化学

2009年3月 1日 (日)

分子と点群(3)

 続きです。前回中途半端で終わったので,例題の2次元の特殊ユニタリ群SU(2)について補足しておきます。

 まず,前回の最後の部分をほぼそのまま書きます。

(再掲開始)

 例としてが2次元の特殊ユニタリ群:SU(2)である場合を考えてみます。=SU(2)≡{g∈GL(2)|g=g-1,detg=1}です。ただしGL(2)は2次の正則な正方行列から成る群です。

対角成分がa,a-1(a∈,a≠0)の2次の対角行列をhaとし,{ha∈GL(2)|a∈,|a|=1}とします。

 

は明らかに=SU(2)の部分群です。しかも,これは可換群(アーベル群)であり,1-パラメータ群(a=exp(iα))なので,U(1)(絶対値が1の複素数の乗法群)と同型です。

=SU(2)の任意の元gの2つの固有値をa,a-1(a∈,|a|=1)とすると,gはあるk∈SU(2)によってha=k-1gk,haと対角化できます。またはg=kha-1,haとすることができます。

一般にU(1)の幾つかの直積と同型な群をトーラス群といいます。

がトーラス群,かつの部分群,すなわちトーラス部分群であって,これを真に含むGのトーラス部分群が存在しないなら,の極大トーラス部分群と呼びます。

 

今の=SU(2)の場合には,上で定義した2次の対角行列から成る部分群はSU(2)の極大トーラス部分群となっています。

[定理5]:=SU(2)とする。

 

(1)の任意の元gは極大トーラス群の元と共役である。

 

(2)g,h∈,に対してf(hgh-1)=f(g)を満たす関数(類関数という)fは極大トーラス部分群の上の値だけで決まる。

  

 すなわち,f1,f2を2つの類関数とするとき,∀h∈に対してf1(h)=f2(h)ならf1=f2である。

=SU(2)の表現(D,U)の指標χDは明らかに類関数なので,これは極大トーラス部分群の上の値だけで決まります。

 

(再掲終了)※

 さて,SU(2)の(m+1)次元表現(Dm,Um)の表現空間Umを2つの文字z1,z2の複素係数のm次の同次多項式全体から成る空間とします。

 

 Umの任意の元は(m+1)個の単項式z1m,z1m-12,..,z12m-1,z2mの1次結合として一意的に表現されるのでUmは確かに(m+1)次元線型空間です。

 そして,表現(Dm,Um)を∀φ∈Umに対しDm(g)φ()≡φ(g)(∀g∈SU(2)) で定義します。ここでt(z1,z2)としました。

このとき,∀g,h∈SU(2)に対してDm(gh)φ()=φ(gh)=Dm(g)φ(h)=Dm(g)Dm(h)φ()なので,この写像は定義域=SU(2)の上で確かに準同型になっていますが,Dm(g)は本当にUmの上の線型変換なのでしょうか?

 まず,φ()がz1,z2のm次の同次多項式,つまりφ()=c11m+c21m-12+..+cm-112m-1+cm2mであることは,φ(t)=tmφ()であることを意味します。

 

 gz=t(az1+bz2,cz1+dz2)(ad-bc=1,d=a*,c=-b*)なるgに対しg(t)=t(g)なので,φ(g(t))=φ(t(g))=tmφ(g)です。

 

 故に,Dm(g)φ()=φ(g)も成立します。つまりm(g)φはz1,z2のm次の同次多項式です。

 

そこで,演算Dm(g)に対し表現空間Umは不変で閉じていること:Dm(g)は確かにUmからUmへの写像であることがわかります。

そして,∀φ,ψ∈Umと∀α,β∈に対してDm(g)[(αφ+βψ)()]=(αφ+βψ)(g)=αDm(g)φ()+βDm(g)ψ()なので線型性も自明です。

 

結局,Dm(g)はUmの上の線型変換であり,(Dm,Um)が確かにSU(2)の1つの表現であることがわかりました。

ここで,z≡z1/z2と置けばUmの任意の元であるz1,z2のm次の同次多項式は,zのm次多項式φ^(z)を用いてφ()=c11m+c21m-12+..+cm-112m-1+cm2m=z2m(c1m+c2m-1+..+cm-1z+cm)≡z2mφ^(z)と表現されます。

 

ただし,zのm次多項式φ^(z)をφ^(z)≡φ()/z2m,またはφ()≡z2mφ^(z)によって定義しました。

  

このzの多項式:φ^はz1,z2の同次多項式φ∈Umと完全に1対1に対応します。

そして,gがgz=t(az1+bz2,cz1+dz2)(ad-bc=1,d=a*,c=-b*)を与えるSU(2)の元である場合,

 

m(g)φ()=φ(g)なる変換式は,Dm(g)[z2mφ^(z)]=(cz1+dz2)mφ^((az1+bz2)/(cz1+dz2))=z2m(cz+d)mφ^((az+b)/(cz+d))を意味します。

結局,Umの任意の元であるz1,z2のm次同次多項式φ()はzのm次多項式φ^(z)と完全に1対1に対応することがわかりました。

 

つまり,z1,z2のm次同次多項式φ()は(m+1)個の基底z1m,z1m-12,..,z12m-1,z2mの1次結合として一意的に表現されますが,これはφ()と全く同じ係数の(m+1)個の基底zm,zm-1,..,z,1の1次結合であるzのm次多項式φ^(z)に同型対応します。

 

そこで,Umはzのm次多項式全体の作る線型空間Vmと同型です。

したがって,表現(Dm,Um)における表現空間UmをVmに変更した(m+1)次元表現を(Dm,Vm)と書けば,これはgz=t(az1+bz2,cz1+dz2)を与えるg∈SU(2)に対してDm(g)φ^(z)=(cz+d)mφ^((az+b)/(cz+d))を与える表現です。

 

結局,Um→Vmは表現Dmの表現空間における単なる基底変換と見なせるので,(Dm,Vm)は(Dm,Um)に同値です。

(なお,z→az+b/(cz+d)を1次分数変換,またはメビウス変換と呼びます。この変換はSU(2)と全く同型です。

 

普通,これもSU(2)と同一視されますが,群の表現と解釈するなら忠実な表現です。)

SU(2)の(m+1)次元表現(Dm,Vm)は,haに対してはDm(ha)φ^(z)=a-mφ^(az/a-1)=a-mφ^(a2z)ですから,Vmの全ての基底:fk(z)≡zk(k=0,1,2,..,m)に対してはDm(ha)fk(z)=a2k-mk(z)となります。

 

したがって,基底fk=fk(z)=zの1次結合で表わした任意のφ=Σk=0mkk∈Vmに対して,Dm(ha)はDm(ha)φ=Σk=0m2k-mkkと書けます。

つまり,線型変換Dm(ha)は行列表現ではその成分がDm(ha)kj=a2k-mδkjの対角行列です。

 

そこで,表現(Dm,Vm)の指標χDmをχmと書けば,χm(ha)=Tr{Dm(ha)}=Σk=0m2k-m=a-m(1-a2(m+1))/(1-a2)=(a-(m+1)-am+1)/(a-1-a)=sin{(m+1)α}/sinα,(a≡exp(iα),α∈)となります。

ところで,gz=t(az1+bz2,cz1+dz2)(ad-bc=1,d=a*,b=-c*)を与えるSU(2)の元gの成分を4つの実数x1,x2,x3,x4を用いてa=x1+ix2,c=x3+ix4と表現すれば,ad-bc=1なる条件はx12+x22+x32+x42=1となります。

そこで,3つの独立なパラメータθ123によってx1=cosθ1,x2=cosθ2sinθ1,x3=cosθ3sinθ2sinθ1,x4=sinθ3sinθ2sinθ1と表わすことができます。

 

ただし,0≦θ1≦π,0≦θ2≦π,0≦θ3≦2πです。

微小長さdsはds2=dx12+dx22+dx32+dx42=dθ12+sin2θ1dθ22+sin2θ1sin2θ2dθ32で与えられるので,対応する体積要素はsin2θ1sinθ2dθ1dθ2dθ3になります。

そこで,∫SU(2)ψ(g)dg=∫00π0πψ(θ123)sin2θ1sinθ2dθ1dθ2dθ3がSU(2)上の不変積分となります。

 

これにψ≡1を代入したSU(2)の全体積が2π2となるので,規格化された不変測度は上記dgを2π2で割り,改めてdg={1/(2π2)}sin2θ1sinθ2dθ1dθ2dθ3で与えられます。

ところで,g=haの対角行列ではc=x3+ix4=0 ですから,これはθ2=0 を意味します。

 

そして,このときa=x1+ix2=cosθ1+isinθ1=exp(iθ1)ですから上で求めた指標χm(ha)=Σk=0m2k-m=sin{(m+1)α}/sinα(a≡exp(iα),α∈)は,これにα=θ1を代入することで明確なθ1の関数の形でχm(ha)=sin{(m+1)θ1}/sinθ1となります。

そして,先にコンパクト群上の関数φ,ψについての内積を<φ|ψ>≡∫φ(g)*ψ(g)dgによって定義しました。

 

これにより=SU(2)においては<χm+1n+1>=∫SU(2)χm+1(g)*χn+1(g)dg=∫SU(2)χm+1(ha)*χn+1(ha)dg={1/(2π2)}∫00π0πsin{(m+1)θ1}sin{(n+1)θ1}sinθ2dθ1dθ2dθ3=(2/π)∫0πsin{(m+1)θ1}sin{(n+1)θ1}dθ1=δmnが得られます。

このことから,表現(Dm,Vm),または(Dm,Um)(m=0,1,2,..)は全てSU(2)の(m+1)次元の既約表現であることがわかりました。

最後に,SU(2)の既約表現が上記の(Dm,Vm),または(Dm,Um)(m=0,1,2,..)で尽くされることを見ます。

まず,任意の表現(D,U)の指標χDは極大トーラス部分群の上のha,つまりパラメータθ1のみの関数として,χD(ha)=χD1)で与えられ,これは<χDD>=(2/π)∫0πχD1)*χ D1)sin2θ1dθ1を満たします。

 

しかも,haとha-1=h1/aは互いに共役(相似)なのでχD(ha)=χD(h1/a )ですが,a=exp(iθ1),a-1=1/a=exp(-iθ1)なのでχD1)=χD(-θ1)よりχD1)は偶関数です。

したがって,ξ(θ1)≡sinθ1χD1)とおくと,これはθ1の奇関数で周期が2πの連続関数です。

 

そこで,こξ(θ1)はξ(θ1)=Σn=1nsin(nθ1),cn=(2/π)∫0πξ(θ1)sin(nθ1)dθ1とフーリエ正弦展開できます。

よって,<χDm>=(2/π)∫0πξ(θ1)sin{(m+1)θ1}dθ1=cm+1となります。

 

そこで,もしも表現(D,U)があらゆる(Dm,Um)と異値:<χDm>=0 (m=0,1,2,..)なら,cm+1=0 (m=0,1,2,..)によって恒等的にχD≡0 となります。

 

厳密には,フーリエ級数ξ(θ1)=Σn=1nsin(nθ1)についてパーシバル(Parseval)の等式∫π|ξ(θ1)|2dθ1=2∫0π|ξ(θ1)|2dθ1=πΣn=1|cn|2でΣn=1|cn|2=0 が成立します。

 

それ故,∫0π|ξ(θ1)|2dθ1=0 から,ξ(θ1)は,ほとんどいたるところでゼロであることがわかりますが,ξ(θ1)はθ1の連続関数なので恒等的にゼロです。

 

つまり,ξ(θ1)=sinθ1χD1)=0 により,χD(ha)=χD1)=0 なので∀g∈SU(2)について,χD(g)=χD(ha)=0 です。

これは,既約性の条件<χDD>=1に矛盾します。

 

したがって,(D,U)が既約表現なら,これはあるmに対する(Dm,Um)と同値でなければなりません。

これらを,定理の形にまとめます。

[定理6]:(1)SU(2)の任意の既約表現は,あるmに対するDmと同値である。

 

(2)既約表現Dmの指標χmは,SU(2)の極大トーラス部分群の上ではha;a=exp(iθ)に対してχm(ha)=sin{(m+1)θ}/sinθで与えられる。

 一般にgの固有値がa=exp(iθ),a-1=exp(-iθ)のときχm(g)=χm(ha)=sin{(m+1)θ}/sinθとなる。

 

(3) SU(2)の任意の表現Dは完全可約であって,いくつかのDmの直和と同値である。

 SU(2)は単に群の1つの例として出したつもりだったのですが,ここまで書いてしまったので,SU(2)の随伴表現が回転群SO(3)≡{R∈GL(3,)|tR=R-1,detR=1}の忠実な表現になることを利用してSO(3)の既約表現を調べます。

 まず,体( or )の元を成分とするn次の正方行列の集合をM(n,)と書くと,これはの上の線型空間を作ります。

 

 今,U≡{∈M(n,)|=0,Tr=0}とすると,これは∀∈Uは∀t∈に対してt∈Uの(n2-1)次元の実線型空間です。

 

 一般のn次の特殊ユニタリ群=SU(n,)の元gに対して,その∈Uに対する線型変換Adgを,(Adg)≡g-1で定義します。

 固定したg∈SU(n,)に対してAdgがUの上の線型写像であることは明らかです。

 

 そして∀∈Uについて,=0 とAdgの線型性より(Adg)+(Adg)=0 ですが,(Adg)=g-1=g=(g)t={(Adg)}です。

 

 また,Tr((Adg))=0 なので,AdによってUは不変です。

一方,∀g1,g2∈SU(n,)に対して,{Ad(g21)}=g211-12-1=g2{(Adg1)}g2-1=(Adg2)(Adg1)ですから,写像g→Adgは連続かつ準同型な写像です。

以上から,AdはSU(n,)の(n2-1)次元実表現空間U上での表現であることがわかりました。これをSU(n)の随伴表現といいます。

ここで,1,2∈Uに対する内積を<1|2>≡Tr(12)=Σi,j=1n[u1*ij2ij]で定義します。特に,<|>=Tr()=Σi,j=1n|uij|2≧0 (∈U)です。

 

そして,<(Adg)1|(Adg)2>=Tr(g1-12-1)=Tr(12)=<1|2>なので,この内積の定義ではAdはユニタリ表現です。

 

しかも,Uは実線型空間なのでユニタリ表現であることは,Adgが直交行列であることを意味します。

そこで,特にn=2,n2-1=3の場合,SU(2)=SU(2,)の場合にはAd[SU(2)]は"3次元直交行列の群=回転群":SO(3)と準同型になります。

 

なぜなら,写像g→Adgは連続であり,Ad[SU(2)]は連結なのでdet(Adg)=1となるからです。

 

ただし,Ad(-1)=Ad(1)=I(回転群の単位元)なので,Ker(Ad)={±1}より,SU(2)~ O(3)/{±1}=SO(3)です。

 

つまり,R∈SO(3)に対して,g∈SU(2)が存在してAdg=Rならば,Ad(-g)=Rであり,このh=±g以外にはAdh=Rを満たすh∈SU(2)は存在しません。

 

パウリのスピン行列として知られているσ=(σ123)を用いて,k≡iσk/√2 (k=1,2,3)とすれば,k∈Uであって<i|j>=δijですから,これはUの1つの正規直交基底になります。

 

任意のUの元=Σk=13kkと展開すれば,k(k=1,2,3)は3次元空間のあるxyz座標系のx,y,z軸方向の単位ベクトルで,(u1,u2,u3)は空間ベクトルのこの座標系での成分と同定され,ます。

  

そして,特にhθ≡ha⊂SU(2);a=exp(iθ)なら線型変換Adhθによって基底k(k=1,2,3)は(Adhθ)11cos(2θ)+2sin(2θ),(Adhθ)2=-1sin(2θ)+2cos(2θ),(Adhθ)33cos(2θ)と変換されるので,この基底ではAdhθ3軸のまわりの角:2θの回転を表わしています。

 

また,Adkθ,Adlθがそれぞれ2軸,1軸のまわりの角:2θの回転を表わすようなkθ,θ∈SU(2)を取ることもできるので,結局全ての回転を随伴表現で与えることが可能です。

 

まあ,回転群SO(3)を生成するには実際には,hθ,kθ,θのうちの2つがあれば十分なのですが。。。

 

さてSO(3)の1つの表現(T,U)があるとき,g∈SU(2)に対してD(g)≡T(Adg)とすれば,(D,U)はgの1つの表現です。そしてSO(3)の表現(T,U)が既約であることとSU(2)の表現(D,U)が既約であることは同値です。

 

D(g)≡T(Adg)によってSO(3)の任意の既約表現からSU(2)の既約表現が得られますが,SU(2)の表現(D,U)からD(g)≡T(Adg)によって必ずしもSO(3)の表現(T,U)は決まりません。

 

すなわち,R∈SO(3)に対してAdg=Rとなるg∈SU(2)は2つ存在してそれは±gです。

 

そこで,D(g)≡T(Adg)であるならば,D(g)=T(R),かつD(-g)=T(R)ですからD(g)=D(-g),つまりD(-1)=D(1)=Iである必要があります。

 

逆にD(-1)=IならD(g)≡T(Adg),Adg=Rから表現T(R)は一意的に決まります。

 

そこでSO(3)の既約表現(T,U)を求めるにはSU(2)の既約表現(D,U)を全て求め,それらのうちでD(-1)=Iを満たすものを取ればいいことになります。

 

ところが,上に述べたようにSU(2)の既約表現の全ては既に(m+1)次元表現(Dm,Um)(m=0,1,2,..)で尽くされることがわかっています。そして,Dm(-1)(-1)mIです。

 

したがって,mが偶数:m=2lのときにはSU(2)の既約表現(Dm,Um)(m=0,1,2,..)からTl(R)≡Dm(Ad-1R)によって回転群SO(3)の既約表現(=1価表現)(Tl,U2l)(l=0,1,2,..)が得られます。

 

(Tl,U2l)は(2l+1)次元表現です。(これは量子論では角運動量がJ=lのJz=-l,..,-1,0,1,..,lに対応します。)

 

そして,Adhθ3軸のまわりの角:2θの回転Rを表わしていて(Dm,Um)の指標がχm(g)=χm(hθ)=sin{(m+1)θ}/sinθなので,3軸のまわりの角:θの回転Rθに対する(Tl,U2l)の指標はχl(Rθ)=sin{(2l+1)θ/2}/{sin(θ/2)}で与えられます。

 

さらに,SO(3)の任意の表現Tは完全可約であって,いくつかのTlの直和と同値になります。

 

なお,mが奇数m=2k+1のときの,Tk+1/2(Adg)=Dm(g))(k=0,1,2,..)はSO(3)の表現としては2価表現((2k+2)次元表現)を与えます。

 

(これは量子論で角運動量がJ=k+1/2のときのJz=-k-1/2,..,-1/2,,1/2,..,k+1/2に対応します。)

 

今日はここまでにします。

参考文献:山内恭彦,杉浦光夫著「連続群論入門」(培風館),犬井鉄郎,田辺行人,小野寺嘉孝 著「応用群論」(裳華房),島 和久 著「連続群とその表現」(岩波書店)

 

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2009年2月26日 (木)

分子と点群(2)

 対称性変換群の表現論の続きです。 

 (D,U)を群のユニタリな行列表現とすると,シューアの補題(Schur's lemmma)によれば,∀R^∈に対するD(R)と可換な線型変換Tがスカラーであること,つまり∀R^∈に対する表現行列D(R)と可換な行列Tが単位行列の定数倍に限られるということが,Dが既約表現であるための必要十分条件であるというところまで書きました。

ユニタリな行列表現(D,U)は完全可約であって,表現空間U,および∀R^∈に対する表現行列D(R)は既約表現の直和に分解されます。これをU=Σα(α),D(R)=Σα(α)(R)と書きます。ここではΣαは直和を意味する記号とします。 

 これから,次の定理が導かれます。

[定理1]:群のユニタリな既約表現(D(α),U(α))の表現行列D(α)(R)は次の直交関係:ΣR∈G(α)ij(R)*(β)kl(R)=(g/dααβδikδjlを満たす。

 

 ここで群は有限群であると仮定しており,gはその位数||です。また,dαは既約表現(D(α),U(α))の次元です。つまりD(α)(R)はdαの正方行列です。

(証明)Bをdαβ列の任意の行列とし,同じdαβの行列TをT≡ΣR∈G(α)(R-1)BD(β)(R)によって定義します。

 

 このとき,R1^∈についてD(α)(R1)T=ΣR∈G(α)(R1-1)BD(β)(R)=ΣR∈G(α)(R-1)BD(β)(RR1)=TD(β)(R1)となります。

 つまり,D(α)(R1)T=TD(β)(R1)です。

 

 この等式はR1^∈を特定して得られたわけではなく,したがって任意のR1^∈に対して成立するので,シューアの補題により,α≠βの場合,すなわち(α)とD(β)が同値でない(異値の)既約表現の場合には,T≡0 です。

 そして,T=ΣR∈G(α)(R-1)BD(β)(R)=0 において,Bは任意なので成分表示Tjl=Σm,nΣR∈G(α)jm(R-1)Bmn(β)nl(R)=0 において,特にBmn=δmiδnkとしてこれを代入すればΣR∈G(α)ji(R-1)D(β)kl(R)=0 を得ます。

 

 行列D(α)(R)はユニタリなので,D(α)ji(R-1)=D(α)ji(R)=D(α)ij(R)*ですが,これはΣR∈G(α)ij(R)*(β)kl(R)=0 を意味します。  

 一方,αβの場合には,同じくシューアの補題によりT=ΣR∈G(α)(R-1)BD(α)(R)=λIです。

  

 成分表示Tjl=Σm,nΣR∈G(α)jm(R-1)Bmn(α)nl(R)=λδjlにおいて,特にBmn=δmiδnkを代入すれば,ΣR∈G(α)ij(R)*(α)kl(R)=λδjlを得ます。 

 ここで,j=lとして両辺をj=1,2,..,αについて加え合わせるとΣj=1ΣR∈G(α)ji(R-1)D(α)kj(R)ΣR∈G(α)ki(RR-1)=λdαとなります。

 

 よって,λdα=gδik,:λ=(g/dαikなので,ΣR∈G(α)ij(R)*(α)kl(R)=(g/dαikδjlです。(証明終わり)

(註)実際には,(R)=Σα(α)(R)なる直和分割において,各々のD(α)(R)が,全て互いに異値であるというわけではなく,α≠βの場合でも(α)(R)とD(β)(R)が同値な場合もあります。

そして,D(R)=Σα(α)(R)なる既約表現への直和分解においてD(α)と同値な表現の個数がmαなら,このmα(α)重複度と呼ぶことにします。

 

これにより表現の直和分割を改めてD(R)=Σαα(α)(R)と書けば,上の定理1の結論である直交性ΣR∈G(α)ij(R)*(β)kl(R)=(g/dααβδikδjlは,ΣR∈G(α)ij(R)*(β)kl(R)={g/(mαα)}δαβδikδjlに変更されます。 

 さて,上の定理は群が回転群のうち角運動量lが定まった部分群のような有限群の場合の定理ですが,そうではなくが回転群の全体であるような連続群で,それ故無限群の場合には次のように変わります。

[定理2]:(D,U),(D',U')を連続群のそれぞれm次,n次のユニタリ行列による既約表現とする。このとき,DとD'が同値なら∫ij(R)*D'kl(R)dR=(1/m)δikδjl,一方DとD'が異値なら∫ij(R)*D'kl(R)dR=0 が成立する。 

(略証):Bをm行n列の任意の行列とし,同じm行n列の行列TをT≡∫(R-1)BD'(R)dRによって定義します。

 

 以下,上の連続関数fに対する積分の左不変性(R1-1R)dR=(R)dRを用いると,任意のR1^∈に対して,D(R1)T=TD'(R1)なる等式が成立するという結果が得られるので,シューアの補題,および∫dR=1から,[定理1]の証明とほぼ同じ手順で[定理2]の結論が得られます。(証明終わり)

 ただし,上記の定理の命題の意味を明確にするためには,上の任意の連続関数fに対し,"任意のR1^∈に対して∫(R1-1R)dR=(R)dRが成立する"という積分の左不変性を持ち,dR=1なる規格化条件を満たす左不変測度と呼ばれる上の測度dRを定義する必要があります。 

 そして,こうした測度が定義できるためには位相群の位相空間としての空間体積が有限であることが必要です。

位相空間の空間体積とは何か?というような抽象的な話に入るのはなるべく避けて,連続群の例として3次元の合同変換群を挙げます。

 

この空間の座標パラメーターとして極座標(r,θ,φ);r2≡x2+y222,x=rsinθcosφ,y=rsinθcosφ,z=rcosθを採用することができます。

3次元空間全体の体積は無限大なので平行移動群を含めた全体の合同変換群の体積は∞ なのですが,回転群だけならrを除いた(θ,φ)だけで事足りるので,これだけなら,体積は∫sinθdθdφ=4π程度です。(0≦θ<2π,0≦φ<π)

一方,例えばが3次元ポアンカレ群の部分群である3次元ローレンツ群O(2.1)であれば,極座標(r,θ,φ)はr2≡c22-x2-y2,x=rsinhθcosφ,y=rsinhθcosφ,ct=rcoshθです。

 

形は似ていますが,平行移動群のパラメータrを除いたローレンツ群の体積は∫sinhθdθdφ=∞ になります。

これは,パラメータ空間として,0≦φ<πは同じですが,θについては回転群では 0≦θ<2πなのに対し,ローレンツ群では双曲線関数の定義域なので-∞≦θ<∞であるからです。

 

パラメータ空間の体積が有限な連続群をコンパクト群,そうでない群を非コンパクト群といいます。

物理学ではミンコフスキー(Minkowski)空間を解析接続してユークリッド空間とした方が計算しやすいので,時間変数を"複素数に拡張=解析接続"して複素平面上の虚軸をπ/2だけウィック(Wick)回転する方法があります。

  

また,統計物理学では,絶対温度Tの逆数β≡1/(kBT)を量子力学での虚時間:itと同一視する手法が用いられます。

  

しかし,実際には回転群がコンパクト群であるのに対して,ローレンツ群は非コンパクト群であることに対応してミンコフスキー空間はコンパクト空間でないので,これらの手法の妥当性はみかけほど自明なことではなく,数学的な正しさにとってかなり微妙な手続きです。

さて,がコンパクト群の場合は全体積が有限なので,全体積で割ることによりdRをdR=1を満たすような体積要素とし,任意の連続関数fに対してS(f)≡(R)dRで定義した積分S(f)が次の4つの基本的性質を満たすようなものが各fごとに唯1つ存在します。

 

積分S(f)を群の上の不変積分といい,dを左不変ハール測度といいます。

 

そして,S(f)が満たすべき基本的性質とは,

 

(ⅰ)Sは線型:∀a,b∈Cと任意の連続関数f,gに対してS(af+bg)=aS(f)+bS(g)である。

 

(ⅱ)∀^∈に対しf(R)≧0 ならS(f)≧0 である。

 

特に,^∈に対しf(R)≧0 であるが恒等的にf(R)≡0 でないなら,S(f)>0 である。

 

(ⅲ)Sは左不変,つまり1^∈に対してLR1(R)≡f(1-1)とすれば,S(LR1)=S(f)である。

 

(ⅳ)S(1)=1 である。

  

4つです。

,RR1(R)≡f(R1)と定義しS~(f)をS~(f)≡S(R1)によって定義すれば,Sの左不変性からS~(LR1f)≡S(R1R1)=S(R1)=S~(f)が成立するので,S~も左不変です。

 

証明はしていませんが,左不変な不変積分は一意的であることがわかっているので,S~=Sです。

 

結局,(R1)dR(R)dRが成立します。よって,左不変積分は右不変でもあります。

この不変測度による不変積分を用いて一般のコンパクト群上の関数φ,ψについての"内積=ユニタリ内積"を<φ|ψ>=∫φ(R)*ψ(R)dRで定義します。

次に,重要な概念である群の表現の指標を定義します。

[定義1]:群の表現(D,U)に対して,χD(R)≡Tr{D(R)}(∀^∈)で定義される上の関数χDをこの表現の指標という。

 

 すなわち,χD(R)=Tr{D(R)}=Σk=1mD(R)kkである。(ここでTrはトレース(対角和)を意味する。mは表現Dの次数である)

 明らかに,χD(I)=m(表現の次元)です。

 

 そして,トレースの性質:Tr(A+B)=Tr(A)+Tr(B),Tr(AB)=Tr(BA)(Tr(ABA-1)=Tr(B))によって,∀1^,R2^∈についてχD(R212-1)=χD(R1),また,2つの表現(D,U),(D',U')に対し,これらが同値なら,detT≠0 なるTが存在して∀^∈についてD'(R)=TD(R)T-1と書けるのでχD=χD'です。

 

 また,2つの表現(D(1),U(1)),(D(2),U(2))に対しD=D(1)+D(2)(直和)ならχD=χD1+χD2が成立します。

[定理3]:(D,U),(D',U')をコンパクト群の2つの既約表現とするとき,DとD'同値なら<χDD'>=1,異値なら<χDD'>=0 である。

(証明)コンパクト群の表現(D,U)では,積分が左右不変なので,1,2∈Uの内積<1|2>を<1|2>=12から,<1|2>≡∫{D(R)1}{D(R)2}dRに定義し直すと,∀1^∈について<D(R1)1|D(R1)2>=<1|2>が成立するため,D(R1)=D(R1)-1が成立するユニタリ表現と考えることができます。

そして,先の定理2の命題:"(D,U),(D',U')をのそれぞれm次,n次のユニタリ行列による既約表現とするとき,DとD'が同値なら∫ij(R)*D'kl(R)dR=(1/m)δikδjl,一方DとD'が異値なら∫ij(R)*kl(R)dR=0 が成立する。"から定理の結論が成立することは明らかです。(証明終わり)

先に,定理1の証明のすぐ後で,

 

"群が位数;g=||の有限群の場合に,"D(R)=Σα(α)(R)なる既約表現への直和分解においてD(α)と同値な表現の個数がmαなら,これを(α)重複度と呼ぶことにします。

 

これにより表現の直和分割をD(R)=Σαα(α)(R)と書けば,上の定理1の結論である直交性:ΣR∈G(α)ij(R)*(β)kl(R)=(g/dααβδikδjlはΣR∈G(α)ij(R)*(β)kl(R)={g/(mαα)}δαβδikδjl に変更されます。"

 

と書きました。

がg=||=∞ の連続群で,それもコンパクト群の場合にはD(R)=Σα(α)(R)なる既約表現への直和分解においてD(α)の次元をdα,重複度をαとするとき,上の定理1の結論は定理2のそれに変更され,直交性:ΣR∈G(α)ij(R)*(β)kl(R)={g/(mαα)}δαβδikδjl,"D(α)とD(β)が同値なら∫(α)ij(R)*(β)kl(R)dR=(1/dαikδjl,異値なら∫(α)ij(R)*(β)kl(R)dR=0 である"となります。 

このとき,指標χD(R)=Tr{D(R)}はχD(R)=Σααr{D(α)(R)}よりχD=ΣααχD(α)ですが,定理3によって<χD(α)D>=αを得ます。

 

さらには<χDD>=Σαα2となります。このことから次の重要な定理が得られます。 

[定理4]:(1)(D,U)をコンパクト群の表現とするとき,これが既約表現であるための必要十分条件は<χDD>=1なることである。(2)(D,U),(D',U')をコンパクト群の2つの表現とするときDとD'同値:D~D'であるためにはχD=χD'なることが必要十分である。

(証明)(1)は自明ですから(2)のみを証明します。

 

 まず,χD=χD'なら,任意の既約表現(α)に対して<χD(α)D’>=<χD(α)D>ですから,χD=ΣααχD(α);<χD(α)D>=αを意味する表現D=Σαα(α)とD'が同値であることは自明です。必要性は既に示されています。(証明終わり)

 さて,例として対象とする群が2次元の特殊ユニタリ群:SU(2)である場合を考えてみます。

 

 すなわち,=SU(2)≡{g∈GL(2)|g=g-1,detg=1}とします。ただし,GL(2)は正則な2次の正方行列から成る群です。ここでは行列要素が複素数のGL(2,)を仮定しています。

対角成分がa,a-1(a∈,a≠0)の2次の対角行列をhaと書き,≡{ha∈GL(2)|a∈,|a|=1}とします。

 

は明らかに=SU(2)の部分群です。しかもこれは可換群(アーベル群)であり,1-パラメータ群(a=exp(iα))ですから,U(1)(絶対値が1の複素数の乗法群)と同型です。

 

SU(2)の任意の元gの固有値をa,a-1(a∈,|a|=1)とするとgはあるk∈SU(2)によってha=kgk-1,haと対角化できます。あるいは,g=kha-1,haとすることができます。

  

一般にU(1)の幾つかの直積と同型な群をトーラス群といいます。

 

がトーラス群かつの部分群,すなわちトーラス部分群であってこれを真に含むのトーラス部分群が存在しないなら,の極大トーラス部分群といいます。

 

今のがSU(2)の場合には上で定義した2次の対角行列から成る部分群はSU(2)の極大トーラス部分群となっています。

  

[定理5]:=SU(2)とする。(1)の任意の元gは極大トーラス群の元と共役である。(2)g,h∈に対してf(hgh-1)=f(g)を満たす関数(類関数という):fは極大トーラス部分群の上の値で決まる。すなわち類関数f1,f2が∀h∈に対してf1(h)=f2(h)を満たすならばの上でf1=f2である。

 

 これの証明は自明なので省略します。

 

 =SU(2)の表現(D,U)が与えられたとき,指標χDは明らかに1つの類関数ですから,極大トーラス部分群の上の値だけで決まります。

 

 今日はここまでにします。 

参考文献:山内恭彦,杉浦光夫著「連続群論入門」(培風館),犬井鉄郎,田辺行人,小野寺嘉孝 著「応用群論」(裳華房),島 和久 著「連続群とその表現」(岩波書店)

 

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