非線型,非平衡

2009年7月24日 (金)

水の波(8)(有限振幅の波:非線形波3)

 水の波の続きです。

 このシリーズは今日で終わりますが,非線形波やソリトンについての話はまた別の題名でアップする予定です。

 前回の最後では,K-dV方程式:∂u/∂t+u(∂u/∂x)+μ(∂3u/∂x3)=0 の定常波の解をu(x,t)=u(ζ),ζ≡x-σtとして3階常微分方程式:-σ(du/dζ)+u(du/dζ)+μ(d3u/dζ3)=0 を求め,これの積分を求めました。

すなわち,1回積分すると,μ(d2u/dζ2)=-u2/2+σu+2A (Aは積分定数)となり,さらに両辺にdu/dζを掛けて,積分すると(μ/2)(du/dζ)2=-u3/6+σu2/2+Au+B(A,Bは積分定数)となります。

両辺を6倍して右辺をf(u)とすると,3μ(du/dζ)2=-u3+3σu2+6Au+6B≡f(u)です。この方程式が物理的に意味があるuの実数解を持つのは,明らかにf(u)≧0 の範囲でのみです。

実係数の3次方程式f(u)=0 は1実根,または3実根を持ちますが,この方程式が1実根のみを持つ場合には,f(u)≧0 を値域とする解uが有界でないため,これは"有限範囲での振動=波"を表わす解ではないので,ここでの考察では対象外とします。

(u)=0 が3実根を持つとして,それらを1,u2,u3 (u1≦u2≦u3)と書くと,f(u)=(u-u1)(u-u2)(u3-u)です。

 

f(u)=-u3+3σu2+6Au+6Bより,σ=(u1+u2+u3)/3,A=-(u12+u23+u31)/6,B=u123 /6です。

2≦u≦u3でf(u)≧0ですから,3μ(du/dζ)2=f(u)はuのこの区間を往復する非線形振動を表わすと思われます。

 そこで,3μ(du/dζ)2=f(u)=(u-u1)(u-u2)(u3-u)の解でu=u3でζ=0 となるものを求めます。

 

 つまり,方程式dζ/(3μ)1/2=du/{(u-u1)(u-u2)(u3-u)}1/2を解きます。

 まず,k2≡(u3-u2)/(u3-u1)とします。さらに,t={(u3-u)/(u3-u2)}1/2とおくとdt=(-1/2)(u3-u2)-1/2(u3-u)-1/2duです。

1-t21-(u3-u)/(u3-u2)=(u-u2)/(u3-u2),1-k221-k2(u3-u)/(u3-u2)=1-(u3-u)/(u3-u1)=(u-u1)/(u3-u1)です。

  

故に,dt/{(1-t2)(1-k22)}1/2(-1/2)(u3-u2)-1/2(u3-u)-1/2du(u3-u2)1/2(u3-u1)1/2/{(u-u1)(u-u2)}1/2=(-1/2)(u3-u1)1/2du/{(u-u1)(u-u2)(u3-u)}1/2です。

そこで,方程式dζ/(3μ)1/2=du/{(u-u1)(u-u2)(u3-u)}1/2は,-{(u3-u1)/(12μ)}1/2dζ=dt/{(1-t2)(1-k22)}1/2を意味します。

 

したがって,楕円積分F(x,k)を用いて{(u3-u1)/(12μ)}1/2ζ=F({(u3-u)/(u3-u2)}1/2,k)なる解の表式を得ます。

それ故,sn({(u3-u1)/(12μ)}1/2ζ,k)={(u3-u)/(u3-u2)}1/2です。そこで,cn2({(u3-u1)/(12μ)}1/2ζ,k)=1-sn2({(u3-u1)/(12μ)}1/2ζ,k)=(u-u2)/(u3-u2)です。

(注):snはヤコービ(Jacobi)の楕円関数:sn(u,k)=F-1(u,k)=x≡sinφです。またはu=F(x,k)です。

 

 F(x,k)は第1種の楕円積分で,F(x,k)≡∫0xdt/{(1-t2)(1-k22)}1/2=∫0φdθ/(1-k2sin2θ)1/2で定義されます。

特に,K(k)≡F(π/2,k)は第1種の完全楕円積分と呼ばれ,4K(k)は楕円関数:snの2つの周期のうちの1つです。

 

さらに,sn(u,k)=x=sinφに対応して関数:cnをcn(u,k)≡cosφ={1-sn2(u,k)}1/2で定義します。これもヤコービの楕円関数と呼ばれています。(注終わり)※

さて,振動区間をU≡u3-u2とおけば,上に得られた解はu(x,t)=u2+Ucn2({U/(12μk2)}1/2(x-σt),k)と書けます。ここで,σ=(u1+u2+u3)/3=u2+(u1+u3-2u2)/3=u2+(2-k-2)U/3です。

以上から, u(x,t)=u2+Ucn2({U/(12μk2)}1/2[x-{u2+(2-k-2)U/3}t],k)と書けます。ただし,U=u3-u2,k2=(u3-u2)/(u3-u1)です。

この解は,周期関数cnで表現される定常波形を持つ波列を表わしており,この意味でクノイド波(cnoidal wave)と呼ばれます。

 クノイド波:u(x,t)=u2+U・cn2({U/(12μk2)}1/2[x-{u2+(2-k-2)U/3}t],k)は,速度u2の一様流の上に振幅がUの周期波cn2が重なった形をしており,周期波は一様流に相対的に位相速度(2-k-2)U/3で進行するという様を表わしています。

 波形cn2(s,k)は,パラメータk(0≦k≦1)の値に応じて,cn2(s,0)=cos2sからcn2(s,1)=sech2sまで変化します。

cnの周期は4Kですから,これに応じて波長λを{U/(12μk2)}1/2λ≡4Kで定義すると,これはλ=8K(3μk2/U)1/2なる式で与えられます。

 以上では,前提なしで3実根u1,u2,u3 が全て異なる:u1<u2<u3と仮定しましたが,特にu2→u1の極限:u1=u2の重根の場合を想定すると,k2≡(u3-u2)/(u3-u1)よりk=1です。

そこで,cn(s,k)=cn(s,1)=sechsより,この定常進行波はu(x,t)=u1+Usech2[{U/(12μ)}1/2{x-(u1+U/3)t}],U=u3-u1となります。この場合,解は波列でなく,定常波形がsech2の孤立波を表わします。

この孤立波は振幅Uの平方根に反比例した拡がりを持ち,一様流u=u1に相対的に,位相速度U/3で進行します。

いま1つの極限u3→u2,つまりu2=u3の重根の場合はk=0,かつU=0 なので波はu=u3の一様流に帰着します。  

ただし,その重根の極限の近傍のk~0,U~0では,U/k2=u3-u1より,定常解はu(x,t)~u2+(u3-u2)cos2[{U/(12μk2)}1/2(x-u1t)]=u3+2u2sin[{(u3-u1)/(3μ)}1/2(x-u1t)]となって微小振幅の正弦波となります。

 こうして,"Korteweg-deVries方程式=K-dV方程式"で記述される有限振幅の長波のうちの定常進行波は,クノイド波,または孤立波になることがわかりました。

 しかし,一般に任意の初期条件から出発した非定常の波が,これらの定常解に漸近するとは限りません。

-dV方程式,および類似の非線形発展方程式の研究は近年急速な発展を遂げ,特にK-dV方程式については,かなり多くのことがわかっているようです。

ここでは孤立波に関する2,3の結果を紹介します。

初期条件が三角関数:u(x,0)=cosπxのK-dV方程式∂u/∂t+u(∂u/∂x)+μ(∂3u/∂x3)=0 の初期値問題はZabuskyとKruskal(1965)によって数値的に解かれました。

特にμ=0 なら,数値計算に頼らずとも,解はu=cos[π(x-ut)]となることがわかります。

(注)u(x,t)≡cos[π{x-σ(x,t)t}]とおけば,これはu(x,0)=cosπxを満たします。

そして,∂u/∂t=π{σ+(∂σ/∂t)t}sin[π{x-σ(x,t)t}],∂u/∂x=π{-1+(∂σ/∂x)t}sin[π{x-σ(x,t)t}]ですから,∂u/∂t+u(∂u/∂x)=0 はσ+(∂σ/∂t)t+{-1+(∂σ/∂x)t}cos[π{x-σ(x,t)t}]=0 となります。

これから,t=0 ではσ=cosπx=u(x,0)を得ます。すなわち,σ(x,0)=u(x,0)です。

そこで,σ=u=cos[π(x-σt)]とおいてみると,σ+(∂σ/∂t)t+{-1+(∂σ/∂x)t}cos[π{x-σ(x,t)t}]=σ+(∂σ/∂t)t+{-1+(∂σ/∂x)t}σ={∂σ/∂t+σ(∂σ/∂x)}t=0 となります。

よって,解の一意性から解はu=cos[π(x-ut)]です。(注終わり)※

μ=0 の解u=cos[π(x-ut)]では,∂u/∂x=π{-1+(∂u/∂x)t}sin[π(x-ut)]より,[1-πtsin[π(x-ut)]](∂u/∂x)=-πsin[π(x-ut)]となります。

この解は,t=tB1/πに点x=1/2の付近で突っ立ち:|∂u/∂x|=∞という現象を呈し,その点以後のxでは解は多価となって物理的意味を持たなくなります。

ZabuskyとKruskal(1965)の数値計算は,μ1/2=0.022 において実行され,その結果得られた数値解は,やはりt=tB付近で突っ立ちに近い状態を示します。

しかし,この場合はゼロでない分散項の効果により,波の重なりは起こらず,逆に連続的な波が,いくつかの孤立波に分散します。

t=3.6tBでは,波形はほぼ完全に分離した孤立波の連なりとなりますが,これらの孤立波は,先に得られた定常波u(x,t)=u1+Usech2[{U/(12μ)}1/2{x-(u1+U/3)t}],U=u3-u1と同じものであることが,その振幅,幅,進行速度の関係から確かめられます。

-dV方程式に従う有限振幅波がある場合に,いくつかの孤立波の集まりになってしまうとすれば,これらの孤立波の間には,どのような相互作用が働くでしょうか?

孤立波の位相速度は振幅に比例するので,ある時刻に大振幅の波を左に,小振幅の波を右にして,互いに十分遠く離しておいたとすれば,大振幅波が小振幅波に近づき,ついには追いつくと予想されます。

Zabusky(1967)は初期条件として,uj(x,0)=Ujsech2(x/Dj),Dj≡(12μ/Uj)1/2の形を持つ2つの孤立波uj(x,t)(j=1,2)を取り,それぞれの振幅をU1=180,U2=80として,初期に距離を12D1(D1=(12μ/U1)1/2=(μ/15)1/2)だけ隔てて置きました。

そして,小振幅の方の波が静止するように,さらにu1=-26+2/3の一様流を加えました。

数値計算の結果として得られた2つの波は,重なる以前は互いに独立に運動しますが,驚くべきことに衝突以後に再び分離して衝突前と同じ大きさと形と位相速度で運動を続けます。

 

衝突の影響は,僅かに両者の位相の変化となって残るだけです。

2つの波が初期と同じ間隔12D1だけ離れたときの振幅の変化は,僅かにΔU1/U1<0.07%,ΔU2/U2<0.5%なることが見出されました。

 このように,K-dV方程式の孤立波解が,あたかも独立の粒子であるかのように挙動するという結果から,この孤立波をソリトン(soliton)と名付けました。

 非線形波動の現象は,水の波に限らずプラズマ振動,さらに素粒子のモデルなどと関連して研究者の興味を集めており,非線形現象の解明と数学的理論の開発の両面にわたって,その発展が期待されます。

 水の波の話から自然にソリトンを紹介するという所期の目的が達せられたので,水の波の記事シリーズをこれで終わります。

参考文献:巽友正著「流体力学」(培風館)

 

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2009年4月28日 (火)

水の波(2)(浅水波,深水波,表面張力波)

 水の波のつづきです。微小振幅波を近似して分類します。

微小振幅波の位相速度cと波数k or 波長λとの関係,つまり分散関係はc=ω/k={(g/k)tanh(kh)}1/2{gλtanh(2πh/λ)/(2π)}1/2で与えられます。

 

これは,一見しただけではよくわからない関数形をしていますが,波長λが水深hに対して極めて大きい波,または水深hの方がλに対して極めて小さい波に対しては分散関係は簡単になります。

すなわち,h/λ<<1では,tanh(kh)=tanh(2πh/λ)~ kh=2πh/λなる近似が成り立つので,位相速度cもc~ (gh)1/2と近似できます。この場合,波の速さcは深さの平方根:h1/2に比例します。

 

cが波長λに依らないので波は非分散的です。

h/λ<<1はkh<<1を意味しますから,今の場合には速度ポテンシャルΦも,Φ(x,z,t)=-{Ac/sinh(kh)}cosh{k(z+h)}cos(kx-ωt)の正弦波の係数が,sinh(kh)~ kh,cosh{k(z+h)~ 1と近似できて,Φ(x,z,t)~ {-Ac/(kh)}cos(kx-ωt)と簡単になります。

これによって,dx/dt=u=∂Φ/∂x=(Ac/h)sin(kx-ωt),dz/dt=u=∂Φ/∂z={-Ack(z+h)/h}cos(kx-ωt)が得られます。

 

そこで前に求めた近似軌道はx=x0[A/(kh)]cos(kx0-ωt),z=z0[A(z0+h)/h]sin(kx0-ωt)と簡単になります。

これは,楕円軌道:(x-x0)2/a2(z-z0)2/b21における長半径aがa=A/(kh),短半径bがb=A(z0+h)/hとなってa>>bを意味します。

 

そこで,z方向の振幅b=A(z0+h)/hは無視できて,水の運動は事実上,水平方向の単振動x=x0+acos(kx0-ωt),z=z0と見なせます。 

そして振幅a=A/(kh)は深さz=z0に依存しませんから,同じx0の位置にある水の鉛直層は一体になって水平に往復運動をするという描像になります。

 

その水平運動の速度はu=dx/dt=A(g/h)1/2sin(kx-ωt)となりますが,これは水面の波形(高さ):η(x,t)=Asin(kx-ωt)と全く同位相なので水面の山では正の向き,谷では負の向きに動くことになります。

このような波は,波長λが長いか,深さhが小さい場合の波なので,長波,または浅水波(shallow water wave)と呼ばれます。

 

そして,これを導くために用いた上述の近似を,長波近似,または浅水波近似といいます。

一方,逆に波長λが深さhに対して極めて短かい波,あるいはhがλに比べて極めて大きい場合,深い場合の近似を考えることもできます。

この場合はkh=2πh/λ>>1なのでtanh(kh)~ 1と近似できます。そこで,位相速度c=ω/k={(g/k)tanh(kh)}1/2{gλtanh(2πh/λ)/(2π)}1/2の近似はc~ (g/k)1/2{gλ/(2π)}1/2となります。

 

そこで,これの極限での波は分散的です。

このkh>>1の場合,sinh(kh)=(1/2){exp(kh)-exp(-kh)}~ (1/2)exp(kh),cosh{k(z+h)}=(1/2)[exp{k(z+h)}+exp{-k(z+h)}] ~ (1/2)exp{k(z+h)}と近似できます。

 

そこで,Φ(x,z,t)=-{Ac/sinh(kh)}cosh{k(z+h)}cos(kx-ωt)も,近似的にΦ(x,z,t)~-Acexp(kz)cos(kx-ωt)と書けます。

したがって,dx/dt=u=∂Φ/∂x~ Ackexp(kz)sin(kx-ωt),dz/dt=w=∂Φ/∂z~-Ackexp(kz)cos(kx-ωt)ですから,水の運動もx~x0+Aexp(kz0)cos(kx0-ωt),z~ z0+Aexp(kz0)sin(kx0-ωt)となります。

前に,x=x0[Acosh{k(z0+h)}/sinh(kh)]cos(kx0-ωt),z=z0[Asinh{k(z0+h)}/sinh(kh)]sin(kx0-ωt)によって,楕円軌道:(x-x0)2/a2(z-z0)2/b21,a≡Acosh{k(z0+h)}/sinh(kh),b≡Asinh{k(z0+h)}/sinh(kh)を求めました。

 

これは,今の近似では,a=b=Aexp(kz0)なので,水の運動は(x-x0)2(z-z0)2=A2exp(2kz0)となり,(x0,z0)を中心とする半径がAexp(kz0)の円運動になります。

半径Aexp(kz0)は深さ|z0|の増加に連れて指数関数的に減少するため,水面の波による水の運動は実質的にある有限深さまでに限られ,それより下方には及びません。

 

その有限深さ|z0|の値はk|z0|=2π|z0|/λのオーダーで決まるため,波の波長λに比例しますから,波長が短くなると共に小さく浅くなることがわかります。

このように,水深に比べて波長が極めて短かい波を短波,または深水波(deep-water wave)と呼び,これを導くために用いた近似を短波近似,または深水波近似といいます。これが成立するのは,tanh(kh)~ 1の近似が許される場合です。

例えば,1-tanh(kh)≦0.01となるのはkh=2πh/λ≧2.65のときですから,λ≦2.4h,すなわち水深の約2倍の波長に対して短波近似は相対誤差1%以内で成立します。

さて,これまでの扱いでは,水面に働く表面張力を考慮しませんでしたが表面張力の影響は特に波長の短かい波に対しては無視できません。

表面張力を考慮する場合でも,元々の境界値問題:=∇Φ,∇2Φ=0,∂Φ/∂z=∂η/∂t+(∂Φ/∂x)(∂η/∂x)+(∂Φ/∂y)(∂η/∂y),∂Φ/∂t+p/ρ+(∇Φ)2/2+gz=f(t)は,そのまま成立します。

そして,大気と接している水面上の大気圧をp0とするとき,前には∂Φ/∂t+p/ρ+(∇Φ)2/2+gz=f(t)なる圧力方程式で,任意関数f(t)をf(t)≡p0/ρと置き,z=ηでp=p0として,η=-g-1(∂Φ/∂t)-(2g)-1(∇Φ)2なる式を得ました。

 

しかし,表面張力による圧力差δp>0 があれば水面での水の圧力pは大気圧p0と同じではなくて,p0+δpに等しくなります。 

そこで,この場合は同じ(t)=p0/ρに対しz=ηでの圧力としてp=p0+δpを代入すれば,水面での境界条件はη=-g-1(∂Φ/∂t)-(2g)-1(∇Φ)2δp/(ρg)となります。

ところで,1つの曲面をその法線を含む平面で切ると,切り口の曲線の曲率半径Rは一般に平面の方向によって異なります。

 

このときのRの極大値をR1,極小値をR2とするとき,それぞれを与える平面の方向を主方向,κ11/R121/R2を主曲率,H≡(κ1+κ2)/2を平均曲率といいます。

γを表面張力とすると,これが働いている曲面を隔てての圧力差は,δp=γ[(1/R1)+(1/R2)]=γ(κ1+κ2)=2γHで与えられます。

ところで,水面に限らず一般的な空間曲面の性質について2008年7/30の過去記事「相対論の幾何学(第Ⅰ部-4,空間曲面(1))」http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2008/07/41_5587.html,および2008年8/3の記事「相対論の幾何学(第Ⅰ部-5,空間曲面(2))」http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2008/08/52_65b1.htmlに詳しく論じています。

 

この中では,滑らかな曲面をある定義域Dにある2つのパラメータ(u,v)∈Dのベクトル値関数として(u,v)=(x(u,v),y(u,v),z(u,v))で定義しています。

 

そして,この曲面の曲率に関して得られる平均曲率H≡(κ1+κ2)/2 はu,vの6つの関数E,F,G,L,M,Nによって,H=(EN+GL-2FM)/{2(EG-F2)}なる式で与えられることが示されています。

ただし,E,F,Gは,u≡∂/∂u,v≡∂/∂vに対しE≡u2,F≡uvvu,G≡=v2で定義されます。

 

また,L,M,Nはuu≡∂2/∂u2,uv≡∂2/∂u∂v,vv≡∂2/∂u2に対し,L≡(uu,),M≡(uv,),N≡(vv,)で定義されます。

 

ただし,≡(u×v)/|u×v|は曲面(u,v)の法線単位ベクトルです。 

これらの関数を今の(x,y)をパラメータとして水面の高さを表わす式z=η(x,y),または,これの曲面ベクトルの表現(x,y)=(x,y,η(x,y))で表わすと,E=1+(∂η/∂x)2,F≡(∂η/∂x)(∂η/∂y),G=1+(∂η/∂y)2です。

 

それ故,EG-F21+(∂η/∂x)2(∂η/∂y)2となります。 

そして,L=-∂2η/∂x2,M=-∂2η/∂x∂y,N=-∂2η/∂y2ですから,EN+GL-2FM=-(∂2η/∂x2){1+(∂η/∂x)2}-(∂2η/∂y2){1+(∂η/∂y)2}+2(∂2η/∂x∂y)(∂η/∂x)(∂η/∂y)が得られます。

そこで,微小振幅波近似を採用してηの2次以上の項を無視すると,平均曲率はH~(-1/2)(∂2η/∂x2+∂2η/∂y2)/2となります。

 

したがって,表面張力による圧力差はδp=γ[(1/R1)+(1/R2)]=2γH~-γ(∂2η/∂x2+∂2η/∂y2)と近似表現されます。

そこで,δpを考慮した方程式:η=-g-1(∂Φ/∂t)-(2g)-1(∇Φ)2δp/(ρg)においてηとΦの2次以上の項を無視した微小振幅波では,η=-g-1(∂Φ/∂t){γ/(ρg)}(∂2η/∂x2+∂2η/∂y2)が得られます。

これと,水面z=ηにおける運動学的境界条件∂Φ/∂z=∂η/∂t+(∂Φ/∂x)(∂η/∂x)+(∂Φ/∂y)(∂η/∂y)の微小振幅波近似∂Φ/∂z=∂η/∂t(z~0)から,z=0で成立すべき式:2Φ/∂t2[g-(γ)(∂2/∂x2+∂2/∂y2)](∂Φ/∂z)=0 を得ます。

これは,前の記事でz=0で∂2Φ/∂t2+g(∂Φ/∂z)=0,とz=-hで∂Φ/∂z=0 なる境界条件の下でラプラス方程式∇2Φ=0 を解いて近似解を得た際のz=0で∂2Φ/∂t2+g(∂Φ/∂z)=0 という境界条件に代わる式です。

ラプラス方程式∇2Φ=∂2Φ/∂x2+∂2Φ/∂z20 の変数分離解がΦ(x,z,t)=Ccosh{k(z+h)}cos(kx-ωt),η(x,t)=Asin(kx-ωt) (ただし,A≡-Cωcosh(kh))で与えられるのは前と同じです。

 

違うのはωやcをk,またはλと関係付ける分散式です。

 

これは解Φの陽な式を,"z=0 で2Φ/∂t2[g-(γ)(2/∂x2)](∂Φ/∂z)=0 が成り立つ"という境界条件式に代入すれば得られて-ω2cosh(kh)+k(g+γk2)sinh(kh)=0 となります。

これから,ω={k(g+γk2)tanh(kh)}1/2,あるいはc=ω/k={(g/k+γk/ρ)tanh(kh)}1/2[{gλ/(2π)+2πγ/(ρλ)}tanh(2πh/λ)]1/2を得ます。 

しかし,長波,または浅水波;kh=2πλ<<1の場合はtanh(kh)~kh,(γk/ρ)tanh(kh)~γ2/ρ<<ghより,c~(gh)1/2と近似されて,表面張力を考慮しない場合と全く同じです。

 

つまり,長波,または浅水波には表面張力の影響は現われません。

これに対して,短波,または深水波;kh=2πλ>>1の場合には,tanh(kh)~1によって,c~(g/k+γk/ρ)1/2{gλ/(2π)+2πγ/(ρλ)}1/2となります。表面張力γは速度cにもろに影響します。

ここで,c2=gλ/(2π)+2πγ/(ρλ)をλで微分してゼロと置くと,dc2/dλ=g/(2π)-2πγ/(ρλ2)=0 です。

 

そこで,λm≡2π{γ/(ρg)}1/2と置けば,位相速度cは波長λ=λmにおいて,最小値cm≡(4γg/ρ)1/4をとることになります。

短波の中でも比較的波長が短かくλ<λmの場合には,c~(g/k+γk/ρ)1/2{gλ/(2π)+2πγ/(ρλ)}1/2の右辺の括弧の中の第2項の表面張力項が優越します。

 

このような波を表面張力波,あるいは"さざ波"といいます。表面張力波では波長λが小さいほど位相速度cは大きく速い波で,λが増すにつれて遅い波になります。

一方,比較的波長が長くてλ>λmの場合には,第1項/k=gλ/(2π)が優越します。このような波を重力波といいます。この場合には表面張力がない場合と同じく,波長λの増減と共にcも増減します。

今日はここまでにします 

参考文献:巽友正著「流体力学」(培風館),小林昭七 著「曲線と曲面の微分幾何」(裳華房)

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2007年7月20日 (金)

揺動散逸定理

 非平衡統計熱力学の1過程としてブラウン運動などに関わる揺動散逸定理(fluctuation dissipation theorem)について述べてみます。

 

 この定理は誰が起源なのかよく知らないのですが,日本では線型応答理論の一環として統計物理学の重鎮であった久保亮五先生などが関わっていたと記憶しています。

 

 一般に,ある物理量(示量変数の組):=(a1,a2,..,an)があって,エントロピーSがの関数であるとき,系の時間発展はに対する1階微分方程式で表現されて,それはdai/dt=(dai/dt)rev+(dai/dt)irrのように,可逆な部分(dai/dt)revと不可逆な部分(dai/dt)irrの和として与えられます。

 そして,可逆部分はさらに,(dai/dt)rev=Σj{ai,aj}(∂S/∂aj)という構造を持つとします。

 

 ここで,{X,Y}はポアソン括弧のように,{Y,X}=-{X,Y}という反対称性を持ち,{X,f}=Σj{X,aj}(∂f/∂aj)という性質で規定される量であるとします。

こう定義すると,(dS/dt)rev=Σi(∂S/∂ai)(dai/dt)rev=ΣiΣj(∂S/∂ai){ai,aj}(∂S/∂aj)={S,S}=0 となって,可逆過程ではエントロピーは生成されないことになります。

 

実際には,断熱可逆変化か,あるいは可逆であって,かつサイクルである場合以外なら,可逆過程でもエントロピーの変化はありますから,これはどう解釈すべきなんでしょうか?

 

dai/dt=(dai/dt)rev+(dai/dt)irrは"可逆な部分と不可逆な部分の和である。"というよりもむしろ,"エントロピー非生成部分とエントロピー生成部分の和である。"と事実のままを述べた方がいいのかもしれません。

一方,不可逆部分については現象論的に(dai/dt)irr=Σjij(∂S/∂aj)と表わすことにします。

 

というのは,ajが示量変数のとき∂S/∂ajは示強パラメータであり,平衡の近傍では不可逆部分は示強パラメータ,あるいはその空間勾配に比例して進行するからです。

実際,問題としている系を局所平衡状態にある部分系の集まりと考えると,それぞれの部分系の物質密度をρ,単位質量当たりのエントロピーをsとしたとき,エントロピー密度(ρs)の変化は,一般に熱力学の関係式により示強パラメータFiと示量変数aiによって,d(ρs)=Σiidaiと表わされます。

 

この表式では確かに示強パラメータは,Fi=(∂S/∂aj)/Vと表わされています。

そして今,対象としている系が隣り合う2つの部分系A,Bだけから成るとし,A,Bが等しい体積Vを持つとするとき,各部分系のエントロピーS=Vρsは,Xi=Vaiの関数であると考えられます。

 

今,A,Bのエントロピーを,それぞれSA,SBとし,XiがAからBにΔXi=VΔaiだけ移動するとします。

iが系全体では保存する量であって,初めAにはXiがXiAだけBにはXiBだけあったとすると,AからBへのΔXi=VΔaiの移動による系全体のエントロピーSの増分は,ΔS=SA(XiA-ΔXi)+SB(XiB+ΔXi)-[SA(XiA)+SB(XiB)]~Σi(-∂S/∂XiA+∂S/∂XiB)ΔXi=Σi(-FAi+FBi)ΔXiとなります。

 

ここでFAi,FBはそれぞれ部分系A,BにおけるFiの値を表わしています。

系全体を孤立系と考えると熱力学第二法則によって,ΔS>0 でなければならないので,1つの示量変数Xi=Vaiのみに着目してAからBへと微小量ΔXi>0 の移動が起こるためには,示強パラメータFiについてはFBi>FAiであることが必要になります。

このことから,示量変数Xi=Vaiが保存量のときはXiの輸送を引き起こす駆動力となるのは示強パラメータFiの空間勾配であると考えられます。

また,示量変数Xi=Vaiが非保存量のときはΔS=ΣiiΔXiにおいてFi=(∂S/∂ai)/V>0 ならば,ΔXi=VΔai;Δai>0 なる変化が不可逆過程として進行し得ます。

 

つまり,一般にdS=Σiidai,Fi=(∂S/∂ai)と書けますが,量akが保存量のとき,その保存方程式は∂ak/∂t+∇k=0 であり,その流れkは一般にk=Σjkj∇Fjと,示強的な量Fj=(∂S/∂aj)の勾配を駆動力とする形に表わされます。

 

そこで,k'≡akとおくと,k=ak=ak(d/dt)ですから,dk'/dt=d(ak)/dtk=Σjkjj=Σjkj∇(∂S/∂aj)です。

 

そこで,もしもSがajの1次関数なら,∇(∂S/∂aj)~∂S/∂j'となり,示量変数k'の求める時間発展の形式dk'/dt=Σjkj(∂S/∂j')が得られます。しかし正直なところかなり苦しいです。

こうして,はっきりと証明されたわけではないのですが,現象論的発展方程式はdai/dt={ai,S}+Σjij(∂S/∂aj)と表わされるとします。

 

これは非平衡な初期条件から平衡状態への緩和を表わしています。

 

そこで(t)の時間発展は初期条件(0)=に対してai(t)=ai+t[{ai,S}+Σjij(∂S/∂aj)]+..で与えられます。

平衡状態においても,一般に巨視的な物理量(a1,a2,..,an)はゆらいでいます。たまたま,ある時刻に(t)が(t0)=という値をとったとして,その後の時間発展を観測します。

 

(t0+t)は初期時刻t0によってさまざまな値を取りますが,それらの平均を取ったものも現象論的発展と同じになるとします。

 

すなわち,初期条件(t0)=が与えられると短い時間では平均的に<ai(t0+t)>(t0)==ai+t[{ai,S}+Σjij(∂S/∂aj)]となると仮定します。これを線型減衰の仮定と呼びます。

平衡状態におけるゆらぎの時間相関関数<ai(t0+t)ak(t0)>を求めるには<ai(t0+t)>(t0)=に初期値ak(t0)=akを掛けてakの分布について平均すればいいので,t≧0 に対して<ai(t0+t)ak(t0)>eq=<<ai(t0+t)>(t0)=keq =<aikeq+t[<{ai,S}akeq+Σjij<(∂S/∂aj)akeq]となります。

平衡状態におけるゆらぎに対するボルツマン・アインシュタインの原理,つまり,ボルツマンの原理S=kBlnWから,逆に微視的状態数WがW()=exp[S()/kB]と書ける,ことを用います。

 

全状態数をWとしたときにW()/Wが変数の状態が実現する確率となりますから,平衡状態での関数f()の平均値は<f()>eq=(1/W)∫da1..danf()exp[S()/kB]で与えられます。

 

そこで,<(∂S/∂aj)akeq=∫da1..dan(∂S/∂aj)akexp[S()/kB]=-kBδkjとなります。

したがって,<ai(t0+t)ak(t0)>eq=<aikeq+t[<{ai,S}akeq-kBik]となりますが,右辺の{ai,S}はdai/dtの可逆部分です。

 

ところが,平衡状態では物理量の任意の関数は可逆変化では変化しないので,<{f(),S}>eq=0 です。もっともこれはその現象論の範囲で厳密に証明できるわけではないので仮説として導入するわけです。

 

そして,この式でf()=aikを代入すると,<aj{aiδjk,S}+aj{aiδijk,S}>eq=0 :すなわち<{ai,S}akeq=-<ai{ak,S}>eqが得られます。

 

そこで、物理変数ai,akの時間反転対称性に関して次の2つの場合を考えます。:

(Ⅰ)変数ai,akが共に時間反転に対して対称である場合

このときは<ai(t0+t)ak(t0)>eq=<ai(t0-t)ak(t0)>eqです。さらに平衡状態の定常性から物理量の時間相関は時間差のみに依存しt0には依存しないので<ai(t0-t)ak(t0)>eq=<ai(t0)ak(t0+t)>eqです。

 

以上から,<ai(t0+t)ak(t0)>eq=<ai(t0)ak(t0+t)>eqが得られます。

そこで両辺に線型減衰の仮定を適用すると,<aikeq+t[<{ai,S}akeq-kBik]=<aikeq+[<{ak,S}aieq-kBki]となるはずです。

 

これが実際に成り立つためには,<{ai,S}akeq=<{ai,S}akeqかつLik=Lkiが満たされなければなりません。

前者は<{ai,S}akeq=-<ai{ak,S}>eqと組み合わせると<{ai,S}akeq=<{ai,S}akeq=0 となります。要するに,ai,akが共に時間反転に対して対称ならば,その時間微分{ak,S},{ai,S}は明らかに時間反転に対して反対称となりますから,時間反転対称なaiやakとの積は平衡状態ではゼロとなることを表現しています。

(Ⅱ) 時間反転に対して変数aiが反対称でakが対称の場合

このときは<ai(t0+t)ak(t0)>eq=-<ai(t0-t)ak(t0)>eqです。そこで(Ⅰ)と同様に考えて<ai(t0+t)ak(t0)>eq=-<ai(t0)ak(t0+t)>eqとなります。

 

したがって線型減衰の式から<aikeq+t[<{ai,S}akeq-kBik]=-<aikeq-t[<{ak,S}aieq-kBki](t≧0)ですが,これが成り立つためには<aik>=0 でかつLik=-Lkiが満たされなければなりません。

かくして,変数ai,akが同じ時間対称性を持つときにはLik=Lki, 反対の時間対称性を持つときにはLik=-Lkiとなります。

 

さらに係数Likが時間反転に対して反対称な外部パラメータ(は例えば磁場や速度)に依存するときには,それぞれLik()=Lki(-),Lik()=-Lki(-)となります。

発展方程式の不可逆部分を熱力学的力∂S/∂で表現する輸送係数Lijについての上述の対称性をオンサーガーの相反定理と呼び,この係数Likをオンサーガー係数と呼びます。

さらに発展方程式の不可逆部分はエントロピー生成をするという熱力学第二法則の要請から係数行列(Lij)は正値行列です。

  

なぜなら,dS/dt=(dS/dt)irr=Σi(∂S/∂ai)(dai/dt)irr=ΣiΣj(∂S/∂ai)Lij(∂S/∂aj)>0 となるべきことが要求されますが,(∂S/∂ai)はベクトルとして任意の値を取ると考えてよいからです。

平衡状態での巨視的変数の現象論的な発展方程式がdai/dt={ai,S}+Σjij(∂S/∂aj)で与えられるので,必然的に存在する"ゆらぎ=揺動あるいは雑音"Ri(t)の存在を考慮すると,の時間発展は一般的な確率微分方程式dai/dt={ai,S}+Σjij(∂S/∂aj)+Ri(t)で表わされると考えられます。

 

ここで通常はゆらぎRi(t)は完全にランダムであり<Ri(t)>=0 ,<Ri(t)Rj(t')>eq=2Dijδ(t-t')なる白色雑音(white noise)で与えられます。

こうすると,時刻tにおいて状態が実現する確率P(,t)に対して,次のフォッカー・プランク方程式(Fokker-Planck)が得られます。

  

∂P(,t)/∂t=-Σi(∂/∂ai){ai,S}P(,t)+ΣiΣj(∂/∂ai)[-Lij(∂S/∂aj)+Dij(∂/∂aj)]P(,t)です。

一般に,1次元で考えたとき外力Fがないときのゆらぎも含めた粒子の運動は,その速度をuとするとき,次の"運動方程式=ランジュバン方程式(Langevin)"du/dt=-γu+R(t)/m に従います。

 

そして,ここでもゆらぎR(t)は白色雑音,つまり<R(t)>=0 ,<R(t)R(t')>=2Duδ(t-t')を満たしているとします。

このとき,時刻t1に速度u1を持っていた粒子が時刻tに速度uを持つ条件付の確率分布T(u,t|u1,t1)は,(∂/∂t)T(u,t|u1,t1)=γ(∂/∂u)[u+(kBT/m)∂/∂u+(Du/m2)∂2/∂u2]T(u,t|u1,t1)という方程式に従うことがわかります。

 

確率分布が従うこの方程式を,フォッカー・プランク方程式と呼ぶわけですね。

そして,先のについての運動方程式dai/dt={ai,S}+Σjij(∂S/∂aj)+Ri(t)を上の1次元速度uに対するランジュバン方程式におきかえ,時刻tに状態が実現する確率分布P(,t)を上の確率分布T(u,t|u1,t1)におきかえれば,先述のP(,t)に対するフォッカー・プランク方程式が得られます。

これが定常解として平衡分布Peq(a)=exp[S()/kB](あるいはこの定数倍)を持つためにはkBij=Dijとなることが必要条件になります。

つまり,∂Peq()/∂aj=(1/kB)(∂S/∂aj)Peq()なので∂P(,t)/∂t=-Σi(∂/∂ai){ai,S}P(,t)+ΣiΣj(∂/∂ai)[-Lij(∂S/∂aj)+Dij(∂/∂aj)]P(,t)においてP(,t)=Peq()とおくと,kBij=Dijが満たされる場合には右辺の第2項はゼロになります。

一方,第1項はΣi(∂/∂ai){ai,S}Peq()=Peq()[Σi(∂/∂ai){ai,S}+(1/kBi(∂S/∂ai){ai,S}]となりますが,定義によってΣi(∂S/∂ai){ai,S}={S,S}=0 です。

 

これほど自明ではありませんが,Σi(∂/∂ai){ai,S}=0 も成立します。

実際,Σi(∂/∂ai){ai,S}=Σi[{1,S}+{ai,∂S/∂ai}]=ΣiΣi[{1,aj}(∂S/∂aj)+{ai,aj}(∂2S/∂ai∂aj)]=ΣiΣi{1,aj}(∂S/∂aj)=-ΣiΣi,k(∂1/∂ak){ak,aj}(∂S/∂aj)=0 となります。1という関数はδ-関数であり,∂1/∂akは汎関数微分ですね。

そこで,kBij=DijはPeq(a)=exp[S()/kB]が解になるための必要十分条件であることがわかりました。

それ故,"揺動力=ゆらぎ"の時間相関関数<Ri(t)Rj(t')>(白色雑音の2Dは揺動力の強さと呼ばれる)と,輸送係数:Lijの間には<Ri(t)Rj(t')>=2kBijδ(t-t')という関係が成り立ちます。

 

これはさらに∫0d(t-t')<Ri(t)Rj(t')>=kBij:すなわち∫0dτ<Ri(t)Rj(t+τ)>=kBijと書き直すことができます。

 

つまり,輸送係数あるいはオンサーガー係数:Lijはゆらぎの時間相関関数で与えられます。この法則を揺動散逸定理と呼びます。

こうして,数式的に表現された形の定理が示されても,これが実際の自然現象において物理的にどのような意味を持つのかを理解しなければ,こうした定理の重要性を認識することはできません。

そこで,1例として熱伝導に適用してみます。

平均流速がゼロの1成分流体中の熱伝導方程式はeを単位質量当たりの内部エネルギーとして∂(ρe)/∂t+∇q=0 で与えられます。

 

ここでqは熱流であり熱拡散の線形近似モデルではq=λ∇(1/T)=-κ∇Tと表わされます。κ=λ/T2は熱伝導率と呼ばれています。

 

この現象論的方程式に対して,これのランジュバン方程式は∂(ρe)/∂t+∇q=-∇(,t)となります。ただし(,t)は熱流qのゆらぎです。

qは熱流ですから,流体の局所流速を(,t)とすると,q=ρe=ρe(d/dt)です。

 

示量変数の1つとして=ρeとすると,の不可逆変化部分に対する表式dai/dt=Σjij(∂S/∂aj)+Ri(t)は,dai/dt=d(ρeri)/dt~(Jq)i=Σjij[∂S/∂(ρerj)] +Ri(t)と書けますが,平衡状態ではρVde=TdS-PdVなので体積一定(dV=0 )ならS=ρeV/T+(定数)です。

それ故,結局(Jq)i~ΣjijV(∂/∂rj)(1/T)となります。これをq=λ∇(1/T):すなわち(Jq)i=λ(∂/∂rj)(1/T)と比較すると,輸送係数=オンサーガー係数についてLij=(λ/V)δijという表式が得られます。

そこで揺動散逸定理によると,λは平衡状態における揺動熱流(,t)の時間相関関数によって表現されることになります。すなわち,揺動熱流(,t)の時間相関関数は,∫0dt<qα(,t)qβ(',0)>eq=kB(λ/V)δαβδ(')と書けます。

そして,熱流q(,t)のゆらぎ(,t)を体積Vの対象領域全体で空間積分した(t)=∫dq(,t)という量を定義して,これを時刻tでの"熱流のゆらぎ"と呼ぶことにすれば,熱伝導に対する揺動散逸定理の表現は∫0dt<qα(t)qβ(0)>eq=kBλδαβと書くことができます。

今は,平均流速がゼロの流体を考えており,平衡状態では<q(,t)>eq=0 なので,熱流のゆらぎ(,t)がエネルギー流そのものになります。そこで対流がない流体においての平衡状態では(t)はエネルギー流を空間全体で積分したもののゆらぎとなります。

この例では,輸送係数=オンサーガー係数の一種である熱伝導率がミクロな流れ(t)の時間相関関数で与えられるということが揺動散逸定理からの重要な帰結と言えます。

19日木曜日夜から風邪気味で,症状自体は軽いのですがあまり筆が進みません。

北原和夫 著「非平衡系の統計力学」(岩波書店)

 

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2006年9月25日 (月)

ベナール対流の安定性とレイリー数

 今日は上下にそれぞれ一様な温度の床と天井があるところに閉じ込められた流体があって,元々はその高さに比例した温度変化と圧力変化を持って静止していた流体の,上下についての対流の発生,および安定性とレイリー数(Rayleigh number)との関係について述べたいと思います。

 

 これは,いわゆるベナール対流(Benard's convection)の問題です。

 そのために,まず流体方程式系の非圧縮近似について考察するところから始めましょう。

 

 流体の速度が音速に比較して非常に小さいときは非圧縮性流体:Dρ/Dt=0 としてよいわけですが,特に重力による圧力傾度とつりあった静力学平衡:∂P/∂z=-ρgを満足するような密度ρ=ρ0 からの温度分布などによるずれ:Δρだけを圧縮性として考慮して,それ以外は非圧縮性流体として扱う近似が正当化されます。

 

 これは気象力学などではブジネスク(Boussinesq)近似としてよく利用される近似です。準備として,まずその定式化をすることにします。

 "質量保存の方程式=連続の方程式"は(∂ρ/∂t)+div(ρ)= 0 ですが,これをラグランジュ微分で表すと,Dρ/Dt+ρdiv=0 です。そして非圧縮性流体Dρ/Dt=0 の近似を行なうと,連続の方程式はdiv=0 となります。(D/Dt≡∂/∂t+∇です。)

 次に,運動方程式は初めから圧力項を除く部分では非圧縮 div=0 を仮定し,外力は重力だけであるとするナビエ・ストークスの方程式(Navier-Stokes equation)とします。

 

 すなわち,D/Dt=-∇P/ρ-g+ν∇2ですね。

 

 ここで,ρ=ρ0+Δρ,P=P0+P'とし,∇P0=-ρ0として運動方程式の右辺の-∇P/ρを展開して2次の微小量を無視します。

 

 すると,-∇P/ρ=-∇(P0+P')/(ρ0+Δρ)=-(1/ρ0)[1-(Δρ/ρ0)]∇(P0+P')=[1-(Δρ/ρ0)]g-∇P'/ρ0です。

 

 ここで,gは重力の加速度,νは動粘性係数=η/ρです。

 そこで,運動方程式はD/Dt=-∇P'/ρ0(Δρ/ρ0)g+ν∇2となり,これがブジネスク近似です。

 

 温度Tは密度と圧力で決まるので,温度による表現も与えておきましょう。ρ0,P0に対応する温度をT0とし,T=T0+ΔTと置くと,圧縮率をαとしてρ=ρ0(1-αΔT)となり,Δρ/ρ0=-αΔTですから,運動方程式は,D/Dt=-∇P'/ρ0+αgΔT+ν∇2と変形できます。

 最後にエネルギー方程式ですが,これは温度の方程式に直すことができます。粘性による散逸エネルギーを無視すれば,これはDT/Dt=κ∇2Tで与えられます。
 
 ここにκ=k/(ρCp)は温度拡散係数です。kは熱伝導係数であり,Cpは定圧比熱です。

 以下では,(u,v,w)として話を進めます。まず最初の設定としては領域全体でu=v=w=0 とします。

 

 そして,温度は床z=0 ではT=T0,天井z=HではT=T1で時間的に変わらないとします。この境界条件を満たす定常熱伝導の方程式∇2T=0 の解はT(z)=T0-βz=T0{(T1-T0)/H}zですね。

 

 ここで,β>0 ,すなわち,T0>T1とします。なぜなら,そうでないと地球上の重力場の中では対流が起きないからです。

 

 そして,そればかりでなく|β|=-βの値が,いわゆる断熱温度減率(これは湿度によって変化しますが)より大きくないと対流は起きません。(例えばランダウ著「流体力学1」(東京図書)参照)

 そして,圧力はP(z)=-ρgz+const.とします。=(u,v,w)を改めてu=v=w=0 の平衡状態からの摂動流速とみなし,温度はT≡T(z)+θ≡T-βz+θ,圧力もP≡P(z)+P'と摂動温度,摂動圧力を取ります。

 

 連続方程式は∂u/∂x+∂v/∂y+∂w/∂z=0 であり,またブジネスク近似での運動方程式はDu/Dt=-(∂P'/∂x)/ρ0+ν∇2,Dv/Dt=-(∂P'/∂y)/ρ0+ν∇2,Dw/Dt=-(∂P'/∂z)/ρ0+αgθ+ν∇2wとなります。

 温度方程式はDT/Dt=κ∇2Tですが,DT/Dtの中の移流項∇Tは主流を取って,w∂T/∂z=-βwのみですから,∂θ/∂t=βw+κ∇2θとなります。

 ここで,運動方程式からuとvを消去するために,(u,v,w)の"回転=渦":ω=rotを取ります。ζ=∂v/∂x-∂u/∂yとすると,運動方程式から∂ζ/∂t=ν∇2ζが得られ,また(∂/∂t)∇2w=αg(∇2-∂2/∂z2)θ+ν∇4wも得られます。

 

 こうして基本方程式系としては,w,θ,ζの3つを未知数とする3つの微分方程式が得られたことになります。

 さらに,x,y,tの独立変数をzから分離するため,変数分離形を仮定して,w≡W(z)exp[i(kxx+ky)+pt],θ≡Θ(z)exp[i(kxx+ky)+pt],ζ≡Ζ(z)exp[i(kxx+ky)+pt]と置きます。

 

 これは方程式系において∂/∂t=p,∇2-∂2/∂z2=-k2≡-(kx2+ky2),∇2=d2/dz2-k2と置き換えることに相当します。

 すなわち,p(d2/dz2-k2)W=-αgk2Θ+ν(d2/dz2-k2)2W,pΘ=βW+κ(d2/dz2-k2)Θ,pΖ=ν(d2/dz2-k2)Ζとなります。

 

 これは3つめの方程式とは別に,前の2つのWとΘだけで独立しているのでこれら2つだけでも解ける形になっています。

 そして,床と天井での境界条件はz=0 とz=HでΘ=W=Ζ=0 ,dW/dz=0 です。

 

 ここで,これらの方程式を無次元化するために単位を[L]=H,[T]=H2/νに取ることにして,a≡kH,σ≡pH2/νとします。

 

 x,y,zの単位もHとした後に,D≡d/dzと定義し,温度拡散のプラントル数(Prandtl number)をPr≡ν/κとします。

 すると,3つのうちの前の2つの方程式は(D2-a2)(D2-a2-σ)W=(αgH2/ν)a2Θ,および(D2-a2-Pr・σ)Θ=-(βH2/κ)Wとなります。

 

 そして境界条件は,z=0 とz=1 においてΘ=W=Ζ=0 ,DW=0 です。(ただしWとΘは通常の単位であり無次元化していません。)

 Θを消去すると,(D2-a2)(D2-a2-σ)(D2-a2-Pr・σ)W=-Ra2Wとなります。Rはレイリー数で,これはR≡gαβH4/(κν)で定義される無次元数であって,方程式を支配する特徴的な数です。

 安定性を調べるためにはσ=0 (つまりp=0)の特別なケースを調べればよいと思われます。なぜなら時間的に減衰するか,増幅するかの限界は,exp(pt)という因子でのp=0 を臨界点として生じるからです。

 

 そして,その境界におけるレイリー数に最初に達したときに流れは初めて不安定になると考えられるからです。

そして対称性を利用するために,zの原点を移動して,z=±1/2を境界に取ります。

 

基本となる微分方程式は(D2-a2)3W=-Ra2Wであり,境界条件はW=DW=(D2-a2)2W=0 atz=±1/2です。

 

この方程式の特性方程式はW≡eqzとして,(q2-a2)3=-Ra2であり,Ra2=τ36と置いて解くと2=-a2(τ-1),q2=a2[1+(1/2)τ(1±i√3)],あるいは平方根を取って,±iq0,±q,±q* (q0=a(τ-1)1/2 etc.)ですね。

 あとの詳細は簡単なので本質的な部分以外は省略しますが,解は偶関数解と奇関数解の2種類に分かれ,偶関数解としてW=A0cos(q0z)+Acosh(qz)+A*cosh(q*z),奇関数解としてW=A0sin(q0z)+Asinh(qz)+A*sinh(q*z)が得られます。

 後は,境界z=±1/2でW­=DW=(D2-a2)2W=0 である,という条件から0,A,A*を決めればいいわけです。

 

 これらが自明でない解を持つための条件は境界条件を満足する係数ベクトル:A0,A,A*の係数行列の行列式がゼロでなければならないという1つの固有値方程式になります。

 例えば偶関数解ではこの行列式=0 の条件は,Im[(i+√3)qtanh(q/2)]+0tanh(q0/2)=0 となります。

 

 こうした固有値問題を満足するRを求めると,流れが不安定になり熱伝導だけでは熱を運ぶことが不可能となって物質で熱を運ぶ対流が激しくなる臨界点が求まり,最後には乱流へと移行することになる境界の臨界レイリー数が求められます。

 私がかつて数値的に解いた偶関数の臨界レイリー数Rはたとえばa=3.0でR=1710 etc.であり文献と一致しています。

 

 つまり,a=3.0ではこのRを境として不安定流となり対流が激化していくことになるわけですね。

 参考文献:S.Chandrasekhar 「Hydromagnetic and Hydromagnetic stability」(Dover Books),モーニン,ヤグロム(A.S.Monin&A.M.Yaglom)著(山田豊一訳)「統計流体力学1」(総合図書)

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2006年7月20日 (木)

人口増加とロジスティック曲線

 今日は軽い話題を一つ述べましょう。

 現在の人口をN 人としΔt 年間に人口 N 人に比例して (kΔt)N人だけ人口が増加するとします。今の時刻(年)を t とし増加率を k =b-d (bは出生率,dは死亡率)とします。

 kは一定であるとすると, t+Δt の人口:N1= N+ΔN人は,ΔN /N=kΔtによってN1=N (1+kΔt)となりますから,時刻(年) t+nΔtでの人口:Nn人はNn=N(1+kΔt)n となります。k>0 であれば,まさに人口はネズミ算的に増えてゆきますね。

 そしてΔt が無限小dtであるとすると,ΔN /N=kΔtはdN/dt=kN となりますから ,t=0 での人口をN=N0 人とするとN=N(t)=N0 exp ( kt )ですね。これを見ると,k>0 なら t → ∞ でN → ∞ ですが, k<0 なら t → ∞ で N → 0 であり絶滅してしまいます。

 しかし,実際には Δt の間にいろいろな災害や環境の変化などで増加率 k は一定ではなく,かなりの変化を受けると考えられます。

 一般に人口 Nが増えれば増えるほど個体の増加は妨げられる傾向がありますから,それは増加率がkから k(1-αN) (α>0 )になるという影響を与えるという効果で表わすことができます。

 このモデルをロジスティックモデルといいます。k(1-αN) (α>0 )において,αN>1なら人口Nは増加し,逆なら人口Nは減少しますね。

 このモデルでは,Nに対する微分方程式という形ではdN/dt=kN(1-αN)という非線形微分方程式になります。これを解くとN=N(t)=N0 /[αN0 { 1-exp ( - t )}+exp (-t ) ] です。

 これの描くN-t曲線がロジスティック曲線と呼ばれるものです。これを見ると t → ∞ の極限ではN → 1/αとなって,人口Nはある極限値に到達するわけです。それ以上は増加も減少もしません。

 ロジスティックモデルは実際に生態学(ecology)で個体の増加減少の履歴と一致する例が多々あり,人口にもこれが適用できると考えられます。

 正に「増え過ぎた生物は抑制される。」というのが自然の摂理ですが,人類は天敵がいないことや医学の進歩,(そして軍縮などによる戦争の減少?)などによって自然の摂理を破壊し生態系を破壊しつつあります。やがてこの自然の摂理の破壊の報いを受けるかもしれません。

 ところで,ロジスティック微分方程式のΔt の刻みを調節して中心差分の差分方程式として離散化すると ,k の値によっては,t が大きいところで不安定な人口増減の振動をするカオスの現象を起こすことが知られています。

 この不安定性は数値解析の目的で「離散化=差分化」を行なったために生じたものですが,現実の現象のモデルとしては時間刻みが無限小の微分方程式よりも時間刻み有限の差分方程式の方が適切かもしれません。

 カオスの例としては,ロジスティック模型のn+1=axn(1-xn)は典型的な例であり,a の値によっては「リー・ヨーク(Li-Yorke)の定理」においてカオスになる条件が満足されます。

(参考文献;山口昌也著「カオス入門」(朝倉書店)、山口昌也編著「数値解析と非線型現象」(日本評論社) )

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