解析学

2008年8月14日 (木)

三角関数を含むある関数の定積分

 今日はちょっと気になる計算があったので計算をしてみました。実はT_NAKAさんのブログ=「T_NAKAの阿房ブログ」の2008年8/10の記事「高次モーメントを考える」 http://teenaka.at.webry.info/200808/article_10.htmlに関連したものです。。

 普通は公式集にあるものなら全面的にそれに頼り,わざわざ確かめたりもしませんが,偶々,所持している岩波の数学公式集,丸善の新数学公式集を見ても,適合するものが全く見つからなかったため,自力で計算せざるを得ず,実行しました。

 

 夏休み中で頭もボーッとしているし,最初予想していた結果と違っていたこともあって,かなり手間取りました。

計算するのは,定積分:Ik≡∫-∞k(x)dx=∫-∞dx[xkcos2x/{x2-(π/2)2}2]=∫-∞dx[xkcos2x/{(x-π/2)2(x+π/2)2}](k=0,1,2,..)です。

これはkが奇数なら被積分関数:fk(x)=xkcos2x/{x2-(π/2)2}2が,xの奇関数なので,その積分はゼロですから,以下ではkは偶数であるとし,fk(x)がxの偶関数の場合のみを計算します。

x=±π/2はfk(x)の特異点,特に極であるように見えますが,実は真の特異点ではありません。

 

例えばy≡x-π/2と変数変換すれば,fk(x)=xkcos2x/{(x-π/2)2(x+π/2)2}=(y+π/2)ksin2y/{y2(y+π)2}なので,y→ 0ではfk(x)→ (π/2)k2,y→ -πではfk(x)→ (-π/2)k/(-π)2となります。

 

そこで,y=0,-π,すなわち,x=±π/2は,fk(x)の真の特異点ではなく,これらの点でx→±π/2でのfk(x)の極限値をfk(±π/2)と定義すれば被積分関数fk(x)はx=±π/2でも連続なので,普通に積分を実行することができます。

 しかし,実際にxを実数のままで,この積分を評価するのはかなり面倒なのでxを複素変数zに変えて,複素z平面である閉曲線Cを周回する積分を考えてみます。

 

 その際,cos2z=[{exp(iz)+exp(-iz)}/2]2={exp(2iz)+exp(-2iz)+2}/4 なので,Ik(C)≡∫Ck(z)dz=∫Cdz[zk{exp(2iz)+exp(-2iz)+2}/{4(z-π/2)2(z+π/2)2}](k=0,1,2,..)を計算します。

 

 これ自身は,上に述べたようにz=±π/2も含めてfk(z)が全z平面で解析的なのでCが閉曲線の場合には常にIk(C)=0 です。

まず,∫Cdz[zkexp(2iz)/{(z-π/2)2(z+π/2)2}を考えます。原点を中心としR>>1で実軸上[-R,R]を直径=2Rとする上半円周をCとします。

  

ただし,今の場合,被積分関数はfk(z)ではなく,その一部gk(z)≡zkexp(2iz)/{(z-π/2)2(z+π/2)2}です。

 

これに対しては,z=±π/2 は確かに真の特異点(極)なので,Cは点±π/2 の周りでは特別に回避経路としてA±≡limε→ +0{z(θ)|z(θ)=±π/2+εexp(iθ),θ:π→ 0 (時計回り)}で与えられる微小半径ε>0 の上半円周経路を含むとします。

そして,Cの無限遠を意味する半径Rの円周上の点z=Rexp(iθ)=R(cosθ+isinθ) (0≦θ≦π)では,|∫gk(z)dz|=πR|zkexp(2iz){(z-π/2)2(z+π/2)2}|z|=R ~πRk-3exp(-2Rsinθ)→ 0 ですから,これの寄与は無視できます。

 

結局,0=∫C+dz[zkexp(2iz)/{(z-π/2)2(z+π/2)2}]=∫-∞dz[zkexp(2iz)/{(z-π/2)2(z+π/2)2}]+A+Aなる表現で書けます。

 

ここで,微小半円経路A±を回る積分の寄与を同じ記号A±で省略する表現をしました。

∫gk(z)dzにおけるA±の寄与を評価する必要がありますが,これは被積分関数のローラン展開において 1/(z±π/2)の係数に(-πi)を掛けたもので与えられます。

 

これはAの場合には,limz→(-π/2)(d/dz)[(z+π/2)2k(z)]で与えられます。

 

すなわち,limz→(-π/2)(d/dz)[zkexp(2iz)/(z-π/2)2]=limz→(-π/2)[{(kzk-1+2izk)/(z-π/2)2-2zk/(z-π/2)3}exp(2iz)]=-(-π/2)k-1(k-πi)(-π)-2+2(-π/2)k(-π)-3=(πk-3/2k-1)(k-1-πi)です。

 

したがって,結局A=(-πi)(πk-3/2k-1)(k-1-πi)が得られました。ここで,kが偶数であることを用いました。

同様にAの場合には,limz→π/2(d/dz)[(z+π/2)2k(z)]=limz→π/2[{(kzk-1+2izk)/(z+π/2)2-2zk/(z+π/2)3}exp(2iz)]=(π/2)k-1(k+πi)π-2-2(π/2)kπ-3=(πk-3/2k-1)(k-1-πi)ですから,A=(-πi)(πk-3/2k-1)(k-1-πi)=Aです。

 

以上のことから,∫-∞dz[zkexp(2iz)/{(z-π/2)2(z+π/2)2}]=-(A+A)=-2A=(2πi)(πk-3/2k-1)(k-1-πi)が得られました。

また,被積分関数gk(z)≡zkexp(-2iz)/{(z-π/2)2(z+π/2)2}に対しては,原点を中心としR>>1で実軸上[-R,R]を直径=2Rとする下半円周をCとすれば,同様な考察から 0=∫C-dz[zkexp(-2iz)/{(z-π/2)2(z+π/2)2}]=∫-∞dz[zkexp(2iz)/{(z-π/2)2(z+π/2)2}]+B+Bを得ます。

 

ここで,B±はA±と同様に実軸上の特異点±π/2を回避する微小な下半円周経路B±≡limε→ +0{z(θ)|z(θ)=±π/2+εexp(iθ),θ:-π→ 0 (反時計回り)}における積分の寄与です。

そして,B+B=2B=(2πi)(πk-3/2k-1)(k-1+πi)となりますから,∫-∞dz[zkexp(-2iz)/{(z-π/2)2(z+π/2)2}]=-(B+B)=-2B=(-2πi)(πk-3/2k-1)(k-1+πi)です。

したがって,cos(2x)={exp(2iz)+exp(-2iz)}/2によって,上に得られた2つの積分等式を加え合わせて2で割ると,∫-∞dx[xkcos(2x)/{x2-(π/2)2}2]=∫-∞dx[xkcos(2x)/{(x-π/2)2(x+π/2)2}]=2(π/2)k-1が得られます。

一方,∫Cdz[zk/{(z-π/2)2(z+π/2)2}]において±π/2は2位の極なので留数はゼロですから,例えば閉路Cを,C=Cに取れば 0=∫C+dz[zk/{(z-π/2)2(z+π/2)2}]=∫-∞dz[zk/{(z-π/2)2(z+π/2)2}]+lim R→∞|z|=Rdz[zk/{(z-π/2)2(z+π/2)2}]となります。

被積分関数がgk±(z)=zkexp(±2iz)/{(z-π/2)2(z+π/2)2}の場合と異なり,zk/{(z-π/2)2(z+π/2)2}の場合にはC=Cに取ろうと,C=Cに取ろうと,半円の半径R→ ∞で円周積分が必ずしもゼロにはなりません。

以上から,2∫-∞dx[xkcos2x/{x2-(π/2)2}2]=∫-∞dx[xk{1+cos(2x)}/{x2-(π/2)2}2]=∫-∞dx[xk/{x2-(π/2)2}2]+∫-∞dx[xkcos(2x)/{x2-(π/2)2}2]=-lim R→∞|z|=Rdz[zk/{z2-(π/2)2}2]+2(π/2)k-1が得られました。

右辺第1項はz=Rexp(iθ),dz=iRexp(iθ)dθによって∫|z|=Rdz[zk/{(z-π/2)2(z+π/2)2}]=iR∫0πdθ[Rkexp(ikθ)/{(Rexp(iθ)-π/2)2(Rexp(iθ)+π/2)2}]となりますから,R→∞では|∫|z|=Rdz[zk/{(z-π/2)2(z+π/2)2}]|~πRk+1/R4と書けます。

 

-∞dx[xk/{x2-(π/2)2}2]は実関数の実数積分であり,被積分関数はkが偶数ならx∈(-∞,∞)では非負なので,この積分の符号は非負です。

 したがって,kが偶数故k=2mとおくと,この項はm=0,1,すなわちk=0,2では(k+1)<4 によって,ゼロに収束しますが,m≧2 or k≧4 では,(k+1)>4 なので ∞ に発散します。

 以上からIk≡∫-∞k(x)dx=∫-∞dx[xkcos2x/{x2-(π/2)2}2]=∫-∞dx[xkcos2x/{(x-π/2)2(x+π/2)2}](k=0,1,2,..)はkが偶数の場合,k=0,2 ならIk=(π/2)k-1となって有限値,kが4以上のk=4,6,..ならIk=∞+(π/2)k-1となって∞ に発散するという結果が得られました。

 kが奇数の場合ならIkはゼロです。

 しかし,この結果には少し自信がありません。

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2008年2月16日 (土)

実数から複素数へ

せっかくデデキントの切断(Dedekind's cut)によって有理数から実数を定義したのですから,やはり39年くらい前の大学1~2年の頃の解析学の化石的ノートから,複素数の定義も記述しておきます。

 

要するに,また,得意の手抜きです。もっとも複素関数論ではなく複素数の話だけならカテゴリーとしては解析学の話ではなく代数学的,あるいは幾何学的な話ですね。

これまでと同じように"実数の集合=実数体"をRとします。

[定義1](複素数)

 複素数とは2つの実数a,b∈Rの順序対,あるいは2次元の数ベクトル(a,b)のことであり,実数をa,b,..,複素数をx,y,..で表記することにすれば,x=(a,b),y=(c,d)(c,d∈R)のとき,"xとyが等しい,x=yであるとは,a=cかつb=dが成り立つことである。"

 また,これらの和,または加法,および積,または乗法の演算が,それぞれx+y≡(a+c,b+d),およびxy≡(ac-bd,ad+bc)で定義されるものをいう。

 

 そして,こうして得られる複素数全体の集合をCと書くことにする。

     特に,複素数(1,0)と(0,0)については,とりあえずu≡(1,0),n≡(0,0)と表記することにします。

[定理1]x,y,zを任意の複素数とする。すなわち∀x,y,z∈Cとする。このとき,(a)x+y=y+x,(b)(x+y)+z=x+(y+z),(c)xy=yx,(d)(xy)z=x(yz),(e)(x+y)z=xz+yzが成立する。

 

(証明)x+y≡(a+c,b+d),およびxy≡(ac-bd,ad+bc)による加法,乗法の定義に従って実際に演算を行えば確かに成立することがわかるので省略します。

 以下,証明を省略した定理を2つ述べます。

[定理2]∀x∈Cに対してx+n=x,xn=n,xu=xが成り立つ。

 

[定理3]x,y,z∈Cとする。x+y=x+zならばy=zである。

[定理4](逆元の存在)∀x∈Cに対してx+y=nを満たすy∈Cが唯1つ存在する。このyを-xと書く。

 

(証明)x=(a,b)のとき,y=(-a,-b)とすればいいです。

 (証明終わり)

[定理5]∀x,y∈Cに対してx+(-y)をx-yと書くことにする。このとき,(a)x-x=n,(b)(-x)y=x(-y)=-(xy)=(-u)(xy)が成立する。

 

(証明)略。  

この定理の故に,(-x)y=x(-y)=-(xy)=(-u)(xy)を単に-xyと書くことにします。

[定義2](絶対値)

 ∀x∈Cに対しx=(a,b)(a,b∈R)なら|x|≡(a2+b2)1/2と書き,|x|をxの絶対値と呼ぶ。

[定理6]∀x,y∈Cに対して,(a)x≠nなら|x|>0 ,また|n|=0 である。(b)|xy|=|x||y|が成り立つ。

 

(証明)略。

[定理7]x,y∈Cに対しxy=nならx=n,またはy=nである。

 

(証明) 定理6より,xy=nなら|xy|=|x||y|=0 ,故に|x|=0,または|y|=0 です。

 そこで再び定理6からx=n,またはy=nです。

 

(証明終わり)

[定理8]x,y,z∈C,xy=xzでx≠nならy=zである。

 

(証明)x(y-z)=xy-xz=nでx≠nなので定理7によってy-z=n,よってy=zです。

 

 (証明終わり)

 

[定理9]∀x∈C,ただしx≠nに対して,xy=uを満たす複素数yが唯1つ存在する。このyをu/xと書く。

 

(証明)x=(a,b)(a,b∈R)とするとき,x≠nなのでa2+b20 です。そこでy≡(a/(a2+b2),-b/(a2+b2))とすれば,xy=(a,b)(a/(a2+b2),-b/(a2+b2))=(1,0)=uが確かに成り立ちます。y=u/xの一意性は定理8より明らかです。

 

 (証明終わり)

[定理10](除法)∀x,y∈C,ただしx≠nに対してxz=yを満たす複素数zが唯1つ存在する。このzをy/xと書く。

 

(証明)z≡(u/x)yとおけば,xz=uy=yです。

 

 (証明終わり)

[定理11](実数)

 a,b∈Rとします。このとき,(a)(a,0)+(b,0)=(a+b,0),(b)(a,0)(b,0)=(ab,0),(c)b≠0 なら(a,0)/(b,0)=(a/b,0), (d)|(a,0)|=|a| が成立する。

  

(証明)明らかなので略。

     定理11から,(a,0)(a∈R)の形の複素数は実数aと全く同じ性質を持って1対1に同型対応することがわかるので,以下では複素数(a,0)(a∈R)を実数aと同一視して単にaと書くことがあります。

 

 この同定によってRはCの部分集合になります。すなわち,R⊂Cです。そこで,特に以下ではu=(1,0)を単に1,n=(0,0)を単に 0 と書きます。

[定義3](虚数)

 複素数(0,1)をiと書く。

[定理12]i2=-1 である。

(証明)i2(0,1)(0,1)=(-1,0)=-1 です。

 

 (証明終わり)

[定理13]∀a,b∈Rに対して,(a,b)=a+biである。

 

(証明)a+bi=(a,0)+(b,0)(0,1)=(a,0)+(0,b)=(a,b)

 

(証明終わり)

[定理14]∀x,y∈Cに対して,|x+y|≦|x|+|y|である。

 

(証明) x+y=0 なら自明なので,x+y≠0 とする。このときλ≠|x+y|/(x+y)と置けば,定理6(b)より|λ|=1 です。

 

 そしてλx+λy=|x+y|です。

 

 よってλx+λyは実数ですから,λx=(a,b),λy=(c,d)ならλx+λy=(a+c,b+d)=(a+c,0)=a+cです。

 

 そして|a|≦|λx|=|x|,かつ|c|≦|λy|=|y|です。したがって,|x+y|=λx+λy=a+c≦|a|+|c|≦|x|+|y|が成立します。

 

 (証明終わり)

[定義4](共役複素数)

 複素数z=(a,b)=a+bi(a,b∈R)に対して,複素数z*≡(a,-b)=a-biをzの共役複素数という。

以下は通常の歴史的な複素数の展開の繰り返しになるので,ここでやめます。要するに,ここで展開した一連の話は,歴史的には代数方程式の実数解を求めるための過渡的な仮想数として便宜上導入された複素数をヒルベルト(Hilbert)などの思想に基づいて,公理的発想で代数的に再構築したモデルの1例になっている思われます。

数十年前に,この定義を初めて学んだ頃は,確かに新鮮でしたが,単に複素数をガウス平面の2次元ベクトルとする平面幾何の猫像をやや記号的に定式化しただけだとしか思いませんでした。

 

例えばガウス平面の実軸)上の点a=(a,0)(a>0 )に虚軸上の点i=(0,1)を乗じると,これは幾何学的にはベクトルのπ/2だけの正の回転に相当し,結果的に積としての点がai=(0,a)となり,その上さらにi=(0,1)を乗じると,さらにπ/2回転されることになって,合計πだけ回転されて点-a=(-a,0)に移ります。

 

それ故,iを2回続けて乗じることは,ネットで-1を乗じることに相当し,i2=-1と同定されますが,こうした話を言い換えただけに過ぎないという感じで割と軽視していました。

しかし,物理学で相対性理論のエネルギーの等式E2=p22+m24の平方根を取ったとき,E=±c(2+m22)1/2の右辺は非常に扱いにくい非線型な形式ですが,これを次元を増やして行列を用いて表現すれば線形化できるというディラックの相対論的波動方程式のアイデアを見るなどの思考体験もあって,後には少なからず見方が変わりました。

数十年も経った現在の心境としては,論理学での帰納法に関するペアノ(Peano)の公理系と同じような感覚を持って見ています。

 

実証科学である他の自然科学での,複素数は仮想数であるとか,2乗して-1になる数などそもそもこの世には存在しないとかの「実在するしない」という類の不毛な論議とは関係なく,

 

上記のような定式化は単に数学的実体として,複素数は2元数として存在するという考えを,陽に表現して明確化する,という意味がある,と思うに至っています。 

参考文献:Walter.Rudin「Principles of Mathematical Analyss」second Edition(McGrawHill)

 

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2008年2月11日 (月)

デデキントの切断(補遺)

 実は,昔の大学入学時の頃のノートを忠実に再現すると,ブログにまとめたものよりもはるかに泥臭いものです。

 かつて,19世紀にラグランジュ(Lagrange)などが,それまでは無批判に使用していた級数などの収束性の論議を見直さざるを得なかったのと同じ,というのはおこがましいのですが,私もそれなりに悩んだようです。

 大学に入って,高校までに勉強していた付け焼刃のような極限や微積分の概念を,コーシー(Cauchy)が創始した,いわゆるε-δ論法に代表される近代無限小解析の手法で見直す,などと関連して,私的理解を助けるための,かなり細かい書き込みがノートのそこかしこにあります。

 当時,それらの見慣れない概念を受容するために,かなり悩んだ後が見られたりします。

例えば,前記事では煩雑になるので省略したα1*1*α=αの証明なども,かなり苦労してやっていたようです。

 

結局は|α|1*|α|を示せばいいわけですから,p∈|α|1*ならp=st;s∈|α|,t<1と書けるので,p=st<sですからp∈|α|,逆にp∈|α|ならq>p,q∈|α|なるqが存在してq>0 の場合p=q(q/p)よりp∈|α|1となるという簡単明快なものです。

 

この証明の記述1つにしても,元々はスミルノフ著の「高等数学教程」や高木貞治著の「解析概論」など比較的古い記述の書物を参照していて,最終的に,W.Rudinというテキストに到達したようです。

ところで,前記事では急いでいたせいもあって,肝心の最後の実数の連続性を保証する"デデキントの定理(Dedekind's theorem)"なるものが解析学にとって一体,何の意味を持つのか?ということなどについて書き漏らしていたので,ここに補足しておきます。

そもそも,前述の"デデキントの定理"は,"デデキントの切断(連続性)公理"と呼ばれることも多く,何もわざわざ有理数から無理数を含む実数を,"有理数の集合=切断"として定義する,という前記事のような手間をかけるほどのことはなく,単にこれを公理として受容してもよいくらいのものだともいえます。

要するに,実数に対して"デデキントの定理",あるいは"デデキントの切断公理"が成立すれば,上に有界な実数集合には上限,つまり最小上界があり,下に有界な実数集合には下限,つまり最大下界があることがいえる,ということが重要なのです。

 

結局,私など高校の数Ⅲでは証明なしでごまかしのような説明付きで無理に記憶させられていた,"変数が有界で単調に変動するなら,それには有限な極限値が存在する。"というような極限の存在についての法則もが証明できるようになる,というくらいの意味しかないのですね。

まあ,デデキントの切断など知らなくても,"上に有界な実数集合には上限=最小上界があり,下に有界な実数集合には下限=最大下界がある"ことを公理として,出発しても大した差はないのですが。。。

この定理,あるいは公理の効用について,さらに述べるなら実数の完備性くらいですかね。

 

つまり,実数によるコーシー列は必ず有限な極限値に収束する,という命題が成立するためには,実数の連続性が必要なんですね。

 

そして,結局,n次元ユークリッド空間Rnの完備性も実数の連続性に基づいて保証されるわけです。 

これらを具体的に述べるには,まず有界という言葉の定義から出発する必要があります。

[定義1](有界)

 実数の集合:E⊂Rがあるとする。

 

 実数y∈Rが存在して,∀x∈Eに対してx≦yが成立するとき,Eは上に有界であるといい,yをEの上界と呼ぶ。

 一方,実数z∈Rが存在して,∀x∈Eに対してz≦xが成立するとき,Eは下に有界であるといい,zをEの下界と呼ぶ。

 

 Eが上にも下にも有界であるときには,Eは有界であると言う。

実数から成る数列{xn}が有界であるとは,全てのxnの集合{xn:n=1,2,..}が有界であることを言う。

[定義2](上限,下限)

 実数の集合E⊂Rが上に有界であるとき,yがEの1つの上界でありx<yならxはEの上界とは成り得ないときには,yをEの最小上界=lubE(lub of E),あるいはEの上限=supE(sup of E)と呼ぶ。

 

 別の言い方をするなら,yはEの1つの上界であって,任意のε>0 に対してy-ε<x≦yなるx∈Eが存在するとき,yをEの上限と呼びy=supEと書く。

実数の集合:E⊂Rが下に有界のとき,zはEの1つの下界であってz<xならxはEの下界とは成り得ないとき,zをEの最大下界=glbE(glb of E),あるいはEの下限=infE(inf of E)と呼ぶ。

 

別の言い方をすれば,zはEの1つの下界であって,任意のε>0 に対してz≦x<z+εなるx∈Eが存在するとき,zをEの下限と呼びz=infEと書く。

[定理1](上限,下限)

 実数の集合:E⊂Rが上に有界でE≠φとする。このときEの上限supEが存在する。

 また,実数の集合E⊂Rが下に有界でE≠φとする。このときEの下限infEが存在する。

 

(証明)A≡{α∈R|α<xなるx∈Eが存在する。}とし,B≡Ac=R-Aとします。

 

 このとき,y∈AならyはEの上界では有り得ず,y∈Bなら,∀x∈Eに対してx≦yが成立するので,yはEの上界です。つまり,BはEの上界全部の集合になっています。

そして,明らかにA∪B=R⊂R,A∩B=φです。

 

また,E≠φなので,あるx∈Eが存在します。

 

そして,α∈Rはα<xならα∈AなのでA≠φです。

 

また,E⊂Rが上に有界なのでB≠φです。

 

それ故,デデキントの定理によってAが最大数を含むかBが最小数を含むかのいずれかです。

 

ところが∀α∈Aについて,α<xなるx∈Eが存在するのでこのxに対してα'≡(α+x)/2と置けばα<α'<xですからα<α'なるα'∈Aが存在するためAは最大数を持ちません。

 

したがってB=(Eの上界の集合)が最小数を持ちます。これはEの最小上界=Eの上限supEです。

後半のEの下限infEの存在についても同様なので,後半の証明に関しては省略します。

 

(証明終わり)

※よくある解析学や微積分学の初歩的なテキストでは,実数の集合が有界のとき上限,あるいは下限が存在するというこの定理を公理のように理論の出発点としているものもあるようです。

 

 我々のような物理屋であれば,必ずしもデデキンドの切断のような数学的に微妙な論題まで知る必要はないかも知れません。

[定理2] 実数から成る数列{xn}が有界で単調に変動するならば,これはn→ ∞に対して有限な極限値に収束する。

 

(証明) 数列{xn}が上に有界で単調非減少とすると,E≡{xn:n=1,2,..}は上に有界です。したがって上限β≡supEが存在して,xn≦β(n=1,2,..)が成立します。

 

 任意のε>0 が与えられたとすると,上限の定義によって,あるNが存在してβ-ε<xN≦βが成立します。

 

 そして{xn}は単調非減少数列なのでn≧NならxN≦xnです。 

したがって,n≧Nならβ-ε<xN≦xn≦βが成立します。つまり,n≧Nなら常に|β-xn|<εです。

 

これは,β=limn→∞nを意味します。

 

この場合には,極限値は上限に一致します。一方,数列{xn}が下に有界で単調非増加の場合に,{xn}が下限に収束することも,同様にして証明できます。

 

(証明終わり)

[定理3] 実数の有限区間の列:[a1,b1],[a2,b2],..,[an,bn],..が与えられ,どの区間も先行する区間に含まれるとする。

 

 つまり,[an,bn]⊂[an-1,bn-1],またはan≧an-1,かつbn≦bn-1とする。

 

 そしてn→ ∞ に対して区間の長さn≡bn-anがゼロに収束する,つまりcn0  as n→ ∞ のとき,数列{an}と{bn}は共通の極限値に収束する。(この有限区間の列は縮小区間列と呼ばれます。)

(証明) 仮定によって,a1≦a2≦..≦an-1≦an≦bn≦bn-1≦..≦b1です。したがって,数列{an}は上に有界で単調非減少なので,ある極限値αが存在してlimn→∞n=α≦b1です。

 

 limn→∞nlimn→∞(bn-an)=0 ですからlimn→∞nlimn→∞(an+cn)=αも得られます。

 

 (証明終わり)

[定理4](コーシーの収束判定条件(Cauchy's criterion))=(完備性)

 実数から成る数列{xn}が有限な極限値に収束するための必要十分条件は”予め与えられた任意の正の数εに対して,あるNが存在してm≧N,かつn≧Nなら|xm-xn|<εが成立する”ことである。

 

(証明) 必要性:{xn}が有限な極限値に収束するならば,"予め与えられた任意の正の数εに対して,あるNが存在してm≧N,かつn≧Nなら|xm-xn|<εが成立する"のは明らかです。

十分性を証明するため,"予め与えられた任意の正の数εに対して,あるNが存在してm≧N,かつn≧Nなら|xm-xn|<εが成立する"と仮定します。

 

仮定によって,あるN1が存在してm≧N1,かつn≧N1なら|xm-xn|<1ですから,k≧N1なら|xk-xN1|<1が成立します。

 

すなわち,k≧N1ならxN11<xk<xN11,あるいはxk[xN11,xN11]です。

 

同様にN2≧N1なるN2が存在して,k≧N2ならxN2(1/2)<xk<xN2(1/2),あるいはxk[xN2(1/2),xN2(1/2)]です。

そこで,これを繰り返して,m=1,2,..,,m-1,m,..について,Nm≧Nm-1≧..≧N2≧N1なるNmの列が存在して,k≧NmならxNm(1/m)<xk<xNm(1/m),あるいはxk[xNm(1/m),xNm(1/m)]と書くことができます。

 

そこで,am≡xNm(1/m),bm≡xNm(1/m)と置けばxk[an,bn] (n=1,2,..)であり,区間列{[an,bn]}は前定理3の仮定である実数の縮小区間列[a1,b1],[a2,b2],..,[an,bn]..に他なりませんから,数列{an}と{bn}は共通の極限値に収束します。

その共通の極限値をαとすれば,limn→∞nlimn→∞n=α,かつxk[an,bn]ですからlimn→∞n=αも成立します。

 

(証明終わり)

ここで,これらの実数空間Rにおける定理をn次元ユークリッド空間Rnに一般化してみます。

 

ユークリッド空間は1種の距離空間ですから,差し支えない場合には距離空間の言葉を用います。

[定義3](距離空間)

 のことを点と呼ぶ集合Xが距離空間であるとは,∀,∈Xに対して,これらの距離と呼ばれる実数d(,)≧0 が定まっていて,次の3つの性質を満たすことをいう。

 

 厳密にはXだけではなく(X,d)の組を距離空間と呼ぶ。

3つの性質とは,(a)ならd(,)>0;d(,)=0 (b)d(,)=d(,) (c)∀∈Xに対し,d(,)≦d(,)+d(,)です。

※例えばn次元ユークリッド空間:Rnなら(x1,x2,..,xn),≡(y1,y2,..,yn)∈Rnに対して,距離を絶対値で定義する,d(,)≡||≡{Σk=1n(xk-yk)2}1/2定義すれば,(Rn,| |)の組は距離空間になります。

以下,集合と言えば距離空間Xの部分集合であることを暗黙の了解事とします。

[定義4](有界)

 集合E⊂Xが有界であるとは,実数Mとある点∈Xがあって,∀∈Xに対してd(,)<Mが成立することをいう。

[定義5](収束点列)

 距離空間Xの点列{n}が収束するとは,ある点α∈Xが存在して,任意のε>0 に対して整数Nが存在してn≧Nならばd(n,α)<εが成立することをいう。

[定義6](コーシー列と完備性)

 距離空間Xの点列{n}がコーシー列であるとは,任意のε>0 に対し整数Nが存在してm≧N,かつn≧Nならd(m,n)<εが成立することをいう。

 そして距離空間Xの任意のコーシー列が収束するとき,Xは完備である,という。

定理4から実数の空間Rは完備であることがわかります。

 

 これを少し拡張すればn次元ユークリッド空間Rnも完備である,ことがわかります。

 

 一般の距離空間は必ずしも完備ではありませんが,あるコーシー列に関する同値類を作ることによって完備化することが可能です。

参考文献:Walter.Rudin「Principles of Mathematical Analyss」second Edition(McGrawHill)

 

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2008年2月10日 (日)

デデキントの切断(Dedekind cut)

 物理学関係についての話ばかり書くのも少し疲れたので,ちょっと数学に浮気します。

 

 それも19世紀の解析学の話で息抜きします。手抜きして,約39年も前の大学1~2年の頃書いたと思われる化石的なノートから引用します。

当時の私は学生運動クラブがメインで,その暇に細々,コツコツと数学の勉強をしていた程度でした。

 

専攻学科は理学部の物理学科でしたが,物理学に目覚めたのは大学院に入ってからで,大学5年間(1年留年)で自然科学関係で真剣に勉強したという記憶があるのは数学だけです。

  

必須単位を取って卒業できたのですから,物理学もやったのでしょうが,その成績は目茶目茶だったし,物理は試験前の一夜漬けくらいしか記憶にありません。

  

大学5年目の9月に幾つか他大学の大学院の物理学専攻を受けたのですが,物理学については1ヶ月か2ヶ月漬け程度の試験勉強でしたかね,入試の1つに合格したのも,恐らく数学の成績によるのでしょうね。

 

当時の参考書は洋書ですが,Walter.Rudin著の「Principles of Mathematical Analysis」でした。今取って見ると,McGraw-HillのRiprint版ですが,ボロボロですね。

  

後に共立出版から「現代解析学」というそれの訳が出ているはずですが,そちらは所持していません。

  

余談はさておき,以下本文です。

 

まだ,数としては有理数しか存在しない世界から実数という新しい実体を定義します。まず,Qを有理数全体の集合とします。

  

このとき,例えばp∈Q,かつp2=2を満たす元pは探しても存在せず,それ故,集合A⊂QをA≡{p∈Q|p≦0,またはp>0,かつp2<2}と定義すれば,Aには最大数が存在しないことが簡単な考察からわかります。

  

また,QにおけるAの補集合B≡Ac=Q-Aには最小数が存在しないこともわかります。

 

つまり,有理数体だけでは,数直線上には多くのギャップがあって,連続性は満たされないことがわかります。

 

そこで,こうしたことが"連続性を満たす新しい数=実数"の導入の動機付けとなるわけです。

 

まず切断の定義です。デデキント(Dedekind)が導入したので一般にデデキントの切断(Dedekind cut)と呼ばれています。

 

[定義 0]集合α⊂Qが次の3条件を満たすとき,αを切断という。

 (ⅰ)α≠φ,α≠Qである。(ⅱ)p∈α,q∈Q,かつq<pならばq∈αである。(ⅲ)αは最大数を含まない。つまり,∀p∈αに対してp<r,r∈αなるr∈Qが存在する。の3条件である。

 

[定理A1]p∈αであるがq∈αでないならp<qである。

  

(以下では"q∈αでない"という文については論理記号の否定:¬を用いて,"¬q∈α"と表現することもあります。)

  

(証明) (ⅱ)により,p∈α,q∈Q,かつq<pならq∈αです。

 

 またq=pなら,もちろんq∈αです。

  

 したがってq≦pならq∈αですから,q∈αでない(¬q∈α)ならp<qです。

  

 (証明終わり)

 

     上の定理の結果により,αの元をlower numberと呼び,有理数であってαに属さないものについてはαの元より大きいのでupper numberと呼びます。

 

[定理A2]r∈Qに対してα≡{p∈Q|p<r}と置くと,αは切断であって,rはαの最小のupper numberです。

  

(証明) αが(ⅰ),(ⅱ)を満たすのは自明です。(ⅲ)は∀p∈αに対してp<(p+r)/2<r,(p+r)/2∈αから明らかです。

 (証明終わり)

 

[定義1]上の定理で切断であると証明された集合αを特に有理数rに関する有理切断と呼び,これをr*で表わす。

 次は,大小関係(順序関係)の定義です。

 

[定義2] α,βを切断とするとき,これが集合として等しいとき,これらは等しいと言い,α=βと書く。

 

 またp∈βであるが,p∈αでないようなp∈Qが1つでも存在すればα<β,あるいはβ>αと書く。

 

 そして,α≦βなる表現は,α=βまたはα<βを意味し,α≧βはα=βまたはα>βを意味する。

[定理A3] α,βを切断とするとき,α=βかα<βをβ<αのいずれか1つが成り立ち,2つ以上同時に成り立つことはない。

 

(証明) 手順を追って定義を確かめるだけなので省略します。

[定理A4] α,β,γを切断とするとき,α<βかつβ<γならばα<γである。

 

(証明) これも手順を追って定義を確かめるだけなので省略します。

※注:これら切断と呼ばれる有理数集合の各々が1つ1つの実数の各々に同一視されて対応する,というのがデデキントの着想です。

 

 次に,四則演算です。

[定理1]α,βを切断とするとき,γ≡{p+q|p∈α,q∈β}と置けばγも切断である。

 

(証明)γが上記の3条件を満たすことを1つずつ順を追って示せばよくて論理的に簡単なので省略します。

 

 当時の私のノートには律儀に証明が書いてありますが,まあ,当時は初学者だったので当然ですね。。。

 

[定義3](加法:足し算)

 上記の定理1で切断であると証明されたγをα+βと書き,αとβの和と定義します。

[定理2](交換法則,結合法則,ゼロ元)

α,β,γを切断とする。

  

(a)α+β=β+α (b)(α+β)+γ=α+(β+γ)

(c)α+0=α が成立する。

 

(証明) (a),(b)の成立は自明です。

 

 そこで(c)の証明だけやってみます。

 

 まず,p∈α+0*とします。このとき,p=q+r;q∈α,r∈0*なるq,r∈Qが存在します。

 

 r∈0*より,r<0 ですからp=q+r<qです。

 

 したがって,p∈αが成立します。

 

 一方,逆にp∈αとするとαは切断ですから,p<q,かつq∈αなるq∈Qが存在します。

 

 このqによって,p=q+(p-q);q∈α,(p-q)∈0*と書けば,p∈α+0*であることがわかります。

 

 以上からp∈α+0* p∈α,すなわち,α+0*=αがいえます。

 

(証明終わり)

 ※結合法則:(α+β)+γ=α+(β+γ)が成立するので,以後(α+β)+γ=α+(β+γ)を単にα+β+γと表記することもあります。

[定理3]αを切断とし,r∈Qを任意の正の数(r>0)とする。

 

 このとき,r=q-pを満たすp,q∈Qであって,p∈α,¬q∈αでqはαの最小のupper numberではないものが存在する。

 

(証明) まず,α≠φなので,s∈αなる適当なsを取り,s≡s+nr(n=0,1,2,..)とします。

 

 このとき,s∈α,¬s+1∈αなるmが唯1つ存在するはずです。

 

 (こうしたmが存在しないと仮定すると,α=Qとなって切断であることに矛盾します。)

  

 そこで,p≡,q≡+1とおけば,p∈α,¬q∈αでq-p=rです。

 

 ただし,もしもq=+1がαの最小のupper numberなら,p≡+r/2,q=+1+r/2とします。

 

 (証明終わり)

[定理4](逆元の存在)

 αを切断とすときα+β=0*を満たす切断βが唯1つ存在する。

 

(証明) まず,α+β=0*を満たす切断βが存在するとしてその一意性から証明します。

 

 すなわち,α+β=α+β10*とするとβ10*+β1(α+β)+β1(α+β1)+β=0*+β=βです。

 次に,α+β=0*を満たす切断βの存在証明です。

 

 そのために,集合β≡{p∈Q|¬(-p)∈α,ただし(-p)はαの最小upper numberではない。}を作ります。

 

 そして,まず集合βが1つの切断であることを証明します。

 

 すなわち,βが切断条件(ⅰ),(ⅱ),(ⅲ)を満足することを示します。

 

 まず,(ⅰ)β≠φ,β≠Qは明らかです。

 

 (ⅱ)ですが,p∈β,q∈Q,かつq<pと仮定すると,(-p)<(-q)ですから,もしも(-q)∈αなら(-p)∈αとなり,¬(-p)∈αに矛盾します。そこで(ⅱ)も成立します。

 

 次に(ⅲ)です。p∈βであることは,(-p)がαの upper numberであることを意味しますが,最小upper numberではないので∃q∈Q,(-q)<(-p),かつ¬(-q)∈α,

 

 すなわち,¬(-q)∈α,かつp<qです。

 

 そこでr≡(p+q)/2とおけば,p<r<q,つまり(-q)<(-r)<(-p)なので¬(-r)∈αです。

 

 しかも(-r)はαの最小upper numberではありませんから,r∈β,かつp<rです。

 

 pはβの任意の元でしたから,βは最大数を含みません。

 

 これで(ⅲ)も成り立つことがわかりました。

したがって,βも切断ですから和の切断の有理数集合α+βが定義できます。

 

そしてp∈α+βとすれば,定義によってq∈α,r∈βが存在してp=q+rと書けます。

 

よってq∈α,¬(-r)∈αですが「定理A1:p∈α,¬q∈αならp<qである。」によれば,これからq<(-r)が結論されます。

 

これを移項すればp=q+r<0 となります。

 

それ故,結局p∈0* が結論されます。

 逆にp∈0* を仮定すると,0*の定義によりp<0 ,すなわち,(-p)∈Qは正の数:(-p)>0 です。

 

 ところが「定理3:αを任意の切断としてr∈Qを任意に与えられた正の数(r>0)とすると,r=q-pを満足し,かつp∈α,¬q∈αであってqはαの最小のupper numberではないような有理数の組p,qが存在する。」によれば,

 

 (-p)=(-r)-qを満足し,かつq∈α,¬r∈αであってrはαの最小のupper numberではないような有理数q,rの組が存在します。

 

 これは,p=q+r,かつq∈α,r∈βとできることを意味します。それ故,結局p∈α+βが結論されます。

 以上から,α+β=0*が成立することがわかりました。

 

 すなわち,α+β=0*を満たす切断βが確かに存在します。こうしたβが一意的であることは既にこの証明の最初で示しましたから,定理は全て証明されました。

 

 (証明終わり)

[定義4](逆元)

 上記の定理4で切断αに対して存在することが証明された切断βを(-α)と書きます。

[定理5] α,β,γを切断とするときβ<γならばα+β<α+γである。特にα>0*,かつγ>0*ならばα+γ>0* である。

 

(証明) 大小関係の定義2によってβ<γならばα+β<α+γであることは自明です。

 

 そして特にβ=0*としてα>0*,かつγ>0*とすれば,α+γ>α>0*となります

 

 (証明終わり)

[定理6]α,βを切断とする。このときα+γ=βを満たす切断γが唯1つ存在する。

 

(証明)γ≡β+(-α)とすると,α+γ=α+{β+(-α)}=0*+β=βです。そして定理5からγ1≠γならα+γ1≠α+γなのでα+γ=βを満たす切断γは一意的です。

 

 (証明終わり)

[定義5](減法:引き算)

 上記の定理5で切断α,βに対して存在することが証明された切断γ≡β+(-α)をβ-αと書き,αのβとの差と呼ぶ。

[定理6](乗法)

 α,βをα≧0*,かつβ≧0*なる2つの切断とする。このときγ≡{r∈Q|r<0 ,またはr=pq,p∈α,p≧0;q∈β,q≧0 }と置けばγは切断である。

 

(証明)証明は加法α+βと似たようなものなので省略します。

[定義6](乗法:掛け算)

 上記の定理6で切断α,βに対して定義された切断γをαβと表記し,αとβの積と呼ぶ。

 

 さらに任意の切断αについて,|α|≡α(if α≧0*),-α(if α<0*)と定義すると,|α|も1つの切断であって,明らかに|α|≧0*である。

 

 そして|α|=0*となるのはα=0*のとき,このときに限る。この|α|をαの絶対値と呼ぶ。

 α,βをα≧0*,かつβ≧0*ではない2つの切断とする。

 

 このときαβ≡-(|α||β|)(α<0*,かつβ≧0*,またはα≧0*,かつβ<0*),|α||β|(α<0*,かつβ<0*)によって積αβを定義する。積|α||β|については既に定義されている。

[定理7](加法と乗法の性質)

 α,β,γを切断とするとき,(a)αβ=βα (b)(αβ)γ=α(βγ) (c)α(β+γ)=αβ+αγ (d)α0*0* (e) αβ=0* ⇔ α=0* or β=0* (f)α1*=α (g)0*<α<β,かつγ>0*ならαγ<βγである。

 

(証明)これら全ての証明もコツコツやればできるので省略します。

[定理8](除法)

 αをα≠0*なる切断とする。また,βも1つの任意の切断とする。このときαγ=βなる切断γが唯1つ存在する。

[定義7](除法:割り算)上記の定理8で切断α(α≠0*),βに対して存在することが証明されたαγ=βなる唯一の切断γをβ/αと書き,βのαによる商と呼ぶ。

[定理9](有理切断)p,q,r,..etc.を有理数とする。このとき,(a)p*+q*(p+q)*,(b)p**(pq)* ,(c)p*<q* ⇔ p<q が成立する。

 

(証明)これも証明は略です。

[定理10]α,βをα<βなる任意の切断とする。このとき,α<r*<βなる有理切断r*が存在する。

 

(証明) α<βとします。定義によってp∈β,¬p∈αなるp∈Qが存在します。p<r,かつr∈βなるrを取ると,もちろん¬r∈r*ですから,r*<βです。またp∈r*,¬p∈αより,α<r*です。

 

(証明終わり)

[定理11]αを任意の切断する。このとき,p∈α ⇔ p*<αである。

 

(証明) p∈αのとき,¬p∈p*ですから,p*<αです。

 

 逆にp*<αのとき,q∈α,¬q∈p*なる有理数qが存在します。

 

 ¬q∈p*よりq≧pですからp∈αです。

 

 (証明終わり)

 かくして準備は整いました。

[定義8]各々の切断を実数と呼ぶ。有理切断は有理数と同一視する。

     以下,実数全体(切断全体)の集合をRとします。

[定理12](デデキントの定理)

 集合A,Bを次の性質を持つRの部分集合とする。

 

(a)R⊂A∪B (b)A∩B=φ (c)A≠φ,かつB≠φ (d)α∈A,β∈Bならばα<β である。

 

 このとき,α≦γ for ∀α∈A,かつγ≦β for ∀β∈Bなる唯一のγ∈Rが存在する。

 証明を実行する前に系も述べておきます。

[系] 定理12の仮定の元では,Aが最大数を含むか,Bが最小数を含むかのいずれかである。

 

(定理12の証明) γ≡{p∈Q|p∈α for some α∈A}と置きます。

 

 まず,このγが確かに切断であることを証明します。

 

 A≠φなので,α∈Aなるαが少なくとも1つは存在しますから,γ≠φです。

 

 一方,B≠φなので,β∈Bなるβも存在します。

 

 当然,∀α∈Aに対してα<βです。そしてβ≠Qより,¬q∈βなるq∈Qが存在します。

 

 このとき∀α∈Aに対して,α<βによって¬q∈αです。それ故, ¬q∈γです。

 

 以上から,切断条件(ⅰ)γ≠φ,かつγ≠Qが満たされることがわかりました。

次に,p∈γ,q<pと仮定します。p∈α for some α∈Aですからこのαに対して切断の定義によりq∈αです。それ故,q∈γです。

 

これで切断条件(ⅱ)も成立します。

また,p∈γとすると,p∈α for some α∈Aです。

 

切断の定義によりq>pなるq∈αが存在します。よって,q>pなるq∈γが存在します。

 

これで切断条件(ⅲ)も成立します。

以上でγは1つの切断であることが示されました。

 

したがってγは実数です。γ∈Rですね。

 

そしてγの定義から明らかに∀α∈Aに対してp∈αならp∈γですからα≦γです。

 

一方,もしあるβ∈Bについてβ<γなら,あるp∈Qが存在してp∈γ,かつ¬p∈βです。

 

p∈γより,あるα∈Aに対しp∈αなります。

 

このαについては,p∈α,かつ¬p∈βですから,これはβ<αを意味します。

 

これは∀α∈Aに対してα<βという前提に矛盾します。

以上から,∀β∈Bについてγ≦βです。以上で定理の前半の存在証明は終わりました。

 

一方,上記γと同じ性質の実数(切断)γ12が存在して大小関係がγ1<γ2であるとすると,定理10によってγ1<γ3<γ2を満たすγ3∈Rが存在しますが3<γ2よりγ3∈A1<γ3よりγ3∈B,つまりγ3∈A∩B=φとなって矛盾です。したがって一意性も証明されました。

系については定理12のγがAの最大数かBの最小数になることは自明であり,前提(a)によってどちらか一方しか起こり得ないことは明らかです。

 

(証明終わり)

 まだ,ちょっとあるのですが,とりあえずここまでで終わります。

 丁度10年くらい前ですか,池袋の電子専門学校で非常勤講師をしていた時代に,数学の微積分学を教えて欲しいと頼まれたことがあります。

 

 そのとき,つい教科書を無視して,このノートの内容などを講義してしまいました。

  

 指導教官に漏れて注意を受けた末に次年度からは数学の講義をはずされてしまいました。

 

 微積分の計算だけ教えてくれればいいということでしたね。計算も確かに教えましたが,ちょっとハメをはずしたかも知れません。

当時の相手は40人余りのクラスの生徒で確か臨床工学科でしたか?女子の方がやや多かったような記憶がありますが,生徒は私の講義を結構面白がっていたと感じたのですが。。

 

まあ,将来の役には立たない念仏講義なので,結局は迷惑だったかも知れませんね。

 

物理の講義でもちょっと私的な趣味に走ったことがありましたが,物理の講師は不足していたらしくて,幸いクビにはなりませんでした。

参考文献:Walter.Rudin「Principles of Mathematical Analysis」second Edition (MacGrawHil)

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2007年12月20日 (木)

微分形式とベクトル解析

 コーヒー・ブレイクです。物理学の話はちょっとお休みにして物理数学の軽い話題を述べてみます。

 エリ・カルタン(Elie Cartan)が創始したと言われる微分形式,または外微分の概念は,最近は向き付け可能な微分可能多様体の上でのテンソル場などと関連して導入されることが多いらしく,何か前提として微分幾何学などの知識がなければいけないかのように感じ,かなり敷居が高いなどと思われ勝ちです。

 

 私が35年以上も前に大学の物理学科で留年した年に,1年間数学科で浮気をしていた際,数学科の専門講義の中で解析学の一部として学んだ記憶がある微分形式は幾何学と関連があるといっても平面上の四角形はアファイン変換でもやはり四角形になる,という程度の初等幾何の話で十分なものでした。

 微分形式を抽象数学として厳密に扱おうとするなら,それを微分幾何学,多様体などの概念と結び付け,曲面上での特殊な多重線形変換の場,あるいは交代テンソルの場の一部として導入するべきかも知れません。

 

 しかし,古典物理での物理数学のような応用数学に利用するだけであれば,積分が微分の逆演算であること,および積分変数,あるいは微分変数の変換における不変式との関連の話で導入をする程度でお茶を濁すのがイメージを掴むやり方としては,はるかに入り易いと思います。

 

 ここではそうした方法での説明にトライしてみます。

 要するに,私がはじめてそれを学んだときには,微分形式というのは素朴な1変数関数の積分での変数置換に伴う単純な置換積分の公式を多変数関数の重積分の場合のそれに拡張したとき,積分形式における変換規則を微分形式の規則に翻訳するための便法として編み出した記号に過ぎないものである,と把握したものでした。

 ただ,そうした記号的手法を用いれば計算が非常に楽になるということだけは確かであり,特に直交座標であるとか極座標であるとかの点の座標表現を気にすることなく同じ形式で考察できるという意味では,重宝で便利な道具であるとは思います。

 1変数関数y=f(x)の不定積分:F(x)=∫x(t)dtは,積分変数tをt=φ(u)によってuに変更するとき,この対応が"同相=1価連続で逆写像もまた連続"であるならばx=φ(v)のとき,∫v(φ(u))φ'(u)du (ただしφ'(u)≡dφ/du)なる積分に一致する,つまり∫x(t)dt=∫v(φ(u))φ'(u)duなる不変式が成立する,というのが置換積分法の規則です。

 

 これは微分規則での合成関数の微分法の規則:dF(φ(v))/dv=(dF/dx)φ'(v)に対応するものです。

 では2変数関数g(x,y)の積分の場合にはどうでしょうか?

 

 1変数関数のときには便宜上,積分を不定積分としましたが,今度はある決まった点(x,y)の連結した点集合から成る2次元の領域Dの上での定積分として,2重積分:∫D(x,y)dxdyを考えます。

 

 1変数のときと同様,x=φ(u,v),y=ψ(u,v)と変数変換してφ,ψを(u,v)の連結した領域:DuvからDの上への同相写像とします。

 

 すなわち,この写像の組φ,ψをベクトル表示でt(x,y)=Φ(u,v)≡t(φ(u,v),ψ(u,v))と書いたとき,D=Φ(Duv)が成立するとします。

 そして,先の1変数の積分不変式∫x(t)dt=∫v(φ(u))φ'(u)duが,そのまま形式的に2変数関数g(x,y)の積分でも成立するとして,∫D(x,y)dxdy=∫Duv(φ(u,v),ψ(u,v))Φ'(u,v)dudvと書きます。

 

 形式的にこう書いたとしても,それだけでは,右辺の最後のΦ'(u,v)dudvなる記号表記の意味が未だ不明のままなので,これが明確に定義されない限りはこうした表現式に意味はありません。

 しかし,t(x,y)=Φ(u,v)≡t(φ(u,v),ψ(u,v))という変数の変換は,局所的な微分量の変換に対応する微小変換では通常の1次元の1変数の場合の変換:x=φ(u)における微分と微分係数との関係:dx=(dφ/du)du=φ'(u)duのアナロジーで,"全微分係数(total derivative)=全ての偏微分係数をその要素とする行列(matrix of partial-derivatives)"を記号的にdΦ(u,v)/d(u,v)と書けば,t(dx,dy)={dΦ(u,v)/d(u,v)}t(du,dv)と書けます。

 

 これを陽に表現すると,t(dx,dy)=t((∂φ/∂u)du+(∂φ/∂v)dv,(∂ψ/∂u)du+(∂ψ/∂v)dv)です。

 そして,こうした2重積分ではdxdy,およびdudvは何を表わしているかというと,これらの量は縦と横の辺の長さの組が(dx,dy),および(du,dv)で与えられる微小長方形の面積要素を表わしていますね。

 ところで,一般にn次元ベクトル空間Rnの上のベクトル:t(u1,u2,...,un)∈Rnを別の点t(x1,x2,...,xn)∈Rnに写す線形写像をアファイン(or アフィン)変換と呼びますが,これは線形変換なので,あるn次の正方行列Aが存在して=Aなる式に書けます。

始点の一致した2つのベクトル,で作られる平行四辺形の面積は,の成す角をθとするとき,|||||sinθ|で与えられます。

 

これはもしも,が3次元空間のベクトルなら,外積,あるいはベクトル積×の大きさを表わしています。

さらに行列Aで表現されるこうした線形変換によって,,がそれぞれ,に写されるとき,つまり=A,かつ=Aが成立するとき,外積の変換は×=(detA)(×)となります。

 

ただし,detAは行列Aの行列式を示しています。

 

つまり,アファイン変換では平行四辺形は平行四辺形に写され,その面積の比は,変換行列Aの行列式の絶対値=|detA|になるわけです。

したがって,微小変換t(dx,dy)={dΦ(u,v)/d(u,v)}t(du,dv)においても,これは微分ベクトル量同士の関係として線形変換なので,(dx,dy),および(du,dv)の成分はそれぞれx軸,y軸に平行な2つの微小ベクトル,およびu軸,v軸に平行な2つの微小ベクトルを示していると考えると,それらの作る微小長方形の面積要素の比がdet{dΦ(u,v)/d(u,v)}の絶対値で与えられると考えられます。

こうしたことは一般のn次元空間でも,もちろん成立し,そのときt(dx1,dx2,...,dxn)={dΦ(u1,u2,...,un)/d(u1,u2,...,un)}t(du1,du2,...,dun)なる線形変換式を満たすn行n列の行列{dΦ(u1,u2,...,un)/d(u1,u2,...,un)}は,慣習的にヤコービ行列(Jacobi matrix)と呼ばれ,記号{∂(x1,x2,...,xn)/∂(u1,u2,...,un)}で表わされます。

 

そして,その行列式det{dΦ(u1,u2,...,un)/d(u1,u2,...,un)}はヤコービアン(Jacobian)と呼ばれ,記号J=|∂(x1,x2,...,xn)/∂(u1,u2,...,un)|で表わされます。

そして,2次元の場合の変換式t(dx,dy)={dΦ(u,v)/d(u,v)}t(du,dv)においては,(du,dv)で作られる長方形の微小面積をdu∧dvなる記号で表わして,これを2次の微分形式と定義すれば,お互いの積分変数の微小面積要素の比を与える公式はdx∧dy=±det{dΦ(u,v)/d(u,v)}du∧dv=±J・du∧dv=±|∂(x,y)/∂(u,v)|du∧dvと表現されます。

 

この時点ではdu∧dvとdx∧dyなる記号は,これらを微小な面積という非負の量に同一視しているので,行列式の符号如何で,右辺にはプラス,またはマイナスの符号が必要です。

ところが,1次の置換積分の公式:x(t)dt=∫v(φ(u))φ'(u)duにおいて,φ(u)がuの増加関数であるか減少関数であるかによって,積分区間の始点と終点を逆転させることを約束すれば,符号を付ける必要がなく,いつでもこのままでこの積分不変式が成立するようにできます。

微分積分法などの初等的なテキストでは重積分における変数変換に際してヤコービアン:Jの絶対値をとって,置換積分の変換公式を∫Φ(D)(x1,x2,...,xn)dx1dx2..dxn=∫D(Φ(u1,u2,...,un))|J|du1du2...dunと書き,単なる行列式Jを用いる代わりに,その絶対値|J|を用いた式で表わすことが多いようです。

 

しかし,微分形式の記号du∧dv etc.を積分等式の両辺の積分領域DとΦ(D)の相対的な向きの指定をも含めた形で定義するなら,±符号を除いた簡単な積分公式∫Φ(D)(x1,x2,...,xn)dx1dx2...dxn=∫D(Φ(u1,u2,...,un))Jdu1du2...dun,および対応する微分公式dx1∧dx2∧...∧dxn=J・du1du2∧...∧dunが常に成立するようにできます。

さらに,この公式の微分形も任意の関数g(x1,x2,...,xn)を含めた一般的表現では,g(x1,x2,...,xn)dx1∧dx2∧...∧dxn=g(Φ(u1,u2,...,un))J・du1∧du2...∧dunと表わすことができます。

 

こうした微分による変換形式を,その本質的に反対称で外積代数と同じ性質を持つという演算規則の定義をも含めてn次の微分形式と呼ぶわけです。

そして,ω≡Σi1,i2,...iki1,i2,...ik (x1,x2,...,xn)dxi1∧dxi2∧...∧dxik(0≦k≦n)なる線形結合で与えられる形式が,n次元空間を土俵にした全く一般的なk次微分形式の定義です。

 

また,(n-1)以下のkについてのこうしたk次微分記式ωに対し,その外微分dωをdω≡Σi1,i2,...ikΣj=1n(∂fi1,i2,...ik/∂xj)dxj∧dxi1∧dxi2∧...∧dxikによって定義します。

 

こうした外微分に関しては,一般に"ポアンカレの補題d(dΩ)=0 ",および一般的な"ストークスの定理∫Ωdω=∫∂Ωω"が成立します。

 

この定義での微分式をなぜ外微分と呼ぶのかと言うと,微分形式や外微分の演算がいわゆる外積代数に従うからですね。

上に述べたポアンカレの補題は「完全形式(exact form)ω=dΩは閉形式(closed form)dω=0 である。」という定理ですが「可縮な領域では,閉形式dω=0 は完全形式である,つまりω=dΩと書ける微分形式Ωが存在する。」というこれの逆命題も成立します。

 

後者もポアンカレの補題と呼ばれることが多いです。

 

後者が成立することの証明については,私のブログの2006年10/21の記事「ポアンカレの補題」 http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2006/10/post_b9b6.html にやや詳しく記述しているので,よかったら参照してください。

逆命題としての後者のポアンカレの補題は,物理学で多用される伝統的なベクトル解析に翻訳した場合,結構重要な定理に対応しています。

 

例えばベクトル場が"渦無し=非回転的"である,ベクトル場の回転がゼロであることは,対象としている場が保存的である,すなわち場のスカラーポテンシャル(位置エネルギー)が存在して元のベクトル場はそのスカラーポテンシャルの勾配として表現可能であることを意味します。

  

また,ベクトル場の発散がゼロであることは,場のベクトルポテンシャルが存在して,場はそれの回転で表現されることを意味するという定理などに対応しています。

ここで,上述の定理も含め,こうした微分形式の言葉を物理学でよく使われるベクトル解析の言葉に翻訳して互いに関連付けるため,スカラー場,ベクトル場etc.の再定義,およびそうした言葉の翻訳作業に必要な道具として場の関数に対するいくつかの演算の定義や,関連した記号と記法を導入したいと思います。

Uを3次元ユークリッド空間の開集合とし,物理学での一般的なベクトル場の表記=(Vx,Vy,Vz)に対応した数学としての幾何学的表記を多様体上の線形演算子の場,あるいは余接空間上のベクトル場の形式として≡Vx(∂/∂x)+Vy(∂/∂y)+Vz(∂/∂z)で表わします。

 

そして,接空間上でのそれに双対(dual)なベクトル場としての微分形式を*≡Vxdx+Vydy+Vzdzで表わすことにします。

さらに3次元ユークリッド空間においては,微分1形式:u=u1dx+u2dy+u3dzに対して,*uを*u≡u1dy∧dz+u2dz∧dx+u3dx∧dyで,

 

微分2形式:v≡v23dy∧dz+v31dz∧dx+u12dx∧dyに対して*vを*v≡v23dx+v31dy+u12dzで,

 

そして微分3形式:w≡fdx∧dy∧dzに対して,*wを*w≡fで定義する演算,

 

すなわち,n次元ユークリッド空間のk次微分形式に対して,その左側に*印をつけることで(n-k)次微分形式を対応させる演算=星印作用(star operation)を定義します。

 

このときの演算記号である*印を,この演算を始めた人の名を取ってホッジ作用素,あるいは星印(スター)作用素と呼びます。

 

上の記述では書きませんでしたが,特に0-形式,単なるスカラー関数g(x,y,z)に対しての*印演算は,*g≡gdx∧dy∧dzです。

そうして,これらの星印演算については一般に任意の微分形式ωに対して*(*ω)=ωなる等式が成立します。

星印演算を用いると任意のスカラー場fの勾配:gradf=∇f=(∂f/∂x,∂f/∂y,∂f/∂z),あるいは(∂f/∂x)(∂/∂x)+(∂f/∂y)(∂/∂y)+(∂f/∂y)(∂/∂z)なる演算子表現に双対なベクトルの表現は,(gradf)*=(∂f/∂x)dx+(∂f/∂y)dy+(∂f/∂y)dzとなります。

 

そこで,スカラー場fの勾配に関する等式として(gradf)*=dfが得られます。

また,任意のベクトル場=(Vx,Vy,Vz)=Vx(∂/∂x)+Vy(∂/∂y)+Vz(∂/∂z)に対して,双対なものは*=Vxdx+Vydy+Vzdzなので,d(*)=(∂Vy/∂z-∂Vz/∂y)dy∧dz+(∂Vx/∂z-∂Vz/∂x)dz∧dx+(∂Vy/∂x-∂Vx/∂y)dx∧dyですから,ベクトル場の回転に関する等式として*{(rot)*}=d(*)が得られます。

さらに,*()*=Vxdy∧dz+Vydz∧dx+Vzdx∧dyなのでd{*()*}=(∂Vx/∂x+∂Vy/∂y+∂Vz/∂z)dx∧dy∧dzより,ベクトル場の発散に関する等式:*(div)=d{*()*}が得られます。

したがって,ポアンカレの補題:d(df)=0 はd{(gradf)*}=0 となって,さらに,rot(gradf)=0 となります。一方,d{d(*)}=0 はd[*{(rot)*]=0 となり,結局div(rot)=0 となります。

また,ストークスの定理∫Ωdω=∫∂Ωωによれば,ωを*()*に採れば∫V{*()*}=∫S*()*によって,∫V(div)dxdydz=∫Sをなる恒等式(identity)を得ます。これは物理ではガウスの法則と呼ばれています。

 

また,ωを*ととれば,∫S(*)=∫C(*)によって,∫S(rot)d=∫Cなる等式を得ます。

 

物理学では,2次元曲面Sとその境界閉曲線Cに対するこの公式だけをストークスの法則と呼んでいます。

本当は,ここで終わりにするのがきれいな終わり方なのでしょうが,そもそも息抜きのついでにこの記事を書く気になったきっかけは,すぐ前の12月15日の記事「理想気体の圧力と気体分子運動論」にあります。

 

その中では積分形の運動方程式d[∫V1dV]/dt=-∫SPdの右辺が直感的に-∫V1∇PdVと書き換えられて微分形の方程式d/dt=-∇Pになるとしたのですが,実は自分でもこの手順がすっきりしなくて,これの解決にホッジスのスター作用素が役立つのではないか?と考えたのが動機です。

 

そこで,私自身の問題意識としては,この問題をすっきりさせない限り,この記事を書くことには意味がありません。

しかし,ちょっと考えてみたところ,上に求めた公式では等式の両辺の積分値が全てスカラー量であるのに対し,∫SPdS=V1∇PdVなる等式を証明する場合,この両辺の積分値はベクトル量ですから上で実施した手順に類似した推論を単純に適用することはできないことがわかります。

結局,両辺でのベクトルの成分ごとにそれぞれスカラー量として等式を導くほかはなさそうです。

 

実際,ω≡Pdy∧dzと置けば,dω=(∂P/∂x)dx∧dy∧dzなので,ストークスの定理∫Sω=∫V1dωは∫SPdydz=∫V1(∂P/∂x)dVとなります。

 

そして空間の一様性から直交座標系:O-xyzのx軸の向きはどのように取っても同じです。

 

さらに,(∂P/∂x)は圧力Pの勾配ベクトル∇P=gradPの面dy∧dzに垂直な軸成分ですが,∇P=gradP自身も常に面dSの法線の向きを持ち,法線成分(∂P/∂n)に等しい大きさを持つベクトルですから∫SPdS=V1∇PdVが成立するのは明らかです。

 

ということで私自身の問題も解決したのでこれで終わります。

参考文献:深谷賢治 著「解析力学と微分形式」(岩波書店),木村利栄,菅野礼司著「微分形式による解析力学」(吉岡書店)  

 

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2007年11月28日 (水)

解析接続の意味

例によって「EMANの物理学」の談話室での話題なのですが,ゼータ関数の定義に関連して,無限級数(の和)によって定義された関数の解析接続とか一致の定理というのは何か?についての議論が進み,ほぼ終局の状態です。

私自身はまだ言い足りないことがあったので,ここでの記事にしますが,実は投稿したものとほぼ同じです。

ダブルポストなので,通常はルール違反なのですが,自分のブログなのでかまわないでしょう。

それに掲示板ではフォントなどが限られているので,ブログでは自分の好きな形式で書けるという意味もあります。

 結局は,2006年4月23日の記事「くりこみ回避のアイデア」http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_7d36.html

 で書いた話を少し精密にしただけです。

 私は,複素関数論での通常の解析接続の説明では飽き足らず,物理屋的な解説を目指しました。

 まず,zを任意の複素数とすると,Σk=1nk-11+z+z2+...+zn-1=(1-zn)/(1-z)です。これは有限級数の和なので,|z|<1でも,z=-1でもz=2でも成り立つ等式です。

 そして,|z|<1ならn→ ∞ で|zn|→ 0 なので,Σn=1n-1=1+z+z2+...=1/(1-z)が成り立ちます。

  しかし,z=2ではn→ ∞ で|zn|→ ∞ であり,z=-1ではn→ ∞ でznが確定値を取らないので,Σn=1n-1=1+z+z2+...=1/(1-z) は成立しません。

  そこで,複素関数f(z)を|z|<1で与えられる定義域においてf (z)≡Σn=1n-1=1+z+z2+...(|z|<1)によって定義することにします。

 こう定義すれば,|z|<1の領域では f (z)は関数1/(1-z)に一致します。

 |z|>1やz=-1では等式Σk=1nk-1=1+z+z2+...+zn-1=(1-zn)/(1-z)は成立しますが,Σn=1n-1=1+z+z2+...=1/(1-z)は成立しません。

 しかし,そうした|z|<1の領域以外のzに対しても部分和を表わす右辺の(1-zn)/(1-z)での分子のznを無視して,(1-zn)を1としたものと f (z)を同一視してz=1を除く全複素平面でf (z)=1/(1-z) (z≠1)と定義することにします。

 つまり,f (z)≡limn→∞[{1+z+z2+...+zn-1}+zn/(1-z)]という式を関数f (z)の正しい定義とするわけです。

 |z|<1なら,この後の定義も|z|<1 におけるf(z)に対する前の定義f(z)≡Σn=1n-1=1+z+z2+...(|z|<1)と全く一致します。

 一方,|z|>1やz=-1では差し引くべき項:{-zn/(1-z)}は収束しません。

 特に|z|>1なら|zn/(1-z)|→∞ なので, f (z)≡limn→∞[{1+z+z2+...+zn-1}+zn/(1-z)]は形式的に無限大から無限大を引くという意味に取ることも可能で,これは物理学でのくりこみの処方に似ています。。

 ここまでは,直接には解析接続とは無関係な話です。

 そして複素関数論では f (z)≡Σn=1n-1=1+z+z2+...=1/(1-z) (|z|<1)を特異点z=1を避けて延長した点でも,それが正則関数になるように,|z|≧1,z≠1なる点まで接続すれば,一致の定理によってそうした点でも f (z)は1/(1-z)に一致する場合しか有り得ないことがわかります。

 実際,z=-1+αと置けばΣk=1nk-1=1+z+z2+・・+zn-1=(1-zn)/(1-z)なる等式はc0,c1,..,cn-1をある定数の複素係数としてΣk=1n(α-1)k-1=Σk=1nk-1αk-1={(α-1)n-1}/(α-2)と変形できます。

そして,|z|=|α-1|>1なら右辺は,1/(1-z)=-1/(α-2)にはなりません。

 しかし一方,αの絶対値が十分小さいならz=-1+αの絶対値が1より大きくても,つまり|z|=|-1+α|>1でも f (z)=1/(1-z)=-1/(α-2)=(1/2)/(1-α/2)=(1/2)Σn=1(α/2)n-1=(1/2)[1+(α/2)+(α/2)2+...]=(1/2)Σn=1{(z+1)/2}n-1=(1/2)[1+{(z+1)/2}+{(z+1)/2}2+...]とテイラー展開されます。

 つまり,z=0 のまわりでは|z|=|-1+α|>1なので, f (z)=1/(1-z)はzのべきでは展開できなくても,z=-1のまわりではα=(z+1)の無限べき級数に展開可能ですから,f (z)は確かに|z|>1,z≠1なる領域でも解析的です。

 また,一致の定理の内容というのは同じ点を中心としたテイラー級数の展開係数の一意性により,今の f (z)の場合,|z|<1 以外の領域でも,その解析性(ベキ級数への展開可能性)を保持しながら f (z)を|z|<1から連続的に延長していったとき,もしも2通り以上の延長(接続)方法があったとしても,それらは一致するという定理です。

 このことから,解析接続する方法は一意的に決まります。

 今日は,短かいけれどこれで終わりです。

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2007年5月10日 (木)

解の一意性のための必要十分条件(2)(岡村博氏による)

 前回からの続きです。前回の終わりでは解の一意性のための十分条件を拡張することによって,未知関数が1個の場合には一意性のための必要十分条件が得られる,という結論に到達しました。

 しかし,そうした条件,殊に必要条件の形式,および証明について,他にも取ることができるかどうかを改めて考えます。

 

 まず,先に到達した条件は形式的にはまだまだ拡張できることがすぐわかります。

 

 実際,関数φの連続性や微分可能性は仮定せず,ただz=0,z>0 に応じてφ(x,z)=0,φ(x,z)>0 であり,さらにφ(x,z)は方程式dz/dx=f(x,z)の解曲線に沿ってxの非増加関数である,とのみ仮定しても一意性の十分条件となることは容易にわかります。

 そして,これが一意性の必要条件でもあることは,この場合はきわめて簡単に証明されます。

 

 実際,dz/dx=f(x,z)の解が一意であるという条件でそのようなφを作るには便宜上f(x,z)は領域{0≦x≦a,-∞<z<∞}にまで定義域が延長されていて,そこで連続かつ有界であるとし,φ(x,z)としては点(x,z)から左に出てくる全ての解z(x)に対する|z(0)|の最小値をとればいいのです。

 こう取れば,z>0 に対してφ(x,z)>0 となります。

 

 これは解z=z(x)の初期値z(0)に関する半連続性とz=z(x)の一意性の仮定によってわかります。

 

 すなわち,z>0 のときのφ(x,z)の値はz>0 の(x,z)から左に出る(x>0 かつz>0 の(x,z)を通る)解z=z(x)の初期値z(0)に対して|z(0)|で与えられるので,元々φ(x,z)=|z(0)|≧0 です。

 

 そして,解の一意性の仮定によって初期条件がz(0)=0 の解,つまり原点(0,0)を通って右に出る解はz≡0 (x軸)しかないという理由から,z>0 のときはφ(x,z)=|z(0)|>0 となるしかないからです。

 そしてまた,φ(x,z(x))がxの非増加関数である,ことはφ(x,z(x))≡|z(0)|=(一定)なので明らかです。

 

 しかし,これで得られた必要十分条件は先の条件と比較して,あまり意味のない一般化であると言えます。

 

 むしろ,先に与えた元々の条件ではφに連続微分可能という余計な性質を加えてはいますが,そのために非増加という性質は直接Dfφ≦0 というfに関する不等式として表わされるという意味で幾分数学的なものとなっています。

 以上に述べた2種類の必要十分条件は未知関数が1個の場合に対するものですが,一般の連立方程式に対してはどうなるか?を考えます。

 

 第2の条件は,そのままn元連立方程式に拡張するのが容易です。ただzの代わりに(z1,z2,..,zn)とし,z=0,z>0 をn次元ベクトル=(z1,z2,..,zn)のノルム||を用いて||=0,||>0 と表現すればいいだけです。

 一方,第1の条件においても,一意性の十分条件としては,そのまま,連立方程式にまで拡張して成り立つことは明らかです。

 

 しかし,それが一意性の必要条件であることの1変数に対する上述の証明はn変数に拡張することが困難です。

 

 なぜなら,高次元では1つの積分φ=Cは曲線ではないので,それをdz/dx=g(x,z)の積分として求めるわけにはいかないからです。

 

 つまり,n変数の連立方程式では,条件に現われるφという連続微分可能な関数をいかにして獲得するかが問題になります。

 著者は,この問題について数年間,解決を求めて得られなかったけれども,あるとき(1940年1月1日)急に新しい理論を思いつき,それによって解の一意性が保証されている方程式に対して条件に合うφが存在することを証明することができた,と書いています。

 そして,このn元連立方程式の場合は特に0 などという特別な値に頼る必要もなく,初期条件が任意のときに解が一意的に決まる条件として,先に連立方程式の場合の一意性の十分条件として与えた条件を採用し,その際に述べた(2n+1)変数の関数Φ=Φ(x,,)の存在の必要性が証明されるということで解決に至っています。

 以下ではn元連立方程式の場合の必要性の証明について述べます。

 まず,n次元空間での曲線族Ωを考えます。∀C∈Ωは,区間ICで定義されたn個の微分可能な関数yi(x)(i=1,2,..,n) によって曲線の方程式yi=yi(x) (i=1,2,..,n)で表わされるとします。

 

 そしてΩに属する曲線C上の(n+1)次元空間の点(x,)の全ての集合をEとし,E上の各点Pにおいて,Pを通るΩの曲線が2本以上あるとき,それらはPで同じ方向を持っていてPでお互いに接する,つまりdyi(x)/dxが一致するとします。

 そうすれば点集合Eの上でΩによって方向の場が決まるので,それを表わす微分方程式として,例えばdyi/dx=Fi(x,)(i=1,2,..,n)のようなものができます。

 

 しかし,Ωはその微分方程式の一般解,すなわち全ての解を与えるかどうかはわかりません。

 

 つまり,その微分方程式の解曲線でΩに属さないものがE上にあるかもしれないからです。そのような曲線が存在すればそれを包絡線と呼ぶことにします。

 そこで,与えられた微分方程式がペアノ点を持たないというのは,一般解をΩとするときにΩがEを1重に覆い,Ωは包絡線を持たないということです。しかし一般のΩではそうとは言えません。

ところで,以下で我々はEの任意の2点がΩに応ずる微分方程式の同一の解曲線上にあるための条件を論じます。

我々れの目的を考えて,今後Ωは次の仮定を満足するとします。

 

Ωの個々の曲線Cの定義域であるxの区間IC はC によらず一定であるとします。たとえば,IC=I(a≦x≦b)としEは閉集合で,かつΩによって決まる方程式dyi/dx=Fi(x,)(i=1,2,..,n)において右辺の関数Fi(x,)はE上で連続かつ有界とします。

 次に,今後の理論に主要となる1つの関数:D(P,Q)というものを,以下のように定義します。

 

 Eの任意の2点をP(xP,yP),Q(xQ,yQ) (xP≦xQ )とします。

 そして区間[P,xQ]を細分しP=ξ0≦ξ1≦..≦ξk≦..≦ξν=xQとして,Ωの1つの曲線Ck上でのξk-1≦x≦ξk に対応する弧をk(左端をk,右端を;k=1,2,..,ν)とします。

 

 そして,これらの点k,に対して和S≡|Q01|+|Q12|+..+|Qν-1ν|+|Qνν+1|を作ります。ただしQ0=P,Pν+1=Qとし|Qkk+1|は平面x=ξk上における2点QkとPk+1の間の距離を表わしているものとします。

 点PとQは固定し,それ以外すなわち区間[P,xQ]を細分した分点ξその個数ν,およびその点を通るΩの曲線Ckについては,あらゆる取り方を許すものとしてSの取ることが可能な全ての値の下限をD(P,Q)で表わすことにするわけです。

 

 このとき,もちろんD(P,Q)≧0 です。そしてxP=xQ なら明らかに(P,Q)=|PQ|です。このように定義された(P,Q)について次の定理が成立します。

 

(a) 2点P,Q(xP≦xQ)がE上で方程式dyi/dx=Fi(x,)(i=1,2,..,n)の同一の解曲線上にあればD(P,Q)=0 である。

(b)Eの2点P,Q(xP≦xQ)に対してD(P,Q)=0 なら,2点P,QはE上で方程式dyi/dx=Fi(x,)(i=1,2,..,n)の同一の解曲線上にある。

 まず(a)を証明します。

 

 P,Qが共にその上にある解曲線をΓとしξk-1=xP(k-1)(xQ-xP)/ν (k=1,2,..,ν,ν+1)に応じたΓ上の点をPkとします。

 

 そしてPkを通る解曲線の1つをCkとして,和S≡|Q01|+|Q12|+..+|Qν-1ν|+|Qνν+1|を作れば,これはν→ ∞ のとき,S→ 0 を満たします。

なぜなら,Fiは有界なので|Fi|≦Mとすれば,ξk-1≦x≦ξkに応ずるΓ上の点k,Pk+1もCk上の点Qkも,全てPkから[(xQ-xP)/ν](1+nM2)1/2以下の距離にあり,もちろんν→∞ でゼロになります。

一方、Pk+1kは同じ座標x=ξkに対応するΓの上とCkの上の点であってk+1,kの座標をそれぞれk+1=(ξk,ζk),k=(ξk,ηk)とすれば,|kk+1|=|ζη|です。

 

このとき,Pkの座標は(ξk-1,ζk-1)であって,たった今述べたようにν→ ∞ のとき|Pkk+1|,|Pkk|≦[(xQ-xP)/ν](1+nM2)1/20 となります。

 

(またξk=ξk-1(xQ-xP)/νも成立しています。)

ところが,ξk-1≦x≦ξkにあるΓとその近傍CkでのFiの連続性によってFiはΓの近傍で一様連続です。

よって,任意にε>0 を与えると,それに対しあるδ>0 が存在して,|Pkk+1|,|Pkk|≦δならξk-1≦x≦ξkのxに対して|Fi(x,)-i(ξk-1,ζk-1)|≦ε/2が成り立つようにできます。

 

すなわち,Γ上のPkk+1とCk上のkkの両方で,その曲線の傾きi(x,)が [i(ξk-1,ζk-1)-ε/2]≦i(x,)≦[i(ξk-1,ζk-1)+ε/2]の範囲内にあることになります。

それゆえ,|Pkk+1|,|Pkk|≦δなら|kk+1|=|ζη|≦ε[(xQ-xP)/ν]ですからS=Σk|ζkηk|≦ε(xQ-xP)です。

 

したがって,ν→ ∞ のとき,|Pkk+1|,|Pkk|→ 0 なのでν→ ∞ のとき,S → 0 が成立します。

 

次に(b)を証明します。

 

P=xQ なら(P,Q)=|PQ|ですから,D(P,Q)=0 はPとQとが一致することを意味し,PとQは同じ解曲線上にあるのは自明です。

 

そこで,以下では,xP<xQとします。

 

そして,このとき(P,Q)の定義においても,ξk-1ξkk-1ξk)と仮定してもかまわないのでそうします。 

仮定によって,Sの列{S(μ)}μ=1,2,..が存在してμ→∞ に対して(μ) 0 です。ただしS(μ)=Σk|k(μ)k+1(μ)|です。

 

そしてP≦x≦Qなるxに対して,関数Yi(μ)(x)を次のように定義します:yi=Yi(μ)(x)はx=PではPを,x=QではQを与えP<x<Q なるxでは各区間ξk-1(μ)<x<ξk(μ)に対してΩの曲線Ckを与えるものとします。

このyi=Yi(μ)(x)は不連続であるとしても,それはせいぜい点x=ξk(μ)(k=1,2,..,ν)においてのみですからσi(μ)(x)を不連続点における全ての正負の飛躍の代数和とすれば,Yi(μ)(x)-σi(μ)(x)は区間P≦x≦Q で連続であり,明らかに|σi(μ)(x)|≦(μ) (P≦x≦Q)です。

i=Yi(μ)(x)はx=ξk(μ)(k=1,2,..,ν)以外ではdyi/dx=Fi(x,)の解ですから,i(μ)(x)-σi(μ)(x)=Yi(μ)(xP)-σi(μ)(xP)+∫xPi(t, (μ)(t))dtです。

ところがFiが有界なので{i(μ)(x)-σi(μ)(x)}μ=1,2,..は一様有界,同等連続であり,したがってアスコリ・アルツェラの定理によって一様収束する部分列を持ちます。

 

i(μ)(x)|≦(μ)(μ) 0 (μ→∞)ですから,この部分列の極限をYi(x)とすると,極限においてYi(x)=Yi(xP)+∫xPi(t,(t))dtが得られます。

 

これによって,dyi/dx=Fi(x,)の解曲線yii(x)が2点P,Qを通ることがわかり,Eは閉集合なので,それはE上にあります。(以上証明終わり)

ここで,D(P,Q)を定義するための和:SをSPQと書くことにし,P,Q,RをEの3点でP≦xQR とすれば,SPQ+SQRは1つのSPRを構成するので,下限を取ることでinfSPR≦infSPQ+infSQRを得ます。

  

すなわち,一般にD(P,R)≦D(P,Q)+D(Q,R)が成立します。

このことから,D(P,Q)はPを固定して点Qがdyi/dx=Fi(x,)の1つの解曲線に沿って動くとき,Qのx座標x=xQの関数と見てxの1つの非増加関数です。

そして,一般的に成り立つ不等式:D(P,R)≦D(P,Q)+D(Q,R)において,特にxQRとすればD(Q,R)=|QR|なので,|D(P,Q)-D(P,R)|≦|QR|=|QR|と書くことができます。

 

それ故,Pを固定したとき,D(P,Q)はQの座標(xQ,Q)の関数と見てリプシッツ条件を満足することがわかります。

さらに,D(P,Q)は点Qの座標(xQ,Q)の関数と見て連続であることもいえるのですが,長くなるのでこれの証明は割愛します。

かくして,"方程式dyi/dx=Fi(x,)(i=1,2,..,n)においてFi(x,)は領域E={0≦x≦a,-∞≦yi≦∞ (i=1,2,..,n)}で連続かつ有界とし,この方程式の原点O(x=y1=y2=..=yn0)から右に出る解は一意的に決まり,それはx軸(yi≡0)である。したがってもちろんFi(x,0)=0 である。"という前提が成立しているとき,次の命題が成り立ちます。

 

"Eにおけるdyi/dx=Fi(x,)の全ての解曲線は全区間 0≦x≦aまで延長される。この解曲線の族をΩとする。

 

そして,このときP=(x,y1,y2,..,yn)として関数φ(x,y1,y2,..,yn)=φ(P)≡D(O,P)を作ると,φ(P)はOから出てくる解の一意性の仮定によってPがx 軸上にあるときにのみφ(P)=0 を満たし,それ以外ではφ(P)>0 となる。

 

さらにφ(P)=D(O,P)は1つの解曲線の上で非増加関数,かつ連続関数であり,しかもリプシッツ条件をも満たす。"

 

ということになります。

そして,リプシッツ条件を満たすということはD+φ(x,(x))≡limsuph→0[{φ(x+h,(x+h))-φ(x,(x))}/h]が,その点におけるyi(x)の方向比dyi/dxのみから完全に確定することを意味します。

 

実際,2曲線yi=yi(x),yi=zi(x)に対して,考えている点xでyi(x)=zi(x)はもちろん,dyi/dx=dzi/dxも成立しているとすると,そのxにおいて(d/dx){φ(x,(x))-φ(x,(x))}=0 ,つまり,そのxの近傍で恒等的にφ(x,(x))=φ(x,(x))が成り立つことが,リプシッツ条件から従う,ことになるからです。

そこで,D+φは(x,)における方向比Fi(x,y)に対して決まり,かくしてφが解曲線に沿ってxの非増加関数であるということはD+φ≦0 に置き換えられます。

 

この不等式は方程式dyi/dx=Fi(x,)に対してその解に依存することなく,単にFiに関する条件となっています。

これらを総合して,方程式dyi/dx=Fi(x,)に関する条件が得られましたが,この条件は解の一意性のための必要条件であり,しかも十分条件でもあることがわかります。

 

上記の関数φと性質が同じで連続微分可能なものは,いわゆる積分平均の方法などで作ることが可能です。

 

そのとき条件D+φ≦0 は,DFφ≡∂φ/∂x+Σi (∂φ/∂yi)Fi0 になります。

あとは必要十分条件のもう1つの表現,つまり別の関数Φ(x,,)による表現を明確に証明するのみです。

 

"方程式dyi/dx=Fi(x,)の右辺の関数Fi(x,)は,ある領域Dで連続とし,Dの各点(x,)から右に出る方程式の解が一意的に決まるとき,Dの内部の任意の点に対しその近傍V上の2点(x,),(x,)について定義され,以下の性質を満たす関数Φ(x,,)が存在する。

 

Φは連続微分可能,かつ,||=0 ならΦ(x,,)=0 ,||>0 ならΦ(x,,)>0 を満たし,さらにDFΦ≡∂Φ/∂x+Σi(∂Φ/∂yi)Fi(x,)+Σj(∂Φ/∂zj)Fj(x,)≦0 という不等式を実現する。"というものです。

これは,点P,Q,...を座標が(x,y1,y2,..,yn,z1,z2,..,zn)などで与えられる(2n+1)次元空間の点であると見なして,前と同じように関数D(P,Q)を定義し,φ(Q)=φ(x,,)≡infP∈E(P,Q)とおくことから出発して最終的に連続微分可能で条件を満たすΦ(x,,)の存在を証明する,というプロセスです。

 

そこで,これを具体的に述べればいい,ということになりますが,まあ,本質的な部分ではないと思うので,これを割愛し,この項についてはここで終わりにします。

 

しかし,昔からある程度の知見があって既に何度も考えたことのあるトピックについて書くのとは異なり,ちょっと本屋で買った書物を読んだだけでそれを理解してその解説をブログに書くには,それを読んだり理解したりする時間も必要なので,いくら暇だからといって四六時中ブログを書くという作業だけやっているというわけにもいきませんね。

参考文献:岡村博 著「微分方程式序説」(共立出版)

 

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2007年5月 9日 (水)

解の一意性のための必要十分条件(1)(岡村博氏による)

 2006126日のブログ記事「常微分方程式の解の存在定理①(アスコリの定理)」において、次のような記事を書きました。それは以下のような前置きで始まっています。 

常微分方程式の解の存在定理について何回かに分けて述べてみたいと思います。ただし,解の存在定理のみであり,いわゆる通常の教科書に載っているリプシッツ条件を仮定した解の存在と一意性の定理ではありません。

 

リプシッツ条件は解の一意性の十分条件ですが,かつて日本人 岡村博氏により解の一意性の必要十分条件が発見されたことは有名です。

 

これの内容については読んだことはありませんが.岡村博 著「微分方程式序説」に掲載されていると思います。(最近,復刻されたようで新装版が神田神保町の三省堂書店5階にありました。)  

 そこで,まずペアノの存在定理でもいいのですが,その代わりにオイラー・コーシーの逐次近似法(折れ線法)による存在定理を証明しようと考えたのでそれを述べたいと思います。

 

 というのが既に記載した記事の書き出しでした。

 

 ここでオイラー・コーシーの逐次近似法,あるいはピカールの逐次近似法というのは,その存在を証明したい解の定義域である独立変数 x の区間を多くの小区間に分割して,各小区間では正規形の1階常微分方程式d y/d x = f (x ,y) の右辺=傾きが一定値であると近似した折れ線近似解によるものです。

 

 結局,この近似において,この区間分割の細分の極限として得られる連続曲線が元の微分方程式の厳密な解になっていることを示すことにより,解の存在を証明する方法ですが,内容的にはペアノの存在定理と変わりありません。

 

 そして,この記事の前置き以下では,存在定理の証明に必要な補助定理である"ある区間で一様有界で同等連続な関数の集合が,その区間で一様収束する関数列を含む"という内容のアスコリ・アルツェラの定理を証明しています。 

そして続く2006127日のブログ記事「常微分方程式の解の存在定理②」において解の存在定理の証明が完了しています。 

ところで,先日神保町の古書店で岡村博 著「微分方程式序説」(共立出版)を入手したので,著者自身の手による解の一意性の必要十分条件の導出と証明を私なりに把握したものを、ここで紹介したいと思います。

 

この本は76ページまでの1~5章が従来の解の存在と一意性の定理やペアノによる存在定理の解説に費やされており,77ページから100ページまでの第6章,わずか24ページが解の一意性についての従来の研究と著者自身の独自の研究成果に割かれていました。 

彼=著者(岡村博氏)が対象としている微分方程式は最初から1個の独立変数 x に対してn個の未知関数 yi()を求める連立n元1階常微分方程式系であり,その一般形が正規形 d yi/d x =Fi(,1,2,..,n)(i=1,2,..,)で与えられるものです。

 

ただし,(n+1)次元のベクトル(,1,2,..,n)を単に(,)と書いてd yi/d x=Fi(,)という表記も用いています。

 

もっとも未知関数が有限個である限り,解の存在定理の証明は未知関数が1個 (n=1)の場合の単なる直線的な拡張なので気にする必要はないと思います。 

通常,標準的教科書に載っている解の存在と一意性の定理はコーシー・リプシッツの方法呼ばれるものです。 

これは微分方程式が正規形 d yi/d x=Fi(,) (i=1,2,...,)で与えられているとき,(n+1)次元空間のある領域で(,)について右辺の関数Fi(,)が連続で,かつこの領域に属する2(,),(,)に対してリプシッツ条件という解の一意性のための十分条件|i(,)-Fi(,)|≦L||(L>0 はある定数)を満足するという前提に立っています。

 

そして,与えられた領域の各点(0, 0)(0,10,20,..,n0)に対し,y i()= y i0+∫x0x i(,())dx という形式的に微分方程式の両辺を積分しただけの等式において,右辺の被積分関数の中の ()に最初は 0 を代入し,結果として左辺に得られる近似解を再び右辺の ()に代入するという操作を繰り返します。

  

これによって得られる逐次近似解の関数列が,初期条件 yi(0)=y i0を満足する唯一の極限関数に一様収束することを示し,結局はその極限関数が d yi/d x = Fi(,)の一意的な解であることを証明します。 

ただし,リプシッツ条件|i(,)-Fi(,)|≦L||の左辺の|  |は単なる絶対値ですが,右辺の|  |はn次元空間での ()のノルムを示しており,このノルムは n=1の場合には絶対値に一致するように定義されています。 

リプシッツ条件は,例えば対象とする領域で Fi(,)が yjについて連続偏微分可能,つまり偏導関数(∂Fi/∂yj)(,j=1,2,..,)が存在して,全てが (,)について連続なら満足されます。

 

それ故,Fi(,)の連続性の他に,リプシッツ条件の代わりに Fiが yjで連続偏微分可能という条件を加えた場合にも,解の存在と一意性は成立します。 

ところが,ペアノ(Peano)は右辺の関数 Fi(,)の連続性のみを仮定して,微分方程式の解の存在を証明しました。

 

ただし,この連続という仮定だけでは一般に解の一意性は成立しません。 

例えば,n=1の常微分方程式:d y/d x= 32/3においては,右辺は y≧0 の領域で連続ですが,y=0 の近傍ではリプシッツ条件を満足しません。

 

そして,これは一般解として曲線族 y=(x+C)3を持つと同時に, y=0 という特異解を持ちます。 

したがって,x 軸(y=0)上の各点 (-C,0)において,これを通る解として,常に y=0 と y=(x+C)3つが存在するので,初期条件 y(0)=-C を満足する解は存在するのですが一意的ではありません。

 

つの解は,点(-C,0)で d y/d x が共通なので接線を共有することになります。すなわち,特異解 y=0 (x軸)は一般解y=(x+C)3の包絡線と呼ばれる曲線を表わしています。 

こうした初期条件を満足する解が一意的に決まらないような初期値に対応する点,今の場合 x 軸上の全ての点(-C,0)をペアノ点と呼びます。 

リプシッツ条件は解の一意性の十分条件であり,必要十分条件ではありません。そこで,もっとゆるやかな条件で解の一意性の必要かつ十分な条件を模索する試みがなされました。

 

ペアノの証明 の後に,オズグッド(Osgood)(1898)によって提出された方程式d y/d x=F(,)に対する解の一意性の十分条件は,|(,)-F(,)|≦φ(|y-z|)という条件です。

 

ただし,φ()は u>0 のとき正となる連続関数で∫0u d u /φ()=∞(u >0)となるものです。 

トネリ(Tonelli)(1925)による条件は,これをさらに拡張して|(,)-F(,)|≦A()φ(|y-z|)というものです。

 

ここで,関数Φに関しては上と同様で A は正の関数で対象としている x の区間でルベーグの意味で積分が有限なものです。 

その頃,吉江(1925)は解の一意性のための1つの必要十分条件を与えています。これは注目に値しますが,それは古典的な一般理論の単なる総合に留まり,それとは別にその後も解の一意性の十分条件は種々に拡張されたものが発表されてゆきました。 

日本では南雲(1926),清水・福原・弥永(1928)ら,さらに稲葉三男(1929),南雲(1930),福原の総合報告(1932)等が発表されましたが,ここで、はじめて変数の変換を利用する,という考え方が現われてきました。 

つまり,方程式 d y/d x = F(,)において例えば y=φ(,)で 未知変数 y を z に変数変換したとき方程式が d z/d x = f (,)となり,f (,)は領域 D={0≦ x ≦a, 0≦ z ≦b}で連続になるようにできるとします。 

そして,このときこの方程式は(.)(0,0)を通って右側 x ≧0 の領域へと出て行く解の1つとして,z ≡0 (x 軸)を有するとします。

 

z ≡0 が解なので,当然ながら f (,0)0 ですが,さらに y=φ(,)となるφ(,)が実際に存在して,これが条件:"z=0 なら φ(,)0;z>0 なら φ(,)0,および Dfφ≡∂φ/∂x+(∂φ/∂z)(,)0 "を満足するとします。

 

このときD上で原点から右側 x ≧0 に出る解はz=0 しか存在しない,という定理が成り立ちます。 

これは, z=0 なら φ(,)0 という仮定があるので解 z≡0 は y≡φ(,0)0 に一致しますが,Dfφ= d y/d x =F(,)0 なので y=φ(,)は1変数 x のみの関数として非増加関数でもあります。 

初期条件によって ,x=0 では y=0 ですから,d y/d x 0より,x ≧0 では y=φ(,)0 です。

 

ところが,同じく仮定により z >0 なら φ(,)0 (そして z<0 なら φ(,)0 なのですが,今の場合は定義域が z ≧0 に限られているので z<0は考慮する必要はありません。)ですから,φ(,)0というのはz=0 を意味することになり,x ≧0 では解はただ1つ z=0 しか存在できないわけです。

 

したがって,この仮定が解の一意性のための十分条件になっていることが示されたわけです。 

 ここで φ は全く一般の変換を表わしていますから,この定理はφを適当にとり連続性の仮定などをゆるめることによって,既に得られているさまざまな周知の条件や,その他ほとんど全ての解の一意性のための十分条件を変数変換の結果として表わすものであろうと思われます。 

 ここで,この定理を未知関数が n 個の方程式 d yi/d x=Fi(,)(i=1,2,...,)の解である一般の場合に拡張して上で述べた解の一意性のための十分条件の n 変数に対する命題を書き下しておきます。 

方程式の右辺の関数 Fiが、ある(n+1)次元の領域 Dで定義されているとし,D の任意の点に対してその点のまわりにある近傍 V が存在するとして,V の2(,)(,)に対して,それらから決まる(2n+1)次元の点(,,)から成る領域を W とします。 

"W で定義された連続微分可能な関数Φ(,,)があって,ΦやFiの定義域では常に ||=0 ならΦ(,,)=0;||>0 なら Φ(,,)0 ,かつD FΦ≡∂Φ/∂x+Σi(∂Φ/∂yi)i(,)+Σj(∂Φ/∂zj)j(,)0 が成立する。"とすれば,この条件が d yi/d x=Fi(,)の解曲線はDの各点 (0, 0)から右 (x ≧x 0)に向かってもし存在すれば一意的である,という解の一意性のための十分条件になっていることがわかります。 

 つまり,解が存在したとしてそれを yi=yi(),および yi=zi()とすれば yi(0)=zi(0)=yi0で,関数φ()をφ()≡Φ(,(),())と置けばdφ()/d x=D FΦ(,,)|y=y(x),z=z(x)0 より()は非増加関数です。

 

 ||=0 ならΦ(,,)0 ,i(0)=zi(0)=i0 より,φ(0)=Φ(0,(0),(0))0 ですから,x ≧ x 0ではφ()0 です。

 

 しかし,φ()≡Φ(,(),())であって ||>0 なら Φ(,,)0 ですから φ()0 でしか有り得ないので yi()=zi()(x ≧ x 0)となるしかないということから解の一意性が言えるわけです。 

 そして,この定理で D Φ≦0 だけを逆の不等式 D Φ≧0 に置き換えれば,x=x 0の左側 x ≦x 0 への一意性の十分条件となりますから,これらを合わせると左右両方への一意性の十分条件が得られます。 

そうして,先に述べた1変数に関する十分条件は,これの n =1の場合に相当しています。そして,これが実は必要条件でもあるとしたら,それはどういう意味であるかと考えると解が一意的な微分方程式ならそれらは全てこのような条件を満たすということになります。 

 それ故,これを示す大体の方針を述べてみます。 

 すなわち,d z/d x= f (,)において f (,)は D で連続で f (,0)0 かつ,D 上で原点から右に出る解は z=0 だけしかないとします。

 

 これに対して、先の条件を満たすような関数φが少なくとも1つ取れるということを,実際にφをつくることによって示せばいいわけです。 

 そのために曲線族φ=C を方程式 d z/d x = g(,)の積分として求めます。ここで, g(,){0≦ x ≦a,z ≧0}で連続,かつ z > 0 で連続微分可能で g(,0)0 ,かつ g(,)≧ f (,)と なり,しかも d z/d x = g(,)はx 軸 : z=0 上にもペアノ点を持たないとします。 

 こうした g は一種の補間法によって作られます。その際に d z/d x = f (,)の解が z =0 のところで x =0 での初期値 z(0)に関して連続であることが重要ですが,これは一意解を持つという仮定から従います。

 

 そしてφ(,) (z >0 )の連続微分可能性は g のそれから従います。さらに φ(,0)0 ,かつ∂φ/∂z> 0 (z > 0)と取ることができることも容易にわかります。 

そうするとDgφ=0 と g ≧ f  によって Dfφ≦0 が得られます。z =0 で  ∂φ/∂x,∂φ/∂z が連続であるようにとれることも証明できます。 

今日はここまでとします。 

参考文献:岡村博 著「微分方程式序説」(共立出版)

 

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2007年2月13日 (火)

ベキ級数解の存在(コワレフスカヤの優級数)(3)

補助定理の証明がすべて終わったので,いよいよ"正則解=ベキ級数解"の存在定理を証明します。

 まず,定理の再掲です。

 

 "1階常微分方程式dy/dx=f(x,y)の右辺が,あるR1,R2より大きい関連収束半径を持ってベキ級数に展開できる,つまりf(x,y)=Σapq(x-x0)p(y-y0)qと書けて,右辺が|x-x0|≦R1,かつ|y-y0|≦R2で絶対収束するものとする。

 

 このとき,初期条件:y|x=x00を満足し,x=x0の近傍で,(x-x0)のベキ級数に展開可能な解が一意的に存在する。"

  

 以下に証明を与えます。

 補助定理1により,dy/dx=Σapq(x-x0)p(y-y0)qの右辺の級数は|x-x0|≦R1,かつ|y-y0|≦R2において絶対かつ一様に収束します。

 

 したがって,補助定理2から(x,y)=Σapq(x-x0)p(y-y0)qはこの閉領域でx,yに関し無限回項別偏微分可能であって,pq{1/(p!q!)}{∂p+q/(∂xp∂yq)}f(x,y)|x=x0,y=y0と表わされます。

 そこで,仮にdy/dx=(x,y)=Σapq(x-x0)p(y-y0)qのベキ級数解でy|x=x00 を満たすものが存在して,ある正の数ρ≦R1に対して|x-x0|<ρで収束し,その範囲で|y-y0|≦R2を満足するものとすると,その解y(x)は広義一様収束するので,xに関して無限回項別微分可能です。

 したがって,そうしたy(x)が存在するならば,それはy"={∂f(x,y)/∂x}+{∂f(x,y)/∂y}y',y(3)={∂2f(x,y)/∂x2}+2{∂2f(x,y)/(∂x∂y)}y'+{∂2f(x,y)/∂y2}y'2+{∂f(x,y)/∂y}y",...(|x-x0|<ρ)をも満足するはずです。

 そこで,今一連の定数の組をy0'≡f(x0,y0),y0"≡{∂f(x,y)/∂x}|x=x0,y=y0+{∂f(x,y)/∂y}|x=x0,y=y00',y0(3)≡{∂2f(x,y)/∂x2}|x=x0,y=y0+2{∂2f(x,y)/(∂x∂y)|x=x0,y=y0}y0'+{∂2f(x,y)/∂y2}|x=x0,y=y00'2+{∂f(x,y)/∂y}|x=x0,y=y00",...と定義していきます。

 

 y0',y0",...,y0(n-1)までが定義されれば,y0(n)は∂i+jf(x,y)/(∂xi∂yj)}|x=x0,y=y0(0≦i,j≦n-1),およびy0',y0",..y0(n-1)の多項式として定義できます。

 

 次々とこうして定義していくとき,y(x)はy(0)=y0,y'()|x=x0=y0',..,y(n)(x)|x=x0=dn-1f(x,y(x))/dxn-1|x=x0=y0(n)を満足しなければなりません。

 ところが,y(x)は|x-x0|<ρにおけるベキ級数の和で与えられているので,ベキ級数展開の一意性定理からy(x)=y0+y0'(x-x0)+0"(x-x0)2/2!+...y0(n)(x-x0)n/n!+...=Σn=00(n)(x-x0)n/n! (|x-x0|<ρ)と展開されなければなりません。

 すなわち,もしy|x=x00を満たすベキ級数解が存在すれば,それは一意的であり,y(x)=y0+y0'(x-x0)+0"(x-x0)2/2!+...y0(n)(x-x0)n/n!+...=Σn=00(n)(x-x0)n/n!でなければならないことになります。

そこで,φ(x)≡Σn=00(n)(x-x0)n/n!と定義すれば,これが実際にx0の近傍でdφ(x)/dx=f(x,φ(x))を満足することを示しましょう。

級数Σp,q=0pq(x-x0)p(y-y0)qは,|x-x0|≦R1,かつ|y-y0|≦R2でf(x,y)に絶対収束するので,Σp,q=0pq1p2qはf(x01,y02)に収束し,それゆえp,q → ∞ に対してpq1p2q → 0 です。

 

したがって,1,2によって定まるある正の定数Mが存在して|pq|R1p2q≦M(p,q=0,1,2,...),すなわち|pq|≦M/(1p2q)が成立します。

そこで,二重ベキ級数Σp,q=0pq(x-x0)p(y-y0)qの1つの優級数Σp,q=0{M/(1p2q)}(x-x0)p(y-y0)qを考えると,これは|x-x0|<R1,かつ|y-y0|<R2において和の順序によらず絶対収束しΣp,q=0{M/(1p2q)}(x-x0)p(y-y0)q=1/[{1-(x-x0)/R1}{1-(y-y0)/R2}]が成り立ちます。

 

そこで,g(x,y)≡Σp,q=0{M/(1p2q)}(x-x0)p(y-y0)q=1/[{1-(x-x0)/R1}{1-(y-y0)/R2}]とおけば,補助定理1から右辺のベキ級数は|x-x0|<R1かつ|y-y0|<R2で広義一様収束し,それ故,補助定理2によって無限回項別偏微分可能です。

したがって,さらにM/(1p2q)={1/(p!q!)}{∂p+q/(∂xp∂yq)}g(x,y)|x=x0,y=y0 が成立して,これとpq{1/(p!q!)}{∂p+q/(∂xp∂yq)}f(x,y)|x=x0,y=y0,および |pq|≦M/(1p2q)から|{∂p+q/(∂xp∂yq)}f(x,y)|x=x0,y=y0|≦{∂p+q/(∂xp∂yq)}g(x,y)|x=x0,y=y0(p,q=0,1,2,...)を得ます。

 一方,dy/dx=g(x,y)=1/[{1-(x-x0)/R1}{1-(y-y0)/R2}]のy|x=x00を満たすベキ級数解が,x=0の近傍で存在すると仮定し,それをy=ψ(x)とおけば,それはdψ/dx=g(x,ψ(x))を満足します。

 

 したがって,dy/dx=f(x,y)のベキ級数解y(x)と同様,^0'≡g(x0,y0),y^0"≡{∂g(x,y)/∂x}|x=x0,y=y0+{∂g(x,y)/∂y}|x=x0,y=y0y^0',y^0(3)≡{∂2g(x,y)/∂x2}|x=x0,y=y0+2{∂2g(x,y)/(∂x∂y)|x=x0,y=y0}y^0'+{∂2g(x,y)/∂y2}|x=x0,y=y0y^0'2+{∂g(x,y)/∂y}|x=x0,y=y0 y^0",...と定義すれば,y^0',y^0",...y^0(n-1)が与えられたときにy^0(n)をそれらから定めることが可能となります。

 

 そして,ψ(x)=y0+y^0'(x-x0)+^0"(x-x0)2/2!+..y^0(n)(x-x0)n/n!+...=Σn=0y^0(n)(x-x0)n/n!(y^0(n)0)なる等式が成立するはずです。

φ(x0)=y0=ψ(x0),|y0'|≦M=g(x0,y0)=y^0'が成立していますが,一般に|y0(k)|=|φ(k)(x)|x=x0|≦y^0(k)=ψ(k)(x)|x=x0がk=0,1,2,..,n-1に対して成立すると仮定すれば,y0(n)=dn-1f(x,y)/dxn-1|x=x0,y=y0,およびy^0(n)=dn-1g(x,y)/dxn-1|x=x0,y=y0 の各々は,それぞれ∂i+jf(x,y)/(∂xi∂yj)}|x=x0,y=y0とy0(k)(0≦i,j,k≦n-1),および∂i+jg(x,y)/(∂xi∂yj)}|x=x0,y=y0とy^0(k)(0≦i,j,k≦n-1)の多項式で表わされます。

 

しかもy0(n)の各項はy^0(n)の各項において,∂i+jf(x,y)/(∂xi∂yj)}|x=x0,y=y0を∂i+jg(x,y)/(∂xi∂yj)}|x=x0,y=y0に,y0(k)をy^0(k)に置換したものに等しいので,帰納法の仮定によって|y0(n)|≦y^0(n)もまた成立することがわかります。

以上から数学的帰納法により,任意のnについて|y0(n)|≦y^0(n)が成立することがわかりました。

 

このことは,微分方程式dy/dx=g(x,y)の|x=x00を満たすベキ級数解がある区間で絶対収束すればdy/dx=f(x,y)の|x=x00を満たすベキ級数解φ(x)=Σn=00(n)(x-x0)n/n!もまた同じ区間で絶対収束することを示しています。

次に実際にdy/dx=g(x,y)の|x=x00を満たすベキ級数解が存在することを示しましょう。

dy/dx=g(x,y)=1/[{1-(x-x0)/R1}{1-(y-y0)/R2}] (|x-x0|≦R1,|y-y0|≦R2)をy|x=x00の条件で解けば,y=0+R22[1+21log{1-(x-x0)/R1}/2]1/2(|x-x0|<R1)となります。

 

ところが,[1+21log{1-(x-x0)/R1}/2]1/2は|21log{1-(x-x0)/R1}/2|<1の条件下で,21log{1-(x-x0)/R1}/2のベキで二項展開されます。

 

しかも,log{1-(x-x0)/R1|x-x0|<R1の全てのxに対して絶対収束するテイラー級数(Taylor series)に展開されてlog{1-(x-x0)/R1=-Σn=1{(x-x0)/R1}n/nとなります。

したがって,またΣn=1|x-x0|n/R1n/n=|log{1-|x-x0|/R1|となり,21|log{1-|x-x0|/R1}|/21であるようなxに対しては補助定理5の仮定が満たされて,y=ψ(x)=0+R22[1+21log{1-(x-x0)/R1}/2]1/2は,そのようなxに対して(x-0)のベキ級数に展開され得ることになります。

 

21|log{1-|x-x0|/R1}|/21は|x-x0|<R1[1-exp{-2(21)}]と同値なので,ρ≡1[1-exp{-2(21)}]とおけば|x-x0|<ρでy=ψ(x)は(x-0)のベキ級数に展開されます。

 

それゆえ,前の考察からΣn=00(n)(x-x0)n/n!もまた|x-x0|<ρで絶対収束します。

 

φ(x)-0 の各項の係数の絶対値はψ(x)-0の対応する各項の係数より大きくないことは先に述べた通りですから,|x-x0|<ρで|φ(x)-0|≦|ψ(x0+|x-x0|)-0が成立します。

 

0≦|ψ(x0+|x-x0|)-02 (|x-x0|<ρ)ですから,|φ(x)-0|<2 (|x-x0|<ρ<R1)であり,よってxの変域|x-x0|<ρにおいて,f(x,φ(x))=Σp,q=0pq(x-x0)p(φ(x)-y0)q定義されています。

(x,y)は|x-x0|≦R1,|y-y0|≦R2で無限回偏微分可能で,φ(x)も明らかに|x-x0|<ρで無限回微分可能であり,φ(n)(x)|x=x0=y0(n)(n=0,1,2,...,ただしφ(0)(x)|x=x0=φ(x0),y0(0)=y0)ですから,ω(x)≡f(x,φ(x))とおくと,ω(x)は|x-x0|<ρで無限回微分可能でありω(n-1)(x)|x=x0=y0(n)(0)(x)=ω(x),n=1,2,..,)となります。

φ(n)(x)=dφ(n-1)(x)/dxであり,dφ(x)/dxはφ(x)=Σn=00(n)(x-x0)n/n!の項別微分係数の和,すなわちΣn=00(n+1)(x-x0)n/n!で与えられます。

 

以上から,dφ(x)/dx=Σn=00(n+1)(x-x0)n/n!=Σn=0(n)(x)|x=x0)(x-x0)n/n!=Σn=0{f(n)(x,φ(x))|x=x0}(x-x0)n/n! (|x-x0|<ρ)となることがわかります。

ところが,補助定理1の系に見られる絶対収束二重級数の性質から,ω(x)=f(x,φ(x))=Σp,q=0pq(x-x0)p(φ(x)-y0)q=Σp=0{Σq=spq(x-x0)p(φ(x)-y0)q}=Σp=0(x-x0)p[Σq=0pq{Σn=10(n)(x-x0)n/n!}q](|x-x0|<ρ)です。

しかも,Σn=1|y0(n)||x-x0|n/n!≦Σn=1y^0(n)|x-x0|n/n!=ψ(x+|x-x0|)-02(|x-x0|<ρ)ですから,補助定理5よりΣq=0pq{Σn=10(n)(x-x0)n/n!}q=Σr=0pr(x-x0)r(|x-x0|<ρ,bpr≡Σq=0pq0(r)(q)/r!)が成立し,Σr=0pr(x-x0)r|x-x0|<ρでΣq=0pq{Σn=10(n)(x-x0)n/n!}qに絶対収束します。

故に,ω(x)=f(x,φ(x))=Σp=s(x-x0)p{Σr=0pr(x-x0)r}=Σp=0{Σr=0pr(x-x0)p(x-x0)r}(|x-x0|<ρ)となります。

ここで,|x-x0|<R1n=00(n)(x-x0)n/n!<R2ですから,Σp,q=0|apq||x-x0|pn=0|y0(n)||x-x0|n/n!}q<+∞ ( |x-x0|<ρ)です。

 

したがってΣp,q=0|apq||x-x0|pn=0|y0(n)||x-x0|n/n!}q=Σp=0{Σr=0pr|x-x0|p+r}<+∞(|x-x0|<ρ,Bpr≡Σq=0|apq||y0(r)|(q)/r!)であり,また,|bpr|≦pr ですからΣp=0{Σr=0|bpr||x-x0|p+r}<+∞となります。

このことから,補助定理3によって,ω(x)=f(x,φ(x))=Σp,r=0pr(x-x0)p+r(|x-x0|<ρ(収束は絶対収束))となりω(x) =f(x,φ(x))=Σn=0n(x-x0)n(|x-x0|<ρ,cn≡Σp+r=npr)が成立します。

ベキ級数展開の一意性からn=ω(n)(x)|x=x0/n!=f(n)(x,φ(x))|x=x0/n!が成り立ち,結局dφ(x)/dx=f(x,φ(x))(|x-x0|<ρ)となることが示されました。

もし,y=φ(x)とは別にdy/dx=f(x,y)の解y=φ1(x)でφ1(x0)=y0なるものがx=x0の近傍で存在すると仮定すれば,dφ1(x)/dx=f(x,φ1(x))であり,f(x,y)は無限回偏微分可能ですからf(x,φ1(x))もxについて微分可能,すなわちdφ1(x)/dxも微分可能となり,φ1(x)は二階微分可能であってφ1"(x)=∂f/∂x+(∂f/∂y)φ1'(x)となることがわかります。

これを繰り返して1(x)-y0|≦R2となるような全てのx0の近傍でφ1(x)は無限回微分可能であり,しかもφ1(n)(x)|x=x0=φ(n)(x)|x=x0=y0(n)となります。

 

したがって,こうした右辺が二重ベキ級数に展開可能な常微分方程式dy/dx=f(x,y)に対しては,正則な解の一意性のみならず解の一意性が成り立つこと,つまりx=x0の近傍で常微分方程式dy/dx=f(x,y)の条件:y|x=x00を満たす解は正則な解φ(x)に限ることが証明されました。(以上証明終わり)

 

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2007年2月12日 (月)

ベキ級数解の存在(コワレフスカヤの優級数)(2)

前記事の続きです。

最後の補助定理として補助定理5を与えます。これは,ベキ級数の代入についての定理です。

 

"f(ζ)=Σn=0nζnの収束半径をR(>0)とするとき,|x|<ρでg(x)=Σn=0nnが絶対収束し,かつΣn=0|bn||x|n<Rが成立するなら,ζ≡Σn=0nnをΣn=0nζnに代入して得られる形式的ベキ級数Σn=0nn(cn≡Σm=0mn(m),bn(0)≡1,bn(1)≡bn,bn(m)≡Σk=0n-k(m-1)k(m≧2))は|x|<ρで絶対収束する。

  

そこで,|cn|=|Σm=0mn(m)|<+∞(n=0,1,2,...)であり,形式的なベキ級数Σn=0nnは実際のxのベキ級数となって和は|x|<ρにおいてf(g(x))になる。

  

したがって,|x|<ρでf(g(x))=Σn=0nnが成立しf(g(x))はxでベキ展開可能である。"

 

以下これを証明します。

v=v(x)≡Σn=0|bn||x|n(|x|<ρ)とおくと仮定により0 ≦v<Rなので正項級数Σm=0|am|vmは収束します。

一方,|x|<ρでΣn=0nnn=0|bn||x|nが絶対収束するのでBn(0)≡1,Bn(1)≡|bn|,Bn(m)≡Σk=0|bn-k(m-1)||bk|(m≧2)とおけば,補助定理4よりΣn=0n(m)n,とΣn=0n(m)|x|nは共に|x|<ρで絶対収束して(Σn=0nn)m=Σn=0n(m)n,かつ(Σn=0|bn||x|n)m=Σn=0n(m)|x|n(m=0,1,2,..)が成立します。

ここで,|bn(0)|=Bn(0)=1,|bn(1)|=|bn|=Bn(1),|bn(m)|=|Σk=0n-k(m-1)k|≦Σk=0|bn-k(m-1)k|=Bn(m)(m≧2)より,一般に|bn(m)|≦Bn(m)(m=0,1,2,...)が成立します。

そして,|am|vm=|am|(Σn=0|bn||x|n)m=|am|(Σn=0n(m)|x|n)=Σn=0|am|Bn(m)|x|n(|x|<ρ,m=0,1,2,...)です。

ところが,Σm=0|am|vmは,0≦v<Rで収束し|x|<ρに対してΣn=0|bn||x|n<Rが成立するので,Σm=0|am|vm=Σm=0n=0|am|Bn(m)|x|n)は|x|<ρに対して収束して有限な極限値を持ちます。

したがって,補助定理3によりΣn=0m=0|am|Bn(m)|x|n)=Σn=0m=0|am|Bn(m))|x|nも|x|<ρに対し収束して極限値はΣm=0n=0|am|Bn(m)|x|n)=Σm=0|am|vm に等しいことになります。

このことから,m=0|am|Bn(m))|x|n<+∞ (|x|<ρ)であり,したがってΣm=0|am|Bn(m)<+∞となります。

 

|bn(m)|≦Bn(m)より,あらゆる負でない整数rに対して,|Σm=0rmn(m)|≦Σm=0r|am|Bn(m)≦Σm=0|am|Bn(m)が成立します。

 

そこで,|Σm=0mn(m)|≦Σm=0|am|Bn(m),すなわち|cn|=|Σm=0mn(m)|≦Σm=0|am|Bn(m)<+∞です。

 

よってΣm=0mn(m)は収束して形式的に与えたcnは全て有限になります。

それゆえ|cn||x|n≦Σm=0|am|Bn(m)|x|nであり,またΣn=0m=0|am|Bn(m)|x|n)が|x|<ρで収束するので,Σn=0|cn||x|nも|x|<ρで収束します。

 

このことからΣn=0nnも実際にベキ級数であって|x|<ρで絶対収束することがわかりました。

Σn=0|bn||x|n<R (|x|<ρ)より|Σn=0nn|<R (|x|<ρ)で,しかも補助定理4によりΣn=0n(m)n=(Σn=0nn)m (|x|<ρ, m=0,1,2,...)です。

 

そこで,Σm=0mζm=Σm=0mn=0n(m)n)<+∞であり,したがって補助定理3によってΣm=0mn=0n(m)n)=Σm=0n=0mn(m)n)=Σn=0m=0mn(m))xn­=Σn=0nnが得られます。

 

以上から,f(g(x))=Σn=0nn(cn=Σm=0mn(m))が成立します。(以上,証明終わり)

これの系として"g(x)=Σn=0nnにおいて|b0|=|g(0)|<Rならば十分小さいρ'(<ρ)に対して,補助定理5の条件であるΣn=0|bn||x|n<R が|x|<ρ'で満たされ,したがって補助定理5の結論が|x|<ρ'で成立する。"ということになります。

なぜならg1(x)≡Σn=0|bn||x|nとおくと右辺は|x|<ρで広義一様収束するので|x|<ρで連続であり,したがってx=0 でも連続ですからg1(0)=|b0|<Rなら十分小さいρ'>0 に対して|x|<ρ'のときg1(x)=Σn=0|bn||x|n<Rが成立するからです。

今日はここまでとします。

   

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