核反応

2007年1月11日 (木)

結合エネルギーが最大の元素(鉄)

重い原子核の結合エネルギーは質量公式:E(Z,N)=-c1A+c22-1/3+c3(N-Z)2/A+c42/3,c116MeV,c20.72MeV,c324MeV,c418MeVで近似的に表現できることを既に述べました。

そこで安定な原子核のZはAのどのような関数であるかを調べ,次に1核子当たりの結合エネルギーが最大の原子核の質量数AをN~Z~A/2の近似のもとで求めてみます。

安定な核は,条件式(∂E/∂Z)|A=0 から得られます。

 

N-Z=A-2Zなので,(∂E/∂Z)|A=22ZA-1/343(A-2Z)/A=0 であり,このZを境にして∂E/∂Zは正から負に変わりますから,このZでEは最小になります。

 

したがって,Z=2c3/(22/343)≒48A/(0.72A2/396)という式が安定な核の条件になります。そこでAがあまり大きくなければ,Z~A/2 で安定ですね。

また,N~Z~A/2で1核子当たりの結合エネルギーが最大になるAを求めると,d{E(A/2,A/2)/A}/dA=d(-c1+c22/3/4+c4-1/3)/dA=A-4/3(c2/6-c4/3)なので,A=2c4/c236/0.72~50となります。

 

A~50付近の元素で,組成がZ~A/2に近いものは,バナジウム(V:A=51,Z=23),クロム(Cr:A=52,Z=24,マンガン(Mn:A=55,Z=25),鉄(Fe:A=56,Z=26)etc.があります。

 

しかし,これらは,丁度Z=A/2を満たすわけではありません。むしろ,E(Z,N)に,=2c3/(22/343)≒48A/(0.72A2/396),およびN=2A-Zを代入した後,dE/dAがゼロとなるAを求めた方がいいかもしれません。これは,結構大変ですね。

  

鉄(Fe:A=56,Z=26)は,Z=2c3/(22/343)≒48A/(0.72A2/396)に組成がかなり近いようです。そして,実在の元素では鉄(Fe)のときに結合エネルギーE(Z,N)が最大になるようです。

 

したがって,星の熱核融合で重元素が創られていっても,最終的に鉄(Fe)に到達すると,それ以上反応は進まないで,そこで核融合は終わることになるようです。

 

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2007年1月 9日 (火)

中性子星の物理

 重力収縮した星の中心部のように非常に高密度の物質では,陽子,電子,中性子の自由粒子の混合としての理想気体という描像とは程遠く,通常,核子は自由粒子ではなく原子核という状態で存在しています。

 

 したがって,高密度状態では核力の影響を無視できません。

 重い原子核の結合エネルギーは次のような半経験的質量公式で表わすことができます。

 

 すなわち,Z,Nをそれぞれ陽子数,中性子数,A=Z+Nを質量数とすると,結合エネルギーE(Z,N)はE(Z,N)=-c1A+c22-1/3+c3(N-Z)2/A+c42/3で与えられるという式です。

 

 ここに,c116MeV,c20.72MeV,c324MeV,c418MeVです。

 公式の右辺の項は,順に体積エネルギー,クーロンエネルギー,対称エネルギー,表面エネルギーです。

 

 このうち,クーロンエネルギーc22-1/3と表面エネルギーc42/3のA依存性は,原子核の半径がr=1.3×10-151/3mのように与えられることから推察されます。

 原子核は,β崩壊による自由電子の放出と逆β過程による電子の吸収(捕獲)との平衡状態にあると考えられます。

 

 この平衡は原子核をA(Z,N)で表わすと,(Z,N)+e- ⇔ A(Z-1,N+1)と表現されます。

 

 この平衡式を原子核の静止質量を含んだエネルギーの保存と解釈すると,Zmp2+Nmn2+E(Z,N)+Ee(Z-1)mp2(N+1)mn2+E(Z-1,N+1)と書けます。

 すなわち,{E(Z,N)-E(Z-1,N)}+Ee{E(Z-1,N+1)-E(Z-1,N)}+(mn-mp)2 です。

 

 Z,N>>1であれば,(Z,N)-E(Z-1,N)~∂E(Z,N)/∂Z≡μp,E(Z-1,N+1)-E(Z-1,N)~∂E(Z,N)/∂N≡μnです。

 

 ここで化学ポテンシャルμpn は,それぞれ陽子,中性子を原子核に1個追加するのに必要なエネルギーを意味するので,原子核の内部エネルギーレベルのうちで占められる最も高い準位のエネルギーレベルと考えていいでしょう。

 そこで,e=μe+me2を考慮すると,平衡の式はμn-μp(mn-mp-me)2=μeですが,今はμe>>(mn-mp-me)2の場合を想定しているので,質量エネルギーを無視して平衡の条件をμn-μp=μeとします。

 一方,(Z,N)=-c1A+c22-1/3+c3(N-Z)2/A+c42/3,∂E(Z,N)/∂Z≡μp,∂E(Z,N)/∂Z≡μpより,μn-μp=-2c2ZA-1/34c3(N-Z)/Aです。

ここで,核子の平均個数密度をnNとすると,電子の平均個数密度neはx≡Z/Aとしてne=xnNです。

 

縮退フェルミ気体としての電子は,フェルミ運動量をpFとして,e(F /hc)3/(3π2),またはF(3π2)1/3ce1/3 (c≡h/(2π);hはプランク定数)を満たします。

 

相対論的粒子なら,μe=pFc=2Kne1/32KnN1/31/3,K≡(3π2)1/3c/2です。さらに簡単のため,6c3k≡KnN1/3によってkを定義しておきます。

このとき,平衡条件:μn-μp=μeは,μn-μp=-2c2ZA-1/34c3(N-Z)/Aより,12c3kx1/3=-22xA2/34c3(1-2x),c2xA2/32c3(1-2x-3kx1/3)となります。

ここで,与えられた固定のA値に対し,エネルギーが最低になるx≡Z/Aを求めてみます。

 

Aは定数なので1核子当たりのエネルギーEtot/A=E/A+(3/4)xμeで考えることにします。

 

ただし,第2項(3/4)μeは1核子当たりの電子の平均フェルミエネルギーe/Nです。

 

なぜなら,相対論的には,e3Pe=(3/4)(3π2)1/3ccne4/3=(3/4)eμe(3/4)xμeNより,e/N(3/4)μeとなるからです。

結局,Etot/A=-c12c3(1-2x-3kx1/3)+c3(1-2x)2+c4{c2/(2c3)}1/21/2(1-2x-3kx1/3)-1/29c3kx4/3となるので,d(tot/A)/dx=0 を計算すると,x1/2(1-2x-3kx1/3)3/2=c421/2/{2(2c3)3/2}が得られます。

具体的な値はK≒4.9×10-26Jm,324MeV≒3.84×10-12Jですから,K/6c33.84×10-15m,nN~1028-3より,nN1/3~4.6×1010-1です。

 

k~10-4,2k1/310-4からd(tot/A)/dxを調べると,x1/2 (1-2x-3kx1/3)3/2=c421/2/{2(2c3)3/2}を満たすxでtot/Aは極小になることがわかります。

具体的なc2,c3,c4の値を代入すると,1/3(1-2x-3kx1/3)≒0.081,すなわちk=(1/3)x-1/3(-0.081x-1/31-2x)となり,これからA≒12.5(A/Z)2が得られます。

 

すなわち,A=Z2/12.5という放物線が平衡曲線として得られたわけです。

一方,中性子の結合エネルギー:μn0 はμn≒-16+3.88x2/324(1-4x2)(MeV)なので,nNが増加してxが減少するにつれてμnは増加してx≒0.32でμn 0 となってしまいます。

 

これの意味はこれ以上の密度では中性子を追加するとかえって原子核の内部エネルギーが高くなってしまうということです。

 

そこで,この密度以上では一部の中性子は非束縛の核子として自由な中性子として挙動するわけです。

この臨界の自由中性子が発生する核子密度は,ρ=mNNとしてρ=ρ12.84×1014kgm-3です。そして,x≒0.32でA=122,Z=39です。

ρ>ρ1では物質は原子核,電子,中性子の3成分から成っています。もちろん,このときの中性子を理想気体として扱うことはできません。

 

核力をも考慮した状態方程式が計算できるので,これを用いて全エネルギーが最小になる状態を定めると密度の増加と共に引き続きAとZは増加しますがxは減少します。

 

そして密度がρ25.6×1016kgm-3以上になると,μpも正になりこの密度からは原子核も溶けてしまうことになります。 

ρ2以上の密度では,中性子とその数百分の1の陽子,電子で構成された状態になり,核子間では中性子の縮退圧よりも大きい核力が働くことになります。

参考文献;佐藤文隆 原 哲也 著「宇宙物理学」(朝倉書店)

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2006年12月 1日 (金)

星の進化とチャンドラセカール質量

星を構成する気体物質の圧力をP,密度をρ,万有引力定数をGとし,cを中心,gを気体,rを輻射,eを電子,Iを正のイオンの添字を表わすものとします。

 

すると,エムデン(Emden)解における質量Mは,M=[Pc3/(4πG3ρc4)]1/2φN ,ただしφN≡-(N+1)1/22dθN(ξ)/dξ]ξ=ξNで与えられます。

 

ここでPc=Pgc+Prc,Pgc=PIc+Pecですが,βc=Pgc/PcとおけばPrc/Pc=1-βcです。

ρcは電子とイオンによるもので,平均分子量μと水素原子の質量mHを用いてPgc=ρcBc/(μmH)と書けます。c はもちろん星の中心の温度です。

 

このとき,Pc3c4=(Pc/Pgc)4{Bc/(μmH)}4/Pc=(1-βc){B/(μmH)}4c4/(βc4c)となります。

 

ところが,ステファン・ボルツマンの法則:E=aT4とP=E/3(Eはエネルギー密度)により,Pc=aTc4/3ですから,星の全質量はM=[3{B/(μmH)}4/(4πG3a)]1/2{(1-βc)1/2c2Nとなります。

 

これは,輻射優勢のとき,つまりβc<<1のときにはMが大きくなることを示唆しています。

dP/dr=-GM(r)ρ(r)/r2の両辺に4πr3を掛けて,0 ~ Rまでrで積分すると∫0R4πr3(dP/dr)dr=-0M(GM(r)/r)dM(r)です。

 

右辺は星自身の重力エネルギーΩを表わしています。一方,左辺=[4πr3]r=0=R3∫PdVですからΩ=-3∫PdVです。

 

ところで星の内部で比熱比γが一定とすると,P=E/n=(γ-1)Eであり,内部エネルギーはU=∫EdVですから,結局 3(γ-1)U+Ω=0 が得られます。この等式を星のビリアル定理といいます。

一方,Ω=-0M(GM(r)/r)dM(r)=-GM2/(2R)-∫{GM(r)2/(2r2)}dr=-GM2/(2R)-∫{M(r)/ρ(r)}dPです。

ここで,ポリトロープガス球の関係:NdlogP=(N+1)dlogρより,dP/ρ=(N+1)d(P/ρ)を用いると,Ω=-GM2/(2R)-∫{M(r)/ρ(r)}dP=-GM2/(2R)-{(N+1)/2}∫PdVです。

 

そして,∫PdV=(γ-1)U=-Ω/3ですから,-GM2/R(5-N)Ω/3,あるいはΩ=3GM2/{(N-5)R}です。

 

よって,U=-Ω/{3(γ-1)}=GM2/{(γ-1)(5-N)R}を得ますから,内部エネルギーと重力エネルギーを加えた全エネルギーをEtとするとEt=U+Ω=-(3γ-4)GM2/{(γ-1)(5-N)R}=(3γ-4)Ω/{3(γ-1)}=-(3γ-4)Uとなります。

もっとも,Et=U+Ω=-(3γ-4)Uの関係を導くだけなら,こんな面倒な計算をしなくても3(γ-1)U+Ω=0 からすぐ得られます。

星が重力的に束縛されているためにはt0 が必要ですから,γ>4/3でなければなりません。

 

そして,γ>4/3の場合,星の表面からエネルギーが放出されるとdEt/dt<0 であり,Et(3γ-4)Ω/{3(γ-1)}によってdΩ/dt<0 であって,dU/dt>0 であることがわかります。

 

すなわち,収縮によって解放された重力エネルギーΔΩのうちΔΩ/{3(γ-1)}が内部エネルギーに加わり,残りは外部に放出されることになります。

通常,物体から熱エネルギーが流出すれば,その物体の温度は低下するのですが,重力平衡にある星では逆に,エネルギーが流出するほど内部エネルギーUが増加するので温度が上がることになります。

以下では,星間ガスから原始星になり主系列星になっていくという星の進化の議論に入っていきますが,星の質量によってその進化過程が異なるという話になっていきます。

 

ただし,その詳細については,私自身がまだ十分に把握していないので,概略しか述べることはできませんが。。。。

星の内部の圧力を無視すると,物質はd2/dt2=-GM/r2によって自由落下するので星の平均密度をρとするとその落下時間tffはtff{3/(4πGρ)}1/2で与えられます。

 

一方,圧力が大きくて重力が無視できるときはρ2/dt2=-d/dr> 0 なので,膨張時間 exρR/ex2~ P/Rと近似してtex~ R/(P/ρ)1/2となります。

 

そして,重力と圧力が釣り合って平衡ならff~ texとなると考えられます。

 

/ρ=kB/μmHにより,tex~ R/(P/ρ)1/2(μmH/kB)1/2{3M/(4πρ)}1/3ですから,ff~ texの条件はT~ (GH/kB)ρ1/32/3です。

 

これをT-ρの両対数曲線で表わしたとき,この条件を満たす曲線を力学的平衡線といいます。

ρに対して,Tがこれより低いときには,ff<texなので収縮が起きます。また,質量が小さいときは力学的平衡線は温度Tの低い方に下がるので,収縮はより低温にならないと始まりません。

 

一方,収縮して密度ρが高くなるとガス雲は冷却の原因となる赤外線などの輻射に対して不透明になります。

 

不透明になった原始星は輻射冷却が不透明性によって阻害されるため,断熱的に収縮して結果として温度は上昇します。

 

そして収縮の途中では水素分子の解離と電離にそのエネルギーを費やすため,やがて温度上昇は横ばいになり,そして電離が終わると再び温度が上昇していきます。

 

その後はまず中心部で収縮が止み,それから外層の落下収縮も止まります。こうして原始星は収縮して平衡に向かい,いわゆる主系列の星になります。この段階を"林フェイズ"と言います。

主系列星でHが燃焼され尽くされると,星はHeコア(ヘリウム核)と初期の元素組成を保つ外層部との層状な構造となり,Heコアの表面でのHの殻燃焼段階に入ります。

 

殻燃焼が進むとHeコアの質量が大きくなるためにコアは収縮し,星は半径が増大して巨星化します。

それ以後の進化はその質量によって異なることが知られています。

 

M<3M太陽の星はその進化とともに小さい星になります。そして内部の核エネルギーを使い果たすと共に収縮し,中心密度が高くなって電子が縮退を始めます。

 

それでも表面からのエネルギー放出は続くので,冷却してやがて電子の縮退圧で支えられる星になります。

 

このような星を白色矮星といいます。こうした白色矮星の限界質量を考えてみます。

簡単のため,化学組成は一様とし,完全冷却して完全縮退したT=0 の場合を考えます。

 

この場合の状態方程式はP=Kf(x),K={1/(3π2)}(me/h)3e26.0×1014J/m3,f(x)=x(2x-3)(x2+1)1/2+3sinh-1(x),x≡F/(me)で与えられます。

 

ここで,原子核による圧力は小さいので電子の縮退圧のみを考えています。また,cは光速,hはプランク(Planck)定数,eは電子質量です。

 

電子数密度neはne(8π/3)(me/h)33(1/3π2)(me/hc)33 (c≡h/(2π))であり,ρ=μeepです。

 

μeは原子1個当たりの電子数,mpは陽子質量です。

 

また,物質密度ρは,ρ=ρcrit3,ただしρcrit={mNμe/(3π2)}(me/h)39.7×108μe kg/m3(mNは核子の質量)で与えられます。

相対論的な場合を考えてρ>>ρc,x>>1とすると,f(x)~ 2x4-3x2より,P={c/(12π2)}{3π2ρ/(Nμe)}4/3となります。

 

これはポリトロープ指数N=3に相当しますから,質量はM=[Pc3/(4πG3ρc4)]1/2φN(N=3)で与えられます。

 

(Pc3c4)1/2={c/(12π2)}3/2{3π2/(Nμe)}2であり,エムデンの数値解によると,φ3=6.957ですからM={(2)1/2/16}φ3{(c/G)3/2/(Nμe)2}=1.16×1031μe-2 kg=5.84μe-2太陽が得られます。

 

これが電子の縮退圧で支えることのできる白色矮星の限界質量であり,これはチャンドラセカール限界質量(Chandrasekhar limit)と呼ばれています。

 

このチャンドラセカール質量Mchは,μe2の場合が多いため,Mch=1.46(2/μe)2太陽と書かれることが多いです。

実際には電子のフェルミエネルギーが大きくなると,電子は陽子と反応して中性子をつくるようになるので電子の縮退圧で支えられる白色矮星という描像は意味を失い,さらに高密度の中性子星となり中性子の縮退圧で支えられるようになります。

 

ところで,チャンドラセカール(Chandrasekhar)の名著"星の構造(Stellar structure)"の訳本の復刊を数年前から復刊ドットコムhttp://www.fukkan.com/fk/VoteDetail?no=2164にリクエストしていますが,投票が100票に達しないと復刊交渉をしてもらえません。

 

洋書のリプリント版は持っていますが,ぜひ日本語で読みたいので,できましたら投票にご協力くださるようお願いします。

 

参考文献;佐藤文隆 原 哲也 著「宇宙物理学」(朝倉書店)

 

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2006年11月30日 (木)

星の構造(ポリトロープガス球とエムデン解)

前回の議論において,4つの未知数P.ρ,L,Tに対する4つの方程式が得られました。

 

すなわち,①dP/dr=-(4πGρ(r)/r2)∫0r2ρ(r)dr,②P=P(ρ,T,μ),dL/dr=4πr2ρε,④dT/dr=-(1/λ){L/(4πr2)} (λ=4acT3/(3κρ))の4つです。

 

そこで,星の中心r=0 でL=0 ,表面r=RでP=P表面 0 ,T=T表面 0 (中心のTに比べ表面のTは無視できるほど小さい)という境界条件を与えます。

 

化学組成によりμやκがわかり,核反応の詳細なメカニズムの解明によりεがわかれば,①~④を解くことが原理的には可能となるので平衡状態での星の構造を知ることができると考えられます。

ただし,それでもまだ条件的には解くことがむずかしいと思われるので,式④dT/dr=-(1/λ){L/(4πr2)}代わりになるようなより簡明な温度勾配の式を与えるモデルを考えてみます。

一般に,断熱変化での温度勾配はdT/dr={1/(n+1)}(T/P)(dP/dr)と表わすことができます。

 

nは状態方程式PV=U/nを満たすnを意味します。非相対論的気体分子なら,PV=(2/3)Uよりn=3/2,光子気体のような相対論的気体PV=U/3よりn=3です。

これは次のような考察で導くことができます。

 

すなわち,並進以外の回転や振動などの自由度を無視すれば,を体積(Vの気体を構成する粒子数とすると,U=nBTです。

 

したがってPV=BTですが,dU=nBdTで断熱変化ではdU+PdV=0 によって,PdV=-nBdTが成立します。ここでkBはボルツマン定数(Boltzmann's constant)です。

それ故,PV=BT,PdV+VdP=BdTは-nBdT+BTdP/P=BdT,(n+1)dT/T=dP/Pとなりますから,結局dT/dr={1/(n+1)}(T/P)(dP/dr)が得られます。

これは,1/(n+1)=d(logT)/d(logP)を意味しますから,PT-(n+1)=(一定),あるいはPρ-(n+1)/n=(一定)となります。P=kρ(n+1)/n=kρ1+1/n (kは定数)と書いても同じです。

そして,④式の温度勾配dT/dr=-(1/λ){L/(4πr2)}と断熱変化の温度勾配dT/dr={1/(n+1)}(T/P)(dP/dr)は,dP/dr<0 なのでどちらも負の値となります。

 

温度勾配の絶対値|dT/dr|が断熱変化のそれより大きいなら,輻射や熱伝導だけでは平衡を保つだけのエネルギーを輸送することができず,流体(ガス)自体の運動が生じる必要があります。これを対流と呼びます。

そしてこうした大きい温度勾配の状態は対流が生じるという意味で不安定なので,最終的にはdT/dr={1/(n+1)}(T/P)(dP/dr)に落ち着くか,より安定な温度勾配に落ち着きます。

 

これを対流平衡といいます。

これらから,Pとρの間に次のような関係があると仮定します。

 

すなわち,d(logρ)/d(logP)=N/(N+1)が成り立つとします。このとき,P=kρ(N+1)/N=kρ1+1/N(kは定数)が成立します。このNのことをポリトロープ指数と呼びます。

通常の理想気体の断熱変化ではcv,cpをそれぞれ定積比熱,定圧比熱としてγを比熱比γ≡cp /vとすると,P=kργ (kは定数)となるのでγ=(logP)/d(logρ)であり,このときのポリトロープ指数NはN=1/(γ-1)で与えられます。

ケルヴィン(Kelvin)は断熱変化でなく対流平衡でもδQ=cdTとなるケースがあることに気づきました。

 

例えば湿潤大気では乾燥大気とは異なる対流平衡が存在し得ることを示すこともできます。

エムデン(Emden)はこれを一般化してδQ=cdTなる変化をポリトロープ変化と呼んで考察しました。

 

これはc=0 では断熱変化,c=∞では等温変化,c=cv,cpでは,それぞれ定積変化,定圧変化になるという意味で一般的な記述になっていると考えられます。

そしてδQ=cdTというポリトロープ変化でも,あるNについてP=kρ1+1/N(kは定数)が成立することを導くことができます。

すなわち,δQ=dU+PdVにおいてcv=(∂Q/∂T)V=(∂U/∂T)Vです。理想気体なら(∂U/∂V)T=0 なので,(∂U/∂T)V=dU/dT,PV=BTよりδQ=(dU/dT+B)dT-VdPです。

 

そこでcp=(∂Q/∂T)P=dU/dT+B,つまりcp-cvB(マイヤー(Mayer)の公式)が成立します。

それ故,δQ=dU+PdVはcdT=cvdT+(cp-cv)TdV/Vより,(cv-c)dT/T+(cp-cv)dV/V=0 と書けます。

γ'≡(cp-c)/(cv-c)とおけば,c=0 のときはγ'=γであり,また(cp-cv)/(cv-c)=γ'-1ですから,TVγ'-1=(一定),あるいはPVγ'=(一定)です。

 

したがって,1/γ'≡N/(N+1)とおけばγ'=1+1/N(N=1/(γ'-1))でP=kρ1+1/N(kは定数)が得られます。

P=kρ1+1/N(kは定数)④'を④の代わりに用いたガスによる球対称の星をポリトロープガス球(Polytropic gas sphere)と呼びます。

 

  の両辺を(r2/ρ)倍した後,さらにrで微分すると(d/dr){(r2/ρ)dP/dr}=4πGρr2となります。

 

この方程式にP=kρ1+1/N(kは定数)を代入すると,レーン・エムデン(Lane-Emden)の式と呼ばれる微分方程式(1/ξ2)(d/dξ){ξ2dθN(ξ)/dξ}=-[θN(ξ)]Nが得られます。

 

ここで,ρ≡ρcN(ξ)]N,r≡αξ,α≡(N+1)1/2[Pc/(4πGρc2)]1/2でρcは中心の密度,Pc は中心圧力です。θN(0)=1でξ,θNは無次元量です。

 

θNが満たすべき条件はθN(0)=1の他には,ξ=r=0 においてdP/dr=0 ,すなわちθN'(0)=0 です。そしてこの方程式の解をエムデン解と呼びます。

 

この方程式の一般のNに対する解を求めるには数値計算が必要ですが,N=0,1,5 の場合は解析的に厳密解を求めることができます。

 

ここでは,証明を省略してそれらの解を列記しておきます。

 

θ0(ξ)=1-ξ2/6,θ1(ξ)=sinξ/ξ,θ5(ξ)=1/(1+ξ2/3)1/2です。θ5(ξ)はξが有限の範囲ではゼロにならないので,半径は∞になります。

 

θN(ξ)>0 なら,dθN/dξ=-(1/ξ2)∫0ξξ2N(ξ)}Ndξ< 0 なので,その範囲ではθN(ξ)は単調減少関数です。

 

そしてθN(ξ)が最初にゼロになるところが星の表面ですから,その値をξNと置くと,N<5 のときは星の半径はRN=αξN=[Pc/(4πGρc2)]1/2(N+1)1/2ξNで与えられます。

 

星の質量Mは,M=∫0RN4πρr2dr=-4πα3ρc0ξN(d/dξ)[ξ2N(ξ)}N]dξ=[Pc3/(4πG3ρc4)]1/2φNとなります。ただしφN≡-(N+1)1/22dθN(ξ)/dξ]ξ=ξNです。

 

定数であるφNはNによる変動が小さいので,M=[Pc3/(4πG3ρc4)]1/2φNはMとPccの関係を知ることができる式になっています。

 N=5のときには半径が∞ですが質量Mは有限です。しかし,N>5のときは質量,半径ともに∞になりますから,N≧5は現実的な解を与えるとは思われません。

 

参考文献:佐藤文隆,原 哲也 著「宇宙物理学」(朝倉書店)

 

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2006年11月29日 (水)

星の重力平衡とエネルギーの流れ

 星(恒星)は重力によって束縛されたガスの塊りで,その表面から核融合などの反応で得られたエネルギーを放出しています。こうしたメカニズムの一端を述べてみます。

 まず,今日は球対称な星の重力平衡の話から始めます。 

 中心から半径がr,r+drにおける圧力をP,P+dPとすると,この圧力差によってrとr+drの間のガスはrの増加する向きに単位面積当たり-dPの力を受けます。

 

 一方,同じ領域のガスはrの内側の質量M(r)による重力で中心に向かって引き付けられています。

 そこで,万有引力定数をG,半径rの位置の密度をρ(r)とすると,重力平衡,すなわち釣り合いの条件は,-dPΔS={GM(r)ρ(r)ΔV/r2}={GM(r)ρ(r)/r2}ΔSdr,つまり-dP/dr=GM(r)ρ(r)/r2で与えられます。

 

 また,(r)はM(r)=4π∫0r2ρ(r)drと書くことができます。他方,Pとρは一般に温度Tや組成の平均分子量μなどで決まる気体の状態方程式P=P(ρ,T,μ)を満足するはずです。

 このため,温度Tを決定する関係式が必要となり,そのためには星の内部でのエネルギーの流れを考えなければなりません。

 

 ガスのエネルギー密度をE,そこでのエネルギー流束をとし,εを単位質量当たりの星によるエネルギー発生率とすると,エネルギー保存の方程式は∂E/∂t+∇ρεで与えられます。

 そこで,L(r)を半径rの球面を単位時間に横切るエネルギーの総量とすると,L(r)=4πr2rですから,dL/dr=4πd(r2r)/dr=4πr24πr2(-∂E/∂t+ρε)です。

 

 平衡状態では∂E/∂t=0 ですから,dL(r)/dr=4πr2ρεとなります。

 一方,L(r)=4πr2rにおいて,一般に=-λ∇TによってFr=-λ(dT/dr)ですから,dT/dr=-(1/λ){L(r)/(4πr2)}を得ます。
 
 輻射平衡の場合は熱拡散係数λはaをステファン・ボルツマンの法則(Stefan-Boltzmannの法則)E=aT4における係数とし,cを光速,κを吸収係数とすれば,λ=4acT3/(3κρ)なる式で与えられます。

 ここで,理論的にλ=4acT3/(3κρ)なる式が成立することを証明しておきます。 

 Iを光の強度(単位時間当たりに単位面積を通過する単位立体角当たりの光のエネルギー)とすると,エネルギー流束はF=∫IcosθdΩ=πIで与えられます。そして,熱平衡で完全黒体のときにはI=J≡acT4/(4π)です。

 

 光の強度Iとエネルギーの流束Fの違いは,あらゆる方向から直進してきた強度Iの光がその断面積をあらゆる方向に通過するのに対して,流束Fはその断面に垂直な成分のみを総和したという意味になっているということです。

 振動数がνの光の流束と光の強度をFν,IνとするとF=∫Fνdν,I=∫Iνdνです。それに対応して平衡状態での理想的な黒体輻射の法則をJ=∫Jνdνと書いておきます。

ある物質の距離dsを通過する間に,Iνが物質によってαννだけ吸収され,物質からjνの光放出を受け,さらに全体として散乱の寄与を受けるとすれば,dIν/ds=-ανν+jν-ανSC(Iν-Jν)=-(αν+ανSC) (Iν-Sν)となります。

 

ανSCは散乱係数でSν≡(jν+ανSCν)/(αν+ανSC)です。

ここで,簡単のために物質の温度や吸収係数がz方向のみに変化するとして考察することにすれば,対称性によって光の強度もzとその方向となす角度(angle)θのみに依存します。

 

θ方向への光の流れを考えるとds=dz/cosθより,cosθ{∂Iν(z,θ)/∂z}=-(αν+ανSC)(Iν-Sν),あるいはIν(z,θ)=Sν-cosθ(∂Iν/∂z)/(αν+ανSC)です。

星の内部では局所的に熱平衡にある,とみなせるので,第ゼロ次の近似としてIν(0)(z,θ)=Sν(0) =Jν(T)と取ります。そして第1次の近似を行なえばIν(1)(z,θ)=Jν(T)-cosθ{Jν(T)/∂z}/(αν+ανSC)となります。

 

そこでエネルギーの流束として正味の値,つまり向きが反対の光も考慮してθを 0 ~ πの範囲に取ると,Fν(z)=∫Iν(1)cosθdΩ=2π∫-11ν(1)cosθd(cosθ)=-[4π/{3(αν+ανSC)}]{∂Jν(T)/∂z}を得ます。

∂Jν(T)/∂z={∂Jν(T)/∂T}(dT/dz)ですから,F(z)=∫Fν(z)dν=(-4π/3)(dT/dz)∫(∂Jν/∂T)/{ρ(κν+κνSC)}dνとなります。

 

ここで,αν=ρκννSC=ρκνSCとしました。

 

さらに,∫(∂Jν/∂T)dν=(∂/∂T)(∫Jνdν)=(∂/∂T){acT4/(4π)}=acT3/πを使用し,ロースランド平均(Rossland mean)1/κ≡[∫(∂Jν/∂T)/(κν+κνSC)dν]/[∫(∂Jν/∂T)dν]による吸収係数κを定義すると,F(z)=-{4acT3/(3κρ)}(dT/dz)が得られます。

そして,1次元zから球対称rに移行すれば,(r)=4πr2rで,r=-{4acT3/(3κρ)}(dT/dr)となります。以上で証明は完了しました。

こうした吸収,散乱のほかに熱伝導によるエネルギーの減衰も考えると物質の吸収のκをκrad,熱伝導率をκcondとして1/κ=1/κrad1/κcond とする必要があります。

とりあえず,今日はここまでにします。

 

参考文献:佐藤文隆,原 哲也 著「宇宙物理学」(朝倉書店)

  

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2006年11月26日 (日)

高密度状態での陽子の中性子化(2)

前記事の続きです。

簡単のために水素原子を考えます。水素原子の半径はほぼボーア半径:aB=hc2/(me2)=0.53×10-8cmで与えられます。ここで,hc≡h/(2π),hはプランク(Planck)定数で,meは電子の質量です。

 

原子が密着して配列しているなら水素原子の密度:ρHはρH=mH/(4πaB3/3)で与えられますが,この密度以上に物質が圧縮されると原子がバラバラに配列している状態からはずれて,とても高密度な状態にあると言えます。ただしmH は水素原子の質量です。

例えば,原子が半径aの空間に圧縮されれば,電子の陽子との間に働く静電エネルギーはc.g.s単位でEe=e2/aです。

 

一方,不確定性関係Δp・Δx~hcより,半径aの空間に閉じ込められた電子は(hc/a)程度の運動量を持ち,従ってEk=hc2/(2me2)程度の運動エネルギーで運動しています。

このエネルギーは密度n~1/a3の"縮退エネルギー=フェルミエネルギー"εF=pF2/(2me)[{3/(4πgh3)}}1/31/3]2/(2me)=(3π2)}2/3c2/(2me2)と同程度です。

 

ちなみに,ρH=mH/(4πaB2/3)の密度ではEk/Ee={hc2/(2me2)}/aB=1/2~1なので,EkとEeは同じオーダーになります。

しかし,aが小さくなるとEk/Ee=aB/(2a)は大きくなります。電子のエネルギーEk=hc2/(2me2)が大きくなって陽子の束縛をはずれて自由に飛び回るようになります。

 

これを圧力電離といいます。電離された電子は密度が大きくなるにつれて静電相互作用を無視して一様密度の自由粒子の気体のように挙動するようになります。

一方,陽子の量子的運動エネルギーをEK とし,その陽子同士の静電エネルギーをEpと書くと,陽子の質量をmpとしてEK/Ep={aB/(2a)}(me/mp)です。

 

KがEpより大きくなるのは電子の場合と比べてaが(me/mp)倍まで小さくなったとき,密度にして1010倍大きくなったときです。

 

したがって,その密度が達成されるまでは陽子は静電エネルギーが最小となるような配列で規則正しく並ぶことになります。

しかし,温度Tがゼロの近傍ではなく十分大きくなってBT>c2/(2mp2)となった場合,EKは縮退エネルギーである量子的運動エネルギーよりも,主として熱運動エネルギーで与えられることになります。

 

そこで,このときはEpとEKの比Γは,Γ=Ep/EK ~ e2/(aB)となります。そしてΓ>1なら陽子は規則正しく結晶状に配列すると予想されます。

陽子ではなく,質量数がAで電荷がZのイオンなら密度はρ=Ampnなので,Γ~ (Ze2)/(aB)=2.27×106(Z2/A1/3){ρ(kg/m3)}1/3/Tです。

 

コンピュータによる結晶化の仮想数値実験によると,Γ~1では局所的に秩序のある液体状態を保っていますが,Γが50~170程度になるとはじめて結晶化するらしいです。

つまり,結晶化が崩れる温度は大体T>2.3×104(100/Γ)(Z2/A1/3){ρ(kg/m3)}1/3Kであることになります。

これら圧力電離が生じ始めるのは,ρ<2×109 kg/m3程度の高密度状態ですが,これ以上の高密度状態になると陽子の中性子化が起きるようになります。

中性子と陽子の質量差はQ=(mn-mp)c2=1.29 MeVで,中性子のほうが陽子より重いので通常は陽子のほうが安定で中性子が陽子に崩壊します。これが弱い相互作用によるベータ崩壊(β-decay)です。

 

当然のことですが自然の崩壊現象というのは重い粒子が軽い粒子に崩壊するものです。逆反応は自然には有り得ずません。

しかし,Q=(mn-mp)c2=1.29MeVよりも大きいエネルギーを持つ電子を陽子に照射すればベータ崩壊の逆反応である陽子による電子捕獲p+e-→n+νeという反応が起こります。

 

物質密度が非常に高くなり,aが小さくなって電子の"縮退エネルギー=絶対温度Tで電子の取り得る上限のエネルギー"εF=(3π2)}2/3c2/(2me2)がこの反応を起こすほど大きくなると,陽子は電子を吸収してどんどん中性子化してゆきます。

今,簡単のためにT=0 として陽子,電子,中性子のみから成る気体を仮想して平衡状態における組成を検討してみましょう。

高密度状態で先に述べた電子捕獲の反応が起こって,ベータ崩壊と平衡状態に達するとします。

  

温度一定:dT=0 ,密度一定:dV=0 のときは平衡になる条件はヘルムホルツの自由エネルギーF≡U-TSが極小になることです。

粒子を通さない壁で仕切られた2つの異なる系があって,2つの系のうち系2は十分大きい熱浴であるとして,これらが平衡にごく近い状態にあるとするとT1=T2=T,P1=P2=Pです。

 

2つの系全体では孤立系なので,反応は総エントロピーS=S1+S2が増加する方向,すなわちdS1+dS20 の方向に進むはずです。

ところが,反応の前後で全エネルギーも全体積も保存するはずですから,dU1=-dU2,dV1=-dV2です。

  

したがって,dS2(dU2+PdV2)/T=(dU1+PdV1)/Tなので,反応が進む条件はdS1(dU1+PdV1)/T0 となります。

熱浴ではない系1の反応だけに着目して,添字1をはずすとdS-(dU+PdV)/T0 です。dT=0,dV=0ではPdV=0 なので,この条件はd(TS-U)/T=-dF/T≧0,つまりdF≦0 になります。

 

それ故に,平衡の条件はヘルムホルツの自由エネルギーF≡U-TSが極小であることになるわけです。

そして,今はT=0 の場合を考えているのでF=Uですから平衡になる条件は内部エネルギーUが極小になることです。

 

そして体積が一定dV=0 の条件では,これは内部エネルギー密度E=U/Vが極小になることと同じことですね。

p+e-→n+νeの反応で発生した電子ニュートリノνeは物質との相互作用が極端に小さく何でも通り抜けてしまうため,これは高密度の領域からすぐに逃げてしまうと考えられるので,これの効果は無視することにします。

核子の数密度nBの保存と電荷の保存から陽子,電子,中性子の数密度を,それぞれnp,ne,nnとすると,np+nn=nB かつnp=neが成立するので,与えられた一定のnBに対してnnが与えられれば全ての組成は決まってしまいます。

 

そして陽子,中性子,電子のそれぞれについて質量を除いた内部エネルギーの密度をE=U/Vとすると,全エネルギー密度ξはξ=nmc2+Eで与えられます。

 

系全体のエネルギー密度はξ=ξn+ξp+ξeです。

そして先に述べた平衡の条件は相対論まで含めれば質量のエネルギーと運動エネルギーを加えた広い意味での内部エネルギーが極小になる条件ですから,結局ξが極小になるという条件に同等です。

そこで平衡になるときの組成を得るためには,nn の変化に対してξが極小になる条件を求めればいいことになります。

 

すなわち,dξ/dnn=dξn/dnn+dξp/dnn+dξe/dnn=dξn/dnn-dξp/dnp-dξe/dne=0 です。

 

dn=(g/h3)pF2dpF,dE=(g/h3)d[∫0pFεp2dp]により,dE/dn=pF-2(d/dpF)[∫0pFεp2dp]=εFなのでdξi/dni=εFi+mi2 (i=n,p,e)となります。

したがって,平衡の条件はεFn+mn2=εFp+mp2+εFe+me2,すなわち,(pFn2+mn22)1/2=(pFp2+mp22)1/2+(pFe2+me22)1/2となります。

次はこの式からnp=neによってpFp=pFeであることに注意しながら(pFp/pFn)2を解くことを考えればよいことになります。

 

具体的な計算は煩雑なので省略して結果だけを書くと,(pFp/pFn)2=[1+(4Qmn/pFn2)+4(Q2-me24)mn2/pFn4]/[4{1+(mnc/pFn)2}]が得られます。

 

なお,この結果式においては,mp=mnとして,mpはmnで置き換えています。

p/nn=(pFp/pFn)3ですが,ρc≡mn43/(3π2c3)≒6.11×1018 kg/m3とおけば,mnc/pFn=(ρc/mnn)1/3となります。

 

そこで,np/nn=(1/8)[(1+{4Q/(mn2)}(ρc/mnn)2/3+{4(Q2-me24)/(mn24)}(ρc/mnn)4/3)/(4{1+(ρc/mnn)2/3})]3/2が得られます。

右辺をmnnで微分することにより,np/nnはnnの増加と共に大体において減少するが,ある値を境にして増加に転ずることがわかります。

 

(p/nn)は,nn~ 1.27×10-4ρc=7.74×1014 kg/m3のとき最小値:(np/nn)min~[{Q+(Q2-me24)1/2}/(mn2)]3/2≒1.34×10-4を取り,mnn>>ρcになると,極限値1/8に近づいてゆきます。

いずれにしても,圧縮されて密度が高くなると陽子はそのほとんどが中性子に変わり中性子の割合が大きくなります。

 

そして,中性子が崩壊しようにも常にある量の電子が存在するため,崩壊によって生成される電子や陽子のエネルギー状態は既に占拠されているので中性子の崩壊が妨げられ,そのため不安定な粒子である中性子が安定に存在していると考えられます。

 

ただし,上述の議論は陽子,電子,中性子の系を理想気体と仮定したものです。

 

実際には高密度物質はこの理想化からは程遠い状態にあり,しかも核子は相互作用の無視できる自由運動をするわけではなく,原子核の状態で存在し,そうでなくても核力によって強く相互作用するわけですから,核力の影響を無視できないことになります。

 

これらを考慮した話は中性子星を中心とした話になりますが,これについては機会があったらまた記事にしてみたいと思います。

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2006年11月25日 (土)

高密度状態での陽子の中性子化(1)

 陽子と中性子と電子が多数ある系で,高密度状態の際に陽子が中性子化するメカニズムについて述べてみたいと思います。 

 そのために,今日はまずスピンの自由度がgであるフェルミ粒子(Fermion)について,"縮退エネルギー=フェルミエネルギー"について論じてみます。 

スピンが半奇数である粒子は絶対温度Tでフェルミ・ディラック分布(フェルミ分布)に従います。

 

これは,化学ポテンシャルをμとするとき,エネルギーがεの状態にある平均粒子数がnF(ε)=1/[exp{(ε-μ)/(kB)}+1]で与えられることを示しています。

このフェルミ分布はボ-ズ分布と同じく,exp{(ε-μ)/(kB)}>>1のときにはn~ exp{-(ε-μ)/(kB)}というマクスウェル・ボルツマン分布になります。

 

体積がVの系の全粒子数はN=(V/h3)∫(4πgp2/[exp{(ε-μ)/(kB)}+1])dp~ (V/h3)∫0[4πgp2exp{-(ε-μ)/(kB)}]dpで与えられます。

 

したがって,粒子の数密度nはn≡N/V~ (4πg/h3)∫0[p2exp{-(ε-μ)/(kB)}]dpとなります。

 

また,系の全エネルギーをUとすると,エネルギー密度はE≡U/V~ (4πg/h3)∫0[εp2exp{-(ε-μ)/(kB)}]dpです。

同様に,圧力PはP~ {4πg/(3h3)}∫0[(dε/dp)p2exp{-(ε-μ)/kB}]dp=(4πgkB/h3)∫0[p2exp{-(ε-μ)/kB}]dp=nkBTとなります。 

非相対論的粒子ではエネルギーがε=p2/(2m)なので,数密度n=N/Vを求めるdp積分を実行し結果をμをnで表わす式で示せば,μ=kBlog[(n/g){h2/(2πmkB)}3/2]],or exp{μ/kB}=(n/g){h2/(2πmkB)}3/2となります。

そして,特にexp{μ/kB}>>1,すなわち,数密度nが非常に高い状態でのフェルミ分布nF(ε)=1/[exp{(ε-μ)/(kB)}+1]を考えると,これはnF(ε)~ 1 (ε<μ),nF(ε)~ 0 (ε>μ)なる分布で近似できます。

 

特にT→ 0 の極限では厳密にこの分布になります。この極限の状態を完全縮退と言い,そうでないときは部分縮退と言います。

そして,この分布においてnF(ε)がゼロではない上限のエネルギーをεFと書き,これをフェルミエネルギーと呼びます。

 

一般にεF~ μであり,完全縮退の極限では正確にεF=μです。εFに対応する上限運動量の大きさをpFと書きフェルミ運動量と呼びます。εF(pF22+m24)1/2-mc2ですね。 

フェルミ運動量pFを用いると,数密度n,圧力P,エネルギーEは,n=(4πg/h3)∫0F2dp=(4πg/3)(mc/h)33,P={4πg/(3h3)}∫0F[p2(dε/dp)]dp=Kf(x),E=(4πg/h3)∫0F(εp2)dp=Kg(x)と表現できます。

 

ここで,x≡F/(mc)としました。

 

K={g/(6π2)}(mc/h)3mc2≒6.0×1014×(g/2)J/m3,f(x)=x(2x2-3)(x2+1)1/2+3sinh-1(x),(x)=8x3[(x2+1)1/2-1]-f(x)です。 

また,n=(4πg/h3)∫0F2dp=(4πg/3)(mc/h)33,x≡F/(mc)からF{3/(4πgh3)}}1/31/3と書くことができます。

  (つづく) 

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