112. 原子・分子物理

2011年10月 4日 (火)

水素様原子の微細構造(補遺3-1)

 さて,久しぶりですが「水素様原子の微細構造(補遺2)」の続きです。

 

Dirac方程式の束縛状態の解の議論に移り,特にCoulomb場における電子のエネルギー準位を考えます。

  

 回文のようですが,ここでやっと2011年7/17の記事水素様原子の微細構造(1)」に戻るわけです。

 

 この過去記事の最初の部分を再掲します。

  

(↓再掲記事)

  

(※):水素様原子の電子に対するDirac方程式:{γμ(i∂μ-eAμ)-m}ψ=0,eAμ=(V,0)は,古典的なSchrodingerの形ではi(∂ψ/∂)=Hψ,H=αp+βm+V(r)と書くことができます。

 

γ0=γ0=βでγk=βαkですがkβ2k)2=1なのでαk=βγkです。(※)

 

さらに,自由粒子の相対論的運動方程式の解の明確な形が後の議論に必要なので,それを紹介している2010年5/30の過去記事「散乱の伝播関数の理論(8)」から,Dirac方程式の解の導出部分をやや修正して引用します。

 

(↓再掲記事)

 

(※):自由粒子のDirac方程式:(μμ-m)Ψ(x)=0 の一般解Ψ(x)の導出過程を復習します。

 

2行2列のPauliのスピン行列をσ=(σ123)とします。また,同じく2×2行列ですが単位行列を2とします。

 

Pauli行列σの主要な性質として,[σij]≡σiσj-σjσi=εijkσk,{σij}≡σiσj+σjσi=2δijが成立します。

 

ただし,[A,B]≡AB-BA,{A,B}≡AB+BAです。

 

 4行4列の行列:βを2つの対角細胞が2,-2で非対角細胞が02の対角細胞型行列とします。

 

また,4行4列の行列ベクトル:α=(α123)は,対角細胞が02で,非対角細胞が共にσ=(σ123)である行列とします。

 

 容易にわかるように,{αij}=αiαj+αjαi=2δij,{αi,β}=αiβ+βαi=0,β2=1です。

 

そこで0≡β,γ≡βα,or (γ123)≡(βα1,βα2,βα3)なる表示を採用すると,これは確かにDirac行列{γμ}μ=0,1,2,3の条件:{γμν}=2gμνを満足します。

 

ここでは,Minkowski計量(metric)としてg00=1,g0i=0,gij=-δijを採用しています。

 

さて,Dirac方程式(μμ-m)Ψ(x)=0 の解である波動関数(Diracスピノル)Ψ(x)は4行1列の縦ベクトルです。

   

(※余談ですが,一般に世界がd次元のMinkowski時空なら,その時空でのDiracスピノルは2の(d/2)個の直積(=テンソル)で与えられるため,その次数は 2d/2 です。)

  

 このDirac方程式の変数分離解をΨ(x)=w()exp(-ipx)と書けば,w()も4元スピノルで(γμμ-m)w()=0 を満足します。

 

 粒子の4元運動量pμは自然単位でpμ=(E,)ですが,特にこのDirac粒子と共に運動していて,粒子が静止している(0)と見える"運動座標系=静止系"S0では,pμ=(E,)=p0μ≡(±m,0)です。

 

(↑p0μ=(±m,0)として,負の静止エネルギーのE=-mの解も捨てず,率直に独立解として採用するのがミソです。)

 

 このS0系での変数分離解は,p0μ=(±m,0)の±に応じて,Ψ0(x)=w(0)exp(-imt),またはΨ0(x)=w(0)exp(imt)です。

 

したがって,(μμ-m)Ψ(x)=0;Ψ(x)=w()exp(-ipx)による(γμμ-m)w()=0 は,p00=mならγ0w(0)=w(0),p00=-mならγ0w(0)=-w(0)です。

 

そこで,静止系での変数分離解Ψ0(x)は,γ0±(0)=±w±(0)(復号同順)を満たすγ0の2つの独立な固有ベクトルw±(0)を用いて,

 

Ψ0(x)=w(0)exp(-imt),およびΨ0(x)=w(0)exp(imt)と表わされます。

 

γ0の固有ベクトル:w±(0)のうち,固有値+1の固有ベクトルw(0)は,t(1,0,0,0),t(0,1,0,0)の1次結合で与えられます。

 

また,固有値が-1の固有ベクトルw(0)は,t(0,0,1,0),t(0,0,0,1)の1次結合です。

 

そこで,独立な4つを改めてw(1)(0)≡t(1,0,0,0),w(2)(0)≡t(0,1,0,0),w(3)(0)≡t(0,0,1,0),w(4)(0)≡t(0,0,1,0)と定義します。

 

すると静止系でのDirac方程式の4つの独立解は,Ψ0(r)(x)=w(r)(0)exp(-iεrmt)(r=1,2,3,4)で与えられます。

  

ただし,符号関数εrは,εr≡1(r=1,2),εr≡-1(r=3,4)で定義されています。

 

したがって,結局,粒子静止系での任意の自由粒子解:Ψ0)(x)はΨ0(r)(x)の1次結合で表わせます。

 

一方,Lorentz変換(4次元回転):x'μ=aμνν,または略記法でx'=axに伴なう波動関数のLorentz回転:Ψ'α(x')=Ψ'α(ax)=Sαβ(a)Ψβ(x),またはΨ'(x')=Ψ'(ax)=S(a)Ψ(x)を考えます。

 

すると,x'=axから逆変換-1対してx=a-1x'ですから,Ψ'(x')=S(a)Ψ(a-1x'),つまりΨ'(x)=S(a)Ψ(a-1x)です。

 

他方,Ψ(x)=S(a-1)Ψ'(ax),Ψ(x)=S-1(a)Ψ'(ax)より,S(a-1) =S-1(a)なる関係が成立します。

 

また,∂/∂xμ(∂x'ν/∂xμ)(∂/∂x'ν)ですから,x'ν=aνμμより∂μνμ∂'νです。

 

 そこで,Dirac方程式:(μμ-m)Ψ(x)=0 にx=a-1x',およびΨ(x)=S-1 (a)Ψ'(x')を代入して左からS(a)を掛けると,[iS(a)γμ-1 (a)νμ∂'ν-m]Ψ'(x')=0 を得ます。

 

それ故,νμS(a)γμ-1(a)=γν,つまりνμγμ=S-1(a)γνS(a)であれば,(ν∂'ν-m)Ψ(x')=0 が成立して方程式が相対論的に共変になります。

 

特に,Δωμνが微小でaμνμν+Δωμν;Δωνμ=-Δωμνなる微小Lorents変換x'ν=aνμμを考えます。

 

これに対する4×4変換行列S(a)をΔωμνの1次まで展開して1次の係数行列を-(i/4)σμνと書けば,S(a)=1-(i/4)σμνΔωμν+O(Δω2)を得ます。

 

(Δω2)が無視できる無限小変換では,S(a)=1-(i/4)σμνΔωμν,

-1(a)=1+(i/4)σμνΔωμνより,

 

μνγν=S-1(a)γμS(a)は,Δωμνγν=-(i/4)Δωαβμσαβ-σαβγμ)となります。

 

こで,Δωμνγν=gμαΔωανγν=gμαΔωαββνγν

=gμαΔωαβγβ=gμβΔωβαγαにより,

 

Δωμνγν=(1/2)(gμαΔωαβγβ+gμβΔωβαγα)

=(1/2)Δωαβ(gμαΔγβ-gμβγα)を得ます。

 

故に,(1/2)Δωαβ(gμαΔγβ-gμβγα)=-(i/4)Δωαβμσαβ-σαβγμ)ですから,2i(gμαΔγβ-gμβγα)=[γμαβ]です。

 

結局,無限小変換では,S(a)=1-(i/4)σμνΔωμνμν

=(i/2)[γμν]であることがわかります。

 

 さて,無限小ではなく一般の有限なLorentz変換を,上記の無限小変換を継続的に無限回反復した結果として評価するため,ΔωμνをΔωμν≡Δω(In)μνと表現します。

 

ただし,Δωは軸のまわりの無限小Lorentz回転の回転角を表わす無限小パラメータとし,Inは軸についての単位Lorentz回転を示す4×4行列とします。 

 

(注):3次元空間の回転:例えばz軸の回りのxy平面上の角度φの回転ならx'=xcosφ-ysinφ,y'=xsinφ+ycosφ,z'=zです。

 

これはφが無限小回転角Δφなら,x'=x-yΔφ,y'= xΔφ+y,z'=zと書けますから,行列形で,

 

t(x',y',z')=t(x,y,z)+Δφt(―y,x,0)

={1+Δφ(Iz)}t(x,y,z)となります。

  

これによって3×3行列Izを定義します。

 

ただし,t(x,y,z)は行ベクトル(x,y,z)の転置(transport)である縦ベクトルを意味します。

 

同様に,x軸,y軸のまわりの回転に対してIx,Iyが定義できます。

  

(注終わり)※

  

さて,Δωμν=Δω(In)μνとおいて,Δω≡ω/NとしΔω回転のN回の反復によって回転角がωとなるような変換を考えます。

  

刻みNが無限大の極限では,μν=limN→∞Πn=1N{1+(ω/N)In}μν

={exp(ωIn)}μν,またはxμ=aμνν={exp(ωIn)}μννが得られます。

 

そして,これに伴なうスピノルの変換は,S(a)αβ={1-(i/4)Δω(σμνnμν)}αβより,Δωが一般の有限角度ωなら,

 

S(a)αβ=exp{-(i/4)ω(σμνnμν)}αβ

= exp{-(1/8)ω[γμν]Inμν}αβです。

 

特に,x軸に沿って無限小速度Δv=Δβ=Δωで運動する座標系への無限小変換は,x'0=x0-Δβx1,x'1=x1-Δβx0です。

 

そこで,Lorentz変換:μνμν+Δωμν;Δωνμ=-ΔωμνではΔω01=Δω10=-Δβ以外の全てのΔωμνはゼロです。

 

この場合,有限変換では,x'μ={exp(ωIn)}μννであり,

x'0=x0coshω-x1sinhω,x'1=x1coshω-x0sinhω,

x'2=x2,x'3=x3です。

 

これに対応するLorentz変換は,相対速度がv=β=tanhωの変換です。

 

このとき,coshω=1/(1-β2)1/2,sinhω=β/(1-β2)1/2です。

 

よって,確かに無限小変換ではΔβ=Δωを満たしています。

 

さて,スピノル無限小変換はΔω01=-Δω10=Δω=Δβなので,

S(a)=1-(i/4)σμνΔωμνは,S(a)=1-(iΔω/2)σ01

でσ01=(i/2)[γ01]=-iγ0γ1=-iβ2α1=-iα1です。

 

それ故,S(a)=1-Δωα1/2です。

 

有限変換では,1)2=1ですから,S(a)=exp(-ωα1/2)=cosh(ω/2)-α1sinh(ω/2)です。

 

そして,系Sで粒子が速度v=βで運動することは,粒子に対して静止している系S0に対し系Sが相対速度-v=-βで運動することに同等です。

 

したがって,静止系S0でpμ(m,0)の正エネルギー粒子がS0に対して相対速度-v=-βで運動するS系では,

 

x'0=x0coshω-x1sinhω,x'1=x1coshω-x0sinhω,

x'2=x2,x'3=x3に対応して,

 

μ=(E,)なる表示で,E=m coshω,p1=-m sinhω,

2=p3=0 なので,β=-tanhω=p/Eです。

 

ただし,p=||=p1です。

  

故に,-tanhω=p/Eから,tanh(ω/2)=-p/(E+m),

cosh(ω/2)={(E+m)/(2m)}1/2を得ます。

 

一方,静止系S0で運動量がpμ(-m,0)の負エネルギーの粒子がS0に対し相対速度-βで運動するS系では,

 

μ=(-E,-)(E>0)なるエネルギー表示で,

tanh(ω/2)=p/(-E+m)=-p/(E―m),

cosh(ω/2)={(E-m)/(2m)}1/2です。

 

以上から,自由粒子波動関数の4つの独立な解は,

Ψ(r)(x)=w(r)()exp(-iεrpx),(r)()=S(a)w(r)(0)

={cosh(ω/2)-α1sinh(ω/2)}w(r)(0)であり,

(1)(0)≡t(1,0,0,0),w(2)(0)≡t(0,1,0,0),

(3)(0)≡t(0,0,1,0),w(4)(0)≡t(0,0,1,0)

 

であることがわかりました。(※)

 

S(a)=cosh(ω/2)-α1sinh(ω/2)であり,

  

ですから,S(a)=cosh(ω/2)[1-α1tanh(ω/2)]

です。

   

ところが静止系ではpμ(m,0)の粒子がμ=(E,)で運動する場合,cosh(ω/2)={(E+m)/(2m)}1/2,tanh(ω/2)=-p/(E+m)です。

 

そこで,-sinh(ω/2)={(E+m)/(2m)}1/2tanh(ω/2)

          =cosh(ω/2)p/(E+m)です。

 

したがって,このときのS(a)は,

と書けます。(つづく)

 

参考文献: J.D.Bjorken & S.D.Drell "Relativistic Quantum Mechanics"(McGrawHill)

  

PS:話は変わりますが,ザッケローニ監督は一味違いますね。

 

日本代表のレベルアップのため,代表と相俟って国内のJリーグのレベルアップまで考えているらしいです。

 

海外に移籍しなくても日本国内やアジアでもスペイン,イタリア,イギリス,ドイツetc.や南米クラスのゲームが出来れば確かにいいですね。

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2009年3月 1日 (日)

分子と点群(3)

 続きです。前回中途半端で終わったので,例題の2次元の特殊ユニタリ群SU(2)について補足しておきます。

 まず,前回の最後の部分をほぼそのまま書きます。

(再掲開始)

 例としてが2次元の特殊ユニタリ群:SU(2)である場合を考えてみます。=SU(2)≡{g∈GL(2)|g=g-1,detg=1}です。ただしGL(2)は2次の正則な正方行列から成る群です。

対角成分がa,a-1(a∈,a≠0)の2次の対角行列をhaとし,{ha∈GL(2)|a∈,|a|=1}とします。

 

は明らかに=SU(2)の部分群です。しかも,これは可換群(アーベル群)であり,1-パラメータ群(a=exp(iα))なので,U(1)(絶対値が1の複素数の乗法群)と同型です。

=SU(2)の任意の元gの2つの固有値をa,a-1(a∈,|a|=1)とすると,gはあるk∈SU(2)によってha=k-1gk,haと対角化できます。またはg=kha-1,haとすることができます。

一般にU(1)の幾つかの直積と同型な群をトーラス群といいます。

がトーラス群,かつの部分群,すなわちトーラス部分群であって,これを真に含むGのトーラス部分群が存在しないなら,の極大トーラス部分群と呼びます。

 

今の=SU(2)の場合には,上で定義した2次の対角行列から成る部分群はSU(2)の極大トーラス部分群となっています。

[定理5]:=SU(2)とする。

 

(1)の任意の元gは極大トーラス群の元と共役である。

 

(2)g,h∈,に対してf(hgh-1)=f(g)を満たす関数(類関数という)fは極大トーラス部分群の上の値だけで決まる。

  

 すなわち,f1,f2を2つの類関数とするとき,∀h∈に対してf1(h)=f2(h)ならf1=f2である。

=SU(2)の表現(D,U)の指標χDは明らかに類関数なので,これは極大トーラス部分群の上の値だけで決まります。

 

(再掲終了)※

 さて,SU(2)の(m+1)次元表現(Dm,Um)の表現空間Umを2つの文字z1,z2の複素係数のm次の同次多項式全体から成る空間とします。

 

 Umの任意の元は(m+1)個の単項式z1m,z1m-12,..,z12m-1,z2mの1次結合として一意的に表現されるのでUmは確かに(m+1)次元線型空間です。

 そして,表現(Dm,Um)を∀φ∈Umに対しDm(g)φ()≡φ(g)(∀g∈SU(2)) で定義します。ここでt(z1,z2)としました。

このとき,∀g,h∈SU(2)に対してDm(gh)φ()=φ(gh)=Dm(g)φ(h)=Dm(g)Dm(h)φ()なので,この写像は定義域=SU(2)の上で確かに準同型になっていますが,Dm(g)は本当にUmの上の線型変換なのでしょうか?

 まず,φ()がz1,z2のm次の同次多項式,つまりφ()=c11m+c21m-12+..+cm-112m-1+cm2mであることは,φ(t)=tmφ()であることを意味します。

 

 gz=t(az1+bz2,cz1+dz2)(ad-bc=1,d=a*,c=-b*)なるgに対しg(t)=t(g)なので,φ(g(t))=φ(t(g))=tmφ(g)です。

 

 故に,Dm(g)φ()=φ(g)も成立します。つまりm(g)φはz1,z2のm次の同次多項式です。

 

そこで,演算Dm(g)に対し表現空間Umは不変で閉じていること:Dm(g)は確かにUmからUmへの写像であることがわかります。

そして,∀φ,ψ∈Umと∀α,β∈に対してDm(g)[(αφ+βψ)()]=(αφ+βψ)(g)=αDm(g)φ()+βDm(g)ψ()なので線型性も自明です。

 

結局,Dm(g)はUmの上の線型変換であり,(Dm,Um)が確かにSU(2)の1つの表現であることがわかりました。

ここで,z≡z1/z2と置けばUmの任意の元であるz1,z2のm次の同次多項式は,zのm次多項式φ^(z)を用いてφ()=c11m+c21m-12+..+cm-112m-1+cm2m=z2m(c1m+c2m-1+..+cm-1z+cm)≡z2mφ^(z)と表現されます。

 

ただし,zのm次多項式φ^(z)をφ^(z)≡φ()/z2m,またはφ()≡z2mφ^(z)によって定義しました。

  

このzの多項式:φ^はz1,z2の同次多項式φ∈Umと完全に1対1に対応します。

そして,gがgz=t(az1+bz2,cz1+dz2)(ad-bc=1,d=a*,c=-b*)を与えるSU(2)の元である場合,

 

m(g)φ()=φ(g)なる変換式は,Dm(g)[z2mφ^(z)]=(cz1+dz2)mφ^((az1+bz2)/(cz1+dz2))=z2m(cz+d)mφ^((az+b)/(cz+d))を意味します。

結局,Umの任意の元であるz1,z2のm次同次多項式φ()はzのm次多項式φ^(z)と完全に1対1に対応することがわかりました。

 

つまり,z1,z2のm次同次多項式φ()は(m+1)個の基底z1m,z1m-12,..,z12m-1,z2mの1次結合として一意的に表現されますが,これはφ()と全く同じ係数の(m+1)個の基底zm,zm-1,..,z,1の1次結合であるzのm次多項式φ^(z)に同型対応します。

 

そこで,Umはzのm次多項式全体の作る線型空間Vmと同型です。

したがって,表現(Dm,Um)における表現空間UmをVmに変更した(m+1)次元表現を(Dm,Vm)と書けば,これはgz=t(az1+bz2,cz1+dz2)を与えるg∈SU(2)に対してDm(g)φ^(z)=(cz+d)mφ^((az+b)/(cz+d))を与える表現です。

 

結局,Um→Vmは表現Dmの表現空間における単なる基底変換と見なせるので,(Dm,Vm)は(Dm,Um)に同値です。

(なお,z→az+b/(cz+d)を1次分数変換,またはメビウス変換と呼びます。この変換はSU(2)と全く同型です。

 

普通,これもSU(2)と同一視されますが,群の表現と解釈するなら忠実な表現です。)

SU(2)の(m+1)次元表現(Dm,Vm)は,haに対してはDm(ha)φ^(z)=a-mφ^(az/a-1)=a-mφ^(a2z)ですから,Vmの全ての基底:fk(z)≡zk(k=0,1,2,..,m)に対してはDm(ha)fk(z)=a2k-mk(z)となります。

 

したがって,基底fk=fk(z)=zの1次結合で表わした任意のφ=Σk=0mkk∈Vmに対して,Dm(ha)はDm(ha)φ=Σk=0m2k-mkkと書けます。

つまり,線型変換Dm(ha)は行列表現ではその成分がDm(ha)kj=a2k-mδkjの対角行列です。

 

そこで,表現(Dm,Vm)の指標χDmをχmと書けば,χm(ha)=Tr{Dm(ha)}=Σk=0m2k-m=a-m(1-a2(m+1))/(1-a2)=(a-(m+1)-am+1)/(a-1-a)=sin{(m+1)α}/sinα,(a≡exp(iα),α∈)となります。

ところで,gz=t(az1+bz2,cz1+dz2)(ad-bc=1,d=a*,b=-c*)を与えるSU(2)の元gの成分を4つの実数x1,x2,x3,x4を用いてa=x1+ix2,c=x3+ix4と表現すれば,ad-bc=1なる条件はx12+x22+x32+x42=1となります。

そこで,3つの独立なパラメータθ123によってx1=cosθ1,x2=cosθ2sinθ1,x3=cosθ3sinθ2sinθ1,x4=sinθ3sinθ2sinθ1と表わすことができます。

 

ただし,0≦θ1≦π,0≦θ2≦π,0≦θ3≦2πです。

微小長さdsはds2=dx12+dx22+dx32+dx42=dθ12+sin2θ1dθ22+sin2θ1sin2θ2dθ32で与えられるので,対応する体積要素はsin2θ1sinθ2dθ1dθ2dθ3になります。

そこで,∫SU(2)ψ(g)dg=∫00π0πψ(θ123)sin2θ1sinθ2dθ1dθ2dθ3がSU(2)上の不変積分となります。

 

これにψ≡1を代入したSU(2)の全体積が2π2となるので,規格化された不変測度は上記dgを2π2で割り,改めてdg={1/(2π2)}sin2θ1sinθ2dθ1dθ2dθ3で与えられます。

ところで,g=haの対角行列ではc=x3+ix4=0 ですから,これはθ2=0 を意味します。

 

そして,このときa=x1+ix2=cosθ1+isinθ1=exp(iθ1)ですから上で求めた指標χm(ha)=Σk=0m2k-m=sin{(m+1)α}/sinα(a≡exp(iα),α∈)は,これにα=θ1を代入することで明確なθ1の関数の形でχm(ha)=sin{(m+1)θ1}/sinθ1となります。

そして,先にコンパクト群上の関数φ,ψについての内積を<φ|ψ>≡∫φ(g)*ψ(g)dgによって定義しました。

 

これにより=SU(2)においては<χm+1n+1>=∫SU(2)χm+1(g)*χn+1(g)dg=∫SU(2)χm+1(ha)*χn+1(ha)dg={1/(2π2)}∫00π0πsin{(m+1)θ1}sin{(n+1)θ1}sinθ2dθ1dθ2dθ3=(2/π)∫0πsin{(m+1)θ1}sin{(n+1)θ1}dθ1=δmnが得られます。

このことから,表現(Dm,Vm),または(Dm,Um)(m=0,1,2,..)は全てSU(2)の(m+1)次元の既約表現であることがわかりました。

最後に,SU(2)の既約表現が上記の(Dm,Vm),または(Dm,Um)(m=0,1,2,..)で尽くされることを見ます。

まず,任意の表現(D,U)の指標χDは極大トーラス部分群の上のha,つまりパラメータθ1のみの関数として,χD(ha)=χD1)で与えられ,これは<χDD>=(2/π)∫0πχD1)*χ D1)sin2θ1dθ1を満たします。

 

しかも,haとha-1=h1/aは互いに共役(相似)なのでχD(ha)=χD(h1/a )ですが,a=exp(iθ1),a-1=1/a=exp(-iθ1)なのでχD1)=χD(-θ1)よりχD1)は偶関数です。

したがって,ξ(θ1)≡sinθ1χD1)とおくと,これはθ1の奇関数で周期が2πの連続関数です。

 

そこで,こξ(θ1)はξ(θ1)=Σn=1nsin(nθ1),cn=(2/π)∫0πξ(θ1)sin(nθ1)dθ1とフーリエ正弦展開できます。

よって,<χDm>=(2/π)∫0πξ(θ1)sin{(m+1)θ1}dθ1=cm+1となります。

 

そこで,もしも表現(D,U)があらゆる(Dm,Um)と異値:<χDm>=0 (m=0,1,2,..)なら,cm+1=0 (m=0,1,2,..)によって恒等的にχD≡0 となります。

 

厳密には,フーリエ級数ξ(θ1)=Σn=1nsin(nθ1)についてパーシバル(Parseval)の等式∫π|ξ(θ1)|2dθ1=2∫0π|ξ(θ1)|2dθ1=πΣn=1|cn|2でΣn=1|cn|2=0 が成立します。

 

それ故,∫0π|ξ(θ1)|2dθ1=0 から,ξ(θ1)は,ほとんどいたるところでゼロであることがわかりますが,ξ(θ1)はθ1の連続関数なので恒等的にゼロです。

 

つまり,ξ(θ1)=sinθ1χD1)=0 により,χD(ha)=χD1)=0 なので∀g∈SU(2)について,χD(g)=χD(ha)=0 です。

これは,既約性の条件<χDD>=1に矛盾します。

 

したがって,(D,U)が既約表現なら,これはあるmに対する(Dm,Um)と同値でなければなりません。

これらを,定理の形にまとめます。 

[定理6]:(1)SU(2)の任意の既約表現は,あるmに対するDmと同値である。

 

(2)既約表現Dmの指標χmは,SU(2)の極大トーラス部分群の上ではha;a=exp(iθ)に対してχm(ha)=sin{(m+1)θ}/sinθで与えられる。

 一般にgの固有値がa=exp(iθ),a-1=exp(-iθ)のときχm(g)=χm(ha)=sin{(m+1)θ}/sinθとなる。

 

(3) SU(2)の任意の表現Dは完全可約であって,いくつかのDmの直和と同値である。

 SU(2)は単に群の1つの例として出したつもりだったのですが,ここまで書いてしまったので,SU(2)の随伴表現が回転群SO(3)≡{R∈GL(3,)|tR=R-1,detR=1}の忠実な表現になることを利用してSO(3)の既約表現を調べます。

 まず,体( or )の元を成分とするn次の正方行列の集合をM(n,)と書くと,これはの上の線型空間を作ります。

 

 今,U≡{∈M(n,)|=0,Tr=0}とすると,これは∀∈Uは∀t∈に対してt∈Uの(n2-1)次元の実線型空間です。

 

 一般のn次の特殊ユニタリ群=SU(n,)の元gに対して,その∈Uに対する線型変換Adgを,(Adg)≡g-1で定義します。

 固定したg∈SU(n,)に対してAdgがUの上の線型写像であることは明らかです。

 

 そして∀∈Uについて,=0 とAdgの線型性より(Adg)+(Adg)=0 ですが,(Adg)=g-1=g=(g)t={(Adg)}です。

 

 また,Tr((Adg))=0 なので,AdによってUは不変です。

一方,∀g1,g2∈SU(n,)に対して,{Ad(g21)}=g211-12-1=g2{(Adg1)}g2-1=(Adg2)(Adg1)ですから,写像g→Adgは連続かつ準同型な写像です。

以上から,AdはSU(n,)の(n2-1)次元実表現空間U上での表現であることがわかりました。これをSU(n)の随伴表現といいます。

ここで,1,2∈Uに対する内積を<1|2>≡Tr(12)=Σi,j=1n[u1*ij2ij]で定義します。特に,<|>=Tr()=Σi,j=1n|uij|2≧0 (∈U)です。

 

そして,<(Adg)1|(Adg)2>=Tr(g1-12-1)=Tr(12)=<1|2>なので,この内積の定義ではAdはユニタリ表現です。

 

しかも,Uは実線型空間なのでユニタリ表現であることは,Adgが直交行列であることを意味します。

そこで,特にn=2,n2-1=3の場合,SU(2)=SU(2,)の場合にはAd[SU(2)]は"3次元直交行列の群=回転群":SO(3)と準同型になります。

 

なぜなら,写像g→Adgは連続であり,Ad[SU(2)]は連結なのでdet(Adg)=1となるからです。

 

ただし,Ad(-1)=Ad(1)=I(回転群の単位元)なので,Ker(Ad)={±1}より,SU(2)~ O(3)/{±1}=SO(3)です。

 

つまり,R∈SO(3)に対して,g∈SU(2)が存在してAdg=Rならば,Ad(-g)=Rであり,このh=±g以外にはAdh=Rを満たすh∈SU(2)は存在しません。

 

パウリのスピン行列として知られているσ=(σ123)を用いて,k≡iσk/√2 (k=1,2,3)とすれば,k∈Uであって<i|j>=δijですから,これはUの1つの正規直交基底になります。

 

任意のUの元=Σk=13kkと展開すれば,k(k=1,2,3)は3次元空間のあるxyz座標系のx,y,z軸方向の単位ベクトルで,(u1,u2,u3)は空間ベクトルのこの座標系での成分と同定され,ます。

  

そして,特にhθ≡ha⊂SU(2);a=exp(iθ)なら線型変換Adhθによって基底k(k=1,2,3)は(Adhθ)11cos(2θ)+2sin(2θ),(Adhθ)2=-1sin(2θ)+2cos(2θ),(Adhθ)33cos(2θ)と変換されるので,この基底ではAdhθ3軸のまわりの角:2θの回転を表わしています。

 

また,Adkθ,Adlθがそれぞれ2軸,1軸のまわりの角:2θの回転を表わすようなkθ,θ∈SU(2)を取ることもできるので,結局全ての回転を随伴表現で与えることが可能です。

 

まあ,回転群SO(3)を生成するには実際には,hθ,kθ,θのうちの2つがあれば十分なのですが。。。

 

さてSO(3)の1つの表現(T,U)があるとき,g∈SU(2)に対してD(g)≡T(Adg)とすれば,(D,U)はgの1つの表現です。そしてSO(3)の表現(T,U)が既約であることとSU(2)の表現(D,U)が既約であることは同値です。

 

D(g)≡T(Adg)によってSO(3)の任意の既約表現からSU(2)の既約表現が得られますが,SU(2)の表現(D,U)からD(g)≡T(Adg)によって必ずしもSO(3)の表現(T,U)は決まりません。

 

すなわち,R∈SO(3)に対してAdg=Rとなるg∈SU(2)は2つ存在してそれは±gです。

 

そこで,D(g)≡T(Adg)であるならば,D(g)=T(R),かつD(-g)=T(R)ですからD(g)=D(-g),つまりD(-1)=D(1)=Iである必要があります。

 

逆にD(-1)=IならD(g)≡T(Adg),Adg=Rから表現T(R)は一意的に決まります。

 

そこでSO(3)の既約表現(T,U)を求めるにはSU(2)の既約表現(D,U)を全て求め,それらのうちでD(-1)=Iを満たすものを取ればいいことになります。

 

ところが,上に述べたようにSU(2)の既約表現の全ては既に(m+1)次元表現(Dm,Um)(m=0,1,2,..)で尽くされることがわかっています。そして,Dm(-1)(-1)mIです。

 

したがって,mが偶数:m=2lのときにはSU(2)の既約表現(Dm,Um)(m=0,1,2,..)からTl(R)≡Dm(Ad-1R)によって回転群SO(3)の既約表現(=1価表現)(Tl,U2l)(l=0,1,2,..)が得られます。

 

(Tl,U2l)は(2l+1)次元表現です。(これは量子論では角運動量がJ=lのJz=-l,..,-1,0,1,..,lに対応します。)

 

そして,Adhθ3軸のまわりの角:2θの回転Rを表わしていて(Dm,Um)の指標がχm(g)=χm(hθ)=sin{(m+1)θ}/sinθなので,3軸のまわりの角:θの回転Rθに対する(Tl,U2l)の指標はχl(Rθ)=sin{(2l+1)θ/2}/{sin(θ/2)}で与えられます。

 

さらに,SO(3)の任意の表現Tは完全可約であって,いくつかのTlの直和と同値になります。

 

なお,mが奇数m=2k+1のときの,Tk+1/2(Adg)=Dm(g))(k=0,1,2,..)はSO(3)の表現としては2価表現((2k+2)次元表現)を与えます。

 

(これは量子論で角運動量がJ=k+1/2のときのJz=-k-1/2,..,-1/2,,1/2,..,k+1/2に対応します。)

 

今日はここまでにします。 

参考文献:山内恭彦,杉浦光夫著「連続群論入門」(培風館),犬井鉄郎,田辺行人,小野寺嘉孝 著「応用群論」(裳華房),島 和久 著「連続群とその表現」(岩波書店)

 

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2009年2月26日 (木)

分子と点群(2)

 対称性変換群の表現論の続きです。

 (D,U)を群のユニタリな行列表現とすると,シューアの補題(Schur's lemmma)によれば,∀R^∈に対するD(R)と可換な線型変換Tがスカラーであること,つまり∀R^∈に対する表現行列D(R)と可換な行列Tが単位行列の定数倍に限られるということが,Dが既約表現であるための必要十分条件であるというところまで書きました。

ユニタリな行列表現(D,U)は完全可約であって,表現空間U,および∀R^∈に対する表現行列D(R)は既約表現の直和に分解されます。これをU=Σα(α),D(R)=Σα(α)(R)と書きます。ここではΣαは直和を意味する記号とします。

 これから,次の定理が導かれます。

[定理1]:群のユニタリな既約表現(D(α),U(α))の表現行列D(α)(R)は次の直交関係:ΣR∈G(α)ij(R)*(β)kl(R)=(g/dααβδikδjlを満たす。

 

 ここで群は有限群であると仮定しており,gはその位数||です。また,dαは既約表現(D(α),U(α))の次元です。つまりD(α)(R)はdαの正方行列です。

(証明)Bをdαβ列の任意の行列とし,同じdαβの行列TをT≡ΣR∈G(α)(R-1)BD(β)(R)によって定義します。

 

 このとき,R1^∈についてD(α)(R1)T=ΣR∈G(α)(R1-1)BD(β)(R)=ΣR∈G(α)(R-1)BD(β)(RR1)=TD(β)(R1)となります。

 つまり,D(α)(R1)T=TD(β)(R1)です。

 

 この等式はR1^∈を特定して得られたわけではなく,したがって任意のR1^∈に対して成立するので,シューアの補題により,α≠βの場合,すなわち(α)とD(β)が同値でない(異値の)既約表現の場合には,T≡0 です。

 そして,T=ΣR∈G(α)(R-1)BD(β)(R)=0 において,Bは任意なので成分表示Tjl=Σm,nΣR∈G(α)jm(R-1)Bmn(β)nl(R)=0 において,特にBmn=δmiδnkとしてこれを代入すればΣR∈G(α)ji(R-1)D(β)kl(R)=0 を得ます。

 

 行列D(α)(R)はユニタリなので,D(α)ji(R-1)=D(α)ji(R)=D(α)ij(R)*ですが,これはΣR∈G(α)ij(R)*(β)kl(R)=0 を意味します。 

 一方,αβの場合には,同じくシューアの補題によりT=ΣR∈G(α)(R-1)BD(α)(R)=λIです。

  

 成分表示Tjl=Σm,nΣR∈G(α)jm(R-1)Bmn(α)nl(R)=λδjlにおいて,特にBmn=δmiδnkを代入すれば,ΣR∈G(α)ij(R)*(α)kl(R)=λδjlを得ます。

 ここで,j=lとして両辺をj=1,2,..,αについて加え合わせるとΣj=1ΣR∈G(α)ji(R-1)D(α)kj(R)ΣR∈G(α)ki(RR-1)=λdαとなります。

 

 よって,λdα=gδik,:λ=(g/dαikなので,ΣR∈G(α)ij(R)*(α)kl(R)=(g/dαikδjlです。(証明終わり)

(註)実際には,(R)=Σα(α)(R)なる直和分割において,各々のD(α)(R)が,全て互いに異値であるというわけではなく,α≠βの場合でも(α)(R)とD(β)(R)が同値な場合もあります。

そして,D(R)=Σα(α)(R)なる既約表現への直和分解においてD(α)と同値な表現の個数がmαなら,このmα(α)重複度と呼ぶことにします。

 

これにより表現の直和分割を改めてD(R)=Σαα(α)(R)と書けば,上の定理1の結論である直交性ΣR∈G(α)ij(R)*(β)kl(R)=(g/dααβδikδjlは,ΣR∈G(α)ij(R)*(β)kl(R)={g/(mαα)}δαβδikδjlに変更されます。

 さて,上の定理は群が回転群のうち角運動量lが定まった部分群のような有限群の場合の定理ですが,そうではなくが回転群の全体であるような連続群で,それ故無限群の場合には次のように変わります。

[定理2]:(D,U),(D',U')を連続群のそれぞれm次,n次のユニタリ行列による既約表現とする。このとき,DとD'が同値なら∫ij(R)*D'kl(R)dR=(1/m)δikδjl,一方DとD'が異値なら∫ij(R)*D'kl(R)dR=0 が成立する。

(略証):Bをm行n列の任意の行列とし,同じm行n列の行列TをT≡∫(R-1)BD'(R)dRによって定義します。

 

 以下,上の連続関数fに対する積分の左不変性(R1-1R)dR=(R)dRを用いると,任意のR1^∈に対して,D(R1)T=TD'(R1)なる等式が成立するという結果が得られるので,シューアの補題,および∫dR=1から,[定理1]の証明とほぼ同じ手順で[定理2]の結論が得られます。(証明終わり)

 ただし,上記の定理の命題の意味を明確にするためには,上の任意の連続関数fに対し,"任意のR1^∈に対して∫(R1-1R)dR=(R)dRが成立する"という積分の左不変性を持ち,dR=1なる規格化条件を満たす左不変測度と呼ばれる上の測度dRを定義する必要があります。

 そして,こうした測度が定義できるためには位相群の位相空間としての空間体積が有限であることが必要です。

位相空間の空間体積とは何か?というような抽象的な話に入るのはなるべく避けて,連続群の例として3次元の合同変換群を挙げます。

 

この空間の座標パラメーターとして極座標(r,θ,φ);r2≡x2+y222,x=rsinθcosφ,y=rsinθcosφ,z=rcosθを採用することができます。

3次元空間全体の体積は無限大なので平行移動群を含めた全体の合同変換群の体積は∞ なのですが,回転群だけならrを除いた(θ,φ)だけで事足りるので,これだけなら,体積は∫sinθdθdφ=4π程度です。(0≦θ<2π,0≦φ<π)

一方,例えばが3次元ポアンカレ群の部分群である3次元ローレンツ群O(2.1)であれば,極座標(r,θ,φ)はr2≡c22-x2-y2,x=rsinhθcosφ,y=rsinhθcosφ,ct=rcoshθです。

 

形は似ていますが,平行移動群のパラメータrを除いたローレンツ群の体積は∫sinhθdθdφ=∞ になります。

これは,パラメータ空間として,0≦φ<πは同じですが,θについては回転群では 0≦θ<2πなのに対し,ローレンツ群では双曲線関数の定義域なので-∞≦θ<∞であるからです。

 

パラメータ空間の体積が有限な連続群をコンパクト群,そうでない群を非コンパクト群といいます。

物理学ではミンコフスキー(Minkowski)空間を解析接続してユークリッド空間とした方が計算しやすいので,時間変数を"複素数に拡張=解析接続"して複素平面上の虚軸をπ/2だけウィック(Wick)回転する方法があります。

  

また,統計物理学では,絶対温度Tの逆数β≡1/(kBT)を量子力学での虚時間:itと同一視する手法が用いられます。

  

しかし,実際には回転群がコンパクト群であるのに対して,ローレンツ群は非コンパクト群であることに対応してミンコフスキー空間はコンパクト空間でないので,これらの手法の妥当性はみかけほど自明なことではなく,数学的な正しさにとってかなり微妙な手続きです。

さて,がコンパクト群の場合は全体積が有限なので,全体積で割ることによりdRをdR=1を満たすような体積要素とし,任意の連続関数fに対してS(f)≡(R)dRで定義した積分S(f)が次の4つの基本的性質を満たすようなものが各fごとに唯1つ存在します。

 

積分S(f)を群の上の不変積分といい,dを左不変ハール測度といいます。

 

そして,S(f)が満たすべき基本的性質とは,

 

(ⅰ)Sは線型:∀a,b∈Cと任意の連続関数f,gに対してS(af+bg)=aS(f)+bS(g)である。

 

(ⅱ)∀^∈に対しf(R)≧0 ならS(f)≧0 である。

 

特に,^∈に対しf(R)≧0 であるが恒等的にf(R)≡0 でないなら,S(f)>0 である。

 

(ⅲ)Sは左不変,つまり1^∈に対してLR1(R)≡f(1-1)とすれば,S(LR1)=S(f)である。

 

(ⅳ)S(1)=1 である。

  

4つです。

,RR1(R)≡f(R1)と定義しS~(f)をS~(f)≡S(R1)によって定義すれば,Sの左不変性からS~(LR1f)≡S(R1R1)=S(R1)=S~(f)が成立するので,S~も左不変です。

 

証明はしていませんが,左不変な不変積分は一意的であることがわかっているので,S~=Sです。

 

結局,(R1)dR(R)dRが成立します。よって,左不変積分は右不変でもあります。

この不変測度による不変積分を用いて一般のコンパクト群上の関数φ,ψについての"内積=ユニタリ内積"を<φ|ψ>=∫φ(R)*ψ(R)dRで定義します。

次に,重要な概念である群の表現の指標を定義します。

[定義1]:群の表現(D,U)に対して,χD(R)≡Tr{D(R)}(∀^∈)で定義される上の関数χDをこの表現の指標という。

 

 すなわち,χD(R)=Tr{D(R)}=Σk=1mD(R)kkである。(ここでTrはトレース(対角和)を意味する。mは表現Dの次数である)

 明らかに,χD(I)=m(表現の次元)です。

 

 そして,トレースの性質:Tr(A+B)=Tr(A)+Tr(B),Tr(AB)=Tr(BA)(Tr(ABA-1)=Tr(B))によって,∀1^,R2^∈についてχD(R212-1)=χD(R1),また,2つの表現(D,U),(D',U')に対し,これらが同値なら,detT≠0 なるTが存在して∀^∈についてD'(R)=TD(R)T-1と書けるのでχD=χD'です。

 

 また,2つの表現(D(1),U(1)),(D(2),U(2))に対しD=D(1)+D(2)(直和)ならχD=χD1+χD2が成立します。

[定理3]:(D,U),(D',U')をコンパクト群の2つの既約表現とするとき,DとD'同値なら<χDD'>=1,異値なら<χDD'>=0 である。

(証明)コンパクト群の表現(D,U)では,積分が左右不変なので,1,2∈Uの内積<1|2>を<1|2>=12から,<1|2>≡∫{D(R)1}{D(R)2}dRに定義し直すと,∀1^∈について<D(R1)1|D(R1)2>=<1|2>が成立するため,D(R1)=D(R1)-1が成立するユニタリ表現と考えることができます。

そして,先の定理2の命題:"(D,U),(D',U')をのそれぞれm次,n次のユニタリ行列による既約表現とするとき,DとD'が同値なら∫ij(R)*D'kl(R)dR=(1/m)δikδjl,一方DとD'が異値なら∫ij(R)*kl(R)dR=0 が成立する。"から定理の結論が成立することは明らかです。(証明終わり)

先に,定理1の証明のすぐ後で,

 

"群が位数;g=||の有限群の場合に,"D(R)=Σα(α)(R)なる既約表現への直和分解においてD(α)と同値な表現の個数がmαなら,これを(α)重複度と呼ぶことにします。

 

これにより表現の直和分割をD(R)=Σαα(α)(R)と書けば,上の定理1の結論である直交性:ΣR∈G(α)ij(R)*(β)kl(R)=(g/dααβδikδjlはΣR∈G(α)ij(R)*(β)kl(R)={g/(mαα)}δαβδikδjl に変更されます。"

 

と書きました。

がg=||=∞ の連続群で,それもコンパクト群の場合にはD(R)=Σα(α)(R)なる既約表現への直和分解においてD(α)の次元をdα,重複度をαとするとき,上の定理1の結論は定理2のそれに変更され,直交性:ΣR∈G(α)ij(R)*(β)kl(R)={g/(mαα)}δαβδikδjl,"D(α)とD(β)が同値なら∫(α)ij(R)*(β)kl(R)dR=(1/dαikδjl,異値なら∫(α)ij(R)*(β)kl(R)dR=0 である"となります。

このとき,指標χD(R)=Tr{D(R)}はχD(R)=Σααr{D(α)(R)}よりχD=ΣααχD(α)ですが,定理3によって<χD(α)D>=αを得ます。

 

さらには<χDD>=Σαα2となります。このことから次の重要な定理が得られます。

[定理4]:(1)(D,U)をコンパクト群の表現とするとき,これが既約表現であるための必要十分条件は<χDD>=1なることである。(2)(D,U),(D',U')をコンパクト群の2つの表現とするときDとD'同値:D~D'であるためにはχD=χD'なることが必要十分である。

(証明)(1)は自明ですから(2)のみを証明します。

 

 まず,χD=χD'なら,任意の既約表現(α)に対して<χD(α)D’>=<χD(α)D>ですから,χD=ΣααχD(α);<χD(α)D>=αを意味する表現D=Σαα(α)とD'が同値であることは自明です。必要性は既に示されています。(証明終わり)

 さて,例として対象とする群が2次元の特殊ユニタリ群:SU(2)である場合を考えてみます。

 

 すなわち,=SU(2)≡{g∈GL(2)|g=g-1,detg=1}とします。ただし,GL(2)は正則な2次の正方行列から成る群です。ここでは行列要素が複素数のGL(2,)を仮定しています。

対角成分がa,a-1(a∈,a≠0)の2次の対角行列をhaと書き,≡{ha∈GL(2)|a∈,|a|=1}とします。

 

は明らかに=SU(2)の部分群です。しかもこれは可換群(アーベル群)であり,1-パラメータ群(a=exp(iα))ですから,U(1)(絶対値が1の複素数の乗法群)と同型です。

 

SU(2)の任意の元gの固有値をa,a-1(a∈,|a|=1)とするとgはあるk∈SU(2)によってha=kgk-1,haと対角化できます。あるいは,g=kha-1,haとすることができます。

  

一般にU(1)の幾つかの直積と同型な群をトーラス群といいます。

 

がトーラス群かつの部分群,すなわちトーラス部分群であってこれを真に含むのトーラス部分群が存在しないなら,の極大トーラス部分群といいます。

 

今のがSU(2)の場合には上で定義した2次の対角行列から成る部分群はSU(2)の極大トーラス部分群となっています。

  

[定理5]:=SU(2)とする。(1)の任意の元gは極大トーラス群の元と共役である。(2)g,h∈に対してf(hgh-1)=f(g)を満たす関数(類関数という):fは極大トーラス部分群の上の値で決まる。すなわち類関数f1,f2が∀h∈に対してf1(h)=f2(h)を満たすならばの上でf1=f2である。

 

 これの証明は自明なので省略します。

 

 =SU(2)の表現(D,U)が与えられたとき,指標χDは明らかに1つの類関数ですから,極大トーラス部分群の上の値だけで決まります。

 

 今日はここまでにします。

参考文献:山内恭彦,杉浦光夫著「連続群論入門」(培風館),犬井鉄郎,田辺行人,小野寺嘉孝 著「応用群論」(裳華房),島 和久 著「連続群とその表現」(岩波書店)

 

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2009年2月21日 (土)

分子と点群(1)

連続群とその表現というのは,素粒子物理学をはじめ,物理学では多くの分野において重要な論題です。

 

今回は通常の素朴な非相対論的量子力学をベースにして巨視的物性を左右する微視的単位である分子構造を規定する対称性群としての点群の表現に関連したものを考えます。

 

1粒子の定常状態の波動関数ψは空間位置の3次元空間におけるスカラー関数ψ()で与えられます。

 

そして,座標系の空間回転の操作R:→Rの下で,この波動関数ψはψ()→R^ψ()と変換されるとします。

 

つまり,座標系の回転R:→Rに対応する関数空間での回転を示すある演算子R^が存在して,その作用をψ→R^ψとするわけです。

このとき,ψが3次元空間におけるスカラーであるということは,空間回転の下で同じ空間位置での波動関数の値は不変であること,つまりR^ψ(R)=ψ()なることを意味します。これは,R^ψ()=ψ(R-1)と同等ですね。

しかし,量子論ではR^ψ(R)=ψ()でなくても,一般にγを実数としてR^ψ(R)=exp(iγ)ψ()でありさえすれば十分です。

 

状態を示す状態関数としてのψは,実は位相を無視した射線(ray)という同値類の代表元でしかないというのが波動関数ψの本質的意味です。

  

(厳密な意味では,必ずしもR^ψ(R)=exp(iγ)ψ()ではなくて,R^ψ(R)=exp(iγ)ψ*()のような反ユニタリ(anti-unitary)な変換でもかまいませんが。。。)

 しかし,波動関数がスカラーであるという意味を位相因子を無視してR^ψ(R)=ψ()であると定義しても,一般性を失なうことはないので以下ではそのように解釈することにします。

 以下では,波動関数ψ()が確率振幅を表わす複素数量であるという意味で<ψ|ψ>≡∫d3ψ*()ψ()=1と規格化されている場合に,ψ()→R^ψ()がこの規格化条件を破らない物理的に意味がある変換R^のみを考察の対象とします。

 

 つまり,<ψ|ψ>=∫d3ψ*()ψ()=1においてψ()の代わりにR^ψ()=ψ(R-1)を代入しても,依然としてこの式が成立すると仮定します。すなわち,<R^ψ|R^ψ>=∫d3ψ*(R-1)ψ(R-1)=1とします。

 

 この条件式は,<R^^ψ|ψ>=det(R)∫d3ψ*()ψ()=1を意味します。

 

 R:→RのRが空間回転を表わす場合,Rは実行列なのでtRであり,また直交行列tRR=tR=1ですから,RR=1を満たします。よって,det(RR)=1なので,<R^^ψ|ψ>=)∫d3ψ*()ψ()=<ψ|ψ>です。

 

 これは,R^^=1,or R^=R^-1,つまりR^がユニタリ(unitary)であることを意味します。 

ψ→R^ψなる操作によって変換されたR^ψが依然として同じ系の波動関数であるという意味は,任意の観測可能な物理量T^(エルミート演算子:T^=T^)の期待値<T>=<ψ|T^|ψ>が,この操作の下で保存されることを意味します。

 

特にT^=1のときには,ψ→R^ψなる変換で確率<ψ|ψ>が保存されるべきであるという要求となります。これはR^^=1,つまりR^がユニタリであれば確かに満たされます。

T^が1ではなくて一般の任意の演算子の場合には,波動関数ψ→R^ψの変換に伴なって,T^→R^T^R^=R^T^R^-1なるユニタリ変換がなされるなら期待値<T>=<ψ|T^|ψ>は不変に保たれます。

 

そこで,以下ではψ→R^ψと同時に物理量を表わす全ての演算子T^がT^→R^T^R^-1なる変換を受けるとします。

このことから→Rなる変換は,を量子力学の位置演算子と見たときにはR^R^-1=R意味します。

 

そして,R^が座標系の回転を表わす場合は空間のベクトル量は全て同じ回転変換を受けるため,運動量を示す^=-ic∇なる演算子^R^-1=Rを満たすはずです。

 

ただし,hc≡h/(2π);hはプランク定数です。

さて,定常状態のシュレーディンガー(Schrödinger)の波動方程式:^ψ()=[-{hc2/(2m)}∇2+V()]ψ()=Eψ()におけるハミルトニアン^≡^2/(2m)+V()=-{hc2/(2m)}∇2+V()も量子力学の1つの演算子ですから,ψ→R^ψなる変換に伴なって^→R^^R^=R^^R^-1なる変換を受けます。

特に,R^R^-1=Rであり,これのエルミート共役を取ると,R^^-1-1ですが,なので,これは^R^-1-1を意味します。

 

この最後の等式の両辺に^R^-1=Rを右から掛けると,R^2^-12が得られます。あるいは^∇2^-1=∇2です。

また,R^V()R^-1=V(R^R^-1)=V(R)ですが,もしもポテンシャルV()がクーロンポテンシャルのようにr=||のみに依存するような球対称な中心力場V()=V(r)であれば,Rr=rですからR^V()R^-1=V()となります。

そこで,球対称な中心力場の場合には,結局R^^R^-1^,またはR^^=^R^が成立します。

 今までは系の対称性変換という概念の導入のため,R:→R,ψ()→R^ψ()なる操作R,R^を座標系の空間回転に特殊化して考えましたが,以下では演算操作R,R^は必ずしも座標系の空間回転である必要はなくて,R^ψ(R)=ψ(),またはR^ψ()=ψ(R-1)を満たす任意の変換であるとします。

しかし,特にR^が座標系の空間回転操作を表わす場合,こうした回転操作全体の集合をとすると,これは回転群という変換群をなすことが知られています。

 

逆に,を必ずしも回転群とは限らない一般の変換群とした場合,系のハミルトニアン^が∀R^∈に対してR^^R^-1^,またはR^^=^R^を満たすとき,系は変換群の下で不変である,または系は変換群で規定される対称性を持つといいます。

ψがシュレーディンガー方程式^ψ=Eψの1つの解ならψはエネルギー固有値Eに属する^の固有関数ですが,^∈に対しR^^=^Rなら,^R^ψ=ER^ψも成り立つので,R^ψもまたψと同じエネルギー固有値Eに属する^の固有関数です。

そこで,Eに属する全ての独立な固有関数をφnとし,これらは正規直交化されているとします

 

すなわち,n=Eφn,<φmn>=δm n(m,n=1,2,..,d)とします。φnはd重に縮退していると仮定しています(d=1なら縮退していませんが,1重に縮退していると広義に解釈します。)

R^^R^-1^のとき,∀R^∈に対してR^φnは全て^のEに属する固有関数なので,φ12,..,φdの1次結合で表現されます。

 

つまり,R^φn=Σm=1dφmmn(R)ですね。そして展開係数Dmn(R)はφn正規直交性<φmn>=δmnにより,Dmn(R)=<φm|R^|φn>と表わされることがわかります。

さて,が位相群であるとします。

 

つまり,は群でありかつ位相空間であって,対応(g,h)→gh(g,h∈)で与えられる群演算,およびg→g-1なる写像が共に連続であるとします。

 

Uを体K(または)の上のある線型空間(ベクトル空間)とするとき,∀g∈にUの上の線型変換D^(g)を対応させる準同型写像D^:g→D^(g)を群のU上の表現といいます。

 

Uはこの表現D^の表現空間と呼ばれます。表現D^において,その表現空間Uを明示したいときには,表現D^を(D^,U)と書きます。

 

表現空間Uの次元を群の表現の次元ということもあります。Uの次元が有限値nのときには,この表現をn次元表現といいます。

ここで,写像D^:g→D^(g)が準同型写像であるとは,∀g,h∈に対してD^(gh)=D^(g)D^(h)が成立することを意味します。

 

特にeをの単位元,IUをU上の恒等変換とすると,D^(e)=IUが常に成立します。

群の元R^とD(R)の対応関係は,一般には1対1とは限らず,通常はn対1のような対応(準同型対応)ですが,特に1対1となる場合(同型対応)には,その表現を忠実な表現といいます。

の表現(D^,U)において,その表現空間Uの次元が有限である有限次元表現のとき,Uの任意の元にその適当な基底による1次結合の係数のベクトルを対応させると,U上の任意の線型変換T^はそれと完全に1対1に対応する行列Tと同一視できることがわかっています。

 

以下では,線型空間Uそのものではなく,それの基底による成分を並べた数ベクトルをUの元と同一視した数ベクトル空間もまた同じ記号Uで記述します。

 

この数ベクトル空間としてのUを表現空間とし,元の表現D^(g)を行列D(g)と同一視した(D^,U)に同型な表現(D,U)を行列表現といい,個々の表現を表わす行列D(g)を表現行列といいます。

今の場合,n=Eφn (n=1,2,..,d)を満たすφnを基底とするd次元ベクトル空間をUとすれば,∀R^∈に対してR^φn=Σm=1dφmmn(R)です。

 

そこで,^ψ=Eψを満たす任意のψ∈Uがψ=Σn=1dnφnと表わされるときには,^ψ=Σn=1dnnΣm=1dφmn=1dmn(R)cn}となります。

それ故,状態ψ=Σn=1dnφn∈Uの各々を基底12,..,φdによる展開係数のベクトル:{cm}=(c1,c2,..,cd)と同一視すれば,R^ψ=Σm=1dφmn=1dmn(R)cn}により,R^ψ∈Uはベクトル:{Σn=1dmn(R)cn}=(Σn=1d1n(R)cnn=1d2n(R)cn,..,Σn=1ddn(R)cn)と同一視されます。

そこで,(m,n)成分がDmn(R)の行列をD(R)とし,ψ=Σn=1dnφnの展開係数{cm}=(c1,c2,..,cd)をt(c1,c2,..,cd)なるd次元の列ベクトルと考えれば,ψ→R^ψと→D(R)が等価であることがわかります。

ここで,(φ12,..,φd)を行ベクトルと考えてφ≡(φ12,..,φd)とすれば,ψ=Σn=1dnφnをψ=φcと表現できます。

 

R^ψ=Σm=1dφmn=1dmn(R)cn}もまた,R^ψ=φD(R)と書けます。

ところで,群が量子力学系のユニタリ変換から成る変換群を表わす場合,例えばR1^,R2^∈が座標系の回転を表わすような場合には,群の積の演算は波動関数ψにR1^,R2^をこの順に続けて作用させること,つまりψ→R1^ψ→R2^(R1^)ψを意味します。

 

そこで,この場合の群演算は(R1^,R2^)→R2^R1^となり,上の位相群の表現の定義の中で仮定した演算:(g,h)→gh(g,h∈)とは演算の順序が逆になっています。

しかし,こうした演算の順序の違いは定義を少し読み変えれば済む問題です。積の順序の違いなどは本質的なことではありません。

実際,R1n=Σm=1dφmmn(R1),R2n=Σm=1dφmmn(R2)より,R2^R1n=R2^[Σm=1dφmmn(R1)]=Σl=1dφkm=1dkm(R2)Dmn(R1)]ですから,これは行列としてはD(R21)=D(R2)D(R1)なることを意味します。

 

そこで,これまで通りD:R→D(R)が群の1つの行列表現を与えるとしても問題ないことがわかります。

 

次にの2つの表現(D^,U),(D'^,V)があるとします。

 

もしも,1対1の線型写像T^:V→Uが存在して∀R^∈に対しT^D'^(R)=D^(R)T^が成立するときには,D^とD'^は同値な表現である,といいます。一方,同値でない表現は異値であるといいます。

上の2つの表現が(D,U),(D',V)で表わされる行列表現の場合なら,ある正則な行列T(detT≠0)が存在して,∀R^∈に対しTD'(R)=D(R)T,またはD'(R)=T-1(R)Tが成立するときDとD'は同値な表現となります。

 

そして,(D,U)と(D',V)が同値な表現の場合,明らかに空間UとVの次元は同じです。

φ12,..,φdを基底とするベクトル空間をUとするとき,表現空間Uにおける変換群表現がR^φn=Σm=1dφmmn(R)で与えられる場合,φ'n≡Σm=1dφmmnとすると^φ'n=Σm,k=1dφkkm(R)Tmn=Σm,k,j=1dφ'j-1jkkm(R)Tmn,すなわち,R^φ'n=Σm=1dφ'm{T-1(R)T}mnと書けます。

 

D'(R)≡T-1(R)Tと定義して,上のR^φ'n=Σm=1dφ'm{T-1(R)T}mnR^φ'n=Σm=1dφ'mD'(R)mnに置き換えれば,表現を同値な表現に読み変えるのは,単に同じ表現空間Uにおける基底の変換φ12,..,φd → φ'1,φ'2,..,φ'd過ぎないことがわかります。

これをベクトル表示で考えます。

 

表現(D,U)はψ=φcのときR^ψがR^ψ=φD(R)になることを意味しますが,φ'=φTとすればφφ'T-1ですから,これを代入するとψ=φcφ'T-1,かつR^ψ=φD(R)φ'T-1(R)φ'T-1(R)T(T-1)となります。

したがって,'≡ T-1とおけば,これはψ=φcφ''のときにR^ψがR^ψ=φ'T-1(R)T'=φ'D'(R)'と表現されることと同等です。

 

この新しい表現:(D',U)を,ψ=φcのときR^ψ=φD(R)になるという表現(D,U)と比較すると,変換(D,U)→(D',U)は単にφφ'なる基底の変換を意味することがわかります。

 

結局,同値な表現と定義される2つの表現は,表現空間の上の写像として同型であるという意味ですね。

さて,の2つの表現(D1,V)と(D2,W)があるとき,VとWの直和空間:U=V+Wの上の表現:D≡D1+D2を,;∀∈V,∀∈Vと∀R^∈に対し,D(R)={D1(R)+D2(R)}()≡D1(R)+D2(R)なる線型写像で定義して,この(D,U)を表現(D1,V)と(D2,W)の直和表現と呼ぶことにします。

そして,(D1,V)と(D2,W)が行列表現のとき,∀R^∈に対し2つの行列D1(R)とD2(R)を対角線に並べて,それ以外の部分行列を全てゼロと置いた行列を作ります。

 

これを,D1(R)とD2(R)の直和行列と呼ぶことにすれば,これは直和表現D≡D1+D2の行列D(R)になることがわかります。

 

そこで,この直和行列をD1(R)+D2(R)と書きます。

(D,U)を群の1つの表現とするとき,Uの部分空間Vが存在して∀R^∈についてD(R)V⊂Vが成立するとき,VをUのD-不変な部分空間,または単にUの不変部分空間と言います。

の表現(D,U)がU自身と{0}以外にUのD-不変な部分空間を持たないとき,この表現(D,U)を既約表現といいます。既約でない表現を可約表現といいます。

また,群の表現(D,U)が可約のとき,特に完全可約であるとは,表現空間Uが不変部分空間U1,U2,..,Um (D(R)Ui⊂Ui for ∀R^∈(i=1,2,..,m))の直和U=U1+U2+..+Um分解できて,i(R)Ui≡D(R)Ui(∀R^∈)によって引き起こされるD(R)のUiへの縮小写像Di(R)による表現(Di,Ui)(i=1,2,..,m)が全て群の既約表現になることをいいます。

特に,行列表現(D,U)の表現行列が全てユニタリ行列のとき,つまりD(R)=D(R)-1のときには,この表現をユニタリ表現といいます。

 

波動関数ψ=Σn=1dnφnφcの作るベクトル空間Uの上の対称性変換を考察するとき,この変換の変換群をとすると,量子力学においては元々の任意の元R^そのものがユニタリ:R^R^=R^^=1であることが要求されます。

したがって,表現の準同型の性質からD(R)D(R)=D(R)D(R)=1よりD(R)=D(R)-1ですが,陽な行列成分がDmn(R)=<φm|R^n>=<φn|R^|φm*=Dnm(R)*を満たすので,D(R)=D(R),故にD(R)=D(R)-1です。

 

そこで対象とする物理的な変換群の表現は,全てユニタリ表現です。

(D,U)が群のユニタリ表現の場合,これが既約も含めて常に完全可約な表現であることを示すことができます。

  

以下では,これを証明しますが,そのために1,2∈Uを列ベクトルとして,Uの任意の2つの元のユニタリ内積を<1|2>≡12で定義しておきます。

 

(Uが先述のEの固有状態波動関数全体から成る空間の場合,ψ1φu12φu2∈Uなら,波動関数の内積は<ψ12>=Σm,n=1d1m*2nφm|φn12で与えられます。

 

したがって,線型空間Uを波動関数ψ=φuの係数ベクトル全体から成る数ベクトル空間と同一視すると,波動関数ψ12の内積が<ψ12>であることと1,2の内積が1|2>≡12であることは全く同じ意味を持ちます。)

(証明)(D,U)をユニタリ表現とします。これが既約ならもちろん完全可約です。しかし,既約でない(=可約)ならUでも{0}でもない自明でないD-不変な部分空間V⊂Uが存在します。

 

 このとき,Vの直交補空間をV{∈U|<|V>=0}で定義すると,このVもD-不変です。

 何故なら,∀∈V,∈Vと∀R^∈に対してD(R-1)∈Vですから,表現のユニタリ性D(R)=D(R)-1=D(R-1)によって,<D(R)|>=<|D(R)*=<|D(R)>=<|D(R-1)>=0 から,D(R)∈Vなることもわかるからです。

UがVとVの直和:U=V+Vであることは直交補空間の定義によって明白ですから,結局UはD-不変な部分空間の直和に書けることがわかりました。そこで,V,Vが共に既約なら完全可約性の証明はここで終わりです。

 

しかし,V,Vの一方,または両方が既約でないなら,これらをさらにD-不変な部分空間の直和に分解する操作を繰り返せば(D,U)は有限次元なので,結局既約な不変部分空間の直和に分解されるはずです。(証明終わり)

さらに,(D,U)が群の表現の場合に,その既約性を判定する基本定理であるシューアの補題(Schur's lemma)を述べて証明しておきます。

(シューアの補題):(D,V),(D',W)を群の2つの既約表現とするとき,線型写像T:V→Wが∀R∈に対しD'(R)T=TD(R)を満たすならTは同型写像か,またはT=0である。

(証明)L≡KerT={∈V|T0}とすると,∈LならTD(R)v=D'(R)T0 なので,D(R)∈LですからLはD-不変です。

 

 ところが(D,V)は既約表現なので,これはL=VかL={0}のいずれかであることを意味します。

 

 L=Vなら,これはT=0 を意味します。

 

 したがってT≠0 なら,L={0}ですが,これはTが1対1写像であることを意味します。

 

 なぜなら,1,2∈Vに対してT1=T2ならT(12)=0 なので12∈L={0},より12となるからです。

 

 一方,D'(R)Tv=TD(R)ですから,TVはD'-不変ですが,(D',W)が既約表現なので,TV=WかTV={0}のいずれかです。

 

 しかし,T≠0 ならTV={0}では有り得ないのでTV=Wです。すなわち,上への写像です。

 

 以上からTはVからWへの同型写像か,またはT=0 のいずれかであることが示されました。(証明終わり)

 

 行列表現では,1つの線型写像Tは1つの行列を意味しますが有限次元空間ではTが同型写像であることとKerT={0},またはdetT≠0 なることは全て同値です。

 

 そして,detT≠0 なる線型写像T:V→Wが存在して∀R∈についてD'(R)T=TD(R)となることは,表現(D,V)と(D',W)が同値な表現であることを意味しますから,上記シューアの補題は次のようにも表現できます。

 

 "(D,V),(D',W)を群の2つの既約表現とするとき,VからWへの線型写像Tがあって∀R∈についてD'(R)T=TD(R)を満たす場合,(1)DとD'が同値なら,このようなTは同型写像か,またはT=0である。(2)DとD'が異値ならこのようなTはゼロしか有り得ない。"

 

ですね。

 

 さらに,(D,U)が群の複素既約表現の場合,シューアの補題は次のようになります。

 

(シューアの補題2):(D,U)が群の複素既約表現のとき,∀R∈に対するD(R)と可換な線型変換Tはスカラー変換のみである。

 

 すなわち,∀R∈に対してD(R)T=TD(R)なら,ある複素数λ∈が存在して,T=λIである。(Iは単位行列,または恒等写像)

 

(証明)λ∈をTの1つの固有値とします。すなわち,固有値方程式det(T-λI)=0 の1つの根であるとします。S≡T-λIと置けばD(R)T=TD(R)はD(R)S=SD(R)を意味します。

 

 そこで先のシューアの補題から行列Sはゼロであるか,またはdetS≠0なる正則な行列であるかのいずれかですが,固有値方程式det(T-λI)=0 はdetS=0 そのものですからS=T-λIはゼロです。つまりT=λIです。(証明終わり)

 

 この定理から,"可換群(アーベル群)の複素既約表現は全て1次元表現である。"という系が得られます。

 

 なぜなら,(D,U)が可換群の複素既約表現のときは,∀R1,R2に対してD(R1)D(R2)=D(R2)D(R1)ですから,シューアの補題によりD(R)=λ(R)I;λ(R)∈と書けます。

 

 それ故,既約な表現空間Uは1次元でなければならないからです。

 

(D(R)=λ(R)IのIが2次元以上の単位行列なら,それは可約なことは明らかです。つまり,λ(R)Iは1次元の対角行列(単なる数)の直和行列です。)

 

 さて,シューアの補題2によりD(R)と可換な線型変換Tはスカラー変換のみであることは(D,U)が群の既約表現であるための必要条件であることがわかりましたが,特に(D,U)がユニタリ表現のような完全可約な表現の場合には,これは十分条件でもあります。

 

 すなわち,(D,U)が完全可約の場合には,Uはその既約なD-不変部分空間によって,U=U1+U2+..+Umなる形に表わすことができます。

 

 つまり,Uの任意の元12+..+m,(ii,(i=1,2,..,m))と直和表現できます。

 

 そこで,この場合には∈Uが=λ11+λ22+..+λmmに写される線型変換Tを作ることが可能ですが,これは明らかに∀R∈に対するD(R)と可換です。

 

 しかし,完全可約ならλ12,...λmは任意に選ぶことができるので,m≧2,λ1≠λ2と選択すればTはスカラー変換ではありません。

 

 以上から,結局∀R∈に対するD(R)と可換な線型変換Tがスカラー変換に限られるなら,(D,U)は既約表現でなければならないことが示されました。

 

 つまり,(D,U)が完全可約表現,例えばユニタリ表現のときには,D(R)(∀R∈)と可換な線型変換Tがスカラー変換に限られることが表現が既約表現であるための必要十分条件であることがわかります。

 

 今日はここまでにします。

 

参考文献:山内恭彦,杉浦光夫 著「連続群論入門」(培風館),犬井鉄郎,田辺行人,小野寺嘉孝 著「応用群論」(裳華房),島 和久 著「連続群とその表現」(岩波書店)

 

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2008年4月 9日 (水)

磁場の中の原子(ゼーマン効果)(2)

ゼーマン効果(Zeeman effect)の続きです。

前回の最後では,

 

"外場としての磁場があるとき原子エネルギーの変化は,

 

1電子系ならΔE=μB{(+2)},

2電子系ならΔE=μB{(12)+2(12)}となって,

 

原子が磁気モーメント:

=-μB(+2),または=-μB{(12)+2(12)}

を持つ磁石のように挙動をすることがわかります。"

 

と書きました。

そして,前回の記号では.hc≡h/(2π)をPlanck定数として,

=hc,=hcでしたが,今回はこれら大文字の

多電子系での合成されたの意味に用いることにします。

  

すなわち,2電子系なら12,12とします。 

こうすると,前回の結論は,

 

"磁場があるとき原子エネルギーの変化はΔE=μB(+2)であり,この原子は磁気モーメント=-μB(+2)を持った磁石のように挙動する。"

 

と,やや簡単な表現になります。

ここで,さらに簡単のためにスピンの存在を無視して,上式で=0 とおいてみます。

 

そして磁場が弱いときには全角運動量は保存されるはずですから,合成軌道角運動量は一定に保たれるとしてよいと思われます。

 

このとき,磁場が加えられた場合の原子のエネルギー変化はΔE=μBL,ML=-L,-L+1,..,Lの様に,原子全体が磁場の中でどちらを向くかの違いによって(2L+1)通りのエネルギーに分裂します。

ここで,L,ML以外の量子数全体をαとして電子状態を(α,L,ML)で指定してみます。

 

こうすれば,光子の角運動量(スピン)が1なので,光の吸収・放出に伴なって生じる電子遷移:(α,L,ML)→(α',L',ML')でのMLの変化:ΔML=ML'-MLはΔML0,±1に限られるという選択則(selection rule)の存在がわかります。

 

したがって,磁場が存在しないときには1本であったスペクトルはΔML0,±1に応じてBに比例するμBBをエネルギー間隔とした3本の線に分裂します。これを"正常Zeeman効果"と呼びます。

しかし,現実にはスピンの存在もあって磁場の中で原子スペクトルの多くはより複雑な変化を受けます。

 

これらを一般に"異常Zeeman効果"と呼びます。

スピン・軌道相互作用(L-S coupling)があると合成軌道角運動量と合成スピンは無関係ではありません。

 

空間の等方性によって合成された全角運動量のみが一定に保存される量です。

ここで厳密ではありませんが,原子番号の小さい原子について有効な近似として,,,で大きさと形の一定な三角形が作られ,決まった向きと大きさを持つベクトルのまわりに,が回転するような1種の歳差運動をする半古典的な原子模型を考えます。

 

そして,こうした原子が一様磁場の中にある場合のエネルギー変化:

ΔEを考察します。

上述のモデルの原子系の軌道状態は全軌道角運動量Lとそのz成分(z-component):ML(ML-L,-L+1,..,L)によって(2L+1)通りの関数:ψ(L,ML),あるいはその1次結合で表わされます。

 

また,スピン状態関数も同様にスピンとそのz成分:ML(MS-S,-S+1,..,S)によって(2S+1)通りの関数φ(S,MS),あるいはその1次結合で表わされます。

そこで,結局,全角運動量がJでそのz成分がMJであるような電子状態Ψ(J,J)は(2L+1)(2S+1)個の積:ψ(L,ML)φ(S,MS)の適当な1次結合で与えられると考えられます。

 

この関数を摂動論の 0-次の波動関数として,これによって磁場の存在による摂動ΔE=μB(+2)の期待値を計算すれば,Zeeman効果の主要なエネルギー変化を求めることができます。

さらに進めるに当たって量子力学における数学的な角運動量の合成則については割愛して,半古典的なベクトル模型によって同じ結論を物理的考察から導くことにします。

まず,磁気モーメント=-μB(+2)のうち,全角運動量に垂直な成分,上記の歳差運動によって平均としてゼロになるので,観測にかかる磁気モーメントは平行成分//で与えられます。

 

そして,//(/|J|)/|J|=(MJ)(/2)です。

 

=-μB(+2)を代入して計算すると,

 

//-μB(/2)[(LJ)+2(SJ)]

-μB(/2)[-(1/2){(J-L)222}

{(J-)222}]

-μB(/2)[(1/2){-222}+{222}]

-μB[3/2+(22)/(22)]

 

となります。

 

これを固有状態の状態関数に作用させたときの固有値としては,

2=J(J+1),2=L(L+1),2=S(S+1)なので,結局,

公式://-μB[3/2+{(S+1)(L+1)}/{2(J+1)}]

を得ます。

最後の表式を,//-μB,

g≡3/2+{(S+1)(L+1)}/{2(J+1)}と書けば,

 

gは全角運動量に対するLande(ランデ)のg因子,あるいは

磁気回転比を表わすものです。

 

ここまでは磁場の存在を無視して原子の中での角運動量の合成のみで考察しています。

 

これは磁場の存在がこうしたの結合がを与えるという法則をこわすほど強くはないという近似に基づいています。

しかし,実際には磁場がそれほど強くはないとしても,上述のように

原子がの方向に//-μBのような磁気モーメントを持つ磁気双極子,または磁石として存在しているという性質を維持しながらも,

 

磁場が存在するときは,それによって電子系が力を受けるためにはもはや一定の向きを保持できません。

しかし,Larmor(ラーモア)の定理として知られている性質があって,一般に角運動量は磁場方向を軸として歳差運動を行ない,磁場方向の成分のみは保存されます。

 

すなわち,磁場があるとき磁気モーメントの受けるトルクは

//×-μB×なので,他にトルクが無いなら角運動量が従う方程式はd/dt=-μB×で与えられます。

 

そこで磁場があるときでも,その方向をz軸にとればdJz/dt=0 となり,Jz=MJは時間的に一定であって保存されることになります。

得られた表式://-μB,

g≡3/2+{(S+1)(L+1)}/{2(J+1)}によれば,

L=0 のときg=2でS=0 のときg=1です。

 

一般には磁場があるとき,(L,S)の値の組によってgが複雑に変わるので,それに応じて原子エネルギー準位の分裂:

ΔE=//

-μBgMJ,MJ=-J,-J+1,..,J

の間隔μBgBも変動します。 

既に述べたように,輻射補正があるので,電子1個のスピンのg因子はわずかに2とは異なるため,これをgeと書けば系の磁気モーメントは 

-μB(+2)の代わりに-μB(+ge)となります。

 

そこで,Landeの式は厳密には,ΔE=-μBgMJ,

g=1+(ge-1){(S+1)(L+1)+J(J+1)}/{2(J+1)}

と書けますが,通常はg=ge=2として差し支えないと思われます。

先に述べたように,光子の角運動量(スピン)は1なので,光の吸収・放出に伴なって生じる電子遷移によるMJの変化は,ΔMJ0,±1に限られるという選択則があります。

 

一般に始状態と終状態のg因子は異なるので,輻射される光のスペクトル線もかなり複雑な分裂を示すようです。

 

以上の議論では原子核は単に固定された点電荷であると見てきましたが,核によってはその角運動量をゼロとすることができないものもあります。この角運動量をhcIと書くことが多いです。

 

核は複合粒子ですが,1つの粒子のように見なして,核スピンと呼ぶ習わしになっているようです。そして核スピンの存在に伴なって原子核が磁気モーメントを持つのでこれと磁場との相互作用も生じます。

 

しかし,原子核と磁場の直接相互作用は核外電子群と磁場との相互作用に比べて極めて小さいので無視されることが多いようです。

 

電子の磁気モーメントの角運動量による表現://-μBで.

"係数=Bohr磁子(Bohr magneton)":μB=ehc/(2me)の分母の電子の換算質量meを"原子核の質量=A個の核子の質量和":AmN (mN ~1840me)で置換したものが核磁気モーメントなので,これは明らかです。

 

とは言っても,核スピンの角運動量:hcは核外電子群の全角運動量:hcと結びついて原子の全角運動量:hcを与えるので,これについては考慮する必要があります。

  

すなわち,,2=F(F+1),F=|I-J|,|I-J|+1,..,I+Jであり,核スピンは全角運動量の保存則を通じて電子群と磁場との相互作用に間接的に寄与します。

 

外場としての磁場がの結び付きをこわすほど強くないときには,原子は量子数Fによって定まる磁石のように挙動します。

 

先に用いた,,の作る三角形のモデルを,,の作る三角形に置き換える考察から,原子核と電子群の系は磁場の中での磁石の向きに応じて以下のようなエネルギーを持つことがわかります。

 

つまり,ΔE=μBFF,MF=-F,-F+1,..,FでFはこの場合に修正されたLandeのg因子です。

 

すなわち,磁気モーメントの全角運動量に平行な成分を示す表式は//(/|F|)/|F|=(MF)(/2)です。

 

これに,極めて小さい核磁気モーメントを無視した電子系のみの磁気モーメント:=-μBを代入すると,

 

//-μB(/2)[(JF)]

=-B/2)(/2)[22(F-J)2]

=-B/2)(/2)[222]

 

を得ます

 

ここで,角運動量の固有状態では2=J(J+1),2=I(I+1),

2=F(F+1)なので,

 

Landeの式が.

 

ΔE=μBFF,

F=g{F(F+1)+J(J+1)-I(I+1)}/{2F(F+1)}

 

と書けるわけです。

 

つまり,この場合//に平行な成分の意味ではなく,それとわずかに向きの違うに平行な成分となります。

 

も軸のまわりにわずかな歳差運動するということの影響を考えることが必要になります。

 

以上は弱い磁場によるZeeman効果におけるスペクトルの超微細構造を与えたものです。

 

以下では原子番号が大きい場合や強い磁場がある場合の論議に移りますが,簡単のために核スピンについては無視することにします。

 

さて,これまでは原子番号があまり大きくなくて量子数Jだけでなく量子数L,Sもほぼ確定値を持ち,Jはそれらの確定値の結合である,としてきました。

 

こうした角運動量の合成はLS結合(LS-coupling),または

Russell-Saunders coupling(ラッセル・ソーンダース結合)

と呼ばれる方式です。

 

しかし,原子番号が大きくなるにつれて,スピン・軌道相互作用が強くなり,やがてそれがCoulombよりも重要な存在になります。

 

ここまでくると電子群の軌道角運動量の合成やスピン角運動量の合成が別々になされるより以前に,個々の電子の軌道角運動量とスピン角運動量が強く結合して,それぞれの電子の全角運動量hcを作り,然る後にそれらが全て結合して全角運動量が決まると考えられます。

  

すなわち,12+..+Nです。(Nは原子内電子数)

 

こうした方式での結合はjj結合(jj-coupling)と呼ばれます。

 

このような大きい原子番号の場合にはZeeman効果もそのような枠組みで計算される必要があります。

 

一方,原子番号の中間領域ではCoulomb力とスピン・軌道相互作用が同程度に重要ですが,ここは中間結合領域と呼ばれます。

 

これらの場合にも,もちろんエネルギー変化はΔE=//

-μBgMJ,MJ=-J,-J+1,..,Jの形に表わせますが,

 

これのg因子に対する公式は.先に与えられたLandeのものとは違ってきます。

 

ところで,L=S=0 であるような原子でもZeeman効果は現われるのでしょうか?

 

実は磁場の1次の効果としては,Zeeman効果は現われませんが,これまでは無視してきた2次の項であるe22/(2me)が重要になります。

 

つまり磁場の向きをz軸に取れば,L=S=0 に対し磁場の存在によるエネルギー変化はΔE=e22/(2me)={e22/(8me)}{Σi=1N(xi2+yi2)}と書けます。

  

そして原子番号が大きくて原子の中に多数の電子がある場合には,その分布は球対称であると考えられるので平均して,ΔE={e22/(12me)}{Σii2>}となります。

 

なぜなら,球対称分布では<xi2>=<yi2>=<i2>/3 が成立すると考えられるからです。

 

ここで3月5日の記事「電場の中の原子(シュタルク効果)」で述べたことを思い出して,磁場の中の原子の同様な効果であるゼーマン効果に対して,この中の論議を応用することを考えます。

 

すなわち,一様電場の中に置かれた球対称原子のエネルギー変化であるStark効果においては,=α(は電場,は分極ベクトルなる現象論的な式に対して,2次のエネルギー変化は,

ΔE=-∫0E=-α||2/2

 

なる表現で与えられます。

 

これが,ΔE=-(e2||2/3)}{Σj≠n<|spjn|2>/(Ej-En)}

なる表式に等置されてαの値が評価されました。

 

そこで,ここでもそのアナロジー(類似,模倣)で,"原子全体の磁気モーメント=磁化":が磁場(磁界)から磁化率χで誘起されるという線形構造を持って=χなる表式で与えられる一般的現象論を考えます。

 

アナロジーから,ΔE=-χ2/2となりますが,磁束密度

=μ00は真空の透磁率)なのでΔE=-χμ0-22/2です。

 

これを,ΔE={e22/(12me)}{Σii2>}と等置することから

χ=-{μ022/(6me)}{Σii2>}なる等式を得ます。

 

これを見ればχは負の値ですが,これは原子の磁気モーメントが磁場と反対向きに生じることを意味しています。

  

これを"反磁性(diamagnetism)"と言います。

 

こうして,L=S=0 の磁気モーメントがゼロの原子でも磁場がかけられられたとき,磁場が誘起されてエネルギーにずれが生じるという効果が存在することが理論的に示されました。

  

しかし,これは磁気モーメントによる1次の効果よりはるかに小さいので,反磁性の寄与は通常の大抵の考察では無視されます。

 

ところで2に比例する摂動項のの1次の項を問題にするなら,の1次の摂動項の2次の寄与も同じオーダーの量ですから,同様に考慮する必要があると思われます。

 

すなわち,L=S=0 の状態|0>への項-iehc∇/meの2次の摂動項として,

 

Σn≠0{|<n|-iehc∇/me|0>|2/(En-E0)}

=Σn≠0{(|<n|(/me)|0>|2/(En-E0)}

 

を計算し,考慮する必要があります。

 

この形を見ると,En>E0によって,この摂動項は正の寄与をすると見られるので"常磁性(paramagnetism)"を与えると思えますが,単独原子の場合にはこの寄与はゼロです。

 

そこで,"L=S=0 の状態=基底状態"へのの2次の効果は反磁性だけでよいことがわかっています。

 

しかし,複数の原子系である分子の場合には,この項はゼロではなく無視できないようです。

 

さらに磁場が強くなると,異なる非摂動準位から磁場による摂動のために分裂して派生したエネルギー準位が混じるようになるので,もはや摂動として扱うのが正しくなくなります。

 

そこで,これにはより一般的な扱いが必要で,外磁場が強くてそれと比較してスピン・軌道相互作用が無視できる近似が可能になります。

 

それ故,はもはやとして一体になって外磁場と結び付くのではなく,それぞれ勝手にと結び付くようになります。この場合にも全角運動量自身ではなく,の磁場の方向成分であるz成分はよい量子数になります。

 

例えば,L=1のP状態の近傍ではML=1,0,-1,Ms=1/2,-1/2の組み合わせでMJ=3/2,1/2,-1/2,-3/2の4通りが可能です。

 

しかし,光の吸収・放出,特に光学的許容遷移と呼ばれる主要な遷移ではΔMs=0 ですからMLの変化だけを考えればよいので強磁場では正常ゼーマン効果のみが現われるようになります。

 

こうした異常Zeeman効果が現われる弱磁場から正常Zeeman効果を示す強磁場へのスペクトル構造の変化はPaschen-Back effect(パッシェン-バック効果)と呼ばれています。

 

磁場がさらに強くなり原子内のCoulomb力を凌ぐ程度になると,電子軌道関数はもはや外場がないときと著しく異なるようになる,と予想されます。

 

したがって,摂動ではなく最初から外場を含む原子状態を考察する必要があると思われます。

 

外磁場を極めて強い一様磁場とし,その方向をz方向とします。

 

この中に電子を置くとz方向には力は働かず自由粒子と同じです。

 

x,y方向ではよく知られた円運動になり,全体としては螺旋運動をすることになります。そして,その振動数はω=eB/mですが,これはサイクロトロン振動数(Cyclotron frequency)と呼ばれています。

 

量子論ではこの円運動に相当するものが量子化されて,エネルギーとして離散的な許容値を取るような状態のみが許されるようになります。

 

つまり,エネルギー許容値はE=(K+1/2)hcω+pz2/(2me);K=0,1,2,..なる半離散的な表現で与えられます。

 

これの右辺第2項はz方向の自由運動のエネルギーを表わし,これは連続な正の値を取ります。

 

このエネルギー準位の表式はLandau(ランダウ)エネルギー準位と呼ばれているものです。

 

これらに対応した状態の波動関数は陽に解くことができて,円筒座標ρ,φ,zを用いると,それらの関数形はラゲール多項式などによって具体的に表現可能ですが,煩雑なのでここでは割愛します。

 

そして,同時にエネルギーのLandau準位もより具体的に書くことができますが,こちらは陽に書くとE=(N+M/2+|M|/2+geσz/2+1/2)hcω+pz2/(2me)です。

 

先に与えた式のKに相当するのは,N+M/2+|M|/2 です。また,σzはパウリのスピン行列のz成分で,スピンの向きによるエネルギー差を表わすものです。

 

これ以上の話は極端に強い磁場での原子定常状態について実際に複雑な方程式を解く必要がありますが,これは簡単ではないのでここでは話を限定して,いわゆる断熱近似による水素原子についての記述のみを見ることにします。

 

一般に複数の自由度を持つ力学系において,ある自由度の運動が他の自由度の運動と比べて極端に速いとき,まず他の自由度は固定して速い運動をする自由度についてのみ解くことがよくあります。

  

こうした近似を断熱近似といいます。

 

外磁場があるとき,電子1個の系である水素原子のHamiltonianは,

 

={-hc2/(2me)}{(∂2/∂ρ2)+(1/2)(∂/∂ρ)

+(1/ρ2)(∂2/∂φ2)+(∂2/∂z2)}

+{eB/(2me)}(lz+geσz)+e22ρ2/(8me)

-e2/{4πε0((ρ2+z2)1/2} 

 

です。

 

さらに,磁場に比べてCoulomb力がはるかに弱いとして,右辺最後の項を無視する近似を行ないます。

 

すると,これは何のことはない,外場の中の自由電子の運動に帰着しますから,結果はLandau軌道になります。

 

z=一定の平面内の運動なら,そのエネルギー準位はENM=(N+M/2+|M|/2+geσz/2+1/2)hcωで与えられます。

 

ただし,原子単位ではhcω=B(tesla)/(2.35×105)です。

 

一応これでZeeman効果については終わりにします。 

参考文献:高柳和夫 著「原子分子物理学」(朝倉書店)

 

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2008年4月 5日 (土)

磁場の中の原子(ゼーマン効果)(1)

化学結合関連のシリーズ記事は,今年初めの2008年1/6の記事「氷,水,水蒸気の比熱」から動機付けされて,始めたものです。

 

そして,分子を語るにはその前にとりあえず原子からということで,1/11の「水素様原子の波動関数」,続いて1/13の「量子力学の変分原理」,1/15の「多電子原子の構造」と書き進みました。

 

さらに,1/19,1/21,1/23の「多原子系の方法論(分子軌道)(1),,(2),(3)」,1/26の「水素分子イオンと水素分子」,1/29の「水素分子イオンと水素分子(補遺)」と記事が続いて1月中は割りとマメに書いて理論としての順序もオーソドックスなものでした。

しかし,2月に入って2/5の記事「2原子分子イオン再考」の頃から分子の定性的構造主体の話に飽きたらず,その数学的な基礎付けが気になってやや脱線し始め,またモチベーションの維持も怪しくなって,この後は3月に入ってしまいました。

 

そして個人的には引越しなどもあって,この関連の最新記事3/12の「一般の2原子分子(等核,異核)」を書くためのの準備とするために3/5に原子に関する記事「電場の中の原子(シュタルク効果)」を書く,という状態になって,それからは結局,遅々として進まず,とうとう4月にまで突入してしまいました。

 

しかし「氷,水,水蒸気の比熱」の続編である「氷,水,水蒸気の比熱(2)」etc.を書きたい,という当初の目的意識は変わっていません。

しかし今日は脱線ついでに,せっかく「電場の中の原子(シュタルク効果)」を書いたので「磁場の中の原子(ゼーマン効果)」をも書いておこうと思います。

 

一般に原子は永久電気双極子モーメントを持たないので,水素様原子を除けば電場の中に物体を置いてもその影響,すなわち,Stark(シュタルク)効果は,摂動の2次以上でしか現われません。

 

これに反して,磁気双極子モーメントを持つ原子は珍らしくないので,磁場をかけるとその影響は摂動の1次で現われて,つまり1次の摂動でエネルギーの縮退が解けて輻射されるスペクトル線の分裂として観測されます。

 

これを,ゼーマン効果(Zeeman effect)と呼びます。

一様磁場があるとして,"それ=磁束密度"をとすると,これはベクトルポテンシャルによって=∇×と表わされます。

 

が一様なので,この関係を満たすの具体的な形としては位置ベクトルをとして=(1/2)×なる表式を採用することができます。

 

そして,これは特にの向きをz方向に選び,B≡||とすると,=(-yB/2,xB/2,0)と書けます。

電子の電荷を-e,質量をmeとし,原子の系を原子核の中心力による電子の1体問題と考え,その位置エネルギーを-eV(r)と書けば,外場の存在しない場合の系のHamiltonian0は,02/(2me)-eV(r)={-hc2/(2me)}∇2-eV(r)です。

 

ここでhc≡h/(2π)はPlanck定数でmeは電子の換算質量です。

定常状態の波動関数をψ()とすれば,それに対するSchrödingerの波動方程式は,0ψ=Eψ,

 

すなわち[{-hc2/(2me)}∇2-eV(r)]ψ()=Eψ()です。

 

そして,電子に限らず荷電粒子に対する方程式を,外場としてのベクトルポテンシャル()が存在する場合に変更するには,

 

粒子の電荷がqのときは,これに対する極小相互作用変換(minimal couplimg):-qを実行すればいいことがわかっています。

 

今の電子の場合には,操作:-qにおいて,q=-eとすればいいことになります。

こう変換すれば,系のHamiltonianは0(+e)2/(2me)-eV=(-ihc∇+e)2/(2me)-eVとなります。

 

そこで,磁場がある場合のSchrödinger方程式は, 

{-hc22/(2me)-iehc/me+e22/(2me)-eV}ψ=Eψ となります。

 

ここで,=(1/2)×により∇=0 となることを用いました。

左辺の第2項は,-iehc/me{e/(2me)}(×)(-ihc)={e/(2me)}{(×)}={e/(2me)}{(×)}={e/(2me)}(hclB)と書けます。

 

ここで(lx,ly,lz)は方位量子数,あるいは角運動量量子数で,=hcは軌道角運動量ベクトルを表わします。 

ところで,電子の磁気双極子モーメントをとすると,それが磁場の中にあるときには相互作用エネルギーは,-で与えられるはずですから,

 

上の磁場の1次の相互作用エネルギー項:(-iehc/me)は,このMBに等しいと同定される必要があります。

そして,軌道に関わる磁気双極子モーメントを特にlと書けば,それによる相互作用エネルギーは,liehc/me{iehc/(2me)}(B×r)∇={ehc/(2me)}(lB)です。

  

故に,l=-μB,μBehc/(2me)と書いてよいことになります。

 

ここでμBはボーア磁子(Bohr magneton)と呼ばれる定数です。

 

実際,古典論でも電子は電荷-eを持つので電子が周期運動をする場合の軌道電流によって生じる磁気モーメントlは,軌道角運動量に対してl={-e/(2e)}なる式で与えられますから,理にかなっています。 

そして磁場が比較的弱い場合を考えての2次の項e22/(2me)ψ()を無視する近似をします。

 

ところで電子には軌道角運動量=hcのほかにスピン角運動量=hcがあることが知られています。

 

Pauli(パウリ),およびGoudsmit(ガウシュミット),Uhlenbeck(ウーレンベック)に始まるスピン概念に基づく電子のスピン角運動量=hcは,Pauli行列σを用いて,σ/2,あるいは=hc(hc/2)σと行列表現されます。

 

このとスピン磁気モーメントsの関係は,上述の古典論から推察される軌道角運動量のそれ:l=-μBとは異なり,

 

磁気回転比(gyromagnetic-ratio),またはLande(ランデ)のg因子と呼ばれる余分な因子geを持っていて,s=-geμB =-2μBで与えられることがわかっています。 

このge2の因子が存在する理論的根拠については私の過去のブログ記事,2006年9/8の「パウリのスピンと相対性理論で次のように書いています。

 

Pauliの導入したスピンという概念は,Dirac方程式という量子論の相対論的波動方程式が導入されて初めてその意味が明らかになったのは歴史的には恐らくその通りであろうと思います。

 

しかし,これは決して相対論的効果であるというわけではなく,非相対論でも電子などのFermi粒子が2成分のスピノルで記述されることを意識すれば得られる概念であると思われます。

実際,まず,非相対論での"運動エネルギー=自由粒子の全エネルギー"を示すHamiltonian:2/(2m)を,これと全く同値な表現の式:

=(σp)2/(2m)に書き換えて,

 

その後,電磁場がある場合の通常の手続きに従い,極小相互作用変換:

-q,H→H-qVを施して,

 

={σ(-q)}2/(2m)+qVと変換すれば,

2/(2m)-(qhc/2m)(σB)+q22/(2m)+qV

となります。

 

こうして,自然にPauli項:-(qhc/2m)(σB)が得られます。

そして,この項において1体問題の対象粒子を電子としてq=-e,m=me,かつσ=2と置けば,-(qhc/2m)(σB){ehc/(2me)}(σB)(ehc/me)(sB)=-{(2μB)}となります。

 

これは,確かに電子の磁気モーメントがs=-2μB=-μBσのときの磁場と磁気モーメントの相互作用:sに一致します。 

もっとも実際の電子の磁気回転比geの値が正確に2に一致するというわけではなく,現時点ではge2.0023193044という微妙に異なる実測値が得られています。

 

現実の電子は絶えず仮想的に"光子=電磁波"の輻射と吸収を繰り返している存在であるという効果を考慮して輻射補正を行なう,

 

つまり,量子電磁力学(QED)の"くりこみ"を行なうと,その結果,お釣りの項として得られる"異常磁気モーメント"として知られています。

この異常磁気モーメントへの最低次の摂動項の寄与なら,私も学生時代に計算をしたことがありますが,これは元の素朴な値に対してα/(2π)なる比率で与えられることがわかります。

 

この項は,発見者の名を取ってSchwinger(シュヴィンガー)項と呼ばれています。

 

そこで最低次の摂動までなら,ge2{1+α/(2π)}と近似されます。

 

ここで無次元の定数α≡e2/(4πε0c)~1/137.03599は微細構造定数と呼ばれている値ですが,これを代入すると,ge2×1.0011614=2.0023228ですから,最低次の近似でも実測値 2.0023193044との著しい一致が見られます。

まあ,余談はさておき,この他にさらにスピン軌道相互作用項:

(L-S coupling)として,

 

{e/(2me2)}(dV/dr)(LS)

={ehc2/ (2me2)}(dV/dr)(ls)

{ehc2/(4me2)}(dV/dr)(lσ)

  

もあります。

 

こちらの方は,明らかに相対論的効果です。

 

特殊相対論によれば,磁場の他に電場:=-∇V

=-(/r)(dV/dr)がある場合には,

 

速度で運動する荷電粒子の体験する磁場はではなく,粒子に対してが-で運動する効果から生じる磁場との重ね合わせです。

 

v=||がcに対して十分微小なときの近似では,有効磁場は,

-(×)/c2となります。 

粒子の感じる実質的な磁場は,(×)/c2

(×)/(e2)なので,

 

荷電粒子が電子の場合のPauli項は,{ehc/(2me)}(σ)

{ehc/(2me)}(σ)+{ehc/(2me22)}{σ(×)}

と変換されます。

 

そして,右辺最後の余分な項{ehc/(2me22)}{σ(×)}は,

σ(×)=-(1/r)(dV/dr){σ(×)}

=-(1/r)(dV/dr)(σL)によって,

 

{ehc/(2me22)}{σ(×)}

=-{e/(me22)}(dV/dr)(LS)

=-{ehc2/(2me22)}(dV/dr)(lσ) 

 

となります。

しかし,これは実際のスピン軌道相互作用項:

{e/(2me22)}(dV/dr)(LS)

={ehc2/(4me22)}(dV/dr)(lσ)

 

と比較して因子2だけ大きく見積もられている違いがあります。

 

つまり,これは磁場+(×)/c2に対するPauli項を,

e(1)μBsBe(2)μB/(me2)(dV/dr)(ls)

と表現するとき,

 

第1項のスピン項での磁気回転比ge(1)が2 であるのに対して,

 

第2項のe(2)μBc/(me2)(dV/dr)(ls)

e(2)μB/(me2)(dV/dr)(Ls)でのそれは,

e(2)=1であることを意味します。 

これには,相対論におけるThomas(トーマス)の歳差運動が関係していると思われます。

 

非相対論では直交座標軸の回転を伴わない2つのGalilei変換の合成によって,ある慣性系から別の慣性系に移っても,もちろん座標軸の回転は生じません。

 

しかし,特殊相対論では"座標軸の回転を伴なわない相対運動=ブースト(boost)"のLorentz変換の連続であっても,2つ以上の変換の合成は直交軸の回転を伴なうことがわかっています。

すなわち,S系に対するS'系の速度をとしたときのLorentz変換:

(,t) → (',t')は,

 

'={(xu)(γ-1)/u2-γt},

t'=γ{t-(xu)/c2}

ただし,γ≡(1-u2/c2)-1/2 です。

 

さらにS'系に対するS"系の速度を'としたときのLorentz変換:

(',t') → (",t")は

 

"='+'{('')(γ'-1)/u'2-γ't'},

t"=γ{t'-('')/c2} ;γ'≡(1-u'2/c2)-1/2 

 

です。

 

これらから(',t')を消去すれば,

 

"=-1"{(xw)(γ"-1)/w2-γ"t},

t"=γ"{t-(xw)/c2};γ"≡(1-w2/c2)-1/2

 

なる変換となり,やはりLorentz変換ですが演算子が一般に単位演算子ではないので軸の回転が生じます。

 

ここではSに対するS"の速度,"はS"に対するSの速度です。

=['/γ+{(')(1-1/γ)/u21}]/{1+(')/c2},

"=-[/γ'+'{(')(1-1/γ')/u'21}]/{1

+(')/c2}

 

と書けるわけです。

さらに,S'系に対するS"系の変換が無限小変換,つまり'が無限小のとき,'の2次以上は無視できて,(',t')→(",t")は,

 

"='-'t',t"=t'-('')/c2 となり, 

また,(1/γ){'+(')(1/γ-1)/u2},

"=-{'-(uu')/c2} 

 

となります。

 

これらの大きさは等しく,2"2=u22(uu')/γ2

です。 

これに,(,t)→(',t')の

 

'={(xu)(γ-1)/u2-γt},

t'=γ{t-(xu)/c2}を代入すれば,

 

長い計算の結果として, 

-1{(γ-1)/u2}{(×d}

を得ます。ここで,dです。

 

それ故,こうした座標系の変換のために,系の位置座標が変換を受けるという受動的な表現ではなくて,座標系を不変に保って系自身が移動するという能動的な表現では,

 

+(Ω×),Ω=-{(γ-1)/u2}{(×d) 

となります。

したがって,回転演算子は軸の方向がベクトルΩの方向に等しく,回転角がΩの絶対値|Ω|に等しい無限小回転を表わしています。

ここで仮想的に大きさを持たない点状のコマですが,何らかの方法で回転軸の方向を定義できる質点,あるいは粒子の存在を想定します。

 

スピン(自転)を有する古典的電子はこうした点状のコマと考えることができます。

 

そして,ある準拠系Sに対する質点粒子の速度を(t)とした,

+(Ω×),Ω=-{(γ-1)/v2}{(×d)

なる表現において,

 

=(d/dt)dtと考えれば,S',S"系というのはそれぞれ時刻t,t+dtにおいて粒子が瞬間的に静止している慣性系であると解釈することができます。

そして,SからS"への変換は回転を伴なわず,しかも無限小変換ですから,粒子に作用する力がコマにトルクを及ぼすようなものでない限り,コマが時刻t+dtにS"系の座標軸に対して示す方向は時刻tにS'系の座標軸に対して示す方向と同じとみなすのが自然です。

実際に,d(d/dt)dtをΩ=-{(γ-1)/v2}{(×d)に代入すると,

 

このときの回転ベクトルΩは時刻t+dtにS"系でのコマが時刻tにS'系で有するのと同じ向きを有するために,S系において行なうべき回転を示しています。

 

よって,Ωωdtと書けば,"加速度運動をしている粒子=コマ"はS系に対して角速度ω=-{(γ-1)/v2}{×(d/dt)}で歳差運動を行なうと解釈されます。

 

さらに,v<<cの場合はω~-{×(d/dt)}/(2c2)です。

  

これをトーマスの歳差運動(Thomas' precession)と呼びます。

   

※下図はスピンという意味ではなく古典的軌道運動として電荷eの荷電粒子が描く歳差運動の例です。

 

   

 

さて,Thomasの歳差運動の角運動量への寄与を求めてみます。

 

粒子のスピンなどの運動が理想的に等速円運動であるとしても一般性を失わないと思われるので,これを仮定し,この運動の角速度をω0とすれば

  

=-v(/r)dθ,つまり/dt=-v(/r)ω0より,

×(d/dt)=-v2ω0です。

 

ただし,ここではγ≡(1-r2ω02/c2)-1/2 です。

 

そこで,Thomas歳差運動の角速度:

ω=-{(γ-1)/v2}{×(d/dt)}を回転運動の1周期:

T=2π/ω0にわたって積分して1平面内での回転角を求めると,

 

0Tωdt=-(γ-1)∫0T[{×(d/dt)}/v2]dt

=2π(γ-1) 

 

となります。

 

つまり,Thomas歳差運動は回転運動の1周期当りに,軸のまわりに角度2π(γ-1)の軸の回転を与えます。

 

したがって,一般に粒子の角運動量がで与えられる場合,粒子はThomas歳差運動のおかげで1周期の間に通常の2π回転の他にさらに2π(γ-1)の寄与を受けるため,実質的な角運動量はではなく,

 

{1+(γ-1)}=γ=(1-v2/c2)-1/2 

になると考えられます。

 

そして,このときのγが磁気回転比geに相当すると思われます。