確率,統計

2007年7月18日 (水)

ブラウン運動と伊藤積分(10)

 確率積分の話題の続きです。前回はこれを定義しただけですが今回はこれの性質,特に伊藤の公式について説明します。

次の不等式は,シュヴァルツ(Schwartz)の不等式の一般化です。

(補題9.1):(国田・渡辺の不等式)

  M,N∈2,cとする。

 

  φ(s,ω),ψ(s,ω)は発展的可測で∀t>0 に対して,∫0tφ(s,ω)2d<M>s<∞,∫0tψ(s,ω)2d<N>s<∞ とする。

 

このとき,∀t>0 に対して,|∫0tφ(s,ω)ψ(s,ω)d<M,N>s|≦(∫0tφ(s,ω)2d<M>s)1/2(∫0tψ(s,ω)2d<N>s)1/2 (a.s)である。 (a.s.はalmost surely="ほとんど確実に"です。)

(証明)<M,N>の定義:<M,N>≡(1/4)(<M+N>-<M-N>)と,その性質:<aM,N>=a<M,N>によって,<M>=<M,M>,<N>=<N,N>であり,∀r∈Rに対して<M+rN>=<M>+2r<M,N>+r2<N>となります。

したがって,0≦∫s1s2d<M+rN>s=∫s1s2d<M>s+2r∫s1s2d<M,N>s+r2s1s2d<N>s a.s が全ての実数rに対して成立するようにできます。

よって,実数rの2次式が常に非負でr2の係数が正なので,その判別式は(判別式)≦0 を満足しなければならないことから,不等式|∫s1s2d<M,N>s|2≦(∫s1s2d<M>s)(∫s1s2d<N>s)が得られます。

それ故,φ(s,ω)≡Σiφi(ω)1(ti,ti+1),ψ(s,ω)≡Σiψi(ω)1(ti,ti+1)0に対して,|∫∫0tφ(s,ω)ψ(s,ω)d<M,N>s|=|Σiφi(ωi(ω)∫titi+1d<M,N>s|≦Σii(ω)||ψi(ω)|(∫0td<M>s) 1/2(∫0td<N>s)1/2≦(Σii|2titi+1d<M>s)1/2ii|2titi+1d<N>s)1/2=(∫0tφ(s,ω)2d<M>s)1/2(∫0tψ(s,ω)2d<N>s)1/2 (a.s)となります。

有界なφ(s,ω),ψ(s,ω)については,再掲(補題:8.3):"02(<M>)内で稠密である"によって,上のような0の元で近似することができます。

 

一般のφ,ψについてはまず有界なもので近似して0の元で近似すると極限で命題が成立します。

 

(証明終わり)

(定理9.2) 

(ⅰ) M,N∈2,c,f(s,ω)∈2(<M>)のとき,Xt=∫0tf(s,ω)dMsとすると,<X,N>t=∫0tf(s,ω)d<M,N>sであり,かつ任意のN∈2,cに対して<X,N>t=∫0tf(s,ω)d<M,N>sを満たすX∈2,cでX0=0 なるものはXt=∫0tf(s,ω)dMsに限る。

 

(ⅱ)I(f)=XT=∫0f(s,ω)dMs2(0,T;<M>)→2,c(0,T)は∀Tに対して等距離写像(isometric mapping)である。:すなわちE[|XT|2]=E[∫0|f(s,ω)|2d<M>s]である。

(証明)(ⅰ)f∈2(<M>)に対してfn0でE[∫0t|fn(s,ω)-f(s,ω)|2d<M>s]→ 0  as n→ ∞なるものを取ります。

 

nt=∫0tn(s,ω)dMsとおくと,再掲(補題8.7):"E[X2]=E[<X>T]=E[∫0Tf(s,ω)2d<M>s]である。"によって,E[<Xn-X>t]=E[∫0t|fn(s,ω)-f(s,ω)|2d<M>s] → 0  as n→ ∞,∀tです。

一方,|∫d<M,N>s|≦|∫d<M>s|1/2|∫d<N>s|1/2ですが,E[|<M,N>t|]=E[|∫0td<M,N>s|],E[|<M>t|]=E[|∫0td<M>s|],E[|<N>t|]=E[|∫0td<N>s|]より,一般にE[|<M,N>t|]≦E[|<M>t|]1/2E[|<N>t|]1/2です。

したがって,E[|<Xn,N>t-<X,N>t|]=E[|<Xn-X,N>t|]≦E[|<Xn-X>t|]1/2E[|<N>t|]1/2 → 0  as n →∞ ,∀tが得られます。

また,<Xn,N>t=∫0tn(s,ω)d<M,N>sがfn(s,ω)∈0を具体的に書き下すことによって(補題8.5)の証明と同じようにして言えるので,結局<X,N>t=∫0tf(s,ω)d<M,N>s a.sであることがわかります。

 後半の,一意性については,<X~,N>t=∫0tf(s,ω)d<M,N>s a.s ∀N∈2,cとすると,<X-X~,N>t=0 a.sですから,特にN=X-X~とすると<X-X~>t=0 a.s,あるいはE[|Xt-X~t|2]=0 よりXt=X~t a.sとなることから示されます。

(ⅱ)(ⅰ)よりXt=∫0tf(s,ω)dMsとおけば,<X>T=<X,X>T=∫0Tf(s,ω)d<M,X>sであり,<M,X>s=∫0sf(u,ω)d<M>uですからd<M,X>s=f(s,ω)d<M>sなので,<X>T=∫0Tf(s,ω) 2d<M>s=∫0T|f(s,ω)|2d<M>sとなります。

 

 これとE[|XT|2]=E[<X>T]を合わせると,E[|XT|2]=E[∫0T|f(s,ω)|2d<M>s]が得られます。(証明終わり)

(系9.3)(ⅰ)M∈2,c,f,g∈2(<M>),a,b∈Rに対して∫0t{af(s,ω)+bg(s,ω)}dMs=a∫0tf(s,ω)dMs+b∫0tg(s,ω)dMs,∀tである。

 

(ⅱ)M,N∈2,c,f∈2(<M>)∩2(<N>),a,b∈Rに対してf∈2(<aM+bN>)で∫0tf(s,ω)d(aM+bN)s=a∫0tf(s,ω)dMs+b∫0tf(s,ω)dNs ,∀tである。

(証明) (ⅰ)N∈2,cのとき,(定理9.2)と二次変分の性質(命題7.8)より,<∫0t(af+bg)dMs,N>=∫0t(af+bg)d<M,N>s=a∫0tfd<M,N>s+b∫0tgd<M,N>s=<a∫0tfdMs,N>+<b∫0tgdMs,N>です。

 

 そしてNは任意なので,例えばN=∫0t(af+bg)dMs-a∫0tfdMs-b∫0tgdMsと取ることによって,∫0t{af(s,ω)+bg(s,ω)}dMs=a∫0tf(s,ω)dMs+b∫0tg(s,ω)dMs ,∀tが得られます。

(ⅱ)f∈2(<aM+bN>)なることについては,再掲(補題9.1):"M,N∈2,cとしφ(s,ω),ψ(s,ω)は発展的可測で,∀t>0 に対して∫0tφ(s,ω)2d<M>s<∞,∫0tψ(s,ω)2d<N>s<∞ とする。このとき∀t>0 に対し|∫0tφ(s,ω)ψ(s,ω)d<M,N>s|≦(∫0tφ(s,ω)2d<M>s)1/2(∫0tψ(s,ω)2d<N>s)1/2 a.sである。"と二次変分の性質からいえます。

 

すなわち,(補題9.1)でφ=ψ=fとおくと,不等式|∫0tf(s,ω)2d<M,N>s|≦(∫0tf(s,ω)2d<M>s)1/2(∫0tf(s,ω)2d<N>s)1/2 a.sが得られます。

 

 これと等式d<aM+bN>s=a2d<M>s+2abd<M,N>s+b2d<N>sから,f∈2(<aM+bN>)なることは自明です。

 そして(定理9.2)と(命題7.8)によれば,∀L∈2,cに対して<∫0tfd(aM+bN)s,L>=∫0tfd<(aM+bN),L>s=a∫0tfd<M,L>s+b∫0tfd<N,L>s=<a∫0tfdM+b∫0tfdN,L>が成立するので命題が成り立つことは明らかです。

 

 (証明終わり)

 次に,局所マルチンゲールに対して確率積分を定義します。

(定義10.1):(局所マルチンゲールに対する確率積分)

M∈,locとし,Mに対しP(∫0Tf(s,ω)2d<M>s<∞)=1,∀Tを満たす発展的可測過程f(s,ω)について確率積分を定義する。

M∈,locよりσn↑∞ a.sとなる停止時刻の列{σn}が存在して,Mt∧σn2,cが成立する。そしてτn(ω)≡n∧inf{t≧0:∫0tf(s,ω)2d<M>s≧n}とおけばτn↑∞ a.sである。

 

 そこでρn≡τn∧σnとしMnt≡Mt∧ρn,fn(t,ω)≡f(t,ω)1{t≦ρn}とおけば,Mnt2,c,fn(t,ω)∈2(<Mn>)なので確率積分I(fn)がI(fn)(t,ω)=∫0tn(s,ω)dMnsと定義できる。

 

 これはI(fn)(t,ω)=I(fm)(t,ω),0≦t≦ρn,n≦mとなることがわかる。

 そして,n→ ∞ に対してσn → ∞ なので,I(f)(t,ω)≡I(fn)(t,ω), 0≦t≦ρnとすれば,n→ ∞ の極限で∀tについてI(f)が定義できる。

  

 このI(f)をfの確率積分という。

(定理9.2)を局所マルチンゲールに対して書き直したものはM∈c,loc ,f(s,ω)をP(∫0Tf(s,ω)2d<M>s<∞)=1,∀Tを満たす発展的可測過程とする。

 

 このときXt=∫0tf(s,ω)dMs,M∈c,locはX0=0 で<X,N>t=∫0tf(s,ω)d<M,N>s∀t a.sを満たす唯1の元である。

 

 となります。

 

 これの証明は,tをt∧ρnにおきかえると,(定理9.2)の証明と同じなので省略します。

次に,確率積分が普通の積分と同様な概念を表現するものであるということを示す重要な性質を証明します。

 "f(s,ω)がtに適合して左連続であるとする。このとき,分割Δ:0=s0<s1<..<snをとれば,∫0tf(s,ω)dMs=P-lim|Δ|→0Σif(si)(Msi+1-Msi)となる。ただし,P-lim は確率収束極限の意味である。という命題を証明します。

(証明)fが有界でf∈2,cのとき,分割Δ:0=t0<t1<..<tnに対してfΔ(s,ω)≡Σif(ti,ω)1(ti,ti+1)(s),fΔ(0,ω)≡f(0,ω)とおくと,左連続性によってfΔ(s,ω)→ f(s,ω) as Δ→ 0,∀s,ωです。

Δt=∫0tΔ(s,ω)dMs=Σif(ti,ω)(Mti+1-Mti)であり,E[∫0t|fΔ(s,ω)-f(s,ω)|2d<M>s]→ 0 よりE[|XΔt-Xt|2] → 0 as Δ→ 0,∀tです。

一般の局所マルチンゲールの場合は(定義10.1)のτnを使って局所化すればいいだけです。

 

(証明終わり)

ここで微積分学における合成関数の微分法則(連鎖公式)の確率解析版とされる伊藤の公式を示すことにします。

 

その応用は極めて広いものです。

(定義11.1)確率過程X={Xt}がXt=X0+Mt+At,M∈loc,A∈(増加過程:に属する元の差で表わされる過程)で,X00-可測関数,ただし,M0=0 a.s,A0=0 a.sと表わされるとき,{Xt}は半マルチンゲールであるという。

また,RN値確率過程が半マルチンゲールであるとは,各成分が半マルチンゲールのときをいう。

 

さらに,t,tが連続確率過程であれば{t}は連続な半マルチンゲールであるという。

(定理11.2)(伊藤の公式)

t(X1t,X2t,..,XNt)を連続な半マルチンゲールとする。すなわち,Xit=Xi0+Mit+Ait (i=1,2,..,N)とする。

 

f∈2(RN)のとき,f(t)は連続な半マルチンゲールであり,f(t)-f(0)=Σi=1N0tif(s)dMis+Σi=1N0tif(s)dAsi+(1/2)Σi,j=1N0tijf(s)d<Mi,Mjsと書くことができる。

 

ただし,Dif≡∂f/∂xi,Dijf≡∂2f/∂xi∂xj(i,j=1,2,..N)である。

(証明)τn=inf{t≧0:|0|>n,or|t|>n,|t|>n}({ }≠φのとき),τn=∞ ({ }=φのとき);とおきます。このとき,n→ ∞ に対してτn→ ∞ a.sなので,Xt∧τn について,この等式を証明すれば十分です。

したがって,0,t,tは全て有界,f,Dif,Dijfも全て有界,かつ一様連続であるとしてかまいません。それ故,ある定数Kがあって|f|+Σi|Dif|+Σi,j |Dijf|≦Kと書くことができます。

Δ:0=t0<t1<..<tn=tを [0,t]の分割とします。

このとき,テイラー展開の定理により,f(t)-f(0)=Σk=1n-1(f(tk+1)-f(tk))=Σk=1n-1Σi=1Nif(tk)(Xitk+1-Xitk)+(1/2)Σk=1n-1Σi,j=1Nijf(ξk)(Xitk+1-Xitk)(Xjtk+1-Xjtk),ξktk+θk(tk+1tk), 0≦θk≦1と表現できます。

右辺の第1項は|Δ|→0 のとき,確率積分の定義により,Σi=1N0tif(s)dMis s+Σi=1N0tif(s)dAsiに確率収束します。

一方,右辺の第2項は,(1/2)Σk=1n-1Σi,j=1Nijf(ξk)(Mitk+1-Mitk)(Mjtk+1-Mjtk)+Σk=1n-1Σi,j=1Nijf(ξk)(Mitk+1-Mitk)(Ajtk+1-Ajtk)+(1/2)Σk=1n-1Σi,j=1Nijf(ξk)(Aitk+1-Aitk)(Ajtk+1-Ajtk)≡I1+I2+I3となります。

 

より,,,+,cとすると,|Σk=1n-1(tk+1tk)|≦|t|+|t|で,sup|tk+1tk|→ 0,sup|tk+1tk|→ 0 なので,|I2|≦Ksup k|tk+1tk|(|t|+|t|)→ 0 as |Δ|→ 0 a.s,かつ|I3|≦Ksup|tk+1tk|(|t|+|t|→ 0 as |Δ|→ 0 a.sです。

よって,後はI1(1/2)Σi,j=1N0tijf(s)d<Mi,Mj> as |Δ|→ 0 a.sを示すことができればいいことになります。

 

通常の積分と微分との関係では2次の微小量を総和して積分しても1次の微小量になるだけで,|Δ|→ 0 では消えてしまうのでこうした2階導関数の項は出現しません。

実際,上に示したように有界変動の関数と有界な単調増加関数の差で表わせるので,その2次の量を積分するとき,その寄与はゼロになります。

 

しかし,がブラウン運動のような過程である場合には有界変動の関数ではなくて,その長さが確率1で無限大になることは,ずいぶん前の記事で述べましたが,その場合のの2次の量を積分するとき,その寄与はゼロではなくて有限です。

1'=(1/2)Σk=1n-1Σi,j=1Nijf(tk)(Mitk+1-Mitk)(Mjtk+1-Mjtk)とおくと,|I1-I1'|≦(1/2)Σk=1n-1Σi,j=1N|Dijf(ξk)-Dijf(tk)||Mitk+1-Mitk||Mjtk+1-Mjtk|≦(1/2)supk|Dijf(ξk)-Dijf(tk)|[Σn,mt(Mn,Δ)1/2t(Mm,Δ)1/2]です。

よって,E[|I1-I1'|]≦(1/2)Σn,m=1NE[supk|Dijf(ξk)-Dijf(tk)|Qt(Mn,Δ)1/2t(Mm,Δ)1/2]≦(1/2)Σn,m=1NE[supk|Dijf(ξk)-Dijf(tk)|2]1/2(E[Qt(Mn,Δ)Qt(Mm,Δ)])1/2≦(1/2)E[supk|Dijf(ξk)-Dijf(tk)|2]1/2n,m=1NE[Qt(Mn,Δ)2]1/4E[Qt(Mm,Δ)2]1/4)です。

 

再掲(補題7.3):"M={Mt}∈4,cとするとき分割Δに依らない定数cが存在してE[Qt(M;Δ)2]≦cが成り立つ。"とE[supk|Dijf(ξk)-Dijf(tk)|2]1/2→ 0 as |Δ|→ 0 によって,右辺→ 0 as |Δ|→ 0 が得られます。

また,I1"=(1/2)Σk=1n-1Σi,j=1Nijf(tk)(<Mi.Mjtk+1-<Mi.Mjtk)とおくとE[|I1'-I1"|2]=(1/4)Σk=1 n-1E[|Σi,j=1Nijf(tk){(Mitk+1-Mitk)(Mjtk+1-Mjtk)-∫tktk+1d<Mi.Mjs|2]≦Σk=1 n-1(K2/4)E[|tk+1tk|4+Σi,j=1N(<Mi.Mjtk+1-<Mi.Mjtk)2]≦(K2/4)E[supk|tk+1tk|2Σi=1Nt(Mi,Δ)]+(K2/4)Σi,j=1NE[supk|<Mi.Mjtk+1-<Mi.Mjtk|(<Mi.Mjtk+1-<Mi.Mjtk)] → 0 as |Δ|→ 0 です。

 

すなわち,E[|I1'-I1"|2]→ 0 as |Δ|→ 0 が得られます。

一方,1"=(1/2)Σk=1n-1Σi,j=1Ntktk+1ijf(tk)d<Mi.Mjs→(1/2)Σi,j=1N0tijf(s)d<Mi.Mjs as |Δ|→ 0 ですから,結局,I1→(1/2)Σi,j=1N0tijf(s)d<Mi.Mjs in L(Ω) as |Δ|→ 0 です。

以上から,∀tに対して,ほとんどいたるところで,f(t)-f(0)=Σi=1N0tif(s)dMis+Σi=1N0tif(s)dAsi+(1/2)Σi,j=1N0tijf(s)d<Mi,Mjsが成立し,両辺はtについて連続なので,この等式は確率1で∀tに対して成立します。

 

(証明終わり)

例として原点から出発する1次元ブラウン運動をXt=Btとし,f(x)=xnとすると,伊藤の公式から,Btn=n∫0tsn-1dBs+{n(n-1)/2}∫0tsn-2dsです。

 

特にn=2とすれば,Bt2=2∫0tsdBs+tです。

 

このことはBt2-tがマルチンゲールであることを示しています。これは,マルチンゲールの確率積分が,その定義によって常にマルチンゲールであるからです。

こうして,1次元ブラウン運動の確率積分が通常の関数についての積分公式t22∫0txdxとは食い違うことが明確にわかります。

 次の例として,At=-t/2としXt=Bt+At=,f(x)=exp(x)とするとき,伊藤の公式から,exp(Xt)-exp(X0)=exp(Bt-t/2)-exp(B0)=∫0t exp(Bs-s/2)dBs+∫0t exp(Bs-s/2)d(-s/2)+(1/2)∫0t exp(Bs-s/2)dsです。

 

したがって,exp(Bt-t/2)=1+∫0t exp(Bs-s/2)dBsです。

tはマルチンゲールなので,もちろんその確率積分exp(Bt-t/2)もマルチンゲールです。

 

また,E[exp{iξ(Bt-Bs)}]=exp{-(t-s)ξ2/2}より,s=0 ,ξ=-2iとおいて,E[exp(2Bt)]=exp(2t),すなわち,E[exp(2Bt-t)]=exp(t)です。

 

それ故,exp(Bt-t/2)は2乗可積分マルチンゲールです。

さらにt(B1t,B2t,..,BNt)をN次元ブラウン運動とし,f()={(x1)2(2)2+..+(xN)2}m/2とするとき,m≧2ならf(t)-f(0)=mΣi=1N0tis|s|m-2dBis+(1/2)∫0t{Nm+m(m-2)}|s|m-2dsです。

 

また,N≧3でm=2-N,σn=inf{t:|t|≦1/n}とするとき,f(t∧σn)-f(0)=(2-N)Σi=1N0t∧σnis|s|-NdBisですから,tの出発点が 0 でないとき:P(t0)=1,00 なるときも含めて,P(σn↑∞ as n→∞)=1 なので,f(t)-f(0)は局所マルチンゲールです。

今日はここまでにします。

参考文献:長井英生 著「確率微分方程式」(共立出版)

 

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2007年7月12日 (木)

ブラウン運動と伊藤積分(9)

 次のステップとして確率積分という主題に移ります。

以下では,フィルター付確率空間(Ω,,P;t)はtが右連続であり,かつ次の条件を満たしているものとします。すなわち,≡{A∈Ω|∃B∈:A⊂B,P(B)=0}⊂0 であるとします。

2(0,T)≡{M:E[|MT|2]<∞;{Mt}t∈[0,T]は右連続マルチンゲール},2,c(0,T)≡{M∈2(0,T):{Mt}t∈[0,T]は連続}と置きます。

 

また,特にσ-加法族の増大系tを強調する場合には,2(0,T;t),2(t),2,c(0,T;t),2,c(t)のように表わします。

(系7.6)によれば,∀M∈2,cに対し,ある<M>∈+,cがあって,Mt2-<M>tはマルチンゲールになっています。

M∈2,cに対して2(0,T;<M>)≡{φ:φは発展的可測でE[∫0Tφ(s,ω)2d<M>s]<∞},2(<M>)≡{φ:φは発展的可測でE[∫0Tφ(s,ω)2d<M>s]<∞,∀T}とおきます。

乗可積分(連続)マルチンゲール全体の空間のヒルベルト構造に関する次の補題は,確率積分の定義において重要な役割を果たします。

(補題8.1):(ⅰ)2(0,T),2,c(0,T)は||T≡E[|MT|2]1/2をノルムとするヒルべルト空間である。(ⅱ)2,2,cは,その2つの元M,Nに対してd(M,N)≡Σn=0(|M-N|n∧1)/2nを距離とする完備距離空間である。

(証明)(ⅰ) {MnT}n=1,2,..2(0,T),または2,c(0,T)に属するL2(Ω,,P)のコーシー列とします。

 

再掲(定理6.1):"{Xt}t∈Tを右連続非負劣マルチンゲールとしXT*≡sup0≦t≦T|Xt|とおくと,(ⅰ)λpP(XT*≧λ)≦E[|XT|p],p≧1 (ⅱ) E[|XT*|p]≦[p/(p-1)]pE[|XT|p],p>1 が成り立つ。"

 

により,E[sup0≦t≦T|Mnt-Mmt|2]≦4E[|MnT-MmT|2]です。

再掲(補題7.4):"{Ysn}をtに適合した連続確率過程でlimn,m→∞E[sups≦t|Ysn-Ysm|2]=0 なるものとする。

  

このとき連続確率過程{Ys}でtに適合したものがあり{Ysn}の適当な部分列{Ysnk}を取れば,P(sups≦t|Ysnk-Ys|→ 0 as k→ ∞)=1であり,limk→∞E[sups≦t|Ysnk-Ys|2]=0 となる。"

 

によって,連続確率過程:M={Mt}t∈[0,T]が存在して,n→∞のとき確率1で[0,T]上一様にMnt-Mt→ 0 となることがわかります。

このとき,もちろんE[sup0≦t≦T|Mnt-Mt|2]→ 0 as n→∞ です。

 

それ故,∀A∈sについてE[(Mns-Ms),A]→ 0,E[(Mnt-Mt),A]→ 0 です。

 

 Mnのマルチンゲール性:E[Mnt,A]=E[Mns,A],∀A∈sと合わせると,E[Mt,A]=E[Ms,A],∀A∈sです。すなわち,M={Mt}t∈[0,T]もマルチンゲールです。

 

よって,M={Mt}t∈[0,T]も{MnT}n=1,2,..と同じく,2(0,T)または2,c(0,T)に属することがわかりますから,2(0,T),M2,c(0,T)はL2空間として完備なノルム空間であることがわかりました。

もちろん,このノルム空間において,||T≡E[|MT|2]1/2がノルムになっていることは自明です。

 

そして,M,Nの内積(M,N)を(M,N)≡(1/4)[|M+N|2T|M-N|2T]=E[MTT]で定義することにより,2(0,T),M2,c(0,T)をヒルベルト空間とすることができます。

(ⅱ){Mn}n=1,2,..2をn,m →∞ のときd(Mn,Mm)→ 0 となるような列とします。

 

このとき,∀Tについて{Mnt}t≦T2(0,T)のコーシー列になるので,(ⅰ)よりMT={MTt}t≦T2(0,T)が存在して|n-MT|T→ 0 as n →∞ となります。

 

ところで,T1≧Tとすると極限の一意性によって,0≦∀t≦TについてMT1t=MTtですからMT1=MTが成立しています。

それ故,0≦∀t≦∞ に対してMt≡Mttと置くことによって,Mt=limT→∞Ttを定義することができて,M={Mt}t≦∞とすると,d(Mn,M) → 0 as n→ ∞ となりM={Mt}∈2です。

 

したがって,2はその2つの元M,Nに対して,d(M,N)≡Σn=0(|M-N|n∧1)/2nを距離とする完備距離空間です。

 

さらに2,c2の閉部分空間なので,2,cも同じ距離について完備距離空間です。

(証明終わり)

(補題8.2):(ⅰ)2(0,T;<M>)は∀φ∈2(0,T;<M>)に対して|φ|T≡E[∫0Tφ(s,ω)2d<M>]1/2をノルムとするヒルべルト空間である。

 

(ⅱ)2(<M>)は∀φ122(<M>)に対してρ(φ12)≡Σn=1(|φ1-φ2|n∧1)/2nを距離とする完備距離空間である。

(証明)(詳細は略して概略のみ記述します。)

(ⅰ)m(A)≡E[∫0T1A(s,ω)d<M>s]1/2,A∈([0,T])×tによって([0,T])×Ω,([0,T])×t)の上での測度を定義すればL2([0,T])×Ω,([0,T])×t,dm)はm=|・|Tをノルムとしたヒルベルト空間です。

2(0,T;<M>)はL2([0,T])×Ω,([0,T])×t,dm)の閉部分空間ですから命題が成立します。

(ⅱ)(ⅰ)から明らかです。

(証明終わり)

     φ(t,ω)=Σi=0kξi(ω)1(ti,ti+1)(t);0=t0<t1<..<tk+1,k=1,2,..で各ξiti-可測で有界なもの,で与えられるφを初等確率過程と呼びます。そして初等確率過程の全体を0で表わすことにします。

(補題:8.3):02(<M>)内で稠密である。

(証明)∀φ∈2(<M>)に対してlimn→∞φn=φ a.s inL2,つまりlimn→∞E[∫0Tn(s,ω)-φ(s,ω)|2d<M>s]=0 を満たす関数列{φn}n=1,2,..0 が存在することを示せばいいです。

そこで,φ∈2(<M>)とすると,E[∫0Tφ(s,ω)2d<M>s]<∞,∀Tですが,φは有界であるとしsの近傍でのφの平均値としてφnをφn(s,ω)≡∫(s-1/n)+sφ(u,ω)d<M>u/[<M>s-<M>(s-1/n)+]で定義します。ただしa+≡a∨0 です。

 

そして,さらにφ~(s,ω)≡limsupn→∞φn(s,ω)と置きます。

 このとき上極限の定義によって,d<M>s,∀s∈[0,T]のほとんど到るところで部分列が存在してlimn→∞φn(s,ω)=φ~(s,ω)であり,定義から∫0Tφ~(s,ω)d<M>s=∫0Tφ(s,ω)d<M>sが成り立っています。

 また,φが発展的可測なので,φn(s,ω)はtに適合しています。

 

 分割Δ:0=t0<t1<..<tk+1に対し,φn(Δ)(s,ω)≡Σi=0kφn(ti,ω)1(ti,ti+1)(s)とおけば,φn(Δ)0でありφnは左連続ですから,lim|Δ|→0φn(Δ)(s,ω)=φn(s,ω)∀(s,ω)です。

 したがって,E[∫0Tn(Δ)(s,ω)-φn(s,ω)|2d<M>s]→ 0 as |Δ|→ 0 となります。

 

 また,limn→∞φn(s,ω)=φ~(s,ω)より,limn→∞0Tn(s,ω)-φ~(s,ω)|2d<M>s]=0 ですから,lim n→∞,|Δ|→0E[∫0Tn(Δ)(s,ω)-φ~(s,ω)|2d<M>s]=0 を得ます。

 ところが,∫0Tφ~(s,ω)d<M>s=∫0Tφ(s,ω)d<M>sですから,lim n→∞,|Δ|→0E[∫0Tn(Δ)(s,ω)-φ(s,ω)|2d<M>s]=0 です。

  

 以上から02(<M>)内で稠密であることが証明されました。

 

 (証明終わり)

(定義8.4):(初等確率過程に対する確率積分の定義)

 φ(s,ω)=Σi=0kξi(ω)1(ti,ti+1)(s)∈0に対して確率積分I(φ)をI(φ)(t,ω)≡Σti+1<tξi(ω)(Mti+1-Mti)+ξl(ω)(Mt-Mtl),tl≦t≦tl+1と定義する。そして,これをI(φ)(t,ω)=∫0tφ(s,ω)dMsと表わす。

ここでξi(ω)がti-可測であることに注意されたい。

 

つまり積分和の係数である確率変数の値として分割の分点の左側の値を取っていることが確率積分の特徴です。後述するように,この取り方のおかげで確率積分はマルチンゲールになります。

さらに,初等確率過程に対する確率積分I(φ)の性質として次の補題を証明しておきます。

(補題8.5):I(φ)∈M2,cで,(ⅰ)<I(φ)>t=∫0tφ(s,ω)2d<M>sである。(ⅱ)E[I(φ)t2]=E[∫0tφ(s,ω)2d<M>s]である。

(証明)s≦tのときE[I(φ)t|s]=E[Σti+1<tξi(ω)(Mti+1-Mti)|s]+E[ξl(ω)(Mt-Mtl)|s]=Σti+1<sξi(ω)(Mti+1-Mti)+ξp(ω)(Ms-Mtp)=I(φ)sより,確かにI(φ)(t,ω)はマルチンゲールです。

 

 さらに,M∈M2,cよりI(φ)∈M2,cです。

(ⅰ)tm≦s≦tm+1≦tl≦t≦tl+1とします。

 

 Mのマルチンゲール性から,E[{I(φ)(t)-I(φ)(s)}2|s]=E[{Σi=m+1l-1ξi(Mti+1-Mti)+ξl(Mt-Mtl)+ξm(Mtm+1-Ms)}2|s]=Σi=m+1l-1E[ξi2(Mti+1-Mti)2|s]+E[ξl2(Mt-Mtl)2|s]+E[ξm2(Mtm+1-Ms)2|s]=Σi=m+1l-1E[ξi2(<Mti+1>-<Mti>)|s]+E[ξl2(<Mt>-<Mtl>)|s]+E[ξm2(<Mtm>-<Ms>|s]です。

 

 すなわち,E[{I(φ)(t)-I(φ)(s)}2|s]=E[∫stφ(u,ω)2d<M>u|s]となります。

 また,I(φ)のマルチンゲール性から,E[{I(φ)(t)-I(φ)(s)}2|s]=E[I(φ)(t)2-I(φ)(s)2|s]ですから,結局,E[I(φ)(t)2-∫0tφ(u,ω)2d<M>u|s]=I(φ)(s)2-∫0sφ(u,ω)2d<M>uとなり,I(φ)t2-∫0tφ(s,ω)2d<M>sがマルチンゲールとなることがわかりました。

(φ)∈M2,cですから,(系7.6)の二次変分の一意性によって,<I(φ)>t=∫0tφ(s,ω)2d<M>sです。

(ⅱ)I(φ)(0)=0 なので,(系7.6)(ⅲ)より直ちにE[I(φ)t2]=E[∫0tφ(s,ω)2d<M>s] を得ます。(証明終わり)

(定義8.6):(確率積分の定義)

 一般のf∈2(<M>)に対して確率積分を定義する。

 

 (補題8.3)により,fn0でlimn→∞E[∫0T|fn(s,ω)-f(s,ω)|2d<M>s]=0 ∀Tを満たすものを取ることができる。

 そして,XntI(fn)=∫0tn(s,ω)dMsと置くと,(補題8.5)によってn,m→∞ のときE[|Xnt-Xmt|2]=E[∫0t|Xns-Xms|2d<M>s]→ 0 ∀tである。

 

 またE[sups≦t|Xns-Xms|2]=4E[|Xnt-Xmt|2]ですから,{Xnt}n=1,2,..のある収束する部分列{Xnkt}k=1,2,..があって,その極限値をXtと置けばX={Xt}∈M2,cでlimk→∞d(Xnk,X)=0 かつP(Xnkt→Xt,k→∞,広義一様収束)=1となる。

このX={Xt}はfn0の取り方によらない。

実際,fn,f~n0でlimn→∞E[∫0T|fn(s)-f(s)|2d<M>s]=0 ,limn→∞E[∫0T|f~n(s)-f(s)|2d<M>s]=0 を満たすものを取ります。

 

上のやり方で連続マルチンゲールXtとX~tが決められたとすると,E[sups≦t|Xs-X~s|2]=4E[|Xt-X~t|2]=limn,m→∞4E[|Xnt-Xmt|2]=limn,m→∞4E[∫0t|fn(s)-fm(s)|2d<M>s]=0 ∀tなので,Xt=X~t a.s が結論され,X={Xt}はfn0の取り方によらず一意的に決まります。

こうして決まるX={Xt}をfのMによる確率積分といい,Xt=∫0tf(s,ω)dMsと表わす。

 

ここで,確率積分X={Xt}の二次変分はどのように与えられるか?について言及しておきます。

 

(補題8.7):E[X2]=E[<X>T]=E[∫0Tf(s,ω)2d<M>s]なる等式が成り立つ。

(証明)(補題8.5)から<Xn=∫0Tn(s,ω)2d<M>sです。

 

 <Xnのn→∞の極限で<X>=∫0Tf(s,ω)2d<M>s a.s です。X={Xt}∈M2,cより(系7.6)(ⅲ)からE[X2]=E[<X>T]=E[∫0Tf(s,ω)2d<M>s]が成立します。

 

(証明終わり)

特に,Btを原点から出発するブラウン運動とすると,Bt2-tのマルチンゲール性によって,<Bt>=tです。

 

既に示したように,自然数nについてE[|Bt-Bs|2n]=cn(t-s)n,cn=2-n(2n)!/n!です。すなわち,E[Bt2n]=cnnですから,E[∫0Tt2ndt]<∞です。

そこで,確率積分X=∫0Tt2ndBtが定義できて,E[X2]=E[∫0Tt2nd<Bt>]=E[∫0Tt2ndt]=cn0Tndt=cnn+1/(n+1)となります。

 

ブラウン運動のような確率過程では(Bt-Bs)2~(t-s)より,(dBt)2 ~dt,すなわち,dBt ~ (dt)1/2なので(dBt)2は2次の微小量ではなく1次の微小量です。

 

そこで積分法や微分法において,これをdtと比較して無視することができません。こうした事情が確率積分をむずかしくしている原因であろうと思われます。

 

切りがいいので今日はここまでにします。

参考文献:長井英生 著「確率微分方程式」(共立出版)

  

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2007年7月11日 (水)

ブラウン運動と伊藤積分(8)

: 前回の記事では二次変分という量の説明が中途になりましたが,今回はその説明を完成させます。 

 まず(定理7.2)の証明から始めます。

(定理7.2の証明)

まず,Mtに対して二次変分At≡<M>tが存在することをを仮定してその一意性の方から証明します。

  

すなわち,Mt2-AtとMt2-A~tは共にマルチンゲールでA,A~∈+,c,かつA0=A~0=0 を満たすとすると,At-A~t=(Mt2-A~t)-(Mt2-At)もマルチンゲールで,A-A~∈です。

 

そこで,(補題7.1)によってAt-A~t=A0-A~0=0 ∀t a.sが成立しますから,A=<M>が存在すれば,それは唯1つであることがわかります。

  次に,存在を証明します。 

まず,分割Δを取って|Δ|→ 0 とすると,Qt(Mt;Δ)がL2(Ω)においてコーシー列を作ることを示します。

 Δ:0=t0<t1<t2<..<tn<tn+1<..で,tn<t<tn+1なる分割を取ります。

 

k<s<tk+1とすると,Mtのマルチンゲール性により,E[Mtk+1tk|s]=E[Mtk+1|s]Mtk=Mstk,およびE[Mtk+12|s]=E[Mtk+1|s]Mtk+1=Mstk+1です。

また,仮定により,tに適合している,つまりt-可測です。そしてtk<sより,ksですから,Mtks-可測になります。 

そこで,"-可測で積XYが可積分ならE[XY|]=E[|] (a.s),特にE[|]= (a.s)である。"という条件付期待値の性質から[Mtk|s]=Mtkです。

 

つまり,これは"時刻sでの情報が既にわかっているという条件下では,sより前の時刻tkにおける確率変数Mtk(ω)(∀ω∈Ω)の値は完全に確定している。"という当然の性質ですが,これを用いるとE[Mtk2|s]=Mtk2が得られます。

したがって,マルチンゲールMに対しては,E[(Mtk+1-Mtk)2|s]=E[(Mtk+12+Mtk2-2Mtk+1tk)|s]=E[(Mtk+12+Ms2-2Mtk+1s|s] +Mtk2+Ms2-2Mstkです。

 

すなわち,E[(Mtk+1-Mtk)2|s]=E[(Mtk+1-Ms)2|s]+(Ms-Mtk)2なる等式を得ます。 

そして,0≦l≦k-1では,tl,tl+1<sなので,もちろんE[(Mtl+1-Mtl)2|s]=(Mtl+1-Mtl)2であり,またE[(Ms-Mtk)2|s]=(Ms-Mtk)2です。

 

そこで,E[Qt(M;Δ)|s]=Σl=0 k-1(Mtl+1-Mtl)2+(Ms-Mtk)2+E[{(Mtk+1-Ms)2+Σi=k+1 n-1(Mti+1-Mti)2+(Mt-Mtn)2}|s]です。

 

すなわち,E[Qt(M;Δ)|s]=Σl=0 k-1(Mtl+1-Mtl)2+(Ms-Mtk)2+E[Mt2-Ms2|s]=Qs(M;Δ)+E[Mt2-Ms2|s]という表式が得られます。

したがって,E[Qt(M;Δ)-Qs(M;Δ)|s]=E[Mt2-Ms2|s],つまりE[Mt2-Qt(M;Δ)|s]=Ms2-Qs(M;Δ)となります。

 

結局,M={Mt}がマルチンゲールなら,{Mt2-Qt(M;Δ)}もマルチンゲールであることがわかりました。

次に,Δ'を別の分割とすれば,{Mt2-Qt(M;Δ')}もマルチンゲールですから,Lt≡Qt(M;Δ)-Qt(M;Δ')とおくと,L{Lt}もマルチンゲールです。そして,Mt4,cなのでtもL2(Ω)に属します。

 

そこで,E[Qt(M;Δ)-Qs(M;Δ)|s]=E[Mt2-Ms2|s]において,MtをLtに,ΔをΔ∪Δ'に,s0に,それぞれ読み換えることにより,E[Qt(L;Δ∪Δ')-Q0(L;Δ∪Δ')|0]=E[Lt2-L02|0]を得ます。

さらに,Q00,L0=0 であり,Qt,Lt20と独立なので,これはE[Qt(L;Δ∪Δ')]=E[Lt2]となります。

 

つまり,E[Qt(Qt(M;Δ)-Qt(M;Δ');Δ∪Δ')]=E[(Qt(M;Δ)-Qt(M;Δ')2]です。

 

そして,一般に成り立つ不等式(A-B)2=A22AB+B22A22B2を用いれば,Qt(Qt(M;Δ)-Qt(M;Δ');Δ∪Δ')≦2Qt(Qt(M;Δ);Δ∪Δ')+2Qt(Qt(M;Δ');Δ∪Δ')が得られます。

一方,分割Δ∪Δ'をΔ∪Δ':0=s0<s1<..<s<sl+1<..,;ただし,sl<t<sl+1としtj≦sk<sk+1≦tj+1とします。

 

sk+1(M;Δ)-Qsk(M;Δ)=(Msk+1-Mtj)2-(Msk-Mtj)2=(Msk+1-Msk)(Msk+1+Msk-2Mtj)ですから,Qt(Qt(M;Δ);Δ∪Δ')=Σk(Qsk+1(M;Δ)-Qsk(M;Δ))2(Qt(M;Δ)-Qsl(M;Δ))2=Σk(Msk+1-Msk)2(Msk+1+Msk-2Mtj)2(Mt-Msl)2(Mt+Msk-2Mtn)2です。 

したがって,t(Qt(M;Δ);Δ∪Δ')≦supk|Msk+1+Msk-2Mtj|2t(M;Δ∪Δ')が成立します。

 

故に,E[(Qt(M;Δ)-Qt(M;Δ'))2]≦2E[Qt(Qt(M;Δ);Δ∪Δ')]+2E[Qt(Qt(M;Δ');Δ∪Δ')]≦2E[supk|Msk+1+Msk-2Mtj|4]1/2[Qt(M;Δ∪Δ')2]1/22E[supk|Msk+1+Msk-2Mtj'|4]1/2[Qt(M;Δ∪Δ')2]1/2となります。 

ここで,supk|Msk+1+Msk-2Mtj|44(M*t)4,*tsups≦t|Ms|でMt4,cですから,これは有界です。

 

そこで,"ルベーグの収束定理=定積分の存在定理"によって,lim|Δ|,|Δ'|→0[supk|Msk+1+Msk-2Mtj|4]=0 です。

 

そして,(補題7.3)によれば,Mt4,cなるMに対して[Qt(M;Δ∪Δ')2]<∞ですから,結局lim|Δ|,|Δ'|→0[(Qt(M;Δ)-Qt(M;Δ'))2]=0 となることがわかりました。

ここで,∀t>0 に対して,分割列Δnをn→ ∞でn|→ 0 となるように取ります。

 

s(M;Δn)-Qs(M;Δm),s≦tはマルチンゲールなので,たった今示したことによって,|Δn|,|Δm|→ 0 のとき,E[sups≦t|Qs(M;Δn)-Qs(M;Δm)|2] → 0 です。

 

t(M;Δn)は t について連続なので,(補題7.4)によれば連続確率過程<M>s∈L2が存在して,(|s(M;Δn)<M>s|→ 0 as n→ ∞,s∈[0,t]について一様収束)=1,かつE[|s(M;Δn)<M>s|2] → 0 as n→ ∞,∀s<tが成立します。 

また,予め∪n=1Δn[0,t]で稠密でΔnΔn+1∀nとなるように分割列n}を取っておくことにしておけばs1<s2,s1,s2∈ΔnならQs1(M;Δn)≦Qs2(M;Δn)なので,<M>sn=1Δnで単調非減少であり,<M>s,cとなります。

 

もちろん,<M>ttに適合しています。 

そして{t2t(M;Δn)}はマルチンゲールですから,n→∞ の極限をとれば,{t2<M>t}もマルチンゲールです。

 

以上から,ブラウン運動{t}に対するマルチンゲール{Bt2-t}における分散tに対応して,{Mt}に対する二次変分<M>tが存在して一意的であることが示されました。

 

(定理7.2の証明終わり)

次に,M={Mt}を1つの右連続マルチンゲール,τを停止時刻としてMτt≡Mτ∧tとすると,Mτはマルチンゲールであること,そしてさらにM4,cとすると<Mτt=<M>τ∧tとなることを証明します。 

(証明)(定理6.2)により,E[Mτ∧t|s]=Mτ∧sです。

 

なぜなら,s≦tとすると,τ∧t=tならE[Mτ∧t|s]=E[Mt|s]=M=Mτ∧sとなり,τ∧t=τならE[Mτ∧t|s]=E[Mτ|s]=Mτ∧sとなるからです。

 

よって,τ{Mτ}t{Mτ∧t}はマルチンゲールです。 

 M4,cのときには,Nt≡Mt2-<M>tは2乗可積分マルチンゲールで,Nτt(Mτt)2-<M>τ∧t(Mτ∧t)2-<M>τ∧t=Nτ∧tはマルチンゲールであり,At<M>τ∧t,cです。

 

(定理7.2)よりt<M>t一意性によって,<Mτt=<M>τ∧tであることがわかります。(証明終わり)

さて,ここで局所マルチンゲールの定義を与えます。

(定義7.5):tに適合した右連続確率過程{Xt}に対して停止時刻の列{τn}があって,τn≦τn+1,∀n,limn→∞τn=∞ (ただし0≦t≦Tで考えるときは,limn→∞τn=T)を満たし,各nに対して{Xτn t}≡{Xτn ∧t}がマルチンゲールになるとき,元の確率過程:{Xt}は局所マルチンゲールであると言う。

 

 そして,局所マルチンゲール全体の空間をloc,連続局所マルチンゲール全体の空間をc,locと表わす。

(系7.6):M∈c,locとするとき,

(ⅰ)<M>0=0 なる<M>∈+,cがあって,M2-<M>は連続な局所マルチンゲールとなる。

 

(ⅱ)∀t>0 に対して[0,t]の分割の列{Δn}を取ると,lim|Δn|→0(sups≦t|Qs(M;Δn)-<M>s|>ε)=0 for ∀ε>0 となる。

 

(ⅲ)00 のとき2,cなることはE[<M>t]<∞,∀tと同値であり,さらにE[t 2]=[<M>t]である。

(証明)(ⅰ)仮定より,ある停止時刻の列:n}があって,Mτnはマルチンゲールとなります。

 

 σninf{t:|t |≧n}とおくと,σn↑∞であり,Mn≡Mσn∧τnは有界マルチンゲールとなります。 

なぜなら,m≧nのときσn>σmであると仮定すると,σn>∃t>σm:m>|t |≧nですから,σninf{t:|t |≧n}に矛盾します。それ故,m≧nならσm≧σnであり,σn↑∞となります。 

また,|t|≧nなるtの集合は閉集合なので,σnは停止時刻ですから,Mnは確かにマルチンゲールです。

 

そして,t≦σnなら|t|≦nですが,Mnt=Mσn∧τn∧tなので∀tに対して|nt|≦n,つまりnは有界なマルチンゲールです。 

ここで,(定理7.2)により(Mn4,cという仮定の下で∀nについてAn,cが存在して(n)2nはマルチンゲールになります。

 

ところが,ρn≡σn∧τnとおくと,ρn≦ρn+1でありMnt=Mρn∧tですから,Mn+1ρn=Mρn+1∧ρn=Mρn=Mnρnです。

 

すなわち,(n+1ρn)2n+1ρn(nρn)2n+1ρnです。

 

そこで,Anの一意性から,n+1ρn=Anρnとなります。 

そこで,∀t>0 に対して<M>tlimn→∞ntとおけば,(nt)2nt(ρn∧t)2-<M>ρn∧tであり,これがマルチンゲールですからMに対して一意的な<M>が存在して,Mが局所マルチンゲールとなることが証明されました。 

(ⅱ)ρn↑∞なので,∀δ>0 に対してP(ρm≦t)<δとなるm=m(δ)が存在します。

  

 また,m=Mρmは有界マルチンゲールで,s≦ρmならMρms=Mρm∧s=Msですから,Qs(M;Δ)=Qs(Mρm,Δ),かつ<Ms=<Mρmsです。 

 よって,s≦ρmならQs(M;Δ)-<Mss(Mρm;Δ)-ρmsですから,0≦s≦tのとき∀ε>0 に対し|s(M;Δ)-<Ms|>εとなる確率はmがP(ρm≦t)<δを満たしs≦ρm|s(Mρm;Δ)-ρms|>εとなる確率より小さいはずです。

 

 つまり,P(sup0≦s≦t|s(M;Δ)-<Ms|>ε)≦P(ρm≦t)+P(sup0≦s≦t|s(Mρm;Δ)-ρms|>ε) です。

そして,Mが局所マルチンゲールですから,|Δ|→0 に対してQs(Mρm;Δ)→ρmsです。それゆえ,結局limsup|Δ|→0(sup0≦s≦t|s(M;Δ)-<Ms|>ε)≦δという結論が得られます。

 

つまり,∀t>0 に対して[0,t]の分割の列 {Δn}を取るとき,lim|Δn|→0(sups≦t|Qs(M;Δn)-<M>s|>ε)=0 for ∀ε>0 となる。ことが示されたわけです。

(ⅲ)M2,c,M0=0 とします。

 2,cより4,cですから,E[(Mρnt)2-<Mρnt]=0 となります。

 

 したがって,E[<M>t]=limn→∞[<Mρnt]=limn→∞[(Mρnt)2]≦[t 2]です。

 

 逆にE[t 2]≦liminfn→∞[(Mρnt)2]liminfn→∞[<Mρnt]≦E[<M>tとなります。 

(証明終わり)

(注意):この系により2,c,M0=0 なるMに対しても<M>∈+,c,<M>0=0 でM2-<M>がマルチンゲールとなるものが一意的に存在すること,がわかります。

(系7.7):M,Nを連続な局所マルチンゲールとする。

 このとき<M,N>0=0 なる<M,N>∈cが一意的に存在して,

 

(ⅰ)MN-<M,N>は連続な局所マルチンゲールである。

 

(ⅱ)∀t>0 に対して[0,t]の分割の列{Δn}を取ると,lim|Δn|→0(sups≦t|Qs(,Nn)-<M,N>s|>ε)=0 for∀ε>0 となる。

 

 ただし,Qs(,Nn)≡Σti+1<s(Mti+1-Mti)(Nti+1-Nti)+..+(Ms-Mtn)(Ns-Ntn),Δ:t0<t1<..<tn<..である。 

(証明)(ⅰ)<M,N>≡(1/4)(<M+N>-<M-N>)とおくと,(系7.6)より(M+N)2-<M+N>,(M-N)2-<M-N>は<M+N>0=0,<M-N>0=0 を満たす連続な局所マルチンゲールであって<M+N>,<M-N>∈+,cが成立します。

 

 そして,(1/4)[(M+N)2-(M-N)2]=MNですから,<M,N>0=0,<M,N>∈cであって,MN-<M,N>は連続な局所マルチンゲールです。

(ⅱ)(系7.6)(ⅱ)より,lim|Δn|→0(sups≦t|Qs(M±N;Δn)-<M±N>s|>ε)=0 for ∀ε>0が成立します。

 

 これとQs(M,N;Δn)=1/4[Qs(M+N;Δn)-Qs(M-N;Δn)]からこの(系7.7)(ⅱ)が成立します。

(証明終わり)

ここで以前の記事でのブラウン運動の性質:再掲(補題4.9);"N次元t-ブラウン運動{t}={(Bt1,Bt2,..,BtN)}について,∀t≧s>0 に対して,(ⅰ)E[Bti|s]=Bsi;i=1,2,..,N (ⅱ)E[(Bti-Bsi)(Btj-Bsj)|s]=δij(t-s)である。"

という命題によって,{t}={(Bt1,Bt2,..,BtN)}をN次元t-ブラウン運動とすると,<Bi,Bjt=δijtとなることがわかります。

(命題7.8):M,N,Lを連続な局所マルチンゲールとすると,次の(ⅰ)~(ⅳ)が成立する。

(ⅰ)<M,N>=<N,M>

(ⅱ)<M+N,L>=<M,L>+<N,L>

(ⅲ)任意の定数aに対して<aM,N>=a<M,N>

(ⅳ)τを停止時刻とすると,<Mτ,Nτt=<Mτ,N>t=<M,N>τ∧tである。

 これらの証明はきわめてやさしく,命題が成り立つことはほぼ自明なので省略します。 

※先の(定理7.2),または(系7.6)では連続な(局所)マルチンゲールに対して,その二次変分の存在を直接示しましたが,通常はDoob-Meyer分解と呼ばれる以下の定理を用いて二次変分の存在が示されます。

tを2乗可積分なマルチンゲールとすれば,Xt2は劣マルチンゲールですから,一般に非負劣マルチンゲールYtをマルチンゲールMtと増加過程Atの和としてYt=Mt+Atと分解できれば,Yt≡Xt2とおいて,対応する増加過程At=Xt2-MtをXtの二次変分<X>tとして定義することができます。 

 ここでは,上のYt=Mt+Atの分解が可能であるという内容のDoob-Meyerの分解定理を証明なしに掲載しておくことにして今日の記事を終わりにしたいと思います。

 まず,準備として1つの定義を述べておきます。 

(命題7.9):右連続な劣マルチンゲールXtがクラス(D)に属するとは,{Xσ:σは有限値の停止時刻}が一様可積分なるときをいい,クラス(DL)に属するとは,∀a>0 に対してXt∧aがクラス(D)に属するときをいう。

(命題7.10):(Doob-Meyerの分解定理)

 Ftが右連続で{A∈Ω|∃B∈:A⊂B,P(B)=0}⊂0を満たすとし,tに適合した右連続劣マルチンゲールYtがクラス(DL)に属するならば,右連続マルチンゲールMtと増加過程Atが存在してYt=Mt+Atを満たす。

 

 ここで,Atは自然増加過程とされる。さらに,Atを自然増加過程にとるとき,このような分解は一意的である。

     tが自然増加過程であるとは,任意の有界右連続マルチンゲールMtに対しE[∫0tsdAs]=E[∫0ts-dAs]なるときをいいます。

次回はいよいよ確率積分に入る予定です。 

参考文献:長井英生 著「確率微分方程式」(共立出版)

 

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2007年7月10日 (火)

ブラウン運動と伊藤積分(7)

続きです。今日は確率積分を定義して導入する準備として二次変分という量の説明をします。

以下,フィルター付確率空間(Ω,,P;t)はtが右連続であり,かつ次の条件を満たしているものとします。

 

すなわち,≡{A∈Ω|∃B∈:A⊂B,P(B)=0}⊂0 (これは確率測度がゼロの全ての集合が0 に,それ故全てのtに対するtに含まれることを意味します。)

右連続な確率過程At(ω):[0,∞)×Ω→[0,∞)であって,tに適合しており,1<t2ならAt1≦At2<∞ a.sを満たすものを増加過程といい,増加過程全体をで表わします。

 

そして,によって2つの確率過程の族,および+,cを,次のように定義します。

 

≡{A1-A2:A1,A2},および+,c≡{A={At}∈:Atは連続}です。さらにc≡{A={At}∈:Atは連続}と定義します。

 

一方,∀p≧1に対してマルチンゲールの族p,およびp,cを,p≡{M={Mt}:MはマルチンゲールでE[|Mt|p]<∞,∀t},およびp,c≡{M={Mt}∈p:Mtは連続}によって定義します。

以下では,連続な局所マルチンゲールM(後述:定義7.5)に対して,M2-<M>がまた局所マルチンゲールとなるような連続増加過程<M>∈+,cが一意的に存在して,この連続増加過程が二次変分という意味を持つことを示します。

 

そして,この事実は後に確率積分を定義する基礎となります。

 

ここで展開する解析は伊藤の公式を証明する際に有効に働きます。

まず,いくつかの補題や定理を与えます。

(補題7.1):{Mt}を連続マルチンゲールとする。このとき,M∈ならば Mt=M0 ∀t a.s である。

(証明) M0=0として分割Δ:0=t0<t1<t2<..<tn=tを取り,|Δ|≡max0≦i≦n-1|ti+1-ti|とおきます。

 

0=0 なので有界なマルチンゲールMtに対して,E[Mt2]=Σi=0n-1E[Mti+12-Mti2]=Σi=0n-1E[(Mti+1-Mti)2]≦E[sup0≦i≦n-1|Mti+1-Mtii=0 n-1 |Mti+1-Mti|]です。

なぜなら,Mt のマルチンゲール性によりE[Mti+1|ti]=Mtiなので,E[Mti+1ti|ti]=E[Mti+1|ti]Mti=Mti2です。

 

つまりE[Mti+1ti]=E[Mti2]なので,E[(Mti+1-Mti)2]=E[(Mti+12+Mti2-2Mti+1ti)]=E[Mti+12-Mti2]だからです。

M={Mt}∈でM0=0 なので,A10=A20=0 なる増加過程A1,A2が存在して,M=A1-A2 (Mt=A1t-A2t),{A1t},{A2t}∈と書くことができます。

 そして,τkinf{t:A1t+A2t>k}({ }≠φのとき),∞ ({ }=φのとき)なる量を定義して,Mkt≡Mt∧τkとおけば,(定理6.2)によりMktは有界な連続マルチンゲールです。

そこで,E[Mkt2]≦E[sup0≦i≦n-1|Mkti+1-Mktii=0 n-1|Mkti+1-Mkti|]です。

 

Σi=0 n-1|Mti+1-Mti|=Σi=0 n-1|ΔMi|=Σi=0 n-1|ΔA1i-ΔA2i|≦Σi=0 n-1(ΔA1i+ΔA2i)=A1tn+A2tn=A1t+A2t でMkt=Mt∧τkにおいてはA1t+A2t≦kですから,E[Mkt2]≦kE[sup0≦i≦n-1|Mkti+1-Mkti|]となります。

lim|Δ|→0E[sup0≦i≦n-1|Mkti+1-Mkti|]=0 なので,lim|Δ|→0E[Mkt2]=0 ,つまりMkt=0 a.sです。

 

それ故,Mt=0=M0  a.sです。M0=0 という仮定は一般性を失わない仮定なので補題は証明されました。

 

(証明終わり)

次に分割Δ:0=t0<t1<t2<..<tn<tn+1<..(tn<t<tn+1)に対して,Qt(M;Δ)≡Σi=0n-1(Mti+1-Mti)2+(Mt-Mtn)2,Q0(M;Δ)≡0 と置きます。

以前の記事でブラウン運動{Bt}に関するものとして,再掲(定理2.3):"{t}t∈TをN次元ブラウン運動とする。t>0 に対して分割 Δ:0=t0<t1<t2<..<tn<t<tn+1を取り,|Δ|≡maxi|ti+1-ti |→ 0 とすると,各tに対してE[(∑i=0n-11ti+1ti|2+1tn|2-Nt)2] → 0 となる。"という命題,

 

および"{Bt}を1次元ブラウン運動とすると,Bt, Bt2-tはそれぞれマルチンゲールである。"という命題が証明されています。

そこで,1次元ブラウン運動{Bt}に関し,|Δ|→ 0 のとき,Qt(B;Δ) → t in L2(Ω)(L2は2乗可積分の空間="収束する"ことが差の絶対値の2乗がゼロに収束することを意味する空間)なること,またBt2-tがマルチンゲールとなることが既にわかっています。

ここでは,これを任意のM={Mt}∈4,cに対して一般化します。

(定理7.2):M={Mt}∈4,cとする。

 

このとき<M>0=0 を満たす<M>∈+,cが存在して,|Δ|→ 0 のときQt(M;Δ)→<M>t in L2(Ω) ∀tとなり,M2-<M>がマルチンゲールとなる。

 

そして,M2-<M>がマルチンゲールとなるような<M>∈+,cで<M>0=0 を満たすものは唯1つである。

この定理を証明する前に準備として2つの補題を与え,証明します。

(補題7.3):M={Mt}∈4,cとするとき,分割Δに依らない定数cが存在してE[Qt(M;Δ)2]≦cが成り立つ。

(補題7.3の証明)まず,ある定数K≧0 が存在して,|Mt|≦Kの場合に示します。

 

Δ:s0=0<s1<..<sl<t<..とします。

 

l+1=tとおくと,Qt(M;Δ)2={Σk=0l(Msk+1-Msk)2}2=Σk=0l(Msk+1-Msk)4+2Σj<k(Msj+1-Msj)2(Msk+1-Msk)2=Σk=0l(Msk+1-Msk)4+2Σj(Msj+1-Msj)2{Qt(M;Δ)-Qsj+1(M;Δ)}=Σk=0l(Msk+1-Msk)4+2Σj{Qsj+1(M;Δ)-Qsj(M;Δ)}{Qt(M;Δ)-Qsj+1(M;Δ)}となります。

 ここで,E[{Qsj+1(M;Δ)-Qsj(M;Δ)}{Qt(M;Δ)-Qsj+1(M;Δ)}]=E[{Qsj+1(M;Δ)-Qsj(M;Δ)}(Mt-Msj+1)2]です。

なぜなら,(補題7.1)の証明の中でMtのマルチンゲール性を用いてM0=0 の場合のE[Mt2]の表現式を与えましたが,一般のM0の場合にはE[Mt2-M02]=E[Qt(M;Δ)]が得られます。

 

よって,E[Qt(M;Δ)-Qsj+1(M;Δ)}=E[Mt2-Msj+12]=E[(Mt-Msj+1)2]となるからです。

ここで,条件付期待値の性質:-可測で積XYが可積分ならE[XY|]=E[|] (a.s),およびE「E[|]」=E[] (a.s)が成り立つことから,一般にE[XY]=E[E[]]と書けることを用いました。

そこで,結局,E[Qt(M;Δ)2]=E[Σj=0l(Msj+1-Msj)4]+2ΣjE[{Qsj+1(M;Δ)-Qsj(M;Δ)}(Mt-Msj+1)2]≦E[(supj|Msj+1-Msj|2+2supj|Mt-Msj+1|2)Qt(M;Δ)]≦12K2E[Qt(M;Δ)]が得られます。

 

ここで,再びMtのマルチンゲール性から,E[Qt(M;Δ)]=E[Mt2-M02]≦K2なる,ことを用いるとE[Qt(M;Δ)2]≦12K4<∞です。

以上で,ある定数K≧0 が存在して|Mt|≦Kの場合に,補題が証明されました。

 

一般の場合はM*t≡sups≦t|Ms|とおいて,supj|Msj+1-Msj|2≦4(M*t)2と評価すれば,E[Qt(M;Δ)2]≦E[12(M*t)2t(M;Δ)]≦E[122(M*t)4]1/2E[Qt(M;Δ)2]1/2です。(シュヴァルツの不等式)

 

そこで,E[Qt(M;Δ)2]≦E[122(M*t)4]が得られます。

 

前記事で示した定理;再掲(定理6.1)"{Xt}t∈Tを右連続非負劣マルチンゲールとし,X*T≡sup0≦t≦T|Xt|とおくと(ⅰ)λpP(X*T≧λ)≦E[|XT|p],p≧1 (ⅱ) E[|X*T|p]≦[p/(p-1)]pE[|XT|p],p>1 が成り立つ。"を用いると,E[(M*t)4]≦(4/3)4E[|Mt|4]です。

 

そこで,不等式E[Qt(M;Δ)2]≦122(4/3)4E[|Mt|4]を得ます。

M={Mt}∈4,cなので,定義によってE[|Mt|4]<∞ですから,E[Qt(M;Δ)2]<∞と結論されます。(補題7.3の証明終わり)

(補題7.4):{Ysn}をtに適合した連続確率過程でlimn,m→∞E[sups≦t|Ysn-Ysm|2]=0 なるものとする。

 

このとき,連続確率過程{Ys}でtに適合したものがあり{Ysn}の適当な部分列{Ysnk}を取れば,P(sups≦t|Ysnk-Ys| → 0 as k→ ∞)=1であり,limk→∞E[sups≦t|Ysnk-Ys|2]=0 となる。

(補題7.4の証明) nkをnk≧nk-1,E[sups≦t|Ysn-Ysm|2]≦1/23k;n,m≧nkなるように取ります。

 

このとき,チェビシェフの不等式によって,P(sups≦t|Ysnk+1-Ysnk|>1/2k)≦22kE[sups≦t|Ysnk+1-Ysnk|2] ≦1/2k ですから,Σk=1P(sups≦t|Ysnk+1-Ysnk|>1/2k)<∞です。

それ故,再掲,ボレル・カンテリの補題:

 

"{An}n=1,2,..を集合列としAをこれらの集合の無限個の共通に含まれる要素の集合,Pを確率測度とする。このとき,(a)ΣP(An)<∞ならP(A)=0 (b)ΣP(An)=∞ で事象Anが独立ならばP(A)=1 である。"

 

からP(∩m=1k=m{sups≦t|Ysnk+1-Ysnk|>1/2k})=0 です。

すなわち,Ω0≡∪m=1k=m{sups≦t|Ysnk+1-Ysnk|≦1/2k}とおけば,P(Ω0)=1 です。

 

ω∈Ω0に対して,あるmが存在してk≧mなる∀kに対してsups≦t|Ysnk+1-Ysnk|≦1/2kですから,j≧i≧mに対してsups≦t|Ysni-Ysnj|≦Σl=ij-11/2l≦1/2i-1となります。

 

つまり,{Ysnk}はC([0,t](s∈[0,t]についての連続関数の集合に属するコーシー列) (a.s)ですから,ある連続確率過程Ysがあって,sups≦t|Ysnk-Ys|→ 0 as k→ ∞ a.sです。

また,limk→∞E[sups≦t|Ysnk-Ys|2]=limk→∞limj→∞E[sups≦t|Ysnk-Ysnj|2]≦limk→∞liminfj→∞E[sups≦t|Ysnk-Ysnj|2]=0 が得られます。

 

(補題7.4の証明終わり)

 途中ですが,長くなったので,(定理7.2)を証明する準備ができたところで一旦終わります。

参考文献:長井英生 著「確率微分方程式」(共立出版)

 

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2007年7月 8日 (日)

ブラウン運動と伊藤積分(6)

ブラウン運動と確率積分関連の記事の続きです。まず離散時間と連続時間のマルチンゲール(martingale)について説明します。

まず,マルチンゲールの定義を与えます。

(定義5.1):R1上の確率過程{Xt}t∈Tが以下の条件を満たすとき,この確率過程を劣マルチンゲールである,という。

 

(ⅰ) {Xt}はtに適合している。(つまりt-可測である:すなわちR1上の任意の開集合Aに対し,{ω∈Ω|Xt(ω)∈A}∈t≡σ(Xs;s≦t)である。)

  

(ⅱ)E[|Xt|]<∞  

(ⅲ) E[Xt|s]≧Xs (a.s) ∀t≧s;t,s∈

また,{-Xt}t∈T が劣マルチンゲールであるとき,{Xt}t∈Tを優マルチンゲールであるという。

 

{Xt}t∈Tと{-Xt}t∈Tが共に劣マルチンゲールであるとき,言い換えると,{Xt}t∈Tが劣マルチンゲール,かつ優マルチンゲールであるとき,確率過程{Xt}t∈Tはマルチンゲールであると言う。

マルチンゲールの性質をいくつか述べます。

まず,{Xt}t∈Tは劣マルチンゲールであるとし,f(x)を単調非減少凸関数とする。(f(x)は非減少で,(λx+(1-λ)y)≦λf(x)+(1-λ)f(y),∀x,y∈1,0≦∀λ≦1とする。)

 

f(t)が可積分なら,{f(Xt)}t∈T も劣マルチンゲールである。

 

特に,{Xt}t∈Tがマルチンゲールなら,fの単調性の仮定を省いても同じ結論が得られる。

 

これを証明します。

(証明)f(x)が凸関数なので,∫f(x)dp(x)≧f(∫xdp(x))です。なぜなら,凸関数性はiξiΔpi)≦ΣiΔpii)とも表わすことができるからです。

そして,∫f(x)dp(x)≧f(∫xdp(x))はE[f(Xt)|s]≧f(E[f(Xt)|s]を意味します。

 

{Xt}t∈Tの"劣マルチンゲール性"E[Xt|s]≧Xsと,f(x)を単調非減少性から,f(E[f(Xt)|s] ≧f(Xs)です。

 

以上から,E[f(Xt)|s]≧f(Xs)を得ます。後半は明らかです。

 

(証明終わり)

次にパラメータ集合が=Z+である場合を考えます。

 

(1){Yn}n∈Z+を確率空間(Ω,,P)で定義された独立同分布確率変数列であるとし,E[Y1]=0 とする。

 

n≡Σi=1ni,n≡σ(Yi;i=1,2,..,n)と定義すると,{Xn}n∈Z+はマルチンゲールである。

 

(2) {Yn}n∈Z+を確率空間(Ω,,P)で定義された独立同分布非負確率変数列であるとし,E[Y1]=1 とする。

 

このとき,Xn≡Πi=1ni,n≡σ(Yi;i=1,2,..,n)と定義すると{Xn}n∈Z+はマルチンゲールである。

 

ことを証明します。

連続時間でこの2つの例に相当するのはブラウン運動であり,ブラウン運動の指数関数から決まる指数マルチンゲールです。

(証明) (1)独立同分布確率変数列でE[Y1]=0 なので,E[Yi]=0 (i=1,2,..,n)です。

 

また,E[Xn|n-1]=E[Σi=1ni|Y1,Y2,..,Yn-1指定]=Σi=1n-1i+E[Yn]=Σi=1n-1i=Xn-1となります。

 

(2)については対数を取ると(1)に帰着するので自明です。

 

(証明終わり)

以下ではパラメータ集合=Z+の場合に,マルチンゲールに関する諸定理を準備します。

 

そしてしばらくの間はフィルター付き確率空間(Ω,,P;n)n∈Z+で定義された劣マルチンゲール{Xn}n∈Z+を考えていきます。

 

そして,Z+∪{∞}に値をとる停止時刻τ(ω)を考えます。τ(ω)は{τ≦n}∈n) ∀nなる確率変数です。

(定理5.2):(任意抽出定理)

τ12を有界な停止時刻で,τ1≦τ2 a.s なるものとする。

 

このとき,劣マルチンゲールIXn}に対して,E[Xτ2|τ1]≧Xτ1 a.s が成り立つ。

 

したがって,E[Xτ2]≧E[Xτ1]である。またXnが一様可積分,つまり,"limc→∞supnE[|Xn|;|Xn|>c]=0 "なら任意のτ1≦τ2<∞ a.s なる停止時刻に対して上が成立する。

(証明)まず,条件付期待値の性質:ならE「E「X|」|」=E[X|]において,≡{φ,Ω}と置けばE「E「X|」」=E[X]となることがわかります。

 

そこで,E[Xτ2|τ1]≧Xτ1が証明されさえすれば,E[E[Xτ2|τ1]]=E[Xτ2]≧≧E[Xτ1]が従うことが予め確認されました。

そして,条件付期待値の定義から,E[Xτ2|τ1]≧Xτ1を証明するにはE[Xτ2,A]≧E[Xτ1,A] ∀A∈τ1を示せばいいです。

 

そのためには,∀nに対してE[Xτ2,A∩{τ1=n}]≧E[Xτ1,A∩{τ1=n}]なることを見ればいいです。

B≡A∩1=n}∈n ,{τ2≧n+1}∈nです。

(なぜなら,{τ2≦n}∈n )

 

τ2≧τ1=nなる条件下では,E[Xτ1,A∩{τ1=n}]=E[Xτ1,B]=E[Xn,{τ2≧n}∩B]=E[Xn,{τ2=n}∩B]+E[Xn,{τ2≧n+1}∩B]≦E[Xτ2,{τ2=n}∩B]+E[Xn+1,{τ2≧n+1}∩B]=E[Xτ2,{n≦τ2≦n+1}∩B]+E[Xn+1,{τ2≧n+2}∩B]≦E[Xτ2,{n≦τ2≦m}∩B]+E[Xm,{τ2>m}∩B]が成立します。

ここで,2=n+1}∩B∈nより,劣マルチンゲール性E[Xn+1|n ]≧Xnから,E[Xn+1,{τ2≧n+1}∩B]≧E[Xn,{τ2≧n+1}∩B]が成り立つことなどを用いました。

この不等式でmを十分大きく取ればτ2は有界ですから,{n≦τ2≦m}∩B=B,{τ2>m}∩B=φとなり,E[Xτ1,B]≦E[Xτ2,B]が得られます。

 

これで前半は証明されました。

後半は私自身が前半と何が異なるのかについて題意を理解できないので証明もわかりません。

 

もしかしたら,非負整数の各nについてXnが一様可積分ならτ1≦τ2<∞であればτ12が非負整数でなくても定理が成立するということかもしれません。

 

それなら,Xτi(i=1、2)が可積分であることさえ示せれば後は前半と同じです。

 

(証明終わり)

(定理5.3):(Doobの不等式)

{Xn}を非負劣マルチンゲールとする。n*≡max0≦j≦n|Xj|と置くと各ε>0,n≧0 に対しP(Xn*≧ε)≦(1/ε)E[Xn,Xn*≧ε]≦(1/ε)E[Xn]である。

 

E[(Xn*)p]1/p≦[p/(p-1)]E[(|Xn|p]1/p for p>1である。

(証明)τn≡min{j≦n;Xj*≧ε}(if {j≦n;Xj*≧ε}≠φ),n(if {j≦n;Xj*≧ε}=φ)と置きます。

 

つまり,Xn*≧εならτn≦n,Xn*<εならτn=nです。

 

n≦n}={ω:Xn*≧ε}∪{ω:Xn*<ε}=Ω∈nより,τnは停止時刻です。

したがって,{Xn}が劣マルチンゲールでτn≦nですから,先の(定理5.2)によって,E[X]≧E[Xτn]です。

 

そこで,E[Xn]=E[Xn,Xn*≧ε]+E[Xn,Xn*<ε]≧E[Xτn,Xn*≧ε]+E[Xτn,Xn*<ε]=E[Xτn]です。

 

n*<εならτn=nより,E[Xn,Xn*<ε]=E[Xτn,Xn*<ε]ですから,不等式E[Xn,Xn*≧ε]≧E[Xτn,Xn*≧ε]が得られます。

一方,Xnは非負:|Xn|=Xnですから,P(Xn*≧ε)=P(max0≦j≦nj≧ε)=P(Xτn≧ε)です。

 

したがって,チェビシェフの不等式(Chebyshev)によって不等式E[Xτn,Xn*≧ε]=E[Xτn,Xτn≧ε]≧εP(Xτn≧ε)=εP(Xn*≧ε)も得られます。

 

結局,得られた2つの不等式からεP(Xn*≧ε)≦E[Xn,Xn*≧ε]が成り立つことがわかります。

 

そしてXnは非負故,E[Xn,Xn*≧ε]≦E[Xn]ですから,P(Xn*≧ε)≦(1/ε)E[Xn,Xn*≧ε]≦(1/ε)E[Xn]となります。

次にp>1,E[|Xn*|p]<∞とします。

 

E[|Xn*|p]=∫tpdp=∫tp{P(Xn*≦t+dp)-P(Xn*≦t)}=∫0{-tp(dP/dt)}=limt→∞[tpP(Xn*≧t)]+p∫0p-1(P(Xn*≧t)=p∫0p-1(P(Xn*≧t)≦p∫0p-2E[Xn,Xn*≧t]です。(Cauchy-Scwartzの不等式)

さらに,p∫0p-2[Xn,Xn*≧t]dt=pE[Xn0Xn*p-2dt]=[p/(p-1)]E[Xn(Xn*)p-1]≦[p/(p-1)]E[|Xn|p]1/pE[(Xn*)p]p-1/pです。(Hoelderの不等式)

 

そこで,E[(Xn*)p]1/p≦[p/(p-1)]E[|Xn|p]1/pが成立します。

[|Xn*|p]=∞のときは,上述の証明でXn*をXn*∧K(Kは定数)で置き換えれば,E[(Xn*∧K)p]≦[p/(p-1)]pE[|Xn|p]となります。

 

そしてこの式においてK→ ∞ に移行すれば命題の式が得られます。(証明終わり)

ここで,次のような停止時刻の列を考えます。

 

a<bに対してτ0=0 ,τ2m-1=min{n>τ2m-2;Xn≦a},τ2m=min{n>τ2m-1;Xn≧b},m=1,2,..,ただし{ }=φのときはτk=∞と約束します。

 

そしてXnの[a,b]-上向き横断回数Un(a,b)をUn(a,b)≡0 (τ2>nのとき),max{m;τ2m≦n}(τ2≦nのとき)で定義します。

(定理5.4):(横断数定理)

任意のnに対し{Xn}を劣マルチンゲール,(Xn-a)+≡(Xn-a)∨ 0 とするとE[Un(a,b)]≦[1/(b-a)]E[(Xn-a)+]である。

(証明) Xnが劣マルチンゲールで(Xn-a)+≡(Xn-a)∨ 0 はXnの単調非減少凸関数ですから,(Xn-a)+も劣マルチンゲールです。

 

nの[a,b]-上向き横断回数Un(a,b)は(Xn-a)+の[0,b-a]-上向き横断回数に等しいことがわかります。

なぜなら,Xn≦aは(Xn-a)∨ 0 ≦0 と同値でXn≧bは(Xn-a)∨ 0 ≧b-a と同値です。

 

そこでXn≧0 としてE[Un(0,b)]≦(1/b)E[Xn]を示せばよいことになります。

φi(Xi)をφi(Xi)≡1 (τm<i<τm+1<,∃m:奇数),0 (τm<i<τm+1<,∃m:偶数)と定義すれば,φi(Xi)=1 ならXi≧b,Xi-1<b(m+1:偶数);Xi-2<b,..,Xi-k<0 なので,Σj=i-k+1iφi(Xj-Xj-1)≦(Xi-Xj-k)≦bです。

 

そして,この横断数がUn(0,b)なので,bUn(0,b)≦Σi=1nφi(Xi-Xi-1),故に,bE[Un(0,b)]≦Σi=1nφi(E[Xi]-E[Xi-1])です。

ここで,Xnが非負劣マルチンゲールなのでE[Xi]≧E[Xi-1],つまりE[Xi]-E[Xi-1]≧0 です。

 

それ故,bE[Un(0,b)]≦Σi=1nφi(E[Xi]-E[Xi-1])≦Σi=1n(E[Xi]-E[Xi-1])=E[Xn]-E[X0]≦E[Xn]です。

 

以上からE[Un(0,b)]≦(1/b)E[Xn]が示されました。

 

(証明終わり)

(定理5.5):(マルチンゲールの収束定理)

{Xn}は劣マルチンゲールでsupnE[|Xn|]<∞なるものとする。

 

このとき,X∈L1(Ω)があって,limn→∞n(ω)=X(ω) a.sである。

 

さらに,Xnが一様可積分:limc→∞supnE[|Xn|;|Xn|>c]=0 ならE[|Xn-X|]→ 0 as n→∞であり,Xまで含めて劣マルチンゲールとなる。

(証明)今,P(limsupn→∞n(ω)>liminf n→∞n(ω))>0 と仮定します。

 

このとき,{limsupn→∞n>liminf n→∞n}=∪a<b,b∈Q+{limsupn→∞n>b>a>liminf n→∞n}ですから,ある正の有理数(positive rational)の組a<b∈Q+があって,P(limsupn→∞n>b>a>liminf n→∞n)>0 です。

このとき(定理5.4):(横断数定理)によって,E[Un(a,b)]≦[1/(b-a)]E[(Xn-a)+]≦[1/(b-a)](E[Xn+]+|a|)です。

 

したがって,E[U(a,b)]=lim n→∞E[Un(a,b)]≦[1/(b-a)](supnE[Xn+]+|a|)です。

 

ところが,supnE[Xn+]≦supnE[|Xn|]<∞ですからE[U(a,b)]<∞となってしまいます。

 

しかし可算無限個の有理数の組a<b∈Q+があって,各々のa,bについてP(limsupn→∞n>b>a>liminf n→∞n)>0 なので,横断数は無限大ですからE[U(a,b)]=∞のはずです。

これは矛盾です。それ故,P(limsupn→∞n(ω)>liminf n→∞n(ω))=0 でなければなりません。

 

すなわち,X(ω)≡limsupn→∞n(ω)=liminf n→∞n(ω) a.sと置くことができてE[|X|]=E[limn→∞|Xn|]≦liminf n→∞E[|Xn|]≦limsup n→∞E[|Xn|]<∞です。

また,Xnが一様可積分なら積分論の収束定理によってL1で収束すること:つまりE[|Xn-X|]→ 0 as n→ ∞ となることがわかるので,E[X|n]=limn→∞E[Xn|n]≧Xn,つまりXまで含めて劣マルチンゲールです。

 

(証明終わり)

(注意):(ⅰ){Xn}n∈Z+がXn≦c(c:定数)を満たす劣マルチンゲールなら,c≧E[Xn]≧E[X0]なので{Xn}n∈Z+は(定理5.5)の仮定を満たし,∃limn→∞n∈L1 a.sです。

(ⅱ) {Xn}n∈Z+を後ろ向き劣マルチンゲールとします。すなわちmn,n<m,E[Xn|m]=Xm,Xn∈L1とします。

 

このとき,inf nE[Xn]>-∞ならば{Xn}は一様可積分であり、それゆえsup nE[|Xn|]<∞です。

実際,ε>0 を任意に与えたとき,それに対しE[Xk]-liminf n→∞E[Xn]<εを満たすkを取ってn≧kとすると,E[|Xn|,|Xn|>c]=E[Xn,Xn>c]+E[Xn,Xn≧-c]-E[Xn]≦E[Xk,Xn>c]+E[Xk,Xn≧-c]-E[Xk]+ε≦E[|Xk|,|Xn|>c]+εです。

またP(|Xn|>c)≦(1/c)E[|Xn|]=(1/c)(2E[Xn+]-E[Xn])≦(1/c)(2E[X0+]-E[Xn])ですからc→ ∞ のときsup n≧kP(|Xn|>c) → 0 です。

よってlimsup c→∞,n≧kE[|Xn|,|Xn|>c]≦limsup c→∞,n≧kE[|Xk|,|Xn|>c]+ε=εとなりますから。sup nE[|Xn|]<∞となることがわかります。

さて次に連続時間パラメータのマルチンゲールに入ります。

 

パラメータ空間を区間[0,∞)であるとして確率空間の族(Ω,,P;t)t∈Tが与えられているとします。

 

なる可算稠密集合とし,=∪n=1n,n=1,2,..となる有限集合nを取ります。

 

これまでの離散マルチンゲールに関する諸定理はパラメータ集合をnに限定した場合の各nについての劣マルチンゲールに対して成立しています。

(定理6.1):{Xt}t∈Tを右連続非負劣マルチンゲールとしXT*をXT*≡sup0≦t≦T|Xt|で定義すると,(ⅰ)λpP(XT*≧λ)≦E[|XT|p],p≧1 (ⅱ) E[|XT*|p]≦[p/(p-1)]pE[|XT|p],p>1 が成り立つ。

(証明)右辺が有限のときについて示せば十分です。

 

T∈n∀nとしてよいのでそのように仮定します。

 

そしてXn*≡supt∈Dn|Xt|と置きます。Xtは非負劣マルチンゲールですからp≧1 のときには|Xt|pも非負劣マルチンゲールです。

したがって,(定理5.3)により,λ>0 に対してλpP(Xn*≧λ)≦λpP[|Xn*|p≧λp]≦E[|Xn|p]です。

 

それ故,λpP(supt∈Dt*≧λ)≦E[|XT|p],p≧1が得られます。

 

同様にして(定理5.3)によりE[|Xn*|p]≦[p/(p-1)]pE[|XT|p],p>1から,(ⅱ) E[|XT*|p]≦[p/(p-1)]pE[|XT|p],p>1 が得られます。

(注意):(ⅰ)Mtがマルチンゲールのときは|Mt|が非負劣マルチンゲールとなるので,|Mt|に対して上述の(定理6.1)が適用できます。

 

 (f(x)=|x|は単調凸関数ではありませんが,明らかに∫f(x)dp≧f(∫xdp),つまり∫|x|dp≧|∫xdp|より,E[|Mt|s]≧|Ms|が成立します。)

(ⅱ)離散時間パラメータの場合と違って連続時間パラメータの場合は停止時刻:σに対してXσσ-可測であることは自明ではありません。

 

 Xσ|{σ≦t}t-可測であることを言えばよいのですが,σが停止時刻であることから,σ:{ω:σ≦t}→「0,t」は{σ≦t}∩t/B(「0,t」)-可測です。

したがって,ω(σ(ω),ω)は写像:Ω→[0,t]×Ωとしてt/B(「0、t」)×t-可測ですから,Xσは発展的可測過程;Xs(ω):[0,t]×Ω→Xs(ω)です。

 

すなわち,B(「0,t」)×t-可測な写像と写像Ω→[0,t]×Ω:ω→(σ(ω),ω)の合成として可測です。

(定理6.2):{Xt}t∈Tを右連続劣マルチンゲールとする。

 

 σ,τをσ≦τなる有界な停止時刻とするとE[Xτ|σ]≧Xσである。さらにXtが一様可積分のときはσ≦τ<∞a.sなる任意の停止時刻に対して上記が成立する。

(証明)σn(ω)≡k/2n ((k-1)/2n≦σ<k/2nのとき)と置きます。

 

 τに対しても同様にτnを定義すると明らかにσn≦τnです。

 

 また,σn≦τnは停止時刻になっています。

 

 このときσn≧σn+1≧..≧σとなりE「Xσn|σn」≧Xσm ,n<mです。またE「Xτn|σn」≧Xσnです。したがってA∈σσnに対してE[Xτn,A]≧E[Xσn,A]と書けます。

 Xσm,Xτm は後向き劣マルチンゲールでinfnE[Xσn]≧E[X0]>-∞です。

 

 Xtの右連続性により,limn→∞σn=Xσですが,(定理5.5)の後で記述した(注意)によって,この収束はL1の意味にもなっています。

 

 同様にlimn→∞τn=Xτ∈L1(Ω)です。したがってE[Xτ,A]≧E[Xσ,A],A∈σ が得られます。

 

 (証明終わり)

最後に"(ⅰ){Bt}を1次元ブラウン運動とすると,{Bt},および{Bt2-t}はそれぞれマルチンゲールである。(ⅱ){Bt}を1次元t-ブラウン運動とするとき,{exp(Bt-t/2)}はマルチンゲールである。"ことを示します。

(証明)(ⅰ)再掲:(補題4.9):N次元t-ブラウン運動:{t}={(Bt1,Bt2,..,BtN)}について,∀t≧s>0 に対して(ⅰ)E[Bti|s]=Bsi:i=1,2,..,N(ⅱ) E[(Bti-Bsi)(Btj-Bsj)|s]=δij(t-s)である。

によれば,E[Bti|s]=BsiはN=1ではE[Bt|s]=Bsです。

 

また,E[(Bti-Bsi)(Btj-Bsj)|s]=δij(t-s)はN=1,i=j=1とすると,E[(Bt2-Bs2)|s]=t-sです。

 

これは,E[(Bt2-t)|s]=Bs2-sを意味します。

(ⅱ) {t}がN次元t-ブラウン運動であることと同値な関係式:E[exp{itξ(ts)}|s]=exp{-|ξ|2(t-s)/2}において,N=1としてξ=-iを代入するとE[exp{(Bt-Bs)}|s]=exp{(t-s)/2}:すなわちE[exp(Bt-t/2)|s]=exp(Bs-s/2)です。

(証明終わり)

参考文献:長井英生 著「確率微分方程式」(共立出版)

 

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2007年7月 7日 (土)

条件付確率と条件付期待値

ブラウン運動と伊藤積分(確率積分)の理論を展開していく上で,既にそのいくつかの性質を利用しましたが,以後もしばしば前置きも証明も無く条件付期待値やそれに関する色々な公式を用いる予定です。

 

そこで,以前に約束したように,ここで,まとめて条件付期待値や,それに関する公式等の解説をしておきたいと思います。

まず,確率空間を与えて正確に条件付確率と条件付期待値(平均値)を定義しておきます。

確率空間(Ω,,P)が与えられ,P(B)>0 を満たすある事象B∈が確実におきるという前提の下で,Bを標本空間とした1つの確率測度PB(A)≡P(A∩B)/P(B)∀A∈を定義したとき,"PB(A)は事象Bに関するAの条件付確率である。"といいます。

 

このPB(A)≡P(A∩B)/P(B)を一般にP(A|B)と書きます。

同様に,確率変数を(ω) ω∈Ωとします。

 

初等確率論では確率変数はその値をN次元ユークリッド空間N あるいは,その部分集合に取ります。すなわち,通常は(ω)∈Nとするわけです。

 

しかし,私のブログ記事「ブラウン運動と伊藤積分」では確率変数の値域をNよりもっと広い一般の距離空間Ξに取っています。すなわち,(ω)∈Ξとしています。

そして,(ω)∀ω∈Ωが与えられたとき,のPBに関する平均値をE[|B]≡∫Ω(ω)PB(dω)=∫B(ω)P(dω)/P(B)で定義し,"E[|B]は事象Bに関するの条件付期待値,または条件付平均値である。"といいます。

ここで,E[|B]≡∫Ω(ω)PB(dω)=∫B(ω)P(dω)/P(B)においてPB(dω)あるいはP(dω)というのは確率変数がωω+dωの範囲にある確率測度dPを表わしたものです。

 

右辺は,有界変動の関数のルベーグ・スティルチェス積分を表わしています。

※余談ですが,dPとか,dωとかによる積分は古来から定義することが可能なルベーグ・スティルチェス積分であり,私の記事「ブラウン運動と伊藤積分」で説明している"確率積分=伊藤積分"は,それら通常の概念の積分ではありません。

 

確率積分は確率変数(ω)による測度をd=d(ω)と書いた積分のことです。

(ω)は確定した値ではなく,ω∈Ωとその確率Pによって確率的に変動するもので,そもそもブラウン運動などでは(ω)は有界変動の関数ではありません。

 

すなわち,例えばブラウン運動では,その有限な経路の長さが有限ではなく無限大になります。

 

こうした確率変数による確率積分を初めて定義することに成功したのがわが国の伊藤清氏です。そこで確率積分の定義式や性質などは伊藤積分とか伊藤の公式と呼ばれています。

条件付確率,および条件付期待値を1つの事象B∈という条件に対するものではなく,2個以上の事象,つまりに含まれる部分σ加法族という条件に対して定義します。

 

そのため,B∈に対しE[,B]≡E[・1B]=∫B(ω)P(dω)と置きます。この積分はBに関して絶対連続です。

 

つまり,P(B)=0 ならE[,B]=∫B(ω)P(dω)=0 です。

そこで,「ラドン・ニコディムの定理」によって適当な-可測関数(ω)が存在して,E[,B]=∫B(ω)P(dω)=∫B(ω)P(dω)と書くことができます。

  

※これは抽象的で何を述べているのか理解できないと思われる方もおられるかもしれません。簡単に言えば,E[,B]=E[(ω)・1B]=E[(ω)・1B]=E[,B]なることを示しています。

そもそもσ-有限な測度空間(X,,μ)での集合A∈の関数=集合関数:Φ(A)は必ずしもその測度μに関する密度関数 f(x);x∈X を持っていて常にΦ(A)=∫A(x)μ(dx)という形に表現できるとは限らないわけです。

  

(Φ(A)が事象Aの確率P(A)を表わす場合なら,f(x)は確率密度関数p(x)です。)

 

ところが,「ラドン・ニコディムの定理」というのは,"もしもΦ(A)が絶対連続である:つまり,μ(E)=0 E∈なら常にΦ(A)=0 である。という条件を満足するなら適当な密度関数 f(x)が存在してΦ(A)=∫A(x)μ(dx)と表現できる。"というものです。

 

より一般には,定理の前半として"任意の集合関数は絶対連続な集合関数と特異な(絶対連続でない)集合関数との和に一意的に分解される。"という命題も含まれています。ただし,この定理の証明は省略します。※

そして,E[,B]=∫B(ω)P(dω)=∫B(ω)P(dω)=E[(ω),B]となるような-可測な密度関数:(ω)をE[|]と書いての下での条件付期待値と呼びます。

 

特に,A∈に対して確率変数を(ω)≡1A(ω)=集合Aの定義関数としたときの条件付期待値E[1A|]を,P(A|)≡E[1A|]と書いてP(A|)を条件付確率と呼びます。

こうした条件付期待値の定義は抽象的でわかりにくいものです。

 

むしろ,歴史的にはより具体的な定義が先に与えられ,それが今与えた定義と一致することから,こうした抽象的な定義が採用されるようになったといえるでしょう。

 

つまり,∀B∈についてE[,B]=E[E[|],B]を満足するE[|]は一意的に決まるので,それを条件付期待値として定義したということです。

がΩの-可測な有限分割であるとします。

 

Ω=∪i=1niiij=φ(i≠j)=σ({Bi}1≦i≦n)となっている場合を想定します。

 

このとき,∀iに対しP(Bi)>0 と仮定すると,E[|](ω)=Σi=1n[|Bi]1Bi(ω)となります。

 

また,A∈に対して,P(A|)(ω)=Σi=1n(A|Bi)1Bi(ω)と表現されます。

 

ここで,前に定義した通りE[|Bi]やP(A|Bi)(i=1,2,..,n)は,E[|Bi]≡∫Ω(ω)PBi(dω)=∫Bi(ω)P(dω)/P(Bi)でP(A|Bi)=PBi(A)≡P(A∩Bi)/P(Bi)etc.で与えられます。

条件付期待値の有限分割に対する後の定義E[|](ω)=Σi=1n[|Bi]1Bi(ω)が,先の抽象的な定義でのE[|](ω)=(ω)と一致することを見るにはE[,B]=∫B(ω)P(dω)が∀B∈について∫BΣi=1n[|Bi]1Bi(ω)P(dω)と一致することを見ればいいわけです。

 

実際,分割の各Biの上では両辺は共に∫Bi(ω)P(dω)=E[|Bi]P(Bi)となって一致しています。

条件付確率の定義:P(A|)(ω)=Σi=1n(A|Bi)1Bi(ω)については,これはE[|](ω)=Σi=1n[|Bi]1Bi(ω)で(ω)=1A(ω)の特別な場合なので、E[|](ω)について成立することはもちろんP(A|)(ω)についても成立しますから,改めて示すまでもありません。

これらが共にE[,B]に一致することと前後の定義が同等であることが同値であることは次のように証明されます。

 

もし仮に,2つの1(ω),2(ω)が存在してE[,B]=E[1,B]=E[2,B] ∀B∈が成立すれば,E[(12),B]=0 ∀B∈より,12(a.s.=ほとんど確実に),あるいは(a.e.=ほとんどいたるところで))なることがわかります。

  

つまり確率1で12は一致することがわかるのです。

次に条件付期待値の代表的な7つの性質を述べて証明します。

 

ただし,証明においては(a.s)や(a.e)を省略します。

,,n(n∈)は可積分な確率変数とする。

(1) ∀a,b∈に対してE[a+b|]=aE[|]+bE[|] (a.s) 

 

(証明)これは期待値の定義から自明です。

(2)≧0 ならE[|]≧0 (a.s) (証明)これも自明です。

(3)G-可測で積XYが可積分ならE[XY|]=E[|] (a.s),特にE[|]= (a.s)である。

(証明)E[|]はG-可測ですから,E[XY,B]=E[E[|],B] ∀B∈を示せば十分です。

 

まず,=1A,A∈のときはE[1A[|],B]=E[E[|],A∩B]=E[,A∩B]=E[1A,B]ですから,E[1A,B]=E[1A[|],B] ∀B∈が成立します。

そこで-可測な単関数=Σi=1niAi(n∈,ai)のときにも,E[XY,]=E[E[|],B]∀B∈が成立します。

 

さらに極限を取ることにより,が一般のG-可測関数のときにも,この等式は成立します。

 

それ故,E[XY|]=E[|]です。特に=1と取ればE[|]=を得ます。

(4),の部分σ-加法族でとすれば,E[E[|]|]=E[|] (a.s),特にE[E[|]]=E[] (a.s)である。

(証明) 両辺ともH-可測ですから,E[E[E[|]|],B]=E[,B]∀B∈を示せば十分です。

 

ところが,条件付期待値の定義によって∀B∈ に対してE[E[E[|]|],B]=E[E[|],B]です。

 

そして,なので,∀B∈はB∈を意味しますから,E[E[|],B]=E[,B]∀B∈ です。すなわち,E[E[E[|]|],B]=E[,B]∀B∈,つまりE[E[|]|]=E[|]が得られます。

  

そして,特に≡{φ,Ω}と取ってを自明なσ-加法族とすれば,明らかに任意のσ-加法族に対してであり,E[,Ω]=E[],E[,φ]=0です。

 

それ故,E[E[|],Ω]=E[],E[E[|],φ]=0 が必要十分なので,E[|]=E[]です。

  

(つまりE[|]=E[]1Ω0・1φ=E[])

 

よって,この特別な場合を考えると,E[E[|]|]=E[|]はE[E[|]]=E[]に帰着します。

(5)(Jensenの不等式):ψは上の実数値関数で下に凸である(ψ(λx+(1-λ)y)≦λψ(x)+(1-λ)ψ(y),∀x,y∈,0≦∀λ≦1)とする。

 

ψ(X)が可積分ならψ(E[X|])≦E[ψ(X)|](a.s)となる。

 

特に,X∈Lp≡Lp(Ω,F,P),p≧1(E[|X|p]<∞)なら|E[X|]|p≦E[|X|p|] (a.s)である。

(証明) ψは下に凸なので,この曲線はその上の任意の点の接線より上にあります。

 

すなわち,∀a∈に対してc=c(a)∈が存在して,ψ(x)≧ψ(a)+c(x-a),x∈とできます。

 

特にx=X,a=E[X|]と取れば,G-可測関数c~=c~(ω)=c(E[X|])が存在してψ(X)≧ψ(E[X|])+c~(X-E[X|])であることがわかります。

したがって,(1),(2)よりE[ψ(X)|]≧E[ψ(E[X|])|]+E[c~(X-E[X|])|]が成立します。

 

ところが,ψ(E[X|])はG-可測なので(3)によりE[ψ(E[X|])|]=ψ(E[X|])です。そして,やはり(3)よりE[c~(X-E[X|])|]=c~(E[X|]-E[E[X|]|]=0 です。

 

以上から,Jensenの不等式:ψ(E[X|])≦E[ψ(X)|]が証明されました。

そして,ψ(x)≡|x|p,p≧1と置けば,これは下に凸ですから第2の不等式が得られます。

(6)n as n→ ∞ で,∈L1ならE[n|]→E[|] as n→ ∞ であってE[|]∈L1である。

(証明) (1),(5),(4)を順に用います。

E{|E[n|]-E[|]|}=E[|E[(n)|]|] ≦ E[E{|n||]=E{|n|→ 0 as n→ ∞ より,命題は証明されました。

(7)が独立なら,E[X|]=E[X]である。したがって,fを上のボレル関数としてf()が可積分なら,E[f()|]=E[f()]である。

(証明)は独立なので,∀B∈に対してE[,B]=E[]P(B)=E[E[],B]ですが,これはE[|]=E[]を意味します。

 

が独立なら,f()とも独立になるのでの代わりにf()と置けばE[f()|]=E[f()]が得られます。

以上です。

参考文献:舟木直久著「確率微分方程式」(岩波書店):小谷眞一 著「測度と確率」(岩波書店)

 

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2007年6月30日 (土)

ブラウン運動と伊藤積分(5)

続きです。

次項でのマルチンゲール(martingale)の説明への準備として停止時刻とσ加法族の増大系の関係についての種々の性質を紹介しましょう。

まずτを停止時刻とします。このとき,τ{A∈:A∩{τ≦t}∈t ∀t}と置けばτはσ加法族となることを証明します。

(証明)φ∈τは明らかです。A∈τのとき,A∈よりAcです。そして,τは停止時刻なので{τ≦t}∈t,それ故,{τ>t}∈tが成立します。

 

c∩{τ≦t}=(A∪{τ>t})cですが,(A∩{τ≦t})∪{τ>t}∈tですから,A∪{τ>t}∈tとなります。よって,Ac∩{τ≦t}∈tが得られ,結局Acτとなることがわかります。

次にAnτ,n=1,2,..なら,Anより,∪n=1nです。また,An∩{τ≦t}∈t∀tより,(∪n=1n)∩{τ≦t}=∪n=1(An∩{τ≦t})∈t ∀tです。

 

それ故,∪n=1nτも成立します。以上から,τが1つのσ加法族であることが示されました。(証明終わり)

次に主な6つの性質を列記して証明します。

 

(補題4.7):σ,τ,σn,n=1,2,..を停止時刻とする。(ただし,場合によっては,文字σをσnの極限値として用います。そのときはσnは停止時刻ですが,極限値σは停止時刻とは仮定されていません。) 

 

このとき,

(ⅰ)σ∨τ,σ∧τは共に停止時刻である。

(ⅱ)σn↑(nについて単調増加)のとき,σ≡lim n→∞σnは停止時刻である。また,tが右連続のとき,σn↓(nについて単調減少)なら,σ≡limn→∞σnは停止時刻である。

(ⅲ)σ(ω)≦τ(ω)∀ωなら,στである。

(ⅳ)tが右連続のとき,σn(ω)↓σ(ω)∀ωなら,∩n=1σnσである。

(ⅴ)σ∧τστである。

(ⅵ){τ<σ},{τ≦σ},{τ=σ}∈στである。

(証明)(ⅰ){(σ∨τ)≦t}={σ≦t}∩{τ≦t},{(σ∧τ)≦t}={σ≦t}∪{τ≦t}が成立します。

 

そこでσ,τが停止時刻であること:{σ≦t}∈t {τ≦t}∈t,およびtがσ加法族であることから,{(σ∨τ)≦t}∈tとなります。それ故,{(σ∧τ)も停止時刻であることは自明です。

(ⅱ)σn↑のとき,{σ≦t}={σ>t}c=(∪n=1n>t})cです。よってσnが停止時刻なら{σn>t}={σn≦t}ct ∀nです。

 

そこで,σ≡lim n→∞σnが停止時刻であることは自明です。

 

σn↓のとき,{σ<t}=∪n=1n<t}で{σn<t}∈t ∀nです。したがって{σ<t}∈t ですが,t が右連続なのでσ≡lim n→∞σnは,やはり停止時刻です。

(ⅲ)σ(ω)≦τ(ω) ∀ωなら,{τ≦t}={σ≦t}∩{τ≦t}です。故に,A∩{τ≦t}=A∩{σ≦t}∩{τ≦t}です。そこで,A∩{σ≦t}∈tなら,{τ≦t}∈tよりA∩{τ≦t}∈tとなります。

 

すなわち,A∈σならA∈τです。つまりστです。

(ⅳ)A∩{σ≦t}∈tなら,A∩{σ<t}∈tです。また,A∩{σ<t}∈tなら∩n=1{σ<t+1/n}∩A∈∩n=1t+1/nよりA∩{σ≦t}∈t+です。

 

したがって,tが右連続:t+tなら,A∩{σ≦t}∈tとA∩{σ<t}∈tは同値です。

σn(ω)↓σ(ω) ∀ωなら,{σ<t}=∪n=1n<t}ですから,A∩{σ<t}=∪n=1(A∩{σn<t})です。

 

そして,σ≦σn∀nより,σσn ∀nです。それ故,σ⊂∩n=1σnです。

 

一方,A∩{σn<t}∈t∀n,すなわちA∈∩n=1σnならσ=limn→∞σntがσ加法族であることから,A∩{σ<t}∈tです。

 

それ故,A∈σですから,∩n=1σnσも成立します。以上からtが右連続なら,∩n=1σnσです。

(ⅴ)σ∧τ≦σ,σ∧τ≦τですから,(ⅲ)よりσ∧τστとなります。

 

一方,等式A∩{σ∧τ≦t}=(A∩{σ≦t})∪(A∩{τ≦t})により,A∈στなら,A∩{σ≦t}∈t,かつA∩{τ≦t}∈tなのでA∩{σ∧τ≦t}∈tです。

 

したがって,στσ∧τも成立します。以上から,σ∧τστを得ます。

(ⅵ) {σ≦τ}∩{τ≦t}={σ≦t}∩{τ≦t}∩{σ∧t≦τ∧t}です。そうして,σ∧t,τ∧tはt-可測です。

(なぜなら,{σ∧t≦a}={σ≦a}∪{t≦a}={σ≦a}(if t>a), Ω(ift≦a)です。

 

そこで,σは停止時刻ですからt>aならatより,{σ≦a}∈at:すなわち,t>aなら{σ∧t≦a}={σ≦a}∈tです。

 

一方,t≦aならtがσ加法族なので,{σ∧t≦a}=Ω∈tです。

 

したがって,いずれにしても,{σ∧t≦a}∈tですから,σ∧tはt-可測です。同様にして,τ∧tがt-可測であることも示すことができます。)

よって,{σ∧t≦τ∧t}∈tです。一方σ,τは停止時刻なので,{σ≦t}∈t,{τ≦t}∈tですから,結局{σ≦τ}∩{τ≦t}∈tです。それ故,{σ≦τ}∈τが成立します。そこで,{σ>τ}={σ≦τ}cτです。

 

また,{σ<τ}∩{τ≦t}={σ∧t<τ∧t}∩{τ≦t}なので,{σ<τ}∩{τ≦t}∈t:すなわち{σ<τ}∈τです。

さらに,{σ=τ}={σ≦τ}∩{σ≧τ}∈τです。σとτを入れ換えることにより,{τ<σ},{σ>τ},{τ≦σ},{σ≦τ},{τ=σ}∈στσ∧τが成立することがわかります。(証明終わり)

(定義4.8):確率過程{t}は次の(ⅰ),(ⅱ),(ⅲ)を満たすときN次元t-ブラウン運動であるという。

 

(ⅰ){t}はtに適合している。

(ⅱ)各t>s≧0 に対して(ts)はsと独立な:平均ベクトルがゼロ,共分散行列が(t-s)EのN次元ガウス変数である。

(ⅲ){t}は連続確率過程である。

そして,上の(定義4.8)の(ⅱ)は,条件付期待値の特性関数に関する等式E[exp{itξ(ts)}|s]=exp{-|ξ|2(t-s)/2}が成立することと同値です。

(証明)E[exp{itξ(ts)}|s]=exp{-|ξ|2(t-s)/2}なら,∀A∈sに対してω∈Aであるという条件付期待値はE[exp{itξ(ts)};A]=E[E[exp{itξ(ts)}|s];A]=exp{-|ξ|2(t-s)/2}P(A)を意味しますから,(ts)はsと独立です。

 

確かに,平均ベクトルはゼロ,共分散行列は(t-s)Eです。逆が成立することは自明です。(証明終わり)

例えば,N次元ブラウン運動:{t}={(Bt1,Bt2,..,BtN)}に対して,tB≡σ(s;s≦t)と置くと,各Bti:i=1,2,..,Nは1次元tBi-ブラウン運動です。

また,{t}をN次元ブラウン運動とすると,(t+ss)はs+Bと独立で,{t}はN次元t+B-ブラウン運動となります。

(証明)E[exp{itξ(ts)}|s+B]=exp{-|ξ|2(t-s)/2}を示せばいいです。

t>s+1/nのとき,E[exp{itξ(ts+1/n)}|s+1/nB]=exp{-|ξ|2(t-s-1/n)/2}より,∀A∈s+Bに対してE[exp{itξ(ts+1/n)};A]=exp{-|ξ|2(t-s-1/n)/2}P(A)です。

 

n→ ∞の極限では,E[exp{itξ(ts+1/n)};A]=exp{-|ξ|2(t-s)/2}P(A)を得ます。(証明終わり)

(補題4.9):N次元t-ブラウン運動{t}={(Bt1,Bt2,..,BtN)}について,∀t≧s>0 に対し(ⅰ)E[Bti|s]=Bsi:i=1,2,..,N (ⅱ) E[(Bti-Bsi)(Btj-Bsj)|s]=δij(t-s)である。

(証明)既に,E[exp{itξ(ts)}|s]=exp{-|ξ|2(t-s)/2}であることを示しました。(ⅰ)ξiで微分してξ0 と置くと,E[i(Bti-Bsi)|s]=[-ξiexp{-|ξ|2(t-s)/2}]ξ0 =0 です。

 

故に,E[Bti|s]=Bsi:i=1,2,..,Nです。(ⅱ)ξijで微分してξ0 と置くと,E[(Bti-Bsi)(Btj-Bsj)|s]=δij(t-s)です。(証明終わり)

(補題4.10):{t}を確率空間(Ω,,P)で定義された,初期分布をνとするN次元ブラウン運動とする。

 

tB≡σ(s;s≦t),B≡∨t≧0tB,≡{F⊂Ω:F⊂∃GcB,P(G)=0},ttBとすると,t+tである。

 

(ここで,2つの集合族,に対して集合族≡{F|∃E∈:(F-E)∪(E-F)∈}で定義します。)

(証明)以前に導入した密度関数:g(t,)=(2πt)-N/2exp{-||2/(2t)},∈RN,t>0 を用いて,Ttf()=∫g(t,)f()dと定義します。

 

このとき,f()が有界可測ならTtf()も有界可測です。また,先に示したことにより,(t+ss)はs+Bと独立なN次元t+B-ブラウン運動です。

そこで,s≦t1<t2としf1,f2を有界可測とすると,E[f1(t1)f2(t2)|s+B]=E[f1(t1)E[f2(t2t1+Bt1)|t1+B]|s+B]=E[f1(t1)Tt2-t12(t1)|s+B]=Tt1-s1{Tt2-t12 }(s)=E[f1(t1)f2(t2)|sB](P-a.s)=(確率的にほとんど確実に)となります。

これを繰り返せば,0≦t1<t2<..<tk-1<s<tk<tk+1<..<tnと有界可測なf1,f2,..,fnに対して,E[f1(t1)f2(t2)..fn(tn)|s+B]=f1(t1)f2(t2)..fk-1(tk-1)E[fk(tk)..fn(tn)|s+B]=f1(t1)f2(t2)..fk-1(tk-1)E[fk(tk)..fn(tn)|sB] (P-a.s)を得ます。

特に,有界可測な関数をfi()≡1Γi()(Γiはボレル集合,i=1,2,..,n)に取れば,P(t1∈Γ1,t2∈Γ2,..,tn∈Γn|s+B)=1{Bt1∈Γ1,Bt2∈Γ2,..Btk-1∈Γk-1}P[tk∈Γk,..,tn∈Γn|sB] (P-a.s)となります。

したがって,{F∈B:P(F|s+B)がsB可測な修正を持つ}と定義するときはディンキン系(族)(Dynkin class)です。

(ディンキン系の定義):Ωをある集合としΩの部分集合からなる集合族が次の条件を満たすとき,はディンキン系(ディンキン族)である,と言います。

(ⅰ)Ω∈(ⅱ)A,B∈,A⊂BならB-A∈(ⅲ)An,An⊂An+1,n=1,2,..なら∪n=1n

     (ディンキン系の定理)ディンキン系の有する性質の1つです。

をΩの部分集合からなる族でA,B∈ならA∩B∈となるものとする。()をを含む最小のディンキン系とすると,()はσ()である。

 

(つまり,を含む最小のσ加法族と一致する。)(証明は簡単なのでここでは証明しません。)

 よって,ディンキン系の定理を用いると,(B)=σ(B)より,Bですから,∀G∈Bに対してP(G|s+B)はsB可測な修正を持ちます。

 

 その修正を1~Gと表わすことにします。つまりG∈s+Bを取ったとき,G~≡{1~G=1}はGの修正ですから,明らかに(G-G~)∪(G~-G)=[{1~G≠1G}∩(G∪G~)]∈です。(P[{1~G≠1G}∩(G∪G~)]=0 です。)

 

それ故,G∈ssBが成立します。

あらゆる閉集合:F∈s+=∩n=1s+1/nに対し,各nについてGns+1/n,(F-Gn)∪(Gn-F)∈なるGnが存在するので,G=∩n=1nと取れば(G-F)∈,かつ(F-G)∈です。

 

しかも,G∈s+BsですからF∈s:すなわち,s+sが得られます。したがって,結局s+sが得られました。(証明終わり)

切りがいいので,今日はここまでにします。

 

なお,条件付期待値に関する演算の性質については,時を改めてやさしい解説記事を書くつもりです。 

参考文献:長井英生 著「確率微分方程式」(共立出版)

 

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2007年6月29日 (金)

ブラウン運動と伊藤積分(4)

確率過程というのは確率変数の時間発展であり,その"過去の軌跡"を情報と見るとき,これは情報の増大系であるということができます。

 

これを数学的に表現するものは,"フィルトレーション=σ加法族の増大系"です。

今日は,確率過程,特にブラウン運動を時刻と共に我々に得られる情報が増加していくプロセス,つまり,"情報を獲得する1つのフィルター=σ加法族の増大系"というものであると捉える理論について述べたいと思います。

(定義4.1):確率空間(Ω,,P)と={Ωの部分集合の族でσ加法族}の部分集合の族{t }t∈で次の(ⅰ),(ⅱ)を満たすものが与えられているとする。

 

(ⅰ) 0≦s<t に対してs t

(ⅱ)各t∈に対してt はσ加法族である。このとき,(Ω,,P;t)をフィルター付き確率空間と呼ぶ。

(例) 確率空間(Ω,,P)で定義されたN次元ブラウン運動を{t}とするとき,tB≡σ(s;s≦t)={s}s≦tを可測にする最小のσ加法族と置けば,(Ω,,P;tB)はフィルター付き確率空間です。

 

この{tB }を,ブラウン運動{t}の生成する"フィルトレーション"といいます。

以下ではフィルター付き確率空間(Ω,,P;t)が与えられているものとします。

(定義4.2):{t}を距離空間:Ξ上の確率過程とする。

 

(ⅰ) 各tに対しtt-可測であるとき(すなわちAをΞの任意の開集合とするとき:{ω∈Ω:t(ω)∈A}∈tとなるとき),{t}はtに適合している。という。

 

(ⅱ)各tに対し,写像:(s,ω)∈[0,t]×Ω→s(ω)∈Ξが([0,t])×t-可測であるとき,確率過程{t}はt-発展的可測であるという。

 

まず,t-発展的可測性に関する1つの補題を述べて証明します。

(補題4.3):確率過程{t}がtに適合していて,tがtに関して左(右)連続ならば{t}はt-発展的可測である。

(証明)tが右連続であるとして証明します。

まず,s(n)(ω)≡(k+1)t/2n(ω) for kt/2n<s≦(k+1)t/2n,k=0,1,2,..,2n-1と定義します。

 

仮定によって(k+1)t/2n(ω)と1{kt/2n≦s≦(k+1)t/2n}は共に([0,t])×t-可測であり,s(n)(ω)は(k+1)t/2n(ω)と1{kt/2n≦s≦(k+1)t/2n}の合成関数ですから,(s,ω)→s(n)(ω)は([0,t])×t-可測です。

 

(1{kt/2n≦s≦(k+1)t/2n}のような階段集合の定義関数の上でsに依らず一定値:(k+1)t/2n(ω)を取るような単純階段関数は無条件で可測関数であることが自明です。)

 

そして,s(ω)=limn→∞s(n)(ω),(s,ω)∈[0,t]×Ωがsのsに関する右連続性によって成立するので補題の結論が従います。(証明終わり)

(注)一般にσ加法族の可算加法性と半連続性から可測性を導くのはルベーグの測度論において詳しく論じられている内容です。

(定義4.4):t+≡∩τ>0t+τと定義する。t+t となるときt は右連続であるという。(t-≡∩τ>0t-τと定義する。t-t となるとき,t は左連続であるという。)

次に,{t}を(Ω,,P)で定義されたブラウン運動とします。tB≡σ(s;s≦t)は左連続ですが右連続ではないことを証明しましょう。

(証明)tB≡σ(s;s≦t)はA={ω:(t0,t1,..,tk)∈G},0=t0<t1<t2<..<tk =t,G:Ωの開集合で生成されるσ加法族です。

 

n↑t as n→ ∞ のときtlimn→∞snですから,A=∪j=1n=j{ω:(t0,t1,..,sn)∈G}∈t–Bです。故に,tBt–B:すなわちtBは左連続です。

一方,Hn{ω:Bt+1/ni-Bti≧0 (i=1,2,..,N)}と定義し,H≡∪m=1n=mnとおけば,H=∪m=kn=mnt+1/kB ∀kよりH∈t+です。

 

しかし,Hn≡{ω:Bt+1/ni-Bti≧0}はtB≡σ(s;s≦t)には属さないので,H≡∪m=1n=mnt+の元ですがt の元ではありません。故に,tBt+B:すなわちtBは右連続ではありません。(証明終わり)

(定義4.5):[0,∞)に値をとる確率変数τ(ω)は,各tに対して{ω:τ(ω)≦t}∈tとなるとき停止時刻である,あるいはマルコフ時刻であるという。

 

※(注)停止時刻というのは,元々ゼロサムゲームの1つであるマルチンゲール(martingale)という賭博ゲームで賭博をいつやめるか?という時刻,を定める条件を示したもので,未来の未知情報によるのではなく,"現在までに獲得した確実な情報=フィルターt"をベースに,賭博をやめる時刻を決定すべきであるという条件になっています。)

ここでtが右連続のときにはτ(ω)が停止時刻であること:{ω:τ(ω)≦t}∈t であることは,τ(ω)=tの等式を含まない集合{ω:τ(ω)<t}について{ω:τ(ω)<t}∈tとなることと同値であること,そしてまた,t(ω)≡1[0,τ(ω)](t)がt に適合していることと同値であることを証明します。

(ωの集合Aの定義関数1Aは,ω∈Aなら1A= 1,ω∈Aでなければ1A= 0 となるようなωの集合Aの集合関数と定義されます。

  

そして,1A(t)と書いたとき,これは集合Aを定義する関数1Aが時刻tの関数であること:つまりωの集合A自身がtと共に変化していく過程であることを示しています。)

(証明) τ(ω)が停止時刻:すなわち{ω:τ(ω)≦t}∈tであると仮定すると,{ω:τ(ω)<t}∈tであることは自明です。

 

逆に任意のtについて{ω:τ(ω)<t}∈tであって,tが右連続:tt+であるとすれば,{ω:τ(ω)<t+1/k}∈t+1/kです。そこで,∩n=k{ω:τ(ω)<t+1/n}∈t+1/kとなります。

 

それ故,{ω:τ(ω)≦t}∈t+tが得られます。すなわち,τ(ω)は停止時刻です。

また,{ω:1[0,τ(ω)]=1}={ω:0≦t≦τ(ω)}={ω:τ(ω)≧t}={ω:τ(ω)<t}cですから,{ω:1[0,τ(ω)]=0}={ω:1[0,τ(ω)]=1}c={ω:τ(ω)<t}です。

 

t(ω)≡{ω:1[0,τ(ω)]=1}={ω:τ(ω)<t}ct に適合していることは,tがσ加法族なので{ω:1[0,τ(ω)]=0}={ω:τ(ω)<t}∈tであることと同値です。そこでtが右連続:tt+なら,これはτ(ω)が停止時刻であることと同値です。(証明終わり)

さらに停止時刻に関する補題を述べて証明します。

(補題4.6):{t}を距離空間Ξ上の確率過程とする。そして,tは右連続でtに適合しているとする。さらにtも右連続とする。

 

Ξの任意の開部分集合Gに対して,[0,∞)に属する値σGをσG≡inf{t≧0,t∈G} ({t≧0,t∈G}≠φのとき);σG≡∞ ({t≧0,t∈G}=φのとき);で定義すると,σGは停止時刻である。

 

また,Ξの閉部分集合Fに対してσFを同様に定義するとき,tが連続でtに適合しているならばσFも停止時刻である。

(証明){ωG≧t}={ω:s(ω)∈Gc,s<t}=∩τ<t,τ∈Q+{ω:τ(ω)∈Gc} (Q+は正の有理数の集合)が成立します。

 

ここに,σGはΞの開集合Gに対してt∈Gとなるt≧0 の下限です。そこで,σG≧tであるということは,tはt∈Gとなるtの下限以下なのですから,∀s<tのsに対してs∈Gcであることを意味します。

 それ故,{ωG<t}=∪τ<t,t∈Q+{ω:τ(ω)∈G}です。

 

 Xtが右連続でtに適合しているので,{ω:τ(ω)∈G}∈ττの右連続性から,∩τ<t,τ∈Q+{ω:τ(ω)∈G}={ω:t(ω)∈G}∈tです。

 

 つまり,{ωG<t}∈tです。tが右連続なので,先に示した停止時刻の性質から,これはσGが停止時刻であることを意味します。

 一方,FをΞのある閉集合とします。ρを距離空間Ξの距離であるとして集合GnをGn{∈Ξ:ρ(,F)<1/n}と定義します。(ρ(,F)=inf∈Fρ(,)です。)

そして,σ≡limn→∞σGnと置くと,経路tの連続性によってσ=limn→∞σGnとなりますが,σGn≦σF ∀nです。

 

(なぜなら,σGn=inf{t≧0,ρ(t,F)<1/n},σF≡inf{t≧0,t∈F}ですが,{t≧0,t∈F}⊂{t≧0,ρ(t,F)<1/n}であるからです。) それ故,n→ ∞の極限を取るとσ≦σFです。

 

一方,σGn+1∈Gnより,σ∈Gn∀nですからσ∈∩n=1∞n=Fとなり,σ≧σFも成り立ちます。

 

したがって,σ=σFとなることがわかりますから,{ωF≦t}={ω:σ≦t}=∩n=1∞{ωGn<t}∈tが得られます。つまり,σFも1つの停止時刻であることが示されました。(証明終わり)

途中ですが少し疲れたので,続きは明日以降にして,今日はここまでにします。

参考文献:長井英生 著「確率微分方程式」(共立出版)

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2007年6月25日 (月)

ブラウン運動と伊藤積分(3)

さらに前記事の続きです。 

すぐ前の記事において,確率空間N,N,P)の上で定義され,ほぼブラウン運動の条件を満たす確率過程{t}の存在が確認されました。

 

その確率過程{t}の修正として,連続確率過程{t}が存在し,それによって実際にブラウン運動が実現されることを示すのが,今日の記事の目的です。

 

そして,その目的に到達するために,いきなり次の定理を述べることから始めます。

(定理3.2):確率空間(Ω,,P)で定義された確率過程{t}t∈[0,1]が次の条件を満たしているとする。

 

すなわち,"E[|ts|α]≦c|t-s|1+β;0≦s,t≦1,∃α,β,c> 0 "を満たしているとする。このとき,"{t}の修正である連続確率過程{t}が存在して,あるδ>0 に対し,P(ω:∃η(ω)>0 such that sup0≦s、t≦1,|t-s|<η(ω){|ts|/|t-s|λ}≦δ)=1,for some λ:0<λ≦β/α"なる命題が成り立つ。

これを証明するためには補題として,次の「ボレル・カンテリの補題(Borel-Cantelli lemma)」が必要です。

(ボレル・カンテリの補題):"{An}n=1,2,.を集合列とし,Aをこれらの集合の無限個の共通に含まれる要素の集合とし,Pを確率測度とする。

 

このとき,「(a)ΣP(An)<∞ならP(A)=0 」,「(b)ΣP(An)=∞で事象Anが独立ならP(A)=1」である。"

(上の補題の証明)(a) A=∩r=1n=rnと書けます。よって∀rについてA⊂∪n=rnです。

 

ΣP(An)<∞より,ΣP(An)は収束するので,ε>0 を任意に取れば十分大きいrに対して,P(A)≦P(∪n=rn)≦Σn=rP(An)<εと書けます。ε>0 は任意なのでP(A)=0 です。

(b) A=∩r=1n=rnよりAc=∪r=1n=rncです。1-P(A)=P(Ac)=P(∪r=1n=rnc)≦Σr=1P(∩n=rnc)≦Σr=1Πn=r[1-P(An)]です。

 

ここで,ΣP(An)=∞なので,各rについて無限積はゼロに発散します。(つまりΣlog[1-P(An)]≦-ΣP(An)=-∞より,Πn=r[1-P(An)]=exp(-∞)=0 です。)

 

故に,P(A)=1です。(補題の証明終わり)

(定理3.2の証明)仮定によって,任意のε>0 に対してP(|ts|>ε)≦E[|ts|α]/εα≦cε|t-s|1+βが成立します。

 

(なぜなら,E[|ts|α]≧(|ts|>ε)・εα)

よって,ε≡2-λn0<λ<β/αとすると,(sup1≦k≦2n|k/2nk-1/2n|>2-λn)=P(∪k=12n(|k/2nk-1/2n|>2-λn))≦Σk=12nP(|k/2nk-1/2n|>2-λn)≦2n2-n(1+β-αλ)=c2-n(β-αλ)が成立します。

 

そして,(β-λα)>0 よりΣn2-n(β-αλ)<∞ です。それ故,Σn(sup1≦k≦2n|k/2nk-1/2n|>2-λn)<∞ を得ます。

 

故にボレル・カンテリの補題より,∀nに対して,sup1≦k≦2n|k/2nk-1/2n|>2-λn なる集合をA⊂Ωとすると,P(A)=0 です。

そこで,Ω0≡Acとおけば,P0)=1でΩ0です。

 

そして,"∀ω∈Ω0に対して,∃n0(ω)∈+:sup1≦k≦2n|k/2nk-1/2n|<2-λn if n≧n0(ω)"が成立します。

 

(+は正の整数全体の集合)

ここでDn{k/2n:k=0,1,2,..,2n},D≡∪n=1nとします。

 

s,t∈Dn,n>n0(ω)とし,さらに 0<t-s<2-n0(ω)とすると,n0(ω)<m<nなるmがあって,1/2m+1≦t-s<1/2mとなります。

 

1≡min{s'∈Dn-1,s≦s'},t1≡max{t'∈Dn-1,t'≦t}とおくと,|s-s1|,|t-t1|≦1/2n です。

ここで,"P0)=1なるΩ0が存在して,∀ω∈Ω0に対し∃n0(ω)∈Z+:sup1≦k≦2n|k/2nk-1/2n|>2-λn if n≧n0(ω)"となるので,そのΩ0について,∀ω∈Ω0に対し|tt1|,|ss1|≦2-λnとなります。

 

したがって,|ts|≦21-λn|t1s1|,s1,t1∈Dn-1,t1-s1<1/2m を得ます。

 

s,tをs1,t1に置き換えることによって,s,tを基にした選択から新パラメータs1,t1を獲得したようにs1,t1を基にして同様にs2,t2を獲得することができます。

これを繰り返して,s3,t3,..を逐次取っていくと,sn-(m+1),tn-(m+1)∈Dm+1;|ts|≦2Σj=0n-(m+2)2-λ(n-j)|tn-(m+1)sn-(m+1)|とすることができます。

 

このとき,tn-(m+1)-sn-(m+1)=1/2m+1となるので,結局,|ts|≦2Σj=0n-(m+1)2-λ(n-j){2/(1-2)}(2)m+1≦δ|t-s|λ (δ≡2/(1-2))となります。

 

これで,各ω∈Ω0に対してt(ω)のヘルダー(Hölder)連続性:|t(ω)-s(ω)|≦δ|t-s|λが成立することが示されました。

Ω0に属さないωに対しては,t(ω)≡0と置きます。

 

ω∈Ω0に対しては,t∈[0,1]なる各tについてtn∈D,limn→∞|tn-t|=0 となる2進数の数列{tn}を取って,t(ω)≡limn→∞tn(ω)と定義することができます。

0)=1であり,0<t-s<2-n0(ω)なるs,t∈[0,1]とω∈Ω0に対して|ts|≦δ|t-s|λとなるので,このようにして構成した{t}はP(ω:∃η(ω)>0 such that sup0≦s,t≦1,|t-s|<η(ω){|ts|/|t-s|λ≦δ})=1を確かに満足します。

また,t∈Dなるtに対しては,ほとんどいたるところで,つまり確率1でttです。

 

一方,t∈Dc∩[0,1]なるtに対しては,任意のε>0 に対しP(|ts|>ε)≦E[|ts|α]/εα≦cε|t-s|1+βが成り立ちますから,limn→∞(|tnt|>ε)=0 for ∀ε>0 です。

 

これと,P(limn→∞(|tnt|=0)=1から,P(|tt|=0)=1 が得られます。つまり,ttの修正である,ことが示されました。(証明終わり)

(注)ここでは,t∈[0,1]としましたが一般性を失うことなく,t∈[0,T]とすることができるのは明らかです。

 

それ故,定理は容易にパラメータ空間を[0,∞)にした確率過程に適用できるよう拡張できます。

ここで,(定理3.1)とg(t,)≡(2πt)-N/2exp{-||2/(2t)},∈RN,t>0,00<t1<t2<..<tn に対して,μt0,t1,..tn(B0×B1×..×Bn )≡∫B0×B1×..×Bnν(d0i=1Ng(ti-ti-1,ii-1)d12..dnで作った(ΩN,N,P)上の確率過程{t}の各成分{Xti}(i=1,2,..,N)について,φ(ξ)≡E[exp{iξ(Xti-Xsi)}]=exp{-(t-s)ξ2/2}=Σk=0[(-1/2)k(t-s) kξ2k/k!]です。

したがって,φ(2n)(ξ)=Σk=0[(-1/2)k(t-s)k/k!](2k)(2k-1)..(2k-2n+1)ξ2k-2nですから,φ(2n)(0)=(-1/2)n(t-s)n(2n)!/n!です。

 

 それ故,E[|Xti-Xsi|2n]=|φ(2n)(0)|=cn|t-s|n;cn≡(2n)!/2nn! For ∀n;i=1,2,..,Nが成立します。

 

つまり,α=2n,β=n-1,c≧cnとすれば,E[|Xti-Xsi|α]≦c|t-s|1+βが成り立ち,0<λ<β/αは 0<λ<1/2となります。

 

こうして,N,N,P)上で定義された{t}の修正である連続確率過程{t}があって,その標本路は確率1で,λ次ヘルダー連続(0<λ<1/2)であることがわかりました。

 

以上のことから,.(ω):ΩN → WNを用いて,P^(ω)をP^(ω)≡P(.(ω)-1)で定義し,∈WNの座標関数をt()≡(t)と取れば,確率空間(WN,N,P^)で定義された連続確率過程{t}は初期分布をνとするN次元ブラウン運動になります

これで当面の目的を達成したので,今日はここまでとします。 

参考文献:長井英生 著「確率微分方程式」(共立出版)

 

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2007年6月24日 (日)

ブラウン運動と伊藤積分(2)

前記事の続きです。 

NN≡C([0,∞);RN),すなわち[0,∞)で定義され,RNに値をとる連続関数の全体とします。

 

そして,{t}をN次元ブラウン運動とすると,その定義によって,全体として確率が1のΩの元ω∈Ωに対し,t(ω)はtの連続関数ですから,t(ω)はΩからNへの写像であると見ることができます。

 

この写像:Ω→WN:ω∈Ω{t(ω)}t∈[0,∞)Nを,.(ω)と表わすことにすれば,.(ω)={t(ω)}t∈[0,∞)です。

 

上述の"確率が1のΩの元ω∈Ωに対して"という意味は,"P(ω∈Ω:.(ω)N)=1に属するωに対して"と表現できます。

任意の1,2Nに対して,d(1,2)≡∑n=02-n(sup0≦t≦n|1(t)-2(t)|∧1)と置けば,Nはdを距離とする完備距離空間になります。

 

そして,その位相的ボレルσ加法族(Nの全ての開集合を含む最小のσ加法族)を(N)とし,各.(ω)Nに対して集合関数μB(F)をμB(F)≡P(-1(F))=P(ω∈Ω:.(ω)∈F);F∈(N)によって定義すれば,このμBは(N,(N))上の分布になります。

 

この分布をN次元ウィーナー測度と言います。

特に,P(0)=1;∈RNなるN次元ブラウン運動{t(ω)}t∈[0、∞)が与えられたとき,対応するμB(・)を,Px(・)と表わすことにします。

 

Nに対し座標関数:t()≡(t)(0()≡(0)=)を取ると,tは確率空間(N,(N),Px)で定義された∈RNから出発するブラウン運動です。

ここでは,逆にブラウン運動を構成するに当たって,これをこの空間(N,(N))に実現することを考えます。

 

つまり,確率空間(N,(N),Px)における確率過程として,ブラウン運動というものが本当に存在することを示したいと思います。

 

言わばブラウン運動の存在定理の証明を以下において試みます。

そのため,まず,より広い空間ΩN(RN)[0,∞)≡{ωω(・)∈ΩN[0,∞)→RN}を用意します。

 

座標関数t(ω)≡ω(t),ω∈ΩNにより,ωの有限個の座標を指定することによって,ΩNの部分集合が定まります。

 

これを筒集合と呼びます。

 

すなわち,k=1,2,..に対して,0≦t1<t2<..<tk;B1,B2,..,Bk(RN)を取ったとき,{ω∈ΩN:t1(ω)∈B1,t2(ω)∈B2,..,tk(ω)∈Bk}の形の部分集合のことを筒集合と呼ぶわけです。

筒集合の有限和の全体は,明らかに有限加法族です。この有限加法族を含む最小のσ加法族をNと書くことにします。

 

そしてN,N)上の確率測度を作るわけですが,これを実行する手続きにおいて「コルモゴロフの拡張定理(Kolmogorov)」を利用します。

 

与えられた確率空間(Ω,,P)上で,[0,∞)をパラメータとする確率過程{t}に対し,その有限次元分布μt1,t2,..tnは,μt1,t2,..tn(B1×B2×..×Bn)≡P((t1)∈B1,(t2)∈B2,..,(tn)∈Bn)で定められます。

 

そして,逆に分布の族{μt1,t2,..,tn}:0<t1<t2<..<tn ,n=1,2,..が与えられたとき,それらを有限次元分布とする確率過程が存在するために課せられる条件が,次の「コルモゴロフの拡張定理」の整合性条件です。 

つまり,"μt1,t2,..,ti-1,ti+1,..,tn(B1×B2×..×Bi-1×Bi+1×..×Bn)=μt1,t2,..,ti-1,ti,ti+1,..,tn(B1×B2×..×Bi-1×RN×Bi+1×..×Bn);i=1,2,..,n;B1,B2,..,Bn(RN)"なる条件が「コルモゴロフの拡張定理」が成立するための整合性条件です。 

(定理3.1):「コルモゴロフの拡張定理」

上述の整合性条件を満たす分布の族t1,t2,..,tn}:0<t1<t2<..<tn ,n=1,2,..が与えられているとする。

 

このとき,N,N)上に確率測度Pが唯1つ存在して,確率過程{t}の有限次元分布はμt1,t2,..,tnに等しい。 

これを証明するためには,次の補題が必要です。

(補題)P1,P2,..が,それぞれ(RN,(RN)),(R2N,(R2N)),..,上の確率測度で,Pn+1(B×RN)=Pn(B)を満たすならば,((RN),((RN)))上の確率測度Pが存在して,P(B)=Pn(B),B∈(RnN)を満たす。

(証明) 写像πn:(RN)→(RN)nを,ω=(ω1,ω2,..,ωn,..)∈(RN)→ πn(ω)≡(ω1,ω2,..,ωn)∈(RN)n で定義すると,C≡{πn-1(B):B∈(RnN),n=1,2,..}は(RN)上の1つの有限加法族を定義します。

 

(※なぜなら,φ∈(RnN)に対しπn-1(φ)=φによりφ∈Cです。    (∵φ×RM=φ)

 

また,πn-1(B)∪πn-1(Bc)=πn-1(B∪Bc)=πn-1(RnN)=(RN)です。故に,(πn-1(B))c=πn-1(Bc),よって,"A∈C⇒Ac∈C"も成立します。

 

また,A1,A2∈Cなら,あるB1,B2(RnN)が存在してA1=πn-1(B1),A2=πn-1(B2)と書けますから,A1∪A2=πn-1(B1)∪πn-1(B2)=πn-1(B1∪B2)で,B1∪B2(RnN)より,A1∪A2∈Cであるからです。※)

F∈Cに対してP(F)≡Pn(B),F=πn-1(B),B∈(RnN):P(F)≡Pnn(F))(あるいはP(πn-1(B))=Pn(B))と定義するとき,PはC上で有限加法的です。

(※なぜなら,n≧kに対してπn,k((ω1,ω2,..,ωn))≡(ω1,ω2,..,ωk)∈RkNと定義すると,仮定Pn+1(B×RN)=Pn(B)により,∀B0(R(n-1)N)に対してπn,n-1-1(B0) ∈RnNです。

 

nn,n-1-1(B0))=Pn-1(B0)etc.であり,明らかに∀B0(RkN)に対してπn,k-1(B0)∈RnNでPnn,k-1(B0))=Pk(B0)です。そして明らかにπn-1n,k-1(B0))=πk-1(B0)です

したがって,F1,F2,..,Fk∈CでFi∩Fj=φ(i≠j)なるものを取ると,i=1,2,..,kの全てのiについて共通のnが存在してFi=πn-1(Fi0);Fi0(RnN),Fi0∩Fj0=φ(i≠j)であるとしてよく,

 

P(∪i=1ki)=P(∪i=1kπn-1(Fi0))=P(πn-1(∪i=1ki0))=Pn(∪i=1ki0)=∑i=1kn(Fi0)=∑i=1kP(πn-1(Fi0))=∑i=1kP(Fi),つまりP(∪i=1ki)=∑i=1kP(Fi)ですから,PはCの上で有限加法的です。※)

(注)有限加法的測度がσ加法族の上で完全加法的測度に拡張できることは自明なので敢えてそれを証明はしません。

次にFk↓φのときにP(Fk)→ 0 as k→∞を示します。(つまりP(φ)=0 を証明します。)

そのために,limk→∞P(Fk)=ε>0 と仮定します。一般性を失うことなくFk=πk-1(Fk0);Fk0(RkN)とします。

また,Pk(RkN,(RkN))の確率測度なので,上に与えられたε>0 に対してPk(Fk0-Ak0)<ε/2k+1なるコンパクト集合Ak0が存在します。(これの理由はルベーグ測度論を参照してください。)

 

したがって,定義からP(πk-1(Fk0-Ak0))<ε/2k+1です。

そこで,Bk≡∩i=1kπi-1(Ai0)⊂Fkとおくと,P(Fk)-P(Bk)=P(πk-1(Fk0)-Bk)≦Σi=1kP(πk-1(Fk0)-πi-1(Ai0))≦Σi=1kP(πi-1(Fi0)-πi-1(Ai0))=Σi=1kP(πi-1(Fi0-Ai0))<ε/2よりlimk→∞P(Bk)>ε/2>0 が得られます。

ところが,ω(ω1(k),ω2(k),..)∈Bk=∩i=1kπi-1(Ai0)⊂Fkとすると,πk(ω)=(ω1(k),ω2(k),..,ωk(k))∈πk(Bk)=∩i=1ki0ですから,k=1,2,..,のうちでk1jω1(k1j)が収束するような自然数の添字の部分列,k2jをk1jの部分列でω(k2j)が収束する部分列というように次々に添字の数列を取ってゆけば,liml→∞(ω1(k1j),ω2(k2j),..,ωl(klj))∈∩i=1li0=πl(Bl),l=1,2,..,となります。

 

そこで,(ω1(kll),ω2(kll),..,ωl(kll))を取れば,これはl→ ∞ に対して収束します。

liml→∞ωj(kllωjとすると,liml→∞(ω1(k1j),ω2(k2j),..,ωl(klj))=(ω1,ω2,..,ωi)∈πi(Bi),i=1,2,..,ですから,(ω1,ω2,..)∈Bk,k=1,2,.. for ∀k,すなわち∩k=1k⊂∩k=1kであって∩k=1k≠φです。

 

つまり,lim k→∞k≠φとなるので,lim k→∞k≠φです。したがって,これはFk↓φ,すなわちlim k→∞k=φに矛盾します。

 

これは,limk→∞P(Fk)=ε>0 という仮定が正しくないことを示していますから,Fk↓φならlimk→∞P(Fk)=0 です。それ故,P(φ)=0 です。

そこで,補題の結論P(B)=Pn(B)を,P(πn-1(B))=Pn(B)の意味と解釈することにより,上記の補題が成り立つことが証明されました。(補題の証明終わり)

(定理3.1の証明)≡[0,∞)に対しτ≡(1,t2,..),i,i=1,2,..を取り,Pnτ(B)≡μt1,t2,..,tn(B),B∈(RnN)と定義すれば,整合性条件によってPnτは補題の条件Pn+1τ(B×RN)=Pnτ(B)を満たします。

 

そこで,これは((RN),((RN)))上の確率測度Pτを一意的に定義します。

  

 πτ(ω)≡(ω(t1),ω(t2),..,ω(tn),..),ω∈(RN),(ω10,ω20,..)≡(ω(t1),ω(t2),..)∈(RN)k(ω0)≡(ω10,ω20,..,ωk0)とおくと,Pτ・π-1k=μt1,t2,..,tkです。

ここで,≡σ{(πτ)-1(B);B∈((RN)),τ,τは可算集合)}とし,P((πτ) -1(B))=Pτ(B)とすると,このP,あるいはP・(πτ) -1上の確率測度を一意的に定義することを示します。

B=τ1)-1(B10)=(πτ2)-1(B20),Bi0((RN)),i=1,2とするとき,あるB30((RN))があって,B=(πτ1∪τ2)-1(B30)なので,ττ'⊂とするときPτ(B)=Pτ'(B)が言えればいいのですが,実はこれはPτ・π-1k=μt1,t2,..,tkから明らかです。

Pの可算加法性については,Bnτn)-1(Bn0),Bn0((RN))とし,Bnは互いに素な集合とすると,Bn0も互いに素で,∪n=1τnτは可算集合です。

 

そこで,P(∪n=1n)=P(∪n=1τn)-1(Bn0))=Pτ(∪n=1n0)=Σn=1τ(Bn0)=Σn=1P((πτn)-1(Bn0))=Σn=1P(Bn)が確かに成立します。(証明終わり)

次に,νを(RN,(RN))上のある確率測度とし,∈RN,t>0 に対して,g(t,)≡(2πt)-N/2 exp{-||2/(2t)}とします。

 

このとき,"00<t1<t2<..<tnに対しμt0,t1,..,tn(B0×B1×..×Bn )≡∫B0×B1×..×Bnν(d0i=1Ng(ti-ti-1,ii-1)d12..dnと置けば,μt0,t1,..,tnは整合性条件を示す。"という命題が成立することを示します。

簡単のためにN=1で証明します。

∫dti{2π(ti-ti-1)}-1/2{2π(ti+1-ti)}-1/2exp[-(xi-xi-1)2/{2(ti-ti-1)}-(xi+1-xi)2/{2(ti+1-ti)}]={2π(ti+1-ti-1)}-1/2 exp[-(xi+1-xi-1)2/{2(ti+1-ti-1)}]を示せばよいわけですが,具体的に計算すれば間単に示すことができるので,詳細な計算は省略します。

"(定理3.1)=「コルモゴロフの拡張定理」と上記の具体的な確率測度の式によって,(ΩN,N)上に確率測度Pが存在し{t}の有限次元分布はμt0,t1,..,tnとなっていること,がわかります。

 

さらにその定義によりtsは平均がゼロ,共分散行列が(t-s)EのN次元ガウス型確率変数です。またtsは各u≦sに対してuと独立になっています。しかしt(ω);ω∈ΩNは必ずしもtの連続関数になっていません。

また,一般にWNNの元ではありません。これを証明します。 

(証明)⊂[0,∞)に対して,S≡σ(t:t∈)とし,*≡∪S:可算Sとおきます。

 

このとき,An*なら∃n⊂[0,∞):可算,AnSn,(n=1,2,..)ですから,*≡∪n=1nとすると*も可算集合です。

 

それ故.∪n=1nS*なので*はσ加法族です。しかも,*は全ての筒集合,すなわち{ω∈ΩN: t1(ω)∈B1,t2(ω)∈B2,..,tk(ω)∈Bk}={ω(・)∈ΩN:ω(t1)∈B1,ω(t1)∈B1,..,ω(tk)∈Bk} ( 0≦t1<t2<..<tk;B1,B2,..,Bk(RN))の形の部分集合全体を含みますから*Nです。

そして,もしWNNであるとすると,ある可算集合[0,∞)が存在してWNS=σ(t:t∈)となります。

 

したがって,N≡C([0,∞);RN)=([0,∞)で定義され,RNに値をとる連続関数の全体)がSの元ですから,∈WNのときに∀t∈についてt()=t('),すなわち,(t)='(t)ならば,t()とt(')より,(t)と'(t)はSの元として全く同じものを表わしている,ことになりますから'∈WNとならなければなりません。

しかしながら,(t)='(t) for ∀t∈でもは単なる可算集合ですから,'(t)が以外の点t∈[0,∞)で不連続な場合もあるのでこれは'∈WNと矛盾します。つまり,一般にWNNではありません。(証明終わり)

途中ですが今日はここまでとします。 

参考文献:長井英生 著「確率微分方程式」(共立出版)

 

http://folomy.jp/heart/「folomy 物理フォーラム」サブマネージャーです。

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