微分方程式

2009年9月11日 (金)

積分方程式(2)

 積分方程式の続きです。 

前記事のアーベル(Abel)φの積分方程式に続く話題として,リーマン・リウヴィル(Riemann-Liouville)作用素の話をします。

先に与えたアーベルの積分方程式∫axdy{u(y)/(x-y)1-α}=f(x)(a<x<b)の左辺のuに対する積分を定数Γ(α)で除したものを,(a,b)の上の関数に作用する作用素(operator)と考えこれをaαなる記号で表わすことにします。

つまりaα(x)≡{1/Γ(α)}∫axdy{u(y)/(x-y)1-α}(a<x<b)とします。そして作用素:aαをリーマン・リウヴィルの積分作用素と呼びます。

これが作用する関数空間としては,取り合えず,区間Iの上で可測でIにおける任意の有界閉部分集合の上で可積分な関数全体である1loc(I)を採用することにします。

1loc[a,b)は任意のc∈[a,b)に対して∫ac|u(x)|dx<∞なる関数u(x)全体のことです。

例えば,u(x)≡(x-a)λ-1(λ>0) とするとu(x)∈1loc[a,b)であってΓ(α)aαu(x)=∫axdy/{(x-y)1-α(y-a)1-λ}=Β(α,λ)(x-a)λ+α-1となります。

Β(x,y)はΒ(x,y)≡∫01{tx-1(1-t)y-1}=Β(y,x)=Γ(x)Γ(y)/Γ(x+y)で定義されるオイラー(Euler)のベータ関数です。

なぜなら,積分変数をyからζ=(y-a)/(x-a)に置換すると,dζ=dy/(x-a)でありyがa→xと動くときζは0→1と動くので,∫zxdy/{(x-y)α(y-z)1-α}=(x-a)λ+α-101dζ/{(1-ζ)αζ1-α}となるからです。

そして,再びΓ(α)aαu(x)=Β(α,λ)(x-a)λ+α-11loc[a,b)です。

一般に,リーマン・リウヴィル積分作用素aαは次の命題で与えられる基本性質を持つことがわかります。

[命題1]:α>0のとき,u∈1loc[a,b]ならaαu∈1loc[a,b)であり,∀α,β>0に対して,aα(aβu)=aα+βuが成立する。

 以下,これの証明です。

(証明) まず,u∈1loc[a,b)なら∀c∈[a,b)について∫ac|aαu(x)|dx≦Γ(α)-1acdx∫axdy{|u(y)|/(x-y)1-α}=Γ(α)-1{∫axdy|u(y)|dy}{∫ac(x-y)α-1dx≦{αΓ(α)}-1(c-a)αaxdy|u(y)|dy<∞より,確かにaα^u∈1loc[a,b)です。

 そして,aα(aβu)=Γ(α)-1Γ(β)-1[∫axdy(x-y)α-1axdz{u(z)/(y-z)1-β}]=Γ(α)-1Γ(β)-1[{∫axu(z)dz}{∫axdy(x-y)α-1(y-z)β-1}]です。

ところが,前にも見たように積分変数をyからζ=(y-z)/(x-z)に置換すれば,∫zxdy(x-y)α-1(y-z)β-1}=(x-z)(α+β)-101dζ(1-ζ)α-1ζβ-1=Β(α,β)(x-z)(α+β)-1となることがわかります。

ただし,Β(α,β)=∫01{tα-1(1-t)β-1}=Β(β,α)=Γ(α)Γ(β)/Γ(α+β)です。

故にΓ(α)-1Γ(β)-1[{∫axdzu(z)∫axdy(x-y)α-1(y-z)β-1}]=Γ(α)-1Γ(β)-1Β(α,β)∫axdz{u(z)(x-z)(α+β)-1}=Γ(α+β)-1axdz{u(z)/(x-z)1-(α+β)}=aα+βuとなることがわかります。

以上でaα(aβu)=aα+βuなる等式の成立が証明されました。(証明終わり)

 上記の[命題1]の結論であるaα(aβu)=aα+βuなる性質によって,以下aα(aβu)を(aαaβ)uと書き,これを記号的に作用素の積としてaαaβaα+βと表現することにします。  

 α=1のときのリーマン・リウヴィル作用素αa1は,a1u=∫axu(y)dyとなります。右辺は単にaを基点とする関数uの1回の積分を意味します。

それ故,上の[命題1]の結論aαaβaα+βから,任意の自然数nに対して,(a1)nanなる式が成立することがわかります。

Γ(n)=(n-1)!ですから,これはuのn回積分:(a1)nuについて,(a1)nu(x)={1/(n-1)!}∫axdy{(x-y)n-1u(y)}の成立を意味します。

しかし,実はuのn回積分が{1/(n-1)!}∫axdy{(x-y)n-1u(y)}と書けることは,∫ax{a1u(y)}dy=∫axdy∫ayu(z)dz=∫axdzu(z)∫zxdy=∫axdz{u(z)(x-z)}etc.など具体的計算から明らかです。

したがって,リーマン・リウヴィル積分作用素aαは,αが自然数nのときにはn回積分を示していることがわかります。

 

そこで,逆に定義aαu(x)≡{1/Γ(α)}∫axdy{u(y)/(x-y)1-α}は,αが自然数nではなく一般の正の数のときのα回の積分への拡張になっていて,積分aα(x)はαが一般の正の数である場合のα回積分と呼ぶにふさわしいものであると考えられます。

そして,もちろん(a1/n)na1なる等式も成立しますから,リーマン・リウヴィル積分作用素aαは分数回積分を表現すると言われることもあるようです。

先のアーベルの積分方程式∫axdy{φ(y)/(x-y)1-α}=f(x)(a<x<b)はf(x)/Γ(α)を改めてf(x)と書けば{1/Γ(α)}∫axdy{φ(y)/(x-y)1-α}=f(x) (a<x<b)ですが,これをリーマン・リウヴィル積分作用素aαを用いて表わせばaαφ=f(a<x<b)と書けます。

そして,前述したアーベルの積分方程式解法は,この方程式:aαφ=fの両辺にa1-αを作用させた後に,それの両辺を微分する方法と解釈されます。  

実際,作用素の積の性質からa1-αaαa1(1回の不定積分)が成立します。

一方,微分するという演算を微分作用素≡d/dxで表現すると,"微分と積分は互いに逆演算である=関数の不定積分の微分は元の関数になる。"という微積分学の基本法則から記号的にDIa1=1 です。

それ故,形式的にaαφ=f⇒a1φ=a1-αf⇒ φ=DIa1-α で表わされるアーベルの積分方程式の解法手順が可能になるわけです。

そこで,リーマン・リウヴィル微分作用素aαというものをaαu≡DIa1-αu={1/Γ(1-α)}∫axdy{u(y)/(x-y)α}によって定義すれば,アーベルの積分方程式aαφ=fの解がφ=aαfになるという意味で,aαaαの逆作用素(aα)-1を与えると解釈されます。

しかし,上記のアーベルの積分方程式を解く手続き,あるいは作用素aαを作用させるという操作aαuが正当化されるためには,aαが如何なる関数u(x)に対して意味を持つかが問題になります。

そのため,まず∀c∈[a,b)に対し[a,c)で絶対連続な関数全体から成る関数空間をAloc[a,b)と書くことにします。

このときラドン・ニコディム(Radon-Nycodim)の定理からu∈Aloc[a,b)なることは,"v∈1loc[a,b)が存在してu(x)=u(a)+∫axv(y)dy(a≦x<b)と書けること"に同値です。

 

(註):本ブログ「TOSHIの宇宙」の2007年7/7の過去記事「条件付確率と条件付期待値」 http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2007/07/post_049c.html を参照します。

「ラドン・ニコディムの定理」というのは,"もしもΦ(A)が絶対連続:つまり,μ(E)=0 E∈なら常にΦ(A)=0 が成立するなら適当な密度関数f(x)が存在してΦ(A)=∫(x)μ(dx)と表現できる。"というものです。(参照終わり)

ただし,σ-有限な測度空間(X,,μ)ではXの部分集合から成る可測集合族であり,μはその上の測度を意味しています。(註終わり)※

 

さらに,部分集合Aloc[a,b)*をAloc[a,b)*≡{u∈Aloc[a,b)|u(a)=0} で定義します

このとき,次の定理が成立します。

[定理2]:0<α<1のとき,アーベル積分方程式aαφ=fが1loc[a,b)で可解であるためには,a1-αf∈Aloc[a,b)*なることが必要十分である。

そして,条件a1-αf∈Aloc[a,b)*の下でアーベル方程式aαφ=fの解は一意的にφ=DIa1-αfと解かれる。

 以下,これの証明です。

(証明)aαφ=fが解φ∈1loc[a,b)を持てば∫axφ(y)dy=a1-αf(x)となり,左辺はx∈[a,b)で絶対連続でa1-αf(a)=0です。それ故,a1-αf∈Aloc[a,b)*です。

 逆にa1-αf∈Aloc[a,b)*を仮定すると,φ≡Da1-αfが存在してa1-αf(x)=∫axφ(y)dyとなります。

 ここで,g≡aαφと置けば[命題1]によってg∈1loc[a,b)でありa1-αg=a1φ(x)=∫axφ(y)dyです。

 そこで,a1-αg=a1-αfが得られました。

 

 これの両辺にaαを作用させると,∫axg(y)dy=∫axf(y)dyですから,両辺を微分して1loc[a,b)においてg≡fを得ます。(証明終わり)

 途中ですが急用を思い出したので今日はここまでにします。

参考文献:上村豊著「積分方程式(逆問題の視点から)」(共立出版)

 

PS:脳血管の「もやもや病」というのはアーティストの「徳永英明」さんが罹ったことで有名になったみたいですね。

 

 そういえば,かなり昔に確か高島兄弟の1人が主演?の弁護士もののドラマのテーマ曲として聴いていたと記憶している「壊れかけのradio」という唄が彼の持ち唄でしたね。http://www.youtube.com/watch?v=J_Lq5R8rG4s&feature=fvw

 

 それをカラオケでよく唄っていた頃は,高音部を唄うと首から上の血管が切れそうにな程に辛いことがよくあったのですが,「もやもや病」と何か関係あるのでしょうか?

 

 私の方は歌手ではなくカス?ですが。。。

(今なら昔ほど目一杯大声を張り上げずに唄うので,もっとおだやかな喉への力で唄うことができるかもしれませんね。。)

 

PS2:「9.11記念日」も風化しつつあるようです。。。

 

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2009年8月30日 (日)

積分方程式(1)(導入)

 まず,本記事を書くに至った動機として,これまで書いてきた「束縛状態とベーテ・サルピーター方程式」(1)~(9)のシリーズ記事,特に「束縛状態とベーテ・サルピーター方程式(1)」http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2009/01/1-64b9.html の内容を抜粋して要約します。

 ※(要約):

 ベーテ・サルピーター方程式(Bethe-Salpeter equation),略してB-S.eq.はa,b2粒子の散乱の4点グリーン関数G(xa,xb;ya,yb)=<0|T(φa(xab(xba(yab(yb))|0>に対し,G(xa,xb;ya,yb)=⊿Fa'(xa-ya)⊿Fb'(xb-yb)+∫d4a∫d4b∫d4a'∫d4b'Fa'(xa-za)⊿Fb'(xb-zb)I(za,zb;za',zb')G(za',zb';ya,yb)で与えられる積分方程式です。

 ただし,⊿F'(x-y)は修正された(真の)伝播関数(2点グリーン関数)で,一般にスカラー場φ(x)に対しては⊿F'(x-y)≡<0|T(φ(x)φ(y))|0>で定義されます。TはT積(時間順序積)です。

また,I(xa,xb;ya,yb)は,4点グリーン関数Gから4つの"粒子外線=外部伝播関数"を切り離した"相互作用のblob=(a+b)中間状態"の中から2つの"内線=伝播関数"を除くだけでは互いに素な2つの部分に分割不可能な固有グラフ,つまり"2粒子既約部分=(a+b)-既約な積分核"の部分です。

理論は平行移動不変なので,"平行移動の生成子(generators)=2粒子a,bの総4元運動量P^μ"が存在してα(x)=exp(iP^x)φα(0)exp(-iP^x),φα(x)=exp(iP^x)φα(0)exp(-iP^x)(α=a,b),P^μ|0>=0です。

T積の性質から,G(xa,xb;ya,yb)はxa-xb,-ya+yb,xa-ya,xb-yb,xa-yb,xb-yaなる全ての座標の差の関数であることがわかります。これらのうち,独立なものを1次結合で作ります。

結局,xa-xb,-ya+yba(xa-ya)+ηb(xb-yb)(ηabはηa+ηb1の任意に固定した実定数)で与えられる3つの変数が独立であることがわかります。

そして,I(xa,xb;ya,yb)もGと同様xa-xb,-ya+yba(xa-ya)+ηb(xb-yb)の関数です。

結局,B-S.eq.は運動量表示では(p,q,P)=δ4(p-q)Fa'(ηaP+p)Fb'(ηbP-p)+Fa'(ηaP+p)Fb'(ηbP-p)(2π)-4∫d4'(p,p';P)(p',q;P),または[Fa'(ηaP+p)Fb'(ηbP-p)]-1(p,q,P)=δ4(p-q)+(2π)-4∫d4'(p,p';P)(p',q;P)となります。

これは,記号的にはKG1IGと書けます。

 

しかし,この簡単な等式が実は"時空座標表示=x-表示"での積分方程式G(xa,xb;ya,yb)=⊿Fa'(xa-ya)⊿Fb'(xb-yb)+∫d4a∫d4b∫d4a'∫d4b'⊿Fa'(xa-za)⊿Fb'(xb-zb)I(za,zb;za',zb')G(za',zb';ya,yb)を意味しています。(要約終わり)※

量子論の基本方程式は,定常状態ならハミルトニアンをとしてエネルギーの固有値方程式:|ψ>=E|ψ>で与えられますが,これはx表示ではは線形微分作用素(演算子),ψはxの関数(波動関数)ψ(x)となり,ψ=Eψなる形の微分方程式となります。

つまり,x表示の量子論の方程式は,一般にを線形微分作用素,λを固有値とするxの関数φ=φ(x)に対する線形微分方程式φ=λφの形をしています。

そして,通常のの逆作用素-1が存在する場合には,微分方程式:φ=λφは形式的に解くことができて,φ=f+λ-1φなる形の解を得ることができます。

が微分作用素なので-1は微分の逆演算である積分作用素です。したがって,φ=f+λ-1φは積分方程式(integral equation)です。

結局,線形微分方程式:φ=λφの初期値-境界値問題を解くと,常に積分方程式φ=f+λ-1φが得られます。逆に,これを微分すると元の微分方程式を得ます。

すなわち,元々は抽象ヒルベルト空間のべクトルに作用する作用素としての形で表現された|φ>=λ|φ>なる固有値方程式を,位置座標表示や運動量表示など種々の表示で表現したとき,これは微分方程式にも積分方程式にも表現できて,両者は等価です。

 

(微分方程式と積分方程式の表現は互いに逆問題ともいわれます。)

は系のある対称性変換に対する不変性に関わるネーター(Noether)保存量であって,この変換の生成子に相当します。

 

これらは一般に現実の時空の対称性である時間,空間の一様性に関わる平行移動変換群の生成子としてのハミルトニアン(エネルギー)と運動量,また,空間の等方性(回転群)に関わる生成子としての角運動量,

 

そして,内部空間である荷電空間(アイソスピン空間)の回転群の生成子である電荷(アイソスピン)などのように常に観測可能な物理量(obserbavle)に対応しています。

数学という側面で見ると,結局,"量子論というのは表示と表示の間の変換性がその本質であって表示と変換の理論である。"というように結論して,大風呂敷を広げることもできます。

実際,量子論の基礎を学んでいくと,我々は知らず知らずのうちにヒルベルト空間やバナッハ空間など状態空間を与える線形空間のベクトルとそれに作用する線形作用素に関し,固有ベクトルによるスペクトル展開などの拡張されたフーリエ理論や超関数と関わる関数解析という数学の1分野に慣れ親しむようになっています。

そして,状態空間のベクトルのx表示では固有値方程式はシュレーディンガー,ディラック,クライン・ゴルドンなどを含む線形偏微分方程式になり,それらの境界値問題を解くのが量子論の主要問題になります。

 

そして,線形微分方程式を定める線形微分作用素(線形演算子)の超関数的な逆作用素(逆演算子:inverse)をグリーン関数を積分核(kernel)として積分表現をする手法などに慣らされているので,偏微分方程式と等価に見える積分方程式についても,その基礎理論や解法についてわかっているつもりになっていました。

しかし,最近,B-S.eq.やその関連の論文を読む中で,単なる計算式のチェックに何日もかかり遅々として進まないのは,実はVorterra型やFredholm型など積分方程式関連の基本的事項について,私自身が本格的に勉強したことがなく理解できてないことがその原因ではないか?と思い当たる節があったので,少しの間,数学に寄り道をして積分方程式を真剣に学ぼうと思ったわけです。

そこで,積ん読で読んだことがないと記憶していますが比較的物理数学に近くて古い記述の,吉田耕作著の岩波全書「積分方程式の解法」を所持していたことを思い出して自分の本棚を探して見ました。

 

しかし,どうもこれも古本屋に売ってしまったらしく,取り合えず手元にあった上村豊著「積分方程式(逆問題の視点から)」(共立出版)というやや現代数学的色彩の本を参照することにしました。

まず,積分方程式の起源としてアーベル(Abel)が1823~1826年頃に扱ったという積分方程式から見てみます。

これは,∫axdy{φ(y)/(x-y)1-α}=f(x) (a<x<b)という方程式です。これをアーベルの積分方程式,またはアーベル型の積分方程式といいます。

 

ただし,方程式の対象である未知関数はφ(x)であり,f(x)は予め与えられた既知の関数です。

また,パラメータαは 0<α<1を満たすある定数で,一方a,bは-∞<a<b≦∞を満たします。

これは,アーベルに従えば次のようにして解けることがわかります。

まず,∫axdy/(x-y)αaydz{φ(z)/(y-z)1-α}=∫axdy{f(y)/(x-y)α}と変形します。

 

左辺でyとzの積分順序を交換すれば,∫axdzφ(z)∫zxdy/{(x-y)α(y-z)1-α}=∫axdy{f(y)/(x-y)α}となります。

さらに,∫zxdy/{(x-y)α(y-z)1-α}において積分変数をyからζ=(y-z)/(x-z)に置換すると,dζ=dy/(x-z)であり,yのz→xの変動に対してζは0→1と変動します。

 

結局,具体的計算結果として∫zxdy/{(x-y)α(y-z)1-α}=∫01dζ/{(1-ζ)αζ1-α}=Β(α,1-α)を得ます。

ここで,Β(x,y)はオイラー(Euler)のベータ関数でΒ(x,y)≡∫01{tx-1(1-t)y-1}=Β(y,x)=Γ(x)Γ(y)/Γ(x+y)で定義されます。Γ(x)はオイラーのガンマ関数です。

したがって,元の積分方程式はΒ(α,1-α)∫axdzφ(z)=∫axdy{f(y)/(x-y)α}となります。

 

すなわち,φ(x)={Β(α,1-α)}-1(d/dx)[∫axdy{f(y)/(x-y)α}]となって,解φの表式を得ることができます。

ただし,右辺の積分式とその微分が有限に確定するためにはf(x)に何らかの条件が必要です。

fが十分滑らかな関数なら,部分積分により(d/dx)[∫axdy{f(y)/(x-y)α}]=f(a)/(x-a)α+∫axdy{f'(y)/(x-y)α}となることが期待されます。f'はfの導関数(微分係数)です。

以上がアーベルの積分方程式の解法です。

アーベルにとって,これは次の問題が動機であったらしいです。

 

すなわち,"ある質点が曲線Cに沿って,そのC上のある点Aから定点Oまで初速ゼロで重力のみの作用を受けて摩擦なしで滑り降りるときの所要時間Tが与えられたとき,この曲線Cを決定するにはどうしたらよいか?"という物理学の問題です。

  

(例えば,曲線Cがある角度で傾いた斜面を表わす直線なら,Tは高校物理でも習うような斜面を滑り降りる物体が頂上から下に到達する時間だし,また錘を糸の先につけた振り子ならCは糸の長さLを半径とする円であって,Tは振り子の周期に関係する時間ですね。)

 

yz平面(zが水平方向,yが鉛直高さ方向)の上の曲線Cがz=ψ(y)で表わされるとし,点Aの高さをxとします。時刻tにおいて質量がmの質点(y(t),z(t))の速度は(t)=(dy/dt,dz/dt)なので速さはv(t)={(dy/dt)2+(dz/dt)2}1/2です。

重力加速度をgとすると,最初の時刻t=0 ではy(t)=xで初速がv(t)=0 なので,この重力による運動でのエネルギーの保存則は(1/2)mv(t)2=mg{x-y(t)}となります。

 

一方,速度ベクトルは曲線C:z=ψ(y)の上では(t)=(dy/dt,dz/dt)=(dy/dt,ψ'(y)(dy/dt))です。

 

そこで,v(t)2=(dy/dt)2+(dz/dt)2={1+ψ'(y)2}(dy/dt)2によって{1+ψ'(y)2}(dy/dt)2=2g(x-y)です。

それ故,dy/dt=-{2g(x-y)}1/2/{1+ψ'(y)2}1/2,またはdt=-[{1+ψ'(y)2}1/2/{2g(x-y)}]1/2dyです。

 

そこで,到達すべき終点Oの高さをaとすると,T=∫axdy[{1+ψ'(y)2}1/2/{2g(x-y)}]1/2と書けます。

この式は,始点Aを曲線C上の任意の点と考えて所要時間TをAの高さxの関数f(x)に書き直し,関数φをφ(y)≡{1+ψ'(y)2}1/2/(2g)1/2と定義すれば∫axdy{φ(y)/(x-y)1/2=f(x)になります。

 

こうして結局,アーベルの積分方程式∫axdy{φ(y)/(x-y)1-α}=f(x)のα=1/2とした特別な場合に当たることがわかります。

故に,これの解はφ(x)={Β(1/2,1/2)}-1(d/dx)[∫axdy{f(y)/(x-y)1/2}=π(d/dx)[∫axdy{f(y)/(x-y)1/2}]=πf(a)/(x-a)1/2+π∫axdy{f'(y)/(x-y)1/2}ですね。

ただし,yz平面上の曲線z=ψ(y)の表現という形式にこだわるなら,z=φ(y)={Β(1/2,1/2)}-1(d/dy)[∫aydw{f(w)/(y-w)1/2}=π(d/dy)[∫aydw{f(w)/(y-w)1/2}=πf(a)/(y-a)1/2+π∫aydw{f'(w)/(y-w)1/2}と書くべきかも知れません。

物理学では,"時間T=f(x)が最小になる曲線Cを決定する。"という有名な"最速降下線の問題"があって,設定はアーベルのそれとよく似ていますが,こちらの方は"最小作用の定理"などと同じく変分の問題でラグランジュ方程式を作って解くのと同じような方法で解くことができて,解はサイクロイド(cycloid)曲線になることがわかっています。

ちなみに,極座標での角度がθ=0 のときの初期高さがAのサイクロイド曲線はyz平面ではz=A(θ-sinθ),y=A(1-cosθ)です。

 

サイクロイド曲線Cは,z=ψ(y)なる表現ではC上の各点における勾配がψ'(y)=dz/dy=(1-cosθ)/sinθを満たしています。

積分方程式の導入(introduction),または考察の動機を述べることが中心の記事ということで今日はここまでにします。

 

現在Pendingになっているベーテ・サルピーターの方程式(B-S.eq.)関連の話題の続きは積分方程式の話が終わってからにします。

参考文献:上村豊著「積分方程式(逆問題の視点から)」(共立出版),Noboru Nakanishi "A General survey of the Theory of the Bethe-Salpeter Equation",Progress of Theoretical Physics, supplement,No.43(1969)

 

PS:選挙が終わって民主党大勝の8/31(月)朝の感想です。

 

 今の,衆議院選挙でのある意味で政権交代が起こりやすく大政党候補者のみに有利な小選挙区に,真逆の,ある意味で投票者の死に票がほとんど生じなくて票が公平に反映されますが小党が乱立当選して議事表決がままならず法案が決まりにくい"大選挙区=比例代表区"を少し加えたような選挙制で勝ち負けがはっきり決まって,一方的になるというケースを2度続けて見ました。

 

 しかし,過ぎたるは及ばざるがごとし,いっそのこと元の両方折衷のなつかしい中選挙区だけに戻した方がベターなのじゃないでしょうか?

 

 もっとも,私の本音は選挙制度を知ったばかりの昔から,その欠点を承知の上で選挙するなら完全な意味での"大選挙区=比例代表区"だけでいいという思想ですが。。。

 

 いずれにしろ,水を差すようですが"権力を握ればそれは必ず腐敗する。"(←トロツキーの永久革命論?)ので,長期にならないように交代する,あるいは有権者が交代させることが必要でしょう。

 

 自民党だって,これほど長期でなければ腐敗とか癒着とかはなかっただろうと思います。

 

 知事など自治体首長には多選を避けて2期も勤めれば自ら勇退して,次は後進に道を譲るという思想もあるようですが。。。。

  

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2009年7月24日 (金)

水の波(8)(有限振幅の波:非線形波3)

 水の波の続きです。

 このシリーズは今日で終わりますが,非線形波やソリトンについての話はまた別の題名でアップする予定です。

 前回の最後では,K-dV方程式:∂u/∂t+u(∂u/∂x)+μ(∂3u/∂x3)=0 の定常波の解をu(x,t)=u(ζ),ζ≡x-σtとして3階常微分方程式:-σ(du/dζ)+u(du/dζ)+μ(d3u/dζ3)=0 を求め,これの積分を求めました。

すなわち,1回積分すると,μ(d2u/dζ2)=-u2/2+σu+2A (Aは積分定数)となり,さらに両辺にdu/dζを掛けて,積分すると(μ/2)(du/dζ)2=-u3/6+σu2/2+Au+B(A,Bは積分定数)となります。

両辺を6倍して右辺をf(u)とすると,3μ(du/dζ)2=-u3+3σu2+6Au+6B≡f(u)です。この方程式が物理的に意味があるuの実数解を持つのは,明らかにf(u)≧0 の範囲でのみです。

実係数の3次方程式f(u)=0 は1実根,または3実根を持ちますが,この方程式が1実根のみを持つ場合には,f(u)≧0 を値域とする解uが有界でないため,これは"有限範囲での振動=波"を表わす解ではないので,ここでの考察では対象外とします。

(u)=0 が3実根を持つとして,それらを1,u2,u3 (u1≦u2≦u3)と書くと,f(u)=(u-u1)(u-u2)(u3-u)です。

 

f(u)=-u3+3σu2+6Au+6Bより,σ=(u1+u2+u3)/3,A=-(u12+u23+u31)/6,B=u123 /6です。

2≦u≦u3でf(u)≧0ですから,3μ(du/dζ)2=f(u)はuのこの区間を往復する非線形振動を表わすと思われます。

 そこで,3μ(du/dζ)2=f(u)=(u-u1)(u-u2)(u3-u)の解でu=u3でζ=0 となるものを求めます。

 

 つまり,方程式dζ/(3μ)1/2=du/{(u-u1)(u-u2)(u3-u)}1/2を解きます。

 まず,k2≡(u3-u2)/(u3-u1)とします。さらに,t={(u3-u)/(u3-u2)}1/2とおくとdt=(-1/2)(u3-u2)-1/2(u3-u)-1/2duです。

1-t21-(u3-u)/(u3-u2)=(u-u2)/(u3-u2),1-k221-k2(u3-u)/(u3-u2)=1-(u3-u)/(u3-u1)=(u-u1)/(u3-u1)です。

  

故に,dt/{(1-t2)(1-k22)}1/2(-1/2)(u3-u2)-1/2(u3-u)-1/2du(u3-u2)1/2(u3-u1)1/2/{(u-u1)(u-u2)}1/2=(-1/2)(u3-u1)1/2du/{(u-u1)(u-u2)(u3-u)}1/2です。

そこで,方程式dζ/(3μ)1/2=du/{(u-u1)(u-u2)(u3-u)}1/2は,-{(u3-u1)/(12μ)}1/2dζ=dt/{(1-t2)(1-k22)}1/2を意味します。

 

したがって,楕円積分F(x,k)を用いて{(u3-u1)/(12μ)}1/2ζ=F({(u3-u)/(u3-u2)}1/2,k)なる解の表式を得ます。

それ故,sn({(u3-u1)/(12μ)}1/2ζ,k)={(u3-u)/(u3-u2)}1/2です。そこで,cn2({(u3-u1)/(12μ)}1/2ζ,k)=1-sn2({(u3-u1)/(12μ)}1/2ζ,k)=(u-u2)/(u3-u2)です。

(注):snはヤコービ(Jacobi)の楕円関数:sn(u,k)=F-1(u,k)=x≡sinφです。またはu=F(x,k)です。

 

 F(x,k)は第1種の楕円積分で,F(x,k)≡∫0xdt/{(1-t2)(1-k22)}1/2=∫0φdθ/(1-k2sin2θ)1/2で定義されます。

特に,K(k)≡F(π/2,k)は第1種の完全楕円積分と呼ばれ,4K(k)は楕円関数:snの2つの周期のうちの1つです。

 

さらに,sn(u,k)=x=sinφに対応して関数:cnをcn(u,k)≡cosφ={1-sn2(u,k)}1/2で定義します。これもヤコービの楕円関数と呼ばれています。(注終わり)※

さて,振動区間をU≡u3-u2とおけば,上に得られた解はu(x,t)=u2+Ucn2({U/(12μk2)}1/2(x-σt),k)と書けます。ここで,σ=(u1+u2+u3)/3=u2+(u1+u3-2u2)/3=u2+(2-k-2)U/3です。

以上から, u(x,t)=u2+Ucn2({U/(12μk2)}1/2[x-{u2+(2-k-2)U/3}t],k)と書けます。ただし,U=u3-u2,k2=(u3-u2)/(u3-u1)です。

この解は,周期関数cnで表現される定常波形を持つ波列を表わしており,この意味でクノイド波(cnoidal wave)と呼ばれます。

 クノイド波:u(x,t)=u2+U・cn2({U/(12μk2)}1/2[x-{u2+(2-k-2)U/3}t],k)は,速度u2の一様流の上に振幅がUの周期波cn2が重なった形をしており,周期波は一様流に相対的に位相速度(2-k-2)U/3で進行するという様を表わしています。

 波形cn2(s,k)は,パラメータk(0≦k≦1)の値に応じて,cn2(s,0)=cos2sからcn2(s,1)=sech2sまで変化します。

cnの周期は4Kですから,これに応じて波長λを{U/(12μk2)}1/2λ≡4Kで定義すると,これはλ=8K(3μk2/U)1/2なる式で与えられます。

 以上では,前提なしで3実根u1,u2,u3 が全て異なる:u1<u2<u3と仮定しましたが,特にu2→u1の極限:u1=u2の重根の場合を想定すると,k2≡(u3-u2)/(u3-u1)よりk=1です。

そこで,cn(s,k)=cn(s,1)=sechsより,この定常進行波はu(x,t)=u1+Usech2[{U/(12μ)}1/2{x-(u1+U/3)t}],U=u3-u1となります。この場合,解は波列でなく,定常波形がsech2の孤立波を表わします。

この孤立波は振幅Uの平方根に反比例した拡がりを持ち,一様流u=u1に相対的に,位相速度U/3で進行します。

いま1つの極限u3→u2,つまりu2=u3の重根の場合はk=0,かつU=0 なので波はu=u3の一様流に帰着します。  

ただし,その重根の極限の近傍のk~0,U~0では,U/k2=u3-u1より,定常解はu(x,t)~u2+(u3-u2)cos2[{U/(12μk2)}1/2(x-u1t)]=u3+2u2sin[{(u3-u1)/(3μ)}1/2(x-u1t)]となって微小振幅の正弦波となります。

 こうして,"Korteweg-deVries方程式=K-dV方程式"で記述される有限振幅の長波のうちの定常進行波は,クノイド波,または孤立波になることがわかりました。

 しかし,一般に任意の初期条件から出発した非定常の波が,これらの定常解に漸近するとは限りません。

-dV方程式,および類似の非線形発展方程式の研究は近年急速な発展を遂げ,特にK-dV方程式については,かなり多くのことがわかっているようです。

ここでは孤立波に関する2,3の結果を紹介します。

初期条件が三角関数:u(x,0)=cosπxのK-dV方程式∂u/∂t+u(∂u/∂x)+μ(∂3u/∂x3)=0 の初期値問題はZabuskyとKruskal(1965)によって数値的に解かれました。

特にμ=0 なら,数値計算に頼らずとも,解はu=cos[π(x-ut)]となることがわかります。

(注)u(x,t)≡cos[π{x-σ(x,t)t}]とおけば,これはu(x,0)=cosπxを満たします。

そして,∂u/∂t=π{σ+(∂σ/∂t)t}sin[π{x-σ(x,t)t}],∂u/∂x=π{-1+(∂σ/∂x)t}sin[π{x-σ(x,t)t}]ですから,∂u/∂t+u(∂u/∂x)=0 はσ+(∂σ/∂t)t+{-1+(∂σ/∂x)t}cos[π{x-σ(x,t)t}]=0 となります。

これから,t=0 ではσ=cosπx=u(x,0)を得ます。すなわち,σ(x,0)=u(x,0)です。

そこで,σ=u=cos[π(x-σt)]とおいてみると,σ+(∂σ/∂t)t+{-1+(∂σ/∂x)t}cos[π{x-σ(x,t)t}]=σ+(∂σ/∂t)t+{-1+(∂σ/∂x)t}σ={∂σ/∂t+σ(∂σ/∂x)}t=0 となります。

よって,解の一意性から解はu=cos[π(x-ut)]です。(注終わり)※

μ=0 の解u=cos[π(x-ut)]では,∂u/∂x=π{-1+(∂u/∂x)t}sin[π(x-ut)]より,[1-πtsin[π(x-ut)]](∂u/∂x)=-πsin[π(x-ut)]となります。

この解は,t=tB1/πに点x=1/2の付近で突っ立ち:|∂u/∂x|=∞という現象を呈し,その点以後のxでは解は多価となって物理的意味を持たなくなります。

ZabuskyとKruskal(1965)の数値計算は,μ1/2=0.022 において実行され,その結果得られた数値解は,やはりt=tB付近で突っ立ちに近い状態を示します。

しかし,この場合はゼロでない分散項の効果により,波の重なりは起こらず,逆に連続的な波が,いくつかの孤立波に分散します。

t=3.6tBでは,波形はほぼ完全に分離した孤立波の連なりとなりますが,これらの孤立波は,先に得られた定常波u(x,t)=u1+Usech2[{U/(12μ)}1/2{x-(u1+U/3)t}],U=u3-u1と同じものであることが,その振幅,幅,進行速度の関係から確かめられます。

-dV方程式に従う有限振幅波がある場合に,いくつかの孤立波の集まりになってしまうとすれば,これらの孤立波の間には,どのような相互作用が働くでしょうか?

孤立波の位相速度は振幅に比例するので,ある時刻に大振幅の波を左に,小振幅の波を右にして,互いに十分遠く離しておいたとすれば,大振幅波が小振幅波に近づき,ついには追いつくと予想されます。

Zabusky(1967)は初期条件として,uj(x,0)=Ujsech2(x/Dj),Dj≡(12μ/Uj)1/2の形を持つ2つの孤立波uj(x,t)(j=1,2)を取り,それぞれの振幅をU1=180,U2=80として,初期に距離を12D1(D1=(12μ/U1)1/2=(μ/15)1/2)だけ隔てて置きました。

そして,小振幅の方の波が静止するように,さらにu1=-26+2/3の一様流を加えました。

数値計算の結果として得られた2つの波は,重なる以前は互いに独立に運動しますが,驚くべきことに衝突以後に再び分離して衝突前と同じ大きさと形と位相速度で運動を続けます。

 

衝突の影響は,僅かに両者の位相の変化となって残るだけです。

2つの波が初期と同じ間隔12D1だけ離れたときの振幅の変化は,僅かにΔU1/U1<0.07%,ΔU2/U2<0.5%なることが見出されました。

 このように,K-dV方程式の孤立波解が,あたかも独立の粒子であるかのように挙動するという結果から,この孤立波をソリトン(soliton)と名付けました。

 非線形波動の現象は,水の波に限らずプラズマ振動,さらに素粒子のモデルなどと関連して研究者の興味を集めており,非線形現象の解明と数学的理論の開発の両面にわたって,その発展が期待されます。

 水の波の話から自然にソリトンを紹介するという所期の目的が達せられたので,水の波の記事シリーズをこれで終わります。

参考文献:巽友正著「流体力学」(培風館)

 

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2009年7月17日 (金)

水の波(7)(有限振幅の波:非線形波2)

 水の波の続きです。

 水面z=ηでの速度ポテンシャルは,Φ(ξ,η,τ)=Φ(ξ,0,τ)+(∂Φ/∂z)|z=0η(ξ,τ)+(1/2)(∂2Φ/∂z2)|z=0η(ξ,τ)2+..のようにηのテイラー級数に展開できます。

この級数展開と,先のεのベキ級数展開:Φ(x,z,t)=ε1/2(1)(ξ,z,τ)+εΦ(2)(ξ,z,τ)+..},およびη(x,t)=ε{η(1)(ξ,τ)+εη(2)(ξ,τ)+..}を,z=ηでの境界条件:∂Φ/∂z=∂η/∂t+(∂Φ/∂x)(∂η/∂x),および∂Φ/∂t+{(∂Φ/∂x)2(∂Φ/∂z)2}/2+gη=0 に代入します。

まず,Φ(ξ,η,τ)=Φ(ξ,0,τ)+(∂Φ/∂z)|z=0η(ξ,τ)+(∂Φ/∂z)|z=0η(1/2)(∂2Φ/∂z2)|z=0η(ξ,τ)2+..をz=ηで∂Φ/∂z=∂η/∂t+(∂Φ/∂x)(∂η/∂x)に代入します。

すると,Φ=Φ(ξ,z,τ)について(∂Φ/∂z)+(∂2Φ/∂z2)η+.. =∂η/∂t+(∂/∂x){Φ+(∂Φ/∂z)η+(1/2)(∂2Φ/∂z22+..}(∂η/∂x)となります。

 

ただし,両辺の量は全てz=0 における値です。

ξ≡ε1/2(x-c0t),τ≡ε3/2tですから,∂/∂x=(∂ξ/∂x)(∂/∂ξ)=ε1/2(∂/∂ξ),∂/∂t=(∂ξ/∂t)(∂/∂ξ)+(∂τ/∂t)(∂/∂τ)=-c0ε1/2(∂/∂ξ)+ε3/2(∂/∂τ)です。

そこで,上で求めた境界条件のz=0 での形は,(∂Φ/∂z)+(∂2Φ/∂z2)η+.. =-c0ε1/2(∂η/∂ξ)+ε3/2(∂η/∂τ)+ε(∂/∂ξ){Φ+(∂Φ/∂z)η+(1/2)(∂2Φ/∂z22+..}(∂η/∂ξ)となります。

これに,Φ(ξ,z,τ)=ε1/2(1)(ξ,z,τ)+εΦ(2)(ξ,z,τ)+..},η(x,t)=η(ξ,τ)=ε{η(1)(ξ,τ)+εη(2)(ξ,τ)+..}を代入して,z=0 で両辺の同じεのベキの係数を等置します。

ηはΦよりε1/2のオーダーだけ小さい量であると仮定した展開ですから,z=0 でε1/2の係数としては,∂Φ(1)/∂z=0 です。

 

そこで,ε3/2の係数として∂Φ(2)/∂z=-c0(∂η(1)/∂ξ),ε5/2の係数として∂Φ(3)/∂z+η(1)(∂2Φ(2)/∂z2)=∂η(1)/∂τ-c0(∂η(2)/∂ξ)+(∂Φ(1)/∂ξ)(∂η(1)/∂ξ),..を得ます。

一方,z=ηでのもう1つの動的境界条件:∂Φ/∂t+{(∂Φ/∂x)2(∂Φ/∂z)2}/2+gη=0 は-c0ε1/2(∂Φ/∂ξ)+ε3/2(∂Φ/∂τ)+{ε(∂Φ/∂ξ)2(∂Φ/∂z)2}/2+gη=0 です。

これもz=0 の近傍での展開:Φ(ξ,z,τ)=ε1/2(1)(ξ,z,τ)+εΦ(2)(ξ,z,τ)+..},η(x,t)=η(ξ,τ)=ε{η(1)(ξ,τ)+εη(2)(ξ,τ)+..}を代入して,εのベキの係数を等置します。

 

z=0では∂Φ(1)/∂z=0なので,εの係数として,-c0(∂Φ(1)/∂ξ)+gη(1)=0,ε2の係数として∂Φ(1)/∂τ-c0(∂Φ(2)/∂ξ)+(1/2)(∂Φ(1)/∂ξ)2+gη(2)0 です。

これらの関係式に,前記事で求めた境界条件を満たす解の具体的形:Φ(1)=Φ(1)(ξ,τ),Φ(2)=(-1/2)(z+h)2{∂2Φ(1)(ξ,τ)/∂ξ2}+f1(ξ,τ),Φ(3)=(1/24)(z+h)4(∂4Φ(1)/∂ξ4)-(1/2)(z+h)2(∂21/∂ξ2)+f2(ξ,τ),..を代入して高次の項を消去します。

  

結局,水面波形の第1近似η(1)(ξ,τ)に対する方程式として,∂η(1)/∂τ+{3c0/(2h)}η(1)(∂η(1)/∂ξ)=(-c02/6)(∂3η(1)/∂ξ3)が得られます。

同じ方程式は,水平速度の第1近似∂Φ(1)/∂ξに対しても成立します。こうして,第1近似解が得られれば,高次の近似解は機械的に得られます。

(証明)∂Φ(2)/∂z=-(z+h)(∂2Φ(1)/∂ξ2),∂2Φ(2)/∂z2=-∂2Φ(1)/∂ξ2,∂Φ(3)/∂z=(1/6)(z+h)3(∂4Φ(1)/∂ξ4)-(z+h)(∂21/∂ξ2)です。

これにz=0 を代入すると,∂Φ(2)/∂z=-h(∂2Φ(1)/∂ξ2),∂2Φ(2)/∂z2=-∂2Φ(1)/∂ξ2,∂Φ(3)/∂z=(1/6)h3(∂4Φ(1)/∂ξ4)-h(∂21/∂ξ2)です。

よって,∂Φ(2)/∂z=-c0(∂η(1)/∂ξ)は,①-h(∂2Φ(1)/∂ξ2)=-c0(∂η(1)/∂ξ)となります。

 

また,∂Φ(3)/∂z+η(1)(∂2Φ(2)/∂z2)=∂η(1)/∂τ-c0(∂η(2)/∂ξ)+(∂Φ(1)/∂ξ)(∂η(1)/∂ξ)は,②(1/6)h3(∂4Φ(1)/∂ξ4)-h(∂21/∂ξ2)-η(1)(∂2Φ(1)/∂ξ2)=∂η(1)/∂τ-c0(∂η(2)/∂ξ)+(∂Φ(1)/∂ξ)(∂η(1)/∂ξ)と書けます。

一方,③-c0(∂Φ(1)/∂ξ)+gη(1)=0 はそのままで,∂Φ(1)/∂τ-c0(∂Φ(2)/∂ξ)+(1/2)(∂Φ(1)/∂ξ)2+gη(2)0 の方は,Φ(2)=(-1/2)h2(∂2Φ(1)/∂ξ2)+f1より,④∂Φ(1)/∂τ+(1/2)c02 (∂3Φ(1)/∂ξ3)-c0(∂f1/∂ξ)+(1/2)(∂Φ(1)/∂ξ)2+gη(2)0 です。

02=ghなので,①-h(∂2Φ(1)/∂ξ2)=-c0(∂η(1)/∂ξ)は,③-c0(∂Φ(1)/∂ξ)+gη(1)=0をξで微分すれば得られます。

他方,④∂Φ(1)/∂τ+(1/2)c02(∂3Φ(1)/∂ξ3)-c0(∂f1/∂ξ)+(1/2)(∂Φ(1)/∂ξ)2+gη(2)0 をξで微分してhを掛けると,h(∂2Φ(1)/∂τ∂ξ)+(1/2)c03(∂4Φ(1)/∂ξ4)-c0h(∂21/∂ξ2)+h(∂Φ(1)/∂ξ)(∂2Φ(1)/∂ξ2)+gh(∂η(2)/∂ξ)=0 となります。

左辺の最後の項gh(∂η(2)/∂ξ)=c02(∂η(2)/∂ξ)に,②(1/6)h3(∂4Φ(1)/∂ξ4)-h(∂21/∂ξ2)-η(1)(∂2Φ(1)/∂ξ2)=∂η(1)/∂τ-c0(∂η(2)/∂ξ)+(∂Φ(1)/∂ξ)(∂η(1)/∂ξ)より得られるc02(∂η(2)/∂ξ)=c0(∂η(1)/∂τ)+c0(∂Φ(1)/∂ξ)(∂η(1)/∂ξ)-(1/6)c03(∂4Φ(1)/∂ξ4)+c0h(∂21/∂ξ2)+c0η(1)(∂2Φ(1)/∂ξ2)を代入します。

(∂2Φ(1)/∂τ∂ξ)+(1/3)c03(∂4Φ(1)/∂ξ4)+h(∂Φ(1)/∂ξ)(∂2Φ(1)/∂ξ2)+c0(∂η(1)/∂τ)+c0(∂Φ(1)/∂ξ)(∂η(1)/∂ξ)+c0η(1)(∂2Φ(1)/∂ξ2)=0 です。

最後に,③-c0(∂Φ(1)/∂ξ)+gη(1)=0 より,∂Φ(1)/∂ξ=gη(1)/c0としてΦ(1)を消去します。

 

すると,c0(∂η(1)/∂τ)+(1/3)gh3(∂3η(1)/∂ξ3)+(g2h/c02(1)(∂η(1)/∂ξ2) +c0(∂η(1)/∂τ)+ghη(1)(∂η(1)/∂ξ)+ghη(1)(∂η(1)/∂ξ)=0 です。

したがって,2c0(∂η(1)/∂τ)+(1/3)c022(∂3η(1)/∂ξ3)+3gη(1)(∂η(1)/∂ξ)=0,つまり∂η(1)/∂τ+{3c0/(2h)}η(1)(∂η(1)/∂ξ)=(-c02/6)(∂3η(1)/∂ξ3)が得られます。

 

∂Φ(1)/∂ξ=gη(1)/c0なのでη(1の代わりに∂Φ(1)/∂ξを代入しても同じ非線形方程式を満たします。(証明終わり)

たった今得られら有限振幅の非線形波に対する方程式:∂η(1)/∂τ+{3c0/(2h)}η(1)(∂η(1)/∂ξ)=(-c02/6)(∂3η(1)/∂ξ3)は,既に19世紀末(1895)に,KortweigとdeVriesによって上記とは別の方法で導かれており,これをKortweig-deVries方程式,または略してK-dV方程式と呼びます。

K-dV方程式∂η(1)/∂τ+{3c0/(2h)}η(1)(∂η(1)/∂ξ)=(-c02/6)(∂3η(1)/∂ξ3)は,適当な尺度(単位)の取り方によって∂u/∂t+u(∂u/∂x)+μ(∂3u/∂x3)=0 なる形に書くことができます。

 

係数μは正負どちらでもいい形ですが,変換u→-u,x→-x,t→tによって,この方程式におけるμはμ→-μと変換されますから,一般性を失なうことなくμ>0 としていいです。

K-dV方程式∂u/∂t+u(∂u/∂x)+μ(∂3u/∂x3)=0 の解として,波形を変えず一定速度で伝播する定常波が存在するとして,それを求めてみます。

そのために,σを速度を表わす定数としてu(x,t)=u(ζ),ζ≡x-σtとします。こうすると,∂u/∂t=-σ(du/dζ),∂u/∂x=du/dζです。

そこで,∂u/∂t+u(∂u/∂x)+μ(∂3u/∂x3)=0 は3階常微分方程式-σ(du/dζ)+u(du/dζ)+μ(d3u/dζ3)=0 に帰着します。

これは,ζで1回積分すると,μ(d2u/dζ2)=-u2/2+σu+2A (Aは積分定数)となります。

 

さらに両辺にdu/dζを掛けて,もう1度積分すると,(μ/2)(du/dζ)2=-u3/6+σu2/2+Au+B (A,Bは積分定数)です。

 

μV(u)≡E-(-u3/6+σu2/2+Au+B)と置くと,これは(μ/2)(du/dζ)2+μV(u)=Eとなります。そこでuを質量μを持つ質点の位置座標,V(u)をそれに働く力のポテンシャルと考えることができます。

 

位相速度が一定の線形波の典型的な形である正弦波ならu=Csin(ωt-kx)=-Csin(kζ),ζ≡x-σt;σ≡ω/kです。

 

du/dζ=-kCcos(kζ),d2u/dζ2=k2Csin(kζ)なので,u=u(ζ)の満たす方程式はd2u/dζ2=-k2u,k-2(du/dζ)2=-u2+C2です。

 

これは,(μ/2)(du/dζ)2=-(1/2)μk22+(1/2)μk22ですからV(u)=(1/2)k22と置けば,(μ/2)(du/dζ)2+μV(u)=E (E≡(1/2)μk22)であり,V(u)は線形な調和振動子のポテンシャルです。

  

非線形なKdV方程式のポテンシャル(非調和振動子ポテンシャル)μV(u)≡E-(-u3/6+σu2/2+Au+B)が,線形な調和振動子のそれμV(u)=(1/2)μk22と決定的に違うのは,非調和振動子のポテンシャルuの3次以上の項を含むことです。

 

定数項の差はエネルギーの基準点の違いだけだし,uの1次の項の差は完全平方によって2次の項に含めることができます。

 

今日はここまでにします。

参考文献:巽友正著「流体力学」(培風館)

 

PS:明日は毎年夏恒例の一泊二日の「将棋チェスネット」http://www.shogi-chess.net/ 主催の「関東お泊りオフ」別名「将棋合宿」に行ってきます。今年は隔年の湯河原の杉の宿で開催の年です。

 

 去年 http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2008/08/post_6026.html と同じく,何もなければ,まず,明日朝,たいとさんが私の家に来られてて,次に北島プロ,柿木さんを拾って直接現地に向かう予定です。

 

 1年に1回の道楽なので前から何もなければ生きているうちは毎年参加することにしています。今年は女流プロは休場中のバンカナと藤田綾初段が見えるそうですね。

 

 (15年以上も前から,ときたま日程の都合で行けない場合を除いて参加していたのですが,最近は2006,2007年病気入院もあって参加できず,昨年復帰しました。将棋は弱いくせに威張っています。)

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2009年7月15日 (水)

水の波(6)(有限振幅の波:非線形波1)

 水の波の続きです。

 かなり間が開きました。早く非線形波,ソリトンへと進んでいこうと思います。 

前回の最後では,x軸とそれに直角なy方向に単位長さ,そして鉛直z方向には水底z=-h(x,y)から水面η~ 0までの立体Vを取り,Vの中の水のエネルギーを,波のエネルギーをwとして,波のエネルギーの時間変化について書きました。

そして,εを水のエネルギー密度とするとdw/dt=d/dt=∫V(∂ε/∂t)dV+∫S(εvn)dS,ε=ρ|∇Φ|2/2+ρgzと書けることから,"波のエネルギー保存則の微分形=波のエネルギー方程式":dw/dt=d/dt=ρ(∂/∂x){∫S(x)(∂Φ/∂t)(∂Φ/∂x)dS}を得ました。

今日は,まず,微小振幅の線形波に対して,具体的に,この波のエネルギー方程式を計算します。

微小振幅波の速度ポテンシャルは,Φ(x,z,t)=-{Ac/sinh(kh)}cosh{k(z+h)}cos(kx-ωt)と書けることを既に見ました。cは位相速度で,c=ω/k={gtanh(kh)/k}1/2です。

前と同じように,時間間隔δtを取ります。δtは波群の時間的変化の尺度に比べれば十分短かいけれど,その中には多数の振動を含むとします。

波のエネルギーwや水のエネルギー,実際にはtだけでなくxの関数でもあるので,d/dtを∂/∂tと書き,エネルギー方程式を∂/∂t=∂ρ(∂/∂x){∫S(x)(∂Φ/∂t)(∂Φ/∂x)dS}と書き直します。

これに,上記の具体的な微小振幅波の速度ポテンシャルを代入して,(∂/∂t)δt=ρ∫0δtdt[(∂/∂x){∫-h0(∂Φ/∂t)(∂Φ/∂x)dz}]を計算します。

すると,(∂/∂t)δt=ρ(∂/∂x)[{Ac/sinh(kh)}2(-kω)∫0δtdt∫-h0dz cosh2{k(z+h)}sin2(kx-ωt)]=-ρ(∂/∂x)[{A2c/sinh2(kh)}gktanh(kh){h/2+sinh(2kh)/(4k)}]δt/2=-δt(∂/∂x)[(ρgA2c/2){1/2+khsinh-1(2kh)}]となります。

すなわち,∂/∂t=-(∂/∂x)[(ρgA2c/2){1/2+khsinh-1(2kh)}]です。

また,微小振幅線形波のエネルギーの表式は,w=ρgA2/2です。

そして,以前に書いた「水の波(4)」で与えたように,微小線形波の群速度の一般的な表式はcg=dω/dk=c[1-(1/2){1-(γk2)/(ρg)}{1+(γk2)/(ρg)}+khcosech(2kh)]です。

 

この式で,表面張力γを無視してこれをゼロと置くと,cg=c{1/2+khsinh-1(2kh)}となります。

これを用いると,波のエネルギー方程式は,∂w/∂t+∂(cgw)/∂x=0 となります。

 

この形は,3次元の流れ(波)では∂w/∂t+div(gw)=0 なる連続の方程式に相当します。このことは波の群速度gが波群のエネルギーの伝播速度を与えることを示しています。

さて,もしも波の振幅が微小ではなく,有限な大きさであるとすると,この波は記事「水の波(1)」で書いたように,∇2Φ=0 を満たす速度ポテンシャルΦ=Φ(,t)から得られる水面の高さη=η(x,y.t)を表わす式:η=-g-1(∂Φ/∂t)-(2g)-1(∇Φ)2で記述されます。  

ただし,右辺のΦ(,t)では微分計算の後にz=ηとします。

境界条件は,水底z=-h(x,y)で∂Φ/∂n=0,および水面z=ηでは∂Φ/∂z=∂η/∂t+(∂Φ/∂x)(∂η/∂x)+(∂Φ/∂y)(∂η/∂y)です。 

水面の高さηが小さい微小振幅波であるという仮定の下では,Φとηに関する2次の項を無視して,η=-g-1(∂Φ/∂t)-(2g)-1(∇Φ)2η=-g-1(∂Φ/∂t)とし,z=ηでの境界条件∂Φ/∂z=∂η/∂t+(∂Φ/∂x)(∂η/∂x)+(∂Φ/∂y)(∂η/∂y)は∂Φ/∂z=∂η/∂tで近似します。

これらの式からηを消去すれば,z=ηで∂2Φ/∂t2+g(∂Φ/∂z)=0 となります。

このときには,速度ポテンシャルをz=0 の周りで展開すると,Φ(,t)=Φ(x,y,z,t)=Φ(x,y,0,t)+(∂Φ/∂z)z=0η+O(Φη2)ですから,Φとηに関して2次以上の微小量を無視する近似ではΦ(x,y,z,t)=Φ(x,y,0,t)としても同じです。

結局,微小振幅近似ではz=0 で∂2Φ/∂t2+g(∂Φ/∂z)=0,およびz=-h(x,y)で∂Φ/∂n=0 の境界条件の下で,ラプラス方程式∇2Φ=0 を解くという問題に帰着することがわかりました。

有限振幅波では,渦無しの流れでは速度ポテンシャルΦは線形なラプラス方程式の解ですが,微小振幅近似をする前のz=ηでの境界条件:∂Φ/∂z=∂η/∂t+(∂Φ/∂x)(∂η/)∂x)+(∂Φ/∂y)(∂η/∂y)や,η=-g-1(∂Φ/∂t)-(2g)-1(∇Φ)2は非線形です。

 

こうした非線形性のために,重ね合わせなどを利用した線形方程式の一般解法は全く適用できなくなります。 

このために,有限振幅のいわゆる非線形波は微小振幅の線形波に比べて,その取り扱いはきわめて難しく,研究も立ち遅れていました。 

有限振幅波を表わす厳密解として知られている唯一の解は19世紀初頭に得られたGerstnerのトロコイド波(Gerstner(1962))です。

 

これが深水波の円形軌道から出発してラグランジュの式記述による基礎方程式を厳密に解いて圧力場と波形を求めたものであり,波形がトコロイド曲線であることから,この名があります。

しかし,この波に伴なう水の運動は渦無しではなく,深さと共に指数関数的に減少する渦度を持ちます。

このため,この波は静止状態から保存力によって作り出すことはできませんが,初期に水面付近に風による吹送流があったと考えれば十分実現可能です。

有限振幅波に関するもう1つの注目すべき研究は,KortwegとdeVries(1895)による非線形長波の研究です。(KdV方程式の研究)

彼らは,弱い有限振幅の長波について,波形の突っ立ちと分散効果とが釣り合う結果,定常波が形成されることを見出し,波列,および孤立波を表わす解を求めました。

非線形波動の研究は,その後,あまり著しい発展をみせませんでしたが,ZabuskyとKruskal(1965)が数値実験によって,有限振幅の孤立波がきわめて安定であり,あたかも1個の粒子のように挙動することを見出し,これをソリトン(soliton)と名づけたのを契機として,新しいそして目覚しい展開を見せるに至りました。

以下,その発端となった非線形分散波を中心に有限振幅の水の波について概観してみます。

簡単のため,水の深さhは一定で,かつ波はx軸方向にのみ変化する1次元の波であるとします。

まず,波を支配するラプラス方程式∇2Φ=0は∂2Φ/∂x2+∂2Φ/∂z20 となります。

また,境界条件のうち,水底で∂Φ/∂n=0 はz=-hで∂Φ/∂z=0 です。

z=ηでの境界条件:∂Φ/∂z=∂η/∂t+(∂Φ/∂x)(∂η/∂x)+(∂Φ/∂y)(∂η/∂y)は,y方向が無関係なので∂Φ/∂z=∂η/∂t+(∂Φ/∂x)(∂η/)∂x)となります。

η=-g-1(∂Φ/∂t)-(2g)-1(∇Φ)2,∂Φ/∂t+{(∂Φ/∂x)2(∂Φ/∂z)2}/2+gη=0 となります。

結局,有限振幅波の問題は,境界条件:z=-hで∂Φ/∂z=0, z=ηで∂Φ/∂z=∂η/∂t+(∂Φ/∂x)(∂η/∂x),および∂Φ/∂t+{(∂Φ/∂x)2(∂Φ/∂z)2}/2+gη=0 の下で,方程式∂2Φ/∂x2+∂2Φ/∂z20 を解く問題に帰着します。

微小振幅の場合は,非線形境界条件:z=ηで∂Φ/∂z=∂η/∂t+(∂Φ/∂x)(∂η/∂x),および∂Φ/∂t+{(∂Φ/∂x)2(∂Φ/∂z)2}/2+gη=0 が,ηを消去してz=0 で∂2Φ/∂t2+g(∂Φ/∂z)=0 の線形条件になります。

 

これの一定振動数ωの解は,既に見たようにΦ(x,z,t)=Ccosh{k(z+h)}cos(kx-ωt)でη(x,t)=Asin(kx-ωt) (ただしA≡--Cg-1ωcosh(kh))で,分散関係はc=ω/k={gtanh(kh)/k}1/2です。 

これは,浅水長波kh<<1の場合には,tanh(kh)~kh-(kh)3/3+2(kh)5/15-..=kh{1-(kh)2/3+O[(kh)4]}よりc=ω/k~c0{1-h22/6+O(k4)}(c0≡√gh)と近似展開されます。

波がいくつかの正弦波から構成される場合, 波の分散はそれぞれの正弦波が異なる速度で進むため波形の変化を引き起こします。そして分散の強さは,浅水長波の場合c=ω/k~c0{1-h22/6+O(k4)の右辺第2項の大きさε≡h22<<1で表現されます。

 

(ここではεはエネルギー密度ではなく速度cの分散です。)

一方,有限振幅波においては,波を構成する各正弦波が独立ではなく,その間に非線形相互作用が働くため,線形の分散効果と釣り合った場合には波形の変化が止まり,一定波形の定常波が出現することが期待されます。

そうした期待の下に,分散の強さεと同程度の大きさの振幅を持つ弱い非線形波を家庭します。

そして,線形近似の分散関係:c=ω/k=c0(1-h22/6) (c0≡√gh)の下では,波の位相はkx-ωt=k(x-c0t)+c023t/6となります。

 

hk=ε1/2の小さい値に対して,波の時間的空間的変化を正しく記述するには,kx-ωt=k(x-c0t)+c023/6の右辺の各項が,それぞれ1程度になるような変換ξ≡ε1/2(x-c0t),τ≡ε3/2tを施せばいいことがわかります。

こうすれば,k(x-c0t)=kε-1/2ξ=ξ/h,c023t/6=c023ε-3/2τ/6=c0τ/(6h)と書けます。

この変換は正方向に位相速度c0で動く座標系に乗ったことに相当しており,正方向の進行波を記述するのに適しています。

 

また,εに比例する小因子によって,x座標と時間tが縮小されていることは,x軸方向,および時間方向にきわめてゆるやかな変化を扱うことに相当しています。

例えば,1/Δτに対して,1/Δt=(1/Δτ)(Δτ/Δt) =(1/Δτ)ε3/2t<<1/Δτです。

波の振幅についてはεと同程度の弱い非線形波を考えています。 

η=-g-1(∂Φ/∂t)-(2g)-1(∇Φ)2より,η~ -ωg-1Φ=-(h/g)1/2kΦ~ -ε1/2Φです。

Φ,およびηは,それぞれεのベキ級数:Φ(x,z,t)=ε1/2(1)(ξ,z,τ)+εΦ(2)(ξ,z,τ)+..},およびη(x,t)=ε{η(1)(ξ,τ)+εη(2)(ξ,τ)+..}の形に書けるものとします。

2Φ/∂x2=ε(∂2Φ/∂ξ2)ですから,上のΦのベキ展開式を∂2Φ/∂x2+∂2Φ/∂z20 の左辺に代入して,εの各ベキの係数をゼロと置けば,∂2Φ(1)/∂z20,∂2Φ(n)/∂z2+∂2Φ(n-1)/∂ξ20(n≧2)が得られます。

また,境界条件z=-hで∂Φ/∂z=0 は,z=-hで∂Φ(n)/∂z=0(n≧1)です。

そこで,境界条件を満たす解は,Φ(1)=Φ(1)(ξ,τ),Φ(2)=(-1/2)(z+h)2{∂2Φ(1)(ξ,τ)/∂ξ2}+f1(ξ,τ),Φ(3)=(1/24)(z+h)4(∂4Φ(1)/∂ξ4)-(1/2)(z+h)2(∂21/∂ξ2)+f2(ξ,τ),..,と表現されます。

 

ただし,f1,f2,..はξとτの任意関数です。

途中ですが今日はここまでにします。 

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2009年6月25日 (木)

水の波(5)(群速度,波のエネルギー)

 ちょっと間があきましたが,水の波の続きです。

 群速度が波群の進行速度を表わすことは既に述べましたが,ここでは波群の運動学の立場から群速度を概観してみます。

 一般に分散性媒質中では,任意の初期状態から出発した波の場は時間が経つにつれて分散が進み,長時間の後には,局所的には1つの波数と振動数の単色波になるという状態が実現します。

 こうした状態においては,波の場の振動的構造を無視して,場全体を波数,振動数,振幅などの特性量の場として大局的に記述することが可能になります。

 これは波の場を波群の運動学として記述するもので,いわば波動光学に対する幾何光学に対応しています。

 局所的に単色波である波の場では,もはや波の分裂や合体は起こらないので,波数,および振動数の保存則が成り立つと考えられます。

 今,x軸の方向に長さδxを取り,δxは波数kの空間的変化の尺度に比べればきわめて小さいが,その中には多数の波を含むとします。

 同様に,時間間隔δtを取り,δtは振動数ωの時間的変化の尺度に比べれば十分短かいが,中に多数の振動を含むとします。

 x軸の正の向きに進む水の波を考えると,δt内にx,およびx+δxを通過する波の数は,それぞれω(x,t)δt,およびω(x+δx,t)δtです。

そこで,区間(x,x+δx)内には,差し引きω(x,t)δt-ω(x+δx,t)δt=-(∂ω/∂x)δxδtだけの波が残ります。

ところが波数の保存側によって,これはこの区間δx内において,時間δt内における波数の増加(∂k/∂t)δxδtに等しくなければなりません。

したがって,∂k/∂t+∂ω/∂x=0 です。位相速度c=ω/kを代入すると∂k/∂t+∂(ck)/∂x=0 と書けますが,これは明らかに波数kに対する連続の方程式を表わしています。

この記述では,波の位相速度cが波数kの伝播速度を与えることを示しています。

他方,群速度がcg=dω/dkで与えられることから,∂ω/∂x=(dω/dk)(∂k/∂x)なので,波数の保存式∂k/∂t+∂ω/∂x=0 は∂k/∂t+cg∂k/∂x=0 なることを意味します。

  

あるいは,∂ω/∂t+cg∂ω/∂x=0 です。ωはkを通じてx,tに依存しているとしています。

そして,dx/dt=cgならdk/dt=∂k/∂t+(∂k/∂x)(dx/dt)=∂k/∂t+cg∂k/∂x,かつdω/dt=∂ω/∂t+(∂ω/∂x)(dx/dt)=∂ω/∂t+cg∂ω/∂xです。

 

それ故,波数の保存式∂k/∂t+∂ω/∂x=0 は,dx/dt=cgなる道筋に沿って波数kと振動数ωが一定なることを示しています。

つまり,波の群速度cgは,波数k,または振動数ωが一定である点の移動速度を与えます。

 

ωはkのみの関数で,cgもまたkのみの関数と考えることができるのでk=一定の道筋の上では,dx/dt=cgの解は,x-cgt=一定なる直線,つまり等速運動になります。

そこで,一定の波数,または振動数の波群は,一定の群速度で進行することがわかります。

媒質が不均一である場合には,ωはkだけでなくxにも依存するため,∂k/∂t+cg∂k/∂x=0 または∂ω/∂t+cg∂ω/∂x=0 は成立しません。

しかし,この場合も局所的な群速度を,xを固定した偏微分で,cg≡(∂ω/∂k)xで定義します。

 

(∂ω/∂k)x(∂k/∂t)x=(∂ω/∂t)xを考慮すれば,再びωに対する方程式:(∂ω/∂t)x+cg(∂ω/∂x)x=0 が得られます。

したがって,不均一な媒質においても一定振動数の波群は群速度cgで進行します。

 

ただし,この場合,群速度cgは一定ではなく,道筋もまた直線的(等速運動)ではありませんが,cgはωとxの関数であり,ωは道筋に沿って一定ですから,cgはxのみの関数となります。

次に波のエネルギーを考察します。 

x軸とそれに直角なy軸方向にそれぞれ単位長さの幅を持ち,鉛直z方向には水底z=-hから水面z=ηまでの立体Vを取り,Vの中の水のエネルギーを考えます。

水の密度をρ=一定とすると,渦なしの流れの場合,水の速度は速度ポテンシャルΦによって=∇Φと表わされるので,運動エネルギー=∫V2/2)dV=(ρ/2)∫V|∇Φ|2dVで与えられます。

 

一方,位置エネルギー=ρg∫VzdVです。

したがって,全エネルギーは=∫V{ρ|∇Φ|2/2+ρgz}dVで与えられます。

これを微小振幅波について具体的に計算してみます。 

体積Vとしてy方向の幅は単位長さとしていますが,x方向の長さをδxを考えると,まず運動エネルギーはδx=(ρ/2)∫0δxdx∫-h0dz{(∂Φ/∂x)2+(∂Φ/∂z)2}と表わされます。ここでz積分の上限は線形近似でη=0 としました。 

既に求めたように微小振幅波の速度ポテンシャルはΦ(x,z,t)=-{Ac/sinh(kh)}cosh{k(z+h)}cos(kx-ωt)です。

 

これを,δxの表現に代入し位相速度がc=c(k)=k/ω=fλ={(g/k)tanh(kh)}1/2{gλtanh(2πh/λ)/(2π)}1/2を用います。

 

すると,δx=(ρ/2){Ack/sinh(kh)}20δxdx∫-h0dz[sin2(kx-ωt)+sinh2{k(z+h)}]=(ρ/2){(gA2k)tanh(kh)/sinh2(kh)}}δx[h/2+{sinh(2kh)/(2k)-h}/2]=ρgA2δx/4,すなわち,=ρgA2/4を得ます。

また,位置エネルギーは水面の高さが意味を持つので,ηを復活させてη=η(x,t)=Asin(kx-ωt)とすると,δx=ρg∫0δxdx∫-hηzdz=(ρg/2)∫0δx2-h2)dx=(ρg/2)∫0δx{A2sin2 (kx-ωt)-h2}dx=(ρgδx/2)(A2/2-h2)です。

 

よって=ρgA2/4-h2/2です。

したがって,全エネルギーは=ρgA2/2-h2/2です。

 

ところが右辺の定数項:-h2/2はA=0 で波がなく静止しているときにも存在する水の位置エネルギーですから,これを基準としたエネルギーを改めて波のエネルギーとしてw,w,wwwを定義すれば,ww=ρgA2/4,w=ρgA2/2となります。

 

これらのエネルギーは,いずれも波数や振動数に無関係であり,水面波ηの振幅Aだけで決まる量です。そして,今の場合,運動エネルギーと位置エネルギーの等分配則が成立しています。

 

一般的には,波のエネルギーは=∫V{ρ|∇Φ|2/2+ρgz}dVから,水の静止エネルギー∫V0ρgzdVを引いたw=∫V{ρ|∇Φ|2/2]dV+∫VρgzdV-∫V0ρgzdVで定義できます。

  

ただし,V0は水面波ηがない場合の立体体積です。

  

次に,波のエネルギーの時間変化dw/dt=d/dtを考えます。特にエネルギー密度をε≡ ρ|∇Φ|2/2+ρgzとおけば,=∫VεdVであり,d/dt=∫V(∂ε/∂t)dV+∫S(εvn)dSです。

 

ここで,SはVの表面を表わし,vnはSの面要素dSの動く速度の外向き法線成分を表わします。

 

ここで,圧力方程式∂Φ/∂t+P/ρ+|∇Φ|2/2+gz=f(t)≡P0/ρ(広義のベルヌーイの定理)を考慮すると,ε=ρ|∇Φ|2/2+ρgz=-ρ(∂Φ/∂t)-(P-P0)と表現できます。

 

そこでd/dt=ρ∫V[∇Φ∇(∂Φ/∂t)]dV-∫S[{ρ(∂Φ/∂t)+(P-P0)}vn]dSと書けます。

 

ところが,∇2Φ=0 ですから,∫V[∇Φ∇(∂Φ/∂t)]dV=∫V[∇{∇Φ(∂Φ/∂t)}-∇2Φ(∂Φ/∂t)]dV=∫V[∇{∇Φ(∂Φ/∂t)}dV=∫S(∂Φ/∂n)(∂Φ/∂t)dSです。

 

したがって,d/dt=∫S{ρ(∂Φ/∂t)(∂Φ/∂n-vn)+(P-P0)vn}dSと書けます。

 

ところでVの表面Sは4つの鉛直な側面と水面,水底面から成りますが,水面では∂Φ/∂n-vn=0,かつP-P0=0 です。

 

そしてx軸に平行な一対の側面では∂Φ/∂n=vn=0です。またx軸に垂直な一対の側面ではvn=0 ですが,一般に∂Φ/∂n≠0 です。

 

それ故,x軸に垂直な側面をSnとすると,d/dt=ρ∫Sn(∂Φ/∂t)(∂Φ/∂n)dSなる式が得られます。これは波のエネルギー保存則を意味します。

 

ところで,Sn上でun≡∂Φ/∂nと定義し,エネルギー密度の表現:ε=-ρ(∂Φ/∂t)-(P-P0)を用いると,上式はd/dt=-ρ∫Sn(εun)dS-∫Sn{(P-P0)un}dSと書けます。

 

これは,右辺第1項が体積V内へのエネルギーの流入率,第2項が大気と流体の圧力差によってV内の流体が受ける仕事率を表わすというエネルギー保存の典型的な形式になっています。

 

ここで,体積Vとしてx軸方向に長さδxを有するものを取り,座標x,x+δxにおける境界面Snを,それぞれS(x),S(x+δx)と書けば,エネルギー保存式は,(d/dt)δx=ρ[∫S(x+δx)-∫S(x)][(∂Φ/∂t)(∂Φ/∂n)]dSとなります。

 

そこで,d/dt=ρ(∂/∂x){∫S(x)(∂Φ/∂t)(∂Φ/∂n)dS}となります。これは波のエネルギー保存則の微分形で,波のエネルギー方程式を与えるものとなっています。

 

とりあえず,今日はここまでにします。

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2009年5月20日 (水)

水の波(4)(波群,群速度)

水の波のつづきです。今日は,波群と群速度の話題です。

一般にある波源から出る波は単一正弦波ではなく,無数の異なる波長の正弦波から成ると考えられます。

媒質が分散性である場合,ある時間の後にこれら正弦波の内の伝播速度の速い成分は遠方まで到達し,遅い成分は近くに取り残されます。

 

こうした成分波の分散は,時間と共にますます著しくなり,波源から遠いところは速い成分波,近いところは遅い成分波で占有されます。

したがって,分散が十分進んだ後には,空間内のある場所には,ある波数と振動数の成分波だけが存在し,その分布の模様は時間と共に変化します。

このような波の場を全体として眺めたとき,波数と振動数を場所と時間の関数と考えることができます。

 

また,媒質が不均質な場合,波の伝播速度は場所と共に変化するので,上述のような扱いがなおさら必要です。こうした波の場の大局的記述には群速度の概念が有効です。

例として,振幅,波数,振動数がほぼ等しい2つの正弦波,η1=Asin(kx-ωt),η2(A+δA)sin{(k+δk)x-(ω+δω)t}が共存している場合を考えます。もちろん,δA<<A,δk<<k,δω<<ωです。

このとき,η≡η1+η2=Asin(kx-ωt)+(A+δA)sin{(k+δk)x-(ω+δω)t}=2Acos[{(δk)x-(δω)t}/2]sin{(k+δk/2)x-(ω+δω/2)t}+δAsin{(k+δk)x-(ω+δω)t}~ 2Acos[{(δk)x-(δω)t}/2]sin(kx-ωt)となります。

この波形は,δk<<k,δω<<ωなる仮定により,η1=Asin(kx-ωt)とほぼ同じ波数kと振動数ωを持つ正弦波ですが,振幅が空間的,時間的に非常に緩やかに変形するというものです。

 

これは,うなりの現象として知られていますが,電気通信の分野の言葉では,搬送波と振幅変調に相当しています。

合成波の振幅の包絡線である2Acos[{(δk)x-(δω)t}/2]は,それ自身,基本正弦波に比べて,はるかに長い波長(4π/δk)と周期(4π/δω)を持つ進行正弦波です。

 

これは上記のの振幅変調によって,基本正弦波を長さ(2π/δk)の波群に区切っています。そして,この波群の進行速度は明らかにcg=(δω/δk)で与えられます。この速度cgを群速度(group velocity)といいます。 

さらに一般的な例として,ある波数kを中心として,その近傍の波数を連続的に含む波を考えます。

 

振幅の波数に対する分布を正規分布形に取れば,波形はη=A(α/π)1/2-∞exp{-α(k'-k)2}sin{k'x-ω(k')t}dk'の形に表わされます。

 

ただし,α>0 は定数です。α>>1のとき,被積分関数はk'=kの近傍でのみゼロでない値を持つため, ω(k')=ω(k)+(dω/dk)(k'-k)と近似できます。

この近似の下ではη ~ Aexp[{-1/(4α)}{x-(dω/dk)}2]sin{kx-ω(k)t}となります。

 

これを証明します。

(証明)sin{k'x-ω(k')t}~ sin[(k'-k){x-(dω/dk)t}+kx-ω(k)t]={1/(2i)}{exp(i[(k'-k){x-(dω/dk)t}+kx-ω(k)t])+exp(-i)[(k'-k){x-(dω/dk)t}+kx-ω(k)t}])}です。

 

 そこで,∫-∞exp{-α(k'-k)2}exp(±i[(k'-k){x-(dω/dk)t}}dk'= ∫-∞exp(-α[-(k'-k)±i/(2α){x-(dω/dk)t}]2-{1/(4α)}{x-(dω/dk)t}2)dk'={(π/α)1/2exp[-{1/(4α)}{x-(dω/dk)t}2]を得ます。(証明終わり)

これは,先のη≡η1+η22Acos[{(δk)x-(δω)t}/2]sin(kx-ωt)とは異なり,x=(dω/dk)tの場所に最大の振幅を持つ単独の波群を表わしています。

 

この波群は速度(dω/dk)で進行します。

 

一般的には,この速度で群速度cgを定義します。

 

すなわち,cg≡dω/dk=d(ck)/dk=c+kdc/dk=c-λdc/dλです。

 

非分散性媒質においては,dc/dk=dc/dλ=0 なので群速度cgは位相速度cと一致します。 

また,例えば,水深一定の進行正弦波について,表面張力をも考慮した最も一般的な分散関係は,ω={k(g+γk2)tanh(kh)}1/2で与えられます。 

そこで,これの群速度はcg=dω/dk=(1/2){(g+γk2)tanh(kh)+(g+γk2)(kh)sech2(kh)+(2γk2/ρ)tanh(kh)}{k(g+γk2)tanh(kh)}-1/2=c[1-(1/2)(λ2-λm2)/(λ2+λm2)+(2πh/λ)cosech(4πh/λ)]となります。

 

ここで,c=ω/k={(g+γk2)tanh(kh)/k}1/2は位相速度で,λmはλm2π{γ/(ρg)}1/2で与えられる波長です。

長波 or 浅水波のときにはλ>>h,kh<<1ですから,g~ c,かつtanh(kh)~ khです。そこで,c~ (gh)1/2ですから,長波ではg=c=(gh)1/2と表わせます。

 

一方,深水重力波のときはλm<λ<<hですから(2πh/λ)cosech(4πh/λ)~0より, cg<cです。特に,λm/λ→ ∞ の極限では,g=c/2=(1/2){gλ/(2π)}1/2となります。

 

表面張力波 or さざ波なら,λ<λmですから,cg>cです。特にλm/λ→ 0 の極限では,g3c/2=(3/2){2πγ/(ρλ)}1/2です。 

群速度の概念が有効なのは,振幅スペクトルの広がりが,かなり小さく,波の振幅,波数,振動数の空間的,時間的変化がかなり緩やかな場合,光学の言葉で言えば準単色の波に対してのみです。

途中で短かいですが,今日はここまでにします

参考文献:巽友正著「流体力学」(培風館)

 

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2009年5月13日 (水)

水の波(3)(定在波,定常波)

水の波のつづきです。今日は,まず定在波を考えます。

 これまで主として考えてきた波は,速度ポテンシャルがΦ(x,z,t)=φ(z)cos(kx-ωt)で与えられ,x方向に位相速度c=ω/kで伝わる単一正弦波でした。

 

 ここでは,位相速度cが正のc=ω/k>0 の正弦波と,位相速度が-c<0 の進行方向が正反対の波を重ね合わせたもの:Φ(x,z, t)=φ1(z)cos(kx-ωt)+φ2(z)cos(kx+ωt)を考えます。

 

 これもこれまでの単一正弦波と同じkを持つ∂2Φ/∂x2+∂2Φ/∂z20 の解です。そして,φ1(z),およびφ2(z)はd2φ1/dz2-k2φ10,およびd2φ2/dz2-k2φ20 の解です。

水面波の形η(x,t)はη(x,t)=-g-1(∂Φ/∂t)=0で与えられます。

 

前の記事では,これにΦ(x,z,t)=φ(z)cos(kx-ωt),φ(z)=Ccosh{k(z+h)}を代入して,η(x,t)=Asin(kx-ωt),A≡-Cg-1ωcosh(kh)を得ました。

今の重ねあわせポテンシャルΦ(x,z,t)=φ1(z)cos(kx-ωt)+φ2(z)cos(kx+ωt)では,正負の向きの波の振幅が同一:φ1(z)=-φ2(z)=Ccosh{k(z+h)}で,A/2≡-Cg-1ωcosh(kh)と仮定して代入すると,η(x,t)=(A/2){sin(kx-ωt)+sin(kx+ωt)}=Asin(kx)cos(ωt)となります。

 そして,このときには速度ポテンシャルΦもΦ(x,z,t)=Ccosh{k(z+h)}{cos(kx-ωt)-cos(kx+ωt)}={Ac/sinh(kh)}cosh{k(z+h)}sin(kx)sin(ωt)と書けて,空間と時間が分離した関数形になります。

ここで,A/2=-Cg-1ωcosh(kh),かつω={gktanh(kh)}1/2により,正負の向きの2つの正弦波の共通の位相速度の大きさcがc=ω/k={(g/k)tanh(kh)}1/2>0 で与えられますから,2C=-Ag/{ωcosh(kh)}=-A/{sinh(kh)}{(g/k)tanh(kh)}1/2=-Ac/{sinh(kh)}となることを用いました。

そして,水の運動方程式はdx/dt=u=∂Φ/∂x={Ack/sinh(kh)}cosh{k(z+h)}cos(kx)sin(ωt),dz/dt=w=∂Φ/∂z={Ack/sinh(kh)}sinh{k(z+h)}sin(kx)sin(ωt)sin(ωt)となります。

前の記事と同じく,動点の座標(x,z)を,その1周期での平均値(x0,z0)を用いてx=x0(x-x0),z=z0(z-z0)と書き,そこからの差(x-x0),(z-z0)の2次以上の微小量を無視した微小振幅波の近似をします。この近似ではA自身も1次の微小量です。

この近似で運動方程式を解いて水の運動を求めると,x=x0{A/sinh(kh)}cosh{k(z0+h)}cos(kx0)cos(ωt),z=z0{A/sinh(kh)}sinh{k(z0+h)}sin(kx0)cos(ωt)となります。

一方,水面の運動は式η(x,t)=Asin(kx)cos(ωt)により,x=nπ/k(nは整数)の点で振幅がゼロとなり,x=(n+1/2)π/k(nは整数)の点で振幅が最大になります。

この水面波での振幅がゼロの点を波の節,振幅が最大の点を波の腹といいます。

 

波の波長をλとすると,波数はk=2π/λで与えられますから,波の節のx座標はx=nπ/k=nλ/2,腹のx座標はx=(n+1/2)π/k=(n+1/2)λ/2とも書けます。

いずれにしても,これら節や腹を含め振幅が一定であるような点は,一般の進行波のように空間的に移動せず定位置にあります。このような波を定在波と呼びます。

そして,水中の水の運動はx-x0[A/sinh(kh)]cosh{k(z0+h)}cos(kx0)cos(ωt),z-z0{A/sinh(kh)}sinh{k(z0+h)}sin(kx0)cos(ωt)ですから,波の節の位置x0=nπ/k(nは整数)では水平運動だけ,波の腹の位置x0(n+1/2)π/k(nは整数)では鉛直運動だけです。

 

また,節でも腹でもない一般のx=x0の位置の付近では,ある一定の傾きで直線的な単振動をします。

波の腹に対応する鉛直面x=(n+1/2)π/k=(n+1/2)λ/2において水は鉛直運動のみを行なうことから,腹の鉛直面を固体平面の境界で置き換えても,この境界の上での完全流体の境界条件un=0 は定在波によって自動的に満足され波の形は乱されません。

 そこで,この定在波はx=(n+1/2)λ/2の位置にある2枚の鉛直固体壁と水底の水平面で仕切られた容器の中の水の振動と同一視することができます。

それ故,容器中にx方向の定在波が存在し得るためには容器のx方向の幅が波の半波長λ/2の自然数倍であればいいことになります。

 

あるいは,逆に容器の幅がLで与えられたなら,この中では波長がλ=2L/n(nは自然数)で与えられる定在波のみが存在可能です。

こうした定在波をこの容器での固有振動と呼びます。この振動の波長λ=2L/nを固有波長と呼びます。

 

これに対応する角振動数ω=2πfは,k=2π/λ=nπ/L=ω/cより,ω={gktanh(kh)}1/2{(nπg/L)tanh(nπh/L)}1/2となります。このωを固有角振動数,f=ω/(2π)を固有振動数といいます。

定在波としては,上述のような1次元の波に限らず,y軸を復活させてxy平面内の任意の閉曲線Cで囲まれた領域内における2次元の波を考えることができます。

この2次元波の問題は,xy平面の閉曲線Cの固体壁と水底z=-h(x,y)で与えられる容器の境界面の上での境界条件unun=∂Φ/∂n=0 ,および自由水面上:z=0 での境界条件2Φ/∂t2+g(∂Φ/∂z)=0 を満たすラプラス方程式∇2Φ=∂2Φ/∂x2+∂2Φ/∂y2+∂2Φ/∂z20 の解を求める問題に帰着します。

これを一般的なケースについて解くのは面倒ですが,水深z=-h(x,y)が一定の長波(浅水波)の場合には取り扱いが著しく簡単になります。

長波(浅水波)の近似では,h<<λですから∇2Φ=∂2Φ/∂x2+∂2Φ/∂y2+∂2Φ/∂z20 を-h≦z≦0 にわたってzで定積分する際,zの微分を含まない項はzに依らず一定と考えられます。

そして,水底z=-hでの境界条件:unun=∂Φ/∂n=0 は(∂Φ/∂z)z=-h0 を意味します。それ故,ラプラス方程式をzで定積分した結果として,(∂Φ/∂z)z=0=-h(∂2Φ/∂x2+∂2Φ/∂y2)が得られます。

これに,水面z=0 での境界条件∂2Φ/∂t2+g(∂Φ/∂z)=0を代入すると,∂2Φ/∂t2=c2(∂2Φ/∂x2+∂2Φ/∂y2),c≡(gh)1/2が得られます。最後の式においては,もはや速度ポテンシャルΦはzに依らず,Φ=Φ(x,y,t)と書いてよいと考えています。

得られた方程式:∂2Φ/∂t2=c2(∂2Φ/∂x2+∂2Φ/∂y2)は2次元の波動方程式であり,これに対する境界条件はxy平面内の閉曲線Cの上で∂Φ/∂n=0です。ただし,はC上のの各点におけるCの法線方向です。

そこで,Φの定在波解をΦ(x,y,t)≡φ(x,y)cosωtと置いて波動方程式∂2Φ/∂t2=c2(∂2Φ/∂x2+∂2Φ/∂y2)に代入すると,∂2φ/∂x2+∂2φ/∂y2+k2φ=0,k≡ω/cを得ます。

 

これは2次元のヘルムホルツ(Helmholtz)方程式です。これは閉曲線Cの形に応じた座標系での変数分離で解けます。

Cが簡単な長方形境界の場合,その中心を原点に取ってCを示す辺をx=±a/2,y=±b/2(a,b>0)で表わせば,境界条件はx=±a/2で∂φ/∂x=0,y=±b/2で∂φ/∂y=0となり,このときの解はφ(x,y)=Amnsin(x)sin(y)で与えられます。 

ただし,k2x2y2,x(2m+1)π/a,y(2n+1)π/bです。m,nは自然数,Amnは任意定数です。(x2y2)1/2≡kmn≡π[{(2m+1)π/a}2+{(2n+1)π/b}2]1/2(m,n=1,2,...)は波数の固有値を与えます。

この開口が長方形の容器内の一般的な2次元長波(浅水波)は,Φmn(x,y,t)≡φmn(x,y)cosωmnt=mnsin(x)sin(y)cosωmnmn≡ckmn (c=(gh)1/2)なる個々の固有振動の全ての重ね合わせで与えられます。

自然現象としては,湖水や港湾における固有振動は,"静振"として知られています。また津波や潮汐も有限な平面形を持つ海洋内の長波,または定在長波として扱うことができます。

次に定常波について考察します。

一定の位相速度cで進行する波を静止系に対して速度U=cで動く座標系から見た場合,水面波の形は静止しています。

同じ,静止波形は静止系で波の伝播の向きとは逆にU=-cで流れる水の上においても現われます。このように波形が時間的に静止した波を定常波と呼びます。

もちろん,定常波においても水の運動まで止まっているわけではなく,水は進行波の運動と一定速度Uの一様流が重なって運動しています。

,一定速度Uで流れる水の中に微小な物体,例えばz軸に平行な細い円柱を置いたとすると,この物体の起こす微小な撹乱により微小な波が発生すると考えられます。

 

この波を構成する無数の正弦波のうち,位相速度c=-Uの波だけが定常波としてそこに留まり,他の波は上流,または下流に向かって流れ去ると思われます。

例として表面張力の働く深水波を考えると,位相速度cには波長λ=λm≡2π{γ/(ρg)}1/2)における最小値c=cm≡(4γg/ρ)1/4が存在します。そこで,もしもU>-cm(cm>-U)なら定常波は存在不可能です。

一方,U<-cmなら,2種類の波が定常波として存在し得ます。その1つは表面張力波でλ<λmです。他方は重力波でλ>λmです。

ところが,これらの2つの定常波が水面上の同じところに同時に現われるかといえば,そうではなく現実には物体より上流に表面張力波,下流に重力波がそれぞれ分かれて定常波として現われます。

このことは,直ちに理解することは難しいかも知れませんが後で述べる群速度の概念を用いると説明できます。

物体をx=0 の位置に置き,一様な流れ速度をU<0 とします。物体が発生する波のうちで定常波条件c=-U(>0)を満たす波の群は群速度cg(>0)でx軸の正の向きに進むと同時に流速:U(<0)によって負の向きに運ばれます。

したがって,時間tの後にはx=0 で発生した波はx=(cg+U)t=(cg-c)tの位置にあることになります。それ故,c<cgの波はx>0,つまり物体の上流側に,c>cgの波はx<0,つまり物体の下流側に位置を占めることになります。

そこで,後述する群速度の計算式から深水波での重力波λ>λmの場合にはc>cgなので,その定常波は下流側,表面張力波λ<λmの場合にはc<cgより,定常波は上流側に現われるというわけです。

このような流れの中に置かれた2次元物体による定常波の構造は,定性的には,3次元物体によって作られる2次元波についても同様に成り立つことが示されて,この場合でも上流側が表面張力波,下流側が重力波で占められます。

今日はここまでにします

参考文献:巽友正著「流体力学」(培風館)

 

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2009年4月24日 (金)

水の波(1)(微小振幅波)

非圧縮性完全流体における波動(wave),特に水の波(water wave)について数回にわたって記述します。

これを書こうと思ったのは,持ってはいても読んでなかった戸田盛和 著「非線形波動とソりトン」(日本評論社)を偶々本棚から取って見るとはなしにパラパラとめくっているうちに,ある素人的アイデアが浮かんだからです。

場の量子論では,自発的対称性の破れを生ぜしめ,結果として粒子が質量を獲得するヒッグスメカニズムと関わるモデルとして,自由スカラー場に余分なφ4に比例する非線形項の存在を仮定するφ4模型やシグマ模型と呼ばれる単純なものがあります。

一方,流体力学の水面波を記述する方程式として発見されたKdV方程式(Kortveig-de Vries方程式):∂η/∂τ+{3c0/(2h)}{η(∂η/∂ξ)}=-(c02/6)(∂3η/∂ξ3)という非線形な方程式があります。

 

これは安定な孤立波の解としてソリトン(soliton)という際立ったパルス的特徴の解を持つことがわかっています。

 

そして,上記の自由スカラー粒子の場にφ4に比例する自己相互作用の存在を仮定する単純φ4-ヒッグス模型でも,スカラー場φはKdV方程式に似た非線形構造を持つ波動方程式に従います。

 

そこで,このφ4-モデルのスカラー場φについても,水面波のソリトン解と同様に,安定したパルス(粒子)としての性質を持つ解が存在すると予想されます。

  

これらのことから,こうした非線形解はかなり合理的な"くりこみにおける正則化の手法"を与えるのではないか?,あるいは正則化というような一種の対症療法や有効理論としてではなく,より本質的な意味で紫外発散の除去を可能とするのではないか?とふと考えたのが本記事を書く気になった動機です。

そもそも,ソリトンは戸田盛和氏の戸田格子のような非線型格子と大いに関係あるようですから,最近の"格子ゲージ理論"など格子を利用した数値計算手法とも関係するはずですから,単に私が知らないだけで既に場の理論での類似した試み,あるいは,はるかに進んだ理論があるのかもしれません。

線形な波動であれば,それは正弦波の重ね合わせで構成されますから,最初は波束という孤立したパルスのような波形を持っていても放置すれば自然にくずれ拡がって,常に減衰してゆきます。(分散現象)

しかし,波が非線形波動であれば,ローレンツアトラクタによるカオスの発生例にも見られるように,減衰するのでなく,ときには逆に自励発振して自然に増幅したりもします。

 

孤立的なソリトンが安定で有り続けることが可能なのも,そうした理由のためでしょう。

自由な実スカラー場φのラグランジアン密度=(1/2)∂μφ∂μφ-(1/2)μ2φ2に,微小な摂動項-λφ4/4!を加えた模型を考えます。

 

こうすれば,からオイラー・ラグランジュ方程式∂μ{∂/∂(∂μφ)}-∂/∂φ=0 によって得られる場の方程式は通常の自由スカラー場が従う線形なクライン・ゴルドン方程式(□+μ2)φ=0 から,非線形な方程式(□+μ2)φ=-(λ/6)φ3に変わります。

唐突ですが,私のかつてのサラリーマン時代の本業は,さして優秀でもないコンピュータによる数値シミュレーションの技術屋でした。

 

そのころの拙い経験から考えると,微分方程式や差分方程式の解の性質を支配するのは,方程式の最高次の次数です。

 

もしも,方程式(□+μ2)φ+λφ3/3!=0 の解を求めたいのであれば,λが如何に小さくλφ3/3!は無視できる程度のオーダーであろうと,この非線形項がφの最大次数の項として解の安定性等にとって本質的な意味を持つであろうと考えられます。

これは線形な数値計算であれば,いわゆる丸め誤差とか累積誤差とか呼ばれるものに相当するのですが,誤差とはいえ数値計算ではこれの扱いを間違うと致命的です。

時空の中に自分自身しか存在しない自由粒子の場であっても,背景時空のプランク時間やプランク長さのオーダーよりも小さい規模の領域に関わる計算では時空の曲がりとか,本質的に非線形な重力場の効果とかも無視できないはずです。

そこで,そうした非線型な効果が,自由クライン・ゴルドン場にも通常のスケールでは無視できる程度の非線形項を付加することにより抽象されると考えられます。

 

従来の素朴な自由線形場で展開された摂動計算では無限大に発散するファインマン積分も,その計算で線形場の代わりに自由非線形場を代入すると,まるでソリトンのように,結果が発散せず有限な計算値として得られる可能性があると予想されます。

つまり,λ=0 での計算結果は無限大に発散しでも,λ≠0 での有限な計算結果がλ→0 の極限で有限に留まるかもしれない,極限をとる順序を変えると異なる結果を得ることも可能と考えたわけです。

というわけで,そうした動機も含めてKdV方程式のソりトン解やそれに関連して逆散乱法等にも興味が湧いたので,取りあえず15年くらい前の流体力学のノートから,水面波に対してKdV方程式を求めるところの復習から始めようという気になったわけです。

 

本題に入ります。

まず,流体の密度をρ,流速を=(u,v,w)とすると,その質量の保存を示す連続方程式は∂ρ/∂t+∇(ρ)=Dρ/Dt+ρ∇=0 で与えられます。

 

非圧縮性流体ではDρ/Dt=0 なので,連続方程式は∇=0 となります。D/Dtはラグランジュ微分:D/Dt≡∂/∂t+∇です。

特に渦無し:∇×=0 とし,速度ポテンシャルΦ=Φ(,t)が存在して流速が=∇Φと表わせる場合を仮定します。

 

上記の連続方程式∇=0 はΦに対するラプラス方程式∇2Φ=0 になります。したがって,Φは調和関数です。

また,通常,水底の深さhは時間によらず一定ですから,鉛直上向きをz軸の正の向きとするxyz座標系:=(x,y,z)を取り,水底のz座標がz=-h(x,y)で与えられるとします。

また,水面の高さのz座標はz=η(x,y,t)で与えられるとします。水底z=-h(x,y)での完全流体流速の境界条件は流束の垂直成分がゼロであること,つまりunun=∂Φ/∂n=0 です。は水底面の法線ベクトルです。

一方,水面のz座標がz=η(x,y,t)であること,または水面がz-η=0 を満たすという性質は時間的に不変なので,これからD(z-η)/Dt=0 という運動学的境界条件を得ます。

 

これは,Dz/Dt=wより,w=∂η/∂t+u(∂η/∂x)+v(∂η/∂y) or ∂Φ/∂z=∂η/∂t+(∂Φ/∂x)(∂η/∂x)+(∂Φ/∂y)(∂η/∂y)なる等式を意味します。

一方,完全流体の運動方程式であるオイラーの方程式はρ(D/Dt)=-∇p+ρです。ここにpは圧力,ρは外力を示しています。

 

ただし流体全体に働く外力は重力のように密度ρに比例する体積力であると仮定しています。

 

さらに熱力学の状態方程式のような関係式によって,ρがρ=ρ(p)のように圧力pだけの関数で表わせるなら,P≡∫dp/ρなる量Pを定義してdP=dp/ρと書けるので,オイラーの運動方程式はD/Dt=-∇P+と書けます。

これはオイラー微分による表現では(∂/∂t)+(∇)=-∇P+となります。

 

もしも,外力が保存力ならポテンシャルΩが存在して=-∇Ωと書けます。これと=∇Φを運動方程式に代入すれば,(∇)=(∇Φ∇)∇Φ=∇{(∇Φ)2/2}なので,∇[∂Φ/∂t+P+(∇Φ)2/2+Ω)=0 なる式が得られます。

これから,圧力方程式と呼ばれる方程式:∂Φ/∂t+P+(∇Φ)2/2+Ω=f(t)が得られます。(これは拡張されたベルヌーイの定理(Bernoulliの定理)です。)

 

そして,もしも流体が非圧縮の上にさらに密度が一様:ρ=ρ(p)=一定ならP=p/ρとなるのでこれは∂Φ/∂t+p/ρ+(∇Φ)2/2+Ω=f(t)となります。

 

また,地球上の一様重力場であれば重力の加速度をgとして,Ω=gz+const.と書けますから,∂Φ/∂t+p/ρ+(∇Φ)2/2+gz=f(t)-const.となります。

そこで,水面z=ηに接する大気の圧力をp0=p0(t)とすれば,その位置z=ηでの圧力の連続性から∂Φ/∂t+p0(t)/ρ+(∇Φ)2/2+gη=f(t)-const.を得ます。

 

速度ポテンシャルΦ=Φ(,t)をtの任意関数f(t)がf(t)=p0(t)/ρ+const.となるように選択すれば,∂Φ/∂t+(∇Φ)2/2+gη=0 です。

結局,ラプラス方程式∇2Φ=0 を満たす速度ポテンシャルΦ=Φ(,t)によって,水面の高さη=η(x,y,t)を表わす式η=-g-1(∂Φ/∂t)-(2g)-1(∇Φ)2が得られました。

 

ただし,右辺のΦ(,t)では微分した後でz=ηと置きます。

特に水面の高さηの運動で与えられる水面波が,ηの小さい微小振幅波であると仮定してΦとηに関しての2次の項を無視すれば,z=ηでη=-g-1(∂Φ/∂t)-(2g)-1(∇Φ)2なる式は,η=-g-1(∂Φ/∂t)に帰着します。

一方,水面z=ηでの境界条件は∂Φ/∂z=∂η/∂t+(∂Φ/∂x)(∂η/∂x)+(∂Φ/∂y)(∂η/∂y)ですが,同じくΦとηに関して2次の項を無視すれば,これは単に∂Φ/∂z=∂η/∂tとなります。

これらの式からηを消去すれば,z=ηで∂2Φ/∂t2+g(∂Φ/∂z)=0 という式になります。

 

ところが速度ポテンシャルをz=0 の周りでηのベキ級数に展開すると,Φ(,t)=Φ(x,y,η,t)=Φ(x,y,0,t)+(∂Φ/∂z)z=0η+O(Φη2)です。

 

Φとηに関して2次以上の微小量を無視する近似ではz=η近傍でΦ(x,y,z,t)=Φ(x,y,0,t)としても同じです。

結局,問題はz=0 で∂2Φ/∂t2+g(∂Φ/∂z)=0,およびz=-h(x,y)で∂Φ/∂n=0 という2つの境界条件の下で,ラプラス方程式∇2Φ=0 を解くという問題に帰することがわかりました。

ここでさらに簡単化して,水底z=-h(x,y)を与えるhは(x,y)に無関係な一定値であるとし,Φはy方向には一定で流れがx,z面内の"運動=波"の場合であると考えます。この場合,波はx方向にのみ伝播するので1次元の波です。

また,ラプラス方程式:∇2Φ=0 は,∂2Φ/∂x2+∂2Φ/∂z20 となります。境界条件もz=0で∂2Φ/∂t2+g(∂Φ/∂z)=0,z=-hで∂Φ/∂z=0 と簡単になります。

 

そして水面波の形はη=-g-1(∂Φ/∂t)=0で与えられます。

Φ(x,z,t)=φ(z)cos(kx-ωt)と変数分離形を仮定して∂2Φ/∂x2+∂2Φ/∂z20 に代入すると,d2φ/dz2-k2φ=0 です。そこでk>0 として,一般解φ(z)=C1exp(kz)+C2exp(-kz)(C1,C2は定数)が得られます。

 

つまり,Φ(x,z,t)={C1exp(kz)+C2exp(-kz)}cos(kx-ωt)です。

ここで,z=-hで∂Φ/∂z=0 なので,kC1exp(-kh)-kC2exp(kh)=0 です。C1exp(-kh)=C2exp(kh)=C/2と置けば,Φ(x,z,t)=Ccosh{k(z+h)}cos(kx-ωt)となります。

それ故,水面波の形η=η(x,y,t)をη(x,t)と書くとη(x,t)=-g-1(∂Φ/∂t)=0=Asin(kx-ωt),A≡-Cg-1ωcosh(kh)となります

Φ(x,z,t)=Ccosh{k(z+h)}cos(kx-ωt)に,さらにz=0 で∂2Φ/∂t2+g(∂Φ/∂z)=0 なる境界条件を課すと-ω2cosh(kh)+gksinh(kh)=0 です。

 

そこで,ω>0 とすれば,ω={gktanh(kh)}1/2です。または,波の位相速度をcとすると,c=ω/k={(g/k)tanh(kh)}1/2{gλtanh(2πh/λ)/(2π)}1/2を得ます。

これは,位相速度cが波数k,あるいは波長λと共に変化することを示しています。すなわち,位相速度cはkh=2πh/λの増加と共に緩やかに減少していきます。

一般には任意波形のη=η(x,t)はそれが従う方程式が線形で境界条件も線形故,フーリエ(Fourier)級数に展開できることから,η(x,t)は無数の正弦波の重ね合わせから成ると考えられます。

今の場合の水の微小振幅波について要約します。

 

水の微小振幅波の解は境界条件も線形なのでその波を構成する個々の正弦波は互いに独立であり,個々の正弦波の挙動は速度ポテンシャルΦ(x,z,t)=Ccosh{k(z+h)}cos(kx-ωt)で全て決定され,流速=(u,w)は=∇Φによって与えられます。

 

u=∂Φ/∂x=-Ckcosh{k(z+h)}sin(kx-ωt),w=∂Φ/∂z=Cksinh{k(z+h)}cos(kx-ωt)です。

そして,水面波は波高をηとして,η(x,t)=Asin(kx-ωt) (ただしA≡-Cωcosh(kh))で与えられることになります。

 

ただし,境界条件が満たされるためには波数k=2π/λと角振動数ω=2πf(fは振動数)の間にω={gktanh(kh)}1/2なる関係が成り立つことが要求されます。

 

それ故,個々の正弦波の位相速度c=c(k)はc(k)=k/ω=fλ={(g/k)tanh(kh)}1/2{gλtanh(2πh/λ)/(2π)}1/2となって,kまたはλの関数として与えられることになります。

異なる波長の正弦波が異なる速度で進むため,無数の正弦波から成る全体の波の形は時々刻々に変化します。このことを波の分散といい,こうした分散を生ぜしめる媒質を分散性媒質といいます。

 

今の場合のc={(g/k)tanh(kh)}1/2{gλtanh(2πh/λ)/(2π)}1/2のように,位相速度cと波数 or波長との関係を分散関係といいます。

一方,もしも位相速度cが波数k or 波長λに無関係で常に一定であるような媒質中では任意の波は形の変形を受けることなく進みます。このような波を与える媒質を非分散性媒質といいます。

さて,A=-Cg-1ωcosh(kh),ω={gktanh(kh)}1/2なのでC=-Ag/{ωcosh(kh)}=-A{(g/k)1/2/{tanh(kh)1/2cosh(kh)}=-{A/sinh(kh)}{(g/k)tanh(kh)}1/2,結局C=-Ac/sinh(kh)です。

 

それ故,Φ(x,z,t)=-{Ac/sinh(kh)}cosh{k(z+h)}cos(kx-ωt)と書けます。

そこで,水の微小振幅波において水と共に動く1点の流体素片の座標を(x,z)とするとその点の軌道(x,z)=(x(t),z(t))は運動方程式dx/dt=u=∂Φ/∂x={Ack/sinh(kh)}cosh{k(z+h)}sin(kx-ωt),dz/dt=w=∂Φ/∂z={Ack/sinh(kh)}sinh{k(z+h)}cos(kx-ωt)の解として与えられます。

ところが,この方程式は右辺にtの未知関数x=x(t),z=z(t)についての超越関数を含む非線形方程式であり,これを厳密に解くことは困難です。

しかし,波による水の運動は周期的と考えられるので動点の座標(x,z)の1周期での平均値を(x0,z0)と表わすと,今問題としている微小振幅波では,(x-x0),(z-z0)もΦ,ηやと同程度の微小量です。

 

そこで,dx/dt={Ack/sinh(kh)}cosh{k(z+h)}sin(kx-ωt),dz/dt={-Ack/sinh(kh)}sinh{k(z+h)}cos(kx-ωt)の右辺にx=x0(x-x0),z=z0(z-z0)を代入すればA自身も1次の微小量ですから,右辺で(x-x0),(z-z0)による寄与は2次以上の微小量となってこの近似では無視できます。

以上から微小振幅波の近似では,x,zの時間経過tに伴なう運動はx=x0[Acosh{k(z0+h)}/sinh(kh)]cos(kx0-ωt),z=z0[Asinh{k(z0+h)}/sinh(kh)]sin(kx0-ωt)で与えられることがわかります。

tを消去すれば,点の軌道が(x-x0)2/a2(z-z0)2/b21,a≡Acosh{k(z0+h)}/sinh(kh),b≡Asinh{k(z0+h)}/sinh(kh)で与えられることになります。

 

これは明らかに長半径がa,短半径がbの楕円です。すなわち,水はこの楕円軌道の上を負の向き,つまり時計回りに回転運動をすることがわかります。

楕円の厚みの比:b/a=tanh{k(z0+h)}は水深(-z0)と共に減少し,水底z0=-hではb/a=0 となります。

 

つまり,水底では水は水平方向に単振動します。a=Acosh{k(z0+h)}/sinh(kh)自身も水深:(-z0)と共に減少します。

ただし,楕円の焦点間の距離2(a2-b2)1/22/sinh(kh)ですから,これは水深(-z0)に依らず一定です。

 

また,b=Asinh{k(z0+h)}/sinh(kh)は,水面z00 ではAに等しくなります。当然水面での波η(x,t)=Asin(kx-ωt)の振幅に一致します。

 

そして,水の運動の水平速度成分dx/dtはsin(kx-ωt)に比例しますからz,またはηと同位相であり,それ故,水面波は山のところではxの正の向きに谷のところではxの負の向きに動きます。

 

今日はここまでにします。

 

参考文献:巽友正 著「流体力学」(培風館),戸田盛和 著「非線形波動とソリトン」(日本評論社)

  

PS:「草なぎ剛(つよぽん)」は本当に偉い!! ← 尊敬のまなざし。。2006年3/24「インモラルと人間の解放」http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2006/03/post_dab1.html 参照。。

 

「公然わいせつ罪」とか言ってるけど草薙くんの裸というか,人間の裸を見て「わいせつ」と思う奴がいるなら,そいつがイチバン「わいせつな存在」だろう。。。

 

もっとも「わいせつ」というのが「いたづらに性欲を掻き立てる」という意味であれば,異性の裸を見てそう思うのは動物として全く健康な証拠であり,決して非難さるべきことではない,と思うけど。。。

   

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2007年8月15日 (水)

揚力とベルヌーイの定理

 2007年8月2日の記事「ダランベールの背理http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_ccd8.html において,

 

 完全流体では流速がUの一様流の中に置かれた物体に働く揚力Fyの値を,物体のまわりを反時計回りにまわる流れの循環Γによって,Fy=-ρUΓと評価できることを述べました。

 

 F(Fx,Fy)は物体に働く力でFxは抗力,Fyは揚力です。 

そこではf(z)=Φ+iΨ(Φは速度ポテンシャル,Ψは流れ関数)とし,複素関数論を利用して,ベルヌーイの定理:∂Φ/∂t+p/ρ+v2/2+Ω=A(t)(空間的に一定)とブラウジウスの(第一)公式:FxiFyiρ∫C[(df/dz)2/2]dzを導出するプロセスを記述しました。

 

それによって,物体に働く力=-∫C dsを考察し,そして,クッタ・ジューコフスキーの定理を証明した後,この定理の一部分に従って上述の命題を得るという手続きを行ないました。

 しかし,このような扱いは,私には少々大げさだと感じられたので,今日は物体部分からは全く湧き出しがない:div=0 という前提の下で,簡略化されたベルヌーイの定理p+ρv2/2=A(一定)から直接的に揚力と循環の関係Fy=-ρUΓを導いてみたいと思います。 

 まず,ベルヌーイの定理からp=A-ρv2/2なので,物体に働く力は=-∫C ds=-∫Cds+(ρ/2)∫C2ds=(ρ/2)∫C2dsです。

 

 Cの線素ベクトルをd(dx,dy)とすると,=0 ですから,ds=(dy,-dx)となるので,結局,揚力はFy(-ρ/2)∫C2dx=(-ρ/2)∫C(vx2+vy2)dxなる式で与えられます。

ところで,物体の外では当然,連続の方程式が成立しており,また仮定によって物体内部に湧き出しがありませんから,空間のいたるところで div=0 が成立します。

 

すなわち,閉曲線Cで囲まれる任意の領域Sにおいて∫S divdS=∫S(∂vx /∂x+∂vy /∂y)dx∧dy=0 です。

 

これは任意の閉曲線Cの上で∫Cxdy-∫Cydx=0 が成立することを意味しています。それ故,y=f(x)なる任意の曲線上の点で常にvxdy=vydxです。

 

つまり,この曲線の傾きy'=dy/dx=f'(x)に対し常にy=y'vxが成立しています。

また,閉曲線Cの上での流れの循環ΓはΓ≡∫C=∫C(vxdx+vydy)で定義されます。

 

(これはΓ=∫S rotdS=∫S(∂vy /∂x-∂vx /∂y)dx∧dyと書き直すこともできます。)

 

故に,Γ=∫Cxdx+∫Cydy=∫Cx(1+y'2)dxです。一方,揚力FyもFy=(-ρ/2)∫C2dx=(-ρ/2)∫C(vx2+vy 2)dx=(-ρ/2)∫Cx2(1+y'2)dxと表わすことができます。

ここで,流れ(vx,vy)が,一様流=(U,0)に微小な流れ=(ux,uy)を重ね合わせたもの:で与えられるとします。

 

x=U+ux,vy=uyですから,これを上の循環と揚力の表式に代入して,Γ=∫C(U+ux)(1+y'2)dx=∫Cx(1+y'2)dx,およびFyC(-ρ/2)∫C(U+ux)2(1+y'2)dx=-ρU∫Cx(1+y'2)dx-(ρ/2)∫Cx2(1+y'2)dxを得ます。

ここで,∫C(1+y'2)dx=∫Cdx+∫Cy'dy=0 を用いました。さらに,∫Cx2(1+y'2)dx=∫C(ux2+uy2)dx=C2dx=CxdΓなのでy=-ρUΓ-(ρ/2)∫CxdΓです。

 

最後の表式で∫CxdΓがゼロになるための条件はdW=xdΓなるWが存在することです。

 

ポアンカレの補題によって,それはd(uxdΓ)=dux∧dΓ=[-ux(∂ux /∂y)+uy(∂ux /∂x)]dx∧dy=0 すなわち,-ux(∂ux /∂y)+uy(∂ux /∂x)=0 が成り立つことと同値です。

 

これ以上は,適切なモデルで考えないと無理です。

 

まず,線素を極座標で書くとd(dx,dy)=r(d(cosθ),d(sinθ))=rdθ(-sinθ,cosθ)となります。

 

湧き出しがない条件はS divdS=∫C(vxdy-ydx)=0 ですから,Cxdy=Cydx →C(U+ux)dy=Cydx,故にCxdy=Cydxです。

 

つまり,0ruxcosθdθ=-0ruysinθdθなので,rux≡-Bsinθ,ruy≡Bcosθ(Bはrだけの関数)というモデルを想定すると,これにより上述の湧き出しゼロ条件は自動的に満たされます。

 

また,循環はΓ≡C(xdx+vydy)=C(xdx+uydx)で与えられますから,Γ=0(-ruxsinθ+ruycosθ)dθ=2πB:つまりB=Γ/2πです。

 

そこでBは定数なので,∫Cx2(1+y'2)dx=CxdΓ=∫C(ux2+uy2)dx=-0(B2/r)sinθdθ=0 が得られます。

 

したがって,∫Cx2(1+y'2)dx=CxdΓ=0 となり,求める揚力と循環の関係y=-ρUΓが得られました。

 したがって,以上の私の試みによって流れが上の面に沿って速く下の面に沿って遅いときに,ベルヌーイの定理から上向きの力=揚力が生じるというメカニズムを考えれば,このとき負の循環Γ<0 つまり時計回りの循環があることに相当することがわかります。
 
 そこで,クッタ・ジュ-コフスキーの定理により上向きの力=揚力が生じる,という命題と同等である,ということを直接的に示せたのではないかと思います。
 
 逆に,循環がなくて(rot=0)湧き出しQがあるとき抗力Fxと湧き出しQの関係Fx=-ρUQが得られることも上とほぼ同様にして示すことができます。

 

そして循環も湧き出しも共に存在するときは,例えば電気回路の重ねの理と同じように,この場合を上記の2つの場合の重ね合わせと考えることによって,Fx=-ρUQとFy=-ρUΓが同時に成り立つことも言えます。

 

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