熱力学,統計力学

2009年10月11日 (日)

空気分子の大きさ(アインシュタインとブラウン運動)

 地球大気の温室効果について段階的に論じていこうと思います。

 

 まずは,私自身が自己満足として納得するために2006年11/21の記事「地球の平均気温とステファン・ボルツマンの法則」http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2006/11/post_d99b.html において温室効果を無視した地球平均気温の定量的評価のための材料とした太陽からの輻射に対するアルベド(albedo:反射率)が30~31%であることの理論的根拠などから論じていきます。

  

 今日は,まず太陽から地球に放射される光が地球表面で散乱され減衰することと関連して,大気圏での主要な散乱体である"主に窒素と酸素から構成された空気分子"の大きさを評価することから始めます。

 

 そのため,植物学者ブラウン(Brown)の"花粉の水中運動の永久性=ブラウン運動"の発見(1829)に対するアインシュタイン(Einstein)の解明(1905)の話から始めようと思います。

 媒質中のブラウン粒子の運動を位置座標のx成分の軌道で代表させると,その運動方程式はu≡dx/dtとしてm(du/dt)=X(t)-u/μで与えられると考えられます。

ここにmは対象粒子の質量,X(t)は媒質からその粒子にかかる力のx成分,μは易動度と呼ばれる量で,u/μが媒質の速度に比例する摩擦力となるようなケースでの比例係数の逆数です。

 

m(du/dt)=X(t)-u/μの左辺がゼロの定常状態に達した場合ならu=μXですが,これが易動度という言葉の意味ですね。

流体力学のストークス(Stokes)の抵抗法則によれば,ブラウン粒子を半径aの球と仮定しηを媒質の粘性率とすると,この程度のレイノルズ数では 1/μ=6πηaと書けるはずです。

ストークスの法則の詳細は,2007年7/27の「遅い粘性流(1)(Stokes近似)」 http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2007/07/post_9144.html,および2007年7/28の記事「遅い粘性流(2)(Stokes近似)」http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2007/07/post_9144_1.html,

そして,それに続く2007年7/31の記事「遅い粘性流(5)(Stokes近似)」 http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2007/07/post_9144_4.html を参照してください。

ブラウン運動の方程式:m(du/dt)=X(t)-u/μはランジュバン(Langevin)方程式:du/dt=-γu-R(t)/m (R(t)は"ゆらぎ=揺動",または雑音の影響を表わす量)と同じものです。

ランジュバン方程式については非平衡統計力学の線型応答理論に関連した2007年7/20の記事「揺動散逸定理」 http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2007/07/post_388c.html を参照してください。

運動方程式:m(du/dt)=X(t)-u/μ (u=dx/dt)の両辺にx=x(t)を掛けてtについて0からtまで積分すると,左辺はm∫0t(xdu/dt)dt=m∫0t(xd2x/dt2)dt=[mxdx/dt]0t-m∫0t(dx/dt)2dtです。

 

一方,右辺は∫0tXxdt-(1/μ)∫0t(xdx/dt)dt=∫0tXxdt-(1/μ)∫0t[d/dt{x2/2}]dt=∫0tXxdt-(1/μ)[x2/2]0tとなります。

したがって,[mxu]0t-m∫0t2dt=∫0tXxdt-(1/μ)[x2/2]0tを得ます。

 

ところが,tが十分長ければ右辺第1項∫0tXxdtはX(t)が正負の全くランダムな値を取るために消えるはずです。

そして,統計力学のエネルギー等分配の法則により長時間平均の意味でm∫0t2dt=(t<mu2>)t→∞=kBTtとなります。ここにkBはボルツマン(Boltzmann)定数,Tは絶対温度です。

そこで,t→ ∞では[mxu]0t-kBTt=-(1/μ)[x2/2]0tです。それ故,大きいtで[mxu]0tが省略できる場合には<x2AV≡([x2]0t)t→∞=2μkBTtとなります。

 

こちらの<x2AVは,前の<mu2>のような長時間平均ではなく時刻tにおける相空間平均(確率平均)です。

実際,<u21/2~ (kBT/m)1/2ですがエルゴード性により時刻tにおける空間平均という意味でもu~ (kBT/m)1/2すから,x ~(2μkBTt)1/2であれば,<mxu>AV=[mxu]0t~kBT(2mμt)1/2となります。

  

そこで,[mxu]0tの値は大きいtに対してt1/2のオーダーですからtと比較して省略できることがわかります。

一方,ブラウン運動を時間τごとに微小長さを進む酔歩の問題と考えると次のように考察されます。

これは私のブログでは既にずいぶん前に考察済みです。

 

2006年9/14のブログ記事「酔歩(ランダム・ウォーク)」 http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2006/09/post_5afd.htmlから該当部分を多少修正して再掲します。

(再掲開始)

1次元ではx軸の上で左右どちらにも1歩ずつ動くことができて1歩の長さが一定値λであるとします。そして左右どちらかに進む確率は両側共に1/2であるとします。

x軸の原点から出発しててN歩の後にx=nλ(-N≦n≦N)の位置にいる確率をP(n,N)とすると,正の向きにN+,負の向きにN-歩いてxに到達するとした場合の数がN!/(N+!N-!)ですから,P(n,N)={N!/(N+!N-!)}(1/2)Nとなるはずです。

ただし,N++N-=N,+-N-=nなので単純に計算すると+(N+n)/2,-(N-n)/2ですが,N+nとN-nは一方が奇数なら他方も奇数,一方が偶数なら他方も偶数です。これらが偶数でなければ負でない整数なることが必要な+もN-も存在しません。 

したがって,N-nが偶数のときには(n,N)={N!/(N+!N-!)}(1/2)N(N+(N+n)/2,-(N-n)/2)ですが,N-nが奇数のときには(n,N)=0 です。

ここで,nが非常に大きいときのスタ-リングの公式:n!~(2π)1/2exp(-n)n(n+1/2),あるいはlog(n!)~(1/2)log(2π)+(n+1/2)log(n)-nを使用します。

N-nが偶数でNが非常に大きいとすれば,+(N+n)/2,-(N-n)/2も非常に大きいことになってlog{(n,N)}~ -Nlog2+NlogN-N+logN+-N-logN-(1/2)log(2π)+(1/2)(logN-logN+logN-)=(1/2)log{2/(πN)}-(N/2)[{1+(n+1)/N}log{1+(n/N)}+{1+(1-n)/N}log{1-(n/N)}]です。

ここで,n<<Nと考えて上のα=n/Nの対数関数において,αの2次までの近似展開:log(1-α)~ -α-α2/2,log(1+α)~ α-α2/2を利用します。

すると,log{(n,N)}~(1/2)log{2/πN)}-(N/2)(n/N)2より(n,N) ~{2/(πN)}1/2exp{-n2/(2N)}です。

ここで,x=nλ(-N≦n≦N)の酔歩の1歩の長さλは非常に小さいとしてN-nが偶数と奇数の両方の場合を考慮すれば,xがxとx+dxの間にある確率は(x,N)dx=(1/2){2/(πN)}1/2exp{-x2/(2Nλ2)}(dx/λ)(2πNλ2)-1/2exp{-x2/(2Nλ2)}dxです。

これは,Nλ→ ∞,λ→ 0,かつNλ2→σ2(有限)の条件で,xについて積分すると1になるので,確かに確率密度の条件を満たしています。

 一方,2次元での確率密度は,モデルが等方的なので単純に上の1次元の式で2をr2≡x2+y2で置き換えるだけでいいと考えられるところですが,実は1歩の各方向への成分Δx,ΔyがΔx2+Δy2=λ2を満たす必要があるので修正が必要です。

x方向とy方向を対等に扱うと,Δx2=Δy2=λ2/2なのでN歩で位置=(x,y)に到達する確率密度は,全平面で1になるように規格化してP(x,y,N)dxdy=(πNλ2)-1exp{-x2/(Nλ2)}exp{-y2/(Nλ2)}dxdy=(πNλ2)-1exp{-r2/(Nλ2)}2になります。 

同様に,3次元ではr2=x2+y2+z2としてΔx2=Δy2=Δz2=λ2/3により,位置=(x,y,z)に到達する確率は(x,y,z,N)dxdydz={(2/3)πNλ2}-3/2exp[-r2/{(2/3)Nλ2}]3になると考えられます。 

  特に,3次元の一般式でt=Nτ,D=λ2/(6τ)と置けば,4Dt=(2/3)Nλ2となるため,時刻tに位置に存在する確率はP(,t)=(x,y,z,N)=(4πDt)-3/2exp{-r2/(4Dt)}と書けます。

これは,丁度拡散係数がDの拡散方程式∂P/∂t=D∇2Pにおいて初期時刻t=0 に確率密度が原点に集中しているときの解,すなわち,初期値がP(,0)=δ3()のときのP(,t)の一意解に一致しています。(再掲終わり)※

そこで,この確率密度(,t)に基づいて計算すれば,x方向の"ゆらぎ=揺動",つまりt=0 に確率1で原点=0 にあった場合の時刻tでの平均位置(=0)からのずれxの2乗平均値は,<x2AV=∫-∞[x2(,t)]d3(4πDt)-1/2-∞[2exp{-x2/(4Dt)}dx=2Dtとなります。

これを,先にブラウン運動の1次元方程式から求めたxのゆらぎの表現:<x2AV([x2]0t)t→∞=2μkBTtと比較すれば,D=μBT(アインシュタインの関係式)が得られます。

,媒質の粘性率をηとし拡散粒子の半径をaとすれば,先に求めた易動度μに対するストークスの式:1/μ=6πηaから,D=kBT/(6πηa)なる等式が得られます。これをアインシュタイン・ストークスの関係式と呼びます。

ここで理科年表によると,空気の粘性率は温度が常温25℃=298Kでη=18.2×10-3Ns/m2,またkB=R/NA=1.38×10-23J/Kです。R~8.31J/(Kmol)は気体定数,NA~6.02×10-23/molはアヴォガドロ数(ロシュミット数)です。 

また,質量がmの気体分子の速度をとすると,統計力学によって平衡状態での2乗平均の速度は(<2AV)1/2=(3B/m)1/2です。一方,速度の絶対値||の平均は<||>AV={8B/(πm)}1/2です。

 

空気をO2とN2の1:4の混合気体とみると分子質量はm=28.8/NA(g)~ 4.78×10-26(kg)ですから,常温T=298Kでの2乗平均速度は21/2 ~ (3B/m)1/2~ 約508(m/s)です。

 

一方,絶対値平均速度で見ると,<||>AV={8B/(πm)}1/2~ 約468(m/s),ですです。

さて,気体分子を直径がdの剛体球とモデル化すると,2つの気体分子の中心間距離がdになるときにこれらは衝突します。

 

そして,1つの分子が衝突するまでに分子が移動する平均の距離を平均自由行程と呼びます。これは先に述べた酔歩の1歩に相当するので同じ記号λで表わすことにします。

 

1つの気体分子から見るとその中心を底面中心として体積がπd2λの円筒内に他の分子が1個入るという勘定になります。

 

したがって,気体分子数密度をnとするとπd2λn=1ですから平均自由行程はλ=1/(πd2n)と評価されます。

  

さて,速度=(u,v,w)=(vx,vy,vz)の各成分がvx~vx+dvx,vy~vy+dvy,vz~vz+dvzの間にある分子数をf(vx,vy,vz)dvxdvydvz=f()d3とします。

 

全分子数をNとするとf()は全速度空間で積分して∫f()d3=Nとなるように規格化されています。このように定義されるf()=f(vx,vy,vz)を速度の分布関数と呼びます。

 

そして,絶対温度がTの熱平衡状態では,f()がマクスウェル(Maxwell)分布:f()=N{m/(2πkBT)}3/2exp{-m2/(2kBT)}で与えられることがわかっています。

 

分子数密度がn=N/Vの熱平衡状態を仮定します。

 

通常のxyz空間のz=0 の面の単位面積を通って単位時間にz>0 の側からz<0 の側に移動する分子数をI+とすると,I+=n{m/(2πkBT)}3/2-∞dvx-∞dvy0dvzzexp{-m2/(2kBT)}=(n/4){8kBT/(πm)}1/2と計算されます。

 

ところが,先述したように<||>AV={8kBT/(πm)}1/2です。また,対称性からz=0 の単位面積を通ってz<0 の側からz>0 の側に移動する単位時間当たりの分子数をI-にとすると,これはI+は等しいのでI+=I-=(n/4)<||>AVと書けます。

 

そして,巨視的な粘性率を微視的な分子から統計的平均量として見積もるために,z=0 の面を通して下方から上方へと輸送されるx方向の運動量を評価してみます。

 

これは,z=0 の面から平均自由行程程度の下方の運動量が上方に運ばれ,これから下方に運ばれる平均自由行程程度の上方の運動量を引いた差で与えられると考えられます。

 

その平均自由行程程度のz座標を±αλ(0<α<1)とします。

 

まず,z=-αλから入ってくる運動量のx成分はx方向の速度成分をzだけの関数としてu(z)と表わせばI+mu(-αλ)=(mn/4)<||>AV{u(0)-αλ(∂u/∂z)}と見積もられます。

 

同様にz=0 の面を通って上方から下方へと輸送されるx方向の運動量はI-mu(αλ)=(mn/4)<||>AV{u(0)+αλ(∂u/∂z)}と見積もられます。

 

結局,z=0 の面を通って下方から上方へと輸送される正味の運動量のx成分は,I+mu(-αλ)-I-mu(αλ)=-(αλρ/2)<||>AV(∂u/∂z)となります。ただし,ρ≡mnは媒質の気体の密度です。

 

得られた単位時間当たりの輸送量-(αλρ/2)<||>AV(∂u/∂z)が,流体力学における現象論的粘性応力:-η(∂u/∂z)に一致すると考えられるので,粘性率ηに対してη=(αλmn/2){8kBT/(πm)}1/2なる評価式が得られました。

 

 これにλ=1/(πd2n)を代入するとη=(α/d2)(2πmkBT)1/2となります。それ故,D=kBT/(6πηa)={kBTd2/(6πaα)}(2πmkBT)-1/2=(2π)-3/2(kBTd4/m)1/2/(3aα)が得られます。

  

この式によれば,αがわかれば半径aが既知のブラウン粒子の空気中での分子拡散係数Dを測定すれば,空気分子の平均直径dを計算により評価できることがわかります。

 

実験等から得られる空気分子の径の評価値は0.4~0.8μmで可視光線の波長と同程度だそうです。

  

今日はここで終わります。

 

次回は電離層などプラズマの影響,大気層における空気分子や雲(水滴)によるレイリー散乱,ミイ散乱なども考慮して,地球面頂上でのフレネル反射や吸収の寄与による"太陽輻射(太陽定数)の減衰=アルベド(albed)"の定量的評価を論じることを予定しています。

 

参考文献:中村 伝 著「統計力学」(岩波書店),北原和夫 著「非平衡統計力学」(岩波書店),クドリャフツェフ 著(豊田博慈 訳)「熱と分子の物理学」(東京図書)

 

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2009年2月 9日 (月)

水蒸気の比熱

 約1年前に2008年1/6の記事で「水,水蒸気,氷の比熱」 http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2008/01/1_8dbd.html という記事を書き,それを動機として化学結合関連のシリーズ記事に入り,結局,目的としていた水素結合に到達する前に興味がよそに移ってそのままになりました。

 

 しかし,最近私がサブマネージャーをしているfolomy「物理フォーラム」http://folomy.jp/heart/で水分子の基準振動のモードについて質問があったのを機に,

 

「そうか。。重心運動と回転運動の自由度だけでなく振動の自由度に量子統計の効果を組み合わせれば,少なくとも水蒸気の比熱についてだけは,説明可能ではなかろうか。。」と思ったので,まずは過去記事の主要部分を再掲して,次にこれを説明したいと思います。

 

 以下,まず2008年1/6の記事「水,水蒸気,氷の比熱」の再掲です。

※(再掲記事1)

  

 気体としてのH2,すなわち水蒸気なら理論的には常温での3原子分子の自由度は6です。

 

古典統計物理学におけるエネルギー等分配の法則,すなわち,"絶対温度Tにおいて1自由度当りの内部エネルギーはkBT/2 である。"という法則によれば,水蒸気の定積モル比熱はCv,mol(1/2)R×6=3Rとなるはずです。

 

B≡R/N0はボルツマン定数~ 1.38×10-23JK-1)で,Rは気体定数~ 8.31Jmol-1-1),N0はアボガドロ数r~ 6.022×1023mol-1)です。

そして,マイヤーの法則(Mayer's relation)によると,定圧モル比熱はCp,mol=Cv,mol+R=4Rと書けるので,比熱比はγ≡C/Cv=4R/(3R)~1.33となるはずです。

1モルのH2Oの質量は18gです。

 

そこで,質量1g当りの熱容量に換算するとCv8.31×3J/(molK)=1.385J/(gK)=0.33cal/(gK),C8.31×4J/(molK)=1.846J/(gK)=0.44cal/(gK)となるはずです。

 

しかし,理科年表によると,摂氏100度の水蒸気について,定圧比熱がC2.051J/(gK)=0.50cal/(gK)で,比熱比がγ≡C/Cv1.33となっていました。

これらの実測値は,比熱比γについては理論と一致していますが,定圧モル比熱については実測はCp,mol4.5R=(9/2)Rとなっています。

 

これは,今私が計算した理論値のCp,mol=4Rよりも大きく,実測のCp,molからマイヤーの規則で計算すると,定積モル比熱はCv,mol3.5R=(7/2)Rとなりますから,これからはγ≡C/Cv~1.28となって実測のγ1.33と矛盾します。

 

まあ,水蒸気は理想気体でないのは明らかですから,何らかの理由があるのでしょう。

一方,液体の水の比熱は定義によると1gの水を摂氏14.5度から15.5度まで1度上昇させるに要する熱量が1calです。

 

常温での水の比熱はC1cal/(gK)=4.19J/(gK)です。

 

また,氷の比熱は実験によると,C0.50cal/(gK)=2.085J/(gK)となっています。つまり,C,mol~9R,C,mol4.5R=(9/2)Rですね。

 

もしも氷が固体金属と同じような格子結晶であるなら,デュロン・プティの法則(Dulong-Petit's law)によってC,mol=3RなのでC0.33cal/(gK)になるはずですが,実際にはそうなっていません。

 

(固体金属の場合は電子の自由度は常温では無視できて,格子位置の陽イオンの格子振動,つまり自由度が2の調和振動子の3方向の自由度6の寄与のみにより,常温でのモル比熱がほぼC金属=3Rで与えられるということが理論的にも実験的にも認められています。(デュロン・プティの法則))

 

このことから,古典的には水の自由度は18,氷の自由度は9と考えられ,液体の水の場合はH2O分子を構成する3つの原子の個々がそれぞれ自由度6,固体の氷の場合はそれぞれ自由度3を担わなければならないという勘定になります。

一般に,1つの粒子が単なる質点なら自由度は高々3です。一方,質点ではなく大きさがあって重心運動の他に回転の自由度がある剛体とか,3次元の調和振動子のように内部振動をするような構造を持つなら丁度6の自由度を持ちます。

 

2Oを構成する3原子の各々が互いに全く束縛されることがない自由粒子であり,しかも構造を持たない質点である場合なら,個々の自由原子の持つ自由度が3なので合計で2O分子の自由度は9になります。

  

また,2Oを構成するそれぞれの原子が自由粒子でかつ内部構造(大きさ)を持ち,例えば回転自由度3を追加された剛体であれば,H2O分子の自由度は18になります。

 

さらに振動の自由度を加えれば独立な1方向当たり2ずつ自由度が増えます。つまり,原子をさらに核と電子に分けるなど内部の詳細構造を追及していけば,まだまだ比熱に寄与しそうな自由度を増やすことが可能であるという勘定にはなります。

 

そこで液体の水についても,これをH2Oを構成する3つの原子の各々がそれぞれ調和振動子であるとか,またはH2Oの重心運動と全体としての回転運動はあっても振動はできない剛体のようなものと見なせるような奇妙な構造の模型を仮定すれば説明できるかな?という程度の認識に到ります。

結局は,水素結合などの特別な化学結合が関係していると思われるので,こうした問題意識を動機として,次回からは化学結合関連についての知見について復習し,その内容の詳細については事実上初めての真面目な勉強をしてみます。

 

本日は単に化学結合についての記事を書く動機のみを書きました。

 

水分子の結合や,その相転移などの説明については,水素結合などを理解した後,できたらまたの機会に詳述したい,と考えています。

参考文献:「理科年表1997年版」(丸善出版) (※再掲記事終わり)

 

ところが,かつて2006年7/16の記事「二酸化炭素の比熱比(物性)」 http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2006/07/post_1731.html においてCO2分子というのは3原子が一直線に並んでいるため回転の自由度が3ではなく2であるという結論を得ています。

 

したがって,H2Oの場合も水素結合にしろ共有結合(covalent bond)にしろ,気体の状態であっても分子として安定な平衡状態(equillibrium)では,一直線上ではありませんがHとO,HとHのなす角度(angle)は決まっているはずなので,上記記事で水蒸気の気体分子としての回転の自由度が3と考えたのは誤りで,CO2と同じくH2Oの場合も回転の自由度は2であろうと考えました。

 

この続きを論じるため,上記2006年7/16の記事「二酸化炭素の比熱比(物性)」を再掲します。

 

※(再掲記事2) 

  今日は,理想気体の断熱過程での気体法則であるポアソン(Poisson)の公式PVγ=一定,または TVγ-1=一定で使用される比熱比 γ= Cp/Cvの値について,考察します。

 統計力学によれば,比熱比は対象とする気体1分子を構成する原子の個数,つまり気体分子が単原子分子,2原子分子,3原子分子etcのいずれであるかによって決まります。

 ここで, Cv は定積比熱,Cpは定圧比熱です。

 (理想)気体に対する定積比熱,と定圧比熱の間にはマイヤー(Mayer)の法則というルールがあり,nモルの気体に対してはCp=Cv+nR (1モルなら Cp=Cv+R )が成り立ちます。

 ただし,Rは気体定数と呼ばれる定数で,R≒8.31J/(mol・K)です。

 そして,気体の定積比熱 Cvは絶対温度をT,内部エネルギーをUとすると Cv=dU/dTで与えられます。

 理想気体ではUは温度だけの関数なので,T=0 での零点エネルギーを無視すると,気体の内部エネルギーはU =CvT と書けます。

 古典統計力学によると,物体の常温での内部エネルギーUは,1粒子の運動する自由度1つごとに kBT/2 だけの値を割り当てられます。ここで kB はボルツマン定数と呼ばれる気体分子1個当たりの気体定数です。

 kBは気体1分子当たりの気体定数ですから,R=N0B,またはN0=R/kBとすると気体1モルというのはN0個の分子の集合体を意味することがわかります。N0はアボガドロ数と呼ばれる物理定数で6.02×1023 なる値です。

 nモルの気体を構成する分子数はnN0個ですから,それの1自由度あたりの内部エネルギーはnN0BT/2=nRT/2 です。

 以上の事実はエネルギー等分配の法則といわれますす。

 単原子分子気体では分子1個の自由度は並進運動の自由度3だけなのでnモルの気体の内部エネルギーはU=3nRT/2 です。そこでCv=3nR/2, Cp=Cv+nR =5nR/2です。

 また,2原子分子気体は回転の自由度2 が加わるので,分子1個の自由度は並進運動(重心運動)の自由度3と合わせて5となります。そこでnモルの気体の内部エネルギーはU=5nRT/2となります。Cv=5nR/2, Cp=7nR/2です。

 3原子分子以上では重心の周りの回転の自由度が最大の3になるため,これを並進運動(重心運動)の自由度3と合わせると分子1個の自由度は6となりますから,nモルの内部エネルギーはU=3nRT で,Cv=3nR, Cp=4nRとなります。

 そこで,比熱比γ=Cp/Cvは単原子分子気体なら1.67で2原子分子気体なら 1.4,そして3原子分子以上なら特別な対称性がない限り1.33になるはずです。

 そこで本当にそうなっているのかどうかを理科年表で確かめてみると,He  1.66, Ar  1.67, H2  1.40, N2 1.40, H2O 1.31, NH3 1.33 とありました。

 これを見ると,必ずしも近似的に理想気体と見なせる希薄気体ではないような実在気体でも,かなり良く適合値を示しているようです。

 ここで,ニフティ「物理フォーラム」でのある方からの質問を呈示してみます。

 "3原子分子であっても,二酸化炭素 CO2が典型例であるように,一直線に並ぶ3原子分子の場合にはどうなるのだろうか?もし厳密に一直線ならば回転の自由度は2なので2原子分子と同じγ,つまり 1.4になるはずですが,理科年表によると二酸化炭素 CO2のγは1.30でしたから,これは普通の3原子分子に近い値です。"

 上記が質問の内容です。

 そこで,これに対する答えを見出すために,これまで考えてきた並進や回転の自由度だけではなく,振動の自由度も考慮するとどうなるかを考えてみます。

 重心の並進運動や回転の運動とは異なり,振動の自由度なら1方向の調和振動に対しては,位置エネルギーと運動エネルギーの2つの自由度があるので,1方向についての平均エネルギーは 1分子当たりkBTになります。

 たとえば静止した固体は3方向に熱振動しているので,常温では1モルにつき,比熱は気体定数をRとして固体の種類によらず3Rとなります。(デュロン・プティ(Dulog-Petit)の法則)

 つまり,1次元調和振動子のエネルギーは E=p2/(2m)
+(1/2)kx2であり,"マクスウェル・ボルツマン分布=古典確率分布"によれば,振動子の座標が(x,p)である確率密度はギブス因子exp{-E/(kT)}に比例します。

 そこで,エネルギー Eを表わす式の中の1つの変数の2乗を与える変数自由度について,それぞれ平均をとると kBT/2 となりますが, E=p2/(2m)+(1/2)kx2の右辺にはp2と x2 の2つの2乗項があるので振動のエネルギーを考えた場合には,平均エネルギーへの寄与は 1分子当たり一つの方向(1次元)について kBTとなります。

 これに対して,重心の自由な並進運動とか,回転運動では位置エネルギーの項はなくて運動エネルギーの項しかない,つまり p2の項しかないので,平均エネルギーへの寄与は1分子当たり1次元について kBT/2 となるのですね。

 とにかく,古典統計力学ではax2 exp {- ax2/(kT)} なる式をx で積分したものを,exp{-ax2/(kT)}をx で積分したもので割ると,必ずkBT/2 になるということを直接計算で確かめることができます。

 これは自由度が1つでもあればそうで,係数aの大きさには無関係です。

 ところで常温での固体では,格子を構成する原子のイオンの熱振動がメインになる(電子振動は無視される)のに対して,気体では、原子の重心運動と回転運動のみがメインとなり,熱振動の自由度や電子の運動の自由度が何故無視されるのかという問題があります。

 これは量子論ではエネルギーが量子化され,統計分布がプランク(Planck)定数hに関係した量子確率分布で与えられるためです。

 こうしたことの理由を簡単に言うなら,物質内部のエネルギーを E としその構成粒子の主要な振動数をνとすると,Eは量子論では大体においてhνの倍数で与えられ,量子統計分布では,先のギブス因子exp{(-E/(kBT)}がexp{-nhν/(kBT)}という形で現われるからです。

 常温のTでは固体の電子の振動や気体での原子振動の振動数や電子の自由度に関わる周期運動の振動数νに対しては,一般にhν>>kBTが成立するので,exp{-nhν/(kBT)} ~ 0 となるためこれらは内部エネルギーにはほとんど寄与しないのです。

 ところが,問題の二酸化炭素:CO2について「甘泉法師さん」から得た情報によると,"二酸化炭素分子の振動データは,次の振動モードのそれぞれについて,全対称伸縮は実測=1333/cm,計算=1373/cm(12CO2),逆対称伸縮は実測=2349/cm,計算=2420/cm(12CO2),変角振動は 実測=667/cm,計算=669/cm(12CO2)となっているそうです。

 一番エネルギーの小さい変角振動について温度に換算すると赤外線温度 1.4387752・667 = 953Kで常温(300K)の約3倍"なので振動を無視できないそうです。

   実際,変角の振動モードに対して,例えば摂氏(Celsius)16度:T=289Kで x = E/(kBT)=3.32を用いて量子論でのモル比熱を求める式(固体のアインシュタインモデルと同じ式)であるCvib=R x2 exp ( x2 )/[exp ( x2 )-1]に代入すると,Cvib=0.43Rとなります。

 変角振動は横波なので縦振動を除いて自由度が2 であるため結局Cvib=0.43R ×2=0.86Rであり,比熱比はγ=1+ R/ (5/2R+Cvib)=1.30となって,めでたく理科年表の値と一致します。

 ただし,こうして正しい値が得られたのは,振動を除く自由度としては原子が1直線状であることを考慮して2原子分子と同様,定積モル比熱がCv=5/2Rの場合に対応する自由度を想定して計算した結果ですから,やはりCO2では回転の自由度は2である,と考えるのが正解のようです。(※再掲終わり)

 

私は,元々ニフテイ「物理フォーラム」でサブマネージャーをしていたのですが@niftyには,もはやこうしたフォーラム制度がなく過去ログも含めて今はfolomyhttp://folomy.jp/heart/に移っています。

 

上記記事では,普通は常温の気体の場合には振動の自由度は無視されるのですが,二酸化炭素の変角振動のモードは比熱への有意な効果を与えるため気体のCO2定積モル比熱vの(重心+回転)による自由度5の寄与Cv0=5R/2に加えて,自由度が2の振動の寄与がvib=0.43R×2=0.86Rと算定されるという結論を得ています。

 

水蒸気2,の場合にも,自由度が2の振動の寄与がvib=0.25R×2=0.5R程度であるとすれば,v=3R, C=4Rとなって,比熱比γ≡C/Cv=4R/(3R)~ 1.33なる実験値に矛盾しません。

 

問題は摂氏100度の水蒸気についての実測の定圧比熱がC2.051J/(gK)=0.50cal/(gK)となっていることで水1モルの質量が18gであることを考慮するとp4.5R=(9/2)RでCp=4Rよりも大きく,これからマイヤーの規則で計算すると,定積モル比熱はCv3.5R=(7/2)Rとなってγ=C/Cv~ 1.28となり実測のγ1.33と合わないということでした。

 

しかし,確実に比熱にR/2の寄与をする回転の自由度ではなく,振動の自由度の寄与ということであれば振動数次第で寄与を微調整することが可能です。

 

上記では水蒸気については振動の1自由度当たり0.25Rであるとしましたが,例えばこれを0.35Rくらいであると同定すればp4.2R,v3.2R,γ=C/Cv4.2/3.2程度になるし,水1モルの質量も現実には確実に18gというわけではなく17.5g程度なら,実測値と考えている理科年表のC2.051J/(gK)=0.50cal/(gK)とさほど矛盾しないようです。 

 

http://folomy.jp/heart/「folomy 物理フォーラム」サブマネージャーです。

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2009年1月 3日 (土)

運動物質内の相対論(12)(熱力学の法則)

運動物質内の相対論の続きです。

 

今日は相対論における熱力学の記述を考察します。電磁気学ではないので本筋をはずれるようですが記事の最後で"電磁輻射=光子気体"との関連についても少し述べます。

熱力学の法則を特殊相対性理論に包含することは比較的容易です。

 

これについてはプランク(Planck)とアインシュタイン(Einstein)の仕事があります。

ここでは簡単のため,考察の対象として物体を構成する部分の如何なる面要素にも応力としては垂直な圧力のみが存在し得るような熱力学的流体のみから成る系に限定します。

まず,静止系では第一法則,第二法則など全ての通常の熱力学の形式が成立することを前提とします。

静止系では,熱力学第一法則によって状態変化を生起させる熱力学的過程での系のエネルギーE0の変化dE0はdE0=δQ0+δA0なる式で与えられます。

 

δQ0はこの過程で系に流入する熱量,δA0は系がその周囲になした仕事にマイナス符号を付けたもの,つまり外部環境から系が受ける仕事を示しています。

系の体積0の増加が無限小であるような過程は可逆過程ですが,この過程ではp0を圧力とし体積増加をdV0とすると系が受ける仕事δA0はδA0=-p0dV0で表わされます。

熱力学の第二法則によって静止系ではエントロピー0は状態量です。そして可逆変化によって定義されるエントロピー変化の定義はdS0≡(δQ0可逆)/T0=(dE0+p0dV0)/T0です。

 

(δQ0可逆)は今論じている状態変化をもたらす可逆過程で系に流入する熱量であり,T0は系の絶対温度です。

もしも状態変化が不可逆過程で生じたものなら,これに反して常にdS0>δQ0/T0が成立します。

1つの慣性系Sを考えます。その慣性系はその座標系に対して対象としている熱力学系が一定速度で走っているように見える系であるとします。

既に「運動物質内の相対論(4)(弾性連続体(2),完全流体)」で見たように,量μ0,p0,が完全流体のあらゆる位置で一定なら,系Sでの運動量密度とエネルギー密度を全体積V≡V0(1-2/c2)1/2にわたって積分することで,運動量VとエネルギーE=hVが次のように表わせることを知っています。

 

 すなわち,運動量はV={(h0+p0)V/c2}/(1-2/c2)={(h0+p0)V0/c2}/(1-2/c2)1/2={(E0+p00)/c2}/(1-2/c2)1/2で,エネルギーはE=hV=(E0+p002/c2)/(1-2/c2)1/2です。

これを見ると,(E/c,)=({E0+p002/c2)/c}/(1-2/c2)1/2,{(E0+p00)/c2}/(1-2/c2)1/2})はローレンツ共変な4元ベクトルにならないことがわかります。

 

しかし,=(E+pV)/c2,E+pV=(E0+p00)/(1-2/c2)1/2なので,Gμ≡(E/c,)ではなくGμ≡((E+pV)/c,)とおけば,これらは静止質量が(E0+p00)/c2の質点のエネルギー運動量ベクトルと同じですから4元ベクトルです。

今考えている流体は静止系で平衡状態にあるので,そのエネルギー,および運動量は,それぞれE=(E0+p002/c2)/(1-2/c2)1/2,および={(E0+p00)/c2}/(1-2/c2)1/2=(E+pV)/c2で与えられます。

 

また,特にE+pV=(E0+p00)/(1-2/c2)1/2です。ただしp=p0,V=V0(1-2/c2)ですね。

さて,再び任意の慣性系でこの熱力学系の状態を変える同じ可逆過程を考えます。熱力学の第一法則はエネルギーの保存法則ですから任意の座標系でdE=δQ+δAと書けるはずです。

しかし,仕事δAは静止系のときのように-pdVではありません。なぜなら運動系では速度に伴なう系全体の運動量や運動エネルギー等があるため過程においてそれらに生じる変化をも考慮する必要があるからです。

 

系の平衡を保つため,つまり速度が物体のいたるところで一定であるためには普通の圧力の他に外力の存在を仮定しなければなりません。

S系において物体中でを一定に保つに必要な力=d/dt={(/c2)/(1-2/c2)1/2}(d/dt)(E0+p00)です。

 

そして,右辺は今想定している熱力学過程の間でゼロではないので,物体系の速度が一定に見えるためには,S系では物体に作用する外力の存在が必要なのです。

 

このは時間dtに(Fu)dt=だけ仕事をします。したがって,この系が受ける仕事は全体でδA=-pdV+となります。

そこで,E=(E0+p002/c2)/(1-2/c2)1/2,={(E0+p00)/c2}/(1-2/c2)1/2によって熱力学の第一法則dE=δQ+δAはδQ=dE+pdV-となります。

 

したがって,δQ={dE0+(2/c2)d(p00)-(2/c2)d(E0+p00)}/(1-2/c2)1/2+p0dV0(1-2/c2)1/2=(dE0+p0dV0)(1-2/c2)1/2なる式を得ます。

 

静止系では,dE0=δQ0+δA0=δQ0-p0dV0よりδQ0=dE0+p0dV0ですから,これはδQ=δQ0(1-2/c2)1/2であること意味します。

さて,任意の座標系でもエントロピーSと絶対温度Tの関係をdS≡(δQ可逆)/Tで定義します。

 

ところで,ある特定の座標系に静止している熱力学系を,その内部状態を変えないように,系全体の速度がになるまで断熱可逆的に加速すろとき状態量の変化はdS≡(δQ可逆)/Tを満たします。

 

断熱ですからこの過程中にはδQ可逆=0 ⇔ dS=0 です。つまり,静止系からS系に慣性系を乗り換えても,エントロピーは一定のままである必要があります。

つまり,内部状態が一定のとき,この系のエントロピーはその全体としての速度に無関係です。エントロピーはS=S0でローレンツ不変量です。

 

まあ,早い話,純粋に力学的な回転やブ-ストは可逆過程で,かつ断熱過程なのでエントロピーは変化しないのですね。

というわけで,dS=dS0です。dS≡(δQ可逆)/T,dS0≡(δQ0可逆)/T0,δQ=δQ0(1-2/c2)1/2ですから,T=T0(1-2/c2)1/2なる絶対温度の変換式が得られます。

 

これは,状態の不可逆的変化が静止系と同じく,あらゆる座標系でdS>δQ/Tを満たすこととも矛盾しません。

一般的な系でエネルギーと運動量の保存則を微分形式で表現すると,既に閉じていな系の一般論で述べたように,これは∂Tμν/∂xν=fμで与えられることがわかっています。

 

ただし,Tμνは系のエネルギー運動量テンソルを表わし,fμは4元力密度を示しています。∂Tμν/∂xν=fμは,熱力学においては第一法則そのものを表わしています。

 

一方,第二法則を4次元形式で表現することも可能です。

エントロピーが加法性を持つことから,エントロピー密度sを定義することができます。

 

エントロピーの変換公式S=S0と体積のそれV=V0(1-2/c2)1/2から,sΔV=s0ΔV0により,容易に密度sの変換性を求めることができます。明らかにs=s0/(1-2/c2)1/2ですね。

さて,無限小時間dtを考えて,この間に微小体積ΔVに熱量δQが流入したとします。

 

このとき,体積ΔV内のエントロピー変化dS=d(sΔV)は,クラウジウスの不等式:{d(sΔV)/dt}dt≧δQ/Tを満たすはずです。

 

ところが,既にd(sΔV)/dt=(ds/dt)ΔV+s(dΔV/dt)=(∂s/∂t+grads)ΔV+sdivΔV={∂s/∂t+div(s)}ΔVと書けることを知っています。

そこで,電荷Qに対する4元電流密度Jμと同じように,エントロピーの4元流密度をSμ≡(s,s/c)で定義すると,上で得られたd(sΔV)/dt={∂s/∂t+div(s)}により,{d(sΔV)/dt}dt≧δQ/Tは,(∂Sμ/∂xμ)d∑≧δQ/Tと書けます。

 

ただし,d∑≡cΔVdtですが,これは4次元の不変体積要素を示しています。

δQ=δQ0(1-2/c2)1/2,およびT=T0(1-2/c2)1/2によってδQ/Tはスカラーですから,結局,第二法則のローレンツ共変な4元形式は(∂Sμ/∂xμ)d∑≧δQ0/T0となります。

さて,次にN個の単原子分子から成る理想気体を考えます。

 

これは静止質量がm0の分子の平均の運動エネルギーが静止エネルギーm02に比べて小さい場合には静止系でのエネルギーやエントロピー等に関し通例となっている状態方程式がわかっています。

 

すなわち,kB0/m02<<1のとき,理想気体の状態方程式はp00=NkB0です。kBはボルツマン定数(Boltzmann constant)です。

静止系での気体の総エネルギーはE0=Nm02+(3/2)NkB0です。E0はT0=0 のときにエネルギーE0が分子の静止エネルギーとなるように規格化されています。

 

これとp00=NkB0,およびdS0=(dE0+p0dV0)/T0からdS0=(3/2)NkBdT0/T0+NkBdV0/V0と書けます。

 

これを積分すると静止系でのエントロピーの表式は良く知られたS0=(3/2)NkBlnT0+NkBlnV0+Cという形になります。なお,右辺のCはT0,V0に依らない積分定数です。

この理想気体の系が一定の巨視的速度を持つように見える座標系においても,p=p0,V=V0(1-2/c2),T=T0(1-2/c2)ですからp00=NkB0はそのままpV=NkBTを意味します。

 

よって,気体の状態方程式の形は慣性座標系によらず不変であるとわかります。

一方,既に見たようにE=(E0+p002/c2)/(1-2/c2)1/2,={(E0+p00)/c2}/(1-2/c2)1/2=(E+pV)/cです。

 

それ故,E=Nm02/(1-2/c2)1/2+(3/2+2/c2)NkBT/(1-2/c2),=Nm0/(1-2/c2)1/2+(5/2)NkB/(c22),S=(3/2)NkBlnT+NkBlnV-(5/2)NkBln(1-2/c2)1/2+C,なる変換のセットを得ます。

既に過去記事で述べたように,完全流体のエネルギー運動量テンソルはTμν0+p0/c2)Uνν-p0ημνで与えられることがわかっています。

 

ただしμ0=E0/(c20)=n0{m0++(3/2)kB0/c2}は静止系での密度で圧力はp0=n0B0を満たします。n0≡N0/V0は静止系での分子数密度です。

したがって,静止系での圧力p0,密度μ0,温度T0の間にはp0=μ0B0/{m0++(3/2)kB0/c2}なる関係があることがわかります。

 最後に黒体輻射の話をします。

空洞内に閉じ込められて空洞の壁とある温度で平衡状態にある電磁輻射は完全流体として扱うことができます。

空洞の壁が静止している座標系では"電磁輻射=光子気体"の巨視的な流れはいたるところゼロです。つまり統計熱力学の対象としては輻射される電磁波の統計平均としての速度は静止系では方向性がないのでゼロなのですね。 

そして,輻射のエネルギー密度h0はステファン・ボルツマン(Stefan-Boltzmann)の法則によって,h0=a(T0)4で与えられます。

 

ただし,aはステファン・ボルツマン係数でa~7.6237×10-15 erg/(cm3.deg4)です。密度h0は空洞の体積によらない量です。

また,面に垂直に及ぼされる輻射圧は,p0=h0/3=a(T0)4/3=μ02/3で与えられます。

 

また,輻射の全エネルギーE0はE0=h00=aV0(T0)4と表わされるので,dS0=(dE0+p0dV0)/T0に代入すると,dS0=4aV0(T0)2dT0+(4a/3)(T0)3dV0=(4a/3)d{V0(T0)3}を得ます。

 

そこで,これを積分してV0=0,T0=0ではS0=0 となるように,積分定数を選べば,S0=(4/3)aV0(T0)3が得られます。

したがって,この空洞容器の固定された系が速度で運動しているように見える座標系では,E=(E0+p002/c2)/(1-2/c2)1/2=aV0(T0)4{1+(1/3)(2/c2)}/(1-2/c2)1/2=aVT4{1+(1/3)(2/c2)}/(1-2/c2)です。

 

また,={(E0+p00)/c2}/(1-2/c2)1/2={(4/3)aV0(T0)4/c2}/(1-2/c2)1/2となります。

 

エントロピーはスカラーなので,S=S0=(4/3)aV0(T0)3=(4/3)aVT3/(1-2/c2)3ですね。

そこで,この輻射のエネルギーEと運動量を,E0,の関係として表わせばE=E0{1+(1/3)(2/c2)}/(1-2/c2)1/2,={(4/3)E0/c2}/(1-2/c2)1/2となります。

 

これらは前に古典電子模型として論じた球対称な静電系の運動系での表式と完全に一致しています。これで,取り合えず,熱物理学の話と電磁気学の話が結びつきました。

今日はここで終わります。 

参考文献:メラー 著(永田恒夫,伊藤大介 訳)「相対性理論」(みすず書房)

 

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2008年1月 6日 (日)

水,氷,水蒸気の比熱

 たまには化学の話題,といっても物理化学;物理学なら物性物理学ですが,その基礎的な量子化学の入門関係の話を少ししてみましょう。

 というのも水や氷,水蒸気の比熱について少し思うところがあったからです。

気体としてのH2,すなわち水蒸気なら理論的には常温での3原子分子の自由度は6です。

 

古典統計物理学におけるエネルギー等分配の法則,すなわち,"絶対温度Tにおいて1自由度当りの内部エネルギーはkBT/2 である。"という法則によれば,水蒸気の定積モル比熱はCv,mol(1/2)R×6=3Rとなるはずです。

 

B≡R/N0はボルツマン定数~ 1.38×10-23JK-1)で,Rは気体定数~ 8.31Jmol-1-1),N0はアボガドロ数r~ 6.022×1023mol-1)です。

そして,マイヤーの法則(Mayer's relation)によると,定圧モル比熱はCp,mol=Cv,mol+R=4Rと書けるので,比熱比はγ≡C/Cv=4R/(3R)~1.33となるはずです。

1モルのH2Oの質量は18gです。

 

そこで,質量1g当りの熱容量に換算するとCv8.31×3J/(molK)=1.385J/(gK)=0.33cal/(gK),C8.31×4J/(molK)=1.846J/(gK)=0.44cal/(gK)となるはずです。

 

しかし,理科年表によると,摂氏100度の水蒸気について,定圧比熱がC2.051J/(gK)=0.50cal/(gK)で,比熱比がγ≡C/Cv1.33となっていました。

これらの実測値は,比熱比γについては理論と一致していますが,定圧モル比熱については実測はCp,mol4.5R=(9/2)Rとなっています。

 

これは,今私が計算した理論値のCp,mol=4Rよりも大きく,実測のCp,molからマイヤーの規則で計算すると,定積モル比熱はCv,mol3.5R=(7/2)Rとなりますから,これからはγ≡C/Cv~1.28となって実測のγ1.33と矛盾します。

 

まあ,水蒸気は理想気体でないのは明らかですから,何らかの理由があるのでしょう。

一方,液体の水の比熱は定義によると1gの水を摂氏14.5度から15.5度まで1度上昇させるに要する熱量が1calです。

 

常温での水の比熱はC1cal/(gK)=4.19J/(gK)です。

 

また,氷の比熱は実験によると,C0.50cal/(gK)=2.085J/(gK)となっています。つまり,C,mol~9R,C,mol4.5R=(9/2)Rですね。

 

もしも氷が固体金属と同じような格子結晶であるなら,デュロン・プティの法則(Dulong-Petit's law)によってC,mol=3RなのでC0.33cal/(gK)になるはずですが,実際にはそうなっていません。

 

(固体金属の場合は電子の自由度は常温では無視できて,格子位置の陽イオンの格子振動,つまり自由度が2の調和振動子の3方向の自由度6の寄与のみにより,常温でのモル比熱がほぼC金属=3Rで与えられるということが理論的にも実験的にも認められています。(デュロン・プティの法則))

 

このことから,古典的には水の自由度は18,氷の自由度は9と考えられ,液体の水の場合はH2O分子を構成する3つの原子の個々がそれぞれ自由度6,固体の氷の場合はそれぞれ自由度3を担わなければならないという勘定になります。

一般に,1つの粒子が単なる質点なら自由度は高々3です。一方,質点ではなく大きさがあって重心運動の他に回転の自由度がある剛体とか,3次元の調和振動子のように内部振動をするような構造を持つなら丁度6の自由度を持ちます。

 

2Oを構成する3原子の各々が互いに全く束縛されることがない自由粒子であり,しかも構造を持たない質点である場合なら,個々の自由原子の持つ自由度が3なので合計で2O分子の自由度は9になります。

  

また,2Oを構成するそれぞれの原子が自由粒子でかつ内部構造(大きさ)を持ち,例えば回転自由度3を追加された剛体であれば,H2O分子の自由度は18になります。

 

さらに振動の自由度を加えれば独立な1方向当たり2ずつ自由度が増えます。つまり,原子をさらに核と電子に分けるなど内部の詳細構造を追及していけば,まだまだ比熱に寄与しそうな自由度を増やすことが可能であるという勘定にはなります。

 

そこで液体の水についても,これをH2Oを構成する3つの原子の各々がそれぞれ調和振動子であるとか,またはH2Oの重心運動と全体としての回転運動はあっても振動はできない剛体のようなものと見なせるような奇妙な構造の模型を仮定すれば説明できるかな?という程度の認識に到ります。

結局は,水素結合などの特別な化学結合が関係していると思われるので,こうした問題意識を動機として,次回からは化学結合関連についての知見について復習し,その内容の詳細については事実上初めての真面目な勉強をしてみます。

 

本日は単に化学結合についての記事を書く動機のみを書きました。

 

水分子の結合や,その相転移などの説明については,水素結合などを理解した後,できたらまたの機会に詳述したい,と考えています。

参考文献:「理科年表1997年版」(丸善出版)

 

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2007年12月17日 (月)

理想気体の圧力と分子運動論

 気体,液体,固体などの物質を莫大な個数の"微視的な粒子=分子"の集まりとみなし,その統計的な平均量を熱力学的な諸量と同定する,いわゆる統計熱物理学の見方では,気体の圧力:Pは次のようにして計算されます。

 分子の位置や運動量,あるいは:速度ごとの分子数密度の比率を与える統計分布に基づいて,まず気体の内部エネルギー:Uを求め,然る後に熱力学第1法則:dU=TdS-PdVを用いて,エントロピー:Sが一定の下での体積VによるUの偏微分:P=-(∂U/∂V)Sによって圧力Pが得られます。 

 ここでTは系の絶対温度,Sはエントロピー,Vは系の体積です。

 

 熱力学第1法則の微分表現dU=TdS-PdV可逆過程を想定した式です。

具体的には,次のようになります。

 

対象とする系の絶対温度がTのときに系がエネルギーEを取る確率は一般にボルツマン(Boltzmann)因子:exp{-E/(kB)}(ただしkBはボルツマン定数)に比例する関数で与えられます。

この分布はカノニカル分布(正準分布),マクスェル・ボルツマン(Maxwell-Boltzmann)分布(M-B分布),あるいはギブス(Gibbs)分布と呼ばれています。

 

これは系の総分子数をN,古典的状態,または量子状態がrのときの系のエネルギーをεr,この状態を占める分子数をnrとするとき,その比率がnr/N=exp(-βεr)/{Σrexp(-βεr)} (ただしβ≡1/(kB))なる関係式で与えられることを意味しています。

 

ただし古典的状態rというのは莫大な個数の全ての分子の各々が占める位置と運動量(速度)の組合せで与えられます。

"状態和=分配関数"をZ≡Σrexp(-βεr)によって定義します。

 

このZを用いて内部エネルギーUはU=Σrrεr(N/Z)Σrεrexp(-βεr)=-N[∂(lnZ)/∂β]なる式で,圧力PはP=-Σrr(∂εr/∂V)=(N/Z)Σrexp(-βεr)(∂εr/∂V)=(N/β)[∂(lnZ)/∂V]なる式で表わされます。

そして,状態和の定義式Z≡Σrexp(-βεr)は各項が体積に無関係にエネルギーεrが与えられれば,全てexp(-βεr)という同じ形をしているので,結局は系の状態の総数に比例する量であると考えられます。

 

状態と位置座標の対応から総状態数は単純に体積に比例すると思われるので理想気体ではZは示量的な量であってZ=cV(cは比例定数)という形として書けるはずです。

 

したがって,∂(lnZ)/∂V=1/Vとなり,P=(N/β)[∂(lnZ)/∂V]=N/βV=NkB/Vとなって,よく知られた理想気体の状態方程式:PV=NkBが得られるわけです。

最近は局所平衡にある散逸構造とかを扱う非平衡統計力学なるものもあるようですが,伝統的な統計物理学は平衡統計力学で,系の確率分布はエントロピーSが最大で停留値を取ること,つまりdS=0 を満たす熱平衡状態,つまり釣り合いの状態にあることを条件として導かれた平衡分布です。

 

そこで,上の圧力の導出手続きにおいては,熱力学でのP=-(∂U/∂V)Sなる表式におけるエントロピーSが一定という条件は当然満足されています。

一方,初歩的な気体分子運動論では,1辺の長さがLの立方体の容器の中に質量がmの総個数がN個の気体分子が閉じ込められている模型を考えます。

  

"気体分子は単に時折互いに弾性衝突をする以外には相互作用をしない"という熱平衡状態での理想気体の仮定の下で多数の分子が容器の壁に衝突して反射するときの"各分子の運動量の変化=壁から受ける力積"の総和=合力の力積の反作用が容器の壁面の受ける力積であるとして壁に対する気体の圧力Pを求めます。

これは,具体的には次のようにして圧力を計算します。

分子の速度をv=(vx,vy,vz)とすると,その運動量は=mですから,1つの分子がx軸に垂直な壁との弾性衝突によって壁に受け渡す運動量は壁に垂直で大きさが 2mxのベクトル量です。

 

この,分子が距離Lだけ隔たった左右の壁を往復するのに要する平均時間は2L/vxなので,十分な時間間隔τの間の衝突回数はvxτ/(2L)であり,その間に壁に及ぼす力積はfxτ=(2mx){xτ/(2L)}=mvx2τ/Lとなります。

それ故,N個の気体分子全体が壁に与える力積の総和を求めるとx2の平均値を<x2>と表記して,xτ=Nm<vx2>τ/Lとなります。

 

そこで,壁に受け渡す合力FxはFx=Nm<vx2/Lとなります。

 

ところで,2x2+vy2+vy2であり熱平衡状態では気体分子の速度分布は等方的であると考えられますから,<x2>=<y2>=<y2>=<2/3としてよいはずです。

 

そこで,x(1/3)Nm<2/Lと書けます。

壁に及ぼす圧力Pは単位面積当たりの力で定義されますから,P=Fx/L2(1/3)Nm<2/Vと書けます。

 

ここにV≡L3は立方体容器の体積です。

 

ここで統計力学における常温でのエネルギー等分配の法則によって,(1/2)m<2>=(3/2)kBTなる等式が成立するので,これを代入するとPV=NkBTとなり通常の理想気体の状態方程式であるボイル・シャルルの法則,あるいはボイル・ゲイリュサックの法則が得られます。

次に本日のメイン・テーマですが,気体運動論の1例として伝統的に記述されることの多い上述の容器の壁面における気体の圧力の導出ではなく,同じ気体分子運動論によって,容器内の任意の場所における圧力を計算で求めることを考えます。

容器内の任意の領域1を囲む閉曲面をSとするとき,その領域内の気体に対するニュートンの運動方程式はd[∫V1dV]/dt=-∫SPdで与えられます。

 

右辺は-∫V1∇PdVですから,微分形で書けばd/dt=-∇Pではないかと思います。

 

しかし,莫大な数の気体分子の平均としては,左辺はd<>/dt=0 であり,右辺も容器内では圧力Pは一様なので-∇P=0 です。

 

これは積分形でもd[<>V1]/dt=-∫SPdS=0 なので,気体に対する運動方程式からは圧力Pに関して何の情報も得られないように見えます。

ところが,d[∫V1dV]/dt=-∫SPdなる等式をよく見ると,左辺は単位時間に領域V1を囲む閉曲面Sを通過してV1に流入する運動量の総量-∫Sp・vを示しています。

 

Sがある領域を囲む閉曲面ならこれももちろんゼロですが,Sを閉曲面ではなく単なる断面と考えて左辺を面Sをたたいて通過する運動量の総量と見ることにより,新しい知見が得られます。

 

ただし,は気体分子全体の運動量,は流速で,記号p・vはそのi成分がΣj=13ijdSjで与えられるベクトル量を表わします。

 

そして,微小断面積を通る単位面積当たりの運動量の流れを示すテンソルp・vは流体力学ではおなじみの量ですが,これは運動量流束と呼ばれています。

結局,-∫Sp・v=-∫SPdと書くことができて,面Sの任意の微小断面dSを通って外部から流入する総運動量-p・vはその断面に加わる力-Pdに等しいと考えられます。

 

つまり面を通過する運動量流束をその面での圧力と同一視する新しい見方が得られたわけです。

したがって,Σj=13ijdSj=PdSiですからij=Pδijが成立します。

 

両辺でi=j=1,2,3としたものを全て加え合わせる(縮約する,あるいは対角和(trace)を取る)とpv=3Pが得られます。

 

左辺は単位体積当りの平均分子数=数密度(/V)を用いてpv(N/V)(m2)と書けますが,この面S上の各点における局所的な2値は面全体を考えたときには,それを平均値<2>で置き換えるのが妥当と思われるのでpv(N/V)(m<2>)とします。

したがってP=(1/3)pv(2/3)(N/V){(1/2)m<2>}であり,先に述べたように(1/2)m<2>=(3/2)kBTですから,P=NkBT/V=nRT/V (ただしR=N0Bは気体定数;N0アヴォガドロ数;n=N/N0はモル数)と書けます。

 

やはりP=nRT/VあるいはPV=nRTなる理想気体の状態方程式を得ます。

 

まあ,実際には任意の点における微小断面でその両側からの運動量流束は相殺されてゼロとなり,それゆえ閉曲面で囲まれた任意の領域で運動量の流入量の収支がゼロである,という先述の積分表式があったわけです。

 

これは圧力に関わらず,静止時には各断面の両側での応力は釣り合っていて,各点での合力としてはゼロである,という応力の本質的な性質に根ざすもので,運動量流束が圧力に等しいと同定するのが合理的と考えたのは本質的には直感によるものです。

参考文献: 中村 伝 著「統計力学」(岩波全書)

 

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2007年7月20日 (金)

揺動散逸定理

 非平衡統計熱力学の1過程としてブラウン運動などに関わる揺動散逸定理(fluctuation dissipation theorem)について述べてみます。

 

 この定理は誰が起源なのかよく知らないのですが,日本では線型応答理論の一環として統計物理学の重鎮であった久保亮五先生などが関わっていたと記憶しています。

 

 一般に,ある物理量(示量変数の組):=(a1,a2,..,an)があって,エントロピーSがの関数であるとき,系の時間発展はに対する1階微分方程式で表現されて,それはdai/dt=(dai/dt)rev+(dai/dt)irrのように,可逆な部分(dai/dt)revと不可逆な部分(dai/dt)irrの和として与えられます。

 そして,可逆部分はさらに,(dai/dt)rev=Σj{ai,aj}(∂S/∂aj)という構造を持つとします。

 

 ここで,{X,Y}はポアソン括弧のように,{Y,X}=-{X,Y}という反対称性を持ち,{X,f}=Σj{X,aj}(∂f/∂aj)という性質で規定される量であるとします。

こう定義すると,(dS/dt)rev=Σi(∂S/∂ai)(dai/dt)rev=ΣiΣj(∂S/∂ai){ai,aj}(∂S/∂aj)={S,S}=0 となって,可逆過程ではエントロピーは生成されないことになります。

 

実際には,断熱可逆変化か,あるいは可逆であって,かつサイクルである場合以外なら,可逆過程でもエントロピーの変化はありますから,これはどう解釈すべきなんでしょうか?

 

dai/dt=(dai/dt)rev+(dai/dt)irrは"可逆な部分と不可逆な部分の和である。"というよりもむしろ,"エントロピー非生成部分とエントロピー生成部分の和である。"と事実のままを述べた方がいいのかもしれません。

一方,不可逆部分については現象論的に(dai/dt)irr=Σjij(∂S/∂aj)と表わすことにします。

 

というのは,ajが示量変数のとき∂S/∂ajは示強パラメータであり,平衡の近傍では不可逆部分は示強パラメータ,あるいはその空間勾配に比例して進行するからです。

実際,問題としている系を局所平衡状態にある部分系の集まりと考えると,それぞれの部分系の物質密度をρ,単位質量当たりのエントロピーをsとしたとき,エントロピー密度(ρs)の変化は,一般に熱力学の関係式により示強パラメータFiと示量変数aiによって,d(ρs)=Σiidaiと表わされます。

 

この表式では確かに示強パラメータは,Fi=(∂S/∂aj)/Vと表わされています。

そして今,対象としている系が隣り合う2つの部分系A,Bだけから成るとし,A,Bが等しい体積Vを持つとするとき,各部分系のエントロピーS=Vρsは,Xi=Vaiの関数であると考えられます。

 

今,A,Bのエントロピーを,それぞれSA,SBとし,XiがAからBにΔXi=VΔaiだけ移動するとします。

iが系全体では保存する量であって,初めAにはXiがXiAだけBにはXiBだけあったとすると,AからBへのΔXi=VΔaiの移動による系全体のエントロピーSの増分は,ΔS=SA(XiA-ΔXi)+SB(XiB+ΔXi)-[SA(XiA)+SB(XiB)]~Σi(-∂S/∂XiA+∂S/∂XiB)ΔXi=Σi(-FAi+FBi)ΔXiとなります。

 

ここでFAi,FBはそれぞれ部分系A,BにおけるFiの値を表わしています。

系全体を孤立系と考えると熱力学第二法則によって,ΔS>0 でなければならないので,1つの示量変数Xi=Vaiのみに着目してAからBへと微小量ΔXi>0 の移動が起こるためには,示強パラメータFiについてはFBi>FAiであることが必要になります。

このことから,示量変数Xi=Vaiが保存量のときはXiの輸送を引き起こす駆動力となるのは示強パラメータFiの空間勾配であると考えられます。

また,示量変数Xi=Vaiが非保存量のときはΔS=ΣiiΔXiにおいてFi=(∂S/∂ai)/V>0 ならば,ΔXi=VΔai;Δai>0 なる変化が不可逆過程として進行し得ます。

 

つまり,一般にdS=Σiidai,Fi=(∂S/∂ai)と書けますが,量akが保存量のとき,その保存方程式は∂ak/∂t+∇k=0 であり,その流れkは一般にk=Σjkj∇Fjと,示強的な量Fj=(∂S/∂aj)の勾配を駆動力とする形に表わされます。

 

そこで,k'≡akとおくと,k=ak=ak(d/dt)ですから,dk'/dt=d(ak)/dtk=Σjkjj=Σjkj∇(∂S/∂aj)です。

 

そこで,もしもSがajの1次関数なら,∇(∂S/∂aj)~∂S/∂j'となり,示量変数k'の求める時間発展の形式dk'/dt=Σjkj(∂S/∂j')が得られます。しかし正直なところかなり苦しいです。

こうして,はっきりと証明されたわけではないのですが,現象論的発展方程式はdai/dt={ai,S}+Σjij(∂S/∂aj)と表わされるとします。

 

これは非平衡な初期条件から平衡状態への緩和を表わしています。

 

そこで(t)の時間発展は初期条件(0)=に対してai(t)=ai+t[{ai,S}+Σjij(∂S/∂aj)]+..で与えられます。

平衡状態においても,一般に巨視的な物理量(a1,a2,..,an)はゆらいでいます。たまたま,ある時刻に(t)が(t0)=という値をとったとして,その後の時間発展を観測します。

 

(t0+t)は初期時刻t0によってさまざまな値を取りますが,それらの平均を取ったものも現象論的発展と同じになるとします。

 

すなわち,初期条件(t0)=が与えられると短い時間では平均的に<ai(t0+t)>(t0)==ai+t[{ai,S}+Σjij(∂S/∂aj)]となると仮定します。これを線型減衰の仮定と呼びます。

平衡状態におけるゆらぎの時間相関関数<ai(t0+t)ak(t0)>を求めるには<ai(t0+t)>(t0)=に初期値ak(t0)=akを掛けてakの分布について平均すればいいので,t≧0 に対して<ai(t0+t)ak(t0)>eq=<<ai(t0+t)>(t0)=keq =<aikeq+t[<{ai,S}akeq+Σjij<(∂S/∂aj)akeq]となります。

平衡状態におけるゆらぎに対するボルツマン・アインシュタインの原理,つまり,ボルツマンの原理S=kBlnWから,逆に微視的状態数WがW()=exp[S()/kB]と書ける,ことを用います。

 

全状態数をWとしたときにW()/Wが変数の状態が実現する確率となりますから,平衡状態での関数f()の平均値は<f()>eq=(1/W)∫da1..danf()exp[S()/kB]で与えられます。

 

そこで,<(∂S/∂aj)akeq=∫da1..dan(∂S/∂aj)akexp[S()/kB]=-kBδkjとなります。

したがって,<ai(t0+t)ak(t0)>eq=<aikeq+t[<{ai,S}akeq-kBik]となりますが,右辺の{ai,S}はdai/dtの可逆部分です。

 

ところが,平衡状態では物理量の任意の関数は可逆変化では変化しないので,<{f(),S}>eq=0 です。もっともこれはその現象論の範囲で厳密に証明できるわけではないので仮説として導入するわけです。

 

そして,この式でf()=aikを代入すると,<aj{aiδjk,S}+aj{aiδijk,S}>eq=0 :すなわち<{ai,S}akeq=-<ai{ak,S}>eqが得られます。

 

そこで、物理変数ai,akの時間反転対称性に関して次の2つの場合を考えます。:

(Ⅰ)変数ai,akが共に時間反転に対して対称である場合

このときは<ai(t0+t)ak(t0)>eq=<ai(t0-t)ak(t0)>eqです。さらに平衡状態の定常性から物理量の時間相関は時間差のみに依存しt0には依存しないので<ai(t0-t)ak(t0)>eq=<ai(t0)ak(t0+t)>eqです。

 

以上から,<ai(t0+t)ak(t0)>eq=<ai(t0)ak(t0+t)>eqが得られます。

そこで両辺に線型減衰の仮定を適用すると,<aikeq+t[<{ai,S}akeq-kBik]=<aikeq+[<{ak,S}aieq-kBki]となるはずです。

 

これが実際に成り立つためには,<{ai,S}akeq=<{ai,S}akeqかつLik=Lkiが満たされなければなりません。

前者は<{ai,S}akeq=-<ai{ak,S}>eqと組み合わせると<{ai,S}akeq=<{ai,S}akeq=0 となります。要するに,ai,akが共に時間反転に対して対称ならば,その時間微分{ak,S},{ai,S}は明らかに時間反転に対して反対称となりますから,時間反転対称なaiやakとの積は平衡状態ではゼロとなることを表現しています。

(Ⅱ) 時間反転に対して変数aiが反対称でakが対称の場合

このときは<ai(t0+t)ak(t0)>eq=-<ai(t0-t)ak(t0)>eqです。そこで(Ⅰ)と同様に考えて<ai(t0+t)ak(t0)>eq=-<ai(t0)ak(t0+t)>eqとなります。

 

したがって線型減衰の式から<aikeq+t[<{ai,S}akeq-kBik]=-<aikeq-t[<{ak,S}aieq-kBki](t≧0)ですが,これが成り立つためには<aik>=0 でかつLik=-Lkiが満たされなければなりません。

かくして,変数ai,akが同じ時間対称性を持つときにはLik=Lki, 反対の時間対称性を持つときにはLik=-Lkiとなります。

 

さらに係数Likが時間反転に対して反対称な外部パラメータ(は例えば磁場や速度)に依存するときには,それぞれLik()=Lki(-),Lik()=-Lki(-)となります。

発展方程式の不可逆部分を熱力学的力∂S/∂で表現する輸送係数Lijについての上述の対称性をオンサーガーの相反定理と呼び,この係数Likをオンサーガー係数と呼びます。

さらに発展方程式の不可逆部分はエントロピー生成をするという熱力学第二法則の要請から係数行列(Lij)は正値行列です。

  

なぜなら,dS/dt=(dS/dt)irr=Σi(∂S/∂ai)(dai/dt)irr=ΣiΣj(∂S/∂ai)Lij(∂S/∂aj)>0 となるべきことが要求されますが,(∂S/∂ai)はベクトルとして任意の値を取ると考えてよいからです。

平衡状態での巨視的変数の現象論的な発展方程式がdai/dt={ai,S}+Σjij(∂S/∂aj)で与えられるので,必然的に存在する"ゆらぎ=揺動あるいは雑音"Ri(t)の存在を考慮すると,の時間発展は一般的な確率微分方程式dai/dt={ai,S}+Σjij(∂S/∂aj)+Ri(t)で表わされると考えられます。

 

ここで通常はゆらぎRi(t)は完全にランダムであり<Ri(t)>=0 ,<Ri(t)Rj(t')>eq=2Dijδ(t-t')なる白色雑音(white noise)で与えられます。

こうすると,時刻tにおいて状態が実現する確率P(,t)に対して,次のフォッカー・プランク方程式(Fokker-Planck)が得られます。

  

∂P(,t)/∂t=-Σi(∂/∂ai){ai,S}P(,t)+ΣiΣj(∂/∂ai)[-Lij(∂S/∂aj)+Dij(∂/∂aj)]P(,t)です。

一般に,1次元で考えたとき外力Fがないときのゆらぎも含めた粒子の運動は,その速度をuとするとき,次の"運動方程式=ランジュバン方程式(Langevin)"du/dt=-γu+R(t)/m に従います。

 

そして,ここでもゆらぎR(t)は白色雑音,つまり<R(t)>=0 ,<R(t)R(t')>=2Duδ(t-t')を満たしているとします。

このとき,時刻t1に速度u1を持っていた粒子が時刻tに速度uを持つ条件付の確率分布T(u,t|u1,t1)は,(∂/∂t)T(u,t|u1,t1)=γ(∂/∂u)[u+(kBT/m)∂/∂u+(Du/m2)∂2/∂u2]T(u,t|u1,t1)という方程式に従うことがわかります。

 

確率分布が従うこの方程式を,フォッカー・プランク方程式と呼ぶわけですね。

そして,先のについての運動方程式dai/dt={ai,S}+Σjij(∂S/∂aj)+Ri(t)を上の1次元速度uに対するランジュバン方程式におきかえ,時刻tに状態が実現する確率分布P(,t)を上の確率分布T(u,t|u1,t1)におきかえれば,先述のP(,t)に対するフォッカー・プランク方程式が得られます。

これが定常解として平衡分布Peq(a)=exp[S()/kB](あるいはこの定数倍)を持つためにはkBij=Dijとなることが必要条件になります。

つまり,∂Peq()/∂aj=(1/kB)(∂S/∂aj)Peq()なので∂P(,t)/∂t=-Σi(∂/∂ai){ai,S}P(,t)+ΣiΣj(∂/∂ai)[-Lij(∂S/∂aj)+Dij(∂/∂aj)]P(,t)においてP(,t)=Peq()とおくと,kBij=Dijが満たされる場合には右辺の第2項はゼロになります。

一方,第1項はΣi(∂/∂ai){ai,S}Peq()=Peq()[Σi(∂/∂ai){ai,S}+(1/kBi(∂S/∂ai){ai,S}]となりますが,定義によってΣi(∂S/∂ai){ai,S}={S,S}=0 です。

 

これほど自明ではありませんが,Σi(∂/∂ai){ai,S}=0 も成立します。

実際,Σi(∂/∂ai){ai,S}=Σi[{1,S}+{ai,∂S/∂ai}]=ΣiΣi[{1,aj}(∂S/∂aj)+{ai,aj}(∂2S/∂ai∂aj)]=ΣiΣi{1,aj}(∂S/∂aj)=-ΣiΣi,k(∂1/∂ak){ak,aj}(∂S/∂aj)=0 となります。1という関数はδ-関数であり,∂1/∂akは汎関数微分ですね。

そこで,kBij=DijはPeq(a)=exp[S()/kB]が解になるための必要十分条件であることがわかりました。

それ故,"揺動力=ゆらぎ"の時間相関関数<Ri(t)Rj(t')>(白色雑音の2Dは揺動力の強さと呼ばれる)と,輸送係数:Lijの間には<Ri(t)Rj(t')>=2kBijδ(t-t')という関係が成り立ちます。

 

これはさらに∫0d(t-t')<Ri(t)Rj(t')>=kBij:すなわち∫0dτ<Ri(t)Rj(t+τ)>=kBijと書き直すことができます。

 

つまり,輸送係数あるいはオンサーガー係数:Lijはゆらぎの時間相関関数で与えられます。この法則を揺動散逸定理と呼びます。

こうして,数式的に表現された形の定理が示されても,これが実際の自然現象において物理的にどのような意味を持つのかを理解しなければ,こうした定理の重要性を認識することはできません。

そこで,1例として熱伝導に適用してみます。

平均流速がゼロの1成分流体中の熱伝導方程式はeを単位質量当たりの内部エネルギーとして∂(ρe)/∂t+∇q=0 で与えられます。

 

ここでqは熱流であり熱拡散の線形近似モデルではq=λ∇(1/T)=-κ∇Tと表わされます。κ=λ/T2は熱伝導率と呼ばれています。

 

この現象論的方程式に対して,これのランジュバン方程式は∂(ρe)/∂t+∇q=-∇(,t)となります。ただし(,t)は熱流qのゆらぎです。

qは熱流ですから,流体の局所流速を(,t)とすると,q=ρe=ρe(d/dt)です。

 

示量変数の1つとして=ρeとすると,の不可逆変化部分に対する表式dai/dt=Σjij(∂S/∂aj)+Ri(t)は,dai/dt=d(ρeri)/dt~(Jq)i=Σjij[∂S/∂(ρerj)] +Ri(t)と書けますが,平衡状態ではρVde=TdS-PdVなので体積一定(dV=0 )ならS=ρeV/T+(定数)です。

それ故,結局(Jq)i~ΣjijV(∂/∂rj)(1/T)となります。これをq=λ∇(1/T):すなわち(Jq)i=λ(∂/∂rj)(1/T)と比較すると,輸送係数=オンサーガー係数についてLij=(λ/V)δijという表式が得られます。

そこで揺動散逸定理によると,λは平衡状態における揺動熱流(,t)の時間相関関数によって表現されることになります。すなわち,揺動熱流(,t)の時間相関関数は,∫0dt<qα(,t)qβ(',0)>eq=kB(λ/V)δαβδ(')と書けます。

そして,熱流q(,t)のゆらぎ(,t)を体積Vの対象領域全体で空間積分した(t)=∫dq(,t)という量を定義して,これを時刻tでの"熱流のゆらぎ"と呼ぶことにすれば,熱伝導に対する揺動散逸定理の表現は∫0dt<qα(t)qβ(0)>eq=kBλδαβと書くことができます。

今は,平均流速がゼロの流体を考えており,平衡状態では<q(,t)>eq=0 なので,熱流のゆらぎ(,t)がエネルギー流そのものになります。そこで対流がない流体においての平衡状態では(t)はエネルギー流を空間全体で積分したもののゆらぎとなります。

この例では,輸送係数=オンサーガー係数の一種である熱伝導率がミクロな流れ(t)の時間相関関数で与えられるということが揺動散逸定理からの重要な帰結と言えます。

19日木曜日夜から風邪気味で,症状自体は軽いのですがあまり筆が進みません。

北原和夫 著「非平衡系の統計力学」(岩波書店)

 

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2007年6月 9日 (土)

フォノン(1)(静止格子模型の破綻)

 電磁波に対する光子(光量子:photon)のアナロジーから,固体の結晶格子を構成するイオン振動は量子化され,格子振動波の粒子(量子)としてフォノン(phonon)という物理的実体を生み出しました。 

この,フォノン(音子)とは何か?ということについて,数回に分けて解説しようと思います。 

今日は,まずその前段階として,格子を構成する各イオンは静止していて完全な周期的構造を持つという静止格子模型がどのようにして破綻したのか?について,おさらいをしたいと思います。

  

金属の外殻電子を自由電子と見なす金属の自由電子論で説明不可能なことは,金属や絶縁体が格子状に配列したイオンと,それに束縛された電子から成るという描像,つまり周期的ポテンシャルの存在を想定して,それによって束縛されるブロッホ電子の運動を詳細に調べることにより克服されました。 

しかし,そうした議論においてはイオンは固定した不動の周期的な配列物とみなされています。

 

ところが,イオンは無限に重いわけでもないし,それを格子点に束縛する力も無限大ではないので,この静止格子の模型というのは1つの近似に過ぎません。

  

したがって,静止格子の模型は古典論では絶対温度Tがゼロのときにのみ正しいことになりますが,量子論では絶対温度Tがゼロでも零点振動があるため正しくありません。

 

量子論ではT=0 でも,不確定性原理ΔxΔp~hにより,局在した:Δx~ 0 のイオンはゼロではない運動量pのゆらぎを持ちます。

金属を理解する上で,静止格子模型に基づく理論と現実の間にある多くのギャップを埋め,また,絶縁体については電子系が充満したバンドに束縛されていて,ほとんど変化の自由度がない,という初歩的な理論構造を越えて先へ進むためには,イオンは平衡位置の周りで運動しているという描像を想定することが必要になってきます。 

静止格子模型の主な欠点を3つの範疇に分けて論じてみます。

 

1.平衡状態の性質の説明の破綻

 

(ⅰ)比熱 

静止格子模型では金属の比熱を電子の自由度にのみ負わせています。

 

それは,フェルミ温度(フェルミエネルギーをEFとしたときのTF ≡ EF/kB)より十分下の温度(融点)までの全ての温度,すなわち,10Kくいまでの比熱が温度Tに比例することを予測します。

 しかし,それよりやや高温では,金属の比熱は,より急激にT3に比例して増加し,さらに我々の常温付近ではほぼ一定値を取ります。

 この比熱への余分の寄与は,無視されてきた格子を形成するイオンの自由度によるものです。

 絶縁体ではさらに深刻で静止格子模型が正しいなら,絶縁体の熱エネルギーはT=0 の値より,せいぜいエネルギーギャップE0を横切って電子が熱励起される程度にしか増加し得ないと考えられます。

 そのように熱によって励起される電子の数はE0/kB以下の温度でu ~ (定数)×exp(-0/2kB)の温度依存性を持ちます。

 そして,これが絶縁体の定積比熱:Cv=du/dTを支配しますから,比熱CvのT依存性は指数関数的であるはずですが,現実には3に比例して変化します。

(ⅱ)平衡密度と凝集エネルギー 

 固体の基底状態のエネルギーの計算には,量子論に基づいた零点振動を含めなければなりません。したがって,平衡密度や凝集エネルギーを評価するのにもそれを含める必要があります。

 もっとも,格子イオンの零点振動の寄与は,大抵の結晶ではポテンシャルエネルギーの項よりはるかに小さいのですが,ネオンやアルゴンのような不活性物質では容易に観測できるほどの効果を与えます。

(ⅲ)熱膨張 

 固体の平衡密度は温度に依存します。

 静止格子模型では唯一の温度依存性の効果は電子の励起です。

 そして絶縁体では,励起はE0/kB以下の温度では無視できる程度の寄与しかしません。

 それ故,金属もそうですが,特に絶縁体の熱膨張にはイオンの自由度が重大な意味を持っています。

(ⅳ)融解 

 十分高温で固体は融解します。

 すなわち,イオンは平衡位置を離れ,その結果生じた液体の中を長距離にわたって,さまよいまわることになります。

 液化や気化など相転移の話になると,もはや微小振動,あるいはフォノンという描像さえも怪しくなってくるように思えます。

2.輸送的性質の説明の破綻(ⅰ)電子緩和時間の温度依存性 

 完全に周期的なポテンシャルの中では,電子は何の衝突も受けず,したがって,そのような金属の電気伝導度や熱伝導度は無限大になります。

 つまり,電気抵抗などはゼロです。

 高校の物理学でも現われる初期のドゥルーデ模型では,自由電子がイオン芯と衝突して散乱され,その結果,有限な緩和時間τを持ち,そのτに反比例する電気抵抗を持つ,という説明がよくなされています。

 しかし周期的なポテンシャルの中でのブロッホ電子の理論によれば,そうしたイオンとの衝突があっても,電子は単に向きを変えるだけであり平均として見ると何ら抵抗には寄与しない,という結論になります。

 しかし,現実に電子緩和時間τは無限大ではなく電気伝導度や熱伝導度は無限大ではないわけですから,電子は何らかによって散乱を受けていると考えられます。

 金属中の電子の散乱の主要な原因はイオンの熱振動による完全な周期性からのずれです。

 量子論で言えば電子はフォノンと衝突して散乱されるということです。これが低温での電気抵抗の特徴的なT5項や高温でのTの線形項の原因です。

(ⅱ)ヴィ-デマン・フランツの法則の破綻 

 中間温度におけるヴィ-デマン・フランツの法則(電気伝導度と熱伝導度は比例関係にあるという法則)の破綻は,電子の格子振動による散乱理論によって説明されます。

(ⅲ)超伝導 

 ある種の金属の比抵抗は,ある温度以下で突然ゼロに落ちます。

 これを説明する理論での最も重要な部分は,格子振動が原因で電子間にクーロン斥力を上回る引力が働くことです。

 すなわち,量子電磁力学(QED)によれば,クーロン力に代表される電気的,磁気的な力の源はフォトン(仮想光子)の交換という現象の帰結として生じる引力あるいは斥力である,ということが知られています。

 これと同じように,"斥け合うはずの電子同士が引き合ってクーパー対を作り,それが複合粒子としてボーズ粒子(Boson)になる結果として,低温でボーズ・アインシュタイン凝縮を起こし,超流動,超伝導の現象を形成する。これのそもそもの原因はフォノンの交換によって生じる引力である。"ということが超伝導の基礎理論であるBCS理論の重要な部分を成しています。

 余談ですが,2006年4月12日と13日の記事「重力場(ファインマン) つづき」

 http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_f89b.html ,と http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_6bfa.html

 で書いたように,

電気力は交換する媒介ゲージボーズ粒子のスピンが奇数です(光子はベクトル粒子でスピンは1)から,引力と斥力の両方があるのに対し重力は媒介粒子のスピンが偶数です(重力子はテンソル粒子でスピンは2)から引力だけしかありません。

 フォノンの場合,クーパー対の軌道がs軌道の状態ならフォノンのスピンはゼロ=偶数のはずで,相互に働く力は引力のみです。

 主要なケースは,こうした基底状態によって構成されると思うのでこの描像が当てはまると思います。

(ⅳ)絶縁体の熱伝導度 

 通常の金属の性質は電気的絶縁体の中には似たものがないことが多いのですが,電気的絶縁体も金属ほどではないけれど熱を伝えます。

 この絶縁体の熱伝導度は全面的に格子イオンの自由度によるものです。

(ⅴ)音の伝播 

 絶縁体は熱だけでなく,イオンの格子振動の波の形で音(音波)も同様に伝えますが,静止格子模型であれば,絶縁体は音を伝えません。

 3.種々の型の輻射と固体の相互作用を説明する際の破綻 

 輻射と固体の相互作用については,X線折と格子構造の関係や金属の光学的性などに関して,イオンの固定配列中の電子の応答のみをもっては説明できなうな,輻射に対する固体の応答を示す追加的な豊富なデータが存在しいます。

(ⅰ)イオンの結晶の屈折率 

イオン結晶は,その電子的エネルギーギャップよりはるかに低いhνの値に対応する赤外振動数のところに屈折率の鋭いピークを示します。

 この現象は輻射の中で電場が陽イオンと陰イオンを反対に向かわせる力を及ぼし,そのために互いに変位させることから生じます。

 これの適切な説明には格子振動の理論が必要です。

(ⅱ)光の非弾性散乱 

 レーザー光源が結晶によって散乱されるとき,反射された光線のある部分は振動数に,僅かなずれを持ちます(ブリリュアン(Brillouin)散乱),およびラマン(Raman)散乱)。

 これの説明には格子振動の量子論が必要です。

(ⅲ)X線の散乱 

 静止格子模型から予測されるブラッグ・ピーク(Bragg peak)のX線の強度は現実を正しく反映していません。

 零点振動も含めたイオンの平衡位置のまわりの熱振動がブラッグ・ピークを小さくします。

 さらに格子が静止していないためにブラッグ条件を満足しない方向にも散乱されるX線の背景輻射が存在します。

(ⅳ)中性子の散乱 

 中性子が結晶固体によって散乱されるとき,それは定まった離散的な分量だけエネルギーを失うことが見出されていますが,その分量は散乱に際して受ける運動量の変化に依存します。

 これは量子化された格子振動によって容易に説明されます。

 次回は,格子イオンの運動を平衡位置のまわりの微小な調和振動と見なし,それを量子化する前段階として,まず,調和振動の古典論を説明する予定です。 

参考文献:アシュクロフト・マーミン 著(松原武生・町田一成 共訳)「固体物理の基礎(下・Ⅰ)(固体フォノンの諸問題)」(吉岡書店)

 

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2007年2月 8日 (木)

量子統計とグランドカノニカル分布

 今日は久しぶりに物理学の話題を取り上げます。

 

 量子統計の分布,すなわち,"FD分布=フェルミ・ディラック分布(Fermi-Dirac分布)"と"BE分布=ボーズ・アインシュタイン分布(Bose-Einstein分布)"と,いわゆる古典統計の"グランド・カノニカル分布"の関係について述べてみます。

 まず孤立系は総粒子数Nと総エネルギーEが一定に保たれている系ですから,いわゆるミクロカノニカル集団の手法が適用できます。

 

 そして巨視的な個数N個の粒子をエネルギーのあまり違わない多くの量子状態を束ねた細胞:1,2,...へ分配する粒子の個数の分布D,すなわち,細胞iの粒子数Niを並べたもの:D=(N1,N2,...)で表現し各Dに対応する確率分布を求めてみます。

まず,Σii=Nです。そしてεiを細胞iの状態にある粒子の持つエネルギーとするとΣiiεi=Eです。

 

古典統計,つまり"MB分布=マクスウェル・ボルツマン分布"と"量子統計(FD,BE分布)"が異なるのは微視状態の数WDの数え方です。

 

N個の粒子の分配の仕方は古典統計ではN!/(N1!N2!...)ですが,この因子は量子統計では1です。何故なら,古典論とは違って量子論では同種粒子は全く区別できないからです。

したがって,量子統計では分布D=(N1,N2,...)に属する微視状態の数は,各細胞に割り当てられた粒子が,その細胞の中の量子状態を占める方法の数だけです。

第1に,電子や陽子のようにスピンが半奇数の粒子(=Fermion)ばかりから成る系に対して成立するFD統計では,パウリの排他原理(Pauli's exclusion principle)によって,同一の量子状態を2つ以上の粒子が占めることはできません。

 

そこで,細胞iに含まれるGi個の量子状態のうちNi個を取り出し,これらに区別できない粒子を1個ずつ分配すれば,これが1つの微視状態になります。

 

i番目の細胞ではGi!/{Ni!(Gi-Ni)!} だけの微視状態があるので分布Dでの微視状態の総数WDはWD=Πii!/{Ni!(Gi-Ni)!}で与えられます。

一方,光子(photon)やπ中間子のようにスピンが整数の粒子(=Boson)ばかりから成る系に対して成立するBE統計では,区別できない粒子を各量子状態に重複を許していくつでも分配できます。

 

今i番目の細胞iに着目して,この中の粒子数がNiであるとします。これらを各量子状態に対応するGi個の小さく仕切られた部屋に割り当てます。

 

これはNi個の粒子を1列に並べて(Gi1)個の仕切りで区切ることに相当しますから,その組み合わせの数は(Ni+Gi1)!/{Ni!(Gi1)!}といういわゆる重複組み合わせの個数に一致します。

 

したがって,この場合は微視状態の総数WDD=Πi(Ni+Gi1)!/{Ni!(Gi1)!}です。

 

ここでGiが巨視的な値であるという仮定によって,(i1)をGiで置き換えてもいいですから,D=Πi(Ni+Gi)!/(Ni!Gi!)と書いておきます。

これらの結果に,巨視的なNに対する近似公式であるスターリング(Stirling)の公式:log(N!)~NlogN-Nを適用すると,FD統計ではlogWD ~Σi[GilogGi(i-Ni)log(i-Ni)-NilogNi},BE統計では,logWD ~Σi[-GilogGi(i+Ni)log(i+Ni)-NilogNi}となります。

そして統計力学の基本原理である"等重率の原理"によれば,求める確率分布はΣii=Niiεi=Eという拘束条件の下でlogWDが最大になるような分布になります。

 

この分布を求めるためにはiをδiだけ変えたときのlogWDの変分δlogWDがゼロになる分布を探せばいいですね。

δlogWD=Σi{log(i-Ni)-logii(FD統計),δlogWD=Σi{log(i+Ni)-logii(BE統計)ですが,これらδlogWDが拘束条件下でゼロになる条件を求めるためにラグランジュの未定乗数法を利用します。

 

すなわち,Σii=Nによる変分条件ΣiδNi0 に(-α)を掛けたものと,Σiiεi=Eによる変分条件ΣiεiδNi0 に(-β)を掛けたものをΣi{log(i-Ni)-logii(FD統計),またはΣi{log(i+Ni)-logii(BE統計)に加えて,これらの総和としての変分をゼロと置いた恒等式を作り,左辺のδiの係数がゼロになるという条件から,求める熱平衡の分布が求めます。

こうして,log(i-Ni)-logi-α-βεi0 (FD統計),またはlog(i+Ni)-logi-α-βεi0 (BE統計)なる式により,(Ni/i)=1/{exp(α+βεi)±1}が得られます。

 

この+の方の式に従う分布をフェルミ・ディラック(FD)分布,-の方の式に従う分布をボーズ・アインシュタイン(BE)分布と呼びます。

 

(Ni/i)は細胞iに含まれる量子状態の1つを占める平均粒子数を表わしています。

 

量子状態のラベルをrに書き換えてrを占める平均粒子数をnr≡(Nr/Gr)で表わすと,分布はnr1/{exp(α+βεr)±1}になります。

 

この式でεrは全て正なので,expα>>1のとき,これらはrexp(-α-βεr)と近似されます。

 

これは"MB分布=マクスウェル・ボルツマン分布",つまり古典分布に他なりません。そして,この古典分布における定数αとβの意味をそのまま量子分布に流用すれば,α=-μ/(kB),β=1/(kB)であることがわかります。

 

そこで,得られたフェルミ・ディラック(FD)分布とボーズ・アインシュタイン(BE)分布の最終的な形はnr1/[exp{(εr-μ)/(kB)}±1]となります。

 

このことから,上記の古典統計近似ができるための条件:expα>>1は条件:exp{-μ/(kB)}>>1に相当することになります。

次に,孤立系ではなく熱の流出入があるためエネルギーは可変ですが,温度Tと体積Vが一定で,粒子数も一定の系を考えます。

 

この場合,温度が一定なのは系が"大きな熱源=恒温槽の系"と接触しているからです。

そして,この巨大な恒温槽が,"元々考えていた系と全く同じ構造の系の集まり=カノニカル集団"でできていると考えます。

 

これら集団に属する系の1つ1つを"巨大な分子"と考え,それらの間にはエネルギーの交換が起こり得る程度のごく弱い相互作用があるとすると"多数の巨大な分子から成る理想系=孤立系"が形成されます。

"対象としている系=巨大な分子1個"がエネルギーErにある確率は,これら巨視的個数の個々の"巨大分子"が区別できないミクロな分子ではなくて区別できる粒子であるため,量子統計のミクロカノニカル分布ではなく,古典統計のMB分布,つまりNr/N=(1/Z)exp{-Er/(kB)}で与えられます。

  

ここにZは"分配関数=状態和"であり,今の場合Z≡Σr exp{-Er/(kB)}で与えられます。

同じく,T,V,μが一定ですが,粒子数が一定ではない系を考えると,これは"巨大な熱源=恒温槽"と"巨大な粒子槽"に接触しているとみなすことができます。

 

系を再び,多くの区別できる"巨大な分子のグランドカノニカル集団からなる理想系=孤立系"と見なすことで,系の粒子数がNでエネルギー準位がEr(N)に見出される確率はグランドカノニカル分布wr(N)=(1/Ξ)exp[{Nμ-Er(N)}/(kB)]で与えられます。

 

ただし,Ξ≡ΣNexp{Nμ/(kB)}ZN,ZN≡Σr exp{-Er(N)/(kB)}です。Ξを大きな状態和といいます。

ここで,便宜上λ≡exp{μ/(kB)}とおけば,Ξ=ΣNλNn1+n2+…=N exp{-Σnsεs/(kB)}]ですが,さらに,ys≡λexp{-εs/(kB)}とおけば,Ξ=Σn1,n2,…1n12n2...となります。

FD粒子系では,エネルギー準位がεsの状態sを占める粒子数はns0,またはns=1のケースしかないのでΣnssns=1+sです。

 

BE粒子系では粒子数に全く制限がないので,ns0 ~ ∞よりΣnssns(1-s)-1となります。したがって,FD粒子,BE粒子に応じて,Ξ=Πs(1±s)±1 ですね。

 

そこで,εsを占める平均粒子数:<ns>は<ns>=(1/Ξ)[Σn1,n2,….s1n12n2...]=s{∂(logΞs)/∂s}(ただし,Ξs(1±s)±1) で得られます。結局,<ns>=s/(1±s)です。

最後に,変数ss=λexp{-εs/(kB)},λ=exp{μ/(kB)}なる表記に戻すと,<s>=1/[exp{(εr-μ)/(kB)}±1]となって既に得られているフェルミ・ディラック(FD)分布,およびボーズ・アインシュタイン(BE)分布が再現されます。

 

ここで重要なのはカノニカル分布やグランドカノニカル分布では系が"区別できる粒子"なので古典統計に従うのに対し,量子論のミクロカノニカル分布では"区別できない粒子"なので量子統計分布に従うということです。

 

まあ,いずれの方法も対等なので結果は同一になります。

 

参考文献;中村 伝 著「統計力学」(岩波書店)

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2007年1月 9日 (火)

中性子星の物理

 重力収縮した星の中心部のように非常に高密度の物質では,陽子,電子,中性子の自由粒子の混合としての理想気体という描像とは程遠く,通常,核子は自由粒子ではなく原子核という状態で存在しています。

 

 したがって,高密度状態では核力の影響を無視できません。

 重い原子核の結合エネルギーは次のような半経験的質量公式で表わすことができます。

 

 すなわち,Z,Nをそれぞれ陽子数,中性子数,A=Z+Nを質量数とすると,結合エネルギーE(Z,N)はE(Z,N)=-c1A+c22-1/3+c3(N-Z)2/A+c42/3で与えられるという式です。

 

 ここに,c116MeV,c20.72MeV,c324MeV,c418MeVです。

 公式の右辺の項は,順に体積エネルギー,クーロンエネルギー,対称エネルギー,表面エネルギーです。

 

 このうち,クーロンエネルギーc22-1/3と表面エネルギーc42/3のA依存性は,原子核の半径がr=1.3×10-151/3mのように与えられることから推察されます。

 原子核は,β崩壊による自由電子の放出と逆β過程による電子の吸収(捕獲)との平衡状態にあると考えられます。

 

 この平衡は原子核をA(Z,N)で表わすと,(Z,N)+e- ⇔ A(Z-1,N+1)と表現されます。

 

 この平衡式を原子核の静止質量を含んだエネルギーの保存と解釈すると,Zmp2+Nmn2+E(Z,N)+Ee(Z-1)mp2(N+1)mn2+E(Z-1,N+1)と書けます。

 すなわち,{E(Z,N)-E(Z-1,N)}+Ee{E(Z-1,N+1)-E(Z-1,N)}+(mn-mp)2 です。

 

 Z,N>>1であれば,(Z,N)-E(Z-1,N)~∂E(Z,N)/∂Z≡μp,E(Z-1,N+1)-E(Z-1,N)~∂E(Z,N)/∂N≡μnです。

 

 ここで化学ポテンシャルμpn は,それぞれ陽子,中性子を原子核に1個追加するのに必要なエネルギーを意味するので,原子核の内部エネルギーレベルのうちで占められる最も高い準位のエネルギーレベルと考えていいでしょう。

 そこで,e=μe+me2を考慮すると,平衡の式はμn-μp(mn-mp-me)2=μeですが,今はμe>>(mn-mp-me)2の場合を想定しているので,質量エネルギーを無視して平衡の条件をμn-μp=μeとします。

 一方,(Z,N)=-c1A+c22-1/3+c3(N-Z)2/A+c42/3,∂E(Z,N)/∂Z≡μp,∂E(Z,N)/∂Z≡μpより,μn-μp=-2c2ZA-1/34c3(N-Z)/Aです。

ここで,核子の平均個数密度をnNとすると,電子の平均個数密度neはx≡Z/Aとしてne=xnNです。

 

縮退フェルミ気体としての電子は,フェルミ運動量をpFとして,e(F /hc)3/(3π2),またはF(3π2)1/3ce1/3 (c≡h/(2π);hはプランク定数)を満たします。

 

相対論的粒子なら,μe=pFc=2Kne1/32KnN1/31/3,K≡(3π2)1/3c/2です。さらに簡単のため,6c3k≡KnN1/3によってkを定義しておきます。

このとき,平衡条件:μn-μp=μeは,μn-μp=-2c2ZA-1/34c3(N-Z)/Aより,12c3kx1/3=-22xA2/34c3(1-2x),c2xA2/32c3(1-2x-3kx1/3)となります。

ここで,与えられた固定のA値に対し,エネルギーが最低になるx≡Z/Aを求めてみます。

 

Aは定数なので1核子当たりのエネルギーEtot/A=E/A+(3/4)xμeで考えることにします。

 

ただし,第2項(3/4)μeは1核子当たりの電子の平均フェルミエネルギーe/Nです。

 

なぜなら,相対論的には,e3Pe=(3/4)(3π2)1/3ccne4/3=(3/4)eμe(3/4)xμeNより,e/N(3/4)μeとなるからです。

結局,Etot/A=-c12c3(1-2x-3kx1/3)+c3(1-2x)2+c4{c2/(2c3)}1/21/2(1-2x-3kx1/3)-1/29c3kx4/3となるので,d(tot/A)/dx=0 を計算すると,x1/2(1-2x-3kx1/3)3/2=c421/2/{2(2c3)3/2}が得られます。

具体的な値はK≒4.9×10-26Jm,324MeV≒3.84×10-12Jですから,K/6c33.84×10-15m,nN~1028-3より,nN1/3~4.6×1010-1です。

 

k~10-4,2k1/310-4からd(tot/A)/dxを調べると,x1/2 (1-2x-3kx1/3)3/2=c421/2/{2(2c3)3/2}を満たすxでtot/Aは極小になることがわかります。

具体的なc2,c3,c4の値を代入すると,1/3(1-2x-3kx1/3)≒0.081,すなわちk=(1/3)x-1/3(-0.081x-1/31-2x)となり,これからA≒12.5(A/Z)2が得られます。

 

すなわち,A=Z2/12.5という放物線が平衡曲線として得られたわけです。

一方,中性子の結合エネルギー:μn0 はμn≒-16+3.88x2/324(1-4x2)(MeV)なので,nNが増加してxが減少するにつれてμnは増加してx≒0.32でμn 0 となってしまいます。

 

これの意味はこれ以上の密度では中性子を追加するとかえって原子核の内部エネルギーが高くなってしまうということです。

 

そこで,この密度以上では一部の中性子は非束縛の核子として自由な中性子として挙動するわけです。

この臨界の自由中性子が発生する核子密度は,ρ=mNNとしてρ=ρ12.84×1014kgm-3です。そして,x≒0.32でA=122,Z=39です。

ρ>ρ1では物質は原子核,電子,中性子の3成分から成っています。もちろん,このときの中性子を理想気体として扱うことはできません。

 

核力をも考慮した状態方程式が計算できるので,これを用いて全エネルギーが最小になる状態を定めると密度の増加と共に引き続きAとZは増加しますがxは減少します。

 

そして密度がρ25.6×1016kgm-3以上になると,μpも正になりこの密度からは原子核も溶けてしまうことになります。 

ρ2以上の密度では,中性子とその数百分の1の陽子,電子で構成された状態になり,核子間では中性子の縮退圧よりも大きい核力が働くことになります。

参考文献;佐藤文隆 原 哲也 著「宇宙物理学」(朝倉書店)

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2006年12月 2日 (土)

惑星と恒星

 今日はコーヒー・ブレイクとして惑星(planet)と星(恒星;star)の違い,つまり星が惑星となるか恒星となるかの境界の条件について手短かに述べてみます。

 星が惑星になって恒星にならないための条件は,簡単に言えばその星の構成物質である原子や分子がイオン結合や共有結合で固体になる効果が,重力平衡によるバランスで恒星になる効果と比べて大きいことであろうと考えられます。

 

 つまり,1原子当たりの電子とイオンの相互作用に関わる"電気的エネルギー=クーロンエネルギー=εc"のオーダーが,"重力エネルギー=εG"のオーダーより大きいことが惑星の条件である,としてよいと考えます。 

 密度がρの星の質量をMρ,半径をRとし,構成原子の質量数をA,水素原子の質量をmHとすれば,その1原子当たりの重力エネルギーの大きさεGεG=GρAmH/Rです。

 

 そこで,εcεGとなる条件はGρAmH/R≦εcで,これは3(GAmH/εc)3ρ3です。

 

 一方,4πR3ρ/3 =ρですから代入すると,3ρ/(4πρ)≧(GAmH/εc)3ρ3となります。結局,質量の条件としては,ρ{3/(4π)}1/21/2{εc/(GAmH)}3/2です。

 

 オーダーの比較なので,係数{3/(4π)}1/2を無視すると,ρ{εc/(GAmH)}3/21/2が星が惑星になって恒星にならないための条件になります。

 クーロンエネルギーεcの方はイオン結合や共有結合になって固体となるための条件として水素原子のイオン化エネルギー13.6eV,あるいはボーア半径~aB=10-10mでの静電エネルギー(1/4πε0)e2/aB~ 9×109×(1.6×10-19)2/10-10J程度と考えると,いずれにしてもεc~ 10-18Jと考えられます。 

 そこで,木星の場合を考えると,M木星2×1027 kg,ρ~1.34です。

 

 一方,質量数Aは構成元素が水素Hと仮定してA~1とすると,εc =10-18Jのとき{εc/(AmH)}3/21/2~ 7.4×1026 kgです。

 

 そこで,M木星>{εc/(AmH)}3/21/2でεcεGですが,この程度なら,オーダー的にはM木星~{εc/(AmH)}3/21/2です。

 

 そこで,木星は惑星としては最大質量になっていて,まさに太陽になりそこねた惑星であると言えます。

 我々の地球の場合を考えると,地球6×1024 kg,ρ~ 5.2であり,もしA~ 56つまり地球全部が鉄のみでできていると仮定するなら,{εc/(AmH)}3/21/2~ 9.0×1023kgとなりますから,地球もA~ 56(Fe;鉄)の場合なら惑星として最大質量になります。

  

 地球の構成物質の質量数は,それよりもかなり小さいですから,地球は確かに惑星の条件を満たしているようです。

 

参考文献:佐藤文隆,原 哲也 著「宇宙物理学」(朝倉書店)

 

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