代数学,数論

2009年4月16日 (木)

多項式の判別式と終結式について

2009年3/11の数論関係の記事「フェルマーの定理と類体論(1)」

http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2009/03/fermat1-2daf.html の続きとして楕円曲線の群構造について書こうとしていましたが,参考書を読んでいると証明抜きで代数幾何学の定理を応用したものなどが出てきました。

こういうものは見過ごせば,付け焼刃的に理解することはできますが,私の悪い癖で数論よりも代数幾何学の中の射影幾何学などにも興味が湧きました。

 

そこで自分の本棚を探してみると,唯一持ってはいても読んだことのない「代数幾何入門」(上野健璽著(岩波書店))という本を見つけたので,それを最初から勉強することにしてそれが終わってから数論に戻ろうかとか思いをめぐらしました。

代数幾何学というのは,歴史的には式で定義された図形の幾何学などを意味し,デカルト・フェルマー(Descartes-Fermat)に始まる座標幾何学,または解析幾何学の導入と共に誕生したものらしいです。

しかし,いきなり一般論に入るのはやめて,ペル方程式のようなディオファントスの方程式の例題でも考えようとして「数論入門講義(数と楕円曲線)」(J.S.Chahel著;織田進訳(共立出版))を見つけて読んでいると,次のような終結式や判別式に関する項目が出てきました。

2つの多項式をf(x)=a0+a1x+a22+...+ann (degf=n),g(x)=b0+b1x+b22+...+bmm (degg=m)とするとき,係数(a0,a1,a2,..an)を1列ずつずらしてm行並べ,その下に(b0,b1,b2,..bm)を1列ずつずらしてn行並べた(m+n)×(m+n)の行列式をf(x),g(x)の終結式と呼び,R(f,g)と書く。

ただし,ここではf(x),g(x)はある体kの上の多項式環k[x]の元とし,degf,deggはそれぞれf,gの次数を表わすとする

また,f(x),g(x)の最大公約数(g.c.d)をd(x)≡(f(x),g(x))と書くことにする。このとき,次の定理が成り立つ。

[定理1]:d(x)=(f(x),g(x))とする。このとき,degd≧1であるための必要十分条件はR(f,g)=0 である。

(証明)d=(f,g)なので,f=df1,g=dg1と書けばfg1=f1g=df11が成立します。そこで,degd≧1であるための必要十分条件はdegf1<degf,degg1<degg,かつfg1=f1gを満たすf1(x),g1(x)が存在することです。

(x)=a0+a1x+a22+...+ann (degf=n),g(x)=b0+b1x+b22+...+bmm (degg=m)と書きます。

 

degf1<degf,degg1<deggを満たすf1,g1が存在してfg1=f1gなる恒等式(identity)が成立するならdegf1≦n-1,degg1≦m-1ですから,f1(x)=α1+α2x+...+αnn-1,g1(x)=β1+β2x+...+βmm-1とすると,fg1=f1gは両辺の係数を等置する(m+n)個の等式:a0β1=b0α1,a1β1+a0β2=b1β1+b0β2,...,αnm=βmnが成立することを意味します。

 この(m+n)個の等式はα12,...,αnのn個のf1(x)の係数の組をn成分の列ベクトルαt12,...,αn)で,β12,..,βmのm個のg1(x)の係数の組をn成分の列ベクトルβt12,...,βm)で表現すると,(a0,0)β=(b0,0)α,(a1,a0,0)β=(b1,b0,0)α,(a2,a1,a0,0)β=(b2,b1,b0,0)α,...,となります。

 

 ここで,(a0,0),(a1,a0,0),(a2,a1,a0,0),...はm成分の行ベクトル(row vector),(b0,0),(b1,b0,0),(b2,b1,b0,0),...はn成分の行ベクトルで,これら(m+n)個の式の両辺はそれぞれベクトルの内積の形になっています。

そこで,さらにβと-αを並べた(m+n)成分の列ベクトル:γt12,...,βm,-α1,-α2,...,-αn)を作れば,上の(m+n)個の等式は(a0,0,b0,0)γ=0,(a1,a0,0,b1,b0,0)γ=0,(a2,a1,a0,0,b2,b1,b0,0)γ=0 ...となります。

 

 この表現では,係数(a0,0,b0,0),(a1,a0,0,b1,b0,0),(a2,a1,a0,0,b2,b1,b0,0)も(m+n)成分の行ベクトルです。

 

結局,(m+n)個の等式は係数の行ベクトルを(m+n)行並べたものを(m+n)×(m+n)の正方行列Aと考えれば,等式系はAγ0 なる行列形式の斉次連立方程式になることがわかります。

このとき,行列Aの転置tAは,明らかにそれの行列式として終結式R(f,g)を与える行列に一致しています。

 

したがって,R(f,g)=detA=0 なる等式の成立がAγ0 γt12,...,βm,-α1,-α2,...,-αn)の自明でない解を持つための必要十分条件になります。つまり,R(f,g)=0 がdegd≧1 であるための必要十分条件です。(証明終わり)

[定義]:f(x)=a0+a1x+a22+...+ann (an≠0)をk[x]における多項式とするとき,Δ(f)≡(-1)n(n+1)/2R(f,f')/anをf(x)の判別式という。

 

 ただし,f'(x)はf(x)の導多項式と呼ばれる多項式でf'(x)≡a1+2a2x+...+nann-1で定義される。

 特にf(x)=ax2+bx+cならf'(x)=2ax+bより,R(f,f')=ab2-4a2cですから,Δ(f)=b2-4acです。また,f(x)=x3+Ax+Bならf'(x)=3x2+Aより,R(f,f')=4A3-27B2ですから,Δ(f)=-4A3+27B2です。

(x)が重根を持つのはf(x)とf'(x)が1次以上の共通因数を持つときですから,[定理1]によりこれはR(f,f')=0,すなわちΔ(f)=0 と同値です。

[定理2]:f(x),g(x)をk[x]における多項式とする。このときk[x]の中に多項式F(x),G(x)が存在してR(f,g)=F(x)f(x)+G(x)g(x)が成り立つ。

(証明)f(x)=a0+a1x+a22+...+ann (an≠0),g(x)=b0+b1x+b22+...+bmm (bm≠0)とします。

 

 R(f,g)=0 ならfg1=f1gなる1次以上の多項式f1,g1が存在するので,F(x)≡g1(x),G(x)≡-f1(x)とおけば, 0=R(f,g)=F(x)f(x)+G(x)g(x)となります。

そこで,R(f,g)≠0 と仮定してr(x)≡R(f,g)と置きます。

 

そうして,連立方程式系xif(x)=a0i+a1i+1+a2i+2+...+ani+n (i=0,1,...,m-1),xjg(x)=b0j+b1j+1+b2j+2+...+bmj+m (j=0,1,...,n-1)を考えます。

 

t(1,x,x2,...,xm+n-1),t(f(x),xf(x),...,g(x),xg(x),...)なるベクトル表現を採用すれば,これは(m+n)次の正方行列Aを係数とする行列形式の(m+n)元連立1次方程式:Aとなります。                        

このとき,明らかにR(f,g)=det(A)=r≠0 です。

 

det(A)≠0 ですから,Aの逆行列:A-1が存在します。これは,Aの余因子Aijを成分とする行列を(adjA)として,A-1=(adjA)/rと書けますから,これをAの左から掛けて解として=(adjA)/rが得られます。

 

そして,=(adjA)/rの第1行目の式は1=[(Σj=1m1jj-1)f(x)+(Σj=m+1m+n1jj-m-1)g(x)]/r(x)となります。

 

そこでF(x)≡Σj=1m1jj-1,G(x)≡Σj=m+1m+n1jj-m-1と置けばr(x)=F(x)f(x)+G(x)g(x)が得られます。(証明終わり)

などなどと続いていきますが,ここで私がかつて学生時代に読んだ「代数学講義」(高木貞治 著(岩波書店))とは判別式,終結式の定義が全然違っているので,果たして同じものだろうか?という疑問が湧きました。

しかし,上で見たように上述の定義での判別式Δ(f)は,fがf(x)=ax2+bx+cの2次式ならΔ(f)=b2-4ac,f(x)=x3+Ax+Bの3次式ならΔ(f)=-4A3+27B2で,これは両者の定義で全く同じですから,恐らく同じものなのでしょうが,本当に同じであることかどうかを証明しようという気になりました。

従来から知っていた多項式の判別式,終結式の定義は次のようなものでした。 

まず,n個の変数x1,x2,...,xnがあるとき,差積PをP≡(x1-x2)(x1-x3)...(x1-xn)(x2-x3)...(x2-xn)...(xn-1-xn)で定義します。このPは対称式ではなくて交代式ですが,P2は対称式です。

 

そして判別式の定義は「f(x)=a0+a1x+a22+...+annのn個の根をx1,x2,...,xnとしてこれらの差積をPで表わすとき,D≡an2(n-1)2を方程式f(x)=0,または多項式f(x)の判別式という。」というものです。

 

上記の別の定義ではfの判別式はΔ(f)と表記されていましたが,ここではDです。

また,終結式の定義は「f(x)=a0+a1x+a22+...+ann (an≠0),およびg(x)=b0+b1x+b22+...+bmm (bm≠0)の根をそれぞれα12,...,αn,およびβ12,...,βmとするとf(x)=anΠμ=1n(x-αμ),g(x)=bmΠν=1m(x-βν)ですが,R≡anmmnΠμ,νμ-βν)をf(x),g(x)の終結式と呼ぶ。」という形で与えられています。

 

別の定義ではf,gの終結式はR(f,g)と表記されています。

そして,f(x)=a0+a1x+a22+...+ann (an≠0)に対して導多項式はf'(x)≡a1+2a2x+...+nann-1で与えられますから,f'(x)=anΠν=1n-1(x-βν)と書けばf'(αμ)=anΠν=1n-1μ-βν)となります。

 

それ故,この場合従来から知っていた定義でのfとf'の終結式はR=R(f,f')=an2n-1Πμ,νμ-βν)=ann-1Πμf'(αμ)となることがわかります。

ところが,f(x)=anΠμ=1n(x-αμ)のときf'(x)/f(x)=Σμ=1n{1/(x-αμ)}ですから,f'(x)=Σμ=1n{f(x)/(x-αμ)}と表現できます。

 

それ故,f'(αμ)=Πμν≠μnν-αμ)}と表現できます。

 

したがって,従来の終結式はR=R(f,f')=ann-1Πμf'(αμ)=an2n-1Πν{μ≠νμ-αν)}となります。

一方,従来の定義でのf(x)の判別式DはP=(α1-α2)(α1-α3)..(α1-αn)(α2-α3)...(α2-αn)...(αn-1-αn)としてD=an2(n-1)2で与えられますから,D=an2(n-1)μ<νμ-αν)}2=(-1)n(n+1)/2n2(n-1)Πμ≠νμ-αν)です。

ここで,最右辺に符号の係数(-1)n(n+1)/2があるのは,次のようにして示されます。

 

もしもα12,...,αnの中に1組でも重根があればP=0 によりD=0 なので符号係数などは関係ないです。

 

そうでない場合には全ての根が異なるため,αμ<αν,つまり(αμ-αν)の符号がマイナスになる(αμν)の対の数はn個の中から2個を取り出す組み合わせの数n(n+1)/2に等しいからです。

したがって,R=R(f,f')=an2n-1Πμ≠νμ-αν),D=(-1) n(n+1)/2n2(n-1)Πμ≠νμ-αν)によって,D=(-1) n(n+1)/2R(f,f')/anとなることがわかりました。

これは,先に与えた別の定義での終結式R(f,g)による判別式Δ(f)の定義:Δ(f)≡(-1)n(n+1)/2R(f,f')/anと全く同じ形です。

したがって,終結式R(f,g)の2つの定義が同じものであることを証明しさえすれば,判別式については自動的にD=Δ(f)であることになります。

(証明)f(x)=a0+a1x+a22+...+ann (an≠0),およびg(x)=b0+b1x+b22+...+bmm (bm≠0)の根をそれぞれα12,...,αn,およびβ12,...,βmとすると,f(x)=anΠμ=1n(x-αμ),g(x)=bmΠν=1m(x-βν)です。

 そして根と係数の関係としてa0/an,a1/an,...,an-1/anは全てf(x)=0 の根α12,...,αnの基本対称式,b0/bm,b1/bm,...,bm-1/bmは全てg(x)=0 の根β12,...,βmの基本対称式で表わされますから,行列式で定義された方のR(f,g)はan,bmおよびα12,...,αn12,...,βmの関数です。

 

 つまり,R(f,g)はR(an,bm12,...,αn12,...βm)なる形の関数です。

一方,[定理2]の証明では(m+n)元の連立方程式系xif(x)=a0i+a1i+1+a2i+2+...+ani+n (i=0,1,...,m-1),xjg(x)=b0j+b1j+1+b2j+2+...+bmj+m(j=0,1,...,n-1)を想定しました。

 

そして,この方程式の解の組:1,x,x2,...,xm+n-1を列ベクトルt(1,x,x2,...,xm+n-1)で,右辺の関数の組:f(x),xf(x),...,g(x),xg(x),...を列ベクトルt(f(x),xf(x),...,g(x),xg(x),...)で表わせば,係数を(m+n)次の正方行列Aとして元の方程式を行列形式の1次方程式:Aの形に書くことができて,係数Aの行列式が終結式R(f,g)に等しいことを見ました。

この連立一次方程式Aにおいて,仮に代数方程式f(x)=0 とg(x)=0 に共通根x=γが存在すれば,γt(1,γ,γ2,...,γm+n-1)と書くとγではAγ0 となるので斉次方程式A0 に自明でない解γが存在することになり,そのときにはR(f,g)=det(A)=0 です。

そこで,先に書いたan,bm,およびαμν(μ=0,1,2,...,n,ν=0,1,2,...,m)の関数としてのR(f,g)の表現式:R(f,g)=R(an,bm12,...,αn12,...,βm)にαμ=βν=γを代入するとR(f,g)=0 となることがわかります。

 

すなわち,同じことですがαμにβνを代入するとR(f,g)=0 となります。

これは,R(f,g)=R(an,bm12,...,αn12,..,βm)が全ての対(μ,ν)に関して因数(αμ-βν)を持つことを意味します。

 

それ故,R(f,g)はΠμ,νμ-βν)pなる因子を持つはずです。

 

因子(αμ-βν)pのベキpが共通の値であるとしたのはR(f,g)が根の対称式だからです。

また,R(f,g)は係数(a0,a1,a2,...an)を1列ずつずらしてm行並べ,その下に(b0,b1,b2,...,bm)を1列ずつずらしてn行並べた(m+n)×(m+n)の行列式ですが,a0,a1,a2,...,anの各々はα12,...,αnの対称式のan倍,b0,b1,b2,...bmの各々はβ12,..,βmの対称式のbm倍ですから,R(f,g)はα12,...,αnの対称式,β12,...,βmの対称式に係数anmmnを掛けたもので与えられることがわかります。

一方,f(x)=a0+a1x+a22+...+ann=anΠμ=1n(x-αμ)により,両辺の1,x2,x,...,xnの係数を比較すればa0=anΠμ=1nαμ,a1=-anΣν=1nΠμ=1nαμ)/αν...etc.が得られますから,ak/anのαμによる次数は(n-k)です。

 

同様に,bl/bmのβνによる次数は(m-l)です。

 

これから,m行の(a0,a1,a2,...,an)とn行の(b0,b1,b2,...,bm)からなる成るR(f,g)の行列式のゼロでない全ての展開項の根αμνによる次数はmnであることがわかります。

したがって,行列式R(f,g)の根の対称式因子Πμ,νμ-βν)pは高々mn次の式である必要があるため,(αμ-βν)pのベキ指数pは1であると結論されます。

 

すなわち,R(f,g)=Πμ,νμ-βν)×(根αμνを全く含まない因子)です。

以上から,行列式で定義されたR(f,g)はanmmnΠμ,νμ-βν)の定数倍であることまでわかりました。

 

後は定係数を決めるだけですが,既に2次式と3次式の判別式について2つの定義が一致することがわかっているので後は手抜きで定係数=1だということで証明を終わりにします。(証明終わり)

なお,上述の証明に際しては, 勝手に以下のホームページ(HP)を参照させて頂きました。感謝!です。http://aozoragakuen.sakura.ne.jp/taiwa/taiwaNch02/huhensiki/node9.html 

イヤ,単なるパクリかな?ちょっと手抜き記事でした。。。

 

(別に,演習問題を解くことで勉強しなければいけないような学生ではないので,今のように読んでも理解がかなり困難であるわけでもなく簡単明瞭な証明が既にあるならワザワザ最初から証明する必要も無いという安易なジジィです。。)

 

参考文献:J.S.Chahel著;織田進 訳「数論入門講義(数と楕円曲線)」(共立出版),高木貞治 著「代数学講義」(岩波書店)

 

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2009年3月11日 (水)

フェルマー(Fermat)の定理と類体論(1)

深いところでは関係するかもしれないけれど,通常は物理とは関係ないような数学の話も偶にはしようかなと思います。

 

代数学,数論関連については,恐らく,2007年1/14~1/29のシリーズ記事「ガロア理論(1)」 http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2007/01/post_abe5.html

~「ガロア理論(6)」 http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2007/01/post_f6db. や,

それに続く2007年8/11の記事「リーマン予想と素数定理」http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_0dd9.html 以来のことでしょうか。偶に考えないとカビが生えてしまいそうです。

 

数論について読んだ本というと,入門程度なら20年以上前にアーベルやガロアの代数方程式のベキ根による解法に対する興味と関連して通読した松坂和夫著の「代数系入門」や,最近では量子暗号に対する興味と関連して,かつてニフティのサイエンスフォーラムの数学会議室議長だったプークさん(鈴木治郎氏)が訳された「はじめての数論」を通読した程度です。

 

(2006年5/4の記事「公開キー暗号(神はサイコロ遊びをなさる。)」参照 http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2006/05/post_955b.html )

今回は,ある程度は予備知識があることを前提に,まずは加藤和也,黒川信重,斉藤毅著「数論I」(Fermatの夢と類体論)(岩波書店)を参考に,10年くらい前に証明されたばかりのFermatの定理や高木貞治氏の研究で有名な類体論などを含む代数的数論関連の領域について言及してみたいと思います。

まず,楕円曲線と有理点について記述します。

 

ただし有理数体の上の楕円曲線とはy2=ax3+bx2+cx+d(a,b,c,d∈,a≠0),かつ右辺は重根を持たないというの形の3次方程式で定義される曲線です。

 

今日は,まず楕円曲線による方法の導入のため,"3以上の整数nについて,xn+yn=znを満たす自然数x,y,zは存在しない。"というフェルマーの定理のうちのn=4の場合の次の命題を証明することから始めます。

[命題1.1]:x4+y4=z4を満たす自然数x,y,zは存在しない。

この命題の証明の1つはフェルマー(Fermat)が書き残しています。

 

彼の証明を現代風に解釈するなら,それは[命題1.1]の証明を次の楕円曲線y2=x3-xに関する[命題1.2]の証明に帰着させるものと考えられます。

[命題1.2]:y2=x3-xの有理数解は(x,y)=(0,0),および(±1,0)のみである。

実際,もしも[命題1.1]が成立せずx4+y4=z4を満たす自然数x,y,zが存在するなら,x4=z4-y4の両辺にz2/y6を掛けると(x2z/y3)2=(z3/y3)2-z2/y2となります。

 

これはy2=x3-xにy≠0 の有理数解(x,y)が存在することを意味し,これは[命題1.2]に反しますから,[命題1.2]が成立するなら[命題1.1]が成立しなければなりません。

[命題1.2]は次の[補題1.3]のd=1の特別な場合になっています。

[補題1.3]:dを正の有理数とすると,次の条件(ⅰ)~(ⅲ)は全て同値である。

ⅰ)3辺の長さが有理数で面積がdの直角三角形が存在する。

(ⅱ)有理数の平方となる3つの数で,公差がdの等差数列をなすものが存在する。

(ⅲ)y2=x3-d2xの有理数解が(x,y)=(0,0),(±d,0)以外にも存在する。

[補題1.3]の条件(ⅰ)~(ⅲ)は,それぞれ次の[補題1.4]でK=としたときに与えられる集合Ad,Bd,Cdが空集合でないことを意味するので,[補題1.4]が成立することを示せば[補題1.3]も従います。

[補題1.4]:Kを標数が2でない体とするとき,d∈Kに対して集合Ad,Bd,CdをAd≡{(x,y,z)∈K×K×K;x2+y2=z2,xy/2=d},Bd≡{(u,v,w)∈K×K×K;u2+d=v2,v2+d=w2},Cd≡{(x,y)∈K×K;y2=x3-d2x,y≠0}と定義する。

 

 このとき,Ad,Bd,Cdの間に全単射が存在する。

(ただし標数というのはを環とするとき,その乗法の単位元をいくつ加えたらゼロになるかという最小の数のことを意味します。通常の有理数体などを環と考えたときの標数はゼロです。)

(証明)まず,(x,y,z)∈Ad,すなわちx2+y2=z2,xy/2=dのとき,(u,v,w)=((y-x)/2,z/2, (x+y)/2)とすれば,u2+d=v2,v2+d=w2,より(u,v,w)∈Bdです。

 

 逆に,(u,v,w)∈Bdなら,(x,y,z)=(w-u,w+u,2v)とすれば(x,y,z)∈Adです。これは互いに逆写像となる全単射です。

 次に(u,v,w)∈K×K×K;u2+a=v2+b=w2+cのとき,(x,y)=f(u,v,w)≡(u2+a+uv+vw+wu,(u+v)(v+w)(w+u))とすれば,y2=(x-a)(x-b)(x-c)となります。

 

 これには逆写像が存在し,それはg(x,y)=({(x-a) 2+(b-a)(c-a)}/(2y),{(x-b) 2+(c-b)(a-b)}/(2y),{(x-c) 2+(b-c)(a-c)}/(2y))で与えられます。

 

 特にa=d,b=0,c=-dとおけば,これはBd ⇔ Cd の全単射を表わします。(証明終わり)

※[補題1.4]の証明からのおまけ:

 [補題1.4]の結論のような全単射ではないですが,(u,v,w)∈K×K×K;u2+a=v2+b=w2+cに対する写像を,(x,y)=h(u,v,w)≡(u2+a,uvw)で定義すれば,明らかにy2=u222=(x-a)(x-b)(x-c)となります。 ※

さて,以下ではK=として[命題1.2]を証明します。

まず,有理数a∈の高さ(a)を,aをa=m/nと既約分数に表わしたとき(a)≡max(m,n)によって定義します。

 

そして,y2=x3-xに(0,0),(±1,0)以外にも有理数解が存在すると仮定しx座標の高さが最小のものを(x0,y0)とします。

 

もしもx座標の高さが最小の有理数解が複数個あればその中の1つを(x0,y0)とします。

一般に,y2=x3-d2xに(0,0),(±d,0)以外の有理数解(x,y)が存在すれば,もちろんx≠0,y≠0 ですが,この等式の両辺にd4/x4を掛けると(d2y/x2)2=d4/x-(d2/x)3となります。

 

そこで,y2=x3-d2xに(0,0)と異なる有理数解(x,y)∈×が存在すれば,(-d2/x,d2y/x2)も(0,0)と異なる有理数解です。

ここで,特にd=1とすると,もしもy2=x3-xに(0,0)とは異なる有理数解(x,y)∈×が存在すれば,(-1/x,y/x2)も同じ楕円曲線上にある有理数解であるということになります。

そして(x)=(-1/x)ですから,x0<0 の場合には-1/x0 を新しくx0に取っても,高さは同じなので問題ないことがわかります。そこで,x0>0 を満たすy2=x3-xの解を(x0,y0)として採用します。

こう選ぶと,y02=x03-x0により,x0(x0-1)(x0+1)=y02>0 であって,かつx0>0 ですからx0>1です。

このとき,x0'≡(x0+1)/(x0-1)と置くと0'-1=2/(x0-1),0'+1=2x0/(x0-1)により,0'(0'-1)(0'+1)=4x0(x0+1)/(x0-1)3=4y02/(x0-1)4={2y0/(x0-1)2}2となります。

 

そこで,0'≡(x0+1)/(x0-1),0'≡2y0/(x0-1)2と置けば,(0',y0')∈×であり,かつ0'(0'-1)(0'+1)=y0'2,またはy0'20'30'が成立します。

01,x0なのでx0≡m/n(m>n>0:既約分数)と置くと,0'=(x0+1)/(x0-1)=(m+n)/(m-n)=(m+n)/(m-n)となります。

 

m/nは既約分数なのでm,nが共に偶数であることはあり得ませんが,もしも共に奇数ならp=(m+n)/2,q=(m-n)/2は共に整数で0'=p/qであり,max(p,q)<max(m,n),つまり(0')<(x0)ですから,x0の高さが最小であるという仮定に矛盾します。

それ故,m,nのどちらか一方は偶数です。そして,x0(x0-1)(x0+1)=mn(m-n)(m+n)/n4ですが,これが有理数y0の平方に等しいので,明らかにmn(m-n)(m+n)はある整数の平方です。

 

なぜなら,mn(m-n)(m+n)はn402ですから,これは整数であってかつ有理数n20の平方だからです。

/nが既約分数なので,mとnは互いに素です。そこで,結局m,n,(m-n),(m+n)は全て互いに素です。

 

したがって,mn(m-n)(m+n)が平方数になるためにはm,n,(m-n),(m+n)が各々平方数である必要があります。(これは素因数分解可能性からの帰結です。)

それ故,x0=m/n,x0-1=(m-n)/n,x0+1=(m+n)/nは全て有理数の平方数です。

さて,[補題1.4]の証明とそのおまけから,(u,v,w)=g(x,y)とh(u,v,w)=(u2+a,uvw)を合成した写像h・gを作ります。ただし,今の場合a=1,b=0,c=-1とします。

任意の(x1,y1)∈×のgによる像を(u1,v1,w1)=g(x1,y1)とし,さらに(u1,v1,w1)∈××のhによる像を(x2,y2)=h(u1,v1,w1)とします。(x2,y2)=h・g(x1,y1)ですね。

 

このとき,y22=u121212=(x2-1)x2(x2+1)ですから,x2-1,x2,x2+1は全て有理数の平方数です。

逆に言えば,y22=(x2-1)x2(x2+1)を満たす(x2,y2)∈×で,x2-1,x2,x2+1が全て有理数の平方である場合なら,h・g(x1,y1)=(x2,y2)を満たす(x1,y1)∈×が常に1組だけ存在することがわかりました。

ところで,すぐ前で見たようにx0=m/n,x0-1=(m-n)/n,x0+1=(m+n)/nは全て有理数の平方数です。

 

そこで,h・g(xp,yp)=(x0,y0)を満たす(xp,yp)∈×が,存在します。

(up,vp,wp)=g(xp,yp)よりup={(xp-1)2-2}/(2yp)でx0=up2+1,yp2=xp3-xpです。

 

故に,x0=up2+1={(xp-1)2-2}2/{4(xp3-xp)}+1=(xp2+1)2/{4(xp3-xp)}です。有理数xpを互いに素な整数r,sによる既約分数としてxp=r/sと表わします。

 

このとき,x0=(r2+s2)2/{4rs(r2-s2)}です。

 

まず,x01ですから,分母より分子の方が大きいので(r2+s2)2>4rs(r2-s2)です。

 

そして,xp=r/sは既約分数ですからrとsは互いに素なので,分子の(r2+s2)2と分母のrsは明らかに共通因数を持ちませんから,分母と分子が共通因数を持つとすれば,r2+s2と4,またはr2-s2が共通因数を持つ場合に限られます。

 

このとき,もしもr,sが共に奇数ならr2+s2は4で割ると余りが2の偶数,r2-s2は4の倍数です。

 

(r2+s2)2は丁度4の倍数ですから,今のx0の分数表現で分子,分母は共通因数4を持ちます。

 

したがって,この場合には(x0)≧(r2+s2)2/4≧{max(r,s)}4/4>max(r,s)=(xp)です。

 

ただし,右辺の最後の不等式:{max(r,s)}4/4>max(r,s)では,xp=r/s>1により(xp)=max(r,s))≧2なることを考慮しました。

 

他方,r,sの一方が奇数,もう一方が偶数ならr-s,r+sは共に奇数で,共通因数を持ちません。そしてp≡r-s,q≡r+sと置けばr2-s2=pq,r2+s2=(p2+q2)/2,rs=(p2-q2)/4です。

 

結局,x0=(p2+q2)2/{4pq(p2-q2)}と書けますから,片方だけが奇数の(r,s)の組が共に奇数の(p,q)に置き換えられただけで,x0の分数表現は前と全く同じ形をしています。

 

それ故,前と同じく分子,分母は共通因数4のみを持ちます。

 

そこで,この場合にも(x0)≧(p2+q2)2/4≧{max(p,q)}4/4>max(p,q)>max(r,s)=(xp)となります。

 

以上から,既約分数xp=r/s>1のr,sが共に奇数の場合,一方が奇数,もう一方が偶数の場合のいずれであっても,(x0)>(xp)になるという結果が得られました。これはx0の高さ(x0)が最小であるという仮定に矛盾します。

 

それ故,(x,y)=(0,0),(±1,0)以外のy2=x3-xを満たす高さ(x)が最小の(x,y)=(x0,y0)は存在しないと結論されます。

 

これは,[命題1.2]の結論が成立することを意味しますから,結局,[命題1.2]が成立することが示されたわけです。

  

そして最初に述べたように,[命題1.2]が成立することは[命題1.1]が成立することを意味するので,結局,"x4+y4=z4を満たす自然数x,y,zは存在しない。"ことが証明されました。

 

この証明方法はフェルマー自身が無限降下法と呼んだ方法です。

 

今日はここまでにします。 

参考文献:加藤和也,黒川信重,斉藤 毅著「数論I」(Fermatの夢と類体論)(岩波書店)

 

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2008年2月11日 (月)

デデキントの切断(補遺)

 実は,昔の大学入学時の頃のノートを忠実に再現すると,ブログにまとめたものよりもはるかに泥臭いものです。

 かつて,19世紀にラグランジュ(Lagrange)などが,それまでは無批判に使用していた級数などの収束性の論議を見直さざるを得なかったのと同じ,というのはおこがましいのですが,私もそれなりに悩んだようです。

 大学に入って,高校までに勉強していた付け焼刃のような極限や微積分の概念を,コーシー(Cauchy)が創始した,いわゆるε-δ論法に代表される近代無限小解析の手法で見直す,などと関連して,私的理解を助けるための,かなり細かい書き込みがノートのそこかしこにあります。

 当時,それらの見慣れない概念を受容するために,かなり悩んだ後が見られたりします。

例えば,前記事では煩雑になるので省略したα1*1*α=αの証明なども,かなり苦労してやっていたようです。

 

結局は|α|1*|α|を示せばいいわけですから,p∈|α|1*ならp=st;s∈|α|,t<1と書けるので,p=st<sですからp∈|α|,逆にp∈|α|ならq>p,q∈|α|なるqが存在してq>0 の場合p=q(q/p)よりp∈|α|1となるという簡単明快なものです。

 

この証明の記述1つにしても,元々はスミルノフ著の「高等数学教程」や高木貞治著の「解析概論」など比較的古い記述の書物を参照していて,最終的に,W.Rudinというテキストに到達したようです。

ところで,前記事では急いでいたせいもあって,肝心の最後の実数の連続性を保証する"デデキントの定理(Dedekind's theorem)"なるものが解析学にとって一体,何の意味を持つのか?ということなどについて書き漏らしていたので,ここに補足しておきます。

そもそも,前述の"デデキントの定理"は,"デデキントの切断(連続性)公理"と呼ばれることも多く,何もわざわざ有理数から無理数を含む実数を,"有理数の集合=切断"として定義する,という前記事のような手間をかけるほどのことはなく,単にこれを公理として受容してもよいくらいのものだともいえます。

要するに,実数に対して"デデキントの定理",あるいは"デデキントの切断公理"が成立すれば,上に有界な実数集合には上限,つまり最小上界があり,下に有界な実数集合には下限,つまり最大下界があることがいえる,ということが重要なのです。

 

結局,私など高校の数Ⅲでは証明なしでごまかしのような説明付きで無理に記憶させられていた,"変数が有界で単調に変動するなら,それには有限な極限値が存在する。"というような極限の存在についての法則もが証明できるようになる,というくらいの意味しかないのですね。

まあ,デデキントの切断など知らなくても,"上に有界な実数集合には上限=最小上界があり,下に有界な実数集合には下限=最大下界がある"ことを公理として,出発しても大した差はないのですが。。。

この定理,あるいは公理の効用について,さらに述べるなら実数の完備性くらいですかね。

 

つまり,実数によるコーシー列は必ず有限な極限値に収束する,という命題が成立するためには,実数の連続性が必要なんですね。

 

そして,結局,n次元ユークリッド空間Rnの完備性も実数の連続性に基づいて保証されるわけです。 

これらを具体的に述べるには,まず有界という言葉の定義から出発する必要があります。

[定義1](有界)

 実数の集合:E⊂Rがあるとする。

 

 実数y∈Rが存在して,∀x∈Eに対してx≦yが成立するとき,Eは上に有界であるといい,yをEの上界と呼ぶ。

 一方,実数z∈Rが存在して,∀x∈Eに対してz≦xが成立するとき,Eは下に有界であるといい,zをEの下界と呼ぶ。

 

 Eが上にも下にも有界であるときには,Eは有界であると言う。

実数から成る数列{xn}が有界であるとは,全てのxnの集合{xn:n=1,2,..}が有界であることを言う。

[定義2](上限,下限)

 実数の集合E⊂Rが上に有界であるとき,yがEの1つの上界でありx<yならxはEの上界とは成り得ないときには,yをEの最小上界=lubE(lub of E),あるいはEの上限=supE(sup of E)と呼ぶ。

 

 別の言い方をするなら,yはEの1つの上界であって,任意のε>0 に対してy-ε<x≦yなるx∈Eが存在するとき,yをEの上限と呼びy=supEと書く。

実数の集合:E⊂Rが下に有界のとき,zはEの1つの下界であってz<xならxはEの下界とは成り得ないとき,zをEの最大下界=glbE(glb of E),あるいはEの下限=infE(inf of E)と呼ぶ。

 

別の言い方をすれば,zはEの1つの下界であって,任意のε>0 に対してz≦x<z+εなるx∈Eが存在するとき,zをEの下限と呼びz=infEと書く。

[定理1](上限,下限)

 実数の集合:E⊂Rが上に有界でE≠φとする。このときEの上限supEが存在する。

 また,実数の集合E⊂Rが下に有界でE≠φとする。このときEの下限infEが存在する。

 

(証明)A≡{α∈R|α<xなるx∈Eが存在する。}とし,B≡Ac=R-Aとします。

 

 このとき,y∈AならyはEの上界では有り得ず,y∈Bなら,∀x∈Eに対してx≦yが成立するので,yはEの上界です。つまり,BはEの上界全部の集合になっています。

そして,明らかにA∪B=R⊂R,A∩B=φです。

 

また,E≠φなので,あるx∈Eが存在します。

 

そして,α∈Rはα<xならα∈AなのでA≠φです。

 

また,E⊂Rが上に有界なのでB≠φです。

 

それ故,デデキントの定理によってAが最大数を含むかBが最小数を含むかのいずれかです。

 

ところが∀α∈Aについて,α<xなるx∈Eが存在するのでこのxに対してα'≡(α+x)/2と置けばα<α'<xですからα<α'なるα'∈Aが存在するためAは最大数を持ちません。

 

したがってB=(Eの上界の集合)が最小数を持ちます。これはEの最小上界=Eの上限supEです。

後半のEの下限infEの存在についても同様なので,後半の証明に関しては省略します。

 

(証明終わり)

※よくある解析学や微積分学の初歩的なテキストでは,実数の集合が有界のとき上限,あるいは下限が存在するというこの定理を公理のように理論の出発点としているものもあるようです。

 

 我々のような物理屋であれば,必ずしもデデキンドの切断のような数学的に微妙な論題まで知る必要はないかも知れません。

[定理2] 実数から成る数列{xn}が有界で単調に変動するならば,これはn→ ∞に対して有限な極限値に収束する。

 

(証明) 数列{xn}が上に有界で単調非減少とすると,E≡{xn:n=1,2,..}は上に有界です。したがって上限β≡supEが存在して,xn≦β(n=1,2,..)が成立します。

 

 任意のε>0 が与えられたとすると,上限の定義によって,あるNが存在してβ-ε<xN≦βが成立します。

 

 そして{xn}は単調非減少数列なのでn≧NならxN≦xnです。 

したがって,n≧Nならβ-ε<xN≦xn≦βが成立します。つまり,n≧Nなら常に|β-xn|<εです。

 

これは,β=limn→∞nを意味します。

 

この場合には,極限値は上限に一致します。一方,数列{xn}が下に有界で単調非増加の場合に,{xn}が下限に収束することも,同様にして証明できます。

 

(証明終わり)

[定理3] 実数の有限区間の列:[a1,b1],[a2,b2],..,[an,bn],..が与えられ,どの区間も先行する区間に含まれるとする。

 

 つまり,[an,bn]⊂[an-1,bn-1],またはan≧an-1,かつbn≦bn-1とする。

 

 そしてn→ ∞ に対して区間の長さn≡bn-anがゼロに収束する,つまりcn0  as n→ ∞ のとき,数列{an}と{bn}は共通の極限値に収束する。(この有限区間の列は縮小区間列と呼ばれます。)

(証明) 仮定によって,a1≦a2≦..≦an-1≦an≦bn≦bn-1≦..≦b1です。したがって,数列{an}は上に有界で単調非減少なので,ある極限値αが存在してlimn→∞n=α≦b1です。

 

 limn→∞nlimn→∞(bn-an)=0 ですからlimn→∞nlimn→∞(an+cn)=αも得られます。

 

 (証明終わり)

[定理4](コーシーの収束判定条件(Cauchy's criterion))=(完備性)

 実数から成る数列{xn}が有限な極限値に収束するための必要十分条件は”予め与えられた任意の正の数εに対して,あるNが存在してm≧N,かつn≧Nなら|xm-xn|<εが成立する”ことである。

 

(証明) 必要性:{xn}が有限な極限値に収束するならば,"予め与えられた任意の正の数εに対して,あるNが存在してm≧N,かつn≧Nなら|xm-xn|<εが成立する"のは明らかです。

十分性を証明するため,"予め与えられた任意の正の数εに対して,あるNが存在してm≧N,かつn≧Nなら|xm-xn|<εが成立する"と仮定します。

 

仮定によって,あるN1が存在してm≧N1,かつn≧N1なら|xm-xn|<1ですから,k≧N1なら|xk-xN1|<1が成立します。

 

すなわち,k≧N1ならxN11<xk<xN11,あるいはxk[xN11,xN11]です。

 

同様にN2≧N1なるN2が存在して,k≧N2ならxN2(1/2)<xk<xN2(1/2),あるいはxk[xN2(1/2),xN2(1/2)]です。

そこで,これを繰り返して,m=1,2,..,,m-1,m,..について,Nm≧Nm-1≧..≧N2≧N1なるNmの列が存在して,k≧NmならxNm(1/m)<xk<xNm(1/m),あるいはxk[xNm(1/m),xNm(1/m)]と書くことができます。

 

そこで,am≡xNm(1/m),bm≡xNm(1/m)と置けばxk[an,bn] (n=1,2,..)であり,区間列{[an,bn]}は前定理3の仮定である実数の縮小区間列[a1,b1],[a2,b2],..,[an,bn]..に他なりませんから,数列{an}と{bn}は共通の極限値に収束します。

その共通の極限値をαとすれば,limn→∞nlimn→∞n=α,かつxk[an,bn]ですからlimn→∞n=αも成立します。

 

(証明終わり)

ここで,これらの実数空間Rにおける定理をn次元ユークリッド空間Rnに一般化してみます。

 

ユークリッド空間は1種の距離空間ですから,差し支えない場合には距離空間の言葉を用います。

[定義3](距離空間)

 のことを点と呼ぶ集合Xが距離空間であるとは,∀,∈Xに対して,これらの距離と呼ばれる実数d(,)≧0 が定まっていて,次の3つの性質を満たすことをいう。

 

 厳密にはXだけではなく(X,d)の組を距離空間と呼ぶ。

3つの性質とは,(a)ならd(,)>0;d(,)=0 (b)d(,)=d(,) (c)∀∈Xに対し,d(,)≦d(,)+d(,)です。

※例えばn次元ユークリッド空間:Rnなら(x1,x2,..,xn),≡(y1,y2,..,yn)∈Rnに対して,距離を絶対値で定義する,d(,)≡||≡{Σk=1n(xk-yk)2}1/2定義すれば,(Rn,| |)の組は距離空間になります。

以下,集合と言えば距離空間Xの部分集合であることを暗黙の了解事とします。

[定義4](有界)

 集合E⊂Xが有界であるとは,実数Mとある点∈Xがあって,∀∈Xに対してd(,)<Mが成立することをいう。

[定義5](収束点列)

 距離空間Xの点列{n}が収束するとは,ある点α∈Xが存在して,任意のε>0 に対して整数Nが存在してn≧Nならばd(n,α)<εが成立することをいう。

[定義6](コーシー列と完備性)

 距離空間Xの点列{n}がコーシー列であるとは,任意のε>0 に対し整数Nが存在してm≧N,かつn≧Nならd(m,n)<εが成立することをいう。

 そして距離空間Xの任意のコーシー列が収束するとき,Xは完備である,という。

定理4から実数の空間Rは完備であることがわかります。

 

 これを少し拡張すればn次元ユークリッド空間Rnも完備である,ことがわかります。

 

 一般の距離空間は必ずしも完備ではありませんが,あるコーシー列に関する同値類を作ることによって完備化することが可能です。

参考文献:Walter.Rudin「Principles of Mathematical Analyss」second Edition(McGrawHill)

 

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2008年2月10日 (日)

デデキントの切断(Dedekind cut)

 物理学関係についての話ばかり書くのも少し疲れたので,ちょっと数学に浮気します。

 

 それも19世紀の解析学の話で息抜きします。手抜きして,約39年も前の大学1~2年の頃書いたと思われる化石的なノートから引用します。

当時の私は学生運動クラブがメインで,その暇に細々,コツコツと数学の勉強をしていた程度でした。

 

専攻学科は理学部の物理学科でしたが,物理学に目覚めたのは大学院に入ってからで,大学5年間(1年留年)で自然科学関係で真剣に勉強したという記憶があるのは数学だけです。

  

必須単位を取って卒業できたのですから,物理学もやったのでしょうが,その成績は目茶目茶だったし,物理は試験前の一夜漬けくらいしか記憶にありません。

  

大学5年目の9月に幾つか他大学の大学院の物理学専攻を受けたのですが,物理学については1ヶ月か2ヶ月漬け程度の試験勉強でしたかね,入試の1つに合格したのも,恐らく数学の成績によるのでしょうね。

 

当時の参考書は洋書ですが,Walter.Rudin著の「Principles of Mathematical Analysis」でした。今取って見ると,McGraw-HillのRiprint版ですが,ボロボロですね。

  

後に共立出版から「現代解析学」というそれの訳が出ているはずですが,そちらは所持していません。

  

余談はさておき,以下本文です。

 

まだ,数としては有理数しか存在しない世界から実数という新しい実体を定義します。まず,Qを有理数全体の集合とします。

  

このとき,例えばp∈Q,かつp2=2を満たす元pは探しても存在せず,それ故,集合A⊂QをA≡{p∈Q|p≦0,またはp>0,かつp2<2}と定義すれば,Aには最大数が存在しないことが簡単な考察からわかります。

  

また,QにおけるAの補集合B≡Ac=Q-Aには最小数が存在しないこともわかります。

 

つまり,有理数体だけでは,数直線上には多くのギャップがあって,連続性は満たされないことがわかります。

 

そこで,こうしたことが"連続性を満たす新しい数=実数"の導入の動機付けとなるわけです。

 

まず切断の定義です。デデキント(Dedekind)が導入したので一般にデデキントの切断(Dedekind cut)と呼ばれています。

 

[定義 0]集合α⊂Qが次の3条件を満たすとき,αを切断という。

 (ⅰ)α≠φ,α≠Qである。(ⅱ)p∈α,q∈Q,かつq<pならばq∈αである。(ⅲ)αは最大数を含まない。つまり,∀p∈αに対してp<r,r∈αなるr∈Qが存在する。の3条件である。

 

[定理A1]p∈αであるがq∈αでないならp<qである。

  

(以下では"q∈αでない"という文については論理記号の否定:¬を用いて,"¬q∈α"と表現することもあります。)

  

(証明) (ⅱ)により,p∈α,q∈Q,かつq<pならq∈αです。

 

 またq=pなら,もちろんq∈αです。

  

 したがってq≦pならq∈αですから,q∈αでない(¬q∈α)ならp<qです。

  

 (証明終わり)

 

     上の定理の結果により,αの元をlower numberと呼び,有理数であってαに属さないものについてはαの元より大きいのでupper numberと呼びます。

 

[定理A2]r∈Qに対してα≡{p∈Q|p<r}と置くと,αは切断であって,rはαの最小のupper numberです。

  

(証明) αが(ⅰ),(ⅱ)を満たすのは自明です。(ⅲ)は∀p∈αに対してp<(p+r)/2<r,(p+r)/2∈αから明らかです。

 (証明終わり)

 

[定義1]上の定理で切断であると証明された集合αを特に有理数rに関する有理切断と呼び,これをr*で表わす。

 次は,大小関係(順序関係)の定義です。

 

[定義2] α,βを切断とするとき,これが集合として等しいとき,これらは等しいと言い,α=βと書く。

 

 またp∈βであるが,p∈αでないようなp∈Qが1つでも存在すればα<β,あるいはβ>αと書く。

 

 そして,α≦βなる表現は,α=βまたはα<βを意味し,α≧βはα=βまたはα>βを意味する。

[定理A3] α,βを切断とするとき,α=βかα<βをβ<αのいずれか1つが成り立ち,2つ以上同時に成り立つことはない。

 

(証明) 手順を追って定義を確かめるだけなので省略します。

[定理A4] α,β,γを切断とするとき,α<βかつβ<γならばα<γである。

 

(証明) これも手順を追って定義を確かめるだけなので省略します。

※注:これら切断と呼ばれる有理数集合の各々が1つ1つの実数の各々に同一視されて対応する,というのがデデキントの着想です。

 

 次に,四則演算です。

[定理1]α,βを切断とするとき,γ≡{p+q|p∈α,q∈β}と置けばγも切断である。

 

(証明)γが上記の3条件を満たすことを1つずつ順を追って示せばよくて論理的に簡単なので省略します。

 

 当時の私のノートには律儀に証明が書いてありますが,まあ,当時は初学者だったので当然ですね。。。

 

[定義3](加法:足し算)

 上記の定理1で切断であると証明されたγをα+βと書き,αとβの和と定義します。

[定理2](交換法則,結合法則,ゼロ元)

α,β,γを切断とする。

  

(a)α+β=β+α (b)(α+β)+γ=α+(β+γ)

(c)α+0=α が成立する。

 

(証明) (a),(b)の成立は自明です。

 

 そこで(c)の証明だけやってみます。

 

 まず,p∈α+0*とします。このとき,p=q+r;q∈α,r∈0*なるq,r∈Qが存在します。

 

 r∈0*より,r<0 ですからp=q+r<qです。

 

 したがって,p∈αが成立します。

 

 一方,逆にp∈αとするとαは切断ですから,p<q,かつq∈αなるq∈Qが存在します。

 

 このqによって,p=q+(p-q);q∈α,(p-q)∈0*と書けば,p∈α+0*であることがわかります。

 

 以上からp∈α+0* p∈α,すなわち,α+0*=αがいえます。

 

(証明終わり)

 ※結合法則:(α+β)+γ=α+(β+γ)が成立するので,以後(α+β)+γ=α+(β+γ)を単にα+β+γと表記することもあります。

[定理3]αを切断とし,r∈Qを任意の正の数(r>0)とする。

 

 このとき,r=q-pを満たすp,q∈Qであって,p∈α,¬q∈αでqはαの最小のupper numberではないものが存在する。

 

(証明) まず,α≠φなので,s∈αなる適当なsを取り,s≡s+nr(n=0,1,2,..)とします。

 

 このとき,s∈α,¬s+1∈αなるmが唯1つ存在するはずです。

 

 (こうしたmが存在しないと仮定すると,α=Qとなって切断であることに矛盾します。)

  

 そこで,p≡,q≡+1とおけば,p∈α,¬q∈αでq-p=rです。

 

 ただし,もしもq=+1がαの最小のupper numberなら,p≡+r/2,q=+1+r/2とします。

 

 (証明終わり)

[定理4](逆元の存在)

 αを切断とすときα+β=0*を満たす切断βが唯1つ存在する。

 

(証明) まず,α+β=0*を満たす切断βが存在するとしてその一意性から証明します。

 

 すなわち,α+β=α+β10*とするとβ10*+β1(α+β)+β1(α+β1)+β=0*+β=βです。

 次に,α+β=0*を満たす切断βの存在証明です。

 

 そのために,集合β≡{p∈Q|¬(-p)∈α,ただし(-p)はαの最小upper numberではない。}を作ります。

 

 そして,まず集合βが1つの切断であることを証明します。

 

 すなわち,βが切断条件(ⅰ),(ⅱ),(ⅲ)を満足することを示します。

 

 まず,(ⅰ)β≠φ,β≠Qは明らかです。

 

 (ⅱ)ですが,p∈β,q∈Q,かつq<pと仮定すると,(-p)<(-q)ですから,もしも(-q)∈αなら(-p)∈αとなり,¬(-p)∈αに矛盾します。そこで(ⅱ)も成立します。

 

 次に(ⅲ)です。p∈βであることは,(-p)がαの upper numberであることを意味しますが,最小upper numberではないので∃q∈Q,(-q)<(-p),かつ¬(-q)∈α,

 

 すなわち,¬(-q)∈α,かつp<qです。

 

 そこでr≡(p+q)/2とおけば,p<r<q,つまり(-q)<(-r)<(-p)なので¬(-r)∈αです。

 

 しかも(-r)はαの最小upper numberではありませんから,r∈β,かつp<rです。

 

 pはβの任意の元でしたから,βは最大数を含みません。

 

 これで(ⅲ)も成り立つことがわかりました。

したがって,βも切断ですから和の切断の有理数集合α+βが定義できます。

 

そしてp∈α+βとすれば,定義によってq∈α,r∈βが存在してp=q+rと書けます。

 

よってq∈α,¬(-r)∈αですが「定理A1:p∈α,¬q∈αならp<qである。」によれば,これからq<(-r)が結論されます。

 

これを移項すればp=q+r<0 となります。

 

それ故,結局p∈0* が結論されます。

 逆にp∈0* を仮定すると,0*の定義によりp<0 ,すなわち,(-p)∈Qは正の数:(-p)>0 です。

 

 ところが「定理3:αを任意の切断としてr∈Qを任意に与えられた正の数(r>0)とすると,r=q-pを満足し,かつp∈α,¬q∈αであってqはαの最小のupper numberではないような有理数の組p,qが存在する。」によれば,

 

 (-p)=(-r)-qを満足し,かつq∈α,¬r∈αであってrはαの最小のupper numberではないような有理数q,rの組が存在します。

 

 これは,p=q+r,かつq∈α,r∈βとできることを意味します。それ故,結局p∈α+βが結論されます。

 以上から,α+β=0*が成立することがわかりました。

 

 すなわち,α+β=0*を満たす切断βが確かに存在します。こうしたβが一意的であることは既にこの証明の最初で示しましたから,定理は全て証明されました。

 

 (証明終わり)

[定義4](逆元)

 上記の定理4で切断αに対して存在することが証明された切断βを(-α)と書きます。

[定理5] α,β,γを切断とするときβ<γならばα+β<α+γである。特にα>0*,かつγ>0*ならばα+γ>0* である。

 

(証明) 大小関係の定義2によってβ<γならばα+β<α+γであることは自明です。

 

 そして特にβ=0*としてα>0*,かつγ>0*とすれば,α+γ>α>0*となります

 

 (証明終わり)

[定理6]α,βを切断とする。このときα+γ=βを満たす切断γが唯1つ存在する。

 

(証明)γ≡β+(-α)とすると,α+γ=α+{β+(-α)}=0*+β=βです。そして定理5からγ1≠γならα+γ1≠α+γなのでα+γ=βを満たす切断γは一意的です。

 

 (証明終わり)

[定義5](減法:引き算)

 上記の定理5で切断α,βに対して存在することが証明された切断γ≡β+(-α)をβ-αと書き,αのβとの差と呼ぶ。

[定理6](乗法)

 α,βをα≧0*,かつβ≧0*なる2つの切断とする。このときγ≡{r∈Q|r<0 ,またはr=pq,p∈α,p≧0;q∈β,q≧0 }と置けばγは切断である。

 

(証明)証明は加法α+βと似たようなものなので省略します。

[定義6](乗法:掛け算)

 上記の定理6で切断α,βに対して定義された切断γをαβと表記し,αとβの積と呼ぶ。

 

 さらに任意の切断αについて,|α|≡α(if α≧0*),-α(if α<0*)と定義すると,|α|も1つの切断であって,明らかに|α|≧0*である。

 

 そして|α|=0*となるのはα=0*のとき,このときに限る。この|α|をαの絶対値と呼ぶ。

 α,βをα≧0*,かつβ≧0*ではない2つの切断とする。

 

 このときαβ≡-(|α||β|)(α<0*,かつβ≧0*,またはα≧0*,かつβ<0*),|α||β|(α<0*,かつβ<0*)によって積αβを定義する。積|α||β|については既に定義されている。

[定理7](加法と乗法の性質)

 α,β,γを切断とするとき,(a)αβ=βα (b)(αβ)γ=α(βγ) (c)α(β+γ)=αβ+αγ (d)α0*0* (e) αβ=0* ⇔ α=0* or β=0* (f)α1*=α (g)0*<α<β,かつγ>0*ならαγ<βγである。

 

(証明)これら全ての証明もコツコツやればできるので省略します。

[定理8](除法)

 αをα≠0*なる切断とする。また,βも1つの任意の切断とする。このときαγ=βなる切断γが唯1つ存在する。

[定義7](除法:割り算)上記の定理8で切断α(α≠0*),βに対して存在することが証明されたαγ=βなる唯一の切断γをβ/αと書き,βのαによる商と呼ぶ。

[定理9](有理切断)p,q,r,..etc.を有理数とする。このとき,(a)p*+q*(p+q)*,(b)p**(pq)* ,(c)p*<q* ⇔ p<q が成立する。

 

(証明)これも証明は略です。

[定理10]α,βをα<βなる任意の切断とする。このとき,α<r*<βなる有理切断r*が存在する。

 

(証明) α<βとします。定義によってp∈β,¬p∈αなるp∈Qが存在します。p<r,かつr∈βなるrを取ると,もちろん¬r∈r*ですから,r*<βです。またp∈r*,¬p∈αより,α<r*です。

 

(証明終わり)

[定理11]αを任意の切断する。このとき,p∈α ⇔ p*<αである。

 

(証明) p∈αのとき,¬p∈p*ですから,p*<αです。

 

 逆にp*<αのとき,q∈α,¬q∈p*なる有理数qが存在します。

 

 ¬q∈p*よりq≧pですからp∈αです。

 

 (証明終わり)

 かくして準備は整いました。

[定義8]各々の切断を実数と呼ぶ。有理切断は有理数と同一視する。

     以下,実数全体(切断全体)の集合をRとします。

[定理12](デデキントの定理)

 集合A,Bを次の性質を持つRの部分集合とする。

 

(a)R⊂A∪B (b)A∩B=φ (c)A≠φ,かつB≠φ (d)α∈A,β∈Bならばα<β である。

 

 このとき,α≦γ for ∀α∈A,かつγ≦β for ∀β∈Bなる唯一のγ∈Rが存在する。

 証明を実行する前に系も述べておきます。

[系] 定理12の仮定の元では,Aが最大数を含むか,Bが最小数を含むかのいずれかである。

 

(定理12の証明) γ≡{p∈Q|p∈α for some α∈A}と置きます。

 

 まず,このγが確かに切断であることを証明します。

 

 A≠φなので,α∈Aなるαが少なくとも1つは存在しますから,γ≠φです。

 

 一方,B≠φなので,β∈Bなるβも存在します。

 

 当然,∀α∈Aに対してα<βです。そしてβ≠Qより,¬q∈βなるq∈Qが存在します。

 

 このとき∀α∈Aに対して,α<βによって¬q∈αです。それ故, ¬q∈γです。

 

 以上から,切断条件(ⅰ)γ≠φ,かつγ≠Qが満たされることがわかりました。

次に,p∈γ,q<pと仮定します。p∈α for some α∈Aですからこのαに対して切断の定義によりq∈αです。それ故,q∈γです。

 

これで切断条件(ⅱ)も成立します。

また,p∈γとすると,p∈α for some α∈Aです。

 

切断の定義によりq>pなるq∈αが存在します。よって,q>pなるq∈γが存在します。

 

これで切断条件(ⅲ)も成立します。

以上でγは1つの切断であることが示されました。

 

したがってγは実数です。γ∈Rですね。

 

そしてγの定義から明らかに∀α∈Aに対してp∈αならp∈γですからα≦γです。

 

一方,もしあるβ∈Bについてβ<γなら,あるp∈Qが存在してp∈γ,かつ¬p∈βです。

 

p∈γより,あるα∈Aに対しp∈αなります。

 

このαについては,p∈α,かつ¬p∈βですから,これはβ<αを意味します。

 

これは∀α∈Aに対してα<βという前提に矛盾します。

以上から,∀β∈Bについてγ≦βです。以上で定理の前半の存在証明は終わりました。

 

一方,上記γと同じ性質の実数(切断)γ12が存在して大小関係がγ1<γ2であるとすると,定理10によってγ1<γ3<γ2を満たすγ3∈Rが存在しますが3<γ2よりγ3∈A1<γ3よりγ3∈B,つまりγ3∈A∩B=φとなって矛盾です。したがって一意性も証明されました。

系については定理12のγがAの最大数かBの最小数になることは自明であり,前提(a)によってどちらか一方しか起こり得ないことは明らかです。

 

(証明終わり)

 まだ,ちょっとあるのですが,とりあえずここまでで終わります。

 丁度10年くらい前ですか,池袋の電子専門学校で非常勤講師をしていた時代に,数学の微積分学を教えて欲しいと頼まれたことがあります。

 

 そのとき,つい教科書を無視して,このノートの内容などを講義してしまいました。

  

 指導教官に漏れて注意を受けた末に次年度からは数学の講義をはずされてしまいました。

 

 微積分の計算だけ教えてくれればいいということでしたね。計算も確かに教えましたが,ちょっとハメをはずしたかも知れません。

当時の相手は40人余りのクラスの生徒で確か臨床工学科でしたか?女子の方がやや多かったような記憶がありますが,生徒は私の講義を結構面白がっていたと感じたのですが。。

 

まあ,将来の役には立たない念仏講義なので,結局は迷惑だったかも知れませんね。

 

物理の講義でもちょっと私的な趣味に走ったことがありましたが,物理の講師は不足していたらしくて,幸いクビにはなりませんでした。

参考文献:Walter.Rudin「Principles of Mathematical Analysis」second Edition (MacGrawHil)

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2007年8月17日 (金)

代数学の基本定理

コーヒー・ブレイクとして,ガウスの代数学の基本定理="複素係数の多項式は,それが定数でなければ複素数体の中に必ず零点を持つ。"の証明について記述してみます。 

 まず普通の証明です。 

(証明)あるzの多項式f(z)=a0+a1z+..+aNN=Σn=0Nnn (0,N≧1)が任意に与えられたとき,これが複素数体の中に零点を持たないと仮定すると,g(z)≡1/f(z)は全体で正則です。

 ところが十分大きい正の数Rに対して|z|≧Rなら|f(z)|/|z|N=|N+a1/z+..+0/N|≧|N|-|a1/z+..+0/N|≧|N|/2となります。

 

 すなわち,|f(z)|≧|NN|/2なので,|(z)|=1/|f(z)|≦2/|NN|≦2/|NN|,つまりg(z)は|z|≧Rで有界です。

 

 そこで,閉領域|z|≦Rでの|g(z)|の最大値をMとすると,|z|≦Rなら|g(z)|≦M,|z|≧Rなら|g(z)|≦2/|NN|です。よって,gは全体で有界です。

 ところが最大絶対値の原理によって,gは全体で正則(つまり整関数),かつ有界なのでこれは定数です。これは(z)=1/(z)=Σn=0Nnn において0,N≧1であるという仮定と矛盾します。したがってfはに零点を持ちます。(証明終わり)

 以上の証明が,通常,複素関数論の初学者が教えられる一般的な証明でしょう。 

 ここで,"有界な整関数は定数しかない。"という命題が最大絶対値の原理に帰すると書きましたが,最大絶対値の原理というのは"fを領域Dの上の正則関数とするとき,|f|がDで最大値を取るならばfは定数である。"というものです。

こうした複素関数論における定理の出発点は大体においてコーシーの積分定理にあります。

 

これは,"領域Dで正則な関数fがあってCをDの内部にあって正の向きにまわる閉曲線の経路とするときCが1点にホモトープ(領域の場合は単連結と同義)なら∫Cf(z)=0 である。"という定理です。

これと,∫|z-α|=ρdz/(z-α)=2πiという計算式から,"Cを単純閉曲線としαはCの上にない点とすると,αがCの囲む領域の内部にあれば∫Cdz/(z-α)=2πi, αがCの外部にあれば∫Cdz/(z-α)=0 である。"という命題が成立します。

 

したがって,fを領域Dで正則な関数としCを単純閉曲線としてCとその内部(C)がDに含まれるとき∀z∈(C)に対してf(z)={1/(2πi)}∫Cdζ[f(ζ)/(ζ-z)]という積分表示が成立します。

そして,f(z)を滑らかな単純閉曲線C上で連続な関数であるとしてC上にない点z∈D対して関数φ(z)≡∫Cdζ[f(ζ)/(ζ-z)]を定義します。

 

このとき,Cの上にない点αに対し,Rα≡inf{|ζ-α|:∀ζ∈}とおけば 0<ρ<Rαなる任意のρについて,|z-α|≦ρなら1/(ζ-z)=1/[(ζ-α)-(z-α)]={1/(ζ-α)}[1/{1-(z-α)/(ζ-α)}]=Σn=0(z-α)n/(ζ-α)n+1が成り立ちますから,f(ζ)/(ζ-z)=Σn=0(z-α)n{f(ζ)/(ζ-α)n+1}となります。

右辺は∀ζ∈に関して一様収束するので,an≡∫Cdζ{f(ζ)/(ζ-α)n+1}とおくと,|z-α|≦ρならφ(z)=∫Cdζ[f(ζ)/(ζ-z)]=Σn=0n(z-α)nとベキ級数展開ができます。

 

ところが,関数φ(z)が|z-α|≦ρで絶対かつ一様収束するベキ級数に展開可能なとき,φ(z)はαの近傍で無限回微分可能です。そして関数の"ベキ級数=Taylor級数"の展開係数の一意性によってan=φ(n)(α)/n!=∫Cdζ{f(ζ)/(ζ-α)n+1}なる等式が成立します。

一方,先に述べたように,"fを領域Dで正則な関数としCを単純閉曲線としてCとその内部(C)がDに含まれるとき,∀z∈(C)に対してf(z)={1/(2πi)}∫Cdζ[f(ζ)/(ζ-z)]が成立する。"という定理があります。

 

そこで,f(z)は∀α∈Dに対して|z-α|<Rα=inf{|ζ-α|:∀ζ∈}で一意的にf(z)=Σn=0n(z-α)nとベキ級数に展開できて,an=f(n)(α)/n!={1/(2πi)}∫Cdζ{f(ζ)/(ζ-α)n+1}が成立することがわかります。

したがって,f(z)が円板N(α;R)≡{z:|z-α|<R}において正則であるとすると,f(α)={1/(2πi)}∫|z-α|=ρ[f(z)/(z-α)]dz;0<ρ<Rと表現されます。

 

z=α+ρe;0≦θ≦2πと書けば,f(α)={1/(2π)}∫0f(α+ρe)dθ;0<ρ<Rと変形されます。

 

これはいわゆる平均値の定理ですが,これから絶対値についての不等式として|f(α)|≦{1/(2π)}∫0|f(α+ρe)|dθ;0<ρ<Rが得られます。

fを領域Dの上の正則関数とするとき,|f|がα∈Dで最大値を取るとすると,∀z∈Dに対して|f(z)|≦|f(α)|です。

 

そこで,N(α;R)={z∈C:|z-α|<R}⊂Dとなるように半径Rを取ると 0<ρ<R なるρに対して|f(α)|≦{1/(2π)}∫0|f(α+ρe)|dθ≦|f(α)|と書けます。

 

よって 0<ρ<R なる任意のρについて,中心がαで半径がρの円周上では,|f(α+ρe)|=|f(α)|ですから,z∈N(α;R)なら|f(z)|=|f(α)|=一定です。すなわち,円板N(α;R)において|f|は定数です。

このときf≡u+iv(u=Ref,v=Imf)とおくと|f|2=u2+v2であり,これが定数ですからu・ux+v・vx=u・ux-v・uy=0 かつ,u・uy+v・vy=u・uy+v・ux=0 から直ちにux=uy=vx=vy=0 が得られるので,結局N(α:R)においてf自身が定数です。

 

したがって,一致の定理によってfはD全体で定数となることがわかります。

こうして,"fを領域Dの上の正則関数とするとき,|f|がDで最大値を取るならばfは定数である。"という最大絶対値の原理を得ました。

 

ここでfが整関数の場合にはfが正則関数である領域Dとして,無限遠点を除く複素平面全体={z;|z|<∞}を採用できます。

 

そして,そのとき|f|がDで最大値を取るという命題はfがで有界であることと同じですから,結局,"有界な整関数は定数である。"という定理が得られます。

  

これをリウヴィルの定理(Liouville)といいます。

ついでに一致の定理ですが,これは解析接続という概念の元になるもので,"f,gが領域Dで正則とする。Dの部分集合Aのあらゆる点zで(z)=g(z)が成立し,Aのある集積点がDに含まれるならばD全体でf=gである。"というものです。

 

一応これも証明しておきましょう。 

(証明)仮定によって,Aのある集積点がDに含まれるので,αをα∈DなるAの集積点とします。

 

 αに収束するAの点列{zn}n=1,2,..⊂Aが存在して,φ≡f-gとおくとφ(zn)=0 (n=1,2,..)が成立します。

 

 φはDで正則ですから,その連続性によってφ(α)=limn→∞φ(zn)=0 です。しかし,"D全体では,φ≠0 である,つまり,φ(z)≠0 なるz∈Dが存在する。"として矛盾を導きます。

ここでφ(n)(α)=0 (n=0,1,2,..)である場合を考えます。

 

そしてある任意の点ζDを選びζとαをD内の折れ線Cで結びます。Dは領域ですから開集合であり,それ故,Cの点はすべてDの内点ですが,CはDの有界閉集合なのでコンパクトです。つまりCの有限個の点を中心としてDに含まれる有限個の開近傍の集合で閉曲線Cを被覆することができます。

 

したがって折れ線Cと境界∂Dとの距離をd≡inf{|ζ1-ζ2|:ζ1∈C,ζ2∈∂D}とすると,これはゼロではなくて正:d>0 です。

 

ここで,C上に十分多くの有限個の点α=z0,z1,..,zp-1,zp=ζを取って,|zj+1-zj|<d (j=0,1,2,..,p-1)が満たされるようにします。そして,Δ≡{z∈:|z―zj|<d}(j=0,1,2,..,p-1)と置きます。

円Δ0:|z-α|<d内ではz∈Dとなるので,そこでφは正則です。それ故,φを展開しφ(z)=Σn=0n(z-α)nとすれば,全てのnについてan=φ(n)(α)/n!=0 と書けるので,Δ0内ではφ=0 です。

 

したがって,z1∈Δ0でも全てのnについてφ(n)(z1)=0 (n=0,1,2,..)となります。

同様に,円Δ1:|z-z1|<d内でφを(z-z1)のベキ級数に展開することでΔ1内ではφ=0 を得ます。

 

それ故,z2∈Δ1でφ(n)(z2)=0 (n=0,1,2,..)が得られます。これを繰り返していって,結局Δp-1でφ=0 となり,ζ=zp∈ΔP-1なのでφ(ζ)=0 を得ます。

 

ζはD内の任意の点であると仮定していましたから,結局φ(n)(α)=0 (n=0,1,2,..)である場合にはD全体でφ=0 である,という結論が得られます。

一方,Dで恒等的にφ=0 というわけではなくて,αは正則関数φの単なる零点であるとするならばφ(k)(α)=0(k=0,1,...m-1),φ(m)(α)≠0 となるある正の整数mが存在するはずです。このときαはφのm位の零点である,あるいはmは零点αの位数であるといいます。

 

そして,φのαの近傍Uでの展開はφ(z)=Σn=mn(z-α)n=(z-α)mΣk=0m+k(z-α)k;am≠0 となりますからψ(z)≡Σk=0m+k(z-α)kとおけばψ(z)はαの近傍Uで正則であってψ(α)≠0 であり,φ(z)=(z-α)mψ(z)と書けます。

ところでφ(α)=0 となることはわかっていて,φ0 と仮定したので,ある正の整数mが存在してαの近傍Uで正則かつψ(α)≠0 なるψを用いてφ(z)=(z-α)mψ(z)と表わせます。

 

そして,十分大きいnに対しzn≠αはUに含まれますから,φ(zn)=(zn-α)mψ(zn)=0 です。

 

よって,十分大きいnでψ(zn)=0 が成立します。

したがって,ψの連続性によってψ(α)=limn→∞ψ(zn)=0 となりますから,これはψ(α)≠0 に矛盾します。

 

要するに,収束する点列の上で正則関数φの値が常にゼロというのは,φのあらゆる導関数もまたゼロなることを意味しているわけです。

 

したがって,D全体でφ=f-g=0 :つまりf=g,あるいはfとgが一致するという定理の結論が得られました

 

(証明終わり)

しかし,私が学生時代に初めて大学で函数論を履修したときに代数学の基本定理の証明として教わったものは,もっと複雑なルーシェの定理によるもので,講義を受けたその場ですぐには理解できませんでした。

「Dをの有界領域としfをD上の正則関数,CをD内で1点にホモトープな閉曲線でその上にはfの零点はないものとする。gをD上の正則関数でC上で|g(z)|<|f(z)|と仮定する。このときCの囲むfの零点の個数と(f+g)の零点の個数は等しい。」というのがルーシェの定理です。

 

これの証明に取りかかる前にそのために必要な予備知識や補助的定理などについて考察します。

 まず,有理型関数というものを定義します。

 

 "Dをの領域とする。D内では特異点を持っても極に過ぎないような関数をD上の有理型関数と呼ぶ。"というものです。 

そして,α∈とρ1<ρ2≦∞ に対し円環領域:R(α;ρ12)≡{z∈:ρ1<|z-α|<ρ2}の上でfが正則関数であるとします。

 

このとき,fはR(α;ρ12)においてf(z)=Σn=-1-∞n(z-α)nΣn=0n(z-α)nΣn=-∞n(z-α)nと展開されます。

 

この展開をfのローラン展開(Laurent expantion)と呼びます。

 

この級数の収束は絶対かつ広義一様収束です。

これを証明するために,z∈R(α;ρ12)を任意に取りρ1',ρ2'をρ1<ρ1'<|z-α|<ρ2'<ρ2となるように取ります。また,ρ>0 をρ<d≡inf{|z-ζ|:ζ∈∂R(α;ρ12)}なる値に取ります。

そして点α+ρ1'ei(argz)からαを中心として半径ρ1'の円を反時計回りに一周する曲線をC1,α+ρ1'ei(argz)から,α+(|z-α|-ρ)ei(argz)へ向かう線分をC2,α+(|z-α|-ρ)ei(argz)から時計回りにα+(|z-α|+ρ)ei(argz)まで半周する曲線をC3,α+(|z-α|+ρ)ei(argz)からα+ρ2'ei(argz)に向かう線分をC4,α+ρ2'ei(argz)から半径ρ2'の円を反時計回りに一周する曲線をC5,α+(|z-α|+ρ)ei(argz)から時計回りにα+(|z-α|-ρ)ei(argz)まで半周する曲線をC6とします。

このとき,R(α;ρ12)-{z}内でC≡-C1+C2+C3+C4+C5-C4+C6-C2は1点にホモトープなので,∫Cdζ[f(ζ)/(ζ-z)=0 です。

 

それ故,f(z)={-1/(2πi)}∫C3+C6dζ[f(ζ)/(ζ-z)]={-1/(2πi)}∫C1dζ[f(ζ)/(ζ-z)]+{1/(2πi)}∫C5dζ[f(ζ)/(ζ-z)]です。

1上では|(ζ-α)/(z-α)|<1で,-1/(ζ-z)=-1/{(ζ-α)-(z-α)}={1/(z-α)}[1/{1-(ζ-α)/(z-α)}]=Σn=0(ζ-α)n/(z-α) n+1ですから,f(ζ)/(ζ-z)=Σn=0(ζ-α)nf(ζ)/(z-α)n+1です。

 

それ故,{-1/(2πi)}∫C1dζ[f(ζ)/(ζ-z)]=Σn=-1-∞[{-1/(2πi)}∫C1dζ(ζ-α)-n-1f(ζ)](z-α)nとなります。

同様にC5上では|(z-α)/(ζ-α)|<1ですから,{1/(2πi)}∫C5dζ[f(ζ)/(ζ-z)]=Σn=0[{1/(2πi)}∫C5dζ(ζ-α)-n-1f(ζ)](z-α)nとなります。

そして,(ζ-α)-n-1f(ζ)は∀ζ∈R(α;ρ12):ρ1<|ζ-α|<ρ2なるζに関して正則ですから,∫C1dζ(ζ-α)-n-1f(ζ)=∫C5dζ(ζ-α)-n-1f(ζ)です。

 

よって,全ての整数nに対してan≡∫|ζ-α|=ρdζ(ζ-α)-n-1f(ζ);ρ1<ρ<ρ2の値はρの取り方に依らないことになります。つまりanはwell-definedになります。

そしてこの展開係数anによって,fは確かにR(α;ρ12)でローラン展開されてf(z)=Σn=-1-∞n(z-α)nΣn=0n(z-α)nΣn=-∞n(z-α)nと表現されることがわかりました。

そこで"f(z)がD上の有理型関数である。"というのは∀α∈Dについて,αを除くαの近傍でのfのローラン展開f(z)=Σn=-∞n(z-α)nにおいて,n<0 についてan≠0 なるものが有限個しかないこと,つまりαが高々m位の極であって,f(z)=Σn=-mn(z-α)n=a-m/(z-α)m+a-m+1/(z-α)m-1+..+a0+..と表わされることを意味します。

このときローラン展開の展開係数a-1を特にfのαでの留数と呼びRes(α;f)と書きます。

 

そして,ρ>0 が十分小さいときには実際に級数を項別積分すると{1/(2πi)}∫|ζ-α|=ρf(ζ)dζ=a-1となるので,Res(α;f)={1/(2πi)}∫|ζ-α|=ρf(ζ)dζが成立します。

特異点αが無限遠点=∞ のときには,z~≡1/zとおいてfのローラン展開をf(z)=Σn=-∞nnΣn=-∞-n~n ≡f~(z~)と置き,fの ∞ での留数をRes(∞;f)=-a-1={1/(2πi)}∫|1/ζ|=ρf(ζ)dζ={1/(2πi)}∫|1/ζ|=ρf~(1/ζ)d(1/ζ)で定義します。

αが1位の極のときには,Res(α;f)=limz→α(z-α)f(z)によって,具体的にfのαでの留数を求めることができます。

 

また,αがm位の極(m≧2)のときには,Res(α;f)={1/(m-1)!}[(dm-1/dzm-1)(z-α)mf(z)]z=αによって,fのαでの留数が求められます。

ここで,D上の有理型関数f(z)に対して対数微分(df/dz)/f=d(logf)/dzを考えると,α∈Dがfの零点でも極でもないなら,(df/dz)/fはα∈Dで正則です。

しかし,α∈Dがfのm位の零点なら,α≠∞ のとき,f(z)=Σn=mn(z-α)n,df/dz=Σn=mnan(z-α)n-1なので,(df/dz)/f=m/(z-α)+Σn=0n(z-α)nと表わせます。

 

よって,Res(α;(df/dz)/f)=mです。同様にα=∞ のときにもRes(∞;(df/dz)/f)=m を得ることができます。

また,α∈Dがfのp位の極ならα≠∞ のとき,f(z)=Σn=-pn(z-α)n,df/dz=Σn=-pnan(z-α)n-1なので,Res(α;(df/dz)/f)=-pです。同様にα=∞ のときも,Res(∞;(df/dz)/f)=-pを得ます。

それ故,CをD内で1点にホモトープな閉曲線であって,その上にはfの零点も極もないとき,Cが囲むDの領域内にfのmν位の零点αν(ν=1,2,..), およびpμ位の極βμ(μ=1,2,..)があるとすれば,{1/(2πi)}∫C(df/dz)/{f(z)}dz=Σmν-Σpμと表わすことができます。

さらに,d(logf)=(df/dz)/{f(z)}dzより,{1/(2πi)}∫C(df/dz)/{f(z)}dz={1/(2πi)}[(logf)]C=[argf]C/(2π)ですから,この積分はzが閉曲線Cをまわるときの"fの偏角:argfの変化を(2π)で割ったもの=回転数"を表わしていると考えられます。

さて,ルーシェの定理="Dをの有界領域としfをD上の正則関数,CをD内で1点にホモトープな閉曲線でその上にはfの零点はないものとする。

 

gをD上の正則関数でC上で|g(z)|<|f(z)|と仮定する。

 

このとき,Cの囲むm位の零点をm個と重複して数えると,fの零点の個数と(f+g)の零点の個数は等しい。"ことを証明します。

(証明)f,gはD上の正則関数なので,fも(f+g)もCの囲む領域に零点は持っていても極を持つことはありません。

 

m位の零点をm個と重複して数えたときのfの零点の総数をMとすると,(f+g)の零点の総数M'はM'={1/(2πi)}∫C{(f'+g')/(f+g)dz={1/(2πi)}∫C[(f'/f)+(g/f)'/{1+(g/f)}]dz=M+{1/(2πi)}∫C[(g/f)'/{1+(g/f)}]dz=M+{1/(2πi)}∫C(h'/h)dzとなります。ここでh≡{1+(g/f)}とおきました。

ところが,C上で|g/f|<1ですから,|1+(g/f)|≦1+|g/f|<2,かつ|1+(g/f)|≧1-|g/f|>0です。したがって,h={1+(g/f)}はC上に零点も極も持ちません。

またC上で|1-h|<1ですから,点1からhまでの距離は常に1より小さいことになります。そこでzがC上を1回転するときhがloghの分岐点h=0 のまわりを回転することは決してありません。

 

それ故,∫C(h'/h)dz=0 です。

 

以上から,結局M'=Mであることが示されました。

 

(証明終わり)

そこで,zのN次多項式f(z)=a0+a1z+..+aNN=Σn=0Nnn (0,N≧1) が任意に与えられたとき,(z)=aNN+g(z) (0,N≧1)とおけば,正則関数NN はN位の零点としてz=0 があるだけなのでNNの零点の総数はNです。

 

そしてルーシェの定理の閉曲線Cを円:|z|=Rに取れば,Rが十分大きいときにはC上で|(z)|<|NN|ですから,この定理によって任意のN次多項式は丁度N個の零点を持つことが結論されます。 

 参考文献:野口潤次郎 著「複素解析概論」(裳華房);岸 正倫,藤本担孝 共著「複素関数論」(学術図書);Benjamin Fine,Gerhard Rosenberger 著(新妻弘,木村哲三 訳)「代数学の基本定理」(共立出版) 

 

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2007年8月11日 (土)

リーマン予想と素数定理

素数定理π(x) ~ x/logxは現在も未解決のリーマン予想=R.H(Riemann hypothesis)の解決を待つまでもなく既に証明されていますが,リーマン予想が元々は精密な素数定理を導くことをその目的としていたことはよく知られています。

 

しかしゼータ関数の零点が素数の個数分布π(x)と具体的にはどのように結びつくのか,の詳細については知らなかったので,ちょっと調べてみました。

2006年10/30に「ベルヌーイ数とゼータ関数」,10/31には,その続編「ベルヌーイ数とゼータ関数(その2)」という記事を書きました。 http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2006/10/post_d00d.html 

 

そこでは,整数のべき乗数列の有限和のベルヌーイ数による表現として,オイラー・マクローリン(Euler-Maclaulin)の和公式を与えました。

 

すなわち,s≠1なら∑n=1N(1/ns)=(1-1/Ns-1)/(s-1)+(1/2)(1+1/Ns)+∑k=1M-1[Bk+1/(k+1)!](s)k(1-1/Ns+k)-{(s)M/M!}1NM(x-[x])x-s-Mdxなる公式です。(ただし,Mは任意の自然数,Brはベルヌーイ数,(s)k≡s(s+1)...(s+k-1)です。)

そしてリーマンのゼータ関数ζ(s)は,Re(s)>1の複素数sに対し,ζ(s)≡∑n=1(1/ns)で定義されるのですが,上のオイラー・マクローリンの和公式の右辺は,この範囲では絶対収束すします。

 

そこで,両辺のN→ ∞ の極限を取ると,ζ(s)=∑n=1(1/ns)=1/(s-1)+1/2+∑1M-1[Bk+1/(k+1)!](s)k-{(s)M/M!}1M(x-[x])x-s-Mdx;(Re(s)>1)という表現式が得られます。

ところが,右辺の積分式の方はRe(s)>(1-M)の範囲で絶対収束するので,右辺によって,ゼータ関数ζ(s)はRe(s)>(1-M)の範囲のsに自然に解析接続されます。

 

Mは任意の自然数ですから,ζ(s)はs=1に"特異点=1位の極"を持つだけで,この点を除く全複素s平面に解析接続されます。

そこで,今日はまずリーマンの原論文に従ってsと1-sの交換に対して不変な関数:π-s/2Γ(s/2)ζ(s)を考察することから始めます。

オイラーのΓ関数の定義Γ(s)≡∫0s-1exp(-x)dxに部分積分を繰り返すことによって,等式Γ(s)/ns=∫0s-1exp(-nx)dxが得られます。

 

これから,Γ(s)ζ(s)=∫0[xs-1/{exp(x)-1}]dxが成立することがわかります。

 

そこで,積分∫0[(-x)s-1/{exp(x)-1}]dxの積分路が囲む1位の極x=±2πniの留数の寄与を考えると,2sin(πs)Γ(s)ζ(s)=(2π)sΣ1s-1[is-1+(-i)s-1]=(2π)sζ(1-s)2sin(πs/2)を得ます。

公式:Γ(s)Γ(1-s)=π/sin(πs)より,sin(πs)=π/[Γ(s)Γ(1-s)],sin(πs/2)=π/[Γ(s/2)Γ(1-s/2)]ですから,ζ(s)/Γ(1-s)=(2π)sζ(1-s)/[Γ(s/2)Γ(1-s/2)]となります。

 

一方,ルジャンドルの関係式Γ(s)=2s-1π-1/2Γ(s/2)Γ((s+1)/2)より,Γ(1-s)=2-sπ-1/2Γ((1-s)/2)Γ(1-s/2)です。

 

結局,関数等式:π-s/2Γ(s/2)ζ(s)=π-(1-s)/2Γ((1-s)/2)ζ(1-s)が得られます。よって,確かにπ-s/2Γ(s/2)ζ(s)はsと1-sの交換について対称であることがわかりました。

 さて,Γ(s)/ns=∫0s-1 exp(-nx)dxと同様にして,部分積分により,π-s/2Γ(s/2)/ns=∫0s/2-1exp(-n2πx)dxが得られます。

 

 そこで,ψ(x)≡Σn=1exp(-n2πx)(← これは今日では,ヤコービのテータ関数と呼ばれている。)を定義すれば,π-s/2Γ(s/2)ζ(s)=∫0s/2-1ψ(x)dxとなります。

ここで,ψ(x)の既知の性質:2ψ(x)+1=x-1/2{2ψ(1/x)+1}を用いると,π-s/2Γ(s/2)ζ(s)=∫1s/2-1ψ(x)dx+∫01(s-3)/2ψ(1/x)dx+(1/2)∫01(x(s-3)/2-xs/2-1)dx=1/{s(s-1)}+∫1(xs/2-1+x-(1+s)/2)ψ(x)dxとなります。

 

そして,これの右辺第2項の積分は全てのsについて正則なので,結局π-s/2Γ(s/2)ζ(s)は,s=0,1の1位の極を除いて全s平面で正則であることがわかります。

一方,ガンマ関数のよく知られた性質から,Γ(s/2)はs=-2,-4,...に1位の極を持ちますが,π-s/2Γ(s/2)ζ(s)はそこで正則で,しかもゼロではないので,ζ(s)がs=-2,-4,...に重複度1の零点を持つことがわかります。

 

これをζ(s)の自明な零点といいます。

 

先に述べたオイラー・マクローリンの和公式でも,mを自然数とするとき,ζ(1-m)=-1/m+1/2+∑1m-1[Bk+1/(k+1)!](1-m)(2-m)...(k-m)と書けることから,m=3,5,...ではζ(1-m)=ζ(1-m)=-Bm/m=0 となることがわかります。

 

しかも,ζ(1-m)/(1-m)≠0 ですから,これら自明な零点は重複度が1であることがわかります。

いずれにしても,ζ(s)の自明な零点はΓ(s/2)の極によって相殺されます。

 

そしてΓ(s/2)は零点を持ちませんから,π-s/2Γ(s/2)ζ(s)の全ての零点は,ζ(s)の自明でない全ての零点と完全に一致します。

2006年10月24日「素数を分母とする循環小数とその周辺」,および10月25日「素数定理への入り口」において,オイラーによるゼータ関数ζ(s)の素数pによる無限積表示(オイラー積)ζ(s)=Πp=素数(1-p-s)-1を紹介して,これによってlog{ζ(s)}=-Σlog(1-p-s)が成立することを既に記述しています。

 

http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2006/10/10_285f.html http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2006/10/post_62be.html

そしてs=σ+iτ(σ,τは実数)とおけば,|p-s|=pであり,σ>1 のときには,-Σlog(1-|p-s|)=-Σlog(1-p)≦Σp<∞ です。

 

つまりσ=Res>1なら,log{ζ(s)}=-Σlog(1-p-s)は有限なので,Res>1 には,"ζ(s)の零点=π-s/2Γ(s/2)ζ(s)の零点",は存在しないことがわかります。

また,関数等式:π-s/2Γ(s/2)ζ(s)=π-(1-s)/2Γ((1-s)/2)ζ(1-s)によるsと(1-s)の交換対称性から,Re(1-s)>1はRes<0 と同値ですから,結局 Res<0 にもRes>1にもπ-s/2Γ(s/2)ζ(s)の零点は存在しないことがわかります。

 

つまり,"π-s/2Γ(s/2)ζ(s)の零点=ζ(s)の自明でない零点"は存在すれば,0≦Res≦1の領域にしか存在しません。

ここで唐突ですが複素関数論で現われる正則関数の零点に関するワイエルシュトラス(Weierstrass)の標準形を考えます。

 

これは,正則関数f(z)が重複度も含めてn個の零点a1,a2,..,anを持てば,f(z)の一般形はg(z)を整関数として,f(z)=exp{g(z)}(z-a1)(z-a2)...(z-an)と書けることを意味します。

 

しかし,このままではn→ ∞ に移行するときに不便なので,これをak≠0 なる全ての零点について(-ak)で割ります。

 

mをak=0 なる零点の重複度とすると,Σn|1/an|<∞ ならばn→ ∞ では,f(z)=zmexp{g(z)}Πan≠0(1-z/an)という形に書けると述べる定理が成立します。

しかし,一般にはΣn|1/an|<∞ が成立するとは限りません。

そこで,より一般的な展開式は,mn∀t>0 に対してΣn{2/(mn+1)}|t/an|mn+1<∞ なる最小の正の整数とするとf(z)=zmexp{g(z)}Πan≠0[(1-z/an)exp{(z/an)+(z/an)2/2+...+(z/an)mn/mn}]と書けるという式になります。

  

これが"ワイエルシュトラスの標準形"です。

 

特に,z= 0 がf(z)の零点ではなく,Σn|1/an|=∞,Σn|1/an|2<∞ の場合には,f(z)=Cexp(Bz)Πan≠0[(1-z/an)exp(z/an)]と表わすことができます。

ここでは「Weierstrassの因数分解定理と有理型関数」というmurakさんのホームページのpdf情報を参照しました。http://homepage3.nifty.com/mkdragon/studies/etc/meromorphic.pdf

これによると,s(1-s)π-s/2Γ(s/2)ζ(s)は全s平面で正則で,その零点=ζ(s)の自明でない零点ρ,は全て単根でρ≠0 であり,Σρ|1/ρ|=∞,Σn|1/ρ|2<∞なので,s(1-s)π-s/2Γ(s/2)ζ(s)=Cexp(Bs)Πρ[(1-s/ρ)exp(s/ρ)]と表現できます。

この両辺でs→ 0 とすると,sΓ(s/2)ζ(s)→ 2ζ(0)=-1 なのでC=-1 です。またs→ 1 とすると(1-s)π-s/2Γ(s/2)ζ(s)→ -1 なので,1=exp(B)(1-1/ρ)exp(1/ρ)です。

 

さらに,exp(Bs)Πρ[(1-s/ρ)exp(s/ρ)]の,s→ 1-sでの不変性により,exp(B)=Πρ[{(1-ρ)/(-ρ)]exp{-1/(1-ρ)}]となります。

 

結局,s(1-s)π-s/2Γ(s/2)ζ(s)=-Πρ(1-s/ρ)が得られました。右辺最後の式Πρ:零点(1-s/ρ)をアダマール積といいます。

したがって,ζ(s)=Πp.素数(1-p-s)-1=[-π-s/2Γ(s/2)/{s(1-s)}]Πρ:零点(1-s/ρ)という関係式が得られます。

 

オイラー積とアダマール積の間にこうした美しい関係があることがわかりました。これは素数とゼータの零点の間に成り立つ1つの双対性であると考えられます。

オイラー積表現:ζ(s)=Πp.素数(1-p-s)-1の両辺をsで対数微分するとlog(ζ(s))/ds=Σp.素数(1-p-s)-1logp=Σn=1Λ(n)n-sと表わすことができます。ここでΛ(n)はvon Mangoldtの関数と呼ばれるnの関数で,Λ(n)≡logp(n=pm:m≧1のとき),Λ(n)≡0 (それ以外)です。

 

アダマール積表現ζ(s)=[-π-s/2Γ(s/2)/{s(1-s)}]Πρ:零点(1-s/ρ)もsで対数微分して,オイラー積表現の式に等置すればdlog(ζ(s))/ds=Σn=1Λ(n)n-s=1/s+1/(s-1)-1/2logπ+Γ'(s/2)/{2Γ(s/2)}-Σρ:零点{1/(s-ρ)}なる式を得ます。

ここで,前に戻りζ(s)においてs=1/2+it,またはt=i(1/2-s)(tは複素数)とおいてξ(t)≡π-s/2Γ(s/2+1)(s-1)ζ(s)={s(s-1)/2}π-s/2Γ(s/2)ζ(s)と書けば,ξ(t)=1/2-(t2+1/4)∫1dx[x-3/4cos{(tlogx)/2}ψ(x)],またはξ(t)=4∫1dx[x-1/4cos{(tlogx)/2}d{x3/2ψ(x)}/dx]と書けます。

 

これからξ(t)はtの偶関数であり,しかもtが実数ならξ(t)も実数であることがわかります。

このとき,ξ(t)=0 となる根tで 0≦Ret≦Tなるものの個数:すなわち 0≦Res≦1(-1/2≦Imt≦1/2),かつ 0≦Ims≦T(0≦Ret≦T)を満たすζ(s)の自明でない零点ρ=sの個数をN(T)と書けば,"N(T)={T/(2π)}log{T/(2π)}-{T/(2π)}+o(logT)である。"という命題が成立することに関するリーマンの幾分不十分な説明が与えられていますが,これは1905年に von Mangoldt によって,厳密な証明が与えられています。

そしてξ(α)=0 を満たす任意の根をαとします。

 

ρ=1/2+iαですからα=i(1/2-ρ)ですが.このときリーマンによれば上に求めたN(T)={T/(2π)}log{T/(2π)}-{T/(2π)}+o(logT)という表式を考慮することで,積公式ξ(t)=ξ(0)ΠReα>0(1-t22),つまりlogξ(t)=ΣReα>0log(1-t22)+logξ(0)が得られるということです。

これも,リーマンの説明は私にははっきり言ってよく理解できません。実際これも不十分な説明で厳密な証明はHadamardによって,1896年に与えられたらしいです。

しかし,むしろ先に求めた等式dlog(ζ(s))/ds=Σn=1Λ(n)n-s=1/s+1/(s-1)-1/2logπ+Γ'(s/2)/{2Γ(s/2)}-Σρ:零点{1/(s-ρ)}と,ξ(t)={s(s-1)/2}π-s/2Γ(s/2)ζ(s)という表式,およびξ(t)の偶関数性から,dlog(ξ(t))/dt=iΣρ{1/(s-ρ)}=ΣReα>0{1/(t-α)+1/1/(t+α)}です。

 

この両辺を,0からtまで定積分するとlog(ξ(t))-log(ξ(0))=ΣReα>0[log(t±α)-log(±α)]=ΣReα>0log(1-t22)が直接得られるので,先のリーマンの説明は不要ですね。

そして,このξ(t)の表式をζ(s)の表式に翻訳するとlog(ζ(s))=(s/2)logπ-log(s-1)-log{Γ(s/2+1)}+ΣReα>0log{1+(s-1/2)22}+log(ξ(0))なる式が得られます。

次に任意の正の実数xより小さい素数の個数を慣例によってπ(x)で表わし,xの関数F(x)を,xが素数でないならF(x)≡π(x),xが素数ならF(x)≡limε→0[π(x+ε)+π(x-ε)]/2=π(x-0)+1/2 によって定義します。

 

さらに関数f(x)をf(x)≡F(x)+F(x1/2)/2+F(x1/3)/3+...=Σm=1[F(x1/m)/m]で定義します。

log(ζ(s))=-Σplog(1-p-s)=Σp-s+Σp-2s/2+Σp-3s/3+...=Σm=1p-ms/m]であり,p-ms=s∫pm-s-1dxなのでlog(ζ(s))/s=∫1-s-1f(x)dxが得られます。

 

そして,フーリエの反転公式によれば,f(x)={1/(2πi)}∫a-i∞a+i∞ds[xslog(ζ(s))/s]です。

 

ただし右辺が収束しない場合を考慮して,1回引き算した形にすると,f(x)=[{1/(2πi)}/logx]∫a-i∞a+i∞ds[xsd{log(ζ(s))/s]/ds]となります。

これに,log(ζ(s))=(s/2)logπ-log(s-1)-log{Γ(s/2+1)}+ΣReα>0log{1+(s-1/2)22}+log(ξ(0))を代入します。

 

例えば,-log{Γ(s/2+1)}=limm→∞Σn=1n-mlog{1+s/(2n)}-(s/2)logm}ですから,d[log{Γ(s/2+1)}/s]/ds=Σn=1(d[log{1+s/(2n)}/s]/ds)です。

 

よって,log(ξ(0))を別にすればf(x)を示す右辺の積分の全ての項が,[{±1/(2πi)}/logx]∫a-i∞a+i∞ds[xsd{log(1-s/β)/s}/ds]という形をしています。

{log(1-s/β)/s]/dβ=1/{β(β-s)}ですから,{1/(2πi)}∫a-i∞a+i∞ds[xsd{log(1-s/β)/s]/dβ]なる積分を計算すると{1/(2πi)}∫a-i∞a+i∞ds[xs/{β(β-s)}]=xβ/βです。

 

そして,これはResが Reβより大きいとき,Reβが負であるか正であるかによってxβ/β=∫xβ-1dx=(d/dβ)∫x[xβ-1/logx]β-1dx,またはxβ/β=∫0xβ-1dx=(d/dβ)∫0x[xβ-1/logx]β-1dxとなります。

それ故,[{1/(2πi)}/logx]∫a-i∞a+i∞ds[xsd{log(1-s/β)/s}/ds]=∫x[xβ-1/logx]dx+(定数),または∫0x[xβ-1/logx]dx+(定数)です。

 

具体的には,[{1/(2πi)}/logx]∫a-i∞a+i∞ds(xsd[log{Γ(s/2+1)}/s]/ds)=∫x[1/{x(x2-1)logx}]dx,[{1/(2πi)}/logx]∫a-i∞a+i∞ds[xsd{log(s-1)/s}/ds]=Li(x)を得ます。

ここに,Li(x)は対数積分と呼ばれる関数で,Li(x)≡∫0x(du/logu)=limε→0[∫01-ε(du/logu)+∫1+εx(du/logu)]で定義されます。

 

そして,f(x)=[{1/(2πi)}/logx]∫a-i∞a+i∞ds[xsd{log(ζ(s))/s]/ds]=Li(x)―Σα[Li(x1/2+αi)+Li(x1/2-αi)]+∫x[1/{x(x2-1)logx}]dx-log2 となることがわかります。これは「リーマンの素数式」と呼ばれます。

一方,f(x)=Σm=1[F(x1/m)/m]の反転公式はF(x)=π(x)=Σm=1[μ(m)f(x1/m)/m]で与えられます。

 

ここで,μ(m)は,数論でよく知られたメビウス関数で,μ(m)≡(-1)(mの素因数分解:m=p12...pk;k個の素数p1,p2,...,pkが全て相異なる素数のとき),μ(m)≡1(m=1のとき),μ(m)≡0 (それ以外のとき)で定義されるものです。

  

結局,F(x)=π(x)=Σm=1[μ(m)f(x1/m)/m],f(x)=Li(x)―Σα[Li(x1/2+αi)+Li(x1/2-αi)]+∫x[1/{x(x2-1)logx}]dx-log2 なる式が素数定理の表現を与えることがわかりました。

素数定理π(x)~ Li(x)はリーマン予想とは別に1896年にHadamardや,de la Vallee-Poussinによって証明されましたが,π(x)~ Σm=1[μ(m)Li(x1/m)/m]という近似式の方がより優れていることがかなり大きいxまで検証されています。

ここまでは,ζ(s)の自明でない零点が全て 0≦Res≦1 の領域にあれば成立することであり,特にリーマン予想が成立することを必要としません。

 

しかし,特に"ζ(s)の自明でない零点が全てRes=1/2の上にある。"というリーマン予想が成立するなら,素数定理"π(x) ~ Li(x)"はより精密に,リーマン予想と同値な命題であることが1901年にvon Kochによって証明されている定理として,"F(x)=π(x)=Li(x)+o(x1/2+ε) (εは任意の正の数)"に置き換わることになります。

 

最後に挙げた命題が,リーマン予想と同値な命題であることの理由についてはまだ把握していませんが,もしも詳細が理解できたなら,そのときにはまた紹介したいと思います。

参考文献:鹿野 腱 編著「リーマン予想」(日本評論社);梅田 亨,黒川信重,若山正人,中島さち子 著「ゼータの世界」(日本評論社),荒川恒男,伊吹山知義,金子昌信 著「ベルヌーイ数とゼータ関数」(牧野書店) ;E.Artin著(上野建爾 訳・解説)「ガンマ関数入門」(日本評論社)

 

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2007年7月23日 (月)

e とπの超越性

 木曜からの風邪がだんだんひどくなり,セキが止まらないので仕方なく近くの滝野川病院で診察を受け,薬をもらいました。

 近くなのに病院まで歩いていけなくてタクシーを拾いました。普通は風邪くらいなら市販薬を飲んで寝るだけなのですが,手術の予後で体力回復が万全でないので心配になったのです。

 それにしても私はこのところ病院づいていますね。

しかし,もらった薬は食後に飲むように指定されていて,自宅には米以外の食料がなかったので病院のすぐそばにあったスーパーでいろいろと食料を買いましたが,自宅まで歩けないのでまた仕方なくタクシーに乗りました。

 

でも自宅に帰ってもおかゆさえ食べる気にならず,まあいいやと食前だけど薬を飲んだところ,プラシーボかもしれないが,さすがは病院の薬であるせいなのか,すぐに症状は軽減されました。

最近,ブログネタもないので,本の受け売りですが,以前の2007年5月27日の記事「代数的数と超越数」の続きとして,eとπの超越性の証明でも書いておきます。

(eの超越性の証明)

eが代数的数であると仮定すると,a0+a1e+..+ann0 を満たす整数の組a0,a1,..,anが存在します。n≧1,a0n0 です。

ところで,f(x)をm次の多項式,tを複素数とし積分路を0とtを結ぶ直線としてtの関数I(t)をI(t)≡et0t-x(x)dxで定義し,部分積分を繰り返すと,I(t)=et(0)-f(t)+et0t-x(df/dx)dx=etΣj=0m(j)(0)-Σj=0m(j)(t)が得られます。

(x)をf(x)≡xp-1(x-1)p..(x-n)pとします。

 

pは十分大きい素数です。

 

J≡-{a0(0)+a1(1)+..+an(n)}とおくと,J=-(a0+a1e+..+annj=0m(j)(0)+a0Σj=0m(j)(0)+a1Σj=0m(j)(1)+..+anΣj=0m(j)(n) =a0Σj=0m(j)(0)+a1Σj=0m(j)(1)+..+anΣj=0m(j)(n)となります。

ただし,m=degf=np+p-1であり,0≦j≦mなるjに対してf(j)(x)はxp-1,(x-1)p..,(x-n)pの各々をそれぞれ0,1,..,n回ずつ(Σi=0li=j)微分した項の積和ですから,右辺の各f(j)(k)(k=0,1,2,..,n)は全て整数であり,それゆえJも整数です。

 

そして,j<pなら明らかにf(j)(k)=0 (k=1,2,..,n)でj<p-1ならf(j)(0)=0 です。

ところで,k≧lのときk(k-1)..(k-l+1)/l!はl!で割り切れるので整係数多項式g(x)のl回導関数の係数はすべてl!で割り切れます。したがってj≧pのときf(j)(x)の係数はj!で割り切れ,よって全てp!で割り切れます。

したがって,f(j)(k)はj=p-1かつk=0 の場合を除いて,p!で割り切れます。ところが,f(p-1)(0)=(-1)p(p-1)!(n!)pであり,これは(p-1)!では割り切れますが,pが十分大きいときpでは割り切れません。

 

それ故,Jはゼロでない整数であり,(p-1)!で割り切れます。よって,|J|≧(p-1)!です。

一方,0≦x≦k,0≦k≦nのとき,|x|,|x-1|,..,|x-n|≦2nなので |I(k)|=|∫0kk-x(x)dx|≦kek(2n)です。

 

それ故,|J|≦|a0||I(0)|+|a1||I(1)|+..+|an||I(n)|≦(2n)Σk=0n|ak|kekです。m=np+p-1ですから,pに無関係な定数c>0 が存在し,|J|<cp が成立します。

ところが,Stirlingによれば,pが大きいとき,(p-1)!~pp-pですから,素数pを大きくすると,やがて(p-1)!>cpとなります。

 

そこで,2つの不等式|J|≧(p-1)!と|J|<cp は両立しませんから,これは矛盾です。したがって,eが代数的数であるとした仮定が間違いであり,eは超越数であることがわかります。(証明終わり)

(πの超越性の証明):

πを代数的数であると仮定すると,iπも代数的数です。ここでθ=iπの共役:つまりθ=iπの最小多項式における相異なるn個の根の組をθ1=θ,θ2,..,θd;d≡degθとします。

 

このとき等式(Euler's formula)e1=0 より,(θ11)(θ21)..(θd1)=0 となります。

 

そして左辺を展開すると,Σi=1,2,..,nδi=0,1δ1θ1+δ2θ2+..+δdθd0 となります。

2d個のδ1θ1+δ2θ2..+δdθdi0または1)のうちで 0 でないものがn個あったとし,それらをα1,α2,..,αnをとします。

 

また,n<j≦2d に対してはαj0 とします。そうすると,q+α1α2+..+αn0 が得られます。ここで,q2d0です。

ここで,eの超越性の証明と同様に,I(t)=et0t-x(x)dxを考え,今度はf(x)≡lnpp-1(x-α1)p..(x-αn)pとします。

 

ただしpは十分大きい素数で,lはlθ1,lθ2,..,lθd ,したがってlα1,lα2,..,lαn 代数的整数となるような整数です。

 

ここで,βが代数的整数であるとは,代数的数βの整数係数の最小多項式がその最高次の係数=1の形つまり整数係数のモニックになることをいいます。

そして,J≡-{I(α1)+I(α2)+..+I(αn)}とおくとJ=-(α1α2+..+αnj=0m(j)(0)+Σj=0m(j)(α1)+Σj=0m(j)(α2)+..+Σj=0m(j)(αn)=qΣj=0m(j)(0)+Σj=0m(j)(α1)+Σj=0m(j)(α2)+..+Σj=0m(j)(αn), m=np+p-1です。

 

多項式f(x)の各係数はlα1,lα2,..,lαnの整数係数の対称式,したがって,lθ1,lθ2,..,lθdの整数係数の対称式です。

ところが,lα1,lα2,..,lαnを根とするモニックの最小多項式をP(x)とすると,P(x)=(x-lα1)(x-lα2)..(x-lαn)=xn-s1n-1+s2n-2-..+(-1)snであって,s1,s2,..,snlα1,lα2,..,lαnの基本対称式であり,lα1,lα2,..,lαnが代数的数なのでこれらは整数です。

 

しかもlα1,lα2,..,lαnの全ての整数係数の対称式は基本対称式の整数係数の多項式として表わせることは明らかなので,(x)の各係数は整数になります。

したがって,f(j)(0)も整数です。また,Σk=1n(j)(αk)(j≧0)もlα1,lα2,..,lαnの整数係数の対称式なので,上と同じ論旨から,これは整数になります。

 

そして,j<pなら明らかにf(j)(αk)=0 (k=1,2,..,n)で,j<p-1ならf(j)(0)=0 です。したがってj≧pのとき,f(j)(x)の係数は全てp!で割り切れます。

以上から,f(j)(αk)とj≠p-1のときのf(j)(0)は,p!で割り切れます。ところが,f(p-1)(0)=(-1)p(p-1)!(lα1lα2..,l)pであり,これは,(p-1)!では割り切れますが,pが十分大きいときpでは割り切れません。

 

それ故,Jはゼロでない整数であって,(p-1)!で割り切れます。よって,|J|≧(p-1)!です。

一方,0≦x≦αkまたは,αk≦x≦0 for 0≦k≦nなるxに対して,M=maxk|2αk|とおくと,|x|,|x-α1|,..,|x-αn|≦Mなので,|I(αk)|=|∫0αkαk-x(x)dx|≦|αk|αknpです。

 

それ故,|J|≦|I(0)|+|I(α1)|+..+|I(αn)|≦lnpΣk=0n|αk|αkと評価できます。ここで,m=np+p-1ですからpに無関係な定数c>0 が存在して|J|<cpが成立します。

pが大きいとき,(p-1)!>cpとなりますから,2つの不等式|J|≧(p-1)!と|J|<cp は両立しません。したがってπが代数的数であるとした仮定が間違いでありπは超越数であることがわかります。(証明終わり)

これで,eおよびπは超越数であることが証明されました。超越数ですから当然無理数ですが,いささか本末転倒ながらこれらが無理数であることをもっと直接的に証明してみます。

(eが無理数であることの証明):

e=1+1/1!+1/2!+1/3!+..ですから,0<n!e-n!Σk=0n(1/k!) =n!Σk=n+1(1/k!)≦{1/(n+1)}(1+1/2+1/22+..)=2/(n+2)→ 0 as n→∞ が成立します。

ところが,一般にαが有理数でα=a/b(a,b∈Z,b>0)なら,αと異なる全ての有理数p/qに対して|qα-p|=|qa-pb|/b≧1/bですから,αにのみ依存する正の定数cが存在して,|α-p/q|≧c/qとなります。それ故,0<|qnα-pn|→ 0 as n→ ∞ なる整数列{pn},{qn}が存在するならαは無理数です。

以上から,eは無理数であることが示されました。(証明終わり)

(πが無理数であることの証明):

実係数の多項式f(x)に対してF(x)≡f(x)-f(2)(x)+f(4)(x)-f(6)(x)+..とおきます。f(x)は多項式なので右辺は有限項で終わりF(x)も多項式になります。

このとき,{F'(x)sinx-F(x)cosx}'={F"(x) +F(x)}sinx=f(x)sinxなので,∫0π(x)sinxdx=F(0)+F(π)と書くことができます。

今,πが有理数であると仮定して,π=a/b(a,b∈Z,b>0)とし,上式でf(x)=(bn/n!)xn(π-x)n(1/n!)xn(a-bx)nとおきます。

 

ただし,nは十分大きい正の整数とします。明らかに,j<nのとき(j)(0)=0 で,j≧nのときは多項式:{xn(a-bx)n}(j)のすべての係数は,j!したがってn!で割り切れます。故に,j≧0なるすべてのjについてf(j)(0)は整数です。

ところで,j≧0なるすべてのjについてf(j)(x)=(-1)j(j)(π-x)よりf(j)(π)=(-1)j(j)(0)も整数です。

 

以上から,∫0π(x)sinxdx=F(0)+F(π)の右辺{F(0)+F(π)}は整数です。

 

一方,左辺は,0<∫0π(x)sinxdx≦(bnπ2n/n!)∫0πsinxdx=2bnπ2n/n!<cn/n!です。cはnに依存しない正の定数です。

 

これからn! ≦cn ですが,nが十分大きいときには成立しません。

以上からπは無理数であることが示されました。(証明終わり)

参考文献:塩川宇賢 著「無理数と超越数」(森北出版)

 

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2007年5月27日 (日)

代数的数と超越数

前の記事で,代数関数,および超越関数に関連したことを記述したことがきっかけで,急にこれに関連した代数的数,および超越数の記事を書きたいという欲求が起きました。

そこで,今日はコーヒー・ブレイクとして代数的数と超越数の定義や性質について少し記述してみようと思います。

まず,これらの定義は,"a0,a1,..,an-1,anを任意の整数(nは任意の自然数でa00)とするとき,複素数αがa0,a1,..,an-1,an を係数とする代数方程式a0n+a1n-1+..+an-1x+an0 の解の1つならαを代数的数と呼ぶ。一方,複素数αが如何なる整数係数の代数方程式の解にも成り得ない場合には,このαを超越数と呼ぶ。"というものです。

まず,複素数αが代数的数であり係数a0,a1,..,an-1,anが全て整数環の元の代数方程式a0n+a1n-1+..+an-1x+an0 の解である場合には,整数は有理数ですから,係数a0,a1,..,an-1,anが全て有理数体の元であるような代数方程式の特別な場合です。

 

それ故,代数的数αはいつでも有理数係数の代数方程式の解であることは明らかです。

 

その逆,つまり複素数αが有理数係数の代数方程式の解であるならば,それはいつでも"整数係数の代数方程式の解=代数的数"であるということをも示すことができます。

すなわち,a0n+a1n-1+..+an-1x+an0 を,その係数:a0,a1,..,an-1,an が全て"有理数=有理数体の元"の代数方程式とすると,a0,a1,..,an-1,anを全て既約分数で表わしたときのn個の分母の整数の最小公倍数を方程式の両辺に掛けて得られる代数方程式は,係数が全て整数の代数方程式です。

 

これは方程式としては,元の有理係数のそれと全く同じですから,解はこの操作の前後で全く不変です。

したがって,複素数体の中で整数係数の代数方程式の解と有理数係数の代数方程式の解は全く同じもので,共に代数的数を定義するものとなっています。

次に上に定義した,全ての代数的数の集合をΩとします。そして,まずΩの濃度=Card(Ω)が可算であること,つまり,Card(Ω)=\aleph_0 (alef-0:アレフ・ゼロ)であることを示しましょう。

「代数学の基本定理」によれば,n次代数方程式f(x)=0 は複素数体の中に少なくとも1つの解を持ちます。(PS:代数学の基本定理」については2007年8/17の記事参照 http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_7467.html )

 

(x)=0 の解(=多項式f(x)の零点)の1つをα∈とすれば,多項式f(x)は(x-α)で割り切れて,f(x)=(x-α)g(x)(g(x)は多項式)と表わすことができます。

 

そして,g(x)=0 も,(n-1)次代数方程式ですから,それは複素数体の中に少なくとも1つの解を持ちます。

 

これを繰り返せば,結局n次代数方程式は複素数体の中に高々n個の異なる解を持つ,ということが言えます。

nを固定したときのn次代数方程式の(n+1)個の係数の組はそれを(0,a1,..,an-1,an)と(n+1)次元ベクトルの形式で表わしたとき,その座標成分が全て整数で与えられる(n+1)次元空間を形成しますから,その全ての係数集合の濃度は\aleph_0n+1\aleph_0 を超えません。

 

係数の組の個数は明らかに有限ではありませんから,その(n+1)次元空間の濃度は丁度 \aleph_0 (可算個)に等しいことになります。

そして,たった今示したことから,各々の(0,a1,..,an-1,an)に対してそれを係数とするn次代数方程式の異なる解の個数は高々n個ですから,nを固定したときのn次代数方程式の解の集合の濃度は高々(n×\aleph_0)であり,結局\aleph_0(可算)であるということになります。

そして,代数的数の集合Ωの濃度:Card(Ω)はnを固定したときのn次代数方程式の解の集合をn=1,2,..について全て総和したもので与えられますから,Card(Ω)=Σn=1\aleph_0\aleph_0×\aleph_0\aleph_0です。

こうして,代数的数の集合Ωの濃度は\aleph_0であること,つまり,整数係数(有理数係数)の代数方程式の解になることが可能な複素数の個数は可算個であることが示されました。

 

元々複素数全体の濃度は可算ではなく,連続無限ですから代数的数Ωの個数に比べて"超越数=Ω"の個数の方がはるかに多い,ということがわかりました。

次に,より本質的な性質であると思われる,"Ωは体をなす"という命題を証明することにします。

  

それには集合Ωが加法について群をなすこと,および集合Ω×Ω{0}が乗法について群をなすこと,の両方を示せば十分です。

Ω,Ω×が,それぞれ,加法,乗法について閉じていれば,結合法則,α,β,γ∈Ωなら,(α+β)+γ=α+(β+γ),およびα,β,γΩ×なら(αβ)γ=α(βγ)が成立することは明らかです。

 

また,0と1は明らかに代数的数ですから,0が加法群Ωの,1が乗法群Ω×の単位元であることも明らかです。

 

さらに,α∈Ωであってf(α)=0αn+a1αn-1+..+an-1α+an0 (a0,a1,..,an-1,an)が成立するとします。

 

このとき,{(-1)n0}(-α)n{(-1)n-11}(-α)n-1+..+(-an-1)(-α)+an0 が成立するので,(-α)Ωです。

  

特にα≠0なるときは,n(1/α)n+an-1(1/α)n-1+..+a1(1/α)α+a00 が成立するので,(1/α)=α-1Ω×となることもいえます。

 

そこで,加法と乗法について,共に単位元と逆元が存在することも自明です。

ところが,Ωが加法について閉じていること,つまりα,β∈Ωなら(α+β)∈Ωとなること,およびΩ×が乗法について閉じていること,つまりα,β∈Ω×ならαβ∈Ω×となることを具体的に示すのは少々やっかいです。

証明のために,まずαがf(α)=0αn+a1αn-1+..+an-1α+an0 (a0,a1,..,an-1,an∈Z)を,βがg(β)=b0βm+b1βm-1+..+bm-1β+bm0 (b0,b1,..,bm-1,bm∈Z)を満足するとします。

 

ここで,一般性を失うことなくn≧mと仮定してよいので,そのように仮定します。

x=α+βとおくと,α=x-βより(α)=f(x-β)=0 ですから,φ(x)≡f(x-β)=c0n+c1n-1+..+cn-1x+cnと定義すれば,φ(x)はxのn次多項式でφ(α+β)=0 です。

 

一方,x=αβとおくとα=x/βより(α)=f(x/β)=0 ですから,ψ(x)≡f(x/β)=d0n+d1n-1+..+dn-1x+dnと定義すればψ(x)はxのn次多項式でψ(αβ)=0 が成立します。

ところが,c0,c1,..,cn-1,cn ;d0,d1,..,dn-1,dn は一般に整数あるいは有理数ではありませんから,x=α+βやx=αβは確かに代数方程式φ(x)=0 やψ(x)=0 の解ですが,それが代数的数であるとは言えません。

あるいは,f(x)=(x-α)f1(x),g(x)=(x-β)g1(x)より,y≡2xとしてχ(y)≡fg1+f1g={y-(α+β)}f1(y/2)g1(y/2)と定義すれば,これは確かにy=α+βを解とします。

 

しかしχ(y)はyの多項式ではありますが,その係数は整数または有理数ではありません。

有理数係数の多項式を微分しても導関数はやはり有理数係数の多項式ですから,これらの操作や性質を用いることも試行しましたが,私の力不足かα+βやαβを解とする具体的な整数あるいは有理数係数の代数方程式を求めようとする方法ではうまくいきません。

そこで抽象的な方法を利用することにし,代数的整数論の知識を借りて,α,β∈Ωなら(α+β)∈Ω,かつαβ∈Ωとなることを示します。

有理数体をで表わすとき,α∈Ωを仮定して"αの上の最小多項式=αを根とする有理数係数のモニック(最高次の係数が1の多項式)でその次数が最小のもの"をf(x)とします。

 

αの上の最小多項式f(x)の表現をf(x)=xn+a1n-1+..+an-1x+an (a1,..,an-1,an):f(α)=αn+a1αn-1+..+an-1α+an0 とします。

同様に,β∈Ωとして,βの上の最小多項式をg(x)とします。(x)=xm+b1m-1+..+bm-1x+bm (b1,..,bm-1,bm):(β)=βm+b1βm-1+..+bm-1β+bm0です。

そして,の部分環であって,α,βを含む最小の環,つまり有理数体にαとβを添加してできる環を[α,β]とします。

 

このとき,αの最小多項式f(x)の性質:f(α)=0 から,αn=-a1αn-1-..-an-1α-anが成立しますから,αの全ての次数の量は1,α,..,αn-1の元を係数とする1次結合で表わすことができることがわかります。

 

同様に,βの全ての次数の量は,1,β,..,βm-1の元を係数とする1次結合で表わせます。

 それ故,[α,β]の全ての元は(nm)個の(αiβj)(i=0,1,..,n-1;j=0,1,..,m-1)の1次結合で表わすことができます。

 

 (nm)個の(αiβj)を,改めてθk(k=1,2,..,nm)と書きます。

 このとき,∀γ∈[α,β]に対してγθk(k=1,2,..,nm)も全て[α,β]の元ですから,これらの各々はγθk=Σj=1nmkjθj(bkj)とθj(j=1,2,..,nm)の1次結合で表わすことができます。

 

 そこで,θk(k=1,2,..,nm)の集合をθt12,..,θnm)と列ベクトルの形で再定義し,Bをの元bijを成分とするnm次の正方行列とすれば,γθ=Bθ,つまり(γE-B)θ=0 と表現できます。

 

 そして,θ≠0 なので,det(γE-B)=0 が成立します。

 

 (detAはAの行列式(determinant)を意味します。)

  

 det(γE-B)=0 はγを根とする係数が有理数のnm次の代数方程式です。それ故,γ∈Ωとなります。

 

 したがって,[α,β]⊂Ωであることが示されたわけです。そこで特にα+β,αβ∈Ωです。

 以上で,代数的数全体の集合Ωは体をなす,すなわち,複素数体の可算な部分体である,という命題が証明されました。

まだ,eやπが超越数であることを示すというような魅力的な話題も残っています。

 

eやπが無理数であることや超越数であることの証明については,ちょっと興味が湧いて1年くらい前に買った本に詳ししく載っています。

 

しかし,本の内容をただ写してブログ記事にする。というのはやりたくないので,書名を紹介するに留めて,今日はこのくらいにします。

 

その書名は塩川宇賢 著「無理数と超越数」(森北出版)です。そのまんまですね。 

参考文献:石田 信 著「代数的整数論」(森北出版)

 

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2007年3月17日 (土)

虚数(複素数)の起源

 虚数(imaginary),あるいは複素数(complex),すなわちa,bを実数(real)としてa+b√-1と表わされる想像上の数が数学の世界に導入されるようになったきっかけは,別に全ての2次方程式が必ず根を持つようにするためというような理由からではありません。

  

 例えば,方程式x2+1=0 がx=±√-1という根を持つとしなければ,この方程式は解を持たない,などという理論的な不都合と感じられるものを無くそうという理由からであった。などと思われがちですが,実際の歴史的経緯は違います。

実は3次方程式の根の公式であるカルダノの公式が当時においては唯一認められていた実数解を実際に表現するためには,途中経過として虚数を経由しなければ不可能なケースがあったためです。

すなわち,一般の3次方程式はx3の係数が1のモニックとして,x3+ax2+bx+c=0 で与えられます。

 

これは,y=x+a/3とおいてx=y-a/3を元の方程式に代入してyの方程式にすれば,必ずy2の係数がゼロの3次方程式y3+py+q=0 (p≡-a2/3+b,q≡2a3/27-ab/3+c)に変換されます。

そして,この3次方程式を満たすyの根を求めるには,これにy=u+vを代入します。

 

(u+v)3+p(u+v)+q=0 ,すなわち,u3+v3(u+v)(3uv+p)+q=0 が得られます。

 

これから,解yを求めることは,u3+v3=-q,uv=-p/3,を満たすu,vの組,あるいはu3+v3=-q,u33=-p3/27を満足するu3とv3の組を求めることに帰着します。

明らかに,このu3とv3の組を求めるには2次方程式t2+qt-p3/27=0 を解けばいいので,結局3次方程式の根を求めることが2次方程式の根を求めることに帰着します。

 

2次方程式の根の公式によれば,u3,v3=-q/2±(2/4+3/27)1/2です。したがって,u,v=[-q/2±(2/4+3/27)1/2]1/3が得られますから,これらをy=u+vに戻せば,これが3次方程式y3+py+q=0 の1つの根になります。

 

上に得られた3次方程式の根の公式をカルダノの公式と呼びます。

現在のわれわれの立場で考えると,u,vが1組でも求まれば,ωを1とは異なる1の立方根,すなわち,ω2+ω+10 の根の1つとすれば,y=u+v,uω+vω2,uω2+vωが3次方程式y3+py+q=0 の3つの根の全てを表現するものである,とすぐに理解できます。

 

しかし,当時は複素数は存在しないという時代であったので,3次方程式の根であると認められるのは実数解だけでした。

ところが,例えばy315y-4=0 という具体的な方程式を考えると,これは代入すれば明らかなようにy=4 という実数根を持ちます。

しかし,カルダノの根の公式によれば,これの根はy=(2-121)1/3(2-√-121)1/3と表現されますから,これの右辺が4に等しい,つまり(2-121)1/3(2-√-121)1/34であるとせざるを得ません。

現在のわれわれの感覚であれば,iを虚数√-1とすれば-121=11iであり,例えば(2±i)32±11i=2±√-121ですからu,v=2±i= 2±√-1とすれば,y=u+v=4となって何ら矛盾を感じるようなことはありません。

 

ところが,当時は想像上の数である虚数√-121=11iの存在を認めるということは,たとえ計算の途中でも有り得ない。という雰囲気であったので,大いに困惑しただろうと想像されます。

結局,3次方程式の根を計算する途中に限って,特別に虚数,あるいは複素数の存在を認めるということになったのが,虚数.あるいは複素数を導入するきっかけになったと考えられます。

 

ですから,2次方程式が必ず根を持つためとかいう理論的な経緯から,これが導入されたわけではありません。 

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2007年2月27日 (火)

5次以上の代数方程式の解法

 5次以上の任意の代数方程式の解について方程式の係数からベキ根を取ることによって得られる解の公式を求めることはアーベル(Abel)とガロア(Galois)によって不可能であることが証明されました。

 

(これについては,2007年1/14「ガロア理論(1)」 http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2007/01/post_abe5.html から2007年1/29「ガロア理論(6)」 http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2007/01/post_f6db. までの記事や関連記事もありますからよかったら参照してください。)

 

 しかしながら,ベキ根による解法が存在しなくても,代数学の基本定理)によれば,複素数体の中にその"代数方程式の解=零点"が必ず存在する,ことはわかっています。

 

 "解が存在する。"ということと"解法が存在する。"ということは全く別のことなのですね。

 ところで,5次以上の任意の代数方程式の解について,ベキ根による解法は存在しなくても,それ以外の方法で解を求める一般的な解法というものは存在しないのでしょうか?

 例えば,1のn乗根,すなわちxn1= 0 の解は既に述べたようにその全てをベキ根で表現することが可能ですが,それを具体的に示すことはかなり面倒な課題です。

 

 しかし,ルートを取るという操作と四則演算のみに頼るという狭い方法にこだわることなく,指数関数や三角関数を用いてよいなら,n乗根をζk(k=0,1,2,...n-1)とおくと,ζk=e2πki/ncos(2πki/n)+isin(2πki/n)という形に書くことができること,

 

 かなりすっきりとした簡明な形で表現できることは,もっと昔から知られていました。

 実は,一般の5次の代数方程式の解もベキ根に頼るのではなくて,楕円関数を用いる方法によって,その解の公式を与えることが可能であることがわかっていて,テータ関数を用いてその公式を与える実際の表式が得られています。

 これを厳密に説明することは,私の現時点での容量の限界を超えているので,その手順の概略のみを紹介してみます。

 一般の5次の代数方程式をx5+a14+a23+a32+a4x+a50 と書くと,y=x+a1/5 とおくことによって,a1 0 の場合に帰着させることができますが,この変換を一般化してチルンハウゼン変換(Tschirnhausen変換)と呼ばれる変換:y=α0+α1x+α22+α33+α44を考えます。

 

 ここでαiはある複素数です。このとき,複素数biが存在して先のxに対する5次の代数方程式がyに対する方程式5+b14+b23+b32+b4y+b50 に変換されるとします。

 もしも,1≦i≦4を満たす4つのiについてbi(α01234)=0 を満たす複素数の組α01234を見つけることができれば,そうしたαiに対してはyの5次方程式はy5+b5 0 となり,この解は根号によって,y=(-b5)1/5と書けますから,結局元のxに対する5次方程式の解が求まることになります。

 ところが,i01234)=0 (1≦i≦4)を満足する解(α01234)≠0 を求めるには,残念ながら,24次の代数方程式を解かなければならず,5次の代数方程式x5+a14+a23+a32+a4x+a50 に対してこの24次の方程式を解くことは不可能なことがわかっています。

 しかし,4つ全部のiではなく1≦i≦3を満たす3つだけについてi01234)=0 を満足する(α01234)≠0 を求めるには高々4次の代数方程式を解けばいいので,結局,チルンハウゼン変換により,ベキ根のみの方法によって与えられた方程式をy5+y+b=0 という形にまで簡略化できます。

 

 これは,この方法を始めて行った人の名を取って,Bring-Jerrardの標準形と言われます。

 そして,このy5+y+b=0 の一般解を求めることはべき根によるのでは不可能ですが,楕円関数の世界ではこの解の公式を具体的に表わすことができるらしいのです。

 

 6次以上の代数方程式についても,楕円関数をさらに超越積分∫[1/√f(x)]dxに置き換えることで,解の公式を作ることができるらしいですね。

 参考文献;梅村 浩 著「楕円関数論」(東京大学出版会) 

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