線型代数のエッセンス(14)(ユニタリ空間-5)
線型代数のエッセンスの§4.ユニタリ空間の続きです。
[定義4-65]:A^をユニタリ空間Lの対称変換(A^+=A^)とする。∀x∈Lに対して(A^x,x)≧0 のとき,A^は負でない(nonnegative:非負である)という。
このとき,特に"(A^x,x)=0 ⇔x=0 "であるなら,A^は正(positive),or 正定符号(positive-definite:正定値)であるという。
※(注):A^が対称変換(A^+=A^)のとき,(A^x,x)*=(x,A^x)=(A^x,x)より,(A^x,x)が実数であることは保証されています。※
[定理4-66]:ユニタリ空間の負でない(非負の)変換の負でない実数を係数とする1次結合は負でない変換である。(← 自明)
[定理4-67]:A^をユニタリ空間の任意の1次変換とすると,A^A^+,およびA^+A^は共に負でない対称変換(nonnegative-Hermite)である。
(証明)A^をユニタリ空間Lの任意の1次変換とします。
まず,(A^A^+)+=(A^+)+A^+=A^A^+,(A^+A^)+=A^+(A^+)+=A^+A^ですからA^A^+,A^+A^は確かに対称変換です。
次に,∀x∈Lに対して(A^A^+x,x)=(A^+x,A^+x)=|A^+x|2≧0,(A^+A^x,x)=(A^x,A^x)=|A^x|2≧0 も明らかです。
(証明終わり)
[定理4-67の系]:任意の対称変換の平方は負でない対称変換である。
(証明)A^+=A^なのでA^2=A^+2=A^A^+=A^+A^ですから,定理によって自明です。(証明終わり)
[定理4-68]:ユニタリ空間の負でない対称変換の固有値は負でない実数である。
(証明)A^をユニタリ空間Lの負でない1次変換とします。
Aa=αa(a∈L,a≠0)とすれば,(Aa,a)=α(a,a)=α|a|2≧0 であり|a|2≠0 なのでα≧0 を得ます。(証明終わり)
[定理4-69]:ユニタリ空間の対称変換A^の固有値が全て負でない実数ならA^は負でない1次変換である。
(証明)A^はn次のユニタリ空間Lの対称変換でA^の全ての固有値(重複を含めたA^のn次固有多項式の根)をα1,α2,..,αnとします。
そして,α1,α2,..,αnのそれぞれに属する固有ベクトルを正規化したLの正規直交基をe1,e2,..,enとします。
∀x∈Lはx=Σj=1nξjejと書けます。
このxについては,(A^x,x)=(A^(Σj=1nξjej),Σk=1nξkek)=Σj=1nΣk=1nξjξk*(A^ej,ek)=Σj=1nΣk =1nξjξk*αj(ej,ek)=Σj=1nΣk =1nξjξk*αjδjk=Σj=1nαj|ξj|2と書けます。
仮定によってαj≧0 (j=1,2,..,n)ですから∀x∈Lに対して(A^x,x)≧0 です。(証明終わり)
[定理4-70]:ユニタリ空間の負でない対称変換A^が正定符号である。⇔ A^は正則な変換である。
(証明)A^はn次のユニタリ空間Lの対称変換でA^の全ての固有値(重複を含めたA^のn次固有多項式の根)をα1,α2,..,αnとします。
A^は対称変換ですからAの行列は対角成分が固有値α1,α2,..,αnの対角行列に同値ですから,その行列式は|A|=detA=α1α2..αnで与えられます。
したがって,A^が正則でない:|A|=0 なら,あるjについてはαj=0 となります。
それ故,α1,α2,..,αnの固有ベクトルを正規化したLの正規直交基e1,e2,..,enに対して,このjについては(Aej,ej)=αj=0 となるため,A^は正定符号ではありません。
一方,A^が正則:|A|≠0 なら,αj>0 (j=1,2,..,n)ですからLの任意の元:x=Σj=1nξjejに対して(A^x,x)=Σj=1nαj|ξj|2>0 が成立します。
しかも,(A^x,x)=0 となるのはξj=0 (j=1,2,..,n),つまりx=0 のときだけですからA^は正定符号です。(証明終わり)
[定理4-71]:ユニタリ空間の負でない対称変換A^に対してA^=B^2を満足する負でない対称変換B^が唯一つに限って存在する。さらにA^と可換な1次変換は全てB^とも可換である。
(証明)A^はn次のユニタリ空間Lの対称変換でA^の全ての固有値(重複を含めたA^のn次固有多項式の根)をα1,α2,..,αnとします。
そして,α1,α2,..,αnのそれぞれに属する固有ベクトルを正規化したLの正規直交基をe1,e2,..,enとします。
このとき,αj≧0なので1次変換B^をB^ej≡αj1/2ej(j=1,2,..,n)によって定義します。
すると,B^の固有値は明らかにαj1/2(j=1,2,..,n)であり,固有値が全て負でないのでB^は負でない対称変換です。
しかも,B^2ej=αjej=A^ej(j=1,2,..,n)が成立しますからA^=B^2です。
次に1次変換X^がA^=B^2と可換であるとします。
すなわち,A^X^=X^A^とします。A^,B^,X^のe1,e2,..,enとによる行列A,B,Xは適当な配列に対して,
可換条件:A^X^=X^A^:XA=AXはαjXjk=Xjkαk (j,k=1,2,..,s),つまり(αj-αk)Xjk=0 を意味します。
この行列の細胞表現ではj≠kならαj≠αkなのでj≠kならXjk=0 であり,Xの非対角成分はゼロです。
それ故,行列X,BX,XBの具体的な形が次のように書けます。
以上から,B^X^=X^B^を得ました。
次にB^とは別に,A^=C^2で負でない対称変換C^があるとします。
先のA^の行列表現Aのs×s個の細胞分割に対応して,空間LはL=L1+L2+..+LsとA^の不変部分空間Lj(j=1,2,..,s)の直和に分解されます。
明らかにC^A^=A^C^ですからLjはC^に対しても不変です。
またC^は対称変換なので各部分空間LjにおいてC^の固有ベクトルから成る正規直交基が存在します。それらに対応するC^の固有値をγj1,γj2,..,γjρとします。
また,A^,B^,C^の不変部分空間に誘導される変換をAj^,Bj^,Cj^と書きます。
するとAj^=αjEj^,Bj^=αj1/2Ej^,かつAj^=Cj^2なのでγj12=γj22=..,γjρ2=αjです。
したがって,Cj^=αj1/2Ej^=Bj^です。
それ故,C~=B^であり一意性も示されました。(証明終わり)
[定理4-72]:ユニタリ空間の互いに可換な負でない対称変換の積は負でない対称変換である。
(証明)A1^,A2^をユニタリ空間Lの互いに可換な負でない対称変換とします。
[定理4-71]によりA1^=B1^2,A2^=B2^2を満たす負でない対称変換B1^,B2^が存在して,これらも可換です。
故に,A1^A2^=B1^2B2^2=B1^B2^B1^B2^=(B1^B2^)2が成立します。
ところで,B1^B2^=B2^B1^なので[定理4-58](ⅲ)よりB1^B2^は対称であり,負でないことも明らかですから,[定理4-67の系]によってA1^A2^は負でない対称変換です。(証明終わり)
[定理4-73]:ユニタリ空間の任意の1次変換A^はある対称変換B^,C^によってA^=B^+iC^の形に表わすことができる。
また,実ユニタリ空間の任意の1次変換A^はある対称変換B^,反対称変換C^によってA^=B^+C^の形に表わすことができる。
(証明)B^≡(A^+A^+)/2,C^≡(A^-A^+)/(2i)と置けばA^=B^+iC^でありB^+=(A^++A^)/2=B^,C^+=(A^+-A^)/(-2i)=C^となってB^,C^は対称であることがわかります。
また,B^≡(A^+A^+)/2,C^≡(A^-A^+)/2と置けばA^=B^+C^であり,B^+=(A^++A^)/2=B^,C^+=(A^+-A^)/2=-C^となってB^は対称,C^は反対称であることがわかります。(証明終わり)
[定理4-74](補助定理):ユニタリ空間Lの1次変換A^,B^がベクトルの長さを同じように変える:つまり∀x∈Lに対し(A^x,A^x)=(B^x,B^xなら,あるユニタリ変換U^が存在してB^=U^A^と書ける。
(証明)A≡A^L,B≡B^Lとします。
∀a∈Aに対し,あるx∈Lが存在してa=A^xです。このとき,b≡B^xとすればbはaに対して一意的です。
何故なら,もしa=A^x1ならA^(x-x1)=0 ですが,仮定により(A^(x-x1),A^(x-x1))=(B^(x-x1),B^(x-x1))=0 なのでB^(x-x1)=0 よりB^x=B^x1となるからです。
そこで,変換V^を上述のようにa∈Aにb∈Bに対応させるAからBへの写像:b=V^aとして定義します。
そしてA^とB^は対等なので同様にaもbに対して一意的ですから,V^は1対1写像です。
この定義から,あるx∈LについてV^A^x=B^xです。
次にa1,a2∈A,α,β∈Cとします。そして,a1=A^x1,a2=A^x2 (ただしx1,x2∈L)とします。
このとき,V^(αa1+βa2)=V^(αA^x1+βA^x2)=B^(αx1+βx2)=αB^x1+βB^x2=αV^a1+βV^a2なのでV~は1次変換です。
また,(V^a1,V^a1)=(V^A^x1,V^A^x1)=(B^x1,B^x1)=(A^x1,A^x1)=(a1,a1)です。
以上からV^はAからBへの同型写像です。
次にA,およびBそれぞれの直交補空間A⊥,およびB⊥を考えます。L=A+A⊥=B+B⊥です。
ところがAとBが同型:dimA=dimBなので,dimA⊥=dimB⊥ですからA⊥とB⊥も同型です。
それ故,A⊥からB⊥への同型写像W^が存在するはずです。
つまり,a',a"∈A⊥,α,β∈CならW^a',W^a"∈B⊥でW^(αa'+βa")=αW^a'+W^a",かつ(W^a',W^a")=(a',a")を満たす変換W^が存在します。
そして,∀x∈Lはx=x'+x",x'∈A,x"∈A⊥と常に一意的に直和分解できますから変換U^をU^x≡V^x'+W^x"で定義します。
すると,∀x,y∈L,α,β∈Cに対しU^(αx+βy)=V^(αx'+βy')+W^(αx"+βy")=αU^x+βU^yが成立するため,変換U^は線型です。
また,(U^x,U^x)=(V^x'+W^x",V^x'+W^x")=(V^x',V^x')+(W^x",W^x")=(x',x')+(x",x")=(x,x)です。
したがってU^はユニタリです。さらにU^A^x=V^A^x=B^xですから,B^=U^A^を得ます。(証明終わり)
[定理4-75]:ユニタリ空間Lの任意の1次変換A^はユニタリ変換U^(U^+=U^-1)と負でない対称変換D^(D^+=D^)の積としてA^=U^D^と一意的に分解される。この分解を極分解という。
(証明)A^をユニタリ空間Lの任意の1次変換とすると,[定理4-67]よりA^+A^は負でない対称変換です 。
それ故,[定理4-72]からA^+A^=D^2を満たす負でない対称変換D^が存在して一意的です。
そして,∀x∈Lに対して(A^x,A^x)=(x,A^+A^x)=(x,D^2x)=(D^x,D^x)ですから,[定理4-73]によりA^=U^D^,U^+=U^-1と書けます。
逆に,U^+=U^-1,D^+=D^でA^=U^D^ならA^+=D^U^-1よりA^+A^=D^2です。D^を非負に限るとこれを満たすD^は一意的です 。
そして,A^が正則ならD^も正則なのでU^=A^D^-1となりU^も一意的です。
A^が正則でないならD^も正則でないのでD^は負ではないですが正定符号ではないため,A^,D^は共にゼロ固有値を持ちます。
ゼロ固有値以外の不変部分空間ではA^に対してU^は一意ですがそれ以外では不定です。??(証明終わり)
[定理4-75の系]:ユニタリ空間Lの任意の1次変換A^は負でない対称変換D^(D^+=D^)とユニタリ変換U^(U^+=U^-1)の積としてA^=D^U^と一意的に分解される。
(証明)[定理4.75]の証明においてA^+A^=D^2の代わりにA^A^+=D^2とするだけです。(終わり)
[定理4.76](Cayley変換):ユニタリ空間の対称変換をA^(A^+=A^)とすると,A^±iE^は逆を持ち,U^≡(A^-iE^)(A^+iE^)-1で与えられる変換U^はユニタリである。
このU^は固有値として1を持たず,またA^=-i(U^+E^)(U^-E^)-1はと表わされる。
逆に,U^がU^+=U^-1を満たし1に等しい固有値を持たないならU^-E^は可逆でA^≡-i(U^+E^)(U^-E^)-1は対称でありU^はU^≡(A^-iE^)(A^+iE^)-1で与えられる。
(証明)まず,A^+=A^よりA^の固有値は実数であって±iではないので|A±iE|≠0 ですからA^±iE^は正則です。
そして,(A^+iE^)(A^-iE^)=A^2-iA^+iA^+E^=(A^-iE^)(A^+iE^)です。これから(A^+iE^)-1と(A^-iE^)-1も可換です 。
そこで,U^≡(A^-iE^)(A^+iE^)-1とするとU^+=(A^+iE^)+-1(A^+iE^)+=(A^-iE^)-1(A^+iE^)よりU^U^+=E^が成立することは自明です。
次にU^-E^=(A^-iE^)(A^+iE^)-1-E^なので,(U^-E^)(A^+iE^)=-2iE^です。
故に,(U^-E^)-1=(A^+iE^)/(-2i)です。|U-E|≠0 なのでU^は固有値として1を持ちません。
しかも,(U^-E^)A^=-2iE^-iE^(U^-E^)=-iE^(U^+E^)より,A^=-i(U^+E^)(U^-E^)-1となります。
逆も同じように直線的なので以下省略します。(証明終わり)
この線型代数シリーズはここで一区切りにします。
参考文献:ア・イ・マリツェフ(柴岡康光 訳)「線型代数学」(東京図書)
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