熱力学

2009年2月 9日 (月)

水蒸気の比熱

 約1年前に2008年1/6の記事で「水,水蒸気,氷の比熱」 http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2008/01/1_8dbd.html という記事を書き,それを動機として化学結合関連のシリーズ記事に入り,結局,目的としていた水素結合に到達する前に興味がよそに移ってそのままになりました。

 

 しかし,最近私がサブマネージャーをしているfolomy「物理フォーラム」http://folomy.jp/heart/で水分子の基準振動のモードについて質問があったのを機に,

 

「そうか。。重心運動と回転運動の自由度だけでなく振動の自由度に量子統計の効果を組み合わせれば,少なくとも水蒸気の比熱についてだけは,説明可能ではなかろうか。。」と思ったので,まずは過去記事の主要部分を再掲して,次にこれを説明したいと思います。

 

 以下,まず2008年1/6の記事「水,水蒸気,氷の比熱」の再掲です。

※(再掲記事1)

  

 気体としてのH2,すなわち水蒸気なら理論的には常温での3原子分子の自由度は6です。

 

古典統計物理学におけるエネルギー等分配の法則,すなわち,"絶対温度Tにおいて1自由度当りの内部エネルギーはkBT/2 である。"という法則によれば,水蒸気の定積モル比熱はCv,mol(1/2)R×6=3Rとなるはずです。

 

B≡R/N0はボルツマン定数~ 1.38×10-23JK-1)で,Rは気体定数~ 8.31Jmol-1-1),N0はアボガドロ数r~ 6.022×1023mol-1)です。

そして,マイヤーの法則(Mayer's relation)によると,定圧モル比熱はCp,mol=Cv,mol+R=4Rと書けるので,比熱比はγ≡C/Cv=4R/(3R)~1.33となるはずです。

1モルのH2Oの質量は18gです。

 

そこで,質量1g当りの熱容量に換算するとCv8.31×3J/(molK)=1.385J/(gK)=0.33cal/(gK),C8.31×4J/(molK)=1.846J/(gK)=0.44cal/(gK)となるはずです。

 

しかし,理科年表によると,摂氏100度の水蒸気について,定圧比熱がC2.051J/(gK)=0.50cal/(gK)で,比熱比がγ≡C/Cv1.33となっていました。

これらの実測値は,比熱比γについては理論と一致していますが,定圧モル比熱については実測はCp,mol4.5R=(9/2)Rとなっています。

 

これは,今私が計算した理論値のCp,mol=4Rよりも大きく,実測のCp,molからマイヤーの規則で計算すると,定積モル比熱はCv,mol3.5R=(7/2)Rとなりますから,これからはγ≡C/Cv~1.28となって実測のγ1.33と矛盾します。

 

まあ,水蒸気は理想気体でないのは明らかですから,何らかの理由があるのでしょう。

一方,液体の水の比熱は定義によると1gの水を摂氏14.5度から15.5度まで1度上昇させるに要する熱量が1calです。

 

常温での水の比熱はC1cal/(gK)=4.19J/(gK)です。

 

また,氷の比熱は実験によると,C0.50cal/(gK)=2.085J/(gK)となっています。つまり,C,mol~9R,C,mol4.5R=(9/2)Rですね。

 

もしも氷が固体金属と同じような格子結晶であるなら,デュロン・プティの法則(Dulong-Petit's law)によってC,mol=3RなのでC0.33cal/(gK)になるはずですが,実際にはそうなっていません。

 

(固体金属の場合は電子の自由度は常温では無視できて,格子位置の陽イオンの格子振動,つまり自由度が2の調和振動子の3方向の自由度6の寄与のみにより,常温でのモル比熱がほぼC金属=3Rで与えられるということが理論的にも実験的にも認められています。(デュロン・プティの法則))

 

このことから,古典的には水の自由度は18,氷の自由度は9と考えられ,液体の水の場合はH2O分子を構成する3つの原子の個々がそれぞれ自由度6,固体の氷の場合はそれぞれ自由度3を担わなければならないという勘定になります。

一般に,1つの粒子が単なる質点なら自由度は高々3です。一方,質点ではなく大きさがあって重心運動の他に回転の自由度がある剛体とか,3次元の調和振動子のように内部振動をするような構造を持つなら丁度6の自由度を持ちます。

 

2Oを構成する3原子の各々が互いに全く束縛されることがない自由粒子であり,しかも構造を持たない質点である場合なら,個々の自由原子の持つ自由度が3なので合計で2O分子の自由度は9になります。

  

また,2Oを構成するそれぞれの原子が自由粒子でかつ内部構造(大きさ)を持ち,例えば回転自由度3を追加された剛体であれば,H2O分子の自由度は18になります。

 

さらに振動の自由度を加えれば独立な1方向当たり2ずつ自由度が増えます。つまり,原子をさらに核と電子に分けるなど内部の詳細構造を追及していけば,まだまだ比熱に寄与しそうな自由度を増やすことが可能であるという勘定にはなります。

 

そこで液体の水についても,これをH2Oを構成する3つの原子の各々がそれぞれ調和振動子であるとか,またはH2Oの重心運動と全体としての回転運動はあっても振動はできない剛体のようなものと見なせるような奇妙な構造の模型を仮定すれば説明できるかな?という程度の認識に到ります。

結局は,水素結合などの特別な化学結合が関係していると思われるので,こうした問題意識を動機として,次回からは化学結合関連についての知見について復習し,その内容の詳細については事実上初めての真面目な勉強をしてみます。

 

本日は単に化学結合についての記事を書く動機のみを書きました。

 

水分子の結合や,その相転移などの説明については,水素結合などを理解した後,できたらまたの機会に詳述したい,と考えています。

参考文献:「理科年表1997年版」(丸善出版) (※再掲記事終わり)

 

ところが,かつて2006年7/16の記事「二酸化炭素の比熱比(物性)」 http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2006/07/post_1731.html においてCO2分子というのは3原子が一直線に並んでいるため回転の自由度が3ではなく2であるという結論を得ています。

 

したがって,H2Oの場合も水素結合にしろ共有結合(covalent bond)にしろ,気体の状態であっても分子として安定な平衡状態(equillibrium)では,一直線上ではありませんがHとO,HとHのなす角度(angle)は決まっているはずなので,上記記事で水蒸気の気体分子としての回転の自由度が3と考えたのは誤りで,CO2と同じくH2Oの場合も回転の自由度は2であろうと考えました。

 

この続きを論じるため,上記2006年7/16の記事「二酸化炭素の比熱比(物性)」を再掲します。

 

※(再掲記事2) 

  今日は,理想気体の断熱過程での気体法則であるポアソン(Poisson)の公式PVγ=一定,または TVγ-1=一定で使用される比熱比 γ= Cp/Cvの値について,考察します。

 統計力学によれば,比熱比は対象とする気体1分子を構成する原子の個数,つまり気体分子が単原子分子,2原子分子,3原子分子etcのいずれであるかによって決まります。

 ここで, Cv は定積比熱,Cpは定圧比熱です。

 (理想)気体に対する定積比熱,と定圧比熱の間にはマイヤー(Mayer)の法則というルールがあり,nモルの気体に対してはCp=Cv+nR (1モルなら Cp=Cv+R )が成り立ちます。

 ただし,Rは気体定数と呼ばれる定数で,R≒8.31J/(mol・K)です。

 そして,気体の定積比熱 Cvは絶対温度をT,内部エネルギーをUとすると Cv=dU/dTで与えられます。

 理想気体ではUは温度だけの関数なので,T=0 での零点エネルギーを無視すると,気体の内部エネルギーはU =CvT と書けます。

 古典統計力学によると,物体の常温での内部エネルギーUは,1粒子の運動する自由度1つごとに kBT/2 だけの値を割り当てられます。ここで kB はボルツマン定数と呼ばれる気体分子1個当たりの気体定数です。

 kBは気体1分子当たりの気体定数ですから,R=N0B,またはN0=R/kBとすると気体1モルというのはN0個の分子の集合体を意味することがわかります。N0はアボガドロ数と呼ばれる物理定数で6.02×1023 なる値です。

 nモルの気体を構成する分子数はnN0個ですから,それの1自由度あたりの内部エネルギーはnN0BT/2=nRT/2 です。

 以上の事実はエネルギー等分配の法則といわれますす。

 単原子分子気体では分子1個の自由度は並進運動の自由度3だけなのでnモルの気体の内部エネルギーはU=3nRT/2 です。そこでCv=3nR/2, Cp=Cv+nR =5nR/2です。

 また,2原子分子気体は回転の自由度2 が加わるので,分子1個の自由度は並進運動(重心運動)の自由度3と合わせて5となります。そこでnモルの気体の内部エネルギーはU=5nRT/2となります。Cv=5nR/2, Cp=7nR/2です。

 3原子分子以上では重心の周りの回転の自由度が最大の3になるため,これを並進運動(重心運動)の自由度3と合わせると分子1個の自由度は6となりますから,nモルの内部エネルギーはU=3nRT で,Cv=3nR, Cp=4nRとなります。

 そこで,比熱比γ=Cp/Cvは単原子分子気体なら1.67で2原子分子気体なら 1.4,そして3原子分子以上なら特別な対称性がない限り1.33になるはずです。

 そこで本当にそうなっているのかどうかを理科年表で確かめてみると,He  1.66, Ar  1.67, H2  1.40, N2 1.40, H2O 1.31, NH3 1.33 とありました。

 これを見ると,必ずしも近似的に理想気体と見なせる希薄気体ではないような実在気体でも,かなり良く適合値を示しているようです。

 ここで,ニフティ「物理フォーラム」でのある方からの質問を呈示してみます。

 "3原子分子であっても,二酸化炭素 CO2が典型例であるように,一直線に並ぶ3原子分子の場合にはどうなるのだろうか?もし厳密に一直線ならば回転の自由度は2なので2原子分子と同じγ,つまり 1.4になるはずですが,理科年表によると二酸化炭素 CO2のγは1.30でしたから,これは普通の3原子分子に近い値です。"

 上記が質問の内容です。

 そこで,これに対する答えを見出すために,これまで考えてきた並進や回転の自由度だけではなく,振動の自由度も考慮するとどうなるかを考えてみます。

 重心の並進運動や回転の運動とは異なり,振動の自由度なら1方向の調和振動に対しては,位置エネルギーと運動エネルギーの2つの自由度があるので,1方向についての平均エネルギーは 1分子当たりkBTになります。

 たとえば静止した固体は3方向に熱振動しているので,常温では1モルにつき,比熱は気体定数をRとして固体の種類によらず3Rとなります。(デュロン・プティ(Dulog-Petit)の法則)

 つまり,1次元調和振動子のエネルギーは E=p2/(2m)
+(1/2)kx2であり,"マクスウェル・ボルツマン分布=古典確率分布"によれば,振動子の座標が(x,p)である確率密度はギブス因子exp{-E/(kT)}に比例します。

 そこで,エネルギー Eを表わす式の中の1つの変数の2乗を与える変数自由度について,それぞれ平均をとると kBT/2 となりますが, E=p2/(2m)+(1/2)kx2の右辺にはp2と x2 の2つの2乗項があるので振動のエネルギーを考えた場合には,平均エネルギーへの寄与は 1分子当たり一つの方向(1次元)について kBTとなります。

 これに対して,重心の自由な並進運動とか,回転運動では位置エネルギーの項はなくて運動エネルギーの項しかない,つまり p2の項しかないので,平均エネルギーへの寄与は1分子当たり1次元について kBT/2 となるのですね。

 とにかく,古典統計力学ではax2 exp {- ax2/(kT)} なる式をx で積分したものを,exp{-ax2/(kT)}をx で積分したもので割ると,必ずkBT/2 になるということを直接計算で確かめることができます。

 これは自由度が1つでもあればそうで,係数aの大きさには無関係です。

 ところで常温での固体では,格子を構成する原子のイオンの熱振動がメインになる(電子振動は無視される)のに対して,気体では、原子の重心運動と回転運動のみがメインとなり,熱振動の自由度や電子の運動の自由度が何故無視されるのかという問題があります。

 これは量子論ではエネルギーが量子化され,統計分布がプランク(Planck)定数hに関係した量子確率分布で与えられるためです。

 こうしたことの理由を簡単に言うなら,物質内部のエネルギーを E としその構成粒子の主要な振動数をνとすると,Eは量子論では大体においてhνの倍数で与えられ,量子統計分布では,先のギブス因子exp{(-E/(kBT)}がexp{-nhν/(kBT)}という形で現われるからです。

 常温のTでは固体の電子の振動や気体での原子振動の振動数や電子の自由度に関わる周期運動の振動数νに対しては,一般にhν>>kBTが成立するので,exp{-nhν/(kBT)} ~ 0 となるためこれらは内部エネルギーにはほとんど寄与しないのです。

 ところが,問題の二酸化炭素:CO2について「甘泉法師さん」から得た情報によると,"二酸化炭素分子の振動データは,次の振動モードのそれぞれについて,全対称伸縮は実測=1333/cm,計算=1373/cm(12CO2),逆対称伸縮は実測=2349/cm,計算=2420/cm(12CO2),変角振動は 実測=667/cm,計算=669/cm(12CO2)となっているそうです。

 一番エネルギーの小さい変角振動について温度に換算すると赤外線温度 1.4387752・667 = 953Kで常温(300K)の約3倍"なので振動を無視できないそうです。

   実際,変角の振動モードに対して,例えば摂氏(Celsius)16度:T=289Kで x = E/(kBT)=3.32を用いて量子論でのモル比熱を求める式(固体のアインシュタインモデルと同じ式)であるCvib=R x2 exp ( x2 )/[exp ( x2 )-1]に代入すると,Cvib=0.43Rとなります。

 変角振動は横波なので縦振動を除いて自由度が2 であるため結局Cvib=0.43R ×2=0.86Rであり,比熱比はγ=1+ R/ (5/2R+Cvib)=1.30となって,めでたく理科年表の値と一致します。

 ただし,こうして正しい値が得られたのは,振動を除く自由度としては原子が1直線状であることを考慮して2原子分子と同様,定積モル比熱がCv=5/2Rの場合に対応する自由度を想定して計算した結果ですから,やはりCO2では回転の自由度は2である,と考えるのが正解のようです。(※再掲終わり)

 

私は,元々ニフテイ「物理フォーラム」でサブマネージャーをしていたのですが@niftyには,もはやこうしたフォーラム制度がなく過去ログも含めて今はfolomyhttp://folomy.jp/heart/に移っています。

 

上記記事では,普通は常温の気体の場合には振動の自由度は無視されるのですが,二酸化炭素の変角振動のモードは比熱への有意な効果を与えるため気体のCO2定積モル比熱vの(重心+回転)による自由度5の寄与Cv0=5R/2に加えて,自由度が2の振動の寄与がvib=0.43R×2=0.86Rと算定されるという結論を得ています。

 

水蒸気2,の場合にも,自由度が2の振動の寄与がvib=0.25R×2=0.5R程度であるとすれば,v=3R, C=4Rとなって,比熱比γ≡C/Cv=4R/(3R)~ 1.33なる実験値に矛盾しません。

 

問題は摂氏100度の水蒸気についての実測の定圧比熱がC2.051J/(gK)=0.50cal/(gK)となっていることで水1モルの質量が18gであることを考慮するとp4.5R=(9/2)RでCp=4Rよりも大きく,これからマイヤーの規則で計算すると,定積モル比熱はCv3.5R=(7/2)Rとなってγ=C/Cv~ 1.28となり実測のγ1.33と合わないということでした。

 

しかし,確実に比熱にR/2の寄与をする回転の自由度ではなく,振動の自由度の寄与ということであれば振動数次第で寄与を微調整することが可能です。

 

上記では水蒸気については振動の1自由度当たり0.25Rであるとしましたが,例えばこれを0.35Rくらいであると同定すればp4.2R,v3.2R,γ=C/Cv4.2/3.2程度になるし,水1モルの質量も現実には確実に18gというわけではなく17.5g程度なら,実測値と考えている理科年表のC2.051J/(gK)=0.50cal/(gK)とさほど矛盾しないようです。 

 

http://folomy.jp/heart/「folomy 物理フォーラム」サブマネージャーです。

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2009年1月 3日 (土)

運動物質内の相対論(12)(熱力学の法則)

運動物質内の相対論の続きです。

 

今日は相対論における熱力学の記述を考察します。電磁気学ではないので本筋をはずれるようですが記事の最後で"電磁輻射=光子気体"との関連についても少し述べます。

熱力学の法則を特殊相対性理論に包含することは比較的容易です。

 

これについてはプランク(Planck)とアインシュタイン(Einstein)の仕事があります。

ここでは簡単のため,考察の対象として物体を構成する部分の如何なる面要素にも応力としては垂直な圧力のみが存在し得るような熱力学的流体のみから成る系に限定します。

まず,静止系では第一法則,第二法則など全ての通常の熱力学の形式が成立することを前提とします。

静止系では,熱力学第一法則によって状態変化を生起させる熱力学的過程での系のエネルギーE0の変化dE0はdE0=δQ0+δA0なる式で与えられます。

 

δQ0はこの過程で系に流入する熱量,δA0は系がその周囲になした仕事にマイナス符号を付けたもの,つまり外部環境から系が受ける仕事を示しています。

系の体積0の増加が無限小であるような過程は可逆過程ですが,この過程ではp0を圧力とし体積増加をdV0とすると系が受ける仕事δA0はδA0=-p0dV0で表わされます。

熱力学の第二法則によって静止系ではエントロピー0は状態量です。そして可逆変化によって定義されるエントロピー変化の定義はdS0≡(δQ0可逆)/T0=(dE0+p0dV0)/T0です。

 

(δQ0可逆)は今論じている状態変化をもたらす可逆過程で系に流入する熱量であり,T0は系の絶対温度です。

もしも状態変化が不可逆過程で生じたものなら,これに反して常にdS0>δQ0/T0が成立します。

1つの慣性系Sを考えます。その慣性系はその座標系に対して対象としている熱力学系が一定速度で走っているように見える系であるとします。

既に「運動物質内の相対論(4)(弾性連続体(2),完全流体)」で見たように,量μ0,p0,が完全流体のあらゆる位置で一定なら,系Sでの運動量密度とエネルギー密度を全体積V≡V0(1-2/c2)1/2にわたって積分することで,運動量VとエネルギーE=hVが次のように表わせることを知っています。

 

 すなわち,運動量はV={(h0+p0)V/c2}/(1-2/c2)={(h0+p0)V0/c2}/(1-2/c2)1/2={(E0+p00)/c2}/(1-2/c2)1/2で,エネルギーはE=hV=(E0+p002/c2)/(1-2/c2)1/2です。

これを見ると,(E/c,)=({E0+p002/c2)/c}/(1-2/c2)1/2,{(E0+p00)/c2}/(1-2/c2)1/2})はローレンツ共変な4元ベクトルにならないことがわかります。

 

しかし,=(E+pV)/c2,E+pV=(E0+p00)/(1-2/c2)1/2なので,Gμ≡(E/c,)ではなくGμ≡((E+pV)/c,)とおけば,これらは静止質量が(E0+p00)/c2の質点のエネルギー運動量ベクトルと同じですから4元ベクトルです。

今考えている流体は静止系で平衡状態にあるので,そのエネルギー,および運動量は,それぞれE=(E0+p002/c2)/(1-2/c2)1/2,および={(E0+p00)/c2}/(1-2/c2)1/2=(E+pV)/c2で与えられます。

 

また,特にE+pV=(E0+p00)/(1-2/c2)1/2です。ただしp=p0,V=V0(1-2/c2)ですね。

さて,再び任意の慣性系でこの熱力学系の状態を変える同じ可逆過程を考えます。熱力学の第一法則はエネルギーの保存法則ですから任意の座標系でdE=δQ+δAと書けるはずです。

しかし,仕事δAは静止系のときのように-pdVではありません。なぜなら運動系では速度に伴なう系全体の運動量や運動エネルギー等があるため過程においてそれらに生じる変化をも考慮する必要があるからです。

 

系の平衡を保つため,つまり速度が物体のいたるところで一定であるためには普通の圧力の他に外力の存在を仮定しなければなりません。

S系において物体中でを一定に保つに必要な力=d/dt={(/c2)/(1-2/c2)1/2}(d/dt)(E0+p00)です。

 

そして,右辺は今想定している熱力学過程の間でゼロではないので,物体系の速度が一定に見えるためには,S系では物体に作用する外力の存在が必要なのです。

 

このは時間dtに(Fu)dt=だけ仕事をします。したがって,この系が受ける仕事は全体でδA=-pdV+となります。

そこで,E=(E0+p002/c2)/(1-2/c2)1/2,={(E0+p00)/c2}/(1-2/c2)1/2によって熱力学の第一法則dE=δQ+δAはδQ=dE+pdV-となります。

 

したがって,δQ={dE0+(2/c2)d(p00)-(2/c2)d(E0+p00)}/(1-2/c2)1/2+p0dV0(1-2/c2)1/2=(dE0+p0dV0)(1-2/c2)1/2なる式を得ます。

 

静止系では,dE0=δQ0+δA0=δQ0-p0dV0よりδQ0=dE0+p0dV0ですから,これはδQ=δQ0(1-2/c2)1/2であること意味します。

さて,任意の座標系でもエントロピーSと絶対温度Tの関係をdS≡(δQ可逆)/Tで定義します。

 

ところで,ある特定の座標系に静止している熱力学系を,その内部状態を変えないように,系全体の速度がになるまで断熱可逆的に加速すろとき状態量の変化はdS≡(δQ可逆)/Tを満たします。

 

断熱ですからこの過程中にはδQ可逆=0 ⇔ dS=0 です。つまり,静止系からS系に慣性系を乗り換えても,エントロピーは一定のままである必要があります。

つまり,内部状態が一定のとき,この系のエントロピーはその全体としての速度に無関係です。エントロピーはS=S0でローレンツ不変量です。

 

まあ,早い話,純粋に力学的な回転やブ-ストは可逆過程で,かつ断熱過程なのでエントロピーは変化しないのですね。

というわけで,dS=dS0です。dS≡(δQ可逆)/T,dS0≡(δQ0可逆)/T0,δQ=δQ0(1-2/c2)1/2ですから,T=T0(1-2/c2)1/2なる絶対温度の変換式が得られます。

 

これは,状態の不可逆的変化が静止系と同じく,あらゆる座標系でdS>δQ/Tを満たすこととも矛盾しません。

一般的な系でエネルギーと運動量の保存則を微分形式で表現すると,既に閉じていな系の一般論で述べたように,これは∂Tμν/∂xν=fμで与えられることがわかっています。

 

ただし,Tμνは系のエネルギー運動量テンソルを表わし,fμは4元力密度を示しています。∂Tμν/∂xν=fμは,熱力学においては第一法則そのものを表わしています。

 

一方,第二法則を4次元形式で表現することも可能です。

エントロピーが加法性を持つことから,エントロピー密度sを定義することができます。

 

エントロピーの変換公式S=S0と体積のそれV=V0(1-2/c2)1/2から,sΔV=s0ΔV0により,容易に密度sの変換性を求めることができます。明らかにs=s0/(1-2/c2)1/2ですね。

さて,無限小時間dtを考えて,この間に微小体積ΔVに熱量δQが流入したとします。

 

このとき,体積ΔV内のエントロピー変化dS=d(sΔV)は,クラウジウスの不等式:{d(sΔV)/dt}dt≧δQ/Tを満たすはずです。

 

ところが,既にd(sΔV)/dt=(ds/dt)ΔV+s(dΔV/dt)=(∂s/∂t+grads)ΔV+sdivΔV={∂s/∂t+div(s)}ΔVと書けることを知っています。

そこで,電荷Qに対する4元電流密度Jμと同じように,エントロピーの4元流密度をSμ≡(s,s/c)で定義すると,上で得られたd(sΔV)/dt={∂s/∂t+div(s)}により,{d(sΔV)/dt}dt≧δQ/Tは,(∂Sμ/∂xμ)d∑≧δQ/Tと書けます。

 

ただし,d∑≡cΔVdtですが,これは4次元の不変体積要素を示しています。

δQ=δQ0(1-2/c2)1/2,およびT=T0(1-2/c2)1/2によってδQ/Tはスカラーですから,結局,第二法則のローレンツ共変な4元形式は(∂Sμ/∂xμ)d∑≧δQ0/T0となります。

さて,次にN個の単原子分子から成る理想気体を考えます。

 

これは静止質量がm0の分子の平均の運動エネルギーが静止エネルギーm02に比べて小さい場合には静止系でのエネルギーやエントロピー等に関し通例となっている状態方程式がわかっています。

 

すなわち,kB0/m02<<1のとき,理想気体の状態方程式はp00=NkB0です。kBはボルツマン定数(Boltzmann constant)です。

静止系での気体の総エネルギーはE0=Nm02+(3/2)NkB0です。E0はT0=0 のときにエネルギーE0が分子の静止エネルギーとなるように規格化されています。

 

これとp00=NkB0,およびdS0=(dE0+p0dV0)/T0からdS0=(3/2)NkBdT0/T0+NkBdV0/V0と書けます。

 

これを積分すると静止系でのエントロピーの表式は良く知られたS0=(3/2)NkBlnT0+NkBlnV0+Cという形になります。なお,右辺のCはT0,V0に依らない積分定数です。

この理想気体の系が一定の巨視的速度を持つように見える座標系においても,p=p0,V=V0(1-2/c2),T=T0(1-2/c2)ですからp00=NkB0はそのままpV=NkBTを意味します。

 

よって,気体の状態方程式の形は慣性座標系によらず不変であるとわかります。

一方,既に見たようにE=(E0+p002/c2)/(1-2/c2)1/2,={(E0+p00)/c2}/(1-2/c2)1/2=(E+pV)/cです。

 

それ故,E=Nm02/(1-2/c2)1/2+(3/2+2/c2)NkBT/(1-2/c2),=Nm0/(1-2/c2)1/2+(5/2)NkB/(c22),S=(3/2)NkBlnT+NkBlnV-(5/2)NkBln(1-2/c2)1/2+C,なる変換のセットを得ます。

既に過去記事で述べたように,完全流体のエネルギー運動量テンソルはTμν0+p0/c2)Uνν-p0ημνで与えられることがわかっています。

 

ただしμ0=E0/(c20)=n0{m0++(3/2)kB0/c2}は静止系での密度で圧力はp0=n0B0を満たします。n0≡N0/V0は静止系での分子数密度です。

したがって,静止系での圧力p0,密度μ0,温度T0の間にはp0=μ0B0/{m0++(3/2)kB0/c2}なる関係があることがわかります。

 最後に黒体輻射の話をします。

空洞内に閉じ込められて空洞の壁とある温度で平衡状態にある電磁輻射は完全流体として扱うことができます。

空洞の壁が静止している座標系では"電磁輻射=光子気体"の巨視的な流れはいたるところゼロです。つまり統計熱力学の対象としては輻射される電磁波の統計平均としての速度は静止系では方向性がないのでゼロなのですね。

そして,輻射のエネルギー密度h0はステファン・ボルツマン(Stefan-Boltzmann)の法則によって,h0=a(T0)4で与えられます。

 

ただし,aはステファン・ボルツマン係数でa~7.6237×10-15 erg/(cm3.deg4)です。密度h0は空洞の体積によらない量です。

また,面に垂直に及ぼされる輻射圧は,p0=h0/3=a(T0)4/3=μ02/3で与えられます。

 

また,輻射の全エネルギーE0はE0=h00=aV0(T0)4と表わされるので,dS0=(dE0+p0dV0)/T0に代入すると,dS0=4aV0(T0)2dT0+(4a/3)(T0)3dV0=(4a/3)d{V0(T0)3}を得ます。

 

そこで,これを積分してV0=0,T0=0ではS0=0 となるように,積分定数を選べば,S0=(4/3)aV0(T0)3が得られます。

したがって,この空洞容器の固定された系が速度で運動しているように見える座標系では,E=(E0+p002/c2)/(1-2/c2)1/2=aV0(T0)4{1+(1/3)(2/c2)}/(1-2/c2)1/2=aVT4{1+(1/3)(2/c2)}/(1-2/c2)です。

 

また,={(E0+p00)/c2}/(1-2/c2)1/2={(4/3)aV0(T0)4/c2}/(1-2/c2)1/2となります。

 

エントロピーはスカラーなので,S=S0=(4/3)aV0(T0)3=(4/3)aVT3/(1-2/c2)3ですね。

そこで,この輻射のエネルギーEと運動量を,E0,の関係として表わせばE=E0{1+(1/3)(2/c2)}/(1-2/c2)1/2,={(4/3)E0/c2}/(1-2/c2)1/2となります。

 

これらは前に古典電子模型として論じた球対称な静電系の運動系での表式と完全に一致しています。これで,取り合えず,熱物理学の話と電磁気学の話が結びつきました。

今日はここで終わります。

参考文献:メラー 著(永田恒夫,伊藤大介 訳)「相対性理論」(みすず書房)

 

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2008年1月 6日 (日)

水,氷,水蒸気の比熱

 たまには化学の話題,といっても物理化学;物理学なら物性物理学ですが,その基礎的な量子化学の入門関係の話を少ししてみましょう。

 というのも水や氷,水蒸気の比熱について少し思うところがあったからです。

気体としてのH2,すなわち水蒸気なら理論的には常温での3原子分子の自由度は6です。

 

古典統計物理学におけるエネルギー等分配の法則,すなわち,"絶対温度Tにおいて1自由度当りの内部エネルギーはkBT/2 である。"という法則によれば,水蒸気の定積モル比熱はCv,mol(1/2)R×6=3Rとなるはずです。

 

B≡R/N0はボルツマン定数~ 1.38×10-23JK-1)で,Rは気体定数~ 8.31Jmol-1-1),N0はアボガドロ数r~ 6.022×1023mol-1)です。

そして,マイヤーの法則(Mayer's relation)によると,定圧モル比熱はCp,mol=Cv,mol+R=4Rと書けるので,比熱比はγ≡C/Cv=4R/(3R)~1.33となるはずです。

1モルのH2Oの質量は18gです。

 

そこで,質量1g当りの熱容量に換算するとCv8.31×3J/(molK)=1.385J/(gK)=0.33cal/(gK),C8.31×4J/(molK)=1.846J/(gK)=0.44cal/(gK)となるはずです。

 

しかし,理科年表によると,摂氏100度の水蒸気について,定圧比熱がC2.051J/(gK)=0.50cal/(gK)で,比熱比がγ≡C/Cv1.33となっていました。

これらの実測値は,比熱比γについては理論と一致していますが,定圧モル比熱については実測はCp,mol4.5R=(9/2)Rとなっています。

 

これは,今私が計算した理論値のCp,mol=4Rよりも大きく,実測のCp,molからマイヤーの規則で計算すると,定積モル比熱はCv,mol3.5R=(7/2)Rとなりますから,これからはγ≡C/Cv~1.28となって実測のγ1.33と矛盾します。

 

まあ,水蒸気は理想気体でないのは明らかですから,何らかの理由があるのでしょう。

一方,液体の水の比熱は定義によると1gの水を摂氏14.5度から15.5度まで1度上昇させるに要する熱量が1calです。

 

常温での水の比熱はC1cal/(gK)=4.19J/(gK)です。

 

また,氷の比熱は実験によると,C0.50cal/(gK)=2.085J/(gK)となっています。つまり,C,mol~9R,C,mol4.5R=(9/2)Rですね。

 

もしも氷が固体金属と同じような格子結晶であるなら,デュロン・プティの法則(Dulong-Petit's law)によってC,mol=3RなのでC0.33cal/(gK)になるはずですが,実際にはそうなっていません。

 

(固体金属の場合は電子の自由度は常温では無視できて,格子位置の陽イオンの格子振動,つまり自由度が2の調和振動子の3方向の自由度6の寄与のみにより,常温でのモル比熱がほぼC金属=3Rで与えられるということが理論的にも実験的にも認められています。(デュロン・プティの法則))

 

このことから,古典的には水の自由度は18,氷の自由度は9と考えられ,液体の水の場合はH2O分子を構成する3つの原子の個々がそれぞれ自由度6,固体の氷の場合はそれぞれ自由度3を担わなければならないという勘定になります。

一般に,1つの粒子が単なる質点なら自由度は高々3です。一方,質点ではなく大きさがあって重心運動の他に回転の自由度がある剛体とか,3次元の調和振動子のように内部振動をするような構造を持つなら丁度6の自由度を持ちます。

 

2Oを構成する3原子の各々が互いに全く束縛されることがない自由粒子であり,しかも構造を持たない質点である場合なら,個々の自由原子の持つ自由度が3なので合計で2O分子の自由度は9になります。

  

また,2Oを構成するそれぞれの原子が自由粒子でかつ内部構造(大きさ)を持ち,例えば回転自由度3を追加された剛体であれば,H2O分子の自由度は18になります。

 

さらに振動の自由度を加えれば独立な1方向当たり2ずつ自由度が増えます。つまり,原子をさらに核と電子に分けるなど内部の詳細構造を追及していけば,まだまだ比熱に寄与しそうな自由度を増やすことが可能であるという勘定にはなります。

 

そこで液体の水についても,これをH2Oを構成する3つの原子の各々がそれぞれ調和振動子であるとか,またはH2Oの重心運動と全体としての回転運動はあっても振動はできない剛体のようなものと見なせるような奇妙な構造の模型を仮定すれば説明できるかな?という程度の認識に到ります。

結局は,水素結合などの特別な化学結合が関係していると思われるので,こうした問題意識を動機として,次回からは化学結合関連についての知見について復習し,その内容の詳細については事実上初めての真面目な勉強をしてみます。

 

本日は単に化学結合についての記事を書く動機のみを書きました。

 

水分子の結合や,その相転移などの説明については,水素結合などを理解した後,できたらまたの機会に詳述したい,と考えています。

参考文献:「理科年表1997年版」(丸善出版)

 

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2007年12月17日 (月)

理想気体の圧力と分子運動論

 気体,液体,固体などの物質を莫大な個数の"微視的な粒子=分子"の集まりとみなし,その統計的な平均量を熱力学的な諸量と同定する,いわゆる統計熱物理学の見方では,気体の圧力:Pは次のようにして計算されます。

 分子の位置や運動量,あるいは:速度ごとの分子数密度の比率を与える統計分布に基づいて,まず気体の内部エネルギー:Uを求め,然る後に熱力学第1法則:dU=TdS-PdVを用いて,エントロピー:Sが一定の下での体積VによるUの偏微分:P=-(∂U/∂V)Sによって圧力Pが得られます。 

 ここでTは系の絶対温度,Sはエントロピー,Vは系の体積です。

 

 熱力学第1法則の微分表現dU=TdS-PdV可逆過程を想定した式です。

具体的には,次のようになります。

 

対象とする系の絶対温度がTのときに系がエネルギーEを取る確率は一般にボルツマン(Boltzmann)因子:exp{-E/(kB)}(ただしkBはボルツマン定数)に比例する関数で与えられます。

この分布はカノニカル分布(正準分布),マクスェル・ボルツマン(Maxwell-Boltzmann)分布(M-B分布),あるいはギブス(Gibbs)分布と呼ばれています。

 

これは系の総分子数をN,古典的状態,または量子状態がrのときの系のエネルギーをεr,この状態を占める分子数をnrとするとき,その比率がnr/N=exp(-βεr)/{Σrexp(-βεr)} (ただしβ≡1/(kB))なる関係式で与えられることを意味しています。

 

ただし古典的状態rというのは莫大な個数の全ての分子の各々が占める位置と運動量(速度)の組合せで与えられます。

"状態和=分配関数"をZ≡Σrexp(-βεr)によって定義します。

 

このZを用いて内部エネルギーUはU=Σrrεr(N/Z)Σrεrexp(-βεr)=-N[∂(lnZ)/∂β]なる式で,圧力PはP=-Σrr(∂εr/∂V)=(N/Z)Σrexp(-βεr)(∂εr/∂V)=(N/β)[∂(lnZ)/∂V]なる式で表わされます。

そして,状態和の定義式Z≡Σrexp(-βεr)は各項が体積に無関係にエネルギーεrが与えられれば,全てexp(-βεr)という同じ形をしているので,結局は系の状態の総数に比例する量であると考えられます。

 

状態と位置座標の対応から総状態数は単純に体積に比例すると思われるので理想気体ではZは示量的な量であってZ=cV(cは比例定数)という形として書けるはずです。

 

したがって,∂(lnZ)/∂V=1/Vとなり,P=(N/β)[∂(lnZ)/∂V]=N/βV=NkB/Vとなって,よく知られた理想気体の状態方程式:PV=NkBが得られるわけです。

最近は局所平衡にある散逸構造とかを扱う非平衡統計力学なるものもあるようですが,伝統的な統計物理学は平衡統計力学で,系の確率分布はエントロピーSが最大で停留値を取ること,つまりdS=0 を満たす熱平衡状態,つまり釣り合いの状態にあることを条件として導かれた平衡分布です。

 

そこで,上の圧力の導出手続きにおいては,熱力学でのP=-(∂U/∂V)Sなる表式におけるエントロピーSが一定という条件は当然満足されています。

一方,初歩的な気体分子運動論では,1辺の長さがLの立方体の容器の中に質量がmの総個数がN個の気体分子が閉じ込められている模型を考えます。

  

"気体分子は単に時折互いに弾性衝突をする以外には相互作用をしない"という熱平衡状態での理想気体の仮定の下で多数の分子が容器の壁に衝突して反射するときの"各分子の運動量の変化=壁から受ける力積"の総和=合力の力積の反作用が容器の壁面の受ける力積であるとして壁に対する気体の圧力Pを求めます。

これは,具体的には次のようにして圧力を計算します。

分子の速度をv=(vx,vy,vz)とすると,その運動量は=mですから,1つの分子がx軸に垂直な壁との弾性衝突によって壁に受け渡す運動量は壁に垂直で大きさが 2mxのベクトル量です。

 

この,分子が距離Lだけ隔たった左右の壁を往復するのに要する平均時間は2L/vxなので,十分な時間間隔τの間の衝突回数はvxτ/(2L)であり,その間に壁に及ぼす力積はfxτ=(2mx){xτ/(2L)}=mvx2τ/Lとなります。

それ故,N個の気体分子全体が壁に与える力積の総和を求めるとx2の平均値を<x2>と表記して,xτ=Nm<vx2>τ/Lとなります。

 

そこで,壁に受け渡す合力FxはFx=Nm<vx2/Lとなります。

 

ところで,2x2+vy2+vy2であり熱平衡状態では気体分子の速度分布は等方的であると考えられますから,<x2>=<y2>=<y2>=<2/3としてよいはずです。

 

そこで,x(1/3)Nm<2/Lと書けます。

壁に及ぼす圧力Pは単位面積当たりの力で定義されますから,P=Fx/L2(1/3)Nm<2/Vと書けます。

 

ここにV≡L3は立方体容器の体積です。

 

ここで統計力学における常温でのエネルギー等分配の法則によって,(1/2)m<2>=(3/2)kBTなる等式が成立するので,これを代入するとPV=NkBTとなり通常の理想気体の状態方程式であるボイル・シャルルの法則,あるいはボイル・ゲイリュサックの法則が得られます。

次に本日のメイン・テーマですが,気体運動論の1例として伝統的に記述されることの多い上述の容器の壁面における気体の圧力の導出ではなく,同じ気体分子運動論によって,容器内の任意の場所における圧力を計算で求めることを考えます。

容器内の任意の領域1を囲む閉曲面をSとするとき,その領域内の気体に対するニュートンの運動方程式はd[∫V1dV]/dt=-∫SPdで与えられます。

 

右辺は-∫V1∇PdVですから,微分形で書けばd/dt=-∇Pではないかと思います。

 

しかし,莫大な数の気体分子の平均としては,左辺はd<>/dt=0 であり,右辺も容器内では圧力Pは一様なので-∇P=0 です。

 

これは積分形でもd[<>V1]/dt=-∫SPdS=0 なので,気体に対する運動方程式からは圧力Pに関して何の情報も得られないように見えます。

ところが,d[∫V1dV]/dt=-∫SPdなる等式をよく見ると,左辺は単位時間に領域V1を囲む閉曲面Sを通過してV1に流入する運動量の総量-∫Sp・vを示しています。

 

Sがある領域を囲む閉曲面ならこれももちろんゼロですが,Sを閉曲面ではなく単なる断面と考えて左辺を面Sをたたいて通過する運動量の総量と見ることにより,新しい知見が得られます。

 

ただし,は気体分子全体の運動量,は流速で,記号p・vはそのi成分がΣj=13ijdSjで与えられるベクトル量を表わします。

 

そして,微小断面積を通る単位面積当たりの運動量の流れを示すテンソルp・vは流体力学ではおなじみの量ですが,これは運動量流束と呼ばれています。

結局,-∫Sp・v=-∫SPdと書くことができて,面Sの任意の微小断面dSを通って外部から流入する総運動量-p・vはその断面に加わる力-Pdに等しいと考えられます。

 

つまり面を通過する運動量流束をその面での圧力と同一視する新しい見方が得られたわけです。

したがって,Σj=13ijdSj=PdSiですからij=Pδijが成立します。

 

両辺でi=j=1,2,3としたものを全て加え合わせる(縮約する,あるいは対角和(trace)を取る)とpv=3Pが得られます。

 

左辺は単位体積当りの平均分子数=数密度(/V)を用いてpv(N/V)(m2)と書けますが,この面S上の各点における局所的な2値は面全体を考えたときには,それを平均値<2>で置き換えるのが妥当と思われるのでpv(N/V)(m<2>)とします。

したがってP=(1/3)pv(2/3)(N/V){(1/2)m<2>}であり,先に述べたように(1/2)m<2>=(3/2)kBTですから,P=NkBT/V=nRT/V (ただしR=N0Bは気体定数;N0アヴォガドロ数;n=N/N0はモル数)と書けます。

 

やはりP=nRT/VあるいはPV=nRTなる理想気体の状態方程式を得ます。

 

まあ,実際には任意の点における微小断面でその両側からの運動量流束は相殺されてゼロとなり,それゆえ閉曲面で囲まれた任意の領域で運動量の流入量の収支がゼロである,という先述の積分表式があったわけです。

 

これは圧力に関わらず,静止時には各断面の両側での応力は釣り合っていて,各点での合力としてはゼロである,という応力の本質的な性質に根ざすもので,運動量流束が圧力に等しいと同定するのが合理的と考えたのは本質的には直感によるものです。

参考文献: 中村 伝 著「統計力学」(岩波全書)

 

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2006年11月21日 (火)

地球の平均気温とステファン・ボルツマンの法則

 今日は比較的軽い話題として黒体輻射におけるステファン・ボルツマンの法則(Stefan-Boltzmannの法則 or シュテファン・ボルツマンの法則)について述べてみたいと思います。

 そして,その1つの例として地球の平均気温を考えてみます。

 力学によれば,粒子の運動量をとし,それに働く外力をとすると,その粒子の従う運動方程式はd/dt=です。 

 そこで,例えば1辺がLの立方体の中にある1粒子がx軸に垂直な立方体の一方の面と衝突する際,その面に及ぼす力をとすれば,時間Δtの間に面が受ける力積Δtのx成分はfΔt=2pxです。

そして,衝突時の粒子の速度をとすると,粒子がx軸に垂直な面の一方と単位時間に衝突する回数はvx/(2L)回(=1/Δt:ここでのΔtは衝突周期)ですから,立方体内の全粒子数をNとすると,面が粒子衝突によって受ける合力:=Nの垂直成分は,F=N・2<pxx/(2L)=N<pxx/Lとなります。

 

したがって,"面にかかる圧力P=面に垂直にかかる単位面積当たりの力F/S"の表現として,P=F/L2(N/V)<pxx>を得ます。S≡2で,これは立方体の面の面積です。

 

また,V≡L3であり,これは立方体容器の体積です。記号< >は容器内の粒子全体についての平均値を表わします。

もしも立方体内の粒子群が質量mの分子の集まりなら,<xx>=m<x2>=m<2>/3です。また,質量ゼロの光子の集まりなら,光速をcとすると<xx>=<cp>/3です。

 

そこで,単位体積当たりの粒子群の全エネルギーのうち重心運動のエネルギーをuとすると,粒子が通常の質量のある分子ならu=(N/V)m<2>/2よりP=2u/3,光子ならu=(N/V)<cp>よりP=u/3としてよいことになります。

 

ただし,Pが単原子分子気体の気圧や光子気体の輻射圧を表わす場合には,重心運動のエネルギーuは内部エネルギーの全体と一致します。

そして熱力学によると,系の全内部エネルギーをU,エントロピーをS,絶対温度をTとすると,"エネルギー保存則=熱力学第一法則"から,等式dU=TdS-PdVが成立します。

 

そこで,(∂U/∂V)T=T(∂S/∂V)T-P=T(∂P/∂T)V-Pが成立しますから,Pが光子の輻射圧:P=u/3の場合にはu=T(du/dT)/3-u/3,すなわち,du/u=4dT/Tとなります。

 

これを積分すると,aをある比例係数(積分定数)として,u=aT4なる式を得ます。これを,この式を発見した人の名を取ってステファン・ボルツマンの法則といいます。 

では,係数aは具体的にはどんな値になるのでしょうか? 

光子はボーズ粒子(Boson)ですから,その分布はボーズ・アインシュタイン分布:n=N/V=1/[exp{(ε-μ)/(kBT)}-1]に従いますが,容器内に閉じ込められていようと光子の個数には制限がないので化学ポテンシャルμはゼロです。

 

ただしεは光子のエネルギーでε=cpです。

 

それ故,量子論によれば振動数がνの1光子のエネルギーはプランク(Planck)定数をhとしてε=cp=hνで与えられるので,容器内の平均光子数はn=N/V=1/[exp{hν/(kBT)}-1]と書けます。

 

黒体輻射ではνとν+dνの間の光子が占有可能な状態数は単位体積当たり8πν2dν/c3ですから,u=∫0(8πhν3/c3)/[exp{hν/(kBT)}-1]dν=(8πh/c3)(kBT/h)4ζ(4)Γ(4)となります。

 

そこで,u=aT4;a=(8π5/15){kB4/(h33)}≒7.56×10-16Jm-3deg-4なる公式を得ます。

 

こうして,ボーズ・アインシュタイン統計に基づくプランクの公式からも黒体輻射のステファン・ボルツマンの法則,すなわちu=aT4が得られることがわかります。

 

したがって,逆に輻射圧Pに関する式:P=u/3が,量子統計力学の立場からも改めて確認されたことになります。

ところで,黒体輻射において単位時間に単位面積から射出されるエネルギーをJとするなら,ステファン・ボルツマンの法則はJ=σT4,σ=ac/4≒5.67×10-6W・m-2・deg-4という形になります。

 

そして,係数σ=ac/4をステファン・ボルツマン係数と呼びます。

なぜ,このように書けるかというのは以下のように説明されます。

 

すなわち,黒体輻射の輻射エネルギーは等方的な分布をしているので,単位体積から射出される微小立体角dΩ=d(cosθ)dφ当たりのエネルギーは,u(θ,φ)dΩ={u/(4π)}dΩと書けます。

 

そして,今問題としている面積要素の法線と輻射光の流れのなす角をθとすると,光速cによってその方向に作られる単位面積当たりの円筒の体積はccosθです。

 

そこで,その面積要素の単位面積を通過する全方向の輻射光の総エネルギー流量は,J=∫ccosθ{u/(4π)}dΩ={cu/(4π)}∫0dφ∫0π/2cosθd(cosθ)=cu/4=(ac/4)T4となるからです。

 

この立体角積分でθの積分範囲を,0 ~ π/2として全体の半分にしているのは,対象とする面積要素を通過する光の向きとして1方向だけを取るべきだからです。

さて,例えば太陽から地球が受け取る総輻射エネルギー流量は,太陽定数(solar constant)として知られていますが,大気層の頂上ではこれの具体的な値は,(太陽定数)=1.96cal/(cm2・min)≒1370W/m2であることがわかっています。

 

この太陽定数から太陽の総輻射量Lを逆算すると,L=4π(1AU)2×(太陽定数)=3.85×1026Wが得られます。1AU(1天文単位)は太陽と地球の間の平均距離を表わす単位で約1.496×1011mです。

一方,太陽の半径をRとすると,太陽表面の面積は4πR2なので,先のステファン・ボルツマンの法則からL=4πR2σT4となりますから,これにL=3.85×1026W,R≒6.96×108 mを代入すると太陽表面の温度Tが逆算できてT≒5780Kと推定されます。

 

一方,地球の太陽公転軌道を半径1AUの円で近似して,その軌道上に1つの"黒体=地球"があるとすれば,同じ太陽定数とステファン・ボルツマンの法則によりσT4=1370W/m2を得ます。これから,"黒体=地球"の平均温度はT≒394Kと計算されます。

 しかし,地球をその公転軌道上の黒体と同一視して,地球半径をREとすると,実際に太陽からの輻射を受ける側の地球の表面の面積はπRE2なのに対し地球全体の表面積は4πRE2です。

 そこで,地球表面全体で平均した結果はσT4=(1370/4)W/m2になると考えられるため,地球表面の平均気温はT≒394KではなくT≒279K=6℃と算定されます。

 ところが,これでもまだ過大評価であるらしく,観測によれば太陽からの輻射エネルギーは地球大気の頂上て平均でその30%は反射(reflect)され,地球が吸収して我々が実際に受ける輻射エネルギーの総流量は約1.37cal/(cm2・min)=957W/m2であることが知られています。

 それ故,上記の等式σT4=(1370/4)W/m2は,さらにσT4=(957/4)W/m2と変更されて,結局,太陽からの輻射,あるいは放射と地球表面からの放射の平衡を表現するこの等式だけから温度を算定すると,地球の平均気温としてT≒255K=-18℃が得られます。

ところが,実際には現在の地球の平均気温は15℃=288K前後ですから,上の試算とは30度以上の差があります。

 

これは,実は主に水蒸気やそれによって生成される雲,そしてその他にも,二酸化炭素などのガスが地表から放射された赤外線などを吸収して再放出するという「温室効果」のためと考えられています。

 

そこで,水蒸気や二酸化炭素などを「温室効果ガス」と呼んでいます。こうした温室効果ガスが異常に増えたりして現状のバランス(平衡)が崩れると,いわゆる「地球温暖化現象」が起こることが指摘されています。

 

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2006年8月21日 (月)

ビッグバンとエントロピー増大(時間の向き)

 「エントロピーは増大する」という内容を,「エントロピー=乱雑さ」として身の回りの例を元に考える際,局所的には増加したり減少したりするけど,全体で見るとやっぱり増加している.。

 そう考えたとき,エントロピーを増加させているのは,結局ビッグバンによる物質の拡散膨張が原因なのかと考えてしまうようになってしまいました。

 これって正しいのでしょうか? もしそうだとすると,クランチが始まるとエントロピーは減少するのでしょうか?

  と@nifty物理フォーラムで過去において質問を受けたので,私の回答を掲載しておきます。

 回答は次のとおりです。ただし回答に対して何度も質問を受けたものについてまた回答したものがあるので重複して読みづらくなっている部分もあります。

 通常の断熱自由膨張では体積が2倍になると,気体分子数をN,ボルツマン定数をBとすると,エントロピーの増加はΔS=NBlog2になります。

 もっともエントロピーの増加分は熱平衡状態における差であって非平衡状態で考えるのはちょっとむずかしいですけどね。

 エントロピーの増大ということからすれば,宇宙全体を孤立系と考える必要がありますが,まあ,断熱壁に囲まれた孤立系と考えてよさそうです。

 エントロピーは相空間の体積の対数ですから,膨張すればエントロピーが増加するのだ,と言えるでしょう。

 むしろ,宇宙が膨張するのが熱力学第2法則からの帰結であるのかとも考えられます。

 ただし,今の宇宙論の世界では,現在が熱平衡状態にあるのではなくむしろ非平衡状態にあるとされているので,熱平衡状態の法則がそのまま適用できるのかどうかについては,本当のところ,若干の疑問は感じますが。。。。。

 重力場の方程式は時間反転対称なので膨張解も収縮解も定常解もありますから,膨張しているというのは,現在が膨張状態にあるという事実から,その初期条件に従う解を取らざるを得ないという意味で,重力場の方程式自身に膨張でなければならない,という根拠付けはありません。

 ブラックホールという解があるので,時間を逆向きにすれば光などが全て排斥されてしまう,つまり光放出という一方向にしか進まないというホワイトホールという解もありますからね。。。。。

 熱平衡という感覚からすると,宇宙が膨張すればするほど,局所的には熱平衡からは,ますますずれていって非平衡になりそうです。

 恒星などの低エントロピー源(高温)から,核反応などで生じた高エントロピー(低温)の不要な熱を捨てることのできる低エントロピーの場所=エントロピーの小さい極低温の宇宙空間が膨張によりどんどん増えてゆくともいえます。

 熱力学第2法則自体の時間反転対称性という悩ましい問題もあります。

 孤立系ではエントロピーは必ず増加します。巨視的な熱力学理論も時間反転に対して対称だとしたら,エントロピーが Δt>0 の向きで増加するなら,Δt<0 の向きにも増加するはずです。

 もっとも,現在(時刻:t)が平衡状態にあるとしてですが。。。。

 これは統計力学の基になっている粒子の力学方程式が時間反転対称ですから熱力学でもそうではないかという考察に基づくものです。

 たとえばボルツマンのH定理というのがあります。

 これは実はHというのはエントロピーに負号をつけたものに相当するのですが,時間について減少関数になるからという理由で可逆な粒子力学方程式から不可逆性が導かれる証拠と称しています。

 しかし,時間の向きを逆にとることにより過去にも減少します。ということは見方次第で時間の増加関数にもなります。

 テル・ハール(D.ter Haar)の「熱統計学」によるとエントロピーはS=-BHですから,"Hの減少=Sの増加"になりますね。

 私自身は不可逆性というのは"粗視化"によるところが大きい,と見ています。微視的には複雑な町並みなども遠くから見ると濃いところと薄いところがある塊りにしか見えない,ということなどを"粗視化"と称しています。
 
 さてビッグクランチで収縮に転じるとエントロピーが減少するかという問題ですが,普通に考えると減少するでしょう。

 これについても時間対称性を考えると多少の考察はできます。

 むしろエントロピーの増加そのものが時間の向きを決めているという見方もできるからです。

 ビッグクランチ以降の人にとっては,むしろ,時間はわれわれから見た未来から過去に進む。そこではやはり宇宙は膨張し,エントロピーは増大する。。

 これはホーキング(S.W.Hawking)だったかによる「時間対称宇宙」というものですが,この理論はあまり本流ではないようです。

 その他,最近の知識はないのですが,こうした問題はまだ未解決ではないでしょうか。。。。

 ボルツマンのH定理に対しては"ロシュミット(Loschmidt)の逆行性批判("という厳しい反論があります。

 それは力学においては方程式は可逆であるから,Hが最小,あるいはSが最大の熱平衡に達したとき,正にそのときに全粒子(分子)の運動の向きを逆転すれば,たちまち非平衡に逆戻りする。だから,H定理に反してHは増加しSは減少するではないか?

 というものです。

 たとえば,コップから床に落ちた水も,その落ちた全ての水滴は速度を逆向きにすれば,重力に抗してコップまで逆のぼっていくことが可能な運動エネルギーを持っているわけですから,逆行は理論的には可能なのですが,そのようなことは現実には起こりませんね


 要するに,H定理というのは可逆な決定論的な法則から不可逆性を導いたわけではなく,確率的な仮定を考慮に入れた結果として不可逆性を説明した,に過ぎないわけですね。

 拡散現象や熱伝導の現象は,濃い方から薄い方へ,高温から低温へとしか,流れが起きず,逆は生じないというわけで,これらは同じフィック型の拡散方程式で記述されます。

 方程式の型が波動方程式型(双曲型)でなく,放物型なので時間反転対称でなく,不可逆性を表わす式となっています。

 もっとも相対論的に共変な形をしていないので時間を純虚数時間にして i を入れた放物型のシュレーディンガー方程式と同様,アメリカ太平洋岸で起きた津波が瞬時に日本に伝わるような方程式であるという欠点はありますね。

 まあ,相対論的に書き直せばいいだけですが。。。。。

 拡散現象は巨視的には,部分系に分けて考えると全体(孤立系)でエントロピーが増加しなければならないという要求から部分系間の状態の移動の方向が決まるということから導出できますね。

 一方,分子論的な立場からは,濃い場所からも薄い場所からも等しい確率で分子が出入りするという仮定をおけば自然に出てきます。

 つまり,等確率(等重率)の仮定をおけば,ランダムウォークの結果としてブラウン運動になり,拡散方程式を満足するようになるのです。

 拡散,熱伝導は典型的な不可逆現象ですから,これが説明されればだいたい不可逆性の問題は解決です。

 ところが,これにはやはり等確率の仮定というのが入っています。

 この等確率の仮定の根拠というのが,またやっかいなもので,エルゴード仮説(Ergodic hypothesis)と言われるものです。

 この仮説:"あらゆる相空間を粒子系がすべて埋め尽くす軌道を取るのである。"というものがありますが,非常に小さい系でもすべてを埋め尽くす軌道をまわるには宇宙の寿命より長い時間がかかりますが,実際の「熱平衡」は短時間ですからある意味では奇妙な話です。

 この問題はランダウ(Landau)の「統計物理学」によると,"t<0 を考えなければよい。"という話になります。

 つまり,"孤立系を考えるというが,それはいつか作られたものである。箱の中に気体があるという話では,それはそれ以前には人や装置が関った系ではなく,箱に気体を詰めた時刻というものが存在するはずだから,そのときの時刻をt=0 とすればいい"という意味です。

そうすれば孤立系のエントロピーは常に増加するとできるというわけです。

 熱力学第2法則は孤立系では現在から未来に向かって,必ず,エントロピーは増大しなければならないので,例えば時間が逆向きになっても過去に向かって増大しなければならないだろうと思われます。

(現在が平衡状態だと既に最大なのでそうはいかないので,むしろ最小だと考えねばならないでしょう。)

 熱力学法則の時間対称性を要求すると,そういうことになるんですが,統計力学だと,むろん過去に向かっては,逆に減少します。そこが矛盾かな?と感じないわけではありませんが。。。

(熱力学に時間対称性を要求しなければいいのかもしれませんが,統計力学(力学)では時間反転するとビデオの逆回しになるので増大していたものは減少するのですが,その世界も現実的にありうる運動状態である場合には,そうした世界でも熱力学が成立するはずで,そこでもエントロピーが増大するはずかなと思ったわけです。)

  "粒子の方程式が時間反転対称である。"ということの意味は,たとえばニュートンの運動方程式で時刻 t を (-t ) に置き換えたとしても方程式の形は不変という意味です。

 そこで,ある時刻 t0 における位置で,時刻を t'=2t0-t と対称変換して,初期条件をt=t0における位置はそのままで,速度を逆向きにすると(時間 t が (-t ) に変わると,速度は位置の時間による微分なので (-) 符号が付きますね。),その軌道は来たものを逆にたどるというだけです。

 量子論だともっと複雑で,シュレーディンガー方程式の t を (-t) に変更して波動関数の複素共役を取れば時間対称である,というもので,複素共役をとるので座標表示での運動量 =-i∇ したがって速度も逆向きになります。

 統計物理は多数の粒子が衝突を繰り返すもの,といって,元々ニュートンやシュレーディンガーの粒子方程式に従う粒子群の運動状態の分布から,巨視的な挙動を抽出したものです。

 そこで,確率的に大きい(状態の数が多い=エントロピーが大きい)向きに状態が移行する,ということを抜きにすれば,ある瞬間に時間の向きを逆転すると,エントロピーが減少する向きに移行してもおかしくはないというのが"ロシュミットの逆行性批判"を巨視的に捉えた場合の意味です。

 (しかし今考えると確率的な考慮が入っているという部分で,既にロシュミットの逆行性は崩れているといえますね,私も少しは成長していますね。(^^; )

  そして,"孤立系ではエントロピーが増大する。"という意味は熱力学では第2法則(クラウジウスの不等式:ΔS>ΔQ/T)からそれが成立するのは,あくまで"
熱:ΔQの授受がない(ΔQ=0)=孤立している"という前提の下でです。

 そして,宇宙の場合も開闢より前は孤立系ではないだろうし,普通の容器の中の気体も閉じ込めて観測する前は孤立系ではないだろうから,孤立系が始まったときを時間の原点にとって,れ以前を考えないことにしたら,過去というものは考えなくてもよいかな,というのがランダウの主張する内容です。

 ツナギ合わせの編集ということもあって,結論もなくダラダラとした収拾のつかない文章になってしまいました。。。

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2006年8月15日 (火)

2つの物体の温度の接触による交換

同じ質量Mの2つの物体(固体)A,Bの温度がそれぞれT,Tであったとし,これらを接触させて放置すること(=熱伝導)だけで,AとBの温度を交換する方法を考えてみます。

 

これは,どこだったか覚えていませんが,ある大学の入試の過去問題にあったと記憶しているものを参考にしています。 

 まず,一連の手順を5つの工程に分けて行います。

 

 なお,これらの物体を取り囲む環境は断熱で,熱は逃げたり入ってきたりすることはないと仮定しておきます。 

     AとBをそれぞれ半分の質量M/2の2つの物体A1,A2とB1,B2とに分割します。

 

  そしてA1とB1とを接触放置します,質量が同じですから熱量保存の法則によって温度はA1=TB1=(+T)/2になります。

     次にA1とB2とを接触放置します。

 

  温度はA1=TB2={(+T)/2+T}/2=(1/4)T+(3/4)Tになります。

     次にA2とB1とを接触放置します。

 

  温度はA2=TB1={T+(+T)/2}/2=(3/4)T+(1/4)Tになります。

     さらにA2とBとを接触放置します。

 

 温度はA2=TB2=(+T)/2になります。

     最後に,分割していたA1とA2,B1とB2をそれぞれ元のAとBに接着して戻します。

 

  このとき接着して戻したA全体,B全体の温度は,それぞれT'=(1/2)[{(1/4)T+(3/4)T}+{(1/2)T+(1/2)T}]=(3/8)T+(5/8)T,

 

  T'=(1/2)[{(3/4)T+(1/4)T}+{(1/2)T+(1/2)T}]=(5/8)T+(3/8)Tになります。

 これらの結果,結局Aの温度はTからT'=(3/8)T(5/8)

 Tに,Bの温度はT'=(5/8)T+(3/8)Tに変わりました。

 

 当然のことながら,質量が同じなのでT'+T'=T+T

 成立しています。

ちなみに最初Aの温度がT=192℃,Bの温度がT=320℃であったとすれば,この手順の結果としてT'=272℃,T'=240℃となり,既にこの操作だけでA,Bの温度の高低が逆転しています。

では,一連のプロセスをもう1段階増やすとどうなるでしょうか?

 

すなわち,次の手順です。

(1)AとBをそれぞれ4分の1の等質量M/4の4つの物体A1,A2,A3,A4とB1,B2,3,B4とに分割します。

 

 そしてA1,A2とB1,B2に先の手順を施行します。

 

 A1+A2(3/8)T+(5/8)T,TB1+B2(5/8)T+(3/8)

 なりますね。

(2)先の操作をさらにA1,A2とB3,B4に施すと,A1+A2'=(3/8)TA1+A2(5/8)T,TB3+B4'=(5/8)TA1+A2(3/8)Tとなります。

(3)さらにA3,A4とB1,B2でやると,A3+A4'(3/8)T+(5/8)TB1+B2,TB1+B2'=(5/8)T+(3/8)TB1+B2になります。

(4) さらにA3,A4とB3,B4でやると,A3+A4"(3/8)TA3+A4'(5/8)TB3+B4',TB3+B4"=(5/8)TA3+A4'(3/8)TB3+B4'ですね。

(5)そして最後にA1,A2,A3,A4をすべて接触,1,B2,3,B4を全て接触させて接着すれば終わりです。

 

 結果は煩雑なのですが,Aの最終温度はT"=(1/2)TA1+A2'+(1/2)TA3+A4"={(3/8)2+(3/8)(5/8)2}T+(1/2){(5/8)3+(5/8)(3/8)2+2(3/8)(5/8)+5/8}Tとなります。

 

 Bの方はもちろんT"=(T+T)-T"ですね。

ではこのプロセスを無限回分割という段階にして行うとどうなるのでしょうか?

 

簡単のために,a≡3/8,b≡1-a=5/8としておき,n段階の操作の後のAの温度をTnとしておきます。

 

すると,T1=aT+bT,T2(a2+ab2)T+(1-a2-ab2)Tとなります。

 

一般にTn=an+bn (bn=1-an)と置くと,an+1=an2+ann2=an2+an(1-an)2=an(an2-an+1),bn+1=1-an+1と漸化式で書けます。

 

しかし,このan+1=an(an2-an+1)(a13/8)は線形ではないので,一般的に考えて初等的手段では解けませんね。

しかし,an+1/an=an2-an+1=(an1/2)2+3/4>3/4であり,(n+1/an)-1=an2-an=-an(1-an)ですが,0<an<1なので,常に 0<(an+1/an)<1です。

 

一般に 0 <r<1なる定数rが存在して 0<(an+1/an)<rとなるため,an<rn-11ですから,n→∞ に対しan0 となることが示されます。したがって,もちろん,n→∞ でbn1ですね。

 

すなわち,この熱伝導接触操作の分割ステップnを無限に増加させていくと物体Aの温度はTn → Tと元の物体Bの温度に近づき,逆に物体Bの温度は元の物体Aの温度Tに近づくわけです。

こうして無限回分割の施行をすればマクスウェルの悪魔というわけではないですが,接触のみの操作によってAとBの温度を"交換すること=入れ替えること"が原理的には可能である,ということになります。

  

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2006年8月12日 (土)

空気中での音速

 今日も初歩的ベクトル解析がわかる程度の大学初年級向けの軽い物理学のトピックスを1つ解説してみようと思い,空気中での"音速=弾性波の速さ"をニュートン(Newton)が求めたようなやり方で計算してみたいと思います。 

 空気の流れの速度ベクトルを,密度をρ,圧力をpとします。考えている領域での主流速,つまり平均流速はゼロとします。

 

 これは普通に風速を観測すれば風は吹いていない静穏状態(calm)と見なされるという意味です。

 

 そうすると,空気の流れの速度ベクトルというのは"平均速度=ゼロ"からのずれを意味しますから,は変位速度と呼ばれるものに相当します。つまり,は主流速(ゼロ)からの微小なゆらぎ速度で,波動,または振動と見なせる程度の量です。

 そして,一般に地上付近の空気中の通常の巨視的対象物のスケールでは,系のレイノルズ数(Reynolds number)Reは10万を超える大きな値になると考えられます。

 

 そこで,ごく薄い境界層内以外の空中では粘性は無視できるため,考察対象の運動方程式は完全流体のオイラー(Euler)方程式(粘性=摩擦の無い流体のニュートンの運動方程式)で与えられるはずです。

 

 そして,平均流速はゼロであるとしているので今の場合のオイラーの運動方程式では"移流項=慣性項"はありません。

 すなわち,ρを空気の密度,pを空気の圧力とすると,"流れ速度=変位速度"に対する運動方程式は,移流項の無いオイラー方程式/∂t=-∇p/ρ-gで与えられます。

 

(ここでgは重力の加速度,は鉛直上向きの単位ベクトルです。)

 

 ここで,ρを空気の平均密度ρ0とそれからのずれρ'の和としてρ=ρ0+ρ'と書き,圧力pも平均圧力p0とそれからのずれp'の和としてp=p0+p'とします。

 

 ただし,平均量については静力学平衡∇p0=-ρ0が成立しているとします。そして,ρ',p',については2次以上の微小量を無視する近似を行なうと,運動方程式/∂t=-∇p/ρ-g∂(ρ0)/∂t=-∇p'になります。

  

 一方,空気の質量保存を表わす連続の方程式は∂ρ/∂t+∇(ρ)=0 ですが,これも∂ρ'/∂t+∇(ρ0)=0 になります。

 

 そして,運動方程式∂(ρ0)/∂t=-∇p'の両辺の発散を取ると,∂{∇(ρ0)/∂t}=-∇(∇p')=△p'となります。(ただし,△≡∇2はラプラスの演算子=ラプラシアン(Laplacian)です。)

 

 連続の方程式∂ρ'/∂t+∇(ρ0)=0 からは∇(ρ0)=-∂ρ'/∂tが得られますから,これを運動方程式に代入すると,結局∂2ρ'/∂t2=△p'なる関係式を得ます。

 

 ところで,熱力学的には弾性振動現象は熱の流出入の無い断熱過程ですから,理想気体の断熱過程に対する式であるポアソン(Poisson)の公式:p=cργが成立すると考えられます。

 

 ここで,γは比熱比=Cp/Cです。ただしCvは定積比熱,Cpは定圧比熱を示し,cは適当な定数です。

したがって,∂ρ/∂t={ρ/(γp)}(∂p/∂t),さらに∂2ρ/∂t2=∂[{ρ/(γp)}(∂p/∂t)]/∂tですが,係数{ρ/(γp)}をtで微分することによって生じる非線形項はの2次以上の微小量なので無視します。

 

つまり,弾性波の伝わる現象の時間スケールは波動の周期と比べて十分大きいため,日常的な音の伝播する現象のレベルでは,巨視的な密度ρや圧力pをこのサイクルでの平均量として微分の外に出すことにより方程式を線形化する近似が有効であると考えます。

  

それ故,∂2ρ/∂t2=∂[{ρ/(γp)}(∂p/∂t)]/∂tは2ρ'/∂t20/(γp0)}(∂2p'/∂t2)と近似可能です。

 

これを∂2ρ'/∂t2△p'に代入すると,最終的に∂2p'/∂t2(γp00)(△p')なる線形近似の微分方程式が得られます。

これは"圧力を変位とする波=圧力波"の波動方程式です。このままでもいいのですが,これをに対する方程式に変換しておきます。

 

2p'/∂t2(γp00)(△p')の勾配を取り,係数は空間に対しても平均量であると考えて,∂(ρ0)/∂t=-∇p'を利用すれば,∂2{∂(ρ0)/∂t}/∂t200)[△{∂(ρ0)/∂t}となります。

 

これを逆にtで積分します。積分定数である空間座標の任意関数は,初期条件としてtがゼロのときには波動はまだ存在せず,速度やその微分はゼロであったとしてよいので,これをゼロとします。

 

{∂(ρ0)/∂t}/∂t00){△(ρ0)}ですが,ρ0や右辺の係数は既に平均量と見なす近似をしていて,最後にρ0を微分の外に出せば,結局,2/∂t2(γp00)(△)を得ます。

 

これは圧力波の方程式∂2p'/∂t2(γp00)(△p')と同じ形の変位速度に対する波動方程式です。

 これらの波動方程式は圧力波の方程式形にしても変位速度の方程式形にしても,明らかに波の"位相速度=音速"uが一定で,その値はu=√(γp00)=(γp00)1/2なる式で与えられることがわかります。

 

 ところで,Mを空気の分子量,Tを絶対温度,Rを気体定数とすると,空気を理想気体と考えたときの状態方程式はp0=ρ0RT/Mです。

 

 したがって音速はu=(γp00)1/2=(γRT/M)1/2となります。

 

 より具体的にはtを空気の摂氏(Celsius)温度とするとT=T0+t(ただしT0=273.15K)ですから,u=(γRT/M)1/2=(γRT0/M)1/2(1+t/T0)1/2(γRT0/M)1/2{1+t/(2T0)]です。

 さらに,地上付近の空気は,ほぼ窒素N2が80%,酸素O2が20%の混合気体ですが,いずれにしても2原子分子ですから,そのモル比熱はCv=(5/2)R,Cp=(7/2)Rであり,比熱比γはγ=1.40です。

 

 また,気体定数はR=8.31,分子量の実測値はM=28.964×10-3ですから,概算で(γRT0/M)1/2331.2(m/s),そして(γRT0/M)1/2/(2T0)=0.606となります。

 

 つまり,摂氏温度tの地上付近の静止大気中での音速uは近似的にu=331.2+0.606t(m/s)なる式で与えられるという理論的結論が得られました。

 

 これによると,常温=約15℃での空気中での音速の理論的近似値は340(m/s)になりますね。

 

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2006年8月 6日 (日)

エントロピーの定義

 エントロピーの熱力学における定義は,エントロピーをS,絶対温度をT,準静的過程で得る熱量をΔQとしてΔS=ΔQ/Tです。

 一方,統計力学におけるボルツマン(Boltzmann)によるエントロピーの定義はある状態において分子(粒子)がとりうるあらゆる状態の数をWとしてS=k
logWというものです。ただしkボルツマン定数です。

 (気体定数をR,アボガドロ数をNとしてk=R/N,つまり,kは分子1個当たりの気体定数)

 ボルツマンの定義なら,エントロピーは状態数Wの自然対数に比例する値ということで,これはバラバラの度合いです。

 つまり乱雑であるほど状態の数が多く,このことがエントロピーSが大きいということに合致するので"乱雑になること=エントロピーが増えること"というイメージになるかと思います。

 それでは熱力学における定義はどのようにボルツマンの定義と同一視できるのでしょうか?

 統計力学によると,絶対温度Tの恒温層に接触して等温のまま熱だけをもらっている分子(主に気体)の系は,そのエネルギーがEのとき,その状態にある確率は,指数関数exp [-E/(k
T)] =(ボルツマン因子)に比例します。

 これは,平衡状態での等確率(等重率)の仮定(各状態の確率は状態のいかんによらず同じである。)やエネルギーの保存則(熱力学第1法則)などから導かれます。

 確率というものの性質と等確率の仮定から,確率 exp [-E/(k
T)] は状態数Wの逆数:1/Wに比例する量であることがわかります。したがってWの方はexp [E/(kT)] に比例します。

 そこでボルツマンの定義に代入すれば,ΔS=k
ΔlogWということになり恒温層に接触しているカノニカル(:正準)な系ではΔS=ΔE/T=ΔQ/Tとなって熱力学の定義に一致します。

 つまり,仕事がなく熱だけをもらっているような状況では乱雑さの増えることがエントロピーの増加になる,というのは熱力学の定義でも云えることです。

 え?断熱ではエントロピーはどうなるのかですって?

 断熱:ΔQ=0 ならエントロピーの変化量はΔS=ΔQ/T= 0 なのでエントロピーは変化しませんよ。何?それはおかしい?うん,確かにそうですね。

 最初に述べたようにこのΔQは準静的過程での熱です。

 断熱ではΔQ= 0 ですが,実は普通の日常的過程ではΔS≧ΔQ/Tであり,等号は特別な場合なんですね。だから断熱でかつ特別でないならΔS>0 なので,普通は断熱のときはエントロピーは増加します。

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2006年7月30日 (日)

気液平衡の統計力学

 温度Tと気圧Pが一定の下で,水と水蒸気が2相平衡にあるための条件は,熱力学では水,水蒸気の"化学ポテンシャル=分子1個当たりのギブス(Gibbs)自由エネルギー"が等しいことです。

 

 すなわち,水,水蒸気の化学ポテンシャルをμlgとすると,2相平衡の条件はμl=μgで与えられます。

 これは,分子論の統計力学ではどういう意味を持つのでしょうか?

 

 まず,水蒸気を理想気体と考えると,その気体分子としてのエネルギーは,Eg=(∑p2)/(2m)です。

 

 一方,液体の水分子は,分子平衡位置においても分子間力等により,金属の仕事関数に相当して液体分子1個を格子点位置の付近に束縛するエネルギー(-χ)(χ>0)を持つため,エネルギーはEl=(∑p2)/2m+U+(-χ)と表わされます。

  

 ここで,∑は1個の分子の運動の全ての自由度にわたる和です。またUは分子平衡位置からのずれによる振動の位置エネルギーです。

そして,1モルの潜熱=蒸発熱をLとすると,Lはエンタルピー(Ui+PV;Ui内部エネルギー)で定義されているのでL=NAχ+PV=NAχ+NABです。

 

ここで,Aはアボガドロ数でA~ 6.02×1023です。Vは体積です。さらにλ≡L/NAと置いて,"1分子当たりの潜熱=1分子当たりの蒸発熱"としてλを定義します。 

統計力学によれば,分配関数をZとすると化学ポテンシャルμはμ=-kBlog(Z/N)で与えられます。

 

そして理想気体では,分子の自由度をfとするとCを規格化定数としてZ=Zg=V(CkB)f/2=NkBT(CkB)f/2ので,μ=μg=-kBT[(1+f/2)logT-logP+const]となります。

 

特に水蒸気は3原子分子なので,f=6であり,それ故,μ=μg=-kBT(4logT-logP+const)です。

一方,液体の場合は固体の調和振動子モデル(運動エネルギーの自由度が3で振動エネルギーU=(1/2)kr2の自由度も3)を取るか,V=0(運動エネルギーの自由度のみで,それが6のモデルを取るとします。

 

まあ,いずれにしても,自由度fはf=6です。気体の場合との違いは体積V=Vl=Nvlを近似的に,温度Tにも圧力Pにも依存しない定数であると見なせることです。

 

そこで,Z=Nvl(CkB)f/2,f=6,μ=-kBlog(Z/N)から液体分子としての水の化学ポテンシャルμ=μlを求めればいいのです。

 

しかし,液体分子と気体分子の共通のエネルギーの原点として,気相の静止した位置を基準に取れば,液体の原点は(-χ)になるので,気体分子の原点を基準にすると,μ=μl=-χ-kBT(3logTconst.)となります。

 

したがって,結局μlμgという条件はlogP=logT-λ/(kBT)-1+const.となります。

 

それ故,P=(const.)Texp{-λ/(kBT)}=(const.)Texp{-L/(RT)}となります。

これは,相平衡を表わす有名なクラペイロン-クラウジウス(Clapeyron-Clausius)の公式;dP/dT=LP/(RT2),あるいは logP=-λ/kT+const.の修正式になっています。

ところで,分子論的には,相平衡とは分子の蒸発数と凝結数が同じであることを意味します。

 

今,単位体積中の水の平均分子数をnlとし,これが単位体積中の水蒸気分子数ngに移行したと見ると,運動エネルギーに差がないなら熱平衡ではng=nlexp{-χ/(kB)}です。

 

水蒸気の方は理想気体の状態方程式P=ngBTを満足するとしてよいので,結局nlを定数としてlogP=logT-λ/kT+const.となり上述の結果と同じ式が得られます。

 

結局,平衡状態で,"化学ポテンシャルの値が一致する。"という熱力学での相平衡の条件の意味が,"分子の蒸発数と凝結数が同じである。"という分子論的,統計力学的な意味での相平衡と同じであることがわかりました。

 

参考文献:中村 伝 著「統計力学」(岩波書店),原島 鮮 著「熱力学・統計力学」(培風館),クドリャフツェフ著(豊田博慈 訳)「熱と分子の物理学」(東京図書)

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2006年7月 5日 (水)

可逆と不可逆のはざ間(エントロピー増大則)

 「覆水盆に還らず。」というように,この世の中では"逆に戻ることができない現象=不可逆過程"が数多く存在します。

 熱物理学では,"何も仕事をすることなく,ひとりでに冷たい物体から熱い物体へと熱が流れることはない。"という表現で「熱力学第二法則」という経験則が原理とされています。実際,それを破る事実は見つかっていません。

 これは数式的には,"孤立系ではエントロピーは減少することはない。増大する可能性しかない。"という形で定式化されています。

 実際,冷蔵庫やエアコンなどでは,モーターによる電気的仕事をすることによって低熱源から高熱源へと熱を移動させているわけで,冷えているものをさらに冷やすには仕事(熱以外の力学的エネルギー)が不可欠なのです。

 しかし,例えば,コップから床に水をこぼした映像を逆回しして映写すれば,こぼれた水はコップの中に戻っていくのが見られます。こぼした水の1粒,1粒をつまんで戻せば逆行可能なのではないか?とも思えます。

 まあ,人事をつくせば可能かもしれませんが,もう一つの例である,水の入った容器に少しだけ赤インクをこぼして放っておいたら拡がっていって,水はうすい赤色に変わった,とかいう現象を映像のように逆に戻すのは大変ですね。

 そもそも,元の現象はひとりでに起こったものです。仮にそれを逆行させることが可能だとしても,その逆行はひとりでに起こるものではありません。

 こうした現象過程のことを不可逆過程と呼ぶわけです。

 そしてこうした事実が,一般に向きに関して対称な空間と,非対称で決まった向きにしか進まない時間とを区別していると思います。いわゆる「時間の矢」というものが存在する原因とも考えられるわけです。

 しかし,通常の力学的現象をつかさどる古典的なニュートン(Newton),あるいはアインシュタイン(Einstein)の運動方程式は,時間反転に対して全く対称な形をしています。

 また.量子論の方程式も,波動方程式の複素共役を取るなど工夫することで,時間反転対称と考えられます。

 したがって,古典論,量子論のいずれにしても,時間 t を-t に変えても本質的に方程式の形は変わらないわけですから,普通の軌道上である時刻に位置は同じで速度の向きだけを逆転した初期条件を与えてやると,その時刻,その点から後は,逆回しのように,元来た道筋を戻っていくわけです。

 摩擦などの散逸があれば,力学的運動方程式の力を与える項に変数として巨視的な速度が含まれるため,方程式が時間反転に対して非対称になることがあります。

 しかし,摩擦などによる散逸の構造も微視的レベルで分子論的に考察すれば,時間反転対称になります。

 そして,全ての物質はこうした時間反転対称な挙動しかしない分子,の巨大な集まりからできている,ということを考慮するなら,"全ての事象は可逆である=逆行可能である。"ということを否定できません。

 では,どこから不可逆という時間の向きが生じたのでしょうか?

 19世紀にボルツマン(Boltzmann)は,次のようにして微視的な可逆力学から巨視的不可逆性が生じることを証明しました。

 簡単のため,特定の気体などが容器に込められているような状況を考え,ある時刻 t に位置 の付近の単位体積当たりに速度が +Δの間にある気体分子数を f (, とします。 

 衝突によって速度 +ΔのΔ から毎秒出て行く分子数を A , このΔ の中に入ってくる分子数を B とすると,Δ の中で1秒当たりの分子数の増分は,B-A= (∂f/∂t )Δ です。

 ただし,(∂f/∂t )Δ は衝突による変化のみを問題にしているとします。

 つまり,∂f/∂t は分子の軌跡( , )を通じての時間微分,つまりラグランジュ微分であって,衝突以外の移流による効果は既にこれに含まれており,分子の正味の流出入は衝突の効果しかないわけです。

 2つの分子を考察し,衝突前の速度をそれぞれ , 1衝突後の速度を ', 1' とします。

  衝突断面積をσとし,運動量とエネルギーの保存を考慮します。

 さらに,"時折繰り返される衝突は完全無秩序である"という仮定=「分子数無秩序の仮定」を導入し,一方の分子の速度領域Δを固定して他方の分子の領域Δ1で積分するという式で(∂f/∂t )Δを表わすと,(∂f/∂t )Δ =-∫σ ( f ・ f1-f' ・ 1' ) d1Δ となります。

 ただし,f = f ( , ) , f1= f ( 1, 1),  f' = f (', ' ), f1' = f ( r1',1')と略記しました。

 ここでボルツマンのH関数:H≡∫( f log f ) d を導入します。このHを t で微分すると,dH/dt =∫(∂f/∂t ) ( log f +1)d ですから,先の式を代入して,dH/dt =-∫σ ( f ・ f1-f'・ 1' ) ( log f +1)d1 となります。

 この表式で1 を入れ替えても値は変わらないし,さらにその2つの式で v' ,11'を同時に入れ替えても値は変わらないので,同じ値を表わす4つの式が得られます。

 それら,4つの表式を全て加えて4で割ると,dH/dt=(1/4)∫σ ( f ・ f1-f'・ 1' ) log [f '・f1'/ (f ・f1)] d1 となりますが,容易に証明できるように,これは決して正にはならない量です。

 つまり,どんな時刻 t であろうと dH/dt ≦ 0 であり,Hは時間と共に減ることはあっても増えることはありません。これを「ボルツマンのH定理」と言います。

 ところで,別の統計力学的考察から, f を∫f d = n ( n は系の単位体積当たりの分子数)となるように規格化したとき,系の単位体積当たりのエントロピーをS としkをボルツマン定数とするとS=-kHとなることがわかります。

 そこで,「ボルツマンのH定理」は「エントロピー非減少(増大)の原理を」証明したことになります。

 ボルツマンは元の個々の分子の可逆な(時間反転不変な)方程式から,"時間が1方向にしか進まない"="エントロピーは増大するのみで減少することはない"という不可逆性の法則を導いてしまったことになります。

 一体,どんなマジック(魔法)を使ったのでしょうか?

 当然のことながら,彼は方々から激しい批判を受け,結局ボルツマンは自殺してしまう,という悲劇を迎えるのですが,特に「ロシュミット(Loschmidt)の逆行性批判」と「ツェルメロ-ポアンカレの再帰定理(Zermelo-Poincare' recurrence theorem)」というのは有名です。

 このうち,再帰定理というのは大したものではなく,水に赤インクの例でいうと,"非常に長時間=宇宙の年齢よりもはるかに長い時間"が経った後には最初の状態に戻る可能性もある,という定理です。

 これは,そもそも逆行性=可逆性についての批判ではありません。また,巨視的現象の時間スケールとしても,妥当なものではありません。

 例えば,量子論では分子,原子という粒子も確率の波ですから,どこに存在する確率もゼロではありませんから,檻の中にいるライオンでもそれを構成する1つ1つの分子に着目すると,全ての分子が檻の外に出る確率は全くゼロではないということになります。

 これは,"ほんのたまにはライオンはひとりでに檻の外に出てしまう",ということもある,ということを主張しています。

 実際,ライオンが檻の外に出る確率はゼロではありませんが,計算するまでもなく,そんなことは宇宙が誕生してから今まで,を1億回繰り返しても,1回も起きない事象であることは明らかです。

再帰定理の時間スケールは,こうした話と大差ないと思えます

 一方,「ロシュミットの逆行性批判」は正に当を得ていて,今この瞬間に全ての分子で時間を逆行させる(つまり全ての分子で速度を逆転させる)と,全ての分子はその向きを逆に変えて運動するわけですから.ボルツマンのHは過去に向かっても減少するしかないわけです。

 そうすると,"どの時刻でも今のHが最大である。"ということにしかなりませんから,これは明らかに深刻なパラドックスです。

 ランダウ(Landau)の「統計物理学」では,"今のエントロピーが最低である=エントロピー増大則も時間反転不変である。"ということを主張しています。

 そして,それを説明するのに,何事にも始まりがあり,測定を始めた,あるいは宇宙が始まった時刻をゼロとして負の時刻(それより前)は考える必要はない,という説明をしています。

 しかし,どんなマジックにも種があります。実は導入した「分子数無秩序の仮定」,あるいは「衝突数算定の条件」というものから確率という要素が入ってくるというのが種なのです。

 これは微視的には,"時折繰り返される衝突は完全無秩序である"とか,"衝突前には2粒子間に統計的相関がない"というものです。

 これには,既に時間は無秩序の向きに進むという非対称性が含まれているわけで,無秩序であるということには大きい体積にいる方が確率的に可能性が高い,など確率の条件が含まれた結果として,H定理が得られたわけです。

 そして,元々エントロピーは伝統的な熱統計物理学では平衡か局所平衡の場合に限って定義される量ですが,ボルツマンのH関数は,より普遍的なものなので,S≡-kH で逆に非平衡なときのエントロピーの定義を与えることができる,と解釈することもできます。

 情報理論では情報エントロピーの定義は,正に f を∫f d = 1と1粒子分布関数,つまり,確率密度として規格化したときの ボルツマンのH関数に負号をつけたものに一致するわけです。

 そして,情報エントロピーが大きい,というのは情報量(知っていること)が少ない,ことに対応します。初め,何らかの情報を持っていても"何もしなければ"時間とともに情報量は減っていきます。情報は古くなるとひとりでに価値が減少していきますからね。

 時間の向きは,"何も知らない向き=無秩序の向き"に向かって進むというわけです。知らないことが多いほどエントロピーが大きいというのは通常の物理学でも同じことです。

 例えば,地球上で普通に暮らしているときは近くの景色を見ると,その詳細である家や人や道などが細かくわかりますが,次第に遠ざかって東京タワーの展望台などから見ると塊にしか見えず,さらに宇宙旅行すると"地球は青かった"程度の情報しか得られないことになります。

 こうして遠くから俯瞰した状況を"粗視化する"と言います。「分子数無秩序の仮定」というのは正に"ディテールを無視して粗視化せよ"と述べていることに相当するのです。

 というわけで,結局,不可逆性が生じるのは微視的な巨大な個数の分子はその個性を失い,"確率的=粗視化"した状況と見た結果だということになります。

 しかし,天気予報や地震予知などは初期条件,境界条件のカオス(混沌)的な無知の効果を受けて,完全な予測計算が不可能である,とは言っても,流体における乱流と同じく,もし完全な知識があれば全く誤差のない実験などと同じように,原理的には完全な予測が可能です。

 このような意味で,"カオス=無知"でもって「ラプラスの悪魔(Laplace's demon)」を完全に退治することはできません。

 「ラプラスの悪魔」というのは,"我々個人が,どのような決断をしたつもりであっても,宇宙開闢の初めから人間を含む全ての物質はそれを構成する分子,原子の基本的な運動方程式に従って動くだけで,運命は決まっていてどうすることもできない。"という運命論(人間機械論)を悪魔になぞらえたものです。

 人間の自由意志が「ラプラスの悪魔」を完全に退治するためには,量子論の粒子と波動の二重性,すなわち,分子も原子も確率の波であって,その軌道すら原理的には決められない,という実在主義の否定が必要だと思います。

(参考文献;テル・ハール著「熱統計学」(みすず書房)、一柳正和著「不可逆過程の物理」(日本評論社)、豊田正著「情報の物理学」(講談社)  )

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