証明)平面波ψ(r,θ)=exp(ikz)=exp(ikrcosθ)は明らかにヘルムホルツ方程式(Δ+k2)ψ(r,θ)=0 の1つの解ですから,exp(ikrcosθ)=Σl=0[Aljl(kr)+Bll(kr)]Pl(cosθ)なる形に展開可能です。

 しかも,左辺は原点r=0でexp(ikrcosθ)=1(有限)ですから,r=0でl≧0でnl(kr)→(2l-1)!!/(kr)l+1=∞ より全てのBl(l=0,1,2,..)はゼロでなければなりません。よってexp(ikrcosθ)=Σl=0ljl(kr)Pl(cosθ)と書けます。

それ故l=0(ikrcosθ)l/l!=Σl=0ljl(kr)Pl(cosθ)ですからr→ 0ではΣl=0(ikrcosθ)l/l!→ Σl=0[Al{(kr)l/(2l+1)!!}Pl(cosθ)と挙動します。

また,Pl(x)={1/(2ll!)}(dl/dxl)(x2-1)lです。したがってPl(cosθ)における(cosθ)lの係数は(2l)!/{2l(l!)2}です。

よってl=0(ikrcosθ)l/l!~Σl=0[Al{(kr)l/(2l+1)!!}Pl(cosθ)において (cosθ)lの項を等置すると,(ikrcosθ)l/l!=(2l)!Al/{2l(l!)2(2l+1)!!}(krcosθ)lとなります。これから,il=Al/(2l+1),すなわちAl=il(2l+1)を得ます。(証明終わり)

さて,波動が散乱される現象を記述するには一般に2つの方法が考えられます。

その1つは散乱体に向かって入射する波動を平面波の重ね合わせの波束であるとして,その波束が散乱体に衝突して散乱していく様子を時間的に追跡していく方法です。

これに対して,もう1つの方法は,現象全体を見て,それを1枚の写真に取って全体の様子を調べる方法です。このとき波動の流れが定常的なら,全体の様子はいつ写真を取るかという時間に関係しません。このような方法を定常的方法といいます。

ここでは,後者の方法を用いて散乱問題を取り扱うことにします。

波が散乱されていく全体を示す定常波は散乱体がある原点(r=0)近傍を除けば,方程式(Δ+k2)ψ()=0を満たします。

 

そこで,軸対称な散乱体による散乱問題は,ヘルムホルツ方程式の一般解ψ()=Σl=0[Aljl(kr)+Bll(kr)]Pl(cosθ)でそれに適合した境界条件を満たす未定係数Al,Blを決める問題に帰着します。

"z軸=極軸"の方向に平面波が入射したとして,それがr=0 にある散乱体によって散乱される様子を1枚の写真に取ったとします。

 

このときに見られる波動の全体は,散乱体から十分遠方では入射平面波と外向き球面波の両方の重ね合わせから成っています。

すなわち,r→ ∞での波動はψ()→ exp(ikz)+f(θ)exp(ikr)/rと表わされるはずです。

 

ここでf(θ)は散乱振幅(scattering amplitude),θは散乱角(scattering angle)と呼ばれる量に相当します。

問題を解く前に,散乱を調べることによって知ることができる物理量について知る必要があります。

まず,電磁場のエネルギーの流れ密度を表わすポインティングベクトル(Poynting vector)×です。は磁場の強さ(磁界)であり真空中では0です。

φをスカラーポテンシャル,をベクトルポテンシャルとすれば,=-∇φ-∂/∂t,B=∇×と表現されますが,真空中の電磁波なら電荷も電流もなく,特に∇=-∇2φ-∂∇/∂t=0 なのでクーロンゲージ∇=0 を取れば,∇=-∇2φ=0 となります。

そこで,φ=定数であり特にφ=0 としてもかまいません。それ故,だけを用いて=-∂/∂t,=∇×と書けます。

 

今の場合,電磁波は角振動数ωが一定の定常波ですからベクトルポテンシャルは複素表示で(,t)i()exp(-iωt)と書けます。

 

ここでは,の空間部分が実数になるようにの振幅を純虚数i()に取っています。

 

(,t)=ω()exp(-iωt),(,t)=ω{∇×()}exp(-iωt)です。

実際の電場,磁場は実数であって,それぞれRe,Reですから,そのポインティングベクトルは=Re×ReH=Re×Re0=(ω20){×(∇×)}cos2(ωt)で与えられます。

そこで,エネルギー流の実効値として時間平均を取れば,周期をT=2π/ωとして<cos2(ωt)>=(1/T)∫0Tcos2(ωt)=1/2なので,<>={ω2/(2μ0)}{×(∇×)}=(×*)/(2μ0)です。ただし< >は時間平均を示す記号です。

そこで,一般に"エネルギー流束=単位時間に単位面積を通過する平均エネルギー"は<||>=<|×*|/(2μ0)>で与えられます。

,考えている入射平面波:ψin()≡exp(ikz)は電場(,t)=ω()exp(-iωt)の空間部分:ω()を表わすものと考えます。

 

つまり,電場(,t)がx成分のみを持つように偏光しているとしてEx(,t)=ψin()exp(-iωt)とし,()は()=(ψin()/ω,0,0)で与えられるとします。

 

このとき,()=(exp(ikz)/ω,0,0)で(,t)=ω{∇×()}exp(-iωt)によって,磁場(,t)はy成分のみを持ちcBy(,t)=ψin()exp(-iωt)となります。なぜなら,kω=cです。

そこで,散乱問題において単位時間に単位面積を通って入射する電磁波のエネルギー流を特にinと書けば,平均の単位面積を通る入射エネルギーの率は<|in|>=<|×*|/(2μ0)>={1/(2cμ0)}|ψin|2=1/(2cμ0)です。

これに対して散乱波をψsc()≡f(θ)exp(ikr)/rと書き,単位時間にθ方向の面積要素dSを通って散乱される電磁波のエネルギーをscdSと書けば,<|sc|>dS={1/(2cμ0)}|ψsc|2dS={1/(2cμ0)}|f(θ)12dS/r2={1/(2cμ0)}|f(θ)|2dΩです。

 

ただしdΩ=dθdφは散乱体の中心からdSを見た立体角です。

そこで,単位時間に単位面積を通って単位エネルギーの電磁波が入射したとき,立体角dΩに散乱されて出てくる電磁波の単位時間当たりの平均エネルギーは,σ(θ)dΩ≡<|sc|>/<|in|>dS=|f(θ)|2dΩで与えられます。

上の式の比例係数σ(θ)は面積の単位を持っているのでσ(θ)を散乱の微分断面積(differential cross-section)と呼びます。

そして,σ≡∫σ(θ)dΩを散乱の全断面積(total cross-section)といいます。これは単位時間に単位面積を通って単位平均エネルギーの電磁波が入射したときに,散乱されて出てくる単位時間当たりの全平均エネルギーです。

全断面積は,直感的には散乱体の幾何学的断面積に相当するものですが,入射波の波動性のためこれらは一般には一致しません。

今日はここまでにします。

参考文献:砂川重信著「理論電磁気学」第2版(紀伊国屋書店)

  

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2008年1月 2日 (水)

ヤング(Young)の干渉実験(8)(量子論)終わり

皆様,新年あけましておめでとうございます。 

続きです。この項目については今日の記事で一応終わりにします。 

ここまでは,演算子が時間に依らず,時間依存性は全て"波動関数=状態"にしわ寄せさせるシュレーディンガー表示に基づいて論議を進めてきました。

 

しかし,量子場を記述する演算子を古典場との類似性と比較して類推で理解するには"波動関数=状態"の方が時間に依存せず,時間依存性は全て演算子にしわ寄せさせるハイゼンベルク表示の記述の方が便利なことが多いです。

そこで,原子-輻射系の定式化のハイゼンベルク表示による記述を求めてみます。

ハイゼンベルク表示の波動関数ΦHはシュレーディンガー表示の波動関数ΦS(t)とΦH=exp(it/hcS(t)=ΦS(0)なる関係式で結ばれています。

 

ここには系の時間に依存しないハミルトニアンでhc≡h/(2π)はプランク(Planck)定数です。

 

そして,もちろん,dΦH/dt=0 が成立します。

 

一方,時間に依存しないシュレーディンガー表示の演算子Oに対応するハイゼンベルク表示の演算子はOH(t)≡exp(it/hc)Oexp(-it/hc)で定義されます。

それ故,定義式の両辺を時間微分することにより,ihc{dOH(t)/dt}=[OH(t),]が演算子の従う運動方程式であることがわかります。これをハイゼンベルクの運動方程式といいます。

 

ハミルトニアン については[,]=0 が成り立つのはもちろんですから,ハミルトニアンなる演算子では常に(t)≡H(t)=であって,ハイゼンベルク表示でも時間依存性はありません。

 

一般に,ハミルトニアンと交換する演算子の表わす物理量であれば,それは全て時間依存性を持たないいわゆる保存量です。

"観測可能な量=物理量"の期待値はいずれの表示でも同じであるべきです。シュレーディンガー表示の時刻tでの演算子Oの期待値<O>t=<ΦS(t)|O|ΦS(t)>はハイゼンベルクの演算子OH(t)の期待値<O(t)>=<ΦH|OH(t)|ΦH>と一致します。

時刻tでのシュレーディンガー表示の密度演算子ρ(t)≡ΣSSS(t)><ΦS(t)|=ΣSSexp(-it/hc)|ΦS(0)><ΦS(0)|exp(it/hc)は,ハイゼンベルク表示ではρH(t)≡exp(it/hc)ρ(t)exp(-it/hc)=ΣSSS(0)><ΦS(0)|=ρ(0)です。

 

そこでdρH(t)/dt=0 であり, Heisenberg表示の密度演算子ρH(t)は実は時間に独立なので,これを単にρHと書きます。

 

そして混合状態でのOH(t)の期待値は<O(t)>=Tr(ρHH(t))ですが,これももちろんTr(ρ(t)O)と一致します。

後の計算の便宜のために,原子-輻射系に対して対象とする気体原子が実際に電磁相互作用による遷移に預かる2つの準位のみから成るという模型を設定し,それを用いてシュレーディンガー表示のハミルトニアンを簡単な形に表現しておきます。

そのために,基底状態|1>と励起状態|2>のみを持った原子を考察します。そしてハミルトニアンのうちの原子に関わる部分を簡単に表わすために遷移演算子π+≡|2><1|,およびπ≡|1><2|を導入します。

状態|1>,|2>は直交規格化されているとします。このとき,π+π=|2><2|,ππ+=|1><1|と書けて,それぞれ状態|1>,|2>の射影演算子になっています。

 

そして,完全系条件|2><2|+|1><1|=1はπ+π+ππ+=1を意味します。π+π+=ππ=0 が成り立つことも自明です。

そして,"エネルギーの基準=零点"を基底状態|1>の準位に取るなら,原子のハミルトニアンE E =hcω0|2><2|+0|1><1|=hcω0|2><2|=hcω0π+πと書けます。

 

つまりπ+,πは原子のエネルギー準位の"昇降演算子=生成消滅演算子"となっています。

一方,電気双極子近似の相互作用項はED=eDET(,0),ただし=Σi,jij|i><j|(ij≡<i||j>),T(,0)=iΣkΣλ{hcωk/(ε0V)}1/2εkλ[akλexp(ikR)-akλ+exp(-ikR)]です。

今の場合には,12++π)です。ただし,分極要素12,21は実数と仮定しており,2112としています。

 

故に,ED=iΣkΣλckλ[akλexp(ikR)-akλ+exp(-ikR)](π++π)と書けます。

 

ただし,記号を簡単にするために振幅部分をgkλ≡e(ωk/(ε0cV)}1/2εkλ12と定義しました。

さらに輻射光子のハミルトニアンR≡ΣkΣλcωkkλkλ+を加え,最後に消滅演算子が生成演算子より右にくるという正規順序積の規約を採用すると,シュレーディンガー表示での系の全ハミルトニアンはERED=hcω0π+π+ΣkΣλcωkkλkλ++iΣkΣλckλ+kλexp(ikR)-akλ+πexp(-ikR)]なる簡単な表式で与えられます。

このハミルトニアンのハイゼンベルク表示は,(t)=hcω0π+(t)π(t)+ΣkΣλcωkkλ(t)akλ+(t)+iΣkΣλckλ+(t)akλ(t)exp(ikR)-akλ+(t)π(t)exp(-ikR)]となります。

 

エネルギー保存則が破れるという現象は未だ発見されていませんから,近似ではなく完全なハミルトニアンなら,如何なる表示であろうとハミルトニアンは時間に依存しないはずですが,今の場合は近似ハミルトニアンであり,シュレーディンガー表示とハイゼンベルク表示のハミルトニアンはt=0 を除いて等しくありません。

そして,ihc{dOH(t)/dt}=[OH(t),]にOH(t)=π(t)を代入すると,ihc{dπ(t)/dt}=[π(t),]=hcω0π(t)-iΣkΣλckλ{2π+(t)π(t)-1}akλ(t)exp(ikR)です。

 

この方程式を形式的に積分すると,π(t)=exp(-iω0t)[π(0)-ΣkΣλkλ0t{2π+(t')π(t')-1}akλ(t')exp(ikR+iω0t')dt']となります。

同様に,ihc{dπ+(t)/dt}=[π+(t),]=-hcω0π+(t)-iΣkΣλckλ{2π+(t)π(t)-1}akλ+(t)exp(-ikR)より,π+(t)=exp(iω0t)[π+(0)-ΣkΣλkλ0t{2π+(t')π(t')-1}akλ+(t')exp(-ikR-0t')dt']です。

輻射の生成消滅演算子については,akλ(t)=exp(-iωkt)[akλ(0)-gkλ0tπ(t')exp(-ikR+iωkt')dt'],akλ+(t)=exp(iωkt)[akλ+(0)-gkλ0tπ+(t')exp(ikR-kt')dt']となります。

場の量子論的考察による近似計算の例として,半古典論扱いでは計算不可能な励起原子からの"光子の自然放出=自然輻射"を考えます。

基底準位と励起準位の2つの準位のみから成る任意の状態において,その状態の中に励起準位|2>が存在する程度は,"励起準位の射影演算子π+π=|2><2|"の"時刻tでのハイゼンベルク表示でのそれ=π+(t)π(t)"の期待値で与えられます。

 

これが従う運動方程式は,d{π+(t)π(t)}/dt=π+(t){dπ(t)/dt}+{dπ+(t)/dt}π(t)により,d{π+(t)π(t)}/dt=ΣkΣλkλ+(t)akλ(t)exp(ikR)-akλ+(t)π(t)exp(-ikR)}です。

右辺に近似解を代入する反復法によって,kλ2のオーダーまで正しい解を求めるため,輻射演算子に関するgkλのオーダーまで正しい表式を代入します。

 

π(t),π+(t)のゼロ次の近似:π(t)=π(t')exp{iω0(t-t')},π+(t)=π+(t')exp{iω0(t'-t)}を採用すれば,akλ(t)=exp(-iωkt)[akλ(0)-gkλπ(t)exp(-ikR+iω0t)∫0t exp{i(ωk-ω0)t'}dt'],akλ+(t)=exp(iωkt)[akλ+(0)-gkλπ+(t)exp(ikR-0t)∫0t exp{-i(ωk-ω0)t'}dt']と近似されます。

これによって,d{π+(t)π(t)}/dt=ΣkΣλkλ+(t)akλ(t)exp(ikR)-akλ+(t)π(t)exp(-ikR)}=ΣkΣλkλ+(t)akλ(0)exp(ikR-iωkt)-gkλπ+(t)π(t)∫0t exp{i(ωk-ω0)(t'-t)}dt']+[akλ+(0)π(t)exp(-ikR+iωkt)-gkλπ+(t)π(t)∫0t exp{i(ωk-ω0)(t-t')}dt']を得ます。

輻射場については,t=0 で光子がゼロの真空状態|0>にあるとすると,d{π+(t)π(t)}/dtの期待値は,d{<0|π+(t)π(t)|0>}/dt=-<0|π+(t)π(t)|0>ΣkΣλkλ20t [exp{i(ωk-ω0)(t'-t)}+exp{i(ωk-ω0)(t-t')}dt'= -<0|π+(t)π(t)|0>ΣkΣλ[2gkλ2sin{(ωk-ω0)t}]/(ωk-ω0)です。

 

結局,d{<0|π+(t)π(t)|0>}/dt ~ -<0|π+(t)π(t)|0>ΣkΣλ2πgkλ2δ(ωk-ω0) as t→∞ です。

これは,初期時刻t=0 に光子が全く存在しない状態で,時間と共に元々あった原子励起状態が減衰していく比率を示しています。

 

そして,吸収係数を2γ≡ΣkΣλ2πgkλ2δ(ωk-ω0)で定義すると励起状態の個数の期待値について,<0|π+(t)π(t)|0>=<0|π+π|0>exp(-2γt)なる指数減衰式が得られます。

 

これは光子の自発放出の過程を示していると考えられます。

さて,やっと本題のヤング(Young)の干渉実験を論じるための準備ができました。

まず,既に半古典論の項で実験の概略を述べたものを再掲します。

ヤングの干渉実験は,点光源から出たカオス光がレンズによってほぼ平行な平面波にされて右前方に進み,次に2つのスリットを備えた第1スクリーンを通過した後,その右側にある第2スクリーンの上で生じる干渉縞を観測するものです。

 

以下,光源は完全な点光源であると理想化され,光源が有限な直径を持つとか,ビームが完全には平行ではないなどの複雑さは無視します。

簡単のために光は1方向にだけ偏っているとして,観測スクリーンの位置における時刻tでの輻射の全横電場演算子をハイゼンベルク表示でET(,t)とします。

 

そして,都合上ET(,t)を2つの部分に分離し,ET(,t)=E+(,t)+E-(,t)と書きます。

 

+(,t)≡k{hcωk/(ε0V)}1/2kexp(-iωt+ikr),-(,t)≡k{hcωk/(ε0V)}1/2kexp(iωt-ikr)です。

この横電場は光速cによって定まるtより前の時刻t1,t2におけるスリット,あるいはピンホ-ル1,2での電場の重ね合わせです。

 

すなわち,形式的にはE±(,t)=u1±(1,t1)+u2±(2,t2)と書けます。

1,t2はs1,s2を,それぞれ光が第1スクリーン上の1,2から第2スクリーンまで到達するまでの距離とすると,t1≡t-s1/c,t2≡t-s2/cで指定される時刻です。

 

1,u2は球面波に対応して,それぞれs1,s2に逆比例する量です。 

古典論では,光ビームの強さI(,t)はポインティングベクトルの大きさ||で定義され,光の複素電場を(,t)とすると,I(,t)がサイクル平均を示すものと考えて,I(,t)=(1/2)ε0cη<|(,t)|2cなる表式で与えられます。

 

そして,結局*(,t)と(,t)の積の平均に比例する量として定義されます。

その結果,ヤングの干渉実験の半古典論では,ビーム強度は(,t)=(1/2)ε0c<|E(,t)|2c=(1/2)ε0c[|1|2<|E(1,t1)|2c+|2|2<|E(2,t2)|2c+21*2Re<E*(1,t1)(2,t2)>cで与えられるという結論を得ました。 

そして,<E*(1,t1)(2,t2)>c etc.のサイクル平均の時間平均を得るため,これをカオス光としての集団平均<E*(1,t1)(2,t2)>etc.で置き換えて,スクリーン上で得られる縞の濃淡を示す強度が()=<I(,t)>=(1/2)ε0νE02[|1|2+|2|2+21*2 exp(γ'|τ|)cos(ω0τ)]なる関数形で得られることを見ました。

 

ここで,τ=(s1-s2)/cは行路差,γ'は輻射や気体原子の衝突など種々の効果に起因する光の線幅を拡げる効果の総和です。 

一方,量子論では光子が初めに光子数の確定した状態|nk>にあったとするとき,例えばモード,λの1個の光子の吸収過程に関する遷移現象を電気双極子近似による摂動の1次の行列要素で近似すると<f|ED|i>=<nkλ1,i|e{+(,t)+-(,t)}|kλ,j>=e<nkλ-1|+(,t)|kλ><i||j>となります。

そこで,フェルミの黄金律による遷移速度は,1/τ=(2π/hc2i|<nkλ1|+(,t)|kλ|2|<i|e|j>|2δk(ij)2/(2mc))ρ(i)で与えられます。

 

そして遷移確率への光子部分の寄与は|<nkλ-1|+(,t)|kλ|2=<nkλ|-(,t)|kλ1><nkλ-1|+(,t)|kλ>=<nkλ|-(,t)+(,t)|kλ>と書けます。 

そこで,古典論のビーム強度に対応する量子論での光子強度演算子:I(,t)は古典論でのビーム強度I(,t)での,E*(,t)(,t)を演算子-(,t)E+(,t)で置き換えたものとして定義されます。 

そこで,量子論でのヤングの干渉実験の結論式は<(,t)>=(1/2)ε0c[|1|2<E-(1,t1)+(1,t1)>+|2|2<E-(2,t2)+(2,t2)c21*2Re<E-(1,t1)+(2,t2)>です。

 

ここで,< >は干渉実験の系の量子状態に対する位置,時刻tにおける期待値を表わしています。

 

このときの量子状態としては光子の数が1個,2個...に確定した個数状態や,個数が全く不定のコヒーレント状態(可干渉状態)などの純粋状態である場合よりも,これらが統計的に乱雑に混合した混合状態である場合のほうが多いので,上記の期待値< >は一般に密度行列ρH によって<E-(i,ti)+(j,tj)>(i,j=1,2)は<E-(i,ti)+(j,tj)>≡Tr(ρH-(i,ti)+(j,tj))と定義されます。

 

しかしながら,最終的に干渉縞の濃淡を示す強度が統計平均を取って()=<I(,t)>=(1/2)ε0νE02[|1|2+|2|2+21*2 exp(γ'|τ|)cos(ω0τ)]なる関数形で得られ,周波数の拡がりγ'に左右される,というヤングの干渉実験結果の性質の理論的性格は,統計的論議に関する部分は量子論だからといって,特に古典論(半古典論)と変わるところはないため,その内容に変化はありません。

 

古典論での電磁波が,量子論では1個,2個と数えられる光子という粒子の波,あるいは確率波に変わったといっても,それが光であれば我々には元々実体として光が波であるという意識がありますから,粒子性を持つにも関わらず干渉という波独特の現象を起こすことにもあまり違和感はないようです。

 

しかし電子のド・ブロイ波のような本格的な粒子の波という意味では,光も電子も量子としての本質には違いはないと頭では理解していても,やはり1個の電子という粒子が干渉するなどという現象は今でも依然として量子論の創生期の頃と全く変わることなく我々の拙い常識で理解するのはむずかしいものですね。

以上で,本連載は終わります。

参考文献:R.Loudon 著(小島忠宣,小島和子 共訳)「光の量子論(第2版)」(内田老鶴圃) 

 

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2007年12月30日 (日)

ヤング(Young)の干渉実験(7)(量子論)

光の干渉関連の記事の続きです。年の瀬も押し詰まっている状況なので記事が細切れ気味になってきています。 

"光子=輻射場"ではなく,気体原子(あるいは,原子を構成している電子)の方のハミルトニアンを,さらに"量子化=第2量子化"します。

孤立原子のハミルトニアンE=Σj=1Z{j2/(2m)}+(1/2)∫ρ(,t)φ(,t)dに対して,エネルギー固有値としてhcωi(ただし,hc≡h/(2π)はプランク定数)を持つ固有状態を|i>と番号付けすると,E|i>=hcωi|i>です。

 

そして,{|i>}が状態の完全系を張っているとすると,Σi|i><i|=1ですからE=Σi|i><i|EΣj|j><j|と書けます。

さらに,|i>は規格直交化されているとしEは|i>によって対角化されていると想定してかまわないので<i|E|j>=hcωiδijと書けるとしていいでしょう。そこでEE=Σicωi|i><i|と表現されます。

こうした変形操作の手続きを個数量子化あるいは第2量子化(場の量子化)と呼び,物理系の状態全体で構成される状態空間は個数状態|i>を基底とすることができて,その任意の状態が個数状態の重ね合わせだけでいくらでも精密に表現できる線形空間であるとする理論を場の量子論といいます。

 

こうした理論の元祖であり,特に光や電子の電磁的な系のみを扱う伝統的な理論は量子電磁力学(QED)と呼ばれています。

すなわち,このハミルトニアンの変形操作の手続きは,まず系を振動数ωiを持つ調和振動子の集まりと見て,番号iで分類される系のエネルギー固有状態のエネルギー準位を関連したある量子(粒子であり同時に波動であるような不思議な実体)の個数と同一視します。

 

各々の振動子のエネルギー固有状態を個数状態と呼び,エネルギーが励起されて準位が1つ上がることを量子が1つ生成されるといい,逆に準位が1つ下がることを量子が1つ消滅されるといい表わします。

 

こうした描像を可能にする量子力学の表示の変換を第2量子化の手続きと呼ぶわけです。

そして,原子のある固有状態|l>に|i><j|を作用させると|i><j|l>=δjl|i>ですから,演算子(作用素)|i><j|は状態|j>を消滅させて,状態|i>を生成するものです。

 

E=Σicωi|i><i|なる表現は,相互作用がなければ実質的な生成消滅がないことを示しています。

そして電気双極子近似で見た原子と輻射場(光子)の相互作用は,IED(t)=eDET(0,t)ですが,上述の変形操作に従えば=Σi|i><i|Σj|j><j|=Σi,jij|i><j|,ただしij≡<i||j>です。

 

それ故,IED(t)=eDET(0,t)=Σi,jijT(0,t)|i><j|と書けます。

また,クーロンゲージでの横光子の第2量子化された電場T(,t)は前の記事で既に述べたように,T(,t)=Σkk;k=i{hcωk/(ε0V)}1/2Σλεkλ[akλexp(-iωkt+ikr)-akλ+exp(iωkt-ikr)]なる形式で与えられることがわかっています。

しかし,より一般化して原子核は座標原点=0 にあるわけではなくて位置にあるとするなら,ED(t)=eDET(,t)と書けます。そこで,結局一般的にはED(t)=ieΣkΣλ{hcωk/(ε0V)}1/2εkλij[akλexp(-iωkt+ikR)-akλ+exp(iωkt-ikR)]|i><j|となります。

こうして"微細構造定数αの1次近似=電気双極子近似"であることを除けば,原子-輻射系のハミルトニアンを完全に第2量子化の言葉で表わすことに成功しました。

ここで,実際の単位時間当たりの"遷移確率=遷移速度"を求めるために時間に依存する摂動論を正しく定式化しておきます。

まず,系を記述する全ハミルトニアンは時間に陽には依存しないシュレーディンガー表示の2つの演算子の和として,01と表わされるとします。

 

ここで0は結合のない自由な電子(原子)と輻射の非相互作用ハミルトニアンです。一方,1はそれらの間の相互作用ハミルトニアンです。電気双極子近似なら1EDです。

 

全系01を結合系と呼ぶことにします。

ΦS(t)がシュレーディガーの波動方程式ΦS(t)=ihc{∂ΦS(t)/∂t}を満たす1つの解で,時刻tにおけるシュレーディンガーの波動関数を表わしているとしします。

 

この線型波動方程式を形式的に解くことにより,時刻t0での波動関数ΦS(t0)が時間発展して後の任意時刻t(t>t0)には,ΦS(t)になるという関係を,ΦS(t)=exp{-i(t-t0)/hcS(t0)なる表現として表わすことができます。

さて,ψfはエネルギーhcωfを持つ自由場のハミルトニアン0の固有関数(固有状態)であるとします。つまり,0ψf=hcωfψfが成立するものとします。

 

このとき,系が時刻tに状態ψfにあると観測される確率はψfとΦS(t)との"内積=重なり積分"の大きさの2乗|<ψfS(t)>|2=|<ψf| exp{-i(t-t0)/hc}|ΦS(t0)>|2で与えられます。

一方,時刻t0での初期の結合系の状態は,一般に0の固有状態の重ね合わせとして表わすことができます。

 

ψuを,0の固有状態の1つとして,0ψu=hcωuψuが成立つものとします。

 

"時刻t0には系が固有状態ψuにあった場合に,時刻tに系が固有状態ψfに見出される確率=始状態ψuから終状態ψfへの遷移確率"は|<ψf|exp{-i(t-t0)/hc}|ψu>|2で与えられます。

 

以下では,この遷移確率の表式を|<f|exp{-i(t-t0)/hc}|u>|2と簡略的に表記することにします。

そして,1つの始状態ψuから特定の終状態ψfへの遷移確率は,ほぼ経過時間に比例するので,"遷移速度=単位時間当りの遷移確率"を"遷移確率の時間微分=1/τ≡(d/dt)|<f|exp{-i(t-t0)/hc}|u>|2"によって定義します。

 

始状態ψuからいくつかの終状態ψfへの遷移が同時に観測されるような実験的状況,例えば実験が終状態のスピンを特定しないような場合には,1/τ≡(d/dt)[Σf|<f|exp{-i(t-t0)/hc}|u>|2] で遷移速度を定義します。

遷移速度のこの形式的な表式:1/τ≡(d/dt)[Σf|<f|exp{-i(t-t0)/hc}|u>|2]は,具体的に計算を実行するのに便利な形をしていません。

  

しかし,01において,1<<0の場合を想定しているので,遷移速度表示の右辺を1の高次項が急速に減衰するような,1の行列要素のベキ級数に展開すれば,より使いやすい近似計算が可能です。

 

つまり,exp{-i(t-t0)/hc}を1のベキで展開するわけです。

一般に,01は非可換なため,exp(-it/hc)≠exp(-i0t/hc)exp(-i1t/hc)ですから,この展開は簡単にはできません。

 

しかし,等式exp(i0t/hc)1exp(-it/hc)=(ihc)(d/dt)[exp(i0t/hc)exp(-it/hc)]が成立します。

 

そこで∫t0t exp(i01/hc)1exp(-i1/hc)dt1=(ihc)[exp(i0t/hc)exp(-it/hc)-exp(i00/hc)exp(-i0/hc)]が成立します。

  

それ故,exp(-it/hc)=exp(-i0t/hc)[exp(i00/hc)exp(-i0/hc)-(i/hc)∫t0t exp(i01/hc)1exp(-i1/hc)dt1]なる表現を得ることができます。

通常,t=-∞に初期定常状態が既に安定的に存在していたとして,初期時刻をt0=-∞に取ります。

 

時刻t=t0では1=0 ,つまり0ですが相互作用1のスイッチが断熱的にオンオフされる状況をexp(εt1)(ただしε→+0 )なる因子の挿入で表現すると,上の等式は,exp(-it/hc)=exp(-i0t/hc)[1-(i/hc)∫-∞t exp(i01/hc)1exp(εt1) exp(-i1/hc)dt1]なる形になります。

 

※(注)物理学では,計算式等が有限にならないとか数学的に定義できない場合,これを回避するために無限小のε>0 を便宜的に導入して計算完了後にε→+0 の極限を取るような操作が正当化されます。

 

この操作は,例えば電磁気学や散乱理論での遅延グリ-ン関数と先進グリーン関数の違いなどに関係しています。

 

すなわち,計算すべき散乱振幅などが解として従う微分方程式において,満たすべき境界条件の指定によって,結果が微妙に左右される場合の境界条件の選択方法と大いに関わっています。(注釈終わり)※

 

さて,<f|exp{-i(t-t0)/hc}|u>の1のベキ展開のゼロ次の項は<f|exp(-i0t/hc)|u>=exp(-iωut)<f|u>なる因子を持ちますが,遷移というからにはf≠u,つまり<f|u>=0 なので,ゼロ次の寄与はゼロになります。

1次の項は<f|exp(-it/hc)|u>=<f|exp(-i0t/hc)[1-(i/hc)∫-∞t exp(i01/hc)1exp(εt1)exp(-i1/hc)dt1]|u>の第2項の積分で,最右辺の0に変えたものです。

 

すなわち,-(i/hc)<f|exp(-i0t/hc)∫-∞tdt1exp(i01/hc)1exp(εt1)exp(-i01/hc)]|u>=-(i/hc)exp(-iωft)<f|1|u>∫-∞tdt1exp(iωf1+εt1-iωu1)={<f|1|u>exp(εt-iωut)/hc}/(ωu-ωf+iε)となります。

したがって,1次の項だけで遷移速度:1/τ=(d/dt)[Σf|<f|exp{-i(t-t0)/hc}|u>|2]を近似すると,1/τ=(d/dt)Σf[{|<f|1|u>|2exp(2εt)/hc2}/{(ωu-ωf)2+ε2}]=(2/hc2f[{|<f|1|u>|2εexp(2εt)/{(ωu-ωf)2+ε2}]となります。

ε→+0 の極限を取ると,1次近似では1/τ=(2π/hc2f{|<f|1|u>|2δ(ωu-ωf)}が得られます。

 

これは有名なフェルミの黄金律(Fermi's golden rule)です。

さらに2次の項は,第2項の積分で,最右辺のexp(-i1/hc)にこれの1次の近似項を代入すれば得られます。

 

すなわち,(-1/hc2)<f|exp(-i0t/hc)∫-∞tdt1-∞t1dt2exp(i01/hc)1exp(εt1)exp{-i0(t1-t2)/hc}1exp(εt2)exp(-i02/hc)]|u>です。

 

これに,完全系を示す式:1=Σl|l><l|を挟んで整理すると,-hc-2Σlexp(-iωft)<f|1|l><l|1|u>∫-∞tdt1-∞t1dt2exp{iωf1+εt1-iωl(t1-t2)+εt2+iωu1}=Σl[{<f|1|l><l|1|u>exp(2εt-iωut)/{(ωu-ωl+iε)(ωu-ωf+2iε)}}となります。

 

1次の項と2次の項の寄与の総和は,(1/hc){exp(εt-iωut)/(ωu-ωf+iε)}[<f|1|u>+(1/hcl{<f|1|l><l|1|u>/{(ωu-ωl+iε/2)}]です。

そこで,f≠uの2次までの近似で正しい遷移速度は,1/τ=(2π/hc2)[Σf{|<f|1|u>+(1/hcl{<f|1|l><l|1|u>/(ωu-ωl)}|2δ(ωu-ωf)}となって,フェルミの黄金律をより精密にした形になります。

2次の摂動計算のために便宜上挿入した完全系の式:1=Σl|l><l|において,導入されたエネルギーhcωlを持つ個々の状態|l>のことを中間状態(intermediate state),あるいは仮想状態(virtual state)と呼びます。

 

この"中間状態=仮想状態"においては,エネルギー保存則などの保存則が破れていてもかまいません。

 

実際,Σl{<f|1|l><l|1|u>/(ωu-ωl)なる中間状態|l>の寄与において,仮想状態ではなく正確にエネルギー保存ωl=ωuが要求される実状態なら,分母がゼロになって困る事態が起こります。

もっとも,こうした困難を回避するため,(ωu-ωl)の代わりに(ωu-ωl+iε)と置いて無限小の純虚数を導入し,計算結果は級数和でなく複素積分で表現されることも多いわけです。

 

そして,こうした中間状態の振幅への寄与の大部分が,ωu~ωlなるエネルギーが保存される実状態の近傍の状態に由来するのは,形から明らかなことです。

 

こうして仮想状態が許容されるのは,遷移現象における時間とエネルギーの不確定性原理:ΔEΔt~h/2,またはΔωΔt~1/2の反映と見ることもできます。

つまり,摂動論という便宜的な近似法の中にも量子論の本質である不確定性原理が現われているように見えるわけです。

この"中間状態=仮想状態"が光子の状態である場合には,このときの光子を現実に観測される実光子と区別して仮想光子と呼びます。

 

これも不確定性原理の反映として仮想光子の質量がゼロである必要はありません。

 

また,中間状態が光子状態ではなく質量を持った,例えばπ中間子の状態ならば,そのπ中間子は仮想π中間子と呼ばれます。

 

いずれにしても仮想状態の粒子の質量は,実際に観測される粒子の質量と一致する必要はなく,それ故仮想粒子と呼ばれるわけです。

そして,仮想粒子の質量は実粒子とは違って,観測時間Δtを短かく取れば-∞ ~+∞ の範囲の全ての値を取ることが可能です。

 

そのため,実粒子状態は"質量殻の上にある=オンシェル状態にある"といわれ,仮想粒子の状態は"質量殻の外にある=オフシェル状態"にあるといわれることがあります。

さて,電気双極子近似での原子のハミルトニアンはEED(t);E=Σicωi|i><i|,ED(t)=ieΣkΣλ{hcωk/(ε0V)}1/2εkλij[akλexp(-iωkt+ikR)-akλ+exp(iωkt-ikR)]|i><j|で与えられることがわかっています。

 

そこでΨ(t)を,状態を示す波動関数とするとき,原子に対するシュレーディンガーの波動方程式は,{EED(t)}Ψ(t)=ihc{∂Ψ(t)/∂t}と表わすことができます。

  この方程式は孤立原子のハミルトニアンEが時間に依らないシュレーディンガー表示の演算子であるのに対し,電気双極子相互作用ハミルトニアンED(t)が時間tに依存するハイゼンベルク表示という混合形式になっています。

 

この式を演算子が時間を陽に含まない,通常のシュレーディンガー表示のそれに変換するため,新しいシュレーディンガー表示の波動関数Φs(t)を,Φs(t)≡exp(-iRt/hc)Ψ(t)によって定義します。

 

ここで,R≡ΣkΣλcωkkλkλ+は輻射光子のハミルトニアンですが,本質には関わらない零点エネルギーは除いています。

これを先の波動方程式{EED(t)}Ψ(t)=ihc{∂Ψ(t)/∂t}に代入すると,{EED(t)}exp(iRt/hcS(t)=ihc(∂/∂t){exp(iRt/hcS(t)}=ihc exp(iRt/hc){(iR/hcS(t)+{∂ΦS(t)/∂t}です。

 

ここでERは可換なので,これは{ER+exp(-iRt/hc)ED(t)exp(iRt/hc)}ΦS(t)=ihc{∂ΦS(t)/∂t}となります。

ところが,陽な表式R≡ΣkΣλcωkkλkλ+を左辺の{ }の中の最終項:exp(-iRt/hc)ED(t)exp(iRt/hc)に代入すれば,exp(-iRt/hc)ED(t)exp(iRt/hc)=ieΣkΣλ{hcωk/(ε0V)}1/2εkλij[exp(-iRt/hc)akλexp(iRt/hc)exp(-iωkt+ikR)-exp(-iRt/hc)akλ+exp(iRt/hc)exp(iωkt-ikR)]|i><j|=ieΣkΣλ{hcωk/(ε0V)}1/2εkλij[akλexp(ikR)-akλ+exp(-ikR)]|i><j|となります。

つまり,exp(-iRt/hc)ED(t)exp(iRt/hc)=ED(0)です。

 

右辺のED(0)=ieΣkΣλ{hcωk/(ε0V)}1/2εkλij[akλexp(ikR)-akλexp(-ikR)]|i><j|は,時間に依存しない通常のシュレーディンガー表示の演算子なので,ED(0)を単にEDと表記すれば波動方程式は非常に簡単な形(EREDS(t)=ihc{∂ΦS(t)/∂t}に帰着します。

こうして,ERED はシュレーディンガー表示での系の全ハミルトニアンに相当します。そしてΦS(t)が系の正しい波動関数を示していることがわかりました。

 

そこで,0E,1RED,01と置いて,先に紹介した時間に依存する摂動論を適用すれば,原理的には完全に第2量子化された原子光子系の場の量子論の計算として,相互作用が電気双極子近似された場合の遷移速度等の計算を実行することができます。

さらに,それぞれ統計的重みPSを持って幾つかの純粋状態ΦS(t)が混合した混合状態における時刻tでの密度演算子をρ(t)≡ΣSSS(t)><ΦS(t)|=ΣSSexp(-it/hc)|ΦS(0)><ΦS(0)|exp(it/hc)とおきます。

  

すると,シュレーディンガー表示での演算子Oの時刻tにおける観測期待値は,<O(t)>=Tr(ρ(t)O)で与えられます。

もちろん,時間に依存する演算子である密度演算子ρ(t)はハイゼンベルク方程式に従います。すなわち,ihc(dρ/dt)=[,ρ]なる方程式に従います。

今年はここまでにします。

 

恐らく,この論題については来年早々終わりになると思います。あとほんの少しですから。。

 

では,来年もよろしく。。

参考文献:R.Loudon 著(小島忠宣,小島和子 共訳)「光の量子論(第2版)」(内田老鶴圃)

 

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2007年12月28日 (金)

ヤング(Young)の干渉実験(6)(量子論)

光の干渉関連の続きです。

前記事の最後で原子と電磁場との極小相互作用(minimal coupling)を含むクーロンゲージでの全体系のハミルトニアンが'={1/(2m)}Σj=1Z{j+e(j(t),t)}2+(1/2)∫ρ(,t)φ(,t)d+(1/2)∫(ε0T(,t)2+μ0-1(,t)2)dと表わされると書きました。

これの右辺の第2項:(1/2)∫ρ(,t)φ(,t)d=(-1/2)ε0∫φ(,t)∇2φ(,t)d=(1/2)ε0∫{∇φ(,t)}2=(1/2)ε0L2(,t)d={1/(2ε0)}∫L2(,t)dは,形の上では電荷による静電エネルギー,ρ(r,t)=-Σj=1Zeδ(j(t))+Zeδ(),およびφ(,t)={1/(4πε0)}{-Σj=1Z(e/|j(t)|)+Ze/r}を代入すればクーロン相互作用エネルギーを全て含んでいることがわかります。

この第2項は輻射場を含んでいないので,第2量子化されていても量子場の演算子を含んでいません。一方,第3項は原子の運動に関わるエネルギーを含まない"輻射場=横波光子"単独のエネルギーです。

結局,第1項のみが相互作用に関わる極小結合部分で,原子と輻射場の相互作用はint={e/(2m)}Σj=1Z{j(j(t),t)+(j(t),t)j}+{e2/(2m)}Σj=1Z(j(t),t)2で与えられます。

 

これ自身を用いた厳密な計算結果はゲージの選択によらないはずですが,実際の多くの計算はほとんど近似計算なのでベクトルポテンシャルによる表式ではゲージ依存になります。

そこで基本的には理論を不変に保つユニタリ変換を用いてハミルトニアンを便利な形に変えることを試みます。

すなわち,ユニタリ演算子:U^(t)≡exp[{i/(chc)}∫T(,t)(,t)d](ただし,hc≡h/(2π)はプランク定数)を定義します。

 

(,t)=0 なので,∫T(,t)(,t)d=∫(,t)(,t)dが成立します。(,t)=-eΣj=1Zj(t)∫01dλδ(-λj(t))を代入すると,U^(t)≡exp[(-ie/hcj=1Z01dλ{j(t)j(t),t)}]となります。

このU^(t)によって変換されたハミルトニアン=U^-1(t)'U^(t)と書けます。

 

一方,',に対応する波動関数を,それぞれψ',ψと書くとψ=U^(t)ψ'です。

j=-ihcjなる陽な表示によって,U^-1(t){j+e(j(t),t)}U^(t)=j-ej01dλ{j(t)j(t),t)}+e(j(t),t)となります。

  

(j(t),t)=∫01dλ[{1+j(t)j}j(t),t)],

 

故にU^-1(t){j+e(j(t),t)}U^(t)=j-e∫01dλ[j{j(t)j(t),t)}-{1+j(t)j}j(t),t)]です。

 

ところで,[{rA(,t)}-{1+r∇}(,t)]i=rkik-rkki=rk(∂ik-∂ki)=εikjkεjlmlm={×(,t)}i;(ただし,(,t)=×(,t))と書けます。

 

結局,U^-1(t){j+e(j(t),t)}U^(t)=j-e∫01dλ{λj(t)×j(t),t)}です。

同様に,U^-1(t)T(,t)U^(t)=T(,t)-(1/ε0)T(,t) etc.から,=U^-1(t)'U^(t)={1/(2m)}Σj=1Z(j-e∫01dλ{λj(t)×j(t),t)})2+(1/2)∫ρ(,t)φ(,t)d+(1/2)∫(ε0T(,t)2+μ0-1(,t)2)d+eΣj=1Z01dλ{j(t)Tj(t),t)}+{1/(2ε0)}∫T(,t)2です。

  

結局,変換前のハミルトニアンの中からゲージ依存のベクトルポテンシャルを追い出すことに成功しました。

電子の座標軌道j(t)はボーア半径aB=4πε0c2/(me2)程度の大きさを持っていると思われます。また,勾配演算子Tに作用するとき,それは輻射の波動ベクトル程度の大きさです。

そこで,前にVE(t)=eΣj=1Z[∫01dλj(t)(1+λj(t)∇+(1/2!){λj(t)∇}2+...)T(0,t)]=eΣj=1Zj(t)[1+(1/2!)j(t)∇+(1/3!){j(t)∇}2+...]T(0,t),

  

M(t)=eΣj=1Z01dλ[{j(t)×(dj/dt)}(1+λj(t)∇+(1/2!){λj(t)∇}2+...)(0,t)]=(e/m)Σj=1Z[j(t)((1/2!)+(2/3!)j(t)∇+(3/4!){j(t)∇}2+...)(0,t)]と表現しましたが,

  

そこで見たような,Tj(t),t)やj(t),t)の多極展開において,λの高次のベキの項は急激に減衰するはずです。

したがって,-e∫01dλ{λj(t)×j(t),t)}は第1項の磁気双極子項だけ残して-{e/(2m)}{mj(t)×(0,t)}で近似し,e∫01dλ{j(t)Tj(t),t)}は第1項の電気双極子項ej(t)T(0,t)と第2項の4重極子項(e/2)j(t){j(t)∇}T(0,t)をとって近似することにします。

このとき,近似ハミルトニアンを,改めてと書き,ERIと分解します。

 

E は孤立原子のハミルトニアンでE=Σj=1Z{j2/(2m)}+(1/2)∫ρ(,t)φ(,t)d,Rは輻射場のハミルトニアンでR=(1/2)∫(ε0T(,t)2+μ0-1(,t)2)dです。

 

そして,輻射場と原子の相互作用ハミルトニアンIをさらに4つに分けます。IEDEQMDNLです。

 

ここでEDEQ は電場との相互作用項で,ED=eΣj=1ZjT(0,t)=eDET(0,t)であり,eD=Σj=1Zjは電気双極子モーメントです。

 

また,EQ=(e/2)Σj=1Zj(t){j(t)∇}T(0,t)=-(∇Q)T(0,t)です。ここで,Q=-(1/2)Σj=1Zjjは電気4重極子モーメントです。

MDNLは磁場との相互作用項です。すなわち,MD =-{e/(4m)}Σj=1Z[j{j(t)×(0,t)}+{j(t)×(0,t)}j]={e/(2m)}MB(0,t)です。ただし,は角運動量の総和で≡Σj=1Zj=Σj=1Z{j(t)×j}です。

 

最後にNLは反磁性項と呼ばれ,NL={e2/(8m)}Σj=1Z{j(t)×(0,t)}2と表現されます。

j ~ aB4πε0c2/(me2),ω ~ ω0=(3/4)ωB=(3me4)/(128π2ε02c3),k~ω/cとして,各項のオーダーを評価します。

 

まず,ED ~ET(0,t){4πε0c2/(me)}です。次に∇T(0,t)~kET(0,t)=(ω/c)ET(0,t)により,EQ ~ET(0,t){3ehc/(16mc)}です。

一方,≡Σj=1Zj=Σj=1Z{j(t)×j}~hcと考えてMD ~ B(0,t){ehc/(2m)}~ET(0,t){ehc/(2mc)}です。

 

そこで,電磁相互作用の結合の大きさを特徴付ける無次元定数である微細構造定数α≡e2/(4πε0cc)~ 1/137を用いると,EQ ~ (3α/16)ED,MD ~(α/2)EDとなりますから,電気4重極子項EQと磁気双極子項MDは電気双極子項EDに比べてαの1次程度のオーダーになります。

以下では,電気双極子項EDに比べて電気4重極子項EQ,磁気双極子項MD,および非線形項の反磁性項NLを無視する電気双極子近似を採用してIEDとします。

 

 というのも後述の摂動論で述べるように状態ψif間の原子遷移に伴なって光子が放出,吸収される遷移速度は行列要素<ψf|Ii>の絶対値の2乗に比例するからです。

 電気双極子近似ではその対称性のために行列要素<ψf|Ii>がゼロになるような遷移の寄与が無視され,そうした遷移は禁止されることになります。

 

 例えばj は空間反転に対して符号を変えるので電気双極子相互作用e(ただし=Σjj)は奇のパリティ(偶奇性)を持つため,状態ψiとψfが互いに異なるパリティを持つ場合にみ,それらの間の遷移が許容されるわけです。

今日はこれで終わります。

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2007年12月25日 (火)

ヤング(Young)の干渉実験(5)(量子論)

ちょっと間があきましたが,光の干渉関連の続きです。

これまでは自由電磁場について述べてきましたが,完全な量子理論を得るためには原子と電磁場の相互作用の完全な議論を経由する必要があります。

原子番号がZの重い原子核が座標原点に事実上静止していて,Z個の電子が位置j(j=1,2,...Z)にある中性原子を考えます。

 

このとき素電荷をe>0 とすると,電荷密度ρと電流密度はρ(r,t)=-Σj=1Zeδ(j(t))+Zeδ(),(r,t)=-Σj=1Zj(t)δ(j(t));j(t)≡dj/dtです。

 

ここでδ(j)はδ(j)={1/(2π)3}∫exp{i(j)}dとフーリエ(Fourier)積分による表示もできます。

そして,今まで通りクーロンゲージ:∇(,t)=0 を採用するとスカラーポテンシャルはφ(,t)={1/(4πε0)}∫d'ρ(',t)/|'|で与えられます。

 

そこで,これにρ(r,t)=-Σj=1Zeδ(j(t))+Zeδ()を代入して,φ(,t)={1/(4πε0)}{-Σj=1Z(e/|j(t)|)+Ze/r}となります。

一方,ベクトルポテンシャルは(,t)={μ0/(4π)}∫d'T(',t')/|'| ;t'≡t-|'|/cに,電流密度(r,t)=-Σj=1Zj(t)δ(j(t)) ;j(t)≡dj/dtの横成分T(,t)を代入すれば得られるはずです。

ところで原子と電磁場の相互作用の記述には原子の電荷に関連した分極(,t)と磁化(,t)を用いた現象論的な表式を立てるのが都合がいいです。

 

すなわち,ρ(,t)=-∇(,t),(,t)=d(,t)/dt+∇×(,t)なる式を介して電荷密度や電流密度から逆に,これらの量を決定します。

一見してわかるように,これらを満たす(,t)と(,t)の解には任意性があります。

 

例えば,任意のベクトルは横成分と縦成分に分解できるので,ρ(,t)=-∇(,t)からは∇(,t)の縦成分しか決まりません。

 

すなわち,ρ(,t)=-∇L(,t)ですが,以前書いた式∇L=ρ/ε0と比較すると,定数の任意性を無視して,L(,t)=ε0L(,t)です。

 

また,(,t)=d(,t)/dt+∇×(,t)からは,(,t)の縦成分が決まりません。そして,これらを満たす(,t),(,t)の横成分の選択にも幅があります。

ここで,ρ(r,t)=-Σj=1Zeδ(j(t))+Zeδ(),(r,t)=-Σj=1Zj(t)δ(j(t));j(t)≡dj/dtを代入したρ(,t)=-∇(,t),(,t)=d(,t)/dt+∇×(,t)なる連立方程式に対して,次の形に書いた(,t),(,t)がその解になることを証明を省略して述べておきます。

すなわち,(,t)=-eΣj=1Zj(t)∫01dλδ(-λj(t)),(,t)=-eΣj=1Zj(t)×(dj/dt)∫01dλλδ(-λj(t))です。

 

解のこの積分形は便利であり相互作用エネルギーの多極展開がこれから導かれます。

すなわち,横電場T(,t)の中にある原子のポテンシャルエネルギーをVE(t)とすると,VE(t)=-∫(,t)T(,t)dr=eΣj=1Z01dλj(t)Tj(t),t)と書くことができます。

 

何故なら,静電場があってその中に1つの双極子があるときの静電エネルギーUはよく知られているように,U=-pEで,働く力は=-∇(pE)=-(∇)ですから,これはそれからのアナロジーです。

ところで,一般に任意のベクトル(,t)は,(,t)=T(,t)+L(,t);∇T(,t)=0 ,∇×L(,t)=0 と分割可能です。

 

(,t)={1/(2π)3}∫dV^(,t)exp(ir),T(,t)={1/(2π)3}∫dkV^T(,t)exp(ir),L(,t)={1/(2π)3}∫dkV^L(,t)exp(ir)とフーリエ展開すると,^(,t)=^T(,t)+^L(,t);kV^T(,t)=0 ,×^L(,t)=0 です。

そこで^T(,t)≡(,t)×,(kA(,t)=0),^L(,t)≡B(,t)と置くと,(,t)×+B(,t)^(,t)より,B(,t)=^(,t)/k2,(,t)=×^(,t)/k2

 

すなわち,T(,t)={1/(2π)3}∫d[({×^(,t)}×)/k2]exp(ir),L(,t)={1/(2π)3}∫d[({^(,t)})/k2]exp(ir)と書けます。

これを用いると,任意の2つのベクトル場(,t)と(,t)に対して∫T(,t)L(,t)d={1/(2π)3}∫d[({×^(,t)}×)({^(-,t)})/k4]により,∫T(,t)L(,t)d=0 が成立することがわかります。

したがって,VE(t)=-∫(,t)T(,t)dr=eΣj=1Z01dλj(t)Tj(t),t)においてVE(t)=-∫(,t)T(,t)dr=-∫T(,t)T(,t)dであり,積分に寄与するのは分極ベクトルの横成分T(,t)だけです。

しかし,とりあえず縦成分も含めた形でVE(t)=eΣj=1Z01dλj(t)Tj(t),t)の右辺の電場をテイラー展開するとVE(t)=eΣj=1Z[∫01dλj(t)(1+λj(t)∇+(1/2!){λj(t)∇}2+...)T(0,t)]=eΣj=1Zj(t)[1+(1/2!)j(t)∇+(1/3!){j(t)∇}2+...]T(0,t)となります。

 

ただし,[ ]内の各項での空間微分∇iの実行の後ではその都度j(t)をゼロと置く操作をします。これは電気ポテンシャルエネルギーに対して"原子の電荷分布の多極モーメントによる展開=多極展開"を行ったものです。

そして,展開の第1項eΣj=1Zj(t)T(0,t)は電場の中で原子内の原点にZeの原子核があってそのまわりにZ個の電子がある場合の全電気双極子モーメント:-e(t)≡-Σj=1Zjに対する電気双極子相互作用ハミルトニアン=eDEと等価です。

 

また,展開の第2項には電気4重極子モーメント:Q=-(1/2)Σj=1Zjjと電場の勾配との積が含まれています。

同様に,磁場(,t)の中における原子のポテンシャルエネルギーはVM(t)=-∫(,t)(,t)dr=eΣj=1Z01dλ[{j(t)×(dj/dt)}j(t),t)]で与えられます。

 

磁場には元々横成分しかありません。常に,div=0 なのでTなんですね。

 

右辺の磁場をテイラー展開するとVM(t)=eΣj=1Z01dλ[{j(t)×(dj/dt)}(1+λj(t)∇+(1/2!){λj(t)∇}2+...)(0,t)]=(e/m)Σj=1Z[j(t)((1/2!)+(2/3!)j(t)∇+(3/4!){j(t)∇}2+...)(0,t)]となります。ここにj(t)≡mj(t)×(dj/dt)は電子jの角運動量です。

ここでも展開の第1項(e/m)Σj=1Zlj(t)(0,t)は磁場の中で原子内の原点にZeの原子核があってそのまわりにZ個の電子がある場合の磁気双極子モーメント:-eM(t)≡-(1/2)Σj=1Z(e/m)jに対する磁気双極子相互作用ハミルトニアンM=eMと等価です。

 

また,展開の第2項には磁気4重極子モーメント:QM=-(2/3!)Σj=1Z(e/m)jjと磁場の勾配との積が含まれています。

ここで原子と電磁場との極小相互作用(minimal coupling)を含むクーロンゲージでの全体系のハミルトニアンをtotとすると,tot={1/(2m)}Σj=1Z{j+e(j(t),t)}2+(1/2)∫ρ(,t)φ(,t)d+(1/2)∫(ε0T(,t)2+μ0-1(,t)2)dと書けます。

ここまでが,丁度1年前心臓病が発覚したころの2006年12月段階で既に私が"勉強=読解"していた内容です。

 

これ以降は新しい項目になるのでたった1行の式をチェックするのさえ,ときには何日もかかる恐れがあるため,かなりスピードが落ちると思います。

 

その上,22日から風邪を引いてしまって治りません。

 

私の場合,単なる風邪でも,糖尿病かつ心臓病なので治りにくく,こじらせると命取りになるので,少し体に気を付けたいと思います。

今日はここで終わります。

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2007年12月15日 (土)

ヤング(Young)の干渉実験(4)(量子論)

ヤング(Young)の干渉実験の量子論の続きです。

電磁場(,t)の生成消滅演算子akλ+,akλによる陽なフーリエ(Fourier)展開の表現(,t)=Σk{hc/(ε0Vωk)}1/2εkλ[akλexp(-iωkt+ikr)+akλ+exp(iωkt-ikr)]とakλ+,akλの交換関係[akλ,ak'λ'+]=δkk'δλλ',[akλ,ak'λ']=[akλ+,ak'λ'+]=0 から,場の演算子や場の強さの演算子の様々な同時刻交換関係を計算することができます。

具体的計算の詳細を省略して結果だけ書きます。

 

まず,[ETi(,t),Aj(',t)]={ih/(2ε0V)}Σλ=12Σkεkiεkλj[exp{i(')}+exp{-i(')}]です。

 

ここでΣλ=12εkλiεkλj=δij(kij/k2)であり,しかも有限体積Vについての-空間での総和ΣkはV→ ∞では{V/(2π)3}∫dとなるので,結局[ETi(,t),Aj(',t)]=[ih/{ε0(2π)3}]∫dij-(kij/k2)}exp{i(')}となります。

右辺は積分を実行すると特異になり,初等関数では表現できません。そしてこの表式によれば,一般に(,t)=T(,t)+L(,t)をT(,t)と可換なベクトル場とするとき,∫d'[T(,t),(',t)(',t)]=(ih/ε0)T(,t)となります。

また,[ETi(,t),ETj(',t)]=[Bi(,t),Bj(',t)]=[Ai(,t),Aj(',t)]=[Bi(,t),Aj(',t)]=0 です。

 

さらに,[ETi(,t),Bj(',t)]=εijk[h/{ε0(2π)3}]∫dkexp{i(')}となります。

 

ここにεijkはレヴィ・チビタ(Levi-Civita)の反対称テンソルの記号です。

次に,状態ベクトル|nk1λ1,nk2λ2,nk3λ3..>=|nk1λ1>|nk2λ2>|nk3λ3>...=|{nkλ}>において,nk1λ1=nk2λ2=nk3λ3=...=0 なる状態を想定してこれを場の真空状態と呼ぶことにします。

 

この状態は励起状態ではないにも関わらず,全エネルギーがゼロではないという興味深い性質を持っています。

つまり,状態|{nkλ}>に対するrad=Σk[hcωk(akλ+kλ+1/2)]のエネルギー固有値はε{nkλ}=Σkεkλ=Σk[hcωk(nkλ+1/2)]ですから,nk1λ1=nk2λ2=nk3λ3=..=0 なる真空状態の全エネルギーはε0=Σk(hcωk/2)となって,ゼロではなく無限大です。

 

このε0を零点エネルギーと言います。

しかし,幸いなことに実験と比較される理論的な量は真空状態からの差で与えられ,それらは有限な値なので零点エネルギーが無限大であっても大して困らないことがわかっています。

 

すなわち,例えば実際のエネルギーの観測値はε{nk,λ}-ε0≡Σkkλcωkで与えられることになります。

ここで,特定のモード,λのみを持つ電磁場に着目します。

 

この条件下では電場,磁場はスカラーで表現できます。

 

このとき光波の古典論では,これは複素電場E(z,t)=E0exp(ikz-iωt+iφ)で表現されますが,たった今与えた量子論での実電場表現に対応するものはE(,t)=(E0/2){exp(-iωt+ikr+iφ)+exp(iωt-ikr-iφ)}です。

量子力学においてもこうした古典論に類似した表現方法を実行する場合には,位相概念をとり入れる必要があります。

 

量子論での単一モードの電場演算子は先に与えたk=i{hcωk/(ε0V)}1/2Σεkεkλ[akλexp(-iωkt+ikr)-akλ+exp(iωkt-ikr)]によって,E(,t)=i{hcω/(ε0V)}1/2[aexp(-iωt+ikr)-a+exp(iωt-ikr)]です。

これと古典論の表示との対比から量子論の消滅演算子aは規格化因子を除けば古典論の極限で位相因子:exp(iφ)に比例する量であると想像されます。

 

そして演算子としてaa+=a+a+1=n^+1 (n^はエルミート)なる等式が成立するので形式的にa≡(n^+1)1/2exp^(iφ)と定義すれば,exp^(-iφ)≡exp^(iφ)+と定義するとき,a+=exp^(-iφ)(n^+1)1/2となります。

 

これらはexp^(iφ)=(n^+1)-1/2a,exp^(-iφ)=a+(n^+1)-1/2と同等で,exp^(iφ)exp^(-iφ)=1が成立します。

しかし,exp^(-iφ)exp^(iφ)=1は成立しません。それ故,exp^(iφ)はあるエルミートな位相演算子:φ^の指数関数と同一視することはできません。

 

その意味で,exp(iφ^)と表記せず,exp^(iφ)と表記したわけです。

exp^(iφ)|n>=(n^+1)-1/21/2|n-1>ですから,n≠0 ならexp^(iφ)|n>=|n-1>,n=0 ならexp^(iφ)|n>=0 です。

 

同様にexp^(-iφ)|n>=|n+1>です。

 

そこで,演算子exp^(iφ)とexp^(-iφ)のゼロではない行列要素は<n-1|exp^(iφ)|n>=1(n≠0),および<n+1|exp^(iφ)|n>=1のみです。

これら,exp^(iφ),exp^(-iφ)は先に述べたようにエルミート演算子ではありません。

 

しかし,形式的三角関数:cos^φ≡(1/2){exp^(iφ)+exp^(-iφ)},sin^φ≡(-i/2){exp^(iφ)-exp^(-iφ)}を作ると,これらはエルミートです。

 

そしてこれらの演算子のゼロでない行列要素は<n-1|cos^φ|n>=<n|cos^φ|n-1>=1/2,<n-1|sin^φ|n>=-<n|sin^φ|n-1>=-i/2 のみです。

 

演算子cos^φ,sin^φはエルミートなので,これらを位相と関連した観測可能な物理量として採用することができます。

そうして,[cos^φ,sin^φ]={a+(n^+1)-1a-1}/(2i)と書けます。それ故,[cos^φ,sin^φ]の行列要素のうちでゼロでないものは<0|[cos^φ,sin^φ]|0>=-1/(2i)のみです。

 

また,交換関係:[n^,a]=-a,[n^,a]=aを用いると,[n^,cos^φ]=-isin^φ,かつ[n^,sin^φ]=icos^φが成立することがわかります。

したがって,個数演算子n^と位相演算子は可換ではなく,これらの演算子が同時に固有状態となるような輻射場の状態を作ることは原理的には不可能である,ということになります。

 

すなわち,不確定性関係としてΔnΔcosφ≧(1/2)|<sin^φ>|,ΔnΔsinφ≧(1/2)|<cos^φ>|が成立します。

例えば単一モードの1個の光子が確定した位相を持つことは不可能です。正確にn個の光子が励起されている単一モードの個数状態はその電磁場に伴なう調和振動子のエネルギー固有状態です。

 

個数状態はそのモードに関する非常に便利な完全系を作っていて,それはまた簡単な性質を有しています。

実際の光源では生成される電磁場は光子数が一定ではないので,通常はこうした個数確定の状態は実験の解釈にとって直接重要ではありませんが,以下,簡単に個数状態の特徴を述べておきます。

|n>に対しては明らかにΔn=0 です。そして<n|cos^φ|n>=<n|sin^φ|n>=0 で<n|cos^2φ|n>=<n|sin^2φ|n>=1/2(n≠0),1/4(n=0)です。そこでΔcosφ=Δcosφ=(1/2)1/2(n≠0),1/2(n=0)です。

 

また,電場とその2乗期待値はE=i{hcω/(ε0V)}1/2[aexp(-iωt+ikr)-aexp(iωt-ikr)]より,<n|E|n>=0 ,<n|E2|n>={hcω/(ε0V)}(n+1/2)になります。

 

したがって電場の根平均2乗偏差はΔE={hcω/(ε0V)}1/2(n+1/2)1/2です。

古典論ではE(,t)=(E0/2){exp(-iωt+ikr+iφ)+exp(iωt-ikr-iφ)}=E0cos(ωt-kr-φ)なので,<E2c=E02/2ですから対応原理によって,量子論でのn光子個数状態:|n>の電磁波は振幅がE0={2hcω/(ε0V)}1/2(n+1/2)1/2の古典波に相当することがわかります。

単一モードの状態で物理的に重要なのは,個々の個数状態ではなくそれら個数状態|n>の1次結合,重ね合わせで与えられる状態です。

 

可能な重ね合わせ状態は無数にありますが,特に重要なのは次に定義されるコヒーレント状態(coherent states)と呼ばれるものです。

すなわち,|α>≡exp(-|α|2/2)Σnn/(n!)1/2}|n>で定義される状態をコヒーレント状態と呼びます。この定義でのαは一般に複素数でコヒーレント状態はαの実部と虚部の値の連続的な範囲で2重に連続な状態です。

 

容易にわかるように<α|α>=exp(-|α|2n{|α|2n/(n!)}=1が成立しますから|α>は規格化されています。

しかし,2つの異なる複素数α,βに対して<α|β>=exp(-|α|2/2-|β|2/2+α*β)となるので,2つの状態は直交しません。

 

かくして,全ての|α>が独立であるというわけでははなく,個数状態:|n>よりもコヒーレント状態|α>の方がはるかに数が多いということがわかります。

 

つまり,集合{|α>}は調和振動子に対する状態の超完全系を作っていて直交性がありません。

 

しかし,|<α|β>|2=exp(-|α|2-|β|2)となるので|α-β|>>1のときには|α>と|β>は近似的に直交しています。

コヒーレント状態|α>に対し,a|α>=exp(-|α|2/2)Σnn/(n!)1/2}n!1/2|n-1>=α|α>が成立するので,|α>は消滅演算子aの固有値αに属する固有状態となっています。しかし,コヒーレント状態|α>は生成演算子a+の固有状態ではありません。

 

また,|n>=(n!)-1/2(a+)n|0>なる表現を用いると|α>=exp(-|α|2/2)Σnn/(n!)1/2}|n>=exp(αa-|α|2/2)|0>=exp(αa-α*a)|0>とも書けます。

次にコヒーレント状態の性質を挙げます。 

まず,<n>=<α|n^|α>=|α|2です。一方,<n2>=<α|n^2|α>=|α|4+|α|2ですから,根平均2乗偏差はΔn=[<n2>-|<n>|2]1/2=|α|=|<n>|1/2と書けます。

 

つまり,複素数αに対応するコヒーレント状態|α>の平均光子数は|α|2であり,不確定さは平均光子数の平方根に等しいわけです。そこでこの空洞モードでの不確定さの比率(ratio)はΔn/|<n>|=1/|α|=1/|<n>|1/2となります。

 

これは光子数の不確定さの度合いが,"光子数の増加=励起の増大"と共に減少していくことを示しています。

そして,コヒーレント状態|α>における観測において実際にn個の特定の光子数が見出される確率は|<n|α>|2=exp(-|α|2){|α|2n/n!)となります。

 

これは光子数の平均値|α|2のまわりのポアソン分布を示しており,コヒーレント状態は確率的には非常に有りそうな状態であることがわかります。

コヒーレント状態|α>における位相演算子の期待値はα=|α|exp(iθ)のとき,<α|cos^φ|α>=|α|cosθexp(-|α|2n[|α|2n/{n!(n+1)1/2}]~ cosθ{1-1/(8|α|2)+...}(|α|2>>1),<α|cos^2φ|α>=1/2-(1/4)exp(-|α|2)+|α|2(cos2θ-1/2) exp(-|α|2n[|α|2n/{n!(n+1)1/2(n+2)1/2}]~ cos2θ-(cos2θ-1/2)/(2|α|2)-...(|α|2>>1)となるので,(Δcosφ)2~ (1-cos2θ)/(4|α|2)={sinθ/(2|α|)}2,Δcosφ~ sinθ/(2|α|)(|α|2>>1)です。

それ故,コヒーレント状態|α>での不確定性関係は平均光子数が大きいとき,つまり|α|2>>1のとき,ΔnΔcosφ~ sinθ/2 (|α|2>>1)となります。一方,<α|sin^φ|α>~ sinθ(|α|2>>1)ですから,ΔnΔcosφ=(1/2)<α|sin^φ|α>=(1/2)|<sin^φ>|が成立しています。

 

これはコヒーレント状態が先に与えた不確定性原理のΔnΔcosφ≧(1/2)|<sin^φ>|で許される不確定積の最小値を取る場合に相当しており,古典的に最もコヒーレント(coherent:可干渉)な状態に対応していることを示しています。

コヒーレント状態|α>での電場演算子E=i{hcω/(ε0V)}1/2[aexp(-iωt+ikr)-a+exp(iωt-ikr)]の期待値は<α|E|α>=-2{hcω/(ε0V)}1/2|α|sin(ωt-kr+θ),<α|E2|α>={hcω/(ε0V)}[4|α|2sin2(ωt-kr+θ)+1]です。したがって電場の根2乗平均偏差はΔE={hcω/(ε0V)}1/2です。

<α|E|α>=-2{hcω/(ε0V)}1/2|α|sin(ωt-kr+θ)=2{hcω/(ε0V)}1/2|α|cos(ωt-kr+θ+π/2)を古典論のE=E0cos(ωt-kr-φ)と比較すると,E0=2{hcω/(ε0V)}1/2|α|なる古典波に相当することがわかります。

 

そしてθをθ=-π/2と取れば<α|E|α>=2{hcω/(ε0V)}1/2|α|cos(ωt-kr)=E0cos(ωt-kr)となりα=|α|exp(iθ)=-i|α|です。

これまでは空洞内の輻射場の量子状態が状態の完全系の1次結合として表現される,いわゆる純粋状態として表現される場合のみを考察してきましたが,一般にカオス光源から出た光ビームの電場は古典論では一定の振幅と位相の古典的安定波ではなく,これらが特定の値を持つ確率のテーブルによって指定され得るのみです。

 

この状況は量子論でも同様で,カオス光源の性格上,輻射された場の状態の明確な予測は不可能であり,確率的既述のみが可能です。

 

こうした情報の欠如のために確率的性格を持つ量子状態は統計的混合状態と呼ばれます。

すなわち,カオス光源によって発生する光では場の状態が純粋状態|R>にある既知確率がPRで与えられるような空洞輻射場であると設定されます。

 

これの例としてはプランクの黒体輻射の法則を導く段階で,熱励起された光子がエネルギーEn=hcω(n+1/2)を持つ状態|n>にある確率がPn=exp{-En/(kBT)}/[Σnexp{-En/(kBT)}]で与えられるとされるケースがあります。

 

このPnは混合状態を指定する確率PRの1例です。

状態間がエンタングルしていない混合状態では,量子力学の観測量Oの期待値は集団平均として<O>=ΣRR<R|O|R>;ΣRR=1で与えられますが,完全系を{|S>}として右辺に等式1=ΣS|S><S|を挿入すれば<O>=ΣRΣSR<S|R><R|O|S>=Tr(ρO)となります。

ここで"密度演算子=密度行列 or 統計作用素"をρ≡ΣRR|R><R|で定義しました。

 

さらに"物理量=エルミート演算子X"の"対角和=トレース(trace or spur)"ΣS<S|X|S>に対する表記として一般的な記号Tr(X)を用いました。

 

Tr(X)=ΣS<S|X|S>=ΣT<T|X|T>であり,対角和の値は完全系{|S>},{|T>}の選択に依らないことは簡単にわかります。

また,Tr(ρ)=1でTr(ρ2)=ΣRR2≦(ΣRR)2=1より,Tr(ρ)≦1ですが,特に確率がPR=1で完全に状態|R>にある純粋状態では,ρ=|R><R|なのでρ2=ρですから,純粋状態ならTr(ρ2)=1です。

完全系を個数状態{|n>}に取ってρ=Σnn|n><n|とし,確率PnをPn=exp{-nhcω/(kBT)}/[Σnexp{-nhcω/(kBT)}]で与えると,ρ=[1-exp{-hcω/(kBT)}]/[Σnexp{-nhcω/(kBT)}]|n><n|となります。

 

そして平均光子数<n>はO=n^=a+aの期待値ですから,<n>=Tr(ρa+a)ですが,これを用いるとρ=Σnn|n><n|=Σn[<n>n/(1+<n>)n+1]|n><n|,あるいはρ=[1-exp{-hcω/(kBT)}]exp{-hcωa+a/(kBT)}と書けます。

単一モードではなくて全モードの完全系{|{nkλ}k>}を考えた一般的な場合なら,密度演算子はρ=Σ{nkλ}{nkλ}|{nkλ}><{nkλ}|となり,確率はP{nkλ}=Πk[<nkλkλ/(1+<nkλ>)kλ+1]です。熱励起の空洞輻射の場合なら<nkλ>は<nkλ>=1/[exp{hcωk/(kBT)}-1]と陽に表現できます。

これらは熱励起の空洞輻射現象に限らず,統計的性質が適当にランダムである広範な励起光子の現象にも当てはまります。

 

したがってカオス光源から発生した光ビームの場合であっても,上述の混合状態での密度行列ρの表現を採用できます。

そして,<nkλ>ωkの大きさをωkに関しての分布がローレンツ型の依存性を持つように取れば,ρ=Σ{nkλ}Πk[<nkλkλ/(1+<nkλ>)kλ+1]|{nkλ}><{nkλ}|はカオス光源から出たローレンツ型周波数分布の光ビームに対する正しい密度演算子になります。

カオス光と結びついた型の光子のランダムな励起に対してはρ=Σn[<n>n/(1+<n>)n+1]|n><n|なる単一モードの密度演算子は光子数(励起準位)のゆらぎの時間尺度について何の情報も与えません。

 

しかし,一般に実験的な平均はゆらぎの時間尺度に比べて十分長い時間にわたる一連の測定結果に従って計算する必要があります。

"2個=1対"の空洞モードを持つ同じ偏りの2個の光子の電場は古典的にはE(z,t)=E1exp(ik1z-iω1t)+E2exp(ik2z-iω2t)ですが,これに類似の2光子モードの量子力学的記述は密度演算子ρ=|α1>|α2><α2|<α1|を持つ純粋状態です。

今日はここで終わります。 

参考文献:R.Loudon 著(小島忠宣,小島和子 共訳)「光の量子論(第2版)」(内田老鶴圃)

   

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2007年12月 9日 (日)

ヤング(Young)の干渉実験(3)(量子論)

ヤング(Young)の干渉実験の量子論の続きです。

まず,前記事の終わりの部分を再掲します。

自由場の波動方程式は□2(1/c2)(∂2/∂t2)=0 です。電磁場の量子化はポテンシャル:(,t)を量子力学の演算子と読み換えることから始まります。

簡単のために,便宜上,1辺がLの立方体空洞の中の電磁場を想定し,しかも周期的境界条件を満たすとします。こう設定しても一般性を失なうわけではありません。

 

このとき波動方程式の解は(,t)=Σk[k(t)exp(ikr)+k*(t)exp(-ikr)]とフーリエ級数で表現されます。

 

ここで周期的境界条件を満たす波動ベクトル:k=(kx,ky,kz)は,kx=2πνx/L,ky=2πνy/L,kz=2πνz/L(νxyz=0,±1,±2,±3,..)で与えられます。

 

クーロンゲージの条件:∇(,t)=0 はkAk(t)=0 であれば満たされます。

(,t)の相異なるフーリエ成分k(t)は互いに独立であり,個別に波動方程式を満たす必要があります。

 

すなわち,2k(t)+(1/c2)(d2k(t)/dt2)=0 です。これの複素共役k*(t)も同じ方程式を満足します。

ωk≡ck≡c||と置いたとき,k,k*の満たす方程式:d2k/dt2=-ωk2kは,通常の単振動,あるいは調和振動の方程式を表わしています。

 

そこで電磁場を量子力学における調和振動子の集まりとみなすことで,これを量子化できます。

k(t)=kexp(-iωkt)と表わせば,(,t)=Σk[kexp(-iωkt+ikr)+k*exp(iωkt-ikr)]と書けます。

ここからが,今日の記事の始まりです。

単一のモードのサイクル平均のエネルギーをεkとすると,k,kが実電場,実磁場であるとするとき,εk=(1/2)∫(空洞)<ε0k2+μ0-1k2cdVです。

ベクトルポテンシャルのフーリエ展開:(,t)=Σk[kexp(-iωkt+ikr)+k*exp(iωkt-ikr)]によれば,電場は(,t)=-(∂(,t)/∂t)=Σk(iωk)[kexp(-iωkt+ikr)-k*exp(iωkt-ikr)]=Σkk(,t),磁場は(,t)=∇×(,t)=Σk[i×{kexp(-iωkt+ikr)-k*exp(iωkt-ikr)}]=Σkk(,t)となります。

そこで,電場のフーリエ成分:kk(,t)と磁場のフーリエ成分:kk(,t)は,k=(iωk){kexp(-iωkt+ikr)-k*exp(iωkt-ikr)},およびk=i×{kexp(-iωkt+ikr)-k*exp(iωkt-ikr)}と表現されます。

実電場の意味でのkでは<k2c=ωk2kk*であり,実磁場の意味でのkでは<k2c=k2kk*=(ωk/c)2kk*です。

 

したがってεk=(1/2)∫(空洞)<ε0k2+μ0-1k2cdV=ε0Vωk2kk*となります。

 

ここにV≡L3は立方体空洞の体積(volume)です。

2006年7/22の記事「黒体輻射(空洞輻射)と空洞の形状」 http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2006/07/post_ba23.html において証明したように,輻射の分布やその性質はここで仮定した立方体形状やその1辺の長さLと関わる特殊な周期的境界条件の選択とは無関係であり,ただ空洞の大きさが有限であって体積がVであるということのみが場にとって本質的です。つまり,特定な形状の選択によって一般性は失われません。

ここで,k(2ε0Vωk2)-1/2Σλ=12kkλ+iPkλ)εkλ,k*≡(2ε0Vωk2)-1/2Σλ=12kkλ-iPk)εkλと置きます。

 

εkλεkλ=0,|εkλ|=1なるに垂直な横波の偏光(偏り or 偏極)を示す2つの独立な単位ベクトルです。

 

そしてkk*≡(2ε0Vωk2)-1Σλ=12(Pkλ2+ωk2kλ2)となり,モードエネルギーはεk=(1/2)Σλ=12(Pkλ2+ωk2kλ2)となります。これは単位質量を持つ位置座標:Qkλ,運動量座標:Pkλを持つ通常の古典的1次元調和振動子のエネルギーの形になっています。

そこで,"総エネルギー=電磁場全体のハミルトニアンrad"はrad=(1/2)∫(空洞)<ε02+μ0-12cdV=Σkεk=(1/2)Σλ=12(Pkλ2+ωk2kλ2)となります。

ここで量子力学における1次元調和振動子の理論を復習します。

 

単位質量を仮定すると1次元調和振動子のハミルトニアンはqを位置演算子,pを運動量演算子として=(p2+ω22)と書けます。

 

そしてp,qは通常の交換関係:[q,p]=ihcに従います。(ただしc≡h/(2π)はプランク定数です。)

,qに代わる1対の演算子a,a+をa≡(2hcω)-1/2(ωq+ip),a+≡(2hcω)-1/2(ωq-ip),あるいは逆にq≡{hc/(2ω)}1/2(a+a+),p≡{hc/(2ω)}1/2(a-a+)によって定義します。

 

これからa+a=(hcω)-1(-hcω/2),かつaa+=(hcω)-1(+hcω/2)が得られます。

したがって,[a,a+]=1,=hcω(a+a+1/2)と書けます。

 

ここで個数演算子n^をn^≡a+aによって定義すれば=hcω(n^+1/2)です。

固有値nに属する のエネルギー固有状態を|n>とします。すなわち, |n>=hcω(a+a+1/2)|n>=En|n>です。

 

このときa+ |n>=hcω(a+aa+-a++a+/2)|n>=En+|n>です。

 

故に,hcω(a+a+1/2)a+|n>=+|n>=(En+hcω)a+|n>となります。そこで,|n+1>≡a+|n>,En+1≡En+hcωと定義すると,上式は|n+1>=En+1|n+1>と書けます。

同様に,a|n>=(En-hcω)a|n>です。そこで,|n-1>≡a|n>,En-1≡En-hcωと定義すると,上式は|n-1>=En-1|n-1>とあります。

それ故,準位のはしごが等間隔hcωで上下に伸びていくという描像になります。

 

しかし,<ψ| |ψ>=<φ|φ>+(1/2)<ψ|ψ>,|φ>≡a|ψ>であって,状態ベクトルの空間では状態|ψ>のノルムは|ψ|≡<ψ|ψ>1/2≧0 で定義され,<ψ|ψ>は非負の値を取るはずですから,<ψ| |ψ>≧0 です。

 

つまり,ハミルトニアンは演算子,あるいは行列として正値なので,その期待値は負になることはありません。したがってその固有値も非負で下に有界です。

そこで"の固有値=エネルギー固有値"の最小値をE0≧0 とし,エネルギー固有値E0に属する状態を基底状態(真空)と呼んで,|0>という記号で表わすことにします。すなわち |0>=E0|0>です。

 

|0>がエネルギー最低の状態なので,必然的に必要条件であるa|0>=(E0-hcω)a|0>を満たす解はa|0>=0 を満たすものしかありません。それ故,|0>=hcω(aa+1/2)|0>=(hcω/2)|0>=E0|0>,つまりE0=hcω/2 です。

これから,結局En=(n+1/2)hcω(n=0,1,2,..)と書けることがわかりました。特に,|n>はとn^≡a+aの共通の固有状態になっていてn^|n>=a+a|n>=n|n>です。

先に規格化定数を無視して,暫定的に|n+1>≡a+|n>,|n-1>≡a|n>と定義しましたが,<n-1|n-1>=<n|n>=<n-1|n-1>=1を満たすようにa|n>=bn|n-1>,a+|n>=cn|n+1>と置くと,|bn|2=n,|cn|2=n+1ですから,位相をゼロにとるとbn=n1/2,cn=(n+1)1/2,つまりa|n>=n1/2|n-1>,a+|n>=(n+1)1/2|n+1>と書けます。

こうとれば個数状態は|n>=(n!)-1/2(a+)n|0>と陽に表わすことができます。

 

ここで,p,qはエルミート演算子ですがa,a+はエルミートではないので観測可能量ではないということを特に注意しておきます。

さて,準備が整ったので輻射場の各モード(,λ);λ=1,2に各々調和振動子を結びつけることによって自由電磁場を量子化します。

つまり,波動ベクトルが,偏りがλの空洞電磁場の各調和振動子モード(,λ)に対応する状態をhcωkだけ励起することを,エネルギーがhcωkの1個の"量子=光子(photon)"を生成することと同一視して調和振動子のエネルギーを昇降させる演算子akλ+を光子の生成演算子,akλを光子の消滅演算子と呼びます。

具体的には,k≡(2ε0Vωk2)-1/2Σλ=12kkλ+iPkλ)εkλ,k*≡(2ε0Vωk2)-1/2Σλ=12kkλ-iPkλ)εkλにおいてakλ≡(2hcωk)-1/2kkλ+iPk),akλ≡(2hcωk)-1/2kkλ-iPkλ)と置いて,k=(2ε0Vωk2)-1/2Σλ=12kkλ+iPkλ)εkλ={hc/(ε0Vωk)}1/2Σλ=12kλεkλ,k*=(2ε0Vωk2)-1/2Σλ=12kkλ-iPkλ)εkλ={hc/(ε0Vωk)}1/2Σλ=12kλ+εkλと置き換えることにより,Pkλ,およびQkλを,それぞれ量子力学における調和振動子の運動量,および位置の演算子としたときの表現になります。

全ベクトルポテンシャルの量子化した表現は(,t)=Σk{hc/(ε0Vωk)}1/2εkλ[akλexp(-iωkt+ikr)+akλ+exp(iωkt-ikr)]となります。

 

そして全横電場Tと磁場T(,t)=Σkk;k=i{hcωk/(ε0V)}1/2Σλ=12εkλ[akλexp(-iωkt+ikr)-akλ+exp(iωkt-ikr)]と(,t)=Σkk ;k=i{hc/(ε0Vωk)}1/2Σλ=12(×εkλ)[akλexp(-iωkt+ikr)-akλ+exp(iωkt-ikr)]なる表式で与えられます。

また,自由な輻射電磁場の総エネルギーはもちろん,rad=Σkεk=(1/2)Σkλ(Pkλ2+ωk2kλ2)=Σkcωk(akλ+kλ +1/2)で与えられます。そして量子論にとって重要な(正準)交換関係は調和振動子のそれ:[akλ,ak'λ'+]=δkk'δλλ',[akλ,ak'λ']=[akλ+,ak'λ'+]=0 です。これらによって例えば[rad,A]=ihcTなる関係式が成立します。

 

そうして,akλ|nkλ>=nkλ1/2|nkλ-1>,akλ|nkλ>=(nkλ+1)1/2|nkλ+1>です。

空洞内の場全体の個々の状態は,モード(11),(22),(33)..(ただしλ1=λ2=λ3=...=1,2)の作る完全系に対して,個数演算子n^kiλi≡akiλikiλiの固有値nkiλiで与えられる励起光子数の順列:nk1λ1,nk2λ2,nk3λ3..によって指定されます。

 

すなわち,ある順序を指定した空洞モードについて,規格化された個数表示の固有状態ベクトル|nk1,λ1,nk2,λ2,nk3,λ3...>=|nk1λ1>|nk2λ2>|nk3λ3>...の全体から成る集合が電磁場の状態の完全系を張ると考えるわけです。以下では,この状態の基底ベクトルの個々を|{nk}>と略記することにします。

こうした量子化の手続きを個数量子化,第2量子化,あるいは場の量子化といいます。

きりがいいので,今日はここまでにします。

参考文献:R.Loudon 著(小島忠宣,小島和子 共訳)「光の量子論(第2版)」(内田老鶴圃),J.D.Bjorken and S.D.Drell「Relativistic Quantum Field」(McGraw-Hill Book Company)

 

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