複素関数

2009年7月 4日 (土)

コーシーの主値(主値積分)

  コーヒー・ブレイクとして,数学のショートトピックを考察してみます。

 ちょっと思い付きで,コーシー(Cauchy)の主値,あるいは主値積分と呼ばれているものを考えます。

 コーシーの主値というのは,実数の区間[a,b]で定義された関数f(x)がa<c<bなるある点cで不連続なとき,P∫af(x)dx≡limε→+0[∫ac-εf(x)dx+∫c+εbf(x)dx]と定義して,これを主値(積分)(principal value)と呼ぶことを指します。

 

 これは,区間[a,b]が無限区間(-∞,∞)で被積分関数がf(x)/x (f(x):連続関数)の場合には,P∫-∞{f(x)/x}dx=limε→+0[∫|x|≧ε{f(x)/x}dx]です。

 

 複素平面上の実軸を含む領域でf(z)が正則なとき,主値P∫-∞{f(x)/x}dxを,複素z平面上のある経路Cにおける線積分∫C{f(z)/z}dzで近似することを考えます。

 

Cとしては,実軸上の-∞から-εまで真っ直ぐ進み,原点Oを回避するために,Oを中心として半径εの小円で点-εから点εまで時計回り(負の向き)にπだけ回る半円経路を加え,さらにεから∞までの直線経路を考えたものとします。

つまり,小半円の経路をγ-とすると,全経路はC=(-∞,-ε)∪γ-∪(ε,∞)です。

すると,∫C{f(z)/z}dz=P∫-∞{f(x)/x}dx+∫γ-{f(z)/z}dzと書けます。

ところが,明らかに∫γ-{f(z)/z}dz=i∫π0f(εexp(iθ))dθ=-iπf(0)です。

 それ故,∫C{f(z)/z}dz=P∫-∞{f(x)/x}dx-iπf(0) なることがわかります。

 被積分関数f(z)/zに対し,その特異点であるz=0 付近で上半平面方向に歪めた経路C=(-∞,-ε)∪γ-∪(ε,∞)を取る代わりに,通常の(-∞,∞)の経路のまま,被積分関数の方をf(z)/zからf(z)/(z+iε)に微修正して,特異点をz=0 から下半平面のz=-iεに移すのは,事実上,同等な操作であり,同じ積分値を与えるはずです。

 すなわち,∫-∞{f(x)/(x+iε)}dx=∫C{f(z)/z}dz=P∫-∞{f(x)/x}dx-iπf(0)です。

 同様な考察から∫-∞{f(x)/(x-iε)}dx=∫C{f(z)/z}dz=P∫-∞{f(x)/x}dx+iπf(0)も得られます。

 これらの公式を,形式的に1/(x+iε)=P(1/x)-iπδ(x), 1/(x-iε)=P(1/x)+iπδ(x)と書きます。

 主値積分については,コーシーの積分定理を意識して,上半平面や下半平面で,半径が∞の半円周を加えた閉じた経路を積分経路Cとする説明をよく見かけますが,それは半径が∞の半円周上で積分がゼロになるような特別な被積分関数形を要求します。

 

 留数などを考慮する必要がある場合なら,その方がいいでしょうが,上の考察では,関数f(z)がz→ ∞でゼロに急減衰すべきであるとかの条件は全く必要ないのがミソです。

 

 今日は記憶に頼った短かい覚え書きなので参考文献はありません。

 

PS:2ヶ月ぶりに帝京大病院に診察を受けに行きました。

 

 これまでは内科診療は心臓や血管が専門の主治医I先生だけでしたが持病の糖尿病がかなり悪化しているというので今回からMという糖尿病が専門の女の先生の診療も受けることになりました。

 

 ところが,先に診察を受けた糖尿病の方で,12時直前に受けた診察で,朝9時半に検査した結果の糖尿病の指標であるヘモグロビン(HbA1C;正常値4.3~5.8)が,前回(5月8日)まで,11くらいもあったのに,8.6と劇的に軽減されていたので,当然インシュリン注射の指導をする予定だったらしい女医が,これまで通りの投薬で様子を見るということになりました。

 

 空腹時血糖値は200丁度でしたが,これも前回は確か250くらいだったので減っていたし,今日は朝8時頃おにぎりを食べてきたので完全に空腹というわけではありませんでしたた。

 

 別に何をしたというわけもなく,このところ金がなくて空腹続きだったのが良かったのでしょうか?

  

 最近,何かしましたか?生活が変わりましたか?等聞かれましたが,相変わらず薬はよく忘れて半分くらいは残っているし,別に,貧乏で肉類が少なく空腹だったくらいです。

  

 そういえば,先月初め,知り合いに紹介されて面接した秋葉原の「コタラヒムジャパン」http://kothalahim.blog110.fc2.com/blog-entry-9.html という会社が,偶然にも和名「コタラヒム」という名前の糖尿病に効くらしいスリランカの薬草を販売している会社でした。

   

 そのとき,対面したS会長に自分も長年糖尿病である旨を伝えたら,サンプル試供品の「コタラヒム」を20粒程度頂きました。これを思いついたときには食前2錠ずつ飲んでいたのを思い出しました。

 

 まだ,数粒残っているので,毎日飲んだわけではないようです。

 

 このことを言ったら,後で診察を受けた糖尿が専門ではない心臓病の主治医は少し興味を持ったようでしたが,糖尿病が専門の医者には「毒かもしれないから,変なものは飲まないように」と言われました。

 

 私のデータが改善された理由は,十分な比較サンプルもないので,もちろん何の効果かははっきりしないのでしょうが,そもそもインシュリン投与の対症療法しかない糖尿病だし,専門の立場からはイカガわしいもが多いという気持ちはわかりますが,別に私はその会社の回し者ではないので調べるくらいしてもいいのにと思いました。

 

 (理由は,何でも薬は効きさえすればいいのだと思う。。大きな副作用があれば別ですが。。)

 

 心臓,血管関係では,2年前のバイパス手術退院当時,上が85~90だった血圧が120と正常になってました。また,退院時52キロだった体重も61キロと戻ってきました。

 

 しかし,身長が176センチなので,まだまだやせていて太りたいのですが,ここ数年来摂取カロリーが成人標準の半分程度なので,やせるのも仕方ないでしょう。

 

 だからこそ,食事療法などは無駄だから,インシュリンを投与しろということらしかったのですが。。。

 

 また,これまで,フラフラして転びやすいのは,主に低血圧のせいと思っていたら,赤血球も正常下限値の8割しかなくて貧血もあるようでした。その他は腎臓が蛋白+2で少し悪い以外は全て正常値でした。

 

 念のため,次回はほぼ全部の内臓の超音波(エコー)検査をすることになりました。

 

 また,4月末にやった両足首の動脈の検査結果から,足の動脈硬化らしいので薬ももらいましたが,来週下半身のMRI検査をして,場合によっては足の動脈のカテーテルか,バイパス手術もあるらしいです。

 

 そうだとしても,今度は心臓ではなく足なので危険度ははるかに少ないでしょう。

 

 糖尿病状態の急激な変化は,たとえ軽癒の場合でも眼底によくないとのことで,同じ日に久しぶりに眼科の診察も受けることになりました。

 

 こうした検査は人間ドック以上にお金がかかるだろうとはいえ,これまで定期的に受けてきた診察では何もなかったのに5月に病院の建物や施設が新しくなったとたんに,こう色々と出てくるのでは今までは一体何だったんだろう?と思ってしまいます。

 

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2008年8月14日 (木)

三角関数を含むある関数の定積分

 今日はちょっと気になる計算があったので計算をしてみました。実はT_NAKAさんのブログ=「T_NAKAの阿房ブログ」の2008年8/10の記事「高次モーメントを考える」 http://teenaka.at.webry.info/200808/article_10.htmlに関連したものです。。

 普通は公式集にあるものなら全面的にそれに頼り,わざわざ確かめたりもしませんが,偶々,所持している岩波の数学公式集,丸善の新数学公式集を見ても,適合するものが全く見つからなかったため,自力で計算せざるを得ず,実行しました。

 

 夏休み中で頭もボーッとしているし,最初予想していた結果と違っていたこともあって,かなり手間取りました。

計算するのは,定積分:Ik≡∫-∞k(x)dx=∫-∞dx[xkcos2x/{x2-(π/2)2}2]=∫-∞dx[xkcos2x/{(x-π/2)2(x+π/2)2}](k=0,1,2,..)です。

これはkが奇数なら被積分関数:fk(x)=xkcos2x/{x2-(π/2)2}2が,xの奇関数なので,その積分はゼロですから,以下ではkは偶数であるとし,fk(x)がxの偶関数の場合のみを計算します。

x=±π/2はfk(x)の特異点,特に極であるように見えますが,実は真の特異点ではありません。

 

例えばy≡x-π/2と変数変換すれば,fk(x)=xkcos2x/{(x-π/2)2(x+π/2)2}=(y+π/2)ksin2y/{y2(y+π)2}なので,y→ 0ではfk(x)→ (π/2)k2,y→ -πではfk(x)→ (-π/2)k/(-π)2となります。

 

そこで,y=0,-π,すなわち,x=±π/2は,fk(x)の真の特異点ではなく,これらの点でx→±π/2でのfk(x)の極限値をfk(±π/2)と定義すれば被積分関数fk(x)はx=±π/2でも連続なので,普通に積分を実行することができます。

 しかし,実際にxを実数のままで,この積分を評価するのはかなり面倒なのでxを複素変数zに変えて,複素z平面である閉曲線Cを周回する積分を考えてみます。

 

 その際,cos2z=[{exp(iz)+exp(-iz)}/2]2={exp(2iz)+exp(-2iz)+2}/4 なので,Ik(C)≡∫Ck(z)dz=∫Cdz[zk{exp(2iz)+exp(-2iz)+2}/{4(z-π/2)2(z+π/2)2}](k=0,1,2,..)を計算します。

 

 これ自身は,上に述べたようにz=±π/2も含めてfk(z)が全z平面で解析的なのでCが閉曲線の場合には常にIk(C)=0 です。

まず,∫Cdz[zkexp(2iz)/{(z-π/2)2(z+π/2)2}を考えます。原点を中心としR>>1で実軸上[-R,R]を直径=2Rとする上半円周をCとします。

  

ただし,今の場合,被積分関数はfk(z)ではなく,その一部gk(z)≡zkexp(2iz)/{(z-π/2)2(z+π/2)2}です。

 

これに対しては,z=±π/2 は確かに真の特異点(極)なので,Cは点±π/2 の周りでは特別に回避経路としてA±≡limε→ +0{z(θ)|z(θ)=±π/2+εexp(iθ),θ:π→ 0 (時計回り)}で与えられる微小半径ε>0 の上半円周経路を含むとします。

そして,Cの無限遠を意味する半径Rの円周上の点z=Rexp(iθ)=R(cosθ+isinθ) (0≦θ≦π)では,|∫gk(z)dz|=πR|zkexp(2iz){(z-π/2)2(z+π/2)2}|z|=R ~πRk-3exp(-2Rsinθ)→ 0 ですから,これの寄与は無視できます。

 

結局,0=∫C+dz[zkexp(2iz)/{(z-π/2)2(z+π/2)2}]=∫-∞dz[zkexp(2iz)/{(z-π/2)2(z+π/2)2}]+A+Aなる表現で書けます。

 

ここで,微小半円経路A±を回る積分の寄与を同じ記号A±で省略する表現をしました。

∫gk(z)dzにおけるA±の寄与を評価する必要がありますが,これは被積分関数のローラン展開において 1/(z±π/2)の係数に(-πi)を掛けたもので与えられます。

 

これはAの場合には,limz→(-π/2)(d/dz)[(z+π/2)2k(z)]で与えられます。

 

すなわち,limz→(-π/2)(d/dz)[zkexp(2iz)/(z-π/2)2]=limz→(-π/2)[{(kzk-1+2izk)/(z-π/2)2-2zk/(z-π/2)3}exp(2iz)]=-(-π/2)k-1(k-πi)(-π)-2+2(-π/2)k(-π)-3=(πk-3/2k-1)(k-1-πi)です。

 

したがって,結局A=(-πi)(πk-3/2k-1)(k-1-πi)が得られました。ここで,kが偶数であることを用いました。

同様にAの場合には,limz→π/2(d/dz)[(z+π/2)2k(z)]=limz→π/2[{(kzk-1+2izk)/(z+π/2)2-2zk/(z+π/2)3}exp(2iz)]=(π/2)k-1(k+πi)π-2-2(π/2)kπ-3=(πk-3/2k-1)(k-1-πi)ですから,A=(-πi)(πk-3/2k-1)(k-1-πi)=Aです。

 

以上のことから,∫-∞dz[zkexp(2iz)/{(z-π/2)2(z+π/2)2}]=-(A+A)=-2A=(2πi)(πk-3/2k-1)(k-1-πi)が得られました。

また,被積分関数gk(z)≡zkexp(-2iz)/{(z-π/2)2(z+π/2)2}に対しては,原点を中心としR>>1で実軸上[-R,R]を直径=2Rとする下半円周をCとすれば,同様な考察から 0=∫C-dz[zkexp(-2iz)/{(z-π/2)2(z+π/2)2}]=∫-∞dz[zkexp(2iz)/{(z-π/2)2(z+π/2)2}]+B+Bを得ます。

 

ここで,B±はA±と同様に実軸上の特異点±π/2を回避する微小な下半円周経路B±≡limε→ +0{z(θ)|z(θ)=±π/2+εexp(iθ),θ:-π→ 0 (反時計回り)}における積分の寄与です。

そして,B+B=2B=(2πi)(πk-3/2k-1)(k-1+πi)となりますから,∫-∞dz[zkexp(-2iz)/{(z-π/2)2(z+π/2)2}]=-(B+B)=-2B=(-2πi)(πk-3/2k-1)(k-1+πi)です。

したがって,cos(2x)={exp(2iz)+exp(-2iz)}/2によって,上に得られた2つの積分等式を加え合わせて2で割ると,∫-∞dx[xkcos(2x)/{x2-(π/2)2}2]=∫-∞dx[xkcos(2x)/{(x-π/2)2(x+π/2)2}]=2(π/2)k-1が得られます。

一方,∫Cdz[zk/{(z-π/2)2(z+π/2)2}]において±π/2は2位の極なので留数はゼロですから,例えば閉路Cを,C=Cに取れば 0=∫C+dz[zk/{(z-π/2)2(z+π/2)2}]=∫-∞dz[zk/{(z-π/2)2(z+π/2)2}]+lim R→∞|z|=Rdz[zk/{(z-π/2)2(z+π/2)2}]となります。

被積分関数がgk±(z)=zkexp(±2iz)/{(z-π/2)2(z+π/2)2}の場合と異なり,zk/{(z-π/2)2(z+π/2)2}の場合にはC=Cに取ろうと,C=Cに取ろうと,半円の半径R→ ∞で円周積分が必ずしもゼロにはなりません。

以上から,2∫-∞dx[xkcos2x/{x2-(π/2)2}2]=∫-∞dx[xk{1+cos(2x)}/{x2-(π/2)2}2]=∫-∞dx[xk/{x2-(π/2)2}2]+∫-∞dx[xkcos(2x)/{x2-(π/2)2}2]=-lim R→∞|z|=Rdz[zk/{z2-(π/2)2}2]+2(π/2)k-1が得られました。

右辺第1項はz=Rexp(iθ),dz=iRexp(iθ)dθによって∫|z|=Rdz[zk/{(z-π/2)2(z+π/2)2}]=iR∫0πdθ[Rkexp(ikθ)/{(Rexp(iθ)-π/2)2(Rexp(iθ)+π/2)2}]となりますから,R→∞では|∫|z|=Rdz[zk/{(z-π/2)2(z+π/2)2}]|~πRk+1/R4と書けます。

 

-∞dx[xk/{x2-(π/2)2}2]は実関数の実数積分であり,被積分関数はkが偶数ならx∈(-∞,∞)では非負なので,この積分の符号は非負です。

 したがって,kが偶数故k=2mとおくと,この項はm=0,1,すなわちk=0,2では(k+1)<4 によって,ゼロに収束しますが,m≧2 or k≧4 では,(k+1)>4 なので ∞ に発散します。

 以上からIk≡∫-∞k(x)dx=∫-∞dx[xkcos2x/{x2-(π/2)2}2]=∫-∞dx[xkcos2x/{(x-π/2)2(x+π/2)2}](k=0,1,2,..)はkが偶数の場合,k=0,2 ならIk=(π/2)k-1となって有限値,kが4以上のk=4,6,..ならIk=∞+(π/2)k-1となって∞ に発散するという結果が得られました。

 kが奇数の場合ならIkはゼロです。

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2008年2月16日 (土)

実数から複素数へ

せっかくデデキントの切断(Dedekind's cut)によって有理数から実数を定義したのですから,やはり39年くらい前の大学1~2年の頃の解析学の化石的ノートから,複素数の定義も記述しておきます。

 

要するに,また,得意の手抜きです。もっとも複素関数論ではなく複素数の話だけならカテゴリーとしては解析学の話ではなく代数学的,あるいは幾何学的な話ですね。

これまでと同じように"実数の集合=実数体"をRとします。

[定義1](複素数)

 複素数とは2つの実数a,b∈Rの順序対,あるいは2次元の数ベクトル(a,b)のことであり,実数をa,b,..,複素数をx,y,..で表記することにすれば,x=(a,b),y=(c,d)(c,d∈R)のとき,"xとyが等しい,x=yであるとは,a=cかつb=dが成り立つことである。"

 また,これらの和,または加法,および積,または乗法の演算が,それぞれx+y≡(a+c,b+d),およびxy≡(ac-bd,ad+bc)で定義されるものをいう。

 

 そして,こうして得られる複素数全体の集合をCと書くことにする。

     特に,複素数(1,0)と(0,0)については,とりあえずu≡(1,0),n≡(0,0)と表記することにします。

[定理1]x,y,zを任意の複素数とする。すなわち∀x,y,z∈Cとする。このとき,(a)x+y=y+x,(b)(x+y)+z=x+(y+z),(c)xy=yx,(d)(xy)z=x(yz),(e)(x+y)z=xz+yzが成立する。

 

(証明)x+y≡(a+c,b+d),およびxy≡(ac-bd,ad+bc)による加法,乗法の定義に従って実際に演算を行えば確かに成立することがわかるので省略します。

 以下,証明を省略した定理を2つ述べます。

[定理2]∀x∈Cに対してx+n=x,xn=n,xu=xが成り立つ。

 

[定理3]x,y,z∈Cとする。x+y=x+zならばy=zである。

[定理4](逆元の存在)∀x∈Cに対してx+y=nを満たすy∈Cが唯1つ存在する。このyを-xと書く。

 

(証明)x=(a,b)のとき,y=(-a,-b)とすればいいです。

 (証明終わり)

[定理5]∀x,y∈Cに対してx+(-y)をx-yと書くことにする。このとき,(a)x-x=n,(b)(-x)y=x(-y)=-(xy)=(-u)(xy)が成立する。

 

(証明)略。  

この定理の故に,(-x)y=x(-y)=-(xy)=(-u)(xy)を単に-xyと書くことにします。

[定義2](絶対値)

 ∀x∈Cに対しx=(a,b)(a,b∈R)なら|x|≡(a2+b2)1/2と書き,|x|をxの絶対値と呼ぶ。

[定理6]∀x,y∈Cに対して,(a)x≠nなら|x|>0 ,また|n|=0 である。(b)|xy|=|x||y|が成り立つ。

 

(証明)略。

[定理7]x,y∈Cに対しxy=nならx=n,またはy=nである。

 

(証明) 定理6より,xy=nなら|xy|=|x||y|=0 ,故に|x|=0,または|y|=0 です。

 そこで再び定理6からx=n,またはy=nです。

 

(証明終わり)

[定理8]x,y,z∈C,xy=xzでx≠nならy=zである。

 

(証明)x(y-z)=xy-xz=nでx≠nなので定理7によってy-z=n,よってy=zです。

 

 (証明終わり)

 

[定理9]∀x∈C,ただしx≠nに対して,xy=uを満たす複素数yが唯1つ存在する。このyをu/xと書く。

 

(証明)x=(a,b)(a,b∈R)とするとき,x≠nなのでa2+b20 です。そこでy≡(a/(a2+b2),-b/(a2+b2))とすれば,xy=(a,b)(a/(a2+b2),-b/(a2+b2))=(1,0)=uが確かに成り立ちます。y=u/xの一意性は定理8より明らかです。

 

 (証明終わり)

[定理10](除法)∀x,y∈C,ただしx≠nに対してxz=yを満たす複素数zが唯1つ存在する。このzをy/xと書く。

 

(証明)z≡(u/x)yとおけば,xz=uy=yです。

 

 (証明終わり)

[定理11](実数)

 a,b∈Rとします。このとき,(a)(a,0)+(b,0)=(a+b,0),(b)(a,0)(b,0)=(ab,0),(c)b≠0 なら(a,0)/(b,0)=(a/b,0), (d)|(a,0)|=|a| が成立する。

  

(証明)明らかなので略。

     定理11から,(a,0)(a∈R)の形の複素数は実数aと全く同じ性質を持って1対1に同型対応することがわかるので,以下では複素数(a,0)(a∈R)を実数aと同一視して単にaと書くことがあります。

 

 この同定によってRはCの部分集合になります。すなわち,R⊂Cです。そこで,特に以下ではu=(1,0)を単に1,n=(0,0)を単に 0 と書きます。

[定義3](虚数)

 複素数(0,1)をiと書く。

[定理12]i2=-1 である。

(証明)i2(0,1)(0,1)=(-1,0)=-1 です。

 

 (証明終わり)

[定理13]∀a,b∈Rに対して,(a,b)=a+biである。

 

(証明)a+bi=(a,0)+(b,0)(0,1)=(a,0)+(0,b)=(a,b)

 

(証明終わり)

[定理14]∀x,y∈Cに対して,|x+y|≦|x|+|y|である。

 

(証明) x+y=0 なら自明なので,x+y≠0 とする。このときλ≠|x+y|/(x+y)と置けば,定理6(b)より|λ|=1 です。

 

 そしてλx+λy=|x+y|です。

 

 よってλx+λyは実数ですから,λx=(a,b),λy=(c,d)ならλx+λy=(a+c,b+d)=(a+c,0)=a+cです。

 

 そして|a|≦|λx|=|x|,かつ|c|≦|λy|=|y|です。したがって,|x+y|=λx+λy=a+c≦|a|+|c|≦|x|+|y|が成立します。

 

 (証明終わり)

[定義4](共役複素数)

 複素数z=(a,b)=a+bi(a,b∈R)に対して,複素数z*≡(a,-b)=a-biをzの共役複素数という。

以下は通常の歴史的な複素数の展開の繰り返しになるので,ここでやめます。要するに,ここで展開した一連の話は,歴史的には代数方程式の実数解を求めるための過渡的な仮想数として便宜上導入された複素数をヒルベルト(Hilbert)などの思想に基づいて,公理的発想で代数的に再構築したモデルの1例になっている思われます。

数十年前に,この定義を初めて学んだ頃は,確かに新鮮でしたが,単に複素数をガウス平面の2次元ベクトルとする平面幾何の猫像をやや記号的に定式化しただけだとしか思いませんでした。

 

例えばガウス平面の実軸)上の点a=(a,0)(a>0 )に虚軸上の点i=(0,1)を乗じると,これは幾何学的にはベクトルのπ/2だけの正の回転に相当し,結果的に積としての点がai=(0,a)となり,その上さらにi=(0,1)を乗じると,さらにπ/2回転されることになって,合計πだけ回転されて点-a=(-a,0)に移ります。

 

それ故,iを2回続けて乗じることは,ネットで-1を乗じることに相当し,i2=-1と同定されますが,こうした話を言い換えただけに過ぎないという感じで割と軽視していました。

しかし,物理学で相対性理論のエネルギーの等式E2=p22+m24の平方根を取ったとき,E=±c(2+m22)1/2の右辺は非常に扱いにくい非線型な形式ですが,これを次元を増やして行列を用いて表現すれば線形化できるというディラックの相対論的波動方程式のアイデアを見るなどの思考体験もあって,後には少なからず見方が変わりました。

数十年も経った現在の心境としては,論理学での帰納法に関するペアノ(Peano)の公理系と同じような感覚を持って見ています。

 

実証科学である他の自然科学での,複素数は仮想数であるとか,2乗して-1になる数などそもそもこの世には存在しないとかの「実在するしない」という類の不毛な論議とは関係なく,

 

上記のような定式化は単に数学的実体として,複素数は2元数として存在するという考えを,陽に表現して明確化する,という意味がある,と思うに至っています。 

参考文献:Walter.Rudin「Principles of Mathematical Analyss」second Edition(McGrawHill)

 

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2007年11月28日 (水)

解析接続の意味

例によって「EMANの物理学」の談話室での話題なのですが,ゼータ関数の定義に関連して,無限級数(の和)によって定義された関数の解析接続とか一致の定理というのは何か?についての議論が進み,ほぼ終局の状態です。

私自身はまだ言い足りないことがあったので,ここでの記事にしますが,実は投稿したものとほぼ同じです。

ダブルポストなので,通常はルール違反なのですが,自分のブログなのでかまわないでしょう。

それに掲示板ではフォントなどが限られているので,ブログでは自分の好きな形式で書けるという意味もあります。

 結局は,2006年4月23日の記事「くりこみ回避のアイデア」http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_7d36.html

 で書いた話を少し精密にしただけです。

 私は,複素関数論での通常の解析接続の説明では飽き足らず,物理屋的な解説を目指しました。

 まず,zを任意の複素数とすると,Σk=1nk-11+z+z2+...+zn-1=(1-zn)/(1-z)です。これは有限級数の和なので,|z|<1でも,z=-1でもz=2でも成り立つ等式です。

 そして,|z|<1ならn→ ∞ で|zn|→ 0 なので,Σn=1n-1=1+z+z2+...=1/(1-z)が成り立ちます。

  しかし,z=2ではn→ ∞ で|zn|→ ∞ であり,z=-1ではn→ ∞ でznが確定値を取らないので,Σn=1n-1=1+z+z2+...=1/(1-z) は成立しません。

  そこで,複素関数f(z)を|z|<1で与えられる定義域においてf (z)≡Σn=1n-1=1+z+z2+...(|z|<1)によって定義することにします。

 こう定義すれば,|z|<1の領域では f (z)は関数1/(1-z)に一致します。

 |z|>1やz=-1では等式Σk=1nk-1=1+z+z2+...+zn-1=(1-zn)/(1-z)は成立しますが,Σn=1n-1=1+z+z2+...=1/(1-z)は成立しません。

 しかし,そうした|z|<1の領域以外のzに対しても部分和を表わす右辺の(1-zn)/(1-z)での分子のznを無視して,(1-zn)を1としたものと f (z)を同一視してz=1を除く全複素平面でf (z)=1/(1-z) (z≠1)と定義することにします。

 つまり,f (z)≡limn→∞[{1+z+z2+...+zn-1}+zn/(1-z)]という式を関数f (z)の正しい定義とするわけです。

 |z|<1なら,この後の定義も|z|<1 におけるf(z)に対する前の定義f(z)≡Σn=1n-1=1+z+z2+...(|z|<1)と全く一致します。

 一方,|z|>1やz=-1では差し引くべき項:{-zn/(1-z)}は収束しません。

 特に|z|>1なら|zn/(1-z)|→∞ なので, f (z)≡limn→∞[{1+z+z2+...+zn-1}+zn/(1-z)]は形式的に無限大から無限大を引くという意味に取ることも可能で,これは物理学でのくりこみの処方に似ています。。

 ここまでは,直接には解析接続とは無関係な話です。

 そして複素関数論では f (z)≡Σn=1n-1=1+z+z2+...=1/(1-z) (|z|<1)を特異点z=1を避けて延長した点でも,それが正則関数になるように,|z|≧1,z≠1なる点まで接続すれば,一致の定理によってそうした点でも f (z)は1/(1-z)に一致する場合しか有り得ないことがわかります。

 実際,z=-1+αと置けばΣk=1nk-1=1+z+z2+・・+zn-1=(1-zn)/(1-z)なる等式はc0,c1,..,cn-1をある定数の複素係数としてΣk=1n(α-1)k-1=Σk=1nk-1αk-1={(α-1)n-1}/(α-2)と変形できます。

そして,|z|=|α-1|>1なら右辺は,1/(1-z)=-1/(α-2)にはなりません。

 しかし一方,αの絶対値が十分小さいならz=-1+αの絶対値が1より大きくても,つまり|z|=|-1+α|>1でも f (z)=1/(1-z)=-1/(α-2)=(1/2)/(1-α/2)=(1/2)Σn=1(α/2)n-1=(1/2)[1+(α/2)+(α/2)2+...]=(1/2)Σn=1{(z+1)/2}n-1=(1/2)[1+{(z+1)/2}+{(z+1)/2}2+...]とテイラー展開されます。

 つまり,z=0 のまわりでは|z|=|-1+α|>1なので, f (z)=1/(1-z)はzのべきでは展開できなくても,z=-1のまわりではα=(z+1)の無限べき級数に展開可能ですから,f (z)は確かに|z|>1,z≠1なる領域でも解析的です。

 また,一致の定理の内容というのは同じ点を中心としたテイラー級数の展開係数の一意性により,今の f (z)の場合,|z|<1 以外の領域でも,その解析性(ベキ級数への展開可能性)を保持しながら f (z)を|z|<1から連続的に延長していったとき,もしも2通り以上の延長(接続)方法があったとしても,それらは一致するという定理です。

 このことから,解析接続する方法は一意的に決まります。

 今日は,短かいけれどこれで終わりです。

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2007年8月17日 (金)

代数学の基本定理

コーヒー・ブレイクとして,ガウスの代数学の基本定理="複素係数の多項式は,それが定数でなければ複素数体の中に必ず零点を持つ。"の証明について記述してみます。 

 まず普通の証明です。 

(証明)あるzの多項式f(z)=a0+a1z+..+aNN=Σn=0Nnn (0,N≧1)が任意に与えられたとき,これが複素数体の中に零点を持たないと仮定すると,g(z)≡1/f(z)は全体で正則です。

 ところが十分大きい正の数Rに対して|z|≧Rなら|f(z)|/|z|N=|N+a1/z+..+0/N|≧|N|-|a1/z+..+0/N|≧|N|/2となります。

 

 すなわち,|f(z)|≧|NN|/2なので,|(z)|=1/|f(z)|≦2/|NN|≦2/|NN|,つまりg(z)は|z|≧Rで有界です。

 

 そこで,閉領域|z|≦Rでの|g(z)|の最大値をMとすると,|z|≦Rなら|g(z)|≦M,|z|≧Rなら|g(z)|≦2/|NN|です。よって,gは全体で有界です。

 ところが最大絶対値の原理によって,gは全体で正則(つまり整関数),かつ有界なのでこれは定数です。これは(z)=1/(z)=Σn=0Nnn において0,N≧1であるという仮定と矛盾します。したがってfはに零点を持ちます。(証明終わり)

 以上の証明が,通常,複素関数論の初学者が教えられる一般的な証明でしょう。 

 ここで,"有界な整関数は定数しかない。"という命題が最大絶対値の原理に帰すると書きましたが,最大絶対値の原理というのは"fを領域Dの上の正則関数とするとき,|f|がDで最大値を取るならばfは定数である。"というものです。

こうした複素関数論における定理の出発点は大体においてコーシーの積分定理にあります。

 

これは,"領域Dで正則な関数fがあってCをDの内部にあって正の向きにまわる閉曲線の経路とするときCが1点にホモトープ(領域の場合は単連結と同義)なら∫Cf(z)=0 である。"という定理です。

これと,∫|z-α|=ρdz/(z-α)=2πiという計算式から,"Cを単純閉曲線としαはCの上にない点とすると,αがCの囲む領域の内部にあれば∫Cdz/(z-α)=2πi, αがCの外部にあれば∫Cdz/(z-α)=0 である。"という命題が成立します。

 

したがって,fを領域Dで正則な関数としCを単純閉曲線としてCとその内部(C)がDに含まれるとき∀z∈(C)に対してf(z)={1/(2πi)}∫Cdζ[f(ζ)/(ζ-z)]という積分表示が成立します。

そして,f(z)を滑らかな単純閉曲線C上で連続な関数であるとしてC上にない点z∈D対して関数φ(z)≡∫Cdζ[f(ζ)/(ζ-z)]を定義します。

 

このとき,Cの上にない点αに対し,Rα≡inf{|ζ-α|:∀ζ∈}とおけば 0<ρ<Rαなる任意のρについて,|z-α|≦ρなら1/(ζ-z)=1/[(ζ-α)-(z-α)]={1/(ζ-α)}[1/{1-(z-α)/(ζ-α)}]=Σn=0(z-α)n/(ζ-α)n+1が成り立ちますから,f(ζ)/(ζ-z)=Σn=0(z-α)n{f(ζ)/(ζ-α)n+1}となります。

右辺は∀ζ∈に関して一様収束するので,an≡∫Cdζ{f(ζ)/(ζ-α)n+1}とおくと,|z-α|≦ρならφ(z)=∫Cdζ[f(ζ)/(ζ-z)]=Σn=0n(z-α)nとベキ級数展開ができます。

 

ところが,関数φ(z)が|z-α|≦ρで絶対かつ一様収束するベキ級数に展開可能なとき,φ(z)はαの近傍で無限回微分可能です。そして関数の"ベキ級数=Taylor級数"の展開係数の一意性によってan=φ(n)(α)/n!=∫Cdζ{f(ζ)/(ζ-α)n+1}なる等式が成立します。

一方,先に述べたように,"fを領域Dで正則な関数としCを単純閉曲線としてCとその内部(C)がDに含まれるとき,∀z∈(C)に対してf(z)={1/(2πi)}∫Cdζ[f(ζ)/(ζ-z)]が成立する。"という定理があります。

 

そこで,f(z)は∀α∈Dに対して|z-α|<Rα=inf{|ζ-α|:∀ζ∈}で一意的にf(z)=Σn=0n(z-α)nとベキ級数に展開できて,an=f(n)(α)/n!={1/(2πi)}∫Cdζ{f(ζ)/(ζ-α)n+1}が成立することがわかります。

したがって,f(z)が円板N(α;R)≡{z:|z-α|<R}において正則であるとすると,f(α)={1/(2πi)}∫|z-α|=ρ[f(z)/(z-α)]dz;0<ρ<Rと表現されます。

 

z=α+ρe;0≦θ≦2πと書けば,f(α)={1/(2π)}∫0f(α+ρe)dθ;0<ρ<Rと変形されます。

 

これはいわゆる平均値の定理ですが,これから絶対値についての不等式として|f(α)|≦{1/(2π)}∫0|f(α+ρe)|dθ;0<ρ<Rが得られます。

fを領域Dの上の正則関数とするとき,|f|がα∈Dで最大値を取るとすると,∀z∈Dに対して|f(z)|≦|f(α)|です。

 

そこで,N(α;R)={z∈C:|z-α|<R}⊂Dとなるように半径Rを取ると 0<ρ<R なるρに対して|f(α)|≦{1/(2π)}∫0|f(α+ρe)|dθ≦|f(α)|と書けます。

 

よって 0<ρ<R なる任意のρについて,中心がαで半径がρの円周上では,|f(α+ρe)|=|f(α)|ですから,z∈N(α;R)なら|f(z)|=|f(α)|=一定です。すなわち,円板N(α;R)において|f|は定数です。

このときf≡u+iv(u=Ref,v=Imf)とおくと|f|2=u2+v2であり,これが定数ですからu・ux+v・vx=u・ux-v・uy=0 かつ,u・uy+v・vy=u・uy+v・ux=0 から直ちにux=uy=vx=vy=0 が得られるので,結局N(α:R)においてf自身が定数です。

 

したがって,一致の定理によってfはD全体で定数となることがわかります。

こうして,"fを領域Dの上の正則関数とするとき,|f|がDで最大値を取るならばfは定数である。"という最大絶対値の原理を得ました。

 

ここでfが整関数の場合にはfが正則関数である領域Dとして,無限遠点を除く複素平面全体={z;|z|<∞}を採用できます。

 

そして,そのとき|f|がDで最大値を取るという命題はfがで有界であることと同じですから,結局,"有界な整関数は定数である。"という定理が得られます。

  

これをリウヴィルの定理(Liouville)といいます。

ついでに一致の定理ですが,これは解析接続という概念の元になるもので,"f,gが領域Dで正則とする。Dの部分集合Aのあらゆる点zで(z)=g(z)が成立し,Aのある集積点がDに含まれるならばD全体でf=gである。"というものです。

 

一応これも証明しておきましょう。 

(証明)仮定によって,Aのある集積点がDに含まれるので,αをα∈DなるAの集積点とします。

 

 αに収束するAの点列{zn}n=1,2,..⊂Aが存在して,φ≡f-gとおくとφ(zn)=0 (n=1,2,..)が成立します。

 

 φはDで正則ですから,その連続性によってφ(α)=limn→∞φ(zn)=0 です。しかし,"D全体では,φ≠0 である,つまり,φ(z)≠0 なるz∈Dが存在する。"として矛盾を導きます。

ここでφ(n)(α)=0 (n=0,1,2,..)である場合を考えます。

 

そしてある任意の点ζDを選びζとαをD内の折れ線Cで結びます。Dは領域ですから開集合であり,それ故,Cの点はすべてDの内点ですが,CはDの有界閉集合なのでコンパクトです。つまりCの有限個の点を中心としてDに含まれる有限個の開近傍の集合で閉曲線Cを被覆することができます。

 

したがって折れ線Cと境界∂Dとの距離をd≡inf{|ζ1-ζ2|:ζ1∈C,ζ2∈∂D}とすると,これはゼロではなくて正:d>0 です。

 

ここで,C上に十分多くの有限個の点α=z0,z1,..,zp-1,zp=ζを取って,|zj+1-zj|<d (j=0,1,2,..,p-1)が満たされるようにします。そして,Δ≡{z∈:|z―zj|<d}(j=0,1,2,..,p-1)と置きます。

円Δ0:|z-α|<d内ではz∈Dとなるので,そこでφは正則です。それ故,φを展開しφ(z)=Σn=0n(z-α)nとすれば,全てのnについてan=φ(n)(α)/n!=0 と書けるので,Δ0内ではφ=0 です。

 

したがって,z1∈Δ0でも全てのnについてφ(n)(z1)=0 (n=0,1,2,..)となります。

同様に,円Δ1:|z-z1|<d内でφを(z-z1)のベキ級数に展開することでΔ1内ではφ=0 を得ます。

 

それ故,z2∈Δ1でφ(n)(z2)=0 (n=0,1,2,..)が得られます。これを繰り返していって,結局Δp-1でφ=0 となり,ζ=zp∈ΔP-1なのでφ(ζ)=0 を得ます。

 

ζはD内の任意の点であると仮定していましたから,結局φ(n)(α)=0 (n=0,1,2,..)である場合にはD全体でφ=0 である,という結論が得られます。

一方,Dで恒等的にφ=0 というわけではなくて,αは正則関数φの単なる零点であるとするならばφ(k)(α)=0(k=0,1,...m-1),φ(m)(α)≠0 となるある正の整数mが存在するはずです。このときαはφのm位の零点である,あるいはmは零点αの位数であるといいます。

 

そして,φのαの近傍Uでの展開はφ(z)=Σn=mn(z-α)n=(z-α)mΣk=0m+k(z-α)k;am≠0 となりますからψ(z)≡Σk=0m+k(z-α)kとおけばψ(z)はαの近傍Uで正則であってψ(α)≠0 であり,φ(z)=(z-α)mψ(z)と書けます。

ところでφ(α)=0 となることはわかっていて,φ0 と仮定したので,ある正の整数mが存在してαの近傍Uで正則かつψ(α)≠0 なるψを用いてφ(z)=(z-α)mψ(z)と表わせます。

 

そして,十分大きいnに対しzn≠αはUに含まれますから,φ(zn)=(zn-α)mψ(zn)=0 です。

 

よって,十分大きいnでψ(zn)=0 が成立します。

したがって,ψの連続性によってψ(α)=limn→∞ψ(zn)=0 となりますから,これはψ(α)≠0 に矛盾します。

 

要するに,収束する点列の上で正則関数φの値が常にゼロというのは,φのあらゆる導関数もまたゼロなることを意味しているわけです。

 

したがって,D全体でφ=f-g=0 :つまりf=g,あるいはfとgが一致するという定理の結論が得られました

 

(証明終わり)

しかし,私が学生時代に初めて大学で函数論を履修したときに代数学の基本定理の証明として教わったものは,もっと複雑なルーシェの定理によるもので,講義を受けたその場ですぐには理解できませんでした。

「Dをの有界領域としfをD上の正則関数,CをD内で1点にホモトープな閉曲線でその上にはfの零点はないものとする。gをD上の正則関数でC上で|g(z)|<|f(z)|と仮定する。このときCの囲むfの零点の個数と(f+g)の零点の個数は等しい。」というのがルーシェの定理です。

 

これの証明に取りかかる前にそのために必要な予備知識や補助的定理などについて考察します。

 まず,有理型関数というものを定義します。

 

 "Dをの領域とする。D内では特異点を持っても極に過ぎないような関数をD上の有理型関数と呼ぶ。"というものです。 

そして,α∈とρ1<ρ2≦∞ に対し円環領域:R(α;ρ12)≡{z∈:ρ1<|z-α|<ρ2}の上でfが正則関数であるとします。

 

このとき,fはR(α;ρ12)においてf(z)=Σn=-1-∞n(z-α)nΣn=0n(z-α)nΣn=-∞n(z-α)nと展開されます。

 

この展開をfのローラン展開(Laurent expantion)と呼びます。

 

この級数の収束は絶対かつ広義一様収束です。

これを証明するために,z∈R(α;ρ12)を任意に取りρ1',ρ2'をρ1<ρ1'<|z-α|<ρ2'<ρ2となるように取ります。また,ρ>0 をρ<d≡inf{|z-ζ|:ζ∈∂R(α;ρ12)}なる値に取ります。

そして点α+ρ1'ei(argz)からαを中心として半径ρ1'の円を反時計回りに一周する曲線をC1,α+ρ1'ei(argz)から,α+(|z-α|-ρ)ei(argz)へ向かう線分をC2,α+(|z-α|-ρ)ei(argz)から時計回りにα+(|z-α|+ρ)ei(argz)まで半周する曲線をC3,α+(|z-α|+ρ)ei(argz)からα+ρ2'ei(argz)に向かう線分をC4,α+ρ2'ei(argz)から半径ρ2'の円を反時計回りに一周する曲線をC5,α+(|z-α|+ρ)ei(argz)から時計回りにα+(|z-α|-ρ)ei(argz)まで半周する曲線をC6とします。

このとき,R(α;ρ12)-{z}内でC≡-C1+C2+C3+C4+C5-C4+C6-C2は1点にホモトープなので,∫Cdζ[f(ζ)/(ζ-z)=0 です。

 

それ故,f(z)={-1/(2πi)}∫C3+C6dζ[f(ζ)/(ζ-z)]={-1/(2πi)}∫C1dζ[f(ζ)/(ζ-z)]+{1/(2πi)}∫C5dζ[f(ζ)/(ζ-z)]です。

1上では|(ζ-α)/(z-α)|<1で,-1/(ζ-z)=-1/{(ζ-α)-(z-α)}={1/(z-α)}[1/{1-(ζ-α)/(z-α)}]=Σn=0(ζ-α)n/(z-α) n+1ですから,f(ζ)/(ζ-z)=Σn=0(ζ-α)nf(ζ)/(z-α)n+1です。

 

それ故,{-1/(2πi)}∫C1dζ[f(ζ)/(ζ-z)]=Σn=-1-∞[{-1/(2πi)}∫C1dζ(ζ-α)-n-1f(ζ)](z-α)nとなります。

同様にC5上では|(z-α)/(ζ-α)|<1ですから,{1/(2πi)}∫C5dζ[f(ζ)/(ζ-z)]=Σn=0[{1/(2πi)}∫C5dζ(ζ-α)-n-1f(ζ)](z-α)nとなります。

そして,(ζ-α)-n-1f(ζ)は∀ζ∈R(α;ρ12):ρ1<|ζ-α|<ρ2なるζに関して正則ですから,∫C1dζ(ζ-α)-n-1f(ζ)=∫C5dζ(ζ-α)-n-1f(ζ)です。

 

よって,全ての整数nに対してan≡∫|ζ-α|=ρdζ(ζ-α)-n-1f(ζ);ρ1<ρ<ρ2の値はρの取り方に依らないことになります。つまりanはwell-definedになります。

そしてこの展開係数anによって,fは確かにR(α;ρ12)でローラン展開されてf(z)=Σn=-1-∞n(z-α)nΣn=0n(z-α)nΣn=-∞n(z-α)nと表現されることがわかりました。

そこで"f(z)がD上の有理型関数である。"というのは∀α∈Dについて,αを除くαの近傍でのfのローラン展開f(z)=Σn=-∞n(z-α)nにおいて,n<0 についてan≠0 なるものが有限個しかないこと,つまりαが高々m位の極であって,f(z)=Σn=-mn(z-α)n=a-m/(z-α)m+a-m+1/(z-α)m-1+..+a0+..と表わされることを意味します。

このときローラン展開の展開係数a-1を特にfのαでの留数と呼びRes(α;f)と書きます。

 

そして,ρ>0 が十分小さいときには実際に級数を項別積分すると{1/(2πi)}∫|ζ-α|=ρf(ζ)dζ=a-1となるので,Res(α;f)={1/(2πi)}∫|ζ-α|=ρf(ζ)dζが成立します。

特異点αが無限遠点=∞ のときには,z~≡1/zとおいてfのローラン展開をf(z)=Σn=-∞nnΣn=-∞-n~n ≡f~(z~)と置き,fの ∞ での留数をRes(∞;f)=-a-1={1/(2πi)}∫|1/ζ|=ρf(ζ)dζ={1/(2πi)}∫|1/ζ|=ρf~(1/ζ)d(1/ζ)で定義します。

αが1位の極のときには,Res(α;f)=limz→α(z-α)f(z)によって,具体的にfのαでの留数を求めることができます。

 

また,αがm位の極(m≧2)のときには,Res(α;f)={1/(m-1)!}[(dm-1/dzm-1)(z-α)mf(z)]z=αによって,fのαでの留数が求められます。

ここで,D上の有理型関数f(z)に対して対数微分(df/dz)/f=d(logf)/dzを考えると,α∈Dがfの零点でも極でもないなら,(df/dz)/fはα∈Dで正則です。

しかし,α∈Dがfのm位の零点なら,α≠∞ のとき,f(z)=Σn=mn(z-α)n,df/dz=Σn=mnan(z-α)n-1なので,(df/dz)/f=m/(z-α)+Σn=0n(z-α)nと表わせます。

 

よって,Res(α;(df/dz)/f)=mです。同様にα=∞ のときにもRes(∞;(df/dz)/f)=m を得ることができます。

また,α∈Dがfのp位の極ならα≠∞ のとき,f(z)=Σn=-pn(z-α)n,df/dz=Σn=-pnan(z-α)n-1なので,Res(α;(df/dz)/f)=-pです。同様にα=∞ のときも,Res(∞;(df/dz)/f)=-pを得ます。

それ故,CをD内で1点にホモトープな閉曲線であって,その上にはfの零点も極もないとき,Cが囲むDの領域内にfのmν位の零点αν(ν=1,2,..), およびpμ位の極βμ(μ=1,2,..)があるとすれば,{1/(2πi)}∫C(df/dz)/{f(z)}dz=Σmν-Σpμと表わすことができます。

さらに,d(logf)=(df/dz)/{f(z)}dzより,{1/(2πi)}∫C(df/dz)/{f(z)}dz={1/(2πi)}[(logf)]C=[argf]C/(2π)ですから,この積分はzが閉曲線Cをまわるときの"fの偏角:argfの変化を(2π)で割ったもの=回転数"を表わしていると考えられます。

さて,ルーシェの定理="Dをの有界領域としfをD上の正則関数,CをD内で1点にホモトープな閉曲線でその上にはfの零点はないものとする。

 

gをD上の正則関数でC上で|g(z)|<|f(z)|と仮定する。

 

このとき,Cの囲むm位の零点をm個と重複して数えると,fの零点の個数と(f+g)の零点の個数は等しい。"ことを証明します。

(証明)f,gはD上の正則関数なので,fも(f+g)もCの囲む領域に零点は持っていても極を持つことはありません。

 

m位の零点をm個と重複して数えたときのfの零点の総数をMとすると,(f+g)の零点の総数M'はM'={1/(2πi)}∫C{(f'+g')/(f+g)dz={1/(2πi)}∫C[(f'/f)+(g/f)'/{1+(g/f)}]dz=M+{1/(2πi)}∫C[(g/f)'/{1+(g/f)}]dz=M+{1/(2πi)}∫C(h'/h)dzとなります。ここでh≡{1+(g/f)}とおきました。

ところが,C上で|g/f|<1ですから,|1+(g/f)|≦1+|g/f|<2,かつ|1+(g/f)|≧1-|g/f|>0です。したがって,h={1+(g/f)}はC上に零点も極も持ちません。

またC上で|1-h|<1ですから,点1からhまでの距離は常に1より小さいことになります。そこでzがC上を1回転するときhがloghの分岐点h=0 のまわりを回転することは決してありません。

 

それ故,∫C(h'/h)dz=0 です。

 

以上から,結局M'=Mであることが示されました。

 

(証明終わり)

そこで,zのN次多項式f(z)=a0+a1z+..+aNN=Σn=0Nnn (0,N≧1) が任意に与えられたとき,(z)=aNN+g(z) (0,N≧1)とおけば,正則関数NN はN位の零点としてz=0 があるだけなのでNNの零点の総数はNです。

 

そしてルーシェの定理の閉曲線Cを円:|z|=Rに取れば,Rが十分大きいときにはC上で|(z)|<|NN|ですから,この定理によって任意のN次多項式は丁度N個の零点を持つことが結論されます。 

 参考文献:野口潤次郎 著「複素解析概論」(裳華房);岸 正倫,藤本担孝 共著「複素関数論」(学術図書);Benjamin Fine,Gerhard Rosenberger 著(新妻弘,木村哲三 訳)「代数学の基本定理」(共立出版) 

 

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2007年6月 7日 (木)

フックス関数の理論(2)(ポアンカレの理論)

 続きです。2つ目の初期論文です。

同じフックス群に対応し,正の整数mの値が同じである2つのテータフックス関数の比F(z)はzの1価関数であって,F(zKi)=F(z)が成り立つ。

 

故に,前に与えた定義からF(z)は1つのフックス関数である。

 

つまり,定数a,b,c,dの無数の値に対して,恒等的にF([(az+b)/(cz+d)]=F(z)が成り立つ。

 私(Poincare')は次の2つの定理を証明する。

 

1°同じ群に属しその定義の結果として生ずるもの以外には真性特異点を持たない2つのフックス関数の間には代数的関係が存在する。

 

※(注1)基本領域が基本円の上に集積する結果としてフックス関数は基本円上に真性特異点を持ちます。定義の結果として生ずる真性特異点とはこれを指しています。

 

 以下,このようなもの以外には真性特異点を持たないフックス関数を2つ取るとそれらは互いに他の代数関数になっているという意味です。(注1終わり)※

  

2°全てのフックス関数F(z)は次のようにして代数関数を係数とする線型方程式を積分することができる。

 

 すなわち,もしx=F(z),y1(dF/dz)1/2,y2=z(dF/dz)1/2と置くなら,y1,y2は微分方程式:d2/dx2=yφ(x)を満足し,φ(x)は代数関数である。

※(注2)y1,y2を解とする2階線形常微分方程式は,det(,',")=0 ,すなわち,y"-[(y12"-y1"y2)/(y12'-y1'y2)]y'+[(y1'y2"-y1"y2')/(y12'-y1'y2)]y=0 で与えられます。

 

 t(y,y1,y2),'≡d/dx,"≡d2/dx2です。

 今,x=F(z),y1(dF/dz)1/2,y2=z(dF/dz)1/2と置けば,具体的に,1'=(dF/dz)-3/22/dz2,y2'=(dF/dz)-1/2(z/2)(dF/dz)-3/22/dz2,

 

 そして,y1"=-(3/4)(dF/dz)-7/2(d2/dz2)2(1/2)(dF/dz)-5/23/dz3,y2"=-(3z/4)(dF/dz)-7/2(d2/dz2)2(z/2)(dF/dz)-5/23/dz3と計算されます。

 

 それ故,12'-y1'y2 1,y12"-y1"y2 =0,y1'y2"-y1"y2'=-[(1/2)(dF/dz)-33/dz3(3/4)(dF/dz)-4(d2/dz2)2]です。

 すなわち,方程式はy"-[(1/2)(dF/dz)-33/dz3(3/4)(dF/dz)-4(d2/dz2)2]y=0 となります。

 

  故に,φ(x)≡[(1/2)(dF/dz)-33/dz3(3/4)(dF/dz)-4(d2/dz2)2]={1/(2F’2)}{F,z} (z=F-1(x))と定義すれば,d2/dx2=yφ(x)が満足されます。

 そして,Fはフックス関数なので,それの属する任意の変換をz→z1(az+b)/(cz+d)とし,F(z)のzに関する1階,2階,3階導関数を,それぞれF',F",F(3)と書けば,F(z1)=F(z),F'(z1)dz1/dz=F'(z),F"(z1)(dz1/dz)2+F'(z1)d21/dz2=F"(z),F(3)(z1)(dz1/dz)33F"(z1)(dz1/dz)(d21/dz2)2+F'(z1)d31/dz3=F(3)(z)となります。

これらの式から,具体的計算を行なうことにより,xの関数φ(x)≡φ(F(z))≡[(1/2)(F'(z))-3(3)(z)-(3/4)(F'(z))-4(F"(z))2]について,φ(F(z1))=φ(F(z))が成立することを陽に導くことができます。

 

故に,φ(x)≡φ(F(z))はzのフックス関数です。

 

x=F(z)もフックス関数なので,φ(x)はxの代数関数です。

つまり,φ(x)≡φ(F(z))はx=F(z)の関数であって,F(z)はフックス関数ですから,F(z1)=F(z)が成立します。

 

それ故,φ(F(z))=φ(F(z1))となるのは自明なことであって,そもそも具体的計算で証明することなど不要ではないかと思われます。

 

しかし,x=F(z)は一般にzの1価関数であるかどうかもわかっていないので,φ(F(z))=φ(F(z1))が成り立つことは必ずしも自明であるとはいえないわけです。

 

実際,y1(dF/dz)1/2,y2=z(dF/dz)1/2もx=F(z)の関数ですが,こちらの方は明らかにzについて1価関数ではなく,(z)=0 なるz(F(z)の零点)に分岐点を持ちます。

 したがって,x=F(z)がたとえzの多価関数であっても,F(z)がフックス関数でありさえすれば,φ(x)≡φ(F(z))の方は必ずフックス関数になるというのが,上の具体的証明の内容であることを述べているのだろうと思います。

 

 まだ,複素関数の多価性を表わすモノドロミー群が登場していませんから,これとフックス群の準同型な関係についての議論などは示されていないので,上に述べたことは「フックス関数であることと1価関数であるということは同値である。」ことを示唆していると思われます。

「φ(x)≡φ(F(z))はzのフックス関数です。x=F(z)もフックス関数なのでφ(x)はxの代数関数になります。」と書きました。

 

これはポアンカレが証明したと称している「1°同じ群に属しその定義の結果として生ずるもの以外には真性特異点を持たない2つのフックス関数の間には代数的関係が存在する。」という命題を認めて,これを用いた結果です。(注2終わり)※

例えば,特に方程式を,(1)d2/dx2=y[(1/α21)/4x2(1/β21)/{4(x-1)2}+(1+1/γ21/α21/β2)/{4x(x-1)}]とする。

 

ここに,α,β,γは有限または無限の正の整数で,1/α+1/β+1/γ<1とする。zがこれの積分の比(つまりこれの解の比)なら,x=f(z)とするとf(z)は群(α,β,γ)に関するフックス関数である。

この関数は基本円の内部でしか存在しない。そして次の2つのテータフックス関数の比とみなされる。

 

(df/dz)/[{f(z)}{f(z)-1}],および(df/dz)(z)/[{f(z)}{f(z)-1}],m,p,qは次の不等式を満たす整数である。

 

1-p/m≧1/α,1-q/m≧1/β,(p+q-1)/m-1≧1/γ。この不等式は同時に成立可能である。

基本円の内部でしか存在しないこれら2つのテータフックス関数はこの円の内部で正則である。α=β=γ=∞ならば,(1)はsinamxの周期をそのモジュラーの平方の関数として定める方程式に帰着する。

 ※(注3)(1)は超幾何微分方程式と本質的には同じものです。

 

 一般に2階線形常微分方程式:u"+p(x)u'+q(x)u=0 に対して変換u=exp{-(1/2)∫p(x)dx}yを行なうと,y"=[p'(x)/2+p(x)2/4-q(x)]yと変換されます。

そこで,特に超幾何微分方程式x(x-1)u"+[(a+b+1)x-c]u'+abu= 0 ,すなわちu"+[c/x+(a+b-c)/(x-1)]u'+[ab/{x(x-1)}]u=0 を取ります。

 

上で与えた変換:u=x-c/2(x-1)-(a+b-c)/2yを行なって,さらに|1-c|=1/α,|c-a-b|=1/β,|a-b|=1/γと置けば,(1)d2/dx2=y[(1/α21)/4x2(1/β21)/{4(x-1)2}+(1+1/γ21/α21/β2)/{4x(x-1)}]が得られます。

変換u→yの形から見て,(1)の2つの解の比とそれに対応する超幾何微分方程式の解の比は全く同じなのでzは超幾何方程式の解の比と考えてよいと思われます。

 

また,α,β,γは各特異点における決定方程式の根の差の絶対値の逆数なので,シュワルツの研究において現われたm,n,pに相当します。

 

そこでは,既にシュワルツの研究を通じて,x=f(z)がフックス関数になるための条件はα,β,γが全て正の整数で1/α+1/β+1/γ<1であることを見たし,それに対応するフックス群が(α,β,γ)であることも見ました。

 すなわち,ポアンカレはここでもシュワルツが既に得ていた結果を彼の名に触れることなく述べています。 

 Kをフックス群の任意の元とすれば,f(z)がフックス関数ならf(zK)=f(z)ですが,両辺をzで微分するとf'(zK)d(zK)/dz=f'(z)より,[f'(zK)][f'(z)][d(zK)/dz]-mを得るので[f'(z)]は1つのテータフックス関数です。

 

 そして,(z)がフックス関数なのでf'(z)をdf/dzと書いて(df/dz)/[{f(z)}{f(z)-1}],(df/dz)(z)/[{f(z)}{f(z)-1}]もやはりテータフックス関数です。

 

 そして,f(z)はこれらの比として得られます。

 条件:1-p/m≧1/α,1-q/m≧1/β,(p+q-1)/m-1≧1/γは,これらのテータフックス関数が基本円の内部で正則になることを保証する条件です。

 

 実際zとf(z)の対応は,(1)の特異点であるx= 0,1,∞ を除けば,局所的に1対1正則なので,群の基本領域の頂点以外では正則です。

 

 zは微分方程式の2つの解の比なので,zの選び方はいろいろありますがどれを選んでも結論は同じです。

 

 そこで,特にf(0)=0 となるようにzを選べば,その近傍でz=x1/α(1+..);(ただし'..'は定数項を含まないxのベキ級数)と書けるため,x=f(z)=zα(1+..)となります。

 

 これから,(df/dz)=α(α-1)(1+..),よって(df/dz)/[{f(z)}{f(z)-1}]=(定数)×z(α-1)-pα(1+..),(df/dz)(z)/[{f(z)}{f(z)-1}]=(定数)×z(α-1)-pα+α(1+..)が得られます。

 m,α,pは正整数なので,これらがz=0 で正則であるための条件として,m(α-1)-pα≧ 0 ,すなわち,1-p/m≧1/αを得ます。

 

 同様に,x=f(z)=1,およびx=f(z)=∞ の近傍で,それぞれf(0)=1,f(0)=∞ となるようにzを選んで,z=1,およびz=∞でのx=f(z)の正則条件から,1-q/m≧1/β,および(p+q-1)/m-1≧1/γを得ることができます。

 最後に,sinamxと書いてあるのは,現在ではsnxという記号で示される関数のヤコービの記号です。

 

 既にガウスの項で示したように, snx=sinamxは,∫0xdx/{(1-x2)(1-k'22)}1/2の逆関数です。

 これにおけるモジュラスをkとすると,K=∫01dx/{(1-x2)(1-k22)}1/2(π/2)F(1/2,1/2,1;k2),K'=∫01dx/{(1-x2)(1-k'22)}1/2(π/2)F(1/2,1/2,1;k'2)となります。

 

 そこで,ξ≡k2と置けば,snxの2つの周期:4K,2iK'はa=b=1/2,c=1 に対応する超幾何微分方程式:ξ(ξ-1)u"+(2ξ-1)u'+u/4=0 の解となります。

 

 このとき,1/α=|1-c|=0, 1/β=|c-a-b|=0, 1/γ=|a-b|=0 となりますから,α=β=γ=∞です。

 

 最後の文章はこのことを述べています。(注3終わり)※

 私は,次に私が1879年11月にアカデミーに提出する栄を得たノートの中で定義した数論的な不変式をテータフックス関数に帰着させる。

(z)を任意のフックス関数とし,x=F(z)と置く。

 

zの1価関数の系:θ1(z),θ2(z),..,θn(z)で,これから行列式 det(dα1θ/dxα1,dα2θ/dxα2,..,dαnθ/dxαn) (θ(z)≡t1(z),θ2(z),..,θn(z)))を作ったときに,α12,..,αnがどんな整数であっても,これがフックス関数であるようなものをゼータフックス関数の系と呼ぶ。 

 θ12,..,θnが,それらをx=F(z)の関数と見たときに係数がxの代数関数であるような1つの線形微分方程式を満たすことは明らかである。

※(注4)θ12,..,θnの任意の線形結合を一般解に持つ線形常微分方程式は行列式の等式 det(,',",..,(n))=0 で与えられます。

 

 ここで,t(y,θ12,..n),'≡d/dx,"≡d2/dx2,..,(n)≡dn/dxnです。

 

 したがって,θ12,..,θnがゼータフックス関数の系としての性質を持つならば,この線形微分方程式の係数は全てzのフックス関数になります。一方,x=F(z)もフックス関数ですから,1°によって微分方程式の係数はxの代数関数であるということになります。(注4終わり)

 私は,無数のゼータフックス関数を作ることができることを証明し,それにいろいろな級数による表現を与える。

 

 そして,これらは無数の微分方程式,とりわけ有限の範囲に2つ,無限遠に1つの特異点を持つ有理関数の線形微分方程式の全てを積分することができる。 

 1つの特別な応用を与える。 

 K,K'が楕円関数の周期でωがそれのモジュラスであるとする。

 

 φは,ω=φ[(K+K'√-1)/(K-K'√-1)]で定まる関数とする。そして,x=0,x=1,x=∞ に特異点を持つ有理係数の線形微分方程式があるとする。x=φ(z)と置き,この微分方程式の積分をθ1(z),θ2(z),..,θn(z)とする。

 

 このとき,φ(z)はフックス関数でθ12,..nはゼータフックス関数である。これらは基本円の内部でしか存在しない。これらはこの円の内部で正則で,したがって常に整級数で表わされ.その係数は容易に計算できる。 

 要するに,楕円関数がその特別の場合であるような極めて広い関数のクラスが存在する。

 

 これらの関数は多数の微分方程式を積分することができる。

 

 いろいろな性質がこの関数と楕円関数の類似を,そしてテータフックス関数,およびゼータフックス関数と関数Θ,およびΖとの類似を顕著にしている。 

 ※(注5)(φは楕円モジュラー関数であって,これは超幾何微分方程式ω(ω-1)u"+(2ω-1)u'+u/4= 0 (ただしu'=du/dω,u"=d2/dω2)の解の比の逆関数として得られるフックス関数であり,それの属するフックス群は群(∞,∞,∞)です。

 

 このことから,上に述べられていること,すなわち,0,1,∞のみに特異点を持つ有理係数の全ての線形微分方程式が,フックス関数φ(z)とゼータフックス関数θ1(z),θ2(z),..,θn(z)を用いてx=φ(z),y=c1θ1(z)+c2θ2(z)+,..,+cnθn(z) (c1,c2,..,cnは任意定数)のような形に積分できることが証明できます。

 

 これについての詳しい説明は,いずれ後の主論文で与えられます。

 なお,Θ,およびΖはヤコービの記号で,現在の記法ではθ,およびζに相当します。(注5終わり)※

 ところで,本文の中で「これらの関数が微分方程式を積分する。」という表現がありますが,これは「これらの関数が微分方程式の解になる。」という意味であると考えられます。 

 これで,ポアンカレ(Poicare')の項の第1章が終わり,以下は本論の第2章へと続きます。

 

 ここまでを退院前日の4/21(土)PM4:04 に読了し,一応ノルマと課していたフックス関数の理論での序論の部分を全て読んで理解し終えたので,これで満足して病院での読書を全て終わりにし,翌日4/22(日)のAM9:30ごろに無事退院しました。

その後,自宅にてポアンカレの第2章フックス群の理論に入ったのは退院してから1週間以上を経た4/30(月)のことでした。

 

気紛れな私は,やはり退院してからは入院中のような情熱は失せてしまったようです。

 

 以後はこの本については数ページしか読み進んでいません。したがって,この続きがブログ記事になるのは,かなり先のことになるかもしれません。※

参考文献:斎藤利弥 著「線形微分方程式とフックス関数I(ポアンカレを読む)」(河合文化教育研究所)

 

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2007年6月 6日 (水)

ポアンカレに関する1つの挿話

コーヒーブレイクとして,フックス関数の研究の際にポアンカレに生じた精神的変化に関する興味深い話題を述べてみようと思います。

既に記したように,ポアンカレは1880年5月にフックスの論文を入手し,それに刺激されてわずか1ヶ月足らずの間にコンクール論文を書き上げました。

しかしその内容はかなり未熟でした。

 

すなわち,2階線形微分方程式の2つの解f(x),φ(x)の比z=f(x)/φ(x)の逆関数x(z)がz平面全体で1価有理関数となるケースのみを考え,実は理論の中に有理関数と楕円関数は含まれていますが,肝心のフックス関数が含まれていませんでした。

ところが1881年になって投稿された彼の論文を見ると,この時には既にポアンカレはフックス関数の全貌をほぼつかんでいます。

このようなポアンカレの精神の中に起こった劇的な変化を説き明かす1つの興味深い挿話,つまり科学者,数学者としての発見のプロセスにおけるひらめきの瞬間がどのように訪れたのか?ということについての挿話を,彼自身がパリでの講演の中で語ったのですが,これは彼の著書「科学と方法(1908)」の中で読むことができます。

「2週間にわたって私は自分が後にフックス関数と名付けたものと類似の関数は存在しないということを証明しようと努力していた。

 

その頃私は全く無知だったのである。...(中略)....

 

ある晩,私は習慣に反してブラックコーヒーを飲み,眠ることができなかった。いろいろな考えが群をなして押し寄せてきた。

 

私はこれらが互いにぶつかり合い,遂にそのうちの二つが互いに引っ掛かり合って,いわば安定な組合わせを作るのを感じた。

 

朝になったとき,私は超幾何級数から導かれるフックス関数の1つのクラスの存在を証明できた。私はその結果を書き上げるだけでよく。。

次に私はその関数を2つの級数の比として表わそうと思った。

 

このアイディアは完全に意識的で熟考を経たものであった。楕円関数との類推が私を導いてくれた。私はそのような級数がもし存在すればそれはどんな性質のものでなければならないかを自問し,何の困難もなく,私がテータフックス級数と名付けた級数を作ることができた。

この頃私は....地質調査旅行に加わった。

 

旅行中の環境が私に数学の仕事を忘れさせた。..乗合馬車に乗った。その階段に足を掛けたとき,それまでそのことについて心の中に何の準備もしていなかったのに,一つの考えが浮かんできた。

 

それはフックス関数を定義するのに用いられた変換が非ユークリッド幾何の変換と同一のものだということであった....私はカアンに帰ってから良心をなだめるためにそれをゆっくりと検証した。

次に私はある数論の問題の研究を始めたが....うまくいかないのに嫌気がさして,私は海岸で数日を過ごし全く別のことを考えていた。

 

ある日,崖に沿って歩いていたとき,一つの考えがいつもと同じような独特の簡潔さ,唐突さ,そして間髪を容れない確実さをもって浮かんできた。それは三元不定値二次形式の数論的変換は非ユークリッド幾何の変換と同じものだということである。

....この二次形式の例は私に超幾何級数に対応するもの以外にもフックス群が存在することを教えてくれた。...」

初期の2つの論文に述べられている理論が,どのようにしてポアンカレの頭の中に形を成していったかを,この文章は生々しく伝えてくれています。

 

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2007年6月 5日 (火)

フックス関数の理論(1)(ポアンカレの登場)

連載記事の続きです。1880年代に入って,ついに舞台に天才ポアンカレ(Poincare')が登場します。

1880年1月フランスの科学アカデミーは次の課題の下に懸賞論文を募りました。:「1独立変数の線形微分方程式の理論を何らかの重要な点において改良すること。」

当時25歳の新進数学者ポアンカレはこれに応募し3月22日に1編の論文をアカデミーに投稿しました。

 

しかしその後5月1日に彼はフックス(Fuchs)の1論文を入手しました。これは既にフックスの項で述べた内容の論文です。

 

そしてポアンカレはこの論文から,線形微分方程式の解の一意化という重要なアイディアを思いつきました。

そこで彼は投稿論文のテーマを急遽これに切り替えて5月末までに新論文を書き上げ,前に投稿した論文を撤回して,この新論文をアカデミーに送りました。

 

これは6月1日に受理されています。これが"きっかけ"でした。

この論文は2つの部分から成立していますが,彼の研究の出発点として重要なのはその第2部です。

 

彼はその中で,適当な2階線形微分方程式の2つの解の比)z(x)を用いることにより,dn/dxn+φ1(x)dn-1/dxn-1+..+φn(x)v= 0 の解vをx=x(z),v=v(z)のような形に一意化する,というアイディアを初めて述べています。

以後,このテーマに関して立て続けに発表されたポアンカレの数十個の論文の中から,これに関する彼の理論の全貌が尽くされている重要な4つの論文について述べていきたいと思います。

 

しかし,その前に最も初期に発表された研究速報の初めの2つを読んでみます。これらの初期論文から彼がスタート時点で既に全理論の設計図を作り上げていたことがわかります。

以下,初期論文=研究速報,の内容です。 

zは複素変数で複素平面上の点で表わされる。

 

zをf1(z)に変える作用をK1,zをf2(z)に変える作用をK2とするときzK1=f1(z),zK2=f2(z),zK12=f2[f1(z)]と書くことにする。

原点を中心とする半径1の円を基本円と呼びzを(az+b)/(cz+d) (a,b,c,dは定数)に変えるような作用の群で基本円を不変に保つようなものを双曲線群と呼ぶ。

 

無限小作用,すなわちzを限りなく近くに写す作用を含まない群を不連続群と言う。

 

そして双曲線群に含まれる不連続群を全てフックス群と呼ぶ。フックス群の作用によって値が変化しないzの1価関数をフックス関数と言う。 

(注1)彼は基本円を単位円に限定していますが,別にそうである必要はありません。一定の円または直線を不変に保つ1次分数変換の群を双曲線群と呼ぶとしていいです。(注1終わり)

まず,全てのフックス群を作る必要がある。私(ポアンカレ)は非ユークリッド幾何学の助けを借りてこれを成し遂げたがそれについてはここでは述べない。

私は基本円の内部が次の条件を満たす無限個の領域R0,R1,..Ri,..に無数のやり方で分割できることを示した。

 

Ⅰ.これらの領域は基本円に直交する円に属する円弧を辺とする曲線多辺形である。

Ⅱ.iが何でもRi=R0iとなるような双曲線群の作用Kiが存在する。

 

ことを示した。

 

このような作用Kiの全体が双曲線群に含まれる不連続群,すなわちフックス群を作ることは明らかである。 

そして次の問題Ⅰを設定する。 

問題Ⅰ,無限個の領域R0,R1,..,Ri,..の最初のものR0が与えられた曲線多辺形となるように,この分割を作ることができるか? 

(注2)フックス群が与えられると,それに対応して基本円の内部が基本領域に分割されることは当然ですが,ここでポアンカレが設定しているのはこの逆の問題です。

 

  すなわち,基本円となるべき円が与えられ,それの内部がⅠ,Ⅱを満たすような円弧多辺形R0,R1,..に分割されていれば,それからKiの全体としてフックス群が作られるということです。

 

  そして問題Ⅰは最初の領域R0をどのように与えたらⅠ,Ⅱを満たすような分割ができるか?を問うています。(注2終わり)

1つの特別な例を取る。

 

基本円に直交する円に含まれる弧を辺とする2つの曲線三角形ABC,BCDを考える。

 

これらの三角形の頂角が∠BAC=∠BDC=π/α,∠CBA=∠CBD=π/β,∠BCA=∠BCD=π/γに等しいとする。

 

α,β,γは正の整数で1/α+1/β+1/γ<1 とする。基本円の内部を条件Ⅰ,Ⅱを満たす無数の領域R0,R1,..Ri,..に分けてR0が四辺形ABDCになるようにすることができる。

 

このような分割には,フックス群が対応する。それを群(α,β,γ)と呼ぶことにする。

(注3)この例は,正に,シュワルツ(Schwarz)が発見したものと同じです。そこでは,α,β,γはm,n,pと書かれており,上の条件はλ=1/m,μ=1/n,ν=1/pとして,λ+μ+ν<1 としていたものに相当します。

 

群(α,β,γ)は超幾何方程式のモノドロミー群から導かれます。したがって,この群はそれに準同型な1次分数変換に他なりません。

 

ポアンカレもシュワルツと同じく,超幾何微分方程式の解の比を考えることによってフックス群を発見したに違いないと思われます。

2階線形方程式の解の比の逆関数としてフックス関数を得るというのがポアンカレの着想であったことを思えば,彼がそうしたと見るのは全く自然です。

 

しかし,彼はシュワルツの名前には全然触れていません。つまり,この時点ではポアンカレはシュワルツの論文の存在を全く知らなかったわけで,後に交流のあったクライン(Klein)に教えられて初めてシュワルツの研究を知ったとされています。(注3終わり)

(ポアンカレ)は,一般の場合について問題Ⅰを解く。

 

そして如何にして全てのフックス群を作り,それに合理的な分類を与えることができるかを,2つの異なった見地から示す。

 フックス群の中に特に我々の注目に値するものがある。 

1°群(2,3,∞):これはa,b,c,dをad-bc=1であるような整数としてzを(az+b)/(cz+d)に変える作用の群と同型である。

 

2°整係数の不定値3元2次形式を不変にするような整係数の1次変換の群と準同型なある群

これらの存在によって,数論と今考えている解析的な問題とを結ぶ密接な関連が浮かび上がってくる。

 

(注4)1°に述べられている群:すなわちSL(2,)/{±}は実軸を基本円とするフックス群です。基本領域は,その頂角がπ/2,π/3,π/∞ の三角形を2つ合わせたものですから,(2,3,∞)と同型です。

 

  この群は通常,モジュラー群と呼ばれ楕円モジュラー関数は,この群あるいはこれの部分群に関するフックス関数です。

2°で述べられているフックス群は次のようなものです。整係数の不定値3元2次形式F(x,y,z)が F(x,y,z)=Y2-XZ, t(X,Y,Z)=At(x,y,z)で与えられるものとします。ただしAは要素が全て整数の3×3正方行列です。

 

整係数の1次変換t(x',y',z')=St(x,y,z)を行い,t(X',Y',Z')=At(x',y',z')としたとき,Y'2-X'Z'=Y2-XZが成り立つならばSを2次形式Fのと呼びます。そして,このようなS全体の群Gを作ります。

 

このとき,t(X',Y',Z')=Pt(X,Y,Z)で,Pは次の形を持つことがわかります。行列Pの成分表示をP=(pij)として,(p11,p12,p13)=(α2,2αγ,γ2),(p21,p22,p23)=(αβ,αδ+βγ,γδ),(p31,p32,p33)=(β2,2βδ,δ2),(ただし|αδ-βγ|=1)です。

そして,Sに1次分数変換z→(αz+β)/(γz+δ)を対応させると,このような1次分数変換の全体はGと準同型な群gを作り,gはフックス群です。

 

ポアンカレは2次形式Fに対する条件がフックス群gに対する条件として表わせることを後の論文で示していますが,上記の文章は彼がこの時点でこうした成果をある程度つかんでいたことを示しています。(注4終わり)

zの1価関数Θ(z)でKiをフックス群の任意の作用とするとき恒等的にΘ(zKi)=Θ(z){d(zKi)/dz}-m が成り立つものを,テータフックス関数と呼ぶ。mは任意の正の整数である。

 

言い換えると,ad-bc=1であるような無数のa,b,c,dに対し,恒等的にΘ[(az+b)/(cz+d)]=Θ(z)(cz+d)2mが成り立つようなものである。 

私は収束級数Σi=1(zKi){d(zKi)/dz}で定義されるテータフックス関数が無数に存在することを証明する。

 

ここにmは1より大きい整数でiはフックス群Gの作用,H()はzの有理関数とする。

次の2つの場合が起こり得る。

 

1°基本円の全ての点がΘ(z)の真性特異点である。このときは実際に2つの異なる関数が得られる。

  

1つは基本円の内部においてのみ存在し,もう1つは基本円の外部においてのみ存在する。

 

  なぜなら,一方から他方へ連続的に移ることができないからです

 

2°Θ(z)は基本円上に無数の真性特異点を持つ。しかしこれらの特異点は孤立していて関数は全平面で存在する。

  この関数は基本円の上を除けば常に有理型である。私はそれの異なる零点の数,および異なる無限大の数を数える方法を示す。

ここで初期の2つの論文のうちの1つが終わっているので今日はここまでにします。

参考文献:斎藤利弥 著「線形微分方程式とフックス関数I(ポアンカレを読む)」(河合文化教育研究所)

 

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2007年6月 2日 (土)

有限なモノドロミー群と代数関数解

ポアンカレ以前のシュワルツの項目で気になったことを補足しておきます。

すなわち,前記事までに次のような内容の事実が得られました。

 

超幾何微分方程式x(x-1)(d2y/dx2)+{(α+β+1)x-γ}(dy/dx)+αβy=0 の1次独立な解の比であるs関数z(x)の逆関数x(z)がzの1価関数となるための条件は,正の整数m,n,pが存在してλ=|1-γ|=1/m,μ=|γ-α-β|=1/n,ν=|α-β|と書けることです。

 

このとき,さらに,(ⅰ)λ+μ+ν=1/m+1/n+1/p>1 の場合,(ⅱ)λ+μ+ν=1/m+1/n+1/p=1 の場合,(ⅲ)λ+μ+ν=1/m+1/n+1/p<1 の場合に分けます。

 

それぞれの場合に,x(z)の定義域である∪T∈GTz(Π)の基本領域を構成するTz(Π+),Tz(Π-)に対応する円弧三角形の内角の和が(λ+μ+ν)πで与えられるということから判断すると,次のような幾何学との関係性が見て取れます。

 

すなわち,(ⅰ)がリーマン空間=楕円幾何学の空間,(ⅱ)がユークリッド空間=放物幾何学の空間,(ⅲ)がロバチェフスキー空間=双曲幾何学の空間に,それぞれ対応していることがわかります。

 

そこで,超幾何微分方程式の解についての議論は,非ユークリッド幾何学,あるいはユークリッド幾何学のような空間幾何学の分類と非常に密接な関係があるのではないか?ということに気が付きます。

ところで,(ⅰ)λ+μ+ν=1/m+1/n+1/p>1 の場合について既述したように,αを任意の複素数とすると,x(z)=αとなるzの値は各基本領域の中に1つずつしかありません。

 

そして,この場合はGは有限群であり,基本領域の総数が有限なのでz平面全体でx(z)=αとなるzの個数,複素数αに対する方程式x(z)-α=0 の解の個数は有限です。

 

このような1価関数x(z)は有理関数でしか有り得ないと結論されます。と書きましたが,実は書いた本人の私には,これは自明なこととは思えませんでした。

フックス群Gに対応するモノドロミー群が有限群のとき,または(ⅰ)λ+μ+ν=1/m+1/n+1/p>1の場合,s関数z(x)の逆関数で1価関数のx(z)に関し,任意の複素数αに対する方程式x(z)-α=0 の解の個数が有限個である。というところまでは問題なしです。

 

しかし,z(x)の逆関数で1価関数のx(z)に関し任意の複素数αに対する方程式x(z)-α=0 の解の個数が有限個なら,何故x(z)が有理関数でしか有り得ないのだろうか?という疑問が湧きました。

 

そこで,これを自分なりの方法で証明してみます。

まず,x(z)は1価関数なのでx(z)-αもそうです。

そこで,{x(z)-α}の零点は分岐点ではなく,零点の位数は全て正整数であるはずです。

 

そして,この根の重複度も含めてx(z)-α= 0 の解zの個数(基本領域の個数)をNとすると,{x(z)-α}はそれらの解を零点とするN次多項式fN(α,z)で割り切れて,x(z)-α=fN(α,z)g(α,z)と表現できるはずです。

 

すなわち,x(z)=α+fN(α,z)g(α,z)と表わせます。

(z)-αとfN(α,z)は共にzの1価関数ですから,g(α,z)もzの1価関数です。そしてあり,g(α,z)は特異点は持っても零点を全く持たない関数です。

ところで,z(x)は超幾何微分方程式の解であり,例えばx=0 の近傍ではz(x)=xλP(x)=x1/pP(x) (P(0)≠0でP(x)はx=0 の近傍で正則)という形をしています。

 

それ故,その逆関数"x(z)の特異点=g(α,z)"の特異点は真性特異点ではなく,しかもg(α,z)はzの1価関数ですから,これの特異点は全て極であり,それ故g(α,z)は有理型関数であることがわかります。

 

ちなみに,有理関数はもちろん有理型関数ですが,有理型関数が全て有理関数であるというわけではありません。

 

例えば,expzやsinzもz=∞を除けば,有理型関数ですが,もちろん有理関数ではありません。expzは整関数ですがz=∞ に特異点を持ち,それは極ではなくて真性特異点です。

 

これは,exp(1/x)がx=0 に真性特異点を持つというのと同じ意味で,特異点x=0 の周りのローラン展開の主要部がxの負の無限級数になる:つまり特異点x=0 を極と考えるならその位数が∞ になる,という意味です。

話を元に戻すと,有理型関数g(α,z)は零点を全く持たないので,{1/g(α,z)}は無限遠点を除いて特異点を全く持たないことからzの整関数です。

 

しかも,z=∞ に真性特異点を持たないことから,結局 1/g(α,z)はzの多項式であり,g(α,z)は1/(zの多項式)の形をしていることがわかります。

 

それ故,x(z)=α+fN(α,z)g(α,z)は1つの有理関数であることが証明されました。(以上)

 

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2007年5月31日 (木)

超幾何微分方程式の代数関数解(シュワルツ)(5)

前記事の続きです。

 

次に∪T∈GTz(Π)の構造を少し詳しく調べてみます。

(x)の1つの分枝を定め,それによるxの上半平面:Π+の像をx=0,1,∞ が頂点A,B,Cに対応する円弧三角形ABCとします。

 

z(x)をxの下半平面:Π-に解析接続するには,

  

 "(ⅰ)区間(-∞,0)を横切る経路に沿って接続する。(ⅱ)区間(0,1)を横切る経路に沿って接続する。(ⅲ)区間(1,∞)を横切る経路に沿って接続する。"

 

という3通りの方法があります。

 既に前記事で述べた通り,(ⅱ)を行なって得られるz(x)の分枝によって,下半平面Π-を写像するならば,その像は弧ABに関して円弧三角形ABCを反転した円弧三角形ABC'になります。

 全く同様に(ⅰ)によって接続すると下半平面Π-は円弧三角形ABCを弧ACに関して反転した円弧三角形AB'Cになり,(ⅲ)によるなら弧BCに関して反転した円弧三角形A'BCになります。

 以下,同様に各辺に関する反転を繰り返すことにより,z(x)のいろいろな分枝による上半平面Π+,下半平面Π-の像の円弧三角形の連鎖が得られ,各円弧三角形はその円弧でできた3辺の全てを他の3個の円弧三角形の1辺と共有し,全体として単連結な領域をなします。

 

 こうして作られた反転領域の全体がx(z)の定義域∪T∈GTz(Π)です。

 隣接した上半平面Π+の像,下半平面Π-の像を合わせたものを1組選ぶと,それはz(x)のある分枝によるx平面全体Πの像です。

 

 これを群Gによる保型関数x(z)の基本領域と呼びます。

 基本領域はGに関する1次分数変換Tによって,他の基本領域に移ります。なぜなら,1つおきに隣接したΠ+の像である円弧三角形は反転を2回行なうことで互いに移ることができるし,同じことはΠ-の像についてもいえます。

 

 そして,既に述べたように,偶数回の反転の合成は,それぞれが1つの1次分数変換になるからです。

 領域∪T∈GTz(Π)が如何なるものか?をさらに調べるために、シュワルツにしたがって次の分類を行ないます。

  

 (ⅰ)λ+μ+ν> 1,(ⅱ)λ+μ+ν= 1,(ⅲλ+μ+ν< 1 の3つの場合に分けて考察します。

(ⅰ)の場合:s関数z(x)として特に上半平面Π+の像である円弧三角形ABCで2辺AB,ACが共に直線分でBCが円弧となるものを取ってみます。

 

 そのようなs関数z(x)が存在し得ることは,既に見た通りです。この三角形の頂角は,それぞれλπ,μπ,νπなので,この場合には三角形の内角の和(λ+μ+ν)πはπより大きいわけです。

 

 したがってこの⊿ABCは凸三角形であり,円弧BCの中心OはBCを境にしてAと同じ側にありAは円Oの内部にあります。

 

 図を描けないので詳細を省いて結果だけ述べます。

 

 OAと垂直な円Oの弦を直径としAを中心としてB,Cを通る円Γを赤道とするような球面Σを作り,その北極点Nから立体射影によって⊿ABCを球面Σの上に射影したものを⊿A111とすると3つの弧A11,A11,B11はΣの大円の一部になります。

 ところで,一般に次のことが知られています。

 

 "γをz平面上の円として,それのΣ上への立体射影γ1がΣの大円であるとする。

 

 このときPをz平面上のある点で,P'をそれのγに関する反転とし,P,P'のΣ上への立体射影をP1,P1'とすると,P1とP1'とは大円γ1が定める平面に関して互いに対称である。"

 

という性質が成り立つことです。

 これによると,z平面上で⊿ABCをその1辺に関して反転した図形のΣ上への射影は弧A11,A11,B11はΣの大円の一部なので,三角形⊿A111を対応する辺に関して球面上で折り返したものとなります。

 

 したがって,それは球面三角形として⊿A111と合同な三角形であり,その3辺はやはりΣの大円の弧になっています。

 z平面上で⊿ABCから出発して辺に関する反転を次々に繰り返し,それをΣ上に射影するとΣは合同な球面三角形群に覆われます。

 

 しかしΣの全面積は有限であり,異なる球面三角形は辺を除いて重なる部分を全く持たないのですから,そうした球面三角形は有限個しかΣの上に載ることはできません。

 

 このことはGが有限群であることを示しており,それ故x(z)の定義域は有限個の基本領域の和で成立していることを意味します。

 Σ上の全ての点を,立体射影の逆写像でz平面上に引き戻すと,それはz平面全体ですから,結局z平面全体を有限個の基本領域が覆っていることになります。

 ところで,λ+μ+ν=1/m+1/n+1/p>1 となるような(m,n,p)の組み合わせは,実は次に挙げるものだけです。

 

 すなわち,(2,2,k),(2,3,3),(2,3,4),(2,3,5)だけです。

 

 これらに対応する群Gは多面体群と呼ばれる既知の群です。

 既述したように,αを任意の複素数とするとき,x(z)=αとなるzの値は各基本領域の中に1つずつしかありません。

 

 ところが,今の場合はGは有限群であり,基本領域の総数が有限なのでz平面全体でx(z)=αとなるzの個数,任意の複素数αに対して方程式x(z)-α=0 の解の個数は有限です。

 

 このような1価関数x(z)は有理関数でしか有り得ない,と結論されます。

(ⅱ)の場合:λ+μ+ν=1/m+1/n+1/p=1 となる正整数(m,n,p)の組み合わせは(3,3,3),(2,4,4),(2,3,6)だけです。

 s関数z(x)として上半平面Π+の像である円弧三角形の1つABCの2辺AB,ACが共に直線分となるように選ばれているとします。

 

 三角形の内角の和が(λ+μ+ν)π=πなので,円弧BCも実は直線分です。すなわち,⊿ABCは直線三角形でなければなりません。

 そして⊿ABCは,(m,n,p)=(3,3,3)のとき正三角形,(m,n,p)=(2,4,4)のとき直角二等辺三角形,(m,n,p)=(2,3,6)のとき,他の2角が60度,30度の直角三角形となります。

 

辺は全て直線分なので反転は対称な折り返しです。

 このとき基本領域は平行四辺形になり,基本領域をいくつか合わせた平行四辺形の各辺に対応する平行移動Gに属することになります。

 

 その平行四辺形の集合から成る定義域∪T∈GTz(Π)の上で,x(z)はこの平行移動に対して不変に保たれます。

 

 つまり,x(z)はトポロジー的には,この平行四辺形を周期平行四辺形とするトーラス,あるいは周期平行四辺形とする楕円関数です。

 楕円関数は超越関数ですから,(ⅱ)の場合には超幾何微分方程式の解は必ず超越関数を含み,したがって解が全て代数関数であるという場合ではありません。

(ⅲ)の場合:この場合もs関数z(x)として特に上半平面Π+の像である円弧三角形ABCで2辺AB,ACが共に直線分でBCが円弧となるものを取ります。

 

 (ⅰ)の場合とは逆に三角形の内角の和(λ+μ+ν)πはπより小さいので,⊿ABCの円弧BCの中心OはBCを境にしてAとは反対側にありAは円Oの外部にあります。

 

 Aから円Oに接線を引き,Aを中心としてAと接点を結ぶ線分を半径とする円を描けば,その円Γは明らかに直線AB,ACおよび円Oと直交します。

 すなわち⊿ABCの全ての辺と直交する円Γが存在します。

 

 そこで,この円Γを実軸に移す1次分数変換をTとして新しいs関数Tz(x)を考察します。

 

 この新しい関数Tz(x)を改めてz(x)と書けば1次分数変換は等角写像なのでΠ+のz(x)による像である円弧三角形の各辺は実軸と直交します。それ故,各辺はそれぞれ実軸上に中心を持つ円の弧です。

 このような円弧三角形を⊿ABCとし,例えば弧BCに関してこれを反転したものを⊿A'BCとします。

 

 弧BCの中心Oは実軸上にあり,その円の半径をrとすればPが実軸上の任意の点であるとき,OP・OP'=r2を満たす直線OP上の点P'はもちろん実軸上にあります。

 

 実軸の反転は元の実軸です。反転は角度を不変に保つので⊿A'BCの3辺もやはり実軸と直交する円弧,つまり,実軸上に中心を持つ円の円弧です。

 したがって,z平面上で⊿ABCから出発して辺に関する反転を次々に繰り返して得られる三角形の各辺は全て実軸と直交する円であり,実軸は実軸に移されます。

 Gに属する1次分数変換Tは全てこのような反転を偶数回合成すれば得られるので,∀T∈Gも実軸を実軸に移します。したがってこのようにz(x)を選んだ場合にはGの要素は全て実係数の1次分数変換で表わせるはずです。

 今,s関数z(x)の分枝の選び方によって⊿ABCがz平面の上半部にあったとします。

 

 全ての反転が実軸上に中心を持つ円に関して行なわれるので,反転をいくら繰り返しても作られる三角形は全てzの上半平面に含まれる故,Gの基本領域は全てzの上半平面に属することになります。

 基本領域全ての和集合をDとすれば,それがx(z)の定義域です。Dについては次のことが成り立ちます。

 

 (1) Dは無数の基本領域から成る。

 

 (2) Dは上半平面から実軸を除いた部分:{z|Imz>0}である。

 

 という命題が成立するように見えます。

 シュワルツは上記の命題を証明抜きで主張していましたが,これは決して自明なことではありません。

 

 特に,(2)を厳密に証明するには,シュワルツよりも後にポアンカレによって考案されたポアンカレ計量と呼ばれる1種の距離を上半平面に導入しなければなりません。

 

 この巧妙なテクニックについては,いずれポアンカレの項目で紹介する予定なのでここでは (2)を証明なしで認めておきます。

 これに対して(1)の方は次のようにして証明できます。すなわち,P∈Dとします。Dは基本領域で埋め尽くされており,各基本領域は2つの円弧三角形から成っています。

 

 故にPはある円弧三角形Δの内部にあるかその辺上にあるかのいずれかです。

 もしPがΔの内部にあればPはもちろんDの内点)です。一方PがΔの辺上にあってしかも頂点でないなら,Δをその辺に関して反転したものをΔ1とするとΔ∪Δ1は1つの基本領域であって,この場合も明らかにPはDの内点です。

 さらにPがΔの頂点ならPはいくつかの円弧三角形Δ, Δ12..Δnによって囲まれてしまうのでこのときもPはDの内点です。

 以上からDの点は全てDの内点であることになり,それ故,Dは開集合です。

 

 ところが基本領域は明らかに閉集合であり有限個の閉集合の和集合は閉集合なので,Dは無限個の基本領域の和である必要があります。

 

 故に(1)が成り立つことになります。

 したがってDが無限個の基本領域から成るので,x(z)は無数の異なるzに対して同一の値を取ります。

 

 故に逆関数z(x)はxの無限多価関数で,それ故,超越関数です。

 

 すなわち(ⅲ)の場合にも超幾何微分方程式の解は必ず超越関数を含み,したがって解が全て代数関数であるという場合ではありません。

 これで超幾何微分方程式の解が全て代数関数となるのは(ⅰ)の場合,すなわち,m,n,pが存在してλ=|1-γ|=1/m,μ=|γ-α-β|=1/n,ν=|α-β|=1/p, 1/m+1/n+1/p>1 である場合に限ることがわかりました。

 シュワルツはさらにλ,μ,νが整数となる場合も考察しています。

 

 これについては省略しますが,ただこの場合には例外的な場合を除いて超幾何微分方程式の解は対数関数を含むので代数関数にはなりません。

 また,λ,μ,νの中にゼロになるものがあると,それに対応する円弧三角形の頂角はゼロになりますが,そのときその頂点は実軸の上に乗っていなければなりません。

 ここで例としてλ=μ=ν=0 の特別な場合を挙げておきます。このときはα=β=1/2,γ=1ですから,ガウスの項で扱った例です。

 すなわち,そこでは「α=β=1/2,γ=1に対する超幾何微分方程式はx(x-1)(d2y/dx2)+(2x-1)(dy/dx)+(1/4)y= 0 で,そのx=k2 における解は1/M(1,k')=F(1/2,1/2,1;k2),1/M(1,k)=F(1/2, 1/2,1;k'2)=F(1/2, 1/2,1;1-k2)です。

 

 それら解の比は,τ=iK'/K=iM(1,k')/M(1,k)=iF(1/2,1/2,1;1-k2)/F(1/2,1/2,1;k2)で与えられました。

 そして,その逆関数x=k2(τ)はフックス群:Γ(2)/{±}に関するフックス関数でした。

 

 また楕円関数∫0xdx/{(1-x2)(1-k22)}1/2=uの逆関数:x=snuの周期は4Kと2iK'なので,τには楕円関数の周期の比という意味があります。

 

 k,k'はそれぞれsnuのモジュラス,補モジュラスと呼ばれ,k(τ),k'(τ)は楕円モジュラー関数と呼ばれる。という内容でした。

 シュワルツの研究での記号と比較すると,z=τ,x(z)=k2(τ)となります。すなわち,x(z)はモジュラー関数であってz平面上の基本領域については既にガウスの項で述べた通りです。

 シュワルツは超幾何方程式の解が代数関数となるための条件を決定することを目的としていたので,彼にとっては,場合(ⅰ)λ+μ+ν>1 が重要な意味を持っているのでしょうが,われわれにとっては.むしろ場合(ⅲ)λ+μ+ν<1 において現われる楕円関数とも異なる無限多価超越関数=フックス関数のx(z)の方に興味があります。

 

 これによってガウスによるモジュラー関数以外のフックス関数がはじめて発見されたわけです。(以上,シュワルツの項終わり)

 以上で,ポアンカレ以前の状況の説明を全て終わります。

  

 ここまでの部分は退院3日前の4月19日午前8時頃='朝飯前'に読了しました。

参考文献:斎藤利弥 著「線形微分方程式とフックス関数I(ポアンカレを読む)」(河合文化教育研究所) 

 

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